イスラエル、シリア軍機を撃墜 [世界の動き]
イスラエル、シリア軍機を撃墜
1)イスラエル、シリア軍機を撃墜
イスラエル軍は「7月24日、シリアの戦闘機スホイ22、 2機がイスラエル領空を侵犯したとして、「地対空ミサイル」パトリオットを2発発射し、撃墜した」(25日、共同通信、その他)と発表した。イスラエルが有人のシリア機を撃墜したのは2014年以来である。イスラエルーシリア間のみならず中東全体に、緊張が走っている。
BBCによると、イスラエル軍は声明で、「シリア軍機スホイ22は領空侵犯したと非難したうえで、1974年に結ばれたイスラエルとシリアの兵力引き離し協定に違反する行為であり、「断固として対応する」と主張。イスラエルのネタニヤフ首相は、「我々は領土への一切の侵入を容認しない。地上からでも空からでも」とシリアを批判し、さらに「当方の軍は適切に行動した」と述べた」と伝えている。
シリア国営のシリア・アラブ通信(サナ通信)は、シリア軍の消息筋の話として、「スホイ機はヤルムーク渓谷近くの「武装テロ集団」に対する空爆を行っていた。」と伝えた。そのうえで「シリア領空内にいた戦闘機をイスラエルが標的にした。協定に違反していない。」と主張し、イスラエルが撃墜理由とした「協定違反、領空侵犯」を否定している。(25日、BBC)
<シリアとイスラエル、ゴラン高原>
2)「領空侵犯したので撃墜した」?
イスラエルは「占領地であるゴラン高原を領空侵犯したから撃墜した」と主張しているが、ゴラン高原はもともとシリア領である。イスラエルが67年の戦争後、長年にわたって不当に占領しているのであり、国連はイスラエルの領土とは認めていない。そのような主張は通らない。
もっとも、シリアはイスラエルの占領地であるゴラン高原にさえ入っていないと主張している。国内に侵入しているイスラムテロ組織、外国人が多数を占めるテロ組織と戦っており、今のシリア政府に、イスラエルと戦闘、戦争するつもりはないし、そのような余裕もない。シリア機はイスラムテロ組織を攻撃していたのであって、イスラエルを攻撃していたのではない。
したがって、イスラエルにとって「脅威」はなかったはずだ。
それから、イスラエルはこれまでシリア領を何度も領空侵犯し、シリアの軍事基地、施設などを直接攻撃してきた。自分たちは領空侵犯し、攻撃しても何ら問題ないが、シリアの領空侵犯は許さないという理屈なのだろうか? きわめて自分勝手な理屈である。
逆に言えば、「イスラエル機がシリア領空を侵犯したら、撃ち落されても致し方ない」ということになる。
<イスラエルのパトリオットミサイル>
3) シリアの防空体制が強化されている
いままで「イスラエル機がシリア領空を侵犯したら、撃ち落されても致し方ない」というのは言葉の上だけのことだった。シリアは迎撃能力を持っておらず、イスラエル機はこれまでシリア領空を自由に飛び回り、何度も領空侵犯してきた。
2018年2月10日未明、イスラエル軍機8機がシリア国内への空爆を行い、シリア軍の迎撃でイスラエル軍のF-16戦闘機1機が撃墜された。イスラエル軍によるシリア空爆は、1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻以降で最大規模の攻撃だったらしいが、イスラエル軍機が1機とはいえ、シリア軍の対空砲火で撃墜されたのも1982年以来、初めてだった。
この時イスラエル軍は、8機の戦闘機によるシリア内の12カ所(シリア軍施設8カ所、イラン関係施設4カ所)への空爆を実施した。明らかな侵略行為であり、国際法違反である。
シリア軍は地対空ミサイル20発で迎撃し、イスラエル軍機1機が撃墜された。爆撃後、ロシアのプーチン大統領がネタニヤフ首相と電話で会談し、自制を要請した。プーチンの一貫した立場だ。米国のティラーソン米国務長官は、イスラエルの防衛行動への支持を表明したが、積極的に介入する姿勢はない。
中東調査会 中島勇主席研究員(2018年2月13日)は、シリアのミサイル迎撃体制の強化について次のように述べている。
「・・・イスラエル軍は、シリア紛争が激化した後、シリア国内にあるヒズブッラー向けの兵器を破壊するとして、シリア国内への空爆を実施してきた。空爆の回数は、100回あるいは1000回前後(イスラエル要人の発言)と定かではないが、シリア軍が国内での戦闘に忙殺された結果として、イスラエル軍はシリア領空を自由に侵犯して爆撃を実行してきた。
こうした状況が変化したと推定されるのは2016年秋頃からで、シリア軍はイスラエル軍の国内での爆撃に対して迎撃行動を取るようになった。そのためイスラエル軍機は、シリア領内への空爆を行う際、レバノン領空から空対地ミサイルを発射するようになっていた。今回(2018年2月10日)の爆撃では、イスラエル軍機はシリア領空に侵入したようだが、シリア軍の迎撃体制がより整備・強化され、イスラエル軍機を撃墜する意思と能力があることが証明された。シリア領空に侵入した外国の戦闘機をシリアが迎撃するのは当然の行動であるが、今後、イスラエル軍機がレバノン領空あるいはイスラエル領空からシリア国内への遠距離のミサイル攻撃などを行う場合、シリア軍がどう対応するかが注目される。・・・」
これまで何度も領空侵犯、侵略してきたことに対して、イスラエルはどのように弁明するのだろうか?
イスラエルだけは、領空侵犯する特別な権利を持つというのだろうか?
イスラエルは、シリア国内にイラン人軍、シーア派系民兵が存在することを非難し、攻撃する根拠として挙げている。イランの軍事顧問が駐留しているから、イスラエルは領空侵犯と攻撃をしてよいという理屈である。
しかし、シリア政府の合意の下でシリアに駐留する限り、イラン人軍関係者のシリア国内駐留は合法である。イスラエルの論理に正当な根拠はない。
このため、シリアはロシアやイランの支援を得て、迎撃ミサイルを強化している。
シリアの迎撃ミサイル体制の強化はイスラエルに対してだけではない。
トランプ政権は、18年4月に「シリア政府軍が化学兵器を使った」と決めつけ、ミサイル攻撃を行った。化学兵器が使われた証拠も確認せず攻撃を行った。国際法違反である。のちにジャーナリストやOPCW (化学兵器禁止機関)が調査に入ったが、化学兵器が使われた証拠は見つけられなかった。イスラム反政府勢力のデマに基づいてミサイル攻撃をしたことになる。17年4月にも「シリア政府軍が化学兵器を使った」として、ミサイル攻撃したが、その証拠もいまだ示されない。
このデマを提供したのは、アルカイダやヌスラ戦線、IS支配地域にいて、彼らとともに行動する、あるいは同一組織の「ホワイト・ヘルメット」である。
18年4月のミサイル攻撃は、シリア政府によれば、米国のミサイルの7割は、撃ち落としたという。米国政府はすべて命中したと発表したが、攻撃したという化学施設へのミサイル弾頭数が施設の規模に比べあまりにも多く、発表内容に疑義がある。シリア政府によれば、シリア空軍基地などに発射されたミサイルのほとんどは撃ち落したという。
シリアの防空体制が整備されつつある。そのことは、イスラエルにとって大きな不満なのだ。
4) ISを支援するイスラエル
25日、朝日新聞デジタルは、「アサド政権軍は南部の反体制派の支配地域をほぼ制圧している。ただ、ゴラン高原に接する一部地区はいまだに過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあり、政権軍側は空爆などを続けている」と伝えている。
シリア内のテロ組織ISをイスラエルが支援している。
シリア内の反政府勢力、イスラムテロ組織は、イスラム勢力だそうだが、不思議なことにイスラエルによるエルサレム占領を非難しない。ガザを強制収容所化しているイスラエルを批判しない。
そして、極めて不思議なことに、このテロ組織はイスラエルによって支援されている。イスラエルはISを含むイスラムテロ組織の負傷兵の治療も行っている。
「ホワイト・ヘルメット」も決してイスラエルを批判しない。エルサレム占領を批判しない。
今回、シリア南部から追われた「ホワイト・ヘルメット」はイスラエル軍に保護されて、イスラエル国境を越えて、ヨルダンやイドリブ、あるいは欧州へ逃げた。
シリア内での傭兵からなるイスラムテロ組織は、シリア軍によって駆逐されつつある。アレッポが解放されて以降、イスラムテロ組織勢力の支配地域は、東部油田地帯のデリゾール、北西部のイドリブのみとなりつつある。シリア南部で、シリアの南部、レバノン、イスラエル、ヨルダンと接している地域をシリア政府軍が制圧しつつある。
イスラエルとシリア南部でテロ集団を制圧が終了しかけたら、背後の支持者・イスラエルが出てきたということだ。
7月23日の櫻井ジャーナルによると、「・・・侵略勢力、つまりアメリカ、イスラエル、サウジアラビア、イギリス、フランスなどの支援を受けたジハード傭兵は武装解除された上、家族とともにバスでイドリブへ移動している。このシリア南部地域での作戦が終了した後、シリア政府軍はイドリブで奪還作戦を始めると見られている。
侵略部隊の司令官4名はイスラエルへ逃れ、アル・カイダ系武装集団の医療部隊として機能してきた「シリア市民防衛(白いヘルメット)」のメンバー800名がヨルダンへ逃げたと伝えられている。「白いヘルメット」のメンバー救出はアメリカ、カナダ、イギリスを含むヨーロッパ諸国の要請でイスラエルが実施したという。」
このような状況下で、今回のイスラエル軍機によるシリア軍機撃墜が起きたのである。このようなイスラエルの反応はほぼ予想されていた、ともいえる。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長が、7月23日にイスラエルを突如訪問した。イスラムテロ組織が掃討されつつある状況下で、イスラエルが攻撃をしかけ、危機を激化させ、戦争を拡大しないことが目的だと推定される。
しかし、イスラエルは24日、シリア軍機撃墜の行為に出たのだ。
そこには「イスラエルの政治的意思」がある。ただ、これからさらに、戦闘を拡大できるかどうかだ。
もしイスラエルがその態度を改めないなら、シリアはロシアからSS-400などのより高性能の迎撃ミサイルを配備するだろう。
イスラエルは、シリア国内にイランの軍事顧問、シーア派系民兵が存在することを非難し、攻撃する根拠として挙げてきた。シリア政府の合意の下にイラン人が軍事顧問としてシリアに駐留する限り、シリア国内駐留は合法であり、イスラエルの論理に正当な根拠はない。
しかし、現在は、トランプ政権がイランとの核合意を一方的に破棄し、イラン制裁を各国に強要しているという極めて不安定な情勢下にある。イランを「悪者」にして、中東を不安定にし、戦争をいとわず、「取引」を有利に推し進めようとしている。この情勢をとらえて、イスラエルが軍事力を使って自身の利害を貫き通そうとすることは大いにあり得る。
その意味では、きわめて危険な情勢なのだ。
はたして、イスラエルがアメリカの了解を事前に得ていたか、だ。
たとえ了解を得ていなくても、攻撃した後に、米政府、トランプ政権がイスラエルの攻撃を容認するだろうことは、ほぼ予想できる。
問題は、米政府がどれくらいの「関与」を本気で考えているかだ。
イスラエルの行為を徹底して批判しなければならないし、挑発をやめさせなければならない。
5)中東を不安定化する
「中東の不安定化」はアメリカ政府が歴史的にとってきた戦略である。オバマ政権は米軍ではなく、金で雇い訓練した傭兵=イスラムテロ組織に戦争をしかけさせ、中東に介入してきた。これに同調しているのが、イスラエル、サウジ、湾岸諸国、英国、フランス。
傭兵を利用した介入が、シリアでは失敗に終わりつつあるのだ。
2018年現在、シリアのイスラムテロ組織は、次々に駆逐されつつある。ダマスカス近郊はすでに政府軍が支配し、テロリストは武装解除されて家族とともにバスでイドリブへ退却した。イドリブは反政府勢力の拠点だが、いずれイドリブからも駆逐されるだろう。油田地帯のデリゾールに反政府勢力が残るが、この地域には米軍基地があってイスラム反政府勢力は米軍に守られている。目的はシリアの油田。シリアには20もの米軍基地がシリア政府の承認も受けずに勝手に建設されている。
それ以上に、世界的な情勢は大きく変化しつつある。
アメリカはシェールオイルによって、石油を中東に依存しなくてもよくなった。むしろ最大の輸出国になろうとしている。中東諸国の友好国であるサウジも湾岸諸国も、より収奪する対象に代わるだろう。
米政府にとって負担となる場合は「中東への関与」は減るだろう。
トランプは中東への関与を減らすような発言をし、軍産複合体、ネオコンから批判され、攻撃され、右往左往している。
他方、中東で適当に戦争を起こし、不安定化させ、武力で影響力を保持し、武器を売ることは、アメリカの軍産複合体がこれまで行ってきたことであり、このやり方と利権を手放すことはない。
これまでイスラエルはその役割に欠かせなかった。
また、イスラムテロ組織を雇い、シリアでしかけた戦争は敗北に終わりつつある。イラクやリビアでは政権を倒すことはできたが、倒した後に現れたのは混乱である。
このような状況下でトランプ政権のとった「次の一手」は、イラン核合意の一方的な破棄。イランを悪者にして中東を不安定化させ、アメリカの影響力を行使し、取引を有利に進めようとしている。これまでのやってきたことの延長線上の対応だ。やり方はより乱暴になっている。そこには、利害だけでヴィジョンはないし、「見通し」もない。
世界の情勢変化は、イスラエルとってもその存在意味が問われているのであり、今までの役割がそのまま続くわけではない。ウクライナでネオナチ勢力を支持するイスラエルである。イスラムテロ組織を支援する(正確には、「駒として使う」)イスラエルである。シオニズムの論理はすでに崩壊している。そこにはヴィジョンはない。 (文責:林 信治)
1)イスラエル、シリア軍機を撃墜
イスラエル軍は「7月24日、シリアの戦闘機スホイ22、 2機がイスラエル領空を侵犯したとして、「地対空ミサイル」パトリオットを2発発射し、撃墜した」(25日、共同通信、その他)と発表した。イスラエルが有人のシリア機を撃墜したのは2014年以来である。イスラエルーシリア間のみならず中東全体に、緊張が走っている。
BBCによると、イスラエル軍は声明で、「シリア軍機スホイ22は領空侵犯したと非難したうえで、1974年に結ばれたイスラエルとシリアの兵力引き離し協定に違反する行為であり、「断固として対応する」と主張。イスラエルのネタニヤフ首相は、「我々は領土への一切の侵入を容認しない。地上からでも空からでも」とシリアを批判し、さらに「当方の軍は適切に行動した」と述べた」と伝えている。
シリア国営のシリア・アラブ通信(サナ通信)は、シリア軍の消息筋の話として、「スホイ機はヤルムーク渓谷近くの「武装テロ集団」に対する空爆を行っていた。」と伝えた。そのうえで「シリア領空内にいた戦闘機をイスラエルが標的にした。協定に違反していない。」と主張し、イスラエルが撃墜理由とした「協定違反、領空侵犯」を否定している。(25日、BBC)
<シリアとイスラエル、ゴラン高原>
2)「領空侵犯したので撃墜した」?
イスラエルは「占領地であるゴラン高原を領空侵犯したから撃墜した」と主張しているが、ゴラン高原はもともとシリア領である。イスラエルが67年の戦争後、長年にわたって不当に占領しているのであり、国連はイスラエルの領土とは認めていない。そのような主張は通らない。
もっとも、シリアはイスラエルの占領地であるゴラン高原にさえ入っていないと主張している。国内に侵入しているイスラムテロ組織、外国人が多数を占めるテロ組織と戦っており、今のシリア政府に、イスラエルと戦闘、戦争するつもりはないし、そのような余裕もない。シリア機はイスラムテロ組織を攻撃していたのであって、イスラエルを攻撃していたのではない。
したがって、イスラエルにとって「脅威」はなかったはずだ。
それから、イスラエルはこれまでシリア領を何度も領空侵犯し、シリアの軍事基地、施設などを直接攻撃してきた。自分たちは領空侵犯し、攻撃しても何ら問題ないが、シリアの領空侵犯は許さないという理屈なのだろうか? きわめて自分勝手な理屈である。
逆に言えば、「イスラエル機がシリア領空を侵犯したら、撃ち落されても致し方ない」ということになる。
<イスラエルのパトリオットミサイル>
3) シリアの防空体制が強化されている
いままで「イスラエル機がシリア領空を侵犯したら、撃ち落されても致し方ない」というのは言葉の上だけのことだった。シリアは迎撃能力を持っておらず、イスラエル機はこれまでシリア領空を自由に飛び回り、何度も領空侵犯してきた。
2018年2月10日未明、イスラエル軍機8機がシリア国内への空爆を行い、シリア軍の迎撃でイスラエル軍のF-16戦闘機1機が撃墜された。イスラエル軍によるシリア空爆は、1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻以降で最大規模の攻撃だったらしいが、イスラエル軍機が1機とはいえ、シリア軍の対空砲火で撃墜されたのも1982年以来、初めてだった。
この時イスラエル軍は、8機の戦闘機によるシリア内の12カ所(シリア軍施設8カ所、イラン関係施設4カ所)への空爆を実施した。明らかな侵略行為であり、国際法違反である。
シリア軍は地対空ミサイル20発で迎撃し、イスラエル軍機1機が撃墜された。爆撃後、ロシアのプーチン大統領がネタニヤフ首相と電話で会談し、自制を要請した。プーチンの一貫した立場だ。米国のティラーソン米国務長官は、イスラエルの防衛行動への支持を表明したが、積極的に介入する姿勢はない。
中東調査会 中島勇主席研究員(2018年2月13日)は、シリアのミサイル迎撃体制の強化について次のように述べている。
「・・・イスラエル軍は、シリア紛争が激化した後、シリア国内にあるヒズブッラー向けの兵器を破壊するとして、シリア国内への空爆を実施してきた。空爆の回数は、100回あるいは1000回前後(イスラエル要人の発言)と定かではないが、シリア軍が国内での戦闘に忙殺された結果として、イスラエル軍はシリア領空を自由に侵犯して爆撃を実行してきた。
こうした状況が変化したと推定されるのは2016年秋頃からで、シリア軍はイスラエル軍の国内での爆撃に対して迎撃行動を取るようになった。そのためイスラエル軍機は、シリア領内への空爆を行う際、レバノン領空から空対地ミサイルを発射するようになっていた。今回(2018年2月10日)の爆撃では、イスラエル軍機はシリア領空に侵入したようだが、シリア軍の迎撃体制がより整備・強化され、イスラエル軍機を撃墜する意思と能力があることが証明された。シリア領空に侵入した外国の戦闘機をシリアが迎撃するのは当然の行動であるが、今後、イスラエル軍機がレバノン領空あるいはイスラエル領空からシリア国内への遠距離のミサイル攻撃などを行う場合、シリア軍がどう対応するかが注目される。・・・」
これまで何度も領空侵犯、侵略してきたことに対して、イスラエルはどのように弁明するのだろうか?
イスラエルだけは、領空侵犯する特別な権利を持つというのだろうか?
イスラエルは、シリア国内にイラン人軍、シーア派系民兵が存在することを非難し、攻撃する根拠として挙げている。イランの軍事顧問が駐留しているから、イスラエルは領空侵犯と攻撃をしてよいという理屈である。
しかし、シリア政府の合意の下でシリアに駐留する限り、イラン人軍関係者のシリア国内駐留は合法である。イスラエルの論理に正当な根拠はない。
このため、シリアはロシアやイランの支援を得て、迎撃ミサイルを強化している。
シリアの迎撃ミサイル体制の強化はイスラエルに対してだけではない。
トランプ政権は、18年4月に「シリア政府軍が化学兵器を使った」と決めつけ、ミサイル攻撃を行った。化学兵器が使われた証拠も確認せず攻撃を行った。国際法違反である。のちにジャーナリストやOPCW (化学兵器禁止機関)が調査に入ったが、化学兵器が使われた証拠は見つけられなかった。イスラム反政府勢力のデマに基づいてミサイル攻撃をしたことになる。17年4月にも「シリア政府軍が化学兵器を使った」として、ミサイル攻撃したが、その証拠もいまだ示されない。
このデマを提供したのは、アルカイダやヌスラ戦線、IS支配地域にいて、彼らとともに行動する、あるいは同一組織の「ホワイト・ヘルメット」である。
18年4月のミサイル攻撃は、シリア政府によれば、米国のミサイルの7割は、撃ち落としたという。米国政府はすべて命中したと発表したが、攻撃したという化学施設へのミサイル弾頭数が施設の規模に比べあまりにも多く、発表内容に疑義がある。シリア政府によれば、シリア空軍基地などに発射されたミサイルのほとんどは撃ち落したという。
シリアの防空体制が整備されつつある。そのことは、イスラエルにとって大きな不満なのだ。
4) ISを支援するイスラエル
25日、朝日新聞デジタルは、「アサド政権軍は南部の反体制派の支配地域をほぼ制圧している。ただ、ゴラン高原に接する一部地区はいまだに過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあり、政権軍側は空爆などを続けている」と伝えている。
シリア内のテロ組織ISをイスラエルが支援している。
シリア内の反政府勢力、イスラムテロ組織は、イスラム勢力だそうだが、不思議なことにイスラエルによるエルサレム占領を非難しない。ガザを強制収容所化しているイスラエルを批判しない。
そして、極めて不思議なことに、このテロ組織はイスラエルによって支援されている。イスラエルはISを含むイスラムテロ組織の負傷兵の治療も行っている。
「ホワイト・ヘルメット」も決してイスラエルを批判しない。エルサレム占領を批判しない。
今回、シリア南部から追われた「ホワイト・ヘルメット」はイスラエル軍に保護されて、イスラエル国境を越えて、ヨルダンやイドリブ、あるいは欧州へ逃げた。
シリア内での傭兵からなるイスラムテロ組織は、シリア軍によって駆逐されつつある。アレッポが解放されて以降、イスラムテロ組織勢力の支配地域は、東部油田地帯のデリゾール、北西部のイドリブのみとなりつつある。シリア南部で、シリアの南部、レバノン、イスラエル、ヨルダンと接している地域をシリア政府軍が制圧しつつある。
イスラエルとシリア南部でテロ集団を制圧が終了しかけたら、背後の支持者・イスラエルが出てきたということだ。
7月23日の櫻井ジャーナルによると、「・・・侵略勢力、つまりアメリカ、イスラエル、サウジアラビア、イギリス、フランスなどの支援を受けたジハード傭兵は武装解除された上、家族とともにバスでイドリブへ移動している。このシリア南部地域での作戦が終了した後、シリア政府軍はイドリブで奪還作戦を始めると見られている。
侵略部隊の司令官4名はイスラエルへ逃れ、アル・カイダ系武装集団の医療部隊として機能してきた「シリア市民防衛(白いヘルメット)」のメンバー800名がヨルダンへ逃げたと伝えられている。「白いヘルメット」のメンバー救出はアメリカ、カナダ、イギリスを含むヨーロッパ諸国の要請でイスラエルが実施したという。」
このような状況下で、今回のイスラエル軍機によるシリア軍機撃墜が起きたのである。このようなイスラエルの反応はほぼ予想されていた、ともいえる。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長が、7月23日にイスラエルを突如訪問した。イスラムテロ組織が掃討されつつある状況下で、イスラエルが攻撃をしかけ、危機を激化させ、戦争を拡大しないことが目的だと推定される。
しかし、イスラエルは24日、シリア軍機撃墜の行為に出たのだ。
そこには「イスラエルの政治的意思」がある。ただ、これからさらに、戦闘を拡大できるかどうかだ。
もしイスラエルがその態度を改めないなら、シリアはロシアからSS-400などのより高性能の迎撃ミサイルを配備するだろう。
イスラエルは、シリア国内にイランの軍事顧問、シーア派系民兵が存在することを非難し、攻撃する根拠として挙げてきた。シリア政府の合意の下にイラン人が軍事顧問としてシリアに駐留する限り、シリア国内駐留は合法であり、イスラエルの論理に正当な根拠はない。
しかし、現在は、トランプ政権がイランとの核合意を一方的に破棄し、イラン制裁を各国に強要しているという極めて不安定な情勢下にある。イランを「悪者」にして、中東を不安定にし、戦争をいとわず、「取引」を有利に推し進めようとしている。この情勢をとらえて、イスラエルが軍事力を使って自身の利害を貫き通そうとすることは大いにあり得る。
その意味では、きわめて危険な情勢なのだ。
はたして、イスラエルがアメリカの了解を事前に得ていたか、だ。
たとえ了解を得ていなくても、攻撃した後に、米政府、トランプ政権がイスラエルの攻撃を容認するだろうことは、ほぼ予想できる。
問題は、米政府がどれくらいの「関与」を本気で考えているかだ。
イスラエルの行為を徹底して批判しなければならないし、挑発をやめさせなければならない。
5)中東を不安定化する
「中東の不安定化」はアメリカ政府が歴史的にとってきた戦略である。オバマ政権は米軍ではなく、金で雇い訓練した傭兵=イスラムテロ組織に戦争をしかけさせ、中東に介入してきた。これに同調しているのが、イスラエル、サウジ、湾岸諸国、英国、フランス。
傭兵を利用した介入が、シリアでは失敗に終わりつつあるのだ。
2018年現在、シリアのイスラムテロ組織は、次々に駆逐されつつある。ダマスカス近郊はすでに政府軍が支配し、テロリストは武装解除されて家族とともにバスでイドリブへ退却した。イドリブは反政府勢力の拠点だが、いずれイドリブからも駆逐されるだろう。油田地帯のデリゾールに反政府勢力が残るが、この地域には米軍基地があってイスラム反政府勢力は米軍に守られている。目的はシリアの油田。シリアには20もの米軍基地がシリア政府の承認も受けずに勝手に建設されている。
それ以上に、世界的な情勢は大きく変化しつつある。
アメリカはシェールオイルによって、石油を中東に依存しなくてもよくなった。むしろ最大の輸出国になろうとしている。中東諸国の友好国であるサウジも湾岸諸国も、より収奪する対象に代わるだろう。
米政府にとって負担となる場合は「中東への関与」は減るだろう。
トランプは中東への関与を減らすような発言をし、軍産複合体、ネオコンから批判され、攻撃され、右往左往している。
他方、中東で適当に戦争を起こし、不安定化させ、武力で影響力を保持し、武器を売ることは、アメリカの軍産複合体がこれまで行ってきたことであり、このやり方と利権を手放すことはない。
これまでイスラエルはその役割に欠かせなかった。
また、イスラムテロ組織を雇い、シリアでしかけた戦争は敗北に終わりつつある。イラクやリビアでは政権を倒すことはできたが、倒した後に現れたのは混乱である。
このような状況下でトランプ政権のとった「次の一手」は、イラン核合意の一方的な破棄。イランを悪者にして中東を不安定化させ、アメリカの影響力を行使し、取引を有利に進めようとしている。これまでのやってきたことの延長線上の対応だ。やり方はより乱暴になっている。そこには、利害だけでヴィジョンはないし、「見通し」もない。
世界の情勢変化は、イスラエルとってもその存在意味が問われているのであり、今までの役割がそのまま続くわけではない。ウクライナでネオナチ勢力を支持するイスラエルである。イスラムテロ組織を支援する(正確には、「駒として使う」)イスラエルである。シオニズムの論理はすでに崩壊している。そこにはヴィジョンはない。 (文責:林 信治)
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