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中国の世紀 [世界の動き]

中国の世紀

1) 中国の世紀 

 世界は、アメリカ―中国貿易戦争、対ロシア経済制裁、米によるベネズエラのクーデター失敗、米によるイラン戦争の危機など、おもにアメリカが引き起こす危機的な状況がある一方で、中国経済の一層の質的な発展拡大は、新たな様相を見せ始めている。

 19年4月末、北京で第2回「一帯一路フォーラム」(The Belt and Road Initiative: BRI)が開催された。40人の政府首脳と90の国際組織代表者を含め、150の国から代表者5,000人が参加した。中欧と東欧の16ヵ国に加わえ、G7の一国イタリアが覚書に署名した。スイスとルクセンブルグも同様に、「一帯一路」に参加する意志を示した。

 6月5日、モスクワでプーチン-習近平が会談し、二国間関係から、ユーラシア統合プロセスを、もう一つ上のレベルに格上げした。一帯一路構想(=新シルクロード)とユーラシア経済連合、特に中央アジアの内部や周囲との革新的相互連絡から、朝鮮半島の共同戦略に至るまで、全てを論じた。

 アメリカ抜きのこのような議題を論じる場が生まれていることに、世界の大きな変化を見い出すことができる。世界覇権の構造転換が進んでいる。

 「一帯一路構想」は、2013年にアスタナとジャカルタで習近平が初めて演説で触れ、14年11月10日に北京で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議で、中国政府が経済圏構想として提唱した。その時以来わずか5年で、150以上の国の注目と支持を獲得した。中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」(「一帯」)と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(「一路」)の二つの地域で、インフラストラクチャー整備、史上最大規模のインフラ投資計画、そのうえでの貿易促進、資金の往来を促進する一大経済圏構想である。

 大阪でのG-20サミットでも、主役は中国―ロシア―インドだった。
 増大した中国生産力の水準は、すでに中国国内市場の需要をはるかに上回る規模に達しており、さらなる中国経済の発展にとって、国境を越えた一大経済圏の形成は必要であり、必然でもある。東南アジアからシルクロード圏に至る新たな中国経済圏、緩やかな多国的な協力関係の形成を志向している。

 中国は、2017年、一帯一路構想の基本原則として平和と協力、開放性と包括性、受容と理解、そして相互利益を提起しており、アメリカやIMFによる略奪的なグローバル経済秩序に対するありうべき対案として、各国に受け入れられつつある。

2) 日本の没落 

 そこには、世界第2位の経済力を獲得しながら、次の発展段階=「東アジア経済圏構想」を構想も実現もできず、その結果、土地価格高騰とバブル経済、そしてその破綻という結末に至り、以来30年間、経済停滞が続く日本経済の姿に対する綿密な研究、批判と反省があり、その反省と批判から出てきた構想であるということもできる。

 遅きに失した感があったが、2009年9月、鳩山政権が発足し「東アジア共同体」を提唱した。日本・中国・韓国を中心とした東アジア経済圏を形成し、集団安全保障体制を構築し、通貨の統一も構想した。日本の資本家層、支配層にとって、確かにこの方向にしか日本の次の発展はなかった。しかし、日本政府や日本の支配的政治勢力は、外交方針として対米・対欧関係を重視することしか頭になく、アジアに軸足を置く事はなかった。東アジア地域経済構想の必要性を理解しなかったし、このために必要な歴史問題に解決にも熱心でなかった。鳩山政権の「東アジア地域経済構想」を、米国の影響力を徐々に減らしていくだと受け止めた米国支配層やこれに呼応する日本の政治勢力は、つぶすことに躍起になった。実際のところ、日本経済の次の発展にとって必要なものだった構想は、既存の利害に拘泥する政治勢力によってつぶされた。今振り返ってみれば、あれが転換する最後の機会だった。安倍政権は、いまだに日米にインドを巻き込んだ中国包囲網刑死絵に躍起になっている。

 その結果、日本のGDPはこの30年間、500兆円のままであるにもかかわらず、中国のGDPは1500兆円近くとなり日本の3倍となっている。2~3年以内にはインドのGDPは日本を越える。

3) 「一帯一路」はIMFと同じか?

 欧米日政府とメディアによる「一帯一路構想」に対して浴びせられる主な批判の一つが、「知的財産の窃盗」だが、この幾分か誇張された主張を中国は認め、習主席は中国は知的財産を共有すると誓約した。中国は、すでにジュネーブの世界知的所有権機関に登録される新特許で、大差で世界のトップの地位にある。

 欧米日による「一帯一路構想」に対するもう一つの批判は、参加している比較的貧しい低開発国にとって「負債の罠」を作りだすということだ。この批判を煽りながらも、IMFと世界銀行や、特に主要大国アメリカが、債務国を貧しくするため金融操作を行ってきた、遥かに酷い実績があることを認めていない。「鏡に映る自分の姿」から中国を批判している。

 IMFと世界銀行救済措置の「代償」は、債務国経済の「構造調整」と呼ぶ。最近では、ギリシャを見ればいい。IMFがつける注文は、貧しい国が医療や教育やインフラに対する支出を減らし、国家の役割を最小にし、国内産業を外資も含め民間に売却、民営化し、労働者保護の法規制を取り払って賃金と労働条件を低下させ(実際には、「労働市場」を柔軟にするという言葉が使われる)、国家資源に対するの海外からの投資や所有に対する規制を撤廃したり減らすことである。そうした国々は、このような政策によって貧しくされるだけではなく、国民は国家主権と自身の経済政策を策定し実行する権限を失う。IMFと世界銀行の主要受益者は、巨大多国籍企業・金融資本となる。

 だから、様々な国々が「一帯一路構想」に殺到したのも、ほとんど驚くことではない。アメリカなどの多国籍企業・金融資本によるグローバル経済支配がいかに苛烈であるかを、裏側から証明している。IMFと世界銀行と付き合い支配された悲惨な経験が、今、152もの国が「一帯一路構想」に参加している主な理由なのだ。IMFや世界銀行が提示するプラン、金融秩序より、「はるかにマシ」なのだ。
 
 実際のところ、ロジウム・グループが「負債の罠という疑問」と呼ぶ分析を発表した。中国が対外債務再交渉に携わっていた24カ国40件の調査である。
 その調査結果によれば、「財産差し押さえ」はまれで、再交渉後、大部分のケースで借り手に好都合な結果だった。40件中18件で「負債は帳消し」とされ、11件で「債務は延期」された。4件が「借り換え」られ、4件で「条件が再交渉」された。

 一例がマレーシアである。2018年の首相選挙前に、当時候補者だったマハティールは、マレーシア東海岸鉄道建設プロジェクトはマレーシア政府の負債が大きすぎると批判した。マハティールが当選後、プロジェクトは保留にされたが、中国は条件再交渉に同意した。わずか8カ月後の2019年4月に新合意がまとまり、建設が再開された。
 マハティールは「一帯一路構想」フォーラムに出席し、構想に対する支持を誓った。「私は完全に一帯一路を支持している。私の国マレーシアがプロジェクトから利益を得るだろうと私は確信している」と述べている。

 
4) 「一帯一路構想」へ152ヵ国が参加した理由

 「一帯一路構想」フォーラムでプーチンは、「断片化された世界の政治的、経済的、技術的な状態や、国連安全保障理事会を回避して、違法な一方的制裁や、より酷い場合には貿易戦争を押しつける保護貿易主義のリスクに対処する効果的な方法を我々が見出すことは重要だ。」と述べ、アメリカによる世界支配の現状を批判した。

 世界の全ての地域から、152の国が「一帯一路構想」に参加したという事実は、大多数の世界の国が、アメリカが自身の覇権を維持するため駆使する、「いじめ、金融破壊、侵略と占領」よりも、「一帯一路構想」を、より良い選択、よりマシな選択肢として見ている証拠だ。

 アメリカが画策したクーデター未遂後にベネズエラに対し更に軍事的恫喝をし、ペルシャ湾への空母機動艦隊を派遣してイランに追加制裁を課し、イラン政府に「メッセージを送り」恫喝した。貿易赤字を理由に、中国からの輸入に何千億ドルもの追加関税から、いつの間にか5G などの最先端技術での中国メーカー潰しに転じている。唯一の超大国という地位を利用し、好き勝手なことを行っている。

 これら全ての行動は、国際法、国連憲章と既存の多国間貿易協定に違反している。超大国なので誰からも罰せられない。「一帯一路」への参加国が広がっている要因は、アメリカによる自分勝手な世界支配への批判であり、アメリカ支配秩序から脱却したいという志向があるからだ。





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ネグロスで農民14名が殺害される [フィリピンの政治経済状況]

ネグロスで農民14名が殺害される
ーーー軍と警察によるNPA掃討作戦ーーー



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<3月26日、キャンプ・クラメ前での抗議行動 The Japan Times>


1)ネグロスで14名が殺害される

 3月23日(土)、ヴィサヤ地方東ネグロス州の3つの町で14人の農民がフィリピン国軍と警察によって殺害された。フィリピン国家警察は、「14人の共産主義反政府勢力が発砲したので殺害した」と述べたが、人権団体は殺された男たちはみな農民であり、最近の超法規的殺害の犠牲者であると主張している。

 警察と国軍は3月30日、共産党の軍事部門、新人民軍(NPA)に対する大規模捜査を展開、「NPA側が発砲したので14人を殺害、15人を逮捕した」と発表。遺族や人権団体などから「殺されたのは皆農民であり、銃など持っていなかった。農民の虐殺だ」との批判が噴出し、双方の主張は食い違う。

 アルバヤルデ国家警察長官は4月2日、東ネグロス州警察本部のタカカ本部長やカンラオン署長など計4人を、調査のため一時的に解任すると発表した。長官は1日には「捜査令状に基づく合法的な捜査」と述べ、虐殺批判に反論しており、大統領府もこれを追認している。2日インクワイアラー紙によると、東ネグロス州のデガモ知事が「なぜこれほど死者が出たのか」と述べ、警察に納得のいく説明を求めたと報じている。フィリピン人権委員会(CHR)も独自の調査を行うよう地域支部に指示した。

 農業組合連合(UMA)によると、殺害されたジプニー運行者・運転手組合支部議長は、令状を読んでいる最中に射殺された。捜査員は殺害後、左派系政党のアナックパウィスやバヤンムナの選挙資料を持ち去った。(アナックパウィスやバヤンムナとは、選挙に出るための合法的な「パーティリスト」政党であり、フィリピン共産党の支持者などが、「パーティリスト」から選挙に出ている。)

 またアナックパウィスの女性役員は、銃器違法所持の令状を突きつけられ、夫とともに外に連れ出され、「声を立てたら殺す」と脅されたという。警察は女性を銃器不法所持容疑で逮捕したが、人権団体によると、女性は銃器所持の覚えがなく「恐怖で黙る以外なすすべがなかった」と話したという。(以上、まにら新聞、The Japan timesによる)



4月3日国家警察前での抗議行動 まにら新聞 - コピー (500x333).jpg
<4月2日、マニラ首都圏ケソン市 国家警察前での抗議行動 まにら新聞>


2)軍と警察はNPA掃討作戦を行っている

 この事件で明らかなことは、軍と警察がNPAを狙った掃討作戦を行っているということだ。これまで麻薬摘発を理由に、軍や警察は5,000人を超える殺害を繰り返してきた。軍と警察は「すべて麻薬捜査中に反撃したのでやむなく射殺した」と説明してきた。(フィリピンでは死刑は廃止されており、裁判で死刑になることはない)。麻薬密売を理由にドゥテルテ大統領を批判する政治家をも殺害し、軍や警察は強圧政治を担うことでドゥテルテ政権を支えてきた。そのことで政権内での地位を確保しかつ強化してきたのである。

 麻薬摘発時の殺害だけでなく、最近は労働組合のリーダーや農民のリーダーらが、オートバイに乗った二人組に銃撃され殺される事件が増えてきた。軍の仕業だろうと言われているが摘発されていない。18年秋には警察が教員組合の組合員リストを入手したことが暴露され、労働組合員の掃討作戦の準備ではないかと、大きく批判された。

 今回の事件は、軍と警察はこれまでの麻薬摘発による殺害から、NPAや労働組合リーダーの掃討作戦へと大きく踏み出しており、さらに最近は一層エスカレートし、軍と警察による暴走の様相を見せている。

国軍と警察による捜査で散らかった部屋 ネグロス・カンラオン市 NFSW提供 - コピー (500x281).jpg
<ネグロス・カンラオン市 国軍と警察の捜索で散らかった部屋>



3)抗議が広がっている

 3月26日(火)、ネグロスの14名の農民殺害に抗議して、マニラ北東部のケソン郊外のキャンプ・クラメ前で市民団体、人権団体、労働組合などが、抗議行動を行った。4月2日には労働組合連合KMUなど左派系の労働組合、市民団体は、首都圏ケソン市の国家警察本部前で、東ネグロス州の14人殺害事件に抗議する集会を開いた。(フィリピンでは警察官は市や州に雇われているが、これとは別に国家警察があり、国家警察が麻薬摘発や左派の労働組合、NPA襲撃を主導している。)

4)フィリピン最高裁、超法規的殺害の可能性を指摘

 ドゥテルテ政権発足以来、5,000人以上の麻薬容疑者が警察との銃撃戦で死亡したとされ、その人数のあまりの多さにフィリピン国内の人権団体ばかりでなく、欧米諸国の人権団体からもドゥテルテ政権による裁判の手続きを経ない「超法規的殺人」であると、抗議が続いている。ドゥテルテ大統領は政権による違法殺害の命令を否定しているものの、麻薬容疑者を「死」で脅しているのは事実だ。

 この何千人もの殺害により、集団殺人訴状が国際刑事裁判所に提出されたが、ドゥテルテ政権は国際法廷からの撤退をすでに表明した。

 4月2日フィリピン最高裁は、2つの人権団体、Free Legal Assistance Groupと国際法センター(International Law Center)が提訴した超法規的殺害の申し立てに対し、「精査すべき可能性がある」という判決をくだし、大統領の反麻薬取締りで数千人の容疑者の殺害に関する警察文書の発表を命じた。最高裁の広報官ブライアン・キース・ホサカ(Brian Keith Hosaka)は、「裁判所が政府の弁護士代表に、警察の報告を2つの人権団体に提供するように命じた」と述べた。北部バギオ市で開かれている15人の裁判官による司法会議では、ドゥテルテ大統領の反麻薬キャンペーンを違憲と宣言する別の申立てを審議中である。

 ホセ・カリダ(Jose Calida)司法長官はかつて、殺害に係る警察文書を裁判所に提出することには同意したものの、上記2つの人権団体の提出要求を却下していた。今回の判決はその決定を覆すものである。

 これら文書が開示されれば、ドゥテルテが大統領に就任した2016年半ば以来、開始された警察主導の取り締まりと発生した大量の容疑者殺害を精査するのに役立つはずだ。さらにはドゥテルテ政権の強圧政治をやめさせることにつながる。

ケソンの人権委員会前で14名の殺害に抗議 UMA提供 - コピー (500x375) (500x375).jpg
<ケソン市人権委員会前で、14名殺害に抗議、追悼会>



5)ドゥテルテ政権の「超法規殺害」は麻薬摘発から、
労働組合、農民運動にシフトしている


 ドゥテルテ政権は公約である麻薬摘発を軍や警察に実行させたが、5,000人以上のきわめて多くの容疑者を摘発過程で殺害した。警察や軍はいつも「抵抗したり発砲したのでやむなく殺害した」と述べ、少しも罰せられていない。警察や軍に全能の権限を与えているようなものであって、裁判を経ない政権による政治的な「超法規的殺害」であると国内外の人権団体や市民、労働組合などから、激しい批判が続いている。

 16年半ばの政権発足後にはじまった「政治的殺害」は、ドゥテルテ大統領の政敵をも殺害し、強圧政治によってドゥテルテ政権の権力基盤を「安定」させた。そのことで国軍や警察は、ドゥテルテ政権内の地位を確保し強化してきたのである。前アキノ政権では、国軍や警察は権力から「冷遇」されていた面があった。ドゥテルテはこれを利用していると言っていい。

 さらに政権内での地位を強化するために、国軍と警察は、麻薬摘発から、ターゲットを労働組合や農民運動、NPAなどの左派グループの弾圧、掃討作戦へとシフトしつつあり、その行動は最近エスカレートしている。

 当初、ドゥテルテ大統領は、政権発足前からNPAやMILF(モロイスラム解放戦線)などに内戦終結・和平協定締結を公約の一つに掲げ、左派の一部や労働組合員からも支持されて当選した。MILFとは和平協定から19年2月にはイスラム自治政府発足までこぎつけている。

 一方、政権発足時には国民民主戦線(NDF)など左派グループから4人の閣僚を迎え、融和的な姿勢を見
せたが、政権発足から一年後の17年9月、閣僚任命委員会はそのうち3名を承認せず、結局4名は政権から追い出されていった。ロペス前環境天然資源相(環境問題活動家)、タギワロ社会福祉開発相(元フィリピン大学教授、女性解放研究者)、マリアーノ農地改革相(KMP出身)、リサ・マサ国家人貧困撲滅委員会共同代表(ガブリエラ名誉議長)。同時にNPAとの和平交渉もドゥテルテ側から頓挫させ、17年12月にはNPAを「テロ組織」に認定し、「敵対」する姿勢へと転換した。18年、労働雇用省のマグルンソッド副長官(KMU元議長)など政権内の民主的な官僚が追い出される過程はさらに加速し、政府内への軍や警察の影響力は大きくなっている。

6)ドゥテルテ政権の「変質」の背景

 政権発足からの経過を振り返ってみれば、ドゥテルテは政権掌握においてきわめて「したたか」だった。ドゥテルテが大統領就任した時の政治的基盤はきわめて脆弱だった。彼は力強い政治運動、政治グループの支持で当選したわけではないし、旧来の支配層(「上流階級・上流家族」)出身でもない。巧みなパフォーマンスで人気投票に近い選挙に持ち込み勝利者となった。選出後、権益を享受している既存のフィリピン資本家、旧来の支配層、政府官僚らとどのように折り合いをつけるかが大きな問題だった。この政権掌握過程が極めて「したたか」だったのだ。

 政権発足後は軍や警察を使って麻薬摘発の名のもとに政敵を排除し、徐々に強権政治で政権を掌握してきた。

 他方、旧来の政治家や支配グループであるマルコス家やアロヨ元大統領グループは利権から現政権にすり寄り、ドゥテルテも政権に加えることで、その支配を強化した。フェルデナンド・マルコスの息子であるボンボン・マルコスを副大統領にしているのはその意味である。地方ではこれら旧来の支配者が地域を支配している場合が多い。選挙時にドゥテルテが「反アキノ」(前大統領ニノイ・アキノ)を掲げていたのは、これら旧来の支配グループ、利権グループの支持を当て込んでいたからである。下院議員、上院議員、州知事などの多くは、旧来の支配者、利権グループから出ており、その結果今では、議会におけるドゥテルテ支持が多数派になっているのである。

 ただし、ドゥテルテ政権は誰の政権か?と問われれば、フィリピン資本家層の政権と答えるべきである。 ドゥテルテ政権は、確かにこれまでの政権と異なり、米国支配に従わず、東南アジアで影響力を増す中国との関係改善に舵を切った。背景には、フィリピン資本家層、支配層の志向がある。経済界はアセアンの一国として、さらには中国との関係改善のうちに「民族的な」経済発展を構想しているからである。フィリピンだけではない、アセアン諸国に共通する志向だ。経済政策はドミンゲス財務相とその配下のスタッフにほぼ任せている。彼らはアキノ政権からその地位にあり、ドゥテルテはこれをそのまま引き継いでいる。

 フィリピンはこの10年、7%前後の高い経済成長を遂げてきており、資本家層は膨大な資本蓄積をしてきたとともに、資本家の層も「厚く」なっている。この面ではフィリピン社会は、例えば20~30年前に比べ、大きく様変わりしたと言える。

 旧来のフィリピン資本と言えば、米国政府にすり寄ったり進出してくる外国資本にしたがって利益を得ようとする買弁資本がその典型的なタイプであったが、資本蓄積に伴いより自立・独立志向が高まっている。特にアセアン経済共同体(AEC)が発足し、大国である米国、中国、日本などとの経済交渉においては、フィリピン一国で交渉するのではなくアセアンとして交渉する方向へと転換している。最近の米中経済摩擦においては、米中との等距離外交を志向しており、順調な経済発展を破壊しかねないこの地域での紛争や対立には強い反対の姿勢、拒否反応を示している。アキノ前政権までは、アメリカの傀儡政権の性格を強く残していたが、ドゥテルテ政権は米中等距離外交への転換を果たした。その意味では、ドゥテルテはフィリピン資本家層の意向にしたがって動いているし、資本家層も功績をあげたドゥテルテをこれまでのところ支持している。法人税の引き下げ、外国資本の輸出税免除の廃止などに見られる通り、フィリピンの資本家層の利益に沿った経済政策を採用しており、この点でもフィリピン経済界はドゥテルテを支持しているのは明らかだ。

 今のところ、資本家層や旧来の支配層は、国軍や警察の横暴に目をつむっているようであるが、しかし、国軍や警察のあまりに無法な振る舞いがさらに幅を利かすようになれば、政権内でもその影響力は強まっていくことを意味する。その際には、資本家層との利益ともぶつかる場合も出てくるであろうし、支配層内の争いも生まれてきかねない。

 いずれにせよ、ドゥテルテ政権は発足後、内部でどのような力が働き、その性格をどのように変えてきてたのか、変質してきたのかを認識しておかなくてはならない。

7)国軍と警察による人々の弾圧に抗議する!

 軍や警察が「共産主義勢力」を敵視し、殺害していることが大きな問題だ。ドゥテルテ政権はNPAを「テロ組織」と認定し、軍や警察のよる一方的な殺害を実行させている。政府が「テロ組織」と認定すれば人権を蹂躙してもいい、殺害も許されるということではない。「共産主義勢力」、「テロ組織」の認定も、政権や軍・警察が勝手に行っており、政権を批判している人すべてが、「共産主義勢力」、「テロ組織」あるいは「麻薬容疑者」とみなされかねない。

 国軍と警察による労働組合や農民運動の弾圧は、人権問題でありかつ政府による民主的な運動への弾圧であって、何よりも多くの人々が反対の声を上げ、軍と警察を告発し、同時に実行させているドゥテルテ政権の責任を追及しなければならない。

 ドゥテルテ政権による、国軍と警察による人々の弾圧に抗議する!
(文責:林信治)






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ハンジン・フィリピン労働者に支援を! [フィリピン労働運動]

 ハンジン・フィリピン社の倒産について、プリモから報告が送られてきました。下記に紹介します。

 ハンジン・フィリピン社は韓国・韓進重工業の子会社で、アロヨ政権の外資優遇措置(FDI)を受け、フィリピン・サンバレス州のスービック湾に巨大な造船所を建設し稼働してきました。オロンガポ市の対岸に位置します。韓進重工業は、韓国の韓進財閥グループですが、16年は主要企業であった韓進海運が倒産し、もう一つの主要企業である大韓航空は「ナッツ姫事件」で財閥支配が批判されてきました。そんななか韓進グループの代表を務めてきた趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長が19年4月7日に急逝し、いよいよ財閥解体にむけ加速しています。

 造船業は景気変動により受注が大きく変動します。資本力の小さく債務の大きい韓進重工業―ハンジン・フィリピン社は、韓進グループからの支援も得られず、倒産に至ったと思われます。

 現地では、3万人が働くハンジン・フィリピンの倒産の影響はとても大きいようです。労働者団体がピケットを組織し未払い賃金や雇用保障を求めています。

 なお、ハンジン・フィリピン労働者協会(サマハン)は「労働組合準備会」です。フィリピンでは労働組合準備会を組織し、組合代表選挙で労働者の半数以上の支持があって初めて、企業と労働雇用省によって労働組合として認められます。ハンジン・フィリピン労働者は何度も組合代表選挙を準備しましたが、その都度会社側は代表者たちを解雇し弾圧したり、また下請け労働者を多数化したりして、労働組合結成を妨害してきました。

ハンジン・フィリピン労働者 支援キャンペーンの呼びかけ
サマハン(ハンジン・フィリピン労働者協会) 2019年1月25日


 2019年1月8日、韓進建設重工業フィリピン社は、(Hanjin Heavy Industries and Construction Co.、Ltd Phils)は、フィリピン共和国法10142または「財政的に危機に陥った企業および個人の更生または清算を規定する法」の下で、オロンガポ市地方裁判所72支所に会社更生を申請し、破産しました。ハンジン・フィリピン社は、フィリピンの最大5大銀行からの4億1,200万ドル、韓国の貸し手から9億ドルの貸付残高に及ぶ巨額債務を抱えています。

 ハンジン社の主張によればこの破産は、「未払いでキャンセルされた注文」、「優遇電力料金や減税などの政府の特典の期限切れ」、そして「世界市場における貨物船の需要の激減の結果」によるというのです。

 ハンジン社は、サンバレス州スービック湾にある大規模な韓国資本の造船会社です。「スービックの新星」として知られており、アジアで4番目に大きい超大型ドック(長さ550メートル、135メートル)などの「最先端の機器」を完備した最先端の造船所です。(幅:超大型ガントリークレーン年間600,000デッドウェイトトン数(DWT)の造船能力を持つ自動組立ラインを持つ。)

 それはアロヨ大統領によって批准された外国直接投資(FDI)によって優遇的な電力料金から免税期間まで政府の全面的な支援を受けてきました。

 ハンジン社の製造能力と規模は、貨物船、バルクキャリア、スエズマックス、アフラマックスタンカー、超大型原油船(VLCC)、液化石油ガス船(LPG)、フローティングドックなどに及び、さまざまな種類の123隻を輸出用に生産にしてきました。さらに、少なくとも3つのサッカー場が組み合わさった大きさの世界最大級の商業用船、Antoine De SaintExupery、長さ400メートル、幅59メートル、深さ33メートルの20,600平方フィート(20フィート)相当のコンテナ船の建造しました。これらの最高級船の背後には、21の下請け業者の下で契約労働の犠牲になっているハンジン社で働く3万人もの熟練、半熟練のフィリピン造船労働者がいます。

 ハンジン社が労働安全衛生基準の実施を拒否し、基本的な労働者の権利を認めず、建設および造船基準の遵守を拒否しているため、ハンジン労働者は命を脅かされる危険な状態、労働条件にさらされてきました。事実、ハンジン・フィリピン労働者協会(サマハン)が把握しているだけで、2008年から2018年の間に52人が死亡し、さらに軽傷から重症までの28件、および管理職による12件の虐待が記録されています。しかしながら、造船所の事故に関する情報へのアクセスは、厳重な「秘密」となっており、ハンジン経営陣は意識的な努力を払って労災事故の機密を保っています。

 最近の事件は、2018年5月12日に足場が崩れ2人が死亡し、2人が昏睡状態に陥りました。彼らを含む計10人の労働者が肉体的または精神的外傷以外の軽傷および一時的外傷を負いました。

 ハンジン社は労働者の権利に対し抑圧的、独裁的でした。それは2009年、ハンジン社は30人の労働者が訴えた労働者が組合化する権利を認めませんでした。 労働者組合(HHICPIWU)は、様々な死亡事故を含む労働災害をフィリピン上院労働委員会に訴え、ハンジン社の実際の労働環境に注意を向けさせました。しかし、この訴えにハンジン社は告発した労働者を強制的に退職に追い込む「報復措置」で対応しました。同じことが2011年にも起こりました。ハンジン労働者が労働組合準備組織であるハンジン・フィリピン労働者協会(SAMAHAN-WPL)を結成し、職場の安全、食堂での清潔で健康的な食事、賃金上げ、職場の安全、労働者の認識のための闘争を申し立てました。しかし同様に、会社による弾圧や罰の執行によりオルガナイザーの多くは退職を余儀なくされました。

 さらに、ハンジン社は、3ヶ月以内での貨物船建設を実現するために、労働者を残業、夜間労働、24時間労働に追い立てました。貨物船建設が終わった後も、ほかの注文が完了する直前の2017年には、コスト削減のため33,000人の労働者を16,000人へ削減しました。景気変動により貨物船の受注生産には「高揚と崩壊(boom and bust cycle)」サイクルがありますが、会社はこれを利用し大規模な雇用と解雇の繰り返して来ました。働く労働者にとってはたまったものではありません。利益を最大化するため大規模な雇用と解雇の繰り返してきた事業は、熟練した中核労働者を失い、要求された性能の船を造り損う結果をもたらしました。

 このような、非常に有能で熟練したコアワーカーの大幅な削減、国際的な建設・造船基準の不遵守、労災事故に関する悪名高い記録を更新してきたハンジン社の契約労働方式に内在する矛盾は、船の性能に対する購入会社の信頼を傷つける結果をもたらしました。

 そしてハンジン社の罪は、会社経営が立ち行かないところにまでに至りました。会社経営の危機に際しても、労働者の状態に無関心のままです。自主的な経営再建の申請に先立ち、ハンジン社は2017年12月に7,000人の労働者を解雇し始め、今年の初めには3,000人いた労働者を、19年3月には施設維持のためにわずか300人のフィリピン人労働者と7人の韓国人労働者を残すまでになっています。 2019年1月15日のハンジン社による会社更生申立てが裁判所によって承認されたとしても、労働者は一方的に解雇されただけで、未払い賃金、退職金などの問題は依然として解決していません。

 これとは別に、ハンジン社の会社更生に伴う事業の大規模な縮小のため、周辺コミュニティや食堂、屋台、家屋、寮などの中小企業者などの経営が立ち行かなくなり閉店しました。通称「ハンジン村」に住んできた労働者たちも突然の廃業、解雇により、住宅ローンの債務不履行により家を失うという脅威に直面しています。結局、ハンジン社は「外国資本による直接投資における様々な優遇措置」(FDI)をフィリピン政府から享受してきました。そのうえフィリピン政府の保護によって、この嵐を乗り切ろうとしているのです。

 今、私たちはハンジン労働者と一緒になり、彼らの権利を求めて戦うことを呼びかけます。私たちの集団的行動と団結を通してのみ、ハンジン労働者や周辺住民たちの権利を主張し、事実上彼らの要求に応えることができると確信しています。

 労働者の要求を尊重するため、労働雇用省(DOLE)シルヴェストル・ベロ(Silvestre Bello)長官に、以下のことを要請します。

1. 影響を受けた労働者は、彼らが支払われるべきであるという分割報酬を受け取るべきである。
2. 労働者の給与からハンジン経営陣が得ていた3%の保証金を労働者に返金すべきである。
3. 再雇用までの保障
 a) 労働者は、新たな雇用を見つけるまでの期間暮らすうえで、食料、宿泊費、教育費、医療費を賄うのに充分な失業補助金を与えられるべきである。
 b) 通称「ハンジン村」に居住するハンジン労働者に、違約金を支払うことなく住宅ローン支払いを強制的に一時停止させること、ローン支払い再開は労働者の再雇用に際してのみ行うこと。
4. 経営危機の終結までのあいだ造船所への権利を所有する可能性がある者と労働雇用省のあいだの法的拘束力のある契約を通じて、操業を再開した後、元労働者の復職が優先されることを保証すること。
 
 フィリピンで働く人々、社会のさまざまな分野、学生と若者、弁護士と専門家、女性、そしてLGBTなど権利のため闘う人々と団体、あるいは学術界、マスメディア、芸術、宗教団体、立法部門などフィリピン社会において尊敬されている人々や機関が、会社更生により苦しんでいるハンジン労働者とともに、彼らの要求を支持し、労働者の生活や権利を脆弱にしている契約労働制度を終わらせるために、結集し、団結して行動しなければなりません。

 私たちのできること、すべきことは、以下のとおりです。
1. ドゥテルテ大統領および労働雇用省ベロ長官あてに、緊急上訴の書簡を提出する。
2. フィリピン上院と議会に、事件についての調査を行うよう要請し、執行部にハンジン労働者の呼びかけに注意を促す決議を作成する。
3. 労働者のための支援団体、キャンペーン組織の結成と連携した活動を行う。
4. 財務、物流、および非財務サポートを収集する。
5. 情報を広め、危機の詳細な調査を実施して、さらなる情報を提供する。

 サマハン(ハンジン労働者協会=労働組合準備会)のリーダーシップを通じたハンジン労働者による現地と現場における要求や行動に積極的に注意を喚起し、支援や連帯の行動を組織化し動員することで、より多くの支持者とキャンペーンによる支援を集めるでしょう。ハンジン労働者の本拠地でのピケットなどの集団的行動やその家族およびコミュニティへの支援連帯、ならびに国内および世界規模での支援団体の反響的な支持によって私たちの闘争は決定的な勝利への道を切り開くでしょう。

連絡先:
ノエル・デ・メサ
 人民解放のための労働者
 テレファックス番号:(02)7173262
 メールアドレス: Workers4peopleslib@yahoo.com
 住所:#22ドミンゴ ゲヴァラ通り ハイウエイヒルズ・バランガイ、マンダルーヨン市、メトロ・マニラ

ヴァージリオ・M・ロドリゲス ジュニア書記長
 サマハン - WPL
 電話番号:(047)73065871
 メールアドレス:Samahan123@yahoo.com    samahansahanjin@yahoo.com
住所:#70、ソリアーノ通り、ワワンドュウ・バランガイ、 スービック、サンバレス州

*****

ハンジン・フィリピン労働者への支援の呼びかけ


ジミー・レガラリオ(Jimmy Regalario)議長への要請書 
キルサン・マカバンサン・エコノミヤ、レガラリア議長
2019年3月22日


親愛なるレガラリオ様、
 連帯のあいさつ
 ハンジン・フィリピン労働者への支援を!

 2019年3月1日以降、今日(3月22日)まで、会社側による「自発的退職プログラム」(Voluntary Retrenchment Program :以下VRP)への署名を拒否したハンジン労働者は、造船所への入所が拒否され、将来造船所で働けなくなる可能性があります。その一方で、すでにVRP=「自発的退職プログラム」に署名し退職を受け入れたた労働者たちは、VRPの不参加者が担うことになっていた造船所の保守作業に呼び出され、利用されました。

 そのような事態を前に、VRPを受け入れなかった多くの労働者は家族と共に、サマハン労働者協会(Samahan ng Manggagawa ng Hanjin Shipyard(SAMAHAN - WPL)のリーダーシップの下、3月1日から会社前にピケットラインを設置しました。3月22日現在、ピケットのよる抗議の23日目に入っています。

 奮闘しているハンジン労働者たちは11年間造船所で働いてきましたが、多くの労働者は下請け契約であり、不安定な契約労働のままでした。世界最大の商業船である「Saint Antoine de Exupery」を含む123隻の船舶を生産し、資産を築いたハンジン社は、まさに数百万の利益を上げました。同社は労働安全衛生基準の実施を拒否したため、2008年から2018年までの間に、労働組合が把握している限り、労災事故による労働者52人の死亡が記録され、労働者はぞっとするような状況で働くことを余儀なくされてきました。殺人企業ハンジンと呼ばれました。ハンジン社は、組合結成回避のためあらゆるスキームや手段による抑圧を実施し、労働者に保証されている基本的権利、憲法上保証されている権利を侵害したことで知られています。労働者の権利は踏みにじられ続けており、今や会社は働いてきた労働者を容赦なく切り捨てています。

 19年3月、ハンジン労働者はもはや働くことを許されておらず、労働者と家族は生活と生存の危機に晒されています。ハンジン労働者が家族の主な稼ぎ手であった今、その唯一の生計手段を失っています。さらに言えば、労働雇用省は最初に労働者自身の要求の実現を手助けすると以下の内容の約束をしました。- 「・1ヶ月給与の分割支払い、・造船所が操業を再開するまでの補助金を支給する、・ハンジン労働者らがハンジンで新しい仕事を見つけるか、再雇用されるまでPAG-IBIG住宅ローンを延期する。・造船所の操業再開時には、移住したハンジン労働者の再雇用を優先的に保証する」という内容でした。

 しかし今や労働雇用省はかつての約束を守る気はないようです。造船所はすでに閉鎖されており、労働雇用省が労働者のためにできることは、ハンジン経営者が保証できないと言った分割払いやほかの要求を、労働者が受けとることができるように手助けすることだけです。

 そのため私たちは、ピケットを闘うハンジン労働者とその家族への様々な寄付、米、コーヒー、砂糖、缶詰、水、毛布などの素材または現物の贈り物などあらゆる形での支援を行うよう、さらにはその闘いに連帯するように訴えています。

 あなたがたの連帯とあらゆる形の支援は、ハンジン労働者を勇気づけ感謝を呼び起こし、彼らの雇用保障と公正な闘争への決意を確実に強化するものとなるでしょう。

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堀田善衛 『夜の森』を読む [読んだ本の感想]

堀田善衛 『夜の森』を読む


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1)侵略戦争を描いた堀田善衛

 2018年は堀田善衛生誕100年であり、11月に富山でシンポジウムがあった。堀田善衛は高岡市伏木の生まれ。

 戦後『広場の孤独』、『歴史』、『記念碑』、『奇妙な青春』などの一連の作品をわずかの間に世に送りだした堀田は、日本が引き起こしたアジア太平洋戦争と敗戦がもたらした結果と、そこにおいて日本人それぞれがどのように振る舞ったかを描いた。そのことで今後どうすべきかを問うている。

 1955年には双子のような二つの小説、シベリア出兵を描いた『夜の森』、南京虐殺を描いた『時間』を発表した。ともに日記体の小説であり、『時間』の語り手は中国国民党海軍部に勤める知識人・陳英諦であり中国人から見た南京大虐殺を描く、『夜の森』はシベリアに出兵した筑豊の貧農出身兵士・巣山忠三が、自身と日本軍の振る舞いを綴る。

 佐々木基一との対談で堀田はこの二つの小説について、当初は一つの小説として構想したと語っている。日本による侵略戦争で何があったか、そこにおける加害と被害を双方の当事者の目と心情を通して描こうとした。『時間』は2015年岩波現代文庫に収録され、辺見庸が解説を書いている。

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<『夜の森』単行本1955年>


2)『夜の森』を読む

 『夜の森』は、筑豊出身の下級兵士、巣山忠三が語り手の、大正7年(1918年)9月8日から大正8年7月6日までの日記体の小説。シベリア出兵は1918年から1922年の間、連合国(アメリカ合衆国・イギリス帝国・大日本帝国・フランス・イタリアなど)が「ボルシェビキによって囚われたチェコ軍団を救出する」という大義名分で出兵した、ロシア革命に対する干渉戦争の一つ。

 忠三は小作人出身で尋常小学校を出て以来、百姓の手伝い、本屋や新聞屋の配達小僧、呉服屋の手代などを経て従軍した。ウラジオへ上陸してから、ハバロフスクからアムール川沿いのブラゴエシチェンスクまで各地を転戦する。

 貧困や逆境にはなれている忠三は、軍隊で兵士が牛馬のように扱われることにも「忠勇愛国の美点を備えた日本軍人でなければ到底出来ぬ」と考える典型的な日本兵士。クラエフスキー戦では「逃げていく六尺もある大きな敵をうしろからブスーリブスーリと突き殺していくのであるから、この戦争も面白い」と記し、インノケンチェフスカヤ村では村民に対し「のどをとおす首をとおす胸をつくという風になぶり殺しをやった。もうこのときは人を殺すをなんとも思わない、大根か人参を切る位にしか思って居ない。心は鬼ともなったのであろう。人を殺すのがなにより面白い」、さらに「・・・家の外の、自分が殺した仏たちがかたく凍ってござる、その骨が凍みつき、ポッキン、ポッキンと折れるような、そんな音が耳に入って来る・・・(同僚の)上村と戸塚の二人が露人の女のところ行こうとさそった・・・・・殺したあとの夜が来ると、妙に不安で女が欲しくなり常軌を逸したくなるようだ」と書いている。

 過激派(=ボルシェビキ)や住民の虐殺に快感を覚えるが、現地で軍に雇われた花巻通訳の影響で次第にこの戦争への疑いを持ち始めていく。「人を殺しすぎると思う、・・・村を焼きすぎる、・・・将校も兵隊も物をとる者がふえて来た」と書くようになる。

 そのころ、国内で米騒動が起きたのを知る。「我が日本にも過激派が出来した」、「我々シベリア遠征軍が、あまりに沢山の米を持ち出したから内地では貧民の米騒動が起こったのではないか」と忠三は考えるが、しばらくして米騒動に軍隊が出て鎮圧したことを知り衝撃を覚える。内地からの友達の便りで、故郷の炭坑に入っている連中のほとんどが米騒動時の炭坑暴動に参加したらしい、それを我が留守部隊もでて鎮圧した。我が友人知り合いも炭坑に入って居る。忠三は自分がその場に居合わせたらと考え、シベリア戦争と軍に疑問を持つに至り、覚醒し始める。

 このころになると厳冬のなかでの戦闘が続き、上官によるあまりに苛酷な扱いに反抗する兵士も現れてきた。軍上層部は兵士が過激派にかぶれていないか極度に警戒するようになり、日本軍の非道な戦闘ぶりを故郷に書き送った忠三にも疑いをかけられる。忠三らの凱旋帰国の前に、露人や朝鮮人に親切だった花巻通訳が憲兵に殺される事件が起きる。その殺害現場を見ていた同僚の上村は憲兵にくってかかり取っ組み合いになるが、逆に営倉入りとされてしまう。

 「内地へ帰って満期除隊したら、黙って働こう。・・・・花巻さんと上村のことは忘れようとて忘れられぬ。日本は露西亜のように野放図もない国ではないから、チョット人様と違ったことをやったり考えたりすればすぐに何かがやってくる運命になっておる。・・・ともかく凱旋は万歳。」と綴る。

 忠三の覚醒は未発に終わり、勤勉な庶民の誠実さや知的欲求は軍隊内で、あるいは日本社会の同質性のなかで逼塞させられていく叙述で小説も終わる。

 小説の題『夜の森』は、下記の記述からきている。「ドボスコーイの激戦のとき、一時疎林のなかに伏し、樹林に弾丸や砲弾の破片があたり、ビシッ、バスッという、じつに厭な音をたてる。シベリア全体が、暗い気味の悪い「夜の森」のようなもので、そこには虎や狼のようなけだものがいっぱいうごめきひしめいていて、ときどきピカッと異様な眼玉を閃かせる、我々は本当のところ誰を相手にしていかなる名目で戦っているのかがはっきりしないような、不気味な気がする森のなかにいる」
 (この項の多くは、シンポジウムでの明治大学・竹内栄美子さんの報告、「1950年代の堀田善衛―-『時間』を中心に―」に拠っている)

3)忠三は今も生きている民衆の一人

 忠三の揺れ動く気持ち、その上で「内地へ帰ったら、黙って働こう」と考えたのも、多くの兵士の心情であったろう。

 それはシベリア出兵時に限らず、アジア太平洋戦争を体験した兵士も同質の心情を持ったのではなかろうか。

 食糧さえ十分に輸送配給しない日本軍はしばしば現地調達した。「徴発」、あるいは「緊急購買」などという「呼称」を使用しながらも、実際には食糧や財産を強奪した。そればかりでなく火を放ち女性を強姦し、住民の虐殺を行ったのである。多くの兵士は自ら体験した。慰安所へ通い慰安婦の存在やその境遇も知っていた。それらを知りつつも多くの兵士は帰還後、沈黙して過ごした。
 
 『夜の森』『時間』が発表された1955年当時、南京虐殺は嘘だとか、という堀田への非難は起きていない。帰還した兵士らは生存しており、口に出して言えないものの「ある種の常識」であった。私たちの祖父や曾祖父の世代の日本の男たちの多くが、かつて相手国土を侵略しそこに暮していた人たちとのあいだに加害者と被害者という立場でぬきさしならない関係を持っていたのである。

 にもかかわらず、忠三のように、あたかもそういった体験などまったくなかったかのように多くは沈黙し過ごした。
 
 戦後、主流であったそのような対応は、中国や朝鮮、アジアの人たちの心情を知らないで居続けるという日本社会の姿を常態としてきたのである。その延長上にある平成の日本社会は、いっそう過去を顧みなくなったし、死者の声を聞かなくなった。そのことで未来への不透明感が増しているのだろう。

 忠三が「内地へ帰ったら、黙って働こう」考えたと同じように、日本社会は再び画一化への圧力が強まりつつある。学校でも企業内でも同調圧力は強まり、自分の考えを持たず主張もしないで、周りの顔色を窺い「気くばり」と「忖度」をするばかりの世の中となりつつある。昨今は特に「無知」という土台に立って過去を「美化」する風潮、あるいは「無知」を通り過ぎた意図的な「忘却」や「捏造」までが目立ち、暴論が幅を利かす社会となっている。

 歴史認識を修正し、慰安婦被害者の声を聴かない道へと踏み込んだ日本社会が失ったものはとても大きい。

 歴史認識を修正した分だけ東アジアの国々を見下し戦争のできる国へと変質した。慰安婦問題を抑え込んだ分だけ、女性の人権が軽んじられ#Me Tooが広がらない日本社会となった。

 1950年代に堀田善衛は、日本の引き起こした戦争は何であったか、日本人がどのようにとらえなおすべきか、提示してみせているのである。
 生誕100年は過ぎたが、『夜の森』『時間』を読み直すのもいいと思う。

 『夜の森』は堀田善衛全集2巻に収録されている。単行本はすでに絶版。
 『時間』中国語版(翻訳:秦剛・北京外国語大学教授)が18年年7月に人民文学出版社から刊行された。
(文責:児玉繁信)

(*19年3月発行「ロラネットニュース25号」に掲載)

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<『時間』 2015年 岩波現代文庫>











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フィリピンの総選挙に臨む [フィリピン労働運動]


 WPLのプリモから、カサナグの会総会に向けて、メッセージが届きました。
 下記に紹介します。
 5月13日には総選挙があり、大統領以外の上院議員(12名改選)、下院議員(300名)、州知事、市長などの選挙が一斉に行われます。3ヵ月前の2月13日からすでに選挙運動ははじまっています。
 ドゥテルテ政権は、政権に近い上院議員候補、下院議員候補の応援をすでにはじめています。
 
 プリモたちは、総選挙が利権のためであり、権力にすり寄る候補のための選挙であると、この機会をとらえ批判し暴露し、同時に政治社会改革プラン「ALTA2019」の宣伝する、その活動をすると、書いています。

*************
三多摩カサナグの会総会に向けて
 親愛なる同志の皆さん、
 暖かい連帯の挨拶を送ります!

 資本主義の危機が深化するにつれて、社会的格差は世界中で拡大しています。人々の変革への欲求は強まっています。しかし、変革に対する誤った人々の感情が、ファシズムを支持したり、テロや無秩序を主張したりしてきました。これが右翼の超国家主義者が地位を獲得し国家権力を占領した理由です。ドゥテルテ政権下でフィリピンでも起こっていることです。

 今、フィリピンの人々は来る5月13日の中期選挙に再び憤慨しています。以前の選挙とは異なり、2019年の選挙には多くの問題があります。権力者たちは、上院の過半数の席を得るために「歯と爪」で戦うでしょう、唯一の残っている議席はその支配下にありません。最高裁長官の解任が認められたとき、最高裁判所は批判されました。下院は、最高権力者の「意志と気まぐれ」の単なるスタンプ台のような役割に陥っています。

 支配政党とその同盟者は、国と国民の利益のためではなく支配階級自身の政治的、経済的利益のために、憲法変更を通じて連邦主義を追求する政治的目的を、何とか実現しようと決意しました。憲法の変更は、現政治勢力の支配期限の継続と延長への道を開くでしょう。1987年憲法は、権利に基づく憲法であり、独裁政権に対する民衆の闘争の産物でした。87憲法を改憲すれば、人民のための規定が削除され、多大な犠牲を払い獲得した権利が経済的権力を支配している人々与えられることになります。憲法の変更は、専制的支配に祝福を与えるでしょう。

 中間選挙は非常に重要です。私たちの権利にとって重要であるばかりでなく、民主主義にとって重要です。

様相は違っても、以前と同じなれ合いの選挙、なれ合い政治
 同じ目的や計画、厳しい意図をもった、なれ合いの選挙風景が再び繰り広げられるしょう。伝統的な政治家、別名「ぼろきれ」たちによって。すべての政治家たちは、「草の根」の人々を支持すると主張し、公共の奉仕者となると約束します。またしても、都市貧民のコミュニティ、草の根運動の組織、人々の組織、そして投票権のあるあらゆるセクションの人たちが、ばかげた行為から解放され救済されるだけではなく、投票権の正当な行使が求められています。

 絶望的な選挙を重ねた年月は、選挙権を持つ人々の間に政治的無関心と無関心の文化をもたらしました。

 私たちの目前にある任務は、政治的無関心と無関心の選挙を、権利と民主主義のための票決に変えることです。支配権力による上院の完全支配を阻止すること、そのために私たちが活動する必要があります。私たちは、民主主義のために専制政治と戦うことを宣言します。

 この目的のために、2019年の選挙において私たちは、選挙運動の最前線にいる人々に本当に重要な問題を持ち込み、支配権力の政治的マヌーバーを徹底的に批判します。

 今回の選挙では、前回の2016年の選挙で初めて掲げた「オルタ政治プラン」(Alternative Politics:(ALTERPOL-2019)が、選挙運動において主要な武器となります。これは、民主主義のために専制政治に反対するという - 同じ課題を共有する国民的な運動の形成でもあります。 ALTERPOLは選挙に参加する人たちのあいだで、私たちの主張を広げる「腕」の役割を果たすでしょう。私たちは野党候補者のためにボランティアを呼びかけます。 ALTERPOLで掲げた変革プラン説明討論会を、さまざまな異なった社会セクター、地域、コミュニティ、工場、学校、および事業所で開催します。

 選挙期間(3カ月前から選挙運動が始まっている)を最大限に活用して、専制計画と改憲の動きを、すべての人々に暴露し説明し、運動を組織します。また、この選挙期間を利用して、人々の関心を高め、組織を強化し、選挙後の事態に対応できるよう準備します。

 私たちの全般的な運動と活動は、以下のとおりです。
・大規模なコミュニティにおける教育と情報提供。
・公開フォーラムの組織、
・選挙のための動員に抗議する。
・記者会見やメディアでの説明会、
・人々のネットワークの形成と組織化。

 私たちWPLとKilusanは、AlterPol 2019の支持をより一層核相するため中心になって活動します。私たちがまだ達成していない変革と任務のための一つのステップです。

 労働者の運動、万歳!
 公正な社会実現位向け、ともに前進しましょう!
 
連帯して、 プリモ・アンパロ




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私はMOK、 アンバ・バーラの新スタッフ [フィリピン労働運動]

私はMOK、 アンバ・バーラの新スタッフ
わたしの心は若さに満ちています!

 私は大学を終えたいと思いましたが、両親に学費を支払い続ける余裕はありませんでした。私は7人兄弟の長男です。19歳の時、私は荷物を詰め込み、ヌエヴァ・エシハ州(中央ルソンの一部)からバタアン州マリヴェレスまで来ました。私のおばさんの一人がそこにいたのです。

 そして私はデスクトップバッグ・フィリピン社で働き始めました。田舎に住む両親を助けるために、ただ働きました。会社に残業が必要な時、仕事をしたいと申し出ました。カバンの縫製が私の仕事です。日々の日課は、工場と家の往復でした。私は新世紀の若者ですが、家にいて家事をするのも大好きです。

 友人である義理の兄弟から、あるミーティングに誘われた時、私の日課と人生は変わりました。どこだったか忘れましたが、友人ジェシーと一緒に市場の近くでのミーティングに出席しました。

 私たちが到着したとき、すでにたくさんの労働者がオフィス・アンバにいました。会議を主宰する女性は自身を "ミライ"と紹介し、事務所の事務局長だというのです。会議の議題は、「労働者の権利について」でした。興味があったので、熱心に聴きました。

 それ以来、私はアンバ・バーラのオフィスを訪れ始めました。また、アンバ・バーラのスタッフの何人かが私の寄宿舎を訪ねてきました。

 私たちが組合代表選挙(Certification Election)のための労働組合の準備組織、「ディスクトップバッグ従業員協会(以下:DEA)」を設立したとき、私は22歳でした。それが最初の経験でした。私はDEAの書記に選出されました。組合の設立と組織化は簡単なことではありません。労働組合を望んでいない会社によって、リーダーと活動的な組合員の計71人が解雇されたのです。

 組合役員の大半は解雇されたため、組合代表選挙の準備に際し、現役役員は私一人になりました。組合代表選挙で過半数の賛成票を獲得できるように最善を尽くしましたが、労働者は依然として経営陣の宣伝を恐れていました。組合が組合代表選挙で勝利すれば、会社は工場を閉鎖するという宣伝を信じたのです。
 2016年に組合代表選挙に敗れた後、デスクトップ社は私を解雇するために全力を尽くしました。そしてついに昨年2018年6月に、会社は根拠のない、ナンセンスな事件をでっちあげ、私を解雇しました。

 違法解雇であるとして、会社に対して訴訟を起こしました。会社は私に、「訴訟を放棄して静かな生活を送るのであれば大きな金額の支払う」と申し出ました。私は断りました。なぜなら、私はなお、デスクトップ社での労働組合の組織化を追求しており、そのうえで現職復帰したいからです。

 それ以来、私はWPLとアンバ・バーラが行う様々な労働問題トレーニングと労働法セミナーを受けました。そして会社の寄宿舎からアンバ・バーラ事務所に引っ越しました。

 私は25歳の自分にわくわくしています。そして今アンバ・バーラのスタッフになりました。

 私はエルピディオ・アヴェラノーサです、新世紀の若者の世代です。私は、労働の成果を労働者自身が得るために、また労働者の奴隷的状況を変革するために、労働者を組織していくことに邁進するつもりです。

 私はアンバ・バーラの新しいスタッフです、あなたがたは私をMOKと呼んでください。他のスタッフや友人が私と呼ぶように。

 私は新世代の若者として、労働者の権利のため闘います!


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(※「組合代表選挙」とは?
 フィリピンでは、労働組合準備組織が労働者の署名とともに、労働雇用省に「組合代表選挙申請」します。受理されたら、労働者―経営者―労働雇用省の3者で「組合代表選挙」実施の協議が行われます。選挙で労働者の過半数の支持を得れば、正式な労働組合と認められ、初めて経営者と団体交渉ができます。交渉で合意すれば労働条件などを定めた「労働協約CBA」を締結できます。フィリピンの労働組合の組織率は約10%、そのうち「労働協約」を締結している労働組合の労働者数は、全労働者は1%と言われています。
 経営者側は、労働組合を結成させないために、組合代表選挙に至るまでの過程で、労働組合の準備やリーダーを排除したりして、労働組合結成の動きを弾圧してくるケースが多く繰り返されてきました。)
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韓進フィリピンが倒産! [フィリピン労働運動]

韓進フィリピンが倒産!


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<韓進フィリピン 全景>

 スービック経済区の韓進重工業フィリピン(韓国韓進グループのフィリピン子会社、以下、韓進フィリピン)が倒産したという一報が入ってきた。1月8日地元オロンガポ地裁に会社更生法を申請したという。カサナグの会は韓進労働組合と交流し支援してきたし、現地を訪問したこともある。ただ詳しい情報はまだ入ってきていない。

 韓進グループは、韓国の財閥で大韓航空や韓進海運などを傘下に持つ。「大韓航空でのナッツ姫事件」など、経営者一族の専横が批判されている。また、グループ主要企業である韓進海運は赤字続きとなり、16年に破産している。今回の韓進フィリピンの債務増大、再建に、韓進グループからの支援が受けられなかったようだ。

 負債総額は445億円に達し、フィリピンでは過去最高という。
 労働者は2万人いる。それ以上に、韓進フィリピンの工場で働く関連会社の労働者もいて、地域経済に大きな影響を及ぼす。

 労働組合は『一ヶ月分の給与と同額の退職金』を要求しているというが、先行きは不透明。
 現地の労働組合、地域の労働組合連合からの報告が来次第、追加し紹介する。

******

韓国・韓進重工業も債務超過

 2月14日の日経新聞によればーーー

 韓国の中堅造船会社である韓進重工業は13日、子会社であるフィリピン韓進の経営破綻に伴う損失がかさんで債務超過に陥ったと発表した。
 政府系金融機関の韓国産業銀行は、韓進重工業に対し金融支援を実施し、同社の倒産を防ぐ意向を表明した。


 「フィリピン韓進が会社更生法に基づき現地裁判所に申請したことによる資産評価損や負債引き当てが増え、2018年の連結財務表が債務超過になった」。

 韓国・韓進重工業の債務超過の金額は明らかにされていない。

 フィリピン韓進は、2010年代初めに、船舶受注高で世界の10位以内の造船所になったことがあるが、その後の造船不況で固定費が経営を圧迫。
 17年通年、230億円の赤字
 18年1~9月期で、60億円の赤字。
 
 韓進重工業とフィリピンの銀行のあいだに約450億円の負債の保証契約がある。
 スービック韓進の事業と資産を売却して負債を圧縮する意向であり、韓国産業銀行とフィリピンの金融機関との交渉するという。

 ----------
 倒産した場合、「労働債権」のほうが優先されるはずだ。現地労働組合の要求は「1か月賃金と1か月賃金分の退職金」と報じられており、きわめて「控えめな要求」に見える。








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住友商事系スミフル社で争議、人権侵害 [フィリピン労働運動]

フィリピン・バナナ生産の裏側で

住友商事系バナナブランド 「スミフル」労働者らが直面する人権侵害
~偽装請負、労働者弾圧、銃撃、放火、そして900名一斉解雇

1)住友商事系スミフルのバナナ

 「グレイシオ」、「甘熟王」というブランド名バナナをスーパーで見かけたり、「高地栽培なので、より甘い」という宣伝をご存知の方も多いのではないだろうか。Sumifru(スミフル)社のバナナだ。スミフル社は住友商事の子会社であり、フィリピン・ダバオに専用港と専用冷蔵施設をもち、日本へのバナナ輸入では最大手である。日本に輸入されるバナナの80%以上がフィリピン産である。
 バナナは安くて栄養価の高い食材で、日本の家庭にいまや欠かせない。

 でもどうしてこんなに安いのだろうか? どのように生産されているのだろうか?
 かつて鶴見良行『バナナと日本人』(1982年、岩波新書)を書いて、バナナが生産されるフィリピン現地の生産現場と働く労働者の実態を暴き、多くの人が衝撃を受けた。バナナやエビを通じて、日本とフィリピン、あるいは東南アジア諸国との関係を知った。
 その時と変わらない実態が、いまもフィリピンで繰り返されているのだ。

2)スミフルの争議、労働組合弾圧、人権侵害

 ミンダナオのスミフル社バナナ園で労働争議が起きている。
 私たちの食卓にのぼるバナナの安さは、労働者らが不安定雇用、無権利状態、低賃金で働かされているからだ。その仕組みは、低賃金無権利の非正規社員制度、日本の「偽装請負」と似たフィリピンでも違法な雇用体制が長年継続されてきたからだ。

 スミフルの労働者らは労働組合を結成し、正社員化を司法に訴え、長い闘いを経て2017年6月には最高裁で勝利し、正規雇用を勝ち取り、解決したかのように見えた。

 判決の内容は、労働組合NAMASUFA(Nagkahiusang Mamumuo sa Suyapa Farm)をスミフルの正式な労働組合と認定し、訴えていた従業員をスミフルの労働者と認めるというものだった。
 ところが、スミフル社は最高裁の判決も無視し続け、労働者らはいまだに非正規社員のままであるだけでなく、解決を求めるスミフル労働組合NAMASUFAとの団体交渉にも応じていない。会社が認定された労働組合との団体交渉を拒否するのは、フィリピン労働法に反することだ。

 スミフル社は判決を無視したまま、ミンダナオ南東部コンポステラ・バレー州にあるバナナプランテーションと梱包工場等の操業を変わらずに続けたのである。

 これに抗議し、18年10月、主に梱包工場の労働者900余名による大規模なストライキが決行された。スミフルは交渉に応じずストライキに参加した900人は職場放棄と扱い、事実上の解雇された。さらにストライキに参加した組合員を狙って何者かによる銃撃事件や放火事件が複数起きたり、ストライキに参加した労働者ら900名が事実上解雇される事態になっている。

 訴訟やストライキを決行した理由は、梱包工場での過酷な労働環境や不当な労働契約、有毒な薬の使用など多くの他の問題もあった。

 数種類の使われている数種類の農薬は最近では無臭のものになり、過剰に吸いやすくなっており、多くの労働者が皮膚病をはじめ、腹痛、高熱、アレルギーなどの症状と健康不安を訴えている。
 また2014年から施行された『圧縮労働週間制度(Compressed work week)』が悪用され、長時間労働を強いられ収入が減っている。

 あるいは、自身の土地をバナナ栽培のために土地契約を交わした農民は、「23年間も納品単価の据置き」するとともに、10年間の契約後、スミフルにバナナ農園運営費を年間1ヘクタール当たり35,000ペソ(約73,500円)を支払う再契約を結ばされた者もいて、地域の問題にもなっている。

 そのような問題の解決も併せて改善を要求しストライキに入った。しかし、スミフルは労働組合との交渉を拒否しつづけ、900名は収入がない状態が続いている。

まにらに座り込み スミフル労働者(FoE).png
<スミフル労働者、マニラで座り込み抗議行動 FoEより>


 11月下旬、900余名のうち330人が首都マニラに乗り込み、大統領府前や労働雇用省前、日本大使館前などでのデモや宣伝活動を繰り返し、スミフルの人権侵害、労働者弾圧を訴えた。今もその活動を続けている。
 11月30日には組合代表の家に2発の銃弾が撃ち込まれた。暴行・放火・銃撃事件が相次いでいる。18年12月には、組合事務所と組合リーダーの家が放火される事件も起きている。
 しかし、いまだ解決していない。

 振り返ってみれば、2017年6月に労働者側が最高裁判決で勝利判決を手にした後、事態が極端に「悪化」した。スミフル社が労働者と労働組合を弾圧方針を決めたからに他ならない。労働組合との交渉拒否、労働者の解雇、放火、銃撃事件はすべてつながっている。こんな不法なことが、人権侵害がまかり通っている。それを実行させているのが住友商事の子会社スミフル社なのだ。私たちにとてもぜひとも解決させなければならない問題だ。 

 アジア太平洋資料センター(PARC)や環境NGOであるFriend of the Earth Japan (FoE Japan)が、住友商事スミフル社の労働者弾圧、人権侵害の告発とスミフル労働者支援を訴えている。
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日立が40人のフィリピン人実習生を解雇 [フィリピン労働運動]

日立が40人のフィリピン人実習生を解雇

11月16日 帰国を前に 比実習生.png
<2018年11月16日、帰国前の交流会で、フィリピン人実習生、「スクラムユニオンひろしま」のメンバーなどと>


1) 日立が40人のフィリピン人研修生を解雇

 2018年9、10月のことだが、日立製作所が笠戸事業所(山口県下松市)で働くフィリピン人技能実習生40人に解雇を通告した。解雇された笠戸事業所のフィリピン人技能実習生は、最終的に99人にのぼるという。

 どうしてこんなことが起きたのか?
 そもそも日立製作所が、「技能実習生」(3年間、技能実習生として日本企業で働く制度)として入国させたにもかかわらず、実際には単純労働者として使用し、技能を学ぶ目的とは違う作業、実習生によれば単純労働をさせたことが問題なのだ。「技能実習生」という名前で入国させながら、日本人のやりたがらない低賃金労働、単純労働をさせ、3年で帰国させるという事例は、日立だけでなく日本中どこでも広く行われている。「技能実習生制度」という看板の裏で、「偽善」がほとんど公然と行われている。
 
2)不都合が起きたら「在留期限」で追い出す! 実習生制度
 
 実習生たちのうち20人は配電盤や制御盤をつくる「電気機器組み立て」を学ぶために来日した。母国の大学で電気工学を学んできた者もいる。しかし、ある実習生(24)によると、仕事の内容は、鉄道車両に使うワイヤーや電線をひたすら引っ張る単純作業だったという。

 フィリピン人実習生が「笠戸事業所では単純作業ばかりで、本来の技能を学べない」と日立製作所や国の監督機関に訴えたところ、法務省や国の監督機関「外国人技能実習機構」が監査に入り、「制度の趣旨に沿っていない疑いがある」として、日立における「2年目以降の実習計画」を認めないことにした。そのため、3年間の実習契約で入国したフィリピン人実習生は、2年目以降、日本にいられなくなったのだ。ただし国側は、1年目の笠戸事業所での実習が適正かどうかの判断はいまだ示していない。示す前に、実習生たちは在留期限を迎えたのである。

 日立は2年目以降の在留期限がなくなったことを理由に、フィリピン人技能実習生に解雇を通告した。このままだと、年内の賃金は支払われず、2年目以降の契約は実行されないまま、国外追放になってしまう事態となったのだ。

 この経過を見れば、日立と「外国人技能実習機構」はグルだ! 裏でつながっている、と非難されても仕方がないだろう。

 「技能実習生制度」の「欠陥」が、見事に暴露された。実習生は、実習生制度の趣旨にしたがって、日立や国側に訴えたのだが、訴えた実習生を保護する制度がまったく欠落していた。そればかりか、日立も国も、起きた問題、制度の欠陥を解決しようとはしなかった。「在留期限」を持ち出して「トラブル」を起こした外国人労働者を追い出す「仕組み」を機能させた。「外国人技能実習機構」は、「技能実習生」に起きたあらゆる事情を最もよく知る立場にあるはずだ。知っていたうえで「追い出し」の実行役の役目を果たしたのだ。

 なんと、卑劣で制度であることか! なんと、卑怯なやり方か!

 実習生に「落ち度」や責任があるわけではない、日立に責任がある、実習生を保護する仕組みのない制度を運用している国に責任がある。しかも、日立が違法であるという判断を早く出さないままにしてて、在留期限を迎えさせ追い出しを実行する国に、さらに重大な責任がある。

 「落ち度」や責任のない実習生は帰国させられて、要するに、体よく追い払われて、おしまいにされてしまいかねなかった。

3)声を上げ闘ったフィリピン人実習生 

 未払い賃金もあり、残り2年間の契約もある、日立との交渉は終わっていない。それなのに在留期限が過ぎたとして、追い出されようとしていた。あまりにひどい扱いに怒った実習生たちは、地元の個人加盟労組「スクラムユニオン・ひろしま」に相談した。実習生たちは日立を相手取って損害賠償請求訴訟を起こす方針を決め、その準備もした。「泣き寝入り」せずに、自分たちの権利のために、そして次に来る実習生の権利のために、戦ったのだ。
 
 弁護士や労働組合を交えた交渉の結果、解雇を受け入れたうえで、「年内は月額約10万円を補償、年内に国が実習を許可しなかった場合、残りの実習期間約2年分の基本賃金相当額を全額補償する」内容で、11月上旬に合意書を交わした。


4) 「技能実習生制度」の手直しで、

外国人労働者受け入れ拡大をすべきではない!


 日本の代表的な企業、日立製作所が、「単純労働、3年での使い捨て労働」として、「技能実習生」制度を利用していた実態が暴露された。

 外国人労働者受け入れ拡大の議論が熱を帯びているが、日本の制度、日本企業は、受け入れる制度、態勢を備えていない。実習生たちは「私たちの権利が認められる制度で働きたい」と声を上げた。これに応えることのできる日本政府や企業ではなかったし、いまも変わっていない。

 外国人労働者はモノではない、ヒトだ。「技能実習生制度」は、「表向きの説明」は偽りで、日本政府が3K労働における労働力不足の手っ取り早い補充として制度設計したものだ。ほとんどの雇い主は、「技能」を教えるつもりなどない、3年間で使い捨てて追い出す、期間を限った低賃金労働者として扱っている。実質、そのような制度として運用されてきた。

 面倒なことが起きたら帰国してもらう、そう考えているし、そのように扱ってきた。政府も日本企業も労働力不足のための目先の対応として、外国人労働者を手っ取り早い「モノ」として扱う実態が暴露されたのだ。
 「在留期限」で地位を不安定にすれば、「権利を振りかざすことなく文句も言わないでよく働くだろう」、日本政府や日本企業は、こういう計算をしている。

 言っておかなくてはならないことは、フィリピン人実習生が、違法状態を指摘し、解雇されても自らの権利のために戦ったから、実態が暴露されたということだ。日本政府や日本企業の醜悪な姿が明るみに出たということだ。

 暴露されずに、泣き寝入りとなり、国外に追放された外国人労働者はその何十倍、何百倍もいるだろう。ほとんど大多数だろう。

 彼らはこのような国、日本をどのように思うだろうか? 清潔で整理整頓されているかもしれないが、人扱いせず無権利で働かさせる多くの日本企業のことを、どのように思っただろうか?

 フィリピン人技能実習生99人のうち20人は、11月18日、帰国した。
 実習生たちは、労働者の権利を認めよ! 使い捨ては許さないという、彼らの戦う姿、その足跡をこの地に確かに記して、帰国したのである。

 ※山口放送記事から一部引用。

10月8日、「ユニオンひろしま」土屋委員長.png
<日立と交渉した「スクラムユニオンひろしま」土屋委員長、弁護士>
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設置されたばかりの少女像が、2日後に撤去?! [フィリピン元「慰安婦」]

設置されたばかりの少女像が、2日後に撤去?!

フィリピンラグナ州サンペドロ市の私有地に設置

1)サンペドロ市に「平和の碑 少女像」が設置された経緯

 2017年9月、サンペドロ市長が韓国・忠清北道提川市を訪問した際に、サンペドロ市側が「平和の碑 少女像」(以下:「少女像」)の設置を提案して推進された。 

 18年12月28日、フィリピン・ラグナ州のサンペドロ市で、旧日本軍の慰安婦被害者を象徴する「平和の少女像」の除幕式が行われた。設置されたのはサンペドロ市の介護施設内の私有地であり、除幕式もここで行われた。

 除幕式には提川市の前市長、李根圭(イ・グンキュ)氏のほか、「平和の少女像」を製作したキム・ソギョンさん、キム・ウンソンさん夫妻など韓国側の代表団8人が出席した。またサンペドロ市長をはじめ地域の関係者など100人余りも出席した。

 サンペドロ市長は「女性の人権と平和に対する希望が、サンペドロ市で光や塩のように大切な価値になるだろう」と話した。 

2) 30日に、サンペドロ市が「少女像」を突然撤去

 28日に設置された「少女像」が、わずか2日後の30日に突然撤去された。撤去したのはサンペドロ市。しかし、像が設置されていたのは、高齢者女性のための私営介護施設であり、私有地内だったという。

 在比日本大使館は、設置を受けて30日に、「わが国政府の立場と相容れず極めて残念」とし、大統領府と外務省に申し入れを行っていた。私有地内に設置した「少女像」であるにもかかわらず、日本政府はフィリピン政府に撤去を申し入れているのである。
 実に尊大な振る舞いではないか。あるいは越権行為ではないか。

 撤去の背景には、日本政府の圧力があったことは明らかなようだ。サンペドロ市関係者は1日午後、「市のエンジニアリング部門が撤去した」、「撤去理由は、後日説明する」とした。
 日本政府の申し入れに、フィリピン政府内のある部門が反応し、サンペドロ市へ指示し、市が撤去に動いたということのようだ。詳しい経緯はいまだ不明。

 パネロ大統領報道官は「少女像」について31日夜、撤去については触れずに「私有地に民間の費用により建てられた像に関しては、憲法で表現の自由が保証されている限り、政府は制止したりすることはできない。碑文でも平和と女性のエンパワメントのための像とあり、マニラ湾岸に建てられた慰安婦像とは別だ」との声明を発表している。

 フィリピン政府内の一部門、サンペドロ市が過剰に反応した可能性もある。どこの政府内や役所にも、上ばかり見て「忖度」する役人はいるらしい。
 
 フィリピン元「慰安婦」と支援者の団体「リラ・ピリピーナ」は、1日の声明で「なぜ元慰安婦の苦しみを表現する像の設置が許されないのか」と、サンペドロ市の像撤去をめぐり比日両政府に抗議の意を伝えている。

 (上記は、12月31日の「まにら新聞」記事、「テレ朝news」から一部引用した。)

12月28日設置の少女像、40日撤去 サンペドロ市.png
<設置された「平和の碑 少女像」と撤去後>

*****

「リラ・ピリピーナ」(1月1日)の声明を以下に紹介する。

*****************
リラ・ピリピーナ声明 (2019年1月1日)

リラ‣ピリピーナから日本へ:

ラグナ州サンペドロ市の「慰安婦」像を返せ!

 フィリピン元「慰安婦」被害者団体であるリラ・ピリピーナは、ラグナ州のサン‣ペドロ市(San Pedro)で公開された1mの少女像が日本政府からの抗議によって最終的には撤去されたことに、抗議の意を表明する。

 「フィリピン各地のさまざまな場所に、何千人ものフィリピン人を殺害した神風特攻隊員に敬意を表すし、大きくかつ高価な日本兵の記念碑がいくつも設置されているにもかかわらず、苦しんでいる「慰安婦」被害者のための簡単な追悼施設さえなく、像が日本による経済開発援助の交渉材料として扱われている」と、リラ‣ピリピーナ事務局長、シャロン‣カブサオ‣シルヴァ(Sharon Cabusao-Silva)は述べた。リラ‣ピリピーナは、日本軍がかつてアジア全体で推定40万人の女性を性奴隷として扱った「慰安婦」被害に対し、日本政府に被害事実の認定、公式謝罪、賠償を求めて闘っているフィリピン元「慰安婦」被害者組織である。

 昨年(18年)4月にマニラ、ロハス通り沿い公園に設置された「慰安婦像」が強制的に撤去されたが、リラ‣ピリピーナは、撤去された7mの高さの銅像の修復キャンペーンも行っている。カブサオ‣シルヴァは、「マニラ市民と元マニラ市職員によって立てられた像は、平和を望むとともに女性のエンパワーメントのために捧げられたものであり、日本帝国の占領から途方もなく苦しんだアジア諸国の平和運動やアジア諸国から支援されるに値する」と語った。

 日本政府が海外での米軍との最初の合同軍事演習にフィリピンを選んだことは、フィリピン人がかつて被った戦争被害の傷の上に、塩を塗るようなものだ。第二次世界大戦中、新興帝国勢力であった日本はフィリピンを占領し、フィリピン人を残酷な運命にさらした。「慰安婦」像や「平和の碑 少女像」の撤去は、現在の私たちにかつての日本帝国主義による戦争犯罪を完全に忘れるよう求めているに他ならない。そればかりでなく、自衛隊がアジア太平洋地域における米国拡張主義のジュニアパートナーとしての軍事的地位を再確立することに対し、私たちに沈黙することも要求しているのだ。

*****

 この件に対し、韓国の「慰安婦」被害者支援団体である「正義記憶連盟」も1月3日、抗議声明を公表している。下記に、引用する。

「正義記憶連盟」声明

日本政府は歴史抹殺行為を直ちに中断し、
日本軍性奴隷被害者たちに公式謝罪と賠償を含む法的責任を履行せよ!

 報道によれば12月28日、フィリピン北部にあるサンペドロ市に建立された「平和の碑 少女像」が、駐フィリピン日本大使館の強い抗議声明が発表された12月30日に撤去されたことが確認された。

 サンペドロ市の「平和の碑 少女像」は2017年9月、忠清北道・堤川市を訪問したサンペドロ市長の提案で、前堤川市長ら堤川市民たちの参加で推進された。しかしサンペドロ「平和の碑 少女像」除幕式の二日後の12月30日、駐フィリピン日本大使館は抗議声明を公表し、「ほかの国家に慰安婦彫刻象を建てるのは極めて遺憾」であり、「(これは)日本政府の立場にも反する」という立場をフィリピン政府へ伝達した。

 フィリピン大統領府広報官は、「「平和の碑 少女像」は民間が私有地に建てたもので、憲法に保障された表現の自由として、政府が妥当な理由なくして制限や抑制はできない」という立場を明らかにしていた。

 しかし結局12月30日、「平和の碑 少女像」は撤去された。

 1年前にも同じようなことがあった。フィリピンにおける日本軍性奴隷被害者支援団体の力で、2017年12月にマニラ市に建設された日本軍「慰安婦」被害者追慕の銅像は、日本政府による財政支援を餌にした撤去要求にフィリピン政府は屈し、4カ月後の真夜中に排水施設手改善工事を口実として、マニラ市によって奇襲的に撤去されている。

 日本政府は第2次世界大戦終戦後75年近く、日本軍性奴隷制という戦争犯罪の加害事実をずっと否定し続けており、妥当な反省と被害者たちに対する謝罪をするどころか、開発援助、財政支援を手段にして被害国政府を圧迫し、加害の歴史を隠し、かつ捻じ曲げてきた。被害国政府も経済的利益と国益を名分に、被害者たちの人権回復処置の履行義務に顔を背けてきた。

 日本政府は、「平和の碑 少女像」などの日本軍性奴隷被害者たちを追慕する銅像が、何故建立されているのか、正しく知るべきである。それはまさに、日本軍性奴隷制被害者たちの生涯を記憶し、再び日本軍性奴隷のような女性人権を残酷に踏みにじる戦争犯罪を二度と繰り返さないために、この痛ましい歴史を全世界の市民たちの心に刻もうとするものである。

 このような追慕銅像の建立は、日本軍性奴隷被害者たちだけでなく、国連人権機構をはじめとする国際社会が、加害国である日本政府の戦争犯罪に対する責任履行のために持続的に日本政府へ要求しつづけてきた。そのことは日本政府も良く知っている筈だ。

 掌で空を覆うことはできない。日本政府の歴史抹殺と隠ぺいの試みにもかかわらず、日本が戦争犯罪加害国という事実は変わらない。むしろ日本政府が「平和の碑 少女像」を撤去して、歴史事実を否定すればするほど、破廉恥な戦争犯罪国の本質を満天下に立証する格好になる。

 一、日本政府は「平和の碑 少女像」をはじめとする日本軍性奴隷被害者追慕銅像の撤去要請などを通じた、日帝の歴史歪曲・否定行為を即刻中断せよ!

 一、日本政府は、日本軍性奴隷制被害者の名誉と人権回復のための法的義務を履行せよ!
 日本軍性奴隷制犯罪の真相を究明し、被害者に対する公式謝罪と法的賠償を含む法的責任を履行し、追慕、記念事業を通じて再発防止に乗り出せ!

 一、また被害国政府は国益と経済的利益を理由にして、74年間苦痛の人生を繋いでいる日本軍性奴隷被害者たちの、名誉と人権回復を犠牲にする行為を中断し、彼らの名誉と人権回復のために積極的に乗り出せ!

2019년 1월 3일
日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯


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シリアからの米軍撤退の持つ意味 [世界の動き]

米軍のシリアからの撤退の持つ意味

190105 シリア勢力図.png

<シリア勢力図。「赤」地域:シリア政府支配地域。「緑」地域:トルコ軍に保護された反政府勢力地域。イドリブなどを含む。イスラム・テロ組織が残存。:「黄」地域:クルド軍支配地域。米国と共同してISを駆逐し、そのまま支配している。クルド軍はアサド政府との協力を表明。>


1)米軍のシリアからの撤退を歓迎する

 トランプ大統領は、2,000名のシリア駐留米軍の撤退を命じた。撤退までの期間は1か月と指示した。
 米軍撤退は、米戦略の失敗であり、敗北だ。シリアへ戦争介入した大元は米国である。米軍が中東の混乱要因である。したがって、シリアからの米軍撤退は歓迎すべきことだ。シリアから本当に撤退すれば、米外交政策の劇的変化となり、米覇権の不可逆的凋落を示すものとなろう。

 ただし、米軍がすんなりシリアから撤退するかどうかは、予断を許さない。なぜならば、米国防総省、米軍産複合体、ネオコン、ユダヤ資本、民主党幹部、富裕層が支配するマスメディア、そのいずれもが撤退に反対しているからである。有力な閣僚、ボルトン安全保障担当補佐官、ポンペイオ国務長官らはいずれも撤退に反対している。たぶん、抵抗が試みられるだろう。
 ただ、米国内世論でトランプの撤退方針が支持を拡大すれば、撤退は実現されるだろう。

 米軍部隊をシリアから撤退させるというトランプの最近の命令は、両党の議員によって激しく批判された。民主党議員も共和党議員も、シリアからの米軍撤退を「戦略上の大失敗」であると、一斉に非難した。
 米政府内は、一枚岩ではなく、「対立」が存在しており、すんなりと撤退となるかは、疑問だ。一方、イラクには6,000名の米兵が駐留しており、この駐留は当分続く。

 シリアからの米軍撤退はトランプの選挙公約であった。トランプは2020年大統領選挙を意識し、支持拡大を狙っている。いくつもの「思いつきの政策」でアドバルーンをあげ、直後の支持率と反応を測り、政策を採用するかどうかを決めている。トランプの政治スタイルだ。トランプの大統領選を指揮したスタッフがこの手法を取り仕切っており、トランプの信頼も厚い。シリアからの米軍撤退発表のあとも、支持率の動向を測っている。

 したがって、国防総省、軍産複合体、ネオコンなどとトランプは、必ずしも一心同体ではない。シリアからの撤退では明らかに対立している。トランプは反対するマティス国防長官を解任した。辞任発表に際に批判めいた言葉を残したマティスに対し、解任時期を2か月前倒しした。

 そもそも米軍のシリア駐留は、シリア政府の了解を得ていない勝手な駐留であり、明白な国際法違反である。
 米民主党幹部は、かつてオバマ政権下でオバマやクリントンらがネオコンと一体になって推し進めてきた不法なシリア介入を、現在もなおやり続けるよう要求しているのだ。

 また、国際法違反をわかっていて何ら指摘も批判もしない、逆にシリア撤退を批判する米マスメディアは、米支配層の宣伝機関に陥ってしまっていることを証明している。シリア撤退に反対するニューヨーク・タイムズやワシントンポストは、フェイクニュースを垂れ流し、自らへの「読者の信頼」を捨てていることになる。CNNの類は見るに堪えない。
 これが現時点における米国の「リベラル派」の姿だ。

 トランプを支持できはしないが、米民主党やヒラリー・クリントン、オバマが「よりマシだ」とは到底言えない現実が目の前にある。
 何も知らない者が、いまだにオバマに幻想を抱いている。よく知った者が、ウソを振りまき人々を騙して、「軍事介入」し中東を不安定化し支配する米戦略を正当化し続けている。

 米国を支配する軍産複合体、ウォール街、ユダヤ資本が、背後にいる親玉だ。もちろん、中東での戦争政策継続を望んでおり、シリアからの撤退に反対している。場合によっては、トランプ排除に走るかもしれない。

 いずれにしても、米国支配層は、どれもこれも、国際法違反を行え! シリアから撤退するな! と主張しているのだ。この「醜悪な姿」をきちんと確認しておかなくてはならない。

2)米国のシリアへの軍事介入は失敗に終わった!

 ただ、それでもはっきりしているのは、オバマ政権をはじめとする歴代米政権によるシリアと中東への軍事介入戦略が失敗し、米軍は敗退するという現実だ。

 シリアでの戦争は決して「内戦」ではない。米、サウジ、湾岸諸国、トルコ、英仏、イスラエルなどによって重層的に組織された傭兵を使った戦争介入である。確かに米軍はイラク戦争のように直接介入してはいない。そんなことをすれば明白な国連憲章違反、国際法違反となる。

 オバマの採用した戦争戦略は、サウジと湾岸諸国に金を出させ、米製武器を購入させ、米軍とCIAが訓練した傭兵集団を送り込み、シリア現政権を倒すことだった。シリアのIS、ヌスラ戦線、自由シリア軍、その他アルカイーダ系集団は何度も名前を変えているが、内実は変わらない。いずれも傭兵集団であり、そのなかにシリア人は10%程度しかいない。多くはチュニジア、アフガン、ウズベク、イラクなどから給与を求めてやってきている。傭兵に主導権はなく、「雇い主」が意のままに操っている。そのなかでISは、占領地域の油田を盗掘し販売し、資金を得てさらに武器を調達し、自活して戦争がつづけられるようになった。ISが急拡大した理由だ。もちろん、ISから盗掘石油を買った者がいる。米国に支援されたトルコであり、トルコ経由で買ったイスラエルである。

 このやり方はリビアでは成功した。NATO空軍がリビアで制空権を握りリビア空軍を抑えつけ、他方傭兵であるLIFGが地上戦でカダフィ政権を倒した。リビアの油田を占有したLIFGは、盗掘石油の資金で米国から武器を調達し、自活できる戦争集団になった。イスラム・テロ組織を名乗る傭兵集団の兵員の多くもまた、リビア人ではない。チュニジアやアフガン、ウズベクなどからリクルートされた傭兵集団だ。ここでも傭兵集団の主導権は「雇い主」が握っていた。石油を盗掘し資金を得、「自分の意志」で戦争をする集団となり、「成功」したのである。

 このような中東への戦争介入のやり方は、オバマ政権、クリントン国務長官がネオコンとともに進めてきた戦争戦略、戦争介入である。米軍を投入すると被害が出て米国内で批判が高まるので、傭兵にやらせる。金はサウジや湾岸諸国に出させる。国際法、国連憲章違反としての追及を免れようとする点で、きわめて狡猾な、ずるいやり口である。

 オバマはリビアで成功したやり方をシリアでも行うことにした。LIFGのメンバーはシリアに移動し、IS、ヌスラ戦線などと名前を変えた。シリア国内の反政府運動は、武装化を米国やサウジに頼んだ時点で、米やサウジに乗っ取られ、傭兵集団に組み入れられた。その名前が「自由シリア軍」だ。その時点で内戦ではなくなり、外国による戦争介入になった。

 そこでシリアのアサド政権は、国際法違反である米国主導の戦争介入、イスラム・テロ組織=傭兵集団によるテロ、戦争介入と戦うため、ロシアやイランに支援を求めた。
 
 ISを駆逐するのはそれほど難しくはなかった。資金源を断てばいいだけだ。盗掘石油を運ばせず、販売させなければいい。2015年9月30日から始まったロシアのIS空爆はすぐさま効果をあげた。これまで米軍が決してやってこなかったことだ。イスラム・テロ組織と戦うロシアの行動は、国際法に従ったものだ。

 米国やサウジは、ISをテロ組織と表向きは非難しながら、実際にはISを育て、後押しし、利用してきた。ISやヌスラ戦線、自由シリア軍などのテロ組織は、サウジやイスラエルとの関係も良好だ。サウジや湾岸諸国は、民間団体を使ってISに資金援助してきた。サウジと仲違いしたカタールが後にそのことを証言している。ISやLIFG、ヌスラ戦線などはイスラム勢力でありながら、イスラエルによるエルサレムの占領を非難しない。この点がリトマス試験紙だ。
 なぜならば、彼らが雇われ兵集団であり、「雇い主」はイスラエルに親近感を持つサウジであり米国だからだ。シリア南部東グーダやゴラン高原にいたイスラム・テロ組織は、18年3月、シリア軍に追い詰められたあと、ゴラン高原を不法占領するイスラエル軍に保護され、負傷した者はイスラエルの病院で治療を受け、イスラエルを通って各国に拡散した。「ホワイトヘルメット」と呼ばれる集団もそのなかにいた。「ホワイトヘルメット」も傭兵集団とみなして何ら差し支えない。

 米軍は、シリア国内に、シリア政府の了解なしに勝手に、20か所も軍事基地を建設し、いまも存在する。ユーフラテス川東岸地域、デリゾール周辺に多い。そこにシリアの油田地帯が広がるからだ。かつては石油を盗掘するISの拠点があった。このような行動は、明白な国際法違反である。国連安全保障理事会で決議しても、超大国・米国は従わない、無法を押し通す。米国とともに国連決議に従わない国々が集まって「有志連合」を形成し、勝手な侵略を続けてきたのだ。他の国がこんなことをしたら、とんでもない非難を浴び、止められる。イラクのフセインがかつてクゥエートを侵略したようなものだからだ。

 米が主導し、サウジ、英仏、トルコ、イスラエルらが加わった戦争介入に、シリアは耐えて最終的に打ち勝った。シリアにはもはやISはほぼいない。資金源を断てば傭兵は消える。給与を出さなければ、傭兵は故郷に帰る。石油を盗掘させなければいいのだ。
 資金援助してきたサウジはいまや財政赤字だ。資金は不足している。カタールはサウジから離れた。カショギ暗殺でサウジの最高権力者モハンメド・ビン・サルマン皇太子の地位は揺らいでいる。サウジの力も権威も落ちており、再び傭兵を再組織する力はもはやない。
 
 一方、トランプ政権になって、米シェールオイル生産が急増し、米国は石油を自給するだけでなく輸出できるようになった。そのことは、米国にとって中東の持つ重要性が変化したことを意味する。サウジを支持し、そのオイルマネーを使わせて戦争を仕かけ不安定化させたうえで、中東の軍事的政治的支配権を握るという米国の軍事戦略、それはオバマ政権を含むこれまでの歴代米政権のとってきた中東戦略であったが、その持つ意味合い・重要性が、少し変化したのだ。戦略物資としての中東原油とサウジの持つ意味合いが低下した。世界的に米国の政治的影響力が後退する中で、米国の中東への執着が少し弱まりつつある。米軍撤退はそのような変化の中で起きた一つの結果でもある。

3)ロシア、イランは、国際法を遵守させた

 ロシアはシリア支援に乗り出した。国際法を守れ!「国家間の争いを軍事力で解決してはならないし、軍事力で威嚇してはならない」とする国連憲章を遵守する立場で行動した。なぜならば、ロシア自身が同じような軍事介入に悩まされているからである。グルジア―南オセチアで、当時のサーカシビリ大統領に一方的に戦争を仕掛けられた。ロシア軍は軍事力で圧倒し跳ね返したものの、傭兵であるイスラム・テロ勢力による干渉が続いている。当時のサーカシビリの背後には米軍、イスラエルがいた。

 2014年には、米国に支援された右翼、ナチ勢力によるクーデターでウクライナ・ヤヌコビッチ政権が打倒された。クーデターで権力を握った右翼、ナチ勢力はウクライナ新政府となり、ウクライナに住むロシア人に攻撃をしかけ、ロシアにも戦争を仕かけた。ウクライナ・ポロシェンコ政権の背後には米国のネオコンがいて、今も裏で糸を引いている。

 ロシアはここでも対応を余儀なくされたが、あくまで国際法に則った対応でなければならなかった。でなければ、NATO軍が介入する危険性があったからである。プーチン政権は、口実を与えないようにあくまで慎重に、国連憲章、国際法に則った対応を辛抱強く採り続けている。国家予算をロシアとの戦争に投入し続けてきたウクライナ政府は財政破綻し、いまや破綻国家になった。より一層、IMFや米国の言うなりになる政府になった。
 それでも米欧はロシアに経済制裁を発動し、日本も加わっている。

 欧米がリビアに戦争介入した時、ロシアは批判したものの、カダフィ政権を打倒する欧米の動きを止められなかった。それゆえシリアにおける戦争介入に際し、プーチンは国連憲章を遵守する立場からアサド政権支援のため軍を送り、テロ勢力との戦争に参入した。それ以外に有効な手段はないと判断したのである。
 これが、米国がロシアにさらに追加の経済制裁を発動した理由だ。そしてこの時も、EUや日本は米国の主導する制裁に従っている。

 イスラム・テロ組織と戦うシリア政府に対するロシアの支援は、国際法に則っており、国連は批判しないし、できない。米国、サウジ、湾岸諸国、イスラエルも、テロ組織IS絶滅を掲げている手前、表向きは批判できない。したがって、ロシア軍のシリア派遣は、米国、サウジ、トルコ、イスラエルなどの了解を得ている。

 イランもシリア・アサド政権の依頼によりISとの戦いに革命防衛隊を送った。これも国際法に則った対応だ。
 イランは、歴史的に米国による政治介入に苦しんできた。モサディク政権は米軍に支援されたパーレビ国王によって倒された。1979年のイスラム革命によりパーレビ国王を追放し、油田を国有化したが、そのことが米国の利害を侵し、長らく米国の目の敵にされた。米国にそそのかされたイラク・フセインによって戦争を仕かけられたり、様々な経済制裁や介入を受けてきた。イランにとって、シリア政権を支援することは、米国に攻撃されイランと同じ境遇にあるシリアを支援することであり、それはイランを防衛することでもある。そして、中東において米国の仕かける戦争をやめさせるのを目的にしている。
 
 米国の専横に反対し対抗していく動きを、ロシアとイランは採っており、すでに中東の人々の信頼を獲得しつつある。軍事力が不利な側は、国際機関から離脱し専横なふるまいをする米政府に対して、国連や国際機関を通じた協調、国連憲章、国際法遵守などを掲げた国際協調で対抗することになる。プーチンは実際にそのように振る舞っている。これまで確立してきた平和的な国際秩序、戦後秩序を擁護するのだから、「理」はロシアとイラン、シリア側にある。

4)欧州の米戦略への追随とその結末

 英仏をはじめ欧州諸国は、米国の中東への傭兵を使った戦争介入に、その利害から加担するという「ずるい」態度をとってきた。そもそもこれが大きな間違いだった。

 リビアには、英仏伊はNATO軍として出陣し制空権を支配し、地上でのLIFGによる破壊行為をやらせ、自分の手を汚さずにカダフィ政権を打倒した。伊が参加したのは旧植民地宗主国だからでもある。その結果、カダフィ政権は解体され、政権下で築かれてきたリビアの高い教育制度や福祉制度、文明社会は破壊され、リビアの油田はリビア国民のものではなくなった。「リビアは独裁国家だから破壊してもいい」と米英仏伊は公言し、その通り実行した。明白な国連憲章違反であり、犯罪である。

 たとえ独裁国家でも、他の国が武力によって打倒してはならないことは国連憲章が掲げている通りだ。もし、そのような「理屈」が成り立つなら、イスラエル政府はすでに何度も打倒されなければならなかっただろう。サウジや湾岸諸国は、リビアやシリアよりはるかにひどい独裁国家である。より先に打倒される順番が来ていたはずだ。

 シリアでも同じ口実、同じ手口の政権破壊に、NATOとしてEU諸国は加担した。その結果何が生じたか?

 何百万人ものシリア難民、リビア難民が、トルコやギリシャ、イタリアを通じて欧州に流入した。これまでの難民とは数において桁が違った。しかも、難民発生原因が明白だった。米国とEU諸国が行ったリビアとシリアへの戦争介入によって、大量に生まれたのだ。そして流れ込んだ先は米国ではなく、欧州なのだ。シリアでの戦争をやめることが何よりも難民問題を解決する最優先の対策なのは、誰が見ても明らかだ。しかし、EU諸国は、戦争介入に反対しなかったし、今もしていない。
 だから、しっぺ返しを受けているのだ。

 難民の大量流入は、EU諸国に政治危機をもたらした。EU諸国内において排外主義政党が台頭し、仏、独,伊をはじめとするEU諸国の政権と政権政党の地位を揺るがせ、従来の支配を脅かす事態を招いている。米英にはシリア難民は来ないので、その政治的影響はほとんどない。米国は、難民流入によって政治的危機に陥ったEU諸国に揺さぶりにかけ、EUのまとまりを破壊する政治的脅し、道具としてさえ利用したのである。米国の出先機関NATOは、いまやネオコンが支配し、常にロシアに戦争挑発をかけており、いわば「関東軍」化している。

 仏マクロン政権は、支持率を急降下させ、黄色ジャケットデモで揺らいでいる。独政権は選挙で敗退し、メルケルは党首辞任に追い込まれ、政権与党の基盤は弱くなるばかりだ。東欧諸国では排外主義、右翼政党が台頭している。EUはまとまって米国に対応する力を一層失った状態に陥っている。

 EU諸国が米国の戦争政策に従った結果が、これだ! EU政府首脳は、果たして自業自得という言葉を知っているのだろうか!
 EUの政治的な指導者たちは、上述の通り、見事に「愚か」なのは明らかだが、どの指導者も表立って、シリアへの軍事介入をやめる姿勢を見せていない。
 
5)イスラエルの孤立

 トランプ政権は米国大使館をテルアビブからエルサレムに移動させた。トランプにとっては支持率を上げるためのパフォーマンスだ。イスラエルは喜び、より一層の戦争政策への傾斜となった。しかし、情勢はすでに変化していた。この変化に対応できないイスラエルには「孤立」が待っている。

 イスラエル戦闘機は、これまでシリアやイランの施設を勝手に攻撃し、200回以上もシリアを領空侵犯してきた。その侵犯事実をイスラエル自身が自慢げに語ってきた。明らかな国際法違反であり、国連憲章違反だ。しかし、イスラエルは国連憲章や国際法など一切無視してきたし、国連安保理での非難決議が上がっても米政府が拒否権を発動してくれるので、平気で何度も侵犯し侵略してきた。イスラエルの戦闘機は、米国が製造し、補充し、資金供給しているF-15とF-16なのだ。実際、毎年30億ドルのアメリカ援助によって、イスラエル国防軍が、この地域での優位を維持してきたのである。

 そのようななかで、情勢の変化が生まれた。シリアへロシア軍が参加したことをきっかけに、「領空侵犯した戦闘機は、撃墜されても文句は言えない」というルールが効力を持ちはじめたのである。

 17年10月、シリアのIS を攻撃していたロシアのスホーイ24戦闘機が、トルコを領空侵犯したという理由で、トルコ空軍F16戦闘機によって撃墜された。ロシア軍機はトルコを攻撃していたのではないから、何ら脅威でさえなかった。この時、トルコの背後には米国がいた。オバマは、「領空侵犯したなら撃墜されても文句は言えない」と語った。後に、対米関係が悪化したトルコ・エルドアン政権は、ロシアに謝罪した。

 17年4月、18年4月には、「シリアが化学兵器を使った」といういまだ証拠が一切示されない理由によって(今では反政府イスラムテロ組織の流したデマだったことが判明している)、米軍、NATO軍がシリアをミサイル攻撃した。これも国際法違反である。化学兵器を使った事実をまず検証しなければならないにもかかわらず、うその情報を広め、勝手に攻撃した。
 また、18年9月には、イスラエルの挑発行動でロシアの偵察機イリューシンILが撃墜され10数人のロシア軍人がなくなる事件が起きた。

 これらに対応するため、18年末現在、シリアにはロシアの対空ミサイルS-300、短距離防衛ミサイルシステムが配備された。そのことで、イスラエルはかつてのように自由にシリア領空を侵犯することができなくなってしまったのである。オバマが言った通り、イスラエル軍機が「領空侵犯したなら撃墜されても文句は言えない」事態となったのである。

 このことの意味は、極めて重要だ。米空軍機はアラブ諸国上空を、超大国の権威によって「自由に」飛ぶことができるにもかかわらず、イスラエル軍機は、シリア上空を含む各国の上空を通って、アラブ諸国に飛来し攻撃することが、ほぼできなくなったということだ。イスラエル軍の「利用価値」が下がった。
 
 そのような事態になったうえで、今回の米軍のシリアからの撤退である。

 イスラエル社会に一気に、危機感、孤立感が広まった。トランプがシリアからの軍力撤退を宣言した数日後の12月26日、イスラエル軍機がレバノン空域からダマスカスへの空襲を試みた。

 しかし、この空襲はほぼ失敗に終わった。イスラエル戦闘機はレバノン空域から、およそ16発の遠隔爆弾を発射したが、大部分はシリアの短距離航空防衛によって破壊された。しかも、これまでとは違い、イスラエル軍機は湾岸からヨーロッパに向かう2機の商用航空機の背後に臆病に隠れて、レバノン空域から撃ったのだ。

 そればかりでなく、シリアの防衛ミサイルがイスラエルに発射された。これは「新交戦規則」(攻撃されたら、防衛権に基づき反撃することができる)が制定され、かつシリア軍によって適用された確認となった。これまでなかったことだ。イスラエルによる対シリア攻撃は、シリア軍による対イスラエル直接攻撃によって反撃される可能性が、現実に転化した。

 この空襲にはほかにも意味があった。
 まず、ネタニヤフ政権にとって、攻撃的・侵略的な戦争政策を続けるという姿勢を国内にアピールし、国内政治の動揺を鎮める目的があったのだが、空襲失敗によって、その目的は達成されず、国内政治は混乱したままだ。
 また、18年秋にシリアに配備されたS-300の反応をためす意味もあった。イスラエルの放ったミサイルの多くは撃墜されたが、シリアはS-300を使用せず、イスラエルのF16は撃墜されなかった。
 そして、この空襲の失敗で、従来のイスラエル軍の軍事的優位が大きく後退したことを、アラブ社会と世界は知ったのである。

 政治的危機は、イスラエルのネタニヤフ連立政権から主要政党を抜けさせた。イスラエル政権はもはや従来の侵略政策を続けることができなくなっている。軍事的にも政治的にも何らかの修正が必要となった。19年4月には総選挙がある。


6)中東政治の変化、米国の影響力の後退、サウジの政治的危機

 カダフィのリビアは破壊された。サウジと湾岸諸国は米国の中東での戦争政策に加担し、イスラエルと争わない関係にすでに変化した。イラク、レバノン、ヨルダンは混乱したままであり、イスラエルに対抗する力はない。戦闘機を自由に飛ばせなくなったイスラエルは、勝手にレバノンからシリアにミサイルを撃っており、レバノンはすでにイスラエルの出先基地になった。

 したがって、イスラエルの戦争政策に反対するイランとシリアの政権を弱め破壊し、例えば、いまのレバノンのようにすることがイスラエルの目的である。その目的に従い、シリアとイランに対する米国の戦争介入政策を実行する役目を担ったのである。

 しかし、15年9月からのロシア軍の支援によって、ISやヌスラ戦線などイスラムテロ組織=傭兵組織が力を失っていき、ついにほぼ壊滅状態になった。米国の戦争戦略に積極的に加担したイスラエルは、傭兵による介入政策が破綻したことで、そしてさらに米軍撤退によって孤立することになったのである。
 
 イスラエルばかりではない。中東の大国トルコは、米国のシリアへの戦争介入戦略に加担してきたが、思い通り動かないエルドアン政権をクーデターで倒すという米国の冷酷な動きにエルドアンは激怒し、かつ強く反発し、米国から離れ、ロシア、イランと接近し、シリア停戦に協力するに至っている。

 これまた米国の戦争政策に積極的に加担してきたサウジは、カタールとの断交で中東での影響力を失いつつあり、イエメンへの勝手な爆撃による軍事費支出増大で財政赤字はかさんでいる。さらに「カショギの暗殺」がトルコ政府によって暴露され、窮地に陥っている。

 今後、中東は政治的な再編が進むだろう。この地域での米国とサウジ、イスラエルの影響力は確実に低下したし、この先さらに低下する。他方、ロシアとイランの権威は高まった。

 「イランとの核合意」は、米国だけが一方的に破棄し、米国は単独でイランへの経済制裁を発動している。問題は、今後、制裁にどれだけの国々が加わるか、どうかだ。ロシアと中国は加わらない。EUやほかの国々がどうするかに、注目が集まっている。米国の力の低下の程度を測ることができる。

 サウジとイスラエルはより孤立化するだろう。それは歓迎すべきことだ。
 米軍がさらにイラクやアフガンから撤退することが、事態を好転させ、中東をより安定化させるはずだ。
 米国に、シリアからの米軍撤退に代わる新しい米戦略の採用、新たな中東介入を許さないことが、この先、中東を政治的に安定化させる上で重要な点だ。


(文責:林 信治)








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台湾の現代小説『自転車泥棒』を読む [読んだ本の感想]

台湾の現代小説『自転車泥棒』を読む

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 台湾の現代小説『自転車泥棒』。作者は呉明益。文藝春秋 2018年11月10日発行.


 作者らしい主人公の家族の物語が、当時所有していた実用自転車「幸福号」の探索を通じて叙述される。仕立て屋の父が、仕事に使っていた実用自転車とともに失踪する。主人公が、父と自転車を探す物語は、父や母の経てきた生活をたどっていく叙述となる。自転車をいわば「象徴」として登場させる小説となっている。

 家族それぞれの自転車にまつわるエピソード、思い出から物語はどんどん広がっていく。父親はかつて台湾少年工として日本に徴用され、神奈川県の座間海軍工廠で働いていた。多くの台湾少年工が爆撃で父の目の前で死んだことも触れられる。

 アジア太平洋戦争開戦の12月8日、マレーシア・コタバルに上陸した日本軍は銀輪部隊(自転車部隊)としてシンガポール目指すが、その部隊に加わった台湾人兵士の物語が叙述される。
 また、軍用自転車の一部が台湾から送られたが、故障か何かで送られず台湾に残った自転車があり、小説は戦後の台湾社会のなかでのその自転車の行く末をたどる形をとり、戦後の台湾人の暮らしや台湾社会の描写へとつながっていく・・・・・

 当初、家族の話と思われたが、作者のたどる物語はどんどん広がり、台湾のいろんな人々の経てきた歴史の叙述になる。作者の力量、広い視点を感じさせる。

 物語のひろがりを導き、全体を生きた姿で統一しようとしているもの、それは作者の欲求、あるいは意志として結晶しているのだが、台湾人としての自覚、矜恃のようなものである。国民党による一党支配の時代をくぐり抜けた台湾人の新たなアイデンティティの形成を意識しているようなのだ。それは台湾社会の現代的な問題意識なのだろう。台湾社会の成熟と余裕が、この作者を通じて表現されている。

 作者は、外省人も、本省人も、原住民もみな台湾人であるととらえている。日本の植民地時代があり、日本軍に徴兵され徴集され徴用され、ある者は日本兵としてアジアへ、ある者は少年工として日本へ、それぞれが戦争に巻き込まれた歴史がある。その傷も癒えぬ間に1945年以降は蒋介石の国民党軍が中国から支配者としてやってきて、228事件、弾圧があり、それまで台湾に住んでいたの人々を支配し、反共独裁政治の時代が続く。もちろん支配した軍人ばかりではなく下っ端の兵士もいる。彼らは戦後、台湾で生きた。
 
 時代に翻弄された支配者でない、人々の歴史がある、生き抜いてきた人々の生活がある。人々の経てきたそれぞれ生活にたいする作者の愛着がある、台湾人のアイデンティティの形成のために作者はその見つめなおしを訴えているようでもある。

 強いられた歴史、目の前の事態に対応し従い、余裕などなく懸命に生き抜いた歴史であったとしても、それもまた台湾人のたどってきた歴史であり、そのなかで人々は暮らしてきたし、家族の生活はあった。一つ一つの道行きを認め尊重しながら、その上にやわらかい批判や反省を、作者はかさねる。

 たどった経過から現代の台湾の人々の生活や文化が生まれていることを認めたうえで、歴史全体を把握し引き受け、現代とこれからの台湾と台湾の人々の生活を打ち立てようとするかのような姿勢を、作者は示している。

 このことがかつてなく新しいと思う。民衆のたどった歴史のようなものを見つめたうえで新たなアイデンティティを形成しようという、このような構想が可能になった現代の台湾社会であり、ある成熟なのだと思う。

 内外の厳しい政治・経済情勢、歴史的な事件、あるいは自然的環境の影響を受け、それへの対応に忙殺されて、自らを「振り返る」ことを長らく忘れてきた。世代間、エスニックグループ間、地域間、あるいは外省人、本省人、原住民で断絶した関係、日本統治時代、国民党統治時代があった。そのあとアメリカや日本資本を呼び込むことで経済発展を試み「卑屈」な対応を余儀なくされた日々も続いた。

 断絶してきた社会、あらゆる面で断絶され、互いに非難し、共有せず排除し、あるいは触れることができず触れてこなかった人々の関係、歴史、記憶を、改めて見直そうとしている。全体像を再現し、再発見していくことの意義や社会的な関心を、現代台湾社会や現代の台湾に生きる人々に訴えている。あるいは問題意識、思い、心情、欲求、動き・・・・を描き出している。
 
 家族の体験の描写でありながら、それを「個人的なもの」ではなく、台湾人、あるいは台湾民衆のもの、として描き出している。作者は、ずいぶんと大きな、あるいは豊かな構想の上に立って叙述しているようなのだ。

 それが何となく「ふんわか」とした、時を飛び越え全体が包摂されるかのようなある種「不思議な」感じさえする作者独特の文章の運びによって叙述されるのだ。

 可能にしているものは、これまで生きてきた台湾人への敬意であり、生きてきた人々の生活への尊重、あるいは愛着である。そのことがよくわかる。

 こういうところが優れていると思う。 (文責:児玉 繁信)




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丸紅への手紙 [フィリピンの政治経済状況]

丸紅への手紙:
フィリピンにおける石炭火力発電所の新規建設と操業停止を要求する

2018年10月18日


 丸紅は、石炭火力発電所のような汚れたエネルギーを推進する日本企業です。
 私たち「フィリピン環境問題センター」(Center for Environment Concerns - Philippines)は、丸紅が石炭火力発電所の新しい提案と既存の操業をフィリピン、および世界各地で停止することを要求します。この要求において、基本セクターと環境保護団体のはともに団結していることをここに宣言します。 下記の手紙は日本の交渉団体である「地球の友」によって明日、丸紅に届けられます。


2018年10月18日


國分文也様  社長兼CEO 丸紅株式会社

181018 丸紅 発電所.png
<パグビラオ(Pagbilao)バランガイの発電所コンプレックス、ケソン、パグビラオ、イバンバン、ポロ(Pagbilao、Ibabang Polo)>
*****

親愛なる國分文也社長殿

 私たち「フィリピン環境問題センター(以下:CEC)」は、1989年に設立された非政府組織であり、漁業者、農民、先住民、女性、都市部の貧困者、教会員および専門家を代表する組織のイニシアチブによって設立されました。 CECは、研究、政策提唱、訓練、地域社会のサービス、地域と国際的なネットワーキングを通じた環境問題に対処するコミュニティの支援に努めています。

 私たちは、あなたの会社の石炭火力発電所プロジェクトを直ちに中止するよう求めている各国の団体と連帯して、この文書を書いています。私たちは、石炭火力発電所(CFPPs)近くのコミュニティの経験とその環境への影響に関する多くの研究に基づいて、私たちの懸念を表明いたします。さらに、摂氏1.5度の温暖化に関するIPCCの報告書は、摂氏1.5度の目標を超えないために、10年以内に化石燃料ベースのエネルギーシステムへの急速かつ急激な変化が行われるべきだと述べています。

 フィリピンの漁民、特にバランガイ・イババン・ポロ(ケソン、パグビラオ市Quezon Province、Pagbilao市)は、石炭火力発電所の影響を感じています。フィリピン・ケソン州パグビラオ市のバランガイ・イババン・ポロのパグビライ(Pagbilao)発電所複合施設(以下:PPSC)は現在、丸紅と東京電力の合弁会社であるTeaM Energy CorporationとAboitiz Powerが所有しています。

 最初の2つの発電所ユニットの建設と運営は、漁民の反対に直面していました。漁民たちは組織を形成し、家屋の移動に対して、さらに沿岸生態系、特にマングローブの伐採と土砂の流出による近くの海水の温暖化など観測された環境変化に対し、それぞれ異なる抗議行動を行いました。漁民たちの反対にもかかわらず、発電所の拡大は今年も続いており、今年は操業を開始しました。

 私たちの組織が実施した迅速な影響評価によると、サンプリングサイトのpH値は、国の環境・天然資源管理局の基準を満たしていません。この事実に留意してください。

 また、漁民たちへのインタビューによると、彼らは漁獲量の減少を経験しています。漁場における水の温暖化と海洋生態系の質の悪化がその原因と考えています。これらの変化は、パグビライ(Pagbilao)発電所複合施設(以下:PPSC)建設後に注目されました。

 漁師たちはまた、漁獲できる魚の種類がこれまでよりも少なくなっていることも経験しました。 PPSCで安定した賃金の高い仕事が約束された住民の多くは、現在、臨時の契約労働や一時的な仕事の依頼を受けているにすぎません。プロジェクト提案者による島の発展が約束されましたが、発展など住民たちには感じられませんでした。

 また、土砂の流出は主要な生物多様性地域に位置していることも強調しなければなりません。
 これらの知見をもとに、フィリピン環境問題センター(Centre for Environmental Concerns - Philippines)は、丸紅にPPSCの運転を停止し、新しい石炭火力発電所(以下:CFPP)の拡張と建設を停止を要請します。

 この呼びかけは、私たちの国だけでなく世界中に広がっています。さらに、丸紅に対し、バランガ
イ・イバンバン・ポロ(Barangay Ibabang Polo)やその他のCFPPの現場で生態系を回復させるための代替計画や手段、資源を提供することを求めます。

 私たちは、フィリピンの多くの人々、特に国内の最も貧しいセクターである漁民の訴え、そして環境に対する訴えを考慮してほしいと心から願っています。

敬具、
事務局長、オーウェン・フェム・ミグラソ(Owen Fhem Migraso)
フィリピン環境問題センター (Center for Environmental Concerns – Philippines)

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米中貿易戦争のもつ意味とは何か? [世界の動き]

米中貿易戦争のもつ意味とは何か?

1)米中貿易戦争の現状

 米トランプ政権が一方的に対中国への貿易戦争をしかけた。理由は、「中国が知的財産を尊重しない」ことをもって懲罰するというのだ。自由貿易の原則を破壊し、混乱を与える、極めて乱暴な対応だ。

 7月6日、米政府は、「中国からの産業機械・電子部品など340億㌦相当に関税25%上乗せ」を決めた。早速中国政府は、「米国からの大豆・自動車など340億㌦相当に関税25%上乗せ」の報復措置をとった。
 8月23日、米政府は第2弾として、「中国からの半導体・化学品など160億㌦相当に25%上乗せ」を決め、中国政府も「米国からの古紙・鉄くずなど160億㌦相当に25%上乗せ」し対応した。
 9月24日、第3弾として、米政府は「食料品・家電など2,000億㌦相当に10%上乗せ」し、中国政府も、「米国からのLNG/木材など600億㌦相当に5~10%上乗せ」を発表した。

 その結果、米国側からすると、中国からの年間輸入額約5,000億㌦の約5割が追加関税の対象隣、中国から見ると、米国からの年間輸入額約1,500億㌦の約7割が追加関税の対象になっている。
 どちらも一歩も引かない姿勢を見せている(9月21日、日経)。

2)どちらが有利か? 
 ――短期的には米国が有利だが
長期的には米中経済は減速、世界経済に打撃―-


 米国の中国からの輸入額は年間約5,000億㌦であり、中国の米国からの輸入額は約1,500億㌦であって、すでに中国側には報復関税を発動する余地はなくなっている。報復関税だけ見れば米国側が有利に見える。しかし、どちらも輸入が減少し、経済活動が停滞する。ともにGDPは1%程度減速すると試算されている。

 中国・商務省の高峰報道官は「9月24日に発動する2,000億㌦相当の中国製品への制裁関税の影響を受ける企業のうち、外資系企業が50%近くを占める」、「米国の保護主義は米中両国の企業と消費者だけでなく、世界の産業と供給網(サプライチェーン)の安全をも傷つける」と指摘している。

 高峰報道官の語ったことは、まったくその通りなのだが、米政府はそのようなことは承知したうえで関税措置を発動している。

 今春、半導体をめぐって中国通信機器大手の中興通訊(ZTE) が、米国による制裁で米企業から半導体を調達できなくなり、主力のスマートフォンや通信機器を生産できない状況に追い込まれ、多額の損失を計上した。ZTEは、基幹部品の半導体は米国半導体企業からしか調達できない状況なのだ。現段階では通信における5Gなどの新技術においては、米国企業に「一日の長」があることが判明した。

 米政府はこの結果を見て、中国側は屈服するだろうと判断し、密かに検討してきた今回の関税発動を決断したのではないか。トランプがGoを出したのはその通りだが、一連の関税措置を見て、米政府内で関税発動策の検討を十分に準備してきたことがわかる。

〇米中経済は世界経済の4割を占める

 貿易戦争は、「短期的には米国が有利だが、長期的には企業の米国離れを招く」
 米市場における鉄鋼価格は日欧に25%の関税をかけたため、年初より約4割も上がった。米国の鉄鋼価格はアジア市場に比べて約6割も高くなり、鉄鋼を使う米製造業のコストがあがり輸出競争力を保てなくなりつつある。同様のことは全産業で起き、長期に続くならば米製造業は世界市場に出て行けなくなる。
 米中経済は世界経済の4割を占めており、双方が自国経済をリスクにさらしながら、エスカレートの一途をたどっている。

〇世界景気に打撃

 最悪のシナリオは世界景気の大幅減速だ。貿易戦争が深刻になれば、米中経済とも1%近い成長減速が見込まれる。(9月24日、IMFが米中貿易戦争で、米中とも実質経済成長率が0.9%程度減速との分析を公表)。米経済は減税の効果が薄れる19年後半から景気が下振れする見方が多い。中国経済も、成長率が5%台になれば、企業倒産が増え、人民元などの金融市場も動揺しかねない。

 貿易の停滞から、金融市場の混乱、企業収益の悪化による資金調達コストの上昇という道筋で、世界経済が打撃を受け、後退局面へ突入する可能性が生まれている。

3)エスカレートの一途、
  中国政府は屈服する姿勢を見せていない

 中国石油天然気(ペトロチャイナ、国有)は、カタールガス(カタール国営)から、LNGを2040年までの22年間、毎年340万㌧調達することで合意した。

 17年11月トランプ米大統領が訪中した際、中国は米国製品の購入や資源の共同開発など2,500億㌦にのぼる巨額契約を交わし、LNG(シェール)はその2割以上を占めていた。この契約は実質破棄されることになる。9月24日発動する報復関税の対象にLNGを含め、10%の関税を上乗せする。17年の米国からのLNG輸入量は200万㌧以下であり、米国産調達を打ち切ってもカバーできる。

 米マイクロン・テクノロジーの買収を米国当局に阻止された半導体大手・紫光集団(国有)は、独自開発にかじを切った。今後10年間で1,000億㌦超を投じ、半導体の国産化を急ぐ方針だ。ZTEが屈服したのも米国製半導体から供給を受けざるを得なかったからであり、自社開発を急ぐ。

 米国政府は「中国企業による知的財産の盗用」を非難しているが、米国への特許申請件数において中国からの申請がすでにトップとなっており、知的財産所有においても米国の地位に近づきつつある。米国企業に中国企業がとって代わるのは時間の問題なのだ。

 アリババの馬雲(ジャック・マー)会長は、9月19日杭州で、「貿易戦争は数ヵ月、数年で終わらない。20年間の長期的な争いと意識したほうがいい」と発言している。中国企業ばかりではなく中国政府の認識を示しているのであろう。

 9月26日、習近平は保護主義が中国に「自力更生」の道を歩むように迫っている」と発言した(28日日経)。「自力更生」とは、毛沢東以来長らく中国政府が使ってこなかった「懐かしい言葉」だ。中国政府は、長期戦になると判断しこれに対応する姿勢を明確にしたことになる。

 中国にとって「中国製造2025」は基幹産業を高度化するのに欠かせない。米国の狙いは、中国の産業高度化を阻止するところにある。中国政府は24日、国務院白書で「対米交渉で中国が発展する権利を犠牲にできない」と政策撤回を拒否している。

4)米政府は、何を狙っているのか? 

 米国と中国との対立は、「貿易戦争」にとどまらず、ハイテクや軍事にまで広がるだろう。
 AI技術や5Gなどハイテク技術では現段階ではまだ米国のほうが中国に勝っている。米国側の狙いは、今のうちにハイテク技術を独占し事業化し、米国市場と世界市場で実績を確立し優位に立つところにある。サブプライム恐慌後の回復局面において、米国IT 巨大企業「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が、市場支配においても利益においても影響力を一気に拡大した。膨大にかつ占有的に蓄積した消費取引情報を生かしたビジネス、「CASE」(つながる車、自動運転、シェア、電動自動車)において、第5次産業革命が起きようとしており、現代は世界的に新市場が急拡大する「前夜」なのだ。「中国製造2025」で産業が高度化される前に、ここで中国企業を一気に押しのけ勝利を得てしまおうとしている。このビジネスは、巨大資本を必要としており、勝者の候補はすでに限られている。

 米政府は、あるいは米企業は、「今しかない」と判断しているのであろう。中国との貿易戦争は、大国中国の勃興を抑えつけ、現時点で有利なハイテク技術をベースに新世界市場を支配し、米国が引き続き支配者としてとどまることを狙っている。
 
5)パクス・アメリカーナからパクス・アシアーナへ
  20年以上にわたる長いプロセス

 中国は国内では「中国製造2025」政策をとるとともに、中国経済をより拡大した国際市場に再構築しようとしており、「一帯一路」構想やアジアへの投資のためAIIB設立し、周辺諸国への投資、経済関係の高度化へと踏み出しすでに成果を上げつつあり、中国経済圏は東アジア、インド洋へと拡大しつつある。世界経済の成長の中心は、中国とアジアになった。

 現代は「パクス・アメリカーナ」から「パクス・アシアーナ」ゆっくりと確実に移行している時代なのだ。

 米政府、企業はその現実を、認めざるをえない。それだからこそ、「今しかない」と危機感を持っているのだろう。

 かつて覇権国が英国から米国に移行した。第2次世界大戦がその転機となった。戦争によって大量の殺人と破壊が実行され、そこで米国の軍事力、富を見せつけられた。誰もが、新覇権国アメリカを認めた。キッシンジャー元米国務長官は、「米国が英国にとって代わる過程は平和だった。将来、中国が米国に代替えする過程も平和だが、長い時間がかかると信じる。」と語った。
 しかし、米政府の対応は、キッシンジャーの「予想」とは少し違っているようなのだ。

 トランプ政権のなりふり構わぬ、乱暴なやり方、国連やWTO,国際自由貿易の原則など無視し、「アメリカ第一主義」を貫き通す。少しも平和的ではない。

 米政府は国際機関から離脱する一連の動きを見せている。
WTOの無力化―-米国の発動する「貿易制限措置」はWTO適合性が疑われる、WTO紛争処理の無視
米国の国連軽視、国連の地位低下
「パリ協定」(地球温暖化対策の国際的枠組み)から離脱
国連人権委員会から脱退
ユネスコ(国連教育科学文化機構)から脱退
18年8月末、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出の全面凍結
イランとの核合意の一方的破棄、各国へイラン原油の輸入停止を要求

 米政府のこれら一連の振る舞いは、決して「トランプの気まぐれ」によるものではない。国際機関を通じた米国のこれまでの世界支配では、国連憲章や国際法、人権基準など、米政府が「アメリカファースト」で自国利益を貫き通すにはまどろこしくて邪魔なので、国際機関を離脱したり、無視した行動や戦争を仕かける行動に出ているのである。米政府の主導権は、ネオコンや軍産複合体など乱暴な好戦派に牛耳られているように見える。

 国連への最大の資金拠出国で、世界の政治経済に絶大な影響を持つ米国が、離反姿勢を強め、自国利益のためだけに動くに至っている。その姿勢は、「落日の世界帝国アメリカ」の危機意識の反映に見える。

 「現代の覇権争い」は、米中の経済競争がその舞台となっている。従って、中国政府が覚悟しているように、一気に「カタ」はつかない、長期戦となるだろう。20年、30年かけたプロセスとなる可能性が高いし、保護主義、ブロック経済化の過程で世界恐慌へ突入するかもしれない。国家間の対立、紛争、戦争が起こることも予想される。何といっても米国の軍事力は突出しているから、米国支配層が「戦争を起こせば有利になる」と考えるのは大いにありうる。落日の帝国が「なりふりかまわぬ」対応をとる可能性は、今後高くなり、世界は危険に晒される。もっとも、すべてが米国側の思惑通り事態が進むとは限らない。

 米国の専横に反対し対抗していく動きが中国やロシアを中心に生まれている。対抗も経済競争だけにとどまらないようだ。保護主義に反対する側、軍事力が不利な側は、国際機関から離脱し専横なふるまいをする米政府に対して、国連やWTO、国際機関を通じた協調、国連憲章、国際法遵守などを掲げた国際協調で対抗することになる。これまで確立してきた戦後秩序を擁護するのだから、「理」はこちら側にある。欧州、アジア、ロシア、中東がどのような態度をとるか、注目される。

 すでにイラン核合意破棄、イラン原油輸入に対してそのような構図となっている。この対抗において、米政府によって分断され、日本や欧州のように米国に追随していく政府がさらに生まれるかもしれない。あるいはシリア戦争でも国連、国際法を遵守するロシアによる和平とイスラム傭兵を使ったアメリカ、サウジ、イスラエルの横暴という似た構図での対抗となっている。

 「米中貿易戦争」はこの先の世界の基本的な対立、矛盾の一つの現れのようだ。

(文責:小林 治郎吉)



参考:
GDP(IMF)
    2008年   2013年    2018年推定
米国: 14,719億㌦  16,691億㌦  20,413億㌦
中国: 4,604億㌦   9,635億㌦  14,093億㌦

2016年 購買力平価 (CIA「The World Factbook」)
1位:中国  21,140億㌦
2位:EU  19,970億㌦
3位:米国  18,560億㌦
4位:インド 8,721億㌦
5位:日本  4,932億㌦






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ドゥテルテ政権の評価 [フィリピンの政治経済状況]

アンバ・バーラのエミリーから報告が来た!
ドゥテルテ政権をどう見たらいいのか?

ドゥテルテ.jpg
<ドゥテルテ大統領に耳打ちするフィリピン警察デラロサ長官>

 ドゥテルテ政権をどのように評価したらいいのか、アンバ・バーラに尋ねたところ、エミリーから長文の返答が返ってきた。

 ドゥテルテ政権は今でも支持率が高い。注目される発言をして、「フィリピンのトランプ」と呼ばれたりする。麻薬撲滅戦争を宣言し支持されたが、いつまでたっても終わらない。それどころか取り締まる警察や軍によって何千人も殺害されていて、国内外から超法規殺人、人権侵害を指摘されている。警察や軍を使った強権政治が目立つようになった。

 スプラトリー島の領有をめぐって対立していた中国とは、二国間交渉を行い、即座に対立を解消した。「対立」を理由に、フィリピンと東シナ海に介入しようとしていた米政府は肩透かしを食らった。その「せい」だろう、介入理由をつくるためミンダナオで傭兵であるイスラムテロ組織に事件を起こさせた。

 ドゥテルテ政権は、契約労働者の正社員化を外国企業や国内大企業に求め、一部実現しつつある。さらには、どれだけ法律通り実行されるかは疑問だが、労働安全衛生法や産休法を制定し、近代化を進めつつある。フィリピン経済は好調で、年率7%前後で高成長しており、1,000万人いる海外出稼ぎ労働者は、ここ数年、増えていない。

 また、政権発足時に、フィリピン共産党(CPP)やモロ・イスラム解放戦線(MILF)と和平交渉を進め、CPPと関係のある国民民主戦線(NDF)のメンバーを、環境相や農地改革相などの閣僚に採用した。しかし、最近CPPとの和平交渉は暗礁に乗り上げ、NDFの閣僚を内閣から追い出した。

 ドゥテルテは警察や軍を使った権力掌握において、なかなかしたたかであることも分かった。現在では、国会議員の多くはドゥテルテを支持するに至っている。

 このドゥテルテ政権についての情報は個別的にもたらされるが、全体としてどのように評価したらいいのか? フィリピン国内、人民サイドの評価はどうなのか? アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)に聞いてみた。エミリーの報告は、NDFやその選挙運動に対して厳しかったり、スプラトリー領有についてナショナリズムに影響されていると思えるところ、あるいは労働運動・民主運動の動向についての報告がなかったり、いくつか疑問もあるが、それらは今後意見交換するとして、今回はそのまま紹介する。(編集部)

*****

ドゥテルテ政権の評価

エミリー・ファヤルド(アンバ・バーラ事務局長)


1)ドゥテルテ政権をどう評価しているのか? 
  強権政治にもかかわらず支持率が高いのはなぜか?

 大統領選挙のキャンペーン期間中、ドゥテルテはスカボロー環礁(Scarborough Shoal)のような問題などすぐに解決できると、"嘘の"約束により大衆の支持を得ています。以前ドゥテルテは、「もし私が当選したら、ジェットスキーに乗って島に行き、フィリピン国旗を立てる」と発言しました。

 ドゥテルテは大統領選に勝利した後、警察に反ドラッグキャンペーンを優先させるよう命じました。その結果、特に貧しい人々の多くが警察に殺されました。人権侵害はどこにでもあります。しかし、いまだ多くの人がドゥテルテの「良い」意図を信じています。 TRAINの法律は成立し、主要商品の物価はすべて50%から100%まで上昇しましたが、ドゥテルテの評価はまだ高いままです。

 バタアン州の弁護士の友人の一人が、私たちの討議の場で報告しました。メトロマニラに住む弁護士の友人に、「ドゥテルテに投票したか?」と尋ねたところ、「確かに投票した、しかし今では支持しない」と語ったというのです。「なぜいまだに評価が高いのか?」と聞いたところ、「もし調査人が私たちの家に来たなら、本心からでなくドゥテルテ政権支持と言う。なぜなら、私がドゥテルテを批判すれば、私や家族には殺される恐れがあるから」と語ったという。

 多くの人々がドゥテルテを恐れているので、評価はまだ高い面があるのです。 デリマ(Delima)上院議員、セレノ(Sereno)最高裁長官のような批判的な人物はすべて、排除されました。ドゥテルテに批判的だったエスピノサ(Espinosa)市長は刑務所内で殺されました。バタンガス市のハリリョ(Halili)市長は、市民会館での旗授与式の最中に殺されました。ドゥテルテを恐れている人々の「虚偽の声明」で高い評価を受けている面があります。それは独裁と刑罰の文化です。戒厳令を宣言しなくても、同等の支配が存在しているのです。

2)国民民主戦線(NDF)の政権支持と内閣からの追放

 フィリピン共産党(CCP)/新人民軍(NPA)/国民民主戦線(NDF)(以下:CPP/NPA/NDF)は、大統領選でドゥテルテを支持しましたが、支持したことは大きな誤りでした。ドゥテルテの母親はダバオ市の教師としてキャリアを持つ活動家であったことはよく知られています。しかし、だからと言ってドゥテルテが自動的に活動家の血を受け継いでいるわけではありません。確かに大統領の口から、「自分は親社会主義者で、革命的な政府を望んでいる」などとと聞くことができます。CCP/NPA/NDFは、2016年の大統領選挙でドゥテルテを支持したので、CPP/NPA/NDFに属する政治囚の一部を解放するかもしれません。

 また政権発足当初、ドゥテルテによってNDFメンバーから農務省(DA)、社会福祉省(DSWD)、大統領付き都市貧困委員会(PCUP)の閣僚として任命されましたが、DAとDSWDの大臣は、委員会の支持を得られず、今では内閣から追い出され、なおかつ過去の殺人容疑で起訴される状況です。都市貧困委員会のリサ・マサ長官(元上院議員、女性団体ガブリエラの名誉議長)は、彼女を含むPDFの議員たちへのドゥテルテ政権による起訴命令の後、長官を辞任しました。

 また、フィリピン共産党と政府との和平協議は、数回の会談を経て、今では決裂しています。ドゥテルテ政府は、和平協議のために真剣ではありません。両者は話し合いを続けるでしょうが、現実にはうまくいかないでしょう。

 CPP/NPA/NDFは、「政府を変える」という小さな夢を持っていました。グロリア・マカパガル・アロヨ政権以来、CPP/NPA/NDFは政治組織のすべてがパーティリスト選挙(フィリピン共産党は非合法なので、選挙のためにつくる政党をパーティリストと呼ぶ)に参加して、何人かは国会議員になりました。それ以降、彼らは、 "ガラクタ"政府を変えることなど無駄だということを学びませんでした。有権者や議員を喜ばせ、投票に勝つためのプロジェクトに政府資金を使用し、それをCPP/NPA/NDFの組織に使い、集会に使用しました。それは報じられているとおりです。

-CPP/NPA/NDFを魅了しているすべての選挙
 CPP/NPA/NDFは、エストラーダ大統領時代にグロリア・マカパガル・アロヨを支持し、その後アロヨ大統領を追い払う行動をとりました。その後、2016年の選挙では、ドゥテルテがミンダナオにおける殺人犯であり腐敗していることを知ったうえで、CPP/NPA/NDFはグレース・ポーとドゥテルテを支持しました。なぜドゥテルテを支持するのでしょうか? 内閣に入るためです。なぜ何のためにこのようなことが必要なのでしょうか? バヤン・ムナ(Bayan Muna)、ガブリエラ(Gabriela)、アナクバヤン(Anakbayan)のようなパーティーリストでは十分ではないからです。

 2017年、マニラでのメーデー行進では、2017年にドゥテルテに対する要求がありませんでした。彼らののぼり旗は、帝国主義打倒を謳っていました。それなのにドゥテルテに対しては、内閣に参画していたため、小規模なプラカードさえもありませんでした。
 病気の高齢者ドゥテルテは、NDF出身の閣僚を内閣から追い出した後、逮捕し、刑務所に入れたいと思っています。

3)ドゥテルテ政権の権力基盤は何か? 誰が支えているのか?

 巨大鉱山企業が、大統領選挙中にドゥテルテを支援しました。資本家は、選挙期間中に簡単に移動できるように、大型バイクとヘリコプターを貸し出しました。 ドゥテルテは勝利した後、環境省長官としてジーナ・ロペス(Gina Lopez)を任命しました。ジーナの計画は、国のすべての鉱山サイトを訪問することであり、ジーナは環境基準に対する多くの違反だけでなく、鉱山近くのコミュニティでの鉱業による健康被害を摘発しました。ジーナはドゥテルテ支持者の会社を含む多くの大企業の稼働中止を提案しました。ジーナには鉱山の稼働停止の権限はありましたが、その期間は短期間でした。鉱業会社がドゥテルテに環境省大臣ジーナを追放するように圧力をかけていたため、6年間任命委員会(CoA)から支持を得ることができず、辞任しました。

 ドゥテルテの支持者は資本家層です。さらにマルコス支持者、グロリア・マカパガル・アロヨ支持者を引き継いでいます。だから、彼が大統領に当選したとき、見返りにボン・ボン・マルコス(Bong Bong Marcos)を副大統領にしました。ボンボンへの約束を果たすために、2016年副大統領選挙で選挙管理委員会はレニ・ロブレドとボンボンの票数を再び数えることで争いました。さらに、ドゥテルテは最高裁判所判事を変える必要があると言い出し、サーレノ最高裁長官を放逐し、憲法に違反しました。

 選挙管理委員会がボン・ボンを新しい副大統領であると宣言し、レニ・ロブレド(Leni Robredo)が最高裁判所に上訴したとしても、レニの請求は政権によって任命された忠実な裁判官によって拒否されるでしょう。そうなっても私たちは驚きません。
 近い将来、ドゥテルテが大統領を辞任すれば、ボン・ボン・マルコスが後継者になる予定です。

4)スプラトリー(南沙)諸島領有問題とは何か? 
  フィリピン人民はどう対処すべきか?

-フィリピンは国連海洋法条約(UNCLOS)により仲裁裁判所で有利な判決を得ています。スプラトリー島は、フィリピンの航海距離12マイルにあります。アキノ政権時代のことですが、ドゥテルテはそれを支持しています。

 しかし、私たちの大統領は、スプラトリーと他の島に関する判決を持ちながら、「気まぐれ」なのです。 島の領有問題で、米国と中国とを天秤にかけています。ドゥテルテはしばしばアメリカに反対する発言をしましたが、言葉だけで真剣さはありません。なぜなら、ドゥテルテが植民者である米国を追放しようとすれば、彼は米国とのすべての法を廃止するはずですが、米比二国間協定やEDCA(米比相互防衛協力協定)は何も変わっていないのです。

-ドゥテルテは中国との二国間交渉を行っている。
 ドゥテルテはすでに中国に領土問題で譲歩しています。フィリピンの漁師はスプラトリー海で魚を捕ることができません、中国は石油探査を行い、中国海軍の艦船がそこにいます。そのため、自然資源と主権と財産権のすべてが、ドゥテルテによって中国に与えられました。引き続き、中国はフィリピン政府のプロジェクトなどのために資金を提供しています。

-また、フィリピン政府は中国との二国間貿易協定を締結していますが、もちろんこれは私たちにとって公正な合意ではありません。

 スプラトリーの領土問題は、アキノ政権時代に米政府が問題を取り上げ始めたのは事実です。フィリピンの漁師によると、以前は中国人漁師とフィリピン人漁師は魚を交換していましたし、海における友人同士です。しかし、米国がアキノ前政権に、文字通り(書類と国連で)スプラトリー領有を主張することを薦めて以来、中国もまた対抗するようになりました。米政府はフィリピンと中国の対立を煽りました、なぜならば、米政府の意図は、アジアにおける政治的経済的権益のために米海軍艦船を太平洋海域で自由に航行することにあるからです。

 歴史が示す通り、フィリピン政府はアジアにおける米政府の第一の操り人形です。米国がアジアにおける経済的・政治的権益を追求するためには、米海軍と米艦隊がしばしば太平洋を訪れ、力を見せつける必要があります。

 米国にとってフィリピンは中国に近いアジアの軍事基地の一つです。しかし同時に米国はまた、多くの人口を抱える巨大市場としての中国を保持したいとも考えています。利害は交錯しており、世界は複雑です。

5)麻薬戦争の持つ意味 警察が麻薬ビジネスの親玉 
 麻薬摘発は警察が政権内で権力を確立するプロセスではないか?

 ドゥテルテは大統領に就任した当初、フィリピン警察(PNP)とフィリピン軍(AFP)の統合をすすめました。フィリピン警察チーフとしてバト・デラ・ロサ(Bato Dela Rosa)将軍を任命しました。彼はドゥテルテの忠実な友人であり、フィリピン軍のチーフ・スタッフでもあります。ドゥテルテは、PNPとAFPの給与を100%引き上げて、警察と国軍が統治し、ドゥテルテ内閣に忠誠を払うようにしています。

 麻薬との戦争が宣言されていますが、それは貧しい人たちに対する戦いを意味するにすぎません。ニュースで見るように、"薬物中毒者と売人"として殺された者たちを、私たちはナシ・タンネラス・ラング(スリッパを使っただけ)と呼んでいます。警察は、銃を使って抵抗したために容疑者たちを殺したと、いつも同じ主張をします。

 多くの警察は、薬物シンジケートにかかわっています。末端の売人や、時には大きな売人から捕獲した麻薬は押収し、警察が押収した麻薬を売っています。

 ドゥテルテの「麻薬撲滅戦争」で、何千人にも及ぶ人権侵害を犯しました。貧しい売人なら、その場で殺されますが、ケルヴィン・エスピノサ(Kerwin Espinosa)や息子であるパウロ・ドゥテルテ(Paulo Duterte)などのように富裕者は、賄賂によって法律上の手続きが許されます。だから、「麻薬撲滅戦争」の相手は貧困層なのです。もしあなたが麻薬事業でドゥテルテの敵であるならば、エスピノーサ(Epinosa)市長のように、たとえ刑務所のなかにいても殺されるのです。

 非常によく知られているように、ドゥテルテ家族の一つのビジネスは麻薬です。だからこそ、ドゥテルテの息子のパウロは、フィリピンで62億ペソのシャブリを出荷しました。ドゥテルテは、国営テレビで彼の息子に「上院が招請した調査ための聴聞会に行くな!」と言いました。ドゥテルテも麻薬に従事していて、ビジネス上の敵をすべて取り除き、操作できるようにしたいと考えている証拠を私たちは持っています。麻薬撲滅には真剣ではありませんが、貧しい人々を殺すことに真剣に取り組んでいます。

 薬物キャンペーンにおける「薬物撲滅戦争」とは、強烈な皮肉です。
 私たちは、ここフィリピンでの麻薬問題は、貧困層の問題と深くと関連していると考えています。フィリピン社会は、家族を養うに十分な給料を支払う仕事を与えることができません。そのため何人かの人は薬物に手を出し取引しています。薬物蔓延は社会構造的な問題であり、社会改革をふくむ解決が必要であり、殺害するだけでは解決しません。都市の貧しいコミュニティの末端売人を殺しても、大量の薬物を持ちシャブ研究所を運営している億万長者はドゥテルテの友人や息子であり、法律では有罪にできません。正義はどこにあるのでしょうか? 「麻薬撲滅戦争」とは一体何でしょうか? 貧民に対する戦争にすぎません。

 9月20日、ブリュッセルの国際人民裁判所(IPT)は、人権侵害であるとしてロドリゴ・ドゥテルテ大統領が有罪判決を言い渡すでしょう。

6)中国と米国との関係は? 
  ドゥテルテ政権は米中等距離外交に転換したのか?

 ドゥテルテ大統領はメディアとの対話で米国を批判します。しかし、言葉だけです。真剣であれば、米国の利益を保証するすべての法律が解消されるでしょう。ドゥテルテは米国に有利なように振る舞っています。彼は米国を訪問し、ドナルド・トランプ大統領は今年もフィリピンを訪問しました。

 2018年1月、ジェームズ・マティス米国防長官は、トランプ大統領が提出した国家安全保障戦略にかかわる米国の国家戦略(NDS)を報告しました。「テロとの戦いは継続するが、強力な国家(=中国とロシア)との競争に米国の国家安全保障に焦点が当てるられるだろう」というのです。つまり、これは2001年9月以来の政策と、まったく異なっています。

 ロシアと中国は、米国にとって既存秩序を覆す「修正主義勢力」であり最大の敵という扱いです。
 アジアリバランス戦略(または太平洋に戻ってくる戦略)により、米国は中国に対する戦争を準備しています。米国はアジアに戻るでしょう。米国は最も強力な軍備、武器、軍事技術を持っています。しかし、中国が認めなければ、特に「中国海」と呼ばれるASEAN海に入るのは容易ではありません。米国と中国の覇権争いは長い間続くでしょう。

 米国は日本、オーストラリア、インドと同盟してきました。今年3月、シドニーにおけるASEANサミットでは、ベトナムとオーストラリアが戦略的パートナーシップに調印しました。これは包括的なパートナーシップよりも高いレベルです。米国は、中国に対する台湾問題を沸騰させるため、ヴェトナムとインドの間の連携を促しました。

 トランプは、あらゆるレベルの米国関係者と台湾の間の訪問を奨励している「台湾旅行法」に署名しました。この法律は中国によって抗議されました。

 米海軍のルーチンは「航行の自由作戦」であると宣言しましたが、トランプ政権になって南シナ海での米海軍の頻繁な行動が目立ちます。2017年5月から18年5月にかけて5回の「航行の自由作戦」を実行しまし、中国は抗議しました。
 そういうわけで、2つの強力な国家間の戦争の炎は、燃え続けています。

7)イスラム・テロ組織マウテ・グループには、
  米国やサウジ・湾岸諸国という雇い主がいる。
 中国に接近したドゥテルテ政権を牽制し、
 米軍がフィリピン政治に介入する理由をつくるための
  テロ事件だったのではないか?

 私たちは、17年にミンダナオ・マラウィ市でテロ事件を起こしたマウテ・グループ(Maute groups)が、まだミンダナオにいるとみています。おそらく、このテロ集団は政権を追い詰めることを目的にしているようですが、ドゥテルテが気にしていません。

 しかし、私たちはCIAの手が、ここまで及んだと判断しています。ドゥテルテが中国と友好関係を続け、米国を追い払うなら、ドゥテルテは米国によってゴミ箱に投げ捨てられるでしょう。いつものように、フィリピン政府は米国の操り人形であり、その現実に疑いはありません。ドゥテルテは中国と付き合っていますが、米国を追い出すことはできません。ドゥテルテは人々をいじめ威嚇する大統領ですが、米国をどのように扱うかはよく知っています。

 ドゥテルテの何十億ペソもの銀行口座が公開されました。機密扱いですが、すでにニュースになっていて、この口座は本当です。だから、ドゥテルテはトリラネス(Trillanes)上院議員が求めていた権利放棄に署名できないのです。米国はドゥテルテを簡単に捨てることができるので、ドゥテルテに対しすべてのステップで責任を持てという警告となっています。

 私たちは、中国と共同の石油探査のように、中国との外交政策、パートナーシップ政策を確立すべきです。

8)ドゥテルテへの支持率が高い理由は何か?

 ドゥテルテへの支持率が高いのは、多くの人々がいまだに彼を信じているからです。大統領選に勝つためには、誰もがより良いフィリピンを望むその希望に応えなければなりません。しかし、多くの人々は、ドゥテルテが大統領府にいるときは、失望しています。

 ドゥテルテはカトリック司祭、サント・パパを批判しました。反薬物戦争での殺人、人権侵害についてカソリック教会のコメントを批判したのです。多くの支持者、特に今日のローマカトリック支持者は、政権に批判的ですが、多くの人々はまだまだです。

 しかし、ドゥテルテの支持者は、今日の時点ですでに減少しています。 少額の給与増を予算化しましたが、TRAINが市場に完全に導入され、多くの人々は生活が苦しくなったと感じ、心が変わっています。

 いまだ騙されたままの人は、まだドゥテルテを崇拝しています。たとえあなた方が虚偽の姿を見破っても、フィリピン国民は「嘘つき大統領」を信じる文化を持っています。私たちはそれをカルトと呼びます。宗教的な崇拝と特定の人物への献身システムのようなものです。しかしこれは以前と同じくらい膨大な数ではありません。

 一部の人はドゥテルテを恐れています。なぜなら、ダバオ市長としての任期中、彼は「ドゥテルテ暗殺部隊(DDS)」を持ってました。DDSが本当に存在することはよく知られています。殺されることを恐れて、多くの人は大統領に反対できません。だから、この大統領の本当の人格と態度を見抜いたとしても、多くの人は黙っているほうが良いと判断するのです。無責任と独裁の文化はどこにでもあります。憲法、特に権利章典に表現の自由が記されているにもかかわらず、人々は意見を述べたり主張したりすることができません。ドゥテルテの暗殺部隊によって殺されるからです。

 ドゥテルテ大統領は、5千人のトロール(意図的に攻撃的または挑発的なオンライン投稿を行う人、偽のニュースを作成し、ソーシャルメディアで大統領に反対している人を脅かす人)を雇用しています。選挙の前に、この人々は既に雇用されていました。そしてドゥテルテ家族がどれほど貧しいか発信しました。ドゥテルテが小さな家の中に座って、質素な服を着て、 "このダバオ元市長が裕福ではないのは、腐敗していないからだ"と言いながら、朝食に小さな魚とトマトを食べている写真を発信しました。これらはすべて、「ドゥテルテが腐敗していないことを人々の心に留める」ための嘘でありフェイクニュースなのです。

 これが、彼が多くの支持者を持っている理由です。
 ドゥテルテが大統領に選出されたとき、広報副次官にモカ・ウソン(Mocca Uson)を任命しました。この女性は、政府のなかにいて偽ニュース発信の仕事をしています。モカは、公務員である間、少しも控えめに振る舞いませんでした。彼女にほぼ120,000ペソ/月を支払っていますが、偽ニュースの宣伝と政権の自己賛美以外、何もしていません。

 モカは昨年、大統領の力を示すために、昨年100万人のドゥテルテの支持者を集めようとしました。目標は達成したと宣伝しましたが、ラリーの写真やビデオを見ると、参加者は2,000人以下で、しかも手に無料の食べ物を持っているのです。

9)政権発足当初、NDF 出身の閣僚を任命し、
  最近になって解任している理由は何か?

 NDFの支援は、ドゥテルテが大統領選に勝つために大きな助けとなり、本当に必要とされていました。ドゥテルテはNDFメンバーに内閣内のいくつかの地位を与えましたが、意見を主張し事業を実行するうえでそれほど重要な部門ではありません。 ドゥテルテの仲間と「操り人形」こそ彼にとって最も重要なスタッフです。投資家/資本家の関心を果たし,ドゥテルテの利益を実現している限り、立場と役職において能力があるかどうかは重要ではありません。

 もちろん、ドゥテルテはNDFの思想と立ち位置までコントロールできません。実際には、NDFはホセ・マリア・シソン(フィリピン共産党の指導者、オランダ在住)が批判している通り、ドゥテルテを批判しています。そのため、ドゥテルテとホセ・マリア・シソンはテレビでお互いに喧嘩していることが多いのです。

10)議員の多数がドゥテルテを支持するに至っている理由は何か?

 それこそフィリピンにおける政治的実践と文化であり、大統領府であるマラカニアン宮殿に座りぱなしのすべての大統領は、大統領の政党の権益に結びつこうとする下院議員や上院議員の多数の支持を得ています。大統領支持の議員は自分たち「多数派ブロック」と呼び、党に残っている議員は「少数派ブロック」です。
 大統領の党や大多数の政党に参加していない議員で大統領が議員を助けない場合、担当する開発プロジェクトには資金提供されず、予算は他よりも低くなります。多数派ブロックにいる場合、腐敗し悪化している場合でも、行政は議員を手助けします。それこそ少数派をしのぐ、多数派の力なのです。大統領と伝統的な政治家の利害とは一致しているのです。

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<2017年12月、ドゥテルテは「自分が専制君主になったなら、撃ち殺していいと警察と軍命令した」と発言。ドゥテルテのパフォーマンス>








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フィリピントヨタ労組支援 愛知行動に参加して [フィリピントヨタ労組]

1)フィリピントヨタ労組支援 愛知行動

 9月16日、17日と愛知でのフィリピントヨタ労組支援行動に参加した。2001年の233名の解雇(のちに4名が解雇され、被解雇者は237名)からすでに17年が経過し、闘いは18年目に入っている。エド委員長、ジェイソン執行委員が来日し、支援者とともに16日には名古屋駅前での情宣、17日朝はトヨタ本社での出勤労働者へのチラシ配布、その後トヨタに申し入れ行動を行った。

 トヨタ本社での光景はいつもながら異様だった。チラシ配布に対し、門周辺に大勢の警備員が動員され、総務だろうか何人もの社員はフェンス外の通勤路に見張り番に立ち、チラシを受け取る労働者を監視している。車通勤する労働者は多く、トヨタには3万人分の駐車場がある。駐車場に車を停め、いったん公道を通り、社や工場に入る。そこで私たちがチラシ配布し、総務らしき社員が監視する。受け取るのはせいぜい50人に1人くらい。それでも受け取った人は、門を入ったところに今日だけ設置されたチラシ回収用の箱に、従順にも指示に従いチラシを入れている。門外の監視に動員されている社員、警備員の数だけでも数十人にのぼるのではないか。全トヨタ労働組合の若月委員長によれば、「こんなのは今日だけで、いつも誰もいない」という。チラシを受け取らないで、視線を合わせないで通り過ぎる労働者の姿もまた異様だ。なんと会社に従順であり、静かでおとなしい姿であることか。毎回のことながら、驚く。トヨタの門を入ると、労働者の権利や民主主義は眠り込むのである。「自主的、自発的に」眠り込む。 

 トヨタのような企業が主導する日本社会の未来、あるいは「未来社会」はこのような姿になるのか? というようなことも頭に浮かび、ゾッとした気持ちに襲われるのである。

2)争議に有利な状況が生まれている

 エドたちが結成した労働組合が、2001年にフィリピン労働組合法による組合代表選挙で勝利したにもかかわらず、フィリピントヨタ社は労働組合を認めず、逆に233名を解雇し、さらに会社が肩入れした別組合を立ち上げた。
 この不条理に対し17年間も闘い続けている。フィリピン法を破ったトヨタの解雇に対しILOに訴え、ILOもこれを認め、解決を求める勧告を出した。
 フィリピン政府にとってILO勧告は不名誉なことであり、ドゥテルテ政権になってフィリピン労働雇用省(DOLE)が解決に乗り出してきた。
 ドゥテルテ政権は強権政治を進めていて様々な問題を抱えているが、ここ20年のフィリピンの経済成長に見合った近代化も志向している。契約労働者の正社員化をほとんどの海外資本企業に求め実現させた。日系の住友電装、村田製作所、東芝や古河電気の子会社などは従った。会社国内大企業であるPLDT(フィリピン長距離電話会社)やハンバーガーショップのジョリビーにも正社員化を求め、反発はされたが、政府は5月、PLDTに対し7,000名の契約労働者を正社員化させる命令を出した。実際に適用されるかが怪しいところもあるが、8月には労働安全衛生法、9月に産休延長法案など労働者保護の法を制定している。
 また、これまで日系を含む輸出企業の法人税は30年間以上も5%の低税率であったが、政府はこの優遇措置を廃止し他の企業並みの25%に徐々に引き上げる方針であり18年末に決定する。
 ドゥテルテ政権はトヨタなど海外企業に厳しい姿勢をとっており、フィリピントヨタ争議のとって有利な状況が生まれている。

3)労働雇用省がトヨタを交渉のテーブルにつかせようとしている

 ドゥテルテ政権になって、新しい労働雇用省(Bello長官)は、フィリピントヨタ労組(TMPCWA)代表とも何度も会談するようになった。
 労働雇用省(DOLE)がトヨタを交渉のテーブルにつかせ解決しようとしている。トヨタはいまだに交渉を拒否し続けている。
 Hiroyuki Fukui名で(17年10月15日日付)で、「フィリピントヨタはフィリピンの会社なので、フィリピンの会社と交渉すべきである」と言ってきた。DOLEから日本のトヨタ本社にもレターを出したが、返答はなかった。DOLEの3名の高官は、トヨタ(日本、フィリピン)の態度に腹を立てている。
 Bello長官は、18年8月5日フィリピントヨタの大株主、メトロバンクのジョージTyに対して、交渉をするように勧告した。同時に、日本の豊田章男社長あてにもBello長官の手紙(8月16日日付)を出すことになった。
 また、DOLEのBello長官はTMPCWAの要求により既存の制度を使い「解雇された労働者のための奨学金、生計支援金」支給に合意した(9月14日に署名し調印)。アキノ、アロヨ政権の時もTMPCWAは要求したが 何もなかった。TMPCWAの組合員は大きな前進だととらえている。


4)このようななかで今年の抗議行動は闘われた

 来日する前、エドたちTMPCWAはメトロバンク前で、フィリピントヨタ社大株主であるのジョージ・Tyへの抗議行動を続けてきた。
 あきらかに状況は変わっているにもかかわらず、トヨタは交渉の席についていないし、DOLEからの手紙も無視したままだ。エド委員長、ジェイソン執行委員とフィリピントヨタ労組を支援する会による豊田市の本社交渉では、申入書を受け取っただけで、担当者からは具体的な返答は何もなかった。
 世界に冠たる自動車会社のトヨタが、ILO勧告を無視し、フィリピン政府からの要請も無視し続けているのは、極めて異常だ。
 あらためて、トヨタに対し、早く解決すること、交渉のテーブルに着くことを求める!

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フェイスブックの屈服 [世界の動き]

フェイスブックの屈服

 8月2日、日本経済新聞は、「米中間選挙でロシア介入疑惑」という下記の記事を載せている。

米中間選挙でもロシア介入疑惑(8月2日、日本経済新聞)
シリコンバレー=中西豊紀、モスクワ=古川英治

 「2016年の米大統領選挙に介入したとされるロシアが、11月の米議会中間選挙に向けて再び動き出した。米フェイスブックは7月31日、ロシアの関与が疑われる多数の不正投稿を削除したと発表した。」

 このように書き出して、フェイスブックが削除した投稿を紹介している。

 「『ファシズムに対抗しよう、極右反対』。首都ワシントンで8月10~12日に開くイベントの告知がこのほどフェイスブックに投稿された。同じ時期には、昨夏南部バージニア州シャーロッツビルで極右のデモ行進を開いた白人至上主義者が集会を計画していた。告知されたイベントはこの集会に対抗されるものと見られていた。
 だが投稿は単に社会の分断を狙った政治的な不正コンテンツであることがフェイスブックの調査で発覚し、告知は削除された。
 フェイスブックは32の団体・個人によるページを削除したと発表したが、偽の(フェイスブックが偽だと判断した)反極右集会もその一つだった。
・・・・・・
 反植民地主義をうたった「アステカの戦士」や「黒人を高みに」といったリベラル色強い名称の団体ページも削除対象になった。
・・・・・・
 フェイスブックはここ数カ月、政治投稿の規制と強化しており、移民や銃問題、テロなどの内容を含む広告は軒並み削除してきた。6月には日本政府が出した20ヵ国・地域(G20 )の宣伝広告や米大手メディの政治記事も削除されるなど「過剰」(広告業界関係者)なほどに監視に力を割いていた。」


180802 日経 「フェイスブックの屈服」 001.jpg
<8月2日、日本経済新聞の記事>

1)記事の内容がひどい

 「不正コンテンツ」かどうかは、フェイスブックが判断している。フェイスブックが信用できないと批判されているのに、フェイスブックが勝手に判断し、削除するという。しかもその判断がいかにもいい加減である。そればかりか、米当局寄り、米権力者寄りなのである。

 ひどいのは、「社会の分断を煽る」投稿が、もはや「罪」とみなされており、フェイスブックでは削除する対象とされていることだ。「社会の分断を煽る」とフェイスブックがみなせば、投稿者の了解も得ずに削除するという、そして、実際に削除した。

 白人至上主義のデモ行進は「表現の自由」として投稿は認められており、白人至上主義者の投稿はそのまま載っている。したがって、「社会の分断を煽る」主張ではないということだ。

 しかし、白人至上主義者を批判したら、あるいは白人至上主義者や極右のデモ行進を批判し、対抗する集会を呼びかけたら、フェイスブックによれば「社会を分断を煽る」ことになり、告知は削除された。 
 また、「黒人を高みに」と主張した投稿は「黒人至上主義」であり、「社会の分断を煽る」と決めつけられ削除された。「白人至上主義」はいいが、「黒人至上主義」はだめなのだ。
 
 ほかにフェイスブックが削除した投稿の事例がいくつか挙げられている。

 (1)ジェンダー:「女性らしさ」の要求を批判した投稿は削除
 (2)人種問題:「黒人を高みに」と主張した投稿や「植民地主義に立ち向かった」と
   いうコメントと先住民の写真を投稿した「アステカの戦士」というリベラル色の
   強い名称団体のページは削除された。
 (3)政治対立: ファシズムへの反対イベント
          トランプ大統領の辞任を求める集会を招集
          
 これらの投稿は、至極当たり前の主張である。これらの主張が「社会の分断を煽る」から削除したという。
 「表現の自由」の侵害だということを、理解していない。米当局者の意向をひたすらうかがう、媚びへつらうフェイスブックであり、ザッカーバーグCEOである。

 それから、ここから論理が飛躍するのだが、上記の宣伝、告知は「ロシアによる11月の米議会中間選挙への介入、もしくはその疑惑がある」とされ、しかしそこには何ら明確な証拠は示されておらず、「疑惑」だけが煽られている。自分たちが煽って広がったとする「疑惑」に基づいて、上記の投稿を排除するというのだ、「マッチポンプ」は正当な行為だと、主張するのである。

 極右のデモに対するネット上での批判や反対集会の告知が、どうしてロシアによる米議会中間選挙への介入になるのか? さっぱりわからない。理解不能だ。

 (日本でもかつて同様のことがあった。「陸山会と小沢一郎は怪しい」とTVワイドショーなどで煽りまくった。小沢と自由党は政治的地位を失った。そのあと、陸山会も小沢一郎も無罪であるとの判決が出た。失った地位は回復されていない。)
 
 これは、何か!
 アメリカ社会のかつて唱えてきた「民主主義」は、どこかへ消えてなくなっている。アメリカ社会はすでに変質してしまっている。嘘をついてもとがめる者がいない。嘘の宣伝をあふれさせ、反対意見をうち消して、支配者に都合のいい「嘘」に基づいた政策が実行される。
 
2)証拠もなしに「ロシア疑惑」、2年間ワンパターンの宣伝

 「ロシアによる選挙介入」という報道は、これまでの2年間、何の証拠も示されず、繰り返されてきた。

 ちなみに各国の選挙に介入し政権を転覆させることができるのは、アメリカ政府だけである。これまで何度もやってきており手法を熟知しているから、危ないと騒いでいるのだろうか?

 内容をみれば、噂話の水準だ。この噂話は、フェイスブックだけでなく、ほかの報道機関も熱心に行っている。特に民主党系の報道機関が熱心である。

 2016年、ヒラリー・クリントンが大統領選挙でトランプに敗けた。ヒラリーは自分の政策が軍産複合体、ネオコン、ウォール街、ユダヤ資本寄りであり、ワシントンのエリート政治の象徴であるとアメリカの民衆に嫌悪されていたのだが、そのことを棚に上げて、「ロシアが選挙介入」したから、勝つはずだった大統領選挙に敗けた、ロシアが敗北の原因だと、騒ぎだした。あれから、この2年間続いている「バカ騒ぎ」なのだ。(もちろん、だからと言ってトランプを支持すべきなのではない。)

 「ロシア疑惑」を煽れば、効用がある。軍事費を増やすことができる。いともたやすく目的を達成できるので、軍産複合体は何度も同じ手を使っている。7月16日のプーチンとの首脳会談でトランプが「プーチンに甘いことを言った」として、マスメディアが責め立てている。責め立てれば責め立てるほど、軍産複合体にとって、権力闘争が有利になるのだ。

 アメリカでしきりに宣伝されている「ロシアによる選挙介入疑惑」がこんなレベルである。

 このような記事を、ニューヨークタイムズ紙、ワシントンポスト紙、フィナンシャルタイムズ、TV・・・・など民主党系の報道機関がせっせと載せている。スポンサーの意向に従い目先の利益のためやっているが、どれもみなどれだけ自分で自分の信用、信頼を破壊しているかがわかっていない。トランプを支持した民衆は、NT紙もWP紙も信用していないし、すでに読みもしない。

 アメリカ社会の中層、下層の人々、地方に住む人々は、東部のエスタブリッシュメントを「嫌悪」している。2000年以降だけみても、グローバリゼイションで少数の(0.01%の)富裕層に富が集中し、多くの中間層が没落していった。没落していった人々の不満が、トランプを大統領にした。そのことを米社会のエリート層(=軍産複合体、ウォール街、ネオコン、ユダヤ資本)は理解しなかった。大金を投入しTV広告で嘘でも何でもキャンペーンを行えば、息のかかったヒラリーを大統領にできると思っていたが、そうならなかったのである。

 いまもまた同じ手法で飽きもせずに、ワンパターンのキャンペーンを行っている。
 現在のキャンペーンは、トランプを責めたて、Deep Stateによるトランプ支配を完成するためだ。

3)アメリカ社会でのアンケートの紹介
 (孫崎享氏の7月25日のブログ記事から転載)

 以下引用
**********

 米ロ首脳会談でトランプの対プーチン対応を支持か不支持か?
 WP紙、支持する全体:33%、共和党支持層:66%、民主党支持層:8%。

米国社会激しい分断
現在中間選挙は上院下院双方共和党優位に推移
トランプ共和党支持層の支持固め、二期目大統領目指す

7月25日

 私達はトランプの支持率をみる際、国全体の数字を見るのではなく、共和党の支持者がどうなっているかをみる必要がある。今日、共和党、民主党の支持者の見方は多くの問題で対立する。
 その中、トランプは、民主党支持層がどう反応するかに全く関心がない。共和党員がどう反応するかだ。

 この点、現在、共和党支持者はトランプを強く支持している。
 トランプは、この支持層を固めれば二期目の大統領選で勝利しうるとみなしている。
 米国は伝統的に強い反ソ連、反ロシアであったので、米ソ首脳会談は、支持率アップには難しい案件である。この中トランプは、共和党支持者の高い支持を得ている。

問-1:先週(ヘルシンキ首脳会談で)トランプがプーチンに対応したのを支持するか支持しないか。(7月23日 ワシントン・ポスト)
         支持  不支持
 全体    : 33%  50%
 共和党支持層: 66%  18 %
 民主党支持層:  8%   83 %

問-2:トランプのプーチンとの共同記者会見を支持するか否か(7月19日)
         支持  不支持
 全体     : 40%  58 %
 共和党支持層: 79%  18%
 民主党支持層:  7%   91%

同種現象は貿易関税でも生じている。
 (CBS世論調査6月14~17日)

問-3:「鉄鋼・アルミにトランプの関税をかける決定の賛否(出典"Do you approve or disapprove of Donald Trump's decision to impose new tariffs on steel and aluminum imports?")
         賛成  反対:
 共和党支持層: 71%  17%
 民主党支持層: 10%  73%
 全体    : 36%  48%

**********


 孫崎享氏が紹介している米国紙、米国TVのアンケート調査から、何が言えるか?
 民主党支持者が「ロシア疑惑」を支持し、共和党支持者は「ロシア疑惑」を信用していない。それが如実に表現されているだけだ。
 事実かどうかではなく、もはや「トランプを嫌悪するか否か」のアンケート調査に他ならない。それ以上ではない。

 だれも「証拠」に興味を示していない。
 現代アメリカ社会では、嘘を広めても罪にならない。どちらの「声」が大きいか、の争いなのである。その争いを、民主党支持者と共和党支持者に分かれて行っているのだ。
 したがって、「ロシア疑惑」報道は、どれも信用できない。

 というか、「ロシア疑惑」とは、軍産複合体、ネオコン、CIA,NSAが、主導権をとるための政治宣伝で、これまでも「ロシア疑惑」を煽り、トランプに軍事費を2割も増やさせた。「ロシア疑惑」を煽ればもうかるのである。

 17年末には、トランプ政権に作成させた「基本軍事戦略」において、中国とロシアを既存秩序の変更する「修正主義者」と規定させている。この時も「ロシア疑惑」を煽った。 

4)もはや、民主主義が腐食している

 ますます多くの人々が既存の「アメリカ民主主義政治」が公正な政治や文化、経済発展を実現するための解答ではないと考えるようになっている、人々は幻滅している。アメリカ人ばかりではない、世界中の人々が、幻滅を深めている。

 真実であるかどうかは軽視され、嘘をつくことが罪でなくなった。お金をかけてうそを宣伝し、政治の主導権を握る。これが現代のアメリカ政治だ。

 どうしてこんなことになったのだろうか?
 「グローバリゼーション、新自由主義の帰結」ととらえるべきだろう。

 社会はグローバリゼーションでは一様に豊かになるわけではない。得するのは国民の5%か10%に限られる。大儲けするのは1%か0.1%だ。金持ちはより多くの富を手に入れ、貧しい者はより貧しくなった。中間層がいなくなった。
 グローバリゼーションの「発展」が、現代アメリカ政治の腐敗と混乱を生み出したのだ。これがアメリカ社会の現実だ。ちかぢか、日本社会にも普及するだろう。安倍政権のもとですでに普及しつつあるというのがより正確であるのかもしれない。

 これがわれわれの世界の現実でもある。もっと言えば、新自由主義がこのような世界を出来(しゅったい)させたのである。アメリカ社会に限らない。1991年に社会主義を解体させた後、世界の資本家は、これからは新自由主義の時代であると公言した。しかし、このざまだ。
 
 トマ・ピケティが『21世紀の資本』で、「資本は儲けようとする衝動を自分自身で制御できない、資本主義は国家が制御しなければ野蛮な資本主義に先祖返りする」と警告した。
 この警告にこたえようとする動きは、資本や資本主義の内部からは、少しも生まれてこない。
 新自由主義が、格差を拡大し、社会の腐食を深めるばかりで、何ら解決する力を持っていない、そのことがあらためて証明されたということだろう。

5)信用できないのは、日経の記者も同じ 

 ついでに言っておく。
 このような事件の起こる現代アメリカ社会の事情、病的ともいえる事情、うそが堂々とまかり通る社会にどうしてなったのか、明らかにするのがジャーナリズムであり、ジャーナリストである。調査も分析もしないで、米当局やNT紙、WP紙の報道をもとに「うそ」をそのまま転載し、記事を書いている日本経済新聞の記者。
 記事に署名がある。シリコンバレー=中西豊紀、モスクワ=古川英治の二名の記者。この二人もまた愚かだ。無批判であり、「上」の意向をだけで記事を書く「ひらめ記者」だ。こんな記事を書く記者は、まったく信用できない。中西豊紀、古川英治、あんたらのことだよ。2人の名前は、「信用できない」という言葉と直結している。

6)フェイスブックの屈服

 「フェイスブックの個人情報漏れ」に対する批判を利用し、米権力が攻勢に出て、その結果株価が急落し、時価総額のうち19兆円が消えてしまった。19兆円とは途方もない額だ。

 フェイスブックは「個人情報の洩れ」をひたすら弁明し、そのため監視などの措置をとっているというのだが、その対応は「米権力の意向にしたがって検閲する」行為となっている。目の前で行われているのは、米当局によるフェイスブックの抑え込みである。その結末はすでに見えていて、フェイスブックの屈服である。

 フェイスブックは、Deep State=軍産複合体、CIA、NSAに脅され、屈服した。それが、この記事の示すところだ。
 青年経営者にして大富豪、フェイスブック経営者であるザッカーバーグCEO。つくられたイメージ、伝えられる「颯爽としたその姿」にとは裏腹に、彼が権力にへつらう腰抜けであることが暴露された。

 この先、米権力者はフェイスブックから、世界中の個人情報を、米権力者の求めるがまま提供させることになるのだろう。「個人情報の保護」とは、「米権力者だけに全世界の個人情報を占有させる」という意味に変質した。

 スノーデンによれば、すでに提供しているらしいが、さらに積極的な「犬」になるということなのだろう。詳しいこと、実際のところは、なかなかよくわからないことが多い。

 この経過、米権力によるフェイスブックの抑え込みの経過を、ほかのグーグル、アップル、アマゾン、マイクロソフトが眺めている。そしておそらく同じように、屈服が進むだろう。この先「個人情報」は、米政府、権力者がより自由に利用できるようになるのだろう。

7)フェイスブックの活動を制限せよ!グーグルもアマゾンも
  ネットの巨人企業はCIA、NSAと手を切れ!

 したがって、情報を占有する「米ネット巨大企業」の自由な活動を、世界の人々は自国の権力、すなわち法制度を使って制限し、違反すれば罰し、最終的には追い出さなければならない。でなければ、好きなように支配されることになる。

 中国政府がフェイスブックを自由の活動させていない措置には、根拠があるし、中国人と中国政府にはその権利がある。ロシア政府にもその権利がある。民主主義を守るためには、フェイスブックの活動を制限しなければならない。他の国々も対処しなければならない。

 今回のフェイスブックの対応からは、そのような対処を我々がしなければならないことを教えている。日本社会は、果たして、今からできるのだろうか?   (文責: 林 信治)








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米国の学生ローン [世界の動き]

米国の学生ローン

1)米国の学生ローン残高が160兆円

 7月26日の日本経済新聞によれば、米国の学生ローンの債務残高が、18年3月末で1.41兆ドル(約160兆円)に達しているという。10年前に比べ債務残高は2倍になった。
 
 米国の学生は、平均で約4万ドル(約440万円)のローン残高を抱えて、卒業する。

 学生ローンの債務残高1.41兆ドルは、ホームローン残高、自動車ローン残高よりも多い。
 2007年にサブプライムローンが破綻し、世界恐慌になったが、その時は巨額のホームローンの焦げ付きが恐慌の引き金だった。学生ローンの債務残高がホームローン債務残高より多いとは、異常な「現象」だ!

2)学生ローンに新規参入

 学生ローンは、連邦政府による貸し付けが9割を占めるが、最近、政府の学生ローンより低い金利で借り換えるサービスを提供する民間業者の参入が目立つという。

 最大手は、2011年創業の米ソーシャル・ファイナンス。初めはスタンフォード大の卒業生が後輩に政府より低い金利で貸し換えたアイデアが起業のきっかけだという。同社はこれまで250億ドル以上のローンを組成した。非上場のソーシャル・ファイナンスは企業価値が40億ドル以上とされ、新規株式公開(IPO)も検討しているらしい。
 
 そのほか後発のコモンボンド社やクレディブル社なども、学生ローンの借り換えサービス分野で競う。
 ただし、借り換えできるのは、名門校を卒業し、高収入が見込める信用力の高い人が中心。
 名門校出身者以外は多くの場合対象外。
 上記の、スタンフォード大といえば名門大学である。その卒業生は「返済見込みが高い」=「信用力がある」ということだ。

 さらには、4年制大学ではなく、就職率の高い職業訓練校の希望学生に学費を貸し出すビジネスが広がろうとしている。

 トランプ政権と与党共和党は、学生ローンの規制緩和を検討している。今後さらに民間の参入が増える見通しだ。金融業界にとっては大きな商機になり得るのだという。

3)恐ろしい世の中だ

 教育の機会均等など、どこかへ消えて忘れ去られてしまっている。
 教育の無料化などどこからも聞こえてこない。
 教育の機会も、金融資本が新たに儲ける機会なのだ。それを自由にできるように規制緩和を行うという。

 苦労して勉学に励み大学に入っても、平均で4万ドルの借金を抱えて卒業することになる。
 あくまで平均で4万ドルだ。資産を持つ家庭ならローンなど組まないから、資産を持たない家庭の子弟は、4万ドルをはるかに超える借金を抱えて卒業することになるのだろう。

 卒業しても学生ローンの返済に追われることになる。
 こうやって身につける「学問」とは、どのようなものになるだろうか? 手っ取り早く儲ける方法に転化するのではないか?
 学生は、将来儲かる「学問」を身につけようとする。そうせざるを得ない。
 それは「学問」だろうか? 「学問」そのものが変質してしまうのではないか?

 『「日米基軸」幻想』(進藤栄一・白井聡、詩想社、2018年6月23日発行)によると、「米国の大学の年間授業料が800万円。ローススクール、ビジネススクールは1,000万円かかる。中低所得層家庭の若者は、学生ローンを借りて大学に行く。学生ローンの債務総残高は、自動車ローンやホームローンよりも多い。  民間軍事会社は、「中東に行って2年間、民事軍事会社で働けば、ローンは半分になる」と誘う。ローンを抱えた卒業生にとっては魅力的な話と聞こえる。そのようにして、民間軍事会社は兵隊を常時、10万人から100万人を確保する状態をつくる。以前の徴兵制にとって代わっている。  その結果、この10年間、中東から帰還した学生は一日23人自殺している。徴兵制が撤廃されたが、学費の高騰と社会階級化が米の軍事戦略を支えている。」というのだ。

 恐ろしい世の中だ。
 トランプに追従する安倍政権、米政府の言いなりになる日本政府であり続けるならば、日本社会も同じような状況にすぐにでもなるだろう。

3)忘れないうちに

 7月のいつだったか、日本経済新聞の記事で読んだのだが、経営コンサルタントの冨山和彦氏が、文部科学省の大学教育についての何かの審議会?に呼ばれたときに、次のように提言したという。

 まず、大学をグローバル型大学ローカル型大学に分ける。
 グローバル型大学に予算を集中し、世界的な研究開発、最新の動向を研究させる。
 ローカル型大学では、「シェイクスピアではなく英会話を! 経済学ではなく弥生会計ソフトの使い方を! 憲法よりも道路交通法を!」(・・・ほかにも例を挙げていたと思うが、)身につけさせるようにすべきだ、このように提言したという。

 
 さすがに気鋭の経営コンサルタントである。実に分かりやすいたとえ、表現ではないか。
 確かに、経済学部で教える近代経済学など、ほとんど何の役に立たない。経営者もそう思っているのか、とつい声を上げそうになったのだが、・・・・・

 ローカル型大学では、企業に従順ですぐに役立つ戦力、別に言い方をすれば、考えることや創造することは期待しない、ただ働く労働力を養成するよう、提言したということになる。

 経営者の求めている現在と近い将来の教育に対する「本音」があけすけに語られている。

 新聞記事を読んだ時は、その教養のなさに笑ってしまったが、よく考えればそれは恐ろしいことだ。

 米国における学生ローンの広がりは、アメリカの資本家、経営者、支配層の「教育」に対する「考え」や「扱い」(教育にとどまらないが)が表れているのであり、その点では日本社会も似たような動きがあるのだ。
   


 
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イスラエル、シリア軍機を撃墜 [世界の動き]

イスラエル、シリア軍機を撃墜


1)イスラエル、シリア軍機を撃墜

 イスラエル軍は「7月24日、シリアの戦闘機スホイ22、 2機がイスラエル領空を侵犯したとして、「地対空ミサイル」パトリオットを2発発射し、撃墜した」(25日、共同通信、その他)と発表した。イスラエルが有人のシリア機を撃墜したのは2014年以来である。イスラエルーシリア間のみならず中東全体に、緊張が走っている。

 BBCによると、イスラエル軍は声明で、「シリア軍機スホイ22は領空侵犯したと非難したうえで、1974年に結ばれたイスラエルとシリアの兵力引き離し協定に違反する行為であり、「断固として対応する」と主張。イスラエルのネタニヤフ首相は、「我々は領土への一切の侵入を容認しない。地上からでも空からでも」とシリアを批判し、さらに「当方の軍は適切に行動した」と述べた」と伝えている。

 シリア国営のシリア・アラブ通信(サナ通信)は、シリア軍の消息筋の話として、「スホイ機はヤルムーク渓谷近くの「武装テロ集団」に対する空爆を行っていた。」と伝えた。そのうえで「シリア領空内にいた戦闘機をイスラエルが標的にした。協定に違反していない。」と主張し、イスラエルが撃墜理由とした「協定違反、領空侵犯」を否定している。(25日、BBC)

180725 ゴラン高原golan_heights_v3.gif  <シリアとイスラエル、ゴラン高原>


2)「領空侵犯したので撃墜した」?

 イスラエルは「占領地であるゴラン高原を領空侵犯したから撃墜した」と主張しているが、ゴラン高原はもともとシリア領である。イスラエルが67年の戦争後、長年にわたって不当に占領しているのであり、国連はイスラエルの領土とは認めていない。そのような主張は通らない。

 もっとも、シリアはイスラエルの占領地であるゴラン高原にさえ入っていないと主張している。国内に侵入しているイスラムテロ組織、外国人が多数を占めるテロ組織と戦っており、今のシリア政府に、イスラエルと戦闘、戦争するつもりはないし、そのような余裕もない。シリア機はイスラムテロ組織を攻撃していたのであって、イスラエルを攻撃していたのではない。
 したがって、イスラエルにとって「脅威」はなかったはずだ。

 それから、イスラエルはこれまでシリア領を何度も領空侵犯し、シリアの軍事基地、施設などを直接攻撃してきた。自分たちは領空侵犯し、攻撃しても何ら問題ないが、シリアの領空侵犯は許さないという理屈なのだろうか? きわめて自分勝手な理屈である。

 逆に言えば、「イスラエル機がシリア領空を侵犯したら、撃ち落されても致し方ない」ということになる。

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<イスラエルのパトリオットミサイル>

3) シリアの防空体制が強化されている

 いままで「イスラエル機がシリア領空を侵犯したら、撃ち落されても致し方ない」というのは言葉の上だけのことだった。シリアは迎撃能力を持っておらず、イスラエル機はこれまでシリア領空を自由に飛び回り、何度も領空侵犯してきた。

 2018年2月10日未明、イスラエル軍機8機がシリア国内への空爆を行い、シリア軍の迎撃でイスラエル軍のF-16戦闘機1機が撃墜された。イスラエル軍によるシリア空爆は、1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻以降で最大規模の攻撃だったらしいが、イスラエル軍機が1機とはいえ、シリア軍の対空砲火で撃墜されたのも1982年以来、初めてだった。

 この時イスラエル軍は、8機の戦闘機によるシリア内の12カ所(シリア軍施設8カ所、イラン関係施設4カ所)への空爆を実施した。明らかな侵略行為であり、国際法違反である。
 シリア軍は地対空ミサイル20発で迎撃し、イスラエル軍機1機が撃墜された。爆撃後、ロシアのプーチン大統領がネタニヤフ首相と電話で会談し、自制を要請した。プーチンの一貫した立場だ。米国のティラーソン米国務長官は、イスラエルの防衛行動への支持を表明したが、積極的に介入する姿勢はない。

 中東調査会 中島勇主席研究員(2018年2月13日)は、シリアのミサイル迎撃体制の強化について次のように述べている。

 「・・・イスラエル軍は、シリア紛争が激化した後、シリア国内にあるヒズブッラー向けの兵器を破壊するとして、シリア国内への空爆を実施してきた。空爆の回数は、100回あるいは1000回前後(イスラエル要人の発言)と定かではないが、シリア軍が国内での戦闘に忙殺された結果として、イスラエル軍はシリア領空を自由に侵犯して爆撃を実行してきた。

 こうした状況が変化したと推定されるのは2016年秋頃からで、シリア軍はイスラエル軍の国内での爆撃に対して迎撃行動を取るようになった。そのためイスラエル軍機は、シリア領内への空爆を行う際、レバノン領空から空対地ミサイルを発射するようになっていた。今回(2018年2月10日)の爆撃では、イスラエル軍機はシリア領空に侵入したようだが、シリア軍の迎撃体制がより整備・強化され、イスラエル軍機を撃墜する意思と能力があることが証明された。シリア領空に侵入した外国の戦闘機をシリアが迎撃するのは当然の行動であるが、今後、イスラエル軍機がレバノン領空あるいはイスラエル領空からシリア国内への遠距離のミサイル攻撃などを行う場合、シリア軍がどう対応するかが注目される。・・・」

 これまで何度も領空侵犯、侵略してきたことに対して、イスラエルはどのように弁明するのだろうか?
 イスラエルだけは、領空侵犯する特別な権利を持つというのだろうか?

 イスラエルは、シリア国内にイラン人軍、シーア派系民兵が存在することを非難し、攻撃する根拠として挙げている。イランの軍事顧問が駐留しているから、イスラエルは領空侵犯と攻撃をしてよいという理屈である。

 しかし、シリア政府の合意の下でシリアに駐留する限り、イラン人軍関係者のシリア国内駐留は合法である。イスラエルの論理に正当な根拠はない。
 
 このため、シリアはロシアやイランの支援を得て、迎撃ミサイルを強化している。
 
 シリアの迎撃ミサイル体制の強化はイスラエルに対してだけではない。

 トランプ政権は、18年4月に「シリア政府軍が化学兵器を使った」と決めつけ、ミサイル攻撃を行った。化学兵器が使われた証拠も確認せず攻撃を行った。国際法違反である。のちにジャーナリストやOPCW (化学兵器禁止機関)が調査に入ったが、化学兵器が使われた証拠は見つけられなかった。イスラム反政府勢力のデマに基づいてミサイル攻撃をしたことになる。17年4月にも「シリア政府軍が化学兵器を使った」として、ミサイル攻撃したが、その証拠もいまだ示されない。
 このデマを提供したのは、アルカイダやヌスラ戦線、IS支配地域にいて、彼らとともに行動する、あるいは同一組織の「ホワイト・ヘルメット」である。

 18年4月のミサイル攻撃は、シリア政府によれば、米国のミサイルの7割は、撃ち落としたという。米国政府はすべて命中したと発表したが、攻撃したという化学施設へのミサイル弾頭数が施設の規模に比べあまりにも多く、発表内容に疑義がある。シリア政府によれば、シリア空軍基地などに発射されたミサイルのほとんどは撃ち落したという。

 シリアの防空体制が整備されつつある。そのことは、イスラエルにとって大きな不満なのだ。

4) ISを支援するイスラエル

 25日、朝日新聞デジタルは、「アサド政権軍は南部の反体制派の支配地域をほぼ制圧している。ただ、ゴラン高原に接する一部地区はいまだに過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあり、政権軍側は空爆などを続けている」と伝えている。

 シリア内のテロ組織ISをイスラエルが支援している。
 シリア内の反政府勢力、イスラムテロ組織は、イスラム勢力だそうだが、不思議なことにイスラエルによるエルサレム占領を非難しない。ガザを強制収容所化しているイスラエルを批判しない。
 そして、極めて不思議なことに、このテロ組織はイスラエルによって支援されている。イスラエルはISを含むイスラムテロ組織の負傷兵の治療も行っている。
 「ホワイト・ヘルメット」も決してイスラエルを批判しない。エルサレム占領を批判しない。
 今回、シリア南部から追われた「ホワイト・ヘルメット」はイスラエル軍に保護されて、イスラエル国境を越えて、ヨルダンやイドリブ、あるいは欧州へ逃げた。
 
 シリア内での傭兵からなるイスラムテロ組織は、シリア軍によって駆逐されつつある。アレッポが解放されて以降、イスラムテロ組織勢力の支配地域は、東部油田地帯のデリゾール、北西部のイドリブのみとなりつつある。シリア南部で、シリアの南部、レバノン、イスラエル、ヨルダンと接している地域をシリア政府軍が制圧しつつある。

 イスラエルとシリア南部でテロ集団を制圧が終了しかけたら、背後の支持者・イスラエルが出てきたということだ。

 7月23日の櫻井ジャーナルによると、「・・・侵略勢力、つまりアメリカ、イスラエル、サウジアラビア、イギリス、フランスなどの支援を受けたジハード傭兵は武装解除された上、家族とともにバスでイドリブへ移動している。このシリア南部地域での作戦が終了した後、シリア政府軍はイドリブで奪還作戦を始めると見られている。

 侵略部隊の司令官4名はイスラエルへ逃れ、アル・カイダ系武装集団の医療部隊として機能してきた「シリア市民防衛(白いヘルメット)」のメンバー800名がヨルダンへ逃げたと伝えられている。「白いヘルメット」のメンバー救出はアメリカ、カナダ、イギリスを含むヨーロッパ諸国の要請でイスラエルが実施したという。」

 このような状況下で、今回のイスラエル軍機によるシリア軍機撃墜が起きたのである。このようなイスラエルの反応はほぼ予想されていた、ともいえる。

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長が、7月23日にイスラエルを突如訪問した。イスラムテロ組織が掃討されつつある状況下で、イスラエルが攻撃をしかけ、危機を激化させ、戦争を拡大しないことが目的だと推定される。

 しかし、イスラエルは24日、シリア軍機撃墜の行為に出たのだ。
 そこには「イスラエルの政治的意思」がある。ただ、これからさらに、戦闘を拡大できるかどうかだ。
 もしイスラエルがその態度を改めないなら、シリアはロシアからSS-400などのより高性能の迎撃ミサイルを配備するだろう。

 イスラエルは、シリア国内にイランの軍事顧問、シーア派系民兵が存在することを非難し、攻撃する根拠として挙げてきた。シリア政府の合意の下にイラン人が軍事顧問としてシリアに駐留する限り、シリア国内駐留は合法であり、イスラエルの論理に正当な根拠はない。

 しかし、現在は、トランプ政権がイランとの核合意を一方的に破棄し、イラン制裁を各国に強要しているという極めて不安定な情勢下にある。イランを「悪者」にして、中東を不安定にし、戦争をいとわず、「取引」を有利に推し進めようとしている。この情勢をとらえて、イスラエルが軍事力を使って自身の利害を貫き通そうとすることは大いにあり得る

 その意味では、きわめて危険な情勢なのだ。
 はたして、イスラエルがアメリカの了解を事前に得ていたか、だ。
 たとえ了解を得ていなくても、攻撃した後に、米政府、トランプ政権がイスラエルの攻撃を容認するだろうことは、ほぼ予想できる。
 問題は、米政府がどれくらいの「関与」を本気で考えているかだ。
 イスラエルの行為を徹底して批判しなければならないし、挑発をやめさせなければならない。

5)中東を不安定化する

 「中東の不安定化」はアメリカ政府が歴史的にとってきた戦略である。オバマ政権は米軍ではなく、金で雇い訓練した傭兵=イスラムテロ組織に戦争をしかけさせ、中東に介入してきた。これに同調しているのが、イスラエル、サウジ、湾岸諸国、英国、フランス。
 傭兵を利用した介入が、シリアでは失敗に終わりつつあるのだ。 

 2018年現在、シリアのイスラムテロ組織は、次々に駆逐されつつある。ダマスカス近郊はすでに政府軍が支配し、テロリストは武装解除されて家族とともにバスでイドリブへ退却した。イドリブは反政府勢力の拠点だが、いずれイドリブからも駆逐されるだろう。油田地帯のデリゾールに反政府勢力が残るが、この地域には米軍基地があってイスラム反政府勢力は米軍に守られている。目的はシリアの油田。シリアには20もの米軍基地がシリア政府の承認も受けずに勝手に建設されている。

 それ以上に、世界的な情勢は大きく変化しつつある。

 アメリカはシェールオイルによって、石油を中東に依存しなくてもよくなった。むしろ最大の輸出国になろうとしている。中東諸国の友好国であるサウジも湾岸諸国も、より収奪する対象に代わるだろう。
 米政府にとって負担となる場合は「中東への関与」は減るだろう。
 トランプは中東への関与を減らすような発言をし、軍産複合体、ネオコンから批判され、攻撃され、右往左往している。

 他方、中東で適当に戦争を起こし、不安定化させ、武力で影響力を保持し、武器を売ることは、アメリカの軍産複合体がこれまで行ってきたことであり、このやり方と利権を手放すことはない。
 これまでイスラエルはその役割に欠かせなかった。

 また、イスラムテロ組織を雇い、シリアでしかけた戦争は敗北に終わりつつある。イラクやリビアでは政権を倒すことはできたが、倒した後に現れたのは混乱である。

 このような状況下でトランプ政権のとった「次の一手」は、イラン核合意の一方的な破棄。イランを悪者にして中東を不安定化させ、アメリカの影響力を行使し、取引を有利に進めようとしている。これまでのやってきたことの延長線上の対応だ。やり方はより乱暴になっている。そこには、利害だけでヴィジョンはないし、「見通し」もない

 世界の情勢変化は、イスラエルとってもその存在意味が問われているのであり、今までの役割がそのまま続くわけではない。ウクライナでネオナチ勢力を支持するイスラエルである。イスラムテロ組織を支援する(正確には、「駒として使う」)イスラエルである。シオニズムの論理はすでに崩壊している。そこにはヴィジョンはない。 (文責:林 信治)





 
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映画「ガザの美容室」を観る [映画・演劇の感想]

映画「ガザの美容室」を観る

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<映画「ガザの美容室」チラシ.>

1)
 2018年になってトランプ米政府がエルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館をテルアビブからエルサレムへ移動させた。イスラエルによる入植や占領、首都移転は、国連の安全保障理事会決議に違反している。中東の人々を憤激させている。

 2018年5,6月にガザでは連日4万人におよぶデモが繰り広げられ、60人の非武装のパレスチナ人抗議行動参加者が、イスラエル狙撃兵に殺害された。米大使館移転を祝い「イスラエル人がエルサレムで踊っている」間に、ガザでは武器を持たないパレスチナ人の血が流れていた。トランプ政権はイスラエルを全面的に支持し、パレスチナ人の殺害をまったくとがめていない。

2)
 映画は2015年の作品なので、2018年のエルサレム首都移転より前につくられている。ただ、ガザの置かれている状態は、変わってはいない。戦闘状態のガザ、イスラエルによって経済封鎖され屈従を迫られるガザ、巨大な強制収容所と化したガザは、何も変わっていない。

 パレスチナ・ガザの美容室。女たちが集まっておしゃれやメイクする。離婚調停中の主婦、ヒジャブを被った信心深い女性、夫からの暴力に悩む女性、結婚を控えた若い娘、出産間近の妊婦、美容室クリスティンとその家族、雇われている若い美容師・・・・・・・・・。戦争状態のガザの日常を生きる女性たちの姿を描いている。ときおり美容室から見える外の光景も映し出されるが、画面の大半は美容室のなか。ドラマは美容室のなかだけで繰り広げられる。その点では監督は、きわめて実験的な手法をとろうとしている。

 イスラエル軍の飛ばすドローンは、爆音で登場する。目の前にドローンやイスラエル兵の姿は登場しない。美容室の近くで戦闘が起きるが、これはどうもガザを支配しているハマスの軍あるいは警察と密輸・犯罪組織との戦闘のようだった。

 「虐げられたガザの女性たち」という世界に広まった「イメージ」に対して、監督は不満があるようで、そういうつくられたイメージを破壊したかったのだろう、そのように受け取ることができる。

 おそらく監督はガザの女性の日常、生きた姿を描き出したかったのだろうと思う。戦闘状態のガザでも、ガザの女性は生きているのであり、そこには家庭内の暴力に悩む女性もいれば、離婚もあるし、結婚を控えた娘もいる。何かよくわからなかったが、仕事がなく薬に手を出した恋人と別れられない美容師もいる。美容院の経営者の女性はどうしてなのかロシアから移住してきて、ガザで美容室を経営している。ときおりロシア語が飛び交う。蝋かガムテープかような接着剤を塗り、いきなり剥がしてムダ毛処理をしたり、マニキュアを塗り、おしゃれをする。どれもみな、ガザで生きる普通の女性たち。監督は、女性の日常の姿を描き出したかったのだろうということはよくわかる。


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<チラシ裏>

 美容室が戦闘に巻き込まれた時に、「戦争をするのは、いつだって男たち」、「私たちが争ったら、外の男たちと同じじゃない」と誰かが発言する。でも、若い美容師の恋人らしき髭の男が撃たれ負傷したのをみて、女たちは美容室に引きずり込んでハマスの警察から隠そうとする。
 だから、チラシには「戦争をするのは、いつだって男たち」と印刷されていたけれども、映画は必ずしも、戦闘状態のガザを「男と女の対立」として描き出しているわけではないことも、明らかなようだ。

 あるいは、誰だったか、「ハマスもファタハもうんざり」(?)といった発言も飛ぶ。
 ハマスもファタハも、おしゃれや美容など何の興味も示さず、闘いのため女性を従わせようとし、時には有無を言わせない家父長的な扱い、支配もあるのではないか? たぶん、監督はガザにおける女性の扱われ方に対する批判を描き出したかったのだろうと思う。

 あるいは「ハマスもファタハもうんざり」というセリフは、この映画が外国で上映されるための「パスポート」なのかもしれない、というようなことも思った。本当のところはよくわからないが、そうであってもなくても、どちらでもいい。
 
 イスラエルの姿は出てこないし、戦闘も誰と誰との対立なのかもよくわからないところもある。イスラエルによる経済封鎖、支配への批判は直接的には何も描いてはいない。観る者が想像力を働かせて感じとれ!ということなのだろう。(少し、無理があるようには思える。)

 戦闘状態のガザ、イスラエルによって経済封鎖され屈従を迫られるガザ、巨大な強制収容所と化したガザ。そこにも生きている女たちがいる、その姿を伝えたい、これが監督の描きたかったことなのだろうと思う。

 たしかに、その発想はガザの現実生活、これまでの描き方扱われ方にたいする監督の批判があるようなのだ。
 ただ、その批判はより徹底したものか? より本当の姿を描き出したことになるのか? ということが次に問われる。
 美容室のなかの女たちの姿だけで、ガザを描き出すという監督の野心的で実験的な手法は、果たして成功しているのだろうか?

 いろいろあるが、十分には成功しているようには思えない、というのが私の印象だ。
(渋谷アップリンクで上映中)
(文責:児玉繁信)













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トランプによるイラン核合意破棄の意味 [世界の動き]

イランとの核合意破棄の意味
 トランプ米政権の狙い

1)トランプはイランとの核合意の一方的な破棄を通告


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<2018年5月8日、米の核合意破棄をうけて会見に応じるイラン・ロウハ二大統領 (Iranian Presidency)>

 イランが核合意を遵守しているという国連国際原子力機関の報告を無視し、EUやロシアや中国といった署名国の反対にもかかわらず、5月、トランプ政権は一方的に事実上の合意終了を発表した。11月4日には、イランから原油を輸入する各国企業と取引した取引した外国金融機関は、米国の国内法「国防授権法」により、ドル取引ができなくなる。ドル取引を禁ずるというワシントンの経済制裁が実質的に発効する。

 EUや日本は、米国によるイランとの核合意破棄に反対したが、EUや日本の企業はトランプの脅しに屈服し、イラン原油輸入停止へと動いている。
 既にフランスの巨大エネルギー企業トタルは、イランの巨大なエネルギー部門でのジョイント・ベンチャーを止めると表明した。デンマークの海運マークスもイラン原油引き受け中止を表明した。インドも追従する見込みだ。

 日本の石油元売り企業はイラン原油の輸入停止に向けて調整に入っている(7月19日、日経)。日本は輸入量の5%をイランから輸入しているが、これがゼロになる。

 他方、中国とロシアは核合意破棄に反対するとともに、特に輸入大国である中国は原油の輸入は継続すると表明している。

 イランは、現状日量380万バレル生産し、250万バレルを輸出しているが、約100万バレル程度減る見込みであり、その分外貨収入が減少する。イランは一層、中国やロシアへ接近することになる。

2)米国の狙いは、イランの核ではなく石油だ

 イラン核合意のトランプ政権による一方的拒否で明らかなことは、イランの核計画自体とは全く無関係だという事実だ。核合意破棄の目的は、イラン原油輸出と石油・ガス開発に対する経済制裁を再度課すための口実だ。

 7月2日、あるアメリカ国務省幹部が、核合意破棄の狙いを告白した。“原油輸出による収入をゼロにして、イラン政権への圧力を強化するのが我々の狙いだ。世界市場の混乱を最小化するべく我々は努めているが、石油生産能力には十分な世界的余力があると我々は確信している。“と語った。(「ワシントンの最新の神話とウソと石油戦争」2018年7月6日、F. William Engdahl、 Blog「マスコミに載らない記事」)

 ただし、実際には輸出をゼロにすることはできない。中国は輸入を拡大するだろう。

3)アメリカはシェールオイル増産、シェア獲得を狙っている

 いま一つの狙いは、アメリカのシェールオイルである。こちらの目的が主なのであろう。
 原油価格は現時点(2018年7月19日)で1バレル=70~80ドルに達しており、アメリカのシェールオイルにとって絶好の条件だ。増産し輸出しシェアを拡大できるチャンスだ。

 アメリカはOPECに加盟しておらず、しかもOPEC非加盟国も含めた「減産合意」からも自由にふるまっている。イランを非難しイラン原油の輸入を停止させれば、アメリカのシェールオイルの売り先が広がるのである。

 イラン核合意破棄という安全保障にかかわる「火遊び」をしても「石油生産能力には十分な世界的余力がある」という判断は、当然のこと、シェールオイル増産を想定している。アメリカ・シェールオイル生産に資金を出しているウォール街主要銀行の要求による最優先の外交政策なのだ。アメリカによる石油支配が有利になるように、主要な石油の流れを混乱させる戦略が背景にある。

 イランとは別に、米政府が経済制裁するベネズエラでも、社会政治情勢の混乱で原油は減産となっている。
 国際エネルギー機関によれば、ベネズエラ原油生産は、6月は平均で日産136万バレルで、5年前の290万バレル/日から激減している。さらに50万バレル程度減りそうだ。米国制裁によりハイパーインフレにより、国民生活は疲弊している。国営石油会社PDVSAは資金不足から対外支払いができない。資金人材不足から、油田の補修ができず新規油田開発も停滞している。

 OPECが非OPECであるロシアなどに呼びかけて17年に始まった協調減産で、世界の在庫は減少し十分な余裕はない。そこに米政府はイラン、ベネズエラ、リビアの石油供給を標的にすることで、原油価格を60~80ドルに調整し上げてきた。
 ただし、18年7月になって、1バレル=80ドルを超え、このままだとガソリン価格が上がり、10月の自身の中間選挙に影響すると判断したトランプは、OPECに増産を要求した。「ガソリン価格が上がったのはOPECのせいだ!」というのだ。

 身勝手としか言いようがないのだが、イランを追い込みたいサウジはこれに応じる。イランがイエメンのシーア派勢力とシリアのアサド政権を支持しているから、中東支配がうまくいかないと思い込んでいるサウジは、これに応じる。
 
 国際エネルギー機関(IEA)によれば、OPECの余剰生産能力は6月末時点で日量324万バレル。そのうち、サウジが180万バレル。余剰生産能力の大半を占めている。
 しかし、増産といっても原油価格が下がってはサウジも困るので、増産は日量70‐80万バレル程度になりそうなのだ。

4)シェールオイルにとって、1バレル=60‐80ドルがいい

 「テキサス州を本拠とするアメリカ・シェール石油最大生産者の一社、パイオニア・リソーシズの会長スコット・シェフィールドが、最近のOPEC会合中、最近のウィーンでのインタビューで、 今年末までに、アメリカ合州国はロシアを超えて、世界最大の産油国石油になると発言した。アメリカの生産は、テキサス州のパーミアン盆地などのような場所のシェール石油生産を基に、3-4ヵ月で日産1100万バレルを越え、“非常に短期で”1300万バレル/日にいたり、7年か8年内に、1500万バレル/日になり得るという。現在、シェールオイルにとって、最も好ましい価格は、1バレルあたり60ドルから80ドルの範囲だと彼は述べた。」(「ワシントンの最新の神話とウソと石油戦争」2018年7月6日、F. William Engdahl、 Blog「マスコミに載らない記事」)

 「イラン、ベネズエラ、リビア、ナイジェリアの減産は、計160万バレル程度。OPECで70~80万バレル増産しても、足らない。イランやベネズエラの減産は、すぐには解決しない。そのため、今後当分のところ1バレル=60~80ドルで、荒っぽい値動きをする。」(7月18日、日経 「原油相場、米国次第で乱高下」 岩間剛一・和光大教授)と予想している。

 市場の動きを見るならば、思惑通りすすんでいるということなのだろうか。

 イランとの核合意破棄は、原油価格の調整が目的の一つである。
 米有力エネルギー企業は、シェールオイルが世界市場での地位を獲得する「目先の利益」を狙っている。トランプはその代理人であり、その「目先の利益」に沿った外交政策なのである。
            (文責:林 信治)              





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中興通訊(ZTE)への米国制裁解除 [世界の動き]

中興通訊(ZTE)への米国は制裁を解除

ZTE 中興.jpg
<中興通訊社(ZTE)>


 中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)は、7月13日に米国が制裁を解除し、3ヵ月ぶりに業務を全面的に再開した。
 17年4月にイランなどへの輸出規制に違反し、米政府から「7年間にわたって米企業との取引を禁止」された。その結果、主要部品を調達できず、経営危機に陥りかけたが、制裁解除でひとまず最悪の事態は回避したという。
 
 「制裁」によって、米企業からスマホや通信機器に使う半導体など、主力製品の基幹部品を調達できなくなった。工場もほぼ操業を停止した。全世界でスマホの販売が中止に追い込まれれた。
 上場する香港取引所、深圳証券取引所での株取引も停止した。再開したとはいえ主力事業が約3カ月間も停止した代償は大きい。

 ZTEの17年売上高は、5,700億円。17年1~6月期は23億元の黒字だった。
 制裁を受けた米国市場がへのスマホ供給がメイン。日本でも、ドコモ、KDDI,ソフトバンクはZTE製スマホを投入していた。
 米国に支払った罰金:1,600億円であり、18年1~6月期:損失は▲70~90億元になる。株価時価総額は、制裁前の2.1兆円から、直近は1.1兆円。約1兆円が吹き飛んだことになる。(日経、7月18日)

 今回のZTEへの米国政府の制裁は、あくまで米国国内法でによるもの。このようなことができるのは覇権国アメリカだけだ。今回の制裁で驚いたのは、

1)米国政府の強硬な姿勢である。世界一の米市場を抱えているとはいえ、このような強硬な態度に出るのか、という驚きだ。これまで世界一の市場を抱え、基幹部品の半導体を米国企業が設計し生産するから、米国政府が制裁を発動できたのだが、すでに世界の覇権をめぐって中国とアジアは強力なライバルであり、すでに一部は中国市場、中国企業が世界市場を席巻している分野もある。制裁を発動すれば、反作用も覚悟しなければならない。

2)今回は基幹部品の半導体ときいたが、ZTEは米国企業から供給を受けざるを得ないらしい。現段階ではいまだ通信における新技術(5Gなどにかかわると聞いた)においては、米国企業が優れており、いまだ「一日の長」があることが今回の制裁で判明した

3)しかし、この技術上の「差」は近年、急速に縮まっており、近い将来中国企業が米国企業を凌駕するであろうことも確実だ。したがって、制裁発動は、落日の覇権国アメリカが、急速に勃興する次の時代の覇権国中国に、最後の無茶を押しつけている姿だ。「差」は技術上ではなく、世界一の市場を抱える政府の権力による法規制、市場ルールなどを使った対応なのかもしれない。

4)いずれにせよ、米国は孤立を深め、ゆっくりと時間をかけてその地位を譲ることになるだろう。



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「済州に春を告げる」 [世界の動き]

 少し遅くなったが、済州島での4・3民衆抗争の追悼集会に参加した。下記はその時の報告。

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「済州に春を告げる」

 4月2日から5日、済州島4・3民衆抗争70周年記念追悼行事に参加した。済州島4・3平和公園で開かれた追悼集会に、文在寅大統領が訪れ演説した。大統領が4・3事件70周年の追悼集会に参加すること自体、画期的な出来事だ。犠牲者を追悼するとともに大統領は、生存者と遺族に「国家の暴力が起こしたあらゆる苦痛」に対し、深く謝罪した。そのうえで「4・3の完全な解決こそが済州島民と国民の皆が望む和解と統合、平和と人権の確固とした土台になる」と宣言した。

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<4・3済州島平和記念公園、4・3事件追悼集会で演説する文大統領>

1)済州4・3事件とは?

 1945年の解放後、朝鮮は国連による5年間の信託統治とされた。解放直後の朝鮮は左派が右派を圧倒しており、米軍政は植民地時代の軍、警察、官僚機構などの支配機構(=旧親日派)をそのまま引き継ぎ、46年の10月人民抗争などで左派勢力を徹底して弾圧した。他方、北朝鮮では金日成を中心に親ソ政権が早くもできつつあった。朝鮮社会は独立を求めたものの、信託統治をめぐり左右両派が激しく対立し混乱するなか、便宜的な米ソによる分割統治が、恒久的な南北分断へ向かってしまう事態となってしまった。47年夏頃からは隣の中国では人民解放軍が徐々に勢力を拡大しつつあり、このままでは朝鮮は親米政権となりえないと危機感を抱いた米政府は、47年8月以降、明確に分断国家づくりに動き出す。アメリカから李承晩を連れてきて大統領とし、これを支える勢力として日本の植民地支配に協力した軍、警察などの旧親日派を利用し、反対する人々を弾圧した。そのうえで38度線以南だけで単独選挙(48年5月)を強行し、南半分に反共独裁の親米政権をつくった。済州4・3事件はその過程で起きた。

 済州島では、47年3月1日の独立節のデモに参加した島民に、軍政警察が発砲し十数名の死傷者を出した。島民による抗議のゼネストに対し、米軍政は本土から警察や西北青年団などの極右集団を派遣し弾圧で応えた。島民多数の要求する「単独選挙反対、南北統一選挙実現」への弾圧もあり、警察や西北青年団にたいする島民の怒りと不満は頂点に達し、南朝鮮労働党による48年4月3日の蜂起を当初、多くの島民が支持した。軍、警察、右翼団体は蜂起した武装隊、島民の区別なしに強姦、殺戮など徹底した弾圧を実行した。島民を巻き込んだ数年間に及ぶ抗争となり、その間に朝鮮戦争もあり、数万人の犠牲者を出した。

 したがって、様々な要因が絡んでいるものの、4・3事件を引き起こした第一の責任は米軍政にあり、李承晩と旧親日派にある。韓国の軍事政権、保守勢力は、旧親日派から生まれ引き継いでおり、そのため韓国ではこれまで長きにわたり、「4・3事件」と「旧親日派」問題の歴史には触れることはできなかったのである。


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<島西部、旧日本海軍基地近くの掩体壕、針金でつくった零戦が置いてある>

2)画期的だった文大統領の演説

 4月3日の文大統領の演説は、2000年制定の「4・3特別法」、2003年「真相調査報告書」を受け継ぎ、発展させた内容だった。まず、1)事件は「国家の暴力が起こした」、として「国家の責任を認め」、2)犠牲者を追悼し謝罪した。3)「4・3の真実と記憶を、明らかにすることが民主主義と平和、人権の道を開く過程である」と述べ、4)「4・3の完全な解決を目指す」、「4・3の真相究明と名誉回復が中断したり、後退することはない」と約束した。

 大統領は特に、犠牲者の被った被害一つ一つに触れた。被害事実をきちんと調査し解明することをまずすべきだと語ったのである。その意味は重要だと思う。

 日本からの参加者とともに、4・3事件70周年の記念行事などに参加したのだが、一連の記念行事は、「追悼と和解」がその主調だった。米軍政の責任を指摘する市民団体の配布したチラシもみたが、済州市主催の4・2前夜祭でも、4・3追悼集会でも、韓国政府による暴力と責任を認めたものの、事件を引き起こした米軍政や旧親日派に対する責任にまでは触れなかった。

 その一方で、4・3追悼事業は多くの若者やボランティアによって担われており、4・3の全容を自分たちで解明するという意欲に満ちていた。

 言葉がわからなかったのであくまで私の推定であり理解なのだが、韓国社会にとって4・3事件の解明は、いまだその途上にあるからなのだろうと思う。現時点では、一つひとつの被害事実の解明と確認のプロセスが必要であり、事件の全容について韓国国民に共通の認識をつくりあげることが大事なのであって、韓国が抱える建国時の歴史評価、米軍政や旧親日派の果たした役割の評価は、事実解明のうえでの課題ととらえているのではないか、それを人々による民主化運動として実現しようとしているのではないか、そのように理解した。

 文大統領は演説で、「もう私たちは痛みの歴史を直視できなければなりません。不幸な歴史を直視することは、国と国のあいだでだけ必要なことではありません。」と、自国の歴史の見直しを明確に指摘したのである。


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<済州島、朝天面北村里、島民の虐殺のあった場所に立つ碑>

3)済州島4・3平和公園追悼集会

 日本から200名を超える参加者のなかに、93歳になる作家・金石範の姿もあった。
 2015年10月16日、朴槿恵政権は金石範の韓国入国を拒否した。その理由は、2014年4月に「済州四・三平和財団」平和賞の初代受賞者に選ばれた金石範が、授賞式で事件当時の政権を批判したからだ。済州島で住民を虐殺したかつての政府や軍・警察関係者の政治路線を人的にも、政治的にも引き継ぐ保守勢力がいまだに朴政権の一部を構成し、影響力を持っていたのだ。

 ついこないだの出来事である。金石範と作品『火山島』は、韓国社会に全面的に受け入れられるため、今もなお「歴史の空白」を埋めるべく闘っているのである。

 そのような経緯を知る者にとって、追悼集会はより感動的な場面となった。文大統領は演説で「4・3を記憶することが禁忌であり語ること自体が不穏に見られた時節、・・・作品に刻み込み、忘却から私たちを呼び覚ました方たちもいました。・・・1978年に発表した小説家・玄基栄(ヒョン・ギヨン)の「順伊おばさん」、金石範の「鴉の死」と「火山島」・・・・・・・」と、敬意を込めて金石範らの名前と作品をあげた。金石範はまさにその場にいた。どのように演説を聞いたろうか、歴史が大きく動いたと実感したのではなかろうか、そのように思ったのである。

 日本に住む私たちが、一端とはいえ4・3事件を知っているのは、まさに金石範や金時鐘が書き、また語り続けてきたからにほかならない。


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<白碑に、「4・3民衆抗争碑」と名を入れる金石範>

4)隣国の大統領とわが首相を比べてみる

 韓国政治が大きく変わりつつあることを、私たちも実感した。4・3追悼集会の参加者に握手を求められ、その一つ一つに応じ、もみくちゃになる文大統領の姿を間近で見た。ろうそくデモなどの人々の運動とともにあろうとする文政権への「支持」の姿なのだろうと思う。

 文大統領は、「4・3事件を直視し、歴史の真実と記憶を、明らかにすることが民主主義と平和、人権の道を開く過程」と宣言した。そのことを「済州に春が来ています」と表現した。

 まったくその通りだ。

 片や文大統領とはまったく対照的に、「慰安婦の強制連行はなかった」、「慰安婦問題は、朝日新聞と吉田証言がつくりあげたウソだ」と、歴史の真実の書き換えに奔走しているわが安倍政権である。文字通り、逆のことをやっている。「慰安婦」被害者の被害事実の一つ一つを、嘘で捻じ曲げ、メディアを利用したキャンペーンを行い、歴史を修正している。

 文大統領に倣って言うならば、安倍政権が行っているのは、「歴史の真実と記憶の書き換え、修正は、民主主義と平和、人権の道を閉ざす過程」であるということになるのだろう。

 国連人権委員会の勧告は、そのような安倍政権の態度を厳しく批判し、「慰安婦」問題の解決を厳しく求めている。

 「慰安婦」被害者の様々な被害事実の一つ一つを明らかにする事業を行い、被害/加害の歴史を認めさせ、その被害事実に対する日本政府の責任を認めさせことが必要だ。困難だけれども、「慰安婦」問題の解決を日本国民の自発的な自主的な運動として取り組み実現させることが、何よりも重要なのだ。

 そのようにして、「慰安婦」問題の「歴史の真実と記憶を、明らかにすることが、私たちの民主主義と平和、人権の道を開く」道でもある。4?3事件70周年記念行事に参加しあらためてそのように思ったのだ。 (文責:児玉 繁信)

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<漢羅(ハルラ)山>




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今年も三多摩ピースサイクルに参加! [沖縄、基地反対]

今年も三多摩ピースサイクルに参加!
 
1)今年もピースサイクルに参加!

 ピースサイクルは、8月6日広島、9日長崎にむけて、日本の各地域からサイクリングしながら反核平和を訴え、また各地方自治体を訪ね平和行政について意見交換をしながら、広島市長、長崎市長あてのメッセージを届ける活動をしている。今年で33年目になる。

 東京・三多摩地域では、事前に各自治体の平和行政や人権擁護の取り組みとその内容についてアンケートを送り、各自治体を自転車でまわり、その回答を受け取り意見交換する活動を行ってきた。三多摩地域では、7月6日(金)、7月9日(月)~13日(金)の6日間にわたり各自治体を訪問した。7月10日(火)、11日(水)の二日間、三多摩ピースサイクルに参加した。
 
 ピースサイクルは、極めて意義のある活動だ。各自治体ごとに平和行政の進捗状況に違いもあり、特色もある。市民サイドでチェックしたり、意見を述べる機会となっている。しかも33年間継続してきたことから、長い期間にわたって、平和行政がどのように行われてきたか、積み上げられてきたか、わかる。意見交換の場には、各自治体の市民や市議の参加もあって、情報共有や交流もできた。
 
2)横田基地へオスプレイ飛来ーー今年の課題

 今年、三多摩地域で話題になっているのは、米軍横田基地へのオスプレイ配備である。ピースサイクルでまわっていた7月9日には檜原村や奥多摩町で、10日には瑞穂町で、低空で夜間訓練を行うオスプレイCV22が騒音とともに飛来した。

 オスプレイは、4月3日に横須賀港に到着し、5日には横田基地に飛来した。オスプレイ配備や訓練実施について、日本政府から事前に住民や自治体に連絡はなかった。
 そもそも、配備の2週間前には米軍から日本政府・外務大臣には配備の連絡があったが、外務大臣・外務省はその情報を日本国民にはひた隠し、オスプレイが飛来して初めて住民は知ったのである。日本政府、外務省は、米軍の意向だけを尊重するかのような対応をとった。誰のための政府であり、外務省なのか、と問わざるを得ない。

 住民や周辺自治体が飛来に驚き問い合わせても、外務省・防衛省「配備は正式に決まっていないから・・・」などと、まともに対応さえしない。実際のところ、配備どころか、低空飛行訓練をすでに実施している。

 オスプレイは、すでに何度も墜落し46人の兵士が犠牲になっている欠陥機である。米国内では危険なため、市街地での飛行は認められておらず、わずかに砂漠の中の基地でしか飛んでいない。そんな代物を日本政府は日本の上空を、しかも住宅密集地の東京の空を、自由に飛ばさせている。
 横田基地周辺でも住宅が密集しており、もし墜落したら、惨事となり多大な犠牲が出ることは明らかだ。

 これまでのC130輸送機などであれば、滑走路に向かって飛来し飛び立つので、飛行航路はほぼ決まっていたし、予想もできた。しかし、オスプレイは360°あらゆる方向に飛行できるので、航路も予想できないし、勝手気儘に飛び回る。特にCV22は戦地に兵士を送る夜間訓練のための機であり、すでに横田周辺で低空夜間訓練を行っている。事故率も高く、きわめて危険だ。また木更津の自衛隊基地で整備することも決まっており、今後、木更津から横田に飛来することになる。

 さらには、自衛隊がオスプレイ17機の購入を決めており、今後、自衛隊の基地にも配備される。
 今、きちんとオスプレイの飛行、配備、訓練に対して、きちんと規制をかけておかないと、日本の上空を自由に飛び回ることになる。

 「日米安保条約ー日米地位協定ー日米合同委員会」によって、不当にも日本の上空を米軍が自由に飛び回ることが可能になっているが、オスプレイ配備の前に、配備や飛行に対して勝手気ままな飛行を許さない「規制」をかけておかないと、大変なことになる。大事故を起こしてからでは遅い。

 すでに、横田基地周辺5市1町で、防衛省、米軍に申し入れをしているが、なかなか相手にされないのが実情である。東京都や東京都市長会でも申し入れしているそうだが、反応は鈍い。

 そもそも、日本政府、防衛省、外務省は日本国民に対しては尊大な態度で対応するのに、米軍や米政府に対してはきわめて卑屈な態度をとり、かつ弱腰だ。

 ピースサイクルは、三多摩の各自治体を訪問し意見交換したが、特に横田周辺の自治体、檜原村や奥多摩町などオスプレイがすでに夜間訓練している自治体は、危機感を強めていた。防衛省や米軍に申し入れしているにもかかわらず、反応が鈍く、そのうえ日本政府は頼りない、どうしたらいいのか、という戸惑いの声も多く聞かれた。その一方、横田基地から比較的遠い自治体は、いまだ当事者意識が薄く、横田基地周辺の「5市1町」の問題であるかのような認識も垣間見られた。

 日本政府や米軍に申し入れても、オスプレイ飛来の事実確認さえ、十分にできない。オスプレイの訓練日時、時間、高度などのデータを自分で映像や騒音計で記録し、それを広く知らせ、大きな反対の声とともに、申し入れや交渉をしなければ話が始まらないような状況だ。住民や各自治体が協力して、監視活動や反対の声、申し入れ行動をとっていかなくてはならない。


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財政再建を先送りする安倍政権 [現代日本の世相]

財政再建を先送りする安倍政権
 財政運営のフリーハンドを得た安倍首相


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1) 財政健全化プランが破綻した

 2015年度に策定された財政健全化プランが破綻した。従来の目標だった2020年度基礎財政収支黒字化は、2025年度に先送りされた。
 
 「先送り」したのは、経済危機に襲われたからではない。政府が「景気拡大している」と自負している時期に「先送り」(=破綻)したのだ。繰り返すが、2015年度以降、景気は大きく悪化したわけではない。それから最も重要なのは、政府が歳出削減に踏み込んだという事実もないということだ。
 そもそも、基礎財政収支黒字化を達成するつもりがあるのだろうか?

2) 新たに策定する財政健全化プランは、黒字化を達成できるのか?

 では、新たに策定する財政健全化プランは、2025年度の基礎的財政収支(PB)黒字化の新目標を達成できるのだろうか?

 「財政健全化プラン」の欠陥

 新たに策定された「財政健全化プラン」の最大の問題点は、実勢からかけ離れた名目成長率を用いていることにある。インフレ目標が2%であるとしても、より慎重な名目成長率見通しを用いなければならない。
 1月に発表された内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では、2018年度から2025年度までの名目成長率の前提は、「成長実現ケース」において、2%台半ばから3%台半ばであり、バラ色の見通しが据えられている。慎重であるべき「ベースラインケース」においても、1%台後半から2%台半ばの好調な名目成長が想定されている。
 しかし、現在の潜在成長率は1%弱、足元のエネルギーを除く消費者物価指数(CPI)コアや国内総生産(GDP)デフレーターの前年比は0.5%程度しかない。

 であれば「健全化プラン」は0.5%成長程度を前提に計画策定しなければならない。にもかかわらず、新策定の「健全化プラン」は、破綻した「旧プラン」と同じように、高い経済成長による税増収を前提にしている。
 
 「財政健全化プラン」第二の問題点は、景気後退による税収入の減少、補正予算による支出増大を、まったく考慮に入れていないことだ。景気拡大局面の後には景気後退局面が訪れる。景気拡大局面に増えた税収は、景気後退局面には大きく落ち込む。2008‐09年のサブプライム恐慌時には大きく税収は落ち込んだ。それだけでなく補正予算による支出が増大した。

 新たに策定する財政健全化プランは、景気循環による税収落ち込みを一切考慮に入れていない。すでにサブプライム恐慌から10年が経過し、次の落ち込みが予想されているにもかかわらず、である。

3)そもそも財政健全化を実行するつもりはない!

 「健全化プラン」が破綻し、同じようなプランが策定される。策定した官僚自身が、実現するつもりのない計画であることはよくわかっているだろう。
 計画が実現しなかったなら、「想定したほど経済成長しなかったから」、あるいは「予想外の景気後退に見舞われたから」という言い訳が、語られるのであろう。
 だれも責任を取らない、無責任体制が、ここにある。

4)「新たな財政健全化プラン」の意図=「安倍政権は、2021年度まで財政削減努力はしない」

 「新たな財政健全化プラン」では、2021年度に次の3つの財政指標を基に、中間レビューを行うという。
1)PB赤字の対GDP比を1.5%程度まで改善させること、
2)公的債務の対GDP比を180%台前半に抑えること、
3)財政収支の対GDP比を3%以下とすること。
 これらを達成するため、政府はどれほどの歳出削減努力を必要とするのか。

 この目標に対して、「プラン」どのように見込んでいるだろうか?

 「成長実現ケース」においては、高い成長による税収増もあって、2021年度のPB収支は▲1.7%、公的債務の対GDP比は178.5%、財政収支の対GDP比は2.6%まで改善が見込まれている。
 したがって、「歳出削減努力」は不要だということになる。

 「ベースラインケース」においても、高めの名目成長率が想定されているため、2021年度のPB収支はマイナス1.8%、公的債務は183.4%、財政収支はマイナス1.8%まで改善すると見込まれている。PB収支は目標を0.2―0.3ポイント超えているように見えるが、目標は「1.5%以下」ではなく、「1.5%程度」であり、1.7%や1.8%はその範囲に収まるということなのだろう。

 したがって、追加的な緊縮的措置は必要ない。つまり、2019―21年度までの予算編成において、消費増税を除くと、ほとんど緊縮的な財政措置は取られないということになる。
 「健全化プラン」は、驚くべきことに、達成のための歳出削減努力はほとんど必要ないというシナリオがすでに半ば組み込まれているのである。

 安倍政権は、少なくとも2021年度予算までは財政健全化に縛られず、財政運営でフリーハンドを得たということが、堂々とかかれているのだ。

 それだけでなく、安倍晋三首相はすでに、2019年10月の消費税率の8%から10%への引き上げに伴う景気への悪影響を回避するため、2019年度と2020年度については、当初予算の段階から景気対策を盛り込むことを指示している。消費増税は軽減税率を除くと4.6兆円程度だが、幼児教育などの無償化もあって、実質増税は2兆円となる。これと同等か、あるいはこれを上回る規模の景気対策が2019年度と2020年度の当初予算に組み込まれるということなのだろう。

5)どのような方針をとるべきなのか?

 どのような方針をとるべきなのか?
 まずは、非現実な高い名目成長率を前提とするのをやめるべきなのだが、これもなかなか根が深い。
 そのような子供だましの計画を策定し、なんとも思わない政権、財務省をはじめとする官僚機構、全体としても無責任体制、これをやめさせなければどうしようもない。そのような政治家や官僚は放逐しなければならない。破滅に向かって突き進んでいるようなものだ。

 成長プラン=潜在成長率の底上げは重要だが、それは容易ではない。1990年代以降、潜在成長率は低下傾向が続いているが、回復が訪れたことは一度もない。だから、潜在成長の改善を前提に財政健全化プランを策定することは、結局、永久に財政健全化を行わないと宣言しているようなものだ。
 さらに過去5年半の日銀の大実験で明らかになった通り、インフレ期待の醸成も容易ではない。財政危機は大幅に悪化しており、わずかな可能性に賭けて、一国を財政危機のリスクにさらしてはならない。

 安倍政権の腐敗ぶりは極まっている。「財政健全化プラン」も政権運営に強く配慮したお手盛りとなっている。これもまた官僚による「忖度」によって策定されたのだろう。安倍政権への当面の支持があればそれでいいのであって、安倍晋三にとっては「あとは野となれ山となれ!」なのだ。

 必要なのは、低い成長の下でも持続可能な社会保障制度や財政制度を構築することである。
 それができる政権に交代すべきである。
(文責:小林 治郎吉)




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ブラフで売りつける、セールスマン・トランプ [世界の動き]

1)軍事産業のセールスマントランプ

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<トランプ米大統領は11日、NATO加盟国に防衛費支出をGDP比4%に引き上げるよう求めた>

 トランプは、7月11日のNATO会議で突然、EU各国首脳にGDP比4%の国防費支出を求めた。
 狙いは、露骨だ。
 NATO軍事費の米国負担を減らし、増やした予算で米国の兵器を買え!という要求だ。トランプは米軍産複合体の代理人になって、発言している。
 現状、EU各国の軍事費は2%に届いていない。これまでは2%まで増やせと言っていたのだが、11日にはいきなり4%まで増やせ!と要求した。
 一応、NATO/ストルテンベルグ事務総長は「まず、2%の目標達成を!」となだめるような態度をとった。
 

2)ガスを買え!

 そればかりか、トランプは、ドイツがロシアからガスを大量輸入するパイプライン計画を批判した。ドイツはバルト海の海底にパイプラインを建設して、ロシア産天然ガスを購入する「ノルトストリーム2」計画を進めている。ウクライナ経由のパイプラインだと、ウクライナが途中で抜き取などのトラブルがあった。安定的に供給を受けるため「ノルトストリーム2」計画を進めている。

 NATO本会議でトランプは「我々はロシアに対して防衛をするのに、ドイツはロシアに巨額の資金を支払っている」。そのうえで「ドイツはロシアの捕虜だ!」とまでこき下ろした。
 
 トランプの本音は、米国のシェールガスを欧州に売ることだ。取引のための「ブラフ」である。しかし、米国大統領が「安全保障」を天秤にかけて、自国エネルギーを強引に取引しているのである。そこのあるのは「損得勘定」だけで、ビジョンなどない。
 取引のために、戦後秩序を破壊しようとするトランプである。
 そうしたところ、ポーランド政府が、「ノルトストリーム2」計画には早速、反対を表明した。ポーランドは米政府の忠実なマリオネットであることを、今回も証明した。
 ヨーロッパにも日本政府、安倍政権のような政府は存在するのだ。

3)混乱するEU

 奇異なのはトランプが、頭からEU首脳を見下し、徹底してこき下ろしたことだ。
 トランプの発言を、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は無視した。取り合わないほうがいいと判断したようだ。ただし、今週、トランプのブリュッセル到着直前に、メルケル首相と、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、トランプの要求に沿って素早く行動し、両国軍事予算の膨大な増加を承認している。そもそもがアメリカの「ご機嫌をうかがう」対応なのだ。トランプが「役割を十分果たしていない」と、連中をいじめた結果として、ドイツとフランスは、それぞれ今後数年間、更に180億ドル、軍事予算を使うと報じられている。
 問題なのは、EU首脳のとった態度だ。
 
 米政府は、シリアやイラク、リビアなどテロ組織を使って戦争を起こした。ISを訓練したのはCIAであり、資金を出したのはサウジや湾岸諸国である。戦争になれば大量の難民が出て、アメリカには来ないが陸続きの欧州になだれ込む。
 難民が殺到するぞ!と、米政府はEUを脅しの材料にしている。中東の戦争もアメリカの商売の一つだ。
 EUでは、移民・難民増加を批判する右翼、排外主義政党が選挙で躍進し、既存の政権はその支持が揺らいでいる。
 EUは、トランプの脅しに、動揺し混乱し、統一して対処できていない。

4) ロシアは脅威か?

 トランプはNATO会議の後、ロシアのプーチンと会談する。7月16日、ヘルシンキでのサミットで、プーチンとの良好な関係を発展させたいと語っている。ヨーロッパの指導者たちに、彼らをロシアから防衛するために必要なNATOへの財政的貢献を増やせと厳しく叱りつけながら、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との友好的な関係を追求するという。

 ワシントンの軍産複合体、ロシア嫌いのイデオローグ連中、その配下にあるメディアの言い分は別にして、ヨーロッパにとって、ついでにいえば誰にとっても、ロシアは実際脅威ではないのは明らかだ。ロシアが“攻撃的”で“拡大主義”だという言説丸ごと、米軍産複合体が軍事予算を増やすためにまき散らした滑稽な、根拠のない見え透いたウソだ。トランプの「ロシアゲート疑惑」もその類だ。

 ロシアがそれほどの脅威でないのに、トランプは一体なぜ、ヨーロッパ諸国にNATOにもっと金を使うよう執拗にせき立てているのだろうか?
 彼が軍産複合体の代理人だからだ。

 米軍産複合体の利益のために、ヨーロッパ経済に、もっとNATO同盟に金を注ぎ込ませるように強いている。29ヵ国のNATO加盟国中、アメリカが総軍事予算の約70パーセントを占めている。米国は軍事予算を減らし、他の加盟諸国がより多く財政負担をさせ、その予算でアメリカ製の戦闘機や戦車やミサイル・システムや戦艦を購入させるのが、米政府にとってより望ましい。

5) NATOこそEUの安全保障を脅かしている
 
 実際のところ、ヨーロッパの安全保障を脅かしているのは、ロシア西部国境沿いでの無謀なNATO部隊強化である。あるいは米ネオコンにコントロールされたウクライナ政府による戦争挑発である。このまったく不当なエスカレーションは、ロシアと国際平和に対する挑発であるとともに、ヨーロッパを一層不安定にする。EUは自らの安全保障を脅かすために、NATOへの軍事費を増やしている!

 これは何か! 転倒したこの事態は何か?
 懲罰的関税と貿易戦争によって、あるいはロシアのガスを買うな!イランの原油を買うな!と命令し、ヨーロッパ経済を傷つけているのは、トランプ指揮下のワシントンだ。ヨーロッパの安全保障を脅かしているのもトランプ指揮下のワシントンだ。
 そのワシントンのためにEUは軍事費を増やすという。

 これはけっして、トランプの性格によるものなのではない。
 凋落する超大国アメリカの、退廃なのだ。「超大国なら、つけをほかの諸国につけ回してもいい」と考えるに至った没落する超大国アメリカの姿なのだ。

6)日本と日米安保

 賢明な読者であれば、同じ構図を思い浮かべるだろう。
 トランプの米政府とEUとの関係は、トランプと日本政府の関係と、相似形を成している。

 朝鮮半島の危機を煽るだけ煽って、イージスアショアを買わされた。一基2,500億円、2基で5,000億円。米朝会談で緊張緩和がおとずれても、そのまま購入し秋田県と山口県に配備するという。この先メンテや更新に引き続き費用がかかる。
 欠陥機オスプレイを17基3,500億円を購入し自衛隊に配備するという。

 こういった安倍政権の対応、さらには存在そのものが、日本の安全保障を脅かしているのだ。(文責:林 信治)





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ドゥテルテ政権は、誰の政権か? [フィリピンの政治経済状況]

ドゥテルテ政権の転換

1)NPAをテロ組織に認定、戒厳令を延長

 フィリピン上下院は12月13日特別合同会議を開催し、ミンダナオに敷かれた2017年12月末が期限の戒厳令を延長するドゥテルテ大統領の提案を審議。賛成240票、反対27票で可決し、2018年12月31までの延長を承認した。
 ミンダナオ・マラウィ市を占拠した「マウテ・グループ」は、約1,000人の死者を出し、6月の発生から5カ月後の10月に掃討鎮圧しており、戒厳令を敷いた理由はなくなったはずだったのに、解除せず、2018年末まで延長した。この奇妙な延長提案は、ただドゥテルテ政権側の都合によるものだし、そこに政権の意図や性格が現れていると見なければならない。

2)ドゥテルテ政権の明確な政治転換

 ドゥテルテは就任前や就任当初から、フィリピン共産党(CPP)、新人民軍(NPA)、モロ・イスラム解放戦線と和平交渉に取り組み、当初は良好な関係を結んだかに見えた。しかし、フィリピン国軍と共産勢力との武力衝突はやまず、すでに和平交渉は打ち切っている。
 その上、ドゥテルテ政権は12月5日には、CPPと傘下の軍事組織NPA をテロ組織と認定し、対決姿勢を打ち出した。ドゥテルテは議会にあてた書簡で「NPAが暴力的な手段で政府転覆を狙っている」として戒厳令延長の理由の一つに挙げていた。

 ドゥテルテは新たに共産勢力の制圧に乗り出す可能性をあからさまに示しており、反政府勢力に一層強硬な姿勢で臨むとみられる。戒厳令下では、治安当局は逮捕令状なしで容疑者を拘束できる。フィリピン国軍にとって、CPPとNPAに武力攻撃する準備が整ったと見るべきだろう。

3)ドゥテルテ政権の性格

 ドゥテルテ政権は、確かにこれまでの政権と違い、米国支配に従わず、東南アジアで影響力を増す中国との関係改善に舵を切った。背景には、フィリピン資本家層、支配層の支持がある。経済界は中国との関係改善のうちに経済発展を構想しているからである。
 フィリピン経済の最近の成長によって、現状のインフラ未整備がさらなる発展のネックになっていることは、誰の目にも明らかになっている。政権についたドゥテルテは経済成長を持続させるためのインフラ整備計画を公表し、中国政府やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、日本のODAなどから資金を調達し、他方、長期にわたりインフラ整備に必要な新たな税収を得るための税制改革も行い、これまでの政権とは異なり確実に計画を実行している。

 フィリピンの資本家層、支配層の利益に沿った経済政策を採用しており、この点でもフィリピン経済界はドゥテルテを支持しているのは明らかだ。
 麻薬撲滅運動は政治的パフォーマンスであるが、押収した麻薬を転売や汚職の黒幕である警察を摘発せず、撲滅運動は警察の意向に沿って進めている。また、戒厳令の延長はフィリピン国軍主導のもとに反政府勢力に一層強硬な姿勢で臨む方針の提示である。いずれも、既存の支配勢力、暴力装置である警察とフィリピン国軍とともに、その合意の上で、政権運営にあたることを一層明確にしたととらえるべきである。政権の性格がより明確になった。

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アジアにおける中国の影響力 [世界の動き]

アジアにおける中国の影響力

 日本や東南アジア諸国にとって、戦後長らく輸出先のトップは、米国だった。ところが、リーマンショック以後(2010年以降)、中国向けがトップになった。
 ASEANからの対中国輸出(2016年):1,430億㌦、米向けより9%上回っている。(日経:1月6日)

 日本から台湾や香港向け輸出も、加工したうえで中国へ再輸出する場合も多く、香港・台湾はすでに中国経済圏といえる。日本からの中国・台湾・香港向け輸出は全輸出の30%近くに達する。一方、米国向けは約15%。

 東アジアにおける中国経済圏の及ぼす影響は、すでに米国を圧倒している。しかも、勢いは増すばかりだ。それどころか、ASEANが中国経済圏に融合しつつある。

 日本とて例外ではない。特に人件費増がすすむ中国では、製造業の省力化投資の潜在需要は大きく、日本の製造設備、自動化設備、産業用ロボットなどの資本財輸出が急増している。インフラや設備投資が底上げされ日本による対中機械輸出は大幅に増えている。

 安価な労働力を武器にした「世界の工場」としての中国の時代はすでに終わり、製造業の自動化をハイスピードで進め、「世界の工場」地位は保ち高度な産業国に変身しつつある。
 中国の指し示す「一帯一路」計画は、近い将来の一大経済圏構想の提示であり、周辺諸国にとって魅力的にうつり、経済の拡大統合が進む。

 かつては米国は、突出した経済力をベースに、東南アジアへの政治的影響力と支配力を行使した。しかし「アメリカがくしゃみをすれば、アジアは肺炎を患う」と表現された米国一強の時代は過去のものになろうとしている。

 日本の東アジアにおける地位も大きく変わりつつある。
 環太平洋経済連携協定(TPP)の狙いは、中国に対抗し環太平洋の巨大な経済圏をつくることにあった。ところが肝心の米国が離脱し、頓挫した。安倍政権派未だにその夢を追おうとしている。安倍首相の「中国封じ込め?」外交もASEAN諸国はどこも同調せず、見込みはたっていない。インドとオーストラリアに呼びかけ対中国警戒同盟を画策している。

 しかし、あれほど嫌っていたAIIBにもいずれ協力姿勢に転換せざるを得なくなるだろう。
 安倍首相はほとんど一人でトランプに強硬な立ち位置をとるように後押ししている。





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マニラに、慰安婦像が立つ! [元「慰安婦」問題]

マニラに、慰安婦像が立つ!

1)マニラに慰安婦像が立つ

 マニラのロハス大通り沿いの海岸遊歩道に、フィリピンで初めて「フィリピン人慰安婦像」が設置され、日本が太平洋戦争を始めた12月8日に除幕式が行われた。中国系フィリピン人でつくる財団(Tulay Foundation)やフィリピン元慰安婦団体リラ・ピリピーナが準備を進め、フィリピン政府機関の一つ、フィリピン国家歴史委員会(NHCP)が設置し、8日にマニラ市に引き渡された。
 目隠しをされた民族衣装姿のフィリピン女性が立ち、慰安婦被害者を象徴する。高さ約3メートル。台座には「日本統治下で虐待被害に遭ったフィリピン人女性の記憶である」と記されている。

フィリピン慰安婦像.jpg
<マニラ市ロハス通り沿いに立つ慰安婦像>

2)外務省がフィリピン政府に抗議した?!

 マニラの慰安婦像に対し、在フィリピン日本大使館は「日本政府の立場と相いれず、極めて残念だとフィリピン政府側に伝えた」とコメントし、菅官房長官は12日の記者会見で遺憾の意を表明した。
 日本政府にそのような申し入れを行う資格もなければ、権限もない。

 毎日新聞前ソウル支局長の記者、澤田克己が、在マニラ日本大使館がフィリピン政府に「『日本政府の立場と相いれない』と抗議した」ことに問題があると書いている。
 日本はこれまで中国や韓国に対して、歴史に対する捉え方は立場によって違いうるから、アジア太平洋戦争における日本の侵略についての中国や韓国の「歴史認識」を日本に押しつけるなと主張してきた。例えば、2013年2月の朴槿恵大統領就任式に出席した麻生太郎副総理兼財務相は「米国内でも南北戦争に対する評価は北部と南部で違う」ことを例に出して、歴史認識とは相対的なものであると説き、朴氏を激怒させたことがある。
 それなのに、フィリピンには日本の立場を押しつけて当然だという態度をとっているのだ。
 当然ながらフィリピン政府は「日韓合意」の当事者ではないから、「合意」の精神に反しているなどとは決して言えない。しかもマニラの像は在マニラ日本大使館前に立っているわけでもないので、外交上の儀礼も問題になりえない。

 日本大使館が抗議の根拠とした「日本政府の立場」とは何か、意味不明なので、澤田記者は問い合わせたところ、外務省は「フィリピンとの間ではサンフランシスコ講和条約で法的責任に関する問題はすべて解決済みというのが日本政府の立場だ」と答えたという。

 外務省の理屈からすれば、法的責任の問題が解決された後に慰霊碑を建てたらいけないことになる。だとすると、サンフランシスコ講和条約では日本も対米請求権を放棄し、法的責任の問題を解決させているから、米国政府から東京大空襲や原爆犠牲者の慰霊碑に文句を言われても致し方ないことになる。広島や長崎の原爆慰霊碑は、撤去すべきだというのか!
 
 もはや、日本政府、外務省の対応は、常識を逸している。日本政府内に「日韓合意」の拡大解釈が目立つ。しかもそれをフィリピン政府に押し付け、マニラの慰安婦像に抗議しているのだ! 
 外交上実に尊大な態度ではないか。日本政府にそのような抗議を行う資格もなければ、権限もない。そのことを知らなければならない。

 日本政府・外務省ばかりではない。12月にサンフランシスコ市議会が全会一致で慰安婦像の設置を決め、サンフランシスコ市長も賛成した。このことに抗議し、大阪市が姉妹都市を解消するに至っている。
 慰安婦被害は過去に存在したのであり、二度と繰り返さないことを願い「平和の像」を建てることは、抗議するようなことか! そうではなかろう。大阪市長がなすべきなのは、抗議することではなく、大阪市の土地に慰安婦像を建てるべきであろう。
 人権を尊重しない愚かな日本の政治と政治家を、世界中に晒しただけである。

3)各地で像が立つ

 慰安婦像設置は、韓国、中国、米国など各地に広がり、今回フィリピンに及んだ。私たちはこのような動きをうれしく思う、その広がりに勇気づけられる。そこには被害者を支持する人々の連帯がある。決して国家間の対立ではない、人権尊重という普遍的価値の訴えがある。

 慰安婦問題は日本軍、日本政府による国家犯罪であるから、日本政府が歴史的事実と法的責任を認め、公式謝罪と賠償を果たして初めて、根本的に解決する。責任を認めず、「アジア女性基金」や「日韓合意」による「癒し金」を配って被害者を黙らせてきた日本政府の態度こそ、長引かせるだけで、解決してこなかった原因なのだ。そのため、各地に像が立つ。

 上海市の像は、中国人、朝鮮人を象徴する被害者2人が並ぶ。サンフランシスコ市の像は、中国人、朝鮮人、フィリピン人被害者3人が手をつないで立つ。それを見て、私たちは思う。そこに日本人慰安婦被害者やほかの国々の被害者も加えた慰安婦群像を、ここ東京にこそ設置したい。
 慰安婦問題の根本的な解決を求める声が日本国内で広がるなかでそれは可能となる。







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機能不全、トランプのアメリカ [世界の動き]

機能不全、トランプのアメリカ

1)トランプは何に血迷ったか?

 トランプ政権の言うこと為すことが一貫しない。迷走している。どうしてか? 
 トランプは、米国支配層内で未だ主導権を握っておらず、それどころか「闇の政府(Deep State)」と争い、屈服しつつあるからだ。トランプ発言はまず国内政治を意識し、「闇の政府」の顔色を見ている。
 
 米国には「闇の政府」がある。軍産複合体(政治的代表者はネオコン)であり、ウォール街=金融資本であり、ユダヤ資本であり、さらに最近は巨大IT企業5社(アップル、フェイスブック、マイクロソフト、グーグル、アマゾン)が加わりつつある。これらは別個の存在ではなく融合している。

 この20数年、新自由主義によるグローバリゼイションにより、富は富裕層に蓄積し貧困層が増大した。アメリカ国民は、高額の医療費と教育費に苦しみ、福祉は削減され、アメリカ社会はかつてないほどに荒廃した。一方、アメリカ政治は右傾化し、政党も政治家もいっそう富裕層の所有物になりつつある。この点では、共和党民主党の違いはない。クリントン政権もオバマ政権も、伝統的なケインズ政策による富の再分配は採用せず、新自由主義によるグローバリゼイションを推し進め、金融資本、富裕層の利益を優先した。

 現在のアメリカの政治地図は、全体として右寄りのものになっている。かつては民衆の求めているものが政治の中心だったが、その要求は今では非常に「過激」で、急進的で、過激派だ、と見えるくらいに変わってしまっている。……現在の民主党は、かつては共和党穏健派と呼ばれていた人たちがとっていた政治姿勢まで右に行った。では共和党はどうかというと、あまりにも右に行きすぎてしまって、政治地図からはみ出てしまっている。もはや政党とは言えない存在になってしまっている。(ノーム・チョムスキー『アメリカンドリームの終わり』2017年)

2)トランプの公約と「闇の政府」への屈服
 
 米国支配者が、大統領として準備したのは、民主党はヒラリー・クリントンであり、共和党はブッシュ弟であった。ところが、あれよ、あれよという間に、トランプが勝ってしまった。アメリカの民衆は、CNN、ABC などのTVやニューヨークタイムズなどの大新聞の言うことを信じなかった。「あいつらは、エリートの持ち物だ、嘘ばっかりついてきた」。そして、トランプのtwitter やFox Newsによるエスタブリッシュ批判を支持した。

 トランプは「アメリカファースト」、すなわち「国内重視、軍隊を海外に送って他国の政治に干渉したり政権転覆したりすることをやめる、製造業を国内に戻す、TPPをやめる」と約束した。また「CIAの解体」、「NATO解体」も約束した。 
 これらは、「闇の政府」の怒りを買った。トランプ当選後、公約の実行を表立って妨害してきたのは、ヒラリー・クリントンを先頭とする民主党幹部だった。ヒラリーの背後には、米軍産複合体がおり、ユダヤ資本もマスメディアもいる。トランプは攻撃され、その材料の一つが「ロシア疑惑」なのだ。

 ヒラリーは敗北の理由を、米富裕層と結びついた自らの行動と政策ミスによるものだとは認めず、ロシアとトランプの共謀によるものだという荒唐無稽な理屈に執着して、アメリカ政治を機能停止に追い込んでいる。「闇の政府」はマスメディアを使ってヒラリーを動かした。

 トランプは「メキシコ国境に壁を建設する」と宣伝した。人種差別意識を広め助長するとんでもなく愚かな発言だ。トランプ政権になって、隠れていた人種差別、マイノリティへの迫害が公然と語られ、暴力事件も頻発している。
 ただ、確認しておかねばならないのは、イスラエルがガザへ建設した壁に、民主党も共和党も、誰も反対していないことだ。「メキシコの壁に反対する、ガザの壁にも反対する」こう叫ぶべきだ。民主党幹部やユダヤ資本、マスメディアに従っていたのでは、支配層内の政治的駆け引きに利用されるだけだ。

 トランプは大金持ちではあるが一介の不動産屋であり、これまで米国が行ってきた「汚れた戦争」に興味はなかった。だから、ロシアのプーチンと協力すれば、シリアのISを簡単に滅ぼすことができるし戦争も終結できる、米軍は撤退し軍事費を減らせると判断し、公約した。ISは傭兵集団であり、しかも雇い主はCIAでありサウジや湾岸諸国である。トランプは「雇い主」のことを「重く」考えなかった。

 もちろんオバマもヒラリーも、米軍を派遣すると批判が高まるので、傭兵に戦争させる「汚れた戦争」、公然と語れない裏の戦略をよく承知していた。リビアのカダフィ政権を倒す際に、NATO軍が制空権を握り、地上戦は傭兵であるイスラム過激集団LIFGに任せ、カダフィを殺した。ヒラリー国務長官(当時)は、その時リビアに立ち降り、シーザーに倣い「来た、見た、勝った」と宣言した。「独裁者とレッテルを貼れば侵略してもいい」という既成事実をつくった。明確な国連憲章違反、国際法違反である。うまくいったので、この「汚れた戦争」をシリアでも試みた。LIFGの戦闘員はシリアへ移動し、 ISと名前を変えた。

 このアメリカの長年にわたる軍事戦略、「汚れた戦争」を、トランプは何とロシアのプーチンと取引して「やめる」と公約したのだ。これが「ロシア疑惑」と騒がれる本当の理由だ。

3)トランプの「ロシア疑惑」とは何か?

 そもそも大統領候補やスタッフがロシア政府要人と会うことがなぜ犯罪なのか、理由が不明だ。プーチンと約束したのが問題だという。「ロシア疑惑」と騒ぐが、いまだにどこにも証拠は示されない。とにかく「怪しい」というキャンペーンである。「プーチンとの密約?」どころか、トランプは公約をすでに破っているが、このキャンペーンは何も問題にしない。

 (※:日本でも似たようなことがあった。米中との等距離外交に転換しようとした鳩山・小沢政権をつぶすために、「小沢一郎と陸山会はあやしい」キャンペーンをマスメディアが行った。米国に従属してきた日本の自民党政治家、官僚機構を含む支配グループが背後にいた。鳩山・小沢は政権から追われ、後を継いだ菅直人政権は米国一辺倒へと屈服した。のちに小沢は陸山会事件裁判で無罪になったが、政治的転換は元に戻っていない。日本のメディアも米国に従属してきたグループの支配下にあるし、これを境に一層従属を深めた。このような権力によるキャンペーンこそ「フェイクニュース」と呼ぶべき、重大な犯罪だ。権力の流す偽情報=「フェイクニュース」こそ大問題なのだ。)

 米軍産複合体にとって、ロシアや中国を敵視しなければ、敵視する世論がなければ、軍事費を増やせない。荒唐無稽な「ロシア疑惑」が、米支配層内の権力闘争と利権の材料になっている。米社会はもはやそれをただす力がない。

 政権発足直後、マイケル・フリン安全保障担当補佐官は辞任に追い込まれた。フリンはオバマ政権のDIA 局長であり、「ISはCIAが養成した」と本当のことを報告しオバマに解任されている。「戦争に介入するなどやめたほうがいい、北朝鮮に圧力をかけても無駄だ」と主張したバノン首席補佐官も辞任に追い込まれた。「従来の戦争政策、安全保障政策の変更はしてはならぬ」とばかリに、後任に元軍人のマティス国防長官、マクマスター安全保障特別補佐官を送り込まれ、戦争政策の維持を押しつけられ、トランプは屈服した。そして軍産複合体の要求通り軍事費を、2割も増やした。ただトランプは自分の主導権で実行したかのように装っている。

 トランプがイラン敵視発言や北朝鮮への軍事作戦も含めた軍事的圧力強化の態度をとるのも、軍産複合体やネオコンへの屈服である。「世界の警察官をやめる」と言っていた公約の放棄である。屈服ゆえに一貫しておらず、その結果、米外交は混乱している。

 こうしてトランプは今では「闇の政府」の操り人形になり、今ではロシア国境近くにNATO軍を終結させ、一触即発の危険な状況、核戦争の危機さえ生みだしている。北朝鮮には軍事的圧力をかけ続け、米韓軍事演習で公然と「金正恩斬首作戦」を行った。こちらもいつ核戦争が起きてもおかしくい状況だ。

4)いまだに続く主導権争い

 トランプ大統領は12月6日の演説でエルサレムをイスラエルの首都だと認めた。アメリカには「1995年エルサレム大使館法」という法律がある。「エルサレムをイスラエルの首都だと承認し、1999年5月31日までにエルサレムにアメリカ大使館を設置すべきだ」という内容。2017年6月5日に米上院はこの法律を再確認する決議を賛成90、棄権10で採択している。これまでの米大統領はその権限で法実施をとめてきたが、トランプはGoを出した。
 トランプは米国内政治での主導権争いを意識しており、ユダヤ資本の要求を先回りして主導権を発揮したつもりなのだが、これまでの米外交の経過、イスラム世界への影響は考慮しておらず、その結果12月6日以降、イスラム世界ではアメリカに対する批判が高まり、イスラム教徒が団結する雰囲気も出てきた。これまでPLOはイスラエルとの仲介をアメリカに求めてきたが、今回初めてロシアに求めた。このようなことは初めてだ。中東におけるアメリカの信頼と地位は失墜しているとともに、ISを滅ぼしシリア戦争を終結させたロシアの権威と信頼が上がっている。

 12月15日には、トランプは共和党「減税法案」をまとめ上げた。その結果、2018年から早速、連邦法人税率を35%→21%に引き下げることになる。国・地方を合わせた実効税率は、例えばカルフォルニア州の場合、40.75%→27.98% に下がる。
 米巨大資本、富裕層は空前の利益を上げているにもかかわらず、さらに法人税を下げさせた。貪欲さはとめどない。格差はさらに広がる。民衆にとっては裏切りだ。この結果、将来必ずや財政赤字が拡大し(財政赤字は10年間で1兆㌦=113兆円を超える見込み)、教育福祉医療予算は削られ、大多数のアメリカ民衆の貧困化がさらに進む。誰の目にも明らかだ。トランプは富裕層に尻尾を振って見せた。トランプの興味は、自分が主導権をとって実行するところにある。

 トランプは、12月18日「国家安全保障戦略」を公表し、国防予算の大幅増、ロシアと中国を現状秩序の破壊勢力と規定し、世界秩序の変更は認めない、「力による米世界支配」を目指すとしている。軍産複合体、ネオコンの望む通りの安保戦略となった。トランプはこれで完全に軍産複合体、ネオコンに屈服したことになる。
 これもまた、国内での主導権争いの結果であり、ますます国際関係、外交における「考慮」の欠けたものになっている。アメリカが国際社会における影響力が低下するなかで出てきた「国家安全保障戦略」であり、国際的にはいっそう信頼を失うであろうし、容易に地域戦争、核戦争に突入する極めて危険な兆候でもある。

 トランプの「やることなすこと」は「デタラメ」になっている。トランプの「デタラメ」は決してトランプ個人の資質にとどまらない。ほとんどのマスメディアはトランプ個人の資質によるものとして伝えている。アメリカの支配層、軍産複合体、ウォール街、ユダヤ資本たちのつくりだす新しい世界秩序、新自由主義による富裕層のための世界、傭兵を使い戦争を仕かけ支配する世界、その矛盾でありデタラメさである。アメリカのつくりだすデタラメな世界秩序に起因している。

 その「デタラメ」トランプに従い、尻馬に乗って北朝鮮への軍事的圧力を煽り、中国封じ込めを主張する安倍政権は、いつかトランプのアメリカに梯子をはずされ、アジアで孤立し信頼を失うのであろう。(2017年12月25日記、文責:林 信治)







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