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中国によるウクライナ戦争 和平提案の意味 [世界の動き]


 中国によるウクライナ戦争 和平提案の意味  

 3月9日の日本経済新聞(北京/羽田野主記者)は、中国による和平提案の背景について報じている。

 23年2月24日、中国政府は早期停戦と和平交渉を促す12項目の仲裁案を発表した。
 これまで中国政府は、ウクライナ戦争に対する具体的な行動には慎重な態度をとってきたが、今回、仲裁案を公表し、その態度を今回変えたといえる。

 その背景は、中国人民解放軍直属の軍事科学院(トップは閣僚)――軍の最高意思決定機関や中央軍事委員会への提言や報告がその役割――は、2022年12月ウクライナ情勢をめぐるシミュレーションをまとめた。その内容は、「23年夏ごろ、ロシア軍が優勢なまま終局に向かう」というものだった。「ウクライナ、ロシアの経済的疲弊が激しく、23年夏にも戦争継続が難しくなる」との見立てだ。

 これまでの米国の支援額は、ウクライナへの援助額全体の約半分を占めている。22年12月、米議会は450億㌦(約6兆円)の支援を決めたが、この予算は23年夏には切れると見込まれている。新たな追加支援支出は、米共和党が米下院で多数派を握ったこと、米政府債務が上限31.4兆ドルに達していることから、難しくなっている。

 日本の首相官邸幹部は、「秋以降は米国の支援がどうなるかわからない」と語っている。
 米国が主導しウクライナ戦争を推し進めており、欧州はNATOとして武器支援を拡大しているものの、独仏などには早期停戦を望む声がくすぶっている。

 欧州各国は戦車「レオパルド2」のウクライナ提供を決めた。この政治的な意味は、武器支援に消極的なドイツを、一段と踏み込んだウクライナ支援、武器支援に引き込む政治的駆け引きであった。ショルツのドイツは戦車提供には応じた。米政府の要求は、さらなる資金援助であり、ドイツが、そして仏、伊、スペインなど欧州主要国が、ウクライナ戦争にさらに深く関与することだ。

 しかし、戦車「レオパルド2」の提供を決めたものの、NATO各国には「分裂」の兆候さえ見られる。ウクライナ戦争支援に積極的な政治的発言を発するのは、アメリカ、英国、ポーランド、ルーマニア、バルト三国などであるが、それも「声ばかり」という面がある。ポーランドの提供台数はわずか14両である。1,000両レベルの提供できるのは、ドイツ以外にはありえない。ドイツをウクライナ戦争に引き込む意図がありありなのだ。

 武器提供、戦争支援額が増えるに従い、独仏政府内には長期化するウクライナ戦争にこれ以上かかわりたくないとする声が大きくなりつつある。

 2月20日のバイデンのキーウ訪問の主な意味は、政治的パフォーマンスである。独仏にもっとウクライナ戦争に関与するように、武器支援・財政支援を行え!という意味である。(日本の岸田首相にもキーウ訪問が要請されているが、訪問すれば巨額の支援を約束させられるのがオチだ。)

 したがって、中国の仲裁案提示により停戦協議が始まるとのシナリオには、それなりに現実味がある。中国軍事科学院による「戦況評価」、NATO各国の「支援疲れ」などの評価の上に立っている。中国政府は軍事科学院の報告を受けて、仲裁案の作成を始め、2月24日の公表となった。

 中国にとって欧州との経済関係は重要であるし、(停戦となれば)「欧州からの中国向けの直接投資や技術移転はまだ見込めるだろう」と期待しており、関係改善が経済回復にもつながる。

 このような情勢判断から、「停戦協議の開始前に中国が積極的に関与すべきだ」との判断に至った。

 2つ目は、中国とウクライナは良好な関係を保ってきた。中国はウクライナを失う必要はない。仲裁案には、「ウクライナ経済復興計画策定」を盛り込み、すでに経済支援策の検討に入った。

 3つ目は、停戦の主役を勝ち取ることだ。習近平氏のロシア訪問も検討中だ。ウクライナ戦争で「ロシアを弱体化させる」のが米国政府の目的であり、米政府はこれをやめることができない。したがって、停戦など呼びかけることができない。米国政府は、中国のロシアへの武器提供疑惑で批判を強め、ロシアから引き離そうと牽制している。しかし、この「牽制」は効果が見込めない。

 欧州は「和平合意案」に表立って異議を唱えてはいないが、中国の呼びかけにより停戦協議に持ち込めば、欧州と中国との関係は改善する。中国が主導して停戦に持ち込めば、中国とも米国とも距離を置く途上国「グローバルサウス」を引き込む契機になる。米国の凋落が一層明らかとなり、中国の権威は高まる。世界の覇権がアメリカから中国へ移行する「転換点」とみなされるようになるだろう。

 これが、中国がウクライナ戦争に対するこれまでの慎重姿勢から、一転して仲裁案を提示するに至った背景であろう。

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