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ウクライナ戦争は、なぜ終わらないのか? [世界の動き]

ウクライナ戦争は、なぜ終わらないのか?

 アメリカの世界戦略―NATO拡大とロシア弱体化、中国との覇権争い-が背景にある

1)なぜアメリカはこれほどまでに
ウクライナを支援し続けるのか?

  なぜアメリカは停戦に反対するのか?

 ロシア・ウクライナ戦争が始まった時、当初は驚いたものの米バイデン政権は、チャンスが訪れたと内心「歓迎」した。ロシアを崩壊させ、軍事・経済・政治すべてにおいてアメリカが有利となる局面が生まれたと受け取ったのだ。ウクライナが破壊されようと、ロシアが崩壊するまで戦争を継続することがアメリカの利益であると考えた。アメリカの世界戦略は、NATO拡大による中国・ロシアの弱体化だからだ。アメリカにとっては、2000年以降のウクライナへの資金供与・武器供与とNATO拡大を非難されないために、ロシアのウクライナ侵攻が「絶好の機会」となったということでもある。ノーム・チョムスキーが、メキシコの新聞El Universalに語ったように、「アメリカは、キーウを支持して、西側諸国の反ロシア連合を組織し、政治舞台に対するロシアの立場を、できる限り弱めようとして、想像を絶するゲームを始めた」のである。

 もちろん戦争を継続すれば、支援対象であるはずのウクライナとウクライナの人々が破滅してしまう。すでに多くの人が死に、傷つき、仕事と住居から逐われている。そればかりか、米欧からの「資金援助」で米国製武器を買い米軍産複合体は儲かったが、ウクライナには債務は莫大な額にまで積み上がっている。この先、ウクライナ国民は数十年をかけて返済しなければならない。また、ウクライナ農地の3分の1は、すでにカーギルなど外国農業資本の所有になっている。現時点でもウクライナは十分に破綻国家となっているのだ。

 一方、ロシア軍も米国製の最新の通常破壊兵器によってすでに多くの兵士が死んでいる、GDPは3~4%減少しているし、エネルギー・資源の輸出先(主に欧州)を失っている。これが数年続けばロシアの決定的な弱体化は避けられない。

2)なぜアメリカはNATOの拡大を望むのか?

 ロシア軍による主権国家ウクライナへの侵入(主権と領土の侵害、国際法の蹂躙)は、国際社会としては許すことはできない。ロシアは渡ってはならない橋を渡ってしまった。

 ただ何がロシアを、キエフ、西ウクライナにまで侵攻させたのか?を考えると、ロシアの安全保障にとってのウクライナの重要性に加え、NATO拡大の脅威があり、とくに2014年以降増大した米欧からの武器流入を阻止したいという危機感があった。2014年以降、ウクライナ軍は自国であるドンバス地域のロシア語系住民への攻撃を行ってきた。ロシアの侵攻は非難されるべきだが、アメリカから大量の武器が入り、ロシア国境を越えロシア語系住民の避難が続き、他方ポーランドなどでくり返しNATOの軍事演習がおこなわれていたことも看過できない。

 現在から、ウクライナ戦争が始まるまでの経過をたどってみれば、アメリカは1991年のソ連解体の後、国連など国際機関の役割を軽視・無視し、NATOによる支配へと転換してきたことがわかる。コソボにNATO軍が軍事介入しセルビアから独立させ、国境線を変えた。これはウクライナ戦争と同じく明確な国際法違反である。コソボには巨大な米軍基地がある。

 中東などではイスラム原理勢力を傭兵として使い、混乱をつくり出し、アメリカにとって都合のいい政権に変えていった。そのときの合言葉は、「反テロ戦争」であり、「人権」であり「独裁反対」であった。リビアではカダフィ政権を倒したが、アフガンやシリアでは失敗した。これらすべてはロシアによるウクライナ侵攻と同じく、米軍とNATOによる軍事加入であり、国連憲章違反(国際法違反)である。

 私たちは、先進国政府のように「ダブルスタンダード」の立場には立たないし、立つべきでないと考える。

 現代のアメリカの世界戦略は、「民主主義vs.専制主義」の対立として世界を描き出し、専制主義(ロシアと中国が主な対象)を民主化(=弱体化・崩壊)することだ。これが1991年以来継続する長期的なアメリカの戦略になっている。

3)ウクライナ戦争が世界の構図を変えた

 そのような米国によるNATO支配の結果としてウクライナ戦争があること、背後にある対立内容を見ておかなくてはならない。ウクライナ戦争を突発的な現象としてとらえれば、見誤ることになる。アメリカによれば世界は「民主主義vs.専制主義」の対立にあり、アメリカの世界戦略は軍事力と経済制裁によって専制主義国家を倒し覇権を実現することである。

 ウクライナ戦争が起きて大きく変わったことは、欧州が米国戦略の影響下に入ったことだ。欧州が「日本化」した、欧州がアメリカのポチとなりつつあるのだ。欧州のOSCE(全欧安保協力機構)も、欧州の不戦共同体も機能しなかった。逆にフィンランド、スウェーデンはNATO加盟を決めた。アメリカの戦略にしたがって、NATO拡大、ウクライナ戦争支援、対ロ制裁へと欧州は「統合」されたように見える。

 その結果なのだが、対ロ制裁の発動により、ロシアからの石油・ガス、鉱物資源などの供給が減少し、欧州は物価上昇に見舞われ、経済的には大きな後退を強いられている。現時点では欧州への経済的打撃が最も大きい。(対ロ経済制裁に参加しているのは欧米日加豪だけで、世界の3分の2は参加していない)。代替としてアメリカからの高価なシェールガスも含めたエネルギー・資源を依存することになり、さらには軍備拡大・戦争政策などアメリカ戦略への政治・軍事依存を深めることになっている。

4)アメリカのもくろみ通り、うまく行くか?

 ウクライナ戦争は、アメリカの長期的軍事戦略の一環として継続されている。「ロシアの弱体化」が目的だから、そう簡単には終わらせない。ロシアのみならず、中国や他の「専制国家」も標的になっており、中国への見せしめという要素も非常に強い。

 ただ、アメリカのもくろみ通りうまくいくかどうかは疑問だ。キッシンジャーが22年5月のダボス会議で、バイデン政権のウクライナ戦争加担に、疑問と警告を発した。「ロシアの侵攻開始前の状況を両国の国境とすることが望ましい、ウクライナ側にクリミア半島や東部の親露派支配地域の奪還を事実上あきらめるよう提案した」。その発言趣旨は「アメリカが確実に勝てる見込みがないではないか?」という一点に収束する。ただその声も軍産複合体とネオコンの影響下にあるバイデン政権には届かなかった。

 中国、インド、ブラジル、アフリカ、ASEAN諸国などは米欧日などの先進国とは違う行動をとっている。対ロ制裁決議を棄権・投票拒否しており、「平和と安定、主権尊重、即時停戦」に共感的だ。自称「先進国」が戦争に訴えていることをみれば、実に対照的な行動をとっている。ロシアは石油や天然ガスの輸出先を、欧州からインドや中国などに転換している。

 ロシアへの経済制裁への賛否と対応を世界の人口比でみると、①賛成は「先進国」(欧米、日豪加韓など)を中心に36%、②中立(インド・ブラジル、南ア、ASEANなど)が36%、③反対(ロシア、中国、イランなど)が32%であって、世界は対ロシアで結束はしていない、いわば世界は3極化しつつあるかのような様相を呈している(6月28日 「3極に割れた世界」日経)。

 アメリカがこれまで国際法に違反し軍事介入してきたにもかかわらず、アメリカ政府とNATOの行動は不問にした上で、ロシアの侵攻を国際法違反と批判する先進国の「ダブルスタンダード」に、先進国以外の国々は、深い不信を抱いている。その不信が、「3極に割れた世界」の背景にある。

 バイデン政権は、中国とロシアを「現状秩序を変える修正主義勢力」と位置づけ、ウクライナ戦争と同じ手法・同じ宣伝で「台湾有事」を煽り、軍事力と経済制裁でロシアの次は中国を抑え込もうとしている。米国にとって中国との覇権争いこそ、中長期的には最重要な課題だからだ。現在のところアメリカが中国に優るのは、①軍事力②国際通貨であるドルの二点なので、これを最大限利用して中国包囲網の形成を狙っている。ただし、容易にはうまくいきそうにない。

 アメリカの力は後退しており、20世紀末のように一強支配が再興できるわけではない。

5)停戦交渉の促進が急務  市民が声を!

 これ以上、破壊兵器をウクライナに送って戦争を長期化させれば、ウクライナそのものの破壊が進み、最貧国から立ち上がれなくなる。私たちの立場は、軍事力ではなく、あくまで対話と外交交渉による停戦、問題解決である。

 22年3月末、トルコのエルドアン首相が停戦提案として6項目を示した。その内容は極めて現実的であった。①ウクライナの中立化、②非武装化、安全保障、③非ナチ化、④ロシア語の使用制限の解除、⑤東部ドンバス地方の(一部)ロシア帰属、⑥クリミア半島のロシア帰属だ。2015年「ミンスク合意2」をベースにしている。ゼレンスキーが⑤、⑥以外は認める方向に傾いた直後に、ブチャの集団殺戮事件が表沙汰になって、これがまさに「ちゃぶ台返し」となり、停戦交渉を中断させることになった。ちなみにブチャの集団殺戮事件は、いまだに犠牲者氏名さえ明らかにされていない。ロシアとウクライナは停戦交渉を継続すると言っていたが、アメリカは「戦争は継続される」「数年続くだろう」として、停戦ではなく戦争継続を決めた。

 この停戦案、あるいは「ミンスク合意2」が停戦案のベースとなるのは間違いない。ただし、問題となているのは、停戦案の内容というより、アメリカ政府の態度であろう。

 私たちは、どうしなければならないか? まず、何よりも停戦を実現すべきである。
 ウクライナ、ロシア双方とも武器を置くこと・戦争停止すること。とともに、アメリカや欧州の軍事力や武器供与を停止し、平和と安定、主権尊重、国際法規遵守、外交交渉による解決を求めることが望ましい。私たちは、日本政府に対して、「アメリカ政府の後ろにくっついていないで、停戦を提案する立場に立て! 日本政府こそ、その役割を果たすべきだ」と要求する。市民の立場から、停戦を求める。

6)日本政府は?

 日本政府は敗戦後から一貫して「米国に守ってもらえる、米国が主導する世界秩序が続く」という前提に立って、国家戦略を組み立ててきた。ウクライナ戦争でもアメリカ政府にそのまま従っている。近年中国・アジア各国の国力増大にともない、アジアで突出していた日本の経済的地位は低下した。それと同時進行であるかのように、日本政府は対米従属を深め、アジアでは孤立を深めてきた。対米従属とアジアにおける日本の孤立は別の事柄ではない。

 現時点においてアメリカ政府にとって最も重要なのは中国との覇権争いであり、対中国政策である。対中国政策の中身は、「最先端半導体輸出禁止」の経済制裁と「台湾有事」を煽った軍事圧力だ。アメリカ政府の対日本政策は、あくまで対中国政策の一部にすぎないことを、日本政府も私たちも、まずしっかりと理解しておかなくてはならない。米戦略にとって日本は、ウクライナと同じ「利用する駒」である。

 ウクライナ戦争を経てアメリカ主導の世界秩序がすでに壊れかけていることがあらためて露わになった。その前提の上に立ち、新たな日本の生きる道筋を探るべきなのだが、日本の政治家、官僚はそのような危機感からはほど遠く、「アメリカ政府に従っていればいい、それ以上何も考えていない」、まさに「平和ボケ」の状態にある。アメリカ政府に従うだけなのは、アジアでは日本だけであって、ASEANなどは独自の対応をとっている。日本はすでにアジアで孤立している。

 現時点において、日本の安全保障にとって最も大事なのは米中対立の緩和であり、それゆえ日中友好だ。アメリカ政府の中国包囲網形成に加担すれば、軍事費は増大する。ミサイル防衛配備を行えばより危険になる。そのようなリアルな現実を、まず理解しなければならない。米中対立緩和は、中国政府を支持するかどうかの問題ではない。隣国との間で戦争を決して起こさない平和的友好関係を形成しておくということだ。アメリカ政府にしたがって軍備増大すれば、危険が増えるだけである。

 2022年9月は日中共同声明50周年であるにもかかわらず、日本政府にはこの機に関係改善する動きを一切見せていない。逆に極めて危険な対応をとっている。日本政府はバイデン政権と一緒になって「台湾有事」を煽り、1,000基ものミサイル配備を検討すると言い出している。いわば中国に対して、「刀を抜いた」態度に出るというのだ。

 日本のメディアからは、アメリカを通じた反中国、反ロシア情報が無批判に大量に流されている。覇者としての地位を失いつつあるアメリカの情報に影響・支配されている場合ではない。日本政府は米中対立を煽り、軍備増強する方針を示している。

 こんな状況に対し、市民の側がどのように対応すべきか、新たな情勢と危険な動きを見据えたうえで、キチンと態度を表明しなくてはならない。日本政府の「平和ボケ」に付き合っている時ではない。平和運動を取り組んできた私たちの仲間のなかにも、急速に変わりつつある現代世界の対立内容と危険な情勢が正しく認識されていないところがある。

 私たち市民にとって、ウクライナ戦争の停戦を求め、米中対立の緩和を意識的に追求することが、東アジアにおける平和を実現する上でとても重要になっているののだ。(2022年9月7日記)



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