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フィリピンで反テロ法が成立 [フィリピンの政治経済状況]

1) フィリピンで反テロ法が成立 

 フィリピンのドゥテルテ大統領は7月3日、「反テロ法」に署名し、成立させた。

 「反テロ法」は5月以降、下院、上院で賛成多数で可決し、あとは大統領の署名を待つだけの状態だった。この間、マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続いた。ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官など国際社会からもドゥテルテ大統領に同法案への署名を思いとどまるよう求める声が高まっていた。そのような声を無視し、成立させたのである。

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<フィリピン大学で反テロ法に抗議する人々6月4日>

 ドゥテルテ政権は2016年の政権発足以来、麻薬撲滅の捜査の過程で警察や軍によって何千人もの死者を出してきた。表向きは「容疑者が反抗したためやむなく射殺した」としている。いわば裁判なしの殺人を実行しており、警察・軍による「超法規的殺人」として、フィリピン国内や国連などの国際社会からも批判されてきた。「超法規的殺人」は今もなお続いている。

 2020年5月にドゥテルテ政権は、政権に批判的であるという理由で、フィリピン最大のメディアABS-CBNを閉鎖させた。

 そのような人権を無視してきたドゥテルテ政権が、「反テロ法」を手にしたのである。テロ容疑者の摘発で強大な権限が当局に与えられることになる。テロ容疑者の定義が不明瞭なため、労働運動、人権運動、農民運動、環境擁護運動などあらゆる反政府的な意見や要求を封じることができるのではないかとの懸念が広がっている。新たな武器をフィリピン政府に与えたことになる。

2) 反テロ法の問題点 
■ 令状なしの拘束、監視、盗聴が可能に

 成立した反テロ法は、テロリストとみなす人々を令状なしで逮捕できることになった(テロリスト容疑者を令状なしで逮捕できる命令を出す評議会を、ドゥテルテが設置することで可能となる)。 また、逮捕状なしに容疑者を拘束できる期間をこれまでの3日から最大24日に拡大した。「容疑者の90日間監視、盗聴が可能」になる。

 このような規定は、拘束期間を最大3日とするフィリピン憲法に違反する。
 同法違反で逮捕、起訴そして有罪が確定すれば最高で仮釈放なしの終身刑が科される可能性がある。

 ■ あいまいな「テロ」の定義、拡大解釈が可能 

 さらに同法では「スピーチ、文章表現、シンボル、看板や垂れ幕などでテロを主張、支持、擁護、扇動した場合も反テロ法違反容疑に問われる可能性」があることから、表現の自由や報道の自由が侵害される危険性が潜んでいると、反対派は主張している。

 また、反テロ法は「テロ」の定義を、「死傷者を伴う国有・私有財産の破損、恐怖のメッセージの拡散、政府に対する威嚇を目的とする大量破壊兵器の使用を意図すること」などと定義しているのだが、 このテロの定義はきわめて曖昧なのだ。例えば「恐怖のメッセージの拡散」とは、何を指すのか? 具体性が欠如しており、どのようにも拡大運用できる余地があるため、政府が恣意的に運用する危険性を容易に想像できる。同様に「大量破壊兵器」が具体的にどのような兵器を想定しているのかも不明であり、どうとでも解釈できる余地が残されている。

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<反テロ法へドゥテルテが署名したことを報告するハリー・ロケ大統領報道官>

3) 反テロ法の標的はだれか?

 2017年ミンダナオ、マラウィでのイスラム過激勢力による突然の占拠は1,000人もの死者を出し、鎮圧するのに5ヵ月もかかった。ドゥテルテ政権は、これを「反テロ法」提出の根拠としている。反テロ法の対象は国内批判勢力であることがほぼ明らかだ。ドゥテルテ政権は、「イスラム過激組織」と共産党系の「新人民軍(NPA)」をテロ組織として認定している。

 イスラム武装勢力(マラウィ・グループ)は、海外から送り込まれた傭兵組織であり、この組織はすでに掃討した。他方、ミンダナオのイスラム系住民の多くは、モロ・イスラム解放戦線(MILF)と合意し発足したイスラム自治政府に参加している。

 そのためドゥテルテの当面の標的はNPAであることが明らかだ、ただNPAにとどまらずNPAとつながり支援しているとみなすバヤン(Bayan)や国民民主戦線(NDF)の各組織、団体にも及ぶのである。合法的な労働組合や農民団体、女性団体が狙われている。また、1998年から施行された政党名簿制選挙から、合法政党バヤン・ムーナガブリエラ(女性団体)、アナク・パウィス(労働組合関係)を立てて選挙に参加し、2019年選挙ではバヤン・ムーナが3議席、ガブリエラが1議席を確保し、アナック・パウィスが1議席を失った。この合法政党も標的にされている。フィリピンの人々は労働組合、女性団体など自身の団体を組織する権利を持っているが、政府や軍・警察はこれまでも「赤のレッテル貼り(Red tagging)」をして弾圧してきた。警察や軍の権限が反テロ法によって強化されるのは確実で、弾圧がさらにひどくなると予想される。

 反テロ法発足により、弾圧は共産党系のみならず、あらゆる民主団体、人権団体、環境運動に及ぶと懸念される。

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<7月4日、反テロ法に抗議する市民ら マニラ  毎日新聞>

4) フィリピン国内外からの批判

 フィリピンの主要マスコミは連日政府側の思惑と反対勢力の主張を大きく取り上げて報じている。マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続いた。
 フィリピンの人権団体「カラパタン」は、反テロ法を「ドゥテルテ政治がマルコス独裁政治を目指している」と手厳しく非難している。

 国際的人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「政治的な反対勢力の制度的取り締まりに悪用されかねない」と反対を表明。「政府に対して声を上げる人々を狙い撃ちにでき、フィリピンの民主主義は暗黒時代に入った」と非難した。

 テロの定義が広いことなどから人権抑圧につながるとの懸念から、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは7月3日、「政権は国家の敵と見なせば、いかなる勢力でも仕留められる武器を手に入れた」との声明を発表した。

 労働組合への弾圧も広がる懸念があるとして、国際労働団体からも批判声明が出ている。日本の連合も批判する声明を出している。


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 連合のドゥテルテ大統領あての書簡

ロドリゴ・ロア・ドゥテルテ フィリピン共和国大統領閣下
Republic of the Philippines
Email: op@president.gov.ph
mro@malacanang.gov.ph;
pcc@malacanang.gov.ph


ドゥテルテ大統領

テロ対策法案(上院法案第1083号および下院法案第6875号)は国際労働基準に違反しています

 この書簡は、2007年の人間の安全保障法にとって代わる2つのテロ対策法案(上院法案第1083号および下院法案第6875号)の可決に関し、日本労働組合総連合会として、フィリピンの労働者と連帯し、深い懸念を表明するものです。

 私たちは、ITUC加盟組織およびフィリピン最大の労働組合連合体であるNagkaisaが強く反対する、新しい対テロ法案について非常に懸念しています。これら法案に貴殿が署名し法律となった場合、市民社会スペースと職場における権利をさらに保安対象化させ、縮小かつ抑圧し、労働者や労働組合活動家、その他の人権活動家や人権擁護者を、警察、軍、その他の治安機関による恣意的で無差別かつ根拠のない攻撃や嫌がらせ、脅迫と殺害の危険に今まで以上に晒すことになります。

 法案規定の多くは国際法と深刻に矛盾するものです。例えば、上院法案第1083号の第4項では、公共施設、私有財産およびインフラへのいかなる損害も、非常に幅広い「テロリズム」の定義の中に含まれています。この定義の下では、平和的かつ合法な労働組合活動への参加が土地や建物への直接的または間接的な損害につながったと解釈される可能性があり、適用範囲が過度に広いテロの定義によって、労働者は拘束の危険に晒されかねません。

 国際労働基準の下では、ストライキ権も含め、団結権行使を弱体化または阻害するような過度に広範な法的定義は結社の自由の原則に違反すると記憶していますし、とりわけ労働組合活動に関して政府がテロやその他の緊急立法に訴えることをILO結社の自由委員会は認めていません。

 同様に、上院法案第1083号と下院法案第6875号の第9項では、テロ行為に参加せずともテロ容疑者に賛同する意見表明やその他の表現を行うことを非合法化しています。両法案においてテロリズムの定義が幅広いものとなっているため、テロとみなされる抗議や集団行動に関して肯定的な意見を表明する、または好意的な私物を保有している労働者または一般市民はこの規定に抵触することになります。

 意見表明および表現の自由、とりわけ干渉なく意見を持つことの自由、またあらゆる媒体を介して情報と様々な考えを求め、受け取り、伝える自由は、労働組合権の通常の行使において不可欠である自由権を構成する点に留意します。したがって、対テロ法案における過度に広いテロリズムの定義を踏まえると、第9項は第87号条約および結社の自由の原則に違反するものです。

 さらに、上院法案第1083号の第3項(c)に注目しますと、ここでは、「…収監と尋問のために、テロリストまたはテロ組織や団体、または集団の支援者であると疑われる個人の外国への移送に」言及し「特例拘置引き渡し」を定義し、合法化しています。さらに「正式な告訴、裁判、または裁判所の許可なく、特例拘置引き渡しが可能である」とも記されています。

 この規定が、いかなる説明責任もなく、フィリピン国民および人権活動家や団体に対して適用される可能性があることを私たちは深く懸念しています。結社の自由委員会は「他のすべての人と同様、適法手続きの保障を享受する権利を労働組合員が保有するとの重要性を指摘」しています。委員会が、いかなる状況下でも、法的責任の制度無しに拘置引き渡しが発生するのは是認できないとした点に留意します。この規定は修正されなければなりません。

 さらに、上院法案第1083号および下院法案第6875号の第29項では、逮捕令状によるテロ容疑者への保護が与えられていません。逮捕や捜索の前に令状が発行されれば、治安当局による個人のプライバシーや財産の享受への恣意的妨害は不可能となりますが、両法案の致命的な点は、虚偽や悪意ある行為、告発および起訴に苦しむ人たちに対する救済措置が設けられていないことです。救済措置は、2007年の人間の安全保障法を改正する過程で削除されました。

 大統領、両法案の対テロ規定の中で国際労働基準に違反し不当な規定について幾つか言及いたしました。貴殿には、人権と自由権を尊重する環境の中で、法律および慣行において、団結権の享受を保障する義務があります。フィリピン政府が人権を抑圧するためにテロ対策やその他の治安維持法を用い、第87号条約の義務を遂行していない点について、国連およびILO条約勧告適用専門家委員会が既に数回にわたり不安を表明していることを私たちは懸念しています。

 フィリピンの人権状況について、憲法上およびその他の法的保護を損なう恐れがあるとして、対テロを目的とした新しい法律を採択しないよう、昨今、国連人権高等弁務官は貴国政府に注意を促しています。弁務官は「アカ認定」、つまり個人やグループへの共産主義者やテロリストとしてのレッテル貼りが、市民社会や表現の自由に対し繰り返されてきた強烈な脅威であるとも述べています。

 現在、この法律は貴殿の署名を待つばかりと理解しています。日本労働組合総合会は、貴殿が現行の形での本法案に拒否権を行使するよう求めます。このような対テロ法は、第87号条約ならびにその他の国際的人権義務を完全に遵守しつつ、三者間および多方面における公開協議を通じて熟考する必要があるのです。

敬具

日本労働組合総連合会
会長
神津里季生

cc:
Alan Peter Cayetano下院議長
Email : Alanpeter.cayetano@house.gov.ph

Vicente C. Sotto III上院議長
Email : Os_sotto@yahoo.com

Hon. Menardo I. Guevarra司法長官
osecmig@gmail.com

Hon. Silvestre H. Bello III労働雇用長官
Email : secshb3@dole.gov.ph, osec@gov.ph







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パンデミック下のフィリピン [フィリピンの政治経済状況]

 アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)のエミリから、パンデミック下の生活や活動の様子について報告が送られてきました。
 移動制限があり、地域によって異なりますが、バタアンでは10人以上の集まりは禁止されています。これを取り締まっているのがフィリピン政府の警察と軍で、強圧的な対応が問題になっています。

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パンデミックと「ニューノーマル」の時代
エミリー・ファヤルド ANBA-BALA事務局長

 100年前のスペイン・インフルエンザの時に世界の人々の上に起きたことを、今の時代に生きる私たちの間で再び経験したいという者は誰もいません。単純なインフルエンザが肺炎となり、世界中の何百万人もの人々を突然殺すことに、私たちは驚きました。パンデミックという新しい言葉を通じて、子どもたちばかりではなく大人たちにも、恐怖を教えられたのです。私の4歳の娘でさえ、私をパンデミックママ(母)と呼びますが、こんな風にさえ広まっています。

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<今に至るまでジプニーやトライシクル、バスなどの公共交通機関が許可されていないため、私たちは自転車を使って労働者のコミュニティに行き労働者やリーダーに会います>

 フィリピン政府は、コミュニティ検疫(ECQ)を最初にルソン島、次にセブ-ヴィサヤに、そしてのちにミンダナオにいくつかの支部を設置し実施しました。ショッピング・モール、学校、大小の施設、店、食料品店は閉鎖され、誰もが家に滞在しています。フィリピンでは、子供と大人が約60日間、家のなかに留まりました。週に1回、すべての家族のうちの1人だけが、市場に行き食料を購入することができます。COVID 19ウイルスに感染したい人はいません。誰もが感染を避けるために、政府と保健省の指示や規則に従っているのです。

 しかし、私たちにとって本当に苛立たしいことであるとともに、おそらくこうなるだろうと予想した通り、フィリピンのドゥテルテ政府は、困難な危機のこの時期にあってもなお、能力不足を露呈しているのです。ドゥテルテ政府のコロナ対策計画は、適切でもなければ決定的でもありません。政府がフィリピン大衆に同情と共感を持っていないことを、再び暴露したのです。差別なしにすべてのフィリピン人に補助金を与える代わりに、危機に際して政治的野心と腐敗の実行こそが、彼ら政府関係者の心に浮かぶ最初の事柄なのです。

 コロナウィルスによるパンデミックと戦う政府の「インターエージェンシー・タスクフォース(省庁間からなる対策センター)」の構成メンバーは、ほとんどが軍人であって、感染や健康の専門家ではありません。したがって、科学的および医学的側面の危機を解決するのではなく、軍事的観点から人々を抑え込むことで危機を解決しようとするのです。実際に行うのは、ウイルスの蔓延を回避すると称して、軍事戦術を適用して人々を強圧的に隔離するのです。

 コロナ危機のなかで、政府は飢えたフィリピン人へ助成金を出す予算を組みました。しかし、最悪なのは、政治制度と政治実行のプロセスに問題があるため、助成金は封鎖後、1か月と1週間経ってやっと、各家庭に支給されるような状態なのです。支給される前に人々はすでに飢えています。多くの労働者は補助金を受け取っていると思われていますが、残念ながら支給は公平ではなく、差別的です。ですから、政府の予算に補助金支出が組み入れられたにもかかわらず、今もなお多くの労働者が、労働雇用省からの補助金を受け取っていないのです。

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<椅子は事務所の外に置き、距離をとって話をする>

 このパンデミックのなかで「良かった点」は、自治体と一部の市長が、管轄区域の有能な指導者として名前をあげたことです。そのうちの1人は、有権者とのやり取りが非常に得意なパシグ市のヴィコ・ソット市長です。計画は正確で、機動性と彼の行動は人々を共感させています。彼は優れた指導者であり、今回の事態のなかで最も優れた市長の一人です。

 フィリピンの人々は政府や権力者の無能ぶりにうんざりしていますが、ヴィコ市長ような人物がいることは、私たちのなかからも優れた指導者が生まれるのではないか、という希望を与えてくれます。ヴィコ市長はまだ若く、理想主義者です。私たちが抱くリーダー像ではないリーダーシップを探っているのかもしれません。

パンデミック時のドゥテルテの優先順位付け:

 このパンデミックにおけるドゥテルテ政権の優先事項は何だと思いますか? COVID 19の感染対策で優先するのは、人々への補助金でしょうか? 残念ながらそうではありません。政権にとって緊急の法案は、反テロ法案(ATB)です。この法案とパンデミックとの関係は何でしょうか? 飢えた人々の口を弾圧でふさぎ、抗議しないこと、文句を言わないようにさせることなのです。

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<デスクトップ社の労働者協会(DEA:労働組合準備会)のミーティング>

「新常態」の下での私たちの主張

 私たちは今、「ニューノーマル(新常態)」のなかで活動しています。中央ルソンの各地方は、コミュニティに対する「全般的検疫(ECQ)」下にあり、人々にとって家の外の視界は限られています。ここバタアン州マリヴェレスの自由貿易地域の労働者は、まだ完全に働くことができておらず、労働者4万人のうち、約半分だけが働いています。労働者たちはCOVID 19の検査なしで働き始めましたが、社会的距離を保っただけです。通勤のための公共交通機関は動いておらず、保健省の手続きや規則を確認した、サービス車両の運用開始されました。しかし、確認は初めのうちだけでした。現在まで公共交通機関がまだないため、家から会社までどのように移動できるかは、労働者次第です。(6月30日記)

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<アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)の事務所内の様子>




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コロナによる経済収縮から、世界的な大恐慌へ突入! [世界の動き]

 コロナによる経済収縮から、世界的な大恐慌へ突入!

1)雇用への影響、まず非正規と中小企業に

 コロナによる経済収縮から、すでに雇用への影響が出てきた。中小企業の受注環境は厳しさを増し、見通しが立たない。 

 総務省が4月28日発表した3月の労働力調査では、製造業の就業者は前年同月比24万人の減少(3年ぶりの減少)。とくに雇用悪化が目立つのは非正規雇用。製造業、宿泊業、飲食業、教育・学習支援事業などの落ち込みが大きい。非正規雇用全体では26万人減だという。雇用保障の弱い非正規に新型コロナの影響が、先ず現れている。労働問題に取り組むNPO法人、POSSE(東京・世田谷)には、2月以降、労働者の相談が1,000件ほど寄せられているという(4月30日、日経)。

 一方、自営業者、家族従業者も40万人減っており、経営体力の弱く資金繰りがつかない中小企業から倒産が出始めている。緊急事態宣言を出した4月はさらに悪化しているはずだ。これが仮に数ヵ月続けば、さらに大量の倒産と失業者が出てくるのは、もう目に見えている。ただ、経済が感染前の水準に戻るには、少なくとも2年以上かかるだろう。

2)アメリカはすでに失業率20%、失業者3,000万人近くか?

 米労働省が4月23日に発表した失業保険の新規申請者数は、4月18日までの1週間で442.7万件となり、非常事態宣言を発した3月中旬から5週間で申請者数は累計2,640万人を突破した。米労働人口は1億6300万人だから、約7人に1人以上が職を離れたことになる(4月24日、日経)。3月中旬の失業率が4.4%、それ以降の失業者が2,640万人=約16%、この間に新規就業者もいるから単純に計算できないが、米失業率は、20%を超えようとしている。しかも、いまだ過去類例を見ないすさまじいペースで増大中だ。
 アメリカで起きているのは、日本の少し先の姿だ。

3)日銀、国債無制限購入、社債・CPも購入

 4月27日、日銀は追加の金融緩和を決めた。国債を無制限に購入できるようにし、金利上昇を抑える。社債・CP買い入れ枠を3倍近い約20兆円に増やして、企業の資金繰りを支援する。もっとも夏以降の回復を前提としていると見られ、感染拡大が続けば、さらなる追加策を迫られる。

 国債購入は金融恐慌を回避するため(=金融資本を守るため)であり、社債購入の条件は投資適格の格付けが条件ゆえ、大企業が恩恵を受ける。

 一方、雇用調整助成金等あるが、すぐに支給されない、事務手続きが面倒など、なかなか役に立っていない。長引けば財政支出上の上限もある。

4)米国、無制限の金融緩和

 現在は、各国の中央銀行が大量の資金供給をして支え、信用不安から金融恐慌に陥らないように必死に踏ん張っているところだ。

 3月下旬、米連邦準備理事会(FRB)は、米国債などを買い支え、その見返りにドルを供給する「量的金融緩和」を「無制限」に実施しはじめた。その規模は、2008年の金融危機時をすでに上回る。3月20日以降、毎日1,000億ドル超の資産を購入している。

 加えて史上初めて、(民間企業の)社債の購入も決め、4月に入りCP(企業の発行するマーシャル・ペーパー)、さらに「低格付け社債」購入まで広げている。4月22日には、約11兆ドル(約1,200兆円)規模の米住宅金融会社の救済へ乗り出した。コロナウィルス蔓延で住宅ローン返済が滞り、資金繰り難に陥っている住宅ローン会社を救済する。

 金融恐慌に陥らないための(=金融資本と大企業を救うための)米政府とFRBの動きは、きわめて迅速で大規模だ。

 他方、トランプ政権は、雇用維持を条件に中小企業の給与支払いを8週間分を肩代わりする異例の資金供給も打ち出した。この融資は、3月27日3,500億ドルの資金枠を用意したが、申し込みが殺到し資金は枯渇したので、急遽6,600億ドルまで積み増した。

 この融資制度はあくまで6月上旬までの8週間分にすぎない。それまでにコロナが終息しなければ、6月以降も米政府は、追加を迫られる。必要な融資だが、長期間支給し続けるのは難しくなる。経済対策のため2020年は4月時点ですでに約3兆ドル(約320兆円)もの財政赤字予算を組んでおり、さらに赤字が増える見込みだからだ。

5)コロナ流行によって世界的な大恐慌へ突入!

 経済封鎖、外出自粛によって、経済は大きく落ち込んでいる。IMFによれば、20年4~6月期米経済は▲40%の落ち込みとなる。世界的な恐慌に突入するのはほぼ確実だ。

 恐慌となれば、世界中で働く多くの人々が仕事を失い、負債を抱える。約10年に一度の世界的な経済恐慌のたびに、金融資本、銀行は「大きすぎて潰せない」とされて国から「救済」という名で資金を盗み取り、生き延びる。他方、多くの人々は貧困化し、階層化し分断される。1%が富の大半を握る、一段と格差が拡大した社会となる。資本主義における景気後退、恐慌は、弱者を淘汰するプロセスだ。今回もおそらく同じことが起きる。
 経済収縮は、少なくとも1年以上続きそうだ。もっと長引くかもしれない。経済再開はコロナの第2波、第3波と付き合うようにして、その経済活動の程度を調整しなければならず、したがってV字回復はありえず、緩やかな回復としかなりそうにない。その長引く分だけ弱者は一段と困窮する。
 回復が遅れれば遅れるほど、国家財政からの支出も増え財政危機を招く。おのずと限界がある。

6) 早く抜け出るには?
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<新型コロナウイルス感染症対策専門家会議を終え、記者会見する尾身茂副座長=4月22日、厚労省>

 より望ましいのは、コロナ感染をコントロール下において、人々の健康と安全を確保しながら、なるべく早く経済を再開させることだ。韓国、中国、台湾などの「東アジアモデル」は、コロナをコントロール下におき、すでに試行的に経済活動の再開に踏み出している。それでも第2波、3波があるので、その都度、規制したり緩めたりを繰り返し、回復していくしかない。これが一番早く回復する方法だ。欧米をはじめ世界各国が「東アジアモデル」の成功を認め、その知見を導入し始めている。

 安倍政権は、中韓の風下には立ちたくないようで、学ぶつもりがない。いまだPCR検査を拡充せず、そのため感染者の所在を特定できず、ただヤミクモに8割の接触制限・外出自粛を唱え、毎日の感染者数に一喜一憂するだけで、終息のめどは立っていない。

 厚生労働省―専門家会議は、情報を開示しない、議事録を公表しない、どのように判断し対応しようとしているのかさえ、国民は知らされないままだ。無策、無作為に終始しており、経済再開がより遅れるのは明らかだ。遅れる分だけ、日本の労働者、中小企業はよりいっそうの犠牲と没落を強いられることになる。安倍政権に運命をゆだねなければならない日本人民は不幸だ。

 コロナが終息した後には、これまでと違った、世界のなかの日本となっているだろう。





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米失業率が20%を超えた さらに悪化する気配だ! [世界の動き]

米失業率が20%を超えた
さらに悪化する気配だ!

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<トランプ大統領>

 3月半ばからの4週間で失業保険申請数は2,200万件に達した。米労働人口は1億6,300万人だから、8人に1人が失業したことになる。2月の失業率は3.5%、3月半ばに4.4%だった。4月11日で、すでに15%を超えさらに悪化する気配だ。1948年の統計開始以来の最悪期(1982年12月の10.8%)を大幅に突破する見通しだ。

 サブプライム恐慌時の金融危機は2008年秋に深刻化したが、当時、失業率が最悪になったのは2009年10月10.0%であり、危機開始から1年後だった。それに比べ今回は経済活動が突如停止しており、雇用悪化のスピードが極めて速い。
 
 米トランプ政権は2兆ドルの経済対策を決め、雇用維持を条件に中小企業の給与支払いを肩代わりする異例の資金供給を打ち出した。もともとこの融資は、3月27日成立の2.2兆ドル経済対策で、3,500億ドルの資金枠を用意して創設。中小企業はこの政府資金に殺到し、4月3日の受け付け開始からの10日間で3,500億ドルのうち「2,500憶ドルの枠が埋まった」(米国家経済会議のクドロー委員長)。すぐに枯渇することが明らかになった。しかし、対象企業が全米で500万社、受給したのはまだ166万社という。

 この融資制度は6月上旬まで従業員の雇用を維持すれば、運転資金の8週間分は返済が不要となる。今回は、失業給付を週600ドル加算する手厚い特例措置でもあり、一時離職を後押ししている面もある。

 利用殺到で資金が枯渇しそうなため、トランプ政権と連邦議会は、4月23日にも4,840億ドル(約52兆円)の追加の新型コロナウィルス対策を成立させる。そのうちの柱は、中小企業向けの従業員の賃金を補填する融資制度に3,100億ドル追加し、6,600億ドルまで急遽、拡充する。ゴールドマン・サックスによると、対象企業の8週間分の賃金需要は7,500億ドルであり、まだ足りないという。
 
 しかし、この制度によっても8週間の賃金補填=せいぜい6月までの賃金補填であり、それ以降は経済が再開し雇用が維持されることを、トランプ政権は当初、想定した。経済活動に再開が遅れれば、6月以降も米政府は、給与肩代わりの追加、賃金補填の追加を迫られる。

 トランプ大統領は、急激な雇用悪化に危機感を持っている。少なくとも11月の大統領選までは雇用悪化を押しとどめたいのだが、思う通りに行きそうにない。追加支出するなら、財政がさらに悪化する。

 米財政赤字はすでに空前の3兆ドルに膨らんでおり、短期終結を狙った巨額財政支出は壮大な賭けでもある。

 トランプ政権が、経済再開を言い出した背景でもある。しかし、感染がまだ終息していないし、ニューヨーク州以外の州に拡大する懸念があるのに、経済再開は安易にできない、きわめて危険だ。
  
 責任を回避するために、WHOへの資金供給を止めたり、中国を非難したりという振る舞いに出て、責任転嫁を図っている。よほど、追い込まれているということであろう。

 今週の米国の失業保険申請者数によって、失業率の悪化の程度、スピードが判明する。

追記(4月24日)

 4月24日の日経新聞によれば、米労働省が4月23日に発表した失業保険の新規申請者数は、4月18日までの1週間で442.7万件となり、前週524万件に近い高い水準だった。

 非常事態宣言を発した3月中旬から、5週間で申請者数は累計2640万人を突破、米労働人口は1億6300万人だから、約7人に1人以上が職を離れたことになる。

 しかもいまだ、過去類例を見ないペースで失業者数が急速に増大している。まだまだ失業者は増えそうだ。

 3月中旬の失業率が4.4%、それ以降の失業者が2640万人=約16%であるから、米失業率は、20%を超えたことになる。

 危機的な状況に陥りつつある。









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コロナ対策 日本は、遅れが目立つ [現代日本の世相]

コロナ対策
韓国・台湾は、矢継ぎ早に対策
日本は、遅れが目立つ


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<新型コロナウィルスの電子顕微鏡写真>

1)韓国・台湾は、矢継ぎ早に対策、日本は、遅れが目立つ
 韓国・台湾は感染抑制のメドをつけ、欧州各国からも模範例として見られるようになった。
共通しているのは強大な権限を持つ司令塔を柱とした危機管理体制の周到さと、感染リスクへの感度の高さだ。
 一方、日本の国立感染研究所はこういった権限を持たず、感染症の科学的知見を十分に生かせていない。あるいは日本政府・厚生労働省は、対策実施の戦略を立て実行するうえでリーダーシップを発揮していない。

4月20日現在(日経、4月21日);
韓国の累計感染者数:1万600人、4月20日の新規感染者:13人
台湾の累計感染者数:395人、4月20日の新規感染者数:6人

 韓国政府、台湾政府とも「状況は制御できている」と表明している。コントロール下にあるので、韓国では、総選挙も実施できた。

2)韓国・台湾は、なぜ成果をあげられたのか?
 第一に、感染症対策法に基づいて矢継ぎ早の対策を実施する強力な司令塔の存在、
 第二に、コロナ感染対策の明確な戦略があり、人員と予算の集中的な投入がある。

 韓国では、省庁級で常設されている疾病管理本部が、感染症予防法に基づき、緊急事態に政府の各部門に対応を要請できる法的権限を持つ。
疾病管理本部: 予算720億円、人員907人
・感染者の濃厚接触者を割り出すために警察に協力を求めた
・食品医薬品安全庁には民間機魚が開発した検査キットの迅速な承認を働きかけた。
 ⇒ 通常1年かかる検査キットの承認手続きをわずか1週間で終え、2月4日には最初の緊急使用許可を出し、民間医療機関による大量検査につながった。

 台湾でも、衛生福利部(厚生省)疾病管制署を中心に省庁横断で設置された中央感染症指揮センターが臨時政府のような強大な権限を掌握した。
衛生福利部疾病管制署: 予算210億円、人員890人
 防疫のための必要な措置を実施できると定めた感染症防止法の基づき、・学校の休校、・集会/イベントの制限、・交通、・マスクの生産と流通の指示 など、市民生活の細部まで管理している。
 感染対策に従わない市民に罰を科す権限も持つ。海外から帰国した人が隔離措置に従わない場合、100万台湾ドル(約360万円)の罰金が科せられる。4月中旬までに約460人を検挙した。

 ちなみに米厚生省傘下の疾病対策センター(CDC)も強い権限を持つ。厚生長官は感染症拡大防止のため適切な手段をとれると連邦法で規定している。

 米厚生省傘下の疾病対策センター(CDC): 予算7,300億円、人員13,000人
 ただし、CDCは今回は初動に失敗した。WHOの検査キットを使わず、高い精度をめざして独自キットにこだわった結果、開発や製造に手間取った。国立アレルギー感染症研究所ファウチ所長も「我々の検査システムは当初、失敗した」と率直に認めた。(以上、4月21日、日経より)

 一方、日本はどうか?
 日本には感染症対策の司令塔は実質的に存在しない。感染の状況把握も封じ込めの戦略もない。
 誰が責任をもって戦略を立て、何を実施するのか、いまだに明確ではない。日本政府の劣化が目立つ。

 日本の感染症対策はこれまで厚生労働省の下の国立感染症研究所が主に担ってきた。
 国立感染症研究所: 予算62億円、人員362人

 国立感染症研究所は、業務の知見は示すものの対策の策定・実行の権限はない。
 政府は今回、臨時の組織を次々と設けて対応してきた。1月末に政府の対策本部を設けた時は根拠法もなかった。2月には同本部に「専門家会議」を設置し、感染研の所長を座長に任命した。

 一方で、2月末の安倍首相による小中高休校要請は専門家会議が要請したものではない。
 法的根拠ができたのは3月26日だ。改正特別措置法の成立を受け同法に基づく対策本部にした。緊急事態宣言の是非を評価する諮問委員会もつくった。諮問委員会会長は、専門家会議の副座長だ。臨時の専門家会議のメンバーを中心に対策をとってきた。チグハグさが目立つ。

 今後の感染症対策には権限や責任を明確にした体制が不可欠になるのだが、いまだ心もとない。
 どの様な戦略で、どの部門が、主導するのか? 何を目的にした対策をとるのか? いまだ明確ではない。

3)PCR検査・抗体検査を大規模にやれ!
 
検査で患者を見つけ隔離することは、感染症対策の基本だ。しかし、日本政府、厚生労働省、専門家会議は、PCR検査を絞ってきた。

 「ドライブスルー式」の検査は、
1)(病院外で検査することで)病院を守る、医療崩壊を防ぐ
2)大量の検査を可能にし、陽性患者を見つけ隔離する――ことを目的としている。

 ドライブスルー方式の検査体制の拡充は、韓国や米国でその実施が広がっている。韓国は検査を徹底し、感染者を隔離治療している。診断キットの迅速な開発と承認、投入を行った。そのことで感染をコントロール下においた。韓国と台湾のコロナ対策は国際社会で認められている

 厚労省はこれまでPCR検査・抗体検査の大規模導入・実施に導入に消極的であった。感染者を追跡しクラスターを見つけ経路を断つことに重点を置いてきた。PCR検査の実施数が極めて少なく、感染の全体をとらえることができなくなった。これまでのやり方が失敗したことが明らかになった。しかし、日本政府の「司令塔」は、失敗を認めることができず、なかなか転換ができないし、いまだにできていない。

 すでに新規感染者の8~9割が感染経路不明だ。クラスターを見つけ潰す戦略は失敗に終わった。
 「感染者を見つけ隔離する」ことは感染対策の基本なのに、これを実施しないで無駄に2か月浪費した。すでに感染は広がっている。

 日本のPCR検査数は海外に比べ極端に少ない。国内外から「流行を過少に見せようとしている」と批判が相次いでいる。

 米国でも大規模な抗体検査が始まった。人口のどれくらいの割合で感染しているか状況を把握するためだ。無作為に多数の人々の血液を採取し検査する。カリフォルニア州からはじめ、全米に広げる。(4月16日、日経)

 4月中旬になって、東京都医師会などは新宿区など都内20か所にPCR検査所を設置する方針を決めた(4月16日、日経)。

 これまでの日本政府のやり方、すなわち感染者が保健所の「帰国者・接触者相談センター」に電話し、指示に従い検査を割り振り、患者を収容する仕組みがすでに崩壊し、機能不全と一部の医療崩壊を起こしている。

 そのようななか、医師会によるPCR検査が始まった。検査所は「ドライブスルー方式」とし自治体と連携して設置し、保健所を介さないでPCR検査を実施する。
 
 この動きをみて、厚生労働省はやっと4月15日付で、「ドライブスルー方式」での検査実施を認める「事務連絡」を出した(4月15日まで認めていなかったのだ)。厚生労働省はこれまでPCR検査の大規模な実施には、「不作為」、無策を続けてきた。
 今年の2月にはすでにPCR検査の大規模実施が求められていたが、これを無視し続けてきた。感染症対策は時間との勝負なのに、2カ月間も時間を無駄に浪費したことになる。そのあいだにどれだけ感染が広がったか。日本政府の新型コロナ感染対策の「司令塔」は、不作為、無策を続けてきたのである。

4)厚生労働省はあくまで追認、遅すぎる対応

 ドライブスルー方式の検査は、すでに多くの国々で実施が始まっている。米国でも大規模に実施することになって初めて日本政府も追随する方針に変わった。やっと変わった。遅すぎる追認だ。

 しかも、あくまで追認である。日本政府、厚生労働省はPCR検査のドライブスルー方式を追認しただけで、自身が大規模検査を実行する主体ではないし、そのつもりもまだない。今回の方針転換も完全に後追いだ。独自で始めた医師会、自治体の動きの後追いしているに過ぎない。

 しかも、予算と人員を一気に投入しなければならないが、誰が責任をもって、どの程度の規模で行うのかもいまだ明確ではない。「医師会と各自治体の皆さん、頑張ってください」という立場だ。

 その証拠に厚生労働省の「事務連絡」は、自治体に対応を「お願い」するだけで、検査拡充に向けたリーダーシップをとる気配はない。

 日本政府、厚生労働省、専門家会議は現時点でも、いまだに感染経路の追跡を重視する方針を堅持している。追跡方式の限界を認め、検査の網を広げる方向にかじを切ることが急務だ。そのために人員と予算を投入することが急務だが、どのように動くのか、いまだに明確ではない。ただ、やみくもに「外出を控え、人の接触を8割減」と言い続けているだけだ。

 軽症患者を、病院とは別の施設、例えばホテルなどに収容することも、当初は厚生労働省は「感染症法」の規定から認めなかった。各国で別施設への収容が広がり、かつ国内で院内感染・医療崩壊が起き出してから、やっと追認し切り替えた。日本政府はきわめて遅い対応だった。

 科学的な知見を持って感染拡大を見通せる人が政策を立案・実施する司令塔にいない、あるいは見通せても政策実施の地位にいない。これは、日本国民にとって悲劇だとしか言いようがない。あるいは諸外国からは「滑稽な姿」にしか見えないのではないか!
 
 無策、無作為にあきれ果てる。なかなか望みが見えない。このような政府、厚生労働省、専門家会議に私たちの運命をゆだねてもいいのか!
















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「非常事態宣言」で果たしてコロナを封じ込むことができるのか? [現代日本の世相]

「非常事態宣言」で果たしてコロナを封じ込むことができるのか?

 4月8日、12日の児玉龍彦さんのyou tubeでのインタビューを聞いた。示唆に富んだ意見と思ったので下記にまとめた。文責はまとめた者にある。


p0818f9b.jpg
<新型コロナウィルス>

1)「非常事態宣言」で果たして解決するのか?

① 「非常事態宣言」は、ただ「ジッとして家に居ろ!」と言っているだけだ。
 政府は「ジッとして家に居ろ!」と指示するだけで、何もしていない。無策だ。
 クルーズ船での封じ込めに失敗した。公立小中高校の一斉休校も失敗に終わった。非常事態宣言も失敗に終わるだろう。このままではオーバーシュートは避けられないだろう。

 日本政府のやっているのは、闇雲に鉄砲を撃つ政策、イチかバチかの政策だ。成功する見込みや確証がない。現時点で取りえる最善の方策をとっていない。
 失敗したら、「接触を8割減らさなかった国民の責任だ」という言い訳が準備されている。

② 情報が開示されない。政府も東京都も情報を開示しない。

 政府の対策本部内に設置した「専門家会議」が、コロナ対策を提言しているようだが、何を討議したのか?少しも明らかにされない。「専門家会議」の議事録は公表されていない。どのように事態を評価しており、何を目的・目標としてどのような対策・方針をとったのか?の説明はない。 その結果どうだったのか?という評価もない。そもそも対策を実施した責任部門・責任者がだれかさえ明確ではない。

 「ダイヤモンド・プリンセス号」での水際作戦は、何をやって、どうして失敗に終わったのか?その評価がどこにも出てこない。失敗を学んで、次にどうするか?というプロセスを踏んでいない。誰も責任を負わないまま、ズルズルと同じ方策を続けている。

 2月末に安倍首相が「小中高の一斉休校」を実施したが、(これは「専門家会議」の提言ではなく、安倍首相周辺から出たものだというが)、このことに対する評価が出ていない。それは、目的通りの成果を得たのか? 明らかに想定を外れているようだが、その評価がされていない。何が足らなかったのか?何が想定を超えていたのか?それゆえ今先はどのような対策が必要なのか、どのような対策を実施するのか? 一向に明らかになっていない。

 闇雲に鉄砲を撃っているだけだ!

 「非常事態宣言」の発令も、その判断の根拠、前提が、国民には明らかにされていない。

 結局、誰が何を論議し、方針を決め、結果はどうなったのかが、明らかになっていない。
 誰も責任を負わないように、そのことだけは配慮されている。
 
 日本ではコロナ患者のデータが極めて少ない。世界中でもっともデータが少ないのではないか。何が起きているのかよくわからない。

 しかも政府や東京都は、把握した情報を開示していない。国民は何もわからない状態に置かれ、「家に居ろ!」と指示されているだけだ。
 日本のメディアは、そのことを追及しないで、政府情報を流しているだけだ。メディアの情報も信用ならない。

③ 世界では、コロナウィルス封じ込めに成功している国がある、そのやり方をなぜ導入しないのか?
 中国や韓国、台湾、シンガポールなどは封じ込めに成功している。

 中国はどうしたか? 
 武漢を封鎖した。膨大な検査を実施した。患者を徹底隔離した。プレシージョン検査を行い、患者を追跡した。それらを実行するために、他の地域から5.4万人の医療関係者を武漢に派遣した。隔離用病室を2,000床を1週間で建設した。中国政府が指導力を発揮し、短期間に莫大な費用と人員を集中して投入した。

 韓国、台湾、シンガポールも、この中国のやり方をほぼ踏襲し、完全制圧ではないにしても封じ込めに成功しつつある。

 韓国は病院ではなくドライブスルー型の大量の検査を行い、軽症患者はホテルや施設に隔離し、医療崩壊を防いでいる。きわめて適切なやり方だ。中国や韓国でできているのに、なぜ日本でやらないのか!

 日本では政府もマスコミも「このままでは医療崩壊してしまう!」と叫んでいるだけで、対策を実施しない。どうすべきかさえ議論したり報道したりしない。中国や韓国のような成功例があるのだから、それを導入すればいい。真似をするだけだ、簡単ではないか! なぜやらないのか!

 いずれにせよ、①大量のPCR検査、抗体検査を病院とは別の場所で実施し、②軽症の陽性患者は病院ではなく別の施設に隔離する。③患者の行動履歴をGPSで追跡する、これを実施し、封じ込めに成功している実績があるのだから、日本でもこれを実施すればいいだけだ。しかし、いまだに採用し実行しないで、放置するままにしていて、「国民は家にジッとして居ろ!」というだけ。

2)今やらなくてはならないことは、下記の4点だ。

① 医療崩壊を防ぐ 病院と医療関係者を守る、医療従事者・入院患者を危険に晒さない、そうして病院の機能を守る。

 そのためには、PCR検査のために患者を病院へ来院させないことだ。検査後、来院者が感染患者であったとわかると、院内消毒・関係者全員のPCR検査実施など必要となり、病院の機能が停止する。そのような病院がすでに増えている。永寿総合病院、慶応大学病院、江古田病院・・・・・。病院機能が停止するだけでなく、病院が発生源になっている。
 患者が直接来院すること、患者が殺到することによる医療崩壊を防がなくてはならない。

  PCR検査/抗体検査は、病院とは別の場所で、可能なら患者を収容し隔離するホテル・施設などの近くで行う。ドライブスルー検査もその一つ。検査結果判明後、軽症者はホテルなど、重症者は指定病院へと振り分ける態勢をつくる。 他の病気、けがなどで来院する患者は、前日に検査する態勢が必要だ。

 病院の入院患者、医療従事者は、常にPCR検査、または抗体検査を実施し、陰性であることを確認する。病院を守るためには、PCR検査、抗体検査を組み合わせて、大幅に検査数を増やさなければならない。現在の、PCR検査数を絞るやり方、抗体検査を利用しないやり方は、早急にあらためるべきである。

クラスターの存在とその推移、陽性患者の数、位置、動向を、リアルタイムで把握すること

そのために、
②-⑴ PCR検査を大量に実施しなければならない。日本はいまだにPCR検査を制限している。世界なかでこんなことをしているのは日本だけだ。その理由は、「感染症外来に患者が来たら困る、医療崩壊する」というものだが、病院以外で検査すればいいだけのことだ。韓国、中国、ヨーロッパでは行っている。
 WHOからも、PCR検査数が少ないと指摘されている。
 米大使館も、日本はPCR検査数が少ないので、公表される感染者数以上に感染が広がっている。米国民は帰国するよう通達した。
 なぜ、各国に比べてPCR検査数が少ないのか? 日本政府が絞っているから、政府が無策だから、としか言いようがない。

②-⑵ PCR検査に組み合わせて、抗体検査を大規模に実施すること
 抗体検査には2種類ある。
 ・IgM(早期に出現し消失する):PCRと組み合わせると98%検出できる
 ・IgG(早期に出ないが持続する):「免疫パスポート」となる。
 武漢や韓国、欧州で実施しているのに、日本では実施していない。

③ 患者をリアルタイムで追跡し、素早く隔離する
 大量にPCR/抗体検査する目的は、コロナ患者をリアルタイムで追跡し素早く隔離することにある。
 初期の「クラスター発見し隔離・封鎖する」局面は、すでに失敗に終わった。感染患者数はより大規模に増え、かつ感染経路不明の患者数も増えており、その現状に適した追跡型の対策への転換が必要となっている。しかし、日本政府のやり方はいまだに「クラスター発見隔離」にこだわっている。保健所所員による陽性患者の足取りを「聞取り」調査しトレースする。情報は保健所ー対策チームに占有され、公表されない。しかも、現在は、情報を処理しきれずすでにパンク状態になっている。リアルタイムな追跡ではなくかつ遅いので、追いきれない。その結果、感染経路のわからない患者が増えている。日本は「前近代的」なやり方を続けている。政府の司令塔である厚生省や専門家会議に、情報処理、ITの専門家がいないのでこういった「聞取り調査」という前時代的なやり方を続け、しかも処理しきれずパンクしているのだ。台湾を見よ!

 韓国では、陽性患者には、パンデミック番号をつけ、GPSでリアルタイムで追跡し、ネットで公表し、市民各自が自覚的に行動できるようにしている。一方、パンデミック番号は、個人情報保護のため匿名化し、例えばマイナンバーなどには結びつけない、情報を把握している責任者を明確にするなどの措置を併せて講じて個人情報を保護している。

④ ライフラインを維持する人を守れ!
 外出を8割減まで減らすことは必要だが、その一方でライフライン維持のため仕事をし外出しなければならない人たちがいる。この人たちの保護が同時に実施されなければならない。これが十分に実施されていない。
・病院、入院患者、医療従事者
・介護・看護者、老人福祉施設、デイケア施設、障がい者施設などで働く人たち
・交通機関従事者
・食品・生活必需品生産、販売、供給従事者
・水道、電気、ガス
・物流従事者
・警察・消防従事者
・上記の人たちが働けるように保育所、預かり所の保育士など

 もっとも必要なのは、この人たちへのPCR検査、抗体検査を、日常的に頻繁に必要に応じて実施する態勢をつくることだ。つねに陰性であることを確認しなければ、安心して仕事ができないし、この人たちを守ることはできない。また、この人たちにはマスクや医療用衣服、消毒液などを優先的に供給しなければならない。


    以上




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日本は一人前の「武器輸出国」へ、三菱は、立派な「死の商人」に! [フィリピンの政治経済状況]

 三菱電機、比へ軍事レーダー輸出 
 
日本は一人前の「武器輸出国」へ、
 
三菱は立派な「死の商人」に!


 3月26日の朝日新聞デジタルは、「三菱電機が、フィリピン政府が発注する防空レーダーシステム4機の整備事業を落札したことがわかった」と報じている。安倍政権が条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」を2014年に策定して以降、日本が初めて輸出する防衛装備の完成品となる。3月4日に契約締結した。5月までに正式に受注する予定で、金額は100億円規模とみられる。

 日本の自衛隊が採用しているJFPS53JTPS-14レーダーをベースに開発されたシステムが、フィリピン空軍に提供される。

 JFPS3は沿岸などに設置されており、接近する戦闘機やミサイルを検知することができ、北朝鮮のミサイル脅威に対する日本の防衛システムの一部として使用されている。 JTPS-P14は、通常車両に搭載される対空レーダーシステムである。

 日本は2014年に全面的な武器輸出禁止を撤廃して以来、日本でライセンスに基づいて生産されたPAC-2モバイルミサイル防衛迎撃機の一部を米国に輸出してきたものの、完成品の輸出は初めてだ。
三菱電機本社が入るビル=東京・丸の内.jpg
<三菱電機本社が入るビル=東京・丸の内>

 ********

 日本は一人前の「武器輸出国」になった。三菱電機、三菱重工グループは、立派な「死の商人」になったということだ。

 近年、日本政府とフィリピン政府の二国間防衛協力で、日本から機器の寄付や人員訓練などが提供されている。2018年には海上自衛隊の練習機TC-90を5機無償譲渡し、乗員の飛行訓練等が提供されているし、昨年はUH-1Hの余剰パーツの譲渡も行われた。

 また、2月にはフィリピン沿岸警備隊が調達する94メートル型巡視船2隻に対する入札の結果、三菱重工業 三菱重工グループの三菱造船(社長:大倉 浩治、本社:横浜市西区)が落札し、フィリピン政府と契約を締結した。下関造船所で建造され、2022年に完成・引き渡される予定。

 94メートル型巡視船は、長さ約94m、最大速力は24ノット以上で、4,000海里以上の航続距離能力を有する。また、排他的経済水域(EEZ)を監視する能力を持つ通信設備やヘリコプター用設備、遠隔操作型の無人潜水機、高速作業艇等を装備している。

三菱造船とフィリピン政府との調印式.jpg
<三菱造船とフィリピン政府との調印式>

 このプロジェクトは、16年10月にフィリピン共和国と日本国の間で「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化事業(フェーズⅡ)」として調印された円借款事業である。日本政府と三菱重工グループが一体となって進めてきたということだ。

 フィリピンは南シナ海の領有権を巡り中国と対立しており、今回のレーダー契約により空域の監視体制を強化を目的としている。

 フィリピン政府は日本の軍事援助は受け入れているものの、中国と米国を両天秤にかけているところがあり、ドゥテルテ政権は外交上も主導権を握った対応に努めているし、フィリピンの「主導権」を拡大しつつある。

 日本政府は、フィリピン政府を米日印による中国包囲網に組み入れよう、より正確には「何とか繋ぎとめよう」として、このような「二国間防衛協力」(=軍事協力)を推し進めている。

 日本政府は、米国の振る舞いを真似て東南アジアを日本のテリトリーとし、影響力を拡大しようとしているのだが、問題は「平和的でないその振る舞いと野望」が、どれほど現実的かということだ。

 日本政府は反中国、東南アジア地域の対立を煽る外交方針を採っており、その日本政府と日本企業が武器輸出に踏み出したことで、一つの段階を超えたことになる。この地域を平和と安全を混乱させるプレイヤーとして振舞っているのである。





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新型コロナを契機に、世界恐慌に突入か!! [世界の動き]

新型コロナを契機に、世界恐慌に突入か!!

1)新型コロナを契機に、世界恐慌に突入か!!

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<ニューヨーク証券取引所>


 米国における新型コロナウィルスの大流行、蔓延が明らかとなった。米国の貧しい医療体制が新型コロナ感染症を急速に増大させることもほぼ確実だ。バカ高い医療費のため米国民の多くは感染しても病院に行けない、治療できない、それゆえ感染は確実に広まる。しかも、短期間では治まらない。少なくとも1年、あるいはそれ以上続く、そのこともほぼ明らかだ。

 新型コロナウィルスへの恐怖が、「現金」へと資本を殺到させた。株はもちろんのこと、金や国債さえ売られ、「現金」が王様になった。

 危機が発生してくる道筋は、2008年のサブプライム恐慌(「リーマン・ショック」と呼ぶのは表面的な現象の描写から来る名称である。より正確には資本主義の矛盾から来る恐慌と捉えるべきなので、伊藤誠氏による呼称「サブプライム恐慌」を踏襲しこのように呼ぶ。)とは違うが、最終的に信用不安から金融恐慌に至るのは同じだ。なぜ、信用不安から金融恐慌に至るのか、その理由を認識しなければならない。

 サブプライム恐慌では、大手証券会社リーマン・ブラザーズが破綻し、金融資本、銀行や投資家が一斉に投資を引き揚げ投資資金の回収に走り、そのことで資金が流れなくなり、企業活動が止まり、世界的な需要蒸発が起き、生産が暴力的に低下した消費の水準に引き下げられた。もっともリーマン破綻前に、市場には緩和マネーがあふれ債務漬けが広がっていた。リーマン破綻も引き金を引いたにすぎない。

 今回の危機は、道筋が少し異なる。新型コロナ感染症による外出規制、店舗などの営業停止、国境封鎖などにより、まず需要の急速な収縮・減退が発生し、そのことで企業の生産の縮小、売上急減を招き、資金繰りが困難となり、企業への投資資金が一斉に引き上げてしまい、資金繰りをギュッと締め付け、全体として金融が急収縮し信用不安を増大させている。現局面は、信用不安から金融恐慌に突入する瀬戸際にある。金融恐慌に入れば、資本の流動性が止まり、そのことで一層生産を縮小させる=恐慌となるのは必然だ。

 今現在は(3月28日)、各国の中央銀行が大量の資金供給を実施して支え、信用不安に陥らないように必死に踏ん張っている。

 いずれ時が経てば、危機がどのように拡大し、人々に犠牲がどのように、どれほど転嫁されるか、明らかになるだろうが、現時点ではその展開、規模はいまだ予想できない。(これを書いている3月28日時点での判断である。時が経過すれば信用不安・金融恐慌への展開はより明確になっているだろう。)

2)米国が信用不安の震源となる!

 3月26日現在、金融資本、銀行、投資家は一斉に市場から、資金を引き揚げている。株は大量に売られた。損失を被った金融資本、銀行、投資家は国債や金を売って現金に替え損失を埋めた。金や米国債といった「安全資産」と呼ばれてきた金融資産までが投げ売りされている。極端な不安心理により、金も米国債も「現金=ドル」に換金売りされ、「ドル」に殺到した。その国債を、米連邦準備理事会(FRB)が大量の資金を投じて買い支えに動いている。

 米株価は大暴落した。2月12日の2万9,551ドルをピークに、3月中旬には2万ドルを割り込んだ。
 この株安局面では当初、セオリー通り、「安全資産」(株より安全な資産)である金や米国債がいったん買われ、金や国債が資金の「逃げ場」になった。

 流れが変わったのは3月9日だ。米ダウ平均株価の下げ幅は、2,000ドルを超えた。過去最大の下げ幅だ。金融資本、銀行、投資家が損失を穴埋めするため、金も米国債も換金売りの対象にした。

 金や米国債がいくら「安全資産」でも、それらでモノを買ったり、投資したり、損失の支払いをしたりはできない。事態は、急速に深刻な事態へ突入したということだ。

 3月9日からの10日間で、金の相場は1割以上下落した。同じ時期に米国債も売られ、利回りは約0.6%も上昇した。金融資本、銀行、投資家=「富裕層」が急いで手にしたのは、何といっても「現金=ドル」だ。

 実際に、ドルは主要通貨に対して上昇した。ドル買いが殺到したことを示している。9日に1ドル=102円台だったドル相場は、20日には110円台にまで上がった。
 米国債まで投げ売りされるのはきわめて異例だ。危機の大きさ、急激な需要の収縮を示している。

 そこで動いたのが米連邦準備理事会(FRB)だ。3月23日、米国債などを買い支え、その見返りにドルを供給する「量的金融緩和」を「無制限」に実施すると決めた。金融資本、民間銀行、投資家は安全資産である米国債を売ってまでも現金を確保しようとしており、FRBの資産購入が受け皿になっている。

 FRBは3月15日から量的緩和を再開し、大量に米国債などを買い入れて資金供給している。その規模は、2008年の金融危機時をすでに上回る。3月20日以降、毎日1,000億ドル超の資産を購入している。26日も米国債や「住宅ローン担保証券(MBS)」を1,000億ドルも買い入れた。とてつもない規模だ。

 3月25日の時点のFRBの総資産は、5兆2542億ドル(約570兆円)と過去最高を更新した。3月15日からのわずか2週間で9,423億ドル(約103兆円)増え、ピーク時の日銀の年間増加額(約80兆円)を上回った。さらに更新し続け、巨額の債務買い支えとなるだろう。

 FRBが米国債の大量購入や短期市場の資金供給に取り組むが、金融市場はいまだに不安定だ。FRBはさらに、リスクのある社債などを購入する資金供給策も検討しているが、信用度の小さいあらゆる証券、社債を買い上げることなどできない。

 前例のない大規模な資金供給は、とりあえず効果を上げたようだ(3月26日現在)。3月中旬に1.3%まで上昇した米国債利回りは、26日には0.8%にまで下がった。
 ただ、FRBの措置が及ばない市場では、一段と資金不足が強まっている。

 FRBは、15日以降、社債やCP(企業が短期資金を調達するために発行するコマーシャル・ペーパー)、商業用不動産ローン担保証券(CMBS)など、立て続けに資金供給策を拡大した。しかし、FRBが買い入れや担保の対象とするのは「高格付けの証券・債権」のみ。「低格付け商品」は救済の対象から外れ、逆に信用不安を誘って金利が上昇した。シェールオイル企業の発行している「低格付け社債」は、価格が下がり金利は5%から10%へ急上昇した。CMBSも政府系機関の支払い保証が必要で「保証なし」の銘柄は価格が急落した。

 問題は、FRBがすべての証券を買い支えできないこと、そして永久に買い支えできないことだ。

 一方、米政府が行おうとしている財政支出は、「企業の売上激減を政府が肩代わりする」対応である。大規模な財政出動にともなって、さらに国債発行額は増加する。これをまた中央銀行は買い支える以外にない。

 新型コロナウィルスの流行によって、「蒸発」した需要が再び立ち上がらない限り、企業は倒産に至り、金融危機を招く。FRBができるのは、信用不安から金融恐慌に陥らないように、大量に資金供給を続けることだけだ。問題は、この期間がどうやら長引くということだ。誰もまだ先を読めない。
 この危機は世界中に広がるし、世界経済をとらえる。

3)そのあとには何が残るか?

 あとには、大量のFRB資産=肩代わりした借金が残る。金融資本、銀行、投資家、要するに今やっていることは、米国の支配階級、富裕層が損失を出さないように、破産しないように、国家ぐるみで救済しているのだ。
 2008年のサブプライム恐慌で行われたことが、再び、しかし上回る規模で繰り返されている。

 はっきり言っておかなくてはならないのは、新型コロナウィルス発生直前において、世界的にすでに巨額の量的緩和が行われており(2008年のサブプライム恐慌前の1.5倍以上にのぼる)、何かを契機にして信用不安から金融恐慌に突入する脆弱な状態はすでに準備されていた。新型コロナウィルス感染症が、見事な引き金になったと捉えるべきである。(新型コロナウィルスが原因であるかのように、ものごとを説明してはならない。)

 したがって、あらためて認識しておかなくてはならないことは、資本主義は周期的な膨張と経済恐慌を克服できないということ、最近では信用不安、金融恐慌を通じた世界恐慌への突入が避けられないということだ。グローバル化した現代世界においては恐慌は必ずや世界恐慌となる、この現実をあらためて理解しなければならない。

 経済恐慌は資本主義の宿痾として付き纏う、今回もそれを繰り返す。この危機を回避する手段を、資本主義は持っていない。その意味では、資本主義は人類と地球にとって「持続可能な」システムではないということが、今回の危機を通じてあらためて証明された。

 「地球温暖化」が人類と地球にとって、資本主義は「substainableな社会システム」ではないことを証明したように、世界的な経済恐慌も資本主義が「持続可能な」システムではないことを証明した。
 グレタ嬢は何と言うだろうか?

 資本主義市場が、「自己調整など決してしない」ことはすでに判明している。企業が閉鎖するにつれ、世界中で働く多くの人々が、至る所で仕事を失い、負債を抱える。約10年に一度の世界的な経済恐慌のたびに、金融資本、銀行は「大きすぎて潰せない」とされて国から「救済」という名で資金を盗み取り、生き延びる。他方、多くの人々は貧困化し、階層化し分断される。1%が富の大半を握る、一段と格差が拡大した社会となる。資本主義における景気後退、恐慌は、弱者を淘汰するプロセスだ

 これをいつまで続けるか!続けられるか!ということだ。 (3月28日記)
(文責:小林治郎吉)











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減産調整破棄から、米シェール企業潰しへ [世界の動き]

減産調整破棄から、米シェール潰しへ

1) OPECプラスの減産調整決裂


 3月6日「OPECプラス」(サウジなどOPECと、ロシアなどOPEC非加盟国)の減産調整交渉は成立せず、減産体制は崩壊した。サウジが一転、大幅増産を表明したため原油相場は1バレル20ドル台にまで暴落し、市場は混乱を極め、世界の株価市場急落の一因になった。さらに世界的な恐慌へと向かっている。

 石油市場の価格戦争は、ほとんど産油国の歳入を減らし財政を悪化させそうだ。

 3月19日、国際指標の北海ブレンド先物は、1バレル25ドルまで下がった。3月20日に米国原油WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物は、一時20ドルを割り込んだ。1月の半分以下の価格だ。

 暴落に伴い、オマーン、バーレーンなど産油国の通貨が下落している。オマーンの10年物国債の価格は下がり金利は5%から一挙に10%を超えた。輸出の9割を石油が占めるナイジェリアは、石油収入が半減する。

 通貨の下落は産油国の石油生産コストを下げはするので、その分少しは緩和されるものの、今回の石油価格下落はあまりにも大きく、各国に与える影響は大きい。

 影響を被る産油国には、米国も含まれる。

2)サウジ、ロシアとも増産に舵を切った
 
その判断の背景に何があるか?


 3月初め、産油国の生産能力は日量にして、米:1,500万バレル、サウジ:1,200万バレル、ロシア1,100万バレルあるとされている。

 これまでサウジとロシアは減産調整をして原油価格の維持に努めてきた。しかし、米国は減産調整に加わらず、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ米政権のもと米シェール企業はこの数年増産を続け、その結果、米国は石油輸入国から日量300万バレルの輸出国に転換し、急速にシェアを拡大してきた。

 2018~19年、米中貿易戦争によって石油の世界需要が減少するなか、「OPECプラス」であるサウジもロシアも、収入源となる減産調整をしながらも価格を維持してきたのであるが、その努力の果実を米国シェール企業が一方的に奪い取っており、この米国の振る舞いにサウジもロシアも大きな不満を蓄積してきた。もとはと言えば米中貿易戦争も、トランプ政権が一方的に引き起こし、その結果、石油需要を減らし石油価格を低下させてきたのだ。

 2020年2月に入り、サウジもロシアも、新型コロナウィルスの世界的な流行によって大きな経済的落ち込みから、恐慌が世界を覆うことは避けられない、それゆえ減産調整も限界に至ったと判断したのだろう。この恐慌局面を利用し、米シェールオイル企業を潰してシェア回復を図る方向へ大きく転換した。減産合意破棄から、増産へと舵を切ったのである。シェールオイル企業潰しは、サウジ、ロシアの双方に利益となる。ただ、シェール企業がつぶれるまで長期間にわたって低価格による減収に耐えなければならない。サウジもロシアも石油価格が下がれば財政問題につながりかねないが、その前にシェール企業を潰し、シェア回復を図ろうとしているのだ。

 サウジ、ロシア、そのほかの産油国ともどれだけ耐えることができるかが、試されることになるだろう。

3) サウジ 
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<ムハンマド皇太子>

 「減産調整決裂」により、サウジは日量930万バレルまで減らしてきた生産量を、4月には日量1,230万バレルに増やすと表明した。増産量日量300万バレルとは、丁度、米シェール企業の輸出量に相当する量だ。しかも4月船積み分については極端な値引きも発表した。注目されるのは欧州向けの値引き幅の大きさだ。代表的な油種アラビアン・ライトの指標価格に上乗せする調整金を、北西欧向けは前月より1バレル8ドル安くし、マイナス10.25ドルとした。空前のディスカウントであり、北西欧向け市場をロシアから奪うことが「直接的な狙い」だとしているが、真の狙いは「シェール潰し」だ。

 確かに、サウジは自噴井であり国営石油会社サウジアラムコの生産コストは1バレル2.8ドルにすぎない。だが、サウジの財政収入は、石油収入への依存度が高い。20年予算では6%の財政赤字予算を組んでいるが、その前提は原油価格1バレル60ドルとしているため、20ドル台であれば膨大な財政赤字が生じることになる。

 減産から増産への転換は、ムハンマド皇太子が主導したとみられる。サウジにとっても厳しい選択であったようだ。財政的な厳しさの増大は、政治的不安定を呼ぶ。3月5日から6日にかけて、サウジ国内で皇太子に批判的な叔父のアハマド王子、いとこのムハンマド前皇太子ら有力王族が拘束されたとされる。

4)ロシア 

 一方、ロシアの国営石油会社最大手ロスネフチも増産に意欲を示す。サウジ、ロシアとも、シェール企業を潰すまでの消耗戦を決意したということだ。ロシア国営石油会社ロスネフチ、セチン社長は20日夜、減産調整が不調に終わったことに関連し、「一度、市場シェアを渡せば、もう決して取り戻せない」と述べ、米シェールオイルへの対抗意識があったことを明らかにした。

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<プーチン大統領>

 ロシアには、サウジ以上に米トランプ政権に対する不満がある。トランプ政権の支持基盤の一つが石油、シェールオイル・ガス資本であり、シェールオイル・ガスのシェア拡大と輸出拡大のため、口実を強引にでっち上げてイランやベネズエラへの制裁を実行し、両国の石油輸出を減少させ(日量約300万バレルといわれる)、その分シェアを奪ってきた。

 ロシアに対しても同様に、ウクライナ制裁によって、石油や天然ガス輸出に制裁をかけてきた。

 ロシア国営石油会社ロスネフチのセチン社長自身も、2014年2月のウクライナ戦争を理由に対ロ制裁の対象人物とされた。また、米国の経済制裁によって、北極海の大陸棚の共同開発などロスネフチと米メジャーとの協力も禁じられ、20年2月には新たにベネズエラの石油事業に関与したロスネフチの子会社が米国による制裁の対象になった。

 ロシアの国営ガスブロムが建設する欧州へのガスパイプライン「ノルドストリーム2」が19年12月、米の制裁対象とされ、米ロは欧州への天然ガス市場のシェアをめぐって激しく対立している。

 今回の石油価格の低下は、世界恐慌によるものであり、トランプと言えども世界需要を増大させて石油価格を上昇させることはできないのであって、ロシアはこの機をとらえ、シェール企業に打撃を与えシェア回復へと踏み込んだのだ。米経済は石油資本への依存度が高く、金融市場への影響も含め、石油価格低下による打撃は大きい。

 もっともロシアも財政収入に占める原油や天然ガス収入は高い割合を占める。ロシアは20年の予算編成の前提を1バレル42ドルとしているのでそれほど余裕はないが、これまでの石油・ガス収入の剰余金が10兆円ほどあるので、これでシェール企業が生産停止するまで耐え忍ぼうとしている。

5)米シェール企業


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<米テキサス州パーミアン盆地のシェール企業>

 米シェール企業は、構造的な問題を抱えている。米シェール企業は民間企業であり、多くは「低格付け社債」で資金調達しており、資金繰りが安定していない。日々の生産・販売収入によって借入資本を返済している状態なのだ。油井によって異なるが、1バレル40~50ドルを下回ると、米シェール企業は採算が合わなくなると言われている。米国の「低格付け社債」市場の1割強を占めるシェール企業は、「低格付け社債」の主要な出し手であり、債務不履行に陥る企業が相次げば、金融市場への影響も避けられない。

 「低格付け社債」は、証券会社を通じて「ハイイールド債」などとして日本も含め世界中に売り出されているが、シェール企業の経営が行き詰まることへの不安から、株式・投資信託市場から資金がすでに逃げ始めた。投資家がシェール企業の破綻を心配して投資資金をひきだす動きが殺到し、「低格付け社債」全体に不安が広がり、「低格付け社債」価格は下がり、金利は約6%から11%へと急上昇した(3月25日日経)。

 すでに、米国でのシェールオイルのリグ稼働数が減少に転じている。「3月20日現在、660基となり、前週からすでに19基減った」(米ベーカー・ヒューズ社調べ)。サウジが大増産する4月にはさらに減少するだろう。

 シェール大手コンチネンタル・リソーシズ社は、3月19日、「2020年設備投資を、25.6億ドルから12億ドルに減らす、リグ稼働数を20基から7基とする」と公表した。

 アパッチ・コーポレーション社は、テキサス州とニューメキシコ州にまたがるのパーミアン鉱区のリグ稼働数をゼロにすると公表した。

 パイオニア・ナチュラル・コーポレーション、ヘス・コーポレーションはともに、2020年開発予算を3~4割減らすと表明した。

 米シェール企業40社は、20年中に1兆円の返済と利払いが生じる見込みであり、資金繰りに行き詰まり、破綻リスクが高まっている(調査会社ライスタッド・エナジー社調べ)。すでに、米シェールオイル開発企業が苦境に立たされている。

 どこまで我慢できるか? 我慢比べが始まった。









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ドゥテルテ、VFA破棄を通告 [フィリピンの政治経済状況]


1)ドゥテルテ、VFA破棄を通告

 時事通信によれば、フィリピン政府は2月11日、「訪問米軍に関する地位協定(以下:VFA、Visiting Force Agreement)」の破棄を通知したと発表した。

 フィリピン政府が米国との安全保障協定の一部の破棄を米側に通告したことになる。 ドゥテルテ大統領の指示による措置で、180日後に有効となる。米比両国の同盟関係は大きく変化する。加えて、フィリピンと中国と関係に影響を及ぼす。

 フィリピンはこれまで、米国と歴史的に緊密な関係を有してきたにもかかわらず、ドゥテルテ政権になって、米国の軍事政策の一部を批判し、米国に対抗する中国、ロシア側に一歩歩み寄った態度に転換しつつある。ただ、ドゥテルテ政権内のテオドロ・ロクシン外相は、米国との安全保障協定を破棄することは比の安全に危険であると、上院で警告を発してもいる。

2) デラ・ロサ上院議員を米大使館がビザ発給拒否
 
 ドゥテルテ大統領は1月23日、デラ・ロサ上院議員が米入国ビザの発給を拒否されたことを受け、協定を破棄すると警告した。デラ・ロサ上院議員は2016-18年に警察長官に在任中、大統領が力を入れた「麻薬戦争」を指揮し、その過程で超法規的殺人を繰り返してきたドゥテルテの側近政治家である。麻薬戦争は非人道的な殺害が多いと欧米から非難されており、米大使館によるビザの拒否はこの延長線上にあるとみられる。

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<2016-18年、デラ・ロサ警察長官(現在は上院議員)>

3) VFAの持つ意味

 フィリピン憲法は外国軍の駐留を禁じており、1992年米軍は全面撤退した。VFAは、1998年に締結され、米軍基地が撤去された後、米軍がフィリピンを訪れ、演習・作戦を実行できる根拠とされた。実際に、米比軍による合同軍事演習や、米軍のフィリピンでの作戦行動の根拠となって来た。この軍事演習に19年には自衛隊も参加した。米比合同軍事演習は、今後どうなるのか? 注目される。VFAはまた、有事における米軍の迅速な「援助」を可能としている(迅速な援助というより、「危険」と表現した方が正確である)。

 VFAにより、常駐してきた米兵による殺人や性犯罪が起きてきた。容疑者となった米兵の拘束を、比側が拒否された事件が続いた。2005年のニコルさんレイプ事件事件、2015年のロードさん殺人事件事件ではともに、犯人である米兵はフィリピン法できちんと裁くことができず、米政府は犯人を逃がし帰国させた。(ニコルさん裁判では、フィリピン法で裁き加害米兵を有罪としたものの、米大使館が被害者家族に強引に働きかけ提訴をとり下げさせた結果、米兵はフィリピンで服役もせず帰国した。)
 VFAには、米兵犯罪の時効や米政府による容疑者の保護が規定されていて、犯人摘発の直接の障害になってきたのである。

 フィリピンの人々からは、VFAがあるから「不平等だ」と批判され、VFA撤廃の運動が起きてきた。 

4)ドゥテルテには驚かされる!

 ドゥテルテにはいろいろ驚かされることが起こる。彼はパフォーマンス政治だから、これまでは支持者に向けたパフォーマンスだろうという評価へと、最終的には収束したが、今回は予想以上だった。


5) 米国の力の低下

 まず最初に指摘しておくべきことは、米国の力の低下、影響力の後退だ。
 一昔前なら、ドゥテルテは米政府の意向を受けた軍や政治勢力によるクーデターで倒され、従順な親米(従米)政権に変わったろう。戦後のフィリピン政治はこれを繰り返してきたのを、私たちは知っている。

 2020年現在、米国はフィリピンでクーデターを起こすことができない。クーデターは、もはや起きない、起こせないフィリピンになったということだ。時代は変化しているのだ。

5)フィリピンとASEAN、経済におけるナショナリズムの高揚

 フィリピンはもはや米国の政治・経済支配の外にいる。フィリピン経済はすでに中国経済圏のうちにあり、そのなかで経済発展を遂げている。米資本は現在ではフィリピンにほとんど投資しない。投資するのは中国資本ばかりだ。これに伴い、米国のしもべである日本資本の地位も、フィリピンでは相対的に低下している。

 フィリピン支配層、資本家層は、経済的にはすでに米国の影響の外に存立している。その基盤が、米国の政治的影響力をそれほど考慮しないことを可能にした。フィリピン政府の外交政策が変化するのは、むしろ自然なことだ。軍隊を送り口出しばかりする米政府は、フィリピン支配層にとっても、もはや不愉快であり、かつ不要となりつつあるのだ。

 これは決してフィリピンばかりではない。ASEAN全体が米国の政治的影響下と経済圏から離れ、ASEAN首脳は米国から距離を置く、影響から離れることを意識的に志向している。米軍が東シナ海をウロチョロすれば、戦争や紛争が起き、経済活動に支障が出る。ASEAN諸国はすでに、米軍がASEAN地域で軍事的対立をつくり出すことには、徹底した拒否を貫く立場なのだ。

 ASEANは今、経済発展がきわめて好調で、世界経済の成長の中心の一つとなっている。中国との連携した経済発展も好調であり、良好な関係を築いている。米国の都合で、米軍がうごきまわって欲しくない、したがって、フィリピン政府によるVFA破棄は、いずれ起きることだったのだ。
 それが、デラ・ロサ上院議員の入国拒否というきっかけで生じたに過ぎない。

6) トランプ政権を無視する!

 米政府の力は確実に落ちてきている。トランプ政権の言うことを、聞き流して無視する各国政府がふえて来た。イラン戦争を始めるという「有志連合」に、いつもは参加するNATO諸国が参集しなかった。トランプは突然、「イラン核合意破棄」したが、誰も支持していない。米国の軍産複合体の都合で破棄した。合意に至るまで支払われた各国の努力をまったく無視して、勝手に破棄した。これにいつもは従う欧州諸国は従わなかった。

 ASEAN諸国も、トランプ政権のこういった振る舞いを冷ややかな態度で眺めてきた。トランプ政権に追随する安倍政権の姿も、横目でひややかに眺めてきた。

 アメリカの時代は終わった。
 日本の時代も終わった。
 このように世界はとらえているのだ。
 (世界のGDPのうち日本の占める割合:1990年約16%、2018年約6%)

 今回の出来事は、こういった国際政治の流れのなかの一つの事件、一つの現れととらえるのが適切であろう。






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フィリピンでの政治弾圧が止まりません [フィリピンの政治経済状況]

 フィリピンでの政治弾圧が止まりません。

 ドゥテルテ政権が進歩的な団体に対し「テロ組織である」というレッテルを貼り、実際に攻撃を行ってきているため、フィリピンの人権状況が極めて悪化しています。

 18年12月、ドゥテルテ政権はNPA(新人民軍)を「テロ組織」として指定した後、共産党系の労働組合KMUや農民団体KMP、女性団体ガブリエラなどへの弾圧を強めています。警察が諸団体の事務所に押し入り、「銃を見つけた」と騒ぎ、メンバーを逮捕したり書類を押収しています(実際には警察が銃を持ってきて、無理矢理に証拠とする手口です)。一方、2人組がオートバイで駆け付け活動家を暗殺して逃げ去る事件が相次いでいます。軍人の仕業とみられています。

 そんな状態なので、市民団体の活動も弾圧を警戒しなければならず、活動が停止したり停滞するなどの困難に当面しています。

 多くの活動家の間で恐怖がひろがっているそうです。
 また、この期間にドゥテルテ政府が2つの覚書を発行し、「NPAなどにテロ資金を供給しているのではないか」と非難して、NGOの調査を始めました。これは「魔女狩り」に匹敵するものであり、同様に恐怖の風土と多くの組織の運営の困難をもたらしています。実際の事件は、女性団体ガブリエラ、カラパタン人権同盟、フィリピン農村宣教師の3つの組織に対して、ドゥテルテ政府は調査対象とする覚書を発行しました。

 慰安婦被害者団体・リラピリピーナからの報告によれば、ボランティア・スタッフの一部なども弾圧を恐れ、一時的に活動から離れる人も出ているとのことです。リラ・ピリピーナは慰安婦被害者の現状を再確認する「再発見プロジェクト」を実施中だそうですが、そんな活動さえ中断していると聞きました。

 弾圧にもめげず、市民団体、労働組合などは敢然と戦っているそうですが、ただ、スタッフとオフィスの両方の安全対策に、膨大な時間とエネルギー・費用が費やされていると報告しています。

 フィリピンの人権状況は特にひどく、軍・警察による「超法規的殺人」が止まりません。超法規的殺人とは、警察が捜査・逮捕の過程で、「容疑者が抵抗したので殺害した」、あるいは「オートバイ乗りの2人組による暗殺」などが横行していることを指します。

 フィリピンでは死刑制度は廃止されているためか、捜査・逮捕の過程で殺人が行われるのです。こういった法制度を無視した殺人(=「超法規的殺人」)が横行する、極めて人権がないがしろにされている社会だと国連の人権員会などの国際機関も指摘しています。




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香港デモとは何か?何が起きているのか? [世界の動き]

 香港デモとは何か?
何が起きているのか



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<香港のデモ 1月1日産経 から>

1)香港デモの背景に何があるか?

 香港におけるデモが続いているが、「逃亡犯条例」はきっかけにすぎない。
 背景にあるのは、香港社会における格差拡大と、将来への不安である。それが今のところ「中国政府への不満」として現れている。この現実をまず認識しなければならない。

 1997年7月1日に、香港の主権がイギリスから中華人民共和国へ返還され、香港は中華人民共和国の特別行政区となった。中国政府は鄧小平が提示した一国二制度をもとに、社会主義政策を将来50年(2047年まで)にわたって香港で実施しないことを約束した。

 返還当時の香港は、中国経済にとって海外との窓口であった。香港金融市場を通じて中国への投資は行われ、物流も香港を通じて出入りした。香港の役割は貴重でありかつ重大であった。

 しかし、この30年間をかけて、中国経済が急速な発展を遂げるなか、香港の地位も大きく変化した。上海や深圳にはすでに株式市場は開設されている。深圳のGDPは18年に香港を超えた。経済開放当時、農村だった深圳は1,400万人の人口を抱える産業都市となった。香港人口は740万人だから、一人当たりのGDPは深圳の2倍近くだが、香港の相対的な地位は低下したし、今後も低下する。

 1月24日の日経よれば、空港の旅客数、港のコンテナ取扱量は下記の通りとなっている。
19年はデモの影響でいずれも減少している。

19年旅客数(カッコ内は前年比増減率):
・ 香港国際空港  : 7,153万人(▲4.2%)
・ 北京首都国際空港:1億人超え
・上海浦東国際空港:7,600万人(3%増)
・ 広州白雲国際空港:7,300万人(5%増)
・ 深圳宝安国際空港:5,300万人(7%増)

19年コンテナ取扱量:(20フィートコンテナ換算)
・1,836万TEU:  ▲6.3%

 2000年代前半まで世界首位だった香港の港湾のコンテナ取扱量は、上海、深圳、広州に加え、最近では青島にも逆転された。

 香港は、中国本土と世界を結ぶハブ空港、ハブ港として成長してきたが、地理的に近い広州や深圳にハブ機能の一部が移転するとともに、上海や北京、青島など中国本土との直接の交易が増えた。

 現在でもなお、19年にアリババが香港株式市場に上場したように、香港金融市場は中国企業が海外資本を集める機能を果たしているが、その地位は相対的に低下している。
(香港社会と経済の現状をきちんと調査分析しなければならない。とりあえずの見立てではあるが、上記のように言えると思う)
 
2) 香港社会の問題点とは何か?

 現代の香港は、金融、観光産業の都市となった。雇用を吸収する製造業はほとんどなくなった。家賃と物価は高く、生活者には厳しい社会だ。特に家賃が高く、狭い住居に住む人は多い。「香港は東京都の半分の面積に740万人が住む、住宅価格は世界一高い。カプセルホテルのような極小住宅に暮らす人も多い」(日経、1月16日)。

 香港には、金融資産を持つ人も多いが、同時に貧困層も多く、典型的な格差社会である。このようななか、特に若い世代の多くは、香港の将来が見えないため、不安にとらわれているのだ。

 この香港社会の問題点をどのように解決していくか? 未来の香港はどういう社会であるべきか? その過程に香港市民が加わるにはどのような政治改革が必要か? これら変革のプランを香港市民に提示しなければならない。社会改革と政治改革が一体となったプランを持たなければならない。

 香港の「民主派」(とりあえず、「民主派」と呼ぶことにする、実態をきちんと把握していない、いろんなグループや主張があるようだ)にとっても、近い将来どのような香港社会にすべきかは、大きな課題である。しかし、今のところ「民主派」の変革のプランが、明確に見えてこない。

3) 民主派の「5大要求」 

 香港で半年以上にわたり続く抗議活動が、香港政府や中国政府に求めているのは、「5大要求」すべての受け入れだ。
 5大要求とは、
(1)逃亡犯条例改正案の完全撤回
(2)デモを「暴動」と認定した香港政府見解の取り消し
(3)警察の暴力に関する独立調査委員会の設置
(4)拘束・逮捕されたデモ参加者らの釈放
(5)行政長官選や立法会選での普通選挙の実現-である。

 「逃亡犯条例」反対から始まった民主派は、「五大要求」を掲げて運動の統一を図っているが、19年9月すでに「逃亡犯条例」は撤回された。

 その結果、最終的には(5)項目目の親中派に有利な間接選挙ではなく直接選挙を実現する制度要求へと、政治的な改革の焦点が定まりつつあるように見える。

 ただ非常に奇異なのは、「五大要求」に、香港市民が抱える諸問題、貧富の差の大きい格差社会の改革、低家賃公共住宅の実現の課題が、まったく見当たらないことだ。それは、誰が、どのような方向に、民主派を導こうとしているか? にも関係しているのだろう。

 民主派の運動は、これまで「中国政府と香港政府を批判していれば済む」状況にあったが、局面はすでに変化した。香港社会の格差拡大をどのように解決するか? それを実現するためにどのような社会制度、選挙制度にすべきかという社会変革のプランを掲げ、市民運動を継続発展させるかを提示しなければならない段階に達している。「五大要求」を掲げて、「香港政府と中国政府は責任をとれ!」と主張して運動を組織する時期はすでに去っている。

 そこにおいては、民主派のなかの富裕層と貧困層の間の対立が表面化する段階に入りつつあるように見える。民主派のなかの多数を占める貧困層が運動の主導権を握らなければならない。これがどのように解決されるかによって、民主派の改革運動は次の段階へ踏み込むか、それとも分解するかが決まる。

 香港における「自由」とは、「金融資産の安全を確保し増大させる自由」も含まれる。香港の「一国二制度」には、金融資本の自由も含まれている。香港経済は、これに一定の規制をかけるべき局面に達している。
 
 例えば、土地への規制である。香港のデモが長期化している背景の一つは香港のあまりにひどい住宅事情にある。香港の住宅事情を解決するには、低家賃の公共住宅の建設が何よりも必要であり、そのことは香港の不動産資本に対する規制や金融資本の抱える「遊休土地」を提供させなければならない。

 香港一の資産家・李嘉誠氏(長江実業集団)の利益の源泉は不動不動産業だ。香港政府は、住宅問題解決のために、不動産資本の抱える遊休土地を提供させ、低家賃公共住宅を建設するとともに、これら公共住宅(多くは新界地区)と香港中心部を結ぶ公共交通網をつくりあげ、早急に住宅問題を解決しなければならない。

 その政策プランは、「香港の自由」=「金融資本の稼ぐ自由」を掲げて反対する富裕層と、住宅困窮者とを民主派のなかから分離させるだろう。

 このような事情は、中国政府、香港政府ともに承知している。中国政府も、香港デモの背景には格差社会があることを見てとり、巨大不動産会社に遊休土地を提出させて住宅建設を行う方針である。

 不動産会社は中国に近い新界地区に広大な遊休地を抱えるが、住宅用地への転用にはこれまで消極的であった。

 中国国営メディアから、「不動産会社が土地を抱え込んでいる」という批判がなされている。新華社通信は19年9月に「香港で大規模デモが続く背景には、こうした住宅事情への不満がある」「既得権益を持ったグループが土地を囲い込んで、政府の住宅政策を妨害している」と指摘した。

 このようななか、「香港大手不動産会社が、保有する遊休地を無償で提供すると相次いで表明」した(日経、1月16日)。
 土地提供を申し出たのは、下記4社。
・新世界発展社 ・恒基兆業地産社 ・ウィーロック社 ・新鴻基地産発展社
 提供される土地は合計430万平方フィート、東京ドーム8個分。住宅建設に十分な広さではないが、不動産資本の一部が見せた態度である。

 なお、長江実業集団(李嘉誠)も慈善団体へ10億香港ドル(約140億円)寄付を申し出た。

 香港の富裕層も、デモが長期化する背景には香港市民の生活と住宅への不満、将来への不安があることを知っているからだろう。土地提供の申し出や寄付は、矛先が富裕層に向かないための行動でもあるのだろう。

4)英米の干渉 

 トランプ大統領は19年11月27日、香港人権法案に署名した。「香港人権・民主主義法案」は、中国が香港に高度の自治を保障する「一国二制度」をしっかり守っているかどうかについて、米政府が毎年検証するという。露骨な内政干渉である。「香港の人権、民主主義を損なう政策や行動をとった(と米政府が認定した)中国政府や香港の要人ら対して、米国への入国禁止や、米国内での資産の凍結などを行う」ことを定めており、極めて厳しい内容、身勝手な内政干渉になっている。米国が超大国であり、ドルが国際通貨である特権を利用している。

 民主派のデモでは多くの星条旗が振られているし、19年11月27日、米国で「香港人権・民主主義法案」が成立したときこれを歓迎した。民主派のデモに参加する若者の多くは、米国に対する間違った「幻想」に囚われている。「カラー革命」で各国に介入し、クーデターを繰り返している米国の姿が少しも見えていない。

 米国は民主主義基金(NED)を通じ、混乱を利用し介入してきている。ウクライナでナチ集団がクーデターを起こしたように、混乱を意図的につくりだし人々をパニックに陥れ香港社会の破壊を目的に活動する集団を送り込んでいる(アンドレイ・ヴェルチェックのレポート)。

 デモ隊の一部によって、中国派とみなされた会社や商店などが襲われた。HSBC銀行(香港上海銀行:英国に本社のあるHSBCホールディングスの子会社)が海外からの民主派支援の口座を開くことを断った理由で襲われたし、吉野家などが店舗破壊の被害にあっている。

 これらは、混乱を意図的につくりだし、人々をパニックに陥れて、香港社会を破壊するのを目的にしたグループの仕業だ。ウクライナのクーデターとよく似ている。
 民主派は、こういった米国をはじめとする外国からの介入とは手を切らなければならない。

5) 今後 

 米国や英国の介入と手を切らなければ、民主派と香港の民主化運動に未来はない。 
 香港社会の格差拡大をどのように解決するか? それを実現するためにどのような社会制度、選挙制度にすべきか? という社会変革のプランを掲げ、市民運動を継続発展させるかを提示しなければならない段階に達している。そうでなければ「民主派」自身が、香港社会のなかで人々の支持を得続けることができなくなるし、存続できなくなる。「とにかく中国政府が悪い!香港政府と中国政府は責任をとれ!」という段階はすでに去った。

 中国政府や香港政府も、住宅問題の解決を含む格差社会の解消の必要性を認識している。中国政府はこれを「上意下達」式に実行することを考えているだろう。

 問題は、香港市民の自主的自発的な行動、人々の連合体、これを可能にする選挙制度の実現とともに、香港社会の変革、格差社会の解消を実現していかなくてはならないということだ。それが次の課題となるだろう。
(2月1日記)





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ソレイマニ司令官の暗殺 [世界の動き]

米軍は中東から撤退せよ!
それが、イラン戦争を回避する道だ!

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<イラン・革命防衛隊ソレイマニ司令官>

1)米軍がソレイマニ司令官を殺害

 ソレイマニ司令官暗殺という米軍の行為は犯罪だ! 国際法違反であり、イラク主権の侵害だ!

 イラン革命防衛隊司令官ガセム・ソレイマニ将軍は12月29日、アル・カイム近くのシリア-イラク国境で、米軍が殺害した31人のイラク兵士の葬儀列席のためイラクを公式訪問していた。1月3日、イラクに駐留している米軍はこれを狙い、バグダッド空港近くでソレイマニ将軍を暗殺した。

 これは米軍の犯行である。トランプは暗殺を指令したと公言し、米国防総省も暗殺作戦を実行したと表明している。米国防総省声明は以下の通り。「大統領の指示で、米軍は、国外のアメリカ要員を保護するため、断固とした防衛措置をとり、アメリカが指定した外国テロ組織、イスラム革命防衛隊のクッズ部隊のガセム・ソレイマニ司令官を殺害した。

 米軍によるイラン高官の1人、ソレイマニ将軍暗殺は明確な国際法違反であり、かつイラク主権の侵害だ。このことをまず指摘し米政府を厳しく批判しなければならない。

 しかし、驚くべきことに間違いと犯罪を犯した米政府を批判しない、このような初歩的な批判さえしない政府が存在する。英、日、欧州各国政府である。またこれら政府の支配下にあるメディアも米政府の無謀ぶりを批判しない。米国とともに、「先進国」と自称している各国政府が、このような実に野蛮な行動をとっている!

 戦争の危険が迫っており、その責任は米政府にある。各国政府は米政府を批判し、米政府を押しとどめなければならない。そんな当然のことをせず、利害から米政府に追随するばかりの「先進国」と自称する政府連の責任も重い。

 日本のメディア、主要新聞、NHKなどは、米軍のソレイマニ暗殺が国際法違反・国連憲章違反であり、イラク主権の侵害であるという基本的な事実を報道しなかった。そのことで、これらメディアのイラン報道や主張は、信用ならないことを証した。

 米国の振る舞いは、例えば1930年代のナチスと同じだ。同時に、ナチス台頭を許した欧州各国の「宥和政策」以来の、危険で臆病かつ身勝手な態度を「先進国」はとっており、より大きな戦争へエスカレートする極めて危険な情況をつくり出している。

2)暗殺は米―イラン戦争に拡大しないか? 

 ロシア中国の外相は、「スレイマニ将軍殺害は国際法違反である、中東情勢が著しく悪化した」と憂慮を表明した。1月3日、ロシアとドイツの外相は電話協議し「米国の行動は国際法に反する」との認識で一致した。米政府を批判することで、緊張の激化、戦争への動きを止めようとしている。「信頼できるまともな対応であり行動」だ。米政府を孤立化させて初めて、戦争を止めることができる。

 米―イラン戦争へ突入することを、世界は恐れた。

 イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「ソレイマニ将軍と彼の仲間の血で塗られた犯罪者連中には、厳しい報復が待ち受けている」と報復を宣言し、実際に1月8日、イラク米軍基地へ報復のミサイル攻撃を行った。同時に、アメリカとの戦争に入るつもりはないことも表明した。
 トランプはイランから報復のミサイル攻撃を受けた後も、イランと戦争を始めるつもりはないと表明した。

 軍事的に注目しておくべき点がある。1月8日のイランによる報復攻撃は、第二世界大戦後初めて米軍基地に(弾頭火薬700㎏相当の22発の)ミサイルの雨を浴びせたことになる。米基地からは一発の防衛ミサイルも発射されず、米軍のパトリオット防空システムは機能しなかった。数カ月前(19年9月)、フーシ派による無人ミサイル機攻撃に対し、サウジアラビアの石油・ガス施設を防衛しそこねたパトリオット防空システムの失敗を、またもや繰り返したのだ。
 
 テヘランが中東の米軍基地とイスラエルへの攻撃を望めば(3,000㎞程度の射程の)、米軍は止めることができないことが明らかになった。もっとも、イランは中距離ミサイルを持ってはいるが、ICBMも核弾頭も持ってはいない。
 
3)なぜ米国はイランと戦争するか?その理由がない 

 なぜ米国はイランを脅すのか?戦争を仕かけるのか? そもそもその理由がない。

 アフガニスタンでの米国の戦争は、ワシントン・ポストが公表したアフガニスタン・ペーパーが述べた通り、敗北している。リビアも破綻国家にしてしまった。5年間のたゆまないサウジアラビアによる空爆と封鎖がつくりだした政界最悪の人災に、イエメンは耐えている。米国が5億ドルの資金供給し、武装させたシリアの「穏健」反政府派=「自由シリア軍」は、ISやヌスラ戦線に合流し、恐怖で違法な統治を行った後、シリア国民の支持を失い、打ちすえられ国外に追いだされた。傭兵集団を使って政権を倒す米政府の戦略は失敗に帰した。この失敗のために、米国のみならずサウジやカタールなどの支援を加えれば、5兆ドル~7兆ドルを浪費したことになる。

 では、なぜ米国はイランを脅し、戦争を煽るのか? イランが遵守してきた核合意から米国だけ一方的に離脱するのか? なぜ既に極めて激しやすい地域を、一層不安定にするのか?

 米国支配層であるネオコンと軍産複合体にとって、多額の軍事費を奪い取り続けるためには、緊張状態、戦争状態を続けるスケープゴートが必要なのだ。それがイランなのだ。
 イスラエルを正面から批判しパレスチナ問題の解決を強く要求しているのは、いまではイランでありシリアだからだ。だから、シリアが標的となったし、イランが次のスケープゴートにされたのだ。

4)米国はイランと戦争できるのか? 

 ところで、米国はイランと本格的な戦争ができるのか?
 トランプはイランに取引のための脅しをかけるつもりだった。戦争する準備をしていなかったが、ソレイマニ司令官を暗殺した。イスラエルの働きかけがあった可能性が高い(田岡俊次氏)。2020年大統領選挙に向け、支持率が上がると判断したのだ。危険極まりない行為だ。

 アフガン、イラク、リビアでの当初の戦闘において米国は確かに勝利したが、全体としてみれば戦争に敗け続けている。

 アフガニスタン・ペーパーが暴露した通り、アフガン戦争ではすでに敗北しつつある。米政府の支持してきたカルザイ政権は汚職だらけで、米軍が撤退すればすぐにでも崩壊する。米政府はタリバンとの和平交渉を極秘裏に始めたが、タリバンに交渉を拒否されている。18年間で1兆ドルつぎ込んだアフガン戦争は米国の敗北に終わりつつある。ただ、いったん始めた戦争はなかなかやめられないのだ。

 イラクのフセイン政権を倒したものの、現在のイラク政権は多数のシーア派が主導権を握る政府になった。米軍はイラクから出て行け!と要求されている。

 シリアのアサド政権を倒そうと、傭兵であるIS、ヌスラ戦線、「自由シリア軍」を送り込んだが、反政府軍の支配下での無法な統治はシリア国民に支持されず、傭兵軍団は敗走した。米国のシリア戦争戦略は失敗した。いまシリアには1,000人ほど米軍部隊が、「裸の状態」で(=傭兵を従えることなく)存在するだけだ。

 リビアでは、不法にも(=国連憲章に反して)NATOが空爆し、地上では傭兵であるLIFGを使い、カダフィ政権を倒したが、生まれたのは混乱だ。NATOにも米軍にも、この混乱をおさめる力がない。シリア戦争を終わらせたロシアが、リビアでの対立の仲介に乗り出している。ここでも米国の影響力後退が露わとなった。

 これら中東の4ヵ国において、米国は当初の戦闘に勝っていても、最終的に戦争に勝つことができなかった、むしろ敗けているのだ。ベトナム戦争とよく似ている。

 このような状態で、新たに米国はイランと戦争を始めることができるのか? イランは8,000万人の人口があり、面積は日本の3倍である。米軍を100万人単位で投入して初めて、当初の戦闘に勝つことはできるかもしれないが、最終的に戦争に勝利する見込みはない。
 米国はとてもイランと戦争をすることはできないのだ。
 
5)イラクに米軍は駐留し続けることができるか?

 イラクの人々は米国を同盟者や解放者としては見ていない。占領されることを望んでおらず抵抗するだろう。米国はこれまで投入した戦費を賄うため、イラクの石油収入の半分をよこせという法外な要求をしている。まったく逆だろう。大量破壊兵器を持っているという「嘘」を根拠にフセイン政権を倒した。その際多くのイラン国民が犠牲となった。米国は逆に戦時賠償をしなければならない立場なのだ。

 ソレイマニ将軍暗殺に対するイラクの人々の抗議行動は、一つの政治的焦点を浮かびあがらせている。米軍のイラクからの撤退だ。

 イラクの過半数を占めるシーア派勢力を中心に、米軍基地や大使館、米国人を標的とした広範囲にわたる抗議行動が拡大している。イラクのシーア派は人口の6割を占めており、イラク各地でもヤンキーゴーホームの声が上がっている。すでに、石油施設に関係する米国人ビジネスマンとその家族のイラクからの退去が続いている。

 米軍は現在、イラクにわずか5,200人しか駐留していない。これまで「米国の手先」であったヌスラ戦線やISはシリア戦争の過程で敗走し壊滅している。現時点において、米軍は手足となる傭兵集団を持っていない。米軍単独で戦争、もしくは戦闘に対応しなければならない。イラク内の米国民は全員「即」出国するよう言われ、大使館と領事業務は閉鎖された。ビジネスにおいても米国の影響力は大きく後退する。

 1月5日、イラク議会は「外国軍部隊の駐留を終わらせる」決議を採択した。駐留米軍の撤退を求める決議だ。米軍のイラク駐留の根拠は、2003年、フセイン政権打倒後の米国とイラク政府が結んだ「戦略的枠組み合意」である。イラク議会は決議を採択し、米軍駐留の根拠である「合意」の破棄を求めている。イラクのアブデル・マハディ首相は、全てのアメリカ部隊撤退を求めるため国会緊急会議を要求した。

 「イラク指揮官の標的暗殺は協定違反だ。それはイラクや地域で戦争を引き起こしかねない。それはイラクにおける米国駐留条件の明確な違反だ。私は議会に必要な処置をとるよう求める。」(アブデル・マハディ首相)
 アブドル・マハディ首相は決議に賛成したが、合意の破棄までは言及していない。

 米軍のイラク駐留は、イラク政府の同意が前提だ。米国と米軍の存在感が揺らいでいる。トランプ大統領は1月5日、「イラク政府が米軍撤収を一方的に要求した場合、前代未聞の経済制裁を科す」と脅した。イラクからの米軍撤退を迫られている危機的な情勢を、トランプはそのように表現した。

 この先、イラクの米軍基地撤去が一つの政治的焦点となる。イラクにおける米国と米軍の影響力が後退していく過程が始まったと言える。これがどのように、どの程度すすむかがイラクと中東における今後の行方を決める。

 デリゾール近辺のシリア米軍基地は、地続きのイラク米軍基地によって存在できているのであり、イラクから米軍が撤退すればシリアの基地は維持できない。イラクからの撤退は、中東における米軍機能の喪失であり、米軍の存在感が一挙に失われる。

6)米軍は撤退せよ!
 それが、中東の安定と平和をもたらす

 米による対イラン戦争はとりあえず回避されたようだ。トランプは戦争の準備をしていなかったし、例え準備していても最終的に戦争に勝利することは不可能であると、極限の危機のなかで米政府と米議会首脳、米支配層は判断したようだ。
 ただ、米―イラン戦争への突入は押しとどめられているものの、緊張が高まったままの極めて危険な状態は続いている。

 ソレイマニ暗殺によって、中東における米国と米軍の影響力がさらに低下した。この事態にどのように打開するか、米国はその手段をもはや持っていない。

 対イラン戦争を煽ってきた米同盟国サウジは、イエメンのフーシ派勢力による無人機ミサイルで石油施設を攻撃されて戦争する態勢にないことが明らかとなった。愚かなムハンマド・ビン・サルマン皇太子といえども、この現実をやっと理解した。米国の手先だった傭兵集団も敗走した。サウジや湾岸諸国が「脱落」した今、米国に対イラン戦争を煽っているのはイスラエルだけだ。

 米軍が中東から撤退すること、これが中東の安定と平和をもたらす。
 今こそそのようにすべきであるという認識が中東の人々のあいだに広がりつつある。
 有志連合などに加わらず、米国とイスラエルを徹底的に孤立させること、これがイラン戦争を回避する道だ。






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「即位の礼・大嘗祭と信教の自由――真宗者の立場より」菅原龍憲さん [靖国、愛国心、教育、天皇制]

菅原龍憲さんの講演

「即位の礼・大嘗祭と信教の自由――真宗者の立場より」
19年12月12日(木)


――当メモは、参加した筆者が菅原さんのお話をうかがい理解したかぎりでまとめました。また聞き漏らしたと思われるところを当日配布された資料の一部も引用し補充しました。理解が及ばず間違いもあるかもしれません。それらを含めて文責は筆者にあります。――
      
菅原龍憲さん、山陰教区、蔵坊前住職 
 1940年生まれ、父親が戦歿者、真宗遺族会代表、1985年の中曽根首相の靖国神社への公式参拝に抗議し原告に加わり裁判を始めた。小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟団原告代表でもある。

1)天皇代替わりの儀式、大嘗祭とその意味 

 19年秋、愛知トリエンナーレでもめていた最中に愛知の市民団体から呼ばれ、天皇制について話をした。私の前の回に天野恵一さんが講演され、右翼が押しかけて騒然となった。最近思うのは、天皇制の問題を語り合うのが難しい時代になったということだ。

 私は1940年生まれであり、この年は皇紀2600年と言われた。もともと皇紀など誰も知らなかったのだが、天皇制政府がにわかに持ち出し、天皇のお祭り、国家的なお祭り行事を行った。

 当時、中国との戦争が膠着してなかなか終わらず、国民のあいだでは厭戦気分が蔓延していた。ちょうどその時、天皇制政府は皇紀のお祭りをした。古色蒼然・荒唐無稽だと冷静に考えれば誰でも思うだろうが、当時の国民は政府のつくり出した熱狂的な雰囲気に圧倒され飲み込まれ、一挙に国民の心情は天皇へと統合された。政党は大政翼賛会に組織統合され、1941年太平洋戦争開戦へと進んだ。天皇のお祭りには上記の通り、レッキとした政治的、イデオロギー的意味と役割がある。支配者の望む戦争体制をつくりあげたのだ。天皇による祭祀が果たした役割、その結果日本政府・日本軍がどのような歴史をつくり出し、日本国民はどのような道をたどったか、きちんと認識しておかなくてはならない。

 そんなことを顧みながら、今回行われた大嘗祭の意味を併せて考えるべきなのだと思う。支配の側から国民の精神を統合していくことは、国家による国民支配をとても有効なものにする。「天皇による祭祀や天皇の行為、祈り、天皇存在そのもの」それらの機能は、「幻想の喚起による国民の心情の統合を促す」ところにある。一見、荒唐無稽と思われたものが、実は政府による支配、天皇による支配にいかに有効だったか、このことを私たちはしっかりと心に留めておかなくてはならない。

2)天皇の行う祭祀の役割 

 この秋に、徳仁新天皇が伊勢神宮に参拝したことについて、旧暦でいえば11月20日ころまでが「神無月」だから、伊勢神宮の神・アマテラスは出雲に行っていて不在ではないか? そんな伊勢神宮に参拝するのはおかしかろう? と伊勢神宮に問うたところ、「神には天津神(あまつかみ)、国津神(くにつかみ)があって、アマテラスは天津神であり、神無月でも出雲に行きません」と言われた。
 神話の解釈もすでに都合よく改変されている。

※註:天津神と国津神:
 日本書紀などによれば、天津神(アマツカミ)とは高天原(タカマガハラ)にいる神々、または高天原から天降った神々の総称、アマテラスやニニギなど。国津神(クニツカミ)とは、地に現れた神々の総称。高天原から天降ったスサノオや、その子孫である大国主(オオクニヌシ)など、天孫降臨以前からこの国土を治めていたとされる土着の神(地神)が国津神とされている。
 日本神話においては、国津神である大国主命(オオクニヌシ)が、ニニギを筆頭とする天津神に国土(葦原中国)の移譲したことが「国譲り」として描かれている。アマテラスなどを祖先とする有力な氏族が支配・征服者となる過程で天津神となり、平定された出雲などの地域の有力者や人々が信仰していた神が国津神になったものと考えられる。
*****

 伊勢神宮で年に30回ほどの行事がある。考えてみれば、皇室は年中祭祀礼をやっている。その費用は、公の宮廷費(公の費用)、内廷費(天皇家の費用)と分けてはいるものの、どちらも税金であって国費から支出されている。

 天皇代替わりの儀式、一連の行事があり、総仕上げとして11月14日の大嘗祭があった。
 大嘗祭では、三種の神器を引き継ぐ「剣儀等承継の儀」を行った。三種の神器は連続性の装置だ。所有者が変わろうが「神器」は連続するので、支配が連続しているように見える。神器を引き継いで所有するがゆえに、皇位を引き継ぎ正統・神聖であるかのように見せる。「アマテラスの霊が歴代天皇に憑依し連続する」というストーリーを表現する「道具」なのだ。

3)国体―「三種の神器」が天皇の神聖性・宗教性を示す

 「三種の神器」の承継の儀が、即位式のなかで最重要だとしている。それはどうしてか?

 「三種の神器」こそが国体の象徴だからだ。それは天皇の「神聖性」「宗教性」を証するものであり、天皇制が「万世一系」で揺るぎないこと、天皇制支配の連続性・持続性を主張しているからだ。

 昭和天皇は独白録のなかで、1945年8月に戦争を終結した理由として、「三種の神器が奪われる、だから講和した」と述べている。「米軍が伊勢湾に上陸すれば、伊勢熱田神宮は直ちに敵の制圧下に入り、神器の移動の余裕はなく、その確保の見込みも立たない。これでは国体の維持は難しい。故にこの際、私の一身は犠牲にしても講和をせねばならないと思った」(昭和天皇独白録1945年8月)。

 木戸幸一日記によれば、広島への原爆投下を聞いた時、最初に裕仁が発した言葉は、広島の被害についてではなく、「三種の神器を避難しなければならない」だった。

 京都で、白井聡さんを招いて念仏者9条の会で講演会を持ったことがある。白井さんは「菊より星条旗、天皇は力を失っており、国体は米国支配に変わっている」と述べた。

 私は、この点には納得できない。天皇制は終わっていない、連続している、国体は変わっていないと思う。「国体」は、戦後もなお「天皇」であると私は考えている。そのことを示すのが、「三種の神器」である。天皇が天皇たるものとして支配を受け継いで来たというレッキとした歴史の事実があり、いまも生きているからだ。「三種の神器」は連続した支配を象徴している。

4)徳仁天皇「即位儀式・大嘗祭など」違憲訴訟を提訴 

 19年12月10日、即位儀式、大嘗祭などの代替わりの一連の儀式を国費で賄うことは違憲行為だとして、全国の市民、宗教者ら241人が、国を相手取り公金支出差し止めと損害賠償を求める訴訟を東京地裁に提訴した。しかし、地方裁判所ではなかなか受け付けないし、口頭弁論もなかなかさせない。

 30年前の明仁天皇の大嘗祭の際には、全国から1700人の原告が集まり、勢いがあった。昭和天皇の場合は、戦争と結びついていたし戦争責任問題があったので、1700人が原告となり提訴した。今回の原告は241人だった。明仁天皇が「親しみ深い」、「国民の信頼が高い」と言われていることと関係しているのだろう。

 前回の明仁天皇の「即位・大嘗祭違憲訴訟」に対する1995年3月の大阪高裁判決は、「大嘗祭は神道儀式の性格を有することは明白」として、目的が宗教的意義を持つことを認め、「少なくとも国家神道に対する助長、促進になるような行為として、政教分離規定に違犯するものではないかという疑義は一概に否定できない」と指摘した。私たち原告は敗訴したが、このような内容を含む高裁判決はすでに確定している。

5)国を救済するために最高裁が存在している 

 私たちは靖国訴訟を闘っているが、なかなかいい判決は出てこない。最高裁ですべて覆されてしまう。最高裁長官は形式上であっても天皇が承認するシステムになっている。

 最高裁がひっくり返し、国を救っている。国を救済するために最高裁が存在していることを、私たちは知らなくてはならない。

 靖国訴訟で高裁は、憲法違反の判決を下した。実際のところ、戦死者名簿は厚生省が握っている。軍人会、遺族会に靖国神社に祭ってくれと請願させ、厚生省から地方自治体へ調査を通達し名簿を作成している。逃亡者、投降者は祭られない、地方自治体で調べなおして、厚生省へ送る。厚生省は合祀基準をつくり合祀手順まで作成した。実際には厚生省=国がすべて行っていることだ。

 高裁はそのことをとらえ国の憲法違反という判決を下した。ただ判決内容は、「国は憲法違反したが、靖国神社は祭る自由があるのだから合祀取り消しの理由はない」だった。合祀の手順・基準は違法だが、靖国神社の自主性だという理屈をつくり出して、国を救った。「靖国神社に信教の自由があるので祭っても問題ない」と述べ、ひるがえって国の責任も問わなかった。

 常識からいえば、国が憲法違反したら、それに従って行ったことはすべて違法だが、判決はそれをすり抜ける判決を出した。
 司法はすでに「人権の砦」の立場を放棄している。国家を守る、政権を守る役割を果たしている。
 
6)民草に恩恵を施す 

 明仁天皇は、災害地を訪問しているが、「民草に恩恵を施す」という帝王学に基づいて行っているにすぎない。ひざを折って言葉を交わす、民に恩恵を施すのが帝王学であり、天皇への「信頼」を勝ち取る重要な要件なのだ。必ずしも明仁天皇に限ったことではない。

 ただ、民と天皇の「交流」ではないことはよくわきまえておかなくてはならない。天皇から民に声をかけることはできても、民から質問はできない。

 ある種の新たな「神格化」である。「好感と信頼が持てる」と勝手に国民が思うのだが、そういう形を通じて権威をつくりあげている。その結果、天皇の赴くところには異常な事態が起きる。

 私の住んでいる近くの三瓶山で植樹祭があり、そこに明仁天皇が来た。道路には1mごとに警察官が配備され、そのために全国から警察官が動員された。天皇の行事を遂行する場合は、超法規的であって戒厳令のような国家による動員体制が敷かれる。どのような法的根拠、基準があるのか不明だ。植樹祭の前に、住民の特別戸口調査を行った。精神病者はいないか、犯罪歴のある者はいないか、リストアップして「監視をつける」、「排除する」ことが公然と行われた。天皇の側から警護について、それをするな云々とは、一度も言及したことはない。こういうところ、天皇制の実像は戦前といささかも変わることがない。

 本質的には「仁慈と暴力」という問題ではないかと思う。
 昭和天皇と沖縄のことを考えたら、問題は明確になる。アジア太平洋戦争末期に沖縄は捨てられた。そればかりでない。1947年9月17日、昭和天皇は天皇制を守るために米軍は沖縄にいてもらいたいと申し入れた「沖縄メッセージ」を宮内省御用掛・寺崎英成を通じて密かに米政府に送り、沖縄を二度捨てた。そのため昭和天皇は沖縄に行っていない、行くことができなかったのだと私は思う。棄民した人たちに恩恵である「ねぎらいのお言葉」を施すことはできなかったのだろう。

 「民草に恩恵を施す」という帝王学に関連して、西光万吉(1895-1970)さんの話がある。西光万吉さんは水平社宣言を起草した一人。永六輔(1933-2016年)さんが西光さんと会った時(1968年頃)、水平社宣言の最後の文言に触れ西光さんが語った言葉を、永さんが書き留めている。

<水平社宣言の最後の部分
・・・・・祖先を辱しめ、人間(じんかん)を冒涜してはならぬ。そうして人の世の冷たさが、何(ど)んなに冷たいか、人間を勦(いた)はる事が何んであるかをよく知つてゐる吾々は、心から人生の熱と光を願求禮讃するものである。
 水平社はかくして生まれた。 
 人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光あれ。

大正十一年三月   水平社   1922年3月3日、京都市・岡崎公会堂にて宣言


 「人間(にんげん)」ではなく「じんかん」と読むと西光万吉さんは言われたと永さんは記す。人と人との関係を冒瀆してはならないという意味だそうだ。また水平社宣言の前の草意書?に「人間は勦はる(いたわる)ものではない、尊敬するものだ」と表現しているという。「労(いたわ)る」「勦(いた)はる」――上位にある者が下位にあるものを「いたわる」という意味だ。したがって、我々が考えている「いたわる」とは意味が違う。「勦はる」=殺すという意味もある。

 天皇の「いたわる」は、まさしくこの意味だ。上位にある者から下位の者=民草に恩恵を施すことだ。

 天皇の「希望します」とよく言う、「希望いたします」とは決して言わない、敬語だから天皇は使わない。天皇・皇后の「誠実さ」であると国民の側が勝手に誤解し、その誤解の上に立って腐敗した政府・政権のなかにあって天皇・皇后を一服の清涼剤、「聖なるもの」であるかのように受け取る傾向がある。これは私たちが天皇制を誤解する道、もしくは誤解につながる道だととらえなければならない。

 森達也さんという方がいて、天皇制に批判的なことも時に言う人だが、明仁天皇を「誠実な人」だとと発言されたので、そのような言い方は少しおかしいのではと問いかけたことがある。

 天皇制という枠組みがあるなかで、その人の人格に言及することがどれほどの意味があるのか? と私は考えている。あるいは、天皇制という枠組みを問わないでおいて、天皇家の人々の個々の人権を取り上げることは間違いだと考えている。「天皇制という国家機構のなかに組み込まれている民主主義の否定の意味」を、「天皇個人における民主主義否定、人権喪失」という限界内でしか対象としえない、認識しえない、考え及ばないということであろう。

7) 象徴天皇制は天皇制の最高形態 

 権力による支配・統治の装置として「天皇は国家の最高祭祀である」、象徴こそが天皇制の本質ではないかと私は考えている。権威の象徴である天皇と政治をつかさどる権力の二重システムはわが国に連綿と受け継がれてきた権力構造である。

 天皇の宗教性、神聖性が権力の側にとってどれほど重要かを明らかにしなければならない。

 天皇の本質は、よく言われるような「元首化」ではない。自民党憲法改正案には「元首化」がうたわれているが、私は天皇の本質は「元首化」ではないと考えている。

 天皇を元首とすべきだという主張は実際のところほとんど存在しない。元首であったのは、明治から敗戦までという近代天皇制の前半の時代くらいであって、多くは「君臨すれども統治せず」だった。

 先ほども指摘したが、天皇は祭祀権を持っている。年中、祭祀漬けだし、伊勢神宮の頂点に立つのは今でも天皇だ。敗戦と新憲法、象徴天皇制への転換によって、明治憲法で規定されていた三権のうち政治的統治権、軍事的統帥権を失い、天皇には宗教的祭祀権だけが残った。しかし、そもそも祭祀権だけを持つ時代が大半だった、「天皇は象徴だった」と言い方をしてもいい。大半の時代はそうだったといえる。象徴天皇制になったからといって、生まれ変わったとか、戦前とは違うとかと言って、批判せずに受け入れてしまう傾向があるが、これがよくない。

8)政治が天皇を利用しているのではない 

 憲法20条は天皇を規定するためにできていると考えている。
 秋篠宮が「祭祀は内廷費で行うべき」と発言した。秋篠宮が発言すること自体が問題であり、その発言をもとに憲法学者や知識人が賛成したり云々すること自体がさらに大きな問題である。

 「政治が天皇を利用している」という人がいる。権力の構造がわかっていないのではないかと思う。権力と天皇は一体化している。権力が天皇を神聖化している。権力は、神聖性という背景がなければ立ち行かないことを知らなくてはならない。

 「日本会議」を支配しているのは右翼でありカルトであるが、問題は神社本庁だ。国家に認定されている宗教である、それが怖い。

 このように考えるなら天皇制は権力そのものであるから、「天皇制を政治利用する」という言い方は正確ではない。天皇制そのものに問題がある。「天皇制を利用したと批判する場合、天皇制そのものへの批判が欠如している」ということが生じると思われる。

9)国家の宗教性―天皇の宗教性・神聖性は権力にとって極めて重要 

子安宣邦:『戦う国は祭る国
国家への忠誠心を収斂させ、国家を国民の新たな信仰共同体たらしめるような宗教性により、国家それ自体が国民の犠牲を期待しうるような聖なる存在にならなねばならない

 権力は国民に犠牲を求めるのだが、一方的な抑圧政策だけを出すわけではない。犠牲を強いられても仕方がないというイデオロギーをつくりだし、支配されている人が支配されているという感じを持たないようにする。そのための天皇の神聖性である。

 戦前のわが国の軍隊は「国軍」ではなく「皇軍」であった。天皇の神聖化が国の隅々まで広がり、天皇の統率する軍隊ゆえに「皇軍」(すめらみいくさ)と呼ばれた。天皇の行う戦争は「聖戦」となり、戦死者は「英霊」となり「軍神」となった。「聖戦」の「英霊」が「侵略戦争の戦死者であるはずはない」という理屈だ。あるいは、「英霊」にしてしまえば、「軍神」にしてしまえば、「戦争責任」を追及されることもない。戦争責任回避の理屈が組み込まれている。
 あれだけ巨大な犠牲を内外に強いて戦後なお、日本人の精神風土は微塵も揺るがなかった理由だ。

 犠牲になった遺族たちが靖国神社の白州にひれ伏して天皇を迎えた。遺族にとっての理不尽な死と天皇制とはなかなか相容れるものではないが、補完する制度もある。軍人恩給、遺族年金は、本来は本質的な意味は保障、賠償である。しかし遺族たちは褒章として受け取る。褒章をもらった遺族が持ち帰って地域で見せびらかせる。うちの人は国のためによく働いたと周りに訴える。遺族たちが仮に貧困におちいり差別的な扱いをされるようなことがあったとしても、遺族は天皇との関係、靖国との関係を意識し生きることができる。
 
 沖縄戦で犠牲になった2歳の子供が、「準戦闘員であり、日本軍に壕に譲った」という合祀基準によって靖国に「英霊」として祭られている。実際には、壕に避難していた住民を日本軍が追い出し自分たちが入ったのだ。「英霊」として「慰霊」することで、加害も被害も不問にする意味がある。

 「慰霊」が天皇による祭祀として行われる。「終戦記念日」での戦死者への慰霊を、広島・長崎・沖縄・東京の犠牲者たちの「慰霊」を唱える。「多くの犠牲の上に築かれた平和」であると語り、加害と被害を不問にし、戦争責任を追及しない。昭和天皇自身の責任も不問とし、そこから反転し日本人全体に責任があるかのように論点が移動させ、結局、誰も責任を負わない無責任体制を波及させている。
 天皇による「慰霊」は無責任体制をつくり出しているのだ。

 原発の災害地を訪問し犠牲者の冥福を住民とともに祈ることで、加害と被害の枠組みを雲散霧消させ、政府や東京電力の責任を免責することにもつながっている。

 神聖性という基準で犠牲者をほめたたえていく状況をつくりあげて、抵抗が起きないようにする。背景に神々の世界を置くことでこれを実行する。憲法20条の根っこにこのような考え方がある。たしかに抑圧感を感じさせないために権力は宗教を利用しているのである。このことに気づかなければならない。

10)親鸞聖人と神祇 

 天皇の問題は、親鸞聖人ご自身が抱えてきた。親鸞聖人は、法然聖人流罪、4人の聖人を死罪にしたことを激しく批判し、公文書で怒りの言葉を述べている。

 親鸞聖人の教えは、神々の支配のもとに除災招福を求めていた人間から、神々を恐れず祈らない人間へと転回することを教え、人間の尊厳を回復するものである。







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トランプのウクライナ疑惑とは何か? [世界の動き]

ウクライナ疑惑とは何か?

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<オバマから勲章をもらうジョー・バイデン副大統領>

1) ウクライナ疑惑とは何か?

 トランプ大統領が、ウクライナ疑惑だとして、米議会で米民主党から追及され、米下院は弾劾決議を過半数で可決した。

 そもそもこれは何だろうか? どのような対立なのか? 米民主党の追及は果たして支持できるのか?

 一言でいえば、「ウクライナ疑惑」騒動とは、米支配層内部での主導権争いなのである。トランプは米国の支配層「闇の帝国」から、脅しを受けている。「闇の帝国」、軍産複合体の意向を背景に、米民主党はトランプを攻撃している。軍産複合体と米民主党はオバマの頃から親和性が高かったし、いまも高い。

 バイデンはオバマ政権の副大統領であり、2020米大統領選の民主党候補である。しかも、サンダースやウォーレンのように「富裕者からもっと税金を取り、再分配せよ!」などとは主張していない。米支配層である軍産複合体やウォール街の代理人なのである。トランプが2020大統領選における、米支配層の有力候補であるバイデンを引きずり落そうとしたことで、軍産複合体の怒りに触れたのだ。

 トランプが大統領に就任して以来、執拗に繰り広げられてきた「ロシア疑惑」と、今回の「ウクライナ疑惑」は本質的には同じだ。軍産複合体がトランプに脅しをかけている点でも同じだ。「ロシア疑惑」では、トランプを引きずり降ろすことはできなかった。あれは軍産複合体やネオコンが、ロシアのプーチンと交渉しシリア戦争を終わらせアフガンから撤退すると公約としたトランプを、押しとどめるために繰り広げたキャンペーンである。トランプは大統領の地位を失わなかったが、軍産複合体やネオコンの意向を汲んで、軍事予算を増大させ、ネオコンのジョン・ボルトン安全保障補佐官やポンペイオCIA長官(のちに国務長官)らを重要な閣僚に就けた。シリアやアフガンでプーチンと話をつけ戦争を終わらせることはできなかった。しかしトランプは2020年大統領選にむけ、厭戦気分を振り払い一挙に支持者を獲得する目論見を今でも持っている。

 そもそも、「ロシア疑惑」など荒唐無稽である。マラー検察官の報告書を見よ。中身は何もない。

 世界中でネットを操作し選挙に介入できる力を持っているのは、GAFAへの影響力を持つ米政府しかいない。自分ができるからと言って、ほかの政府に「疑い」をかけてはいけない。「どうせ米国と世界中の人々などは、ネット上の操作やフェイクニュースについて何も知らないだろう、いくらでも騙せる」と考えているからこういう「フェイク・キャンペーン」ができるのだ。

2)バイデンは何者か? 何をやったのか?

 2014年2月、ロシアとの関係を破って、ワシントンはウクライナで露骨なクーデターを演出し、NATOによるロシア悪魔化のための舞台を用意したのが、オバマ政権のウクライナ・クーデター担当、当時の副大統領ジョー・バイデンだった。

 トランプ大統領を狙った弾劾によって、奇妙なことに2014年とそれ以降、ウクライナ問題でバイデンが演じた疑わしい役割に脚光が当たった。2014年、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ政権が、EU加盟候補国になるというあいまいな約束よりも、ユーラシア経済連合に加わる寛大なロシアの条件を受け入れると決めた時に、親NATOクーデターが開始された。バイデンが舵取りしたクーデターは、アメリカ傀儡政権下の文字通りのネオナチ諸党や腐敗したオリガルヒのために、選挙で選ばれたヤヌコーヴィチ大統領を2014年2月に追放したのである。

 バイデン副大統領はオバマに、ウクライナ・クーデターとその余波を監督するべく指名されたが、それには、どうやらウクライナのガス企業ブリスマと息子ハンター・バイデンとジョー・バイデン副大統領の不正な談合取り引きも含まれていた。

 トランプの告発者を探した米民主党は、ウィリアム・テイラー駐ウクライナ代理大使を探し出し、「EU大使ゴードン・ソンドランドが、ウクライナへのアメリカ軍事援助は、ジョー・バイデン副大統領が終了させていたウクライナ企業ブリスマの調査を、ウクライナが再開するのを条件としていた」と言っっていたと告げ口させた。ソンドランドEU大使は否定している。
 ブリスマとは、バイデンと彼の息子に約175万ドル払った企業である。ウクライナのゼレンスキー大統領は見返りはなかったと公的に述べており、公表されたトランプ- ゼレンスキー会話の記録にも、何の見返りもないことを考えると、驚くほど弾劾の根拠が薄弱なのだ。

 これがトランプを弾劾する主張の程度だ。

 一方、バイデンが何をやったか、見返りは何だったか?

 米政府とウクライナ大統領との間の見返り取り引きについて、ジョー・バイデン副大統領は、「(バイデンの)息子ハンターを役員会に入れてアメリカによる保護を買った企業ブリスマの汚職を調査していたウクライナ人検察官を解雇させた」と自慢しているのだ。「検察官を解雇するか、それともアメリカ援助10億ドルを失うかを決めるのに、ウクライナ大統領に6時間の猶予を与えた」と、バイデンは外交問題評議会CFRで自慢げに発言しているのだ。https://www.youtube.com/watch?v=KCF9My1vBP4
https://www.dailywire.com/news/ukraine-prosecutor-that-biden-got-fired-says-he-was-told-to-back-off-investigation-report-says?utm_medium=email&utm_campaign=Actengage
https://thehill.com/opinion/campaign/463307-solomon-these-once-secret-memos-cast-doubt-on-joe-bidens-ukraine-story

 当時バイデンはアメリカ副大統領で、現在は民主党アメリカ大統領候補者指名の主要候補である。バイデンこそ明らかに有罪ではないか? なぜバイデンではなく、トランプだけ調査対象になるのだろう? トランプに同情さえしたくなる。単に疑われたり主張されたりしているだけの犯罪が、大統領弾劾に値するのなら、なぜ、「既知」の自認し自慢した犯罪が、バイデンが大統領になるのを不適格とする理由にならないのだろう?

 これが米議会で行われている奇怪な弾劾である。軍産複合体が背後にいるか、いないかが大きく影響しているだけなのだ。

 米政治がいかに腐敗しているか、その証左である。
 しかし、当の米議会は、何が腐敗なのか? まったく理解していない。

 これほど明白な問題はないだろうが、米議会では問題にならず、米マスコミや民主党や共和党からも一言の批判もない。

 そもそも現在、行われている米国の外交政策自体が、そもそも誤ったものであり、腐敗の極みである。これを米政治、米議会は、決して追及しないし、弾劾しない。
 
 例えば、米政府は、ロンドンのエクアドル大使館にいたジュリアン・アサンジの亡命を無効にするのと引き換えに、レニン・モレノ・エクアドル大統領42億ドルのIMF融資を申し出た。モレノは取り引きに応じた。

 ワシントンはベネズエラ軍マドゥロ大統領を打倒する資金を提供した。ベネズエラ軍は申し出を拒絶した。ワシントンは経済制裁を科し、野党議員クアイドを大統領に仕立てあげ勝手に承認した。

 ボリビアでは、選挙で選ばれたエボ・モラレス大統領に対するクーデターを企て、新独裁者を米政府は支持している。

 上記のような多くの例がすぐ頭に浮かぶ。なぜこれを弾劾しないのか!
 米共和党のみならず、米民主党自身が、トランプ政権の上記の犯罪を支持しているからだ。

 米政権、トランプ政権を弾劾する理由は、そこらじゅうに転がっているのに、米議会はこれを弾劾しない。米民主党も米共和党も、批判しなければ追及もしないし、弾劾もしない。
 
 ジョー・バイデン副大統領がウクライナでやったことは、米政府が威嚇しウクライナ政府の主権を侵害した凶悪な犯罪である、米議会では「犯罪」とは認識しないので、バイデンの犯罪を弾劾しないのだ。これが米議会、米民主党がやっていることだ。

 こういう横暴極まる政治を行ったうえで、アメリカ大統領が各国に制裁を課する、こえは一体何だろう? ワシントンの取り決めを受け入れないことに対して、ワシントンが課す処罰だ。ワシントンの決定の正否は問わない、従わない者を罰する。

 こういう米政権の立派な犯罪も決して弾劾されない。

 「ウクライナ疑惑」によるトランプ弾劾とは、本当のところ「闇の帝国」がトランプに圧力をかけ、もっと完全な「しもべ」に仕立てようとしている行為なのだ。矛先が、米政府に従わない諸外国政府ではなく、トランプになっているだけ、やり口が同じ。
 
 大統領に、「闇の帝国」がクーデターまがいの圧力をかけ、目的が成功裏に成し遂げられたなら、今後あらゆる大統領は、支配層エリートの利害に反する変革の実現をあきらめるだろう。「闇の国家」とそれと手を結んだエリートによる支配が米国政治のなかでさらに確固たるものとなるだろう。

 トランプ弾劾を主張する多くの人々は何が繰り広げられているのか、まるで分かっていないのだ。





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自衛隊を中東への派遣するな! [現代日本の世相]

自衛隊を中東への派遣するな!

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1)自衛隊中東派遣を閣議決定

 朝日新聞、NHKなどによれば、12月27日、政府は、中東地域へ自衛隊派遣を閣議決定した。派遣は、防衛省設置法に規定された「調査・研究」に基づき、護衛艦1隻(約200人)を新たに派遣するほか、アフリカ東部のジブチ基地のP3C哨戒機(約60人)を活用する。一方、不測の事態が発生した場合、「海上警備行動」を発令して対応(=戦闘行為で反撃)に当たるとしている。派遣される要員は合わせておよそ260人。

 日本政府によれば、活動範囲は、オマーン湾、アラビア海北部、バーブルマンデブ海峡東側のアデン湾の沿岸国の排他的経済水域を含む公海で、イランにより近いホルムズ海峡やペルシャ湾は含まれていないとしている。

 今回の自衛隊派遣は、政府によれば「アメリカが結成した有志連合には参加しないが、アメリカや周辺国などと情報を共有、連携する」という。

 自衛隊の護衛艦と哨戒機の中東地域への派遣について、「石油連盟」月岡隆会長、日本船主協会・小野芳清理事長はともに「歓迎する」と表明している。

2)自衛隊の中東派遣に反対する!

 今回の自衛隊の中東派遣には、さまざまな問題がある。極めて危険であり、間違った対応だ。

①そもそも自衛隊を派遣する必要はない、
逆に危険で愚かな行為だ


 そもそも中東に自衛隊を派遣する理由がない。日本はイランとの友好関係を維持しており、石油は問題なく輸入されている。問題は起きていない。

 6月にタンカーが攻撃されたが、いまだに誰が襲ったのか不明だ。米政府はイランの仕業と主張しているが、いまだにその証拠さえ示していない。米政府得意のフェイクニュースだ。なんでもかでもイラン政府を非難し戦争に持ち込みたい米政府の言うことだから、信用性はない。だから、これも自衛隊を派遣する理由にはならない。こんなことを理由に軍隊を派遣し、戦争を起こしてはならない。

 米政府は一方的に核合意を破棄し、イランに脅しをかけ、経済制裁を発動し、身勝手にも有志連合と称する軍を送っている。これらすべての行為は米国が一方的に間違っている。国連憲章にもある通り、「武力で威嚇してはならない、国家間の対立を戦争で解決してはならない」。米国が一方的に国連憲章、国際法に反して卑劣な行動をとっていることは明らかなのだ。ロシアと中国は堂々と国連憲章違反だと主張し、明確に反対の立場を表明している。「まともな」主張、批判をしている。米国が「まとも」でない。これを指摘しない日本、英国も「まとも」ではない。
 米国の主張は、安全保障理事会で賛成されない不法なことなので「有志連合」になっているのだ。

 このことを国連加盟国であり安全保障理事国になりたいと表明している日本政府が指摘さえしないし、批判しないのだ。そんな政府をだれが信頼するか!

 米トランプ政権のイラン核合意破棄には、英、仏、独、ロシア、中国は反対している。有志連合への参加国は、米、英、バーレーン、豪、サウジ、UAE、アルバニアのわずか7ヵ国しかいない。いつもは米国に従う欧州NATO諸国さえ参加していない、ドイツは「有志連合には参加しない、外交解決をすべきだ」と表明した。米国を孤立させることこそが、対イラン戦争を回避する正しい道なのだ。

 にもかかわらず、米国に言いなりの安倍政権は、有志連合への参加を断り切れず、米国への「忖度」で今回の自衛隊派遣を決めた。

 トランプのイラン核合意破棄をきちんととがめ、武力によって威嚇する有志連合に反対し、外交努力での解決をさぐることこそ、米・イラン双方と良好な関係を持つ日本政府に求められる役割である。米国にイラン核合意への復帰を求める外交努力こそ、日本政府がやるべきことなのだ。

 その努力をまったくせずに自衛隊に丸投げすれば、かえって状況を悪化させる。
 「自衛隊を中東に送り米国の有志連合には参加しないが、米軍と情報共有する」という、誰が考え出したか知らないが極めて姑息な「二股膏薬」のような態度を安倍政権はとるのだ。中東に自衛隊を送り、米軍と情報共有することはどう見てもイランとの戦争を前提としている、それ以外に意味はない。
 諸国は苦々しく、あるいは軽蔑・嘲笑の目で安倍政権を眺めているだろう。このことで世界における日本政府の信頼と地位はさらに失墜したろう。気づかないのは日本政府ばかりだ。

②閣議決定で自衛隊の中東派遣を決めるのは大間違いだ

 重大な自衛隊の中東派遣を、国会での論議もなしに閣議で決定した。この決め方も大きな間違いだ。

 自衛隊は紛れもなく世界有数の武力をもつ軍隊である。この軍隊が中東で自衛隊法に定める「情報収集」活動を行うとしているが、攻撃された場合は現場の自衛隊の判断で「武器の使用」(自衛隊法95条)、もしくは「海上警部行動」(自衛隊法82条)という名の戦闘を行うとしている。相手が海賊の場合、国連海洋法条約によって日本の警察権で追い払うことができるので、それ以上の問題にはなりにくい。しかし、仮にイランを含む国家からの攻撃を受けた場合、あるいは攻撃を受けたとするフェイクニュースが流された時、「武器の使用」「海上警部行動」という名で反撃したら戦闘となり、自動的に国家間の戦争に入ることになる。現場の自衛隊が戦争に入るかどうかを決めることになる可能性が高いのだ。あるいは、米国とイランが軍事衝突した場合、近くにいる自衛隊がなし崩しに参戦することにもなりかねない。

 そのような重大な危険極まりないことを、重大であり危険であることを隠して、国会で審議さえしないで閣議決定で派遣を決めたのだ。
 安倍政権におもねる大手メディアは、少し考えれば誰でもわかるこんな自明のことを指摘さえしない。閣議決定が重大な危険をはらむことを国民に知らせようとさえしない。

③改憲、9条変更の理由をつくる政治的意図がある

 なぜ、こんなことをするのか?
 安倍政権が中東で戦闘行為が起きることを期待してるからだ。戦闘が起き、自衛隊員が死ぬことを期待しているからだ。自衛隊員が死ねば、「憲法9条があるため、戦闘ができず自衛隊員が死んだ、今こそ改憲だ」という政治キャンペーンが行われるに違いない。容易に想像がつく。マスメディアを掌握している安倍政権である。大手メディアは安倍政権の改憲キャンペーンに抗することはできないだろう。  

 なぜここまで考えなければならないのか? 私たちはすでに2018年の自民党による改憲案たたき台素案を見ているからだ。
 9条2:戦争辞さず、自衛隊の行動は事後承認
 安倍首相は「緊急事態条項」を憲法に書き込む構想を公表した。「緊急事態条項」は、宣言すれば憲法も司法も無視できる。

④自衛隊員も犠牲を強いられる 

 自衛隊員は戦場に送られ、犠牲となることが前提とされている。もし戦闘で犠牲になれば、神風特攻隊員のように褒めそやされるだろう、そして改憲理由とされ戦争のできる国ニッポンになるための人柱とされるだろう。

 しかし、派遣される自衛隊員はきわめて粗末に扱われている。NHKも27日に保険について報じていたが、けがなどで死亡した場合、最高およそ4000万円が支払われる「防衛省職員団体生命保険」(幹部は防衛省から天下りの民間保険)や、感染症などで死亡した場合、最高およそ1億円が支払われる「PKO保険」に、それぞれ任意で加入できるようになっているというのだ。

 けがや感染症で死んだら団体障害保険は支払われるが、戦争で死んだ場合は支払われない。なぜなら民間保険だから確率の高い戦争死や自殺は対象外なのだ。自衛隊員の自殺は年間80人ほどだが、戦争になれば一挙に一桁以上増える。保険会社はそれくらい事前に計算している。
 しかも任意加入、自衛隊員個人が保険に加入し保険金を支払わなければならない。

 派遣される260名の自衛隊員はどのような気持ちでいるのだろうか? 海外派遣できる安保法制の危険性をあらためて思い知ったのではないだろうか? あるいはせめて戦争法以前の「専守防衛」にとどまってくれていたら、と思っているのではなかろうか? 

 元防衛省官僚、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)・柳沢協二さんも、しきりに自衛隊員を無用に危険にさらすことを指摘し批判している。

3)自衛隊派遣の「根拠」

 閣議決定で「調査研究」、情報収集のためにP3Cや護衛艦など自衛隊を出すとしたが、それは1954年の「防衛省設置法」第4条18を根拠にしている。この法が制定された時には、日本の領土、領空における「専守防衛」しか想定されておらず、安保法制=集団的自衛権に基づく海外派遣などそもそも誰も考えていない。1954年の「防衛省設置法」第4条18の「調査研究」、情報収集という「表現」も、当時においても言葉の言い換えで9条の制約を回避した条文なのだ。

 解釈改憲、拡大解釈を重ねて来ているので、法律の趣旨を大きく踏み外した適用となっている。今回の「閣議決定」による自衛隊の海外派遣も、解釈改憲、拡大解釈の延長のうえに、さらに拡大解釈が重ねられたものなのだ。

 安保法制によって、「調査研究」から「海上警備行動」に現場の判断で踏み出せるようになっている。「海上警備行動」という言葉も、9条と齟齬しないように日本政府がひねり出した言葉であるが、実際には「戦闘行動」を意味している。すなわち、派遣された自衛隊に戦闘行為を行う権限を与えている。戦争が始まる可能性をゆだねている。

 「駆け付け警護」「安全確保業務」などという言葉も9条があるから言い換えているのであって、これも実際には戦闘行為である。こういう言い換え、ごまかしの積み重ねの上に、今回の自衛隊を海外派遣するに至っている。

 戦後からこれまでは、「9条改憲」を表明すると反対が多いので、解釈拡大・解釈改憲を積み重ねてきた。解釈改憲、解釈拡大なら「どうせ国民は何もわかっていないから大丈夫だ」と政府は判断してやってきたのだ。そうやって、自衛隊をますます増強し海外派兵できるようにしておいて、「9条は現実にあっていない」などうそぶいているのだ。

 それから、メディアは少しも報じないし国民の多くは気にもとめていないが、自衛隊はすでにジブチに海外基地を持ち、常駐している。ジブチは紅海のインド洋側にあり、今回の派遣においても哨戒機P3Cはジブチの部隊から飛ばす。海賊対策を口実にジブチに基地をつくったが、今回のことで中東に近いジブチに基地を設置した意味がより明確になったというべきだろう。

 すでに日米新ガイドラインーー米軍の指揮下で、自衛隊が動くことが規定されており、米軍との一体化が進んでいる。遠く離れた中東においても一体的に動くための基地であり、今回の派遣である。

 ちなみに、日本政府は基地を設置するにあたりジブチとの地位協定を結んでいる。その内容は日米地位協定よりもさらにひどい内容であることを知っておかなくてはならない。例えば、裁判権はすべて日本側にあり、ジブチで自衛隊員がレイプや殺人などどのような犯罪を犯しても、ジブチ法では裁かれない。きわめて不平等な協定を締結している。 

 それから、自衛隊の護衛艦と哨戒機の中東地域への派遣に、「石油連盟」月岡隆会長日本船主協会・小野芳清理事長はともに「歓迎する」と表明したが、自衛隊の派遣がかえって危険なこと、例えばイランを含む中東からの石油・天然ガス輸入や輸送にとってかえって危険になることを、まったく理解していない。

 経済界も何も考えていない、安倍政権に従っているだけだ。危機意識がまったく欠如しているし、無責任体制が広がっているのだろう。政治も三流なら、経済界もみごとに三流だ。

4)安保法制破棄せよ! 9条はすでに底が抜けている

 上述のような危機的な事態にまで進んでいる。メディアが安倍政権に忖度して報じないのだが、国民の多くはこのような危機的状況にあることを知っていないように見える。

 これまでわれわれは9条を守れと言ってきた。すでにそれだけでは明らかにだめだ。9条はすでに一部、底が抜けている。同時に自衛隊の海外派遣を可能にした安保法制破棄を、しかも即刻の破棄を必ずセットで主張しなけばならない。そして、今回の中東への自衛隊派遣を阻止しなければならない。 (文責:林 信治)




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新年にあたり [現代日本の世相]

新年にあたり

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<小熊秀雄 長々秋夜 Long long autumn nights>

 新年にあたり、何がふさわしいだろうと考え、小熊秀雄(1901~1940)の詩を引用させてもらうことにした。
 若いころ私は、日本的なもの、伝統的なものへの反発と忌避から、日本語の美しさを考えなかった。小熊の詩に触れて初めて、力強い美しい日本語があることを知った。そういう思い入れもある。

馬車の出発の歌
小熊秀雄

仮に暗黒が
永遠に地球をとらへてゐようとも
権利はいつも
目覚めてゐるだらう、
薔薇は暗の中で
まっくろに見えるだけだ、
もし陽がいっぺんに射したら
薔薇色であったことを証明するだらう
嘆きと苦しみは我々のもので
あの人々のものではない
まして喜びや感動がどうして
あの人々のものといへるだらう、
私は暗黒を知ってゐるから
その向ふに明るみの
あることも信じてゐる
君よ、拳を打ちつけて
火を求めるような努力にさへも
大きな意義をかんじてくれ

幾千の声は
くらがりの中で叫んでゐる
空気はふるへ
窓の在りかを知る、
そこから糸口のやうに
光と勝利をひきだすことができる

徒らに薔薇の傍にあって
沈黙をしてゐるな
行為こそ希望の代名詞だ
君の感情は立派なムコだ
花嫁を迎へるために
馬車を支度しろ
いますぐ出発しろ
らっぱを突撃的に
鞭を苦しさうに
わだちの歌を高く鳴らせ。
《漂白詩集》1935、36年頃

 力強くてのびやかなこの詩は、日中戦争が膠着状態となっていた1935、6年(昭和10,11年)に書かれている。
 小熊の詩はサバサバとしている、生活の中から生まれた言葉であり、しかも反骨心に満ちている。小熊は暗い時代のなかで独りぼっちでありながら旺盛な猛然たる仕事をした。

 高等小学校を出た小熊はすぐに自活しなければならず、鰊・イカ釣り漁師の手伝い、養鶏場番人、炭焼き手伝い、農夫、昆布拾い、伐木人夫、製紙パルプ工場職工などに従事した。パルプ工場の機械に挟まれ右手の2本の指を失った。詩人としてデビューしたのは30歳を過ぎてからで、すでに自由に書けない時代となっていた。詩集も出すことはできず貧困のうちに結核で死んだ。40歳だった。
 侵略戦争にかけ込んでいく天皇の日本は詩人の命までも縮めた。小熊の詩と小熊の家族の経てきた道は、日本人民の経てきた苦痛と運命をさながらにうつしている。
 
 その苦痛と運命を、現代日本社会のなかに重ねて今考えるべきだと、私は思うのだ。新自由主義のもとで格差は拡大し貧困層は増大し、外国人を低賃金で使い捨てている。階層化がすすみ、人々はつながりを喪失し孤立しているため、現実の全体がまるで見えていない。そうして多くの人が自分の在りかを見失っている。

 私は小熊秀雄の読まれる時代が来たと思っている。小熊の生きた時代を重ねて考えなければならない事態に私たちは当面している。

 闇が深いことを知れば、自分の在りかを知りつながりを求めるはずだ、徹底した現状の批判のうちに希望が身震いし始めるはずだ。それが人の尊厳というものだろう。小熊の「元気」と描き出した「希望」を思い起こしそのように思う。

※(岩波文庫『小熊秀雄詩集』、あるいはネット上の「あおぞら文庫」に全集がある)
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ハンジン労働者と支援者の闘い [フィリピン労働運動]

 カサナグの会は、現地のハンジン・フィリピン労働組合を何度か訪問し、以前から交流してきました。19年初め、ハンジン・フィリピン社の経営破綻が伝えられ、労働者や交流した労働組合員たちはの生活や闘いはどうなているのか問い合わせていましたが、今回その報告の一部が送られてきました。19年4月時点の報告であり、現在はまた新たな進展や変化があろうとは思いますが、下記に紹介します。

***********************

ハンジン労働者と支援者の闘い
April 6, 2019

1) ハンジン労働者キャンペーン

 現在の「負債から資本へ」の会社更生計画では、ハンジン・フィリピン社の進行中の事業を支援するために5社の外国企業の参入を歓迎し、そのことはハンジン社がいう経営破綻という表明が嘘であることを証明している。最近の進展の下で、ハンジン・フィリピン社の操業継続がより明確になるに従い、造船所の人材が必要になる。それにもかかわらず、何年も会社に勤めている労働者を確保するために、ハンジン経営陣、または労働雇用省のいずれによる動きも行われていない。
 
 過去の政権がハンジン・フィリピン社の劣悪な労働条件と労災事故を追及し改善できなかったが、そのことは現在の政権にとっての課題として残っているのでもあり、大企業の権利よりも先に国民の権利をどのように提言するかということなのだ。

 このような状況を考えると、400人のアクティブな労働者のメンバーを持つサマハン-WPL※①は、「ハンジン造船所が通常の操業再開のための努力を継続することを認める」という戦術的な要求を掲げて、労働者のキャンペーンを開始した。
  [※①サマハン・メンバーは、18年12月と19年2月の大幅な解雇により、5,000名から400名に劇的に減少した。サマハンは、労働組合準備組織。フィリピンでは組合代表選挙を経て労働者の過半数の支持を得なければ労働組合として資本、労働雇用省から認められない。 ]

 ハンジン・フィリピン社は「会社更生」の下に置かれ、債権者への負債を解決するために債務「受け手」による移行期間を経ることになった。したがって、造船所は閉鎖されない。

 そのため労働者は、「●適切な離職手当、●3%の雇用保証金の払い戻し、●失業補助金を支給、●新しい雇用を見つけるまでの間住宅費支払いの一時停止」を要求した。この危機的状況が終わるまで、ハンジン造船所に対する権利を所有するすべての者と労働雇用省との間の法的拘束力のある契約を通じて、造船所が通常の稼働ができるようになった場合に、融資と復元のために優先順位が付けられるようにすることも要求した。

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<ハンジン・フィリピン社スービック造船所>

2) 労働者の闘争 

 明確な政府の政策と計画がなければ、労働者は困難な状況に追い込まれ、会社を救うだけの話となる。

 サマハンは労働雇用省と対話を始めるため、19年1月13日付の手紙を送った。1月28日に、ハンジン・フィリピン社の会社更生申請に伴う労働者の困窮状態に対処するため、サマハン指導者、「ハンジン労働者の友(FoHW)」※②とシルベストル・ベロIII労働雇用省長官の間で話し合いが行われた。
[※②「ハンジン労働者の友(FoHW)」とは、2011年以降、主に異なる大学の学生で構成される支援ネットワーク。そのネットワークの一部は個人、機関、学生組織のグループ。]

 労働者は、「勤続年数ごとに1ヵ月分の給与相当の離職手当」、「3%の雇用保証金の払い戻し」などの補償を求めた。「3%の雇用補償金の払い戻し」とは、労働者とハンジン経営陣の間の法的拘束力のある契約を通じて、賃金、失業補助金、優先再雇用で差し引かれる3%雇用債の払い戻しのこと。 労働雇用省は労働者に支援を提供することを保証し、いつでも職場に戻ってくることができると労働者に伝えた。

 2019年2月8日に、ハンジン経営陣は「自主的退職※に関する覚書」を発行し、自主的退職プログラム(VRP)の申請書に署名した者のみが離職手当などの正当な利益を受け取ることができるとした。サマハンはすぐに抗議し、経営陣との正式な交渉を要求し、ハンジン社の管理事務所を訪問した。交渉の場は、人事担当役員のアナ・エスポソ氏によって与えられ、サマハン指導者を食堂に招いた。食堂で、人事担当役員アナ・エスポソはサマハン指導者たちに名前を書き、交渉の記録しないよう指示し、すべての労働者に仕事に戻るよう命じた。

 これに応えて、サマハンは2019年2月9日に三者間の交渉を要請する手紙を送った。

3)労働雇用省が、自主的退職プログラム(VRP)の狙いを暴露

 交渉の前に、DZMMでベロ長官との電話インタビューしたところ、ベロ長官は、「自主的退職プログラム(VRP)は違法であり、労働者を短期的に変更するための経営者の言い訳だ」と述べ、労働者にVRPに署名しないよう助言した。 2月19日、労働雇用省地域ディレクター、シェナイーダ・アンガラ・カンピータ(Zenaida Angara-Campita)が司会を務め3者の交渉が、ハンジン社の異なる下請業者とサマハン(SAMAHAN-WPL)リーダーが参加し、労働雇用省リージョン3で開催された。労働者の要求により、両当事者間の最終的な合意は得られなかった。

 19年3月1日、自主的退職プログラム(VRP)への署名を拒否した113人の労働者は、入口がブロックされた状態でロックアウトされていることに気付いた。これに対し、サマハンは仕事に戻せと要求しピケットラインを敷いた。人事部長ユージーン・デロス・サントス(Eugene delos Santos)は、労働者のピケットに応え、入口開閉装置が誤作動し、意図せずにロックアウトされたと「適当な」を説明した。人事部長はまた、労働者に状況を説明する回覧メモをリリースし、自主的退職プログラム(VRP)を利用しなかった人々が働き続けることができることも保証した。

 しかし、同日、ハンジン経営陣は資本家寄りの労働組合連合AMAPO-TUCPのリーダーと話し合い、労働者に自主的退職プログラム(VRP)への署名を説得し、ピケットラインを分断させた結果、53人の労働者のみが残った。ボビー・フローレスは、労働者にVRPに署名するよう説得したAMAPO-TUCPのリーダーである。ハンジン53名は、彼らの権利を主張し続ける。ハンジン経営者は覚書の回覧ではなく、労働者の下請業者から閉鎖通知を発表したとしている。

 すぐに、サマハン-WPLは3月4日付けの労働雇用省シルベストル・ベロIII長官宛てに、労働者に代わって直ちに経営陣に介入するよう促す手紙を送った。応答がなかったので1週間後に、支援団体「ハンジン労働者の友人(FOHW)」とともに、3月11日にイントラムロスの労働雇用省前でピケット抗議を開始し、長官宛てに請願書を手渡した。さまざまな学生会や組織に所属する500人以上の学生は、ベロ長官あてに労働者の窮状を直ちに是正するよう労働雇用省に要請する署名を提出した。同時に、アンジェリーク・ラゾのラジオ・ベリタス番組で、サマハン指導者はベロ長官に電話をした。ベロ長官は放送によって労働者に説明するのではなく、同日にサマハン指導者を招待するから対話しようと呼びかけた。

 残念ながら、ベロ長官は労働者の問題に直接対処する代わりに、政権の「ビルド、ビルド、ビルドプログラム」、および最近開催されたスービックジョブフェアを利用することを宣伝した。皮肉なことに、ジョブフェアに参加した6,000人の労働者志願者のうち、雇われたのは99人だけだった。さらに、ベロ長官は、「ハンジン社がすでに閉鎖を申請しており、労働雇用省の権限を超えているため、三者間交渉するよう管財人を強制することはできなかった」と述べた。ただ、会議中にサマハンの指導者によって提供された事実を立証するために視察訪問を行うことにはなった。破産により一時的に稼働が止まっているが、造船ヤードには実際に6隻の船とメンテナンス作業の仕事がある。ベロ長官は、視察訪問の一環として、サマハン指導者とともに、労働関係副大臣、特別懸念および地域活動クラスター、CESO IIIのアナC.ディオーネ(Ana C. Dione)に、その任務を割り当てた。

 2019年3月13日、副長官アナ・C・ディオーネ(Ana C. Dione)と労働雇用省第3地域ディレクターのシェナイーダ・アンガラ・カンピータ(Zenaida Angara-Campita)は、サマハンの参加なしにハンジン造船所の視察を行った。

  サマハンの継続的な努力にもかかわらず、また文書のフォローアップを行ったにもかかわらず、結果はまだ公表されていない。

 3月25日、労働雇用省を説得する最後の試みとして、「ハンジン労働者53名」は、その家族とともに、「ハンジン労働者の友の会」と労働団体KPDの支援を受けて、約250人のメンバーを動員し、マニラ、イントラムロスの労働雇用省前に結集した。デモは激化したが、ベロ長官は出てこなかった。労働者に対話のために二階に行くように呼びかけたのはベンジョー・ベナヴィダ (Benjo Benavida)副長官だった。サマハン代表、労働団体WPL、支援団体「ハンジン労働友の会(FOHW)」が、対話に参加した。この最後の対話では、労働雇用省は政治的意思(明らかに欠けている)を持たず、真の政治的使命を行使することなく、会社法と法的プロセスを持ち出して、ハンジン経営の方針を定めた、そのことで労働者に対する責任を放棄した。労働雇用省は、命令を下し行動できるように、労働者に単に訴訟を起こすよう促すことで、説得力のないアリバイを残す態度へと退いた。

 4) 支援活動の取り組み

 ハンジン闘争に対する支援活動キャンペーンは、国際的にも地域的にも行われた。国際的には、サマハンと労働団体WPLのさまざまなパートナー組合、組合連合により、国際連帯活動が強化された。控訴状が労働雇用省ベロ長官あてに送られた。 19年1月22日と3月5日にバンクーバーおよび地区労働評議会(VDLC)により、 19年1月29日にカナダの公共サービス同盟から、19年3月6日にブリティッシュコロンビア州政府とサービス従業員組合から、19年3月13日に労働組合世界連合会、バンクーバーおよび地区労働評議会(VDLC)代表と執行委員会、およびカナダ労働組合から連帯のメッセージが送られた。

 地方レベルでは、支援活動は、関心のある個人、学生組織、グループで構成される支援団体「ハンジン労働者の友(FOHW)」が先頭に立っている。 2011年から設立され、最近のハンジン労働者の支援キャンペーンのために再開した。

 「ソーシャルワークとコミュニティ開発」クラス221の大学支援(CSWCD)により、学生たちはスービック、サンバレスへの視察旅行に参加した。英語からフィリピン語への文書の翻訳を行い始め、彼らはすぐにハンジン労働者の現在の中心グループになった。

 支援団体「ハンジン労働者友の会(FOHW)」は、主にハンジン問題をフィリピン内外に広める活動を担当し、キャンペーンや情報グラフィックの作成を通じて事実を伝えた。これには、ハンジン労働者の要求や問題発生の概要、労働雇用省への要望と回答など、様々な団体、大学での議論やフォーラムの開催などをソーシャルメディアで伝えた。19年2月21日にはフィリピン大学カリプナン・マグマラルアール・ソソホロヒヤ(UP KMS)が主催する教育討論会などが行われた。フィリピン大学カソリック行動(UP Student Catholic Action:UPSCA)との教育的議論も行った。また、フィリピン大学ディリマン校学生委員会(USC)は、2月22日に公開討論会を主催した。また、「ハンジン労働者友の会(FOHW)」は、連帯のメッセージを通じて、下記のような個人、学生評議会と組織、労働者グループに支援を要請した。CSWCD SC 、UPD USC、UP KMS、フィリピン大学政治社会学部、フィリピン大学マニラ校(UP Manila)、芸術科学大学学生評議会、ブクロド(BUKLOD)社会科学哲学カレッジ、サンバレー労働者団体(UGNAYAN)、オルタ政治運動(AlterPol)、国民的経済運動、フィリピン大学医学部学生評議会、および多数の著名な個人。

 「ハンジン労働者友の会(FOHW)」はまた、首都圏のさまざまな大学、特にフィリピン大学とフィリピン工科大学にオンラインで請願書と署名キャンペーンを提出し、461のオンライン署名と約2,000の署名を獲得し、現在も集めている。

 また、彼らはピケット労働者への寄付を集めた。
 19年1月28日に約300人の学生が参加したベロ労働長官との対話を通じて労働雇用省との合意が成立した。労働者を支持連帯するエンジニアリング学生評議会、カレッジ評議会連盟、UPD USCとともに、支援団体「ハンジン労働友の会(FOHW)」は、この合意遵守を求め、2月28日にメルチョル・ホールのエンジニアリングステップの前での抗議行動を呼びかけた。

 また、「ハンジン労働者友の会」は、メディアへの連絡、オンエア、または電話を介した労働者とのインタビューを行った。ピケットの日常的な報告をメディアに連絡し報道してもらい、ラジオ・ベリタス、中央ルソンTVへのラジオインタビューなどの現場の状況報告を担当した。 CLTV、DWIZ 882、およびRappler、インクワイアラー紙、ビジネス・ミラー紙、ビジネス・ワールド紙、およびその他の国内の主要メディアによる報道に協力した。

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<ハンジン造船所>

5) 今後の闘い 

 ハンジン労働者の緊急の要求に対する闘争戦術はピークに達した。
 労働雇用省のポジションファームで、外資系資本による再建を計画しているのを確認したサマハン – WPLは、労働者の闘争を別の面、すなわち合法的な戦いと組み合わせた持続的な政治キャンペーンに中心を置くことに決めた。

 サマハン – WPLは、ハンジン53名の業務の連続性、正規労働者化を目ざした訴訟、およびすべてのハンジン労働者が会社から適切な利益を奪われたことに対し、法的訴訟をしている。造船所は閉鎖されない。実際、各地からの報告によると、タルラック州とスービックの元ハンジン労働者はすでに募集と訓練を受けるよう求められており、電力は国立電力公社の主電源に再接続され、保存済み重機は取り出され、テストされている。

 この新しい闘争では、法的闘争と集団行動の組み合わせが採用された。裁判闘争には規定の期間があるが、叫びをあげなければ、訴訟は「過ぎたる法の遵守」として処理されがちだ。そのため、労働者の訴訟に大衆的な支持運動があれば確かな圧力を及ぼし、判決に影響を及ぼし、迅速に対応することさえある。

 このような戦術では、議論の妥当性と重み、および採用される他の法的プロセスを評価するために協議を行う必要がある。造船所での長年の組織化を通じて収集され蓄積されたデータと情報は活用され、訴訟を闘うために必要なデータと研究の継続的な収集が必要だ。

 ハンジン労働者の闘争の新しい段階を展開すると、ちょうど終結した段階で蓄積された力が再配置されだろう。これは、サマハン-WPLの現在の強さを維持しながら、次の段階の力を構築するために拡張および統合することだ。

 そのため、ハンジン造船所内の組織化活動は継続的な解決を求め続ける。同様に、他の領域で闘いを組織することも、より包括的で動的な労働者運動を組織するために同じく力を注いでいかなくてはならない。

 支援と連帯活動は継続され、より活気に満ちて広範囲に行う。真実を暴露し、公共の利益を生かし続けるには、特にメディア批判の勢いを維持する必要がある。同様に、他の分野は、立法や管財人との対話など、別の戦いの場でもきちんと対応しなければならない。上院、議会、労働雇用省、およびハンジン造船所の新しい経営者に向けた請願と緊急の訴えは、様々な経緯をその都度宣伝し支持を得ながら、闘いを進めることが特に重要になる。

 正義のための闘争は続き、私たちの権利のための戦いが持続する。そして、勇気をもって主張し戦う方法を知っている人だけが、権利と正義と勝利の主張を持っている!

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大嘗祭に異議あり!広島集会 [現代日本の世相]

 11月14日大嘗祭を批判した、広島集会が開催された。講演された天野恵一さんの話をまとめた。
 あくまで聞いた者のメモであって、文責は当方にある。


 大嘗祭に異議あり!広島集会
改めて「象徴天皇制」を問う
天野 恵一
 
 
 
1)天皇制は暴力・弾圧と表裏一体

 10月22日、「おわてんねっと」(「終わりにしよう天皇制!『代替わり』反対ネットワーク」)のデモに機動隊から乱入してきたのに3人が逮捕された。北海道でも「おわてんねっと」のメンバーが、友人の死に際し遺族の了解のもとにお金をおろしたところ逮捕された。天皇制に反対すると法律を無視した逮捕、弾圧が横行し、司法も追随する。天皇制には暴力・弾圧が表裏一体に存在する。

 国家とメディアが組んで、天皇の神聖化をつくり出す。メディアは過剰な「さまさま」報道を行い、絶対敬語を乱発。天皇は絶対神聖であって、反対する者には、警察・民間右翼が何をやってもいい雰囲気をつくり実行している。

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<講演する天野恵一さん>

2) 「いい天皇」と「悪い天皇」 

 白井聡が『国体論』で、明仁天皇が安倍の右翼的政策を批判したように述べた。

 1990年の本島事件を思い起こす。自民党系の本島等・長崎市長が「裕仁天皇には戦争責任がある」と発言したら右翼に撃たれた。この時、浩宮が「言論の自由は大切だから、守らなければならない」と発言。だからと言って、浩宮が「いい皇太子」なのではないし、支持すべきなのでもない。

 04年の園遊会で、東京都教育委員の米長邦雄から「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事です」と話しかけられた明仁が「やはり、強制ではないことが望ましい」と述べた。この時も「いい天皇だ」という話が出て、唖然としたことがある。

 「いい天皇だ」とは、問題の本質をまったく理解していない。象徴天皇制の存在そのものが問題なのだ。
 ただ、明仁は裕仁のように威張り腐る態度はとらず、メディア受けを意識し演じた。「象徴天皇制」の一特徴だ。自覚的に対抗しなくてはならない。

3)戦後の天皇制の始まり

・米国の原爆投下を、米社会は肯定する。「原爆でファシストを殲滅した」とトルーマンは宣伝し、大量虐殺の責任を回避した。その上で、天皇制を日本支配に利用することにした。象徴天皇制の成立背景だ。

・日本政府側は?  「天皇が決断して戦争が終わった、天皇は命の恩人だ」と描き出した。これも事実に反する。1945年の死者が最多だ。沖縄戦、東京大空襲、広島・長崎への原爆・・・天皇が決断しなかったため多くの人が死んだ。※半藤一利:「天皇の決断で日本が救われた、天皇の決断が戦後の日本をつくった

 戦後民主主義、日本国憲法は、アジアへの侵略責任を米国に免罪してもらうことから、旧植民地出身者の切り捨てることから、天皇制を引き継ぐことから、出発している。

4)高御座(たかみくら)とデモクラシー

 戦後の憲法学者のなかからは、天皇制批判の理論もかなり出たが、限界があった。マシな憲法学者の論理の特徴は、「象徴天皇制」は「戦後につくられた」=戦前と戦後の断絶を主張する、また「憲法で天皇と天皇制を縛っている」という論理。その議論は憲法の枠内に限られ、憲法自体が時代的な限界をはらんでいることには触れない。そこに限界がある。しかし、こういう批判も今では少なくなった。

 裕仁は戦前戦後、連続して天皇を務めた。断絶していないが誰も不問にした。憲法には「天皇の地位は国民の総意に基づく」とあるが、嘘だ。国民は天皇を選出できないし、罷免もできない。
 「連続性」は、天皇制にとって不可欠、支配層の連続支配を意味しているからだ。

 今回の退位に際して明仁主導で皇室典範改正を行った。驚くべき事態だ。大日本帝国憲法は立憲主義ではなく、皇室典範は憲法より上位にあった。当時、皇室典範を変更できたのは天皇だけ。今回同じような事態が起きた。憲法上大問題なのだが、誰も問題にしない。異常な事態が目の前で起きている。戦後民主主義的な、憲法学の達成が、崩れ堕ちつつある。

 祭祀については、国家が丸抱え。即位式、大嘗祭合わせて166億円、すべて公費だ。
 高御座の継承儀式は、宗教儀式そのもの。大嘗祭だけではない、即位式すべてが問題。「政教分離」は、そもそもデタラメだ。祭祀は象徴天皇制にとって欠くことができない。「憲法20条(政教分離)があるから大丈夫」ではない。憲法20条は破壊され続けてきた。

5)どう立ち向かっていくか?

 象徴天皇制の成立している基盤、根拠をきちんととらえなおした上で、対抗を考えなければならない。「政教分離に反している」とかの批判もあるが、部分的な対抗であって限界がある。

 明仁・美智子が、災害地域を訪問し、国民(私事ではなく)のために祈る行為を行っている。これは「偽善」であるが、同時に国民統合のための「幻想」をつくり続けているのだ。徳仁天皇の時代には、より加速していくのではないか? きちんと批判していくことが重要だ。

 天皇制を批判していく上で「戦前回帰」と懸念するのももっともだが、戦後民主主義と憲法の限界を認識したうえで、私たちは象徴天皇制を批判し対抗していく論理を持たなくてはならない。

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 11月14日の天野さんの講演、そのあとの懇親会での話なども含めての感想を記します。あくまで筆者の理解に基づく感想です。

1) 天皇制と暴力装置のこと

 天野さんは、「おわてんねっと」(「終わりにしよう天皇制!『代替わり』反対ネットワーク」)のデモに、法律など無視した警察から弾圧・逮捕があり、司法も追随しているという現状を紹介されました。天皇制と暴力装置は表裏一体です。

 安倍首相は災害に際しての非常大権、権利の一次的な停止の構想を語りました。日本政府は、関東大震災の時に朝鮮人大虐殺、大杉栄・伊藤野枝夫妻・橘宗一少年や、南葛労働者の指導者である川合義虎ら8名の虐殺してきた「犯罪歴」を持っています。危険極まりありません。

 支配層に本当の危機が迫った時、天皇制を国家機構の一部として利用する、機能させることも考えておかなくてはなりません。

 タイのクーデターを研究すべきです。
 タクシン派政権をプラユット陸軍司令官がクーデターで倒し、プラユットは今、首相になっています。投票するとタクシン派が有利なので、直近の選挙ではタクシン派有力議員候補を「不敬罪」で狙い撃ちし、政権維持に成功しました。タクシン派は携帯電話などで富を成した新興資本勢力であり、プラユットは軍や国王に近い旧来の支配層、旧来の富裕層の利益を体現しており、どちらを支持すべきかとは言えません。権力争いとなった時、旧来の支配層が国王への忠誠、不敬罪などを利用し、権力を奪取した事実に注目しなければなりません。

 天皇制の機能の一つを想起させます。日本の支配層はまだ利用するほどの危機に陥っていないだけです。そのような機能を持っていることを常に意識し暴露することが重要だと思います。

 天皇制は、宗教であるとともに、支配的なイデオロギーであり、かつ国家機構の一部でもあります。

2)象徴天皇制に対する批判

 天皇制を批判する時、「戦前と同じようになる」という批判を聞きます。貴重な声だとは思いますが、象徴天皇制はすでに74年続いています。明治維新から敗戦まで77年間ですから、すでに近代天皇制の半分近い期間、続いていることになります。

 象徴天皇制は、材料は確かに古い伝統的な権力要素をもとにつくられていますが、74年間にもわたって戦後の日本社会のなかで再生産されてきており、「戦前回帰だからダメ」だけではなく、現代の日本社会に存続している象徴天皇制に対する批判をすべきだと思います。

 象徴天皇制は、イデオロギーである限り私たちの意識に日常的に介入してきており、社会のなかの物質的な関係に入り込んで来ます。象徴天皇制が現代日本人の価値意識の体系のなかで、どのような位置を占め、どのように機能し、どんな危機をはらんでいるか、意識的に明らかにしていくことで、批判し対抗していかなくてはならないと思います。

 例えば、天皇の地位は置かれている社会関係のなかで現実的に規定されますが(憲法の規定はその一部)、しかし不断に、儀式や祈りの行為を繰り返すなかで、日本社会とは独立に、まず天皇霊があり、新天皇の身体に付着して天皇にするストーリー=幻想をつくりだし、血縁の歴代天皇の存在を社会の成立原理にすり替えています。天皇の機能は、現代日本において人々を「幻想の喚起による心情の統合を促す」ところにあります。明仁・美智子の災害地域の訪問・祈りなどもその機能を果たしているのだと思います。

 象徴天皇制は、現代日本の社会階級的な対立を抑圧するためのイデオロギーであり、かつ政治機能を持った国家機構としてあること、したがって現代日本社会の欠陥として批判し、批判のうちにその廃絶を構想すべきです。

3)天皇制イデオロギーの根拠の一つ、連続性

 天皇制イデオロギーの根拠の一つは、「連続しているという幻想」です。アマテラス霊が歴代天皇に憑依して続いてきた、血統を根拠に2千数百年続いてきたというストーリー、そのストーリーからいつの間にか、特別な存在、「高貴な」存在へと転化します。

 世襲原理は、競争原理・自由競争における「高貴」の欠如を埋めます。連続する天皇の存在は、日本民族の変転する歴史の象徴へと転化し、歴史の欠如を埋めます。無国籍の「民主主義」、「物質文明」、「基本的人権」、「生産力」・・・・に対して、日本人のアイデンティティ―を意識させます。特にグローバリゼイション、日本社会の格差拡大と貧困層の増大、日本経済の停滞のなかで、反作用として天皇を意識したナショナル・アイデンティティーとして現代的に担ぎ出されるのではないでしょうか。

 これにどう対抗していくか? というのも象徴天皇制批判の一つの課題だと思います。

 懇親会での話ですが天野さんが、どこからか(憲法第1章を認めたのであれば共産党から)「天皇を選挙で選べ」という声が出るなら、支持してもいい、と言われました。選挙で選べば、霊の憑依とか、血統であるとか、2千数百年続いたとかのストーリーが一瞬にして壊れ、天皇は少しも「ありがたくない」存在になるからです。
 選挙で選ばれた千葉県知事の森田健作は少しも「ありがたくない」ので、災害地を訪問しても、「来るのが遅い」、「被害情報がキチンと伝わっていない、支援物資が届いていない、県は何をしているのか」、「公用車で別荘に寄ってきたのではないか?」などと文句を言われますが、天皇にはなかなか文句は言えませんし、言わない雰囲気がすでに醸成されています。
 もっとも天皇制に反対している者が、「選挙で選べばいい」と主張はできませんが。

 連続性のイデオロギー、その偽善ぶりをつねに暴露し批判し続けることも必要です。

 以上、講演を聞いての感想と考えたことです。










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映画『象は静かに座っている』を観る [映画・演劇の感想]

映画『像は静かに座っている』を観る

1)現代中国に生きる民衆の姿

 この30数年、中国は急速に経済発展して来た。GDPは日本の3倍となり、米国を追い越すのも時間の問題だ。現代はパクス・アメリカーナの時代から、中国を含むパクス・アシアーナの時代に移行しつつある。米国がしかけた米中貿易戦争は米中覇権争いであり、沈みゆく米国の「悪あがき」の様相を呈している。

 中国社会は急速に変わってきた、歪みも生まれているのだろう。急速な変化を経た現代の中国人は、どんな人たちであり、何を考えどのように生活しているのか、人々の関係はどんなであるか、長い間疑問に思い続け、その姿は想像のなかにしか存在しなかった。映画はその一端を描き出してみせた、そのように受け取った。

 新聞やTVでよく見かける中国政府首脳ではなく、アリババや華為の経営者でなく、中国の庶民、底辺に近い人々の生活とその姿が描かれているように見えた。登場するのは庶民ばかり、それがまず興味深かった。

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<映画のチラシ>


2)行き場のない登場人物たち、家族が壊れている

 舞台は地方都市らしい、画面に石家荘北車站(駅)が映し出される。
 石家荘は石炭産地だが、大気汚染やらエネルギー転換やらで、廃業し急速に廃れているらしい。主人公ブーの通う高校も廃校になる。

 街のチンピラ、チェンが女の部屋で朝を迎える。突然、夫らしき男がドアを叩く。彼はチェンをみても驚いた様子もなく、「お前か」と一言いって窓から飛び降り自殺する。男は女のために部屋を買ったが、にっちもさっちもいかなくなっていたらしい。男の母が自殺現場にやってくる、自殺に衝撃を受けているチェンと話す。チェンには恋人が別にいるが、別れると言われ会ってくれない。だから友人の女と寝たと言い訳する。

 17歳の高校生ブーが通う高校は「底辺校」で、高校の副主任からは「卒業したら、道端の露店で焼き鳥?を売って暮すのが相応だ」と言われる。ブーは同級生(チェンの弟)と喧嘩になり過って怪我をさせてしまい、その場から逃走する。父親からは常々、家から出て行けと言われており、もともと居場所がない。別のアパートに住む祖母を訪ねるが死んでいる。逃げたが行き場がない。

 ブーの同級生で恋人のリンは母親と二人暮らし。母は薬の個人販売員?らしいが生活は苦しい。17歳のリンが高校教師の副主任と一緒にいるところをブーが見てしまう。リンと副主任との逢瀬の動画がネットに出回り、リンも行き場を失う。副主任の教師も地方政府の指示のまま配転させられるのを恐れており、上の顔色をみて生活している。

 この街には文教地区と底辺地区があり、家賃の差が3倍。文教地区の学校でないと上級学校に入ることができない、学歴がなければ金持ちになれず、安定した生活を送れない。一人暮らしの老人ジンは、娘夫婦から孫の入学のため文教地区に引っ越したいので老人ホームに入ってくれと言われている。老人ホームに入るにも金がいる、ホームを見学するが、人のつながりは今以上にない、自分の居場所ではないと感じる。ジンも行き場がない。監督が描き出すのは、老人ホームの入居者たちが外の社会以上にここでも「孤立」している姿だ。

 登場人物の家族がみな壊れている。このような描写は果たして本当なのだろうか? 現代中国では子が親に従う従来の古い親子関係・家族関係が、壊れ消えつつあるのは確かなようだ。ただそのなかで家族関係そのものが壊れている、代わる新しい家族関係は形成されていないと映画は描き出すのだ。

 ブー、チェン、リン、ジン、誰もが家族のなかで孤立しているし、家族が家族でなくなっている。登場人物の家庭はどれもつながりが希薄だし、すでに壊れている。親も子も修復するつもりはないし、できそうにない。地域のつながりもないのだろうか? 少しも描かれない。

 チェンはチンピラのくせに、父と母に対しては従順な態度をとる。既存の「ある秩序」には従順なチンピラなのだ。弟を怪我させた同級生(ブーのこと)を探してこいと指示した母親は、「見つけられなかった」と言うチェンの頬を平手打ちする。驚くばかりだ。チェンは、父母とは分かりあえないと確信しており、両親には従順な態度を見せるものの、親子のつながりはあきらめている。家族関係に代わるつながりを求めているが、恋人には別れを切り出され、新たな家族、人間関係をつくることができない。

 監督が描き出してるのは、家族関係、濃密な人間関係を喪失した現代中国の人物たち、その孤立した姿だ。

3)つながりあえない庶民たち

 家族が壊れているばかりではない。彼ら庶民同士もつながりあえないで、それぞれがひどく孤立している。

 いくつかの事件が起きる。事件に「応対」する様が描かれる。登場する人物たちは、一つ一つの事件を自分で解決することができない。既存秩序や有力者に従い、なるように任せることで対処するしかない。ここにも現代中国の社会関係の特質の一つが描き出されている。
 
 描かれているのは、声の大きいものの言い分が通る社会、実業家というか金を持っている者が幅を利かす社会、当局や権力への近さが幅を利かす社会、金がない者、狭い部屋に住んでいる者は侮蔑される社会である。登場するチェンの実業家家族といえどもそれほど上層ではない。下層の庶民たちのなかに幾重もの階層関係があり、互いに対立しひしめきあい争っている。それぞれ窺わなければならない顔をもち、何重もの入り組んだ階層関係のなかにいる。悲しいばかりだ。どうして民衆同士がつながりあえないのだろうか?

 こういった描写は、監督の中国社会の現状に対する批判なのであろう。

 年配の者と若者世代との価値観の違い、断絶、対立が、随所に現れる。互いに理解することなど初めからあり得ないという判断ばかりがあふれている。急速な社会発展によって家族関係、旧来の価値観は壊れたが、それに代わる関係、つながりを持つことができていない、自身の価値観を形成しえていないの人々の姿である、監督はそこに絶望があるという。

 これらは急速な中国社会の変化がもたらした新しい現実であり、この映画の告発するテーマなのだろう。居場所を失った者たち、孤立した者たちがあふれている! これが現代中国社会の一面だというのだ。 
 
 中国社会の実情をほとんど知らないで映画から見てとっただけでいうのだが、このような社会にとって代わる新しい社会関係を構想するのが、解決を準備するのだろうと思う。それを上から、共産党や政府からではなく、下から人々の間からつくり出していくことが求められているのだろう。中国社会に自主的な自発的な市民運動や市民社会の形成が求められているのだろう、その方向に絶望は解決を求めるのだろう、中国社会はそのような段階に達したのだろう、と思うのだ。監督の描きだしたい内容、方向(=「絶望」)とはずれるけれども。

4)監督の工夫と意図 

 この映画の特徴の一つは、登場人物の会話にある。会話は何かしら象徴的な表現ばかりだ、すれ違っているような会話のやりとりを通じて本当の感情、関係を描き出そうと試みているらしい。会話のやりとりのうちに監督(脚本家)の工夫がみられる。

 ただ、そこに繰り返される「実存的な」問いは、深いように見えるが、会話を重ねれば重ねるほどリアリティが消えていく。生まれ出てきたリアルな孤立と絶望を表現するところから、逸れている。何度も繰り返されるので、考えてみればみるほど、何かしら表面つらの会話に沈んでいる、そうとしか思えなくなるのだ。
 
 利益や秩序に従う社会、その底辺に生きるものの不満と不安、批判が確かにそこにある、解決できないという判断があるから、「あきらめ」や「絶望」として描かれる。不満と批判を監督は「実存的な問い」を投げかけ絶望感として描く。監督の意図が「絶望の描写」にあるからだ。

 絶望のなかで映画が生み出した志向は、意味のないことに何かしら意味があるように思いたいという幻想だ。現実生活への不満と逃避なのだが、抜け出るすべを持たない者は、そのような気持ちに囚われる。国境の街、満州里の動物園の「象は静かに座っている」と知り、その姿に何かしら意味があるように思う、その象の姿を見たい、今の生活から抜けて出かけたくなる。映画の題名である。

 あるいは、最後の場面で老人のジンが語る。「よその世界はよく見えるが、本当のところ、よそ世界も今いる世界も同じだ。ここで生きなければならない。今いる世界にいるから「満州里の静かに座っている象」を観たいと思い続けられるのだ」。
 ジンは経験的な真実の一部を述べ、「満州里の静かに座っている象」を見ても何も解決しないと、ただ現実生活からの逃避であると、諫めている。ただ、ジンは何が問題で、どうすればいいかと語っているわけではないし、解決のプランを持っているわけでもない。

 監督の描き出した現実が存在する事を、観客である私は認める、監督の描く現代中国人の「絶望」も確かにその通り存在するのだろう。
 しかし、検討すべきは、絶望にとどまらず、絶望に至る人間関係、つながりの喪失に対する徹底した批判から、そこに新たなつながり、関係の獲得と創造を構想するのが自然な道行きではないかと思う。

5)映画の描き出す現実から生まれる批判とは何か?

 映画が描き出す現実を検討するならば、登場する庶民たちは孤立しており、人々の関係、連合体を持っていない。それは現代中国社会の特質の一つだ。(日本社会も新自由主義のもとで、人々は派遣労働者、嘱託、パートなど何種類もの不安定雇用に階層化され、それぞれの関係や連合体を失い、孤立化している。人と人の関係が、金の関係、支配と被支配の関係に置き換わっており、少し似ているところもある。)

 したがって、その批判や不満の解決は、絶望の深さ大きさの表現も重要だが、失われた人々の紐帯の新たな形成・再生に向かわなくてはならない。中国社会のなかに自主的で自発的な人々の連合体、われわれのイメージで言えば、市民社会、自主的自発的な市民運動、人々のつながりの形成が、必要とされている段階に達しているのだ、というところに向かわなければならない。その方向に映画が描出した現実への批判が立ち上がってくると思うのだ。もっとも、現代中国社会でそれがどのように可能なのか、実現されていくのかは、現代中国社会を十分いは知らない私にはわからない。

 登場する人物は、ひどく孤立していて、絶望に囚われている。自身の意志で行動することができない。経済発展の何かしら巨大な流れに、押し流されるばかりだ。自主的に自発的に振る舞うことができない。登場人物たちは、社会の流れのままに暮らす人々だ、自主的に自発的に行動する「関係」にいないし、それが可能となる人々の関係をつくりあげていない。

 これまでは確かに、上から中国政府が号令して経済発展や社会変化は効率よく急速に発展してきた。人々の生活も急速に改善してきた。しかし、そのような発展の仕方についていけない人たちが大量に発生しているのであろう。発展の過程で、それまでの家族や庶民のつながりが破壊され、何層もの序列関係、権力や政府との関係、金の関係に置き換わり、孤立した人々が増えたのではないか? それゆえ「希望」を持つことができず、「絶望」に囚われているのではないか? そう思う。

 孤立した庶民の絶望を解決するには、中国社会は、上意下達式の社会関係から、人々の自主的な自発的な活動とつながりにとってかわる段階に当面しているのではないか? 人々が自身の生活と仕事を取り戻す段階に当面しているのではないか? そういう変革を遂げなければ次の段階の社会変革に進むことができないような事態に直面してるのではないか? 映画の描写はそのような問題を提起していると受け取るべきなのだろう。

 もちろんこのようなことを監督は提起していない、描き出そうとしているのは「絶望」だ。
 この映画で価値があるのは、描き出されている現代中国社会の現実であって、監督の訴えたい「絶望」ではない。そのように思ったのだ。
 
 ただ映画は4時間近い。長い、やはり長すぎる。
(文責:児玉 繁信)








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ハンジン・フィリピン社の破産 [フィリピン労働運動]

 ハンジン・フィリピン社の倒産と労働者の状況、要求、闘争の現状について、プリモに問いああせたところ、下記の文書が送られてきた。19年3月20日前後の文書で少し古いが、掲載する。

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ハンジン・フィリピン社の破産

ハンジン・フィリピン社とは?

180125 世界最大のコンテナ船船、アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ就航式.jpg
<2018年1月25日、スービック韓進造船所で行われた世界最大のコンテナ船アントワーヌ・ド・サンテグジュペリの就航式、元大統領マパカバル・グロリア・アロヨ(前列左から6人目)、ハンジン社長Gwang Suk Chungなどが並んでいる>


 ハンジン重工業フィリピン社スービック造船所(以下:ハンジン・フィリピン社)は、世界で5番目に大きいドッグを持つ造船業者。韓国資本の韓進重工業のフィリピン子会社。韓進グループは、韓進海運、大韓航空などを要する韓国の財閥だが、オーナー家内の争いから韓進重工業はこのグループから離れている。一方、韓進海運は倒産し、韓進財閥は危機にある。

 1991年にアメリカ海軍が退去したルソン島スービック海軍基地だった地域が「自由経済区」に転換され、現在はスービック湾メトロポリタン当局(SBMA)によって管理されている。ハンジン・フィリピン社は、その一部敷地であるサンバレス州スービック湾レドンド半島(スービック湾をはさみオロンガポ市の向い側)に直接投資し造船所を建設した。

 韓進重工業は、造船では韓国内5,6番手であり資本蓄積が小さいため、フィリピン・ハンジン社では、1万人の労働者が造船所を建設しながら、他方、1万人の労働者が船をつくるというスタイルで操業を始めた。ピーク時には、ハンジン・フィリピン社の労働者数は33,000人に達した。造船業は、労働集約的産業であり、その中でもハンジン・フィリピン社は機械化に投資せず人手により造船所を建設し、生産してきた。そのため、労務管理がハンジン経営のノウハウであった。3万人以上の労働者が働いていたが、そのうちハンジン・フィリピン社員はわずか1,000人程度であり、残りは21もの下請け企業からの出向であった。さらにフィリピンの契約労働制度を悪用し、低賃金労働を最大限利用する経営を行った。労働災害が多発し、死亡事故は60人以上起きたが、アロヨ政権が誘致した海外投資であることから政権にすり寄って、労災事故が多発していたにもかかわらず安全衛生基準を実施しようとしなかった。労働組合結成には弾圧で対処した。

 資本規模が小さく債務の大きい韓進重工業は、世界的な造船不況で業績が悪化し、2018年12月、ハンジン・フィリピン社は約7,000人の労働者を解雇し、さらに19年2月13日には、3,800人のレイオフを発表した。最終的には工場メンテナンスのための労働者である300人にまで減らした。

 過去、ハンジン・フィリピン社は労災での死亡事故が相次ぎ労働者から労働安全基準順守違反と申し立てられ、フィリピン議会上院委員会が職場の状況を調査した。 調査報告は、ハンジン・フィリピン社は09年以降、複数の労働災害、複数の死傷者をもたらしたと報告した。それでも、ハンジン・フィリピン社は安全衛生違反を是正しなかった。

 労働組合準備組織サマハン(SAMAHAN-WPL)の記録によると、労働雇用省(以下:DOLE)がハンジン・フィリピン社に労働安全衛生基準違反を是正させなかったため、11年間で60人が死亡し、5,000件もの大規模および軽度の事故が発生したという(最初の3年間のDOLEデータによる)。さらに、21の下請業者はハンジン・フィリピン社と契約雇用を締結し、労働者を派遣していた。ハンジン・フィリピン社社員は、韓国から来た社員を含めて、もわずか1,000人であり、中核の労働者でさえ正規労働者ではなかった。高度なフィリピン人労働者は人間以下の労働条件、生活環境で労働し生活してきた。

 19年初め、ハンジン・フィリピン社は会社更生を申請した。韓国・投資家の債務とともに、フィリピンの銀行に少なくとも4億ドルの巨額債務がある。ハンジン・フィリピン社は、業績が急速に悪化したため、保守作業のためのわずか312人だけを残し、すべての労働者を解雇した。大量解雇は、10年以上にわたってハンジン・フィリピン社で働いてきた高度な熟練労働者と家族の生活を破壊するものだし、地域経済に大きな影響を与えている。

初めに

 2019年3月1日の午前7時、就労を求め出勤した約100人の労働者は、サンバレス州スービックにあるハンジン重工業フィリピン社造船所への入場が禁止された。 ロックアウトされた彼らはゲートでピケットを行った。100人の労働者は、会社・経営陣によって提示された「自主的削減プログラム(VRP)」(=自主的な退職条項を含む)」への署名を拒否した人たちだった。 自発的な退職に同意した200人の労働者のみが造船所の敷地への入場を許可された。現在まで、ハンジン関係者この問題について沈黙したままだ。
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※ビジネスミラー紙、ニュース
2004年に操業を開始して以来、ハンジン・フィリピン社は、低賃金にもかかわらず熟練した有能な労働者によって極めて短期間で、123隻の建造を完了した。[Cabuag、V.(2019年1月9日)。ハンジン・フィリピン社は、債権者の法的救済を求めている。
https://businessmirror.com.ph/2019/01/09/hanjin-subic-shipyard-seeks-court-relief-from-creditors/から
2019年1月12日取得
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<スービック、トレンド半島の一部を削って建設したハンジン・フィリピン造船所の全景>

 ハンジン・フィリピン社によるフィリピン労働者に対する粗雑な扱いは目新しいものではない。会社の劣悪な労働慣行は、現在の経営破綻の前にすでに記録されており、死亡事故、多数の事故を引き起こしてきた。フィリピン政府がこれまでハンジン・フィリピン社の「労働安全衛生違反を是正させられなかったのは、政府の責任であり、現在もなお政権の課題である。大企業の利益より、先に国民の権利と生活をどのように護るのかという問題だ。

ハンジン・フィリピン社の会社更生法申請

 債務が増大したため、2019年1月8日に、ハンジン・フィリピンは共和国法10142または「財政的に苦しんでいる企業および個人の更生または清算を規定する法律」に基づく会社更生を申請した。[Sison、B.、Jr.(2019、 1月16日)。 オロンガポ市地方裁判所(RTC)は、会社更生のためのハンジン請願を受理した(フィリピン・スター紙)。
https://www.philstar.com/headlines/2019/01/16/1885490/rtc-grants-hanjin-petition-rehabilitationから2019年1月17日に取得したニュース]

 2019年1月14日、オロンガポ市地方裁判所(RTC)支部72がハンジン・フィリピン社・管財人の請願を受理し、直ちに会社を企業更生の対象にした。

 現在の「公平な負債」の会社更生計画は、5つの外国企業の参入を歓迎している[マナバト、A。(2019年3月20日)。 5つの外資系企業、地元銀行のコンソーシアムは、ハンジン社の再生を狙っている。ビジネスミラー紙、ニュース。 2019年3月21日、
https://businessmirror.com.ph/2019/03/20/5-foreign-firms-consortium-of-local-banks-eye-hanjin-rehab/?Fbclid
 
 ハンジン・フィリピン社の倒産については、偽証の疑いもあった。最近の進展ではハンジン・フィリピン社は操業を継続する動きも見せており、その場合は造船所の人材が必要になる。それにも関わらず、すでに10年間会社で働いてきた労働者を再雇用するために、ハンジン・フィリピン経営陣も労働雇用省も何の動きもしていない。

交渉と解決策

 2019年1月28日、労働組合準備組織サマハンに結集した労働者は、ハンジン・フィリピン社の会社更生申請に伴い労働者の置かれた困難な状況に対処するために、シルヴェスト・レ・ベロIII労働雇用省長官との交渉を求めた。労働者たちは、きちんと賃金を支払うこと、賃金から差し引かれる3%の雇用債の払い戻し、失業補助金、および労働者とハンジン・フィリピン社間の法的拘束力のある契約を通じた優先再雇用などの救済を求めた。

 ハンジン経営陣は労働者の要求に応じることなく、19年2月8日に自主的な退職に関する覚書を発行し、「自主退職プログラム(以下:VRP)」に署名した人だけが離職手当などの利益を受け取ることができるという条件にした。これに対応して、サマハンはこの問題を明確にするために、三者間対話を要請する手紙をDOLEに送った。

 2月19日、労働雇用省 第3地域ディレクターのシェナイーダ・アンガラ・カンピータ(Zenaida Angara-Campita)が司会を務める3つの交渉が、ハンジン社の異なる下請業者と労働者組織サマハンの間で、開催された。労働者の要求に関して、両当事者間の最終的な合意は得られなかった。

 3月1日、「自主退職プログラム( VRP)」への署名を拒否した113人の労働者は、RFIDがブロックされた状態でロックアウトされていることに気付いた。そのため、ハンジン労働者は仕事に戻せと要求しピケットラインを設置した。人事部長ユージン・デロス・サントスは、労働者のピケットにこたえ、電子エントランス装置が誤作動し、IDが意図せずにブロックされたと説明した。しかし、それは言い訳にすぎない。彼はまた、労働者に状況を説明するメモの回覧をリリースし、VRPを利用しなかった人々が働き続けることができることを保証した。しかし、経営者はメモの回覧ではなく、労働者の下請業者から閉鎖通知をリリースしたとされている。

 すぐに、サマハンは3月4日付けの労働雇用省シルベストル・ベロIII長官宛てに、労働者の利益を守り、直ちに経営陣に介入するよう促す手紙を送った。応答がなかったので1週間後、支援団体「ハンジン労働者の友(FOHW)」が、19年3月11日にマニラ、イントラムロスにある労働雇用省前でピケットを行い抗議を開始し、ベロ長官宛てに、労働者が置かれている困難な状況を直ちに是正するよう500人以上の学生が署名した請願書を手渡した。 労働雇用省は請願書を紛失したと言っている。ピケが激化するにつれて、ベロ長官は直ちに労働者組織サマハンと支援団体「ハンジン労働者の友(FOHW)」が参加する対話を呼びかけた。

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<ハンジンのコンテナ船>

 残念ながら、ベロ長官は労働者の問題に対処する代わりに、ドゥテルテ現政権の「ビルド、ビルド、ビルド」計画推進したし、スービック・ジョブフェアを強調する他の仕事でごまかすことができた。皮肉なことに、ハンジンで職を失った者からなる6,000人の労働志願者のうち、地上勤務で雇われたのは99人だけだった。さらに、労働雇用省は、ハンジン・フィリピン社がすでに閉鎖を申請しており、企業の受入能力を超えているため、三者間の対話を実行するよう管財人を強制することはできなかったと主張した。

 会議中に労働者から提供された事実を立証するために、交渉のため視察することはできた。ベロ長官は、対話の一環として、労働関係副長官であり、特別担当および地域活動グループ、CESO III担当のアナ・C・ディオーネ(Ana C. Dione)副長官に、サマハン指導者とともに現場視察の任務を割り当てた。

 2019年3月13日、労働雇用省アナ・ C・ディオーネ副長官と労働雇用省3リージョナルディレクターのシェナイーダ・アンガラ・カンピータは、サマハンの参加なしにハンジン造船所の視察を行った。サマハンの継続的な努力にもかかわらず、そして文書のフォローアップを行ったにもかかわらず、結果はまだ発表されていない。

労働組合準備組織サマハン(SAMAHAN)の現状

 20日間のピケットラインは、労働者だけでなく、稼ぎ手に生計を当てている家族にとっても困難な任務だった。残った53人のハンジン労働者の要求は、会社が操業を再開するまで彼らが仕事に戻されることだ。これらの労働者は、退職に応じていないが、メンテナンス作業を行う準備はできており、会社更生の後、新しいハンジン経営陣に加わる準備も同様にできている。

 この単純な要求にもかかわらず、労働雇用省は、造船での10年の豊富な経験を考えると、すべてが高度なスキルを備えた労働者の福祉にまだ取り組んでいないようだ。これは、11年間で123隻の船を生産し、そのうち99隻が58億ドルの価値があるという事実によって補強されている。しかし、労働者と彼らのスキルはぼろきれのように扱われている。

アクション
 19年3月25日の午前9時に、ピケットラインの53人の労働者と支援団体「ハンジン労働者の友」(労働者を支援する学生組織、機関、個人のネットワーク)の約400人のメンバーは、マニラ、イントラムロスの労働雇用省に集まる。

 抗議者たちは、午前8時30分までにメハン・ガーデン(Mehan Garden)前に集まり、午前9時までにイントラムロスの労働雇用省本部に向かって行進する。

 この決定的な行動は、フィリピン造船業で働く労働者たちが耐えてきた10年にわたる不公正を終わらせるための、労働者への呼びかけのためだ。

詳細については、以下に問い合わせ請う。


A)プリモ・アンパロ(Primo Amparo)
   ――「人々の解放のための労働者
  電話番号:(02)7173262
  連絡先:0917-867-6664
  メールアドレス:workers4peopleslib@yahoo.com
  住所:#22 ドミンゴ ゲバラ通り、バランガイ マンダルーヨン市ハイウェイヒルズ、メトロマニラ

B)ヴィルジリオ・M・ロドリゴ・ジュニア(Virgilio M. Rodrigo Jr. )
  書記長-サマハン
  メールアドレス:samahansahanjin@yahoo.com
  連絡先:0939-837-1669
  住所:#70、ソリアーノ通り、バランガイ、ワワンデュ、スービック、サンバレス州

C) ジュリー・スマヨプ(July Sumayop)
  スポークスマン――「ハンジン労働者の友」
  連絡先:0956-067-9435
  住所:フィリピン大学ディリマン校
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天皇制は、すでに憲法を逸脱しつつある [靖国、愛国心、教育、天皇制]

天皇制は、すでに憲法を逸脱しつつある
        
1)「汝ら、悔い改めよ!」

 「汝ら、悔い改めよ!」とは、元は新約聖書にある言葉だという。この言葉を、トルストイは1904年6月に英国「タイムズ」誌上で発表した日露戦争に反対する「非戦論」の冒頭に置いた。東京朝日新聞は、杉村楚人冠が訳し「トルストイ伯 日露戦争論」という表題で、1904年8月2日~20日、計16回連載している。また、週刊「平民新聞」は、1904年8月7日第39号、幸徳秋水・堺利彦の共訳で、紙面一面から六面までつぶして「汝ら、悔い改めよ!(Bethink Yourselves!)」と題して一挙掲載した。「平民新聞」第39号は、発売後ただちに8千部売りつくしたという。

 ちょうどその頃、23歳の魯迅(1881年-?1936年)が、1904年9月からの仙台医学専門学校入学を控え、東京ですごしていた。留学生仲間のあいだでこの記事が話題になっていたのだろう。
 22年後の1926年、帰国していた魯迅は厦門(アモイ)で短編小説『藤野先生』(1926年)を執筆し、そのなかでトルストイの「非戦論」「汝ら、悔い改めよ!」に触れ、「……これは新約聖書のなかの語であろう。だがトルストイが最近に引用したものでもあった。時あたかも日露戦争、トルストイ翁はロシアと日本の皇帝にあてて公開状を書き、冒頭にこの一句を置いた。日本の新聞社はその不遜をなじり、愛国青年はいきり立ったが、・・・・・・・」(魯迅『藤野先生』竹内好訳)と記している。(佐藤春夫・増田渉訳『藤野先生』は、訳者がこの部分を削除している)

 杉村楚人冠による東京朝日新聞紙上の訳文は、表題を「トルストイ伯 日露戦争論」とし、「汝ら、悔い改めよ!」のくだりを省略している(自粛、自己検閲したのだろう)ことから、魯迅が『藤野先生』で述べているのは週刊「平民新聞」の紙面を指しているのが判明するという。(以上は、黒川創『鷗外と漱石のあいだで』(2015年)から、多くを引用した)

 当時、日本の新聞社は、トルストイの「非戦論」の内容よりも、「汝ら、悔い改めよ!」と呼びかけた相手にロシアと日本の皇帝が含まれていたことをとらえて、魯迅の記した通り、その不遜をなじり、愛国青年はいきり立ったのである。いきり立ったのは、愛国青年というより、その背後にいた、日露戦争を推し進める日本政府と日本の支配層そのものでもあった。

 実際のトルストイの論旨に沿えば、その所論は、「戦争の下では皇帝の言葉も政治家たちの演説も、現状を追認するものにしかなりえない」。つまり、「悔い改めよ!」との声に導かれて、戦争という事態を根本から考え直すことができるのは、帝王、兵士、大臣、新聞記者といった立場を離れ、ただ一個人として物事を考えられる者だけだ、とトルストイは主張する。またそれは、ひとりキリスト教だけではなく、仏教、イスラム教、儒教、バラモン教など、あらゆる世界に通じる大法である、とくに日本人の多くは仏教徒であると聞くが、仏教は殺生を禁じているではないか、と彼は述べる。
 

 「帝王、兵士、大臣、新聞記者と言った立場を離れ、ただ一個人として物事を考えられる者」たるべきとトルストイが考えたのは確かなようで、キリスト教に基づくトルストイ自身の考えとともに、人類に対する希望、信頼、あるいはそのように信じたい彼の「願い」が表れている。その「願い」は、日露の政府や支配者、すなわち帝王や、大臣、新聞記者等には響かなかったが、そうではない多くの民衆に確かに影響を与えた。

 注目すべきは、この時の日本政府、新聞、日本社会のとった対応である。日露戦争に反対する主張や考えに対し、その内容を検討するのではなく、天皇へ「汝ら、悔い改めよ!」と呼びかけるのは「不遜、不敬」であると非難の合唱を浴びせ、抑え込む世論が意識的に組織されたことだ。

 この洪水のような宣伝のなかで、国民は、帝国憲法上は天皇が始めた戦争に、「自主的自発的」に協力するように誘導される。「自主的自発的」に応じない者には、「皇室に対する罪」として不敬罪(刑法74条、76条)、大逆罪(73条)という強制が、当時の日本社会には存在した。「自主的自発的な支持・協力」と「強制」の二つは、セット・表裏一体である。「平民新聞」に関係した幸徳秋水ら多くは、1910年、大逆罪で26名が逮捕され、12名が死刑とされた。当時の政府、権力者らが幸徳らを弾圧し殺した理由の一つは、日露戦争で「平民新聞」が国策に公然と反対し非戦を説いたことにある。

 そのようなことを考えるならば、一つ重要なことは、当時の「(天皇への)不遜をなじり、いきり立ったという愛国青年」の姿がどのようであったか、どのように社会的雰囲気を醸成したか、当時の社会の状況、人々の気分や態度はどのようであったか、私たちはよく考え、想像してみなければならない。どんなふうに愛国を主張したのか? どんな言葉を吐いたのか? 愛国の主張は、賛同し従わない者へのどのような乱暴な暴力を伴っていたのか? 多くの日本人は、どのように恐れおののき、かかわらないようにしたのか? そのことで従ってしまったのか? それらをよく調べ、想像し、認識しておかなくてはならない。

 なぜならば、2019年の現代に同じような現象が、再び生じているからである。
 そして次に、どのように対処しなければならないかを、現代に生きる我々はよく考えなくてはならない。そのうえで、決して放置するのではなく、対抗する行動に踏み出さなければならない。

2)もう一つの最近の出来事

 2月7日に韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長(74)が「慰安婦問題の解決には天皇の謝罪が必要」と発言した。文議長がブルームバーグとのインタビューで、慰安婦問題に関し「一言でいいのだ。日本を代表する首相かあるいは、私としては間もなく退位される天皇が望ましいと思う。その方は戦争犯罪の主犯の息子ではないか。そのような方が一度おばあさんの手を握り、本当に申し訳なかったと一言いえば、すっかり解消されるだろう」と語ったのだ。

 この発言にはいくつかの問題が含まれているのだが、

 一つは、天皇の退位、即位に際して、「戦争犯罪の主犯の息子」という話題が常に出てくるというのが、アジア諸国の、あるいは国際的な常識だということに改めて、気づかされることだ。

 「裕仁天皇は、戦争犯罪の主犯だ」とは、日本人の多くが、決して表向き言わないことだ。TVや新聞は決してこのようには報じない。明仁天皇でさえ、昭和天皇は平和を志向していたなどと、デタラメを言っている。なぜ本当のことが言えないのか!

 日本社会と韓国社会、あるいはアジア諸国とのこの「温度差」を、日本人は深刻に、あるいは正面から受け止め考えなければならない。果たして日本人のうち何人が、「裕仁天皇は、戦争犯罪の主犯である」ことを正面から受け止め、考えたかだ!
 無視しても、国際社会との「温度差」は決して解消などされない。
 TV、新聞は無視して済ませるようである。

 二つ目は、慰安婦問題の解決は、日本政府が、日本軍による犯罪と被害事実の一つ一つを認めたうえで、真剣な公式謝罪を行い、被害者に賠償しなくてはならない、そして二度とこのような被害を繰り返さないために、被害事実を調査し公表し研究・教育しなければならない、ということだ。したがって、文喜相国会議長の言うように、ただ明仁前天皇が頭を下げて謝罪すれば済むというものではない。
 きっかけの一つにあるかもしれないが、そんな「きっかけ」をつくってくれては困る。
 
 三つ目、なぜならば「天皇の地位は、主権者たる国民の総意に基づく(憲法第一条)」のであって、国民に主権があり、天皇は単なる象徴にすぎない。議長は、天皇を国家元首であると誤って認識している。

 天皇は「政治的機能を有しない」、それは天皇に権力を集中した戦前の大日本帝国憲法の欠陥に対する反省から、天皇の権限に厳格な制限を課しているのである。天皇制は戦争の原因の一つであった、あるいは原因をつくった(と評価された)から、「政治的機能を有しない」規定が入っているのである。一番いいのは天皇制の廃止だが、当時そこまでできなかっただけにすぎない。天皇制が存在する限り、日本国民は再び戦争を招く要因、理由を持ち続けることになる。危険極まりない。

 天皇の政治的行為は憲法で規定している象徴の役割の逸脱であり、政権による天皇の政治的利用へとエスカレートする。その点でも文議長は、間違っている。

 上記のような問題があるのだが、ここで言いたかったことはそのことではなく、日本社会から生まれた「反応」である。

 「天皇陛下に失礼だ!、不遜だ・・・・・」という反応が、マスメディアで、あるいは現代の「愛国青年」がweb上で、大量に現れたのである。慰安婦問題の解決をどのようにすべきか、という点について触れずに、「天皇陛下に失礼だ!、不遜だ・・・・・」と対応でもって、問題を押し流そうとしている。115年前の「日本の新聞社はその不遜をなじり、愛国青年はいきり立った・・・」のと似た現象を繰り返しているのだ。発信源、その大元は、安倍政権であって、権力に従う大手マスメディアが、「失礼だ、不遜だ・・・」という報道を意図的にまき散らしている。

 この反応に、日本社会の内部から、明確な批判がほとんど出てこなかった。メディアは何も指摘しなかった。驚くべきことだ。

 天皇の退位、即位の祝賀ムードの洪水のなかで、批判はしづらい雰囲気は確かに醸成されている。むしろ祝賀ムードは批判を押しつぶす役割を果たすものだ。表裏一体である。そう認識すべきなのである。祝賀ムードをまき散らすのも、発信源は安倍政権である。

3)天皇制は、すでに憲法を逸脱し機能しつつある

 私たちの周りには、権力や権威あるものにすがろうとする「風潮」が確かに存在する。しかも権力や権威は声高に、強引に主張する。

 他方、われわれのあいだ、例えば家族や近所、職場では、表立って主張しない雰囲気がある。相手が気まずくなるのではと忖度し、もめごとはなるべく避け、たわいもない話だけに終始する。その結果、表面的な人間関係しか形成できない。こういう関係しか持てなければ、人々は連帯することも少なくなり、政府からの、メディアからの、周りからの「祝賀ムード」の洪水に流されるしかなくなり、対抗できなくなる。こういう関係もまた表裏一体になっている。

 洪水のような祝賀ムードとともに、天皇制は、すでに憲法を逸脱し機能しつつある。
 すでに4月5月の退位、即位の儀式において、国家神道に基づく儀式や祭礼に対しても国費を支出しており、数々の逸脱がすでに公然と行われた。祝賀ムードによって、この「逸脱」を強引に実行しつつあるのを、我々は目の前で見ている。元号の使用、日の丸の掲揚も、祝賀ムードのなか強行されている。

 祝賀ムードに、どのように対抗していくかを考えなくてはならない。天皇制に反対するには、天皇制反対のデモで参加したりしてはっきり声をあげることはとても大事であるが、それととともに、身の回り、職場や近所の人たちのあいだで、このムードにどのように対抗していくかも、また重要なのだ。

(2019年5月8日記、文責:林信治) 

 5月に原稿をいただいていましたが、手違いで掲載が遅れたことをお詫びします。





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「戦後日本の変容と『歴史問題の和解』の課題」 [靖国、愛国心、教育、天皇制]

 10月19日、広島で「安野 西松和解10周年記念集会」があり参加した。
 そのなかで、外村大(東京大学大学院教授)さんの講演があり興味深く聞いたので、メモをもとにまとめた。ただし、筆者が勝手にまとめたので、文責は筆者にある。理解が至らない、あるいは誤解しているところがあるかもしれない。それも筆者の責任である。

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 「戦後日本の変容と『歴史問題の和解』の課題」
 
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<10月19日、外村大・東京大教授>

1) 戦後の出発と友好親善運動 

 戦後出発において、日本社会と日本人はなかなか戦争責任を明確に認識し、謝罪する・・・というふうにはならなかった。

 その原因・背景には、冷戦構造がある。冷戦構造下において日本はアメリカの庇護のもとにいたことで、日本政府は近隣諸国に対して戦争責任を認め、謝罪せずに済ませることができた。中国や朝鮮、アジア諸国の人々とは市民運動として交流がなかった。サンフランシスコ講和条約は単独講和であり中国、韓国は呼ばれなかった。中国とは1972年まで国交がなかった。それらのことは、日本人、日本社会にも確実に影響を及ぼした、アジアへの日本の侵略、支配という歴史を明確に意識しなかったし、見ないままにしてきた面がある。そのため、戦争責任や加害事実を認めること、謝罪し賠償することに対し、無自覚なまま過ごしてきたと言える。

 戦後の平和運動を引っ張ってきたのは労働組合であり、社会党、共産党である。いろんな努力があったにしても労働組合は企業別労働組合でインターナショナルな意識が生まれにくいところがあった。市民が海外に出ていくことはきわめて難しかったし、アジア諸国の人々との交流も意識的に追求されてこなかった。

 戦後の日本社会では、日本人は被害者という考え方が支配した。アジア諸国民への加害の歴史には触れることはきわめて少なかった。日本の戦死者・遺族は、保守系の軍人恩給連盟、日本遺族会に組織されていくという問題があった。その過程で保守的な歴史観が遺族の間で支配的になったという経過をたどった。

 もちろん、日本人と日本社会は、戦後出発からちゃんと侵略と植民地支配のことを考えるべきだったし、そこにおける加害と支配の歴史を考えるべきであった。

 戦後の日本には80万人の在日朝鮮人・韓国人がいたが、運動の側、人々の側も内政不干渉、国交回復が主な目標となって、日本の過去の植民地支配を批判することはすくなかった。そのことは在日の人の受難と被害の歴史を認め、権利回復を考えるというふうにはなかなかならず、逆に在日の人が日本社会のなかで「遠慮して」生きなければならない状況を広げた。

 戦後を通じて現在まで、日本人の多くは、植民地支配を悪いことと認識していない。「創氏改名」とか「徴兵制度」を敷いたのはよくなかったが、それ以前は善政を敷いて、朝鮮を近代化したという認識を持つ人が多かったし、現在もなお多い。

2) 被害者の人権救済活動の開始 

 1965年に日韓条約が締結された。
 戦後日本の突出した経済成長は、日本をアジアへ再び経済進出させ、アジア諸国との経済関係を再構築させた。しかし、それは経済成長によって膨張した日本経済が、新たな市場、基盤を求めた経済進出であり、かつての植民地支配や侵略に対する批判がきちんとされないままの進出だった。

 アジア各国政府と各国支配層は、経済成長する日本との貿易や投資のために、日本の経済進出に応じる対応をとった。経済進出したものの日本政府や日本企業は、かつての植民地支配や侵略に対し謝罪せず、それどころか触れもしなかったため、アジアの人々から批判が立ち上がった。しかい、日本政府はアジア各国政府を相手に、経済協力、経済援助などをばらまきそれに対応する姿勢をとった。
 そのためこの時期になっても日本人と日本社会の大勢は、過去の侵略や植民地支配に対して、加害に対して、意識せずに済ませてきた面がある。あるいは、経済援助の問題、「お金の問題」と理解する傾向が生まれた。

 そんななかで、市民運動のあいだで、在韓国被爆者への支援の始まりがあった。市民運動のなかから被害者の人権侵害に対する救済運動が始まる。ただし、当時の中国人や韓国人には実際的には日本へ入国できなかったし、他のアジア諸国の人々にとっても、日本に入国することはほとんどできなかった。

 アジア近隣諸国との関係をどうするのか、国民的な議論があったわけではないが、市民運動のなかに人権救済の動きが生まれたことに注目したい。

3) 冷戦後、80年代末

 アジア諸国の経済的発展、市民社会の形成にしたがって、台湾や韓国で民主化運動が力を増してくる、被害者が声をあげてくる、市民団体、人々の交流も盛んになってきた。

 1990年代初めには 慰安婦の問題が取り上げられる、韓国の金学順さんが慰安婦被害者として初めて名乗りあげ、外交問題になった。そのほかの国々でも名乗りをあげる慰安婦被害者が続いた。アジア各国における一定の民主化の進展、人権尊重の機運が、被害者が名乗り出る条件をつくった。

 日本政府の対応は、93年の河野談話、95年村山談話、アジア女性基金などとして現れた。遅ればせながら「戦後処理」が課題となったのである。

 このような変化は、90年代前半は、確固としたものではなく「ぼんやりとしたもの」だったが、日本が謝罪したほうがいいという世論が、日本国内で生まれだしてきたからでもある。当時の若い世代は、「謝罪への転換」に賛同しており、戦後補償に肯定的だった。周りの国や市民からの批判に対して、どう対応するのかという課題が浮かび上がってきたのをそれなりに意識したと言える。

4)世論の逆転と国民間の葛藤の激化

 90年代末から「揺り戻し」が起きている。
 90年代末、新しい教科書をつくる会若手議員の会、のちに日本会議が発足する。
 どうして揺り戻しがおきたのか? これは何か? 歴史修正主義はなぜ広がったか?注意深く検討しなければならない。
 日本の右翼保守層が時間をかけて準備してきたのは明らかだ。雑誌、TV・・マスメディアのあいだで、歴史修正主義が徐々に広がっていった。
 
 政府や保守的な論調、右派の主張などがあふれるようになった。その結果、日本社会では、戦後補償の問題を「個々人の人権侵害の救済」というより、「国家間で調整する問題」ととらえる認識、傾向が広まった。その浅い認識の上に「まだ、韓国や中国は謝罪を要求するのか?」という気分が日本人のあいだに広がった。

 日本人の多くは、韓国や中国、アジア諸国から歴史問題を持ち出されると、日本人と日本が攻撃されているような認識を持つ人が多くなった。人権侵害の救済の問題ととらえることができない。

 そのような認識が果たして正当なのか? についての国民的な議論がほとんどできていない。
 日本政府は95年に、慰安婦被害者に対し「アジア女性基金」で対応した。その考え方は、「要求は、どうせ最終的にはお金でしょ」、だから「お金を配って解決する」という考え方である。日本政府がお金を払った、基金を創設したことから、日本人の多くもそのような認識を持つに至っている。「とにかく政府が頭を下げ、お金を払う」それが解決というとらえ方があったし、いまもある。その考え方が克服できていない。

 一旦支払ったのに、韓国政府や慰安婦、徴用工の被害者が「いまだに解決を要求するのはおかしい、お金を払ったのだから、そのあとは触れてほしくない」というのが、多くの日本人の本心に近い認識であろう、そのような認識を多くの日本人が現在もなお持っている。

 日本人と日本社会は、いまだに「責任」の意味を誤解している、あるいは正しく理解していない。それゆえ、歴史問題を持ち出されると日本人全体を攻撃されているととらえる、そういう傾向が多数を占める「奇異」な状況が成立している。

 2000年代から日本社会では 「和解」が一つのキーワードとして頻繁に語られるようになった。キーワードとして頻繁に出てくるのは、それなりの理由がある。

 頻繁に出てくるものの、日本人と日本社会は「和解」の本当の意味を理解していない。

 本来の「和解」の意味は、過去の戦争・植民地支配に対して、日本政府が加害の事実をきちんと認めたうえで謝罪・賠償であるが、そのことが理解されていない。人権侵害の救済であることが理解されていない。その上で、あるいはそれとともに、市民社会が隣国の人々と関係をつくっていくことでもあることが理解されていない。

 隣国から歴史問題や戦争責任を提起されて、「その問題を解消したい、あるいは未来志向でもはや忘れて対処したい、何で解決しないんだ‥‥」などという気持ち、問題の本質がどこにあるか認識していないイライラが、「和解」というキーワードになって現れている。

 戦後の日本の経済成長によって、アジア諸国と人々にお金を配って関係をつくってきた、過去には触れないできた、それですましてきた。このような関係、考え方に影響を受けている日本人、日本社会は認識を転換しなければならない。市民運動はその課題を自覚して日本人のあいだに、新たな歴史認識の共有を意識する運動を進める必要がある。そのような努力をアジア社会の市民運動とも共有していくなかで、加害者側の意識の変化、被害者側の納得、これら全体を実現していくことがが、本当の「和解」の意味となる。

 それができていない、あるいは意識的に自覚されていない面がある。それゆえ、日本市民の間で、近隣諸国の「反日」へのいらだちが見えるようになっている。例えば、2005年廬武鉉大統領の3・1節演説などに、「反日」だという反応が出てくる。
 あるいは、韓国や中国が歴史問題に触れれば、TVなどは「反日だ!」という反応、報道が出てくる。
「反日」へのいら立ちが「和解」という言葉の繰り返しを生んでいる。

5)市民運動のこれから

 「和解」の意味をきちんととらえなおした上で、めざす市民運動の活動が重要である。そのために市民運動の歴史を意図的に記録し記憶していく必要があると、私は考えている。

 現在は、国家間の和解ではなく、日本社会における国民内部での分裂、対立が広がっている。現代日本社会は、困っている人を助けようという気運が、最近明らかに後退している。
 その背景には、日本経済の衰退、格差拡大、それに伴う市民一人一人のいっそうの孤立、分断化があると思われる。

 「経済大国」日本の姿は薄れた。「アジア唯一の先進国」の地位が日本人の自信の根拠だったが、その基盤が崩れ自信を喪失している。他方において、中国はすでに日本の3倍のGDPであるし、台湾、韓国はすでに一人当たりのGDPは日本とほぼ並んでいる。技術革新においても、すでに中国企業や韓国企業が多くの分野で日本企業を凌駕している。日本はここ20数年、ほとんど経済成長していない。そのなかで格差が拡大し、貧困化や地方の荒廃、労働者の階層化を分断、孤立化が目立っている。

 戦後の日本はアジア随一の高度成長を成し遂げたことで、日本人と日本社会はある「自信」のようなものを持ってきたし、その気分でアジア諸国の人たちに接してきたが、いまその基盤、背景が崩れている。
 
 市民社会、市民運動においては、「自信」を別の基盤の上に再構築することが必要だ。その基盤は、日本国憲法であり、人権尊重の理念である。それを現代と近い将来の日本人と日本社会の「自信」の新たな根拠にしていかなくてはならないし、市民運動は意識的に追求していかなくてはならない。その上に、市民社会、市民運動同士の国際的な信頼、連帯が広がるのだろうと思う。
(文責:林 信治)





















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香港の「逃亡犯条例」改正でデモ [世界の動き]

香港の「逃亡犯条例」改正でデモ

 中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡る大規模な抗議デモが香港で激しさを増している。香港政府は改正案を完全に撤回し、事態の収拾を図るべきだ。改正案が可決されると、中国に批判的な香港の活動家が本土に送られて、不当な扱いを受ける恐れがある。香港の人々が反発する理由はある。

 香港の行政長官は、各業界団体代表ら親中派が多数を占める「選挙委員会」による投票で選ばれ、中国政府が任命権を持つ。民意をきちんと代表する存在ではない。民意を反映させる仕組みが整っていない中で、政策を改めさせる手段は、おそらくデモぐらいしかないのだろう。今起きているのは、やむにやまれぬ行動であろうと推測する。

 ただ、香港のデモのなかに大量の星条旗があった。星条旗を掲げてデモをする多くの人がいたということだろう。

 NED(全米民主主義基金)からの支援を受けている団体、個人がいる場合、その団体とその主張は、一切、信用できないし、するべきではない。NEDは「他国の民主化を支援する」名目で、これまで不当な干渉や政権転覆、クーデターを実行をしてきた前歴がある。すぐさま手を切るべきだ。

 米政府は、サンチャゴ・クーバに裁判なしで拘束し収容する刑務所を持ち、多くの収容者がいる。また英警察は、19年4月11日、ウィキリースのジュリアン・アサンジを「出頭命令に応じなかった」という理由だけで逮捕し、ロンドン郊外の刑務所に裁判なしで拘束している。米政府、英政府は、今回の問題で中国・香港政府を批判しているが、その資格はまったくない。

 香港政府に求められるのは、大規模なデモを繰り広げる声に真摯に耳を傾け、民意に従うことだ。対話なしには何も解決しない。



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映画『主戦場』を観る [映画・演劇の感想]

 映画『主戦場』を観る

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 観客が圧倒される映画だ。慰安婦問題の論争の渦中へ、そんまま突っ込む。
 櫻井よしこ(ジャーナリスト)、ケント・ギルバート(弁護士、タレント)、吉見義明(歴史学者)、渡辺美奈(女たちの戦争と平和資料館)、藤岡信勝(新しい歴史教科書をつくる会)などなど、論争の中心人物たちが続々と登場し、自分の考えを主張する。息をつかせない展開に観客は圧倒される。これでもかこれでもか、というくらいいろんな人物が登場し主張が重ねられる。そんな映像が2時間、最後まで続く。観客は初め映像に圧倒されるに違いない、しかし、いずれ慰安婦問題を自分はどのようにとらえるべきか、どのように判断すべきか、迫られていることを自覚するに至るだろう。

 監督はミキ・デザキという日系米人だそうだ。論争者にインタビューする。インタビューするためには、その前後で、主張の意味と批判者の論点と対比し、きちんと理解し整理しなければならず、おそらく毎回が大変な作業であったに違いない。そのような作業を経て、ミキ・デザキは最終的には自分の判断に到達し、自分なりの考えで慰安婦問題の全体像を、映画としてまとめるに至っているようなのである。

 そのような作業が必要なのは観客も同じであって、自分のなかで論点を対比し、きちんと理解し整理しなければならない。映画を観た後、あの主張は根拠があるのだろうか? 果たして本当だろうか? 自分で調べて納得することが求められている。おそらく監督がやったように。

 これまで慰安婦問題を扱った映画の多くは、被害者に寄り添い、被害事実やその後たどった生活、歴史的背景などを描いた。それぞれが貴重な映画である。ただこの映画はそれらとはずいぶんと違う。描くのは論争であって、慰安婦の被害事実について、あるいは歴史的背景について、ではない。慰安婦問題とは何であるかまったく知らない人にとっては、かなり心が「揺さぶられる」ことになるだろう。おそらくわかりにくいだろうし、画面に登場する主張―反論―再反論・・・についていくことができなければ不満も残るかもしれない。

 論争の綿密な検討から慰安婦問題の真実へ、あるいは解決の方向へと接近しようとミキ・デザキが試みたと同じように、観客は自身の責任でその作業を重ねることが求められている。何でもかでもすべて、与えられていると思うのは、間違いだ。

 ほとんどの日本人なら避けるであろう論争の真っ只なかにミキ・デザキは飛び込んで、主張内容を検討し、議論によって問題の本当の意味、評価へとたどり着こうとする姿勢を、この映画で見せている。監督の姿勢に感心する。とともにすごく新鮮に映る、生命力にあふれている感じさえする。そうして映画は、慰安婦問題の何が問題なのか、その全体像を描く。おそらくほとんどの日本人は、ミキ・デザキが描き出した慰安婦問題の全体像、その深刻さを認識していなかったのではないかと思う。

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 日系米人だそうだが、その考え方は「現代日本人」とはまったく異なる。目の前での対立や論争をことさら回避し、自身の主張を述べることはせず、ひたすら「気くばり」と「忖度」という処世術、あるいは「空気を読むという強制力」に支配されて対応するのが、現代日本人と日本社会の特徴だ。自分の主張を人前で述べない現代日本人は、いずれそのうち主張そのものを持たなくなる。考えの違う人と議論し、自身の考えを深めることなど、到底しないし、できなくなりつつある。
 
 おそらく、この映画はミキ・デザキによる現代日本人、日本社会への批判も含まれている。日本の知識人の多くは、例えば慰安婦問題などの激烈な論争に対しては、距離を置いて我関与せず、どっちもどっちという第三者、あるいは超越した立場を装って逃げてしまう。そのような態度への批判も含まれているのだろう。

 そもそも『主戦場』という題名に、監督の批判がうかがえる。慰安婦問題できちんと論争し決着をつけることが、現代日本人にとって今、『主戦場』だぞ! 避けても放置しても解決しないぞ! この問題を解決しなければ日本に未来はないぞ! 私には、ミキ・デザキがこのように主張していると聞こえる。
 
 この映画を観て、自分がどのように判断するか、関与するかを、考えたらどうだろうか?





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米国は中国に勝てるか?  [世界の動き]

米国は中国に勝てるか? 

1)中国のインターネット市場

 中国のインターネット利用者数は8億人を超え、米国は3億人弱である。
 賢明にも米フェイスブックを締め出した中国市場は、スマホ普及という基盤が整備され、しかも5Gという大容量の通信がすでに一部実用化し、質的にさらに高度な情報、サービスが可能となりつつある状況下にある。この市場をめがけて、中国地元スタートアップ企業がひしめき、中国資本がこぞって投資している。いずれ、中国インターネット市場に、グーグルやフェイスブックに相当する大手が出現し、さらに世界市場に進出するだろう。

 グーグルやフェイスブック、ツゥィッターは、スノーデンが指摘するように、あらゆるメールやインターネット上の情報を米政府(NSA、CIA)に提供する関係にある。米支配層・金融資本と手を切ったインターネット上の企業の出現が新たな地平を開くだろう。
 
2)ハイテク分野で、米中が激しくぶつかり合っている

 人口知能(AI)開発は、技術面からみて米国がまだ中国の先を行っている。ただ、中国市場はAI開発に必要なデータ量を圧倒的に多く入手でき、中国のスタートアップ企業間でデータ共有の動きもあり、AI領域では中国は極めて早い速度で進化している。

 そもそも、インターネット利用者数が8億人を超える中国市場では、莫大なデータを蓄積できるという強みがある。最終的にデータ量が、AI開発の帰趨を決定する。

 5Gの技術開発では、すでに中国企業が世界に先行し、多くの特許を抱えるに至っている。

 華為ZTEは、19年8月世界に先駆けて中国市場で5Gスマホの販売を開始した。
 5G基地局の通信設備では、華為製とZTE製は特許においても、価格においても、例えば競合企業であるノキア、エリクソンを圧倒している。

 米政府が華為に経済制裁しているのは、次世代通信技術で主導権を握られると、これまでの米国政府と米企業によるインターネット支配が崩れかねないからだ。トランプ政権は「国家安全保障上の脅威」という言葉で自分に都合よく表現しているが、NSAやCIAが、インターネット上の情報をグーグルやフェイスブックに提供させるという出来上がった支配が崩れかねない、という意味にすぎない。そのようなシステムが崩壊しても何も問題はない。アメリカの横暴な世界支配が崩れるのは、世界中の圧倒的大多数の人々にとって、とても良いことだ。ほかの諸国や国民にとっては、逆に「個人の安全保障上の脅威」が消滅することであり、歓迎すべきことだ。アメリカの軍産複合体やネオコンが流すフェイクニュースが、フェイクニュースだときっちりと暴露され、駆逐されることになるだろう。

 それだけではない。米政府・米支配層は、5G時代を迎えビッグデータをやり取りするイノベーションや新ビジネス創出で、中国企業に先行されてしまうという危機感を持っている。おそらく米政府が政治的に介入しなければ、近いうちに中国企業に先行されるだろう。介入しても押しとどめることができるとは限らない。

通信インフラ
 中国はすでに世界に海底ケーブルを張り巡らしつつある。2018年にブラジル―カメルーン間6,000㎞に海底ケーブルを敷いた。「一帯一路構想」参加国に大容量通信データ輸送を担うインフラを提供し、高速大量通信の社会基盤を形成しつつある。通信インフラは、ハイテク産業の孵化器ともいえる。

 今一つの通信インフラは、衛星による位置情報サービスだ。米国はGPS(全地球測位システム)で位置情報サービス開発で先行してきたが、中国はそのお株を奪いつつある。

 18年に衛星稼働数で、通信衛星・中国北斗は米GPSを抜いた。衛星分野での米中逆転が、よりはっきりしてきた。北斗は、世界の3分の2以上の国の上空で、最も多い衛星となった。中国は、94年~20年まで累計106億ドル投資してきた。北斗を今後さらに、10基程度打ち上げ、一気に米国を突き放す。
 (2018年の衛星数:中国北斗35基、米GPS:31基、ロシア:24基、EU:22基)

 中国の位置情報サービス、千尋位置網絡は、衛星・北斗と2千以上の地上基準局のデータを併用し、誤差が数㎝の超高精度サービスをすでに開発している。自動車の無人運転サービス拡大の起爆剤になるだろう。
 世界の主要半導体メーカーは、位置情報機能をもたせる場合、単一の半導体製品に衛星・北斗に対応する設計が求められている。
 米国が衛星分野で中国に圧力を強める可能性もあるが、すでに位置情報ビジネスの世界では「中国抜き」はありえなくなっており、圧力をかければ位置情報ビジネスは中国の独占化を招きかねなくなっている。
 
3)米中覇権争いの焦点、華為 

 米国の貿易赤字が問題だとして、トランプ政権は中国企業を標的にした関税、保護主義で横暴に振る舞っているが、実際のところ目的は、貿易赤字解消ではなく、中国のハイテク技術の抑え込みにある。中国のハイテク技術が米国を凌駕するのを押しとどめ、このまま米国支配が続くことを狙っている。果たして米政府が狙い通り、押しとどめることができるか? ハイテク技術での「抑え込み」を、米国部品や技術、米国市場を「人質」にして、実行しようとするのだから、米企業や米市場も傷つきかねない。

 実際狙われているのは、中国のハイテク企業、5Gで先行する華為である。
 「安全保障上の理由」から、5G市場への華為参入を禁じた。米政府の横暴に豪と日本両政府が従い5G基地局から華為を締め出すことにした。英、カナダ、ニュージーランドなども米国支配に従うfファイブアイズ「5」+日本「1」だ。トランプ政権は「安全保障」を持ち出せば、どのようなことにでも適用し実行できる、と考えている。

 米商務省は8月19日、華為への禁輸措置を続けると決定した。

 しかし、5Gのスマホや通信設備では、技術的には、すでに華為やZTEが先んじている。8月には、華為、ZTEは5Gスマホを中国で発売開始した。5Gの通信設備は、エリクソンやノキアも生産しているが、華為やZTE製が3割程度安いという。とても競争にはならない。

 華為にとっての問題は下記の通りだ。

スマホのOS 「アンドロイド」

 華為は、スマホに米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」と、地図やメールなどのグーグルの関連アプリを採用している。「アンドロイド」自体は無償公開されていて禁輸の対象外だが、OSの更新や関連アプリは対象となっており、実質使えなくなるのではという懸念が広がり、19年1~6月期、華為のスマホ売り上げは、中国外では落ちた。ただ、中国人の「民族意識」を刺戟し中国国内での売り上げは増えた。

 現時点では、OSの更新は可能だが、禁輸措置が厳格に実施されることになれば、アンドロイド関連サービスが制限され、華為のスマホが利用できなくなることも予想される。

 8月9日、華為は、「アンドロイド」に代わる自前のOS「鴻蒙(ホンモン)」を発表した。最悪、OSを止められた時の「対応策」は、とりあえず準備したということだ。新OS上で動くアプリなども早急にそろえるだろう。

 しかし、どれだけ自前でOSを開発しても、世界で7割のシェアを握るアンドロイドや関連サービスに匹敵する水準をすぐ実現するのは難しい。アンドロイドに慣れた海外の利用者の華為離れは避けられないだろう。したがって、OSが禁輸対象となった場合、短期的には(おそらく数年にわたって)、華為、ZTEなどに大きな影響を与えるだろう。
 その後、スマホのOSは「アップル」と「アンドロイド」と、例えば「鴻蒙」に三分される世界が広がり、最終的にはアンドロイドと「鴻蒙」はどちらかに収束することになろう。 「鴻蒙」に収束するようなことになればグーグルはその地位を失う。

スマホ用半導体
 禁輸措置発動後も、米マイクロン・テクノロジーズや米インテルは、華為とZTEスマホに使うメイン半導体の供給を続けている。米国外で生産するなど禁輸措置の対象にならないように工夫し対応しているとみられる。米商務省が華為の子会社46社を対象に加える方針を示したが、禁輸措置が厳格に実施されることになれば、これまでの部品調達が難しくなる恐れがある。

 華為は子会社・海思半導体で自前の半導体開発を進めている。ZTEは自前の半導体開発はしておらず、米マイクロン・テクノロジーズから供給を受けている。トランプの保護主義に対抗し、中国政府は急遽、半導体を含む部品の自前で調達する態勢を確立するための支援策を採ろうとしている。仮に自前で半導体を調達できるようになれば、米マイクロン・テクノロジーズや米インテルは巨大な市場、顧客を失うことになる。

 スマホ用半導体設計において9割以上のシェアを握る英アーム・ホールディングス社抜きに、容易には設計はできないと言われている。ただアーム・ホールディングスも今現在、華為との「大半の取引が継続している」。中国が自前で半導体を設計することになれば、アーム社も巨大な収入が消えるので「継続した取引」を望んではいるだろう。

 スマホ用半導体は、時間があれば中国製への代替えは進むとみられるが、問題はどれだけ時間がかかるかだ。

5) 米国は中国に勝てるか?

 米国と中国の覇権争いは、すぐには決着はつかない、長期化するだろう。
 米中いずれもが、傷を負うだろう。世界経済が後退する要因にもなるし、すでに一部影響を及ぼしている。

 ただ、注目すべき点は、中国が提唱する「一帯一路構想」に、世界の全ての地域から、152の国がすでに参加しているという現実だ。中国政府は、「一帯一路構想」の基本原則として「平和と協力、開放性と包括性、受容と理解、そして相互利益」を提起している。大多数の世界の国が、自身の覇権を維持するため米政府とIMFが駆使する、「いじめ」、金融破壊、侵略と占領よりも、「一帯一路構想」を良い選択、あるいはよりマシな選択肢として見ているということだ。

 一方、米政府は「米国第一主義」を掲げ、自国と米資本の利益のためには、ほかの国々や同盟国の立場や利益さえ踏みにじるという態度に出ている。すでに現在の米国には以前のような「余裕」がない。だからこのような態度に出るのだ。

 そもそもオバマのTPPは、公然とは語られなかったが、実際のところ中国封じ込めの手段でもあったのに、トランプは選挙のため、すなわち自身の支持基盤――米中西部の白人層――の票のため、これを破棄した(新自由主義のTPPを導入すれば、トランプの支持基盤である白人中間層がいっそう没落し、格差が拡大する、票田を守るためTPPを破棄した。TPP破棄はトランプの行った数少ない「いいこと」だ。)。

 あるいは、中国、ロシア、英、仏、独とともに2015年まとめ上げた「イラン核合意」を、トランプは一方的に破棄した。シリア戦争で敗れたものの中東で戦争状態を継続したい軍産複合体・ネオコンが主導する米戦略のために、イラン石油輸出を止めシェールオイル輸出拡大のために、破棄したのだ。イラン包囲「有志連合」は、国連安全保障理事会を無視する「有志」の集まりにすぎない。米に従う有志は、EUから離れ孤立する英国と米国の顔色をうかがう安倍の日本だけだ。

 同盟国や周辺の国々は、いちいちこういうことに従っていられない。

 いまは、米国の力は落ちているし、中国、新興国の力は増している。そのような条件のなかで米国が中国と覇権争いを始めたにもかかわらず、同盟国をまとめないで、米国だけの目先の利益実現のため、強引に、より横暴に振る舞うのであれば、同盟国も含め多くの国が、米国から離反するのは当たり前だろう。 

 米国が中国を「封じ込める」には、少なくとも「米国第一主義」を捨てることが条件になるだろう。米一国で中国を封じ込めるなどできない。これが最低限の条件である。だが、そのような判断ができる米政府、支配層ではすでになくなっているし、同盟国を再組織する力量もなくなっている。目先の利害に囚われ行き当たりばったりの行動をとっているのが実態だ。

 もちろん、この条件を満たしたからと言って、中国封じ込めが成功するとは限らない。(決して、封じ込めるべきだと言っているわけではない。米国支配が崩れるのはいいことだ。) すでに米国による世界支配は終わりを告げつつあるということだ。

 トランプ政権には、同盟国との連携やグローバルな組織・制度を活用した「大義」が必要条件だが、そのような方向には逆行している。目先の利害、2020年の大統領選への影響という、極めて自分の都合、目先の取引に終始している。

 米中の覇権争いは、2020年大統領選以後も続く長期戦の様相を呈しており、米国は再び多国間の協定や同盟国との関係緊密化に戦略のカジを切る必要があるが、そのような戦略転換の姿勢はトランプ政権にはないし、ネオコンのボルトン安全保障補佐官やポンぺオ国務長官にもない。 

 このような状況であれば、米中覇権争いは、米国の敗退がより早くなるのではないか?
 各国、あるいは米同盟国が、どの程度離反していくかが、米国の敗退の一つの目安になるだろう。




 
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最近のフィリピン政治情勢について [フィリピンの政治経済状況]

最近のフィリピン政治情勢について


1) ドゥテルテは「したたか」に、権力を掌握した 

 大統領に就任した16年当時、ドゥテルテの政治的基盤はきわめて脆弱だった。彼は力強い政治運動、政治グループの支持で当選したわけではないし、旧来の支配層(「上流階級・上流家族」)出身でもない。メディア向けの巧みなパフォーマンスで人気投票に近い選挙に持ち込み、勝利者となった。政権発足後、既存のフィリピン資本家、旧来の支配層、政府官僚らとどのように折り合いをつけるか、注目したが、この政権掌握過程が極めて「したたか」だったのだ。

 旧来の政治家や支配グループであるマルコス家やアロヨ元大統領グループを、利権を通じ政権に取り込んだ。一方に利権を示し、他方に反対する者には警察による強圧で対応し、最終的に旧来の政治家や利権グループはドゥテルテ支持者となった。議会は旧来の支配者、地方の有力者からなっており、議会におけるドゥテルテ支持が多数派になっている。 

 政権発足前からドゥテルテは、NPA(新人民軍)やMILF(モロイスラム解放戦線)などとの内戦終結・和平協定締結を公約に掲げ、和平を望む国民や左派の一部、労働組合員からも支持され当選した。MILFとは19年2月、イスラム自治政府発足までこぎつけている。

 政権発足時には国民民主戦線(NDF)など左派グループから4人の閣僚を迎え、融和的な姿勢を見せたが、一年後の17年9月以降、四閣僚を徐々に追い出した。ロペス環境天然資源相(環境問題活動家)、タギワロ社会福祉開発相(元フィリピン大学教授、女性解放研究者)、マリアーノ農地改革相(KMP出身)、リサ・マサ国家人貧困撲滅委員会共同代表(ガブリエラ名誉議長)。

 同時にNPAとの和平交渉もドゥテルテ側から頓挫させ、17年12月にはNPAを「テロ組織」に認定し、「敵対」する姿勢へと転換した。18年、労働雇用省のマグルンソッド副長官(KMU元議長)など政権内の民主的な官僚が追い出される過程はさらに加速し、政府内での軍や警察の影響力は大きくなっている。

 選挙の際、和平を掲げ左派や多くの市民から支持を集めたが、権力を掌握して来た今、他の支持基盤を持ったし国民の支持率も高いので、左派は不要になり弾圧に転じたというわけだ。

2) 麻薬摘発から、労働組合、農民運動リーダー殺害へシフト

 政権発足後にはじまった麻薬摘発による「政治的殺害」は、ドゥテルテの政敵をも殺害し、強圧政治によって政権の権力基盤を「安定」させた。前アキノ政権では、「冷遇」されていた国軍や警察は、権力に役立つ姿をアピールし、政権内の地位を確保し強化してきた。

 最近では軍と警察は、労働組合や農民のリーダーらの殺害へシフトしている。19年3月には、ヴィサヤ地方東ネグロス州の3つの町で14人の農民がフィリピン国軍と警察によって殺害。18年秋には警察が教員組合の組合員リストを入手したことが暴露され、労働組合員の掃討作戦の準備ではないかと、批判された。軍と警察は、麻薬摘発による殺害から、NPAや労働組合リーダーの掃討作戦へと大きく踏み出しており、そのことで政権内で存在意義を誇示している。

 人民運動の核であるフィリピン共産党勢力に対する軍・警察による殺害・弾圧を、フィリピン資本家層、旧来の支配層は黙認している。

3) ドゥテルテ政権は誰の政権か? 

 フィリピンはこの10年、年率7%前後の高い経済成長を遂げ、フィリピン資本は膨大な資本蓄積をしており、資本家の層も「厚く」なっている。

 旧来のフィリピン資本と言えば、米国政府や欧米日の外国資本にすり寄って利益を得る買弁資本が典型だったが、蓄積に伴いより自立・独立志向を強めている。アセアン経済共同体(AEC)を発足させ、大国である米国、中国、日本などとは、一国ではなくアセアンとして交渉する方向へと転換した。最近の米中経済摩擦においても、米国の保護主義を批判し、順調な経済発展を破壊しかねないこの地域での紛争や対立には、強い拒否反応を示している。アキノ前政権までは、アメリカの傀儡政権という性格を強く残していたが、ドゥテルテ政権はより自立的な米中等距離外交への転換を、鮮やかに果たした。これまでの政権と異なり、アセアンの一国として、さらには中国との関係改善のうちに「民族的な」経済発展を構想している

 ドゥテルテ政権は誰の政権か? と問われれば、フィリピン資本家層の政権と答えなければならない。

 ドゥテルテはこれまで優遇してきた外国資本の免税廃止や、法人税の減税を打ち出しており、その点でもフィリピン資本家層の政府であるといえる。

 中国との関係を正常化し中国からの投資を歓迎し、「一帯一路構想」への協力を進めるドゥテルテだが、日米は南沙諸島(スプラトリー)領有問題を煽り、米比日共同軍事演習を実施し、他方でフィリピン政府が必要としているインフラ投資に日本が融資する姿勢を見せ、フィリピンをインドを含む中国包囲網の一員に引き込もうとしている。
 ドゥテルテは、両天秤にかけるような態度で「米中等距離外交」を展開しているように見える。

 フィリピン資本家層は、最終的には大統領が変わっても資本家層の支配が揺るがない「民主的代議制」を志向しているが、それをドゥテルテによる強権政治によって実現するという矛盾した過程をたどっている。

4) 人々の側は? 

 人民側の運動は、大衆的な支持や運動を組織することが十分にできていない。経済発展のなかで生まれつつある都市の「中流市民」は、政治的代表を持つに至っていない。このような現象は、新自由主義のもとで人々が階層化され、余裕をなくし孤立する個人が増え、ネットでのつながりは増えながらリアルな人々の関係・連携が希薄になる現代の特徴を示している。世界的に広がっている共通の現象でもある。

 7月の総選挙・上院選挙にみられる通り、地方の有力者や旧来の支配者が当選している。内戦や軍・警察による政治的殺害、強権政治は、人々を孤立させ、政治と政治運動から遠ざけ、その分だけドゥテルテのパフォーマンス政治、劇場型政治へ、「民衆の期待」が吸い取られている、これらの政治状況をなかなか突破できない現状があるように見える。




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人喰いバナナ農園―-スミフル社 [フィリピン労働運動]

人喰いバナナ農園―-スミフル社
スミフル社争議、いまだ解決せず!

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<フィリピン、ミンダナオ、スミフル社バナナ園>

 フィリピン・ミンダナオのコンポステラ渓谷にあるスミフル社が経営するバナナ農園・梱包工場で、18年10月、正規雇用化や団体交渉を求めてストライキに参加した労働組合員749名が解雇されました。

 解雇された労働者のうち300名がマニラに行き、大統領府、労働雇用省、国家労働関係委員会に訴えました。日本でも、スミフル労働者を支援する団体が、今年1月22日にはスミフル社の親会社である住友商事へ抗議行動を行いました。また6月には、スミフル労働者が来日し、749名の
不当解雇と、フィリピン最高裁が復職を命令したのに従わないスミフル社、親会社の住友商事を告発しました。

 抗議行動もあってか、6月18日に、住友商事は、スミフル社の株式を合弁相手にすべて売却する、スミフル社は子会社ではなくなると発表しました。

 フィリピン労働雇用省は、「749名の解雇は不当解雇である、スミフル社による控訴は認めない」とする最終判断を19年5月25日にくだし、スミフル社と解雇された労働者に通達しました。

 しかし、スミフル社は通達後も、解雇した労働者を復職させませんでした。労働雇用省はさらに7月22日付で執行令状に基づく行政指導を行い、組合員の復職(10日以内の復職)を命じました。

 ところが、スミフル社はその行政指導さえも拒み、労働雇用省に「行政指導」の破棄を求める要請書を7月31日付で提出していることが判明(8月6日判明)しました。

 スミフル社はそもそも認められない控訴を根拠に、行政指導の執行拒否と行政指導そのものの破棄を求めています。

 8月6日、500名の解雇された組合員は、国家労働関係委員会の担当者とともにスミフル社復職の意志を伝え出勤しましたが、スミフル社は復職も出勤も認めませんでした。それどころか、警察や警備員を配置し出勤者への監視行動を続ける始末です。

 現在は、スミフル社が7月31日に提出した「労働雇用省による行政指導破棄の要請書」に対する労働雇用省の返答を待っている状況です。

 しかし、スミフル社の要請書の主張は、すでに労働雇用省が再三の検討を行い、不当解雇であると結論を下したものであり、ゆるぎないものです。スミフル社の対応は、不必要に争議を引き延ばし、経済的に優位の立場にある会社側に事態が有利に働くことを期待しているものに他なりません。

 そもそもスミフル社と組合員らが長期にわたる争議に至った背景には、スミフル社がフィリピンの最高裁判決を無視し、組合員の待遇改善と労働組合との団体交渉に応じなかったことに起因しています。

 私たちは、スミフル労働郷労働組合の闘いを支持します。スミフル社がすみやかに行政指導に従い、組合員の復職を実現することを強く求めます。

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<8月6日、最高裁の復職命令を受け、スミフル社に出勤した500名の解雇された労働者>
 ※
スミフル社争議の経過
2008年:スミフル社の前身Fresh Banana Agricultural Corpration(以下:FBAC)における労働慣習が「偽装請負」に当たるとし、労働者らがFBAC社の「請負業者」ではなく、直接雇用と団体交渉権を求めて、組合設立手続きを行うが、会社側は組合設立を拒否した。労働雇用省は組合員らの主張を認めて、組合を正規の組合と認めるが、FBAC社を吸収合併した新法人スミフル・フィリピン社はこれに異議申し立てを行う。
2010年:労働雇用省の仲裁・調停人は組合員らの主張を認め、会社による異議申し立てを棄却した。
2012年:控訴審は組合員の主張を及び労働雇用省の判断を支持し、会社側による控訴を棄却。
2017年6月7日:フィリピン最高裁は控訴審を支持し、会社側による控訴棄却、組合員の再雇用化を義務付ける。
2018年10月:最高裁判決後も一向に組合員らの正規雇用化を認めず、団体交渉にも応じないため、労働組合はストライキを決行。
 会社側が雇った暴力団・チンピラによるスト破り、暴行。会社側はストライキへの参加を理由に組合員ら749名を一斉解雇。
18年11月:スミフル労働組合事務所が何者かに放火される。
2019年1月22日:スミフル親会社である新宿・住友フード会社(Sumitomo Food Corporation)の前で抗議行動。
19年1月30日:労働雇用省の仲裁・調停人が、一斉解雇を不当解雇であるとする報告書を作成
19年3月25日:労働雇用省 国家労働関係委員会は、委員会決議として、1月30日の仲裁・調停人による調査を追認した。
19年5月25日:国家労働関係委員会は、3月25日日付の委員会決議に対する申立てを検討した結果、「組合員らの解雇が不当であったこと、これを控訴不能な最終決定」とする。
19年6月:スミフル労働者2名が来日し、日本でスミフル労働者支援キャンペーン行動を実施。
19年6月18日:住友商事は子会社「スミフル・シンガポール」の保有する株式49%全てを合弁相手に売却すると発表。9月末までの売却完了予定。
19年7月22日:労働雇用省は5月25日判断を受けてもなお当該組合員の復職していないことを受けて再雇用を命じる行政命令を発令。
19年7月31日:スミフル社は本来認められないはずだが、控訴中であると主張し、行政命令に従うことを拒否。
19年8月6日:不当解雇された約600名のが復職を求めて出勤するも、スミフル社は出勤を認めず、警察を含む人員を配置し監視行動を実施。
 組合代表者との会合で、スミフル社が7月31日日付で労働雇用省に要請書を送付していることを組合に開示し、「要請書に対する労働雇用省判断が出るまでの最大15日間のあいだは組合員の復職を認めない、ただし賃金相当の支払いは保障する」と発言。

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スミフル労働組合NAMASUFAの声明 [フィリピン労働運動]

スミフル労働組合NAMASUFAの声明
NAMASUFA-NAFLU-KMU
2019年8月5日
190807 スミフル・バナナ園.jpg
<スミフル・バナナ園>

スミフル闘争の最近の進展について
スミフル労働者は政府に復職命令を実施するよう要請する

 2019年7月23日、国家労働関係委員会(NLRC)は、スミフル労働組合(以下:NAMASUFA)の解雇されたすべてのストライキ労働者に対する「復職命令の執行令状」を発行しました。令状は、すべてのストライキ労働者に、ミンダナオ・コンポステラ渓谷にあるスミフル・フィリピン社が責任をもって、労働者に以前の仕事を割り当てるよう指示しています。

 2018年10月1日、スミフル社が一方的に労働協約締結と正規労働者化の団体交渉を拒否したため、労働組合連合KMUの現地組織であるNAMASUFAの749人の労働者が、ストライキを行ったことを思い起こします。

 私たちのストライキは、18年10月11日、ストライキ破りのため会社が雇った暴力団、フィリピン国家警察、フィリピン国軍などのグループによって無残にも蹴散らされ、数人のストライカーが負傷し、持ち物が略奪されました。そのため、18年11月24日に約300人の組合員がマニラを訪れ、比大統領を含む中央政府機関へ問題を訴えました。

 労働組合NAMASUFAの役員と組合員は、労働雇用省(DOLE)、国家労働関係委員会(NLRC)、国民調停調停委員会などに訴え、解雇が不当であることを再確認させました。このマニラで勝ち得た闘争の進展をもってマニラから戻り、19年8月6日に出勤することを、スミフル経営陣に正式に通知しました。

 国家労働関係委員会による復職執行命令の令状発行は、法的戦いの勝利ですが、スミフル労働者はスミフル社が簡単に命令を実行するとは信じていません。スミフル社には、「労働組合員を正規労働者化せよ!」という最高裁判所の出した合法的な命令でさえ、拒否してきた前歴があります。この最高裁決定は、2017年6月7日、「コンポステラ渓谷のスミフル社梱包工場の220名の労働者を、会社は正規労働者とすること」と宣言しましたが、これまで、スミフル社は無視してきたのです。

 したがって、労働組合NAMASUFAは国家労働関係委員会(NLRC)と労働雇用省(DOLE)に、復職命令の完全な実施を確保し、法律を回避する巨大資本家の不法な気まぐれを許さないことを保証するように強く求めています。

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<スミフル労働組合のポスター>

*********

 スミフル社が国家労働関係委員会から執行令状を受け取ってからわずか3日後、NAMASUFAの別の組合員が、コンポステラ渓谷、シオコンのバランガイ(村)で、軍の疑惑のあるエージェントによって嫌がらせを受けました。事件は、19年8月2日午後5時30分ごろに発生しました。2人の正体不明の男性が、組合員のアントニオ・アピラー・ジュニア(Antonio Apilar Jr.)の家に行き、彼を探しました。彼らはアピラーを見つけられず、空中で3発銃を発射して、その場を去りました。

 アピラーは、この事件をすぐに組合役員に報告しました。早くも19年7月15日には、正体不明の二人がアピラーの家にきて彼を探しましたが、アピラーは会わず、兄弟を正体不明の人に会わせ、後者は連絡先番号を残しました。

 アピラーは、電話番号を残した人物に連絡を取り、何が問題なのか尋ねました。その人物は、復職命令が既に出されているため、彼らはアピラーと話がしたいと答えました。彼は最初に「彼の名前にまつわる問題」をクリアしなければなりません、なぜなら彼は「NPAの支持者」として「リストアップ」され、軍や警察から脅しを受けているのです。

 もはやこの種の嫌がらせを知らない人はいません。上記のパターンは、フィリピン軍の手なれた仕事であり、過去2年間、コンポステーラ渓谷およびその他の地域で、中傷宣伝と「アカ」というレッテル貼りを行ってきたのです。

 われわれはこのような脅しを何度も受けてきたし、いまも受けているのです。

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イラン戦争を回避せよ! [世界の動き]

イラン戦争を回避せよ!
「有志連合」に参加するな!
               

1) ついに戦争の瀬戸際か!

 トランプ米大統領が6月20日、イランへの軍事攻撃を承認した後、攻撃中止命令を出したと米ニューヨーク・タイムズ紙が報じ、CNN他、複数のメディアも伝えた。

 米政府高官がニューヨーク・タイムズに明らかにしたところによると、米政権はイランのレーダーシステムやミサイル関連施設を標的に、6月21日未明の限定攻撃を計画し、攻撃実施の初期段階として艦船が配備され、航空機は飛行中だったが、直前の20日夜になってトランプ大統領から軍当局者に、当面攻撃を中止するとの命令があったという。

 米AP通信が米政府職員の話として、国防総省が爆撃を勧め、トランプは政府や議会の指導者らと20日協議したところ、マイク・ポンペオ国務長官とジョン・ボルトン大統領補佐官が強硬策を主張したものの、議会指導者らが慎重な対応を求め爆撃の中止を決めたという。(以上、IWJ)

 この爆撃中止命令に、ポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官は強固に反対し、今なおイラン戦争を主張している。

 アメリカ政府内には、イラン攻撃、あるいは戦争に対する「若干の路線の違い」らしきものが存在する。トランプは、取引のための脅し、ブラフとしてイラン攻撃、戦争を煽ってきた。取引をうまくやり、20年大統領選挙に持ち込みたい。他方、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官らネオコンは、実際のイラン攻撃から戦争にまで踏み込もうとしている。

2)緊張がつづく、有志連合とペルシャ湾封鎖で危機を煽るアメリカ

 イギリスが公海上の海賊行為 イラン潰しを狙うアメリカに加担
 ・イギリス―― アメリカの一匹目の犬、積極的に噛みつく役割
 
 7月4日早朝暗闇に紛れて、ジブラルタル海峡を横断していた推定1億2000万ドルの価値の原油を積んだ船グレース1に、多数のイギリス特殊部隊員が乗り込み拿捕した。イギリス政府は、「石油の向け先がシリアなので、EU制裁を実施するためタンカーを拿捕した」と主張しているが、イギリスの言い分は到底信じがたい。イランは、イギリスの動きを「海賊行為」と非難して猛然と反撃した。

 この拿捕は、正体不明者によるペルシャ湾近くの石油タンカー攻撃事件に続くもの、すなわちイラン戦争を開始する口実つくりだ。ボルトンや他のアメリカ当局者等は証拠もなしに、タンカー攻撃はイランのせいだと非難し、他方、イランは否定している。そもそも制裁されているイランにとって貴重な収入源である石油輸出を止めかねない、タンカー攻撃をやるはずはない。

 イギリス政府は、自分の利害から、ワシントンに忠実な戦争挑発共犯の役割を演じている。EU離脱も控えている「落日の帝国」イギリスは、他のヨーロッパ諸国とともにイランと核合意したはずなのに、このようなあくどいことをやる。

 「イランの命綱である石油輸出をゼロに封じ込める」と、トランプとボルトンらが繰り返し公言している。この容赦ない犯罪的なイラン挑発が、どうして戦争を招かないのか不思議なくらいだ。

 トランプ政権は、戦争開始の機会を一旦やり過ごした。しかし、イランへの攻撃をあきらめておらず、イラン戦争を実行する「有志連合」を呼びかけている。

 米軍軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は7月8日、「有志連合」の方針を示し、説明会を設け参加国を募り70ヵ国が参加した。「有志連合」とは、国連安保理決議に基づく行動ではないことを意味する。国連安保理がすべて正しいわけではないが、米政府は国連の理念や決まり事をも無視するあくどい戦争挑発をしているということだ。「有志連合」を呼びかけたのは、米国が単独で戦争を仕掛けたら世界で孤立しかねない、財政負担も大変だ、「有志連合」への集まり具合で戦争に突入するかどうかの判断基準とする、そのような議論がアメリカ政府内であったということだろう。

 「有志連合」に容易に参加しそうなのは、英国と日本だ。多くの国が「有志連合」に加われば、米国はイランとの戦争に踏み切る可能性がより高くなる。

 戦争を求めているのはアメリカであり、イランではない。戦争へ踏み切る口実を求めているのもアメリカである。ペルシャ湾での最近の一連の事件は、アメリカが意図的に引き起こしていると考えるのが自然だ。現在は、フェイクニュースから容易に戦争と破滅へと、進みかねない極めて危険な事態にある。

 かつてジョージ・W・ブッシュディック・チェイニーが嘘をついて、アメリカと諸国をイラク戦争に追いやった前歴がある。これと全く同様に「チーム・トランプ」がそうする可能性は高いままだ。ネオコンは、「嘘の口実でイラク潰し」を成し遂げた「成功体験」を忘れることができない。うまくつくられた嘘に基づいて、アメリカがイランとの戦争を始めた証拠が、将来見つかるかもしれない。もっとも、イラク戦争の結末を知っているわれわれは、ことが終わったあとに見つかっても元に戻せないことを知っている。

3)マッチポンプ、アメリカ帝国

 トランプ政権が、核合意から一方的に離脱し、中東に軍事的緊張を引き起こした。にもかかわらず、トランプはイランを非難し続けている。
 7月7日で、60日間の警告期間は終わり、イランは既に次第に核合意から次第に離脱する準備に入り、
濃縮ウランの生産量を増やしている。アメリカが核合意を破棄したのであり、イランの措置は何ら不法なことではない。ましてやアメリカ政府から非難されることではない。

 アメリカ政府の狙いは以下の通りだ。

 ・イランで戦争状態をつくりだし、アメリカ軍による中東支配を実現する。戦争状態、緊張状態を継続することは、米軍の影響力を大きくすることであり、米の軍産複合体にとって都合のいい世界となる。周辺諸国に米国製武器をさらに買わせることができる。

 ・石油を通じて世界を支配する―-米国の力で、イランの石油を売らせない、輸出させないようにして、石油を通じて世界を支配する。とくに中東から石油を購入している中国、インド、日本などを米国に従わせる。イラク戦争によって、日本を従わせたように。アメリカはシェールオイルを増産しており、イランと中東石油が途絶えても影響は小さい。

 ・中東を米国―イスラエル、サウジによって支配する新しい中東、新しい支配秩序をつくる。

4)イランの対応、ロシアと中国の対応 

 イランは、屈服する姿勢を見せていない。トランプが大統領選挙のために無法な脅しをしているのであり、トランプが容易に引き下がらないことも知っている。それゆえ交渉の相手とさえ認めていない。

 米国に対抗するのは、イラン―ロシア―中国―インドのラインだ。
 アメリカの対イラン戦争によって、ロシアと中国の権益は脅かされ、手に負えない状況になりかねない。ロシアはシリア戦争でアメリカを退けることの尽力したが、イランを含む中東でのより大きな戦争に巻き込まれかねない。中国はイランの石油を大量に買っている。「米国の制裁にも加わらない、買い続ける」とすでに表明している。

 インドもイラン石油の輸入者だ。インドをロシア―中国側に誘い込むことが一つの外交的対抗策であり、一つの焦点でもある。ヒンディー主義者で反動的なモディ政権ではあるが、自国の利害からロシアとインドは良好な関係にあり、トランプ政権の反対にもかかわらず、ロシアからS-400を購入する姿勢を見せている。 

 事態は流動的だが、もう一つのカギは、EUである
 EUの誰も、トランプのイラン戦争には加わりたくない、しかし米国から制裁されたくないという「ジレンマ」にいる。大したジレンマではない、そこに大義はない、利益計算しかない。極めて頼りない「悩み」に囚われている。アメリカを孤立させ、単独行動主義のいじめっ子にしてしまわなければ、EUに未来はないにもかかわらず、だ。

 これまでのところ核合意に参加したヨーロッパ諸国が、アメリカの「核合意破棄から戦争政策」へ正面から立ち向かい押しとどめようとする強い姿勢を、明確には見せて来なかった。

 7月31日ロイターは、独マース外相が、米のホルムズ海峡有志連合に不参加を表明したと伝えた。ドイツは「軍事解決はない、外交的な手法でイランとの緊張緩和を目指している」とし、「米国主導の有志連合への参加によって、それが困難になる可能性がある」と述べた。

 EUは今のところ、「イラン核合意」を遵守する立場であり、「有志連合」への参加を表明していない。ドイツの不参加表明が、EU不参加への確実な流れとなれば、トランプの「イラン封じ込め」は失敗に終わる可能性が高くなる。

 ポンペオ米国務長官は7月29日、ワシントン市内での経済団体の会合で、「有志連合」の結成に、「望んでいたよりも時間がかかるだろう」と述べ、有志連合による圧力でイランを押し込めるという米政府のプランに各国が賛同していない現状を認めた。

5)周辺諸国 

 中東地域のアメリカとの同盟諸国間の反応にはいくらかの差異がある。

 サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は「イランへ徹底した懲罰」を提唱し、中東の支配者になりたがっている。イスラエルはアメリカがイランを攻撃することを望んでいる。イスラエルは、米国―サウジと一緒になった新しい中東支配を空想しており、その邪魔者であるシリア、イランをアメリカの戦争によって破滅させたい。イスラエル政府は、より冒険的で破滅的な、戦争による地域覇権を奪取する夢想的政策に、いっそう傾斜している。

 アメリカによるイラン戦争をはっきりと支持し歓迎しているのは、サウジアラビア、UAEとイスラエルの支配者だ。いずれもイランに対し、偏執的な敵意を持っている。

 サウジの「イラン懲罰」を、中東のアメリカ同盟諸国は受け入れていない。「中東諸国は、イランとの軍事衝突で、自らが前線となる可能性が高く、イランとの二国関係を追求しているクウェートとオマーンは、イランに一方的に圧力をかけようとするサウジアラビアの試みを、長い間、不快に思っている。」(ワシントンポスト)

 世界最大の天然ガス輸出国カタールは、サウジアラビアとUAEによる2年間にわたる貿易と政治的つながりの封鎖で、痛い目にあわされてきた。カタールはアメリカ同盟国であり、サウジアラビアと提携してきたスンニ派アラブの隣国だが、北のシーア派イランとも地域の親密な貿易と歴史的なつながりを何世紀も共有している。反イラン枢軸で地域を分極化しようとする、アメリカとサウジアラビア、UAEによるたくらみに賛同などできない。

 クウェートも同じ境遇にいる。戦争になれば最前線となるだろうし、アメリカから膨大な戦費をむしり取られかねない。

 シリアとトルコは、断固としてイラン戦争に反対している。トルコ・エルドアンは、アメリカの同盟国でありながらから、受けたひどい扱い(=米によるクーデターで倒されかねなかった)に腹を据えかねており、ロシア―イランとの関係を強くしている。アメリカからの恫喝や制裁にもかかわらず、ロシアから防衛ミサイルS-400を導入した。米国製の武器(パトリオット)を買っても、値段が高いばかりかその使用権は米軍・NATOが握っていることを思い知ったのだ。
 シリアも、ロシアーイラン―トルコとともに、シリア戦争を最終的に終わらせようとしており、イラン戦争など望んでいない。

 大惨事の戦争が勃発すれば、中東地域はワシントンによる石油業界のグローバル支配のもとに置かれかねず、いくら同盟国だからとはいえ、中東諸国はアメリカの戦争に賛同するわけにはいかない。

6)アメリカの言いなり、日本政府
 ・日本― 二匹目のアメリカの犬、従順なだけの犬。請求書が回ってくる。

 トランプ政権は日本政府へ、「有志連合」に加わり、イラン戦争のためにペルシャ湾への出動を要請している。

 安倍政権の外交政策は、「強いアメリカ政府に従う、そのほうが利益になる」という卑屈な方針で実績を重ねており、その論理からすれば、これを拒否する理屈は持っていない。

 安倍首相はトランプ大統領の言うことは何でも聞く。F35戦闘機を買え!イージスアショアを買え!と言われ買うことにした。7月21,22日、ボルトン安全保障補佐官が来日した際に、「米軍駐留費の日本負担を5倍にせよ!」と恫喝のような要請をした。これもまともに断ることなどできないだろう。

 F35もイージスアショアも、日本の防衛にどう貢献するか、怪しい。むしろ危険を招く。しかし、安倍政権にとって、そんなことはどうでもいい。

 ただ、トランプから、「自衛隊を海外に出して一緒に戦闘してくれ」と言われても、法整備において難しいところがまだまだあるし、憲法9条もある。安保法制をいじって自衛隊を海外に送ったとしても、実際に自衛隊を戦わせるには、まだ様々な準備が必要だ。だから憲法に戦闘を行える条項を入れる、例えば「世界の平和維持のため、国際貢献を行う武力を持つ」などの改憲が必要だ。「有志連合」への参加というこの機会をとらえ、改憲過程を早めかねない。

 国連憲章は本来相手が武力攻撃してきた時のみ、武力行使を認めている。今回の「有志連合」もあくまで有志であって、国連安保理決議に基づく、行動ではない。
 国連安保理を無視して、それでもアメリカに迎合し戦争をできる態勢、憲法や法整備をしようとするのだから、容易ではない。

7)ホルムズ海峡での緊張を低下させるのは極めて簡単だ

 現在の危機の原因はきわめて明確だ。トランプ政権が一方的に核合意を破棄したからだし、勝手に対イラン経済制裁を強めたからだ。

 したがって、解決策は簡単だし、明確だ。米国が、イランと6カ国(米・英・仏・独・ロ・中)が2015年7月に結び、国連の安全保障理事会でも決議された「包括的共同行動計画(JCPOA)」を順守すればいいだけだ。
 ロシア、中国、ドイツは、イラン核合意を尊重せよと強く主張している。英・仏もイラン核合意を維持する立場だ。

 ホルムズ海峡での緊張を鎮め、解決する方法は、トランプの「有志連合」へ参加せずトランプを孤立させ、トランプのイランに対する攻撃をあきらめさせることだ。トランプが18年に一方的に破棄した国際的核合意=イラン核合意を尊重し、制裁と地域の軍艦を撤去し、根本的変化のために、国際法と外交と平和的交渉を尊重することだ。
 
 この状態を、より確実なものにすることだ。(8月7日記)









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