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中国に対抗した軍事力強化に踏み込むな! [世界の動き]

中国に対抗した軍事力強化に踏み込むな!
中国脅威論、尖閣問題を口実に対立を煽るな!

1)バイデン政権の外交の柱は対中国強硬路線

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<航空自衛隊の「パトリオットPAC3」出典:航空自衛隊ホームページ>


 5月3日から5日までロンドンで主要7カ国G7(米、日、独、仏、英、伊、加)外相会議が開かれ、中国の南シナ海、東シナ海などでの行動に対し「深刻な懸念」を示す共同声明を発表した。「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、「両岸問題の平和的解決を促す」ことを盛り込んだ声明の内容は、4月16日のワシントンでの菅首相とバイデン大統領との日米首脳会談後の共同声明とほぼ同じだ。

 外相会議には米国が「中国包囲網Quad」に入れようとするインド、オーストラリア、韓国、南アフリカ、東南アジア諸国連合(ASEAN)がゲストとして招かれていた。

 バイデン政権の対外政策は対中強硬路線であり、対中政策こそが最重要課題なのだ。米国にとって日本の存在価値と対日政策は、対中政策の一部にすぎない。

 バイデン政権は、対中強硬路線を実行するために、トランプ政権のように「アメリカ第一主義」ではやらない、正確にいうと「できないことを理解している」。米国一国で対処する力量はないのだ。日本を含めた同盟国との「国際協調」の再編で対処する。すでに米国は日本を含む同盟国の軍事能力の整備(=ミサイルシステムの配備)、財政的負担を求めている。

2)米戦略:Quadを「アジア版NATO」に!

 バイデン大統領は4月28日の施政方針演説で、「欧州でNATOと共に行っているようにインド太平洋地域で強力な軍の存在を維持する」と述べ、対中強硬路線を実行するため米国は日本、インド、オーストラリアと4カ国の連携(「米日豪印戦略対話:Quad」)でNATOに似た対中国包囲網を形成しようとしている。共同軍事演習もすでに何度か行っている。中国の潜水艦基地のある海南島周辺で、明確に仮想敵を中国とした対潜哨戒のQuad軍事演習に自衛隊は参加している。

 日本はその先鋒をかついで包囲網形成に努めている。

 しかし、米国の思惑通りに進むか否か、疑問だ。米国はQuadを「対中包囲軍事同盟」にしたがっているが、インドはこれを嫌い、より緩やかな「開かれたインド太平洋」という表現を強調している。元々インドは非同盟運動の中心を担ってきたし、当時の米国は非同盟運動を敵視してきたため、インドの軍備はソ連から調達した。現在も米国の反対を無視して、ロシアから対空ミサイル「S400」を導入し、米国だけに依存しないように巧妙な政策をとり続けている。経済関係でも2018年のインドの輸出の9.1%、輸入の14.5%は香港を含む中国との取引だ。そのため、Quadにはあまり乗り気ではない。

 オーストラリアは、18年の輸出の34.1%が中国向けで、中国との経済関係は緊密だ。モリソン豪保守党政権が中国にコロナウイルス感染の情報開示を求め、トランプ政権と一緒になって中国政府の「責任」を追及するという無責任なキャンペーンに加わった。これに対し中国は抗議するとともに、豪州からの輸入規制を実施し、現在の豪中関係は最悪の状況となっている。軍事的には、オーストラリア軍は、陸軍2万9000人、戦闘機89機、やや旧式の潜水艦6隻、駆逐艦2隻、フリゲート8隻という小規模な軍隊で、中国と軍事的に対抗する上であまり役立たない。

 Quadを「対中包囲軍事同盟」にするために米国が最大の期待を寄せているのが日本だ。陸上兵力15万人、戦闘機330機、潜水艦22隻、軽航空母4隻を含む水上艦51隻を有する自衛隊となる。

 しかし、米国の対中強硬戦略にひたすら追随することは、日本の安全保障と利益に合致しない、私たちにとってはきわめて危険な事なのだ。

3)「台湾有事」はあるか?――米司令官「6年以内に台湾有事」

 米国のインド太平洋軍司令官に4月30日就任したジョン・アキリーノ海軍大将は、就任前の3月23日、米上院軍事委員会で、「中国の台湾侵略は思いのほか早く来ると考える。6年以内に軍事行動を起こす可能性がある」と述べた。前任のデイビットソン司令官も同じ発言をしていた。

 どうして6年以内なのか? その根拠は?

 1996年に「台湾独立派」とみなされていた李登輝氏が台湾総統に選ばれる時、中国は(愚かにも)ミサイルを威嚇発射したが米空母2隻が南シナ海に出てくると、軍事力に劣る中国はたちまちのうちに威嚇をやめたことがある。これを契機に中国は米国に対抗する「接近阻止・領域阻止」を掲げ、「海軍力、空軍力の増強を図り、2027年には軍の現代化を達成する」としてきた。その2027年まで6年以内であることを根拠に言っているに過ぎない。

 軍人は予算獲得のために、えてして「危機」を唱えがちで、いわば「毎度のこと」である。米軍・米政府は知ったうえで、対中国強硬路線のために、ウソを煽っている。こんなウソを、情勢をキチンと評価もしないでまともにとりあげる方が滑稽だ。日本のメディアのことを言っている。「危機」は中国からもたらされてはいない。米政府・米軍が米国内で煽っている反中国感情の高まりこそが、「危機」の発信源だ。武力紛争が起きる可能性を完全に否定はできないとすれば、その根拠は「台湾有事論」を煽る米国政府と米軍にある。これは対中国強硬戦略の一部なのだ。

 中国が台湾に軍事侵攻する可能性、現実性はない。台湾が戦場になれば密接に結びついた台湾―中国の経済関係が破壊され、例えば、台湾(TSMC)から半導体が入ってこなくなる。世界一の貿易国・中国は大混乱に陥り、中国経済は大打撃を受ける。中国にとって当面は「現状維持」が最も現実的だ。

 一方、台湾の人々のほとんどは、「独立」したいわけではないし、「統一」したいわけでもない。8割以上の人が「現状維持」が一番いいと認識している。(台湾の世論調査の結果)。

 バイデン政権と米軍は、まるですぐにでも戦争の危機が迫っているかのような言い方を吹聴しており、日本政府は無批判にそのまま追従している、というのが現状なのだ。

4)日本政府は尖閣での対立を煽るな!

 日本政府が尖閣諸島での中国との対立を煽るのも、米政府が「中国脅威論」「台湾有事」を煽るのと同一の目的からきている。米国の対中国強硬戦略に呼応し、中国との対決をにらみ日本の軍事力を強化するための国内世論づくりの宣伝なのだ。もちろん違いもある。尖閣問題では、日本政府が米国支配層に意図的に操られている面があることだ。

 尖閣諸島の領有権は、日本、中国、台湾が各々主張しているが、国際的にはどの国の領土かは認められていない。米国でさえ尖閣を日本の領土とは認めていない。日本政府は「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と閣議決定し、中高教科書に「固有の領土」と書かせているし、メディアには「尖閣諸島は固有の領土」だと必ず報じさせている。しかし、それは世界的に認められた真実ではない。日本政府は日本国民があえて誤解するように宣伝している。

 それから日本政府が主張する「固有の領土」論自体が、国際的には通説ではない。「固有の領土論」よりも、ポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約、日中共同宣言、日中平和条約などを最新の条約などを尊重するのが、国際的な常識である。

 かつて日中国交回復時の難問は、尖閣諸島の帰属であった、「これに触れない、現状維持、棚上げ」方式がとられた。1972年日中共同宣言の際に田中角栄首相と周恩来首相が、1978年日中平和条約では鄧小平と園田直外相が、「棚上げ」して、締結した。つまり「領有権は未決、管轄は日本」としてきたのである。80年代初頭まで日本政府、中国政府とも「棚上げ」を尊重する対応をとった。

 しかし、外務省、日本政府は対応を変え、こっそりと「棚上げ合意はない」という主張を始めたのである。自民党内で小泉、安倍が、外務省内では「アメリカンスクール」が主導権を握るに至ったことと相応する。

 2000年代になって、当時の石原慎太郎東京都知事が、訪米時に米ハドソン研究所で「尖閣諸島を東京都が購入する」と宣言した。仕掛けられた「策」にそのままはまり、当時の民主党の野田政権は最終的に「尖閣諸島を国有化」してしまった。1972年日中共同宣言、1978年日中平和条約の前提となっていた尖閣諸島帰属の「棚上げ」を日本政府が一方的に破棄したのである。中国政府は抗議し、「領土権は棚上げ、施設権は日本」という合意を、日本政府から破棄したとみなすに至っている。

 このような経過を決して忘れてはならない。しかし、日本国民の多くは無自覚だ。

5)中国の軍事力は?
 2020年、世界の軍事費はコロナ禍にもかかわらず、前年比2.6%増の約214兆円(過去最高額)にまで増加した。
 各国とも経済はマイナス成長で税収減少、コロナ対策で厳しい財政運営なのに、軍事費は増加した。サイバー攻撃、宇宙空間、ミサイル防衛システムの強化など、内容が変わりつつある。

2020年各国のGDPと軍事費、 軍事費のGDP比
1)米国: 2,200兆円、 84兆円(7,780億㌦) (4.4%増)  3.8%
2)中国: 1,500兆円、 27兆円(2,520億㌦) (1.9%増)  1.8%
3)日本:  520兆円、  5.3兆円             1%
(ストックホルム平和研究所(SIPRI)、4月27日日経)


 米国の軍事費は、突出しており世界の軍事費の約4割を占める。中国の軍事費はGDPとともに急増している。額は世界2位であるが、米軍事力に比べればまだ「防衛的」であると言えるところはある。

 中国は核兵器(ICBM,SLBM)を約200発保有している、米国、ロシアの各約9,000発に比べれば数は少ない。核軍拡競争はしないという立場をとってきたことになる。中国は核保有国5ヵ国のなかで唯一、「核兵器の先制使用はしない」と宣言している。

 中国の通常兵器は、ミサイル中心である。米国のように空母群で世界中に出かけるような攻撃的な軍備はこれまで持って来なかった。日本・韓国・グァムなどの米軍基地や米韓・米比軍事演習によって、中国は長らく軍事的に包囲されてきた。それへの対抗から、中国は東海岸に1,250発(米国防総省による)の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)を配備するに至っている。中国は米ソ(のちに米ロ)間のINF(中距離ミサイル禁止)条約に入ってこなかった。陸海空軍に加えミサイル軍を創設している。

 現代の最強兵器はミサイルである。一旦戦争が始まったら、戦闘初期において空軍基地、空母をミサイルで破壊すれば戦闘機を含めた空軍攻撃力を無化できる。中国の東海岸に配備されたミサイルは、日本の米空軍基地、日本近海の米空母を狙っている。自衛隊の迎撃ミサイルシステム(イージス艦、PAC3など)は、性能からしてそもそも当たらない、旧式の兵器になりつつある。万が一当たったとしても1,250発を同時に撃ち落とせるものではない。

 中国にとって1,250発の短・中距離ミサイルは「防衛的」ではあるが、日本国民にとっては米軍基地が日本にあることから、きわめて危険であり「脅威」なのだ。日本国民はこの現実を知らなくてはならない。

 台湾有事、もしくは米中戦争が起きたら、日本にある米軍基地は攻撃の対象になる。米軍の戦争に自衛隊が参戦したら、自衛隊基地も攻撃対象となる。ミサイル兵器の性能から、南西諸島の自衛隊基地は全滅する。自衛隊が尖閣諸島に上陸したら、瞬時に全滅する。日本の他の米軍基地もすべて破壊される。短・中距離ミサイルは、グァム基地までは届くが、ハワイや米本土には届かない。しかし、日本全土は射程内に入っている。

 米国にとっては、「台湾有事」でも米本土は被害を受けないが、中国、台湾、日本、韓国は違う、戦場になり、大きな被害を受けるのだ。
 米国政府による日本のミザイル整備によって、仮に台湾有事で戦争になったとしても、被害を受けるのは台湾や日本、中国であり、米国ではない。米政府にとって、「日中共倒れ」こそ日本へのミサイル整備の現実的な狙いなのである。

 ほとんどの日本人はこういった現実を理解していない。

 それから、「台湾有事」となっても、米国の核ミサイルは発射しない、「地域紛争(台湾)のためにニューヨークを危険に陥れることはしない」(H・キッシンジャー)。

 したがって、日本にとって、米国とともに中国と戦争をするという選択肢は、絶対にありえないことなのだ。

6)アジアで米中が戦えば、中国が勝つ(米ランド研究所)

 東アジアでの軍事的な関係はすでに大きく変化している。そのような現実もキチンと理解したうえで意識的に平和を追求しなければならない。

 「軍事的に米中が尖閣諸島周辺で戦争すれば、今や、米軍が負ける」時代が到来している。米シンクタンク・ランド研究所のレポートは、「軍事的に米国は、尖閣諸島を守るために中国と戦えない」としている。

 ランド研究所「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃1996–2017)」のレポートによれば、
○中国東海岸には1,250発の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)、巡航ミサイルが配備され、かつ命中精度も上がっている。この地域の米の中距離ミサイル配備数は数十発であり、到底対抗できる数ではない。
○アジアの米空軍基地は、戦闘の初段階の中国のミサイル攻撃によって、無化される。日本や東アジアの空軍基地・空母群は破壊され、一瞬にして空軍優位性を失う。嘉手納基地は破壊される。
○中国の中距離ミサイルに対抗する米日韓のミサイル防衛システムはない。
○米中の軍事バランスは2017年には、台湾周辺:「中国優位」、南沙諸島:「ほぼ均衡」という評価である。

7)菅政権は、どうするのか? 4月16日の日米首脳会談で何を決めたのか?

 米バイデン政権は、中国の軍事力に対抗した日本の軍事力の強化を菅首相に求めた。具体的には、中国に対抗した短・中距離ミサイルシステムの配備だ。そのために首脳会談でわざわざ現実性のない「台湾有事」に言及し、「脅威」を煽ってミサイル配備をやろうとしているのである。

 日本の短・中距離ミサイル配備は他国に届くから「専守防衛」ではなくなる、憲法に反する。憲法を無視しなければ短・中距離ミサイルを配備はできない。2019年から言われてきた北朝鮮のミサイルに対抗するため「敵基地攻撃能力」が議論が、この動きと照合する。軍事的にみて北朝鮮は脅威ではない、「敵基地攻撃能力」の本当の狙いは、中国である。韓国への米高高度防衛ミサイル(THAAD)配備がそうであったように。

 日本の配備する中距離ミサイルは、核ミサイルではない。中距離ミサイルの射程(当初は1000㎞程度としているが、いずれ5,500km)からすれば、他国(中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアなど)に届く。これまで自衛隊は専守防衛だから、他国に届く兵器を持ってはいけないとしてきた。「専守防衛」なので、持ってはいけない兵器として、①大陸間弾道ミサイル、②攻撃型空母、③長距離戦略爆撃機の3例が国会で例示されてきた経緯がある。(田岡俊次『目からウロコ』)

 米国の凋落が目立ってきた現在、バイデン政権にとって、対中国強硬政策が外交・軍事のすべてである。これを米国単独ではもはやできない、したがって、同盟国である日本に中国の軍事力に対抗できるミサイル配備を中心とした軍事力強化を行え! 実質的には中国と日本で戦争をしろ!と要求しているのだ。日本の軍備の根本的な転換を求めているのである。

 4月16日の日米首脳会談で、菅首相は米国の要求に応じる方向で合意した。きわめて危険だ。

 ミサイル配備は米国製の高価格のミサイル、監視衛星その他を買わなければならない。現在は、イージス艦、PAC3などのように「ミサイル+レーダー」だが、すでに時代遅れになりつつある。今後は「高性能高速ミサイル+監視衛星」のシステムになるだろう。そうすれば、ミサイルシステムの導入のために、長年にわたって莫大な金額を支出し続けなければならなくなる。

 中国のミサイルに対抗しようとすれば、軍事・外交的ばかりか、財政的にも破綻するのが目に見えている。米国の戦略のために、日本が税金を投入し米国製の高価なミサイルシステムを開発費を負担したうえで購入し、更新し続け、日本の安全保障を危険に晒そうとしているのである。

 菅政権は対中強硬戦略に米国とともに踏み込む姿勢をみせているが、日本にとって、米国と共同して中国の軍事力に対抗し、ミサイル軍事力を強化するという選択肢は、きわめて危険であり、絶対にありえないことなのだ。

8)米国の影響から離れ、日中関係を改善するべきだ

 日本にとって最大のリスクは、米中の対立が管理不能な状態となって戦争に至ることだ。日本は米中戦争の戦場となる。

 現在は、米中対立と戦争の回避を、わが国の安全保障の最大の目標と位置づけなくてはならない時だ。それなのに菅政権は、米国の対中国強硬戦略に従い日米同盟の抑止力強化を図っており、そのことがかえって戦争の誘因となりかねないにもかかわらず、あえて危険を増大させる方向へ踏み込んでいる。

 果たして国際情勢を理解しているのだろうか? ほとんどわかっていない。それゆえ無頓着、無責任な態度をとっているとしか見えない。あるいは、オリンピック開催へ突き進んでいるのと同じように、日本政府は、破綻するまで、いったん決めた路線を修正したり、転換できない「体質」となっているということなのか!

 今なすべきことは、米中間の対立回避、戦争回避である。そのために日本は米国の影響から徐々に離れ、日中関係の改善を図るべきだ。それ以外に選択肢はない。米中戦争の戦場となる他の東アジア諸国と共同して、対話を求める努力を始めなければならない。
 ASEAN諸国、韓国、ニュージーランドはすでにそのように振る舞っている。

 そのためには憲法9条を表に立てて交渉するべきである。唯一の戦争被爆国であるという事実は、世界政治のなかで、日本に特殊な立場を与えてきたし、現代世界のなかで新たに現実性を帯びてくるだろう。また、沖縄戦という民間人を巻き込む悲惨な戦争を経験した国、平和時において東アジアとの連携のうちに経済発展を遂げた国として発信するメッセージも、今なお世界にとって意味あるものとなる。そういった方針を実行できる政権に変わらなければならない。

 米国の都合による米中対立の枠内で、日中関係を改善することは絶対にできない。軍事的対立を煽る米国政府の政策に全面的に協力して、東アジアで平和的関係を打ち立てることはできない。ましてや中国や北朝鮮に対抗しミサイル軍事力を強化してはならない。敵基地攻撃能力の保持、自衛隊ミサイルの長射程化や艦艇のプレゼンスなどは、緊張を引き起こし対立と戦争の危険を高め、日本の安全保障を破壊し日本国民を危険な事態へと追い込むばかりである。

 その一方で、中国に対しては、米国の庇護のもとにではなく日本が独自に働きかけなければならない。米国と一緒になって強面(こわもて)で向き合うばかりではいけない。日中関係の改善のためには、まず尖閣諸島の領有権での「棚上げ合意」を復活させることだ。「こっそりと」ではなく、「明確に」だ。以前の「棚上げ合意」に戻すことを正式に打診し交渉し、関係改善に努めるべきだ。いたずらに対立を煽ってはならない。尖閣周辺の日本の漁民が困っているなら漁業協定を結べばいいのであって、尖閣諸島を日本の領土にしなければならないのではない。人の住まない島をめぐって争う意味はない。米軍事力を頼みにして、「虎の威を借りる狐」の態度をとってはならない。
 自衛隊を南西諸島に配置したら余計にこじれ、対立は続く。日中の軍事力比較からすればすでに大差がついている。中国に対抗して軍拡競争をすべきではない。

 対立と戦争の原因となる政策を即刻やめるべきだ。外交交渉によって対立や戦争が起きる原因、要因をひとつひとつ慎重に潰して行かなくてはならない。そうして平和的な関係をつくり上げていくのが、私たちの望みだ。











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バイデン政権の大規模財政政策の意味 [世界の動き]

バイデン政権の大規模財政政策の意味

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<5.8兆㌦の財政政策への賛成を求めるバイデン>

1)バイデンはトランプを追い落とし、主導権を握らなければならない

 バイデン政権は発足したものの、米社会は格差は拡大しており、荒廃・分断されたままである。大統領選ではトランプは7,400万票も獲得し、米政治はまさに二分された様相を見せた。米共和党は現在もなおトランプ支持勢力が主流を占めていて、21年1月のトランプ支持者による連邦議会乱入事件を擁護しており、「大統領選挙に不正があった」といまだに主張している。これを批判した共和党№.3の要職にあった保守派のリズ・チェイニー(チェイニー元副大統領の娘)は党指導部から放逐された。共和党は、プアホワイトのプライドをくすぐる白人至上主義のカルト集団に変質しつつある。

 バイデン政権は、トランプに奪われた白人貧民層、白人の非大卒の支持をどっさり民主党に引き込む必要がある。そうやって民主党の支持基盤を大きく変えなければならない。そのためには、貧困層を救済する効果ある施策を実行することが必要だ。コロナ対策のワクチン接種では成果をあげた。巨額の財政出動もこれを狙っている。

 すぐさま成果を上げて、2022年の中間選挙で、まずはトランプとトランプ支持勢力を米政治から追い払わなければならない。でなければバイデン政権は安定しない。その上で2024年の大統領選挙に臨まなければならない。

2)バイデンの大規模財政政策

 米財政出動は下記の通り、極めて大型であり、米経済の急回復と債務急増をもたらしている。
①「米国救済計画」 1.9兆㌦: 21年3月中旬、民主党単独で成立し、施行
 ○内容: 1人1400㌦給付、ワクチン接種強化
 ○財源: 緊急対策なので、全額を債務で

②「米国雇用計画」 8年で2兆㌦: 21年3月末に公表。共和党は大幅縮小の対案
 ○内容:インフラや環境、研究開発に巨額投資
 ○財源: 法人税率上げなどの企業増税、15年で財源を予定する

③「米国家族計画」10年で1.8兆㌦: 4月末に公表、共和党は反発姿勢
 ○内容:格差是正や子育て支援、教育の負担軽減に投資
 ○財源: 富裕層への所得増税やキャピタルゲイン課税で財源を予定する

 出動した巨額の財政出動は、早くも米経済を急回復させ効果をあげている。IMFの元首席エコノミスト、オリビエ・ブランシャール「財政出動によって、20年の米GDPは12.6%、21年は12,8%に達する」としている。

 しかし同時に財源が国債などであり米政府が債務を急拡大したことも事実だ。「米国雇用計画」、「米国国家計画」の財源は、法人税増税、富裕層への所得増税で賄うとしているが、実現するかどうかは不明だ。バイデン政権の支持基盤の一つの金融資本が、増税には抵抗するだろう。そもそも米国は税務署員をリストラしてきており、これまでも巨大資本、富裕層の徴税逃れが多いのだ。バイデン政権の計画通り、財源を確保できるかは、不明だ。

 上記の米財政政策の対策規模総額は5.8兆㌦に達する、名目GDPの28%であり、規模で突出している。ちなみに、日本はGDPの15.6%、ドイツは11.9%(OECD調べ)

 現時点の、米連邦政府(債務)は▲27兆㌦であり、過去最大最悪のレベルだ。
 企業債務(非金融部門)(債務)は、▲11兆㌦であり、リーマン・ショック前を上回る。
 家計部門 (貯蓄)は、1~2兆㌦である。

 財源が確保できなければ、政府債務はさらに増大する。高い成長を達成しない場合も、債務は増大する。

 いまは「成長期待」なのであるが、「景気過熱リスク」はすぐ先に見えている
 財政支出は、短期的には確実に好景気をもたらすだろう。インフレ率は今のところ2%以下と適度に上昇しているし、10年物米国債の金利も1.6%程度に収まっており、現段階までは良好である。

 ただし、財政政策と金融緩和が主導する景気回復であり、いずれ金融引締めの時期が来る。FRBでは金融緩和終了=「テーパリング」の議論がすでに出ている。インフレ率が急上昇し引き締めが後手に回れば、24年を待たずして金融危機と深刻な景気後退に陥る可能性はある。近いうちにその危険性が増した時期を迎えるだろう。






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「水平分業」が半導体産業のスタイルに  [世界の動き]

「水平分業」が半導体産業のスタイルに

1)世界の半導体企業の時価総額ランク  
 21年3月の世界の半導体企業の「時価総額」上位5社は、下記の通りとなっている。20年前と比べ「顔ぶれ」は大きく入れ替わった。

21年3月末の「時価総額」  
1)TSMC(台)   : 5,468億㌦
2)サムスン(韓)  : 4,743億㌦
3)エヌビディア(米):3,092億㌦
4)インテル(米)   :2,528億㌦
5)ASML(蘭)    :2,218億㌦

2000年末時、「時価総額」
1)インテル(米)   : 2,023億㌦ 
2)テキサス・インスツルメンツ(米): 1,604億㌦ 
3)サンマイクロ・システムズ(米):  897億㌦ 
4)クアルコム(米)  :  615億㌦ 
5)STマイクロ・エレクトロニクス(米): 387億㌦ 
(21年3月12日、日本経済新聞)


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<TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)>

 半導体企業では、受託生産企業(ファウンドリー)であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.:台湾積体電路製造)が、時価総額で世界首位となった、全産業の中でも世界11位。微細化量産技術で競争力を獲得し、最先端のロジック半導体の受託生産で世界市場の60%以上を生産している。またASML(蘭)は、微細化を可能にする露光装置で独走している。背景には、微細化量産技術競争がある。

 TSMCに半導体製造を委託している企業として、売り上げに占める比率の順に、アップル(25.4%)、AMD(9.2%)、メディアテック(8.2%)、ブロードコム(8.1%)、クアルコム(7.6%)、インテル(7.2%)、エヌヴィディア(5.8%)と続く。

 TSMCは、1987年設立、Morris Chang CEO、従業員5万人、2020年売上:455億ドル(前年比31.4%増、時価総額が5,597億ドル(21年5月)、全世界500社以上の顧客企業に半導体を納入している。

 TSMCは、20年春に線路幅5㌨品で量産・納入を開始し、22年3㌨品量産、24年2㌨品量産を始める計画だ。サムスン電子は、メモリー分野で世界シェア1位であるとともに、受託生産企業としてTSMCの後を追っている。20年末に5㌨品量産を始めたが、未だ歩留まり(良品率)が悪いようだ。主力は7㌨品を量産中。インテルは7㌨品の量産に失敗した、現在は14㌨品を量産している。7㌨品の量産は23年になる見込み。

 線路幅が小さいほど、性能が良くなるし、面積は小さくなるので一定のシリコン結晶材からより多くの半導体を生産できる(コストダウンできる)。
 ASMLは微細化に実現する製造装置の一つのEUV露光装置を独占する。キャノン、ニコンは競争に敗れ露光装置市場からすでに退場した。

2)「垂直統合モデル」の崩壊、「水平分業」へ

 インテルは、自社でCPUの設計から量産まで行う「垂直統合モデル」で長らく半導体産業に君臨してきたが、この「垂直統合モデル」が敗退・崩壊し、「水平分業」が広がっている。それを象徴するのがTSMCの躍進である。前述の通り、半導体産業で時価総額世界一位となった。

 米AMDはPC用CPU設計に特化し、量産はTSMCに委託し、性能の優れたCPU(Rizen5000シリーズ)をすでに供給している。データセンター用CPUでもシェアをあげている。

 アップルはこれまで、自社PC(アップルコンピュータ)用CPUをインテルから受給してきたが、自社で高性能CPUを開発設計しTSMCへ量産を依頼し、自社PCに使用し始めた。

 半導体はPC用ばかりでない。最近ではスマホ用、クラウド=データセンター用、ゲーム用のCPU市場が急速に拡大している。スマホ用はすでに米クアルコム社など各社が設計し、TSMCやサムソンが量産し、スマホメーカーに供給する態勢ができ上っている。

 米エヌビディアは、主力のGPU(画像処理半導体)を、ゲーム用やデータセンター向けに急速に伸ばしている。データセンター用GPU+CPU「グレース」を開発し、インテルの納入先を奪いつつある。

 アマゾンは、データセンターの頭脳として自社で開発設計した半導体「クラビトン」を、TSMCで量産しすでに実用化済だ。不必要な機能をそぎ落とし省電化した。

 グーグル、マイクロソフトも自社のデータセンター用に自社開発した半導体を活用しようとしている。

 90年代半導体王国だった日本の半導体企業のほとんどは、競争に敗れ市場から退場していった。メモリー生産のキクオシア(東芝系)、光センサーCMOS半導体生産のソニー、半導体製造装置の東京エレクトロン、シリコン結晶材の信越化学とSUMCO、そのほか材料・原料を納入する企業が残っているだけである。

 半導体産業におけるこれら「再編の動き」は、インテルの「垂直統合モデル」が敗退し、設計ソフトを使った各社での設計、TSMC・サムスンでの受託生産、ASMLを含む各社による製造装置生産などの「水平分業」に置き換わりつつあるということだ。すなわち半導体産業の業態が大きく変貌したのである。

 2000年代から、半導体の設計・開発と生産を別の企業が担う「水平分業」が加速し、受託生産が急拡大した。かつては、半導体の付加価値は設計にあるとされ、生産は外注して、投資とリスクを抑える事業モデルが広がった。受託生産は、量産技術が革新するたびに、莫大な資本を投下し、巨額の設備投資を更新することが適宜必要とされ、スピード感をもって対応しなければ競争に敗け「勝者総取り」となる厳しい市場だ。当初は、高リスク、低リターンの割の合わない事業とされた。

 ところが、数ある受託生産企業のなかで抜きんでた量産技術を常に革新し保持してきたTSMCが勝ち残り、「勝者総取り」の様相を呈している(残りの多くの受託生産企業は敗退し退場していった)。そして「勝者総取り」のファウンドリー企業が優位になる「転換」が起きたのである。
 製造装置でも、微細化露光装置で抜きんでたASMLが同じように露光装置市場で「勝者総取り」の地位を得ている。

 開発・設計への特化においては、最先端の領域で研究開発ができているかが重要になっている。半導体の設計ソフトは、米クアルコム、英アームが支配的な地位を保持している。

 これらは半導体産業において、「垂直統合モデル」が敗退し「水平分業」に置き換わったことを示す。

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<サムスン電子本社>

※「垂直統合モデル」について

 現在、「垂直統合モデル」を形成している業界に自動車産業がある。自動車会社が配下に組み立て子会社、部品会社、下請け、材料会社など、多数の企業を垂直構造に統合している。トヨタはそのトップに君臨している。

 この自動車業界でも、CASE化によって根本的な技術革新が起きており、莫大な額の投資がなされる開発競争に入っている。リチウム電池製造、モーター+インバータシステムなどの有力な部品会社、車のコンピュータ化を実現する巨大なIT企業などが参入し、トヨタ一社では賄いきれない莫大な額の投資が必要となっため、各企業が参入し、開発競争に有利とみられる企業と連携したりして、熾烈な開発競争を繰り広げている。従来の「垂直統合モデル」が再編・解体される過程に入った。果たしてトヨタがこの先も自動車産業に君臨し続けることができるか? 極めて流動的であり予断を許さない。

 かつて1970年から1990年頃まで、日本の電機産業は長い期間を経て「垂直統合モデル」を形成し、その結果、米GE、米ゼニス、蘭フィリップスなど「テーラー生産システム」の家庭用電機大企業を駆逐し、世界市場を席巻していた。トップに電機独占が君臨し、その下に子会社、組み立て子会社、部品会社、計測器会社、下請け、孫請けなど何層にも階層を形成し、すそ野は東南アジアを中心に海外にも広がっていた。「すそ野」(下請け、孫請け、部品会社)は、低賃金の利用形態でもあった。
 これが、1990年代になり、パソコン、携帯電話などで一挙に巨大な市場が生まれ、一方で、欧米を中心に仕様・規格を先行して決定するなどして特定企業が参入し、スピード感を持った投資競争で主導権を握り、日本の電機産業の独占的な地位を崩していった。そのことは、日本の電機産業における「垂直統合モデル」崩壊の端緒となった。いまでは、家庭用電機製品は、中国、韓国などの企業がより機動的で柔軟な「垂直統合システム」に再編し、世界市場を席巻している。

3)一方、中国勢はどうか?

 中国企業は、上記の半導体量産技術、開発設計ソフト、製造装置、半導体材料などにおいて、莫大な投資を行い急速に技術を吸収しつつあるものの、最先端の半導体を自前で設計し量産、調達できる水準にまでは達していない。

 現時点での最大のネックは、半導体受託生産である。TSMCに生産依頼しなければ、最先端の半導体を入手することはできない。米政府による勝手な制裁(「安全保障上問題がある」とするこじつけの理由)で、米商務省産業安全保障局(BIS)は、2020年5月、ファーウェイとその関連企業への輸出管理を強化すると発表した。ファーウエイは、5Gスマホ用のCPUを、子会社の海思半導体(ハイシシリコン)で設計・開発し、TSMCに委託生産していたが、20年9月からはTSMCの半導体を調達できなくなり、スマホ市場で大打撃を受け世界シェアを落とした。最先端スマホを生産できなくなるとともに、20年11月には、資金調達のため、低価格スマートフォンブランド「栄耀(オナー)」を手放さざるを得なくなった。

 TSMCに代わる役割を担う中国の半導体受託生産企業SMIC(中芯国際集成電路製造)の時価総額は、349億㌦で半導体大手では22位であるが、現在は14㌨品の量産しかできておらず、TSMCに比べると量産技術は10年程度の遅れがある。米国は、20年12月、SMICを制裁し、10ナノ以下の製品を作る技術のSMICへの輸出を制限した。

 設計開発においては、現在は使用している米クアルコム、英アーム社などの最新の設計ソフトを今後も引き続き使い続けることができるかどうかが焦点で、米政府は制裁の姿勢を見せている。

 こういう「不法なこと」、「野蛮なこと」が公然と行われている。これが、先進国・米国のやり口なのだ。米国の覇権を維持するためには、何でもやるという姿だ。
 そして、自身のことを「民主主義国」と呼んでいる。自分で自分の、評判を落としていることが理解できないのだろう。あるいは、理解したうえで、フェイクニュースを溢れさせれば、何でもごまかせると思っているということか。

 中国政府は、米国の制裁に関係なく、独自に最新の半導体を調達できるようにするため、自前で最高水準の設計技術、量産技術の獲得にむけて莫大な投資を行っている。しかしまだ、最先端半導体を中国内で生産・調達できるに至っていない。少なくとも数年~10年程度かかるだろう。 

4)中国への米国の対抗手段に半導体産業が使われる!

 半導体の受託生産は世界的にみて一部の地域、台湾、韓国、中国に集中している。特に台湾(ほとんどはTSMC)は、6割以上を占めている。
 
2021年半導体受託生産世界シェア (台湾トレンドフォースの予測 国籍は企業の本社所在地別)
 ①台湾    : 64%
 ②韓国    : 18%
 ③中国    :  6%
 ④その他   : 12%

 5月12日日経によれば、台湾半導体4社投資計画は、14兆円に達している(内訳:TSMC:11兆円、南亜科技:1,2兆円、UMC:5,850億円、力晶積成:1.086兆円)。投資計画先の9割が台湾であり、海外の新工場の立ち上げには乗り気ではない。

 サムスンは(5月13日、発表)、ソウル近郊平沢(ピョンテク)に、2兆円を投資して第3新工場を建設し、22年下半期に稼働させ、最先端半導体の受託生産とメモリーを生産する。また、2030年までに、システム半導体分野に16.5兆円投資し、TSMCを追い上げる。

 こんな時に、世界的な半導体不足が起きている。
 米中対立で、半導体の「国産化」、あるいは半導体生産の米・欧州地域への誘致の要請など生産・供給の分断が進むなか、米中を中心にコロナ後の製造業での景気が急回復し、半導体需要が急増した。一方、そんな時に、21年2月米テキサス州の寒波による停電で半導体工場が生産停止した。また3月10日、火災でルネサスエレクトロニクス(自動車用半導体、40㌨m品を生産)が生産を停止した。被災した半導体工場はすぐには再稼働できない。代わりに生産しようにも、TSMCやサムソンなど半導体受託生産企業はフル生産状態で応じられない。しかも、自動車用半導体は前世代仕様(線路幅、28㌨、40㌨、64㌨m品)で利益率の低いため、生産・供給は優先されず、そのため各自動車会社は半導体不足による長期にわたる減産を強いられる事態が生まれている。

 20年に発売されたソニーの「Playstation5」は、コロナ禍での巣ごもり需要で好評であるが、TSMCに依頼したCPUが従来の半分である月8万台程度分しか調達できないため、ゲーム機が店頭に入荷しても即時売り切れとなる状態が続いている。ゲーム機の新品価格は5万円弱であるが、ネットでは8万円前後で取引されている。
************


 TSMCは、米国アリゾナ州に5㌨品工場を誘致されているが、米政府がいくら補助金を出すか、まだ決まっておらず、計画は動き出していない。海外工場新設は、TSMCにとっては、二重に投資が必要となる。また、台湾以外では、エンジニアの人材確保きわめて困難であり、製造エンジニアの教育・訓練も長期にわたって実施しなければ量産にこぎつけない。補助金を得たとしても、結果的に長期にわたって大幅なコスト増となる。一方、各社とも半導体生産の設備投資を行っているから、23年以降は半導体が余り「設備過剰」「人員過剰」となることも考慮しなければならない。半導体は小さく軽く輸送費はかからないため、世界中に工場を分散することに、それほどメリットはないのだ。

 米国政府はTSMCを誘致したがっているが、TSMCはそれほど乗り気ではない。EUも、半導体受託生産企業(特にTSMCとサムスンを)誘致しているが、今のところ関心を示しているのはインテルのみである。

 TSMC、サムスンにとっては、売上の20~30%を占める中国企業も重要な顧客である。しかも今後、購入額が確実に増える顧客である。「台湾有事」「地政学的リスク」を持ち出して中国の顧客を放棄させ、工場誘致を迫る米・EUのやり方にTSMCもサムスンも、抵抗感を持っている。米政府は中国への対抗手段のために、半導体企業に工場分散を要求しているのだが、半導体産業にとっては「いい迷惑」なのだ。その上、上述の通り、世界的な半導体不足も起きている。

 冒頭の半導体企業の時価総額ランク(トップ5)を見ても明らかなように、中国勢は入っていない。受託生産企業は台湾のTSMCが独占的な地位を得ている。

 この状況をとらえ、凋落しつつある米国が中国の台頭を抑えるために、「半導体産業」を人質にとって、「中国への制裁」を発動しているのである。まさに「自分勝手で不法な振る舞い」というしかない。

 半導体ハイテク企業の囲い込みで中国に対抗し覇権を維持したいという米政府の戦略は、一時的に効果を挙げるだろうが、果たして長期的にみてうまくいくのかどうか。成功する見通しは、おそらくない。







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バリカタン軍事演習の意味? [フィリピンの政治経済状況]

バリカタン軍事演習の意味?


 米比の合同軍事演習「バリカタン」は4月13日から23日まで約2週間の日程で、実施された。米軍とフィリピン軍から合わせて約1,000人が参加した。1991年から行われてきた米比合同軍事演習だが、2020年はコロナで中止されていた。19年の演習では7,500人が参加しており、今回は大幅に規模を縮小した。コロナとは関係なしに、米比合同軍事演習の意義が大きく変化しつつあるようだ。
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<南シナ海>

 米政府・米軍にとっては、「対中国強硬政策」、「対中国軍事政策」の一部として、対フィリピン政策がある。「合同軍事演習バリカタン」の目的も対中国軍事政策に変わっている。

 海南島に中国の潜水艦基地があることなどから、米国は南シナ海は米中対立の最前線であると勝手に設定し、「航行の自由」作戦と称して空母群を航行させ、軍事的圧力をかけてきた。米国の最新の対中国軍事政策にとって、南シナ海のフィリピンは重要な軍事的要衝である。

 3月、米海軍は南シナ海で空母「セオドア・ルーズベルト」などによる軍事演習を行っており、立て続けに「バリカタン」も実施し、中国を牽制した。ただ、以前の「バリカタン」とは少し異なり、が少々「ぎくしゃく」している。

 フィリピンにとっては、中国との政治的経済的関係は近年ますます密接になり、これまでのように一方的に米国の同盟国であり続けるわけではなくなった。ドゥテルテ政権は20年に同国内での米軍の活動を認める「訪問軍地位協定(VFA)」を破棄すると一方的に米側へ通告し、現在は破棄を保留している状況だ。VFA破棄すれば米軍がフィリピンに駐留する根拠がなくなる。

 ただ、3月上旬から、フィリピンが排他的経済水域(EEZ)と主張する南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に、中国船が停泊を続けている。フィリピン政府は「即時退去」を繰り返し要求するが、解決の糸口は見えていない。そのためか、急遽、2021バリカタン演習を実施することにしたようだ。ただ、上述のように小規模だ。

 4月11日の米比電話会談ではオースティン米国防長官がVFAの継続を求める一方、ロレンザーナ比国防相はフィリピンが発注した米モデルナの新型コロナワクチンが早期に届くよう、協力を要請した。フィリピン政府はVFAや軍事演習の再開を米国との「交渉材料」にしている格好だ。
 軍事演習が、取引の材料に転化している。

 フィリピンにとっては、軍事面での米国との部分的な協力を通じて中国を牽制するとともに、一方で、米国から幅広い支援を引き出したい思惑がある。

 フィリピン政府は、「米中等距離外交」で臨むという方針を明確に示しており、より独立的な地位を確保しようとしているように見える。「米中等距離外交」というより、「米中天秤外交」という方がより適切かもしれない。

 その背景には、フィリピンを含む東南アジアが世界でも最も経済成長の著しい地域の一つであり、中国も米国も、さらには欧州・日本なども無視できないだろうという「自負」のようなものがある。










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三度目の「緊急事態宣言」―この一年間、何をやっていたのか? [現代日本の世相]

三度目の「緊急事態宣言」発令
---この一年間、何をやっていたのか?


1)首相、自治体首長、医療界は、この一年何をしていたのか?

 政府は、4月25日~5月11日まで、3度目の「緊急事態宣言」を発令した。
 これは同じことの繰り返しだ。2度目の緊急事態宣言を解除したのは21年3月、わずか1ヵ月でまた「緊急事態宣言」。首相、日本政府、自治体首長は予測さえしていなかった。わずか1ヵ月先が見通せない姿を見せられるのは、腹立たしい。こういう為政者を、私たちが頭の上に抱いていることが、実に腹立たしい。

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<菅義偉首相>

 首相、自治体首長、そして医療界は、この一年何をしていたのか?
 政府は、この1年間のコロナとの戦いを経て、次に予想されるシナリオを想定し、対策案をA,B,Cと用意していなければならない。なのに3度目の「緊急事態宣言」発令によって、何も用意していなかったことが暴露された。毎日の患者数に一喜一憂し、その都度「あわてて」対応しているに過ぎない。

 第4波が来れば、かならず重症病床からあふれる患者が続出し、死者が増大する。21年1月~2月に私たちが経験した。その同じことが今、目の前で繰り返されており、大阪ではすでに医療が崩壊し死者が急増している。(大阪府:4月29日の死亡者が44人と過去最多、5月1日の死亡者も41人)。

 吉村知事が自慢していた「大阪方式」はどこへ行ったのか? 

2)3月18日、解除にあたり政府が掲げた「5つの柱」

 3月18日、政府は「緊急事態宣言」を解除するにあたり、「5つの柱」を掲げた。
 「5つの柱」を、現時点での成果を点検すると下記のようになる。

①「飲食を介する感染の予防」 ⇒ 何も効果を上げていない。
②「変異型の診断を40%以上に」 ⇒ 未だ30%程度しか診断できていない。
③「積極的モニタリング」 ⇒ これもできていない、失敗。
④「ワクチンの早期接種」 ⇒ そもそもワクチンを確保できていない。
⑤「医療体制の整備」 ⇒ 準備されていない。大阪などはすでに医療崩壊している。

 宣言が解除された後、「5つの柱」のどれもできていないうちに、大感染の第4波を迎えた。

3)日本の医療がコロナに敗れている!
 感染症用病床・病棟の絶対数が足りない!
―-コロナ治療では、早期検査・早期治療を実施し、
重症化させないことが重要――


 コロナは感染してしばらくすると免疫暴走して重症化し死亡者が出る。早期にステロイド、アクテムラ、アビガンなどを処方すると軽症化することがわかってきている。「37.5℃以上の熱が4日以上続いたら(重症化したら)、初めて病院に行くこと」という当初の厚生労働省の指示は、治療としては間違っていたことが、いまでは明らかになっている。

 早期発見、早期治療で重症化させない――これが最新の知見だ。これを実行できる検査、治療体制が必要であるが、いまだに十分に確立されていない。早期に発見しても、早期に治療できなければ(入院できなくなると)、死者が急増する。今大阪府で起きているように。

 政府も東京都・大阪府も医療界も、第4波による医療崩壊と死者増大を、感染力の高い英国型変異株N501Yのせいにしているが、そうではない。早期検査・早期治療の医療態勢を準備してこなかったことが、根本の原因である。もはや「人災」だ。

 政府は何よりも効果的で効率的な医療体制を早急に再構築しなくてはならない。診療報酬の特例と国費の拠出し病床確保をめざしたのに、期待しただけの効果をあげていない。現行の診療点数による経営をベースにした医療態勢・病床の拡充・要請では、すでに対応できないことが明らかだ。

 もはや緊急事態である。災害が起きた時の対応をしなければならない。感染症用の病棟の絶対数が足りないのだから、中国政府がやったように日本政府が、重症者を集中的に治療する病床、回復期療養を担う病床、宿泊できる医療病床をもつそれぞれの病棟を、プレハブで(終息したら分解し再利用する)、東京ならオリンピック会場、大阪なら万博予定地に建て、無料で(もしくは一部無料で)診察・治療すべきだ。政府が主導し、予算を投入し設置すべきだ。医師や看護婦は自衛隊などから派遣し常駐させることが必要だ。(自衛隊は災害救助隊に再編すべきだ!)
 どうしてやらないのか?

4)コロナ対策はすでに世界で確立しているのに、
日本政府は実施していない!


 様々な経験-ー失敗、多数の死者など――を経て今、世界的に確立され、また実施されているコロナ対策は、下記の6点。

緊急事態宣言、ロックダウンなどの人の移動・接触を減らす。
PCR検査の一斉大量実施: 「抗体検査・抗原検査」とPCR検査の組み合わせによる感染者の発見
コンタクトトレーシングのアプリ: 感染者追跡アプリと迅速検査の連携による感染者発見と個別隔離
海外からの入国者の防疫態勢の厳格化
ワクチンを全国民に接種
医療態勢の構築:見つけた患者を隔離治療する感染症用病床(重症病床、中等病床、宿泊隔離病床)を政府が準備し、早期発見・早期治療を実施し重症化させない。

 日本政府、自治体のとっているのコロナ対策は、上記①~⑥のなかでだけだ。「外出自粛、マスク着用、三密回避」を、国民に要請するだけ。

②PCR検査
 簡易な「抗体検査・抗原検査」を地域ごとに広範に実施し、感染者が多いと特定した感染地域では住民全員にPCR検査を実施し、感染者を見つけ出し、隔離・治療する、特に無症状のスプレッダーを発見し隔離する。
 コロナ発生から1年以上経つのにいまだに実施しない。各国と比較しても極端に少ない。こんなことをしているのは日本だけだ。厚生労働省がPCR検査の一斉大量実施を止めている元凶だ!

 国があてにならないので、ソフトバンク、プロ野球など民間企業では自衛のため独自にPCR検査を行っている。島津製作所製の優れたPCR自動検査機は海外で活躍している。日本政府は採用しておらず稼働していない。

 その一方で、「五輪の選手には毎日PCR検査を実施する」方針が政府から出されている。日本国民にはやってこなかったし、やるべきでないと主張してきたのに。

③スマホアプリによる感染者トレーシング:
 まったく機能していない。アプリ作成を指示する厚生労働省にITの専門家がいない。業者への丸投げで、不具合が指摘されても改善しなかった。厚生労働省は責任を取らない。責任を取らされそうなのでアプリは利用しない現在の事態になっている。日本は司令塔である厚生労働省のおかげでスマホアプリを利用できていない後進国となっているのだ。

④海外からの防疫体制:
 日本は「ザル」状態。すでに英国型N501Yが神戸・大阪から入って関西圏を席巻し、さらに国内に広がり大騒ぎしている。防疫体制で失敗したことに対する反省・対策はないし、誰も指摘しないし、責任をとらない。インド株変異種の危険性は以前から指摘されてきたが、4月28日になってやっとインドからの入国者を6日間施設待機にした。これでも不十分、2週間は施設で待機してもらわなければならない。それまでは経済を優先した3日間待機だけ、しかも入国時検査はPCRよりも精度が劣る「抗原検査」のみだった。すでにインド株が入ってきているのではないか。
 誰がこんなことをやっているのか! 

 さらにはブラジル株、南ア株などの侵入も危惧されている。

 台湾、ニュージーランド、ベトナムなどの感染者の絶対数が少ないのは、厳格な入国検査を実施してきたからだ。

⑤ワクチン接種:
 ワクチン確保が他の諸国に比べ大幅に遅れ、接種率は未だ全人口の1%を超えた程度。かつ接種態勢も整っているかどうか「あやしい」。政府によれば、65歳以上への接種は、5月から始め9月までかかるという。全国民への接種が終わるのは年を越えるのは確実だ。

 したがって、ワクチン接種が全国民になされるまでは、②~④⑥を早急に実施すべきなのだが、これが一向に実行されない。日本政府は無為・無策のママ、国民は指をくわえてワクチンを待つだけ。

⑥医療態勢の整備:
 一向に進まない。政府や自治体首長は、国立病院・民間病院にベッド確保を「要請する」だけ。第4波で5月以降は死者が増えるだろう。

 大阪では重症病床が4月13日から埋まっており、重症化しても重症病床に入院できない。また、1.6万人にも及ぶ軽症患者、無症状者を「自宅療養」させているが、これは「療養」ではない。正確には「放置」だ。入院したい患者が入院できない、病院にアクセスできない、あふれているから「自宅」に「放置」する。容態が急変し死亡するケースも出ているし(大阪では、4月以降5月5日まで17人)、高い確率で家族に感染するのは当たり前だ。

 これらは日本の医療がすでに崩壊している証の一つだ。日本国民にはすでに生存権が保障されていない事態が生まれている。

 もはや緊急事態だ。これまでの医療システムに任せ、その拡充では間に合わない。災害が起きた時の対応をしなければならない。前述の通り、政府が専用病院・専用病棟を突貫で建設しなければならない。

6)政府の無策こそ問題

 上記の通り、政府の無策が問題だ

 ところが、無策をごまかすために、「第4波の感染は国民の自粛が足らないのが原因だ」と言っている。「自粛を呼びかけてきたが、できていない」と指摘する。尾身会長は「心のゆるみ」、小池都知事心の隙」論を述べている。「感染したら、自粛していない感染した者のせい、感染した奴が悪い」という理屈に誘導している。

 さらに政府・自治体・専門家分科会は、自身の無策の言い訳のためか、感染力の高い英国株N501Yのせいにしている。N501Yの侵入や感染拡大を予想し対策していなかったという反省はない。誰も責任を負わない。

 TVに出てくる専門家が少しも専門的な知見を語らない、政府の無策・政策の誤りを指摘し批判しない。N501Yがなぜ侵入したのか、責任はだれにあるのか、追及した専門家を見たことがない。一年前と同じことを繰り返している。国民をバカにしているとしか思えない。原発事故の時の「原子力学者」と同じだ。
 
7)こんな状態でオリパラをやるのか? 
  ――責任をもって決めようとしない政府・東京都――

 菅首相も小池知事も、何としてもオリパラを開催したいという野心が先にある、そのための「緊急事態宣言」だと各方面から指摘されている。実際のところ、指摘の通りなのだろう。すでにオリパラのために国民生活が振り回されている。

 世論調査によれば、国民の7~8割がオリパラの中止・延期を求めている。しかし、これが政治に反映されない。
 TVのワイドショーに出演する専門家・芸人・アナウンサーは、オリパラ開催しか言わない、国民のこの7~8割の意見を少しも反映しない。政府やスポンサーの意向にしたがって、へらへらと無責任にしゃべり、世論を誘導している。国民をバカにしている。

 4月9日、東京五輪組織委員会が、日本看護協会に対して「約500人の看護師を大会スタッフとして動員を要請」していたと、4月25日に「しんぶん赤旗」がスクープした。「参加日数は原則5日以上、早朝、深夜も含め、1シフトあたり9時間程度、無報酬」という。

 4月9日といえば、「大阪コロナ重症センター」では30床を運用するのには120人の看護師が必要であるにもかかわらず、70人しか確保できていないことが問題になっていた。そもそも、東京五輪を開催するにあたっては、期間中に医師・看護師が約1万人必要だとされてきた。それでなくても感染拡大で医療従事者の手が足りていないし、加えてこの先ワクチン接種も重なる。大阪府の医療崩壊に医師や看護婦を派遣できない現状なのに、オリパラには集めるのか? 集められるのか? 到底無理だと思われるが、政府も五輪委員会も判断しないし、責任を取ろうとしない。

 一方、ニューヨーク・タイムズは4月12日付の記事で「東京オリパラは3週間のスーパースプレダー(超感染拡大者)・イベントとなり、日本中、いや世界中に死と病を引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 現時点ではすでに、政府・東京都に対して、生存権を無視・軽視してオリパラをやるつもりなのか? という国民的なかつ世界的な問いかけが、投げつけられているのだが、これにも何もこたえない。オリパラ強行によって感染拡大と医療崩壊を起こし死者が出ても、菅首相も小池知事も組織委も責任がとれないことは、明らかなのだが。

 こんな事態だ、国民の生存権を理由にオリパラを中止しても、誰も文句は言わない。キチンとコロナ危機の実態を説明すれば世界中の誰もが納得する。

 なぜ何もしないのか、実に腹立たしい。何もしない政府、責任を取らない政府に、私たちの怒りは蓄積するばかりだ。もはや現在の事態に至ってはオリパラは中止すべきだ。何よりも国民の生存権を重視した根本的なコロナ対策の実施を求める。(2021年5月5日記)








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尖閣諸島をめぐる日中対立を煽るな! [世界の動き]

米中対立に巻き込まれたら、日本に未来はない!
尖閣諸島をめぐる日中対立を煽るな!

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<尖閣諸島>

1)バイデン政権の外交の柱は対中強硬路線

 バイデン政権の対外政策は対中強硬路線であり、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれている。米政府にとって 「中国が最重要課題なのは疑う余地がない」(ブリンケン国務長官)のであり、米国にとって日本の存在価値と対日政策は、対中政策の一部にすぎないことを私たちはよく知っていなければならない。(猿田佐世世界』4月号、「対等な日米関係?」)

 バイデン政権は、対中強硬路線を実行するために、トランプ政権のように「アメリカ第一主義」ではやらない、日本を含めた同盟国との「国際協調」の再編で対処する、と表明している。日本を含む同盟国の軍事能力の整備、財政的負担を求めてくるだろう。

 対中強硬路線を実行するための一環として「日米豪印戦略対話(クワッド)」呼ばれる枠組みを提唱したが、インドがあまり乗り気ではない。韓国、ASEAN、ニュージーランドも参加しない立場を明確にしている。米国にはすでに以前の「権威、力」はない。

 バイデン政権の高官に、カート・キャンベル/アジア・太平洋調整官などが就き、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる人たちが復活した。他の同盟国はいざ知らず、米政府にとって日本政府を操るのは思惑通り行きそうだ。

2)尖閣での対立を煽るな!

 米支配層は「尖閣問題」を煽る日本政府を利用することで対中戦略、米中対立と世界の分断を推し進めようとしている。その戦略を自ら進んで推し進め対米依存を深める政治家や官僚が日本政府の中枢にいる。

2)ー1:日本政府の立場

「日米、尖閣に安保適用明記へ 首脳会談で共同文書作成

 共同通信(3月26日)によれば、4月上旬菅首相が訪米する日米首脳会談で日米両政府は共同文書を作成する方針だ。政府関係者によると、東・南シナ海で影響力を強める中国を念頭に、「尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用対象」だと明記する方向で最終調整している。日本政府は、米政権や国務長官が代わるたびに「尖閣が日米安保の適用範囲」であることを確認してきた。

 日本政府は、米軍の存在を背景に、歴史問題、慰安婦問題などを解決することなく中国に対する強硬な姿勢、要求を実現しようとする立場を追求している。問題は、大きく変化しつつある2021年現在の国際情勢、東アジア情勢において、この外交・軍事政策に果たして「現実性」があるのかということだ。隣人への要求を実現するために暴力団に仲介を頼むようなものだからだ。日本がより一層米国に従属していかざるを得なくなる。

 尖閣問題では、日本政府は日本国民が誤解するように宣伝している。メディアを含む多くの日本人は、尖閣諸島の主権に関する国際的状況を把握していない。日本政府が尖閣諸島を「我が国固有の島」としているので、米国も支持していると勝手に思い込んでいる。

 日本政府、政治家は、国際政治の現状とその変化少しも認識しないで、米国に頼ればいいという無頓着で無責任な態度をとり続けている。

2)-2:米国政府の立場

 米国にとって、日中間の領土問題での対立を「適度に煽る」のは、これを利用し日本を米国の影響下に引き容れるのに有効であるからだし、操ることも容易になるからだ。「ジャパン・ハンドラー」が復活しバイデン政権高官に入っている事から、尖閣での対立を米国の対中政策に利用するであろうことは容易に想像できる。

 しかし、尖閣での対立を煽るのは「利用する為」であり、米国が尖閣の領有をめぐって日本のために戦争をするつもりなどない。

 バイデン新政権も「日米安全保障条約第5条に基づく、尖閣諸島を含む日本の防衛に対する米国の関与は揺るぎない」ことを確認した。その一方で、2月28日米国防総省カービー報道官は、①尖閣諸島の管轄権は日本であるが、②領有権に関してはいずれの国の立場も取らない」(日本政府が尖閣を自国領土と主張していることを支持しない)ことも明言した。(こんな重要なことを、日本政府は触れないし、メディアも報じない。)

 そのことは米政府・米軍は尖閣のために中国と闘わないことを明言したことに他ならない。米軍の参戦は「戦争権限は米議会にある」とする米憲法に従う、米議会が他国の領土の為の参戦を支持することはない、ゆえに、日米安保条約5条にしたがって自動的に参戦することはない、という従来の立場を確認したにすぎない。米国が「尖閣諸島の領有権は日・中・台のいずれの立場も取らない」としていることは、対立を煽るが武力紛争に介入しないことを意味している。

3)尖閣の領有 

 尖閣諸島の領有権は、日本、中国、台湾が各々主張しているが、国際的にはどの国の領土かは認められていない。日本政府は「尖閣諸島は日本固有の領土」と主張しているが、米国も含め国際的には認められていない。日本政府は「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と閣議決定し、中高教科書に「固有の領土」と書かせているし、メディアには「尖閣諸島は固有の領土」だと必ず報じさせている。しかし、それは世界的に認められた真実ではない。日本政府は日本国民が誤解するように宣伝している。

3)-1:日本政府の主張

 尖閣諸島が日本の領土であるという日本政府の主張は、下記の通り「固有の領土論」、「先占の法理」を根拠としている。

① 1885年:沖縄県を通じて尖閣諸島の現地調査を幾度も実施。無人島であることだけでなく、清国を含むいずれの国にも属していない土地であることを慎重に確認した。
② 日清戦争、1894年(明治27年)7月25日から1895年(明治28年)4月17日にかけて日本と清国の間で行われた戦争で編入した。
③ 1995年1月14日閣議決定で日本の領土(沖縄県)に編入(先占の法理)した。

 ※「先占の法理」とは:どこの国にも属していない場所を先に実効支配した国がその領土を主張できるという、国際法で認められる領有権取得の方法

 この日本政府の主張で、一番弱いのは国際法上の「先占の法理」である。
 「先占の法理」は植民地争奪合戦で出遅れたドイツの学者が主張した法理である。例えばアフリカとかアラビア半島とか住人はいるが、明確な国家はない。だから「国家」である西側諸国が出かけて、これは自分のものと言えば認められるというものだが、現地住民の権利を認めない考え方でもある。国際司法裁判所等が第2次大戦以降現地住民の考えを重視するようになり、植民地主義的「先占の法理」は国際司法裁判所の裁判でも使用されていない。かつ、「清国を含むいずれの国にも属していない土地であることを慎重に確認した」とする日本政府の主張は、どの様な手段で確認したのかはほとんど明確でない。(以上、孫崎享氏ブログより引用)

 日本政府は上記の歴史的経緯から尖閣諸島が「固有の領土」であると主張している。

3)ー2:ポツダム宣言受諾

 日本は第2次大戦終了時においてポツダム宣言を受諾した。ここでは、日本の領土は「「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」とされている。過去の経緯がどうあれ、日本は本州、北海道、九州、四国以外は「吾等(連合国)ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」とされている。カイロ宣言は次の決定を行っている。「並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」と記している。「盗取」という言葉に注目しておくべきだ。

 ポツダム宣言をないがしろにすることは、第2次世界大戦で決まった国境線を変えることであり、現在と将来の対立と戦争の原因をつくることだと、私たちはキチンと知っておかなくてはならない。「固有の領土論」は、ポツダム宣言をはじめとする後に締結した条約とその意味を、無視したりないがしろにする危険な志向、意味を含んでいることを知っておかなくてはならない。日本政府はそのような態度をとっているのである。

 多くの日本人はそのことを知らない。
 国際的には「固有の領土論」は認められていない。そんなことも知らない。

3)ー3:沖縄返還時は?

 1972年、米国は沖縄を返還したが、この時米国務省報道官は①尖閣諸島の管轄権は日本、②領有権に関してはいずれの国の立場も取らない」とした。この時も米国は尖閣諸島の日本の領有権を認めていない。

3)ー4:日中国交回復時にどうしたか?

 日中国交回復時の難問は尖閣諸島の帰属であった、「これに触れない、現状維持、棚上げ」方式がとられた。1972年日中共同宣言の際に田中角栄首相と周恩来首相が、1978年日中平和条約では鄧小平と園田直外相が、「棚上げ」して締結した。つまり「領有権は未決、管轄は日本」としてきたのである。80年代初頭まで日本政府、中国政府とも「棚上げ」を尊重する対応をとった。

 しかし、外務省、日本政府は対応を変え、「棚上げ合意はない」という主張をこっそりと始めたのである。

 2000年代になって、当時の石原慎太郎東京都知事が、訪米時に米ハドソン研究所で「尖閣諸島を東京都が購入する」と宣言した。そのことに「対応」するため、当時の民主党の野田政権は最終的に「尖閣諸島を国有化」してしまった。1972年日中共同宣言、1978年日中平和条約の前提となっていた尖閣諸島帰属の「棚上げ」を日本政府が一方的に破棄したのである。

 併せて、日中両国は尖閣諸島での軍事紛争をさけるため、「日中漁業協定」を結んでいた。協定は、「中国船が入った場合、日本は撤退を求める、問題があれば外交で処理する」と規定している。併せて日中双方で、「尖閣に関し、国内法を使わない」覚書を双方で交換した。

 しかし、これを破ったのが民主党の菅直人政権であり、国内法を使用し中国漁船を拿捕するという行為に出た。さらに野田政権は尖閣を国有化した。

 問題は日本政府が一方的に「棚上げ合意」を破棄したことにある。そのことによって日本政府、中国政府共に、自分たちの領有権を主張する状態に戻った。戻したのは日本政府である、中国政府ではない。

4)アジアで米中が戦えば、中国が勝つ

 東アジアでの軍事的な関係はすでに大きく変化している。そのような現実をキチンと理解したうえで意識的に平和を追求しなければならない。

 「軍事的に米中が尖閣諸島周辺で戦争すれば、今や、米軍が負ける」状態が到来している。米ランド研究所のレポートによれば、「軍事的に米国は、尖閣諸島を守るために中国と戦えない」としている。ランド研究所「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃1996–2017)」レポートによれば、

・中国東海岸には1,250発の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)、巡航ミサイルが配備され、かつ命中精度も上がっている。米の中距離ミサイル配備数は数十発であり、到底対抗できる数ではない。
・アジアの米空軍基地は中国のミサイル攻撃で無化される。日本や東アジアの空軍基地・空母群は破壊され、空軍優位性を失う。嘉手納基地は破壊される。尖閣もミサイル攻撃の対象となる。
・中国の中距離ミサイルに対抗する米日韓のミサイル防衛システムはない。
・米中の軍事バランスは2017年には、台湾周辺:「中国優位」、南沙諸島:「ほぼ均衡」という評価である。

5)米国の影響から離れ、日中関係を改善するべきだ

 今なすべきことは、米国の影響から離れ、日中関係の改善を図るべきだ。米国の都合による米中対立の枠内で日中関係の改善は絶対に実現できない。日中関係の改善のためには、尖閣諸島の領有権での「棚上げ合意」を復活させることだ。以前の「棚上げ合意」に戻すことを打診し交渉し、関係改善に努めるべきだ。それ以外にない。

 いたずらに対立を煽ってはいけない。尖閣周辺の日本の漁民が困っているなら漁業協定を結べばいいのであって、尖閣諸島を日本の領土にしなければならないのではない。米軍事力を頼みにして、自衛隊を南西諸島に配置したら余計にこじれ、対立は続く。日中の軍事力からすればすでに大差がついている。いったん戦争がはじまった場合、自衛隊が尖閣諸島に上陸したら、瞬時にして自衛隊は全滅する。
 
 対立と戦争の原因となる政策を採るべきではない。対立や戦争が起きる原因をひとつひとつ慎重に潰していって、平和的な関係をつくり上げるのが私たちの望みだ。







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バイデン政権の対中政策は?  [世界の動き]

バイデン政権の対中政策はどうなるか? 

バイデンの外交政策は?



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<1月21日、バイデン、大統領就任演説>

1)EUは対中国で米国と共闘する意志がない

 20年12月30日、習近平とEU首脳がオンライン会議を開催し、EUと中国との投資協定締結で大筋合意した。
 EUは「中国の過去の協定でもっとも野心的な内容だ」と評している。
 「投資協定」の内容は、「EU企業の中国への参入制限を緩和する」、「労働者保護に関し中国政府は、強制労働を禁じるILOの関連条約の批准に向け努力する」というものだ。
 バイデン政権発足の直前に成立させた中国とEUの投資協定の大筋合意は、メルケル首相とマクロン大統領が、対中国で米国と共闘する意志がないと、明確に表明したことを意味する。

 一方、20年12月、英国―中国間で、年間輸出入額100兆円規模の自由貿易協定をまとめた。

 EU、英国をせっついたのは、コロナ危機による景気減速が背景にあるとともに、それ以上に中国経済との分離は破滅を招かずにはいられない、という判断があるからだ。バイデン政権成立前の「政治的空白期間」を狙い、協定をまとめた。

 それはEU、英ともに、一方的に米国に従属するわけにはいかないという意思表示でもある。
 EU、特に独メルケル首相は、米国とは一定の距離をおいた独自の政治・経済国際協調体制構築を構想している。「トランプ米政権に振り回された」4年間に対する対応であり、EUが米国に振り回されず独自の道を歩む意思表示でもある。

 英国はEU離脱による孤立(英国支配層にとっては「オウンゴール」)という独自の事情も加わる。EU離脱は英国を「米国への追従」へと追いやるが、中国との関係を保っておくことで米英関係の平衡を保とうとしているのだ。

 全体として、米国の国力の低下を意識した対応とみていいだろう。

 中国との投資協定は、これまで欧米がやってきたように途上国に「民主主義」制度や価値観を教え導入させるための方法(=新植民地主義)と、位置づけることはもはやできない。すでに中国経済は十分に大きく、EU、英が「教え」を押しつける関係にはない。

 しかし、米国・バイデン新政権は、不快感を抱いただろう。

 バイデン政権は、同盟国であるEU、英、日などと連携して中国に対処したいと考えているが、政権発足前に、EU、英ともに、投資協定、自由貿易協定をさっさと結んでしまった。もっとも、バイデン政権の「願望」は、「公式」には貿易や投資の協定に反対する理由にはならない。そもそも米国は経済における自由化を主張してきたからだ。
 発足時にすでにバイデン政権には、EUの間に溝がある。ただこの溝はもともとトランプ政権がつくったものでもある。

 国際協調と同盟国との連携がバイデン政権の対中戦略の柱だが、少なくとも米欧間でそれが実る可能性は低い。
 
2)ASEANは米中等距離外交

 20年末に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の合意に達した。RCEPは、中国と日本や太平洋諸国15カ国が加盟する。貿易の拡大と地域の経済成長の促進につながる比較的「緩い」経済連携だ。各国とも恩恵を受けるとともに、アジア経済の中核として、中国の地位が確立され中国に長期的利益をもたらす。

 中国とASEANのあいだには、2005年に「物品貿易協定」が発足し、10年初めにはASEAN先行6カ国と中国間で関税が廃止された。中国とニュージーランドの間には、2008年FTA(自由貿易協定)が発効した。
 その結果、中国、ASEAN、ニュージーランド間の商品貿易は、世界貿易全体の伸び率を大きく上回り、増大した。

 RCEPの発効は、アジアの産業活動が中国を中心に集中・再編されることを意味する。RCEPの未来は、少し前の日本と東アジア諸国の関係、「雁行的発展・垂直分業システム」として機能した歴史を、別の条件下で繰り返すと見ればわかりやすいだろう。

 ASEAN諸国は、ここ10年ほどは「米中等距離外交」の姿勢を堅持しており、その条件下で世界でも最も経済発展を成し遂げている。ASEAN諸国は、アジア地域での米軍の行動によって紛争や対立を引き起こすのを強く拒否する立場をとっている。

3)米中対立はどうなるのか?

 バイデン政権で、以前の米国は蘇るか?  その可能性は極めて低い。そもそもトランプ政権の登場が、それ以前の伝統政治が限界に達していたからだ。米中間層が没落し、格差は拡大し、ワシントンの「エリート政治」に対する反発が大きくなっていた。トランプはこの反発を自身への支持にかえた。
 バイデン政権は、何よりも金融資本、軍産複合体の支持をもとに、アンチ・トランプを政権の求心力の源として出発した。しかし、トランプ政権の政策も継承せざるをえない。外交政策、対中国政策は変わる余地が少ないだろう。

 今のところ、中国に対するバイデン政権の対応は、「前政権の強硬姿勢を継承しつつも、異なる手法で中国に臨む」というトーンを続けている。現時点は、同盟国であるEUや日本、ASEAN、インドなどと連携した対中政策へと再編するため調整している段階だ。

 1月25日、サキ米大統領報道官が「(中国に対しては)多少の戦略的忍耐で対応していきたい」と表明した。「戦略的忍耐」が失敗したオバマ政権の北朝鮮政策を連想させることを嫌ってか、のちに発言を修正したが、「……「戦略的忍耐」はバイデン政権の対中政策の基本方針になるだろう。しかし、あくまで当面だろう、その方針が米国の求める「実績」をあげるかは、極めて心もとないからだ。」(2月12日、日本経済新聞、呉軍華・日本総合研究所上席理事)

 国際協調と同盟国との連携がバイデン政権の対中戦略の柱だが、少なくとも米欧間でそれが実る可能性は低い。NATO内での対立は尾を引いている。EUや日本、韓国への軍事費負担の要求は引き続くだろう。上述の通り、メルケル首相とマクロン大統領は、対中国で米国と共闘する意志がない。

 日本は米国に従っている。米、インド、オーストラリアと連携して対中包囲網を形成しようとしている。ただし、米、印、豪、日で中国を包囲できない。この試みには見込みはない。ASEAN諸国はすでに米中等距離外交の立場をとっており、米国による対中政策に加担しておらず、対中包囲網にも参加していない。

 バイデン政権の中国との対決姿勢はいったん止まるかもしれない、しかしその先はわからない。
 バイデン政権の「戦略的忍耐」で、対決に向かう米中関係の流れはいったん止まるだろう。だが、これで安定軌道に入ったと見てはならない。金融資本、軍産複合体という米支配層の「忍耐次第」では、中長期的にはいっそう激しく揺れ戻す可能性がある。(2月21日記)







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バイデンの米国はどうなるか?  [世界の動き]

バイデンの米国はどうなるか? 
米社会の分断と荒廃

1)政治的にみると
バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の影響を大きく受ける

①バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の影響を大きく受ける政権

 大統領選挙において、ウォール街、軍産複合体はバイデンを支持した。いつもに増して巨額の選挙資金が投入された「金権選挙」となった。金融資本、軍産複合体はバイデン政権成立のために動いた。このままトランプに任せていたら、米社会の荒廃と混乱がさらに大きくなり米支配層の支配が脅かされかねないという危機感を抱き、本気でトランプを引きずり下ろしたのである。

 元軍大将ら489人がバイデンを支持し、トランプ大統領批判を行った。これらの中には統合参謀本部副議長を務めたセルバ退役空軍大将、カーター、ヘーゲル両元国防長官、ブッシュ(子)政権のエーデルマン国防次官らが含まれている。彼ら軍事・安全保障にかかわるエリート層も、バイデン政権成立のために総動員されたということだろう。

 したがって、「選挙時の動向からみて、バイデン政権はどの政権より、金融資本・米国のグローバル企業、軍産複合体の影響を受ける。」(1月20日、孫崎享)。

② 組閣の顔ぶれ――オバマ政権閣僚から横すべり
 組閣の顔ぶれを見ると、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官(元陸軍大将)、ジャネット・イエレン財務長官(前FRB議長)らが任命された。オバマ政権のスタッフが閣僚、高官にそのまま滑り込んだというのがその特徴だ。女性、黒人、性的少数者などを閣僚に配置しているが、民主党左派で大統領候補を争ったバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、及びアレクサンドラ・オカシオ・コルテス議員らは徹底して外している。金融資本と対立する勢力を完全に排除した。民主党左派は、大統領選挙の際の票集めに利用されたということになる。

 とくに国務省人事に注目すべきだ。

アントニー・ブリンケン国務長官:
 元国務副長官、クリントン、オバマ両政権で外交の要職を歴任したバイデンの側近。イラク、アフガニスタン、シリア、レバノンへの軍事介入を、当時のバイデン副大統領の周辺にいて主張してきた。
 2013年アサド政権が化学兵器を使ったとしてシリア攻撃を主張したが、オバマ政権が見送った際に不満を漏らした。17年にトランプ政権がシリア攻撃をした時、これに賛成した。
 初会見で早速、「中国ウイグル族にジェノサイドがあった」と発言し、中国政府が抗議している。

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<アントニー・ブリンケン国務長官>

ビクトリア・ヌーランド国務次官(女性):
 元国務次官補、キャリア外交官で、これまで国務省広報官やNATO大使を務めた。2014年のウクライナ・クーデターによる政権転覆を主導した。夫は著名なネオコンであるロバート・ケイガン。

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<ビクトリア・ヌーランド国務次官補>

 中東やウクライナへの軍事介入を主導したオバマ政権のスタッフがそのまま国務省幹部の地位についている。国務省は、世界のどこにでも軍事介入を主張してきた布陣をとっている。
 政権のこの陣容は、失敗し退陣したかつての「エリート政治」そのものの復活だ。

③選挙票にあらわれたバイデン政権の不安定な基盤

 ワシントンの「エリート政治」は、「プア・ホワイト」を中心に反感を買い、トランプ政権を生み出してきた。バイデン政権は、金融資本、軍産複合体の政権であり、大統領選挙時の票数でいえば、民主党票のうちの左派を除くと、全票数の30%程度の支持の上に立っており、きわめて不安定な政権なのだ。

 したがって、バイデン政権は「エリート層の政権」でありながら、かつての「エリート政治」をそのまま実行できない。格差拡大の一定程度の是正、貧困層の救済を行わなければならない。少なくともその「ポーズ」を取らなくてはならない。でなければ、2年後の中間選挙、4年後の大統領選挙で敗れる。トランプ支持者、民主党左派支持者の言い分を、実績でもって一定程度抑え込まなくてはならない。

 そのためバイデン政権は、意図するしないにかかわらず、コロナ対策や格差拡大是正を中心とする内政に引きずりこまれる。貧困層の救済、格差是正、失業者救済、医療アクセスの改善・救済に一定程度取り組む姿勢を見せなければならない。トランプのような「フェイク」ではなく実績を上げなければならない。

 大統領選挙結果に現われたように、トランプ票は7,400万票もあった。トランプ支持者と支持勢力は広範囲に広がっていたことが判明した。国内外に「敵」をつくりだし、アメリカ第一主義、「白人至上主義」でプライドをくすぐり、フェイクニュースで煽ったため、「Qアノン」など確固たる極右政治勢力をつくってしまった。

 この先「軍産複合体」「金融資本」は、おそらくトランプの政治勢力の影響力を徹底的に排除するつもりだ。
 「軍産複合体」「金融資本」の支配は、民主・共和双方にまたがる。下院における弾劾審議でネオコンの代表であるチェイニーの娘が共和党員にもかかわらず、弾劾支持に回ったことにも表われている。議会はトランプ弾劾でモタモタしているが、少なくとも24年の大統領選挙に出馬できなくなるまでトランプ排除に努めるだろう。これもバイデン政権が労力を裂かなければならない内政の一つだ。

 他方で民主党左派は、貧困層の救済、格差是正、失業者救済、医療アクセスの改善・救済を正面に掲げ、貧困対策を要求しているが、これをより徹底して行うよう政権に求めるだろう。

 米国社会は今、深刻な対立のなかにある。
 これから先のバイデン政権の4年間は、内政を中心に厳しい情勢が続く

④ 新自由主義の時代の終り

 時代的により長いレンジで見るならば、バイデン政権の抱える課題と困難は、米社会がこれまで30~40年にわたり新自由主義政策を導入し、富裕層への富の集中、貧困者の増大させてきたその結果がもたらしている。かつて分厚かった米国の中間層を没落させてしまったその「ツケ」が重くのしかかってきている。米国中間層はかつて「米民主主義」の担い手だった。これを没落させ米社会を荒廃させてしまったから、「エリート政治」への反発が広がり、4年前にトランプを生みだしたのだ。

 もっともトランプは米社会の荒廃を解決しなかった。国内外に「敵」をつくりだし、「アメリカ第一主義」でプライドを煽り、フェイクニュースで目をそらし、深刻な問題の解決を回避してきた。フェイクニュースをまき散らし白人至上主義の政治的主張する集団さえ形成されている。その結末が「議会襲撃」事件である。

 当然のこと、うまくいかないのでバイデン政権の登場となったのである。

 このような米社会の荒廃と混乱は新自由主義の結果であり、新自由主義が資本主義再生のプランであった時代は終わったということだろう
 バイデン政権は、当面内政に集中せざるを得ないが、どこまで修復できるか、その見通しは暗い。

2)経済的に見ると
バイデン政権は内政に集中せざるをえない、
しかし格差、貧困問題の解決は極めて困難だ


①10年10兆ドルの歳出計画

 コロナ危機で全米の失業率は6.7%=1,070万人の失業者を抱えている。とりわけ低所得者層への打撃が深刻だ。財務長官には、イエレン前FRB(米連邦準備理事会)議長を指名した。イエレンは、大量失業と所得格差に立ち向かうと語った。

 バイデン政権は10年で10兆ドルの歳出計画によって、「社会の荒廃に対処し格差拡大を是正をする」と表明している。 問題は果たして実行できるか?だ。 議会での予算案承認がまず関門となるが、その先にも大きな困難がある。

 10兆ドルの内訳は、以下の通りだ。
 ・環境インフラ整備に4年で2兆ドル支出する。
 ・公立大学の一部を無償化する。多くの学生は学費をローンで借り支払っており、卒業時に5~15万ドル程度の借金を抱える。格差や階級を固定することになっており、若者の不満が非常に大きい。
 ・育児・介護へは、10年で7,750億ドル支出する。 

 バイデン政権は、10兆ドルで「1,860万人分の雇用創出効果がある」と宣伝している。

 財源をどうするか?――バイデンによれば、富裕層への増税で10年で4.3兆ドル確保するとしている。
 その構想は、
 ・連邦法人税を21%から28%へあげる。
 ・巨大IT企業(GAFAM)の税逃れを終わらせる、最低でも純利益の15%を納税(=「ミニマム税」)させる。
 ・富裕層増税――年収100万ドル以上の高所得者に、株式譲渡益税を20%から39.6%に引き上げるなどとしている。(以上、1月27日、日本経済新聞)
 このような増税の実現は簡単には実現しない。議会で承認されなければならず、議員数の構成からして実現は容易ではない。

② 本当の困難

 でも本当の困難はその先にある。仮に実現したとしても増税規模は10年で4兆3,000億ドルであり、10兆ドル支出の財政政策には足らない。単純計算すれば、債務はこの先10年で、最低でも5.6兆ドルも悪化する。一層の財政赤字は避けられない。
 これとは別に、コロナ感染対策、ワクチン接種費用、雇用対策費などを別途支出しなければならず、その分財政赤字は増大する。

 バイデン政権とっては米国債発行によって不足する財源を賄うしかない。すでに米連邦政府の債務残高は増え続け、現在のところ27兆ドルで過去最大に達している(過去10年で2倍に膨らみGDP比は130%に達した。1930年の大恐慌時の2.5倍の水準となっている)。この債務がさらに急増するということなのだ。
 
 2020年の利払い負担は、年3,380億ドル(約35兆円)とされる。一時0.5%まで下がった長期金利は、現在1.1%まで上昇中だ。景気期待の財政政策と債務増大懸念で、金利には上昇圧力がかかっている。金利が上がれば利払い負担が増大してしまう。

 債務の大きさから、米政府、FRBはさらなる金利上昇は絶対に避けなければならない状況に置かれている。

 米議会予算局(CBO)の試算によると、米経済が今後、2%弱の潜在成長率であると仮定すると、連邦債務は30年には少なくとも33兆ドル(GDP比150%)にまで増える。これは「控えめな予測」だ。

 他方、米政府の財政政策の効果は、20年12月に決めた9,000億ドルの対策の実際の景気押上げ効果は、6,600億ドルにとどまった(米調査機関調べによる)という。

 要するに米経済が2%の成長率だと、将来的には債務は拡大してしまうということだ。債務が拡大しないためには2%をはるかに超えるより高い成長を達成しなければならないのだが、あらゆる予測は2%程度の潜在成長率であり、歳出規模ほどにはGDPは伸びないと試算している。
 現時点においても米国内の資金の大半は、短期投資(株式や債券)に流れており、産業構造を転換し高成長を実現するエネルギー転換、ESG投資、インフラ投資などには向かっていない。

 米財政は、コロナ対策費、社会保障費の増大で慢性的な赤字体質は避けられない、しかも財政出動が持続的成長につながりそうにない。軍産複合体は年80兆円の軍事費の縮小には同意しない。これらのことは、バイデン政権とそのあとに続く政権が、10年で10兆ドルの財政政策を続けることさえ困難であることを予測させる。

③ 低成長では米経済は転落する

 これまで30~40年、米経済は財政赤字と貿易収支が大幅赤字(双子の赤字)でも、グローバリゼイションで世界経済が拡大し日欧や中国、新興国の政府、民間企業が外貨準備や金融機関の安全資産として国際通貨である米ドル、米国債を買い、資金は米国に還流してきた。その還流してきた資金が米国内や米国を通じて世界へ投資されていくという循環が成立し、米経済を成長させてきたし、長期金利を低い水準にとどめてきた。

 問題は、コロナ危機とバイデノミクスがこの先、米経済の低成長しかもたらさなければ、この微妙な市場バランス、資金循環を崩し、米国にファイナンスされない事態が生まれかねないことだ。巨額債務を持続可能にしてきた低金利環境を転換させかねないことだ。

 米中覇権争いは、決着がつくまでまだまだ期間を要するだろうが、ハイテク開発競争や軍事力によってではなく、米経済の転落によって決着がつく可能性も出てきたということを心配しなければならなくなった。

 したがって、バイデン政権の格差を是正し、社会の荒廃に対処する政策は、そう簡単にはうまく行かない。おそらく早晩、続けられない局面となる可能性が高い。






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中国政府によるアント・グループ統制の真相とそこからくみ取るべき教訓 [世界の動き]

中国政府によるアント・グループ統制の真相と
そこからくみ取るべき教訓


1)中国政府によるアント・グループ統制の意味

 中国の電子取引大手アリババの金融会社アント・グループに対する中国当局の規制強化が一気に加速している。

 アント・グループは、スマホ決済サービス「アリペイ」の機能を拡大し、支払い手段から、貸出、預金、資産運用、保険などの広範囲の金融サービスへと急速に拡大しており、いわば「金融帝国」を確立しつつあった。

 大きな武器となったのが、買い物履歴情報などを含む個人データの収集と分析により、個人の信用リスクを想定し、個人への融資、いわば「消費者金融」を最大の収益部門へと押し上げていったことだ。

 ただし、アント・グループの融資は融資市場全体の1~10%程度で、それ以外は他の金融機関との協調融資としているものの、他の金融機関にもアント・グループのAIによる「信用リスク計画システム」を使用させ、金利収入の15%前後に当たる高い手数料を得ている。そのことによって、この事業はアント・グループはリスクを負うことなく、利益を上げるビジネスモデルとなっているのである。(以上、1月23日日本経済新聞より)

 「信用リスク計画システム」は、アリババのEコマースの支払い「アリペイ」によってえた膨大な個人情報をベースにAIも導入しつくりあげられており、誰も真似できない。

 この急拡大しているアント・グループがリードする融資事業は、その規模からして、いつのまにか従来の銀行の役割を奪いかねない動きを見せているのだ。

 すでに、既存の金融機関のシェアを奪って莫大な利益を得ている。しかもその規模は、膨大になりかつ独占的となりつつある。銀行法などの規制にしたがって業務を行っている既存の銀行・金融機関は競争上極めて不利となり、アリペイの傘下に入ることになってしまう。このままでは「アリペイ」が銀行市場、融資市場をも支配しかねない可能性が生まれてきているのである。政府にとってももはや看過できない脅威となってしまったのだ。

2)20年11月、突然の上場延期

 21年1月初め、「アント・グループ」は、中国当局の求めに応じて「金融持ち株会社の設立を検討」すると報じられた。そのことは、同社が銀行と同じ規制を受け入れて当局の軍門に下ることを意味する。

 「アント・グループ」は、「金融業務から撤退する」か、「当局の強い規制を受け入れて生き残る」かの選択を迫られ、後者の道を選んだということになる。

3)これは決して中国だけの問題ではない

 米フェイスブックの子会社ディエム(旧リブラ)も、個人データの収集・分析を生かして金融分野への参入を目指しており、「アント・グループ」と同じような動きを見せている。Eコマースが拡大する限り、アメリカをはじめ、各国で同じ事態、条件が生まれている。

 先進国政府は、中国のように「できない」のか、それとも「やらない」のか、どちらだろうか?

 先進国は民主主義であって、中国のような強権政府ではないので、中国政府がやったように統制はしないということなのだろうか?

4)GAFAMに富が集中する

 コロナ危機により他の産業が減収や赤字となっているにもかかわらず、米IT大手5社GAFAMは巨大な利益を上げている。社会の生み出した富がGAFAMに集中している、吸い上げられているというのがより正確だ。コロナ禍で、格差拡大がいっそう進んでいるのだが、これまでとは質的に違った格差拡大の仕方をしている。

 GAFAMの事業は、「アント・グループ」のような融資事業が中心ではないから、今回の事件とまったく同じように論じることはできない。

 ただ、IT大手はすでに十分大きくなりすぎた。その一方で、本社を税金の低い国に置くなどして、税金をほとんどい払っていない。IT大手に富は集中するのに、税金として国家・政府に捕捉されないので、人々に再分配されない。現代において格差が拡大している道筋の一つでもある。

 IT大手の専横を防ぐ「力」は、もはや政府・国家にしかない。

 EU各国で検討されてきた「デジタル税」に米トランプ政権は反対してきた。IT大手に対するデジタル税が構想されて何年かすでに過ぎたが、各国政府の足並みはいまだにそろわず、なかなか実現しない。そのあいだにIT大手は大きくなるばかりだし、コロナ危機でさらに大きくなっている。

 IT大手が国家権力に影響力を持ったら、いずれ「専横」を防ぐことができなくなる。そのことは、富がほんの少数者にさらに集中し、他方、貧困がいっそう広範囲に広がる、すなわち荒廃した社会となってしまうのではないか、そういう懸念が広がる。

 今回の中国政府による「アント・グループ」への規制をとらえ、強権国家・中国を非難する声もあるようだが、それよりも重要な問題である、巨大になりすぎたIT大手に対する対応の仕方の一つを教えてくれている、と考えることが重要ではないか。
 そのような問題提起とみるべきである。

 国家や政府しか巨大IT企業を統制できないのはほぼ明らかだ。
 膨大な利益を社会から吸い上げる巨大IT企業から、政府が確実に税金をとり、国民に再分配するしか方法はない。
 ただ、そこで大きな問題となるのは、「国家や政府が誰の国家や政府であるか?」である。
 最終的に問題となる、最も「悩ましい問題」というべきかもしれない。

****************************


米IT大手の2020年10~12月期業績
                      (21年2月4日、日本経済新聞)
            売上高  増加率   純利益   増加率 
1)アップル   : 1,114.39億㌦ 21%   287.55億㌦  29%
2)マイクロソフト:   430.76億㌦ 17%   154.63億㌦  33%
3)アルファベット:   568.98億㌦ 23%   152.27億㌦  43%
4)フェイスブック:   280.72億㌦ 33%   112.19億㌦  53%
5)アマゾン   : 1,255.55億㌦ 44%    72.22億㌦  2.2倍
 
 大手5社全社が、売上高、純利益とも過去最高を更新した。















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桐野夏生 『日没』を読む [読んだ本の感想]

 桐野夏生 『日没』を読む 
2020年9月29日発行、岩波書店


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<桐野夏生『日没』>

 この小説は、2017年に、雑誌『世界』に連載されていて、その頃一部を読んだことがある。単行本で、昨秋出版された。

1)桐野夏生 『日没』とは?

 作家である主人公マッツ夢井は、ある日、「総務省・文化文芸倫理向上委員会」(以下、ブンリン)から「召喚状」が届き、出頭するように指示された。疑問に思いながらも出かけると、海沿いの療養所へ連れていかれる。「作品がエロ小説ばかりで傾向がよくないから研修して更生してもらう」と言い渡される。療養所とは名ばかりで、実質は収容所であった。逃げ出せないし、収容に抗議すると「減点」が加算され収容期間が延びる。反抗的な態度をとれば、「減点」が加算されるだけでなく、拘束衣を着けられ、地下の部屋に閉じ込められ、薬漬けにされる。療養所は軍隊的な組織であり、所長-医師-職員-患者という明確なヒエラルキーがあり、患者は最も身分が低い。

 ほかにも患者はいるが、話したり交流することはできない。スマホは通じない、外部とは遮断される。スマホがなければ孤立してしまうことを思い知らされる。何人かの患者は自殺しており、療養所は自殺を推奨しているかのようである。

2)小説のテーマ

 小説は、「表現の自由」が奪われ、違反者が海崖にある療養所という名の収容所で更生を強要される近未来の日本社会を描き、警鐘を鳴らしているようである。
 同時に、現代人の不安を描いている。人と人とのリアルな関係やつながりが希薄になり、ネット上の関係に置き換えられている現代人の孤立や不安を描き出そうとしている。この小説のテーマであろう。

 作者による上記の試みは、極めて興味深く、かつ重要だと思う。
 小説で描かれている世界は、一見、実際にはありそうにない設定に見えるが、この小説を評価すべきかどうかの基準は、作者の設定の是非というより、描き出された内容が、現代日本人の孤独感、不安を、リアルに描き出しているかにある。

3)リアリティがあるか?

 作者の描出した世界に、リアリティがあるのかというところが評価すべき判断基準となる。その基準のもと、次の二つの点から、考えてみた。

3)-1:一つは、現代日本人、日本社会の描写として、リアリティがあるのかというところだ。

 登場人物は孤立している。主人公のマッツは、希薄な家族関係しか持っていない。母は介護施設におり、弟とはたまに電話するくらいで、主人公の苦悩を共有したり相談する関係にはない。

 編集者との関係も希薄だ。「ブンリン」からの呼び出しについて訊ねようと担当の編集者に電話してみたが、休日だったこともあって面倒くさそうな対応が電話でもわかったので、それっきりにした。

 仲間の作家である成田麟一にも聞いてみたが、そんなの無視しておけばいいと言われ、本気で対応してくれなかった。

 主人公は、すでに「希薄な」人間関係しか持っていない。でも、これって、現代日本人にとってむしろ一般的ではないか。最近の日本社会の姿そのものである。

 現代社会の人間関係は、ネットでのつながりで世界中のより多くの人と関係を持ち情報を交換できるようにはなったが、一方でこれまでの家族や地域、市民団体などのリアルな関係から一部が置き換えられており、世界は広がったようなのに孤立・不安が広がるという複雑で矛盾した過程を辿っている。ネットでの関係は希薄であり、ネット中傷やフェイクニュースによって、一挙に孤立しかねない。 

 そのようなところはよく表現されている。
 作者・桐野夏生はなかなかの書き手であって、描写にしてもスリルのある展開にしても、読者をひきつける。その力量はたいしたものだ。

 療養所内の描写は興味深い。周りの人物はすべて信用できないなかでの主人公の孤立した奮闘が主に描かれる。ただ、療養所内の疑心暗鬼、不信や裏切りへと集束してしまうのは気になるところだ。

 療養所内の散歩道で会話を交わし唯一信頼を寄せていた患者A45は、のちに療養所からの逃亡を助けた元作家仲間の成田麟一から、ブンリンの職員で「草」だと知らされる。

 療養所内の職員である「おち」と「三上春」、成田麟一が逃亡を手助けしてくれるが、逃亡させるためではなく、どうも自殺させるためだったことが最後にわかる。療養所所長や医師に服従しないまま自殺し、プライドを保つのを助けたらしい。彼らからも最終的には裏切られたことになる。療養所では、被収容者の自殺を推奨しているということもある。

 叙述はおもしろくて読ませるのだが、作者の興味が療養所内の「誰も信用できない関係の描写」に転化してしまったようで、現代日本人の孤独感や不安の描出というテーマから少し離れてしまう。

 主人公が逃亡の途中、成田麟一から自殺を強要されるところで、突然、小説はプツンと終わる。袋小路に入り、突然終わった印象を強く持った。この点は不満に思う。

3)-2:リアリティの二つ目は、療養所の実情の描写にある。

 桐野夏生の描いている療養所は、日本の精神病院の実情とよく似ている。
 日本の精神医療は欧米より遅れており、例えば、拘束衣の着用、幽閉・独房隔離、抗うつ薬などでおとなしくさせることなどが、今でも残っている。また、院長-医師-看護師-患者の関係には、軍隊のような確固たるヒエラルキーが残存しており、患者は最も身分が低い。

 また日本の精神病院では、他の病院に比べ、入院患者数に対し医師数は3分の1、看護師数は3分の2でいいとされ、入院患者を多く長期に抱え、「空きベッド」を出さないようにすれば儲かるように制度設計されている。そのことをとらえ、かつて武見太郎・元医師会会長が、「精神医療は牧畜業者だ」(1970年)と呼んだことがある。
 おそらく桐野夏生は、こういった実情も取材して、描写のうちに取り入れているのだろう。 
 企業社会のなかでふるい落とされ、格差社会の底辺に追い込まれ、一方で孤立化が進む現代日本社会では、うつ病、自律神経失調症となる人は増えており、療養所に隔離し隠すのは、近未来というより現代日本社会の一つの特質でもある。

 こんな問題も示唆しているのではないかと、勝手に受け取った。

4)問題を提起している小説

 この小説は、文芸書の割によく売れていること、図書館での貸出予約待ちの人が多いことから、比較的読まれているらしい。現代日本人の実感と合うところもあるのかと思う。上記の通り、一部に不満はあるが、問題を提起している小説である。一読を薦める。




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ドゥテルテは、労働組合員の殺害をやめよ! [フィリピンで政治的暗殺が横行]

ドゥテルテは、労働組合員の殺害をやめよ!
反テロリズム法を廃止せよ!


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<フィリピンでの抗議行動>

 フィリピンでは、「赤札リスト」と呼ばれる「政府に忠実ではないとみなされる個人や団体」のリストが存在する。このリストに挙げられた個人・団体への、政府、軍、警察による嫌がらせや、脅迫、殺害が続いている。フィリピンのこの状況に対し、グローバル・ユニオン評議会(CGU)は11月30日、「フィリピンのための世界行動デー」を呼びかけた。この日、各国のフィリピン大使館への抗議行動が行われ、ドゥテルテ大統領に労働組合員の弾圧と殺害の中止を求めた。以下に、国際金属労協の声明を紹介する。

**********************


国際金属労協 声明
 2020年12月16日
ドゥテルテ大統領に労働組合員の弾圧・殺害の中止を要求

 グローバル・ユニオン評議会(CGU)は、フィリピン政府が労働組合員に対する脅迫をやめること、裁判なしの殺害をやめること、さらには「反テロリズム法」の廃止を要求する。「反テロ法」は、「労働者の安全と権利を、さらに抑制する法律であり、即刻廃止すべきである」と、フィリピンの労働組合指導者たちは要求している。

 しかし、フィリピン政府の対応は少しも改まっていない。2020年12月10日に治安部隊が労働組合活動家6人とジャーナリスト1人を逮捕した。

 かつて19年12月10日の「国際人権デー」に世界中の労働組合が初めて行動を起こし、フィリピン政府に「赤札リストアップ」と労働運動家・人権問題活動家の裁判なしの殺害をやめるよう要求した。

 だが、少しもおさまらないし、いまだ続いている。民主主義と人権擁護を要求する労働組合員、人権活動家、議員・弁護士などは、「共産党員」と決めつけられ、最近では殺害され人々は、後から「新人民軍のメンバーだった」とされる。軍や警察による、裁判なし、法を無視した殺人が横行している。

 フィリピンの労働組合も政府に要求している。インダストリオールに加盟する労働組合組織がケソン市のフィリピン大学での大集会に参加した。フィリピン労働長官宛に手紙を書き、「大統領府が介入してハイレベル政労使ミッションを受け入れさせる」ように要請している。

 フィリピン金属労働者同盟(MWAP)スポークスパーソンのメアリー・アン・カスティーリョは、「我が国で広く労働組合が弾圧されていることを非難する。ネクスペリアの傘下組合も、ラグナ州で赤札リストとテロリスト指定の標的にされた。労働組合運動は犯罪ではなく、労働者の組合加入権を保護しなければならない」と語った。

 フィリピン金属労働者同盟(PMA)のナルシソ・ロザーノとジョセフ・ボーの両副会長は、「反テロ法は、労働者の団結権、および家族を養い自分たちの安全と雇用を守る労働者の権利を、さらに抑制する法律である。廃止しなければならない」と述べた。

 オーストラリア製造労組(AMWU)のアンドリュー・デットマー委員長は、「他の労働組合と連携しながら、シドニー、キャンベラ、パースのフィリピン大使館・領事館に対して、抗議行動を行っている。弾圧と闘うためにフィリピンの労働組合員と連帯する」と語った。

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<11月30日、オーストラリア・シドニーでの連帯行動>

 ヴァルター・サンチェス・インダストリオール・グローバルユニオン書記長は、「反テロリズム法は労働組合員や活動家の迫害に利用されている。フィリピン政府による労働組合員の弾圧・殺害を終わらせるために、フィリピンとの特恵貿易協定を見直しするように、各国政府に圧力をかけなければならない」と述べている。

 カンボジア、インドネシア、日本、韓国、マレーシアのインダストリオール加盟組織も、「フィリピンのための世界行動デー」に関するソーシャルメディア・キャンペーンに加わった。
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<日本の労働組合も連帯>

 グローバル・ユニオン評議会(CGU)は、フィリピン政府の弾圧・殺害行動を非難する。逮捕者の即時釈放とすべての起訴の取り下げを要求する。「労働組合活動家が犯罪者扱いされ、不法に逮捕・拘留されている。これによって政府は、労働組合や団体への労働者の組織化を阻止し、労働者の活動を保障する思想や表現の自由を奪おうとしている。弾圧の強化は、まさに国民の間で政府への異議や組織的行動を押さえ込むことを目的としている。恐怖心を植え付けて人々を黙らせる手段としての活動家・権利擁護者の殺害は、まだ終わっていない」と述べている。

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<フィリピンでの抗議行動>


                               
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コロナ禍の人権侵害を許さない ― フィリピンのバナナ労働者の支援を!- [フィリピンの政治経済状況]

コロナ禍の人権侵害を許さない
― フィリピンのバナナ労働者の支援を!-


 フィリピン・ミンダナオ島の「スミフル(旧:住商フルーツ)」バナナ農園と集荷施設の労働組合と組合員に対する暴力行為や不当解雇が起きて2年を経過しているが、未だに解決していない。会社側からだけでなく、コロナ禍を「理由」に警察や軍から、さらに過酷な弾圧、組合潰しが続いていて、現地の労働者たちは困難な闘いを強いられている。

 PARC、エシカルバナナ・キャンペーン実行委員会、FoE(国際環境NGO)が支援活動を呼びかけている。

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<道の両脇に広がるバナナプランテーション(2018年12月撮影、FoE Japan)>

1)労働組合結成と弾圧のこれまでの経緯
 2018年10月1日、日本仕向けの輸出を行なうバナナブランド「スミフル(旧:住商フルーツ)」を取り扱うミンダナオ島コンポステラ・バレー州にある農園と集荷施設の労働者は、労働組合「ナマスファ」を結成し不当な労働環境の改善を訴えて、組合員749名がストライキに入った。ストライキ開始後に、会社だけでなく軍や警察も加わった暴力的なスト破りにあい、29名の組合員が負傷したばかりではなく、組合員は会社側から10月中に一斉に解雇された。

 18年10月31日には、組合員ダニー・ボーイ・バウティスタさんが何者かに射殺される事件が起きた。また、同じ頃、ストライキに参加した労働者3名が、銃を構えた正体不明の男らに追いかけられ、発砲される事件が発生した。

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<ダニー・ボーイさんの射殺に対する正義を求める組合員(2018年12月、FoE Japan撮影)>

 11月には組合代表の自宅が放火され、現場付近からは銃弾の薬きょうも発見されている。住民らの消火活動によって消し止められたものの、翌12月再び、組合事務所と組合代表宅が合わせて放火され、全焼した。
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<労働組合ナマスファの代表宅焼け跡(2018年12月、FoE Japan撮影>

 この一連の事件が労働運動に対する悪質な弾圧行為であることは明らかだ。日本に輸出されるバナナのために、不当な労働環境にさらされた労働者たちは、労働組合を組織し労働環境の改善を会社に求めたのだが、解雇され、なおかつ暴力で脅される事態となり、その弾圧はいまも続いている。

 この事件に対し、18年10月から、日本でPARC、エシカルバナナ・キャンペーン実行委員会、国際環境NGOであるFoEが、「スミフル」の親会社である住友商事に抗議と事態の改善を求め申入れ行動を行った。すると住友商事は「スミフル」社をシンガポールの会社に売却してしまい、自身には何も責任はないという態度に出たのである。しかし、現在もなお、「スミフル」社からバナナを輸入し全国のスーパーに納入している。

 日本で売られているバナナのうち、フィリピン・バナナが8割以上を占め、そのなかでもスミフルからの輸入がもっとも多いのだ。ぜひ、スーパーで手に取って、確認してほしい。

 現地の労働者たちからの労働組合弾圧や労働環境の改善要求は、現地の労働当局がすでに労働者側の要求の正当性を認め、会社側の対応を不当行為と認定し、2019年7月には不当解雇された組合員の復職と団体交渉を再開せよと、行政指導も出している。しかし、会社側は従っていない。それどころか、行政指導が不当だ裁判に訴え、20年12月現在、裁判係争中である。会社は「時間稼ぎ」をし、その間に軍と警察の協力を得て労働組合を潰そうとしている。

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<スミフル本社(マニラ)までデモ行進する労働組合ナマスファ(19年1月、FoE Japan撮影)>

2)コロナ禍で弾圧が続き、労働組合は危機に瀕している

 20年春からのコロナ禍は、アルバイトをしながら闘ってきたスミフル労働者から、日雇業などの仕事を奪いとった。追い詰められた組合員に、会社側は「組合を辞め、復職願いを取り下げるのであれば、現金給付する」という条件を提示してきた。生活に困っている組合員のうち、約40名(20年6月)が和解に応じ、組合を去っていった。

 20年夏、労働組合と現地人権団体「ノノイ・リブラド開発ファウンデーション」は共同で、組合員への人権侵害の実態調査を行なった。その結果、複数の組合員がフィリピン国軍第66歩兵大隊から「組合活動は共産党の武装組織、新人民軍(NPA)のゲリラ活動である」と、恫喝を受け、組合活動をやめるよう圧力を受けたことが判明した。

3) コロナ規制を理由に弾圧

 軍や警察は、「労働組合を組織し労働環境改善を要求することが、新人民軍の活動だ」とみなし弾圧しているのが、現地の実態だ。フィリピンの地方では、特に軍や警察による露骨な弾圧が横行している。

 20年6月11日、労働組合「ナマスファ」の女性組合員8名が町長に呼ばれ町庁舎へ行ったところ、会議室には町長だけでなく武装したフィリピン国軍兵士2名、軍属と思われる私服の男性、バランガイ(最小行政単位)長、警察署長が待ち構えていた。組合員の生活支援、食糧配給のために組合員ら数名が集まったことが、コロナの「コミュニティ隔離要綱」に反するので書類送検すると警察署長から通告された。厳しい移動制限や、何人以上集まってはいけないという「コロナ規制」が、労働組合弾圧に利用されている。

 ミンダナオでは、軍、警察、町長、バランガイ長など村の有力者たちが一体となって、労働組合を敵視し、新人民軍の活動だと非難するのである。(18年にフィリピン政府は新人民軍をテロ組織だと指定している)。

 前述の通り、現地の労働当局はすでに会社側の不当行為を認め、19年7月には不当解雇された組合員の復職と団体交渉を再開せよと、行政指導も出しているのであって、不当なのは「スミフル」社であるにもかかわらず、軍・警察・町の有力者はスミフルを擁護し、労働者を弾圧するのだ。

4)軍が労働組合員を脅し、弾圧する!

 20年7月3日、女性組合員は国軍第66歩兵大隊の要求で、今度はバランガイ長に呼び出された。面談の場で歩兵大隊員から、「組合活動と新人民軍ゲリラ活動が同一視」し、「投降するように」圧力をかけられた。もちろん、組合活動には何の違法性もない。しかも、「投降」すれば「生活費を支援をする」と言われたほか、「投降しなければ毎日組合員の監視を続ける」、「外からの訪問者を受け入れるな!」と警告したという。軍が「生活費を支援する」はずはないので、スミフル社とつながっていることは明らかだ。

 それとは別に、3名の組合員が、国軍の兵とおぼしき男たちから、脅迫・監視・ハラスメント・威嚇行動を受けてきたと証言している。
 また、軍人による組合員の住居の捜索と脅迫があった。兵士らは、留守中の組合員の家に家人の許可なしに侵入し、捜索した。その時、スミフル社に対する訴えを取り下げることを住民に求めた。そのような出来事があってから、家族と音信不通になってしまった組合員もいる。
(以上、FoB Japanのホームページより転載)


  *********************

 このような命の危険のある弾圧のなかで労働組合員たちは、闘いを何とか継続している。ミンダナオの労働者たちが、自分たちの生活と権利のために上述のような困難のなかで闘っていることを、私たち日本人のほとんどは知らない。知らないで毎日バナナを食べている。

 やはり、少しでも知らなくてはならない。知ったうえで、ミンダナオのスミフル労働者たちとつながり、支援しなくてはならない。スミフル労働者への支援を!

 FoB Japanは、スミフル労働者への支援カンパを呼びかけている。ご協力を!
 連絡先・お問合せ:国際環境NGO FoE Japan 担当:波多江   Email: hatae@foejapan.org 







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比国防省はUPとの協定を破棄 [フィリピンの政治経済状況]

比国防省はUPとの協定を破棄
抗議の声が上がっている!


 20年1月15日、フィリピン国防省ロレンザナ長官は、警察や軍人が大学内に立ち入る前に事前の通知を必要とすると規定した、フィリピン大学との協定を破棄すると表明した。ロレンザナ国防長官は、「学生の一部がNPA に参加している」ことを理由に、軍が協定に縛られず、キャンパスに立ち入り捜索すると宣言したのだ。

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<キャンパスの軍事化に反対する!>

 フィリピンでは、多くの民主団体や個人が、この協定破棄通告を、「言論の自由、学問の自由の侵害だ、あるいは民主主義の破壊であり、強権政治を更に推し進めるものだ」と批判している。フィリピン大学だけでなく、他の大学も対象となること、さらには社会全体に広がることを危惧しているのだ。

 国防省がフィリピン大学との協定を破棄することは、今後国軍が、自由にフィリピン大学構内に入り、学生を取り締まるという宣言にほかならない。18年12月、ドゥテルテ政権は「新人民軍」をテロ組織に認定した。「テロ組織である「新人民軍」の弾圧のために、国軍は大学構内だろうがどこだろうが、出かけて行って捕まえる」というのだ。「新人民軍」とつながっているかどうかは、国軍が一方的に認定する。政権の都合のいいように、いか様にでも利用できる。軍、警察による強権政治を更に加速しかねないドゥテルテ政権である。極めて危険な動きだ。

 フィリピンのメディアでも批判が広がっているし、多くの民主団体、人権団体などが、反対の声明を出している。
 以下に、KILUSANの声明を紹介する。

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<ロレンツァーナ国防長官>

キャンパスの軍事化に抵抗し、抗議する権利を擁護する!
(UP-DNDアコードのKILUSAN声明)

 
フィリピン大学-国防省(UP-DND)合意」の廃止は、民主的な言論空間を破壊する最新の試みだ。ドゥテルテ政権に、異議を唱える人々権利を打ち砕こうとする「目的」は驚くほど明白だ。

 フィリピン国防省によるこの動きは、若者だけでなく、学問の自由の文脈であらゆる側面で、政権の方針に従わせる場にフィリピン大学、学術機関を変えようとすることを目的としている。すでに、フィリピン工科大学の「プルデンテ-ラモス合意」は、「フィリピン大学-国防省合意」と同じ運命をたどる危険にさらされている。

 「フィリピン大学-国防省合意」の破棄は、支配者の権限の乱用、言論の弾圧、そして強権政治へと変質するフィリピン支配層の変化につながる危険性が高く、私たちはそのことを危惧している。
 ドゥテルテ政権による権威主義的な支配の深化は、過去数ヶ月間の抗議運動の最前線に立ってきた若者や学生のための活動の自由を押しつぶすことを目的としている。

 若者は、「目覚めた」市民とともに、進行中の経済危機とコロナ・パンデミック、特に権力と特権の乱用の不適切な適用ゆえに、政府を追及している。そのような人々の行動を弾圧するものだ。ドゥテルテ政権は批判も示唆も歓迎しない。

 政府が実現しなければならないのは、人々の幸福であって、弾圧ではない。ドゥテルテ政権の振る舞いはこれに反する。「フィリピン大学-国防省合意」の破棄もその一つだ。

 学生も含めフィリピン人民、市民が、自身の生活と権利が擁護され、保障され、実現する政治的権利は確保されなくてはならない。

 我々は、沈黙しない。
 専制政治に立ち向かい、民主主義を守ろう!

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<キャンパスの軍事化阻止 集会>
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政府のコロナ対策無策で、日本社会は崩壊する! [現代日本の世相]

 政府のコロナ対策無策で、日本社会は崩壊する!

 20年、21年の日本政府のコロナ対策が「迷走」している。このままだと日本社会は崩壊する!
 日本政府の無策ぶり、無作為ぶりはあきれるばかりだ。長期的な見通しをもっていない、あるいは見通しを誤った。長期的な対策は何も準備していなかった。感染拡大に対する対策も準備もしていなかった。感染症対策特別措置法の国会論議を、感染者が急増した20年12月になって初めて始めるという「ていたらく」ぶりだ。泥縄(「泥棒を捕まえてから、縛るための縄をなう)という、ことわざ通りである。

 問題は、間違いを認めて修正できるかだが、できそうにない。
 21年1月に「緊急事態宣言」を発したが、「宣言」は「もっぱら国民が外出するな!」だけだ。2月7日までだが、到底、感染を抑えられそうにない。また、感染を抑え込むことができなかった場合の対策案は、果たして検討し準備しているのだろうか? それさえ明らかではない。おそらく何もないのではないか!

 20年2月にコロナ感染が始まり、すでに1年近く経過したが、これまで無策だった。ただ国民に「自粛を!」と叫んでいたばかりだったことが明らかになった。
 軍隊用語で言われるのだが、「(自軍に)馬鹿な大将を抱えていることほど恐ろしいことはない」(Literaより)、我々はまさにそのような事態のなかにいる。

1)世界にはコロナ対策に成功している国がある

 台湾・ベトナム・シンガポール、中国は市中感染をほぼゼロに抑え込んでいる。
 もともと、日本を含めた東アジアは、欧米、南米などに比べ、感染者の絶対数は少ない。その原因は不明だが、「交叉免疫」によるものではないかという指摘はある。かつて、おたふくかぜ、SARS、MARSなど熱帯夜亜熱帯地方に閉じ込められていた様々なウィルスが、開発などで開放され人に感染するように変異して生き残り、黒潮に乗って東アジアに伝搬してきた歴史があり、この伝搬してきたウィルスに対応し形成されてきた「免疫」が影響しているのではないか、という。いずれ時が経てば、その理由は明らかになるだろう。

 東アジア諸国でも、インドネシア、フィリピン、日本など多くの感染者を出している国々、地域もあるが、感染者の絶対数、感染率は、欧米などに比べまだ低いようである。

 成功した台湾・ベトナム・シンガポール・中国に共通するのは、東アジアであることに加えて、素早い一斉の検査、隔離の徹底、すなわち基本通りの感染症対策をとっていることだ。初期段階から、徹底してしかも素早く、クラスター発生の芽を摘んでいるところに共通点はある。その対応を、1月6日付の日本経済新聞が報じている。

台湾
 これまでの累計の感染者は、わずか56人。「水際対策」を厳密に実施し、成功した。海外からの入境者の2週間隔離を義務化している。

 スマホで行動履歴をオンタイム記録・表示するアプリを極めて効果的に利用した。隔離違反者は監視カメラでチェックする。違反すれば、最高100万台湾ドル(約370万円)の罰金を科す、新型コロナ特別条例を20年2月にすばやく制定した。20年12月に約8ケ月ぶりに感染者が1人でた。現在も監視態勢を継続している。

 台湾やシンガポールは、03年に流行したSARSの経験を生かしており、これまで感染症者の隔離施設・病棟を増やしてきた。

ベトナム:

 ベトナムも「水際対策」を徹底して厳格に実施し、成果を上げている。海外からの入境者の2週間隔離の義務化をしているのも同じ。

 加えて、市中感染が発生した場合、感染者の年齢や職業、居住地、直近の行動履歴などの個人情報を公表し、濃厚接触者をすぐに特定してきた。
 累計の感染者数は、約1,500人。

シンガポール:

 感染を抑えてきたが、一時、外国人労働者の間で感染が爆発的に広がった。しかし、これを抑え込んだ。最近は、市中感染がゼロの日が多い。

 その理由は、徹底した検査と濃厚接触者の追跡だ。人口570万人の同国で、累計のPCR検査数は540万回に及ぶ。専用寮に住む外国人労働者には、今でも2週間に1回の検査を義務付けている。大量のPCR検査を素早く実施し、感染者を見つけ出し隔離する点は同じだ。

 感染経路を追跡するスマホのアプリは、8割の普及率だという。


 これまで比較的感染が抑えてきたタイでは、20年12月にバンコク近郊の水産物市場で1,000人を超える集団感染が起きた。1月5日の時点の累計感染者数は約9,000人で、この2週間で倍増した。集団感染者の大半は、水産物市場で働くミャンマー人だったとされている。

 タイ政府の採る対策とその結果によって、どのような有効か、失敗する対策は何かが、一層明らかになるだろう。各国が注目している。

2)台湾・ベトナム・シンガポール・中国はどのようにして抑え込んでいるか?

 台湾・ベトナムは、徹底した水際作戦、初期対策によって、そもそもコロナ感染者を国内に入れていない。感染者がそもそも極めて少ないので、比較的容易に感染を抑え込むことができている。

 これに対し、シンガポール、中国は、いったん大量の感染者を出したものの、その後の「基本通りの感染症対策--素早く検査し、隔離し、治療する」によって抑え込んだ。感染が広がった後、抑え込んだ経験・対策は、極めて貴重である。

3)中国の感染症対策

 中国では、コロナ感染に対して、感染者の検査、隔離・治療、感染ルートの追究を徹底的に行っている。武漢でコロナ感染が明らかになった時、武漢市を封鎖し、2週間で900万人のPCR検査を実施し、1,000床の病院を数カ所、1週間で建設し、5.3万人の医療従事者(医師・看護師など)を他の地域から送り込んだ。

 この素早い、徹底した対策が特徴であり、効果を上げたことがわかる。

 20年夏、北京で生鮮卸市場を中心に368人の感染者が出た。その時も市場に近い地域を封鎖し、1週間で30万人のPCR検査を実施し、感染者の発見、隔離・治療を行った。スマホ・アプリで感染者の追跡も行っている。北京市内では買い物で店に入る際も、タクシーに乗る際も、地下鉄に乗る際も、スマホで自分の「健康コード」を読み取らせなければならない。感染者が出た場合、追跡を可能にするためだ。北京ではこの1ヵ月に数百万回にのぼるPCR検査を実施し44人の陽性者を確認した。(以上、1月19日、日経)

 21年1月、河北省石家荘市(人口1,100万人、北京の南)で、累計1,000人以上の感染者が出たが、当局は1月6日からの石家荘市を封鎖し、一斉に全市民対象にPCR検査を実施するとともに、1週間で4,000床を超える「感染者入院病棟」を建設した。石家荘市の感染を抑え込めたかどうかはまだ結果は出ていないが、効果を上げつつあるようである。

 中国政府に対策は一貫している。「素早く検査し、隔離し、治療する」という基本通りの感染症対策を実施している。方針は明確であり、実行する「司令塔」も存在し権限も与えられており、対策のための人員、予算は準備されている。どこかの国の政府のように「責任を持った司令塔不在で、小田原評定を繰り返すばかり」ではない。

 その結果、中国のコロナ対策は成功している。そのことは中国が経済活動を再開しているという別の面からも、証明されている。20年は、主要国すべてがマイナス成長だったが、唯一中国だけは2.3%成長を遂げた。21年は8%前後の成長すると予測されている。

4)日本政府はまともな感染対策を採っていない

 感染対策の基本は、上述の通り、「素早く検査し、隔離し、治療する」。これを実行したかどうかで、各国の感染対策を評価すればいいだけだ。

 感染拡大に悩む日本は、対策に成功した4カ国のうち、特にシンガポール、中国が成功した感染対策を、日本の実情にあわせて採り入れるのが、当然のとるべき対応である。「真似」をすればいいのだから、まったく経験のないところから対策するのに比べはるかに容易なはずだ。

 しかし、日本政府は、その真似すればいい対策を採用しなかったし、未だにしていない。

 各国では徹底したPCR検査が行われているが、日本はいまだに圧倒的に検査件数が少ない。1年の間に検査体制を拡充するチャンスはいくらでもあったが、今になっても「検査体制の拡充の必要性」についても、「拡充方法」についても、政府内の専門家の間でコンセンサスが得られておらず、拡充がすすまない。

 さらに大きな問題は医療体制の整備だ。コロナ感染者数は米国の70分の1程度である。日本は人口当たりの病床数が世界一だと、当初自慢していた。しかし、すでに医療体制が逼迫し、一部地域で医療崩壊し、21年1月には死者が急増した。

 厚生労働省をはじめ政府の医療専門家は、医療体制の現状を当然認識していたはずである。体制強化のために、なぜ手がうたれてこなかったのか。コロナ対策の司令塔である厚生労働省とコロナ対策アドバイザーリーボードは、何をしてきたのか。

 ここで想起されるのは、中国政府が武漢でコロナ患者専用の1,000床のプレハブ病院を、2棟、3棟を、1週間で建設したことだ。21年1月には河北省・石家荘市で4,000床以上の病院を1週間で建設した。

 なぜ事前に、専用病棟を建設し、より効率的に隔離と治療をしなかったのか?

 無為無策としか言いようがない。日本政府のコロナ対策とは、政府は何もしないで、一方的に国民に自粛を要請するだけだ。「マスクし、距離を採り、密を避け、できるだけ外出しないように要請する」だけだ。それも必要だが、政府としての感染対策が欠けている。

 そもそも「水際作戦」がきわめて「ずさん」で失敗した。そのため、容易に国内に入り込み広がった。ただ、こういう場合、いくつかの失敗が不可避なのは、理解できる。重要なのは、失敗を認め、厳重な対策にすぐさま転換することだ。水際作戦が失敗したなら、その教訓をくみ取り次に対処しなければならない。それをしなかった。

 「水際作戦」失敗のあと、感染の広がった地域を封鎖し、素早く対象となる全員にPCR検査を実施し、感染者を見つけ出し隔離しなければならなかった。これをしなかった。

 それどころかPCR検査については、厚生労働省、専門家会議(のちに分科会)は「大量に素早く実施しない」立場をとったし、現在でもその立場をとり続けている。

 また、感染状態には、段階がある。日本ではすでに感染は広範に広がっており、クラスター対策だけではすでに感染者を追いきれなくなっている。感染者のひろがりに応じた対策が必要だが、政府に対策はない。

 感染者はそのひろがりによって、例えば、
 ①少人数の「点」で発生している場合
 ②「線」で発生している場合
 ③「面」で発生している場合
 の3段階に分けてとらえことができる。その段階に応じて対策内容、態勢、準備、動員する人員・予算規模が異なるし、本来ならばそれぞれに対応する対策案が準備されていなければならない。

 「クラスター対策」は、「①「点」で発生している場合」、すなわち感染者が少数の場合の対応である。今では、感染経路不明者が50%を超え、しかも1日当たり、数千人の新規感染者が出るような事態となっており、「クラスター対策」では感染者を追いきれなくなっている。「追いきれない」ので21年1月になって政府は「クラスター対策」の縮小を決めた。他の対策に転換、代替えするのではなく、ただ縮小した。

 これまでの「クラスター対策」の実施状況、規模・人数、感染者の捕捉数・捕捉率、・・・などの結果は、一切報告されていない。対策としてどれくらい有効だったのか、投入する人員・予算などの資源量から、上げた成果は適切なのか、という評価もされていない。効果に関するデータは公表されていない。国民は、何が足りないのか、どういう対策が必要なのか、という判断ができない。

 日本政府は、感染状況に見合った対策・態勢(予算・人員、その他)をあらかじめ準備してこなかった。2020年1月に発生が確認されてから、10カ月以上の期間があったにもかかわらず、その期間を無駄に浪費した。

 20年12月に感染者急増を前にして、日本政府はただ、慌てふためいでいる状態だ。12月になってやっと感染症対策特措法の改訂へ動き出し、緊急事態宣言を発した。

 「緊急事態宣言」を実施して、感染が減らなければどうするのだろう。「更なる対策」についての情報は何も公開されていない。政府は、何の準備もしていないのではないか。感染対策には、感染状態・規模を想定し事前に、A案、B案、C案などの対策案に準備しておかなくてはならないが、そのような動きはない。日本政府はこれまで何も準備していなかった、現在もなお、準備していないのではないか。

5)感染対策が感染対策になっていない
--「無症状感染者」を捕捉しない!


 現在では、感染者のうち、無症状の感染者が大量に生まれている。ラグビーチームで感染が判明し、日本選手権が延期になった。バドミントンの桃田選手の感染が判明し、チーム全員の海外遠征が中止になった。相撲部屋でも発生し何人かが休場している。注目すべきは、そのほとんどは「無症状」だったことだ。無症状者は、本人が感染に気づいていない。だから、自発的にPCR検査にいかない。保健所に電話しても無症状者は検査はしない制度になっている。上記のスポーツ選手が陽性者と判明したのは、熱が出たからではない。日本選手権前に、海外遠征前に、相撲場所前に、PCR検査を実施したからだ。たまたま見つかったに過ぎない。

 全感染者のなかの「無症状」感染者の割合は、約20%前後であると推定されており、上記の通り、無症状感染者がウィルスをまき散らしている現状がある。すでに「無症状感染者」は日本社会に大量に存在し、日常的に非感染者と交わり、感染を広げているのは、明らかだ。しかし、政府には、無症状感染者を捕捉する対策は何もとっていない。これをザル、または無策と呼ぶ。

 無症状感染者を見逃し、感染者を徹底的に発見し隔離治療しない日本の感染対策では、この先もコロナ感染をなくすことはできないし、一挙に減らすことなど不可能だ。
 「無症状感染者」に対する政府の無策にはあきれるばかりだ。


6)日本には、科学ジャーナリズムが存在しない!

 問題なのは、日本政府ばかりではない。政府の無策を徹底して検証し批判する役割をメディアは果たしていない。今回の事態でわれわれが思い知らされた事の一つは、日本にはすでに科学ジャーナリズムが存在しないということだ。

 コロナについての情報は、きちんと公開されていない。
 日本に蔓延するウィルス・タイプは、どのような種類なのか? 変異型ウィルスは常に発生しているはずだが、その種類、割合さえ公表されていない。「RNAタイプの解析」(?)は、どこで誰がどの地域を対象に、いくつのサンプルで実施しているのか、その規模は適切なのか、その結果はどうなってるのか? 少しも明らかではない。情報は無為無策の政府に統制されている。日本にすでにいくつか存在するであろう変異型ウィルスに対して、ワクチンが果たして有効なのか? 誰がどのように調査しているのか?・・・すこしも明らかでない。 

 日本のジャーナリズムは、これら重要な問題、疑問を、決して追求しない。台湾、ベトナム、シンガポール、中国などでの感染対策の成功例も紹介しなければ、検討もしていない。「無症状感染者」之ひろがりについても問題を指摘しない。PCR検査態勢がいまだに拡充されないこと、コロナ専用病棟が不足していることについて、何をすべきかも指摘しない。 

7)どんな対策をとるべきなのか!

 例えば、シンガポールはどう対応したか? 感染者が発生した地域・宿舎に住む外国人労働者にたいする徹底したPCR検査を実施した。現在でもなお、感染者がいそうな地域、外国人労働者に対しては、感染者悲感染者にかかわらず、2週間ごとのPCR検査を実施し、感染者を徹底して見つけ出す対策を採り続けている。

 シンガポールのような感染対策(=PCR検査の一斉の大量実施)を、日本政府はなぜやらないのか? それをしなければ、感染者は漏れ出し、確実に地域・家庭に広がり、感染の根絶がより困難になることは、もはや誰の目にも明らかだ。根絶していない状態で「Go to トラベル」を発動すれば、すぐに感染者が激増することも、我々は経験から知っている。日本人と日本社会は大きな犠牲を払って、すでに学んだはずだ。

 それなのに、例えば、「東京の1日の感染者数が500人を切ったら、ステージⅢなので緊急事態宣言を解除できる、Go to Travelを再開できる」などと発言している。

 ほとんど、バカ者としか言いようがない。大変な努力を集中して感染者数を500人以下にしても、撲滅していないのだから、経済活動や「Go to Travel」を再開すれば、すぐさま感染者は急増し、ステージⅣ状態となり、医療を崩壊させてしまい、死者が急増することは、すでに明らかだ。

 コロナを抑え込んだシンガポールでは、必ずしも国民全体にPCR検査を実施しているのではない、感染者がこれまで大量に発生した、あるいはしそうな地域・人々・宿舎を狙い、集中的に実施しているのだ。対策は、状況に合わせて濃淡がある。感染対策、医療資源には当然のこと限りがあるから、有効に投入しなければならない。

 日本であれば、例えば20年7~8月頃、新宿区・歌舞伎町のホストクラブ、キャバクラなどで、大量の感染者が見つかったが、この地域を「封鎖」し店員・客を含め全員を対象にPCR検査を実施すべきであった。

 日本政府、東京都はこのような全員大量一斉のPCR検査の実施を決してしなかった。「法的根拠がない」と小田原評定に終始し、時間を無駄に使い、無策・無作為を通した。それどころか、「Go to Travel」、「Go to eat」で感染を拡大した。感染者の漏れ出しを引き起こし、他の地域への感染拡大をもたらした。

 早いうちに、感染者が少ないうちに、対策するのが効率的であり費用も少なくて済むるにもかかわらず、これをしなかった。そして、感染が拡大してから、どうしようと慌てふためいているばかり、というのが現在の状態だ。

8)医療崩壊、21年1月死者が急増した!

 テレビで医療崩壊を、連日報じている。
 コロナ感染しても、すでに感染者で病床が埋まり、入院するベッドも医療従事者も不足していて、これ以上の入院患者は受け入れられない状況になりつつある。21年1月に入って、急死する人が増えている。

 報じられている通りだろう。
 医療崩壊を防ぐためには、何としても感染者をこれ以上、増やさないようにしなければならない。

 こんな時に思い浮かべるのは、武漢で感染患者が増えた時、中国政府が1,000もの病床を持つプレハブ病院を、1週間で2棟、3棟と建設したことだ。後から聞いたが、この時同時に5万3千人の医師や看護師などの医療関係者を他の地域から武漢に派遣したと知った。20年2月、3月のことだ。21年1月には、石家荘市で4,000床以上のコロナ専用プレハブ病棟を1週間余りで建設した。

 日本でコロナ感染患者が出たのは20年2月だ。それから10ヵ月以上経っている。医療崩壊でベッドも医療関係者も不足しているという。例えば、中国のように1,000床ある病院を1週間とは言わないが短期間で建設できないものなのだろうか? 1,000床のコロナ専用病院であれば、医療関係者もより少人数で効率的に働くことができるだろう。十分な時間はあった。「病床が足りない」と、今頃騒いでいる。何と「先を見通せない」日本政府であることか!

 よく「中国は共産主義だからできた」と言う人があるが、中国のようにプレハブで隔離病棟・病院を建てることくらいは、「資本主義、自由主義の日本」にもできる。少なくとも「個人の自由」を侵害することにはなるまい。中国ができて、なぜ日本にできないのか? 費用は掛かるだろうが、すでに「雇用調整助成金」など莫大な予算を支出している。「Go to Travel」予算は1.3兆円確保している。感染対策に支出する予算の内容、中味が間違っているのではないか? 

 また、スマホのアプリを利用した「健康コード」の導入も少しもまったく進まない。個人の行動履歴を記録するので「個人情報の権利」を問題にしている。個人情報を利用させないようにシステムを工夫している台湾のアプリをもとに、さらに改善したものを検討すればいい。しかし、少しもそんな動きはない。

 日本は、コロナ対策において、現代文明に達していない。医療先進国とは言えない、コロナ対策「後進国」ではないか!

9)ワクチンに過大に期待できない

 今となっては、日本政府は、とにかくワクチンに期待するしかなくなっているようだ。
 ただ、ワクチンに過大に期待するのは、極めて危険だ。ワクチンによって、すぐさま感染を抑え込むことはできそうにない。

 いくつかの点で、疑問がある。

 効果の点で、そもそもワクチンの効果は完全ではないが、ファイザー製ワクチンは90%と報じられているのは喜ばしいことだ。

 副反応として、アレルギー反応が指摘されているが、重要なのはその発生割合だし、また副反応が発生した時の対処法の準備と効果の程度だ。アレルギー反応の割合が「小さい」としても、日本国民1億2,500万人に接種するのだから、事前に発生人数は予測できる。事の重大さの一端は、その発生人数でまず判断できるだろう。

 また、ワクチンを全国民に接種するため、どれくらいの期間がかかるのかだ。様々な試行錯誤をしながらになるだろうが、21年4月から国民の6割に接種すると10ヵ月はかかると言われている。

 それから、ウィルスは日々変異している。幾種類もの変異型ウィルスがすでに存在しているが、それぞれに対する効果はどうなっているのか? いずれワクチンが効かない変異型ウィルスが生まれることだって起こりうることも想定していなければならない。

 そして、最も重要なことはワクチンの効果は何ヵ月続くかという点だ。インフルエンザのワクチンは4ヵ月効果があるとされ、秋になると毎年接種している。コロナ・ワクチンの効果は、6ヵ月効果が続くという医療専門家の話をTVで聞いたことがある(詳細は不明)。

 集団免疫を実現するには、人口の6割以上に接種しなければならないとされるから、仮に効果が6ヵ月だすると、1ヵ月で1,200万人~1,500万人に接種したとして、半年で国民の6割から7割5分への接種が終わる。これを半年ごとに繰り返さなければならないことになる。(感染者数がどのようなペースで減少していくのか、詳しい数理計算は知らない)。これは、大変な事業だ。21年の接種費用は政府が負担する、国民は負担なしと報じられているが、仮に数年に渡るならば費用も随分とかかるだろう。ファイザー製のワクチンは、2回接種する必要があり、最初の接種から3ヵ月以内に2回目を接種しなければならない。おそらく、大量接種には向いていない。

 これらの困難から推定すると、ワクチンの効果が出るまでには、少なくとも「数年を要する」のではないか? ひょっとすれば、それ以上かかるかもしれない。そのあいだ、現在のような「ウィズ・ウィルス」の生活を続けなければならないのではないか。

10)1月14日のモーニングショー

 1月14日のモーニングショーで、コロナ対策提言したノーベル賞受賞者、大隅良典氏、大村智氏、本庶佑氏、山中伸弥氏の四氏のうち、大隅、本庶の二人がリモート出演し、「PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する」など提言した。

 提言は、下記の五項目。
 ①医療支援の拡充、コロナ専門病院設立
 ②PCR検査の大幅拡充、無症状者の隔離
 ③ワクチンの緊急承認
 ④ワクチンや治療薬の開発を推進する産学連携支援
 ⑤科学者の勧告を政策に反映させる長期的展望に立った制度の確立

 四氏の提言を聞いて、まさしく「その通り、適切な提言」である。賛成する。政府の感染対策がおかしいと考えるのが、むしろ「あたりまえ」であるし、四氏は提言で、政府の感染対策を批判し、感染対策の根本的な変更を求めている。「科学者の勧告が政策に採り入れられていない現状がある」という認識も示している。

 ネットを見ると提言に賛成の声が多いのだが、四氏に対する非難の声もある。「感染症専門でない老人がたわごとを言っている」という、まるで厚生労働省の回し者のような意見も多々ある。このことを知って改めてあきれたのだ。

 ネットの反応はともかく、重要なことは、日本政府が四氏の提言をまともに受け入れそうにないことだ。

 このようなことも含めて、日本政府は機能不全に陥っている。失敗と機能不全を認めず、感染対策の転換を実行できない。まるで、戦争中の日本の支配者と同じだ。

 間違いを犯しているのに、間違いを認めない、そのため正しい政策への変更や転換ができない。その結果、破滅まで突き進んでしまう。戦争を回避できずやめることもできず、敗戦と荒廃に突き進んだかつての日本の支配層と同じように、コロナ危機でも、どうも破滅まで突き進んでいきそうなのだ。
 政府の無策で、日本社会は崩壊する!

























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これからの世界はどうなるのか? [世界の動き]

これからの世界はどうなるのか?

 コロナ禍に襲われ解決できず、世界はある深淵を迎えている。年初にあたり、これからの世界はどうなるだろうかと、考えてみた。

1)米大統領選挙の結果から言えること

 20年の米大統領選挙は、いつも通り「大騒ぎ」になった。「大騒ぎして何も変わらない」というこれまでの歴史を繰り返すのだろうか?

 選挙の一つの性格を指摘しておきたい。20年の米大統領選挙に費やされた費用は、過去最高66億ドル(調査機関「責任ある政治センター」調べ)で、16年選挙の3倍近くにのぼった。バイデンが16億ドル、トランプが11億ドルの選挙資金を集めた。1人200ドル未満の小口献金の割合は低くなり、証券・投資会社や法律事務所などの大口献金の割合が高くなった。米フォーブス紙集計によれば、10億ドル以上の資産を持つ富裕者(とその配偶者)のうち、190人(合計6.4億ドル)がバイデンに、127人(合計3.3億ドル)がトランプに献金した(12月16日日経)。

 20年の米大統領選を見る限り、これまで以上に富裕層が選挙で大きな影響力を行使し、金権政治に一層傾いたと言える。「米政治は金次第」、これが米大統領選と米政治の一つの特徴だ。欧米日の支配層やメディアが、「民主主義」とたたえる米政治のリアルな姿だ。

 トランプを担ぐ右派ポピュリズムは、「エリート支配に対する非エリート層の反感」という性格を持ち、7,400万票も獲得した。ウォール街やシリコンバレーの強者におもねり、ラストベルトの弱者、白人の貧困者(プア・ホワイト)をないがしろにしてきたエリート政治への反発が、16年にトランプ政権を登場させたのだが、金融危機による中間層の没落、アフガン・イラク戦争により米国民に苦痛を強いたエリート政治への反発は、今もなお大きく残っていると票数は教えている。

 バイデンの勝利(約8,000万票)によって、既存の「エリート政治」が復活するならば、再び米国民の同じ不満と怒りを呼びおこしかねない。オバマ政権もヒラリー・クリントン候補も、民主党政権は、軍産複合体やウォール街と「親和性が高かった」。バイデンはその副大統領だった。

 バイデンの支持層は2つあり、ひとつは既得権益層である富裕層、ウォール街、軍産複合体。いま一つは、民主党左派に結集したエリート支配への反感、すなわち富裕層への批判勢力だ。

 すでに、バイデン政権が公表しはじめた人事において、既存の支配層と民主党左派との対立と闘争が始まっている。バイデン政権の要職には多くのオバマ政権の外交・経済チームが返り咲いている。左派は「大企業の幹部やロビイストを要職に起用すべきではない」(アレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員)と主張している。

 票数に現われた3つの政治的グループ(確固たるグループを形成しているわけではなく支配層に組織された側面も持つ)は、どれも主導権を握ってはいない。そのため政権が発足しても、対立は続き現状を転換する政策を大々的に打ち出すことはできないだろう。米政治が混乱することは米国人民にとっては大変だが、米国が影響力を低下させることは、世界の人々にとってはいいことだ。

 米政権が変わっても、米国は簡単には変わらないだろう。
 とくに対外政策では、これまでのトランプ政権の政策(・中国との覇権争いと米中対立、・世界経済の分断、・イスラエル寄りの中東政策と中東での緊張の激化、・軍事負担をEU日本などの同盟国に求めるなど)と大きく変わることはない。国内政策は、格差拡大と米国社会の分断を修復する方向への転換を図ると予測されるが、上下院議員数からして大掛かりな転換は期待できそうにない。国民皆保険の実現などは、米国民の継続した闘争とさらなる盛り上がりが、必要になってくるのだろう。いずれにしても選挙だけでアメリカが変わるはずはない。
 
2)コロナ禍が「社会の見直し」を迫る、この先、世界は変わる

 コロナ禍は世界的に、不安定雇用者、低所得者層に打撃を与え、資本主義と民主主義の「揺らぎ」(米メディアの表現)を露呈させた。

 コロナ禍でデジタル化が加速し、それにより雇用が変化し、格差を一層拡大しつつある。中間層の賃金が停滞してきたが、さらに低下させかねない。デジタル化、AIなどの現代の産業革命は、この先格差を更に拡大し、確実に社会の分断を深める。テレワークのできない産業の不安定雇用労働者は、すでに収入は減少し、あるいは職を失っている。

 格差拡大・分断を防ぐには、教育や人材投資、労働者の権利尊重、人権尊重が重要であるにもかかわらず、手当はなされていない。そのような手当をしないところに新自由主義の特徴がある。

 例えば、日本社会はこの点では大きく遅れており、生産性は上がらず、デジタル化の波に乗りきれず、コロナ後にさらに格差を広げる。

 一足先に新自由主義によって中間層を没落させた米社会は、トランプ政権を登場させた。事態を改善するのではなく国内外に「敵」をつくりだしフェイクニュースを扇動して「プア・ホワイト」の支持を得た。トランプの登場は決して偶然ではない。米社会の分断、貧困化と米国の国際的地位の没落がその背景にあり、それへの一時的な対処とごまかし、すなわち根本的な解決の回避なのだ。

 われわれにとって心配なのは、日本政府と支配層が、米政治とその政策のあとを追ってきたところにある。ちなみに安倍政治は、トランプ政治のコピーであるともいえる。荒廃する新自由主義社会での米国政治に似た支配スタイルを採ってきた。貧困化と格差拡大を解決するのではなく、内外に「敵」をつくりだし、中国・韓国に対する排外主義を煽り、分断支配の「新しい支配体制」をつくってきた。その主な内容は、メディア支配と利用である。特徴的なのは、「」でTV・新聞などの主要メディアを支配し政権の影響下において巧妙に利用したことだ。これと並行し「」で、ネトウヨを政権影響下におき、政権擁護の情報の発信、政権を批判する人の人身攻撃を行った。ネットと個人との直接結びつきをつくり、世論を形成する手段を手にした。

 これは安倍政権が獲得したかつてない「政治手法」であり、非常に危険だ。

 米社会の分断と荒廃は、近い将来の日本社会の姿にほかならない。同じ新自由主義なのだから、同じ結果をもたらす。

 コロナ危機が促進させたいま一つは、中国経済の躍進だ。日本経済センターは12月10日に、中国が米のGDPを2028年に抜くという予測を公表した。19年調査では、36年以降の見通しだった。コロナ禍で早まった。20年の経済成長は、先進国は軒並みマイナスだが、中国はプラス成長(+2.1%予測)を維持する。(2035年時点の予測、中国の名目GDP:41.8兆ドル、米+日:41.6兆ドル。一人当たりのGDP予測は、中国:2.8万ドル、米国:9.4万ドル、日本:7万ドル。)

 中国はコロナを抑え込んだ数少ない国だ。一方、欧米社会は、コロナを抑えることができない。新自由主義による「自己責任」の考え方によって、国家は国民を救わない。欧米日社会は、共産主義による独裁ではなく自由社会だから、例えば中国のように、強制的にかつ大規模・一斉にPCR検査を実施することはできないのだそうだ。その結果、中国のように感染者と非感染者を分けることができず、感染を防ぐことができないのだそうだ。政府ができることはなくて、ひたすら国民に、マスクと三密回避、ソーシャルディスタンス、自粛を呼びかけるだけだ。正確には、コロナ封じ込めに成功しているのは、中国だけでなく、シンガポール、台湾、ベトナム、ニュージーランドである。これら諸国の成功例を学び導入することはできるはずなのに、やらない。メディアは成功例、その対策を報じない。日本には科学ジャーナリズムは存在しない。

 おそらくコロナ危機は、まだまだ長引く。ワクチンが効果をもたらすには、即刻ではない、数年かかるだろう。そのあいだに格差は拡大する。様々な社会の矛盾が顕在化する。社会は停滞し、貧困層にしわ寄せがくる。

3)現代の産業革命、環境負荷を避けるESG投資競争

 パリ協定の最後尾にいた日本政府も、遅ればせながら20年10月には「2050年CO2排出量実質ゼロ」(菅首相)を表明した。2011年3月の福島原発事故以後も、原発推進と高効率石炭火力発電推進をエネルギー方針としてきたが、原発事故後10年を経て世界のエネルギーは温暖化防止、サステイナブルなエネルギー源への転換が確実なものとなり、再生可能エネルギーへと舵を切らざるを得なくなった。日本はエネルギー転換で大きく出遅れた。

 再生可能エネルギーへの転換においては、石油や天然ガスなどの地下資源のように地政学的要因によるのではなく、技術力、充電器と組み合わせた効率的な電力システムをいかに構築するかという技術革新が、主導権を握るカギとなる。

 太陽光パネルはすでに中国企業がほとんどを生産している。風力発電も欧州と中国企業が先行している。風力発電量において中国はトップを走り、欧州は全面的に風力発電を導入し、すでに主要電源としている。

 現時点では、これらの発電システムと充電器を組み合わせた電力供給システムの構築が、エネルギー転換の資本主義的な競争になっているが、日本企業と日本社会は、あらゆる点ですでに大きく出遅れている。

4)債務が増大した 

 ほとんどの国で過去40年で、もっとも債務が増大した。危機に際し政府が財政政策を採り、債務を膨らませてきた。08年の金融危機時にも、今回のコロナ・パンデミックでも、政府・民間部門ともに債務が激増した。コロナによる世界的な経済危機にもかかわらず、世界的な金融緩和が株価を押し上げている。富裕層は金融緩和による資金を株式証券に投じている。このような道筋を通じても格差拡大、二極化をもたらしている。

 各国政府はコロナ対策にすでに合計10兆ドルを支出している。これは08年の金融時の支援策の約3倍の規模だ。国際金融協会(IIF)によると世界の債務残高の国内総生産(GDP)比は19年末で321%、わずか半年後の20年6月には362%に急増した。平時に、これほど急激な増加が起きたことはない。

 対GDPの債務比率の大きさで、日本はすでに突出しており、先進国のトップを走っている、もはや抜け出せないレベルだ。

 2008年の金融危機のあと、ギリシャ国債が暴落の危機に瀕した。危機になっても確実に債務は残ること、強引に返済が求められることを、ギリシャ国民の陥った悲惨な現実を通して、われわれに教えてくれた。ギリシャ政府は緊縮財政を採らされ、福祉予算や年金は削られ、国民生活は破壊された。その姿は、日本社会と多くの日本人が、近い将来に被る姿ではないかと想像させる。

5)政治的緊張の激化 

 米国の権威の低下(=欧米の言葉でいえば「民主主義への信頼の低下」)、中国の台頭を前にして、米中間の緊張が煽られている。相応して軍事的緊張も高まりつつある。コロナ危機が一層緊張を高めた。多国間協力がいくつか消えている。多くの国、国民は、米中のどちらかにつくかの選択を迫られているかのようだ。

 米中貿易摩擦から半導体などのハイテク産業での対立、経済制裁を振り廻しての世界経済の分断は、米政権が一方的に行ったことだ。米国は自らの世界支配と覇権維持の為には何でもやるという姿を、強烈にわれわれに教え込んでいる。この先も同じような態度をとるだろうことは、容易に予測できる。

 すでにASEAN諸国は、米中対立に対し「中立的対応」を採っている。より賢明な対応であろう。日本政府は、米政権の意向に従うばかりである。EUから離脱しよりどころを失った英国も、米追従の政策を採るようだ。

 米国の影響下にいることに決して未来はない。これは日本の支配層にとってもそのように言えるだろう。

 主役なき時代を迎えた。
 コロナ危機で、世界秩序が再編され、再構築される速度が増した。

***********

 購買力平価ベースのGDPでは、中国はすでに米国を追い抜いている。

購買力平価ベースGDP(出典CIA FACTBOOK:現在は削除されている) 
 世界の経済の比較に購買力平価ベースを使用(マクドナルド換算)
 出典 WORLD FACTBOOK、単位兆ドル(切り捨て)。
 1位:中国25.3兆ドル、
 2位:米国19.3兆ドル、
 3位:インド9.4兆ドル、
 4位:日本5.4兆ドル、
 5位:ドイツ4.1兆ドル、
 6位:ロシア4.0兆ドル、
 7位:インドネシア3.2兆ドル、
 8位:ブラジル3.2兆ドル、
 9位:英国2.9兆ドル、
 10位:仏2.8兆ドル、
 以下メキシコ、伊、トルコ、韓国2.0兆ドル

********************************


 こういった最近の世界のいくつかの変化は、米国の力の後退であり、米覇権の時代が終わりつつあることを示しているだろう。
 それとともに、この30年、40年続いてきた新自由主義政策によってもたらされた結果でもあるだろう。分断と格差・貧困をもたらした新自由主義政策は、支配層のプランとしては、もはや「有効性」を失ったと言っていい。
 
 時代の転換の一つの意味、内容である。

 この転換に対する人々の徹底した批判と変革のプラン、プランを実現する人々の新しい関係の構築が必要である。私たちの立場から考えれば、人々のつながり、その新しい関係を形成・再編しなければ、時代の変化に対抗できないし、ましてや私たちの望む社会を実現することができない。時代の「転換」に翻弄されるだけではないだろうか。

 ネットによって世界中と新たな関係が形成されたけれども、同時に人々の分断や情報コントロールに置き換えられた面もあって、なかなか単純ではない。現代社会の変化に即した、人々の新しい連携する関係を構想し、つくりださなくてはならない。

 私たちは混迷の時代にいる。現実世界は複雑であって先行きの不安が重くのしかかる。年初にあたり、すっきりした初夢を抱くのは難しいようだ。(2020年12月31日記)









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「安野 中国人受難之碑」建立10周年 [現代日本の世相]

 「安野 中国人受難之碑」建立10周年

 少し遅くなりましたが、10月17日、中国人受難の碑建立10終焉集会、10月28日、安野の「受難之碑」前での追悼会のことを報告します。




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<10月17日、講演する内田雅敏弁護士>

 10月17日(土)「安野 中国人受難之碑」建立10周年の集まりが、広島弁護士会館であった。

 あらためて和解成立までの歴史をたどり返してみると、いかに多くの人の努力が注がれまた協力があって、実現したかがわかる。日本政府・外務省が中国人の強制連行を認めない立場をとり、解決の障害になってきた。この障害を突き崩すため被害者・遺族と連絡をとり、裁判に訴え地裁で敗訴し控訴、高裁で逆転勝訴、その末である最高裁判決での敗訴にまで至ったものの、その「付言」を手がかりに「和解による解決」にたどり着いたその過程は、まるでドラマのようなのだ。日本の市民運動が中国の被害者・遺族とともに勝ちとったものだ。

 「受難の碑」は、こういった人々の努力と被害者・遺族との和解が詰まった「結晶」として、まさに安野の地に立っているとしか言いようがない、そのように思う。

 今年はコロナ禍で中国から遺族は参加できなかったそうだが、碑建立から10周年であり、これまでの闘いを今一度思い起こし、被害者・遺族との和解、追悼事業を継承していくことを、参加者はみな考えたのではないかろうか。

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<10月18日、中国人受難之碑前での追悼の会>

 10月18日(日)には、安芸太田町、中国電力安野発電所にある「中国人受難之碑」前で「祈念の集い」があり参加した。太田川を30㎞ほどさかのぼった中流域に位置する。

 当日は、晴れておりここちよい風が流れていた。「受難之碑」は少し高いところにあって、太田川沿いの坪野の集落を見渡せる。山あいの集落の神社の森には祭りの旗がなびき、日曜だからか野菜市も立つ。山はまだ紅葉していない。碑の背後には、落水式発電の太い導管が山肌に沿って屹立していて、導管のなかを水が踊り落ちタービンを廻す音が聞こえる。中国人労働者が掘った導水トンネルは今もなお使われており、この瞬間もなお生きて発電し続けている。

 碑の前での祈念のつどいなかで述べられた「継承する会」の足立弁護士や安芸太田町長ら皆さんの追悼の言葉は、かすかな風や水の音と、二胡のゆるやかな音色のなかに包まれて流れてくるのである。「受難之碑」も追悼もこの地に受け入れられ溶け込んでいるかのようだ。

 続いて近くの善福寺で法要があり、藤井住職は追悼や日中友好を通じて人々のつながりを深めていければ、と語られた。安野に強制連行された中国人360人のうち29人が日本で亡くなったが、善福寺ではそのうちの5人の遺骨を預かり弔ってきた、という。西松安野和解事業として2017年天津で行われた追悼に住職も参加され、遺骨は今では天津の記念館に安置されていることも話もされた。

 地元に住む当時中学生だった栗栖さんは、中国人たちが毎日、家の前を歩いて工事現場まで通う姿を目にしたという。44年夏、連れて来られた当初は「イー、アル、サン・・・」元気よくと掛け声をかけて通ったが、11月にもなると声から元気は消えた、十分に食べていなかったのだ、衣服は夏服の「着のみ着のまま」で、工事トンネル内にあふれる水で濡れ、さぞ寒かったろう、と証言された。

 アジア太平洋戦争末期に日本政府の国策によって多くの中国人が強制連行され過酷な労働に従事させられ、多くの人が亡くなった、こういう歴史の事実を忘れることなく継承し、被害者を追悼していくことを通して、日本の人々のあいだで、また中国の人とのあいだで、心のつながりを深めていく活動を続けていければ、と思った。安野の発電所がいまもなお生きて発電し続けているようにだ。

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<受難之碑の裏側にある安野落水式発電所の導管>







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マーク・トウェイン『アダムとイブの日記』(1893年)を読む [読んだ本の感想]

マーク・トウェイン『アダムとイブの日記』(1893年)を読む

 コロナ禍で出かけることが少なくなり、Web上での読者会もあって、おかげで本を読む時間が増えた。
 マーク・トウェイン(1835-1910)の『アダムとイブの日記』(1893年)を読む機会があった。

 『アダムとイブの日記』が書かれた19世紀末のアメリカは、農業社会から産業社会化し、富も蓄積し、欧州の影響から独立しつつあった。


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<マーク・トウェイン『アダムとイブの日記』大久保博 訳(河出文庫、2020年1月30日発行)>

1)「エデンの園」を追放されたあと、アダムとイブは何を考え、どのように暮らしたか?

 アダムとイヴが神によって「エデンの園」を追放された後に、『アダムとイブの日記』があったとマーク・トウェインが設定して、日記の叙述を始めている。平易な文章とユーモラスな描写がおもしろい。

 アダムとイブの暮らしには、ミシシッピ河やナイアガラの滝も出てくるし、アダムがバッファローの狩りに出かけたという叙述もあるから、このアダムとイブは、北米のアメリカ人(おそらく白人)であるらしい。マーク・トウェインにとって聖書の厳密な描写などどうでもいいらしくて、「エデンの園」を追放されたあと、アダムとイブがどのように暮らしたか? 自分の頭で何を考えたか?(=当時のアメリカ人ならどのように想定するか?)にもっぱら興味があるようなのだ。

2)「アダムの日記、イブの日記」の叙述から

 日記の叙述の一部を拾ってみる。

 アダム(の日記)によれば、
「・・・・・・イブがやってきた時、邪魔だと思った。いつでも後をつけてくるし、何でも手あたりしだいに名前をつけてしまう。追い出そうとすると、穴(目)から水(涙)を出し、大きな声をあげる。・・・・しかもしょちゅうペチャクチャやっている。・・・・・・・そんなイブが林檎をいくつか持ってきたので、食べた。・・・・・・・
・・・・・・・・

 何年かそんな暮らしをしているうちに、
「・・・・・彼女は連れとして立派な存在だと思うようになった。彼女がいなければきっと寂しい思いをし、気が滅入ってしまうだろう。・・・・・・・カインやアベル(息子たち)がやってきて、何年かを送った・・・・・。今になってみると、エデンの園の外にあっても彼女と一緒に住む方が、エデンの園のなかで彼女なしに住むよりはいい。・・・・」
と書くようになっている。

 イブ(の日記)によれば、
「・・・・アダムの後につきまとって知り合いになろうとして、おしゃべりをした。彼の様子を見てみると、わたしがそばにいるのを喜んでいるようだった。・・・・・わたしは物に名前をつける仕事を引き受けて、彼の手をわずらわせないようにした。彼はどうやら大いに感謝しているらしいのだ。
・・・・・・・・・・・・・・」

 日記の終りのほうで
 「・・・・ふりかえってみると、「園」はもうわたしには夢でしかない。それは美しかった。「園」は失われた。でもわたしは彼を見出した。そして満足している。・・・・・彼はわたしを精いっぱい愛してくれる。わたしもちからいっぱい彼を愛してる。自分でもその理由がわからない。・・・」
と書いている。

**************

 マーク・トウェインは、アダムとイブのやりとりのなかに、今でもありがちなそれぞれの勝手な思い込みも描き入れていて、つい笑ってしまうところもある。全体として平易でユーモラスな叙述が続く。

 そういった叙述のなかで、エデンの園を出た後のアダムとイブはどんな暮らしを送り、それぞれ何を考え、二人の関係がどのように変わったかを描き出している。自然な、順直な変化であること、二人にとっては成長である、しかもその成長は神がもたらしたのではなく二人が自分たちで得たものだと、描き出しているようなのだ。それはマーク・トウェインの考えである。

3)マーク・トウェインの実際的な考え方

 神が禁じていた木の実をアダムとイヴがとって食べた途端、目が開き互いに裸であることを知り、「恥ずかしい」という感情が沸き上がってきた。これまで持ち合わせていなかった「感情」だ。そこでイチジクの葉で身を隠す。

 ということは、神はアダムとイヴに自分でものを考えることを禁じていたことになる。自分で考えるとは、知恵がついたということだろう。しかし、「自分で考える、知恵がついた」ということは、造物主である神の意図に対する干渉であり、反逆となりかねないらしいのだ(訳者・大久保博が解説でそのように書いている)。

 自分の力でものを考えない、神の指示どおり生きるのが「エデンの園」の掟だとすれば、それは楽園とはいえない、人形か奴隷の社会ではないか、という考えも浮かんでくる。

 マーク・トウェインは、「エデンの園」からの追放を「転落」であると書いているものの、彼の描くアダムとイブは、楽園からの追放をもはや後悔してもいなければ、後戻りしたいとも思っていない。神の存在は、アダムとイヴにとって少しずつ「薄れ」つつあり、不要になりつつある様子が叙述される。

 表立って神や宗教を批判してはいないが、マーク・トウェインは、神や宗教からの「自立」を主張していると解釈することもできそうだ。彼の描き出すアダムもイブも「エデンの園」にはもはや興味がない。神の影響が薄まったところに、自分でものを考え自らの意思で行動するところに、人々の幸福が存在すると主張しているようなのだ。そこにヒューマニスティックな価値を見出しているようでもある。

 マーク・トウェインのこの考えは、宗教に対する「原理的で理論的な批判」ではないけれど、産業社会が発達しつつあった19世紀末当時のアメリカ社会のなかで生じた「実際的な考え方」、プラグマティックな考えでもある。
 ヨーロッパから自立し自身の道を歩みつつあった当時のアメリカ人の問題意識であり、ある種の自信のようなものもそこにあるようなのだ。


追記:『アダムとイブの日記』(大久保博 訳)は2020年1月30日に河出書房から河出文庫として、新たに発行された。(文責:児玉繁信)





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コビド19の下での労働者の闘争 [フィリピン労働運動]

コビド19の下での労働者の闘争
 
エミリー・ファヤルド AMBA-BALA事務局長 


 アンバ・バーラ(AMBA-BALA:バタアン労働組合連合)のエミリーから、バタアン州におけるコロナ・パンデミック下の労働運動や街の生活について報告が来ました。

1)フィリピン・バタアン州での事例

 フィリピン全土が「コミュニティ検疫の強化」(以下ECQ:Enhance Community Quarantine)に置かれてから6ヶ月が経ちました。仮に60日後であったとしても、多くの企業はフィリピン保健省の定める「健康のための議定書および基準」のため、従業員の100%を受け入れることができません。したがって多くの労働者は仕事に就くことができないのです。保健省も各自治体も三桁、または数百のコロナ感染事案を抱えており、対応できていません。

 バタアン州では現在882人の患者(20年9月現在)が発生しており、そのうち595人が「自由貿易地区」のあるマリベレスの患者です。全体の67%をマリベレスで占めています。しかも595人のうち339人が、マリベレスのアンバ・バーラ事務所所在地であるポブラシオン(Poblacion)バランガイからでした。私たちの調査によっても、労働者のなかにはウイルスに感染している者がいます。マリベレス地区の会社は警戒しており、「健康基準」を適用していたにもかかわらず、例えばFCF社では26人の中国人スーパーバイザー(管理職)が会社の知らないところで感染し、フィリピン人労働者に容易にウイルスをうつしてしまったこともありました。

(※アンバ・バーラ(AMBA-BALA)とは、バタアン州労働組合連合、「バタアン自由貿易地区」を中心に組織している。)

9月18 日現在 Covit19 Update
          フィリピン全体  バタアン州
累計感染者数   : 283,460人   2,002人
累計死者数    :  4,930人     30人
9月17日感染者数 :  3,962人      84人
9月17日死者数  :   100人      0人

  本当のところは、ほとんどの企業と「バタアン自由貿易地区」(AFAB)当局に権限があるにもかかわらず、労働者に対する「強制検査」(covid 19のための無料のチェック)を実施していませんでした。一緒に働くのが安全ではない会社だと認定された場合、「バタアン自由貿易地区」当局は、会社を14日間閉鎖し、すべての労働者に強制休暇(無給、諸手当なし)を取らせ、その後、検査を実施します。コロナ陽性者は公開し感染経路を追跡します。陽性者は「バタアン自由貿易地区」当局の監督の下で検疫施設に入れらます。

2)無職と飢餓

 COVID19のリスクはさておき、労働者は無職、無給のため収入が絶たれます。生活の破綻、飢餓の危険性が迫っています。

 ディスクトップ社(Desktop)とDLX社は、9月1日から2021年2月までの間、労働者を強制休暇(無給、諸手当なし)にさせています。同社の製品(バッグなど)は現時点では必要不可欠なものではないため、買い手からの注文がないというのです。また、バーレーン・ファイバーグラス社も3月から一部の従業員を強制休暇を取らせています。他の企業もフル稼働しているわけではありません。

 ミツミ電機ドンイン(Dong In)グループのような企業は、このパンデミックの中でも、多くの受注を得ています。ちなみに、ミツミ電機は厳格な健康管理を行っている企業の一つです。感染者が出たこともあり、14日間の日当付き検疫を実施しています。

 マリベレスには9区画(バランガイ)ありますが、地域検疫の強化と「バタアン自由貿易地区」当局の下で、企業は厳しいスキーム検疫に従っています。しかし、ミツミ電機は生産のニーズが高いために(生産増大に邪魔になる)検疫に従っていないことが判明しましたが、結局のところ当局は操業を許可しました。「コミュニティ検疫の強化」ECQ は9月12日に始まり、9月26日に終了します。多くの企業がCOVID19 の現地・企業への感染を避けるために、検疫スキームに従い一時的に操業を停止しています。

 現在、ここバタアン州では何千人もの労働者が失業しています。いくつかの会社では「強制休暇」(無給:Force Leave)が実施され、ほかの会社では、就業契約の終了や他の理由で労働契約を終了されました。解雇です。多くの人が新たな職探しをし、幸運にもみつけた人もいますが、ほとんどの者には幸運は訪れません。新たな職は、職を失った全ての労働者が新たに就職できるほどあるわけではありません。

 デスクトップバッグ・フィリピン社(Desktop Bags Phils. Ltd.)、DLXバッグ・フィリピン社(DLX Bags Phils.)は、ファッションバッグや靴を製造しています。この2社とボースト社(Boast Ltd.)を含めた3社は、従業員への「通知」に、「2021年前半までの期間は、業務が正常に戻ることはない」と記しています。これは労働者にとっても労働組合にとっても悲惨な「知らせ」です。

3)労働者の権利は、パンデミックのもとで奪われてはならない!

 危機が発生しても、労働者の権利を守り、主張しなければなりません。政府機関と裁判所は、職務を遂行しながらパンデミック下で採用できる独自の健康対策とプロトコルを持っています。労働雇用省(DOLE)は、厳格にウェブ会議と調停を実施しました。私たちは、労働雇用省とのウェブ会議、電子メール、携帯電話(ほとんどが非接触的)を通じて、DOLEと会議を持ち、会社の状況に関する労働者と組合の懸念を提起し、会社との仲介を求めることを学びました。

Pictures above Desktop Employees Association-DEA,  DLX Workers Union-DWU and Freeport Workers League (FWL)  ZOOM meeting with DOLE (2).png
<労働雇用省とのWeb会議の様子>

 現時点ではまだ実際に大量の人が集まったミーティング(マリベレスでは10人以上)は禁止されており、リーダーだけがミーティングを行うことができますが、この危機の下で労働者の問題に対処する手段はそれほど残されていないのです。
失業補助金のための私たちのキャンペーン

 アンバ・バーラは、強制休暇や経済封鎖の影響を受けた人々のための失業補助金の取得キャンペーンを主導してきました。現時点では、すでに州知事と第2区のジョート・ガルシア州議員のオフィスに要請書を提出しています。特に今回、「バヤニハン・ヒール・アズ・ワン・アクトII」が可決されており州当局の前向きな反応を待っています。国から新たに数十億ペソ(約100億円)の予算が投入されることになっており、そのすみやかな実施を要請しています。

 失業補助金だけでなく、COVID19パンデミックの下での労働者の安全のための予算もあります。
 私たちはまだ、様々な企業の労働者やリーダーを集めて、多くの労働者がキャンペーンに参加できるようにしています。


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バタアン原発再開案を、ドゥテルテが提案  [フィリピンの政治経済状況]

バタアン原発再開案を、ドゥテルテが提案 

ドゥテルテ大統領がエネルギー相らとの会合でバタアン原発再開案を検討するよう提案

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<フィリピン、バタアン州モロンにあるバタアン原発>

1)バタアン原発とは?

 バタアン州モロン町ナポット・ポイントにある原発は、フィリピンで唯一の原発であり、故フェルディナンド・マルコス大統領の時代に建てられた(1984年完成、未稼働)が、反対運動の盛り上がりと安全上の問題のため稼働することはなく、プラントに燃料が供給されることもなかった。1984年に完成してからすでに36年が経過しており、再稼働させるには大きな問題がある。(バタアン州は、マニラ湾を挟んで首都圏マニラの対岸西側にある半島に位置しており、もし福島規模の原発事故が起きればマニラは壊滅する)

2)ドゥテルテが突然、原発再計画を提案

 ロケ大統領報道官は10月1日、エネルギー省(DoE)に対する「バタアン原発の再開を調査せよ」というドゥテルテ大統領の執行命令を公表した。

 建設を一時停止したまま放置された原発を復活させる計画について、「最近の会議で、大統領、エネルギー省長官アルフォンソ・クシと、核エネルギー推進者グループを率いる元パンガシナン代表マーク・コファンコによって議論された」と述べた。

 大統領は「土地の調査から始めるべきだ。また原発を再開する決定は政府だけで行ってはならない、バタアンの住民に相談してほしい」と述べたという。

 2020年7月にはすでに、ドゥテルテ大統領は国のエネルギー・ミックス計画の一部として原発を利用する可能性を研究するエネルギー省が率いる「原子力エネルギー・プログラム機関委員会」の創設を求める執行命令116に署名していた。(下記参照)

3)原発再計画の背景

 経済成長著しい最近のフィリピンは、慢性的に電力不足に悩まされており、政府が原発計画を再提案した事情は容易に推測できる。

 バタアン原発は建設にまつわる汚職により政権近くの有力者が利益を得てきたし、1980年代に原発を建設した米ウエスティング・ハウス社(当時)なども儲かった。核燃料は搬入されていないから汚染はされていないので、観光客が原発の内部まで見学できる「観光施設」になってきた。建設に関する費用、膨大な借金を返すのに2007年4月までの23年ものあいだフィリピン政府は税金から、すなわちフィリピン国民が原発債務を支払ってきた。フィリピン国民以外は、みんなにハッピーな結果をもたらしたバタアン原発だったのだ。

 今回の再計画も、フィリピンの有力者が「柳の下の二匹目のどじょう」を狙うもので、同じパターンで利益を得ようとしているのは間違いない。ドゥテルテ政権にすり寄って建設=利益にあずかろうとしている。

4)バタアン原発反対運動

 1980年代からバタアン州を中心に原発建設反対運動は続いてきた。「核廃絶バタアン運動」(Nuclear-Free Bataan Movement)が中心になって、さまざまな市民グループが協力して反対の声を上げてきた。以下にNFBMの声明を紹介する。

s-バタアン原発内部 (3).jpg
<バタアン原発の内部(未稼働であり、核燃料が供給されていないので、安全であるとして内部が観光客に公開されている世界で唯一の原発)>

*******************************


大統領執行命令番号 116、p 2020
2020年7月24日に署名
マラカニアンパレス(大統領府)、 マニラ
フィリピンの大統領による 執行命令番号 116
核エネルギー計画に関する国の見解の採択、核エネルギー計画機関間委員会の設置、およびその他の目的のための調査を指示する。」  アップロード日:2020年7月29日


*******************************


「核技術は過去のもの、
再生可能エネルギーは未来のもの」


2020年10月2日  声明を発表
核廃絶バタアン運動( Nuclear-Free Bataan Movement)
フランシスコ・ホンラ事務局長
、NFBM


 2011年の福島第一原子力発電所のメルトダウン以来、ほとんどの国が核技術に背を向け、再生可能エネルギーの解決策を採用しています。

 日本の福島県にある福島第一原発から太平洋に漏れ出た放射性物質に対して、科学者たちはまだ適切な解決策を提供していないことを忘れてはなりません。福島第一原発から太平洋に流出した放射性物質や汚染水は、300万トン以上と推定されています。

 脱原発バタアン運動は、フィリピン政府のクシ・エネルギー長官に、20万メガワットの再生可能エネルギー(風力、太陽光、水力、バイオマス、地熱を組み合わせたもの)の可能性をフィリピンで実現させるよう強く求めています。私たちは、日本(福島)、ロシア(チェルノブイリ)、アメリカ(スリーマイル島)のような他国の経験から学ぶ必要があります。また、バタアン原発の休止を勝ち取った私たちの歴史的立場から学ぶ必要があります。

 フィリピンで電力需要が増大しており、特に原発の必要性を訴える声が再び膨らんでいることを、私たちは知っています。開発を推進しているのはビジネスの利益であり、公共の利益ではありません。バタアン州石炭火力発電所拡張と同じです。バタアン石炭火力発電所の拡張は、健康や経済的に悪影響を及ぼすにもかかわらず推進され、地域社会の健康や経済的な維持に影響を与えています。
 フィリピン政府の現在のエネルギー戦略は近視眼的です。気候変動に関する重要な目標を達成するまでの期間は、12年を切っていることを考慮に入れていません。

 反対する声を黙らせるために、現政府が批判者への強硬で懲罰的な叱責・弾圧によって人々の目をくらませ、原発推進を早急に進めることに躍起になっている一つ一つの事実を、私たちは確認しています。

 原発は安全ではないばかりか、経済性がありません。「世界のどこでも建設するにはあまりにも高価である」という菅直人元日本首相の言葉を支持します。

 国際原子力・放射線事象評価基準(The International Nuclear and Radiological Event Scale)は、福島第一原発事故とチェルノブイリ(1986年)を主要な原子力事故として分類しています。これらの事故は、放射性物質の大規模な放出を伴う事故であり、健康と環境への影響が広範囲に及ぶため、計画的かつ長期的な対策を必要とします。日本はその被害のために未だ苦しんでいます。

 フィリピンで同様の事態が発生した場合の被害の大きさは想像に難くありません。このような最悪の事態には、いくら技術的な専門知識を持っていても対応できません。

 原発を受け入れるな!
 後戻りしないようにしよう!

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ドゥテルテが、米兵ペンバートンを恩赦 [米兵によるレイプ事件、犯罪]

ドゥテルテが、米兵ペンバートンを恩赦、
 
コロナ・ワクチンと取引か!


 2014年10月、米海兵隊伍長スコット・ペンバートンが、フィリピン人トランスジェンダー、ジェニファー・ロードさんを殺害した。2015年、ペンバートンはフィリピンの裁判所で10年の有罪判決を受け、現在までの約5年半刑に服していた。ただし、通常のフィリピン刑務所ではなく、アギナルド基地内で米軍の影響下で服役していたに過ぎない。

 ペンバートン伍長は2014年当時、米フィリピン合同軍事演習に参加するためにスービック基地に滞在していた。スービック基地はかつて米海軍基地であった。近くのオロンガポ市のモーテルでペンバートンは、「ロードさんとセックスをした後、男性器を発見し怒って殺害した」と供述している。ロードさんの遺体は、便器に頭を突っ込まれ身体はベッドシーツに包まれた状態で発見された。

 2014年当時、米兵によるトランスジェンダー女性の殺害、その扱いの非人間性に対して、民主団体、女性団体、LGBT団体から大衆的な批判がなされ、フィリピン社会を覆った。それとともに、米軍が自由にフィリピンに入出国できることがそもそもの原因であり、根拠となっている「米比軍訪問協定(VFA)」廃棄の声もひろがった。

 この服役中の「厄介者」に対して、ドゥテルテ大統領が9月7日突然、「恩赦」を与えた。「恩赦」により「国外追放」が可能となり、米政府・米軍の要望に沿ってペンバートンは解放されることになった。9月13日、彼は米軍機でフィリピンを離れた。

 なぜ、ドゥテルテは今になって突然、恩赦を与えたのか? 
 米政府との間で、ペンバートンの恩赦と、コロナワクチンの供給の取引をしたことを、ドゥテルテは隠さない。

 大統領府広報官のハリー・ロケは、「大統領がペンバートンに恩赦を与えたのは、アメリカからワクチンを入手したいという大統領の願望の一環だ。パンデミックが流行している今、フィリピン人のためにワクチンを入手することに重点を置いている」と率直に述べている。

 ドゥテルテの措置、すなわち犯罪人を勝手に恩赦にし釈放したことに対して、女性団体、LGBT団体から批判が相次いでいる。

s-8日、首都圏でペンバートン受刑者への恩赦に対する抗議デモをする人々(AFP=時事).jpg
<9月8日、首都圏でペンバートン受刑者への恩赦に対する抗議デモをする人々(AFP=時事)>

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女性団体カイサカ(Kaisa ka)の声明
ヴァージニア・ラクサ・スアレス議長(VIRGINIA LACSA SUAREZ KILUSAN SecGen KAISA KA)


 ドゥテルテ大統領は、殺人罪で有罪判決を受けた米海兵隊員ジョセフ・ペンバートンを、10年の刑期より4年早く恩赦した。この決定は、米海兵隊員の早期釈放に異議を唱えようとしている現在進行中の法廷手続きを事実上飛び越えたものである。そう、ペンバートンが他の受刑者と一緒にフィリピンの刑務所で服役したことなどなく、アギナルド基地の中にある米兵とフィリピン兵が守る特別な収容所で服役していたことを考えれば、これはフィリピン人にとって不愉快な出来事である。

 この動きはフィリピンの司法制度を侮辱するものであり、主権の侵害である。ペンバートンの有罪判決を、わがフィリピンの裁判所で勝ち取ったという勝利を、妥協の産物に変えてしまった。正義とは何かという問いを、悲劇的なパロディに変えてしまった。

 これはドゥテルテが志向する政権の振る舞いであり、フィリピンの人々に背を向けることができ、外国による支配に直面しても主権を守ることができない、あるいはやる気がない政権であることを示して見せた。

 フィリピンの人々はこのようなことを受け容れるわけにはいかないし、単に屈服して前に進むべきではない。

 ペンバートンは自由を得たかもしれないが、ロード事件は、私たちフィリピン人が求め続けなければならないこと、すなわち、外国の独裁や介入から自由な真の独立した主権国家であらねばならないということだ。

 我が国は、VFA駐留軍協定、米比相互防衛条約、米比防衛強化協力協定(EDC)のような不平等な安全保障関係に縛られたままである。米国や中国のような外国の利益を重んじる政府関係者に悩まされ、主権国家としての権利を主張する政治的意志を行使することに何度も失敗している。

 私たちは、アメリカとその容赦ない戦争マシンによって、これまでフィリピン人民に押しつけられてきた永く続いている歴史的な不正を跳ね返し、フィリピン人のための正義の追求を続けなければならない。

 私たちは、毅然としていなければならず、政府を追及し、人民にとって正しいことを実現し、主権と国の財産のための戦い一緒に立たなければならない。
 私たちは、勝ち取らなければならない!

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<2015年12月1日に収監されるために国軍本部に到着したペンバートン受刑者(EPA=時事)>

殺人者は別の殺人者を赦す

トゥルーカラー連合によるリリース。運動の旗の下に結集したLGBT組織
ペンバートン伍長の大統領恩赦に反対するLGBTQI団体の統一声明

 私たちは、2014年にオロンガポ市でフィリピン人トランス女性ジェニファー・ロードさんを殺害した罪で有罪判決を受けた米海兵隊ジョセフ・スコット・ペンバートン伍長にロドリゴ・ドゥテルテ大統領が与えた恩赦を強く非難します。

 ペンバートン伍長が10年の実刑判決のうち、「5年10ヶ月のあいだアギナルド基地の特別留置場で服役したことで不公平を被った」というドゥテルテ大統領の主張は、受け入れがたいものであり、まさに滑稽です。ペンバートンは、フィリピン服役囚が通常収容される国立ビリビド刑務所で服役すべきであり、大統領はアメリカ人ではなくフィリピン人に大統領恩赦を与えることができたはずです。

 大統領が行ったこのような行為は、現政府がいかにCOVID-19パンデミックを、フィリピンの人々に深遠な苦しみ、侮辱、不正を引き起こした外国、すなわち米国の利益を促進し、屈服する機会として利用してきたかを証明しています。

 大統領府ロケ報道官は、以前の声明では、オロンガポ裁判所のペンバートン釈放命令を「司法の行き過ぎ」と非難していたにもかかわらず、撤回しました。恩赦は、LGBTQIコミュニティへの大統領の支持表明が単なる見せかけだと証明しました。ドゥテルテと彼の実績の「真実」は、指導者として不誠実であり、女性蔑視でありLGBTQIに偏見を持っていることを暴露しています。

 ドゥテルテ大統領によるペンバートン伍長の恩赦は、フィリピンのトランスジェンダーや女性の命は重要ではない、トランスジェンダーに対する差別や暴力が襲う季節が到来している、米兵はフィリピンの地で殺人を犯しても逃げおおせる、という明確なメッセージを発信しています。

 LGBTQIコミュニティ全体と私たちの同盟が、ドゥテルテの反トランスジェンダー、反LGBTQI、反女性、反国民政策に反対するために団結することを、私たちは強く求めます。ドゥテルテはLGBTQIコミュニティのために最も多くのことをしてきた大統領だというプロパガンダに反して、彼がしてきたことは、自分の人気を高めるためにLGBTQIコミュニティを利用しただけでした。彼の政府は、私たちの利益に奉仕したことも権利と生活を守ったこともありません。現在に至っては、「殺人者だけが別の殺人者を赦す!」という真実を証明して見せています。

 ・被害者ジェニファー・ロードに正義を!
 ・米兵ペンバートンを刑務所に入れろ!
 ・トランスライフのための正義を!
 ・VFA(米比軍相互訪問協定)を廃棄しろ!
 ・ドゥテルテを追い出せ!

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「金融危機は今すぐ起きそうではないが、いずれ今後起きる」 [世界の動き]

「金融危機は今すぐ起きそうではないが、いずれ今後起きる」

1)3月危機

 コロナ危機が世界中に広がるという「想定」から、20年3月、株価が急に暴落したばかりか、金・米国債市場からも資金が流出し、機能不全に陥った。暴落を恐れ、あらゆる投資が「現金」へと向かい、流動性が一瞬にして消失した。各国中央銀行は、大量の資金で国債を買い支え、金融緩和を行い、爆発を回避することができた。あれは金融恐慌に至る一歩前でぎりぎりの対応だった

2) 金利低下、金利変動なし
 
 コロナ危機で、各国中央銀行は大量の金融緩和を行い国債を買い支えた。さらに各国政府は中央銀行と組んで、巨額の財政支出に追い込まれた。

 米10年物国債利回りは、20年4月以降、0.7%のままだ。
 イールド・カーブ・コントロール(YCC)を導入した日本は、金利変動がほぼ消えた。
 日本の国債の価格・金利が、「動かなくなって」すでに久しい。金融緩和によるカネ余り主導で株高が続く。クレジット市場もその後を追うだろう。これらのことはすでにバブルの域に入っていることを示している。

 クレジット市場は、「炭鉱のカナリア」で金融危機に際し、まずその価格が動くだろうが、現在はその動きは見えない。金融崩壊をもたらす爆発のマグマが地下で増大しているような不気味な「危うさ」が広がっている。

3)政府の企業への資金繰り支援策

 コロナ危機で各国政府とも、企業に給付金利子補給の実質無利子・無担保融資などの制度で支援している。当面は企業の資金繰り悪化や倒産などを防いでいるが、この先景気が回復しなければ、これら融資は不良債権に転化する。銀行は貸し倒れに備えた与信費用が一段と膨らむ。
 信用コストが膨らめば銀行の財務にも響く。

4)日銀「金融システムレポート」  

 10月22日、日銀は「金融システムレポート」を公表(半年に1度公表)した。レポートは、「新型コロナ感染拡大による回復が滞ると、貸し倒れに備えた与信費用の増加などで大手銀行の自己資本比率が2022年度に最大4.6㌽下がる」と試算している。

リスクシナリオの場合の試算」:銀行は22年度には自己資本規制8.5%を下回る。
   ・大手銀行では自己資本比率:7.6% 19年度比▲4.6㌽
   ・地方銀行では      :7.1% 19年度比▲2.8㌽

 自己資本比率が8%を切ると銀行は貸出を減らす行動をとる。そうなれば、資金繰りが悪化しての倒産・廃業が増加する。

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<日銀>

5)すでにバブルの域か?

 世界の金融の大きな問題は、コロナ発生前でさえ、多くの企業などの借入比率が極端に高かったことだ。
 コロナ危機で、さらに借入比率は拡大しているはずだ。現在はローン返済の猶予を認める各国の大々的な政策で、損失の全容がまだ見えない。

 大手米銀行は、危機に対処するため準備金を積み増しているが、例えば、インド、イタリア、そのほかの新興国・途上国の銀行は備えができていないし、備えることができない。

 世界的に見ると「まだら状」ではあるが、中国など一部を除き、欧米日など多くの国々で経済のV字回復の可能性はますます遠のいている。企業の資金繰り悪化と倒産が、これから顕在化するだろうし、不良債権が積み上がるだろう。
 金融緩和で国債の利回りが世界的に急低下しており、超低金利は銀行から稼ぐ力を奪っている。リターンを求めて高リスク投資を増やせば、金融システムが崩落・爆発する危険を大きくすることになる。

 国際決済銀行(BIS)ヒュン・ソン・シン
 「コロナショック当初(20年3月)は、流動性危機が最重要課題だったが、現在はそれが支払い能力の危機へと変わってきている。銀行はいずれ(脆弱な企業を襲う経営破綻と不良債権の波の)矢面に立つことになる
 「銀行は危機の発生源ではないにしても、無傷ではいられない」 
 「調査結果は、すでに融資基準が相当厳しくなっていることを示している」(10月15日、日経)

 世界銀行・首席エコノミストカーメン・ラインハート
 「金融業界の脆弱性に目を向けると長期的には、かなり悲観的にならざるをえない」 
 「信用収縮が起きる公算は本当に大きいと思える」(10月15日、日経)

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<世界銀行>

 金融システムの慢性的に負荷が増大している。ただ、金融危機は必ずしも、リーマン・ブラザーズが破綻した時のような道筋で爆発するわけではない。
 どのような道筋を経て金融の混乱、金融危機が起きるか? あらかじめ想定することは難しい。
 が、おそらく、次のような過程をたどるのではないか?

 今後、企業への資金繰りが悪化し倒産に至れば、貸し手である金融機関にデフォルト(債務不履行)がじわじわと増えるだろう。そうなれば、金融システムにかかる負荷が増大し(自己資本比率が下がり)、与信条件が厳しくなるだろう。その過程が、仮に急速に進めば、信用収縮、さらには金融恐慌へと至るだろう。

 20年3月以降、各国の中央銀行は、市場機能を維持するためには「必要なことは何でもする」意思を明確にしているし、欧米の銀行の自己資本率は08年に比べまだ高いことなどから、今すぐ金融危機には至らないかもしれないが、いずれ起こるだろう。
 いまは金融爆発に向けて可燃物を蓄積している状態だ。(10月27日記)
(文責:小林治郎吉)










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米大統領選挙で何が変わるか? [世界の動き]

米大統領選挙で何が変わるか?

1)トランプの外交政策とは? 何をしてきたか?

米中対立をあおり、世界を分断した
 中国に対し貿易戦争を開始し、ハイテク戦争にまで発展させた。米ドルが国際通貨であることを利用し、「安全保障」のためという根拠のない身勝手な理由で、中国企業・個人に「経済制裁」を加え、中国ばかりか友好国へも中国製品(ファーウェイ製の5G 基地局など)を採用しないように脅しをかけてきた。傍若無人の振る舞いだ。この米中対立は世界経済を分断しつつあるし、政治的な対立をも生じさせている。一方的に米国に原因と責任がある。中国とのハイテク戦争を、民主党は支持している。

 中国は経済封鎖、制裁に対抗するために、半導体の自国開発・調達策をとらざるを得なくなっている。そのために多額の開発資金を実際に投資している。今や半導体の設計開発ソフト・製造技術・素材材料などにおいて全面的な開発競争に入っている。ファーウェイは携帯電話や基地局の輸出が不可能となり、中国国内以外の売り上げは落ちている。当面は米国有利に展開しているようだが、最終的にどちらが覇者になるかは不明だ。中国の半導体開発、自国調達ができるようになれば、いずれ決着がつくだろうが、それまでは数年単位の長い時間を要するだろう。

中東の新たな枠組みをつくった
 在イスラエル米大使館をエルサレムに移した、イスラエルが第3次中東戦争で占領したままのシリア領ゴラン高原のイスラエル主権を、トランプ政権は初めて認めた。
 そのうえで、イスラエルとバーレーン、UAEとの国交回復実現を、トランプ政府は背後から推し進めさせた。今後、サウジを含めた湾岸諸国とイスラエルとの経済関係が拡大していくだろう。イスラエルは湾岸諸国、ば^レーンから石油を輸入することができるようになった。

 パレスチナ問題の正当な解決を強く主張してきたリビア、シリア、イランにを敵視し、リビア、シリアには戦争を仕かけ、様々な理由をつくり出してイスラエルとともに軍事的に攻撃してきた。その一方で米国は、親米的なサウジや湾岸諸国に対する「アラブの大義」を放棄させ、イスラエルとの友好関係の拡大へと転換させてきた。中東の支配者たろうとするサウジはこの米国の中東政策に乗った。
 米政府は、不法の上に不法を重ねている。中東における対立は新たな内容をはらみつつある。

③トランプの「悲願」公約であった米軍の紛争地からの撤退や、ロシアとの良好な関係の構築は進展しなかった
 この「公約」に対して、米支配層・軍産複合体があらゆる手段を動員し反対し押しとどめた。「ロシア疑惑」など、まったく証拠も示さないフェイクニュースで世論をつくり、プーチンのロシアとの接近をさせなかった。米民主党は米支配層・軍産複合体の意向にしたがって動き、公約を実現させないように振る舞った。オバマ、ヒラリー米民主党政権は、軍産複合体と「親和性」高かった。
 その結果、トランプ政権は米支配層、軍産複合体の意向に沿った軍事戦略をとることになった。軍事戦略はオバマの時とほとんど変わらず、軍産複合体の意向通りとなった。
 ただしその軍事戦略は、例えば中東ではうまくいっていない。シリアでは米軍は敗北し撤退した、アフガンでも米軍は現地での戦闘で敗北を重ね、撤退へと追い込まれている(=タリバンとの和平交渉し米軍は撤退しようとしている)。イラクでも米軍の存在は人々の非難の対象となっている。

「パリ協定」からの離脱、地球温暖化対策の国際的枠組みから離脱した。トランプの支持基盤である石炭・石油業界の利益確保を優先した。トランプは「取引」で目先の成果を上げ、石炭・石油業界に利益をもたらし、支持を得ようとした。

⑤18年に「イラン核合意」を破棄した。英仏独ロ中とともに努力の末、「核合意」したにもかかわらず、米国だけが勝手に破棄した。その「狙い」は、イランの原油輸出を「制裁」で抑え、米シェールオイル輸出を増やすという目先の利益獲得のためだ。中東の緊張を高めたい軍産複合体は、この「核合意破棄」を支持した。米国支配層内では特に強い反対はなかった。
 トランプ政権はベネズエラへのクーデターを支援し、介入したが、「失敗」に終わった。しかし、ベネズエラのマドゥロ政権は「民主的でない」とイチャモンをつけ「制裁」を発動し、ベネズエラ石油の輸出を減らすことに成功した。そのことにより、米シェールオイル輸出を拡大させた。米民主党もベネズエラ政府批判、制裁では同調している。

⑥トランプはコロナ危機のさなかに、WHOを脱退した。米国でのコロナ対策に失敗し、感染拡大を招いたので、中国とWHOを名指しして非難し、自身への批判から逃れようとしている。

⑦NATOへの米国の関与・負担に疑問を呈し、各国に軍事費増大を求めた。日本への軍事負担要求、米兵器の購入要求を強め、安倍政権は従った。日本政府に対してはトランプの「取引」は成功した。

⑧北朝鮮との関係改善をはかった。実際には進展はなく、一つの「ショー」を演じて見せた。

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<バイデン元副大統領とトランプ大統領>

2)バイデンになったら、何が変わるか?
まず外交は

対中国政策については、変わらない
 共和党・民主党ともにトランプ政権以前から、中国の台頭・影響力強化を「敵対視」し、抑えつけようとしてきた。対中強硬策は、米国内では超党派の路線なので、バイデンになっても変わらない。発言の「トーン」は変わるだろうが、実質は変わらない。バイデンになっても、米中対立は激化し、経済的なブロックの形成から、政治的な対立にまでおよび、世界はいっそう分断されるだろう。

中東での新たな枠組み、すなわちイスラエルとバーレーン、UAE間の国交回復はそのまま引き継ぐはずだ。サウジとイスラエルの国交回復、経済関係の実現・拡大を支えるだろう。
 サウジや湾岸諸国にとっては、原油収入があるうちに早急に「時代の流れ」である「エネルギー転換」を実現し「産業転換」しなければならない。でなければ未来はない。そこにイスラエルの技術が必要なのだ。米国の傘下でこれを実現しようとしている。バイデンもこれを支えるだろう。
 リビアのカダフィ政権を潰し、シリアのアサド政権に戦争を仕掛け、イランを敵視する中東政策の基本は変わらないだろう。バイデンとて、中東政策において親イスラエル、親サウジの立場は変わることはない、したがって、パレスチナを見放し、イラン敵視する政策は、大きくは変わらないだろう。

③NATOや日本韓国そのほかの同盟国との関係は、トランプの乱暴なやり方は控え「波風」を立てないようにはするだろうが、基本は変わらない。日本を含む同盟国に対し軍事費の負担増、米兵器購入要求は引き続き強要する。とくに東アジアにおいて、日本や韓国に「相応の軍事費の負担」を強要するだろう。

「パリ協定」復帰、WHO復帰、「イラン核合意」復帰は可能だ。バイデンは復帰すると言っているし、おそらく復帰するだろう。
 トランプ政権で生じた同盟国との間の「波風」を収め、同盟国の協力と「相応の負担」を求める従来の米民主党の外交政策に転換するだろう。

 バイデンは国内政策においては、いくらか異なる主張をしている。しかし、実際に違った政策を実行するかどうか、実際にできるかは、はなはだ疑問だ。おそらく公約通り実現できる可能性は高くない。

新型コロナ対策は、しっかりと対策を立てなければ、経済活動が再開できない。中国はすでに20年7~9月期に前年同期比で経済成長するまでにコロナを抑え込んでいる。
 バイデンはコロナ対策を公約の一つに掲げている。中間層、貧困層の「コロナ不安」を票に取り込もうという戦略からだ。
 トランプでもバイデンでもコロナ対策はせざるをえないだろう。しかし、3,000万人以上もの無保険者が多いこと、資本家はコロナ対策よりも経済活動を再開したいことから、そう簡単に解決はできない。まず財源を確保しなければならない、予算を議会で通さなければならない。それらがまずやるべきことだが、どれほどできるかで対策をどれくらい実行できるかが、政権発足後、半年ほどたてばいずれ判明するだろう。
 バイデンになっても、それほど急にコロナ対策が効果を発揮するとは思えない。

⑥バイデンは、「トランプ減税」(17年)の撤廃と大企業と1%の富裕層の税負担を増やす公約を掲げ、大多数の人々、没落した米中間層へアピールしている。また、「オバマ・ケア」の復活(「国民皆保険制度」ではなく、「オバマケア」)も訴えている。病気になり多額の医療費負担で没落する中間層が増えている。失業して健康保険を失った人も多い。
 掲げている公約は確かに大きく異なる。米社会の貧困化の進行は悲惨な事態を招いているので、格差是正を取り組まざるを得ないのだが、大企業・富裕層は抵抗、もしくはすり抜けに努めるに違いないし、財源の問題もある。民主党内には、国民皆保険制度に反対する勢力がいて、バイデンを「社会主義者」と非難している。容易ではない。実際に、バイデンがどの程度実現できるかは疑問が残る。実現には市民運動、民主運動などの継続した運動が、一層必要となるだろう。

エネルギー転換、温暖化対策を、バイデンは取り組むと表明している。実際のところ、石油・石炭から再生エネルギーへの転換は米経済にとっても中長期的に避けることはできない。バイデンになれば、エネルギー転換、新しい産業革命により一歩、踏み込むことになるだろう。そこに、資本にとっての市場と利益があり、雇用も拡大する。エネルギー転換は欧州や中国との競争になる。2兆ドル投資すると表明しているが、実行できるかどうかは、まだわからない。(日本政府のように、総花的に予算を編成し、結果的には「エネルギー転換が遅れる」事態となることは十分に予想できる。)

 石炭産業、シェールオイル産業などはトランプの支持基盤なので、トランプ政権のままなら、これら産業により配慮するだろうが、彼とて「エネルギー転換」を避けることはできない。実際に、オイルメジャー資本でさえ、石炭・石油など炭素系エネルギーから再生可能エネルギーへ投資を転換しつつある。

3)結論として
 バイデン大統領になったとしても外交政策はほとんど変わらないし、国内政策を転換するにはいくつもの解決しなければならない難題がある、結局のところ、いつもの大統領選挙と同じように、盛り上がった大きな「興奮」の割には、大きくは変わらないのではないかと推測している。

 したがって、11月3日に「革新的な新しい世界が訪れる」ことはない

 米国社会の深刻な貧困化、分断が進行した背景にあるのは、米国の衰退であり中国の台頭であり、世界の無極化である、そのなかで現れた米国の横暴な振る舞い、「悪あがき」である。米国が世界一の軍事力を持っていること、米ドルが国際通貨であることから、今のところ、この「悪あがき」ができるのだ。

 米国内では富者に富を集中しこれまでの既得権益層を満足させてきた。その結果、米国社会で起きているのは、中間層の没落であり貧困層の増大、格差拡大、米社会の荒廃である。
 トランプは社会の分断のなかで広がる人々の不満と不安を、敵をつくり、人種差別を煽り、フェイクニュースでごまかしてきたのだ。
 
 米支配層にとって、このような政府、やり方を「少し」修正せざるをえないところにまで追い込まれている。ただし、米支配層の利益を優先するなら、大きく転換することはなく、「落日の帝国」の様相を一層深めることになるだろう。

 トランプだから「暴君」として振る舞ったのではない。衰退する米国の「悪あがき」なのだ。バイデンになって「衣装」は変わるかもしれないが、「悪あがき」そのものは変わらない。  したがって、われわれの悪夢も当分、続く。(10月26日記)







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安倍政権がもたらしたもの--それは「日本の凋落」 [現代日本の世相]

安倍政権のもたらしたもの---それは「日本の凋落」 

1)安倍政権の「負の遺産」とは何か?

①一言でいえば、「日本の凋落」をもたらした。
②成長が見込めないまま巨額の債務を次世代に持ち越した。
③中間層を没落させ貧困層を増大させた。不安定雇用労働者を増大させ、格差を拡大した。
④戦後75年経っても近隣諸国と融和できず
エネルギー転換に失敗し、
米中新冷戦に手をこまぬいている。
⑦コロナ危機で「政府が機能しない」危機が露呈したが、いまだに解決できない。戦中の日本支配層と同じだ、間違いが露呈しても、修正や転換がもはやできない。
 コロナ危機に対し、同じ東アジアの中国、韓国はすでに経済成長局面に入っているのに、無策の日本は経済再開で大きく出遅れている。

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<「欧米に比べ、一向に上がらない日本の賃金」 10月15日 日本経済新聞>


2)アベノミクスは何をもたらしたか? 

大規模な金融緩和は脱デフレのカンフル剤にはなったが、弊害が大きすぎた。金融を超緩和したが、2%物価目標は最後まで達成できなかった。そのあと、低金利に誘導し、地銀などの経営難を招いた。

② 日銀による大量の国債購入による財政ファイナンスに走り、政治に財政ポピュリズムが蔓延した。
 その結果、先進国最悪の財政危機(GDP比266%)に陥っている。2度の消費税率引き上げでも克服できない。コロナ危機の財政対策でさらに財政危機が拡大した。もはや抜け出せない

③ 肝心の成長戦略は空回り。労働生産性はOECD諸国で下位に沈んだ。コロナ危機で「IT後進国」であることが露呈した。したがって、コロナ後の経済成長が欧米に比べてさえ、鈍い、遅れている。

格差拡大、日本の賃金は一向に上がらない。
 富の「トリクルダウン効果」(滴り落ちる効果)と称し、当初大企業・富裕層を豊かにしたが、大企業・富裕層はその後、利益を滴り落さなかった。中間層・貧困層にまで行き渡らせるどころか、中間層を没落・貧困化させた。日本の賃金は一向に上がらない。大資本は内部留保・民間企業預金を増大させ、金融資本・富裕層は資産を増やした。格差拡大がいっそうすすんだ。

不安定雇用低賃金労働者層を増大させた。「女性の活用」と称してパートや派遣などの、年金支給を抑えるため高齢者層の、「技能実習生」制度によって外国人労働者などの、低賃金単純労働者を増やした。結局のところ、旧態依然とした「不安定雇用低賃金労働者層」を増大させた。そのことは「労働生産性」が上がらないこと、賃金が上がらないことと表裏一体である。

⑥「新エネルギーへの転換」に失敗した。安倍政権は発足当初から、原発推進・高効率石炭火力発電を推進したが、現在では原発・石炭火力共に未来はないことが明確になった。世界は再生エネルギーへの転換に向かっている。
 エネルギーの未来を見誤り、エネルギー転換に失敗した。原発は危険であるばかりか、コスト高で(1kW 発電するのに16円かかる)経済性がない、世界は脱CO2からESG投資志向を強めており、石炭火力事業者はもはや資金調達できない。風力発電、太陽光発電に世界は移行しているが、日本は大幅に遅れている。

3)安倍政権の「政治手法」と長期安定政権であった理由

大資本が安倍政権を支持したことが「長期安定政権」になった第一の理由だ。政権発足と同時に大規模金融緩和を実施し、大資本・金融資本の利益を保障した。これにより、大資本が安倍政権を支持した。大資本に責任がある。

②格差拡大、貧困化がすすみ、不安や不満は広がったが、安倍政権の「政治手法」で日本政府・自民党に対する批判から目をそらしてきた。

 すなわち国内外に「敵」をつくりだし、中国、韓国・朝鮮を非難する排外主義を煽り、国民を分断支配し、市民運動・市民団体に嫌がらせし、人事で官僚を統制し、マスコミを支配し政権に都合のいい報道に統制した、とともに、政権周辺とつながったネトウヨによる宣伝・攻撃を行い世論をリードした。これらの「政治手法」が、安倍政治を支えた。

 特徴的なのは、「」でTV・新聞などの主要メディアを支配し政権の影響下において巧妙に利用したことだ。これと並行し「」で、ネトウヨを政権影響下におき、政権擁護の情報の発信、政権を批判する人の人身攻撃を行った。ネットと孤立した個人との直接結びつきをつくり、世論を形成する手段を手にした。
 これは安倍政権が獲得したかつてない「政治手法」だ。非常に危険だ。

山口敬之レイプ事件、森友学園事件、加計学園事件、桜を見る会、河井夫妻の事件などで、安倍政権は己の腐りきった本質をさらけ出した。不正をはたらき、それを隠すために嘘をつき、その嘘を誤魔化すためにさらなる嘘をつく・公文書を改竄するという悪循環。

 それは一人の真面目な公務員(財務省近畿財務局の赤木俊夫氏)を死に追い込んだ。高い倫理観を持つ者が罰せられ、阿諛追従(あゆついしょう)して嘘に加担する者が立身出世を果たすところに、その特徴がある。アベノマスク配布の事業委託による利益供与もそうだが、事件の内容・レベルが、政権周辺の人物に利権を配るという極めて低劣なところに特徴がある。「政権周辺にいれば利権を得ることができる」と誘導し、議員・官僚・業者らは群がり従い、意識的に政権取り巻きをめざすという「絵に描いたような」腐敗政治を行った。

4)外交、米国・トランプとの蜜月 

①トランプの「米国第一主義」を容認追随した。米国利害をもとに外交を展開し、国際関係を混乱させ、WTOやWHOを機能不全に陥れたトランプ政権を押しとどめるどころか、追従した。

②2015年の安保法制制定により、「集団的自衛権」を理由に戦争のできる国にした。米国に従った戦争である。「集団的自衛権」とは米国の自衛権であり、米国の戦争にほかならない。
 米国のパリ協定やイラン核合意からの離脱、INF(中距離核戦力)廃棄条約の破棄など、世界の安全と平和を危険に晒したが、これを真正面から批判しなかった。広島・長崎の戦争における被爆国であるにもかかわらず、「核保有国の橋渡し役を務める(=米国の顔色をうかがう)」という理由で、「核兵器禁止条約」を批准しなかった。イラン包囲の「有志連合」に実質的に加わり、集団的自衛権を楯に自衛隊を中東に派遣した。

米国の中国包囲網に加わり、米中新冷戦を止められなかった。それどころか米に追随した。ASEAN諸国でさえ、米中等距離外交を推し進め独立的に振る舞っているにもかかわらず、日本政府はトランプ外交に追随し、米国従属を深めた。

徴用工問題での対立で、韓国への半導体材料・部材の輸出を絞って「いやがらせ」をしたが、結果、シェアを失った。貿易などを見ても2000年頃の中国、韓国の日本経済への依存度は、高かったが、日本政府の嫌中・嫌韓政策により、中国・韓国とも独立志向を高め、2020年には日本経済への依存度ははるかに低下した。同様に東アジアでの日本経済の地位は大きく低下した。(日本経済のGDP世界シェア:2000年14%、2019年6%)
※下記参照:「中国の貿易に占める各国・地域の割合」

国際社会で日本政府の地位と権威が低下した。日本政府の国際社会への発信・外交は、トランプ追随へと一層傾斜して「独立性」を喪失し、国際社会は日本外交への信頼と期待を失った。
 曰く「日本政府の立場・見解は聞かなくてもわかる!どうせ米政府に追随するのだろう!
日本は国連の安全保障理事国になりたいと表明しているが、支持しかねる。なぜならば、横暴な米国の票が一票増えるだけだからだ。

4)「政治手法」を継承する菅新政権

 安倍政権の「政治手法」を引き継ぎ、既得権益層の利益を守る政権であり続けるために、首班として菅が選ばれた。
 菅政権は、「日本の凋落」をもたらした安倍の二番煎じ、三番煎じだ。期待などできない。

 菅政権の性格は、上記の安倍政権の評価、特徴づけをベースに捉えて大きくは間違っていないだろう。したがって、批判の方向、内容も当面、同じで、当面は問題なかろう。


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 ※中国の貿易に占める各国・地域の割合 (2020年7月15日、日本経済新聞)
    2020年1~6月期        2000年
 1)ASEEAN: 15%(約32兆円)   1)日本  :18%
 2)EU   :14%        2)米国  :17%
 3)米国  : 11%        3)EU   :16%  
 4)日本  : 7%          4)ASEAN : 7%
 5)韓国  : 7%        5)韓国   : 7%


s-ASEAN貿易の中国への依存度.jpg

(文責:児玉繁信)









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映画『時の行路』を観る [現代日本の世相]

 映画『時の行路』を観る 

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<映画『時の行路』のチラシ>

1) コロナ禍の今を重ねて観る!

 2008-09世界金融恐慌では、世界的な金融収縮から消費市場も収縮し、過剰生産恐慌にまで拡大した。映画が描く日本の自動車会社で起きた「非正規切り」は、生産を縮小するため生産子会社の派遣労働者や季節工の大量解雇である。犠牲を押しつけられたのは派遣や季節工だ。

 コロナ禍の今、外出自粛で飲食業、ホテル・観光業、人相手のサービス業で多くの失業者や休業による収入減の人たちが大量に出ている。今も犠牲は、不安定雇用の派遣や契約社員、家族経営の小経営に押しつけられる。資本主義は10年余ごとに世界的な恐慌が襲い経済が収縮するが、その犠牲を転嫁する先はいつも決まっている。危機になれば弱者に犠牲が集中し、格差は拡大する。同じことが繰り返されている。そのような日本社会のシステムができ上がっている。

2)「非正規切り」の描写が滑稽なほどリアルだ!

 主人公、五味洋介(石黒賢)は派遣社員だが旋盤工として4年も働いているベテランであり、解雇される前には正社員の技術指導も頼まれるほどだ。洋介が「派遣社員が正社員を指導するのはおかしくないかぃ?」と問いかけると、職制は「派遣も正社員もない、同じ社員じゃないか!」と強く答える場面などは、後に起きる事件から考えれば偽善的言い回しと分かるが、実際にはあの通りなのだ。

 「経営危機」を理由に派遣社員が解雇されるとなった時、人材派遣会社は「次の仕事を紹介するから、退職届にサインしてくれ!」と強引に洋介らを説得し退職させるが、次の仕事などない。追及すると「不況だから紹介できる他の仕事などあるはずはなじゃないか!」と居直る。その場面に併せて、人材派遣会社の社長が「派遣の解雇を実行するのが自分たちの仕事です」と言わんばかりにミカド自動車総務課長にもみ手でペコペコして姿も重ねる。自動車会社―派遣会社―派遣労働者の、「合法的だが偽善的な関係」、「現代における奴隷制度」を鮮やかに浮かび上がらせる。まるで絵にかいたような場面だが、こんなことは実際には広く一般的に起きているのであり、これこそリアルな描写なのだ。 

 派遣社員とは不況の際に切り捨てる要員であることは、誰が何と言おうが決して否定できない日本社会の「真実」であることを映画は描き出してる。
 
3)だれにでも起きることだ!

 解雇された労働者が労働組合をつくって闘うことは、解雇された労働者たちにとってそれほど簡単ではない。誰にでも起きることであるにもかかわらず、裁判まで闘うことは誰にでもできはしない。洋介の家族のなかでも負担の大きさから「気持ちのずれ」が生じる。争議に駆けずり回る洋介は、八戸の家族に今まで通り仕送りができなくなる。息子は大学進学をあきらめ、漁師になり祖父と一緒に漁に出る。そういう状況でもありながら、洋介には不当な解雇を告発し闘う以外に方法がない。それぞれに抱える事情や気持ちの揺れも含めて、描き出しているところは映画のいいところだろうと思う。

 争議に奔走する洋介が、闘争のさなかに死んだ妻・夏美の八戸の実家を訪ねた時、義父(綿引夏彦)が「夏美もおめえも運がわりぃな」と呟いて、洋介を家に上げる場面がある。確かに運が悪いには違いない、だがそれは誰にでも起こりうるということだ、映画はそう主張している。

 洋介たちは裁判を起こし不当解雇を訴える。ミカド自動車は利益は減少してはいたものの黒字であり他社の比べ打撃は小さく解雇理由とはならない。ミカド自動車の内部資料を元に、解雇要件を満たさない、不当解雇と主張するも、裁判所はこれを認めない。地裁、高裁で敗訴、最高裁でも控訴棄却となり敗訴が確定する。

 実際のところ、このような敗北は現代日本社会ではよくあることだ。裁判まで起こして解雇不当を訴えるのは大変なことであり、当事者も支援者も労力を注ぎ込まなければならない。しかし裁判にたどり着いても、裁判所は決して労働者の味方ではない。そんな現実までリアルに描き出す。個人的な勝利を描いてハッピーエンドにしなかった、これも原作や脚本家、監督の主張なのだろうと思う。

 八戸から東京での争議に夜行バスで戻る洋介の横顔をアップで止めて映画は終わる。洋介にはまだ困難な闘いと生活が続くのだろう、それを暗示する。観た者は、八戸の五味洋介一家の不幸にとどまらない日本社会の多くの働く者の不幸であるこのリアルな現実を思い知り、暗然たる気持ちとなって、あるいは重い荷を背負い込んだ気持ちになって、映画館を後にするのだ。(文責:児玉 繁信)






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格差拡大は、安倍政権の「功績」 [現代日本の世相]

格差拡大は、安倍政権の「功績」
貧困化と格差を止めよう!


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<8月28日、安倍首相は辞任を表明。写真は会見する安倍首相。(2020年 ロイター)>
              
1)安倍が退陣した

 安倍首相が退陣した。首相連続在任日数を更新したので、目標を見失ったのかもしれない。
 この半年間の安倍首相の対応には、危機に際して自分の頭で考え、自分の言葉で国民に訴えるメッセージが欠如していることが、とくに鮮明になった。5月にコロナ感染症が一旦終息したかに見えたときに、安倍は「ジャパン・モデル」として自慢して見せたが、7月に第2波が起きてメンツはまるつぶれとなり、記者会見を開かなくなった。退陣は、政権を「放り出した」というのがより正確かもしれない。そもそも「リーダーとしての見識」がまったくない口先だけの政治家・安倍は、自分ではコロナ危機を克服できないことを思い知り、持病が悪化したかのように見える。コロナ危機は各国政府と政治家の「優劣」を暴き出したようだ。
 退陣の真相はどうでもいいが、安倍が退くのはいいことだ。

 安倍政権にはコロナ対策の司令塔が存在せず機能してもおらず、「無為、無策」のままだ。施策といえば「マスク2枚と10万円の給付金」だけだった。あとは国民にひたすら自粛を要請する。
 安倍政権はPCR検査数を絞り、非感染者と感染者を分けないで、全員自粛、3密を避ける、マスクせよと国民に要求するだけで、いつまでたっても終息しない。第3波、第4波・・・・がいずれ繰り返される。これでは経済再開ができない。「雇用調整助成金」や「Go toトラベル」(1兆7000億円)など、費用ばかりかけるものの効果のない、先の見えない対策しかできない。

 「検査・追跡・隔離」を実施することは感染症対策の基本だ。政府・厚生労働省は、PCR検査を大規模に実施するつもりがない。PCR検査をいかに大規模に、素早く実施するか方針と計画を語り実行する専門家は、少なくとも厚生労働省、専門家会議、分科会には一人もいない。日本のメディアも同様で、コロナ禍を通じ日本には「科学ジャーナリズム」が存在しないことも判明した。安倍政権の太鼓持ちとなるようなジャーナリズムが、「科学ジャーナリズム」であることはない。

 東京都医師会の尾崎会長は、拡充しない検査体制に業を煮やし、都内のPCRセンター設置を主導し、医師会として「現行法の中でできる対策を考える、国に頼ることは、もう諦める」(8月28日)とまで発言するに至っている。

 逆に、安倍政権の無策を指摘しPCR検査の拡大を訴える専門家は、おそらく安倍政権の周辺から人身攻撃される有様で、そんなことまでやるのかと思うくらいだ。確かにこれは安倍政権のこれまでの政治手法そのものだなと思い至るが、あきれるばかりだ。

 ただ、幸運なことに日本では欧米に比べ死者の数が少ない。おそらく過去に黒潮に乗ってやってきたであろうおたふくかぜ、SARSやMARSなどのウィルスに対する免疫が形成されていたため、死者が少ないのであろうと推測されている。いずれ理由は解明されるだろう。日本の指導者にとってはきわめて幸運なのだが、これを生かすことさえできなかった。人口10万人当たりの感染者数でいうと、日本は東アジアでフィリピンに次いで2番目に多いのだ。

2)コロナ後、日本はどうなるのか?

 日本経済は20年4-6月▲27.8%減(年率)となり、530兆円あったGDPは485兆円にまで減少し、2012年以前の水準に戻っている。米、欧州、インド、ブラジル等も同様で、コロナ感染症を抑えきれず経済活動は後退を余儀なくされている。

 そのなかで注目されるのは中国、韓国、台湾、シンガポール、ニュージーランドなどだ。徹底した大規模なPCR検査を「いつでもどこでも誰でも」を実施する態勢を構築し、感染者と非感染者を隔離し治療し、感染者を早期に無くし、国境での人の行き来は制限しているものの、経済活動を再開している。中国経済は20年4-6月期はすでにプラス成長に転じている。これこそ「with Corona」と呼ぶべきだ。日本のメディアはこういった諸国のコロナ対策「成功例」を少しも報じない。報じれば安倍政権への批判・当てつけになるからだろう。

 コロナ後、日本はどうなるのだろうか?
 コロナ危機への緊急経済対策として、各国中央銀行(FRB、欧州中央銀行、日銀など)は異次元の規模の金融緩和し、政府は財政出動を行っている。その結果、実体経済は落ち込んでいるのに金融経済は肥大化し、各国政府は財政赤字を増大させている。金融危機を回避するためとはいえ、実際には資産を持つ富裕層・金融資本の救済である。実体経済が落ち込んでいるのに株価や金融資産は逆に高騰している。コロナ禍で弱者は淘汰され、富裕層は救済される。そのため、コロナ後に生まれる世界は一層の「格差と貧困」となることは容易に推測される。

 1990年ころまでは「1億総中流」の日本社会といわれ、今と比べれば「厚みにある中間層」が形成されていた。この30年間、日本経済はほとんど成長せず、そのなかで雇用者数でいうと製造業労働者が減少し、より賃金の低いサービス業労働者、福祉・介護職がふえた。同時に、正社員が減少し,派遣社員・契約社員、パート・アルバイト労働者が増え、雇用条件と賃金は悪化した。そして安倍政権はとくに、旧態依然たる低賃金単純労働として女性労働者や高齢者の活用し、さらには外国人労働者(技能実習生)を増大させる政策を採ってきた。その結果、日本のサービス業の生産性は先進国のなかも断トツで低く、低賃金で旧態依然の企業が存続している現状をつくり出した。2019年には年収200万円未満の労働者は1,927万人(全労働者5,995万人の32%に当たる)にまでになっている。日本社会で貧困者が増えたのは歴然たる事実だ。かつての「一億総中流」から「格差と貧困の社会」となった。日本における格差拡大は、安倍政権の立派な「功績」なのである。コロナ禍はこの格差をさらに拡大しつつある。

 その「格差と貧困の社会」では人々のあいだで不満と不安が生じるのだが、人為的に敵をつくり、中国や韓国を非難し排外主義を煽り、人々を分断して惑わし支配する政治を行って「安定政権」を維持したのが、安倍政権の独特な特徴ある「政治手法」なのだ。
 人々を分断させ対立させる安倍政治はまっぴらだ。

3)貧困化と格差を止めよう!

 日本社会には、この先、大変革が必要だ。貧困化と格差拡大を止めなくてはならない。
 安倍政権のあとの政権には、安倍の政治手法を継承させてはならない。どのようにしたら格差社会を解消できるか、貧困層を少なくさせるか、教育と福祉を充実した社会を実現できるかが大きな課題となる。私たちにとって大切なめざすべき目標となる。

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先進国は日本化をたどる! 金融が歪む! [世界の動き]

低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散する
先進国は日本化をたどる! 金融が歪む!
資本主義は、これを解決できない!

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<日銀>

1)コロナ経済危機 

 米国の6月の雇用統計(7月2日発表)では、失業率:11.1%、失業者は1,775万人
 米政府の「給与保護プログラム」(6,600億ドル、12月末が支給期限)は、「5,000万人の雇用を支えた」(ムニューシン財務長官)という。

 欧州の5月失業率は7.4%。企業に政府が給与の一部を支払う政策で支える雇用は、EU主要5ヵ国(独、仏、伊、英、スペイン)で4,500万人に達する。労働者全体の約3分の1に及び、EU各国は数兆円の財政負担を強いられている。

 日本の場合、国内の宿泊業や飲食業をはじめとした休業者数は5月に423万人に達した。補正予算で1.6兆円を計上した「雇用調整助成金」の利用者は延べ300万人程度であるが、9月末に支給期限を迎える。

 コロナ危機で需要が消失し、世界各国で生産が縮小し、落ち込みは2008-09年金融危機以上となっている。サービス業、製造業で倒産が相次ぎ、失業者が増大している。いずれ「コロナ恐慌‥‥」と誰かが名づけるだろう。

 先進各国を中心に、財政出動し、消失した需要の一部を支えている。そのことで各国の財政赤字は一挙に膨らんだし、今も膨らんでいる。 

 それとともに、先進各国の金融政策が大きな変貌を遂げている。2020年3月、コロナ禍への対応で先進各国の中央銀行は大量に国債を購入し、強引に流動性を確保し金融危機を回避した。社債やCPの購入等、一時的な企業の資金繰り支援にまで踏み込んで、金融崩壊を食い止めた。その額がとてつもない規模になっている。この金融政策は今も続いている。

 このような金融政策は、すでに信用配分の領域に踏み込んでおり、かつて非伝統的とみなされていた金融政策が「ニューノーマル(新常態)」となりつつある。金融崩壊を避ける為の「やむを得ない対応」だが、やめるにやめられなくなっている。抜け出せない深い穴に向かって螺旋的に回転しながら落ちていっているかのようだ。

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<FRB>


2)ジャパニフィケーション
 低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散する

 日本の賃金はこの30年、ほとんど上昇していない。最低賃金(時給)900円さえ実現していない。女性や高齢者、技能実習生などの低賃金不安定雇用の単純労働者層を新たにつくりだし、労働市場に投入してきた。低賃金を利用した旧態依然の関係を温存してきたため、低生産性の企業は温存され企業の新陳代謝は遅れ、全体として日本企業の労働生産性は低いままだ。OECDで最低の部類に入る。

 賃金は上がらず、労働者数は減少し、高齢化が進むので、総需要が総供給を下回る状況が続く。需要低迷が長期化すると、人的資本投資や研究開発投資が阻害され、潜在成長率の低下が継続的に起こる。すでに実質金利(自然利子率)の低下は続いている。実質金利は自然利子率より下げられない。したがって、十分な景気刺激効果が得られない。日本経済は四半世紀にわたり低成長、低インフレ、低金利が続き、これが常態化した社会・経済となり、金融政策が「ニューノーマル」の時代を迎えた。

 そのようにして、日本経済は潜在成長率を一層低下させてきたのである。この30年間におよぶ「日本の停滞」が欧米の先を行く「日本化」と呼ばれたのだ。
 
 その背景には、新自由主義という現代資本主義が社会構造を変質させたことにある。大多数の人々のゆっくりとした、しかし確実な貧困化が進んだ。富は一握りの上層に集中した。

 低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散し、政府債務が増大する、これを「日本化(ジャパニフィケーション)」と呼ぶ。先進各国の「日本化」はささやかれてはいたのだが、今回のコロナ危機で各国とも一挙に「日本化」に踏み出し、新たなグローバルスタンダードになったかのようだ。

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<欧州中央銀行>

3)歪む金融、各国の金融政策はどこに向かうのか?
 
 「日本化」は実体経済の長期低迷という側面にとどまらない。財政・金融政策の面での債務拡大をもう一つの特長としている。今回のコロナ危機で各国中央銀行とも国債を大量に購入し、債務を一挙に拡大させた。主要先進国における「日本化」は、グローバル金融危機以降の政策対応の帰結として「必然的なもの」となった。

 金融政策は一貫して名目金利の実効下限制約に直面し続けるから、低成長、低インフレが継続するなかで低金利環境の長期化はある意味で自然なことだ。だが金融政策運営では、危機に際し国債を購入して対処する緊急時の「非伝統的政策」が恒常的な政策手段となり、中銀のバランスシートの膨張が続くことになる。

 コロナ危機によって世界的な恐慌となった時、各国政府、特に先進国政府・中央銀行が、日本と同じ金融政策を採った。政府は国債を増発し、中銀が国債を大量に購入し、先進各国が一斉に日本が先に採用した金融政策を踏襲したのである。

 2020年3月以降、FRBのバランスシートが金融危機時以上に急拡大している。財政赤字拡大で米政府債務残高のGDP比は、第2次世界大戦直後の水準を超え、財政再建の重い荷物を背負う。
 日本は、コロナ対策で第一次、二次の補正予算も含め、20年度支出は160兆円を超え、新規赤字国債発行90兆円を含め20年度の赤字国債発行総額は253兆円と過去最大となる。基礎財政収支の赤字幅はマイナス60兆円に膨らんだ。財政事情は一段と悪化する。

 2020年末の日米欧の中央銀行の資産は、前年末比1.5倍の約2,400兆円と、世界GDPの約6割に膨張する見込みだ。金融危機が起きた08年末は、600兆円未満だった。中央銀行の担う金融政策への過度の負担が加速度的に増大しており、将来の正常化を困難にしかねない。

 その結果、中央銀行による緊急時の金融政策は、財政政策との境界が極めて曖昧となってしまった。特に金融資産の大量購入により様々なリスクへの対価に働きかけることで、価格・数量の両面から資源配分へ強力な介入をしたことになる。コロナ危機後もこうした金融政策が先進国で共通した対応となり定着するだろう。

 他方、財政政策面でも主要先進国はコロナ危機への対応として未曽有の財政拡張策を繰り出している。日本と同様、大規模な政府債務の下での政策運営を余儀なくされるようになる。財源は国債を増発して賄い、中銀が低金利環境を維持することで、実態として財政の持続可能性を支える構図が定着していく。定着すれば、何があっても低金利にしなければならなくなる。国債金利が上がれば、国債利払いだけで国家財政が破綻するからだ

 日本では2016年以降、短期・長期金利の双方に操作目標を設定する「イールドカーブ・コントロール政策(YCC)」がとられている。この枠組みは低金利環境を安定的に実現することで、金融政策の政府債務管理政策への統合を暗黙裡に可能としている。中銀は「政府からの独立性」を標榜してきたが、実質的に政府と一体の金融政策に近づきつつある。

 これは、目先の財政政策を実行したい政府にとって、中央銀行の金融政策が利用しやすくなるだけだ。ある意味「中銀の独立性」破壊であるが、そんなこと以上に、政府が将来にツケつけを回し、より大きな破綻を準備する上での「障害」を無くしているに他ならない。破綻への道を突き進んでいることこそ大問題なのだ。

 現代資本主義はこの債務拡大を押しとどめることができない、押しとどめる要因を内部に持っていない。そのことは、現代資本主義システムが、持続可能な社会システムではないと主張しているようなものなのだ。

4)中央銀行の金融政策に依存する政府
  中銀の資産膨張のリスクは解決できるのか? 
  それとも破綻するのか?

 「日本化」の下で恐ろしいのは、政府が中銀の資産膨張のリスクに関与しないこと、しようとしていないことだ。

 中央銀行は、金融・経済の安定を確保するため、財政の持続可能性に一層注意を払う必要があり、物価安定よりも、長期金利を低位安定をめざすことになるだろう。それは中銀による大規模な国債購入によって長期金利を低位安定させることになる。中銀による政府財政政策への配慮は、中銀への更なる依存と制御不可能な財政膨張を招くリスクを増大させる。金利の低位安定の金融政策運営は、実際的には政府の債務管理政策として機能し、財政政策と金融政策の境界を事実上取り払う。この場合、金融政策への更なる依存が、政治的により安易な選択肢となる。結果として、制御不能な財政膨張と一段の金融政策への依存へと進んでいく。

 今回のコロナ対策のように中銀ファイナンスによる財政拡大は、例えそれが必要であり暗黙裡なものであったとしても、無コストでないことを政府・日銀は公けに確認し、政府が責任を持つことが何よりも重要だ。

 これまで避けてきたし逃げてきた、そうやって繰り延べしてきた。その結果、膨大な債務が蓄積した。もはや避けることができない、逃げることができない局面に直面している。
 目の前の危機の回避に努めることで、より大きな危機を準備している。最終的な「破綻の道」へ進むように「収斂」しているかのようであり、避けられそうにないということだ。

 安倍政権の政策、振る舞いは、「いくら国債を発行しても、日本銀行がそれを際限なく購入すれば、誰も財政負担をしなくていい」というおとぎ話を信じているようにしか見えない。目の前の国民の支持を得るため借金を重ね、ツケは将来の世代に確実に回る。ツケが回るだけでなく、それ以上に、将来の日本経済が破綻するしかなくなる。
 もっとも、いつ、どのような道筋を通って、どのように「破綻」が訪れるかは、誰もわからない。

 しかし、破綻となれば、最終的には国民にツケが回る。
 国民にツケが回るとはどういうことか? 例えば、ギリシャ危機後に被ったギリシャ国民の困窮を思い起こさなければならない。
 あるいは、円が暴落し高インフレとなり、戦時国債が暴落し紙切れになり、大半の国民が生活困窮に陥ったあの敗戦直後からの数年のような事態が、われわれに降りかかることを思い起こさなければならない。

(文責:小林治郎吉)









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米シェールの落日、稼働リグ数 7割減  [世界の動き]

米シェールの落日、稼働リグ数 7割減 

 米シェール業界の苦境が鮮明だ。
 世界の石油需要が急減し、石油価格が暴落したため、シェールの新規開発と稼働の7割が止まった。
 6月28日、チェサピー・エナジー社が経営破綻した。1989年創業の草分け的存在だった。
 4月以降、中堅企業であるホワイティング・ペトロリアムエクストラクション・オイル・アンド・ガスが相次ぎ破綻した。
 石油・ガス開発企業の経営破綻は20社以上に及ぶ。

 シェール開発のペースを示す全米のリグ(石油掘削装置)の稼働数は、6月27日に188基と、19年3月のピークから7割減だ。

 1バレル40ドル以下では多くのシェール企業が採算割れとされ、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、WTIが40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内に債務不履行に至るという。(現時点で1バレル30ドル台後半)
 ただし今のところ、世界のハイ・イールド債を組み込んだ上場投資信託(ETF)の価格は、チェサピー・エナジー社のデフォルト認定後も底堅く推移している。

 ちなみに、サウジ・アラムコ社の生産コストは、1バレル2.8ドルとされる。
 もっとも、サウジ政府財政は1バレル70~80ドルを前提に予算を組んでおり、大幅な財政赤字になる。他の産油国も同じだ。

サウジ原油4割上昇、シェールオイルが再稼働しない価格水準まで上げるつもりだ

サウジ原油価格の6月積み価格(7月2日、日経)
● エキストラライト:34.68ドル/バレル 前月比40.6%上昇
● ライト     :35.28ドル        42.4%
● ミディアム   :35.48ドル        43.8%
● ヘビー     :35.48ドル        43.8%

 世界の経済活動再開と産油国の大減産で需給のバランスが締まってきた。
 サウジをはじめとする産油国は、米国のシェールオイルリグが再稼働しない40ドル/バレル以下を目安に価格調整を図るだろう。思惑通り行くかは不明だが、米シェールオイルの大半が採算が合わないため生産を止めているので、OPECプラスが減産調整すればある程度、狙った価格(=40ドル以下)に落ち着く可能性は高い。

 米国のシェール企業は、「低格付けの債券」を発行し、資金調達して、開発・生産・販売している。石油価格が40ドル以下になれば、資金を返済できなくなり、倒産する。

 通常の経済状態であれば、こんな時には、石油メジャーがこれらシェール企業を買収し傘下に入れ独占化するのだが、石油価格暴落で、エクソン・モービル、シェル(英蘭)、シェブロン、BP(英)などメジャーのどこもがどこも膨大な赤字を抱え、資金的余裕がない。

 サウジやロシアなど「OPECプラス」は、当面は原油価格が40ドル近くになるように生産を調整し、シェール企業を市場から駆逐するように努めるだろう。今なら、在庫を放出したり増産すれば、容易に価格を40ドル近辺に調整することができる。
 これまで「OPECプラス」の減産調整にまったく従わず、自分勝手にシェアを拡大してきた米シェール企業に、「OPECプラス」の怒りは蓄積している。この機にシェールオイルのシェアを奪うだろう。

 いずれ経済が回復すれば、原油需要も増え、価格も上がっていく。
 シェールオイルは、採掘再開が比較的容易なので、40ドルを超えたら、シェール企業はどこかの資本により買収され再編され、再び石油世界市場に参入するだろう。

 「OPECプラス」は、石油価格が暴落し低迷するそれまでの間を利用し、米シェールに奪われたシェアの回復を狙っている。石油の世界需要が減退しているこの時期だからこそ、できる対応だ。

*************
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<コロナ禍による原油価格暴落によって、北米のシェールガス油井の多くは稼働が止まっている(写真:ロイター)>


8月1日 追記

 この記事を書いた後、7月20日、米メジャーのシェブロンが、米シェール大手「ノーブル・エナジー」を買収したという発表があった。株式交換による買収額は、50億ドル(約5,300億円)で、コロナ危機後、石油業界最大規模だ。シェブロンも石油需要減退と価格低下で大幅な赤字となっており、手元に資金がないので「株式交換」による買収とした。

 シェール企業の経営は悪化、安値になっている。今後は資金力のある大手による買収が加速しそうだ。とくに石油メジャーが狙っている。

 「ノーブル」は株価が9ドル台(前週末)、コロナ危機前のおよそ半分だという。
 シェブロンにとっては、割安でシェール利権を取得できる。ノーブル社は、パーミアン盆地に大規模なシェール油田を保有するとともに、イスラエル沖にも高収益海洋油田を持つ。

 シェブロンはパーミアン開発で競合するエクソン・モービルに後れをとっており、ノーブル買収で巻き返しを図るのだそうだ。

 また、7月29日、東京ガスが、米テキサス州、シェールガス企業のキャッスルトン・リソーシズへの出資を70%超にまで引き上げ、子会社化すると発表した。投資額は約700億円。

 シェブロンの買収に比べれば小規模だ。ただ、今後破綻するシェール企業が続くだろうし、資金力に余裕のある資本による買収が進むだろう。


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東京オリンピックは開催できない [世界の動き]

東京オリンピックは開催できない
中止に追い込まれるだろう


1)コロナ危機が治まらないからだ!
 全世界では依然として、1日15万~20万人規模での新規感染者が増え、5,000人以上の死者が出続けている。ワクチンはオリンピック開催までには間に合わない。

2)日本政府はコロナ感染をコントロールできていない

 7月に入って、東京で連日100人以上の感染者が出ている。
 問題なのは、政府の対応だ。日々の患者数に「一喜一憂」しているありさまだ。

 感染の実態をいまだに把握していないし、把握しようと努めていない。患者数は公表するが、検査数はいまだに公表しない。広くPCR検査、抗体検査を実施し、感染がどの地域・部門に、どの程度広がったか、あるいは広がっているか、という実態をいまだに把握していない。
 把握していないので、効果的な対策を立てることができていない。

 実態を正確に調査し把握し、責任をもって対策を実施する司令塔と対策実行チームが、いまだに存在しない。

 そんな状態であれば、対策を立てられるはずもないし、実行することもできない。
 そんな状態で繰り出すことのできる対策は、感染者も非感染者も区別できないので一緒にした大まかな対策、「外出を自粛しよう」、「夜の街に近づかないように」などなど、場当たりの、ピント外れの、闇雲に鉄砲を撃つようなものとならざるをえない。

 このような状態は、感染をコントロール下においているとは到底言えない。一年後もこのような状態であれば、オリンピックは到底、開催できない。

 コロナ危機は、第2波、第3波と続く、コロナ感染があることを前提とした生活様式である「新常態(ニューノーマル)」に転換し、感染をコントロールできる態勢をつくりあげなければならないのだが、日本政府や東京都はこの長期にわたる戦略を立てていなかったことが暴露された。第1波を乗り超えた後、第2波が来た時にどうするかについてさえ、何の戦略、何の対策も持っていなかった。

 ただ明確になったのは、政府も東京都もすでにコロナ対策予算は組んだが、これ以上の財政支出はしたくない、「緊急事態宣言」を再度発令すれば雇用調整助成金や休業補償金などの支給で更なる財政支出を迫られる。だから、患者が増えようと、経済活動を再開するしかない、という選択をした。当事者の表現だと「ギリギリの選択」だという。実際には「泥縄」の対応を行ったのである。そんな政府と東京都の「無為、無策」の実態が明らかになった。

 コロナをコントロールするというよりも、コロナにコントロールされている、コロナの支配下にあるというのが、日本政府のコロナ対策のより実態とあったより正確な描写なのだろう。

3)オリンピックは世界中の国と人が参加する

 オリンピックは日本だけで開催するのではない。世界中から参加する。
 全世界では依然として、1日15万~20万人規模での新規感染者が増え、5,000人以上の死者が出続けている。
 
 まず、7月8日現在、大国アメリカで感染拡大が止まるどころか、増え続けている。経済封鎖に耐えられず経済活動を再開したところ、テキサス、アリゾナ、フロリダ、ニューメキシコ、カルフォルニアなどで増大しつつある。コロナ対策で都市封鎖すれば経済が停滞する、財政危機にある米政府は財政支出する枠がないし、そのつもりもない。そのためトランプ政権はコロナ患者が増大しても、経済活動を再開することを選んだ。

 医療技術が最も進んだ米国で患者が増大しこれを抑えられないというのは、極めて奇異なことだ。そもそも医療費が高く、しかも無保険者が3000万人いる、コロナにかかっても病院に行けない多くの貧困層が存在する。「アメリカの医療制度は大多数の貧困者の為にあるのではない」という「真実」が、多数の犠牲者を出して見事に暴露されたようだ。人種間で死亡率の格差が出ている。人間の命に格差があるのだ。新自由主義で医療や福祉を削ってきたその結果である。これが先進国と呼ばれてきた米国で患者と死者が急増した根本的な原因だ。

 英国が欧州で死者が最も多いのも、米国と同じく新自由主義で医療や福祉を削ってきたからで、その政策の進め具合の違いで、ほかの欧州諸国との違いが出た。

 ブラジルやインドでも患者数は増大している。これら諸国はそもそも国民が必要とする医療制度が整備されていない

 中南米で、アフリカで、あるいはロシアでも患者数が増大している。これらの諸国・地域でもコロナを抑え込むめどが立っていない。

 一方、東アジアの中国、韓国、台湾がコロナをコントロール下に置き、経済活動再開を成し遂げつつある。新たにコロナ感染が起きても、その対策実施の態勢はすでに準備されている。徹底してPCR検査を実施し、感染者を分離し治療する。世界中が東アジアの国々と同じようであれば、目途も立つだろうが、そのようにはなっていない。

 すでに、世界各国でオリンピックの予選を実施するのは困難だ。予選ができない国、選手を派遣できない国が続出するのは、ほぼ確実だ。

4)ワクチンに期待を寄せていいのか?

 ワクチン開発はオリンピック開催までには、おそらく間に合わない。また、効果がどれくらい続くのか? ウィルスの変異に追いつけるのか? などという疑問もある。

 ワクチンを開発しても世界中の人に配布しなければならないが、現在は各国がワクチン枠の確保に狂奔している有様だ。オリンピックに参加する世界中の人にキチンと配布する「社会システム」はできていない。費用を誰が負担するのかという問題も解決していない。これらを1年以内で解決するのは、不可能だろう。

 したがって、ワクチンに期待を寄せるのは、はなはだ怪しいのだ。

 おそらく人類はこの先、コロナウィルスと長くつきあっていかなくてはならないのではないか。
 むしろ、ワクチン開発という「技術的問題」ではなく、コロナウィルスをコントロール下において生活する、経済活動をする「新常態」に転換することが重大なのではないか。むしろそのような社会システムをどのようにつくり上げるかという「社会的問題」なのではないか。

5)わかっていても誰も言い出さない

 現在において、東京オリンピック開催は不可能な事態であるのは、誰でも容易に想像できるが、誰も言い出さない

 どうしてだろうか?
 日本のジャーナリズム、メディアは決して触れない。いろいろ窺う顔を持っているのだろう。
 安倍政権の意向をおもんばかってか、誰も言い出すものがいない。
 あるいは、安倍政権自体も、自分で言うと非難されそうなので、IOCに先に言ってもらいたいと思っているのかもしれない。オリンピック選手の姿を見ると、本当だけど言えない、と言い訳の理由を準備する人もいるだろう。
 最近の日本社会の特質になっている。

 いずれ、20年2月に起きたとおなじように、海外から2021東京オリンピックは開催できないという声が、ポツポツと上がり、それから「右見て、左見て、周り見て」、中止の声の大きさを慎重に測ってから、最終的に中止に至るという過程をたどるだろう。






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コロナ後の世界と日本はどうなるのだろうか? [世界の動き]

 コロナ後の世界と日本はどうなるのだろうか?

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<トランプと習近平>


 数年前から、今後は「米中二極の新冷戦時代」を迎えるのではなかと言われてきたが、その様相は予想以上に混乱したものになりつつある。落日の帝国アメリカの勝手な振る舞いで、国際協調は過去のものとなり、混沌がひろがっている。米国はコロナ被害が最も大きく、当面は感染拡大防止に注力せざるを得ない。国際的なリーダーシップを発揮する意志もなければ、その力もない。トランプ政権は11月の大統領戦に勝利する目的のためだけに、国内および対外政策を繰り出している現状なのだ。

 コロナ対策で成功したのは、台湾、シンガポール、韓国、中国だ。政府と政権の対応能力の高さを示した。コロナ危機は、各国政府と政治家の「優劣」を暴きだしたようだ。日本の政権と政府の能力もどれほどのものか、すでに暴き出されている。

 トランプ政権は国内支持獲得が最大の関心事となり、その要因から「自国第一主義(アメリカンファースト)」と保護主義に傾斜した。米国はこれまで築いてきた「国際協調」(=米主導の世界支配であったが、)を破壊し、超大国の地位を利用し専横に振る舞っている。WTOはすでに機能不全状態だ。トランプ政権は中国寄りだとしてWHOも非難している。コロナ対策の国際協調さえ放棄した。

 一方的に制裁を振り回すトランプ政権の政策は、ほぼ失敗に終わりつつある。米政府が米中貿易戦争を始めて以来、米の対中輸出は大きく増えていない。大豆など農産物等はブラジルからの輸入に切り替えられた。ハイテク分野の世界市場では中国のシェアが高まり、米国のシェアは下がった。圧倒的に大多数の米業界、米企業が現政権の通商政策を支持していない。
 国際協調の破壊、保護主義、中国との対立深化の政策は、米議会、民主党でも同じであって、米国内事情からすれば大統領がバイデンとなっても大きく変わることはないだろう。

 しかし、米国がいくら中国を嫌っても、中国と経済で別れることはできない。米国は「5G」で先行する中国の華為を世界市場から締め出したいが、もはや不可能である。中南米、アフリカ、アジアなどの新興国や途上国は、価格が安く性能が優れている華為の5G 用の通信機器設備を導入しており、急速に普及している。米国や欧州、日本市場で華為製品の締めだしを画策して果たして成功するか、いまだに結果は不明だ。この争いの決着には、おそらく時間がかかる。

 日本企業の一部は、中国工場を移転し中国への依存を減らそうとしているが、あくまで「小さな調整の範囲」にすぎない。グローバル化した経済を元に戻そうなどということは、もはや不可能だ。コロナ危機で陶器製便器が中国から入荷せず、日本の住宅建設が止まったことを想起すれば明らかだ。

 日本はすでに中国経済圏内にいる。日本政府は「中国+1」戦略を探るが、中国に代わるその「」がなかなか見つからない。一部のサプライチェーンの国内回帰などの再編模索は続くかもしれないが、グローバル化と自由貿易の流れからの逆戻りを意味する生産部品や生産工程を全面的に中国から移転するのはもはや不可能である。

 中国経済は、おそらくコロナ危機から最も早く回復する国の一つであり、世界経済における中国の地位はより高くなっていくだろう。ただ、すぐに米国にとって代わるまでには至っていない。「一帯一路」構想は新しい中国経済圏をつくりつつあるが、いまだ途上である。

 半導体分野での多くの技術は、米国や欧日企業がいまだ握っている。半導体を巡る覇権争いは激しい競争を繰り広げている。中国は半導体の自国開発・生産を目ざしており、莫大な投資をしている。いずれ、半導体国産化が進行するだろうが、いまだ多くの課題が残っており、この覇権争いも決着がつくまで時間がかかる。

 したがって、米中の双方にとっても、しばらくは対立しながらも、どこかで均衡点を見出すしか選択肢はないはずなのだ。その「新たな現実」を、落日の帝国・アメリカ政府支配層が冷静に認識し対応できず、「米国第一主義」を振り回し、国際協調を破壊し、世界の分断を深めている。そのことは自身の退場する道を掃き清めているに他ならないにもかかわらず、だ。

「コロナ後」、日本経済はどんな姿になるだろう

 日本経済の成長率が、一段と低下するのは避けられない。
 今回の突然の「3密回避」で、サービス業(観光業、飲食業)を中心に収入の道を遮断された労働者や中小企業が生存の危機にさらされた。社員が出社できないので製造業、特に自動車産業は大幅に減産となった。
 収入が減ったことで消費需要は減退し、投資需要も長期間にわたって停滞する。今後は経済全体として貯蓄性志向が高まるはずだ。
 コロナ危機からの速い脱却が必要なのだが、日本の経済活動の再開は、遅い部類に入るようだ。
 
 一方で、日本のデジタル化が大きく打遅れていることが明らかになった。
 先進諸国では小中学校、高校でコロナ危機のあいだ、Web授業が実施された。できなかったのは日本だけだ。萩生田文部科学大臣が愕然としたそうだが、長期間にわたって教育費を削ってきた結果だということまで、認識したかどうかは不明だ。
 AI技術者、IT技術者の養成・教育が遅れ、その人数が圧倒的に少ないことも明らかになった。
 雇用調整助成金、定額給付金などの申請もネット上では結局できず、政府・自治体内でのデジタル化の大きな遅れも露呈してしまった。

 ただ、遅れていたとしても、この先デジタル化、AI導入、5G普及による産業再編は避けられないだろう。
 長期的には、AIロボットの導入・普及によって供給はむしろ増加する展開になると思われるが、宋だとしても収入格差が解消に向かわなければ、おそらく需要が追いつかないので、これまでと似たような成長率が低下したままデフレ経済化が進むのではないか。

 財政事情は一段と悪化する。コロナ対策で第一次、二次の補正予算も含め、20年度支出は160兆円を超え、新規赤字国債発行は90兆円、基礎財政収支の赤字幅はマイナス60兆円に膨らんだ。

 税収は減少し、税収だけで政策的経費を賄うのはこれまでもできていなかったが、今回、国の借金は一挙に積みあがった。財政収支の黒字化は遅々として進まず、それどころか危機のたびに国債を増発し賄うパターンを繰り返し、政府債務は今後も増え続ける。

 コロナ後を見据えた財政健全化の抜本的見直しが急務だが、政権のこれまでの振る舞いを見れば、そのメドは立たない。むしろ遠ざかっているというしかない。もはや実現不可能の領域に入り込んでいる。

 おそらく、この様な繰り返し(=「日本経済の停滞感、埋没感」)こそが常態となるのだろう。日本の「新常態(ニューノーマル)」とは、上記のような姿なのだ。

 そんななか日本はどう進むべきか?

 1988年(昭和最後の年)日本のGDP世界シェアは16%だった。日本を除くアジアは6%で、かつて日本はアジアで断トツの経済大国だった。

 21世紀に入る前年の2000年、日本のGDPの世界シェアは14%と、まだ持ちこたえていた。
 それが2018年には、日本のGDP世界シェアは6%にまで落ち、アジアは23%(そのうち中国は16%)を占めるようになった。19年にアジアのGDPは日本の4倍を超えた。(中国のGDPは日本の3倍)。

 急速に日本経済の地位が落ちている。そのことに多くの経済人、日本国民は、いまだピンと来ていない。なかには過去の「栄光」に酔っていたい人も多く、「中韓の風下には立ちたくない」と駄々をこねている人も目立つ。

 コロナ危機からの脱出の過程で、いかに早く脱出するかで、近い将来の経済成長の差は一層拡大するだろう。中国、韓国、台湾は、より早く経済活動を再開させそうだ。日本は遅れている部類に入る。
 これから5~10年先、アジアのGDPはどんなに控えめに予測しても日本の10倍を超える規模になるだろう。

 「日本の停滞感と埋没感」はさらに深まることだろう。

 日本経済が停滞したこの30年、日本政府、歴代政権は、没落する日本人の「プライド」を対米依存を深めることで保ってきたようなのだ。まさに「虎の威を借る狐」として振る舞ってきた。その「虎」が、落日を前に「混乱」している。すでにあてにならなくなっている。

 どう進むべきか、日本人にとっても「主体性」が問われている。日本政府は即刻、「対米依存」から脱却しなければならない。日本の支配層にとっても、その方向に未来がある。

 日本のこの先の行動計画には、相当の大変革が必要である。どのようにしたら格差社会を解消し、貧困層を少なくするか、教育と福祉を充実させた社会に変革するか、日本社会をデザインするうえで第一の課題となる。

 日本は成長していない。アジアは急速に成長している。コロナ対策で台湾や韓国のとった優れた対応を見よ! コロナ対策においてもすでに出遅れている日本社会である。

 ポスト・コロナ時代の日本再生の道は、アジアのダイナミズムと相関しながら、そのなかでいかに日本の未来を形づくるかを考えることが求められている。






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国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害 [フィリピンの政治経済状況]

国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害
ドゥテルテ政権の人権侵害を告発

 国連人権高等弁務官事務所(ミシェル・バチェレ代表)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を発表した。現政権の「違法薬物戦争」が大きく取りあげられ、これを「政権が治安対策と違法薬物対策を偏重し、市民の殺害や恣意的な拘束、批判への攻撃といった人権侵害を引き起こし、不処罰を助長した」と断じている。

 報告書は政府の資料や警察の報告、写真や映像、被害者らへの聞き取りなどを元に作成された。違法薬物関連の犯罪の疑いで殺害された市民の数は、公式には2016年から累計で8,663人だが、実際の犠牲者はその3倍との推計もある。2015〜19年には248人の人権活動家や法律家、ジャーナリストが殺害され、殺人事件で有罪となったのはたった1件。武器の使用や殺害を肯定する政府高官らの発言や政策が、警察の暴力を許す結果になったと分析している。

 また報告書は、警察による証拠捏造の疑いにも触れている。2016年8月から翌年6月の間に、首都圏で展開された25の作戦で計45人の市民が殺害された。警察は、犠牲者のものとみられる覚醒剤や銃を回収したとするが、同一のシリアル番号の拳銃が別々の事件で「発見」されていた。同じ拳銃2丁が5件もの異なった事件で見つかるケースもあった。警察による「証拠偽造」の可能性が極めて高いと報告している。

下記に、
・6月4日のアムネスティ国際ニュース、
・6月30日のミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官の国連理事会での報告
・6月30日、フィリピン・スター紙に記事
を転載します。

**********

国連報告が求める「麻薬戦争」に対する国際調査
 アムネスティ国際ニュース  2020年6月4日

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を公表した。

 報告書の内容は、2016年に大統領に就任したドゥテルテが主導する「麻薬戦争」に対する痛烈な告発だ。この「麻薬戦争」では、貧困地域の市民に銃が向けられ、数千人が犠牲になってきた。

 報告書は、麻薬取り締まりの中で、警官による市民の殺害や人権侵害、殺人を犯した警官の不処罰、家宅捜索での証拠偽造など数々の事実を明らかにした。また、メディア、人権擁護活動家、政治活動家らに対する圧力や暴力、さらに、銃使用を奨励する政府高官の発言、表現の自由に対する脅威などがあったことも述べられている。

 報告書は、警官による犯罪を徹底捜査することが喫緊の課題だと提言している。報告書が指摘するように、市民を殺害した警官が何の罪も問われてこなかったのは、重大な問題だ。不処罰が、さらなる人権侵害を許している。

 人権理事会は、警官による殺人や人権侵害について、独立した国際調査団を設置すべきだ。機関の設置は、警官の不処罰問題を質す上で大きな一歩となるだろう。

 一方、国際社会は、国際調査団の設置を支援し、市民の殺害が続く限り、監視を続けるというメッセージをフィリピンに送らなければならない。また、犠牲者家族や人権擁護活動家への連帯を示すことも求められる。

 ドゥテルテ大統領は、誤った政策を取り下げ、犠牲者への正義と補償を実現し、公衆衛生と人権に基づいた麻薬対策を打ち出すべきだ。

背景情報

 国連人権高等弁務官事務所の報告は、19年7月に国連人権理事会で採択された決議にもとづく。この決議が採択に至った背景には、アムネスティをはじめとした市民団体の運動があった。

 ドゥテルテ政権が4年前に打ち出した「麻薬戦争」は、国際社会や国内外の人権団体から強い非難を受けた。しかし、同氏は批判を顧みず、警官に銃の使用を奨励し、処罰しないどころか昇進に結びつけるような発言もした。

 警官による殺害がまかり通る中、活動家、記者、弁護士、教会幹部、労組幹部などが、その人権活動や反政府的発言で当局の攻撃や圧力を受けた。直近では、フィリピンの大手放送局ABS-CBNが営業停止に追い込まれ、新型コロナウイルス感染拡大の中では、隔離や外出禁止令の違反者に、銃の使用も辞さないとの警告が出された。

 昨年の国連人権理事会の決議に基づき出された今回の報告書は、悪化するフィリピンの人権状況に対応する上で重要な一歩となった。

 今後、人権理事会に求められるのは、フィリピンに対するより強力な取り組みであり、特に当局による殺人の捜査とフィリピン政府に説明責任を果たさせる役割を負う国際調査団の設置だ。

******************
人権理事会の第44回セッション
フィリピンの人権状況に関する双方向対話の強化
国連人権高等弁務官事務所、ミシェル・バチェレ代表の声明
2020年6月30日


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<国連人権高等弁務官事務所代表 ミシェル・バチェレ>

 決議41/2で要求されたように、私は今フィリピンの人権状況についての私たちの報告(国連人権高等弁務官事務所のレポート)に目を向けていただくようお願いします。

 まず、書面による提出やバンコクとジュネーブにある私の事務所との会議を含むフィリピン政府の協力に感謝します。しかし、国連人権高等弁務官事務所に与えられた使命を実行するにあたり、私のチームはフィリピン国家へのアクセスを許可されませんでした。また、フィリピン中の組織や個人から何百もの提出物を受け取りました。しかし、レポートの内容の多くは、フィリピン政府から入手した公式情報源から引用されています。

 レポートの調査結果は非常に深刻です。フィリピンにおける国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗する法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施されてきました。フィリピン政府。当局者は何千もの殺害、恣意的な拘留を行い、そしてこれらの深刻な人権侵害に挑戦する人々の非難をもたらしました。

 レポートでは、2015年から2019年の間に248人以上の人権擁護活動家、弁護士、ジャーナリスト、労働組合員が殺害されたことを報告しています。これには、環境保護団体や先住民族の権利擁護活動家が多数含まれます。人権擁護活動家は、テロリスト、あるいは国家の敵、そしてCOVID-19対策の敵であるとさえ、非難されています。

 新しい「反テロ法」が最近、フィリピン議会を通過しましたが、批判、犯罪性、およびテロリズムの間の重要な区別が極めて曖昧であることから、私たちは重大な懸念を抱いています。

 この法律は、人権と人道的活動にさらなる冷酷な影響を及ぼし、脆弱で疎外されたコミュニティへの支援を妨げる可能性があります。したがって、ドゥテルテ統領に「反テロ法」への署名を控え、暴力的な過激主義を効果的に防止および防止できる立法案を作成するための幅広い協議プロセスを開始するよう要請します(「反テロ法」はフィリピン議会を通過したので、ドゥテルテ大統領が署名すれば成立するばかりとなっていた、6月30日のバチェレ代表の国連理事会での演説の後、ドゥテルテ大統領は7月3日に署名し「反テロ法」は成立した)。

 ただし、平和的な批判に従事している人々に対する誤用を防ぐためのセーフガードが含まれています。私が代表を務める国連人権高等弁務官事務所はそのようなレビューを支援する準備ができています。

 報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、いわゆる「麻薬戦争」を引き起こしている主要な政策と政府の最高レベルからの暴力への扇動に起因していることも見出しています。違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われています。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることも認定しています。

 私たちはまた、フィリピンでは殺害した当局者が「ほぼな不処罰」であることも発見しました。これは、超法規的殺害の加害者が存在することをフィリピン政府が望んでいないことを示しています。当然のことながら、被害者の家族は無力であり、正義を実現する確固たる可能性が保障されていなければなりません。。

 さらに、違法薬物キャンペーンはは行われましたが、政府高官の黙認により、違法薬物の供給を減らすのに効果がありませんでした。

 フィリピンは経済的および社会的権利はある程度の進歩を遂げましたが、先住民と農民は未だ、強力な企業と政治的利益、軍と新人民軍のような非国家武装グループの間の綱引きに巻き込まれ続けています。進歩的な法律にもかかわらず、先住民の権利、教育を受ける権利、その他の基本的な経済的および社会的権利は、多くの遠隔地のコミュニティにとって保障されておらず実現されていないままです。
 
 フィリピンは長年にわたって多くの国連人権メカニズムに積極的に関与しており、このレポートは勧告の多くに基づいています。シニア人権アドバイザーも2014年から国連カントリーチームを支援しています。

 当事務所は、報告書の推奨に基づいて建設的な関与を強化する準備ができています。我々は、国内の説明責任メカニズムの強化を含む、政府とのさらなる協力のためのいくつかの分野を特定しました。警察違反の疑いに関するデータ収集を改善すべきです。薬物規制とテロリズムに関する法律と政策を見直しすべきです。そして市民社会と政府・国家当局の間のギャップを埋めなくてはなりません。

 私の国連人権高等弁務官事務所に監視と報告の継続を義務付けることによって、また報告の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について積極的で警戒を続けるよう理事会に要請します。フィリピン国家は、私たちが記録した重大な違反について独立した調査を実施する義務を負っています。フィリピン国内のメカニズムからの明確な改善結果がない場合、理事会は国際的な説明責任対策のオプションを検討する必要があります。

 この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する刑罰の終焉の始まりとなることを願っています。被害者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待しています。

 フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、不十分です。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティの出身である傾向があるため、保護を確実にするために、フィリピン政府にはさらに強い義務があります。被害者を失望させてはなりません。政治的リーダーシップとは、社会のすべての人々の権利、特に最も脆弱な人々の権利を尊重し、促進し、保護し、誰も取り残さないようにすることが重要です。

**********

「重大な違反」:
バチェレ、フィリピンに関する報告を国連人権理事会に提出
ガイア・カトリーナ・カビコ(Gaea Katreena Cabico)記者、

(フィリピン・スター紙.com)

2020年6月30日


 マニラ、フィリピン
 フィリピン政府の麻薬戦争は、「広範囲にわたる組織的な」超法規的殺人を含む深刻な人権侵害を引き起こしたと、6月30日(火)、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表は述べた。

 「国連人権高等弁務官事務所によるフィリピンの状況に関する報告の調査結果は非常に深刻だった。国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗するためのフィリピンの法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施された」とバチェレ代表は、開催中の第44回国連人権理事会で報告し正式に公表した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府の麻薬摘発政策の結果、何千もの殺害、恣意的な拘留があり、「深刻な」人権侵害に異議を申し立てる個人の非難が発生したとし、「報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、麻薬に対するいわゆる戦争と政府の最高レベルからの暴力への扇動を推進する主要な政策に起因していることがわかる」と述べたのである。

 「違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われている。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることを発見した」とも述べている。

 バチェレ代表は、国連人権高等弁務官事務所のチームにはフィリピンへのアクセス権は与えられていないが、フィリピン政府から書面による提出とタイ・バンコクとスイス・ジュネーブでの「数回の会議」を通じてレビューに協力したと報告の作成の背景に触れた。

 国連人権高等弁務官事務所は、フィリピンの人権団体や個人からも「数百の提出物」を受け取ったが、バチェレ代表は「報告書の内容の多くはフィリピン政府からの公式情報源から引用された」と述べている。

 国連人権高等弁務官事務所は6月4日に公表した報告で、フィリピンの人権侵害について、フィリピン政府が違法薬物の取り締まりに強引に焦点を当ててきた政策と、政府高官からの口頭による指示からうまれている人々の安全と人権への脅威について詳述した。

 違法薬物に対する国際的な非難キャンペーンは、ドゥテルテが麻薬犯罪を厳しく取り締まるという公約を掲げ大統領選挙で勝利した2016年以降、ドゥテルテ政府によって開始された。

 国連高等弁務官事務所はまた、有罪判決を受けた薬物戦争による殺害者は「ほぼ免責」されたと語った。2017年に17歳の男子生徒であるキアン・デロス・サントスが殺害された件でも、殺害者は免責された。

 フィリピン政府の最新の統計によると、戦争で殺害された麻薬犯の数は5,601人だった。その数は、27,000人が殺されたとする「人権ウォッチドッグ」による推定よりもかなり少ない。

「免責の終わり」

 バチェレ代表は国連人権理事会に対し、監視と報告を継続することを義務づけ、報告書の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について警戒を続けるよう要請した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府による対策によって明確な改善がない場合、人権理事会は国際的な説明責任措置のオプションを検討すべきであると述べた。

 国連人権高等弁務官代表はまた、フィリピンにそのような「重大な」違反があるかについて独立した調査を行うよう求めた。

 「この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する免責の終焉となることを願っている。犠牲者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待している」とバチェレット代表は述べた。

 「フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、まったく不十分である。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティに属している傾向があるため、保護を確保するためのさらに強い義務がある」とバチェレは付け加えた。

 国連人権理事会:フィリピンには、過去の権利違反への対処失敗に根差した不処罰の風土がある
国連人権理事会委員であるカレン・ゴメス・ダンピットは声明で、国連人権高等弁務官事務所の報告を歓迎するとともに、調査結果をフィリピン政府が受け付けなかったことは残念であると述べた。

 「フィリピンでは過去の人権侵害に対処しなかったことから不処罰の風潮が形成されている。しかも、人権に対する乱暴な態度と行動は、今日なお強く存続する、憎悪を煽り、暴力を動機づけ、不処罰を許すという有害な修辞学によって条件付けられてきたという見方を我々は共有している。」と、ダンピット委員は言った。

 国連人権理事会の当局者は、報告書の調査結果と推奨事項を受け入れ、国内メカニズムの有効性を実証するための決定的な措置を講じることは政府の義務であると強調した。

 国連人権理事会はその勧告として、権力者からの有害なレトリックの即時停止、フィリピン国家警察の全面的協力、および説明責任メカニズムを求めた。

 それとともに、フィリピン政府に人権侵害の各犠牲者を説明し特定し、すべての加害者を起訴すること、反薬物キャンペーンの犠牲者と彼らが残した家族に援助を提供ことを求めた。

 19年、人権理事会は、バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表にフィリピンの人権状況に関する包括的な報告書の作成を求める決議を採択した。

 フィリピンは現在審議会に参加している47か国の1つである。

 国連人権理事会は、6月30日~7月20日までジュネーブのパレデネーションズで44回目の定期会合を開催する。

 
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