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米国のインド太平洋戦略の弱点 [世界の動き]

1)米国のインド太平洋戦略の弱点

 米国はこれまでの中東に重点を置いた軍事戦略から、勃興する大国である中国を意識したインド太平洋戦略、対中国包囲網へと重点を移している。

 しかし、米国のインド太平洋戦略は弱点を抱えている。最大の弱点は、明確な経済戦略がないことだ。支配する戦略は持っているが、インド太平洋諸国と共存共栄する戦略を持っていない。

 インド太平洋の国々にとって中国の魅力は、共産党が指導する国家資本主義の政治体制ではない。あくまで「経済の潜在力の強さ」だ。ASEANはすでに中国経済との結びつきのなかで順調な経済発展を遂げ続けている。2021年現在の米国には、中国の経済構想に代わる構想を提起する力量はすでに失われている。

 米国が中国に対する批判を、「人権批判」などの政治面や軍事力の脅威だけに集中するならば、しかも「人権批判」の多くは米国政府関係者とその支配下にあるメディアによってつくられた「フェイクニュース」であるが、米国は対抗手段がいかに少ないかを露呈することになる。実際のところ、現在は「半ば露呈している」事態となっている。
 「フェイクニュース」を喜んでとりあげているのは、日本政府と豪州政府くらいだ。

 ASEAN諸国は、すでに米国の外交戦略の「底」、米戦略の「貧しさ」、「身勝手さ」を見破っている。その結果、「米国戦略に全面的に賛同するわけにはいかない」という態度を示しているのだ。

 トランプ前大統領が、米国内の支持層を意識し「アメリカン・ファースト」を掲げTPPを離脱したことで、経済面でより有効に競争する機会を放棄してしまった。バイデン政権はASEAN諸国との関係を修復しようとしているが、しかし果たして、有効な経済戦略を打ち出すことができるか? バイデン政権はTPPに復帰する戦略を描くことができない。実際に「TPPへ復帰しない」と表明している。TPPに復帰すれば各国から安い製品、部品、原材料が米国内に流入し、バイデンの支持基盤である中小企業経営者、労働者などはより没落し支持を失う。それゆえ、できないのである。この点はトランプも同じだった。米国国内政治の事情によって、できないのである。
 現時点では、中国がTPPへの加盟申請するに至っている。

 何しろ、TPPはそもそも中国を包囲するための経済戦略として構想されたものなのに、身勝手にも米国が勝手に抜けたのだ。
 米国の下僕である日本政府や豪政府は、本心では中国の加盟を拒否したいが、拒否する理由を見いだせない。

 対中国の経済戦略を描くことができないのは、バイデンの意思や希望の問題ではない、米国経済の実力にかかわっている。格差拡大し貧困層が多数生まれ荒廃した米国社会の実情にかかわっている。

2)軍事だけ先行する米の同盟国政策

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<アンソニー・ブリンケン米国務長官とロイド・オースチン米国防長官>

 オースティン国防長官はシンガポールを訪れた時の演説で、東南アジアに対し米国は「米国か中国のどちらかを選ぶよう求めているわけではない」と語った。

 この発言は、シンガポールのリー・シェンロン首相が米国に対し「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」と強い口調で言ったことを気遣った発言なのだ。

 ただ、米国政府の「表面だけの、言葉だけの対応」である。
 オースティンのこの発言は、その場限りの、シンガポールのリー・シェンロン首相の顔色を立てるためのものにすぎない。言葉の意味通りなら、並行してすすめている軍事同盟Quadは即時に解散解体しなければならない。米製原子力潜水艦配備を可能とする米英豪のAUKUSを設立してはならない。

 しかし、オースティンは、アジア版NATOを構想するQuadに、シンガポール訪問時の演説でも触れた。ASEAN諸国にもQuadに加わってほしいと発言した。

 中国の「一帯一路」構想、RCEP構想、あるいはASEANと経済一体化を進める戦略、これに対抗する経済戦略を、米国政府は持っていない。後退した帝国・米国は、すでにインド太平洋に中国の「一帯一路」構想に対抗する経済戦略を提示する力量はないのだ。したがって、シンガポールやASEAN諸国に対し、このように下手に出るしかないのである。こういうところに、インド太平洋における、そして現代世界におけるアメリカの力量の後退が現れている。

 ブリンケン国務長官、オースティン国防長官が相次いで東南アジア諸国を訪れたが、重要なことは「政治的な協調だけが、米国とASEANとの修復ではない」ということだ。インド太平洋に対する経済戦略なしに、インドやASEAN諸国、アジア太平洋諸国との米国の希望する同盟、すなわち中国を敵視し包囲し対抗する米国の戦略を、打ち立てることなど不可能なのである。

3)「航行の自由作戦」はASEAN諸国に評判が悪い

 ここ数年、米国政府は南シナ海において軍事的な「航行の自由作戦」に重点を置いてきたが、ASEAN諸国の支持は得られていない。得られていないどころか反発を食らっている。

 人口6億6千万人を抱え高い成長余力を持つASEANは、一方的な米国の都合で「中国を包囲する」という軍事同盟Quadに加わるつもりはない。ASEAN諸国は米国の「航行の自由作戦」に拒否反応を示している。誰しも経済成長している現状を壊したくはない、ASEANは成長する現状の上に、さらに成長する未来を構想しており、中国との軍事的な対立、紛争を望んではいない。

 紛争や対立、戦争を持ち込むのは米国であって、中国ではない。バイデン政権の推し進める米国の戦略は、ASEANの描く未来像と合致しない。米国戦略の成功は、ASEAN諸国の未来像と合致する構想を提起できるか否か、にかかっている。ASEANは米軍が南シナ海をウロチョロ動き回ることに反対しており、これに加わるつもりはないのだ。

 東南アジアの大半の国にとって、中国から不必要に反感を買うのを望んでいない、避けられないパートナーだからである。

 たしかに、この地域には領土問題が存在するが、ASEANは、アメリカの助けを借りて軍事的な力を背景に領土問題を解決しようとは考えていない。北京と対決しようと望んではいない。そんなことをすれば、解決どころかより問題がこじれ、米中の「力」による国際関係に取って代わり、ASEANやアジア太平洋諸国にとって、自立した外交、自立した経済運営が不可能になるのである。米による過去の東南アジア支配から、身に染みて理解している。

 領土問題が未解決のままであり、東南アジア諸国にとって解決する必要があるが、それを実現するための望ましいやり方は、中国との直接の二国間交渉であって、米国との軍事同盟に入ることではないし、米国の軍事行動に加わることではない。そのことは、フィリピンのドゥテルテ大統領が、実例を示して見せた。スプラトリーの所属について前アキノ政権がハーグ国際裁判所へ申し立てたが、ドゥテルテ大統領は「申し立てに中国政府が加わっていないから手続きが間違っている」と公言し、その判決は「紙っ切れ」にすぎない、「(中国との)二国間交渉で解決に臨む」と何度も表明している。

 ブリンケンやオースティンがなだめようとも、下手(しもて)に出て協調を演出しようとも、ASEAN諸国は、対中国強硬戦略や軍事的な対立の拡大が米国政府の本心であることは理解しており、米戦略に同調しないのである。あくまで米国が対中国強硬戦略に固執するなら、ASEANは離反するしかない。リー・シェンロン首相が、米国に対し「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」といった意味は、「迫れば離反するぞ!」と言っているに他ならない。
 アジア太平洋諸国もASEANの対応を注視しているし。変化した現代の国際関係を理解している。

 米国が「一帯一路」構想に代わる壮大な経済戦略を提示できないのなら、米国に協調する意味はほとんどないのだ。

 米国がインド太平洋に対抗する経済戦略を打ち出すことができるかが、焦点となるが、今の米国にはできそうにない。

 これまで米国は、歴史的には経済的な連携を拡大する戦略をとってこなかったし成功させてこなかった。南米でも、中東でも、クーデターを起こし親米独裁政権をつくり、掠奪的な新植民地主義を実施してきた。最近は傭兵を送り、社会を混乱させて、混乱に乗じて強大な米軍事力を背景に支配する手法にをとってきた。イラクでもアフガンでもシリアでも失敗している。アフガンからの米軍の不名誉な撤退は、米国支配の失敗をよく表現している。米国支配と米軍がつくりあげたのは荒廃した社会だ。
 いずれにしても米国はこれまでWin-winの関係、ともに経済発展する関係をつくり出すことに成功してはいない。

 ASEAN諸国は中国との経済的な連携関係を深めることで高成長を続けてきている。米国の軍事同盟に入れば、米国との連携を深めれば、現在のような高成長を維持できる保証はない。むしろ、過去支配されてきたような主従関係、新植民地主義による主従関係が復活することを思い起こす。

 だから、Quadは米、日、豪、印の4カ国にとどまっており、ASEAN諸国や韓国、その他の国々はQuadに加わらないのである。






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