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映画『縁の下のイミグレ』を観る  [映画・演劇の感想]

映画『縁の下のイミグレ』を観る 

 この映画は技能実習生であるハインを通じて、技能実習生制度と日本社会の問題点を描き出している。
 
 日本社会にはすでに外国人労働者なしには成り立たない。夜中にコンビニ弁当や総菜、ケーキ屋のケーキをつくっているのは技能実習生という名の外国人労働者だ。映画に出てくる屠殺から食肉の切り分けもそうだ。牡蠣打ちと称する牡蠣のむき身づくりも、衣料などミシンによる縫製工場でも、あるいは建設業/造船業、農業でも多くの技能実習生が働いている。こういう職種は日本人が働きたがらない、あるいは賃金が安い職場が多い。技能実習生のほとんどは、最低賃金レベルで働いている。少子化で日本人の若年労働者が激減しているから、その穴を埋めるかのように、だ。日本のトヨタグループでも約1万人の外国人労働者、技能実習生が働いている。

1)技能実習制度とは?

 技能実習生制度は、「途上国の青年に日本のすぐれた技能、製造技術を教える」という国際貢献事業としてつくられているのだが、実際には日本人を雇うことができない事業者に低賃金の外国人労働者を供給する制度になっている。映画でも語られているように理念と現実が乖離している。

 技能実習生の人権が護られていない。映画が指摘するように、日本に来る前に故国の送り出し機関に借金して来日する。まずこの借金に縛られているので、簡単にやめたり帰国したりできないから、文句も言えない。

 日本の監理団体が研修を行い日本の事業者に実習生を紹介するのだが、監理団体は事業者から実習生一人当たり月3~4万円程度の報酬を得る。労働者紹介業なのだが、特例的に利益を上げることが認められている。多くの実習生は日本語ができず、日本の生活・労働習慣、法律などを知らず、様々なトラブルが生まれる。本来は監理団体がこの面倒を見なければならないのだが、できるだけ多くの実習生を扱えば利益が上がるので利益拡大に奔走し、面倒な実習生は排除したり帰国させたりする事案が相次いでいる。
 
 そのため、事情を知らず、なおかつ孤立し相談先のない実習生のうち、「失踪」する者が後を絶たない。
 
 事業者も「国際貢献」など眼中になく、日本人がやりたがらない仕事を最低賃金近くの給料で働いてくれる便利な労働者として扱っている。
 
 事業者や監理団体に対する技能実習生の立場はきわめて弱いため、権利を侵害されても抗議することができない。映画では実習生を「現代の奴隷」と呼ぶ場面がある。信頼して相談できる仲間や団体もなかなか存在しない。

 技能実習生は、あらかじめ技能ごとに「職種」指定されたうえでビザが発行されているので、倒産や暴力などの余程のことがない限り、事業者を変わることができない。技能実習生機構(OTIT)が認めた場合にのみ、まれに事業者を変わる「転籍」「移籍」ができるが、実質、「転職の自由」、「職業選択の自由」がない。「転籍」「移籍」の手続きは、事業者や監理団体の協力なしにはできないから、この点でも実習生の立場はきわめて弱い。

 実習生の立場が弱いことや相談先がないことから、様々な人権侵害が起きている。理解のある事業者や監理団体であればいいが、来日前にはなかなかわからない。そうでない場合に、実習生がとる方法は、外部に信頼できる相談先を見つけることだ。これがない場合、幾人かの実習生は「失踪」してしまい「不法滞在者」になり、さらに立場が弱くなる。「不法滞在」者を誘う会社や団体があるが、非合法なので犯罪に巻き込まれる場合も多い。

 映画にあるように、技能実習生は様々な問題に当面する。賃金/残業未払いや職場内での暴力などが頻発している。7割の事業者で法律違反があると公表されている。強制帰国、さらには妊娠・出産から事件になる例も起きている。

 技能実習制度、特定技能制度は、3年または5年で帰国させる制度だから、雇って働かせるが3~5年したら帰国させる制度だ。実際には、結婚、妊娠、出産、育児、教育・・・・・などの条件が保障されていないので、人としての権利が認められていない状況下にいる。事業者や監理団体は、面倒なことになったら帰国させてしまう。そもそもそういう制度なのだ。

 これは人権問題であり、日本政府は国際的にも指摘され批判されている。

 さて、こういう話を聞くと、読者は映画を見る気がだんだん失せてくるのではないかと想像する。
まったくその通りで、技能実習制度について説明しようとすると、上記のようになり、あまりにややこしいので、多くの人が理解するまでに至らない。その結果、ほとんどの日本人は、技能実習生制度と実習生の置かれている状況について知らないし、実習生がどのように働き暮らしており、どんな悩みがあり何に苦しんでいるか、ほとんど理解していない。外国人労働者が隣で働き暮らしているのに、日本人社会から分断され孤立した状態となっている。

2)映画『縁の下のイミグレ』のすぐれたところ

 ⑴技能実習生問題をわかりやすく描いている 

 この映画のすぐれたところは、このわかりにくい技能実習制度と実習生の置かれている立場を、わかりやすく説明しているところにある。それを上記のような一方的な説明ではなく、言い合いをも交えた会話劇で描き出しているところにある。実習生と支援者、行政書士、監理団体の理事長、市会議員を登場させ、それぞれの立場で発言させる。コミカルな要素もあって、この会話劇が面白いのだ。

 なるせゆうせい監督が脚本も書いているとのことで、よくも脚本をこのようにまとめ上げたものだと、その力量に感心する。

 この映画は最初のハインの入国のシーン以外、すべての場面は行政書士事務所で繰り広げられる。映画の「つくり」はきわめて簡単だ。一つの場面だけで、しかいs観客を飽きさせないで、しかも問題点をあぶりだしていく脚本である。その力量を感じさせる。この映画のすぐれたところだ。

 ⑵まず実習生に立場で考えるべきと主張している

 また、登場人物がそれぞれの立場で言い合った後、主人公のハインが実習生制度とこれにかかわる監理団体、行政書士を罵倒するシーンを最後にもってきている。登場人物の中でハインに最も知性的な発言をさせ、登場人物の言い合いを、実習生の立場から覆すかのような根本的な批判を繰り広げる。登場人物たちはハインの発する言葉がわからないまま、映画は終わる。

 これは監督の主張なのだろう、やってみたかったのだろう。こういう構成に好感を持つ。

 行政書士や監理団体の理事長、市会議員は自分たちの利害からいろいろしゃべる、そこにはもっともな主張もある。しかし、技能実習生制度の抱える問題は、まずは実習生の置かれている立場から考えなければならないと映画は主張しているのだ。登場人物たちは、ハインの批判の言葉がわからない。技能実習制度について日本社会と多くの日本人の持つ無理解を、象徴的に示すことで映画は終わる。

 実際のところ、技能実習生制度の問題点を深く把握して批判できる実習生はきわめてまれだし、登場する行政書士は実習生制度に理解があるが、こういう行政書士も実際にはほとんどいない。そのようなこともあるだろうけれど、監督はあえて自身の主張を表現するためにこのような設定にしているようなのだ。私は監督の意図を尊重したいと思う。

3)映画に不満なところ

 映画は多くの日本人が知らない実習生制度について議論の場と材料を提供している。そのような社会的問題にコミカルに、あるいはブラックユーモアをもって挑戦している監督の仕事ぶりを認め尊重したい。これだけまとめ上げるには相当な調査に基づいた脚本の練り上げ、その苦労があったのだろうと思う。
 そのうえで、不満なところを述べておきたい。

 ⑴ 解決の方向の提示を!

 最後に主人公ハインに批判を表明させて映画は終わる、そのことは実習生自身の立場からこの問題の解決に接近しなければならないという監督の主張でありこれを尊重する。

 ただ、解決の方向は提示されなかった。日本は外国人労働者なしには成り立たない社会にすでになっているのだから、外国人と共生できる社会に変わらなければならない。外国人労働者が来日し働いていれば、様々な問題が出てくる。恋愛し、結婚し、妊娠もある。そのあと出産や育児、教育があるし、家族で居住できなければならない。技能実習制度はそれができない。「外国人と共生できる社会」とは、「外国人労働者が人権が保障されて永住できる制度」=移民制度に変わらなければならない。映画にそのような解決方向の示唆や提示があってもよかったと思う。

 ⑵ 現実の描写がまだ足りない

 あるいは、様々な困難を抱えている実習生は多数多種多様にいる。置かれている厳しい現実の描写がまだまだ足りないと思った。もちろん、脚本を書くにあたってそれをどのように取り入れるかはなかなか難しいと、わかっているつもりではある。少々無理な注文であることも自覚しながら、付け加えたい。

 ⑶ 最低賃金の大幅アップ!

 それから、技能実習制度を生み出している日本社会の責任として、映画は「多くの日本人が価格の安いものを買い求めるから、企業はコスト削減で生産せざるを得ず、技能実習生という低賃金で無権利の労働者を生み出している」と説明するが、この説明には賛成できない。

 給料の低い労働者は、安い価格の商品を買わざるを得ない。日曜日にディスカウントショップに私が行くと多くの実習生を見かける。もちろん日本人も多い。仮に上記の理屈を認めたとしても、給料が低ければ低価格品を買わざるを得ない。したがって、理念や道徳の問題ではない。仮にわかっていても安い価格のものを買わざるを得ないのだ。

 この「問い」への答えは、「最低賃金を大幅に上げよ!」という主張に結晶させるべきだ。それが私の考えだ。最低賃金は技能実習生にも適用される。最低賃金の大幅アップこそが、安い価格の商品ばかりでなく、事業者を生産性向上に追い立て、高付加価値の商品へ転換し、好循環を生み出す。
これも監督に対して少々「過大な要求」だと自覚するが、述べておきたい。

4)最後に

 技能実習生問題を理解するうえで、そのきっかけや材料となる映画である。多くの人が観ることで、日本社会の抱えている問題をきちんと把握し議論し対処するきっかけにしてほしい。あくまで実習生の立場、その人権擁護の立場からこの問題に接するように。

『縁の下のイミグレ』 なるせゆうせい監督
7月7日から13日まで、岡山メルパで上映中。ほかに全国でも上映中。(7月8日記)








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