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マルコス政権をどう評価すべきか? [フィリピンの政治経済状況]

マルコス政権をどう評価すべきか?

 7月24日、マルコス大統領は就任1年を経て2回目の施政方針演説を行った。マルコス政権がこの1年何をやってきたかを見たうえで、どんな政権なのか評価したい。

1)新自由主義経済政策を堅持

 フィリピンの経済成長は、2022年は7.6%の高成長であり、23年第1四半期は6.4%だった。6%程度の高インフレではあるが徐々に低下しつつある。全体として経済の基礎的指標は堅調に推移しており、ここ数年間の好調な経済を維持している。中国、ASEAとの経済関係拡大がその要因である。マルコス政権の経済政策によるわけではない。

 マルコス政権は、現在の高度経済成長を維持・強化する方針を掲げ、そのために海外との経済関係重視を表明している。中国、ASEAN諸国や日本、欧州と結んでいる貿易協定やパートナーシップ協定をさらに世界的に拡大すると表明した。全体としては、継続して新自由主義的な方針をとる。

 外国投資の誘致にも積極的で、マルコス政権の最初の1年で投資委員会(BOI)承認事業が1兆2,000億ペソ、そのうち戦略的投資が既に2,300億ペソに達したと報告した。
マルコス政権の大規模インフラ投資政策「ビルド・ベター・モア」(BBM)は、ドゥテルテ前政権以上の対GDP比5~6%の予算を投じ続けるとしている。現在政府は新規123事業を含む194件の優先事業に取り組んでいる、とりわけてルソン島南北をつなぐ総延長1,200kmの高速道路網事業、パンパンガ州-マニラ-ラグナ州間の南北鉄道事業を説明した。また電力インフラ整備も掲げている。インフラ整備はフィリピン経済をさらに成長させるだろう。ただそこに利権、汚職をむさぼる政権でもある。

 ASEAN、中国や世界市場と結びついた新自由主義政策の下で、資本活動は活発になり経済成長している。ASEAN諸国との分業/経済関係の拡大、中国経済圏での経済活動がその基礎にある。フィリピンは製造業の発展、例えば部品産業、プラスチック成型、機械加工などはがタイやインドネシアに比べて遅れているが、ASEAN内での分業や協力関係拡大でその弱点をカバーしている。その中で都市部を中心にサービス業、建設業、不動産業などで順調な経済成長している。さらにコールセンターからIT産業への発展を見せている。こうした経済拡大は、マニラなどの都市部が中心であり、都市部での雇用を拡大している。と同時に、地方や農村では従来の社会関係が残存しており、都市と農村間で、あるいは都市内部での格差拡大、貧困層の増大をもたらしているのも事実だ。

 これら政権の経済政策はフィリピン資本家層の利益に従っており、資本家層の支持はマルコス政権のよって立つ基盤である。

2) マルコス、農業と公共事業の利権を握る

 マルコス大統領は農業省長官を兼ねている。コメの価格を20ペソ/kgにまで抑えると公約し、その実現のため、政権は「大統領のカディワ(KNP: Kadiwa ng Pangulo)」プログラムを発足させた。食糧供給、インフレ/貧困対策として、農業、漁業、畜産業への補助金や主要穀物の買い取り制度(カディワ制度)の実施である。そのため7,000ヵ所の買取所を設置するとして予算を投じている。確かに買取価格を上げれば農民らの収入を増やすことができる。しかし、本当に救済するとしたら莫大な国家予算が必要となり、たちまちのうちに債務は拡大してしまう。いずれ、言葉だけの「人気取り政策」に終わる。
また、退役軍人等に国有地を分配、農民の農地購入支払いのための猶予期間と資金アクセスなどを掲げている。しかしこの政策も「人気取り」以上のものではない。政権は、地主制度(=大土地私有制度)の廃止、農地改革を実行するつもりなどない。これまで歴代政権がごまかしてきた政策の上塗りだ。地方と農村の貧困化は止まらない。

 他方、フィリピン経済の成長、都市におけるサービス産業の拡大、サービス産業の「輸出」が、一定の雇用を吸収する。その結果マニラなどの大都市圏への人口流入は続く。

 また、医療制度の整備がフィリピン社会にとって必要なことはコロナ禍を経て一層明確になった。しかし、多くのフィリピン人は高額医療費のために病院にかかることができない。マルコス政権は解決策としてフィリピンの農村や貧困層への医療アクセスのためのメディカル・センタープロジェクト、「地域への総合病院の配備」(クラーク地区の病院がモデル)を掲げているが、国民皆保険がなく国民多くが医療費を払えない根本原因を解決するものではない。これも「人気取り」政策であり、いずれ消える。

 むしろ逆に、これらの「人気取り政策」が、政府の債務拡大やマルコスを含む政権周辺の汚職の源泉となることは、ほぼ間違なく予測できる。マルコス大統領と政権に群がる支配層は、巨額のインフラ公共事業の大部分と農業分野を握った。この分野はこれまでもフィリピンの2大汚職事業であった。

 国民からすれば無駄な、政権周辺からすれば「利権のため」に必要な、そのような政策を実行する政権である。したがって、マルコス政権は父マルコス政権やこれまでのアロヨ、アキノ政権とまったく同じように、支配層内で利権を配分する統治スタイルをとっていると言える。マルコス政権はASEAN,中国との経済関係を拡大し経済成長を図るとともに、政権周辺に利権を配分することで成立している。そのような面もきちんと見ておかなくてはならない。支配層であるフィリピン資本家層は、マルコス政権が経済発展を阻害しない程度の振る舞いであれば、容認するとみられる。

3)反政府勢力への対応、労働組合・人権団体の弾圧

 マルコス政権は武装勢力の社会復帰を促すため、政府に投降した構成員に対して「恩赦を与える」と公約した。1年を経てみると、これはミンダナオ/イスラム解放戦線(MILF)の元メンバーに対してだけであり、新人民軍、共産党勢力は対象外だということがわかる。イスラム武装勢力に関しては自治区も含めて具体的な言及がなされるが、もう一つの和平対象であるはずのフィリピン共産党と新人民軍(NPA)への言及はなかった。

 23年7月24日の施政演説があった翌25日、フィリピン共産党(CPP)は声明を出し、「フィリピン共産党と新人民軍は恩赦と投降という背信的な申し出を断固として拒否する」とした。現時点でNPAとの唯一の活動的な戦線である北サマールを担当するフィリピン国軍ビサヤ司令部は、7月31日、CPP-NPA幹部に対する軍事作戦を集中的に継続すると表明した。「CPP-NPAの幹部たちに圧力をかけ、武器を捨てて法の下に戻るよう、集中的な軍事作戦を容赦なく継続する」(ビサヤ司令部ベネディクト・アレバロ少将)。

 CPP-NPAに対してばかりでなく、労働組合活動家、農民運動家、人権団体、教会関係者、環境運動関係者などに対する嫌がらせ、脅し、逮捕、超法規的殺害は、マルコス政権になっても続いている。
「マルコス大統領は人権を守ると誓ったにもかかわらず、赤タグ付けや「ドラッグ戦争」による殺害と弾圧がいまだに続いている。」(国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチのクラウディオ・フランカビラの声明)と告発している。

4)支配層内で親中と親米の綱引き

 ドゥテルテ前政権は「米中等距離外交」を掲げ中国と接近し、ASEANの一国として経済関係を密接なものにした。ASEANとの連携、中国市場への輸出、中国からの投資は増大し続けている。その意味では、支配層であるフィリピン資本家層にとってドゥテルテは功労者だ。

 マルコス政権もその基本方針を踏襲しているが、その一方で米政府の要請にこたえ、台湾への軍事的支援を見据えたルソン島北部の複数の基地の米軍利用許可へと踏みこんだ。中国の戦略潜水艦は海南島海口を基地としており、外海に出るにはバシー海峡を通過しなければならない。米軍に中国潜水艦の探知・攻撃基地を提供したことになる。

 フィリピン支配層内で親中と親米の綱引きが確かに存在する。(誤解のないように指摘しておくが、親中派と親米派とは傾向の違いであり、権力争いの材料としているとみるべきだ。親米派と云えども以前の米国の支配下に戻ろうなどと主張はしていない)。米国とフィリピン親米派は南沙諸島、アラギン礁での中国海軍との衝突を煽りたてている。衝突に際しては、マルコスは「フィリピン共和国の領土を1インチたりとも外国勢力に分け与えるようなプロセスは踏まない」と発言するに至っているが、戦争をするわけではない。フィリピン軍は国内反政府勢力弾圧のための軍であり、海軍空軍はほとんど持っておらず、外国と闘う力はない。ドゥテルテの発言によれば「中国と戦争などできない」。そのことは認識している。

 南沙諸島(スプラトリー)の所有をめぐり、ハーグ国際法廷は2016年に「どちらのものでもない」とする判決を出した。これは中国とフィリピン間に対立を起こさせ、かつ米軍がこの地域に進出する理由をつくる米国戦略に従ったものであった。中国は判決を認めていないし、ドゥテルテも判決は紙切れだとした。マルコスは、「北京との紛争解決にはこの裁判結果は役立たない、(ハーグ判決を外交的に利用する)選択肢は我々にはない」と述べている。さらに、23年1月には中国との領土紛争解決の役割を米国に許すことは、「災いのもと」だと、マルコスはDZRHラジオ語っている。(マルコス大統領は決して見識のある政治家には見えないが、日本の政治家、自民党や野党の政治家に比べるならば、相対的にはよりしっかりした見識を持ち対応していると言える。)

 中国/ASEANとフィリピンの経済関係は深まっており、もはやあと戻りはできない。米国はこれに代わる市場開放、資金援助・投融資・移転技術などの経済政策をフィリピンに提示することができない。日本が防衛協力などを提示して必死につなぎとめようとしているが、フィリピン政府は「綱引き状態」を保ち、双方からの援助を引き出す対応であるようだ。この先、米国とドルの力の低下、中国とBRICSの権威増大という急速な世界の変化を、マルコス政権が敏感に感じとり、さらに対応を変化させるかどうかは現時点では不明だ。その範囲においてのみ事態は流動的である。

5)人々の側からの批判、争点

 マルコス大統領は選挙戦を通じて、父マルコス大統領の評価を偽造する宣伝をしてきた。歴史修正主義と批判されている。その一例は、23年8月になって、マルコス元大統領一家が1986年の2月政変で大統領府を追い出される直前の72時間をマルコス一家のメイドを通じて描いたドラマ映画『マラカニアン宮殿のメイド』が各地の商業施設、シネマコンプレックスなどで上映され、多くの観客が入っている。マルコス政権は大量の資金を投入し露骨に歴史を塗り替えようとしているのだが、それが一定の功を奏しているのも現実のようだ。大企業や商工会議所が『マラカニアン宮殿のメイド』のチケットを大量に購入し配布している。偽情報、歴史偽造をSNS で大量に流すのがマルコス政治の特徴だが、『メイド』もその一つである。

 その一方で、マルコス元大統領の戒厳令時代に弾圧を受けた学生や労働者たちを描いたミュージカル映画『KATIPS:新たなカティプーナンの闘士たち』も同じ時期に上映されている。

 このように歴史修正主義に対する対立は様々に形を変えて続いている。

 マルコス大統領に批判的な組織の多くは、○超法規的な殺害・抑圧や赤タグ付けに代表される人権侵害、○共産党/新人民軍との和平、○偽情報や歴史修正といった情報操作、○汚職等の深刻化に強い懸念を示し、かつ批判と抗議行動を繰り返している。この先もこの課題がマルコス政権に対する人々の側からの批判の主要な課題、争点となる。

 マルコス政権になっても、労働組合のリーダーや組合員、人権団体、協会関係者に対する軍による殺害、脅し、監視、あるいは嫌がらせは続いている。政府に批判的な団体メンバーの失踪事件や違法逮捕等に対する政府の対応に、批判の矛先が向いている。その一方で、超法規的な殺害を犯した軍や警察に対する裁判や国家人権委員会からの告発などの動きもあるが、いまだ確固としたものとなってはいない。

 マルコス大統領は「人権を守る」と誓ったにもかかわらず、就任1年を経ても、この問題に言及さえしていない。彼の政治スタイルは、都合の悪いことにはまったく触れない、その代わりにSNSで偽造した歴史や宣伝を大量に流すという対応をしてきた。こういうやり方はマルコス独自のスタイルである。
労働運動、人権侵害の告発、環境運動などの市民運動は、いくつもの面でマルコス政権に対峙し批判し、人々の支持を得る困難な活動をこの先も重ねていくことになるだろう。(8月18日記)







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比大統領選の結果について [フィリピンの政治経済状況]

比大統領選の結果について

1)大統領選挙結果
 フェルディナンド・マルコス・ジュニア(64)は、5月8日のフィリピン大統領選で、3,163万票以上(得票率58.8%)を得て、ライバルであるドゥテルテ政権の前副大統領だったレニー・ロブレト候補の得票(約1,504万票 27.9%)に2倍以上の差をつけ当選した。投票率は83.1%と比較的高かった。レニー・ロブレトは、進歩的なマカバヤン・ブロックを含む人々の運動に支援されたが大差で敗れた。進歩的なグループは人権弾圧、市民運動弾圧をしない政権を求めてレニー・ロブレトを支持したが、その願いはかなわなかった。副大統領はドゥテルテ前大統領の娘サラ・ドゥテルテが当選した。

 6月30日大統領就任宣言式が行われ、フェルディナンド・マルコス・ジュニア上院議員が、第17代フィリピン大統領に就任した。

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<マルコス新大統領>

2)マルコスJrが勝利した理由は?
 ⑴ 選挙戦のやり方にある
 
 「フィリピンの選挙戦は、「お祭り騒ぎ」が繰り広げられる。大統領候補の集会は、野外音楽フェスティバルのようで、有名芸能人が司会し、かわるがわる人気アーティストが舞台に上がってパフォーマンスし、観客を大いに盛り上げた後、候補の訴えが始まる。コンビニでも、支持する候補のカップに飲み物を入れて買っていくいわば人気投票である。」(5月3日NHK)と伝えている。「お祭り騒ぎ」と化した選挙は、政策・政治ではなくただイメージを溢れさせる性質を多く持っている。候補者は大量の資金を投入する。選挙民は6年に1回「お祭り騒ぎ」に歓迎されるというある種の利益誘導でもある。フィリピンではこういったスタイルの選挙が長年行われ、定着している。

 そのようなフィリピンの選挙でマルコスJrは、どのようにして多くの国民、選挙民の支持を取り付けたか? この点に注目すべきだ。彼は、極めて「奇異な」手法で大統領選に勝利した。

 マルコスJrは、主要メディアのインタビューをすべて無視したし、都合の悪い質問、追及には答えなかった。大統領候補者の討論会にも一度も出席しなかった。討論すれば、敗ける・都合が悪いということもあったろう。「ドゥテルテ政治の継承」という以外に、政治目標・具体的な政策を掲げなかった。

 マルコスJrは、Facebook,TiktokなどのSNS、ソーシャルメディアを通じて「いい人であるというイメージ」とほとんどウソの情報を大量にたれ流した。ずいぶん資金を投入したのだろう。父親であるマルコス元大統領の「功績」を宣伝し「いい時代だった」とするイメージを広め、独裁者であり人権弾圧者である事実を隠した。マルコス独裁を倒した86年のエドサ革命の意義を否定した。

 一方、進歩的なグループは、従来通りの社会的運動として選挙運動を取り組んだ。レニー・ロブレトは約1,500万票を得たが、多くの選挙民までその主張は届かなかったようだ。進歩的グループや活動家、幅広い政治的野党に対する国家権力による赤札貼り(レッド・タギング)、嫌がらせや攻撃は、選挙の前・最中・後も続き、進歩的なグループから人々を遠ざけ、十分に訴えかける場を奪ったという面もある。
 マルコスJrのこの戦略は、結果を見れば明らかだが、成功した。

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<レニー・ロブレト候補>
 
 ⑵ どうして受け入れられたのか?
 問題は、どうしてこのようなやり方が成功したのか?ということだ。背後で進行しているフィリピン社会の変質を読み取らなければならない。

 フィリピンは経済成長の過程で、農村から大量の人々が都市に流入し、その階級を変えている。農村で成立していた地域社会の共同体、家族関係が(時には互恵的な救済の機能を持ち、別の意味では封建的な支配を強要する機能を持っていた)が崩壊してきた。都市に流入した人々は不十分ながらも新たなコミュニティを形成したし、そこに地域社会、市民運動、労働運動の基盤が生まれた。あぶれる人、失敗する人、底辺の者も含めて、家族・地域、仕事仲間、教会・宗教関係、共産党、都市貧民団体、半犯罪組織、麻薬組織・・・・・などが引き受けてきたし、規範と強制力をも行使する共同体として内在してきた。その上に国家が存在した。

 しかし、現代フィリピン社会では、人々の共同体、連合体が衰退し崩壊しつつあり、孤立した個人が大量に生みだされている。その孤立した個人それぞれが、SNSで直接、ドゥテルテやマルコスJrのまき散らすイメージにつながるというフィリピンの社会関係の変質が起きている。社会に内在するさまざまな共同体とその規範が影響力を失っていったら、残るのは支配者の論理、国家の規範だけになる。そこに劣化した民衆が生まれる。

 マルコスJrのSNSによる一方的な宣伝と利益誘導が功を奏したのは、バラバラになった個人が増え、その人々が彼のSNSイメージを受け入れたからだ。人権擁護、社会運動、市民運動、労働運動などのこれまでの訴えが、孤立した個人により少なくしか届かなかったのだ。

 フィリピン政治は、すでに劇場型政治となっている。特に「進化」しているのは、SNSで大量の情報・イメージ発信と利益誘導が行われ、直接孤立した個人それぞれと直接つながり、人々が受け入るという選挙と政治に変質していることだ。

 ⑶ エドサ革命はどこへ?
 フィリピン国民の平均年齢は24.3歳(2020年)、人口の半分以上は1986年のエドサ革命を知らない。他方で、「マニラには世帯で4万7千円~28万円ほどの月収がある「中間層」は2017年時点で人口の40%を占めるまでになった。」(鈴木直子:朝日GLOBE副編集長)

 都市貧民層・中間層は、政権による弾圧もあって人権擁護や市民運動に近づかない、という対応を身に着けた人々も多い。そのことは政治的代表を持たない大量の人々を生み出しており、マルコスのSNSイメージはその人々を捉えたのだろう。

 ドゥテルテやマルコスJrの支持率が高いことをもって、ドゥテルテ政権が一部民主的な政策を行ったと評価する必要はないし、あれほど多くの民衆に支持されたマルコスJrは父親と違う政治をするのではないか、と期待を抱くこともできない。

 あるいは、マルコスJrの勝利を見て、1986年の「ピープルズパワー」の精神は消滅してしまったのかと嘆く人もいる。その気持ちはよくわかる。エドサ革命やピープルズパワーの意義は消えはしないが、フィリピン社会が変化しつつある現実も同時に認めなくてはならない。
 おそらくこの先、マルコス以外の候補も似たような選挙戦を繰り広げることになる。資金と大量に投入する者だけが選挙戦に勝つという選挙になりかねない。フィリピンの人々にとって、このSNSに影響・支配された関係を批判し、これに対抗する人々の新たなつながり、連合体の形成が課題になる。とても困難な課題だ。

 日本も同じようなつながりを失った社会に変質しつつある。Z世代(1990年代生まれ)は余暇の4分の1をゲームで過ごすという。政府支配層の情報が、例えば内閣調査室からネトウヨ主宰者にもたらされ、孤立した不安定雇用の若者や孤立した中高年の男性を捉えるという現象はすでに起きている。

3)マルコスJrはどうして候補者になることができたのか?
 -ドゥテルテ政治の継続-
  時間は前後するが、マルコスがどうして与党内、支配層内で大統領候補になることができたのかも押さえておかなくてはならない。一言でいえば「ドゥテルテ政治の継承」を掲げることで、経済成長の継続を望むフィリピン資本家層を安心させ、その支持を取りつけたからだ。

 ⑴ 米中等距離外交
 ドゥテルテは、フィリピン資本家層にとってフィリピンを米従属国からより独立的な米中等距離外交の国に転換した「功労者」である。その結果、中国との貿易、中国資本の直接投資は増大し、フィリピン経済は大きく成長した。他のASEAN諸国はすでに米中等距離外交に転換していたが、ドゥテルテがフィリピンの転換を成し遂げた。そのような意味ではフィリピンの民族資本の利益の上に立ち、自立的な「民族的な」方向へ踏み出したのである。米国はTPPから離脱し、一方、中国は「一帯一路」構想を推し進めてきたなかで、そのような選択をしたのである。マルコスJrはこの路線の継承を約束した。

 ⑵ 軍・警察の支持
 また、マルコスJrは、軍・警察の支持を取り付けた。ドゥテルテが兵士や警察官の給料を2倍にあげ、軍・警察の支持を取り付けたうえに、麻薬戦争の実行者、共産党弾圧者としての役割を与え、その結果、軍・警察はフィリピン支配層のなかに確固たる地位を築いた。その軍・警察を引き続き重用することをマルコスJrは約束した。レニー・ロブレト候補はこれを約束しなかった。

 ⑶ 旧来の地方ボスの支持
 さらには、旧来の支配層の支持を取り付けたことで候補者になった。マルコスJrは北ルソン地方のボスであり、自身の基盤に国家予算や利権を引っ張って来る旧来型の政治家である。北ルソンのマルコス家の地盤、ミンダナオのドゥテルテの地盤など利権誘導型の地方ボスの支持も取り付けたようである。このような力も今回の大統領選では機能した。

 ただし、経済成長のなかで地方ボスは資本家や富豪になった者、マニラから来た資本家もいて、顔ぶれも階級も急速に変わりつつある。マルコス新大統領は、親しい富豪や地方ボスを政権内に登用する姿勢を見せている。今回は矛盾が噴出しなかったが、旧来の地方ボスによる利益調整政治は、フィリピン資本家層にとっては不必要な部分もあり、この先たとえば経済成長が低下した時などに対立が噴出することもあるだろう。

4) マルコス新政権はどんな政治を行うか?

 一言でいえば、ドゥテルテ政治のコピーだろう。ただし、小泉政権から出てきた安倍政権のように、いずれ「独自性」を発揮するかもしれないが、それには少し時間がかかる、現時点ではまだわからない。

 ⑴ 軍・警察を重用する--人権弾圧は続く
 軍・警察は政権内で確固たる地位を築いている。引き続き、人権弾圧、市民運動・労働運動弾圧、共産党弾圧を行い、その存在をアピールする。マルコス新大統領は、麻薬取締を引き続き実施すると表明している。そのため人権擁護の活動、市民運動、労働運動にとっては厳しい政治、厳しい日々が続く。ただし、今後、軍・警察が政府内で余りに大きな顔で振舞うことにたいし他の支配層から反発が起きる可能性はある。

 ⑵ ASEANの一員として振る舞う、中国との関係を維持・拡大する
 新政権は米中のどちらかを選ぶというような選択はしない。米比軍事同盟は存在するが、TPP離脱を表明した米国は同盟を維持し続ける経済的戦略を持たないし、メリットを示すことができない。政権は経済成長を重要視した選択をするだろうから中国との関係は維持するし、さらに拡大する。

 フィリピンはASEANとして共同した対応を採ることになる。フィリピンはこの先ASEAN内での分業、原材料・部品の調達、貿易などを増大させるだろうし、ASEANのフィリピンとして振る舞い、対中国・米国と付き合うようになるだろう。フィリピン資本家にとって魅力なのは開放された市場であり、継続した経済成長こそ重要である、特に中国市場を無視することはできない。そのことはマルコス新政権になっても変わらない。

 ⑶ 「ビルド・ビルド・ビルド」を継承、富裕層による支配
 フィリピンは交通インフラやデジタルインフラの整備が遅れており、現在すでに経済成長の桎梏となっている。朝6時のエドサ通りを見ればわかる。出勤する勤労者で満員のバスがひっきりなしに通り、何かあればすぐに渋滞する。港湾や空港、高速道路の建設、デジタルインフラの整備も待ったなしだ。新国際空港の建設も各財閥が計画している。これらが整備されれば更に成長することはほぼ約束されている。

 しかし、そこに巨大な利権が伴う。マルコス新大統領は大手財閥サンミゲルの高速道路事業を率いるマヌエル・ボドアンを公共事業道路相に登用した。前任の公共事業道路相が一族の不動産業を引き立てたように、新公共事業道路相は、不動産や建設業でサンミゲル社長ラモン・アン家やサンミゲルの大株主アヤラ家の利益拡大を図るだろう。「サンミゲルの大株主であるイニゴ・ゾベル氏(比国内21位の富豪)は、マルコス新大統領の友人だし、イニゴ氏のいとこのエンリケ・ゾベル氏(5位の富豪)は大手財閥アヤラの大株主。マルコスの妹アイリーン氏の夫グレゴリオ・アラネタ氏は複合企業ディトCMEホールディングスをはじめ不動産や銀行の幹部を務める。また、富豪アンドリュー・タン氏の息子で不動産大手メガワールドの再興戦略責任者兼副社長のケビン・タン氏もマルコスと親しい。」(7月15日Nikkei Asia)

 新政権の周りにはすでに富豪や資本家が集まりつつある。ドゥテルテは特定の財閥に厳しいところがあったが、マルコスJrにはドゥテルテほどカリスマ性がなく、どのように調整するだろうか? いずれにせよ、ドゥテルテ政権と同じように、あるいはそれ以上に新政権に近い財閥が恩恵を受けることになる。国家予算・公共事業を一族や友人に引っ張って来るボス間の利益調整政治は、現代的なスタイルをとって継続するし、より腐敗が進むだろうことは容易に予想できる。

 読者はすでに気づいておられると思うが、マルコス家を含む支配者たちは、それぞれ資本家や富豪と縁戚・友人関係にある。富裕層と選挙民ははっきり分かれており、選挙民は選挙の時だけ褒め上げられあてにされる社会なのだ。フィリピン社会は極めてはっきりとした階級社会であることもあらためて認識しておかなくてはならない。

 ⑷メディアへの対応
 マルコス新大統領は、選挙戦でSNSでイメージを大量に流し支持を得たという「成功体験」を持っている。

 6月1日、アンヘラ次期大統領広報室長は、ブロガーをマルコス新大統領のブリーフィングに呼ぶ方針を明らかにした。
 彼は選挙戦で、①自身の脱税による有罪判決、②未払いの巨額な相続税、③父であるマルコス元大統領による戒厳令に関する歴史認識などには全く触れないで済ませてきたし、追及するメディアには応じなかった。おそらく新政権でも自身に近いメディアしか近づけないだろう。そうでないメディアへの冷遇・弾圧、さらには「報道の自由」の侵害、報道の統制が危惧される。

 ただ、大統領選選でのマルコスへの支持票は、上述の通りきわめて流動的で不安定なものであって、確固たるものではない。レニー・ロブレトを支持した1,500万票もある。安定した政権になるとは言えない。

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 新政権は振りまいたSNSのイメージとは異なり、独裁的で反人民的な、より腐敗した政権になるのはほぼ明らかなようだ。(2022年8月12日記)










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ドゥテルテ政権末期の政治情勢 [フィリピンの政治経済状況]

ドゥテルテ政権末期の政治情勢

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<オースティン米国防長官(左)とドゥテルテ大統領(7月29日)、ドゥテルテの左手を見よ! ポケットにい入れたままだ。オースティンは無礼と怒らなかったのだろうか!>


1)米中対立のなかで独自に振る舞うフィリピン 
①米軍の戦略の変更--中国を包囲する :

 米政府の対中国強硬策、「中国封じ込め」の米軍事戦略にとって、フィリピンは地政学上重要な位置にある。かつて米軍はクラーク空軍基地、スービック海軍基地から撤退し、嘉手納やグアムに集中したが、再びフィリピンで活動したがっている。その背景には、中国軍のミサイル軍の整備、その精度・飛距離の向上がある。東アジアで米軍と中国軍が戦闘すれば米軍が敗れると想定されるまでになっている。

 海南島の海軍基地を母港とする中国海軍潜水艦はバシー海峡(フィリピン―台湾間)を通り太平洋に出る。すでに米軍は南シナ海で対潜哨戒の軍事演習を実施し、海上自衛隊もすでに何度も参加している。米軍は11隻の空母を持ち世界に展開しているが、21年の太平洋への出撃日数が全世界の5割を超えた。中国を第一の脅威と見ているからだ。

 バイデン米政権はASEANを無視した前トランプ政権の政策から転換し、同盟国と協調して中国に対抗するためにフィリピンを含むASEANとの関係を修復しようとしている。

② VFA(米比軍相互訪問協定)破棄から存続へ 

 オースティン米国防長官は、7月末、東南アジア3カ国、シンガポール、ベトナム、フィリピンを訪問し、7月29日にはフィリピン政府とVFA存続で合意した。訪問の最大の成果だ。VFAはフィリピンにおける米軍の法的地位を定めており、破棄されれば米軍がフィリピンで活動する根拠を失う。

 そもそもVFA破棄をドゥテルテが言い出したのは、20年1月、側近であるデラ・ロサ上院議員(2016-18年国家警察長官)の米入国ビザ発給を、米政府が拒否したことに怒り、半年後の破棄を通告した。その後現在に至るまで「破棄」を延期してきたのだが、上記の通りVFA存続で合意した。

 ただドゥテルテ政権によるVFAの扱いがきわめて「軽い」のだ。VFAを存続させたが、フィリピンがこれまでのような米国の同盟国に復帰するわけではない。ドゥテルテはオースティン米国防長官の訪問を受ける直前まで、中国から資金援助をうけたマニラ首都圏の橋開通式典に出席していた。

 フィリピンは21年1月からは中国製ワクチンの供給を受けてきた。最近までドゥテルテは「米政府がコロナ・ワクチンをよこせば、VFAを存続してもいい」と公言していた。VFA存続により米国はワクチンを供給するようだ。ワクチン入手の外交上の取引材料としてVFAが扱われている。
(日本政府が米政府と交渉するため、日米安保条約の破棄をちらつかせるようなものだからだ!)

 フィリピンの貿易の3割は中国が相手であり、米国とは約15%だ。他のASEAN諸国と同様、フィリピンは中国―東アジア経済圏のなかにあり、グローバル経済とつながり高度経済成長を遂げている。フィリピン支配層はそのことに自信をもっているし、ドゥテルテもその立場に立っている。

 1980年~2000年代までは、仮にフィリピン政府が「VFA破棄」などといえば、米政府・米軍の意図を受け比軍内でクーデターが起きて政権が交替していたはずだ。いまや、東南アジアにおいて、米国政治と米軍の力は大きく後退しておりクーデターを起こす力はない。新植民地主義による米国支配の時代はすでに終わっている。

 ASEAN諸国は、ASEANという連合体としてさらなる成長を構想する経済―政治関係の構築をめざしている。ASEAN諸国はこの地域での紛争、軍事的な対立を嫌い、「米中対立をASEANに持ち込むな!」と明確に主張している。シンガポールのリー・シェンロン首相は「我々に米国か中国かの選択を迫るな!」と強い口調で述べた。米国の対中国強硬政策を拒否するASEANの立場をよく表現している。

③7月26日、ドゥテルテ最後の施政方針演説

 政権の任期が残り9ヵ月余となった7月26日、ドゥテルテは最後の施政方針演説に臨み、6年間の成果を強調した。「インフラ促進プログラム」、「麻薬撲滅戦争の成果」、「国民皆保険法など重要法整備の進展」、「反共政策の強化」、「新型コロナウイルス対策」など過去5年間の政権の実績を3時間弱にわたり誇らしげに語った。

 「麻薬撲滅作戦」とは軍・警察の権力強化であった。労働運動、市民運動弾圧のための「反共政策の強化」であった。ドゥテルテの施政演説中マニラでは、反ドゥテルテの大規模な抗議行動、デモが繰り広げられた。

 施政演説中、注目すべき点は対中政策であった。南シナ海の領有権問題など外交政策についてドゥテルテは「独立外交政策を積極的に進めてきた」ことを誇った。アキノ前政権時に、南シナ海スプラトリーの領有権問題で、比政府が仲裁を申し立て、一方中国政府は申し立てていないのに、ハーグ国際司法裁判所は勝手に受け付け「スプラトリーは中比、いずれの領有も認めない」とする「南シナ海判決」を出した。この判決は、米国戦略に都合のいい判断であり、米軍の「航行の自由作戦」に根拠を与える内容となった。そもそも2カ国のうち一方である中国政府が仲裁を申し立てていないのに、国際司法裁判所が勝手に仲裁判決を出すのはきわめて異例なことだ。

 ドゥテルテはその手続きの不備を認め、「(判決は)仲裁裁判手続きに加わっていない中国を拘束するものではない」として、判決を重視しない立場であることを施政方針演説でも確認した。判決は「ただの書類である」とした上で、「中国との戦争をけしかけてはならない、対中戦争を煽るな!」と述べたのである。

2) 経済成長を遂げつつあるフィリピン 

 フィリピンの一人当たりのGDPはすでに3,000㌦を超え、「中進国」となった(2020年3,323米㌦)。消費動向が変化していくはずだ。ただ、国内の経済格差はむしろ拡大している。グローバル経済と結びついた大マニラ経済圏は急速に経済成長を遂げながらも、地方には旧来の伝統的な社会が残存し、その格差は極端に広がっている。

 フィリピンの人口は1億人を突破した。労働人口は4,500万人(2020年)であり、そのうち1,000万人が海外出稼ぎ労働者である。(2018年の在外フィリピン人からの送金額が過去最高の289億ドル。2019年GDPは3,768 億㌦、GDPの約8%は海外からの送金)。ただここ数年、出稼ぎ労働者数の増大が止まったままだ。

 出生率は高く幼児と子供の数が多い、フィリピンの平均年齢は24歳と極めて若い。ただこの10年、出生者数の増大も止まっている。農村から都市へ大量に人々が流入し続けている。流入人口が膨大なので失業率は高いままだ。農民層が急速に分解し、都市労働者に階級を変えており、国内消費市場は拡大を続けている。

 フィリピン経済は大きく転換しようとしている。経済は「高度化」し拡大し雇用は増えるだろう。海外出稼ぎ労働者数はいずれ減少に転化すると思われる。

 フィリピンは、他のASEAN諸国に比べて製造業が十分に発展してこなかった。タイ、インドネシア、マレーシアなどに比べ、機械加工・部品生産・プラスチック成型などを行う下請け・外注が広範に形成されていないため「厚みのある」垂直統合型の製造業が形成されていない。一方、サービス業はもともと盛んであり、金融、不動産、国際的な通信と結びついたサービス業(コールセンターなど)が急速に拡大している。ITとむすびついて根本的な変革が起きており、最近はさらにDXが急速に展開し、サービス業の急拡大と効率化が目立っている。中国資本を中心に直接投資も増大し、今後も継続した経済成長を遂げるとみられる。

3)これまでのフィリピン政治 

 これまで長い間、米国の支配下にあり傀儡的な政権が続いたフィリピンであったが、最近はASEANの一国として経済成長を遂げ、米支配からは離れ独自の地位を築いた。ドゥテルテ政権はより独立的となったフィリピン民族資本の政権だ。フィリピンの支配階級は大資本であるが、フィリピンでは政権を獲った者が国家権力を通じて利益を配分したり自身が資本家になるクローニー政治が長らく続いてきた。ドゥテルテ政権もその性質を多く引き継いでいる。クローニー政治では、権力者が利益を配分する。軍や警察は権力者・支配者の意向に従って動くことで政権内での地位を確保してきた。ドゥテルテ政権下でも軍や警察は、麻薬取締、コロナ対策を口実に労働運動・市民運動を弾圧することで、支配層内での役割をアピールし、政権内の確かな権力を構成するまでになった。

 逆に言えば、軍や警察による強権的な弾圧が続いてきたことで、共産党系の労働運動、市民運動が一つの核として残り、政府や権力と対峙する政治的な関係が続いているのである。いまではむしろ「希少」になった政治的な構図である。

 フィリピンには死刑制度はないし、英米型の法制度も存在するが、支配層が法律を守らないところに大きな問題がある。権力者である軍や警察、有力者が、法を無視して勝手なことをする政治が続いている。フィリピン社会の大きな問題は権力者による無法な支配だ。人権弾圧が続いている。国内でも厳しく批判し抗議行動も組織されているし、国際的にも改善を要求されているが、ドゥテルテ政権は改善するつもりがない。軍と警察による労働運動や民主的な活動、人権活動に対する露骨な弾圧や「超法規的殺人」が止まらない。こういうことは資本が自由な経済活動をする上で、効率的合理的ではないので支障となると思われる。

 ドゥテルテ政権の人権弾圧、労働運動、民主運動への弾圧に、人々の側は抗議活動を継続しているし、人々の怒りと政権に対する反発は大きなままだ。ずっと続いている。ドゥテルテ政権は利害で誘導し支配層をまとめ上げ、抗議に対しては強権で弾圧し抑え込んでいるが、批判と不満は蓄積しており、ドゥテルテ政権の基盤は決して盤石ではない。

4)22年5月の大統領選

 来年22年5月に大統領選があり、ドゥテルテは退陣する。候補者予定者の顔ぶれから見て、フィリピン支配層内での候補選びになりそうだ。軍や警察は、自身の政府内での権力を確保してくれる候補を推すだろう。フィリピンの支配階級である資本家、特に中国人系資本はこれまでは権力獲得争いから一歩引く立場をとってきた面がある。ただフィリピン資本家層の力は経済成長によって十分大きくなっており、大統領選に影響力を行使する力をすでに持っている。どのように介入していくのか、未だよく見えない。形成されつつある都市中間層が大統領選でどういう要求を持ち行動するのかも、不明だ。都市中間層は自身の政治的代表を持っていない。

 ドゥテルテの娘であるサラ・ドゥテルテ(42歳)ダバオ市長は有力な候補であり、軍や警察、中央と地方の有力者など権力者内での調整がうまくいけば、当選する可能性は高い。「安定した」支配体制を継続するために、ドゥテルテが副大統領となることも大いにありうる。7月13日に発表された世論調査では、サラ候補が28%でトップに立ち、2位に14ポイントの差をつけた。

 マルコスの息子ボンボン・マルコスなどの候補者は、クローニー政治による当選後の権益配分の調整を中央と地方の有力者に働きかけることで支持を得ようとする旧来型の候補である。有名なボクシング・チャンピオン、マニー・パッキャオも出馬するようだ。人々の側は、軍や警察の弾圧によって、労働組合・市民団体は抑えられ傷つけられている。独自の候補を出す事は今回も難しそうだ。(前回の大統領選では、BAYANのメンバーを閣僚に据えると確約したドゥテルテを支持した。)

 候補者を見る限り、大統領選が「人気投票」になっている。その理由は、大多数の庶民、貧民が組織されていなくて自分たち要求を実現する代表をもっていないからだ。孤立した大衆は、利益誘導やネットなどを通じた支配的な宣伝に直接つながり、全体的に見て取り込まれている。

 22年の大統領選は、その支配はより不安定になるだろうが、おそらくドゥテルテ政治を根本的に変える可能性は小さい、あるいはドゥテルテ政治のコピーが現れるのではないか。したがって、しばらくは混沌とした情勢、人々にとっては厳しい状況が続くと思われる。(2021年8月6日記)





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バリカタン軍事演習の意味? [フィリピンの政治経済状況]

バリカタン軍事演習の意味?


 米比の合同軍事演習「バリカタン」は4月13日から23日まで約2週間の日程で、実施された。米軍とフィリピン軍から合わせて約1,000人が参加した。1991年から行われてきた米比合同軍事演習だが、2020年はコロナで中止されていた。19年の演習では7,500人が参加しており、今回は大幅に規模を縮小した。コロナとは関係なしに、米比合同軍事演習の意義が大きく変化しつつあるようだ。
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<南シナ海>

 米政府・米軍にとっては、「対中国強硬政策」、「対中国軍事政策」の一部として、対フィリピン政策がある。「合同軍事演習バリカタン」の目的も対中国軍事政策に変わっている。

 海南島に中国の潜水艦基地があることなどから、米国は南シナ海は米中対立の最前線であると勝手に設定し、「航行の自由」作戦と称して空母群を航行させ、軍事的圧力をかけてきた。米国の最新の対中国軍事政策にとって、南シナ海のフィリピンは重要な軍事的要衝である。

 3月、米海軍は南シナ海で空母「セオドア・ルーズベルト」などによる軍事演習を行っており、立て続けに「バリカタン」も実施し、中国を牽制した。ただ、以前の「バリカタン」とは少し異なり、が少々「ぎくしゃく」している。

 フィリピンにとっては、中国との政治的経済的関係は近年ますます密接になり、これまでのように一方的に米国の同盟国であり続けるわけではなくなった。ドゥテルテ政権は20年に同国内での米軍の活動を認める「訪問軍地位協定(VFA)」を破棄すると一方的に米側へ通告し、現在は破棄を保留している状況だ。VFA破棄すれば米軍がフィリピンに駐留する根拠がなくなる。

 ただ、3月上旬から、フィリピンが排他的経済水域(EEZ)と主張する南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に、中国船が停泊を続けている。フィリピン政府は「即時退去」を繰り返し要求するが、解決の糸口は見えていない。そのためか、急遽、2021バリカタン演習を実施することにしたようだ。ただ、上述のように小規模だ。

 4月11日の米比電話会談ではオースティン米国防長官がVFAの継続を求める一方、ロレンザーナ比国防相はフィリピンが発注した米モデルナの新型コロナワクチンが早期に届くよう、協力を要請した。フィリピン政府はVFAや軍事演習の再開を米国との「交渉材料」にしている格好だ。
 軍事演習が、取引の材料に転化している。

 フィリピンにとっては、軍事面での米国との部分的な協力を通じて中国を牽制するとともに、一方で、米国から幅広い支援を引き出したい思惑がある。

 フィリピン政府は、「米中等距離外交」で臨むという方針を明確に示しており、より独立的な地位を確保しようとしているように見える。「米中等距離外交」というより、「米中天秤外交」という方がより適切かもしれない。

 その背景には、フィリピンを含む東南アジアが世界でも最も経済成長の著しい地域の一つであり、中国も米国も、さらには欧州・日本なども無視できないだろうという「自負」のようなものがある。










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コロナ禍の人権侵害を許さない ― フィリピンのバナナ労働者の支援を!- [フィリピンの政治経済状況]

コロナ禍の人権侵害を許さない
― フィリピンのバナナ労働者の支援を!-


 フィリピン・ミンダナオ島の「スミフル(旧:住商フルーツ)」バナナ農園と集荷施設の労働組合と組合員に対する暴力行為や不当解雇が起きて2年を経過しているが、未だに解決していない。会社側からだけでなく、コロナ禍を「理由」に警察や軍から、さらに過酷な弾圧、組合潰しが続いていて、現地の労働者たちは困難な闘いを強いられている。

 PARC、エシカルバナナ・キャンペーン実行委員会、FoE(国際環境NGO)が支援活動を呼びかけている。

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<道の両脇に広がるバナナプランテーション(2018年12月撮影、FoE Japan)>

1)労働組合結成と弾圧のこれまでの経緯
 2018年10月1日、日本仕向けの輸出を行なうバナナブランド「スミフル(旧:住商フルーツ)」を取り扱うミンダナオ島コンポステラ・バレー州にある農園と集荷施設の労働者は、労働組合「ナマスファ」を結成し不当な労働環境の改善を訴えて、組合員749名がストライキに入った。ストライキ開始後に、会社だけでなく軍や警察も加わった暴力的なスト破りにあい、29名の組合員が負傷したばかりではなく、組合員は会社側から10月中に一斉に解雇された。

 18年10月31日には、組合員ダニー・ボーイ・バウティスタさんが何者かに射殺される事件が起きた。また、同じ頃、ストライキに参加した労働者3名が、銃を構えた正体不明の男らに追いかけられ、発砲される事件が発生した。

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<ダニー・ボーイさんの射殺に対する正義を求める組合員(2018年12月、FoE Japan撮影)>

 11月には組合代表の自宅が放火され、現場付近からは銃弾の薬きょうも発見されている。住民らの消火活動によって消し止められたものの、翌12月再び、組合事務所と組合代表宅が合わせて放火され、全焼した。
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<労働組合ナマスファの代表宅焼け跡(2018年12月、FoE Japan撮影>

 この一連の事件が労働運動に対する悪質な弾圧行為であることは明らかだ。日本に輸出されるバナナのために、不当な労働環境にさらされた労働者たちは、労働組合を組織し労働環境の改善を会社に求めたのだが、解雇され、なおかつ暴力で脅される事態となり、その弾圧はいまも続いている。

 この事件に対し、18年10月から、日本でPARC、エシカルバナナ・キャンペーン実行委員会、国際環境NGOであるFoEが、「スミフル」の親会社である住友商事に抗議と事態の改善を求め申入れ行動を行った。すると住友商事は「スミフル」社をシンガポールの会社に売却してしまい、自身には何も責任はないという態度に出たのである。しかし、現在もなお、「スミフル」社からバナナを輸入し全国のスーパーに納入している。

 日本で売られているバナナのうち、フィリピン・バナナが8割以上を占め、そのなかでもスミフルからの輸入がもっとも多いのだ。ぜひ、スーパーで手に取って、確認してほしい。

 現地の労働者たちからの労働組合弾圧や労働環境の改善要求は、現地の労働当局がすでに労働者側の要求の正当性を認め、会社側の対応を不当行為と認定し、2019年7月には不当解雇された組合員の復職と団体交渉を再開せよと、行政指導も出している。しかし、会社側は従っていない。それどころか、行政指導が不当だ裁判に訴え、20年12月現在、裁判係争中である。会社は「時間稼ぎ」をし、その間に軍と警察の協力を得て労働組合を潰そうとしている。

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<スミフル本社(マニラ)までデモ行進する労働組合ナマスファ(19年1月、FoE Japan撮影)>

2)コロナ禍で弾圧が続き、労働組合は危機に瀕している

 20年春からのコロナ禍は、アルバイトをしながら闘ってきたスミフル労働者から、日雇業などの仕事を奪いとった。追い詰められた組合員に、会社側は「組合を辞め、復職願いを取り下げるのであれば、現金給付する」という条件を提示してきた。生活に困っている組合員のうち、約40名(20年6月)が和解に応じ、組合を去っていった。

 20年夏、労働組合と現地人権団体「ノノイ・リブラド開発ファウンデーション」は共同で、組合員への人権侵害の実態調査を行なった。その結果、複数の組合員がフィリピン国軍第66歩兵大隊から「組合活動は共産党の武装組織、新人民軍(NPA)のゲリラ活動である」と、恫喝を受け、組合活動をやめるよう圧力を受けたことが判明した。

3) コロナ規制を理由に弾圧

 軍や警察は、「労働組合を組織し労働環境改善を要求することが、新人民軍の活動だ」とみなし弾圧しているのが、現地の実態だ。フィリピンの地方では、特に軍や警察による露骨な弾圧が横行している。

 20年6月11日、労働組合「ナマスファ」の女性組合員8名が町長に呼ばれ町庁舎へ行ったところ、会議室には町長だけでなく武装したフィリピン国軍兵士2名、軍属と思われる私服の男性、バランガイ(最小行政単位)長、警察署長が待ち構えていた。組合員の生活支援、食糧配給のために組合員ら数名が集まったことが、コロナの「コミュニティ隔離要綱」に反するので書類送検すると警察署長から通告された。厳しい移動制限や、何人以上集まってはいけないという「コロナ規制」が、労働組合弾圧に利用されている。

 ミンダナオでは、軍、警察、町長、バランガイ長など村の有力者たちが一体となって、労働組合を敵視し、新人民軍の活動だと非難するのである。(18年にフィリピン政府は新人民軍をテロ組織だと指定している)。

 前述の通り、現地の労働当局はすでに会社側の不当行為を認め、19年7月には不当解雇された組合員の復職と団体交渉を再開せよと、行政指導も出しているのであって、不当なのは「スミフル」社であるにもかかわらず、軍・警察・町の有力者はスミフルを擁護し、労働者を弾圧するのだ。

4)軍が労働組合員を脅し、弾圧する!

 20年7月3日、女性組合員は国軍第66歩兵大隊の要求で、今度はバランガイ長に呼び出された。面談の場で歩兵大隊員から、「組合活動と新人民軍ゲリラ活動が同一視」し、「投降するように」圧力をかけられた。もちろん、組合活動には何の違法性もない。しかも、「投降」すれば「生活費を支援をする」と言われたほか、「投降しなければ毎日組合員の監視を続ける」、「外からの訪問者を受け入れるな!」と警告したという。軍が「生活費を支援する」はずはないので、スミフル社とつながっていることは明らかだ。

 それとは別に、3名の組合員が、国軍の兵とおぼしき男たちから、脅迫・監視・ハラスメント・威嚇行動を受けてきたと証言している。
 また、軍人による組合員の住居の捜索と脅迫があった。兵士らは、留守中の組合員の家に家人の許可なしに侵入し、捜索した。その時、スミフル社に対する訴えを取り下げることを住民に求めた。そのような出来事があってから、家族と音信不通になってしまった組合員もいる。
(以上、FoB Japanのホームページより転載)


  *********************

 このような命の危険のある弾圧のなかで労働組合員たちは、闘いを何とか継続している。ミンダナオの労働者たちが、自分たちの生活と権利のために上述のような困難のなかで闘っていることを、私たち日本人のほとんどは知らない。知らないで毎日バナナを食べている。

 やはり、少しでも知らなくてはならない。知ったうえで、ミンダナオのスミフル労働者たちとつながり、支援しなくてはならない。スミフル労働者への支援を!

 FoB Japanは、スミフル労働者への支援カンパを呼びかけている。ご協力を!
 連絡先・お問合せ:国際環境NGO FoE Japan 担当:波多江   Email: hatae@foejapan.org 







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比国防省はUPとの協定を破棄 [フィリピンの政治経済状況]

比国防省はUPとの協定を破棄
抗議の声が上がっている!


 20年1月15日、フィリピン国防省ロレンザナ長官は、警察や軍人が大学内に立ち入る前に事前の通知を必要とすると規定した、フィリピン大学との協定を破棄すると表明した。ロレンザナ国防長官は、「学生の一部がNPA に参加している」ことを理由に、軍が協定に縛られず、キャンパスに立ち入り捜索すると宣言したのだ。

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<キャンパスの軍事化に反対する!>

 フィリピンでは、多くの民主団体や個人が、この協定破棄通告を、「言論の自由、学問の自由の侵害だ、あるいは民主主義の破壊であり、強権政治を更に推し進めるものだ」と批判している。フィリピン大学だけでなく、他の大学も対象となること、さらには社会全体に広がることを危惧しているのだ。

 国防省がフィリピン大学との協定を破棄することは、今後国軍が、自由にフィリピン大学構内に入り、学生を取り締まるという宣言にほかならない。18年12月、ドゥテルテ政権は「新人民軍」をテロ組織に認定した。「テロ組織である「新人民軍」の弾圧のために、国軍は大学構内だろうがどこだろうが、出かけて行って捕まえる」というのだ。「新人民軍」とつながっているかどうかは、国軍が一方的に認定する。政権の都合のいいように、いか様にでも利用できる。軍、警察による強権政治を更に加速しかねないドゥテルテ政権である。極めて危険な動きだ。

 フィリピンのメディアでも批判が広がっているし、多くの民主団体、人権団体などが、反対の声明を出している。
 以下に、KILUSANの声明を紹介する。

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<ロレンツァーナ国防長官>

キャンパスの軍事化に抵抗し、抗議する権利を擁護する!
(UP-DNDアコードのKILUSAN声明)

 
フィリピン大学-国防省(UP-DND)合意」の廃止は、民主的な言論空間を破壊する最新の試みだ。ドゥテルテ政権に、異議を唱える人々権利を打ち砕こうとする「目的」は驚くほど明白だ。

 フィリピン国防省によるこの動きは、若者だけでなく、学問の自由の文脈であらゆる側面で、政権の方針に従わせる場にフィリピン大学、学術機関を変えようとすることを目的としている。すでに、フィリピン工科大学の「プルデンテ-ラモス合意」は、「フィリピン大学-国防省合意」と同じ運命をたどる危険にさらされている。

 「フィリピン大学-国防省合意」の破棄は、支配者の権限の乱用、言論の弾圧、そして強権政治へと変質するフィリピン支配層の変化につながる危険性が高く、私たちはそのことを危惧している。
 ドゥテルテ政権による権威主義的な支配の深化は、過去数ヶ月間の抗議運動の最前線に立ってきた若者や学生のための活動の自由を押しつぶすことを目的としている。

 若者は、「目覚めた」市民とともに、進行中の経済危機とコロナ・パンデミック、特に権力と特権の乱用の不適切な適用ゆえに、政府を追及している。そのような人々の行動を弾圧するものだ。ドゥテルテ政権は批判も示唆も歓迎しない。

 政府が実現しなければならないのは、人々の幸福であって、弾圧ではない。ドゥテルテ政権の振る舞いはこれに反する。「フィリピン大学-国防省合意」の破棄もその一つだ。

 学生も含めフィリピン人民、市民が、自身の生活と権利が擁護され、保障され、実現する政治的権利は確保されなくてはならない。

 我々は、沈黙しない。
 専制政治に立ち向かい、民主主義を守ろう!

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<キャンパスの軍事化阻止 集会>
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バタアン原発再開案を、ドゥテルテが提案  [フィリピンの政治経済状況]

バタアン原発再開案を、ドゥテルテが提案 

ドゥテルテ大統領がエネルギー相らとの会合でバタアン原発再開案を検討するよう提案

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<フィリピン、バタアン州モロンにあるバタアン原発>

1)バタアン原発とは?

 バタアン州モロン町ナポット・ポイントにある原発は、フィリピンで唯一の原発であり、故フェルディナンド・マルコス大統領の時代に建てられた(1984年完成、未稼働)が、反対運動の盛り上がりと安全上の問題のため稼働することはなく、プラントに燃料が供給されることもなかった。1984年に完成してからすでに36年が経過しており、再稼働させるには大きな問題がある。(バタアン州は、マニラ湾を挟んで首都圏マニラの対岸西側にある半島に位置しており、もし福島規模の原発事故が起きればマニラは壊滅する)

2)ドゥテルテが突然、原発再計画を提案

 ロケ大統領報道官は10月1日、エネルギー省(DoE)に対する「バタアン原発の再開を調査せよ」というドゥテルテ大統領の執行命令を公表した。

 建設を一時停止したまま放置された原発を復活させる計画について、「最近の会議で、大統領、エネルギー省長官アルフォンソ・クシと、核エネルギー推進者グループを率いる元パンガシナン代表マーク・コファンコによって議論された」と述べた。

 大統領は「土地の調査から始めるべきだ。また原発を再開する決定は政府だけで行ってはならない、バタアンの住民に相談してほしい」と述べたという。

 2020年7月にはすでに、ドゥテルテ大統領は国のエネルギー・ミックス計画の一部として原発を利用する可能性を研究するエネルギー省が率いる「原子力エネルギー・プログラム機関委員会」の創設を求める執行命令116に署名していた。(下記参照)

3)原発再計画の背景

 経済成長著しい最近のフィリピンは、慢性的に電力不足に悩まされており、政府が原発計画を再提案した事情は容易に推測できる。

 バタアン原発は建設にまつわる汚職により政権近くの有力者が利益を得てきたし、1980年代に原発を建設した米ウエスティング・ハウス社(当時)なども儲かった。核燃料は搬入されていないから汚染はされていないので、観光客が原発の内部まで見学できる「観光施設」になってきた。建設に関する費用、膨大な借金を返すのに2007年4月までの23年ものあいだフィリピン政府は税金から、すなわちフィリピン国民が原発債務を支払ってきた。フィリピン国民以外は、みんなにハッピーな結果をもたらしたバタアン原発だったのだ。

 今回の再計画も、フィリピンの有力者が「柳の下の二匹目のどじょう」を狙うもので、同じパターンで利益を得ようとしているのは間違いない。ドゥテルテ政権にすり寄って建設=利益にあずかろうとしている。

4)バタアン原発反対運動

 1980年代からバタアン州を中心に原発建設反対運動は続いてきた。「核廃絶バタアン運動」(Nuclear-Free Bataan Movement)が中心になって、さまざまな市民グループが協力して反対の声を上げてきた。以下にNFBMの声明を紹介する。

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<バタアン原発の内部(未稼働であり、核燃料が供給されていないので、安全であるとして内部が観光客に公開されている世界で唯一の原発)>

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大統領執行命令番号 116、p 2020
2020年7月24日に署名
マラカニアンパレス(大統領府)、 マニラ
フィリピンの大統領による 執行命令番号 116
核エネルギー計画に関する国の見解の採択、核エネルギー計画機関間委員会の設置、およびその他の目的のための調査を指示する。」  アップロード日:2020年7月29日


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「核技術は過去のもの、
再生可能エネルギーは未来のもの」


2020年10月2日  声明を発表
核廃絶バタアン運動( Nuclear-Free Bataan Movement)
フランシスコ・ホンラ事務局長
、NFBM


 2011年の福島第一原子力発電所のメルトダウン以来、ほとんどの国が核技術に背を向け、再生可能エネルギーの解決策を採用しています。

 日本の福島県にある福島第一原発から太平洋に漏れ出た放射性物質に対して、科学者たちはまだ適切な解決策を提供していないことを忘れてはなりません。福島第一原発から太平洋に流出した放射性物質や汚染水は、300万トン以上と推定されています。

 脱原発バタアン運動は、フィリピン政府のクシ・エネルギー長官に、20万メガワットの再生可能エネルギー(風力、太陽光、水力、バイオマス、地熱を組み合わせたもの)の可能性をフィリピンで実現させるよう強く求めています。私たちは、日本(福島)、ロシア(チェルノブイリ)、アメリカ(スリーマイル島)のような他国の経験から学ぶ必要があります。また、バタアン原発の休止を勝ち取った私たちの歴史的立場から学ぶ必要があります。

 フィリピンで電力需要が増大しており、特に原発の必要性を訴える声が再び膨らんでいることを、私たちは知っています。開発を推進しているのはビジネスの利益であり、公共の利益ではありません。バタアン州石炭火力発電所拡張と同じです。バタアン石炭火力発電所の拡張は、健康や経済的に悪影響を及ぼすにもかかわらず推進され、地域社会の健康や経済的な維持に影響を与えています。
 フィリピン政府の現在のエネルギー戦略は近視眼的です。気候変動に関する重要な目標を達成するまでの期間は、12年を切っていることを考慮に入れていません。

 反対する声を黙らせるために、現政府が批判者への強硬で懲罰的な叱責・弾圧によって人々の目をくらませ、原発推進を早急に進めることに躍起になっている一つ一つの事実を、私たちは確認しています。

 原発は安全ではないばかりか、経済性がありません。「世界のどこでも建設するにはあまりにも高価である」という菅直人元日本首相の言葉を支持します。

 国際原子力・放射線事象評価基準(The International Nuclear and Radiological Event Scale)は、福島第一原発事故とチェルノブイリ(1986年)を主要な原子力事故として分類しています。これらの事故は、放射性物質の大規模な放出を伴う事故であり、健康と環境への影響が広範囲に及ぶため、計画的かつ長期的な対策を必要とします。日本はその被害のために未だ苦しんでいます。

 フィリピンで同様の事態が発生した場合の被害の大きさは想像に難くありません。このような最悪の事態には、いくら技術的な専門知識を持っていても対応できません。

 原発を受け入れるな!
 後戻りしないようにしよう!

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国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害 [フィリピンの政治経済状況]

国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害
ドゥテルテ政権の人権侵害を告発

 国連人権高等弁務官事務所(ミシェル・バチェレ代表)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を発表した。現政権の「違法薬物戦争」が大きく取りあげられ、これを「政権が治安対策と違法薬物対策を偏重し、市民の殺害や恣意的な拘束、批判への攻撃といった人権侵害を引き起こし、不処罰を助長した」と断じている。

 報告書は政府の資料や警察の報告、写真や映像、被害者らへの聞き取りなどを元に作成された。違法薬物関連の犯罪の疑いで殺害された市民の数は、公式には2016年から累計で8,663人だが、実際の犠牲者はその3倍との推計もある。2015〜19年には248人の人権活動家や法律家、ジャーナリストが殺害され、殺人事件で有罪となったのはたった1件。武器の使用や殺害を肯定する政府高官らの発言や政策が、警察の暴力を許す結果になったと分析している。

 また報告書は、警察による証拠捏造の疑いにも触れている。2016年8月から翌年6月の間に、首都圏で展開された25の作戦で計45人の市民が殺害された。警察は、犠牲者のものとみられる覚醒剤や銃を回収したとするが、同一のシリアル番号の拳銃が別々の事件で「発見」されていた。同じ拳銃2丁が5件もの異なった事件で見つかるケースもあった。警察による「証拠偽造」の可能性が極めて高いと報告している。

下記に、
・6月4日のアムネスティ国際ニュース、
・6月30日のミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官の国連理事会での報告
・6月30日、フィリピン・スター紙に記事
を転載します。

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国連報告が求める「麻薬戦争」に対する国際調査
 アムネスティ国際ニュース  2020年6月4日

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を公表した。

 報告書の内容は、2016年に大統領に就任したドゥテルテが主導する「麻薬戦争」に対する痛烈な告発だ。この「麻薬戦争」では、貧困地域の市民に銃が向けられ、数千人が犠牲になってきた。

 報告書は、麻薬取り締まりの中で、警官による市民の殺害や人権侵害、殺人を犯した警官の不処罰、家宅捜索での証拠偽造など数々の事実を明らかにした。また、メディア、人権擁護活動家、政治活動家らに対する圧力や暴力、さらに、銃使用を奨励する政府高官の発言、表現の自由に対する脅威などがあったことも述べられている。

 報告書は、警官による犯罪を徹底捜査することが喫緊の課題だと提言している。報告書が指摘するように、市民を殺害した警官が何の罪も問われてこなかったのは、重大な問題だ。不処罰が、さらなる人権侵害を許している。

 人権理事会は、警官による殺人や人権侵害について、独立した国際調査団を設置すべきだ。機関の設置は、警官の不処罰問題を質す上で大きな一歩となるだろう。

 一方、国際社会は、国際調査団の設置を支援し、市民の殺害が続く限り、監視を続けるというメッセージをフィリピンに送らなければならない。また、犠牲者家族や人権擁護活動家への連帯を示すことも求められる。

 ドゥテルテ大統領は、誤った政策を取り下げ、犠牲者への正義と補償を実現し、公衆衛生と人権に基づいた麻薬対策を打ち出すべきだ。

背景情報

 国連人権高等弁務官事務所の報告は、19年7月に国連人権理事会で採択された決議にもとづく。この決議が採択に至った背景には、アムネスティをはじめとした市民団体の運動があった。

 ドゥテルテ政権が4年前に打ち出した「麻薬戦争」は、国際社会や国内外の人権団体から強い非難を受けた。しかし、同氏は批判を顧みず、警官に銃の使用を奨励し、処罰しないどころか昇進に結びつけるような発言もした。

 警官による殺害がまかり通る中、活動家、記者、弁護士、教会幹部、労組幹部などが、その人権活動や反政府的発言で当局の攻撃や圧力を受けた。直近では、フィリピンの大手放送局ABS-CBNが営業停止に追い込まれ、新型コロナウイルス感染拡大の中では、隔離や外出禁止令の違反者に、銃の使用も辞さないとの警告が出された。

 昨年の国連人権理事会の決議に基づき出された今回の報告書は、悪化するフィリピンの人権状況に対応する上で重要な一歩となった。

 今後、人権理事会に求められるのは、フィリピンに対するより強力な取り組みであり、特に当局による殺人の捜査とフィリピン政府に説明責任を果たさせる役割を負う国際調査団の設置だ。

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人権理事会の第44回セッション
フィリピンの人権状況に関する双方向対話の強化
国連人権高等弁務官事務所、ミシェル・バチェレ代表の声明
2020年6月30日


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<国連人権高等弁務官事務所代表 ミシェル・バチェレ>

 決議41/2で要求されたように、私は今フィリピンの人権状況についての私たちの報告(国連人権高等弁務官事務所のレポート)に目を向けていただくようお願いします。

 まず、書面による提出やバンコクとジュネーブにある私の事務所との会議を含むフィリピン政府の協力に感謝します。しかし、国連人権高等弁務官事務所に与えられた使命を実行するにあたり、私のチームはフィリピン国家へのアクセスを許可されませんでした。また、フィリピン中の組織や個人から何百もの提出物を受け取りました。しかし、レポートの内容の多くは、フィリピン政府から入手した公式情報源から引用されています。

 レポートの調査結果は非常に深刻です。フィリピンにおける国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗する法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施されてきました。フィリピン政府。当局者は何千もの殺害、恣意的な拘留を行い、そしてこれらの深刻な人権侵害に挑戦する人々の非難をもたらしました。

 レポートでは、2015年から2019年の間に248人以上の人権擁護活動家、弁護士、ジャーナリスト、労働組合員が殺害されたことを報告しています。これには、環境保護団体や先住民族の権利擁護活動家が多数含まれます。人権擁護活動家は、テロリスト、あるいは国家の敵、そしてCOVID-19対策の敵であるとさえ、非難されています。

 新しい「反テロ法」が最近、フィリピン議会を通過しましたが、批判、犯罪性、およびテロリズムの間の重要な区別が極めて曖昧であることから、私たちは重大な懸念を抱いています。

 この法律は、人権と人道的活動にさらなる冷酷な影響を及ぼし、脆弱で疎外されたコミュニティへの支援を妨げる可能性があります。したがって、ドゥテルテ統領に「反テロ法」への署名を控え、暴力的な過激主義を効果的に防止および防止できる立法案を作成するための幅広い協議プロセスを開始するよう要請します(「反テロ法」はフィリピン議会を通過したので、ドゥテルテ大統領が署名すれば成立するばかりとなっていた、6月30日のバチェレ代表の国連理事会での演説の後、ドゥテルテ大統領は7月3日に署名し「反テロ法」は成立した)。

 ただし、平和的な批判に従事している人々に対する誤用を防ぐためのセーフガードが含まれています。私が代表を務める国連人権高等弁務官事務所はそのようなレビューを支援する準備ができています。

 報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、いわゆる「麻薬戦争」を引き起こしている主要な政策と政府の最高レベルからの暴力への扇動に起因していることも見出しています。違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われています。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることも認定しています。

 私たちはまた、フィリピンでは殺害した当局者が「ほぼな不処罰」であることも発見しました。これは、超法規的殺害の加害者が存在することをフィリピン政府が望んでいないことを示しています。当然のことながら、被害者の家族は無力であり、正義を実現する確固たる可能性が保障されていなければなりません。。

 さらに、違法薬物キャンペーンはは行われましたが、政府高官の黙認により、違法薬物の供給を減らすのに効果がありませんでした。

 フィリピンは経済的および社会的権利はある程度の進歩を遂げましたが、先住民と農民は未だ、強力な企業と政治的利益、軍と新人民軍のような非国家武装グループの間の綱引きに巻き込まれ続けています。進歩的な法律にもかかわらず、先住民の権利、教育を受ける権利、その他の基本的な経済的および社会的権利は、多くの遠隔地のコミュニティにとって保障されておらず実現されていないままです。
 
 フィリピンは長年にわたって多くの国連人権メカニズムに積極的に関与しており、このレポートは勧告の多くに基づいています。シニア人権アドバイザーも2014年から国連カントリーチームを支援しています。

 当事務所は、報告書の推奨に基づいて建設的な関与を強化する準備ができています。我々は、国内の説明責任メカニズムの強化を含む、政府とのさらなる協力のためのいくつかの分野を特定しました。警察違反の疑いに関するデータ収集を改善すべきです。薬物規制とテロリズムに関する法律と政策を見直しすべきです。そして市民社会と政府・国家当局の間のギャップを埋めなくてはなりません。

 私の国連人権高等弁務官事務所に監視と報告の継続を義務付けることによって、また報告の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について積極的で警戒を続けるよう理事会に要請します。フィリピン国家は、私たちが記録した重大な違反について独立した調査を実施する義務を負っています。フィリピン国内のメカニズムからの明確な改善結果がない場合、理事会は国際的な説明責任対策のオプションを検討する必要があります。

 この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する刑罰の終焉の始まりとなることを願っています。被害者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待しています。

 フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、不十分です。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティの出身である傾向があるため、保護を確実にするために、フィリピン政府にはさらに強い義務があります。被害者を失望させてはなりません。政治的リーダーシップとは、社会のすべての人々の権利、特に最も脆弱な人々の権利を尊重し、促進し、保護し、誰も取り残さないようにすることが重要です。

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「重大な違反」:
バチェレ、フィリピンに関する報告を国連人権理事会に提出
ガイア・カトリーナ・カビコ(Gaea Katreena Cabico)記者、

(フィリピン・スター紙.com)

2020年6月30日


 マニラ、フィリピン
 フィリピン政府の麻薬戦争は、「広範囲にわたる組織的な」超法規的殺人を含む深刻な人権侵害を引き起こしたと、6月30日(火)、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表は述べた。

 「国連人権高等弁務官事務所によるフィリピンの状況に関する報告の調査結果は非常に深刻だった。国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗するためのフィリピンの法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施された」とバチェレ代表は、開催中の第44回国連人権理事会で報告し正式に公表した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府の麻薬摘発政策の結果、何千もの殺害、恣意的な拘留があり、「深刻な」人権侵害に異議を申し立てる個人の非難が発生したとし、「報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、麻薬に対するいわゆる戦争と政府の最高レベルからの暴力への扇動を推進する主要な政策に起因していることがわかる」と述べたのである。

 「違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われている。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることを発見した」とも述べている。

 バチェレ代表は、国連人権高等弁務官事務所のチームにはフィリピンへのアクセス権は与えられていないが、フィリピン政府から書面による提出とタイ・バンコクとスイス・ジュネーブでの「数回の会議」を通じてレビューに協力したと報告の作成の背景に触れた。

 国連人権高等弁務官事務所は、フィリピンの人権団体や個人からも「数百の提出物」を受け取ったが、バチェレ代表は「報告書の内容の多くはフィリピン政府からの公式情報源から引用された」と述べている。

 国連人権高等弁務官事務所は6月4日に公表した報告で、フィリピンの人権侵害について、フィリピン政府が違法薬物の取り締まりに強引に焦点を当ててきた政策と、政府高官からの口頭による指示からうまれている人々の安全と人権への脅威について詳述した。

 違法薬物に対する国際的な非難キャンペーンは、ドゥテルテが麻薬犯罪を厳しく取り締まるという公約を掲げ大統領選挙で勝利した2016年以降、ドゥテルテ政府によって開始された。

 国連高等弁務官事務所はまた、有罪判決を受けた薬物戦争による殺害者は「ほぼ免責」されたと語った。2017年に17歳の男子生徒であるキアン・デロス・サントスが殺害された件でも、殺害者は免責された。

 フィリピン政府の最新の統計によると、戦争で殺害された麻薬犯の数は5,601人だった。その数は、27,000人が殺されたとする「人権ウォッチドッグ」による推定よりもかなり少ない。

「免責の終わり」

 バチェレ代表は国連人権理事会に対し、監視と報告を継続することを義務づけ、報告書の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について警戒を続けるよう要請した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府による対策によって明確な改善がない場合、人権理事会は国際的な説明責任措置のオプションを検討すべきであると述べた。

 国連人権高等弁務官代表はまた、フィリピンにそのような「重大な」違反があるかについて独立した調査を行うよう求めた。

 「この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する免責の終焉となることを願っている。犠牲者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待している」とバチェレット代表は述べた。

 「フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、まったく不十分である。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティに属している傾向があるため、保護を確保するためのさらに強い義務がある」とバチェレは付け加えた。

 国連人権理事会:フィリピンには、過去の権利違反への対処失敗に根差した不処罰の風土がある
国連人権理事会委員であるカレン・ゴメス・ダンピットは声明で、国連人権高等弁務官事務所の報告を歓迎するとともに、調査結果をフィリピン政府が受け付けなかったことは残念であると述べた。

 「フィリピンでは過去の人権侵害に対処しなかったことから不処罰の風潮が形成されている。しかも、人権に対する乱暴な態度と行動は、今日なお強く存続する、憎悪を煽り、暴力を動機づけ、不処罰を許すという有害な修辞学によって条件付けられてきたという見方を我々は共有している。」と、ダンピット委員は言った。

 国連人権理事会の当局者は、報告書の調査結果と推奨事項を受け入れ、国内メカニズムの有効性を実証するための決定的な措置を講じることは政府の義務であると強調した。

 国連人権理事会はその勧告として、権力者からの有害なレトリックの即時停止、フィリピン国家警察の全面的協力、および説明責任メカニズムを求めた。

 それとともに、フィリピン政府に人権侵害の各犠牲者を説明し特定し、すべての加害者を起訴すること、反薬物キャンペーンの犠牲者と彼らが残した家族に援助を提供ことを求めた。

 19年、人権理事会は、バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表にフィリピンの人権状況に関する包括的な報告書の作成を求める決議を採択した。

 フィリピンは現在審議会に参加している47か国の1つである。

 国連人権理事会は、6月30日~7月20日までジュネーブのパレデネーションズで44回目の定期会合を開催する。

 
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フィリピンで反テロ法が成立 [フィリピンの政治経済状況]

1) フィリピンで反テロ法が成立 

 フィリピンのドゥテルテ大統領は7月3日、「反テロ法」に署名し、成立させた。

 「反テロ法」は5月以降、下院、上院で賛成多数で可決し、あとは大統領の署名を待つだけの状態だった。この間、マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続いた。ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官など国際社会からもドゥテルテ大統領に同法案への署名を思いとどまるよう求める声が高まっていた。そのような声を無視し、成立させたのである。

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<フィリピン大学で反テロ法に抗議する人々6月4日>

 ドゥテルテ政権は2016年の政権発足以来、麻薬撲滅の捜査の過程で警察や軍によって何千人もの死者を出してきた。表向きは「容疑者が反抗したためやむなく射殺した」としている。いわば裁判なしの殺人を実行しており、警察・軍による「超法規的殺人」として、フィリピン国内や国連などの国際社会からも批判されてきた。「超法規的殺人」は今もなお続いている。

 2020年5月にドゥテルテ政権は、政権に批判的であるという理由で、フィリピン最大のメディアABS-CBNを閉鎖させた。

 そのような人権を無視してきたドゥテルテ政権が、「反テロ法」を手にしたのである。テロ容疑者の摘発で強大な権限が当局に与えられることになる。テロ容疑者の定義が不明瞭なため、労働運動、人権運動、農民運動、環境擁護運動などあらゆる反政府的な意見や要求を封じることができるのではないかとの懸念が広がっている。新たな武器をフィリピン政府に与えたことになる。

2) 反テロ法の問題点 
■ 令状なしの拘束、監視、盗聴が可能に

 成立した反テロ法は、テロリストとみなす人々を令状なしで逮捕できることになった(テロリスト容疑者を令状なしで逮捕できる命令を出す評議会を、ドゥテルテが設置することで可能となる)。 また、逮捕状なしに容疑者を拘束できる期間をこれまでの3日から最大24日に拡大した。「容疑者の90日間監視、盗聴が可能」になる。

 このような規定は、拘束期間を最大3日とするフィリピン憲法に違反する。
 同法違反で逮捕、起訴そして有罪が確定すれば最高で仮釈放なしの終身刑が科される可能性がある。

 ■ あいまいな「テロ」の定義、拡大解釈が可能 

 さらに同法では「スピーチ、文章表現、シンボル、看板や垂れ幕などでテロを主張、支持、擁護、扇動した場合も反テロ法違反容疑に問われる可能性」があることから、表現の自由や報道の自由が侵害される危険性が潜んでいると、反対派は主張している。

 また、反テロ法は「テロ」の定義を、「死傷者を伴う国有・私有財産の破損、恐怖のメッセージの拡散、政府に対する威嚇を目的とする大量破壊兵器の使用を意図すること」などと定義しているのだが、 このテロの定義はきわめて曖昧なのだ。例えば「恐怖のメッセージの拡散」とは、何を指すのか? 具体性が欠如しており、どのようにも拡大運用できる余地があるため、政府が恣意的に運用する危険性を容易に想像できる。同様に「大量破壊兵器」が具体的にどのような兵器を想定しているのかも不明であり、どうとでも解釈できる余地が残されている。

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<反テロ法へドゥテルテが署名したことを報告するハリー・ロケ大統領報道官>

3) 反テロ法の標的はだれか?

 2017年ミンダナオ、マラウィでのイスラム過激勢力による突然の占拠は1,000人もの死者を出し、鎮圧するのに5ヵ月もかかった。ドゥテルテ政権は、これを「反テロ法」提出の根拠としている。反テロ法の対象は国内批判勢力であることがほぼ明らかだ。ドゥテルテ政権は、「イスラム過激組織」と共産党系の「新人民軍(NPA)」をテロ組織として認定している。

 イスラム武装勢力(マラウィ・グループ)は、海外から送り込まれた傭兵組織であり、この組織はすでに掃討した。他方、ミンダナオのイスラム系住民の多くは、モロ・イスラム解放戦線(MILF)と合意し発足したイスラム自治政府に参加している。

 そのためドゥテルテの当面の標的はNPAであることが明らかだ、ただNPAにとどまらずNPAとつながり支援しているとみなすバヤン(Bayan)や国民民主戦線(NDF)の各組織、団体にも及ぶのである。合法的な労働組合や農民団体、女性団体が狙われている。また、1998年から施行された政党名簿制選挙から、合法政党バヤン・ムーナガブリエラ(女性団体)、アナク・パウィス(労働組合関係)を立てて選挙に参加し、2019年選挙ではバヤン・ムーナが3議席、ガブリエラが1議席を確保し、アナック・パウィスが1議席を失った。この合法政党も標的にされている。フィリピンの人々は労働組合、女性団体など自身の団体を組織する権利を持っているが、政府や軍・警察はこれまでも「赤のレッテル貼り(Red tagging)」をして弾圧してきた。警察や軍の権限が反テロ法によって強化されるのは確実で、弾圧がさらにひどくなると予想される。

 反テロ法発足により、弾圧は共産党系のみならず、あらゆる民主団体、人権団体、環境運動に及ぶと懸念される。

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<7月4日、反テロ法に抗議する市民ら マニラ  毎日新聞>

4) フィリピン国内外からの批判

 フィリピンの主要マスコミは連日政府側の思惑と反対勢力の主張を大きく取り上げて報じている。マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続いた。
 フィリピンの人権団体「カラパタン」は、反テロ法を「ドゥテルテ政治がマルコス独裁政治を目指している」と手厳しく非難している。

 国際的人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「政治的な反対勢力の制度的取り締まりに悪用されかねない」と反対を表明。「政府に対して声を上げる人々を狙い撃ちにでき、フィリピンの民主主義は暗黒時代に入った」と非難した。

 テロの定義が広いことなどから人権抑圧につながるとの懸念から、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは7月3日、「政権は国家の敵と見なせば、いかなる勢力でも仕留められる武器を手に入れた」との声明を発表した。

 労働組合への弾圧も広がる懸念があるとして、国際労働団体からも批判声明が出ている。日本の連合も批判する声明を出している。


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 連合のドゥテルテ大統領あての書簡

ロドリゴ・ロア・ドゥテルテ フィリピン共和国大統領閣下
Republic of the Philippines
Email: op@president.gov.ph
mro@malacanang.gov.ph;
pcc@malacanang.gov.ph


ドゥテルテ大統領

テロ対策法案(上院法案第1083号および下院法案第6875号)は国際労働基準に違反しています

 この書簡は、2007年の人間の安全保障法にとって代わる2つのテロ対策法案(上院法案第1083号および下院法案第6875号)の可決に関し、日本労働組合総連合会として、フィリピンの労働者と連帯し、深い懸念を表明するものです。

 私たちは、ITUC加盟組織およびフィリピン最大の労働組合連合体であるNagkaisaが強く反対する、新しい対テロ法案について非常に懸念しています。これら法案に貴殿が署名し法律となった場合、市民社会スペースと職場における権利をさらに保安対象化させ、縮小かつ抑圧し、労働者や労働組合活動家、その他の人権活動家や人権擁護者を、警察、軍、その他の治安機関による恣意的で無差別かつ根拠のない攻撃や嫌がらせ、脅迫と殺害の危険に今まで以上に晒すことになります。

 法案規定の多くは国際法と深刻に矛盾するものです。例えば、上院法案第1083号の第4項では、公共施設、私有財産およびインフラへのいかなる損害も、非常に幅広い「テロリズム」の定義の中に含まれています。この定義の下では、平和的かつ合法な労働組合活動への参加が土地や建物への直接的または間接的な損害につながったと解釈される可能性があり、適用範囲が過度に広いテロの定義によって、労働者は拘束の危険に晒されかねません。

 国際労働基準の下では、ストライキ権も含め、団結権行使を弱体化または阻害するような過度に広範な法的定義は結社の自由の原則に違反すると記憶していますし、とりわけ労働組合活動に関して政府がテロやその他の緊急立法に訴えることをILO結社の自由委員会は認めていません。

 同様に、上院法案第1083号と下院法案第6875号の第9項では、テロ行為に参加せずともテロ容疑者に賛同する意見表明やその他の表現を行うことを非合法化しています。両法案においてテロリズムの定義が幅広いものとなっているため、テロとみなされる抗議や集団行動に関して肯定的な意見を表明する、または好意的な私物を保有している労働者または一般市民はこの規定に抵触することになります。

 意見表明および表現の自由、とりわけ干渉なく意見を持つことの自由、またあらゆる媒体を介して情報と様々な考えを求め、受け取り、伝える自由は、労働組合権の通常の行使において不可欠である自由権を構成する点に留意します。したがって、対テロ法案における過度に広いテロリズムの定義を踏まえると、第9項は第87号条約および結社の自由の原則に違反するものです。

 さらに、上院法案第1083号の第3項(c)に注目しますと、ここでは、「…収監と尋問のために、テロリストまたはテロ組織や団体、または集団の支援者であると疑われる個人の外国への移送に」言及し「特例拘置引き渡し」を定義し、合法化しています。さらに「正式な告訴、裁判、または裁判所の許可なく、特例拘置引き渡しが可能である」とも記されています。

 この規定が、いかなる説明責任もなく、フィリピン国民および人権活動家や団体に対して適用される可能性があることを私たちは深く懸念しています。結社の自由委員会は「他のすべての人と同様、適法手続きの保障を享受する権利を労働組合員が保有するとの重要性を指摘」しています。委員会が、いかなる状況下でも、法的責任の制度無しに拘置引き渡しが発生するのは是認できないとした点に留意します。この規定は修正されなければなりません。

 さらに、上院法案第1083号および下院法案第6875号の第29項では、逮捕令状によるテロ容疑者への保護が与えられていません。逮捕や捜索の前に令状が発行されれば、治安当局による個人のプライバシーや財産の享受への恣意的妨害は不可能となりますが、両法案の致命的な点は、虚偽や悪意ある行為、告発および起訴に苦しむ人たちに対する救済措置が設けられていないことです。救済措置は、2007年の人間の安全保障法を改正する過程で削除されました。

 大統領、両法案の対テロ規定の中で国際労働基準に違反し不当な規定について幾つか言及いたしました。貴殿には、人権と自由権を尊重する環境の中で、法律および慣行において、団結権の享受を保障する義務があります。フィリピン政府が人権を抑圧するためにテロ対策やその他の治安維持法を用い、第87号条約の義務を遂行していない点について、国連およびILO条約勧告適用専門家委員会が既に数回にわたり不安を表明していることを私たちは懸念しています。

 フィリピンの人権状況について、憲法上およびその他の法的保護を損なう恐れがあるとして、対テロを目的とした新しい法律を採択しないよう、昨今、国連人権高等弁務官は貴国政府に注意を促しています。弁務官は「アカ認定」、つまり個人やグループへの共産主義者やテロリストとしてのレッテル貼りが、市民社会や表現の自由に対し繰り返されてきた強烈な脅威であるとも述べています。

 現在、この法律は貴殿の署名を待つばかりと理解しています。日本労働組合総合会は、貴殿が現行の形での本法案に拒否権を行使するよう求めます。このような対テロ法は、第87号条約ならびにその他の国際的人権義務を完全に遵守しつつ、三者間および多方面における公開協議を通じて熟考する必要があるのです。

敬具

日本労働組合総連合会
会長
神津里季生

cc:
Alan Peter Cayetano下院議長
Email : Alanpeter.cayetano@house.gov.ph

Vicente C. Sotto III上院議長
Email : Os_sotto@yahoo.com

Hon. Menardo I. Guevarra司法長官
osecmig@gmail.com

Hon. Silvestre H. Bello III労働雇用長官
Email : secshb3@dole.gov.ph, osec@gov.ph







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パンデミック下のフィリピン [フィリピンの政治経済状況]

 アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)のエミリから、パンデミック下の生活や活動の様子について報告が送られてきました。
 移動制限があり、地域によって異なりますが、バタアンでは10人以上の集まりは禁止されています。これを取り締まっているのがフィリピン政府の警察と軍で、強圧的な対応が問題になっています。

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パンデミックと「ニューノーマル」の時代
エミリー・ファヤルド ANBA-BALA事務局長

 100年前のスペイン・インフルエンザの時に世界の人々の上に起きたことを、今の時代に生きる私たちの間で再び経験したいという者は誰もいません。単純なインフルエンザが肺炎となり、世界中の何百万人もの人々を突然殺すことに、私たちは驚きました。パンデミックという新しい言葉を通じて、子どもたちばかりではなく大人たちにも、恐怖を教えられたのです。私の4歳の娘でさえ、私をパンデミックママ(母)と呼びますが、こんな風にさえ広まっています。

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<今に至るまでジプニーやトライシクル、バスなどの公共交通機関が許可されていないため、私たちは自転車を使って労働者のコミュニティに行き労働者やリーダーに会います>

 フィリピン政府は、コミュニティ検疫(ECQ)を最初にルソン島、次にセブ-ヴィサヤに、そしてのちにミンダナオにいくつかの支部を設置し実施しました。ショッピング・モール、学校、大小の施設、店、食料品店は閉鎖され、誰もが家に滞在しています。フィリピンでは、子供と大人が約60日間、家のなかに留まりました。週に1回、すべての家族のうちの1人だけが、市場に行き食料を購入することができます。COVID 19ウイルスに感染したい人はいません。誰もが感染を避けるために、政府と保健省の指示や規則に従っているのです。

 しかし、私たちにとって本当に苛立たしいことであるとともに、おそらくこうなるだろうと予想した通り、フィリピンのドゥテルテ政府は、困難な危機のこの時期にあってもなお、能力不足を露呈しているのです。ドゥテルテ政府のコロナ対策計画は、適切でもなければ決定的でもありません。政府がフィリピン大衆に同情と共感を持っていないことを、再び暴露したのです。差別なしにすべてのフィリピン人に補助金を与える代わりに、危機に際して政治的野心と腐敗の実行こそが、彼ら政府関係者の心に浮かぶ最初の事柄なのです。

 コロナウィルスによるパンデミックと戦う政府の「インターエージェンシー・タスクフォース(省庁間からなる対策センター)」の構成メンバーは、ほとんどが軍人であって、感染や健康の専門家ではありません。したがって、科学的および医学的側面の危機を解決するのではなく、軍事的観点から人々を抑え込むことで危機を解決しようとするのです。実際に行うのは、ウイルスの蔓延を回避すると称して、軍事戦術を適用して人々を強圧的に隔離するのです。

 コロナ危機のなかで、政府は飢えたフィリピン人へ助成金を出す予算を組みました。しかし、最悪なのは、政治制度と政治実行のプロセスに問題があるため、助成金は封鎖後、1か月と1週間経ってやっと、各家庭に支給されるような状態なのです。支給される前に人々はすでに飢えています。多くの労働者は補助金を受け取っていると思われていますが、残念ながら支給は公平ではなく、差別的です。ですから、政府の予算に補助金支出が組み入れられたにもかかわらず、今もなお多くの労働者が、労働雇用省からの補助金を受け取っていないのです。

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<椅子は事務所の外に置き、距離をとって話をする>

 このパンデミックのなかで「良かった点」は、自治体と一部の市長が、管轄区域の有能な指導者として名前をあげたことです。そのうちの1人は、有権者とのやり取りが非常に得意なパシグ市のヴィコ・ソット市長です。計画は正確で、機動性と彼の行動は人々を共感させています。彼は優れた指導者であり、今回の事態のなかで最も優れた市長の一人です。

 フィリピンの人々は政府や権力者の無能ぶりにうんざりしていますが、ヴィコ市長ような人物がいることは、私たちのなかからも優れた指導者が生まれるのではないか、という希望を与えてくれます。ヴィコ市長はまだ若く、理想主義者です。私たちが抱くリーダー像ではないリーダーシップを探っているのかもしれません。

パンデミック時のドゥテルテの優先順位付け:

 このパンデミックにおけるドゥテルテ政権の優先事項は何だと思いますか? COVID 19の感染対策で優先するのは、人々への補助金でしょうか? 残念ながらそうではありません。政権にとって緊急の法案は、反テロ法案(ATB)です。この法案とパンデミックとの関係は何でしょうか? 飢えた人々の口を弾圧でふさぎ、抗議しないこと、文句を言わないようにさせることなのです。

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<デスクトップ社の労働者協会(DEA:労働組合準備会)のミーティング>

「新常態」の下での私たちの主張

 私たちは今、「ニューノーマル(新常態)」のなかで活動しています。中央ルソンの各地方は、コミュニティに対する「全般的検疫(ECQ)」下にあり、人々にとって家の外の視界は限られています。ここバタアン州マリヴェレスの自由貿易地域の労働者は、まだ完全に働くことができておらず、労働者4万人のうち、約半分だけが働いています。労働者たちはCOVID 19の検査なしで働き始めましたが、社会的距離を保っただけです。通勤のための公共交通機関は動いておらず、保健省の手続きや規則を確認した、サービス車両の運用開始されました。しかし、確認は初めのうちだけでした。現在まで公共交通機関がまだないため、家から会社までどのように移動できるかは、労働者次第です。(6月30日記)

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<アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)の事務所内の様子>




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日本は一人前の「武器輸出国」へ、三菱は、立派な「死の商人」に! [フィリピンの政治経済状況]

 三菱電機、比へ軍事レーダー輸出 
 
日本は一人前の「武器輸出国」へ、
 
三菱は立派な「死の商人」に!


 3月26日の朝日新聞デジタルは、「三菱電機が、フィリピン政府が発注する防空レーダーシステム4機の整備事業を落札したことがわかった」と報じている。安倍政権が条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」を2014年に策定して以降、日本が初めて輸出する防衛装備の完成品となる。3月4日に契約締結した。5月までに正式に受注する予定で、金額は100億円規模とみられる。

 日本の自衛隊が採用しているJFPS53JTPS-14レーダーをベースに開発されたシステムが、フィリピン空軍に提供される。

 JFPS3は沿岸などに設置されており、接近する戦闘機やミサイルを検知することができ、北朝鮮のミサイル脅威に対する日本の防衛システムの一部として使用されている。 JTPS-P14は、通常車両に搭載される対空レーダーシステムである。

 日本は2014年に全面的な武器輸出禁止を撤廃して以来、日本でライセンスに基づいて生産されたPAC-2モバイルミサイル防衛迎撃機の一部を米国に輸出してきたものの、完成品の輸出は初めてだ。
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<三菱電機本社が入るビル=東京・丸の内>

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 日本は一人前の「武器輸出国」になった。三菱電機、三菱重工グループは、立派な「死の商人」になったということだ。

 近年、日本政府とフィリピン政府の二国間防衛協力で、日本から機器の寄付や人員訓練などが提供されている。2018年には海上自衛隊の練習機TC-90を5機無償譲渡し、乗員の飛行訓練等が提供されているし、昨年はUH-1Hの余剰パーツの譲渡も行われた。

 また、2月にはフィリピン沿岸警備隊が調達する94メートル型巡視船2隻に対する入札の結果、三菱重工業 三菱重工グループの三菱造船(社長:大倉 浩治、本社:横浜市西区)が落札し、フィリピン政府と契約を締結した。下関造船所で建造され、2022年に完成・引き渡される予定。

 94メートル型巡視船は、長さ約94m、最大速力は24ノット以上で、4,000海里以上の航続距離能力を有する。また、排他的経済水域(EEZ)を監視する能力を持つ通信設備やヘリコプター用設備、遠隔操作型の無人潜水機、高速作業艇等を装備している。

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<三菱造船とフィリピン政府との調印式>

 このプロジェクトは、16年10月にフィリピン共和国と日本国の間で「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化事業(フェーズⅡ)」として調印された円借款事業である。日本政府と三菱重工グループが一体となって進めてきたということだ。

 フィリピンは南シナ海の領有権を巡り中国と対立しており、今回のレーダー契約により空域の監視体制を強化を目的としている。

 フィリピン政府は日本の軍事援助は受け入れているものの、中国と米国を両天秤にかけているところがあり、ドゥテルテ政権は外交上も主導権を握った対応に努めているし、フィリピンの「主導権」を拡大しつつある。

 日本政府は、フィリピン政府を米日印による中国包囲網に組み入れよう、より正確には「何とか繋ぎとめよう」として、このような「二国間防衛協力」(=軍事協力)を推し進めている。

 日本政府は、米国の振る舞いを真似て東南アジアを日本のテリトリーとし、影響力を拡大しようとしているのだが、問題は「平和的でないその振る舞いと野望」が、どれほど現実的かということだ。

 日本政府は反中国、東南アジア地域の対立を煽る外交方針を採っており、その日本政府と日本企業が武器輸出に踏み出したことで、一つの段階を超えたことになる。この地域を平和と安全を混乱させるプレイヤーとして振舞っているのである。





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ドゥテルテ、VFA破棄を通告 [フィリピンの政治経済状況]


1)ドゥテルテ、VFA破棄を通告

 時事通信によれば、フィリピン政府は2月11日、「訪問米軍に関する地位協定(以下:VFA、Visiting Force Agreement)」の破棄を通知したと発表した。

 フィリピン政府が米国との安全保障協定の一部の破棄を米側に通告したことになる。 ドゥテルテ大統領の指示による措置で、180日後に有効となる。米比両国の同盟関係は大きく変化する。加えて、フィリピンと中国と関係に影響を及ぼす。

 フィリピンはこれまで、米国と歴史的に緊密な関係を有してきたにもかかわらず、ドゥテルテ政権になって、米国の軍事政策の一部を批判し、米国に対抗する中国、ロシア側に一歩歩み寄った態度に転換しつつある。ただ、ドゥテルテ政権内のテオドロ・ロクシン外相は、米国との安全保障協定を破棄することは比の安全に危険であると、上院で警告を発してもいる。

2) デラ・ロサ上院議員を米大使館がビザ発給拒否
 
 ドゥテルテ大統領は1月23日、デラ・ロサ上院議員が米入国ビザの発給を拒否されたことを受け、協定を破棄すると警告した。デラ・ロサ上院議員は2016-18年に警察長官に在任中、大統領が力を入れた「麻薬戦争」を指揮し、その過程で超法規的殺人を繰り返してきたドゥテルテの側近政治家である。麻薬戦争は非人道的な殺害が多いと欧米から非難されており、米大使館によるビザの拒否はこの延長線上にあるとみられる。

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<2016-18年、デラ・ロサ警察長官(現在は上院議員)>

3) VFAの持つ意味

 フィリピン憲法は外国軍の駐留を禁じており、1992年米軍は全面撤退した。VFAは、1998年に締結され、米軍基地が撤去された後、米軍がフィリピンを訪れ、演習・作戦を実行できる根拠とされた。実際に、米比軍による合同軍事演習や、米軍のフィリピンでの作戦行動の根拠となって来た。この軍事演習に19年には自衛隊も参加した。米比合同軍事演習は、今後どうなるのか? 注目される。VFAはまた、有事における米軍の迅速な「援助」を可能としている(迅速な援助というより、「危険」と表現した方が正確である)。

 VFAにより、常駐してきた米兵による殺人や性犯罪が起きてきた。容疑者となった米兵の拘束を、比側が拒否された事件が続いた。2005年のニコルさんレイプ事件事件、2015年のロードさん殺人事件事件ではともに、犯人である米兵はフィリピン法できちんと裁くことができず、米政府は犯人を逃がし帰国させた。(ニコルさん裁判では、フィリピン法で裁き加害米兵を有罪としたものの、米大使館が被害者家族に強引に働きかけ提訴をとり下げさせた結果、米兵はフィリピンで服役もせず帰国した。)
 VFAには、米兵犯罪の時効や米政府による容疑者の保護が規定されていて、犯人摘発の直接の障害になってきたのである。

 フィリピンの人々からは、VFAがあるから「不平等だ」と批判され、VFA撤廃の運動が起きてきた。 

4)ドゥテルテには驚かされる!

 ドゥテルテにはいろいろ驚かされることが起こる。彼はパフォーマンス政治だから、これまでは支持者に向けたパフォーマンスだろうという評価へと、最終的には収束したが、今回は予想以上だった。


5) 米国の力の低下

 まず最初に指摘しておくべきことは、米国の力の低下、影響力の後退だ。
 一昔前なら、ドゥテルテは米政府の意向を受けた軍や政治勢力によるクーデターで倒され、従順な親米(従米)政権に変わったろう。戦後のフィリピン政治はこれを繰り返してきたのを、私たちは知っている。

 2020年現在、米国はフィリピンでクーデターを起こすことができない。クーデターは、もはや起きない、起こせないフィリピンになったということだ。時代は変化しているのだ。

5)フィリピンとASEAN、経済におけるナショナリズムの高揚

 フィリピンはもはや米国の政治・経済支配の外にいる。フィリピン経済はすでに中国経済圏のうちにあり、そのなかで経済発展を遂げている。米資本は現在ではフィリピンにほとんど投資しない。投資するのは中国資本ばかりだ。これに伴い、米国のしもべである日本資本の地位も、フィリピンでは相対的に低下している。

 フィリピン支配層、資本家層は、経済的にはすでに米国の影響の外に存立している。その基盤が、米国の政治的影響力をそれほど考慮しないことを可能にした。フィリピン政府の外交政策が変化するのは、むしろ自然なことだ。軍隊を送り口出しばかりする米政府は、フィリピン支配層にとっても、もはや不愉快であり、かつ不要となりつつあるのだ。

 これは決してフィリピンばかりではない。ASEAN全体が米国の政治的影響下と経済圏から離れ、ASEAN首脳は米国から距離を置く、影響から離れることを意識的に志向している。米軍が東シナ海をウロチョロすれば、戦争や紛争が起き、経済活動に支障が出る。ASEAN諸国はすでに、米軍がASEAN地域で軍事的対立をつくり出すことには、徹底した拒否を貫く立場なのだ。

 ASEANは今、経済発展がきわめて好調で、世界経済の成長の中心の一つとなっている。中国との連携した経済発展も好調であり、良好な関係を築いている。米国の都合で、米軍がうごきまわって欲しくない、したがって、フィリピン政府によるVFA破棄は、いずれ起きることだったのだ。
 それが、デラ・ロサ上院議員の入国拒否というきっかけで生じたに過ぎない。

6) トランプ政権を無視する!

 米政府の力は確実に落ちてきている。トランプ政権の言うことを、聞き流して無視する各国政府がふえて来た。イラン戦争を始めるという「有志連合」に、いつもは参加するNATO諸国が参集しなかった。トランプは突然、「イラン核合意破棄」したが、誰も支持していない。米国の軍産複合体の都合で破棄した。合意に至るまで支払われた各国の努力をまったく無視して、勝手に破棄した。これにいつもは従う欧州諸国は従わなかった。

 ASEAN諸国も、トランプ政権のこういった振る舞いを冷ややかな態度で眺めてきた。トランプ政権に追随する安倍政権の姿も、横目でひややかに眺めてきた。

 アメリカの時代は終わった。
 日本の時代も終わった。
 このように世界はとらえているのだ。
 (世界のGDPのうち日本の占める割合:1990年約16%、2018年約6%)

 今回の出来事は、こういった国際政治の流れのなかの一つの事件、一つの現れととらえるのが適切であろう。






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フィリピンでの政治弾圧が止まりません [フィリピンの政治経済状況]

 フィリピンでの政治弾圧が止まりません。

 ドゥテルテ政権が進歩的な団体に対し「テロ組織である」というレッテルを貼り、実際に攻撃を行ってきているため、フィリピンの人権状況が極めて悪化しています。

 18年12月、ドゥテルテ政権はNPA(新人民軍)を「テロ組織」として指定した後、共産党系の労働組合KMUや農民団体KMP、女性団体ガブリエラなどへの弾圧を強めています。警察が諸団体の事務所に押し入り、「銃を見つけた」と騒ぎ、メンバーを逮捕したり書類を押収しています(実際には警察が銃を持ってきて、無理矢理に証拠とする手口です)。一方、2人組がオートバイで駆け付け活動家を暗殺して逃げ去る事件が相次いでいます。軍人の仕業とみられています。

 そんな状態なので、市民団体の活動も弾圧を警戒しなければならず、活動が停止したり停滞するなどの困難に当面しています。

 多くの活動家の間で恐怖がひろがっているそうです。
 また、この期間にドゥテルテ政府が2つの覚書を発行し、「NPAなどにテロ資金を供給しているのではないか」と非難して、NGOの調査を始めました。これは「魔女狩り」に匹敵するものであり、同様に恐怖の風土と多くの組織の運営の困難をもたらしています。実際の事件は、女性団体ガブリエラ、カラパタン人権同盟、フィリピン農村宣教師の3つの組織に対して、ドゥテルテ政府は調査対象とする覚書を発行しました。

 慰安婦被害者団体・リラピリピーナからの報告によれば、ボランティア・スタッフの一部なども弾圧を恐れ、一時的に活動から離れる人も出ているとのことです。リラ・ピリピーナは慰安婦被害者の現状を再確認する「再発見プロジェクト」を実施中だそうですが、そんな活動さえ中断していると聞きました。

 弾圧にもめげず、市民団体、労働組合などは敢然と戦っているそうですが、ただ、スタッフとオフィスの両方の安全対策に、膨大な時間とエネルギー・費用が費やされていると報告しています。

 フィリピンの人権状況は特にひどく、軍・警察による「超法規的殺人」が止まりません。超法規的殺人とは、警察が捜査・逮捕の過程で、「容疑者が抵抗したので殺害した」、あるいは「オートバイ乗りの2人組による暗殺」などが横行していることを指します。

 フィリピンでは死刑制度は廃止されているためか、捜査・逮捕の過程で殺人が行われるのです。こういった法制度を無視した殺人(=「超法規的殺人」)が横行する、極めて人権がないがしろにされている社会だと国連の人権員会などの国際機関も指摘しています。




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最近のフィリピン政治情勢について [フィリピンの政治経済状況]

最近のフィリピン政治情勢について


1) ドゥテルテは「したたか」に、権力を掌握した 

 大統領に就任した16年当時、ドゥテルテの政治的基盤はきわめて脆弱だった。彼は力強い政治運動、政治グループの支持で当選したわけではないし、旧来の支配層(「上流階級・上流家族」)出身でもない。メディア向けの巧みなパフォーマンスで人気投票に近い選挙に持ち込み、勝利者となった。政権発足後、既存のフィリピン資本家、旧来の支配層、政府官僚らとどのように折り合いをつけるか、注目したが、この政権掌握過程が極めて「したたか」だったのだ。

 旧来の政治家や支配グループであるマルコス家やアロヨ元大統領グループを、利権を通じ政権に取り込んだ。一方に利権を示し、他方に反対する者には警察による強圧で対応し、最終的に旧来の政治家や利権グループはドゥテルテ支持者となった。議会は旧来の支配者、地方の有力者からなっており、議会におけるドゥテルテ支持が多数派になっている。 

 政権発足前からドゥテルテは、NPA(新人民軍)やMILF(モロイスラム解放戦線)などとの内戦終結・和平協定締結を公約に掲げ、和平を望む国民や左派の一部、労働組合員からも支持され当選した。MILFとは19年2月、イスラム自治政府発足までこぎつけている。

 政権発足時には国民民主戦線(NDF)など左派グループから4人の閣僚を迎え、融和的な姿勢を見せたが、一年後の17年9月以降、四閣僚を徐々に追い出した。ロペス環境天然資源相(環境問題活動家)、タギワロ社会福祉開発相(元フィリピン大学教授、女性解放研究者)、マリアーノ農地改革相(KMP出身)、リサ・マサ国家人貧困撲滅委員会共同代表(ガブリエラ名誉議長)。

 同時にNPAとの和平交渉もドゥテルテ側から頓挫させ、17年12月にはNPAを「テロ組織」に認定し、「敵対」する姿勢へと転換した。18年、労働雇用省のマグルンソッド副長官(KMU元議長)など政権内の民主的な官僚が追い出される過程はさらに加速し、政府内での軍や警察の影響力は大きくなっている。

 選挙の際、和平を掲げ左派や多くの市民から支持を集めたが、権力を掌握して来た今、他の支持基盤を持ったし国民の支持率も高いので、左派は不要になり弾圧に転じたというわけだ。

2) 麻薬摘発から、労働組合、農民運動リーダー殺害へシフト

 政権発足後にはじまった麻薬摘発による「政治的殺害」は、ドゥテルテの政敵をも殺害し、強圧政治によって政権の権力基盤を「安定」させた。前アキノ政権では、「冷遇」されていた国軍や警察は、権力に役立つ姿をアピールし、政権内の地位を確保し強化してきた。

 最近では軍と警察は、労働組合や農民のリーダーらの殺害へシフトしている。19年3月には、ヴィサヤ地方東ネグロス州の3つの町で14人の農民がフィリピン国軍と警察によって殺害。18年秋には警察が教員組合の組合員リストを入手したことが暴露され、労働組合員の掃討作戦の準備ではないかと、批判された。軍と警察は、麻薬摘発による殺害から、NPAや労働組合リーダーの掃討作戦へと大きく踏み出しており、そのことで政権内で存在意義を誇示している。

 人民運動の核であるフィリピン共産党勢力に対する軍・警察による殺害・弾圧を、フィリピン資本家層、旧来の支配層は黙認している。

3) ドゥテルテ政権は誰の政権か? 

 フィリピンはこの10年、年率7%前後の高い経済成長を遂げ、フィリピン資本は膨大な資本蓄積をしており、資本家の層も「厚く」なっている。

 旧来のフィリピン資本と言えば、米国政府や欧米日の外国資本にすり寄って利益を得る買弁資本が典型だったが、蓄積に伴いより自立・独立志向を強めている。アセアン経済共同体(AEC)を発足させ、大国である米国、中国、日本などとは、一国ではなくアセアンとして交渉する方向へと転換した。最近の米中経済摩擦においても、米国の保護主義を批判し、順調な経済発展を破壊しかねないこの地域での紛争や対立には、強い拒否反応を示している。アキノ前政権までは、アメリカの傀儡政権という性格を強く残していたが、ドゥテルテ政権はより自立的な米中等距離外交への転換を、鮮やかに果たした。これまでの政権と異なり、アセアンの一国として、さらには中国との関係改善のうちに「民族的な」経済発展を構想している

 ドゥテルテ政権は誰の政権か? と問われれば、フィリピン資本家層の政権と答えなければならない。

 ドゥテルテはこれまで優遇してきた外国資本の免税廃止や、法人税の減税を打ち出しており、その点でもフィリピン資本家層の政府であるといえる。

 中国との関係を正常化し中国からの投資を歓迎し、「一帯一路構想」への協力を進めるドゥテルテだが、日米は南沙諸島(スプラトリー)領有問題を煽り、米比日共同軍事演習を実施し、他方でフィリピン政府が必要としているインフラ投資に日本が融資する姿勢を見せ、フィリピンをインドを含む中国包囲網の一員に引き込もうとしている。
 ドゥテルテは、両天秤にかけるような態度で「米中等距離外交」を展開しているように見える。

 フィリピン資本家層は、最終的には大統領が変わっても資本家層の支配が揺るがない「民主的代議制」を志向しているが、それをドゥテルテによる強権政治によって実現するという矛盾した過程をたどっている。

4) 人々の側は? 

 人民側の運動は、大衆的な支持や運動を組織することが十分にできていない。経済発展のなかで生まれつつある都市の「中流市民」は、政治的代表を持つに至っていない。このような現象は、新自由主義のもとで人々が階層化され、余裕をなくし孤立する個人が増え、ネットでのつながりは増えながらリアルな人々の関係・連携が希薄になる現代の特徴を示している。世界的に広がっている共通の現象でもある。

 7月の総選挙・上院選挙にみられる通り、地方の有力者や旧来の支配者が当選している。内戦や軍・警察による政治的殺害、強権政治は、人々を孤立させ、政治と政治運動から遠ざけ、その分だけドゥテルテのパフォーマンス政治、劇場型政治へ、「民衆の期待」が吸い取られている、これらの政治状況をなかなか突破できない現状があるように見える。




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ネグロスで農民14名が殺害される [フィリピンの政治経済状況]

ネグロスで農民14名が殺害される
ーーー軍と警察によるNPA掃討作戦ーーー



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<3月26日、キャンプ・クラメ前での抗議行動 The Japan Times>


1)ネグロスで14名が殺害される

 3月23日(土)、ヴィサヤ地方東ネグロス州の3つの町で14人の農民がフィリピン国軍と警察によって殺害された。フィリピン国家警察は、「14人の共産主義反政府勢力が発砲したので殺害した」と述べたが、人権団体は殺された男たちはみな農民であり、最近の超法規的殺害の犠牲者であると主張している。

 警察と国軍は3月30日、共産党の軍事部門、新人民軍(NPA)に対する大規模捜査を展開、「NPA側が発砲したので14人を殺害、15人を逮捕した」と発表。遺族や人権団体などから「殺されたのは皆農民であり、銃など持っていなかった。農民の虐殺だ」との批判が噴出し、双方の主張は食い違う。

 アルバヤルデ国家警察長官は4月2日、東ネグロス州警察本部のタカカ本部長やカンラオン署長など計4人を、調査のため一時的に解任すると発表した。長官は1日には「捜査令状に基づく合法的な捜査」と述べ、虐殺批判に反論しており、大統領府もこれを追認している。2日インクワイアラー紙によると、東ネグロス州のデガモ知事が「なぜこれほど死者が出たのか」と述べ、警察に納得のいく説明を求めたと報じている。フィリピン人権委員会(CHR)も独自の調査を行うよう地域支部に指示した。

 農業組合連合(UMA)によると、殺害されたジプニー運行者・運転手組合支部議長は、令状を読んでいる最中に射殺された。捜査員は殺害後、左派系政党のアナックパウィスやバヤンムナの選挙資料を持ち去った。(アナックパウィスやバヤンムナとは、選挙に出るための合法的な「パーティリスト」政党であり、フィリピン共産党の支持者などが、「パーティリスト」から選挙に出ている。)

 またアナックパウィスの女性役員は、銃器違法所持の令状を突きつけられ、夫とともに外に連れ出され、「声を立てたら殺す」と脅されたという。警察は女性を銃器不法所持容疑で逮捕したが、人権団体によると、女性は銃器所持の覚えがなく「恐怖で黙る以外なすすべがなかった」と話したという。(以上、まにら新聞、The Japan timesによる)



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<4月2日、マニラ首都圏ケソン市 国家警察前での抗議行動 まにら新聞>


2)軍と警察はNPA掃討作戦を行っている

 この事件で明らかなことは、軍と警察がNPAを狙った掃討作戦を行っているということだ。これまで麻薬摘発を理由に、軍や警察は5,000人を超える殺害を繰り返してきた。軍と警察は「すべて麻薬捜査中に反撃したのでやむなく射殺した」と説明してきた。(フィリピンでは死刑は廃止されており、裁判で死刑になることはない)。麻薬密売を理由にドゥテルテ大統領を批判する政治家をも殺害し、軍や警察は強圧政治を担うことでドゥテルテ政権を支えてきた。そのことで政権内での地位を確保しかつ強化してきたのである。

 麻薬摘発時の殺害だけでなく、最近は労働組合のリーダーや農民のリーダーらが、オートバイに乗った二人組に銃撃され殺される事件が増えてきた。軍の仕業だろうと言われているが摘発されていない。18年秋には警察が教員組合の組合員リストを入手したことが暴露され、労働組合員の掃討作戦の準備ではないかと、大きく批判された。

 今回の事件は、軍と警察はこれまでの麻薬摘発による殺害から、NPAや労働組合リーダーの掃討作戦へと大きく踏み出しており、さらに最近は一層エスカレートし、軍と警察による暴走の様相を見せている。

国軍と警察による捜査で散らかった部屋 ネグロス・カンラオン市 NFSW提供 - コピー (500x281).jpg
<ネグロス・カンラオン市 国軍と警察の捜索で散らかった部屋>



3)抗議が広がっている

 3月26日(火)、ネグロスの14名の農民殺害に抗議して、マニラ北東部のケソン郊外のキャンプ・クラメ前で市民団体、人権団体、労働組合などが、抗議行動を行った。4月2日には労働組合連合KMUなど左派系の労働組合、市民団体は、首都圏ケソン市の国家警察本部前で、東ネグロス州の14人殺害事件に抗議する集会を開いた。(フィリピンでは警察官は市や州に雇われているが、これとは別に国家警察があり、国家警察が麻薬摘発や左派の労働組合、NPA襲撃を主導している。)

4)フィリピン最高裁、超法規的殺害の可能性を指摘

 ドゥテルテ政権発足以来、5,000人以上の麻薬容疑者が警察との銃撃戦で死亡したとされ、その人数のあまりの多さにフィリピン国内の人権団体ばかりでなく、欧米諸国の人権団体からもドゥテルテ政権による裁判の手続きを経ない「超法規的殺人」であると、抗議が続いている。ドゥテルテ大統領は政権による違法殺害の命令を否定しているものの、麻薬容疑者を「死」で脅しているのは事実だ。

 この何千人もの殺害により、集団殺人訴状が国際刑事裁判所に提出されたが、ドゥテルテ政権は国際法廷からの撤退をすでに表明した。

 4月2日フィリピン最高裁は、2つの人権団体、Free Legal Assistance Groupと国際法センター(International Law Center)が提訴した超法規的殺害の申し立てに対し、「精査すべき可能性がある」という判決をくだし、大統領の反麻薬取締りで数千人の容疑者の殺害に関する警察文書の発表を命じた。最高裁の広報官ブライアン・キース・ホサカ(Brian Keith Hosaka)は、「裁判所が政府の弁護士代表に、警察の報告を2つの人権団体に提供するように命じた」と述べた。北部バギオ市で開かれている15人の裁判官による司法会議では、ドゥテルテ大統領の反麻薬キャンペーンを違憲と宣言する別の申立てを審議中である。

 ホセ・カリダ(Jose Calida)司法長官はかつて、殺害に係る警察文書を裁判所に提出することには同意したものの、上記2つの人権団体の提出要求を却下していた。今回の判決はその決定を覆すものである。

 これら文書が開示されれば、ドゥテルテが大統領に就任した2016年半ば以来、開始された警察主導の取り締まりと発生した大量の容疑者殺害を精査するのに役立つはずだ。さらにはドゥテルテ政権の強圧政治をやめさせることにつながる。

ケソンの人権委員会前で14名の殺害に抗議 UMA提供 - コピー (500x375) (500x375).jpg
<ケソン市人権委員会前で、14名殺害に抗議、追悼会>



5)ドゥテルテ政権の「超法規殺害」は麻薬摘発から、
労働組合、農民運動にシフトしている


 ドゥテルテ政権は公約である麻薬摘発を軍や警察に実行させたが、5,000人以上のきわめて多くの容疑者を摘発過程で殺害した。警察や軍はいつも「抵抗したり発砲したのでやむなく殺害した」と述べ、少しも罰せられていない。警察や軍に全能の権限を与えているようなものであって、裁判を経ない政権による政治的な「超法規的殺害」であると国内外の人権団体や市民、労働組合などから、激しい批判が続いている。

 16年半ばの政権発足後にはじまった「政治的殺害」は、ドゥテルテ大統領の政敵をも殺害し、強圧政治によってドゥテルテ政権の権力基盤を「安定」させた。そのことで国軍や警察は、ドゥテルテ政権内の地位を確保し強化してきたのである。前アキノ政権では、国軍や警察は権力から「冷遇」されていた面があった。ドゥテルテはこれを利用していると言っていい。

 さらに政権内での地位を強化するために、国軍と警察は、麻薬摘発から、ターゲットを労働組合や農民運動、NPAなどの左派グループの弾圧、掃討作戦へとシフトしつつあり、その行動は最近エスカレートしている。

 当初、ドゥテルテ大統領は、政権発足前からNPAやMILF(モロイスラム解放戦線)などに内戦終結・和平協定締結を公約の一つに掲げ、左派の一部や労働組合員からも支持されて当選した。MILFとは和平協定から19年2月にはイスラム自治政府発足までこぎつけている。

 一方、政権発足時には国民民主戦線(NDF)など左派グループから4人の閣僚を迎え、融和的な姿勢を見
せたが、政権発足から一年後の17年9月、閣僚任命委員会はそのうち3名を承認せず、結局4名は政権から追い出されていった。ロペス前環境天然資源相(環境問題活動家)、タギワロ社会福祉開発相(元フィリピン大学教授、女性解放研究者)、マリアーノ農地改革相(KMP出身)、リサ・マサ国家人貧困撲滅委員会共同代表(ガブリエラ名誉議長)。同時にNPAとの和平交渉もドゥテルテ側から頓挫させ、17年12月にはNPAを「テロ組織」に認定し、「敵対」する姿勢へと転換した。18年、労働雇用省のマグルンソッド副長官(KMU元議長)など政権内の民主的な官僚が追い出される過程はさらに加速し、政府内への軍や警察の影響力は大きくなっている。

6)ドゥテルテ政権の「変質」の背景

 政権発足からの経過を振り返ってみれば、ドゥテルテは政権掌握においてきわめて「したたか」だった。ドゥテルテが大統領就任した時の政治的基盤はきわめて脆弱だった。彼は力強い政治運動、政治グループの支持で当選したわけではないし、旧来の支配層(「上流階級・上流家族」)出身でもない。巧みなパフォーマンスで人気投票に近い選挙に持ち込み勝利者となった。選出後、権益を享受している既存のフィリピン資本家、旧来の支配層、政府官僚らとどのように折り合いをつけるかが大きな問題だった。この政権掌握過程が極めて「したたか」だったのだ。

 政権発足後は軍や警察を使って麻薬摘発の名のもとに政敵を排除し、徐々に強権政治で政権を掌握してきた。

 他方、旧来の政治家や支配グループであるマルコス家やアロヨ元大統領グループは利権から現政権にすり寄り、ドゥテルテも政権に加えることで、その支配を強化した。フェルデナンド・マルコスの息子であるボンボン・マルコスを副大統領にしているのはその意味である。地方ではこれら旧来の支配者が地域を支配している場合が多い。選挙時にドゥテルテが「反アキノ」(前大統領ニノイ・アキノ)を掲げていたのは、これら旧来の支配グループ、利権グループの支持を当て込んでいたからである。下院議員、上院議員、州知事などの多くは、旧来の支配者、利権グループから出ており、その結果今では、議会におけるドゥテルテ支持が多数派になっているのである。

 ただし、ドゥテルテ政権は誰の政権か?と問われれば、フィリピン資本家層の政権と答えるべきである。 ドゥテルテ政権は、確かにこれまでの政権と異なり、米国支配に従わず、東南アジアで影響力を増す中国との関係改善に舵を切った。背景には、フィリピン資本家層、支配層の志向がある。経済界はアセアンの一国として、さらには中国との関係改善のうちに「民族的な」経済発展を構想しているからである。フィリピンだけではない、アセアン諸国に共通する志向だ。経済政策はドミンゲス財務相とその配下のスタッフにほぼ任せている。彼らはアキノ政権からその地位にあり、ドゥテルテはこれをそのまま引き継いでいる。

 フィリピンはこの10年、7%前後の高い経済成長を遂げてきており、資本家層は膨大な資本蓄積をしてきたとともに、資本家の層も「厚く」なっている。この面ではフィリピン社会は、例えば20~30年前に比べ、大きく様変わりしたと言える。

 旧来のフィリピン資本と言えば、米国政府にすり寄ったり進出してくる外国資本にしたがって利益を得ようとする買弁資本がその典型的なタイプであったが、資本蓄積に伴いより自立・独立志向が高まっている。特にアセアン経済共同体(AEC)が発足し、大国である米国、中国、日本などとの経済交渉においては、フィリピン一国で交渉するのではなくアセアンとして交渉する方向へと転換している。最近の米中経済摩擦においては、米中との等距離外交を志向しており、順調な経済発展を破壊しかねないこの地域での紛争や対立には強い反対の姿勢、拒否反応を示している。アキノ前政権までは、アメリカの傀儡政権の性格を強く残していたが、ドゥテルテ政権は米中等距離外交への転換を果たした。その意味では、ドゥテルテはフィリピン資本家層の意向にしたがって動いているし、資本家層も功績をあげたドゥテルテをこれまでのところ支持している。法人税の引き下げ、外国資本の輸出税免除の廃止などに見られる通り、フィリピンの資本家層の利益に沿った経済政策を採用しており、この点でもフィリピン経済界はドゥテルテを支持しているのは明らかだ。

 今のところ、資本家層や旧来の支配層は、国軍や警察の横暴に目をつむっているようであるが、しかし、国軍や警察のあまりに無法な振る舞いがさらに幅を利かすようになれば、政権内でもその影響力は強まっていくことを意味する。その際には、資本家層との利益ともぶつかる場合も出てくるであろうし、支配層内の争いも生まれてきかねない。

 いずれにせよ、ドゥテルテ政権は発足後、内部でどのような力が働き、その性格をどのように変えてきてたのか、変質してきたのかを認識しておかなくてはならない。

7)国軍と警察による人々の弾圧に抗議する!

 軍や警察が「共産主義勢力」を敵視し、殺害していることが大きな問題だ。ドゥテルテ政権はNPAを「テロ組織」と認定し、軍や警察のよる一方的な殺害を実行させている。政府が「テロ組織」と認定すれば人権を蹂躙してもいい、殺害も許されるということではない。「共産主義勢力」、「テロ組織」の認定も、政権や軍・警察が勝手に行っており、政権を批判している人すべてが、「共産主義勢力」、「テロ組織」あるいは「麻薬容疑者」とみなされかねない。

 国軍と警察による労働組合や農民運動の弾圧は、人権問題でありかつ政府による民主的な運動への弾圧であって、何よりも多くの人々が反対の声を上げ、軍と警察を告発し、同時に実行させているドゥテルテ政権の責任を追及しなければならない。

 ドゥテルテ政権による、国軍と警察による人々の弾圧に抗議する!
(文責:林信治)






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丸紅への手紙 [フィリピンの政治経済状況]

丸紅への手紙:
フィリピンにおける石炭火力発電所の新規建設と操業停止を要求する

2018年10月18日


 丸紅は、石炭火力発電所のような汚れたエネルギーを推進する日本企業です。
 私たち「フィリピン環境問題センター」(Center for Environment Concerns - Philippines)は、丸紅が石炭火力発電所の新しい提案と既存の操業をフィリピン、および世界各地で停止することを要求します。この要求において、基本セクターと環境保護団体のはともに団結していることをここに宣言します。 下記の手紙は日本の交渉団体である「地球の友」によって明日、丸紅に届けられます。


2018年10月18日


國分文也様  社長兼CEO 丸紅株式会社

181018 丸紅 発電所.png
<パグビラオ(Pagbilao)バランガイの発電所コンプレックス、ケソン、パグビラオ、イバンバン、ポロ(Pagbilao、Ibabang Polo)>
*****

親愛なる國分文也社長殿

 私たち「フィリピン環境問題センター(以下:CEC)」は、1989年に設立された非政府組織であり、漁業者、農民、先住民、女性、都市部の貧困者、教会員および専門家を代表する組織のイニシアチブによって設立されました。 CECは、研究、政策提唱、訓練、地域社会のサービス、地域と国際的なネットワーキングを通じた環境問題に対処するコミュニティの支援に努めています。

 私たちは、あなたの会社の石炭火力発電所プロジェクトを直ちに中止するよう求めている各国の団体と連帯して、この文書を書いています。私たちは、石炭火力発電所(CFPPs)近くのコミュニティの経験とその環境への影響に関する多くの研究に基づいて、私たちの懸念を表明いたします。さらに、摂氏1.5度の温暖化に関するIPCCの報告書は、摂氏1.5度の目標を超えないために、10年以内に化石燃料ベースのエネルギーシステムへの急速かつ急激な変化が行われるべきだと述べています。

 フィリピンの漁民、特にバランガイ・イババン・ポロ(ケソン、パグビラオ市Quezon Province、Pagbilao市)は、石炭火力発電所の影響を感じています。フィリピン・ケソン州パグビラオ市のバランガイ・イババン・ポロのパグビライ(Pagbilao)発電所複合施設(以下:PPSC)は現在、丸紅と東京電力の合弁会社であるTeaM Energy CorporationとAboitiz Powerが所有しています。

 最初の2つの発電所ユニットの建設と運営は、漁民の反対に直面していました。漁民たちは組織を形成し、家屋の移動に対して、さらに沿岸生態系、特にマングローブの伐採と土砂の流出による近くの海水の温暖化など観測された環境変化に対し、それぞれ異なる抗議行動を行いました。漁民たちの反対にもかかわらず、発電所の拡大は今年も続いており、今年は操業を開始しました。

 私たちの組織が実施した迅速な影響評価によると、サンプリングサイトのpH値は、国の環境・天然資源管理局の基準を満たしていません。この事実に留意してください。

 また、漁民たちへのインタビューによると、彼らは漁獲量の減少を経験しています。漁場における水の温暖化と海洋生態系の質の悪化がその原因と考えています。これらの変化は、パグビライ(Pagbilao)発電所複合施設(以下:PPSC)建設後に注目されました。

 漁師たちはまた、漁獲できる魚の種類がこれまでよりも少なくなっていることも経験しました。 PPSCで安定した賃金の高い仕事が約束された住民の多くは、現在、臨時の契約労働や一時的な仕事の依頼を受けているにすぎません。プロジェクト提案者による島の発展が約束されましたが、発展など住民たちには感じられませんでした。

 また、土砂の流出は主要な生物多様性地域に位置していることも強調しなければなりません。
 これらの知見をもとに、フィリピン環境問題センター(Centre for Environmental Concerns - Philippines)は、丸紅にPPSCの運転を停止し、新しい石炭火力発電所(以下:CFPP)の拡張と建設を停止を要請します。

 この呼びかけは、私たちの国だけでなく世界中に広がっています。さらに、丸紅に対し、バランガ
イ・イバンバン・ポロ(Barangay Ibabang Polo)やその他のCFPPの現場で生態系を回復させるための代替計画や手段、資源を提供することを求めます。

 私たちは、フィリピンの多くの人々、特に国内の最も貧しいセクターである漁民の訴え、そして環境に対する訴えを考慮してほしいと心から願っています。

敬具、
事務局長、オーウェン・フェム・ミグラソ(Owen Fhem Migraso)
フィリピン環境問題センター (Center for Environmental Concerns – Philippines)

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ドゥテルテ政権の評価 [フィリピンの政治経済状況]

アンバ・バーラのエミリーから報告が来た!
ドゥテルテ政権をどう見たらいいのか?

ドゥテルテ.jpg
<ドゥテルテ大統領に耳打ちするフィリピン警察デラロサ長官>

 ドゥテルテ政権をどのように評価したらいいのか、アンバ・バーラに尋ねたところ、エミリーから長文の返答が返ってきた。

 ドゥテルテ政権は今でも支持率が高い。注目される発言をして、「フィリピンのトランプ」と呼ばれたりする。麻薬撲滅戦争を宣言し支持されたが、いつまでたっても終わらない。それどころか取り締まる警察や軍によって何千人も殺害されていて、国内外から超法規殺人、人権侵害を指摘されている。警察や軍を使った強権政治が目立つようになった。

 スプラトリー島の領有をめぐって対立していた中国とは、二国間交渉を行い、即座に対立を解消した。「対立」を理由に、フィリピンと東シナ海に介入しようとしていた米政府は肩透かしを食らった。その「せい」だろう、介入理由をつくるためミンダナオで傭兵であるイスラムテロ組織に事件を起こさせた。

 ドゥテルテ政権は、契約労働者の正社員化を外国企業や国内大企業に求め、一部実現しつつある。さらには、どれだけ法律通り実行されるかは疑問だが、労働安全衛生法や産休法を制定し、近代化を進めつつある。フィリピン経済は好調で、年率7%前後で高成長しており、1,000万人いる海外出稼ぎ労働者は、ここ数年、増えていない。

 また、政権発足時に、フィリピン共産党(CPP)やモロ・イスラム解放戦線(MILF)と和平交渉を進め、CPPと関係のある国民民主戦線(NDF)のメンバーを、環境相や農地改革相などの閣僚に採用した。しかし、最近CPPとの和平交渉は暗礁に乗り上げ、NDFの閣僚を内閣から追い出した。

 ドゥテルテは警察や軍を使った権力掌握において、なかなかしたたかであることも分かった。現在では、国会議員の多くはドゥテルテを支持するに至っている。

 このドゥテルテ政権についての情報は個別的にもたらされるが、全体としてどのように評価したらいいのか? フィリピン国内、人民サイドの評価はどうなのか? アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)に聞いてみた。エミリーの報告は、NDFやその選挙運動に対して厳しかったり、スプラトリー領有についてナショナリズムに影響されていると思えるところ、あるいは労働運動・民主運動の動向についての報告がなかったり、いくつか疑問もあるが、それらは今後意見交換するとして、今回はそのまま紹介する。(編集部)

*****

ドゥテルテ政権の評価

エミリー・ファヤルド(アンバ・バーラ事務局長)


1)ドゥテルテ政権をどう評価しているのか? 
  強権政治にもかかわらず支持率が高いのはなぜか?

 大統領選挙のキャンペーン期間中、ドゥテルテはスカボロー環礁(Scarborough Shoal)のような問題などすぐに解決できると、"嘘の"約束により大衆の支持を得ています。以前ドゥテルテは、「もし私が当選したら、ジェットスキーに乗って島に行き、フィリピン国旗を立てる」と発言しました。

 ドゥテルテは大統領選に勝利した後、警察に反ドラッグキャンペーンを優先させるよう命じました。その結果、特に貧しい人々の多くが警察に殺されました。人権侵害はどこにでもあります。しかし、いまだ多くの人がドゥテルテの「良い」意図を信じています。 TRAINの法律は成立し、主要商品の物価はすべて50%から100%まで上昇しましたが、ドゥテルテの評価はまだ高いままです。

 バタアン州の弁護士の友人の一人が、私たちの討議の場で報告しました。メトロマニラに住む弁護士の友人に、「ドゥテルテに投票したか?」と尋ねたところ、「確かに投票した、しかし今では支持しない」と語ったというのです。「なぜいまだに評価が高いのか?」と聞いたところ、「もし調査人が私たちの家に来たなら、本心からでなくドゥテルテ政権支持と言う。なぜなら、私がドゥテルテを批判すれば、私や家族には殺される恐れがあるから」と語ったという。

 多くの人々がドゥテルテを恐れているので、評価はまだ高い面があるのです。 デリマ(Delima)上院議員、セレノ(Sereno)最高裁長官のような批判的な人物はすべて、排除されました。ドゥテルテに批判的だったエスピノサ(Espinosa)市長は刑務所内で殺されました。バタンガス市のハリリョ(Halili)市長は、市民会館での旗授与式の最中に殺されました。ドゥテルテを恐れている人々の「虚偽の声明」で高い評価を受けている面があります。それは独裁と刑罰の文化です。戒厳令を宣言しなくても、同等の支配が存在しているのです。

2)国民民主戦線(NDF)の政権支持と内閣からの追放

 フィリピン共産党(CCP)/新人民軍(NPA)/国民民主戦線(NDF)(以下:CPP/NPA/NDF)は、大統領選でドゥテルテを支持しましたが、支持したことは大きな誤りでした。ドゥテルテの母親はダバオ市の教師としてキャリアを持つ活動家であったことはよく知られています。しかし、だからと言ってドゥテルテが自動的に活動家の血を受け継いでいるわけではありません。確かに大統領の口から、「自分は親社会主義者で、革命的な政府を望んでいる」などとと聞くことができます。CCP/NPA/NDFは、2016年の大統領選挙でドゥテルテを支持したので、CPP/NPA/NDFに属する政治囚の一部を解放するかもしれません。

 また政権発足当初、ドゥテルテによってNDFメンバーから農務省(DA)、社会福祉省(DSWD)、大統領付き都市貧困委員会(PCUP)の閣僚として任命されましたが、DAとDSWDの大臣は、委員会の支持を得られず、今では内閣から追い出され、なおかつ過去の殺人容疑で起訴される状況です。都市貧困委員会のリサ・マサ長官(元上院議員、女性団体ガブリエラの名誉議長)は、彼女を含むPDFの議員たちへのドゥテルテ政権による起訴命令の後、長官を辞任しました。

 また、フィリピン共産党と政府との和平協議は、数回の会談を経て、今では決裂しています。ドゥテルテ政府は、和平協議のために真剣ではありません。両者は話し合いを続けるでしょうが、現実にはうまくいかないでしょう。

 CPP/NPA/NDFは、「政府を変える」という小さな夢を持っていました。グロリア・マカパガル・アロヨ政権以来、CPP/NPA/NDFは政治組織のすべてがパーティリスト選挙(フィリピン共産党は非合法なので、選挙のためにつくる政党をパーティリストと呼ぶ)に参加して、何人かは国会議員になりました。それ以降、彼らは、 "ガラクタ"政府を変えることなど無駄だということを学びませんでした。有権者や議員を喜ばせ、投票に勝つためのプロジェクトに政府資金を使用し、それをCPP/NPA/NDFの組織に使い、集会に使用しました。それは報じられているとおりです。

-CPP/NPA/NDFを魅了しているすべての選挙
 CPP/NPA/NDFは、エストラーダ大統領時代にグロリア・マカパガル・アロヨを支持し、その後アロヨ大統領を追い払う行動をとりました。その後、2016年の選挙では、ドゥテルテがミンダナオにおける殺人犯であり腐敗していることを知ったうえで、CPP/NPA/NDFはグレース・ポーとドゥテルテを支持しました。なぜドゥテルテを支持するのでしょうか? 内閣に入るためです。なぜ何のためにこのようなことが必要なのでしょうか? バヤン・ムナ(Bayan Muna)、ガブリエラ(Gabriela)、アナクバヤン(Anakbayan)のようなパーティーリストでは十分ではないからです。

 2017年、マニラでのメーデー行進では、2017年にドゥテルテに対する要求がありませんでした。彼らののぼり旗は、帝国主義打倒を謳っていました。それなのにドゥテルテに対しては、内閣に参画していたため、小規模なプラカードさえもありませんでした。
 病気の高齢者ドゥテルテは、NDF出身の閣僚を内閣から追い出した後、逮捕し、刑務所に入れたいと思っています。

3)ドゥテルテ政権の権力基盤は何か? 誰が支えているのか?

 巨大鉱山企業が、大統領選挙中にドゥテルテを支援しました。資本家は、選挙期間中に簡単に移動できるように、大型バイクとヘリコプターを貸し出しました。 ドゥテルテは勝利した後、環境省長官としてジーナ・ロペス(Gina Lopez)を任命しました。ジーナの計画は、国のすべての鉱山サイトを訪問することであり、ジーナは環境基準に対する多くの違反だけでなく、鉱山近くのコミュニティでの鉱業による健康被害を摘発しました。ジーナはドゥテルテ支持者の会社を含む多くの大企業の稼働中止を提案しました。ジーナには鉱山の稼働停止の権限はありましたが、その期間は短期間でした。鉱業会社がドゥテルテに環境省大臣ジーナを追放するように圧力をかけていたため、6年間任命委員会(CoA)から支持を得ることができず、辞任しました。

 ドゥテルテの支持者は資本家層です。さらにマルコス支持者、グロリア・マカパガル・アロヨ支持者を引き継いでいます。だから、彼が大統領に当選したとき、見返りにボン・ボン・マルコス(Bong Bong Marcos)を副大統領にしました。ボンボンへの約束を果たすために、2016年副大統領選挙で選挙管理委員会はレニ・ロブレドとボンボンの票数を再び数えることで争いました。さらに、ドゥテルテは最高裁判所判事を変える必要があると言い出し、サーレノ最高裁長官を放逐し、憲法に違反しました。

 選挙管理委員会がボン・ボンを新しい副大統領であると宣言し、レニ・ロブレド(Leni Robredo)が最高裁判所に上訴したとしても、レニの請求は政権によって任命された忠実な裁判官によって拒否されるでしょう。そうなっても私たちは驚きません。
 近い将来、ドゥテルテが大統領を辞任すれば、ボン・ボン・マルコスが後継者になる予定です。

4)スプラトリー(南沙)諸島領有問題とは何か? 
  フィリピン人民はどう対処すべきか?

-フィリピンは国連海洋法条約(UNCLOS)により仲裁裁判所で有利な判決を得ています。スプラトリー島は、フィリピンの航海距離12マイルにあります。アキノ政権時代のことですが、ドゥテルテはそれを支持しています。

 しかし、私たちの大統領は、スプラトリーと他の島に関する判決を持ちながら、「気まぐれ」なのです。 島の領有問題で、米国と中国とを天秤にかけています。ドゥテルテはしばしばアメリカに反対する発言をしましたが、言葉だけで真剣さはありません。なぜなら、ドゥテルテが植民者である米国を追放しようとすれば、彼は米国とのすべての法を廃止するはずですが、米比二国間協定やEDCA(米比相互防衛協力協定)は何も変わっていないのです。

-ドゥテルテは中国との二国間交渉を行っている。
 ドゥテルテはすでに中国に領土問題で譲歩しています。フィリピンの漁師はスプラトリー海で魚を捕ることができません、中国は石油探査を行い、中国海軍の艦船がそこにいます。そのため、自然資源と主権と財産権のすべてが、ドゥテルテによって中国に与えられました。引き続き、中国はフィリピン政府のプロジェクトなどのために資金を提供しています。

-また、フィリピン政府は中国との二国間貿易協定を締結していますが、もちろんこれは私たちにとって公正な合意ではありません。

 スプラトリーの領土問題は、アキノ政権時代に米政府が問題を取り上げ始めたのは事実です。フィリピンの漁師によると、以前は中国人漁師とフィリピン人漁師は魚を交換していましたし、海における友人同士です。しかし、米国がアキノ前政権に、文字通り(書類と国連で)スプラトリー領有を主張することを薦めて以来、中国もまた対抗するようになりました。米政府はフィリピンと中国の対立を煽りました、なぜならば、米政府の意図は、アジアにおける政治的経済的権益のために米海軍艦船を太平洋海域で自由に航行することにあるからです。

 歴史が示す通り、フィリピン政府はアジアにおける米政府の第一の操り人形です。米国がアジアにおける経済的・政治的権益を追求するためには、米海軍と米艦隊がしばしば太平洋を訪れ、力を見せつける必要があります。

 米国にとってフィリピンは中国に近いアジアの軍事基地の一つです。しかし同時に米国はまた、多くの人口を抱える巨大市場としての中国を保持したいとも考えています。利害は交錯しており、世界は複雑です。

5)麻薬戦争の持つ意味 警察が麻薬ビジネスの親玉 
 麻薬摘発は警察が政権内で権力を確立するプロセスではないか?

 ドゥテルテは大統領に就任した当初、フィリピン警察(PNP)とフィリピン軍(AFP)の統合をすすめました。フィリピン警察チーフとしてバト・デラ・ロサ(Bato Dela Rosa)将軍を任命しました。彼はドゥテルテの忠実な友人であり、フィリピン軍のチーフ・スタッフでもあります。ドゥテルテは、PNPとAFPの給与を100%引き上げて、警察と国軍が統治し、ドゥテルテ内閣に忠誠を払うようにしています。

 麻薬との戦争が宣言されていますが、それは貧しい人たちに対する戦いを意味するにすぎません。ニュースで見るように、"薬物中毒者と売人"として殺された者たちを、私たちはナシ・タンネラス・ラング(スリッパを使っただけ)と呼んでいます。警察は、銃を使って抵抗したために容疑者たちを殺したと、いつも同じ主張をします。

 多くの警察は、薬物シンジケートにかかわっています。末端の売人や、時には大きな売人から捕獲した麻薬は押収し、警察が押収した麻薬を売っています。

 ドゥテルテの「麻薬撲滅戦争」で、何千人にも及ぶ人権侵害を犯しました。貧しい売人なら、その場で殺されますが、ケルヴィン・エスピノサ(Kerwin Espinosa)や息子であるパウロ・ドゥテルテ(Paulo Duterte)などのように富裕者は、賄賂によって法律上の手続きが許されます。だから、「麻薬撲滅戦争」の相手は貧困層なのです。もしあなたが麻薬事業でドゥテルテの敵であるならば、エスピノーサ(Epinosa)市長のように、たとえ刑務所のなかにいても殺されるのです。

 非常によく知られているように、ドゥテルテ家族の一つのビジネスは麻薬です。だからこそ、ドゥテルテの息子のパウロは、フィリピンで62億ペソのシャブリを出荷しました。ドゥテルテは、国営テレビで彼の息子に「上院が招請した調査ための聴聞会に行くな!」と言いました。ドゥテルテも麻薬に従事していて、ビジネス上の敵をすべて取り除き、操作できるようにしたいと考えている証拠を私たちは持っています。麻薬撲滅には真剣ではありませんが、貧しい人々を殺すことに真剣に取り組んでいます。

 薬物キャンペーンにおける「薬物撲滅戦争」とは、強烈な皮肉です。
 私たちは、ここフィリピンでの麻薬問題は、貧困層の問題と深くと関連していると考えています。フィリピン社会は、家族を養うに十分な給料を支払う仕事を与えることができません。そのため何人かの人は薬物に手を出し取引しています。薬物蔓延は社会構造的な問題であり、社会改革をふくむ解決が必要であり、殺害するだけでは解決しません。都市の貧しいコミュニティの末端売人を殺しても、大量の薬物を持ちシャブ研究所を運営している億万長者はドゥテルテの友人や息子であり、法律では有罪にできません。正義はどこにあるのでしょうか? 「麻薬撲滅戦争」とは一体何でしょうか? 貧民に対する戦争にすぎません。

 9月20日、ブリュッセルの国際人民裁判所(IPT)は、人権侵害であるとしてロドリゴ・ドゥテルテ大統領が有罪判決を言い渡すでしょう。

6)中国と米国との関係は? 
  ドゥテルテ政権は米中等距離外交に転換したのか?

 ドゥテルテ大統領はメディアとの対話で米国を批判します。しかし、言葉だけです。真剣であれば、米国の利益を保証するすべての法律が解消されるでしょう。ドゥテルテは米国に有利なように振る舞っています。彼は米国を訪問し、ドナルド・トランプ大統領は今年もフィリピンを訪問しました。

 2018年1月、ジェームズ・マティス米国防長官は、トランプ大統領が提出した国家安全保障戦略にかかわる米国の国家戦略(NDS)を報告しました。「テロとの戦いは継続するが、強力な国家(=中国とロシア)との競争に米国の国家安全保障に焦点が当てるられるだろう」というのです。つまり、これは2001年9月以来の政策と、まったく異なっています。

 ロシアと中国は、米国にとって既存秩序を覆す「修正主義勢力」であり最大の敵という扱いです。
 アジアリバランス戦略(または太平洋に戻ってくる戦略)により、米国は中国に対する戦争を準備しています。米国はアジアに戻るでしょう。米国は最も強力な軍備、武器、軍事技術を持っています。しかし、中国が認めなければ、特に「中国海」と呼ばれるASEAN海に入るのは容易ではありません。米国と中国の覇権争いは長い間続くでしょう。

 米国は日本、オーストラリア、インドと同盟してきました。今年3月、シドニーにおけるASEANサミットでは、ベトナムとオーストラリアが戦略的パートナーシップに調印しました。これは包括的なパートナーシップよりも高いレベルです。米国は、中国に対する台湾問題を沸騰させるため、ヴェトナムとインドの間の連携を促しました。

 トランプは、あらゆるレベルの米国関係者と台湾の間の訪問を奨励している「台湾旅行法」に署名しました。この法律は中国によって抗議されました。

 米海軍のルーチンは「航行の自由作戦」であると宣言しましたが、トランプ政権になって南シナ海での米海軍の頻繁な行動が目立ちます。2017年5月から18年5月にかけて5回の「航行の自由作戦」を実行しまし、中国は抗議しました。
 そういうわけで、2つの強力な国家間の戦争の炎は、燃え続けています。

7)イスラム・テロ組織マウテ・グループには、
  米国やサウジ・湾岸諸国という雇い主がいる。
 中国に接近したドゥテルテ政権を牽制し、
 米軍がフィリピン政治に介入する理由をつくるための
  テロ事件だったのではないか?

 私たちは、17年にミンダナオ・マラウィ市でテロ事件を起こしたマウテ・グループ(Maute groups)が、まだミンダナオにいるとみています。おそらく、このテロ集団は政権を追い詰めることを目的にしているようですが、ドゥテルテが気にしていません。

 しかし、私たちはCIAの手が、ここまで及んだと判断しています。ドゥテルテが中国と友好関係を続け、米国を追い払うなら、ドゥテルテは米国によってゴミ箱に投げ捨てられるでしょう。いつものように、フィリピン政府は米国の操り人形であり、その現実に疑いはありません。ドゥテルテは中国と付き合っていますが、米国を追い出すことはできません。ドゥテルテは人々をいじめ威嚇する大統領ですが、米国をどのように扱うかはよく知っています。

 ドゥテルテの何十億ペソもの銀行口座が公開されました。機密扱いですが、すでにニュースになっていて、この口座は本当です。だから、ドゥテルテはトリラネス(Trillanes)上院議員が求めていた権利放棄に署名できないのです。米国はドゥテルテを簡単に捨てることができるので、ドゥテルテに対しすべてのステップで責任を持てという警告となっています。

 私たちは、中国と共同の石油探査のように、中国との外交政策、パートナーシップ政策を確立すべきです。

8)ドゥテルテへの支持率が高い理由は何か?

 ドゥテルテへの支持率が高いのは、多くの人々がいまだに彼を信じているからです。大統領選に勝つためには、誰もがより良いフィリピンを望むその希望に応えなければなりません。しかし、多くの人々は、ドゥテルテが大統領府にいるときは、失望しています。

 ドゥテルテはカトリック司祭、サント・パパを批判しました。反薬物戦争での殺人、人権侵害についてカソリック教会のコメントを批判したのです。多くの支持者、特に今日のローマカトリック支持者は、政権に批判的ですが、多くの人々はまだまだです。

 しかし、ドゥテルテの支持者は、今日の時点ですでに減少しています。 少額の給与増を予算化しましたが、TRAINが市場に完全に導入され、多くの人々は生活が苦しくなったと感じ、心が変わっています。

 いまだ騙されたままの人は、まだドゥテルテを崇拝しています。たとえあなた方が虚偽の姿を見破っても、フィリピン国民は「嘘つき大統領」を信じる文化を持っています。私たちはそれをカルトと呼びます。宗教的な崇拝と特定の人物への献身システムのようなものです。しかしこれは以前と同じくらい膨大な数ではありません。

 一部の人はドゥテルテを恐れています。なぜなら、ダバオ市長としての任期中、彼は「ドゥテルテ暗殺部隊(DDS)」を持ってました。DDSが本当に存在することはよく知られています。殺されることを恐れて、多くの人は大統領に反対できません。だから、この大統領の本当の人格と態度を見抜いたとしても、多くの人は黙っているほうが良いと判断するのです。無責任と独裁の文化はどこにでもあります。憲法、特に権利章典に表現の自由が記されているにもかかわらず、人々は意見を述べたり主張したりすることができません。ドゥテルテの暗殺部隊によって殺されるからです。

 ドゥテルテ大統領は、5千人のトロール(意図的に攻撃的または挑発的なオンライン投稿を行う人、偽のニュースを作成し、ソーシャルメディアで大統領に反対している人を脅かす人)を雇用しています。選挙の前に、この人々は既に雇用されていました。そしてドゥテルテ家族がどれほど貧しいか発信しました。ドゥテルテが小さな家の中に座って、質素な服を着て、 "このダバオ元市長が裕福ではないのは、腐敗していないからだ"と言いながら、朝食に小さな魚とトマトを食べている写真を発信しました。これらはすべて、「ドゥテルテが腐敗していないことを人々の心に留める」ための嘘でありフェイクニュースなのです。

 これが、彼が多くの支持者を持っている理由です。
 ドゥテルテが大統領に選出されたとき、広報副次官にモカ・ウソン(Mocca Uson)を任命しました。この女性は、政府のなかにいて偽ニュース発信の仕事をしています。モカは、公務員である間、少しも控えめに振る舞いませんでした。彼女にほぼ120,000ペソ/月を支払っていますが、偽ニュースの宣伝と政権の自己賛美以外、何もしていません。

 モカは昨年、大統領の力を示すために、昨年100万人のドゥテルテの支持者を集めようとしました。目標は達成したと宣伝しましたが、ラリーの写真やビデオを見ると、参加者は2,000人以下で、しかも手に無料の食べ物を持っているのです。

9)政権発足当初、NDF 出身の閣僚を任命し、
  最近になって解任している理由は何か?

 NDFの支援は、ドゥテルテが大統領選に勝つために大きな助けとなり、本当に必要とされていました。ドゥテルテはNDFメンバーに内閣内のいくつかの地位を与えましたが、意見を主張し事業を実行するうえでそれほど重要な部門ではありません。 ドゥテルテの仲間と「操り人形」こそ彼にとって最も重要なスタッフです。投資家/資本家の関心を果たし,ドゥテルテの利益を実現している限り、立場と役職において能力があるかどうかは重要ではありません。

 もちろん、ドゥテルテはNDFの思想と立ち位置までコントロールできません。実際には、NDFはホセ・マリア・シソン(フィリピン共産党の指導者、オランダ在住)が批判している通り、ドゥテルテを批判しています。そのため、ドゥテルテとホセ・マリア・シソンはテレビでお互いに喧嘩していることが多いのです。

10)議員の多数がドゥテルテを支持するに至っている理由は何か?

 それこそフィリピンにおける政治的実践と文化であり、大統領府であるマラカニアン宮殿に座りぱなしのすべての大統領は、大統領の政党の権益に結びつこうとする下院議員や上院議員の多数の支持を得ています。大統領支持の議員は自分たち「多数派ブロック」と呼び、党に残っている議員は「少数派ブロック」です。
 大統領の党や大多数の政党に参加していない議員で大統領が議員を助けない場合、担当する開発プロジェクトには資金提供されず、予算は他よりも低くなります。多数派ブロックにいる場合、腐敗し悪化している場合でも、行政は議員を手助けします。それこそ少数派をしのぐ、多数派の力なのです。大統領と伝統的な政治家の利害とは一致しているのです。

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<2017年12月、ドゥテルテは「自分が専制君主になったなら、撃ち殺していいと警察と軍命令した」と発言。ドゥテルテのパフォーマンス>








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ドゥテルテ政権は、誰の政権か? [フィリピンの政治経済状況]

ドゥテルテ政権の転換

1)NPAをテロ組織に認定、戒厳令を延長

 フィリピン上下院は12月13日特別合同会議を開催し、ミンダナオに敷かれた2017年12月末が期限の戒厳令を延長するドゥテルテ大統領の提案を審議。賛成240票、反対27票で可決し、2018年12月31までの延長を承認した。
 ミンダナオ・マラウィ市を占拠した「マウテ・グループ」は、約1,000人の死者を出し、6月の発生から5カ月後の10月に掃討鎮圧しており、戒厳令を敷いた理由はなくなったはずだったのに、解除せず、2018年末まで延長した。この奇妙な延長提案は、ただドゥテルテ政権側の都合によるものだし、そこに政権の意図や性格が現れていると見なければならない。

2)ドゥテルテ政権の明確な政治転換

 ドゥテルテは就任前や就任当初から、フィリピン共産党(CPP)、新人民軍(NPA)、モロ・イスラム解放戦線と和平交渉に取り組み、当初は良好な関係を結んだかに見えた。しかし、フィリピン国軍と共産勢力との武力衝突はやまず、すでに和平交渉は打ち切っている。
 その上、ドゥテルテ政権は12月5日には、CPPと傘下の軍事組織NPA をテロ組織と認定し、対決姿勢を打ち出した。ドゥテルテは議会にあてた書簡で「NPAが暴力的な手段で政府転覆を狙っている」として戒厳令延長の理由の一つに挙げていた。

 ドゥテルテは新たに共産勢力の制圧に乗り出す可能性をあからさまに示しており、反政府勢力に一層強硬な姿勢で臨むとみられる。戒厳令下では、治安当局は逮捕令状なしで容疑者を拘束できる。フィリピン国軍にとって、CPPとNPAに武力攻撃する準備が整ったと見るべきだろう。

3)ドゥテルテ政権の性格

 ドゥテルテ政権は、確かにこれまでの政権と違い、米国支配に従わず、東南アジアで影響力を増す中国との関係改善に舵を切った。背景には、フィリピン資本家層、支配層の支持がある。経済界は中国との関係改善のうちに経済発展を構想しているからである。
 フィリピン経済の最近の成長によって、現状のインフラ未整備がさらなる発展のネックになっていることは、誰の目にも明らかになっている。政権についたドゥテルテは経済成長を持続させるためのインフラ整備計画を公表し、中国政府やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、日本のODAなどから資金を調達し、他方、長期にわたりインフラ整備に必要な新たな税収を得るための税制改革も行い、これまでの政権とは異なり確実に計画を実行している。

 フィリピンの資本家層、支配層の利益に沿った経済政策を採用しており、この点でもフィリピン経済界はドゥテルテを支持しているのは明らかだ。
 麻薬撲滅運動は政治的パフォーマンスであるが、押収した麻薬を転売や汚職の黒幕である警察を摘発せず、撲滅運動は警察の意向に沿って進めている。また、戒厳令の延長はフィリピン国軍主導のもとに反政府勢力に一層強硬な姿勢で臨む方針の提示である。いずれも、既存の支配勢力、暴力装置である警察とフィリピン国軍とともに、その合意の上で、政権運営にあたることを一層明確にしたととらえるべきである。政権の性格がより明確になった。

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ドゥテル政権の一年 [フィリピンの政治経済状況]

ドゥテル政権の一年


 ドゥテルテ政権が発足して1年以上が過ぎた。ドゥテルテは、これまでの大統領のようにエリート階層出身ではない、「汚い言葉」を平気で使う、そこに親しみを覚えた者も多い。一部の閣僚に左派の人たちを入れた。それらのことが相まって、高い人気を得た。80%にとどこうとする高い支持を背景にした、強権的な政治も目立つ。ただ1年を過ぎ、ドゥテルテの公約はなかなか実現されないままだ。他方、様子見をしていたこれまでの支配層の一部が動きはじめ、政権内の権力争いも起きつつあるようだ。

1)民族民主主義派が内閣から去る

 9月6日、フィリピンの政府閣僚の資格審査する議会の任命委員会は、マリアーノ農地改革相を承認しないと決定した。これまで不承認となったのは、ヤサイ前外相、ロペス前環境天然資源相、タギワロ社会福祉開発相の3人、マリアーノ氏で4人目。

 マリアーノ農地改革相(元下院議員、弁護士)はフィリピン農民運動(KMP)出身、社会福祉開発大臣だったタギワロ元フィリピン大学教授は女性解放運動の研究者。ロペス環境天然資源相は環境問題活動家。共産党に近い民族民主主義派の閣僚の不承認が続き、内閣から去っている。共産党、新人民軍との和平が頓挫し関係が悪化していることや、政権発足時の公約を実行する気がないのが徐々に明らかになってきたことが、背景にある。

 政権発足当初、ドゥテルテ大統領は、新人民軍(NPA)、モロイスラム解放戦線(MILF)と和平交渉を開始し、民族民主主義派を一部の閣僚に迎えた。これまでの政権とは違った「対応」を見せたのであるが、一年を経て、この「対応」が反故にされそうな状況なのだ。マリアーノ農地改革相は農地改革法を強力に推進していくと表明し、2016年10月には、2022年までに約6,210平方キロの農地を同法の対象者に分配する方針を示した。この方針も頓挫しそうだ。

2)経済成長の継続と外交の転換

 ドゥテルテ政権は、経済政策ではアキノ前政権の新自由主義政策をそのまま継承すると表明し、フィリピンの資本家層を安心させた。さらに国家予算や海外からの支援による大規模なインフラ整備計画(「Build Build Build」)をスタートさせ、7%程度の高い経済成長を維持するとしている。フィリピン資本家層の要求に沿った政策をとっている。

 7%の経済成長が続き、中間層は確実に増大している。一人当たりのGDPも3000ドルを突破した。ただ、新自由主義経済政策では貧富の差は拡大するばかりだ。

 ドゥテルテは、契約労働制度(5か月間の短期雇用、非正社員)を廃止すると公約したが、フィリピンのすべての資本家が反対している。実際のところ、実現に向けてなんの施策も打っていない。

 他方外交では、米国との同盟関係は維持しながらも、中露への接近を図った。米国が主導した南シナ海問題でのハーグ仲裁裁判所の判決を棚上げし、比中二国間交渉での解決へと転換した。
 米国・日本と距離を置き、中国と付き合うドゥテルテ政権のこのような動きを、中国市場と密接に結びついた方向に未来を描くフィリピン経済界はとりあえず支持しているし、アセアン諸国も同調している。

3)フィリピン軍はアメリカの影響下にある

 一方で、ドゥテルテの外交の転換は、東アジアでの危機を煽る米国のアジア政策に破綻をもたらしかねない。米国の焦燥と怒りは頂点に達している。それゆえ、ミンダナオ・マラウィに突然テロリストが現れ、戦闘を引き起こした。フィリピンにテロリストが現れれば、米政府と米軍がフィリピン政治に介入する口実ができるからだ。

 フィリピン軍は、歴史的に人脈、教育、装備などすべての面において米軍の影響下にあったし、現在もある。国防省・軍は米国を向いており、ロレンザーナ国防相も親米路線を重視している。そのことが、ミンダナオのテロとその後の国軍の対応で、あらためて明らかになった。ドゥテルテ大統領は、戒厳令を発令しテロ・グループの制圧を命じたが、テロ・グループ出現の背後に、米政府・米軍の意図を感じ取ったフィリピン軍はちぐはぐな動きを見せた。そして、わずか数百人規模のテロ・グループを未だ制圧ができず、対峙が続いている。

4)麻薬戦争

 8月16日、無抵抗の高校生キアンさんが、3人の警官によって射殺された。葬列は、超法規的殺人に抗議するプラカードがたくさん掲げられた。その後も政権への抗議デモが続いている。

 麻薬撲滅戦争で多くの死者が出ているが、死刑制度がないフィリピンでは、死者はすべてが警察官か自警団、麻薬組織などによる殺人。警察は「取り締まりや逮捕を妨害し、抵抗した場合のみ射殺している」と弁明するが、信じる人はまずいない。多くは口封じのため。警察は麻薬取引を摘発しても、わいろを受け取って容疑者を釈放したり、押収した覚せい剤を横流ししたりしてきた。麻薬撲滅を掲げる政権下でそうした悪事の発覚を恐れて関係者を殺している、巻き添えで殺された者もいる。麻薬撲滅のカギは、麻薬取引と密接にかかわる警察の腐敗と、密輸を見逃す税関当局をいかに浄化するかにある。
 麻薬戦争は、黒幕である警察、税関関係者を徹底的に摘発しなければ終わらない。しかし、ドゥテルテ政権の麻薬戦争は、警察や政府・自治体の大物を対象にしていない。

 当初、「麻薬戦争は半年で終わらせる」と言っていたが、いつまでたっても終わりそうにない。いずれ破綻するだろう。

5)この先 

 それなのに、現在までのところ、ドゥテルテ政権への支持は高いままだ。麻薬に絡む暴力沙汰、麻薬汚染の深刻さを身近に見てきたフィリピン人の多くは、ドゥテルテの麻薬戦争のパフォーマンスに未だ喝采を送っている。あるいはドゥテルテが醸しだす反エスタブリシュメントの雰囲気が、いまだ人気を呼んでいるのかもしれない。

 いずれ、ドゥテルテへの幻想は色あせる時が来るだろう。麻薬戦争はいつまでたっても終わらない、貧富の差は大きくなる、民主主義的な公約は一向に実現されない。一年を経て、人々への公約は幻想に終わらせそうなドゥテルテだが、フィリピン資本家層に忠実な大統領であることは明らかになった。ただ、人々の側がドゥテルテへの幻想を暴き、批判を組織していく運動はなかなか困難なようだ。

 ドゥテルテの支持率が下がれば、支配層内で、政権内での利害対立が表面に現れてくる。アメリカから横やりが入ってくる。そのようななかでドゥテルテは、今までと変わらない大統領に変身していくというのが、最もありえそうな結末のようだ。(文責:林 信治)

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KPD声明(7月4日) [フィリピンの政治経済状況]

KPD 声明を載せるにあたって

 7月4日付けのKPD声明が送られてきた。ドゥテルテ政権1周年を迎え、フィリピンの緊迫化した、その複雑な政治情勢を読み解こうとしている。同意しがたいところもあるが、一つの見方として紹介する。また、「声明」に書かれている事実関係の紹介も必要かと考え、補足も含め書き記した。

1)ミンダナオにテロリストが突然現れた理由

 イスラム過激組織、マウテ・グループが、数百人規模でミンダナオ南ラナオ収州マラウィ市で大規模な戦闘を起こし占拠し、フィリピン国軍と対峙している。避難民は60万人を超えた。マウテ・グループが高性能の米国製武器で武装しており、国外からの大きな力が働いているのは明らかだ。
 ドゥテルテ政権は、米国との同盟関係は維持しながらも、中ロへの接近を図ってきた。米国が主導した南シナ海問題でのハーグ仲裁裁判所の判決を無視し、比中二国間交渉での解決へと転換した。ドゥテルテはすでに二度も訪中したのに、ワシントンへは背を向けたままだ。東アジアで危機を煽る米国・日本と距離を置き、中国とも付き合うこのような動きは、フィリピンだけでなくアセアン主要国であるマレーシア、インドネシア、タイも同調しており、米国のアジア政策は破綻しかねない。米国の焦燥と怒りは頂点に達しているはずだ。
 それが、マラウィに突然テロリストが現れ、戦闘が始まった理由だと指摘している。フィリピンにテロリストが現れれば、米国政府と米軍がフィリピン政治に介入する理由ができる。
 このような批判は、KPDの声明に限らず、アメリカ政府、CIA情報に支配された大半の欧米ジャーナリズムに属さないジャーナリスト、権力と結びついたフェイクニュース以外のジャーナリズムが指摘してきた。特にISを使ってシリアを破壊したアメリカ政府、湾岸諸国、イスラエルへの批判として、何度も指摘されてきた。

 中東では、米軍とCIAがイスラム武装グループを訓練し、サウジアラビアと湾岸諸国が資金を出して、アルカイーダやISなどのテロリストを送り、リビアやエジプトなどで政権を転覆させてきたし、イラクやシリアを破壊してきた。米政府と米軍が直接介入しないで、傭兵を使ったのだ。ISが力を持ったのは、油田を占拠し巨大な資金を手にしたことで、兵士を雇い入れ最新の武器を調達したからだ。ISは雇い主の言うことも一部、聞かなくなった。侵略先の石油資源を盗掘し、戦費は米国やサウジの負担でなく、「自前」で戦争を継続したところに独自性がある。

 ミンダナオにおけるマウテ・グループとアブサヤフの突然の出現は、このパターンにぴたりと符合する。アメリカは、今やISを非難しているが、そもそもISを育てたのはアメリカ政府だ。だから、フィリピンへは名札を変えた「マウテ・グループ」が出現したのだ。
 アメリカ、サウジ・湾岸諸国とアルカイーダ、IS、アブサヤフ、マウテの関係は、バブル時の日本の銀行、ゼネコンと地上げ屋の関係とよく似ている。バブル崩壊後、地上げ屋は、銀行やゼネコンの言うことを、一部聞かなくなった。

2)ドゥテルテの戒厳令、支配層内の対立が顕在化

 この緊迫した情勢のなか、ドゥテルテはミンダナオに戒厳令を宣言した。しかし、フィリピン国軍、国防省は米軍の影響が強く、支配力も働いており、ドゥテルテの戒厳令に反対する動きを見せた。これまでの通り米国支配下のままか、没落する帝国・米国とは距離を置き中国、ASEANと密接に付き合うかという、フィリピン支配層内部での対立が一部顕在化した。
 KPDの声明は、フィリピン国内では、人々の側、民主主義の立場から、米国の介入に反対するとともに、ドゥテルテの戒厳令にも反対しているとしている。複雑な情勢を反映したものになっているものの、テロを口実とした米国の政治介入の危険性よりも、ドゥテルテの戒厳令批判に重点を置くと断言している。テロリストを使った戦争と混乱への危険を押しとどめようとするプランは見られない。

3)ドゥテルテの独裁への批判

 KPD声明の一つの特徴は、ドゥテルテ政権の権威主義、「麻薬撲滅」を掲げた強引な強権的な政権運営に対して、激しく批判している点にある。ドゥテルテは、かつてのマルコス大統領への「憧れ」を抱いており、公然とマルコス埋葬を行わせた。そのことに対し、厳しく批判している。
 また、ドゥテルテ政権は、政権発足に際し、国内武装組織、フィリピン共産党-新人民軍(CPP-NPA)、モロ・イスラム解放戦線(MILF)と和平協定を結んだ。また内閣の一部に、民族民主戦線(NDF)影響下の人物を迎えている。そのことをもって、「CPP-NPAはドゥテルテと連合した」と声明は非難している。
 あるいは、この30年左翼の組織は弱体化している現状を嘆き、一から人々を組織しなければならないと呼びかけている。

 ドゥテルテ政権が、国内武装組織と和平協定を結んだことは、それ自体ですべて解決したわけではないし、ドゥテルテ政権を全面的に信頼すべきというのではないが、フィリピンの人々にとって政治運動の基盤を保障することであり、私たちとしては歓迎すべきことととらえている。NDF影響下の人物が政権に入ることは、そこに取り込みや連合があるとしても、今後の政治運動はそのような水準で行われるようになったという「政治環境」の転換を示しており、その条件下で人々の信頼を獲得し組織し、いかなる政治運動を繰り広げるかに尽きると思われる。その方針、準備、活動こそが必要になっており、その方針と計画こそが提示されるべきだ。声明は触れていない。
 あるいは、「人々を一から組織する」と主張しているものの、その具体的な計画、行動には、触れていない。そのような批判は、清算主義的という指摘をまぬかれえない。

 上記のように、「声明」をそのまま評価しかねる点もある。ただ、一つの見方として紹介する。今後きちんと議論し検討していきたい。(文責:玉)

*****

2017年7月4日 KPD声明


1)マラウイでテロリストの突然の出現の意味、 ドゥテルテの戒厳令、どう対処すべきか?

 5月の末から、アメリカ兵の姿がミンダナオ・マラウイ市に現れた。米軍のP3オリオン偵察機が攻囲されたマラウイ市上空を定期的に飛行した。ドゥテルテは言った。「アメリカからの支援は求めていない」。しかし、フィリピン国防省とフィリピン国軍は早々とアメリカの役割を正当化した。「アメリカ政府は軍事技術と諜報支援を提供するが、このことに対し、フィリピン政府からの要請は不要である、というのは米比防衛安全保障協定で定められているからだ」。

 AFP通信社のレポートによると、「少数のアメリカ兵は、不可欠な監視活動に従事しており、戦闘の役割はないが、『最初に攻撃されたなら、反撃する』と、フィリピン軍スポークスマン、レスティチュート・パディーリャ准将は語った」のだという。きわめて危険だ。米軍によって戦闘は勝手に拡大されてしまう!!

 AFP通信社はさらに、以下の通り、述べた。
 「昨年、ロドリゴ・ドゥテルテが大統領になり、中国と友好関係を結び、アメリカ合衆国との軍事同盟の比重を低下させようとした時から、フィリピンにおける米軍の存在はとても微妙な問題になった。」

 ロレンツアーナ国防長官によれば、現在、米国ではなく、オーストラリア政府が、マラウイ市のみならず、中心ミンダナオ、バシランとスールー海をもカバーする2機の偵察機を送っている。 フィリピン政府とオーストラリア政府間には、フィリピンの広域上において、戦闘支援、空中監視するオーストラリア軍隊を含まない豪比相互軍訪問協定が存在している、という。 
 面白いことに、ドゥテルテがマラウイ戦闘での米国の役割にしぶしぶ言及する間、フィリピン大統領府はオーストラリア政府の申し入れを素早く歓迎したのだ。

 フィリピン国軍が主張する「ISISの感化を受けた」とは異なる「イスラム国との関係」をマウテ・グループが持っていると、ドゥテルテが彼の宣言No.216で主張したあと、米国とオーストラリアは明らかに介入する機会をつかんだ。 同時に、アジア太平洋地域、特に南シナ海地域において、アメリカ政府とその主要な同盟国(オーストラリアと日本)が軍事的緊張を高めつつあるという他の複雑な問題も、生起させつつある。 

 グローバル・リサーチ誌に定期的に記事を書いているアナリスト、トニー・カルタリッチによると、「テロ戦闘員らは米国の同盟国、サウジアラビアやその他の湾岸諸国から資金援助を受けており、イスラム国自体が明らかにアメリカ政府とペルシャ湾諸国が作り上げたものだ」というのだ。そして、「アメリカ政府とフィリピン政府の結びつきが弱くなり、アメリカの存在を高いレベルにおいてフィリピンから最終的に取り去るという刺戟的な政治転換が行われているちょうどその時に、テロリストがフィリピンで突然に、かつ見事に出現したことは、最近の騒乱が便利な偶然の一致以上のことを示している」と書いている。

 「フィリピンにおけるISISの突然の出現が、ちょうど今の時期と重なったことを、ワシントン以外はけっして正当化しない。アメリカ政府とアメリカ軍は、フィリピンにとって不当で不必要な存在と影響なのであって、単なる偶然の一致以上だ ? アメリカ政府がフィリピン地域における主導権を確保し、継続した存在であるために人為的に危機をつくりだすのは、これまでとってきた常套手段の一つなのだ。」 (トニー・カルタルッチ、フィリピン:「ISがアメリカ外交を再び救う」グローバル・リサーチ、 2017年6月15日)

 ドゥテルテがフィリピンにおける米軍プレゼンスに抵抗したけれども、米比防衛力強化協力協定(EDCA)が米国とフィリピンの間に結ばれているという事実を、彼は受け入れた。
ドゥテルテが、「さよならアメリカ」、「ようこそ中国とロシア」と外交方針の転換を表明し、一見深刻な状況になったように見えたが、フィリピン国軍と国防省は、それほど深刻にとらえていない。 特に国家安全保障と外交関係について、ドゥテルテは多くの声明を発し行動をとったが、内閣または関係部門と協議さえしなかったと、ロレンツアーナ国防長官は、数度にわたり、不満を表明した。 最新の不満表明は、フィリピン国軍と国防省は、ミンダナオでの戒厳令宣言を勧告していないという暴露だ。ドゥテルテが勝手に戒厳令を出したのであり、フィリピン国軍と国防省には意見を聞かれなかったというのだ。 ドゥテルテの独裁に向かっての歩みは、フィリピン支配層内の危機を表面化させた。

2)絶対権力へのドゥテルテの衝動 支配層内の対立が顕在化

 絶対権力へのドゥテルテの衝動は、2016年5月に彼の宣言にも見られたが、2016年6月30日に大統領として就任後、正式に始まった。ポピュリストであり、反民主主義的なリーダーシップをまとった元ダバオ市長ドゥテルテは、贔屓政治で独裁的な、権威主義的な特徴、行動スタイルを宣言する。ドゥテルテ政治が、民主主義にほど遠いことを日々経験をするフィリピンの社会生活において、人々の間に贔屓政治がはびこる「文化」はとても全面的なのだ。救世主や保護者であるかのように所有者に寄せる信念と信任に基づくフィリピン社会に根づく文化は、人々をより受動的に、脅された状態する。

  この文脈において、ドゥテルテは選挙に勝ち、一年後においても人気を維持している。「変革者」として、「決断力のある統治者」、「素早い判決官」であるかのようなポーズをとることによって、10万人から何百万人もの麻薬常用者と売人の殺害を約束することによって。そして、これまで8,000人以上の麻薬常用容疑者と売人容疑者の殺害を引き起こしたドゥテルテの「麻薬との戦い」はすでに悪夢のような現実になった。
 これらすべての徴候によって、起訴と禁固から超法規的な権力の行使において、捏造された告訴で、「中傷者」と「敵」を孤立させて虐げ沈黙させるために、 ドゥテルテの「麻薬との闘い」、「テロリストとの闘い」、「腐敗との闘い」は、中心となる方針なのである。

 より巨大な権力を志向するこの血塗られた大統領の衝動と血の言葉は、人々に恐れと受動性を植え付け、人々を扇動し分断している。その上で、自治、適法手続きと法の支配の原則をさえ覆すまで、ドゥテルテは至った。確立した法や裁判のプロセス、議会運営手続きは、すでにたたきつぶしている。ドゥテルテのリーダーシップのおかげで両院議会では多数派を占めており、特に彼に対する盲目的な忠義を示す下院においては、ドゥテルテは司法当局をほとんど無視する大君として振る舞うに至っている。

 ちょうど2日前(7月2日)、あるいは最高裁判所が戒厳令宣言に対し嘆願書への判決を下すことになっている3日前に、ドゥテルテは「戒厳令の批判者を投獄する」と警告した。彼は言った。「最高裁判所の気まぐれにかかわってはいられない。私は、彼らを信じなければならないのか? 状況はまだ混沌としていると私が判断しているこの時に、お前たちは戒厳令の解除を申し入れるのか? 私はお前たちを逮捕して、刑務所に入れる」と、ドゥテルテは地元当局を前にして語った。(newsinfo.inquirer.net/910319/duterte-threatens-to-jail-martial-law-critics#ixzz4leuulprQ) 

 彼はフィリピン国軍からだけは話を聞くと、ほのめかした。フィリピン国軍が戒厳令を提案しなかったことは、周知のことだ。このことは、ドゥテルテがテロリストと戦う意思がないことを示している。 結局のところ、憲法は戒厳令宣言の条件にテロリズムを含んでいない。ドゥテルテは、実のところより多くの権力、つまり、絶対権力を持つに至っている。

 ドゥテルテと司法省および議会における彼の手下が、法律と憲法の解釈を回避し、チェック・アンド・バランスの原則を捻じ曲げたことで、フィリピン国軍が憲法と国際条約によって定義される規則を守るように見えるということだ。 フィリピン国軍のもう一つの示差的特徴は、アメリカ軍との直接的な関係である。 フィリピン国軍はアメリカ軍が作り上げてきたものであり、アメリカ軍によって武装し、訓練を受けた。 フィリピンとアジアにおいてアメリカの利益が危うくなっている時はいつでも、この特徴はフィリピン国軍の役割を測るうえで、きわめて重要だ。

 フィリピン国軍は、数回、最高司令官であるドゥテルテをはねつけた。 1月に行った演説でドゥテルテは、たとえ人質が「副次的被害」を受けることになっても、フィリピン海軍と沿岸警備隊にアブサヤフを爆撃するよう命令した、と語った。しかし、フィリピン国軍スポークスマン、ジェン・パディラ准将はメディアの取材に、「明白な命令はない。しかし、命令があれば、軍隊は、その作戦のすべてにおいて被害がより少なくなるように追求し続ける」と語った。 
 二、三ヵ月前に管轄下のミンダナオにおいて、ドゥテルテが戒厳令を宣言したが、フィリピン軍は根拠がないとして戒厳令を拒絶した。 戒厳令宣言後、2、3時間経っても、フィリピン軍広報課エドワード・アレヴァロ大佐は、「マラウイ市の状況は順調である」という声明を読みあげた。
5月24日に、フィリピン国軍西ミンダナオ司令部は、「我々は、まだ宣言No.216の写しを受け取っておらず、その実施に関して命令とガイドラインを待っているところだ」という声明を出した。 声明は、「我々は、人権と国際的人道法を尊重し、法律に基づき、命令を実行する」と繰り返し述べた。

3)政府外のフィリピン支配層の動き

 民間軍隊の外で、国の機構は、カトリック教会、大企業、大メディア・ネットワークなどのそれ自身が強力な影響力を持つ組織である。
 彼らの社会的地位によって、彼らは政府だけでなく市民にも影響することができた。フィリピン・カソリック司教会議(CBCP)は、現在に至るまでドゥテルテ政権に批判的ながら協力する立場を維持している。特に人権侵害を無視し死刑制度を復活するドゥテルテに対し、批判的だ。ただ死刑制度復活は、すでの議会下院を通過した。 ミンダナオの戒厳令に関して、ミンダナオ地域のすべてのカトリック司教は、戒厳令への支持を表したと同時に、「一時的で」なければならないと強調した。
 私企業、特に大手の多国籍企業は、市民または政府の利益に従っていない。 多国籍企業は自身の個別の利益にしたがって行動する。 ビジネスが繁盛し利益が保証される最も良い条件がある限り、彼らは、どんなレベルででも、政府を「支える」。 大小さまざまの、ローカル資本であろうが外国資本だろうが、すべての私企業は、ドゥテルテ政権が契約労働制度を不法化しなかったことに満足している。 実際に、契約労働制度はさらに合法化した。 この前の1月19日に、事務局長サルバドル・メディアルデア(Salvador Medialdea)の事務所を通じて手紙で、ビジネス部門、特に海外の商工会議所は、12の改革を求める彼らの要求を提出した。 改革は、彼らの重要性によって、以下の通り:
・外国の資産規制を緩和する憲法改正;
・広範囲の税制改革一括法案;
・見習いプログラム改革;
・建設・運転・引渡し法改正;
・情報の自由;
・企業コードの改正;
・一般のサービス法改正;
・データ通信セクターの改革;
・水セクター改革;
・秘密法改正を保存;
・交通と輸送危機に対処する非常大権;
そして、・小売業法改正。
(ロイ・スティーブン・C・カニヴェル、「財界の指導者たちは政権のインフラ推進に楽観的」、フィリピン・デイリー・インクワイアラー紙、2017年7月4日)

 ちょうど外国資本を含む大企業がこれらの要求で団結するとき、競争はビジネス活動を定める基本法だ。 政府とのうまみのある契約や取引を得る方法を、買ったり支払ったりすることができる者が、必ずしも政府を支えるわけではない。 政治に関しては、大企業は、対立する政治的動向があれば両方に賭けるし、特に外国人投資家と債権者の利益において、経済全体を掌握するために、政府の安定性を重要視し、全体的な政治情勢を見越して投機する。

 今はまだドゥテルテが見返りを受けている期間だ。 大統領選挙での個人のドゥテルテ支持者、企業のドゥテルテへの賭けに対し、彼はまだ「好意」を返している状態だ。 うまみのある契約または譲歩以外のこととは、取締役会のメンバーのために内閣の職を用意することである。かつてフィリピン航空の最高経営責任者(CEO)であり、ユナイテッド・パラゴン鉱山社の取締役であったカルロス・ドミゲス(Carlos Dominguez)金融長官のように。

 それでも、企業は常に政府プログラムと政府プロジェクト、特に大きい予算プロジェクトについて慎重だ。 内閣の8兆ペソに上る「インフラ建設のための黄金時代」、または「建設、建設、建設」計画が、特に「複合型半官半民協力」に戻った今、資金を欠いているということを、誰でも知っている。 この複合型計画の下で、政府は資金を供給してインフラ建設をし、その上で後に入札が行われ、外部の民間会社が稼働させ経営することになる。

 政府の基金は、税収、二国間融資やODA 基金から供給される。 ファースト・パシフィック社、フィリピン長距離電信電話会社(PLDT)、メトロ・パシフィック社のマニー・パンギリナン(Manny Pangilinan)とメガワイド建設のオリバー・タン(Oliver Tan)によれば、税以外のより多く、すなわち「複合型PPPは、結局納税者によって払われなければならず、政府債務を増やすことになる」という。 タンは、「ODA資金によるインフラ整備は時間がかかり、プロジェクトが遅れればコストは上がる。ところが、民間部門主導であればより速い」と付け加えた。 経済界の懸念にもかかわらず、ドゥテルテ政権は、スローガン「建設、建設、建設」のスローガンを繰り返し、「ドゥテルテノミクス(ドゥテルテ経済)」を喧伝し続ける。」(アイリス・ゴンザレス、「複合型PPP計画を懸念する」、フィリピン・スター紙、2017年5月24日)。
 
 政府の優先順位は、現在のところ鉄道施設計画であり、最初の部分はCTRPである。 これが中国と日本からの「約束済の」ODA資金提供の主要な条件でもあるようだ。
 すべての民間資本のメディア機関は、商業的な企業として存在している。このことは、メディアの論調がなぜビジネス界寄りになるのかという理由を説明する。 ドゥテルテについてのメディア人の問題は、メディア人と彼らが働くネットワークとの喧嘩へと向かうドゥテルテの強い傾向にある。 ドゥテルテの権威主義的な性格と精密な考え方は、知的な質問を理解することや、特に批判したりコメントをすることを、難しくする。

 彼に批判的であるメディアはすべて閉鎖させるというドゥテルテの一貫した脅迫、例えばABS-CBNとフィリピン・デイリー・インクワイアラー紙は、ドゥテルテに批判的なメディア人を作ると批判されている。 メディア・ネットワークは麻薬との戦い、LNMBのマルコスの埋葬、マラウイの戦争、戒厳令、とりわけ、ドゥテルテの反米国の表明についてモニターしていて、しかも批判的なのだ。

4) 反動的な政治反対勢力はどう振る舞ったか?

 このような事態が進んだにもかかわらず、政治的な反対勢力は受動的だった。 アキノ政権時代に自由党に加わった人は、PDP-ラバンへ移ったか、ドゥテルテ政権に忠誠を誓った。その後、10人のうち1人は殺されている。 フィリピンの反動的な政治に特有なこの「裏切り主義」は、数少ない忠実な自由党メンバーがドゥテルテ体制を批判する行動を開始するのをより難しくする。

 現在のところ、自由党(LP)は、ミンダナオでの戒厳令宣言とLNMBでのマルコス埋葬に批判的な声明を出しただけだ。
 アキノ前大統領を含む自由党メンバーは、この2月、エドサ(EDSA)革命記念祝典の間、LNMBにマルコスを葬るというドゥテルテの決定に抗議するために、市民社会組織によって組織された大衆行動に加わった。 アキノは、ドゥテルテ政権1周年後に、ドゥテルテ政権についてコメントすると約束した。

 他方、ドゥテルテ政権は過去の内閣に対する告訴を準備しているだけではない、でっち上げられた薬物乱用の容疑で、ライラ・デ・リマ(Laila de Lima)前司法省長官、現上院議員を投獄した。 
 支配的システムそのものの矛盾、支配階級の政治的代表者の間の固有の対立は、ちょうどヒートアップしているところだ。

5)テロリズムと闘おう!戒厳令に反対しよう!
自主的自発的な人々の組織をつくろう!

 対国家、対非国家にかかわらずテロリズムに対する戦い、そして、本物の民主主義と社会的な変革のために闘わなければならない。テロリズムと闘おう! 特に国家のテロリズムに対して闘おう! 戒厳令に反対しよう!

 2016年11月18日~26日からのLNMBにおけるマルコス埋葬に反対する人々の自然発生的な行動は、先行する準備なしには、あるいは説明する期間や立場の一致がなければ、起こりえなかった。 LNMBにマルコスの死体の埋葬準備をするようにフィリピン国軍に命じた2016年7月の大統領府のメモのあと、建設を始める政治的合意がまとまったことが、メディアにより暴露された。
 LNMBへのマルコス埋葬嘆願書が8月上旬前に最高裁判所に提出されたあと、政治的合意がさらにまとまり、より多くの建設活動があとに続いた。 これらは最初の抗議行動を含んだ ― ある人が8月12日にマニラ・リサール公園(Luneta)開催した、そこに写真展示、マルコス独裁時代の闘いや人々の暮らしを表現した寸劇などを含んだフォーラムが一緒になった。

 マルコスが戒厳令を出した44年周年記念日の9月21日、活動はピークに達したし、その後もおさまらなかった。このような活動は、必要だった。LNMBへのマルコス埋葬反対し抗議していく人々の間に、まるで電気を流すかのように印象づけ行動を統一していくことになった。
 11月16日、最高裁はLNMBへのマルコス埋葬を9票の多数で決定した、専門用語上は単に内密の葬式とされながら、正式な軍隊と国家の栄誉に基づいた葬儀が催され、人々から多くの怒りを呼び起こした。 その時までは、「専制政治と闘え!」と、「マルコス-独裁者であり、英雄でない」とは直結していた。 全ミンダナオへの戒厳令宣言は、フィリピン国軍、PNP(フィリピン議会)、内閣の安全保障担当集団、そしてメディアを含むすべての人を驚かせた。 しかし、宣言216が対処している問題がマラウイ市でのテロリストによる攻撃であるので、戒厳令宣言に対する人々の反応は、ドゥテルテ支持と反戒厳令で分かれている。この対立は、ドゥテルテ支持と反ドゥテルテで分かれている。 

 戒厳令支持と反戒厳令の立場は、民主主義、法的憲法的なかつ実際的な問いかけによっても、分かたれる。
 革新的な人々、特に左翼は、統一的な行動に人々を導き、最も批判的な戦線を期待することになる。 しかし、人々の多数は、深刻に分裂対立した「左」からの、混乱した徴候とメッセージによって邪魔される。 現在30年以上もの間、「左翼」は異なる方向に歩んでいる。

 ドゥテルテの反人民的で反民主主義的な行動にもかかわらず、イニシアティブが常に政府の側にあった国内武装組織との「和平会談の開始や中断」で、フィリピン共産党―新人民軍ー民族民主戦線(以下:CPP-NPA-NDF)によって導かれる「左翼の主流」は、泥沼に陥っている。 CPP-NPA-NDFに影響された選挙上の「パーティ・リスト」が、ドゥテルテ内閣支持、ドゥテルテ連立に加わって以来ずっと、議会は闘いのための舞台であるのをやめた。

 フェルディナンド・マルコスが45年前戒厳令を宣言した時と比べ、現在の「左」の状況はまったく異なる。 マルコス時代には、「左翼」党と大衆組織は、一つの力に堅固に連合した。左翼側は、マルコス・ファシスト体制に抵抗することでイニシアティブをとることができたろうし、民主的で進歩的な集団に数千人もの人々が入って来ることもできたろうし、反マルコス復古派とのさえ同盟を築くこともできたろうが、それにもかかわらず今は小さな勢力にとどまっているままだ。

 現在は、非同盟の、あるいは独立した人々の間で団結を高めている進歩的で民主的な社会の要素を統一し、幅広い多数の人々との緊密な関係を樹立しいく、真の左翼に変わっていく時だ。

 政治的な自分たちによるイニシアティブを立ち上げよう!
 多数の人々の間で、組織化し動員し、宣伝し文化的活動を行い、行動し続けよう!

 2017年7月4日 
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「安倍からのミサイル供与申し出は断った」?? [フィリピンの政治経済状況]

?「安倍からのミサイル供与申し出は断った」??

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<共同記者発表を終え、握手するフィリピンのドゥテルテ大統領(右)と安倍晋三首相=12日午後4時57分、マニラのマラカニアン宮殿>
 
 安倍晋三首相は12日、フィリピンの首都マニラを訪問し、ドゥテルテ大統領と会談した。フィリピンと中国が領有権を主張する南シナ海問題で、日比政府が連携を強化していくことを安倍は主張し、今後5年間で、1兆円規模の支援を行うことも表明した。

 安倍政権は、アメリカの対中国政策に従い、日米の側にフィリピンを取り込み、南シナ海の問題で中国に対峙させようと腐心している。そのために日本外交の伝統的手法、あるいは「得意技」である経済援助を提示し、わざわざ南シナ海を巡視する巡視船も提供した。
 果たして、安倍はドゥテルテを取り込んだか?

 これには後日談がある。
 「第3次世界大戦をみたくないから、安倍晋三首相からのミサイル供与の申し出を断った――」 
 ドゥテルテ大統領がこんな「発言」をしたと、現地の日刊英字紙フィリピン・スターが15日に報じ、波紋が広がったのだ。
 報道のもとになったのは、ドゥテルテが15日、ダバオ市商工会議所の総会で行ったスピーチ。英語とタガログ語で、首脳会談をしたばかりの安倍首相の名前を挙げ、「安倍には、軍事同盟は必要ではないと言ったんだ。私は外国の軍人がいない国を目指したい。・・・・・・安倍にも言ったんだ、ミサイルは必要としていないと」。 

 もちろん、日本政府はミサイルなど供与しない。明らかな間違いである。あるいはドゥテルテはわざと「ミサイル」と「言い間違えた」のかもしれない。いずれにせよ、「安倍の狙いは承知しているよ!」というメッセージのようだ。

 ドゥテルテが言いたかったことは、「支援はありがたくいただくが、日米の側に立って中国と対立し、戦争になるのは嫌だ」ということである。



アメリカから離脱するフィリピン [フィリピンの政治経済状況]

アメリカから離脱するフィリピン

1)中比の緊張、和らぐ

 10月のドゥテルテ習近平首脳会談で南シナ海問題を、二国間交渉で平和的に解決することで合意し、状況は見事に改善した。フィリピンと中国が領有権を争う南シナ海スカロボー礁(中国名:黄岩島)での両国の緊張が緩和しつつある。フィリピン漁民が操業を再開したが、中国の妨害は起きていない。

 中国外務省の華春宝・副報道局長は10月31日の記者会見で、「中比関係は全面的に改善している。このような情勢下でドゥテルテ大統領が関心を持つ問題について、中国側は中比友好に基づいて適切に処理している」と述べた。

2)どうやって、改善したか?

 ドゥテルテはどうやって中比関係を改善したか?
 ハーグ仲裁裁判所の裁定に固執せず、中国とフィリピンとの二国間交渉で(アメリカや日本の域外国を排除して)解決する姿勢で臨み、南沙諸島スカボロー礁の領有権問題を棚上げにし、他方で中比経済関係拡大を合意したからだ。
 これはまったく正しいやり方だ。南シナ海の領有権問題については、中国は常に紛争は棚上げして、共同開発を進めるという原則を提唱してきたが、ドゥテルテはこれに応じたのである。
 同時に、ドゥテルテは交渉にあたり、米比軍事同盟や米比関係の重視しない姿勢を示した。ドゥテルテが実際に、米比軍訪問協定(以下:VFA)や米比相互防衛協定(以下:EDCA)を凍結、廃棄するか、あるいはできるかは不明だが、米国との軍事同盟、米国の影響力が、南シナ海領有権問題の真の対立要因であることは間違いない。彼はそのことをよく理解している。
 VFAやEDCAの廃棄、米国の影響力の低減が実現すれば、東アジアの軍事的緊張を緩和し、さらにASEANと中国が南シナ海の非軍事化と非核化を達成するための交渉に進むことができるだろう。

3)和解を優先

 国際海洋法機関は、当事者同士の和解を最優先し、和解結果の内容が海洋法にそぐわないものであってもそれを支持することになっている。中比が交渉で合意するならば、その合意はハーグ仲裁裁判所の裁定よりも尊重されるのである。中比が合意すれば、「中国は裁定を受け入れ、埋め立てた環礁を元に戻し、南シナ海から撤退しろ」と求める日米などの主張も根拠を失う。
 そもそもハーグ仲裁裁判所の裁定は、スカボロー礁は「岩」だとし中比双方の領有を認めなかった。裁定の影の勝利者は米国であり、この地域を勝手に航行する「根拠」を強引につくった。米国政府は「航行の自由作戦」と称し、早速米海軍を航行させ、二国間問題へ強引に割り込んだ。安倍政権はこの米国戦略のお先棒を担ぎ、中国を非難し対立を煽ったのである。

4)尖閣領有権問題との対比

 改善した中比関係と、悪化したままの現在の日中関係と対比してみれば、ドゥテルテの判断と行動が、いかに画期的であるかが判明する。
 1972年、当時の田中角栄首相と周恩来首相は、尖閣諸島領有権問題を棚上げし、日中共同声明を成立させた。1978年には鄧小平と園田直外相は日中平和友好条約を締結したが、この時も尖閣問題の棚上げを再確認した。

 しかし、日本政府・外務省は2000年代になって、「尖閣諸島の領有権問題を棚上げした事実はない、尖閣は日本固有の領土である」と交渉経緯を一方的に改竄し、尖閣諸島の領有を一方的に宣言し、日中関係を悪化させた。政府外務省と日本支配層が、米国好戦派の意向に従い、中国包囲策へ計画的意図的に転換したのが事実だろう。
 日本では、東アジア共同体構想を掲げ、米中二国との友好関係を築こうとした、鳩山・小沢の政治路線はつぶされているのだ。

5)アメリカから離脱するフィリピン

 ドゥテルテは、フィリピンがアメリカの影響下からの離脱する方向に一歩踏み出した。そのことは、これまでの世界からの構造的転換でもある。
 北京での交渉の数日前、ドゥテルテは、フィリピン・マスコミに 南シナ海を巡る中国との紛争に関し、「戦争は選択肢にない、その逆は何だろう? 平和的な交渉だ」と語った。その上で、「金を持っているのは、アメリカではなく中国だ」と言い放った。下品な表現だが、ドゥテルテ特有の現実感覚を見せている。

 中国との交渉で、ドゥテルテとフィリピン企業との政府代表団は、135億ドルもの額の様々な契約に調印した。習主席は中国とフィリピンに触れ、両国のことを「敵意や対決の理由がない海を隔てた隣国」と呼んだ。

 他方で、ドゥテルテは、前任者アキノのように、ワシントンの傀儡になるつもりはないと何度も発言した。米国の影響下から離れることは、平和的な交渉を行い中国やロシアと付き合うことと一体なのだ。

 ホワイト・ハウスと欧米マスコミは、あけすけなフィリピン新大統領の発言を、「利害にさとい取引のための態度」として描こうとしたが、けっしてそれだけではなかった。ドゥテルテの交渉とその後の進展は、フィリピンがアメリカから離脱するプロセスの一環であり、より深い意味を持っていることを示唆している。

 ドゥテルテは、わずかな外遊と交渉で、フィリピンの大きな転換を成し遂げた。しかも、ドゥテルテの登場は、アメリカは世界の警察官であり続けることはできないと表明したトランプ新政権となり、国内重視の政策に転換する時期と重なったのである。ドゥテルテにとって幸運だったようだ。以前なら、クーデターでつぶされていただろう。

 ドゥテルテ大統領はアジア歴訪を行い、まず中国、そして日本を訪問した。間もなくロシアのプーチンとも会談する。中国を軍事的に包囲することを狙ったペンタゴンのアジア基軸に、彼は巨大な穴を開け始めたように見える。(11月16日記)

宵越しの金を持つようになったフィリピン [フィリピンの政治経済状況]

宵越しの金を持つようになったフィリピン社会?

フィリピンで貯蓄率急増

 フィリピン経済は、7%の成長を続けており、消費が引き続き好調である。それとともに、貯蓄や投資が急速に増えている。貯蓄や投資を拡大しているのは、経済成長で増えてきた都市の中間層。投資や貯蓄という新たなマネーの動きの主役となっているという。

 フィリピン株式市場へ投資する個人顧客が増え、野村證券とフィリピン最大手銀行BDOユニバンクとの合弁証券会社など多くの証券会社がビジネスを始めた。オンライン証券口座は急速に増えており、多くは18歳~44歳の比較的若い層だそうである。18歳~44歳の年齢層は、比較的収入が安定しており、金融機関も主要顧客として狙いを定めているらしい。
 これに加え海外で働く労働者からの送金も増えており、貯蓄率の向上につながっている。

 ただし、海外で働く労働者数は、1000万人を超えてから、その増加ペースは明らかに落ちてきた。頭打ちだ。国内での中間層が増えれば、わざわざ海外で働く必要も小さくなっていく。

 そのことは、これまで手元にある金はすぐに使いきってしまうのがフィリピン人と社会の一つの傾向であったが、「宵越しの金」を持つようになった中間層が生まれつつあるらしいのだ。

 もっとも、フィリピン社会の貧困層は3割、すなわち約3,000万人に及び、この人たちには縁のない話。

ドゥテルテ政権、アメリカとぎくしゃく? [フィリピンの政治経済状況]

ドゥテルテ政権、アメリカとぎくしゃく?
ーアメリカの影響力低下ー

1) ダバオのテロ事件

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<ドゥテルテ大統領>

 フィリピン第三の都市ダバオ中心部で9月2日夜、爆弾が爆発し14人が死亡、67人が負傷する事件が起きた。3日、アブ・サヤフが犯行声明を出した.。ドゥテルテ大統領はフィリピン全土に「無法状態宣言」を出して、犯人の逮捕、同種事件の再発防止、アブ・サヤフの壊滅に徹底的に乗り出す方針を表明した。

 6月30日の大統領就任演説で示した「過去は過去として忘れよう」というドゥテルテの新方針に基づき、7月25日には「我々は平和を求めている」と施政方針演説をおこない、反政府各組織に停戦を呼びかけ和平交渉の開始を求めた。

 この背景には、経済発展するフィリピンにとって、マニラ周辺だけではすでに限界であり、ミンダナオを含めた地方の発展が必要であるとという、ドゥテルテの判断がある。そのためには国内治安問題やテロ問題を「過去を水に流してとにかく和平にこぎつけ」る方針なのである。それは国民の多くが望むとともに、フィリピンの資本家層の要求でもある。他方で、ドゥテルテ政治の「最大の課題」である「麻薬問題解決」をテーマに、劇場型政治ショウを行い、支持率を高めるために全力投球したいとの考えがあった。

 紆余曲折があったものの新人民軍は和平交渉に応じる姿勢を示し、ノルウェーのオスロで5年ぶりに再開した交渉の末、8月26日には「無期限停戦を盛り込んだ共同声明」の発表にまで漕ぎつけた。

 これに対しアブサヤフは一向に停戦の呼びかけに応じる気配をみせず、8月26日にはミンダナオ地方のスルー州パティクルで国軍と大規模な交戦が勃発、アブ・サヤフの戦闘員19人が殺害される事態となった。アブ・サヤフは依然として外国人を含む10人以上の人質を拉致しており、前任のベニグノ・アキノ政権下では米軍と共同で掃討作戦を実施したこともある。

2)テロ事件の意味

 誤解してはならないのは、アブ・サヤフは、イスラム、およびイスラム教とは何の関係もない。アブ・サヤフ自身は、ISと関係があると自称しているが、実際にはアルカイーダやIS同様、アメリカの好戦派やCIAに育成され、雇われたテログループであり、今回のテロ事件もアメリカ政府内の好戦派の指示によるものだろうと推測される。ドゥテルテもアメリカの「意図」に気づいているだろう。これまで何度も、テロ事件を起こしてはアメリカ軍が介入してきた。彼はそのやり口をずっとダバオにいて見てきたのである。

 ドゥテルテ新政権が発足してすぐに、しかもドゥテルテがダバオに滞在しているその時を狙ってテロ事件を起こせば、新政権は何らかの対応をしなければならない。しかし、テログループを逮捕し壊滅させるのは容易ではない。したがって、テロ事件は掃討作戦実施を名目に、米軍がミンダナオに進駐する政治的理由をつくったのであり、新政権にアメリカ政府から共同掃討作戦の打診があったはずなのだ。ドゥテルテをアメリカ政府の影響下に引き込むための見え見えの策である。

 しかし、アメリカ政府の「もくろみ」は、なかなか思い通りには進んでいない。ドゥテルテに対し、影響力を行使できていない。

3)ドゥテルテによるオバマ侮蔑発言

 ドゥテルテ政権は、麻薬の密売人は即、殺しても構わないとする強引な麻薬撲滅作戦を実行して
おり、大統領就任から6月30日までに、警察によって殺害された麻薬の密売人は2,000名を超える。法律によって裁かない超法規的殺人であり、明白な人権侵害である。すでに国連やアムネスティなどから批判を受けていた。ドゥテルテ政権の無法な殺人は許されることではない。

 この件で、東アジア首脳会議(EAS)首脳会談において、オバマ大統領から批判されると察知したドゥテルテ大統領が、事前の記者会見での記者の質問に、オバマ大統領をさして「くそったれ(son of a bitch)の意見は聞かない」と発言したという。そのことで、今回の米比会談がキャンセルとなった。もちろん翌日には、フィリピン政府はオバマ大統領個人を侮蔑したのであれば後悔すると声明し、米比会談は後日開かれることになった。

 麻薬撲滅をテーマとしたドゥテルテ政権の「劇場型政治」は、今のところ国民から高く支持されており、この高支持率がドゥテルテの政治的基盤であるので、自身の政治スタイルへの批判に、我慢がならなかったのだろう。

4)ドゥテルテの発言内容

 いくつかの報道をみたが、ほとんどは「オバマ大統領へ侮蔑発言を行った」と書くだけで、発言内容を伝るものは少なかった。マスメディアのこのような姿勢は、情報操作にほかならない。探した限りでは読売新聞9月7日、ハンチングトン・ポストが発言内容の一部を伝えていた。

<ドゥテルテ大統領の発言要旨>(9月5日、ダバオでの記者会見で)

 「フィリピンは属国ではない。私はフィリピン国民だけに答えるが、彼(オバマ大統領)は、何様だ。我々が植民地だったのは遠い昔だ。私の主人はフィリピン国民だけだ。敬意がしめされなければならない。質問や声明を投げかけるだけではいけない。米国はフィリピンで多くの悪事を働いてきたが、今まで謝罪したことがない。米国は我が国を侵略し、我々を支配下に置いた。裁判なしに人を殺してきたひどい記録が皆にあるのに、なぜ犯罪と戦うことを問題視するのか。」(読売新聞、9月7日
 「私は独立国家フィリピンの大統領だ。植民地としての歴史はとっくに終わっている。フィリピン国民以外の誰からも支配を受けない。一人の例外もなくだ。私に対して敬意を払うべきだ。簡単に質問を投げかけるな。このプータン・イナ・モ(くそったれ)が。もし奴が話を持ち出したら会議でののしってやる」(The Huffington Post、9月6日)

 発言内容を見れば、「プータン・イナ・モ(くそったれ)」以外は、それほど問題ではない。むしろ、独立国家フィリピン大統領を、支配しようとするな!植民地のように扱うな!と言っており、長年にわたるアメリカによるフィリピン社会の支配に対する反発、怒りが直截に表現されている。

4)ドゥテルテ政権の外交方針、ぎくしゃくする米比関係

 前のアキノ政権は親米でアメリカ政府の言いなりだったが、ドゥテルテ大統領は米国一辺倒だった政治外交経済関係を改め、中国と関係改善し、さらなる経済発展のため中国資本の投資を呼び込みたいと、当選前に公言していた。これまでの外交方針をあらため、中国とアメリカを天秤にかけると表明したに他ならない。そして現在までのところ、確かに天秤にかけている。 

 アメリカ・オバマ政権からするならば、アキノ政権を使って南シナ海問題で国際仲裁裁判所に訴えさせ、中国へ圧力をかけるキャンペーンを行ってきたわけで、侮蔑発言をしたからと言ってドゥテルテ政権と関係を断てば、米比間の協力関係に悪影響が及びそうだし、それ以上にフィリピン政府を中国側に追いやってしまいかねない。

 ドゥテルテ大統領が、「アメリカからの投資はあまり見込めない。これからは中国だ」と公言したり、麻薬撲滅作戦での超法規的殺人へのオバマ大統領による批判に噛みつく、こういう事態が起きている。

 このようなことは、これまでなかったし、想像さえできなかった。明らかにアメリカの影響力、支配力が弱まっている。「アメリカ人はけっして好かれてはいなかった、力を持っているし金を持ってくるから、ニコニコ歓迎していたが、そうでなくなれば用はない」というわけだ。

 ドゥテルテ大統領の「反米感情」が、どこに政治的基盤を持つのか不明なところがあるし、それゆえどれほど確固としたものか、測りかねるところもある。支持できないところもある。ただ、そこに東アジアの政治経済秩序の新しい変化が現れているのも確かなようだ。(9月8日記、文責:林 信治)

ハーグ仲裁裁判所は、仲裁ではなく対立を煽った [フィリピンの政治経済状況]

ハーグ仲裁裁判所は、仲裁ではなく対立を煽った

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<ドゥテルテ大統領>

1)審理されるべきではなかった訴訟、法的拘束力はない裁定

 ハーグ仲裁裁判所は、7月12日、中国沿岸とフィリピンの間の“九段線”の内側にある様々な島々や岩に対する、中国の主張に不利な裁定をした。これに乗じてアメリカ政府は、中国に対する“国際法の尊重”要求をもっともらしく主張した。同時にペンタゴンは、挑発的にも、ドイツ連邦共和国海軍を巻き込み、中国を排除して、国際的海軍演習“リムパック2016”をこの地域で開始した。事態は益々険悪になりつつある。
 
 ハーグ仲裁裁判所とその裁定について、虚偽の宣伝が広がっている。
 ハーグ仲裁裁判所は、紛争中の両当事者と協力して、仲裁者の選任を促進するための、国際海洋法裁判所(ITLOS)所長配下にある官僚機構にすぎない。海洋法の仲裁機関は、当事国どうしが話し合いで紛争を解決する際の仲裁のために設置された機関であって、国内裁判所とかなり異なる。法的拘束力を持たない仲裁委員会が裁定を出す過程全体がそもそも違法だ。

 中国は、仲裁過程への参加も、仲裁委員会の管轄権を認めることも拒否し続けている。
 仲裁には、対立する主張の解決を求める両当事者(中国政府とフィリピン政府)が、お互いの対立する主張を解決すべく、中立的な仲裁人に救いをもとめることに同意する必要があるが、この手続きを欠いている。

 今回の場合、一方の当事国の中国が仲裁に同意しておらず、外交的な二国間交渉の継続を望んだにもかかわらず、アキノ前大統領政権がオバマ政権の指示のもと、一方的にハーグでの仲裁を進め、7月12日、仲裁廷の特別に選ばれた5人の裁判官が、中国とフィリピン間で対立している、南シナ海の、大半が無人の島々の一部に関して裁定を出してしまったのである。

 したがって、そもそも審理されるべきではなかった訴訟であり、裁定は無効であり、法的拘束力もない。そのようなことをすべて知ったうえで、中国非難の国際的宣伝を組織し対立をつくりだすために、フィリピン政府に訴えさせ、生まれた裁定である。

2)アメリカのアジア戦略

 東アジアは世界で最も成長を続けている地域だ。それゆえ南シナ海は経済的にも軍事的にも重要である。ここは、世界の日々の海運の約半分、世界の石油海運の三分の一、液化天然ガス海運の三分の二の通路であり、世界の漁獲高の10%以上を占めている。

 アジアへのリバランス戦略を掲げるアメリカは、世界の成長地域である東アジアを不安定な状態に陥れることで、この地域に対する影響力と支配権を確保しようとしている。日韓フィリピンとの軍事同盟を強化し、中国との対立構図を作り上げ、何らかの軍事行動、経済制裁実施が可能な状態を、計画的かつ戦略的につくりあげつつある。
 
 2013年まで中国とフィリピンは、島の紛争について外交的対話をしていた。2013年にアキノ政権が、対話をやめ一方的にハーグ仲裁裁判所に正式仲裁を請求し、以来、アメリカ軍による中国を意識した行動が行われるようになった。
 
 中国の重要だが脆弱な海上補給線、中国の経済的アキレス腱こそが、まさにアメリカ政府とNATOが、標的にしているものだ。それゆえ、アキノ政権に、ハーグ仲裁手順を一方的に開始するようにさせたのである。

 アメリカ政府は中国に対して「海洋法条約を守れ!裁定に従え!」と要求するが、アメリカ自身は海洋法条約に入っていない。批准どころか署名もしていない。その理由は、もしアメリカ政府が海洋法条約に入るなら、中国と同じような裁定をアメリカが食らい、従わねばならなくなるからだ。アメリカ空母の行動海域には、誰の許しも無用である、勝手にホルムズ海峡を通過し、世界のあらゆる海を自由に航行する。

 世界の覇権国であるアメリカは、アメリカ国益に反する裁定をつきつけられて権威を落とすぐらいなら、最初から加盟しない方が良いと考え、海洋法条約に署名していない。アメリカ政府は国際法を守るつもりなどない。イラク侵攻という重大な国際犯罪を犯したが、裁かれもせず、反省もしていない。

3)フィリピン政府には、アメリカの後ろ盾

 フィリピン政府の行為にはアメリカ政府の後ろ盾がある。
  
 1992年にフィリピン上院が撤退させたアメリカ軍を、アキノ政権は6年間の大統領在位中に、スービック海軍基地とクラーク空軍基地に再び招き入れた。2014年4月には、アメリカ政府との間に新たな防衛強化協力協定を調印した。

 アメリカ軍のフィリピン基地への帰還は、中国の世界的な影響力を封じ込めるためのオバマの“アジアへのリバランス戦略の一環であり、南沙諸島、スプラトリー諸島紛争に関するハーグ仲裁を開始するアキノ政権の決定は、オバマ政権により全面的に支援された。
 
 尖閣諸島に対する安倍政権の主張を支持し緊張を高めたのと同様に、アメリカ政府は、南シナ海の紛争中の領土問題を意図的に軍事問題化しようとしている。

 南シナ海での出来事は、アメリカ政府に安倍の日本も加わって、極めて入念に計画された事件であり、海洋法に関する国際連合条約の下で演じられているこの喜劇の当事者、主要関係者が一体誰なのかを知ることが重要だ。

4)日本政府の汚い役割

 今回の裁定では、仲裁委員会の5人の相互指名という、UNCLOS条約中の法的手順を遵守していない。フィリピンは、一人の裁判官を指名し、残りの4名を中国政府ではなく、当時の国際海洋法裁判所(ITLOS)所長だった柳井俊二氏が指名した。元駐アメリカ日本大使の柳井俊二氏は、安倍晋三首相の側近の一人であり、三菱グループの顧問でもある。
  
 アメリカと日本は、今回の裁定の不備、不法、強制執行の機能がないことなど意図的に隠しながら、裁定を無視する中国を「国際法違反の極悪な国」と非難して国際信用を失墜させるキャンペーンをおこなっている。裁定が出た後、アメリカ政府は「中国は裁定に従うべきだ」と表明した。日本外務省はマスコミに対し、中国が国際法違反の極悪な国であると宣伝するよう誘導している。日本のマスコミは、外務省の宣伝機関になっている。仲裁機関の機能を意図的に無視し、「裁判所」の「判決」が出たと書き、国内裁判所と同等の絶対的な決定であるかのような虚偽の報道を行っている。

 中国政府は、安倍政権が、ワシントンのために、汚らわしい傀儡役を演じていることをよく知っている。7月15日、モンゴルでの国際会議(ASEM)で会談した李克強首相に安倍首相が、海洋法裁定を受け入れるように求めた時、李克強は激怒し、「二国間問題である、日本は決して口を出すな!」と強い口調で応えた。
 
 米国が世界を引き連れて中国を批判しようとするが、喜んで乗っているのは日本だけで、欧州や東南アジアなどその他の国々は米国に同調してはいない。EUの首脳たちも英国でさえも、誰もこの件で中国を批判する発言をしていない。アメリカの同盟国オーストラリアは「そもそも本件は海洋法の仲裁になじまない」などと対立激化を押しとどめようとしている。
 このような事情を日本のマスメディアはまったく報道しない。

5)フィリピンでは?

 新たに選ばれたフィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテが、中国との紛争をエスカレートさせようとするアメリカ政府からの圧力にどう対応するか、注目を集めている。
 なぜならば、ドゥテルテ新大統領は選挙前に、これまでの中国敵視・対米従属の国是を放棄し、中国と和解して米中双方と友好な関係を結ぶことをめざすと声明したからである。フィリピンが中国敵視・対米従属から対中協調・対米自立に転換していくのではないかという期待を抱かせた。
 ドゥテルテは、アキノ政権が拒否していた中国との直接交渉を再開すると語り、アキノとの「違い」を宣伝した。ドゥテルテ新政権は、裁定2日後の7月14日、フィデル・ラモス元大統領を特使に任命し、中国と交渉を始めた。

 海洋法機関は、当事者同士の和解を最優先し、和解結果の内容が海洋法にそぐわないものであってもそれを支持することになっている。中比が交渉で合意するならば、裁定は無効になり、「中国は裁定を受け入れ、埋め立てた環礁を元に戻し、南シナ海から撤退しろ」と求める日米などの主張も意味を失う。

 そもそもアキノが二国間交渉をやめ提訴したのに対し、再交渉に入っていることはすでに仲裁裁判所と裁定を無効にしていることを意味する。ただ、フィリピン政府は交渉で、裁定の実行を求めており、その点ではアメリカ政府の意向に従う立場を表明している。ドゥテルテ政権がこのままアメリカ政府の丸め込まれる可能性もある。ポピュリズムで当選したドゥテルテは、人気があるものの政治基盤はきわめて流動的なのだ。

 中国とフィリピンとの間での、中国と日本との間での、南シナ海や東シナ海の潮に濡れた不毛の島々を巡る意見の違いは、海洋埋蔵石油とガス獲得の問題でも、中国人漁師に、更に数百万匹の魚を獲らせようという問題ではない。

 これは、もっぱら南シナ海という東アジア諸国にとっての最も重要な経済地域・輸送路の平和と安定をいかに保つかという、安全保障にかかわる問題である。この地域で、いかに対立を拡大させず、軍事行動を起こさせないためにはどうすべきか? 対立をあおるアメリカ、便乗する日本の外交、軍事戦略をいかに止めるかという問題なのである。
 
 この点は日本国内でも同じ。東アジア地域の平和と安定こそ重要であるにもかかわらず、アメリカ政府の戦略にしたがって中国との対立は新たにつくられ煽られ、日米韓と中国の対立構図が徐々に確立整備されている。7月8日には在韓米軍への戦域高高度防衛ミサイルTHAAD配備が決定した。

 フィリピン国内では、フィリピン漁民が中国漁船に漁場から追い出された問題として、もっぱら宣伝されている。政府のみならず、野党も、左翼勢力も、フィリピン漁民支持から民族主義にあおられている面もあり、全体としてアメリカの対中国戦略に搦めとられつつあるのではないか。これら一連の動きは、極めて危険だ。ドゥテルテ政権の動向に注目が集まっている。(文責:林 信治)

ドゥテルテ新大統領に期待できるか? [フィリピンの政治経済状況]

ドゥテルテ新大統領に期待できるか?

1)選出された理由

 フィリピンはアキノ政権下で年率6%前後の経済成長を継続してきた。その成長ぶりは、世界の成長地域である東アジアの中でも群を抜いている。しかし、経済成長はそのままフィリピンの人々の生活改善を意味しない。新自由主義の下での成長は、必ず格差を拡大する。フィリピンには取り残された多くの人々がいる。格差拡大に不満を持つフィリピン人は、アキノ政権の後継者である政治エリートの「お仲間たち」ではなく、「新味」のあるドゥテルテを新大統領に選出した。悪名高かった犯罪都市ダバオを強引な手段で「平和」な都市にしたという「実績」。あるいは、オランダに亡命中のフィリピン共産党(CPP)議長、ホセ・マリア・シソンを労働雇用担当閣僚に登用したいと提案。このようなパフォーマンスは、貧しい民衆をしてドゥテルテに期待を寄せさせたのは間違いない。もっとも「新味」があるのか、民衆の真の代表者なのかは、別問題である。

2)ドゥテルテ新大統領の基盤

 ドゥテルテ新大統領の政治的基盤はきわめて脆弱だ。彼は力強い政治運動、政治グループの支持で当選したわけではない。どこの国でも似たような現象が生まれているが、巧みなパフォーマンスで人気投票に近い選挙の勝利者になったと言える。特に効果的だったのが、既存のエリート政治家とは違うというパフォーマンスだ。
 パフォーマンスで勝利したことは、選出後、権益を享受している既存のフィリピン支配層、政府官僚からの介入とどのように折り合いをつけるかが問題である。どこの国でも同じだがフィリピンでも、フィリピン支配層は自身の利益のために政府を動かすいくつもの「手」を張り巡らせている。
 この点でドゥテルテは、フィリピン支配層や米政府との間に、特に対立を引き起こしてはいない。その調整はすでに完了しているのであろう。

3)「法人税を下げる」と公言

 ドゥテルテ新大統領は法人税を下げると公言している。新自由主義的な経済発展を構想しているし、フィリピンの支配層、とくに資本家層の代理人にほかならない。フィリピン資本家のみならず米日政府も支持する。
 また、選挙期間中、ドゥテルテは「反米発言」し、中国との関係改善を示唆したが、他方で米軍を再駐留をさせる米比新軍事協定を高く評価した。当選後、米比の安全保障体制を是認する態度を明確に示した。米政府はドゥテルテを批判せず静かに見守っている。すでに何らかの折り合いをつけているのであろう。
 また、フィリピン支配層や米国資本に、自分こそはミンダナオを開発できるとアピールし期待を集めている。ミンダナオは石油、鉱物資源が豊富であるが、過去の強引な侵略、開発は、住民の批判を浴び、MILFやNPAの勢力も根強い。ドゥテルテは、自分こそがミンダナオに和平をもたらし開発を進めることができるとアピールしている。この点もフィリピン支配層や米国政府に支持されるだろう。

 このように見れば、ドゥテルテ新政権はアキノ政権の下で達成した経済成長の上に、その路線を引き継ぎ大胆に発展させることを狙っているように見える。
 ミンダナオに和平をもたらそうとしているのは事実であろう、経済活動には和平が必要だからだ。CPPやNPA、またMILFとの和解、あるいは体制内への取り込みは、フィリピン経済のさらなる発展にとって必要になっている。治安を改善し警察・公務員の汚職をなくすことは、海外からのさらなる投資を呼び込む上で必要だ。
 ドゥテルテのパフォーマンスには、フィリピン支配層の要望が表現されていると見なければならない。
(6月24日記)

フィリピン経済の現況 [フィリピンの政治経済状況]

マニラに「高級旋風」

 2016年には、フィリピンの一人当たりの国内総生産GDPは3,000ドルを超える見込みだ。3,000ドルは、中間層の消費が急拡大する節目とされている。しかしマニラ圏ではすでに8,000ドルを超えている。GDPは3,000億ドル(約36兆円)を超える。人口1億人なので、一人当たり3,000ドル。
 確かにマニラに、高級サービス、商品が増えた。中間層の増加を映すこのブームは今後も続くのだろうか?

 よく言うと「宵越しの金を持たない」、悪く言うと「貯金はしない、お金のある人に頼る」フィリピン人気質は、消費拡大に拍車をかけているように見える。

 様変わりなのは、一泊数万円の高級ホテルに外国人旅行者ばかりではなく、フィリピン人宿泊客が目立つことだ。マニラ湾岸に、高級ホテル「コンラッド・ホテル」開業し、SMインベストメンツ社が経営する高級ショッピング・エリアも併設するという。そればかりか、マニラ湾岸には、カジノリゾートが相次いで建設されているのだが、外国人旅行者を狙ったというのに、所得水準の上がったフィリピン人中間層が意外に多く訪れている。(日経1月12日)

フィリピン経済

 フィリピンの経済規模はこの10年で3倍に成長した。2020年にはタイと同規模になる。一人当たりGDPも、8年間で2倍強になった。マニラ首都圏では8,000ドルを超えている。
 2013年の経済成長率は、7%だった。2015年は6.5%程度。高成長である。原油安は、フィリピン経済にプラスに働く。

 フィリピン経済の強みは、増大し続ける労働人口。全人口は1億人、労働人口は4,100万人。平均年齢は23歳と実に若い。子供が多いわけで、近い将来、確実に労働人口が増える。そのため賃金が中国に比べても上昇していない。当面のあいだ、政府にとって年金や福祉予算の負担は極めて小さい。もともとそういう制度はないけれども。

 日系企業の多くは、フィリピン経済区庁(PEZA) 、経済特区に進出している。PEZAの日本案件認可件数実績も2010年代に急増した。中国の賃金上昇を受けて、フィリピンに進出企業も目立つ。
日本との貿易では、電気・電子、コンピュータ機器を含む機械類の割合が高い。
 フィリピンに進出した電子部品産業の層が厚くなってきたため、現地で部品を調達し組み立てることが可能になっている(電気・電子部品の日本からの輸入が減少している)。電気・電子産業が高度化し、部品産業、下請け企業などの「裾野」が広がっていると言える。

 自動車販売も急増している。日系自動車会社の独擅場。2015年には新車販売が30万台を超える。現在はタイとインドネシアに集中する自動車生産態勢から、将来的にはASEANの経済統合(関税低下)によるASEAN地域での生産分業と輸出をにらんでいる。

 サービス業では、ITサービス業が急増している。フィリピンは英語圏だから、コールセンターなどの音声サービス事業では、インド以上に売り上げを伸ばしている。この分野は、米国やオーストラリア企業が積極的に進出している。

 流通では、コンビニエンスストアが、マニラ首都圏で急増し、首都圏以外にも増えている。

 フィリピン経済の弱点は、インフラが整備されていないところ。経済が拡大していることもあるが、発電能力は慢性的に不足。石炭火力への依存度が高い。1990年代に民営化したが、電力不足がなかなか解消せず、電気料金が高い状態が続いている。
マニラは交通渋滞がひどく、なかなか改善されない。公共交通、高速道路、水道事業も民営化されており、企業が利益を上げる範囲でしか改善されない。そのためインフラ整備が経済成長に追いつかない。港湾施設なども不足している。

 フィリピン経済は、輸出向け電気・電子産業、サービス産業だけでなく、経済成長により都市中間層の形成と、1,000万人にものぼる海外労働者からの送金は約3.6兆円(GDPの1割を超える)もあり、国内消費市場も確実に伸びてきている。
 
 2016年5月に、大統領選挙がある。

日米同盟の再強化とフィリピン [フィリピンの政治経済状況]

 日米同盟の再強化とフィリピン
     2015年5月3日、 ペリー・ディアス

1)日米首脳会談
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<4月29日、オバマ大統領と安倍首相>

 4月29日、日米首脳会談後の共同記者会見でオバマ大統領は、「私は、アジア太平洋地域で、大きく持続的な役割を果たしていることを確認するために、アメリカの外交政策のバランスを再調整するために働いてきた」とし、その言葉で、米国訪問中の安倍晋三首相とともに、アメリカが21世紀の太平洋戦力を維持すると述べた。日米共同ビジョン声明は、「日本との同盟を再強化と弾力的な運用は、アジアにおける米国の立場を持続可能にする」としている。この単純すぎる表現のうちに「アジアへの同盟」のすべてがある。それとも私は「日本への同盟」と言うべきだろうか?

 東シナ海と南シナ海における積極的な中国の軍拡が、隣人の間で緊張を引き起こしており、戦略的なパートナーとして勃興する中国と付き合うことがいかに重要であるか、そう考えた時に誰の海軍力が、この地域で米国の次に充実しているか? それは日本である。オバマ大統領は、「アジアへの同盟」のために、日本を引き入れ、利用しなければならないと考えたにちがいない。

 実際、南沙群島10島のうち、中国が実効支配する6つの島での干拓事業は、南シナ海での中国の支配を強化するだろう。米国の「既存の軍事的プレゼンス」に対するする侵害である。中国が南シナ海に南沙(スプラトリー)諸島周囲約200マイルに排他的経済水域(EEZ)と防空識別ゾーン(ADIZ)主張することを、ただ想像してみればいい。そうなった時、南シナ海における航行の自由を制限することになる。日本は中東からの石油輸入に大きく依存しており、南シナ海を通過する。日本にとっての最善の利益は、南シナ海の自由な航行を維持するために米国のパートナーを維持することにある。中国から切り離し米国に従順な日本に誘導することが米国の利益になる。

2)新防衛ガイドライン

 新防衛ガイドライン――1997年以来最初の改訂は日本が、弾道ミサイルに対する防衛、海上セキュリティ、サイバー、宇宙攻撃を含む「グローバル軍事協力」に参加することを可能にする。これらのことは、日本が第二次世界大戦後、制定した平和憲法の再解釈を、2014年内閣で閣議決定した後に、起こった。
 この閣議決定によって、日本に対しては武力攻撃がなかった場合でも、その他の国が攻撃を受けた時に、米軍とともに出動を意味する「集団的自衛権」を行使できる。これまで平和憲法の下では、アメリカが危険な状態に陥った時、軍事力を行使できなかったわけだから、これは大きな変化である。しかしそれは、周辺諸国にとっては脅威でもある。現在の日本は、米国に向かう弾道ミサイルを撃墜することができるとしている(日本政府は、技術的にではなく、政治的にそのように表現している)。
 新ガイドラインの当面の明確な目的は、中国を防ぐために第一列島ラインに沿って防衛力を強化することにある。

3)「オフショア防衛」

 アドミラル劉華清
 1986年には、中国が「沿岸防衛」から「オフショア(沖合)防衛」に海軍戦略をシフトした。提督・劉華清は、しばしば「現代の中国海軍の父」と呼ばれ、オフショア戦略を開発した。
 しかし、劉提督はその当時、中国人民解放軍海軍は「沿岸防衛」に限定される戦力しかないこと、米国に比してきわめて貧弱な海軍であることをもよく承知していた。効果的な「沖合防御」戦略を成し遂げるために、劉提督は、成し遂げられる4つの必要性を確認した。
 (1)一定時間の特定の領域内の海を掌握する能力、(2)効果的に中国のシーレーンを防衛する能力、(3)中国主張の海域の外で戦うために能力、(4)信頼にたる核抑止力を実現する機能。
第一、第二列島ライン First & Second Island Chaines.jpg
<第一、第二列島ライン>

 そして、これらの要件を満たすために、中国人民解放軍海軍は以下のタイムテーブルを提示した。
 第一期:2000年までに、黄海、東シナ海、南シナ海など第一列島ラインの内側で、対等な支配権を確立すること。
 第二期:2020年までに、中国は第二列島ラインまで対等な支配権を拡張すること。
 第三期:2050年までに、真のグローバル海軍への進化を達成すること。
 基本的には、第一期は計画に対し15年遅れており、概して中国は2075年、あるいはそれ以降も、拡大の目標を達成できない可能性がある。
 
 Chiguaリーフの構築

 中国の干拓事業が2016年までに完成する予定であり、第一列島ラインの支配確立のための途上にある。中国の目的は、第一列島ラインのうち、台湾と琉球間の宮古海峡または台湾と北フィリピン間のルソン島海峡の2つの隘路のうち、どちらか一つででも、を突破することにある。
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<Chigua環礁の埋め立て>

4)海峡の防衛

 2年前、日本は宮古島で地対艦ミサイルのいくつかのユニットを配備した。それにより戦略的に重要な宮古海峡の航行を支配できた。宮古海峡を突破する中国海軍のいかなる試みも困難であり、中国軍に重い損害を与える可能性がある。
 2014年日本政府は、台湾から100マイル以下であり、係争中の尖閣諸島から93マイルしかない日本のもっとも西側の領土、与那国島にレーダー基地を建設し始めた。レーダー基地は尖閣諸島に、日本にとってよりよい防御と監視能力を提供する。尖閣は中国もその領有権を主張している。
 日本政府の対応は、中国を一つのターゲットとしている。と同時にそれは日本政府単独の動きというより、日米同盟の再強化、日米新ガイドラインのなかで捉えられなければならない。

 ルソン島海峡は、フィリピンに属している3つの島グループを含み、幅は160マイル。海峡における島の最北端がバタネス。フィリピンから台湾を分離するバシー海峡で、海峡内の海上交通を監視するために、天然の見晴らしのよい場所を提供している。
 仮に中国が機雷で台湾海峡を封鎖した場合、日本への貿易フローはルソン島海峡へ向け直される。それは隘路である南シナ海で最も重要な大洋航路の1つになる。この地域の「緊張」と、フィリピンは無縁ではない。

5)スービック湾
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<スービック湾>
 最近米国政府は、2014年4月に署名された強化された米比防衛協力協定(以下:EDCA)に準拠して、伝えられている通り8ヵ所の軍事拠点へのアクセスをフィリピン政府に要求した ―― ルソン島4ヵ所、セブ島2ヵ所、パラワンで2ヵ所。ルソン島の4ヵ所の基地には、スービックとクラークの元米軍基地が含まれている。他の2ヵ所はラオアグ空港とバタネス島です。ラオアグ空港とバタネス島は、中国によるバシー海峡突破、またはルソン海峡の他の2つの海峡ブブヤン(Babuyan)とバリンタン(Balintang)のいずれの突破をも防止する機能を米国に提供すると推測できる。

 一方、米国は「日本との同盟」を間に合わせなければならない。米国のアジアへのリバランス戦略の中心内容だからである。新日米防御ガイドラインに署名することで、日本軍艦が東シナ海と南シナ海をパトロールする際に、アメリカ軍艦に直結していることが容易に予想される。その点において米国政府は、「日本との同盟」でよい取引を、いまだ日本側から十分に引き出してはいない。

 他方、フィリピンでは、EDCAの合憲性に疑問を呈しているフィリピン最高裁の未完了の申し立てがあり、高等裁判所が判決を出すまで、米国は待たなければならない。ちょうど1992年にフィリピン上院が米軍基地の保持を拒否した時のように、高等裁判所がEDCAを拒否した場合、フィリピンはアジア太平洋地域での米国軍事力の米国のリバランス戦略ループから抜け出ることになる。
 そのことが、フィリピン国内に置いて米軍、米国支配の傘の下により入るのか否かをめぐって政治闘争の課題になっている。

ママパサノ(Mamasapano)の衝突 [フィリピンの政治経済状況]

 ママパサノ(Mamasapano)の衝突

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 1)マギンダナオ州ママパサノでの衝突
 2015年1月25日(日)には、ミンダナオ・ママサパノ(Mamasapano)周辺で、フィリピン政府武装勢力と地元の反政府グループ間の鋭い衝突した。戦闘では、フィリピン国家警察エリート特別行動部隊(SAF)の44人のメンバーが殺された。モロ・イスラム解放戦線(MILF)が、後に18人の反政府勢力側に死亡したと報告した。いくつかの地元の民間人も、事件の間に殺害された。
 突然の衝突と戦闘、および多数の死者と負傷者を出したことは、フィリピン政府と反政府勢力間の和解交渉を頓挫させるのではないかとの懸念を引き起こした。
 MILFだけでなく、バンサモロイスラム自由の戦士(BIFF)の両方のメンバーが反政府側の行動に関与していたと報告された。事件が起きた後、アキノ大統領はMILFとの交渉継続を決めた。
 MILFの代表はまた、地域の平和を確立するための努力は衝突によって破壊されないと表明した。それにもかかわらず、この数週間、政府軍とBIFFの反政府グループとの間で戦闘が続いている。

 2)ミンダナオ・イスラム教徒自治地域(ARMM)、マギンダナオ州
 ミンダナオ島では、歴代のフィリピン政権はキリスト教徒の政治家や住民、協力的なイスラム教徒の一族を支援して、先住のイスラムの人たちをミンダナオ西部の一地域に追いつめ、入植・開発してきた。迫害された住民は、モロ民族解放戦線(MNLF)のもと分離独立をかかげ、永年にわたる政府、入植者との戦闘が続いた。
 分離・独立を抑え込むため、コラソン・アキノ政権以降、永年にわたる交渉の末、1989年に「自治基本法」(Organic Act、Republic Act No. 6734)を成立させ、ミンダナオにミンダナオ・イスラム教徒自治地域(ARMM)を設けで自治を認めた。ARMMは4州だけで1990年11月6日に発足した。マギンダナオ州はARMMを構成する4つの州のうちの一つである。
 96年にはイスラム最大派、MNLFと歴史的な和平協定を締結し、議長のヌル・ミスアリがARMM知事に就任した。ARMMではMNLFが事実上与党化したことから、治安が急速に回復し、経済活動も活発となった。問題は解決に向かうかに見えた。ところがアロヨ政権は2001年に、ミスアリへの汚職・腐敗追及キャンペーンを繰り広げ、ミスアリ議長退任へと追い込んだ。
 これ以降、アンパトゥアン一族がARMMの利権をほぼ掌握した。アンパトゥアン一族もイスラムではある。05年には子息がARMM知事に就任し、アロヨ-アンパトゥアンによるミンダナオ中西部支配体制が完成した。
 2009年11月、知事選に出ようとしたマングダダトゥ(Mangudadatu)市長の支持者・ジャーナリスト57名が、アンパトゥアン一族の私兵によって殺される事件が起きる。
 戒厳令が敷かれ、イスラム自治権承認を剥奪し、再び「北」の中央政府が主導権を握った。

 3)開発利権が集中するミンダナオ
 ミンダナオはニッケル、銅、金、石油・天然ガスなどの鉱物資源の宝庫であり、96年のMNLFとの和平合意以降、欧米日・中東からの開発投資、政府のインフラ整備事業など、多額の資金が流入した。
 武装したイスラム勢力による戦闘をひき起こしあるいは起きたことにし、米軍やフィリピン軍が進出し住民を追い払い、そののち海外の資本が資源開発する事件が多発してきた。MNLFが解体された現在、ミンダナオの人たちはモロ・イスラム解放戦線(MILF)に一つのよりどころを求め、自身を防衛してきた。MILFは和平を求めフィリピン政府と交渉を続けている。
 今回、突然起きたマギンダナオ州ママパサノの悲劇によって、和平のプロセスが壊れるのではないか、と多くの人々が心配し、また注目している。
*************


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 ママサパノの悲劇と和平への道
 
2015年1月29日、ジョエル・タボラ

 1)ママパサノの悲劇を悼む

 アキノ大統領はミンダナオ、ママサパノ(Mamasapano)で亡くなった人のために追悼の日を呼びかけました。私たちが金曜日に半旗を掲げ追悼した時、また慈悲と思いやりのため神に祈ろうと呼びかけた時、私は、よく知られたテロリストへの逮捕令状を取り持った任務で死亡した警察官の死も哀悼されるべきと考えました。同時に私は、同じ機会に死んだMILFとBIFFのメンバーの死をも哀悼します。私は、或いはすべてのフィリピン人は、彼らに哀悼しなければなりません。服従、無知、無謀または恐れによって無鉄砲な虐殺または野蛮な暴力に追いやられた、すべてのフィリピン人を哀悼します。沈黙のなかで、私は平和を祈ります。

 私はまた、私たちの平和への道が閉ざされないことを祈ります。犠牲と痛みの伴う困難な、骨の折れる道です。しかし、それは希望の唯一の道です。

 2)戦争と暴力の原因を想い起こそう!

 私にとって、事件の道筋を辿ることは、南の人々にとって覚えているにはあまりに痛ましく、北の人々にとって認めるにはあまりにきまりが悪いことです。このことはミンダナオでの戦争と暴力事件の原因を思い出すことを意味します。
 いくつかの事例を示しましょう。ヌル・ミスアリ(当時、MNLF議長)はヤビダ(Jabiddah)虐殺をきっかけに立ち上がりました。 ヤビダ(Jabiddah)虐殺に終わったのは、サバ州におけるマルコスの無謀な冒険主義がありました。イスラム教徒と彼らの土地・ルマド・ミンダナオ(Lumad Mindanaoans)を奪い、ミンダナオ風景を変更してしまった北から入植政策の歴史もあります。「白い外国人」の「少し茶色い兄弟」のやり方を拒否したムスリムの人々を、文明化するためアメリカ人と手を携えて北から来たフィリピン人の歴史、アメリカによるバドダヨのムスリム虐殺に立ち会った「フィリピン人」の歴史もあります。

 3)ミンダナオ、虐げられてきた歴史

 ホロ(Jolo)州バド・バグサ(Bud Bagsak)。イスラム教徒は、自身のイスラム信仰、文化と独立を外国人から守るために、勇敢に戦いました。スペイン人が征服したことがなかったムスリム・スルタンの主権も一緒に、スペインがアメリカにフィリピンを譲渡したと規定しているパリ条約でした。征服し植民地化するスペインの意志を挫いた300年にわたるモロ戦争の歴史。スペイン人の到着前のフィリピンにおける成熟した文明の存在した200年。モロ・アイデンティティ、政治的主権とそれまでの発展に対して、「北」からもたらされた不正行為は、ミンダナオにおける戦争と暴力の原因でした。
 「平和への道」とは、北から来たフィリピン人が南のフィリピン人(ミンダナオ先住民)を尊重することを意味します。ミンダナオは北の人々の開発のための道具ではありません。ミンダナオは、国民経済の発達の「機会」でもなければ、フィリピン政治家による「進歩」のための道具でもありません。ミンダナオの民族、歴史、文明は、北の人々による開発のための道具ではありません。もし私たちが責任を持つ文化、政策、法律が尊重しないなら、「平和への道」を辿ることはできません。

 北の国家元首によって与えられるべき正義と尊敬の欠如に失望し、イスラム教徒がイスラム独立を要求した時がありました。独立の呼びかけは、南の非イスラム・フィリピン人の心に、ある恐怖を植え付けました。恐怖した彼らは防衛の最善の方法は、攻撃だと思い込みました。そうしてイラガス(Ilagas)のテロが始まりました。それは、黒シャツ党員とバラクーダの対抗テロを生み出しました。そしてマニリ(Manili)の虐殺とブルドン(Buldon)の戦闘をもたらしました。ミンダナオの土は、その息子や娘の血で浸されました。 MNLF、そののちMILFは、今よりはるかに厳しい情況のなかで、イスラム教徒の独立の根拠を掲げました。海外からのイスラム教徒に支持されているとして、北の国家指導者によって、ミンダナオ人たちを征服するために北から軍隊が送られました。海外からイスラム支援などありませんでしたし、できませんでした。

 4)より高いより貴い水準での、平和への道

 戦争を止めることができた唯一の道は、銃や暴力や戦争が問題を解決しないどころか、さらに銃や暴力や戦争の必要を増大させるという相互の洞察でした。そのような洞察は、「平和への道」をフィリピンにもたらすのです。当初、MNLFとのパートナーシップであり、現在はMILFとのパートナーシップです。私たちが踏み外してはならない道すじです。

 銃と戦争が平和を創り出すことができるとかつて思っていましたが、現在私たちは、立憲民主主義を共有し平和に向けた合意を作り上げ、平和、交渉、合理的な議論により共通の夢を作り上げ、より高い、立派な水準において「平和への道」へと踏み出すことに同意しました。これらの協定は「平和への道」の本質に属しています。協定は誠実に合意されたものであり、誠実さは保持されています。そうでなければ、平和は危険にさらされるのです。

 交戦が終わった1997年、停戦合意の運用ガイドラインを実行する「平和のための協定」の一つが始まりました。「警察と軍事行動と管理/実際業務の活動は、GRPによってミンダナオと国中で行われ続ける。その追跡において、GRPとMILF軍隊の間の対決的な状況は、事前の調整によって避けられる。」(第II項)これは、和平交渉(MILF)を我々の正式なパートナーとする合意です。それは、一方的に解釈したり、または無視できる合意でありません

 このような項目を合意に入れた理由は、おそらく、「平和への道」が、困難であり危険に満ちていることに、双方が気づいているからです。平和にはその敵がいます。平和へのプロセスは、政権、強力な武装した一族、恥知らずな貪欲、武器取引、外国の利益、宗教的な過激主義、地方的および全国的テロリズムさえも含む、伝統的なセンターの利益によって攻撃されます。私たちのパートナー(MILF)は、平和に対するこれらの敵を知っています。北からのどんなプランナーが企てることよりも、彼らMILFは対応する力を持っています。和平交渉が始まったからといって、平和に対する敵がやっつけられたわけではありません。和平交渉は、私たちが平和へともに歩み、平和の敵に打ち勝つことが、共通の利害であることを意味します。ミンダナオにおける平和のためのパートナーはMILFです。

 それは信頼を前提とされたパートナーシップであり、そして唯一の信頼において成長できるパートナーシップです。それは大統領の言うように、何度も負担の成果を生んだパートナーシップです。:「私たちはお互いを信頼し合い、すでに偉大な進歩を遂げてきた。私たちは一緒に仕事ができることを証明した。」

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<Mamapasanoの日常生活>

 5)政府のやり方のうちに、和平合意を壊してしまう要因が存在する

 したがって、ママパサノ(Mamasapano)という緊張状態の町で2人のテロリストの存在に対処するための1997年協定規定として、我々のパートナーがなぜ参加しなかったのかは、私には不可解です。

 この文脈では、アキノ大統領の昨夜の立場は不明確でした。大統領は、テロリスト追跡に関係する部隊は、「実行する前に大統領の認可を待つことは非実際的であるので、活動の一つ一つやすべてにおいて私の了解を得ることは必ずしも要求されない」と述べました。ここで大統領は、作戦において大統領の承認は必ずしも必要はないと言っています。大統領は、「承認した」とは言っていない。承認は彼からなされたと言っているようです。どうやら、彼は作戦を補完し協同で行ったようです。 「彼らは、2人の令状を提供し、行動をとることを決めた。」 大統領は、この特定の作戦について説明されたと認めておらず、一般的な説明を受けたと言います。「これらの説明会では、PNPは、マルワン(Marwan)とウスマン(Usman)に対する継続作戦について私に説明した……」 説明会では、彼は指示を与えていた: 「私は何度もSAF、軍事の間で、適切かつ十分な、タイムリーな調整の必要性を繰り返した」。ママサパノ(Mamasapano)の不安定な情況から、「訪問者は、この領域に入ることができない」と発言したすぐその後で、大統領は「フィリピン政府軍が静かに、慎重に入って行く必要がある……。」と言うのです。しかし、大統領はまた、ミンダナオにおける平和のためのパートナーであるMILFとの調整を、なぜ工作員に指示しなかったのでしょう? また、なぜ彼の部下は、この命令を与えていないのでしょうか? それは合意の無視だったのでしょうか?  あるいは平和のパートナーに対する不信からなのでしょうか? あるいは、ミンダナオは裏庭であり、マギンダナオはとげのないバラのベッドだと考える「北」の傲慢なのでしょうか?

 北の方法ではなく南の方法で、政府が大虐殺を防ぎ、その目的を達成したことを助けた一つのグループとの調整に、誰が失敗したのでしょうか?

 なぜ「政府とMILFとの信頼」は、汚れた評判の男が率いる秘密コマンドに、置き換えられたのでしょうか? 「平和への道」は、銀三十枚のために捨てられたのでしょうか?
 政府のやり方のうちに、和平合意を壊してしまう要因が存在します。北の傲慢な態度は存在し続けています。

 6)バンサモロ基本法が脱線してはならない

 大統領の声明にある通り、バンサモロ基本法の承認に至る和平プロセスが脱線してはならないことは、私にとって明確なことです。ママパサノで殺された人たちに対する残忍なやり方が許されることはありません。私たちはこのことに対し、目を閉じることはできません。しかし、上院議員アラン・ピーター・カエターノが無意味なことをして、責任をもっぱらMILFのせいにすることはできません。向こうみずな計画とひどい作戦の実行は、ひどい結果をもたらしました。もちろん、責任は計画を立てた者にあります。

 しかし、被害が起こましたが、バンサモロ基本法を含めるべきではありません。逆にそれはフィリピン議会の知恵を通じて、より緊急な、道すじをつくるのです。ここでは、私たちは賢い議員を必要としますし、共通の惨劇をきちんと見つめる政治家が必要です。このことは、正義からするならば、フィリピンのイスラム教徒への長年の負債なのです。私たちは敬意を持って彼ら接しなければなりません。そのことに合意しています。私たちは、みずからの自尊心で持ってこの負債に接することが必要なのです。

石炭火力発電所の環境と健康への影響 [フィリピンの政治経済状況]

 マリベレス周辺のコミュニティについての最近のニュース

 GNパワーマリベレス発電所石炭火力について

 反核バターン運動/石炭拒否マリベレス運動

 1)背景

 マリベレスは、かつてフィリピン初の経済特区であり、現在はバタアン自由貿易地域(以下FAB:the Freeport Area of Bataan)となっています。約47社の製造業企業が現在、FAB内で稼働しています。この事情から、マリベレスの町は、生計の機会をもとめて国内外からあるいは地元から移住者が集まり住む町となり、異なる文化が集う場になっています。

 バタアン自由貿易地域内に投資した投資家利益を確保する一つの条件は、電気の安定的かつ安価な供給です。電気の安定供給は地方政府の優先課題です。地方政府は、バタアン州の堅調な経済成長にとって必要なのは、安定供給と必要なだけ十分に消費できる電気であると、信じています。

 その結果、2010年にこの小さな町は、巨大な石炭火力発電所プロジェクトの拠点になりました。石炭火力発電所は、サイス・グローバル(Sithe Global)社という米系資本が所有者であり、当初は中国系デナム(Denham capital)資本も投資していましたが、後にアラヤ財閥がデナム資本の株式を買い取りました。また、発電所は、中国国家電気機器会社が設計・建設しました。

 600メガワットの石炭火力発電所プロジェクトは、ルソン地域内のどの石炭火力発電所の運転コストよりも低いコストで運転できるように計画されました。建設地域のコミュニティには、安い電気料金による電気の供給だけでなく、雇用も約束されました。

 2012年5月に稼働し、それから2年以上が経ちましたが、発電所周辺地域のコミュニティの生活はより困難になりました。健康、公害、環境破壊、また特に海の汚染により漁師や農民の所得と生計機会の損失が増大し、石炭プラントの運転に関連して重大な懸念が表面化しています。地域の家庭には安い電気は供給されていませんし、雇用も拡大していません。

 これは、驚くべきことではありません。石炭発電所の運転は、すでにフライアッシュ、ボトムアッシュを含む数百万トンもの固体廃棄物、水銀、ウラン、カドミウム、トリウム、ヒ素などが含まれる排煙脱硫スラッジ、および他の多くの重金属を排出することを証明しました。

 そして、この効果はGNパワー社石炭火力発電所の近くの地域社会によってすでに経験されていると考えられています

 影響を受けた地域社会を下記に記します。バランガイ・バセコ(Baseco)、バランガイ・シシマン(Sisiman)、バランガイ・トップサイド(Topside)、バランガイ・アラスアシン(Alas-asin)、バランガイ・ポブラシオン(Poblacion):

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<海側から見たm理べレス石炭火力発電所 全景>

 2)健康問題

 2014年8月に、マリベレス保健サービス協同組合(MAHESECO)、この町のパブラシオン(Poblacion)地区中心に位置する小さなコミュニティベースの医療施設は、発熱、咳と風邪を伴い下痢の治療を必要とする患者の増大に気づきました。患者のほとんどは子供でした。この事件は、下痢やインフルエンザ大流行を宣言するようにマリベレス市政府を促しました。確かな原因はいまだわかっていません。

 同様に、バランガイ・バセコ(Baseco)で、地域社会の人々は、皮膚の発疹/傷と一緒に喘息、咳、風邪や肺炎などの呼吸器疾患に悩まされました。

 バタアン自由貿易地域(以下FAB、the Freeport Area of Bataan)の労働者のコミュニティであるサチオ・パラオ(Sitio Palao)の、おそらく420以上の世帯1,900人は、もっとも影響を受けた地域社会の一つでしょう。 サチオ・パラオは、石炭火力発電所からちょうど1キロメートル離れた地域で、家々はフライアッシュと煙が出ている大煙突に対し、50メートル平行に配置されています。

 同様に、約200人いる子どもたちのうち115人は、喘息を持っています。喘息発作は汚染によって引き起こされます。子供たちは、発電所が稼働して引き起こされた重度で慢性の喘息発作に苦しんでいます。

 2014年9月5日、厚い「霧」が、午後の早い時間にサチオ・パラオの家々に降りてきました。地元の人たちは、事件に驚き、何が起こっているか目撃するため家から出ました。その地域では視界ゼロだったからです。「霧」は厚く、皮膚に粘着性を感じさせ、不快な臭いを持っていました。

 一日が過ぎ、コミュニティの住民は下痢、喘息発作と皮膚の発疹に襲われました。その結果、バセコ(Baseco)の地域保健センターは、この期間の治療が必要となった膨大な数の患者にたいし、下痢やアメーバ症や脱水のための薬不足に陥りました。この不自然な健康状態の異変は、近隣すべての自治体が、下痢やインフルエンザの流行を宣言するよう市政府に促すことになりました。

 下痢、アメーバ赤痢、嘔吐、胃の痛みは、子供と大人にとって慢性的な問題となっているのです。サチオ・パラオの人口のおよそ半分は、石炭火力発電所の運転以来、これらの疾患に悩まされ続けてきました。
 幼い子どもたちは、空気中のウィルスや細菌に弱い免疫システムと低い抵抗力のまま成長しています。
 地元の人々は、自治体のすべての水、土地や空気が汚染物質で汚染されており、病気は大気中の飛んでくる灰と炭塵/スラッジによって引き起こされると考えています。雨が降ることで空気中の炭塵粒子で酸性雨となり、雨のあと地上から立ち昇ってくる暖かい蒸気、または“alimuom”となり、地元のコミュニティの人たちにみられる胃痛と下痢を引き起こすのです。また、乾季でさえ、炭塵は皮膚アレルギーやヘイズ周囲の黒ずみを引き起こすと信じられています。

 これらの健康上の問題は、人間だけではなく、ペットから、とりわけ牛、雄鶏、鶏、豚、ヤギなどの家畜や、地域社会にいるすべての動物に現れています。2014年になって10月の時点で、10頭以上の牛が死にました。20頭以上の飼育しているヤギが、口内炎もしくは発疹を引き起こしており、食べることが難しくなった動物は弱ってしまっています。そのうちいくつかのケースは、食糧(草)によって引き起こされたと疑われています。雄鶏も影響を免れませんでした。バランガイで競合する雄鶏の幾人かのブリーダーは、彼らの雄鶏が襲われた病気の流行に文句を言われています。風邪や動物が最終的に弱体化する病気は、現在では主要な関心事となっています。時間とともにビタミンや抵抗構築薬を投与していますが、彼らも気づいているように、今日では不十分であるようです。

 3)環境問題(公害)

 発電所が運転を開始してから、発電所の近くに住む地域の人たちは、異変を感じてきたことが確認されています。雨の降る兆候が少しもないのにヘイズやスモッグで囲まれ、一日じゅう暗くなっているのです。
 雨が降ると、雨水は黒い色となり、いやな臭いがします。石炭火力発電所ができるずっと以前は、雨水をため大切に利用していました。とりわけサチオ・パラオは水が乏しく、住民は水を確保するのに苦労していました。そのため、雨水は、清掃、洗濯、入浴やさらには料理など、コミュニティの人々は自分たちの生活に利用してきました。今では、雨水はすでに汚染されており、石炭火力発電所開発者は給水システムを建設せず、放置したため、コミュニティでの生活は、悲惨なものになっています。

 住民うち幾人かは、殺虫剤の匂いを嗅ぐと片頭痛をひき起こします。住民にとって、建設に伴う爆破による大地が揺れや騒音公害(爆破音)は、日常茶飯事のことと考えられています。

 4)経済/生活への影響

 マリベレス住民にとって主要な収入源の一つは漁業です。バランガイ・バセコ(Baseco)、シシマン(Sisiman)、トップサイド(Topside)、そしてポブラシオン(poblacion)の住民は、日々の収入源を漁業に依存しています。したがって、気候変動と海の温暖化は、漁業とマリベレス町の人々に、大きな影響をもたらしています。

 石炭火力発電所の稼働は、発電所が温排水を直接海へ流すため、海水温を上昇させます。「赤潮」とその他の有毒汚染は長年にわたって、石炭発電所の運転の主要な影響の一つであると考えられています。これとは別に、漁師の日常の漁獲量は減少しています。

 もう一つの重要な異変は、マンゴー、kasuy、ココナッツ、バナナとsantolなどの果物農産物の収穫が減少していることです。アラスアシン(Alas-asin)地域のある住民によると、以前であればマンゴーの木からマンゴー果実を(竹の織りバスケット)3 杯収穫していたのに、今年初めからは、わずかマンゴー14個しか収穫できなかったと言います。

 これらのことに加えて、石炭港から150メートルを禁漁区域としたため、沿岸を中心に地方自治体の指定する漁業水域が減少してしまいました。ほんの数人の漁師しか、漁業用電動漁船を持っていません。小漁民のほとんどは、小さな漁船(bancasin)しか持っておらず、地方自治体の漁業水域まで行けません。石炭発電所の港近くの水域が禁漁水域と宣言されて以来、漁師たちはより遠く離れた、より危険な水域に出て、漁をしなければならなくなりました。

 5)科学研究/調査の必要性

 600MW GNパワー社マリベレス石炭火力発電所の運転による環境と健康への影響は、現時点では地域社会の最大の問題です。発電所近くに暮らしている地元の人々の直接の経験を考慮すると、石炭火力発電技術の進歩のにもかかわらず、そして政府とその弁護者からの口頭での保証にもかかわらず、この種の発電所は、いまだ石炭燃焼によって生成された大気汚染を防ぐことはできません。

 環境(大気、水、土壌)や、特に石炭発電所周辺の地元の人々対する石炭発電所の健康への影響を、測定し、文書化することを目的とした調査研究の実施が必要です。地元とはすなわち、バランガイ・アラスアシン(Alas-asin)、バセコ(Baseco)、パラオ(Palao)、シシマン(Sisiman)、トップサイド(Topside)、そしてパブラシオン(Poblacion)です。

 環境への具体的な関連、地元の人たちの健康への影響の総合的な理解を、研究調査によって文書化されなければなりません。

 反核バタアン運動(NFBM)と反石炭火力マリベレス運動(CFMM)は、政府によって検討されるエネルギー源が人々と環境に優しいものに変更すべきと考えていますし、再生可能エネルギー法の実現要求をさらに強化しなければなりません。そして石炭発電所の影響にかかわる政策立案者へ継続的に関与していかなくてはなりません。文書化された環境と健康の調査は、そのような活動の基盤となるでしょう。

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