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岸田政権は、「安保3文書」を撤回せよ! [現代日本の世相]


岸田政権は、「安保3文書」を撤回せよ!
中国脅威論は、日米の軍事化の口実だ

 22年12月16日、岸田首相は「安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)」を閣議決定した。内容は、「専守防衛」は放棄されている、中国との戦争準備への転換・軍事力強化であり、きわめて危険だ。しかし、多くの日本国民はその危険性・重要さに気づいていない、これほど重大な転換を決めたのに危機感が欠けている。岸田政権自身は米国にしたがって軍事力を強化すればいいと考えており、立憲民主党も軍事力強化に正面から反対していない。メディアもその危険性を報道していない。

1)「安保3文書」は極めて危険

 危険の第1は、「安保3文書」が中国を「仮想敵」と規定しているところにある。(「国家防衛戦略」には「2027年までに、我が国への侵攻が生起する場合には、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できる防衛力を強化する」「10年後までには・・・より早期かつ遠方で侵略を阻止・排除できるようにする」と書かれている。)

 危険の第2は、対中先制攻撃兵器の保有(=「敵基地攻撃能力」の解禁)であり、中国を狙った大量の長距離先制攻撃ミサイルの配備だ。琉球弧(沖縄、宮古、石垣、与那国)へのミサイル配備は、その位置からして中国を狙っているのは誰が見ても明らかだ。

 ミサイル配備すれば、相手から標的になるのも軍事的には常識だ。その場合、標的あるいは戦場は、台湾や琉球弧にとどまらない。ミサイルの射程距離からして日本列島すべてが射程圏内に入っており、標的もしくは戦場となることを知っておかなくてはならない。

 危険の第3は、中国への先制攻撃兵器の保有が「専守防衛」の完全な放棄を意味していることにある。「交戦権否定、武力不行使、武力による威嚇禁止」を定めた日本国憲法第9条のあからさまな違反である。あるいは1994年7月、村山首相が「・・・(日本政府は)専守防衛に徹し、自衛のための必要最小限の実力組織自衛隊は憲法の認めるものだ」として、自衛隊合憲へと一歩踏み込んだが、その時に確認した「専守防衛」さえ放棄し敵基地攻撃能力保有へ転換するというものである。国民はこの大転換の意味をはたして本当に理解し、望んでいるのだろうか? いまだ理解しておらず、かつ望んでいないはずだ。 

 危険の第4は、「安保3文書」が、戦争準備のために「財政、経済、科学技術、武器輸出、宇宙、電波から対外援助まで、あらゆる日本の政策を「安保」最優先で推し進める」と打ち出していることである。中国との戦争と準備に全資源を投入すると規定し、軍事最優先が国家政策とされている事実もきちんと知らなくてはいけない。こういうところを報道しないメディアにすでに変質していることにも愕然とする。ぜひ自身で文書を入手し、確認してほしい。

 自民党内、野党、メディアでは、軍事費倍増するための増税が問題だとおもに指摘しているが、決して増税だけが問題なのではない。

 私たちは、中国を「仮想敵」とすることにも、対中先制攻撃戦争を準備することにも、「専守防衛」放棄にも、国の政策全体を軍事最優先にし戦争国家化を進めることにも、財政を軍事化することにも、軍事費増税にも反対する。中距離ミサイル(射程5,500km以内)配備と戦争準備で、平和を確保できはしない。岸田政権に「安保3文書」撤回を求める。

2) 「中国脅威論」はつくられたもの
―― 惑わされてはいけない


 中国を仮想的とすることは、今回の軍事外交戦略の大転換の前提となっている。「中国海軍が領海を通過した、台湾有事に備え戦争準備が必要だ」などという宣伝は、米政府が情報戦でつくりだしたモノで、そもそも正しくない。「台湾有事」を煽っているのも、もっぱら米政府周辺であり、米国の軍事的圧力強化が目的だ。日本政府もメディアも、何の裏もとらず米国からの情報をそのまま流しているだけだ。そのためか、すでに自民党ばかりかメディアも野党も反中・嫌中でほぼ一致していて、中国との戦争準備にしっかりと反対できない状況がつくりだされている。市民運動の内部にも反中国宣伝の影響が相当入り込んでいる。そのことが、ミサイル配備、軍事補倍増に対する日本社会からの批判を弱くしている。

 日本国民にとっては、アジア諸国との善隣外交によって周辺諸国と二度と戦争をしない関係をつくりあげていくことが重要であり、それが日本の平和と安全保障にほかならない。決して「中国政府を支持しよう」と主張しているのではない。支持するか、しないかの問題ではなく、善隣外交せよと主張している。米国が世界の覇権を維持するために軍事力と経済制裁で中国に圧力を加えているが、それに乗っかることは現実的な戦争への道であり日本の安全保障を危うくする。

 そのためには私たちは安易に中国敵視論、脅威論を受け入れてはならない。日本のメディアはすでに信用できない、信頼できる情報を集め検討し自身で判断しなくてはならない。市民運動とってもそのような習慣を身につけなければならない状況にある。

3)「安保3文書」はどうして出てきたのか? 
米国の対中戦争計画の一部


 「安保3文書」は米国の対中国戦争計画の一部だ。バイデン政権が22年10月に出した「国家安全保障戦略」(NSS2022)と相応している。中国を「戦略敵」に据え、総力をかけて屈服させる敵として規定している。その証拠に、「安保3文書」は中国を「我が国と国際社会の深刻な懸念事項」であり「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と戦後初めて規定したが、この部分は米国の「国家安全保障戦略」(NSS2022)の丸写しだ。そのことをご存知だろうか? 日本政府が自発的・主体的に、米国の対中戦争計画に自らを組み込む、米国戦略に従う宣言であることをもっとキチンと知らなくてはならない。「安保3文書」によって、日本政府が米国の戦争に、特に対中国戦争に「自動参戦する危険」が浮かびあがっているのである。

 バイデンの中国敵視政策は、日本やヨーロッパを含む米国の同盟国(=G7とNATO)を引き連れて、軍事力と経済制裁と情報戦によって、敵対する中国(およびロシア)を締め上げることにある。G7は「先進国」と自称しているが、米国に従い戦争と経済制裁による世界支配を狙う野蛮な勢力に変質している。

 米国は、歴史上数限りない侵略戦争を行ってきた。コソボでも、イラクでも、リビアやシリア、アフガンでも国際法違反を繰り返し、口実をつけては戦争を引き起こし破壊と悲惨な世界をつくってきた。中国との覇権争いを前にして、現時点で米国が優位な「軍事力」と「経済制裁」(国際通貨がドルであることを利用した制裁)を最大限利用し、軍事的な圧力強化と制裁による米中分断経済に転換しつつある。ところが、これに従っているのはG7だけで、BRICSやASEAN、アフリカ・中東諸国など世界の3分の2の国々は従っていない。米政府の戦争戦略に自ら進んで、自国の軍事外交政策を組み込む岸田政権は、きわめて危うい道へと踏み出しているのである。その指摘と批判は強調しすぎることはない。

 「安保3文書」の閣議決定はそのような重大な意味を持っていることをまず知り周知し、徹底して批判し暴露し訴えて、私たちはその撤回を求めなくてはならない。






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岸田政治とは何か?  [現代日本の世相]

 岸田政治とは何か? 


 岸田政権発足から1年を過ぎ、岸田政治とは何か?その性格が明らかになってきた。自民党政治なので大きく変わるとは思わなかったが、無責任なバラマキ政治にはあきれはてるばかりだ。岸田政治とは何か?下記にまとめてみた。

1)岸田政治とは何か?

 第一は、「保守派への配慮」である。

 自民党内第4派閥である岸田政権はその発足の経緯、自民党内での基盤の弱さから、「保守派への配慮」が目立つ。「防衛費の増額や敵基地攻撃能力の保有」を掲げ、軍事費を2倍にし、米製ミサイイル/トマホーク購入を表明している。また「憲法改正を求める圧力へ配慮・屈服」している。政策上では、安倍・菅政権の右派政治と変わりはない。

 第二は、「後ずさり政治」である。

 岸田政治は反対論が強まると、打ち出した政策をあっさりと修正してしまう。2021年秋の自民党総裁選で掲げた金融所得税の見直しの撤回が典型的だ。「新しい資本主義」「新しい分配と成長」を掲げた岸田政権にとって金融所得税導入は目玉であったはずだが、政権発足時にすぐさま撤回した。法人税増税も実行するつもりはない。「新しい分配と成長」は放棄したことを意味する。

 そればかりではない。原子力発電の活用を表明し、再稼働ばかりでなく原発新増設へと舵を切った。日本は再生エネへのエネルギー転換が遅れているのに、手を打たないのだ。このまま送れた状態が続く。政権周辺の現存勢力の言うなりとなった。

 岸田政治は、「後ずさり政治」である。将来的な見通しなどはどこかへ雲散霧消させるのが特徴になっている。結局何をやりたいのか、何のために首相になったのかがわからない。

 第三は、「バラマキ財政」だ。
 岸田政権の(自民党内に)敵をつくらない、「状況対処型政治」は、結局財政頼みになる。その結果が「バラマキ財政」だ。政策は総花的で何でもそろっているが、何をどうしようとしているのか?見通しはないし、責任も持たない。その結果、財政支出を増大させ、国債発行で国の借金をさらに膨らませている。

 ①電気・ガス代上昇のたいする企業と家庭への政府の補助、②コロナ禍での、無利子無担保貸付など、それ以外にも様々な補助金を屋上屋を重ねるがごとく作り出し、財政赤字を拡大している。政権周辺に張り付いている旧態依然とした勢力が国家財政に寄生し盗み取る「日本的政治システム」の腐敗がさらに膨らんでいる。岸田政権は、まるで御用聞きのように「聞く力」でもって要望を聞き、赤字財政を際限なく拡大するばかりで、これを止める気概などどこにもない。

2)日本の危機は英国より深刻

 10月20日、英国・保守党のリズ・トラス首相が就任からわずか44日間で辞任に追い込まれた。①法人税の引き上げ凍結、②所得税の最高税率45%⇒40%への引き下げなどを目玉とする大型減税「ミニバジェット」を掲げて政権が発足したばかりだった。

 トラス政権の政策は、まず富裕層に恩恵を与えれば、やがて中間層や低所得者層にも行き渡るという「トリクルダウン」(滴り落ちる)の考えに基づいている。しかし、財政保証がないため国家財政破綻に不安を抱いた金融市場が反応し、資金が英国から逃げた。英国資産売却、ポンド売りから大幅なポンド安、英国国債の価格下落(=金利上昇)を生み、その混乱から辞任に追い込まれた。トラス政権は決して政争によって退場したのではない。

 これは日本の岸田政権にもそっくりそのまま当てはまる。

3) 債務は持続不可能! 

 この30年、日本は金融緩和を進めてきた。金融緩和は経済危機へ陥らないための緊急避難策で、一時的に国の借金を増やして当面の経済危機を回避する。そのための「時間かせぎ」にすぎない。しかしこの30年、ばらまき財政のために債務を増やし、金利を上がらないように金融緩和してきた。

 安倍/菅政権は法人税減税や規制緩和を行い、富裕層が豊かになれば一般庶民にも波及すると主張したが、そうはならなかった。日本の勤労者層、中間層、低所得者層は全体として貧困化し、他方年収1億円以上の富裕者は増大し、格差が拡大した。

 大企業は最高益を更新しているが内部留保を増やし、国内ではなく海外に投資した。そのためこの30年、日本の生産性は上がらないままであり、日本社会は停滞した30年間を経ている。

 一方、菅政権はコロナ対策として「Go to トラベル」や「Go to イート」などのバラマキ政策を実施した。

 岸田政権はそれを引き継いでいる、エネルギー価格高騰にともない、22年1月からガソリン補助金制度で1日100億円をばらまき、電気・ガス負担軽減策も実施する。

 22年度予算は一般会計総額が107兆5,964億円(10年連続で過去最大を更新)、22年度補正予算が2兆7,000億円。第2次補正予算が29.9兆円。結局、歳出は総額約139兆円の大盤振る舞いなのに、税収は65兆円程度しか見込むことができない。残りはすべて借金、おもに国債で賄う。

 現代貨幣理論(MMT)と主張する学者は、米国がインフレとなってから姿を消した。「インフレにならなければ財政赤字は拡大してもいい」という論理立てなのだが、欧米がインフレになってしまったので理論自体の破綻が明白になった。債務は持続不可能、債務拡大は破綻することを、あらためて証明したことになる。

 2012年以降、大規模金融緩和を実行してきた日銀/黒田総裁は、金融政策の選択肢がなくなりニッチもサッチも行かない状態を作り出して、23年4月に退任する。

 当たり前だが、国債はいつか返さなければならないから、将来の世代が長期間負担しなければならない。原発の廃棄物と同じで、将来世代に負担を負わせるものだ。

 それ以上に、債務拡大は日本社会の破綻をもたらす。今の日本社会は、国家債務を増大させれば近い将来、破滅に近づくという「真実」に、誰も気づいていないかのように振る舞っている。与野党を含め多くの議員が減税やバラマキを主張し国民も歓迎している。政権周辺の関係者に利益配分するという旧態依然とした政治が行われ、明らかに破滅へと進んでいるにもかかわらず、目先の利益の確保をやめることができない。

 日本経済と日本社会はきわめて危険な爆弾を抱えている。岸田政治はこれに対処しない/対処するつもりもまったくない、きわめて危険な政権であることがあらためて明らかになっている。

 旧統一協会の問題、原発新増設・エネルギー転換の課題、軍備倍増……など、岸田政治には多くの問題点があり、それらはほかの人が指摘し批判していると思うが、岸田政治の推し進めるバラマキ財政、債務拡大の危険性についてあらためて指摘しておきたい。(12月2日記)

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日本経済 沈没か?! [現代日本の世相]

日本経済 沈没か?! 

1)金融緩和の終了、世界経済の転換
 
 コロナ禍で需要が収縮し資金調達が困難となったので、20年3月以降、各国の中央銀行はともに金融緩和し資金を市場に流入させつづけ、各国政府は国債発行の資金で巨額の財政政策をとってきた。

 21年に入りコロナ禍からの需要回復によって、世界的に原材料価格、エネルギー価格が上昇し始めた。一方、米中対立による世界経済分断も重なり、部品・材料・エネルギーなどの調達に困難が生じるとともに「二重」の投資が必要となり、コストアップと供給不足からインフレを一層高進させた。

 その結果、欧米中などは経済は回復しつつあるものの、インフレが定着した。
 特にアメリカのインフレが顕著だ。米消費者物価指数は21年10月6.2%、11月6.8%上昇を記録した。
 インフレが一時的なものではないと認め、局面の転換であると判断した米FRBは、金融緩和終了(=テーパリング)を、22年3月からに前倒しすることにした(FRBが毎月1,200億㌦購入してきた米国債を21年12月から月300億㌦ずつ減らし、22年3月にはゼロにする)。22年3月以降の金利上昇を想定している。

 欧州もインフレが定着している。21年11月ユーロ圏の消費者物価上昇率は4.9%、英国5.3%。欧州もまた金融緩和終了を視野に入れている。

 そのため、欧米など主要国は、金融正常化へ動かざるをえない。物価が上昇すれば、保有している金融資産は減価する。物価上昇以上に金利をあげなければ、金融機関・銀行は業務を続けられない(=損をする)。しかし、いきなり金利を上げると、高金利で資金調達してきた産業・企業や、財政基盤の弱い多くの中小企業などで経営破綻、倒産が出る。これが続くと連続倒産となり、場合によっては、市場から資金が引き揚げられ、これまで金融緩和でじゃぶじゃぶに資金が注入された「高揚した経済(=バブル)」は、金融恐慌となって瞬時に世界をとらえ、一挙に崩壊へ向かうことになる。

 欧米などの主要先進国だけではない、その影響は、欧米などの先進国から世界中に投資された資金は、回収へと転換する。資金引き上げが起きれば、まず新興国経済で影響が顕在化するだろう。

 したがって、崩壊しないように、様子を見ながらゆっくり金利を上げていかざるをえないし、可能なら成長を考慮し2%以上の金利にはしたくはない。「金融緩和からの出口戦略」は細い道筋のようである。

 中国経済も、恒大集団の破綻が伝えられており、不動産を中心に、投資引き上げ・債務縮小の調整局面に入っている。中国の金融資産の約25%は不動産産業と言われており、中国経済全体も影響を受ける。どれくらいの期間かかるかはわからないが、調整が終わるまで、これまでのような巨大投資は控えることになるだろうから、成長も少し鈍化した時期が続くだろう。ただ、経済成長しているので、調整は相対的には早く終わる可能性は高い。

2)出口戦略を描けない日本経済

 欧米中などがコロナ禍からの回復過程で経済成長しているのに、日本経済はほとんど成長していない。そこに「差」が現れてきている。日本経済は1990年代以降、30年間低成長を続けている。成長力がないのだ。

 2021年年初1㌦=104円台から始まり21年年末には115円を窺うようになった。対ドル▲9%以上安くなっている。一部の新興国通貨よりも下落率が大きい。主要通貨のなかでは最弱の通貨となっており、円の弱さが世界で際立っている。

 株価は、今年に入り欧米中と同様には回復せず、日経平均は28,000円台のまま。1989年末につけた最高値38,915円の8割の水準。一方世界の主要株MSCI全世界株式指数はこの同期間で5倍以上になった。資金の流れに変化が窺える。

 世界経済に占める日本のGDPは、1994年には約18%だったが、2018年以降は6%を切り、コロナ禍からの回復過程でさらに下がっている。

 これらの現象は、日本経済の存在感が薄くなっていることを示している。日本経済はこの30年低迷を続けてきた。根本的には、ノベーション力が乏しく、労働生産性が上がらず、その結果、経済成長率が低いままなのだ。

 日銀の異次元緩和、政府の財政政策は、あくまで危機を回避するための一時的処置でしかない。しかし、アベノミクスはこれを10年も続け、常態化させた。

 これを続けたことで、日本の多くの企業はこの30年間、金融緩和の継続と政府の財政政策を望み、政府・日銀はそれにこたえてきた。これが当たり前になり、成長する産業・企業は現れず、旧態依然の企業が存続し、その結果、政府債務が積み上がり、日本経済は全体として埋没しつつある。

3)アベノミクスは何をした?

 アベノミクスは、
① 大規模の金融緩和・財政政策を続けてきた。当面の危機を回避するための金融政策を、10年間も続けてきた。「金融緩和・財政政策」は需要の「先食い」である。「モルヒネ」を長期投与し続けてきたようなもので、その結果、日本企業はイノベーションをせず、産業の革新もなく、旧来タイプの事業、会社をそのまま存続させてきたのである。

② そのため、市場も企業も、政権周辺に群がり、日銀の金融緩和と政府の財政政策への依存体質になった。

③ 海外勢は日本市場からは距離を置き、国内の金融資本・大企業は日本市場をあきらめ企業買収や証券投資などで海外に逃げ出してきた。ソフトバンクの「10兆円ファンドⅠ」を見たらいい! 投資先に日本企業はない。「革新を起こす企業は存在しない」という判断がそこにある。

④ バブル以降の30年間は、財政・金融政策頼みで、企業は労働生産性をあげることなく、新産業への積極的な投資をしなかった。正規から非正規へ切り替えて、女性・高齢者・外国人などの不安定雇用低賃金労働者を増やして、旧態依然とした事業を継続してきた。その結果、賃金は上がらないままの状態が続いた。30年間ほとんど賃金が上がらず、2019年、日本の平均賃金は韓国の平均賃金を下回った。成長率の差から、今後さらに平均賃金の差が開くだろう。

⑤ 政府の借金は、1,200兆円を超え、日銀の総資産(というより借金)は10年で5倍に膨張した。同時に、東証一部では、日銀が全体の2割を保有する最大の株主になった。成長しない日本経済の株価は、「実力」というより、日銀によって買い支えられている。

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<2000年からの各国の成長率と賃金上昇率 2022年1月1日 日本経済新聞>


 要するにアベノミクスは、日本経済の問題点の解決をせず繰り延べし、政権の周りの旧来の既存企業を延命し、成長戦略(=①原発・高効率石炭火力発電所の輸出、②カジノ誘致、③加計学園・・・)は失敗し、金融緩和からの出口戦略を描けないまでに債務を拡大した。成長戦略の内容が極めてひどい。これが安倍・菅・岸田政権の思いついた戦略(?)なのだ。イノベーションに必要な教育費、科学技術費を削った。

 日本経済の再生は、一時的な政策によってなされるものではない。長い時間をかけエネルギー転換・温暖化防止に対応した産業転換、持続したイノベーション、継続的な労働生産性向上をし続けなければ実現できない。アベノミクスは目先の利益、目先の対応に終始し、この点でも世界から遅れた。

 岸田政権の財政政策もまた、アベノミクスさながら「モルヒネ」を注入する同質の政策が基本方針だ。政権周辺の既存の企業の都合にしたがって財政を投入している。その「効果」が怪しい。当初掲げた富裕層への金融課税はすぐにおろした。「新しい資本主義」を掲げたが、何が新しいのかがすでにわからない。看板は変わったが、中身は同じだ

4)世界経済の激変は日本経済に何をもたらすか?

 欧米の突然の物価高・インフレは対岸の火事ではない。すぐに日本経済にも波及するだろう。すでに資源価格高騰し、円安もあって輸入価格は上昇している。さらに円安となれば、22年年初から確実にインフレがやってくる。

 米FRBが金融引き締めの方向へ政策転換を表明し、グローバルマネーの逆回転(投資から回収へ)が始まろうとしている。

 米日で金利差が出てきているし、金利差はさらに拡大するだろう。そうすると円はこれから流出する。投資資金は日本市場ではなく、海外市場へ向かう。

 日本経済のトリプル安(=株安、円安、債券安(金利高))が、すでに起きているが、近い将来、定着すると想定される。

 トリプル安は、日本経済と日本企業の力が衰退していることの表われである。コロナ禍を機に顕在化したということだろうか。

 欧米中は金融正常化(=金融緩和の終り)へと舵を切りつつある。
 しかし、日本だけは出口戦略を描くのがきわめて難しい。円安とインフレを止めるには、短期的には金利をあげなければならない、しかしそうすると財政赤字が急拡大する。なぜならば、日本政府は約1,200兆円もの債務を抱えており、金利が上がれば、例えば1%上がっただけで、金利12兆円(元金ではなく金利だけ)を、毎年支払わなければならず、国家財政は破綻に一歩近づく。2%なら、24兆円である。

 日本は、税収が約65兆円(21年度)なのに、支出する国家予算(22年度)は107兆円であり、足らない分は国債で賄ってきた。30年間、これを続け国債への依存度を高めており、破綻に近づいていることになる。

 莫大な債務を抱える日本経済は、インフレにきわめて弱い体質になった。日本政府・日銀は、政府が破産しないために超低金利政策を続けるしかない、とすれば、金融緩和からの「出口戦略」をとることが、極めて難しい、ということになる。いずれ「いつまで続けられるか?」という問題にも当面する。それが今なのか? もう少し後なのか? 起こってみないとわからない。

 日銀は、まず異次元緩和からの出口戦略を明確に示す必要があるのだが、誰が総裁になっても「出口戦略」を提示できそうにない。黒田東彦総裁の異次元緩和の「おかげ」だ。危機繰り延べの手段であった「金融緩和」を異次元レベルで実行したので、もはや採用しにくくなっているからだ。

 この先どうなるのだろうか? インフレ対策として金利を上げることができなければ、スタグフレーションを引き起こすのではないか? 想像するのが恐ろしい。

 この30年間日本経済はゆっくり沈没してきたし、そのことは多くの日本人が何となく感じている。コロナ禍の混乱と回復過程で、この沈没のスピードが加速しかねない局面に当面している。

 どういうふうな道筋を通って沈没するのかをあらかじめ予想しがたいが、日本経済破綻、日本沈没だけは、より一層確かなものになろうとしているのではないか!













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菅退陣!  腐敗・不正の自民党政治をやめさせよう! [現代日本の世相]

菅退陣!
腐敗・不正の自民党政治をやめさせよう!

1)菅首相、自民党総裁選に不出馬を表明
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<9月3日、菅首相>

 菅首相が、自民党総裁選に出馬しない意向を表明した。辞任だ。
 直前まで菅は辞めるつもりなどなかった。出馬を打診していた下村博文政調会長に「政調会長を辞めてからにしろ!」とすごんで出馬を辞退させた。この時にはまだ、彼の強引な政治手法は通用した。

 菅は、総裁選で再選されるのを前提とし、その前に党内派閥領袖の同意を得るために「二階幹事長切り」を含む自民党役員、閣僚人事を行い、総選挙に臨む積りだった。菅政権のなかで二階幹事長の影響力が目立つようになり、これに不満であろう3A(安倍、麻生、甘利)の歓心を得るために、「二階切り」を目玉に、河野太郎や小泉進次郎を加えた顔ぶれに代えて、事態を乗り切ろうとしたのである。

 しかし、横浜市長選の惨敗で、自民党議員の多くは恐怖した。菅が看板では解散総選挙に勝てない、派閥領袖や、選挙しか頭にない3回生以下議員から激しい反発をうけた。岸田前政調会長は幹事長を受けず、早々に総裁選への出馬表明した。菅があてにした3A(安倍、麻生、甘利)の甘利は、「総裁選前に人事を行うという前例のない事態には皆、理解に苦しむ」(時事通信)と反対した。この動きは当然安倍・麻生と連携している。安倍は「人事をやれば選挙に勝てるわけではない」、麻生も「閣内中は首相支持、2、3回生は違う」と菅を切り捨てた。これで菅の辞任が決まった。頼んだ議員には新役員人為を断わられ、3Aからも支持されず、菅の構想は破綻し万策が尽き不出馬に至っている。菅首相は、進んで辞任したのではなく、自民党内で引きずりおろされたのである。

 そもそも、菅首相は安倍首相退陣の後、「安倍路線の継承」で後継者になった。彼自身の党内基盤は弱い。「菅グループ」と称されるのは衆院15人、参院11人の計26人程度。

 細田派、麻生派の領袖、安倍・麻生は自己の影響力の行使のためには、今回は自派からの候補者を擁立せず、自己に忠実な人間を支持する立場をとることにした。キングメーカーのつもりだ。菅ではない別の人物に代えることにしたが、自己に忠実な人物を支持する対応は菅辞任後もまだ変わっていないようだ。

2) 菅首相の不人気、コロナ対策の失敗

 菅に人気がない最大の理由は、コロナ対策の失敗である。国民の多くに「こんな首相に政権を任すことはできない」と嫌悪感が広がっている。

 コロナ感染症対策の基本は、①検査と隔離、②病院・医療体制の拡充、③正しい情報の発信であるが、この1年半、菅政権は何もやってこなかった。大規模なPCR検査はせず、1年半も経つのいまだに医療崩壊を起こし、ワクチン確保は遅れた。政府・厚労省と専門家は自分たちの失敗を決して認めない。いくら言っても菅政権には国民の声が届かない。台湾、ニュージーランド、豪、中国などのコロナ対策成功例があるのに、その真似さえしない。日本は世界のなかのコロナ対策失敗国となった。

 もちろん、これは菅政権だけの責任ではない。五輪を優先した安倍前政権の責任でもある。率直に言えば21年7~9月の感染拡大・医療崩壊は、五輪を開催したからだ。しかし、菅政権・厚労省はその事実をかたくなに認めない。五輪実施により人流がどのように増え感染拡大したか、実態を無視するばかりで、調査せず把握しない。感染拡大を「デルタ株のせい」にして逃げている。正しい情報を発信しない、責任は一切とらない、言葉がうそで心に響かない。「そんな菅首相には安心・安全を任せられない」という嫌悪感が国民に広がった。

 パラリンピックへの小学生の引率・観戦を教育委員会が決め実施し、感染者が出た。教育委員会は、政府や県上層部の顔色しか窺っていない。愚かな政治が行われ、これに黙って従う教育委員会・公務員やメディアばかりだ。どうしてこんなことにまでなるのか!

 これは安倍政権を継承した菅政権の政治手法の結果である。官房長官のときから、「懐柔と脅し」によって批判を封じ、強引に実施してきた。

3)菅首相に「がんばった」「かわいそう」と同情論噴出!
辞任したとたん権力者を許す「世論」

 ところが、こんな無責任かついい加減な菅首相が退陣を表明したとたん、擁護する声が上がっている。その筆頭がホリエモンこと、堀江貴文。YouTubeチャンネルで「歴代首相の中では非常に優れた首相」と絶賛した。コロナと五輪で大儲けした新自由主義者・竹中平蔵も評価した。菅首相を擁護しているのは、利権でオイシイ思いをしてきた政権周辺の人物や新自由主義者なのだが、そればかりではなくネット上では菅首相に対して、「頑張った」「お疲れさまでした」などとねぎらう声があふれている。(Litera、9月6日)。むしろ、意図的に世論がつくられているととらえるべきだろう。安倍がやめた時にもネット上に同様の書き込みが広がった。こういうフェイクニュースを流す仕事をしているグループがある。

 いまや、新聞はもはやほとんどの人が読まない。新聞には得るべき情報はすでにない、近い将来消えていくだろう。テレビにはさらにない。テレビのニュースは、政治色をことさら消した、政権を忖度した情報、結局のところ現実の問題に触れないで、いかに避けるかの報道しかない。えらいこと薄まったことしか喋らないアナウンサー、ジャーナリストばかりが毎日出てくる。そんなものはそもそも不要だ。それ以外は、製作費を極度に削減した何の価値もないクイズ番組やお笑い芸人の無理やりの笑いばかりだ。テレビというマスメディアは自殺しつつある、自分でその役割をおえようとしている。

 ネットでは多くの人が、自分の狭い関心を手がかりに自分の興味だけに従った情報を集める。「狭い関心」によって、情報のガラクタを集める危険性がそこに生まれる。よほど意識しなければ、「ガラクタ」だと自覚できなくなる。「仲間が大勢いる」という気分になり、自分の関心がいかに狭く危ういか、現実をきちんととらえていないか、に気がつかない。ということが起きている。人々は孤立すればするほど、ネットの影響を受け、こういうことが起きやすい。私たちはあらためてリアルな人と人とのつながりを求め、議論と行動のなかで、批判し対抗する新しい人々の関係をつくり上げていかなくてはならない。

4) 表紙の取り換え=自民党総裁選、
メディアジャックが始まる


 菅辞任表明により、9月29日自民党総裁選、11月総選挙となる見込みだ。自民党の戦略ははっきりしている。「政治は変えることができないので、表紙だけ変える」。

 この先、9月29日の自民党総裁選まで、TVワイドショー(『ひるおび』)など)メディアが報じつづけるだろう。「メディアジャック」がすでに始まっている。この光景には、既視感がある、1年前にすでにみた。「2世3世ではない議員、たたき上げの政治家・菅義偉」として連日メディアで宣伝し続けた。安倍の表紙を代えただけの菅新政権は、発足当初70%を超える支持率を得た、そのことを思い出さなければならない。

 すでに、河野太郎、岸田文雄、石破茂、高市早苗など総裁選候補の名前が挙がっており、「人気投票」の様相を呈している。自民党政治を変えないままの「人気投票」に流されてはいけない。

5)自民党政治をどうしたら代えられるか?

 この30年間、構造改革・政治改革・小選挙区制導入の結果、経済は新自由主義で格差は拡大し、貧困層が増えた。外交はアメリカ従属、国内政治は政治主導という名の官邸主導の政治が生まれた。モリカケ桜の腐敗と不正、無責任な政治が続いた。菅政権は、発足してすぐ学術会議会員任命を拒否した。オリンピック開催イベントに集まった文化人たちは、政権に吸い寄せられるだけあって、その「文化」レベルは、安倍や菅と同様の酷かった。

 日本の政治は、安倍や菅が首相になるという「愚者が支配する政治」となってしまった。議員といえば2世3世が溢れ、この政治家たちのボスが内閣人事局を通じて、各省庁を支配し、「愚者の政治」(金子勝)をつくりあげてしまった。

 公安警察官僚出身の杉田和博・内閣人事局局長が、大量の官僚を監視し従わせている。前川喜平元文科省事務次官退任のいきさつでその手法が暴露された。内閣人事局による人事を通じた本省支配によって、大多数の忖度官僚が生まれている。総務省+電通を通じての支配は菅がやった。経産省出身の今井尚哉元内閣総理大臣補佐官は、原発の事故隠しをやってきた。こういう政権運営の仕組みこそが、愚かな政治家が首相になり、腐敗や不正をしても隠して責任をとらない、コロナ対策では失敗続きでも少しも改まらない、こんな日本にした元凶に他ならない。

 この仕組みをどうやったら変革できるが、とても重要なことで、総選挙の争点にならなくてはならない。私たちはそんな自民党政治をやめさせることを考えなくてはならない。総選挙は、刷新のチャンスでもある。

6)私たちが求めるのは、政治の刷新

 多数の主権者は、いまの政治の刷新を求めている。総選挙は表紙を代えるだけの「人気投票」の終わらせてはいけない、総選挙は政治を刷新する機会にしなくてはならない。

 私たちの求める政策は、下記の通りであり、この政策を実行する政権を求める。
①格差是正、共生の経済政策。非正規社員の正規化、最低賃金の引き上げなど。
②脱原発。放射性廃棄物を未来の世代に押し付けるな! 原発の発電コストは太陽光風力よりも高い。高くて危ない原発をやめてほしい。 
③平和主義の堅持、辺野古新基地の見直し、米国の言いなりはやめてもらいたい。

 この先2ヵ月、イロイロ起こるだろうけれど、腐敗した自民党政治を続けさせてはいけない。政治刷新を実現できる政府をつくりあげるために、総選挙に向けて野党にはぜひその態勢を整えてほしい。(9月8日記)

















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三度目の「緊急事態宣言」―この一年間、何をやっていたのか? [現代日本の世相]

三度目の「緊急事態宣言」発令
---この一年間、何をやっていたのか?


1)首相、自治体首長、医療界は、この一年何をしていたのか?

 政府は、4月25日~5月11日まで、3度目の「緊急事態宣言」を発令した。
 これは同じことの繰り返しだ。2度目の緊急事態宣言を解除したのは21年3月、わずか1ヵ月でまた「緊急事態宣言」。首相、日本政府、自治体首長は予測さえしていなかった。わずか1ヵ月先が見通せない姿を見せられるのは、腹立たしい。こういう為政者を、私たちが頭の上に抱いていることが、実に腹立たしい。

菅首相.jpg
<菅義偉首相>

 首相、自治体首長、そして医療界は、この一年何をしていたのか?
 政府は、この1年間のコロナとの戦いを経て、次に予想されるシナリオを想定し、対策案をA,B,Cと用意していなければならない。なのに3度目の「緊急事態宣言」発令によって、何も用意していなかったことが暴露された。毎日の患者数に一喜一憂し、その都度「あわてて」対応しているに過ぎない。

 第4波が来れば、かならず重症病床からあふれる患者が続出し、死者が増大する。21年1月~2月に私たちが経験した。その同じことが今、目の前で繰り返されており、大阪ではすでに医療が崩壊し死者が急増している。(大阪府:4月29日の死亡者が44人と過去最多、5月1日の死亡者も41人)。

 吉村知事が自慢していた「大阪方式」はどこへ行ったのか? 

2)3月18日、解除にあたり政府が掲げた「5つの柱」

 3月18日、政府は「緊急事態宣言」を解除するにあたり、「5つの柱」を掲げた。
 「5つの柱」を、現時点での成果を点検すると下記のようになる。

①「飲食を介する感染の予防」 ⇒ 何も効果を上げていない。
②「変異型の診断を40%以上に」 ⇒ 未だ30%程度しか診断できていない。
③「積極的モニタリング」 ⇒ これもできていない、失敗。
④「ワクチンの早期接種」 ⇒ そもそもワクチンを確保できていない。
⑤「医療体制の整備」 ⇒ 準備されていない。大阪などはすでに医療崩壊している。

 宣言が解除された後、「5つの柱」のどれもできていないうちに、大感染の第4波を迎えた。

3)日本の医療がコロナに敗れている!
 感染症用病床・病棟の絶対数が足りない!
―-コロナ治療では、早期検査・早期治療を実施し、
重症化させないことが重要――


 コロナは感染してしばらくすると免疫暴走して重症化し死亡者が出る。早期にステロイド、アクテムラ、アビガンなどを処方すると軽症化することがわかってきている。「37.5℃以上の熱が4日以上続いたら(重症化したら)、初めて病院に行くこと」という当初の厚生労働省の指示は、治療としては間違っていたことが、いまでは明らかになっている。

 早期発見、早期治療で重症化させない――これが最新の知見だ。これを実行できる検査、治療体制が必要であるが、いまだに十分に確立されていない。早期に発見しても、早期に治療できなければ(入院できなくなると)、死者が急増する。今大阪府で起きているように。

 政府も東京都・大阪府も医療界も、第4波による医療崩壊と死者増大を、感染力の高い英国型変異株N501Yのせいにしているが、そうではない。早期検査・早期治療の医療態勢を準備してこなかったことが、根本の原因である。もはや「人災」だ。

 政府は何よりも効果的で効率的な医療体制を早急に再構築しなくてはならない。診療報酬の特例と国費の拠出し病床確保をめざしたのに、期待しただけの効果をあげていない。現行の診療点数による経営をベースにした医療態勢・病床の拡充・要請では、すでに対応できないことが明らかだ。

 もはや緊急事態である。災害が起きた時の対応をしなければならない。感染症用の病棟の絶対数が足りないのだから、中国政府がやったように日本政府が、重症者を集中的に治療する病床、回復期療養を担う病床、宿泊できる医療病床をもつそれぞれの病棟を、プレハブで(終息したら分解し再利用する)、東京ならオリンピック会場、大阪なら万博予定地に建て、無料で(もしくは一部無料で)診察・治療すべきだ。政府が主導し、予算を投入し設置すべきだ。医師や看護婦は自衛隊などから派遣し常駐させることが必要だ。(自衛隊は災害救助隊に再編すべきだ!)
 どうしてやらないのか?

4)コロナ対策はすでに世界で確立しているのに、
日本政府は実施していない!


 様々な経験-ー失敗、多数の死者など――を経て今、世界的に確立され、また実施されているコロナ対策は、下記の6点。

緊急事態宣言、ロックダウンなどの人の移動・接触を減らす。
PCR検査の一斉大量実施: 「抗体検査・抗原検査」とPCR検査の組み合わせによる感染者の発見
コンタクトトレーシングのアプリ: 感染者追跡アプリと迅速検査の連携による感染者発見と個別隔離
海外からの入国者の防疫態勢の厳格化
ワクチンを全国民に接種
医療態勢の構築:見つけた患者を隔離治療する感染症用病床(重症病床、中等病床、宿泊隔離病床)を政府が準備し、早期発見・早期治療を実施し重症化させない。

 日本政府、自治体のとっているのコロナ対策は、上記①~⑥のなかでだけだ。「外出自粛、マスク着用、三密回避」を、国民に要請するだけ。

②PCR検査
 簡易な「抗体検査・抗原検査」を地域ごとに広範に実施し、感染者が多いと特定した感染地域では住民全員にPCR検査を実施し、感染者を見つけ出し、隔離・治療する、特に無症状のスプレッダーを発見し隔離する。
 コロナ発生から1年以上経つのにいまだに実施しない。各国と比較しても極端に少ない。こんなことをしているのは日本だけだ。厚生労働省がPCR検査の一斉大量実施を止めている元凶だ!

 国があてにならないので、ソフトバンク、プロ野球など民間企業では自衛のため独自にPCR検査を行っている。島津製作所製の優れたPCR自動検査機は海外で活躍している。日本政府は採用しておらず稼働していない。

 その一方で、「五輪の選手には毎日PCR検査を実施する」方針が政府から出されている。日本国民にはやってこなかったし、やるべきでないと主張してきたのに。

③スマホアプリによる感染者トレーシング:
 まったく機能していない。アプリ作成を指示する厚生労働省にITの専門家がいない。業者への丸投げで、不具合が指摘されても改善しなかった。厚生労働省は責任を取らない。責任を取らされそうなのでアプリは利用しない現在の事態になっている。日本は司令塔である厚生労働省のおかげでスマホアプリを利用できていない後進国となっているのだ。

④海外からの防疫体制:
 日本は「ザル」状態。すでに英国型N501Yが神戸・大阪から入って関西圏を席巻し、さらに国内に広がり大騒ぎしている。防疫体制で失敗したことに対する反省・対策はないし、誰も指摘しないし、責任をとらない。インド株変異種の危険性は以前から指摘されてきたが、4月28日になってやっとインドからの入国者を6日間施設待機にした。これでも不十分、2週間は施設で待機してもらわなければならない。それまでは経済を優先した3日間待機だけ、しかも入国時検査はPCRよりも精度が劣る「抗原検査」のみだった。すでにインド株が入ってきているのではないか。
 誰がこんなことをやっているのか! 

 さらにはブラジル株、南ア株などの侵入も危惧されている。

 台湾、ニュージーランド、ベトナムなどの感染者の絶対数が少ないのは、厳格な入国検査を実施してきたからだ。

⑤ワクチン接種:
 ワクチン確保が他の諸国に比べ大幅に遅れ、接種率は未だ全人口の1%を超えた程度。かつ接種態勢も整っているかどうか「あやしい」。政府によれば、65歳以上への接種は、5月から始め9月までかかるという。全国民への接種が終わるのは年を越えるのは確実だ。

 したがって、ワクチン接種が全国民になされるまでは、②~④⑥を早急に実施すべきなのだが、これが一向に実行されない。日本政府は無為・無策のママ、国民は指をくわえてワクチンを待つだけ。

⑥医療態勢の整備:
 一向に進まない。政府や自治体首長は、国立病院・民間病院にベッド確保を「要請する」だけ。第4波で5月以降は死者が増えるだろう。

 大阪では重症病床が4月13日から埋まっており、重症化しても重症病床に入院できない。また、1.6万人にも及ぶ軽症患者、無症状者を「自宅療養」させているが、これは「療養」ではない。正確には「放置」だ。入院したい患者が入院できない、病院にアクセスできない、あふれているから「自宅」に「放置」する。容態が急変し死亡するケースも出ているし(大阪では、4月以降5月5日まで17人)、高い確率で家族に感染するのは当たり前だ。

 これらは日本の医療がすでに崩壊している証の一つだ。日本国民にはすでに生存権が保障されていない事態が生まれている。

 もはや緊急事態だ。これまでの医療システムに任せ、その拡充では間に合わない。災害が起きた時の対応をしなければならない。前述の通り、政府が専用病院・専用病棟を突貫で建設しなければならない。

6)政府の無策こそ問題

 上記の通り、政府の無策が問題だ

 ところが、無策をごまかすために、「第4波の感染は国民の自粛が足らないのが原因だ」と言っている。「自粛を呼びかけてきたが、できていない」と指摘する。尾身会長は「心のゆるみ」、小池都知事心の隙」論を述べている。「感染したら、自粛していない感染した者のせい、感染した奴が悪い」という理屈に誘導している。

 さらに政府・自治体・専門家分科会は、自身の無策の言い訳のためか、感染力の高い英国株N501Yのせいにしている。N501Yの侵入や感染拡大を予想し対策していなかったという反省はない。誰も責任を負わない。

 TVに出てくる専門家が少しも専門的な知見を語らない、政府の無策・政策の誤りを指摘し批判しない。N501Yがなぜ侵入したのか、責任はだれにあるのか、追及した専門家を見たことがない。一年前と同じことを繰り返している。国民をバカにしているとしか思えない。原発事故の時の「原子力学者」と同じだ。
 
7)こんな状態でオリパラをやるのか? 
  ――責任をもって決めようとしない政府・東京都――

 菅首相も小池知事も、何としてもオリパラを開催したいという野心が先にある、そのための「緊急事態宣言」だと各方面から指摘されている。実際のところ、指摘の通りなのだろう。すでにオリパラのために国民生活が振り回されている。

 世論調査によれば、国民の7~8割がオリパラの中止・延期を求めている。しかし、これが政治に反映されない。
 TVのワイドショーに出演する専門家・芸人・アナウンサーは、オリパラ開催しか言わない、国民のこの7~8割の意見を少しも反映しない。政府やスポンサーの意向にしたがって、へらへらと無責任にしゃべり、世論を誘導している。国民をバカにしている。

 4月9日、東京五輪組織委員会が、日本看護協会に対して「約500人の看護師を大会スタッフとして動員を要請」していたと、4月25日に「しんぶん赤旗」がスクープした。「参加日数は原則5日以上、早朝、深夜も含め、1シフトあたり9時間程度、無報酬」という。

 4月9日といえば、「大阪コロナ重症センター」では30床を運用するのには120人の看護師が必要であるにもかかわらず、70人しか確保できていないことが問題になっていた。そもそも、東京五輪を開催するにあたっては、期間中に医師・看護師が約1万人必要だとされてきた。それでなくても感染拡大で医療従事者の手が足りていないし、加えてこの先ワクチン接種も重なる。大阪府の医療崩壊に医師や看護婦を派遣できない現状なのに、オリパラには集めるのか? 集められるのか? 到底無理だと思われるが、政府も五輪委員会も判断しないし、責任を取ろうとしない。

 一方、ニューヨーク・タイムズは4月12日付の記事で「東京オリパラは3週間のスーパースプレダー(超感染拡大者)・イベントとなり、日本中、いや世界中に死と病を引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 現時点ではすでに、政府・東京都に対して、生存権を無視・軽視してオリパラをやるつもりなのか? という国民的なかつ世界的な問いかけが、投げつけられているのだが、これにも何もこたえない。オリパラ強行によって感染拡大と医療崩壊を起こし死者が出ても、菅首相も小池知事も組織委も責任がとれないことは、明らかなのだが。

 こんな事態だ、国民の生存権を理由にオリパラを中止しても、誰も文句は言わない。キチンとコロナ危機の実態を説明すれば世界中の誰もが納得する。

 なぜ何もしないのか、実に腹立たしい。何もしない政府、責任を取らない政府に、私たちの怒りは蓄積するばかりだ。もはや現在の事態に至ってはオリパラは中止すべきだ。何よりも国民の生存権を重視した根本的なコロナ対策の実施を求める。(2021年5月5日記)








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政府のコロナ対策無策で、日本社会は崩壊する! [現代日本の世相]

 政府のコロナ対策無策で、日本社会は崩壊する!

 20年、21年の日本政府のコロナ対策が「迷走」している。このままだと日本社会は崩壊する!
 日本政府の無策ぶり、無作為ぶりはあきれるばかりだ。長期的な見通しをもっていない、あるいは見通しを誤った。長期的な対策は何も準備していなかった。感染拡大に対する対策も準備もしていなかった。感染症対策特別措置法の国会論議を、感染者が急増した20年12月になって初めて始めるという「ていたらく」ぶりだ。泥縄(「泥棒を捕まえてから、縛るための縄をなう)という、ことわざ通りである。

 問題は、間違いを認めて修正できるかだが、できそうにない。
 21年1月に「緊急事態宣言」を発したが、「宣言」は「もっぱら国民が外出するな!」だけだ。2月7日までだが、到底、感染を抑えられそうにない。また、感染を抑え込むことができなかった場合の対策案は、果たして検討し準備しているのだろうか? それさえ明らかではない。おそらく何もないのではないか!

 20年2月にコロナ感染が始まり、すでに1年近く経過したが、これまで無策だった。ただ国民に「自粛を!」と叫んでいたばかりだったことが明らかになった。
 軍隊用語で言われるのだが、「(自軍に)馬鹿な大将を抱えていることほど恐ろしいことはない」(Literaより)、我々はまさにそのような事態のなかにいる。

1)世界にはコロナ対策に成功している国がある

 台湾・ベトナム・シンガポール、中国は市中感染をほぼゼロに抑え込んでいる。
 もともと、日本を含めた東アジアは、欧米、南米などに比べ、感染者の絶対数は少ない。その原因は不明だが、「交叉免疫」によるものではないかという指摘はある。かつて、おたふくかぜ、SARS、MARSなど熱帯夜亜熱帯地方に閉じ込められていた様々なウィルスが、開発などで開放され人に感染するように変異して生き残り、黒潮に乗って東アジアに伝搬してきた歴史があり、この伝搬してきたウィルスに対応し形成されてきた「免疫」が影響しているのではないか、という。いずれ時が経てば、その理由は明らかになるだろう。

 東アジア諸国でも、インドネシア、フィリピン、日本など多くの感染者を出している国々、地域もあるが、感染者の絶対数、感染率は、欧米などに比べまだ低いようである。

 成功した台湾・ベトナム・シンガポール・中国に共通するのは、東アジアであることに加えて、素早い一斉の検査、隔離の徹底、すなわち基本通りの感染症対策をとっていることだ。初期段階から、徹底してしかも素早く、クラスター発生の芽を摘んでいるところに共通点はある。その対応を、1月6日付の日本経済新聞が報じている。

台湾
 これまでの累計の感染者は、わずか56人。「水際対策」を厳密に実施し、成功した。海外からの入境者の2週間隔離を義務化している。

 スマホで行動履歴をオンタイム記録・表示するアプリを極めて効果的に利用した。隔離違反者は監視カメラでチェックする。違反すれば、最高100万台湾ドル(約370万円)の罰金を科す、新型コロナ特別条例を20年2月にすばやく制定した。20年12月に約8ケ月ぶりに感染者が1人でた。現在も監視態勢を継続している。

 台湾やシンガポールは、03年に流行したSARSの経験を生かしており、これまで感染症者の隔離施設・病棟を増やしてきた。

ベトナム:

 ベトナムも「水際対策」を徹底して厳格に実施し、成果を上げている。海外からの入境者の2週間隔離の義務化をしているのも同じ。

 加えて、市中感染が発生した場合、感染者の年齢や職業、居住地、直近の行動履歴などの個人情報を公表し、濃厚接触者をすぐに特定してきた。
 累計の感染者数は、約1,500人。

シンガポール:

 感染を抑えてきたが、一時、外国人労働者の間で感染が爆発的に広がった。しかし、これを抑え込んだ。最近は、市中感染がゼロの日が多い。

 その理由は、徹底した検査と濃厚接触者の追跡だ。人口570万人の同国で、累計のPCR検査数は540万回に及ぶ。専用寮に住む外国人労働者には、今でも2週間に1回の検査を義務付けている。大量のPCR検査を素早く実施し、感染者を見つけ出し隔離する点は同じだ。

 感染経路を追跡するスマホのアプリは、8割の普及率だという。


 これまで比較的感染が抑えてきたタイでは、20年12月にバンコク近郊の水産物市場で1,000人を超える集団感染が起きた。1月5日の時点の累計感染者数は約9,000人で、この2週間で倍増した。集団感染者の大半は、水産物市場で働くミャンマー人だったとされている。

 タイ政府の採る対策とその結果によって、どのような有効か、失敗する対策は何かが、一層明らかになるだろう。各国が注目している。

2)台湾・ベトナム・シンガポール・中国はどのようにして抑え込んでいるか?

 台湾・ベトナムは、徹底した水際作戦、初期対策によって、そもそもコロナ感染者を国内に入れていない。感染者がそもそも極めて少ないので、比較的容易に感染を抑え込むことができている。

 これに対し、シンガポール、中国は、いったん大量の感染者を出したものの、その後の「基本通りの感染症対策--素早く検査し、隔離し、治療する」によって抑え込んだ。感染が広がった後、抑え込んだ経験・対策は、極めて貴重である。

3)中国の感染症対策

 中国では、コロナ感染に対して、感染者の検査、隔離・治療、感染ルートの追究を徹底的に行っている。武漢でコロナ感染が明らかになった時、武漢市を封鎖し、2週間で900万人のPCR検査を実施し、1,000床の病院を数カ所、1週間で建設し、5.3万人の医療従事者(医師・看護師など)を他の地域から送り込んだ。

 この素早い、徹底した対策が特徴であり、効果を上げたことがわかる。

 20年夏、北京で生鮮卸市場を中心に368人の感染者が出た。その時も市場に近い地域を封鎖し、1週間で30万人のPCR検査を実施し、感染者の発見、隔離・治療を行った。スマホ・アプリで感染者の追跡も行っている。北京市内では買い物で店に入る際も、タクシーに乗る際も、地下鉄に乗る際も、スマホで自分の「健康コード」を読み取らせなければならない。感染者が出た場合、追跡を可能にするためだ。北京ではこの1ヵ月に数百万回にのぼるPCR検査を実施し44人の陽性者を確認した。(以上、1月19日、日経)

 21年1月、河北省石家荘市(人口1,100万人、北京の南)で、累計1,000人以上の感染者が出たが、当局は1月6日からの石家荘市を封鎖し、一斉に全市民対象にPCR検査を実施するとともに、1週間で4,000床を超える「感染者入院病棟」を建設した。石家荘市の感染を抑え込めたかどうかはまだ結果は出ていないが、効果を上げつつあるようである。

 中国政府に対策は一貫している。「素早く検査し、隔離し、治療する」という基本通りの感染症対策を実施している。方針は明確であり、実行する「司令塔」も存在し権限も与えられており、対策のための人員、予算は準備されている。どこかの国の政府のように「責任を持った司令塔不在で、小田原評定を繰り返すばかり」ではない。

 その結果、中国のコロナ対策は成功している。そのことは中国が経済活動を再開しているという別の面からも、証明されている。20年は、主要国すべてがマイナス成長だったが、唯一中国だけは2.3%成長を遂げた。21年は8%前後の成長すると予測されている。

4)日本政府はまともな感染対策を採っていない

 感染対策の基本は、上述の通り、「素早く検査し、隔離し、治療する」。これを実行したかどうかで、各国の感染対策を評価すればいいだけだ。

 感染拡大に悩む日本は、対策に成功した4カ国のうち、特にシンガポール、中国が成功した感染対策を、日本の実情にあわせて採り入れるのが、当然のとるべき対応である。「真似」をすればいいのだから、まったく経験のないところから対策するのに比べはるかに容易なはずだ。

 しかし、日本政府は、その真似すればいい対策を採用しなかったし、未だにしていない。

 各国では徹底したPCR検査が行われているが、日本はいまだに圧倒的に検査件数が少ない。1年の間に検査体制を拡充するチャンスはいくらでもあったが、今になっても「検査体制の拡充の必要性」についても、「拡充方法」についても、政府内の専門家の間でコンセンサスが得られておらず、拡充がすすまない。

 さらに大きな問題は医療体制の整備だ。コロナ感染者数は米国の70分の1程度である。日本は人口当たりの病床数が世界一だと、当初自慢していた。しかし、すでに医療体制が逼迫し、一部地域で医療崩壊し、21年1月には死者が急増した。

 厚生労働省をはじめ政府の医療専門家は、医療体制の現状を当然認識していたはずである。体制強化のために、なぜ手がうたれてこなかったのか。コロナ対策の司令塔である厚生労働省とコロナ対策アドバイザーリーボードは、何をしてきたのか。

 ここで想起されるのは、中国政府が武漢でコロナ患者専用の1,000床のプレハブ病院を、2棟、3棟を、1週間で建設したことだ。21年1月には河北省・石家荘市で4,000床以上の病院を1週間で建設した。

 なぜ事前に、専用病棟を建設し、より効率的に隔離と治療をしなかったのか?

 無為無策としか言いようがない。日本政府のコロナ対策とは、政府は何もしないで、一方的に国民に自粛を要請するだけだ。「マスクし、距離を採り、密を避け、できるだけ外出しないように要請する」だけだ。それも必要だが、政府としての感染対策が欠けている。

 そもそも「水際作戦」がきわめて「ずさん」で失敗した。そのため、容易に国内に入り込み広がった。ただ、こういう場合、いくつかの失敗が不可避なのは、理解できる。重要なのは、失敗を認め、厳重な対策にすぐさま転換することだ。水際作戦が失敗したなら、その教訓をくみ取り次に対処しなければならない。それをしなかった。

 「水際作戦」失敗のあと、感染の広がった地域を封鎖し、素早く対象となる全員にPCR検査を実施し、感染者を見つけ出し隔離しなければならなかった。これをしなかった。

 それどころかPCR検査については、厚生労働省、専門家会議(のちに分科会)は「大量に素早く実施しない」立場をとったし、現在でもその立場をとり続けている。

 また、感染状態には、段階がある。日本ではすでに感染は広範に広がっており、クラスター対策だけではすでに感染者を追いきれなくなっている。感染者のひろがりに応じた対策が必要だが、政府に対策はない。

 感染者はそのひろがりによって、例えば、
 ①少人数の「点」で発生している場合
 ②「線」で発生している場合
 ③「面」で発生している場合
 の3段階に分けてとらえことができる。その段階に応じて対策内容、態勢、準備、動員する人員・予算規模が異なるし、本来ならばそれぞれに対応する対策案が準備されていなければならない。

 「クラスター対策」は、「①「点」で発生している場合」、すなわち感染者が少数の場合の対応である。今では、感染経路不明者が50%を超え、しかも1日当たり、数千人の新規感染者が出るような事態となっており、「クラスター対策」では感染者を追いきれなくなっている。「追いきれない」ので21年1月になって政府は「クラスター対策」の縮小を決めた。他の対策に転換、代替えするのではなく、ただ縮小した。

 これまでの「クラスター対策」の実施状況、規模・人数、感染者の捕捉数・捕捉率、・・・などの結果は、一切報告されていない。対策としてどれくらい有効だったのか、投入する人員・予算などの資源量から、上げた成果は適切なのか、という評価もされていない。効果に関するデータは公表されていない。国民は、何が足りないのか、どういう対策が必要なのか、という判断ができない。

 日本政府は、感染状況に見合った対策・態勢(予算・人員、その他)をあらかじめ準備してこなかった。2020年1月に発生が確認されてから、10カ月以上の期間があったにもかかわらず、その期間を無駄に浪費した。

 20年12月に感染者急増を前にして、日本政府はただ、慌てふためいでいる状態だ。12月になってやっと感染症対策特措法の改訂へ動き出し、緊急事態宣言を発した。

 「緊急事態宣言」を実施して、感染が減らなければどうするのだろう。「更なる対策」についての情報は何も公開されていない。政府は、何の準備もしていないのではないか。感染対策には、感染状態・規模を想定し事前に、A案、B案、C案などの対策案に準備しておかなくてはならないが、そのような動きはない。日本政府はこれまで何も準備していなかった、現在もなお、準備していないのではないか。

5)感染対策が感染対策になっていない
--「無症状感染者」を捕捉しない!


 現在では、感染者のうち、無症状の感染者が大量に生まれている。ラグビーチームで感染が判明し、日本選手権が延期になった。バドミントンの桃田選手の感染が判明し、チーム全員の海外遠征が中止になった。相撲部屋でも発生し何人かが休場している。注目すべきは、そのほとんどは「無症状」だったことだ。無症状者は、本人が感染に気づいていない。だから、自発的にPCR検査にいかない。保健所に電話しても無症状者は検査はしない制度になっている。上記のスポーツ選手が陽性者と判明したのは、熱が出たからではない。日本選手権前に、海外遠征前に、相撲場所前に、PCR検査を実施したからだ。たまたま見つかったに過ぎない。

 全感染者のなかの「無症状」感染者の割合は、約20%前後であると推定されており、上記の通り、無症状感染者がウィルスをまき散らしている現状がある。すでに「無症状感染者」は日本社会に大量に存在し、日常的に非感染者と交わり、感染を広げているのは、明らかだ。しかし、政府には、無症状感染者を捕捉する対策は何もとっていない。これをザル、または無策と呼ぶ。

 無症状感染者を見逃し、感染者を徹底的に発見し隔離治療しない日本の感染対策では、この先もコロナ感染をなくすことはできないし、一挙に減らすことなど不可能だ。
 「無症状感染者」に対する政府の無策にはあきれるばかりだ。


6)日本には、科学ジャーナリズムが存在しない!

 問題なのは、日本政府ばかりではない。政府の無策を徹底して検証し批判する役割をメディアは果たしていない。今回の事態でわれわれが思い知らされた事の一つは、日本にはすでに科学ジャーナリズムが存在しないということだ。

 コロナについての情報は、きちんと公開されていない。
 日本に蔓延するウィルス・タイプは、どのような種類なのか? 変異型ウィルスは常に発生しているはずだが、その種類、割合さえ公表されていない。「RNAタイプの解析」(?)は、どこで誰がどの地域を対象に、いくつのサンプルで実施しているのか、その規模は適切なのか、その結果はどうなってるのか? 少しも明らかではない。情報は無為無策の政府に統制されている。日本にすでにいくつか存在するであろう変異型ウィルスに対して、ワクチンが果たして有効なのか? 誰がどのように調査しているのか?・・・すこしも明らかでない。 

 日本のジャーナリズムは、これら重要な問題、疑問を、決して追求しない。台湾、ベトナム、シンガポール、中国などでの感染対策の成功例も紹介しなければ、検討もしていない。「無症状感染者」之ひろがりについても問題を指摘しない。PCR検査態勢がいまだに拡充されないこと、コロナ専用病棟が不足していることについて、何をすべきかも指摘しない。 

7)どんな対策をとるべきなのか!

 例えば、シンガポールはどう対応したか? 感染者が発生した地域・宿舎に住む外国人労働者にたいする徹底したPCR検査を実施した。現在でもなお、感染者がいそうな地域、外国人労働者に対しては、感染者悲感染者にかかわらず、2週間ごとのPCR検査を実施し、感染者を徹底して見つけ出す対策を採り続けている。

 シンガポールのような感染対策(=PCR検査の一斉の大量実施)を、日本政府はなぜやらないのか? それをしなければ、感染者は漏れ出し、確実に地域・家庭に広がり、感染の根絶がより困難になることは、もはや誰の目にも明らかだ。根絶していない状態で「Go to トラベル」を発動すれば、すぐに感染者が激増することも、我々は経験から知っている。日本人と日本社会は大きな犠牲を払って、すでに学んだはずだ。

 それなのに、例えば、「東京の1日の感染者数が500人を切ったら、ステージⅢなので緊急事態宣言を解除できる、Go to Travelを再開できる」などと発言している。

 ほとんど、バカ者としか言いようがない。大変な努力を集中して感染者数を500人以下にしても、撲滅していないのだから、経済活動や「Go to Travel」を再開すれば、すぐさま感染者は急増し、ステージⅣ状態となり、医療を崩壊させてしまい、死者が急増することは、すでに明らかだ。

 コロナを抑え込んだシンガポールでは、必ずしも国民全体にPCR検査を実施しているのではない、感染者がこれまで大量に発生した、あるいはしそうな地域・人々・宿舎を狙い、集中的に実施しているのだ。対策は、状況に合わせて濃淡がある。感染対策、医療資源には当然のこと限りがあるから、有効に投入しなければならない。

 日本であれば、例えば20年7~8月頃、新宿区・歌舞伎町のホストクラブ、キャバクラなどで、大量の感染者が見つかったが、この地域を「封鎖」し店員・客を含め全員を対象にPCR検査を実施すべきであった。

 日本政府、東京都はこのような全員大量一斉のPCR検査の実施を決してしなかった。「法的根拠がない」と小田原評定に終始し、時間を無駄に使い、無策・無作為を通した。それどころか、「Go to Travel」、「Go to eat」で感染を拡大した。感染者の漏れ出しを引き起こし、他の地域への感染拡大をもたらした。

 早いうちに、感染者が少ないうちに、対策するのが効率的であり費用も少なくて済むるにもかかわらず、これをしなかった。そして、感染が拡大してから、どうしようと慌てふためいているばかり、というのが現在の状態だ。

8)医療崩壊、21年1月死者が急増した!

 テレビで医療崩壊を、連日報じている。
 コロナ感染しても、すでに感染者で病床が埋まり、入院するベッドも医療従事者も不足していて、これ以上の入院患者は受け入れられない状況になりつつある。21年1月に入って、急死する人が増えている。

 報じられている通りだろう。
 医療崩壊を防ぐためには、何としても感染者をこれ以上、増やさないようにしなければならない。

 こんな時に思い浮かべるのは、武漢で感染患者が増えた時、中国政府が1,000もの病床を持つプレハブ病院を、1週間で2棟、3棟と建設したことだ。後から聞いたが、この時同時に5万3千人の医師や看護師などの医療関係者を他の地域から武漢に派遣したと知った。20年2月、3月のことだ。21年1月には、石家荘市で4,000床以上のコロナ専用プレハブ病棟を1週間余りで建設した。

 日本でコロナ感染患者が出たのは20年2月だ。それから10ヵ月以上経っている。医療崩壊でベッドも医療関係者も不足しているという。例えば、中国のように1,000床ある病院を1週間とは言わないが短期間で建設できないものなのだろうか? 1,000床のコロナ専用病院であれば、医療関係者もより少人数で効率的に働くことができるだろう。十分な時間はあった。「病床が足りない」と、今頃騒いでいる。何と「先を見通せない」日本政府であることか!

 よく「中国は共産主義だからできた」と言う人があるが、中国のようにプレハブで隔離病棟・病院を建てることくらいは、「資本主義、自由主義の日本」にもできる。少なくとも「個人の自由」を侵害することにはなるまい。中国ができて、なぜ日本にできないのか? 費用は掛かるだろうが、すでに「雇用調整助成金」など莫大な予算を支出している。「Go to Travel」予算は1.3兆円確保している。感染対策に支出する予算の内容、中味が間違っているのではないか? 

 また、スマホのアプリを利用した「健康コード」の導入も少しもまったく進まない。個人の行動履歴を記録するので「個人情報の権利」を問題にしている。個人情報を利用させないようにシステムを工夫している台湾のアプリをもとに、さらに改善したものを検討すればいい。しかし、少しもそんな動きはない。

 日本は、コロナ対策において、現代文明に達していない。医療先進国とは言えない、コロナ対策「後進国」ではないか!

9)ワクチンに過大に期待できない

 今となっては、日本政府は、とにかくワクチンに期待するしかなくなっているようだ。
 ただ、ワクチンに過大に期待するのは、極めて危険だ。ワクチンによって、すぐさま感染を抑え込むことはできそうにない。

 いくつかの点で、疑問がある。

 効果の点で、そもそもワクチンの効果は完全ではないが、ファイザー製ワクチンは90%と報じられているのは喜ばしいことだ。

 副反応として、アレルギー反応が指摘されているが、重要なのはその発生割合だし、また副反応が発生した時の対処法の準備と効果の程度だ。アレルギー反応の割合が「小さい」としても、日本国民1億2,500万人に接種するのだから、事前に発生人数は予測できる。事の重大さの一端は、その発生人数でまず判断できるだろう。

 また、ワクチンを全国民に接種するため、どれくらいの期間がかかるのかだ。様々な試行錯誤をしながらになるだろうが、21年4月から国民の6割に接種すると10ヵ月はかかると言われている。

 それから、ウィルスは日々変異している。幾種類もの変異型ウィルスがすでに存在しているが、それぞれに対する効果はどうなっているのか? いずれワクチンが効かない変異型ウィルスが生まれることだって起こりうることも想定していなければならない。

 そして、最も重要なことはワクチンの効果は何ヵ月続くかという点だ。インフルエンザのワクチンは4ヵ月効果があるとされ、秋になると毎年接種している。コロナ・ワクチンの効果は、6ヵ月効果が続くという医療専門家の話をTVで聞いたことがある(詳細は不明)。

 集団免疫を実現するには、人口の6割以上に接種しなければならないとされるから、仮に効果が6ヵ月だすると、1ヵ月で1,200万人~1,500万人に接種したとして、半年で国民の6割から7割5分への接種が終わる。これを半年ごとに繰り返さなければならないことになる。(感染者数がどのようなペースで減少していくのか、詳しい数理計算は知らない)。これは、大変な事業だ。21年の接種費用は政府が負担する、国民は負担なしと報じられているが、仮に数年に渡るならば費用も随分とかかるだろう。ファイザー製のワクチンは、2回接種する必要があり、最初の接種から3ヵ月以内に2回目を接種しなければならない。おそらく、大量接種には向いていない。

 これらの困難から推定すると、ワクチンの効果が出るまでには、少なくとも「数年を要する」のではないか? ひょっとすれば、それ以上かかるかもしれない。そのあいだ、現在のような「ウィズ・ウィルス」の生活を続けなければならないのではないか。

10)1月14日のモーニングショー

 1月14日のモーニングショーで、コロナ対策提言したノーベル賞受賞者、大隅良典氏、大村智氏、本庶佑氏、山中伸弥氏の四氏のうち、大隅、本庶の二人がリモート出演し、「PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する」など提言した。

 提言は、下記の五項目。
 ①医療支援の拡充、コロナ専門病院設立
 ②PCR検査の大幅拡充、無症状者の隔離
 ③ワクチンの緊急承認
 ④ワクチンや治療薬の開発を推進する産学連携支援
 ⑤科学者の勧告を政策に反映させる長期的展望に立った制度の確立

 四氏の提言を聞いて、まさしく「その通り、適切な提言」である。賛成する。政府の感染対策がおかしいと考えるのが、むしろ「あたりまえ」であるし、四氏は提言で、政府の感染対策を批判し、感染対策の根本的な変更を求めている。「科学者の勧告が政策に採り入れられていない現状がある」という認識も示している。

 ネットを見ると提言に賛成の声が多いのだが、四氏に対する非難の声もある。「感染症専門でない老人がたわごとを言っている」という、まるで厚生労働省の回し者のような意見も多々ある。このことを知って改めてあきれたのだ。

 ネットの反応はともかく、重要なことは、日本政府が四氏の提言をまともに受け入れそうにないことだ。

 このようなことも含めて、日本政府は機能不全に陥っている。失敗と機能不全を認めず、感染対策の転換を実行できない。まるで、戦争中の日本の支配者と同じだ。

 間違いを犯しているのに、間違いを認めない、そのため正しい政策への変更や転換ができない。その結果、破滅まで突き進んでしまう。戦争を回避できずやめることもできず、敗戦と荒廃に突き進んだかつての日本の支配層と同じように、コロナ危機でも、どうも破滅まで突き進んでいきそうなのだ。
 政府の無策で、日本社会は崩壊する!

























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「安野 中国人受難之碑」建立10周年 [現代日本の世相]

 「安野 中国人受難之碑」建立10周年

 少し遅くなりましたが、10月17日、中国人受難の碑建立10終焉集会、10月28日、安野の「受難之碑」前での追悼会のことを報告します。




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<10月17日、講演する内田雅敏弁護士>

 10月17日(土)「安野 中国人受難之碑」建立10周年の集まりが、広島弁護士会館であった。

 あらためて和解成立までの歴史をたどり返してみると、いかに多くの人の努力が注がれまた協力があって、実現したかがわかる。日本政府・外務省が中国人の強制連行を認めない立場をとり、解決の障害になってきた。この障害を突き崩すため被害者・遺族と連絡をとり、裁判に訴え地裁で敗訴し控訴、高裁で逆転勝訴、その末である最高裁判決での敗訴にまで至ったものの、その「付言」を手がかりに「和解による解決」にたどり着いたその過程は、まるでドラマのようなのだ。日本の市民運動が中国の被害者・遺族とともに勝ちとったものだ。

 「受難の碑」は、こういった人々の努力と被害者・遺族との和解が詰まった「結晶」として、まさに安野の地に立っているとしか言いようがない、そのように思う。

 今年はコロナ禍で中国から遺族は参加できなかったそうだが、碑建立から10周年であり、これまでの闘いを今一度思い起こし、被害者・遺族との和解、追悼事業を継承していくことを、参加者はみな考えたのではないかろうか。

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<10月18日、中国人受難之碑前での追悼の会>

 10月18日(日)には、安芸太田町、中国電力安野発電所にある「中国人受難之碑」前で「祈念の集い」があり参加した。太田川を30㎞ほどさかのぼった中流域に位置する。

 当日は、晴れておりここちよい風が流れていた。「受難之碑」は少し高いところにあって、太田川沿いの坪野の集落を見渡せる。山あいの集落の神社の森には祭りの旗がなびき、日曜だからか野菜市も立つ。山はまだ紅葉していない。碑の背後には、落水式発電の太い導管が山肌に沿って屹立していて、導管のなかを水が踊り落ちタービンを廻す音が聞こえる。中国人労働者が掘った導水トンネルは今もなお使われており、この瞬間もなお生きて発電し続けている。

 碑の前での祈念のつどいなかで述べられた「継承する会」の足立弁護士や安芸太田町長ら皆さんの追悼の言葉は、かすかな風や水の音と、二胡のゆるやかな音色のなかに包まれて流れてくるのである。「受難之碑」も追悼もこの地に受け入れられ溶け込んでいるかのようだ。

 続いて近くの善福寺で法要があり、藤井住職は追悼や日中友好を通じて人々のつながりを深めていければ、と語られた。安野に強制連行された中国人360人のうち29人が日本で亡くなったが、善福寺ではそのうちの5人の遺骨を預かり弔ってきた、という。西松安野和解事業として2017年天津で行われた追悼に住職も参加され、遺骨は今では天津の記念館に安置されていることも話もされた。

 地元に住む当時中学生だった栗栖さんは、中国人たちが毎日、家の前を歩いて工事現場まで通う姿を目にしたという。44年夏、連れて来られた当初は「イー、アル、サン・・・」元気よくと掛け声をかけて通ったが、11月にもなると声から元気は消えた、十分に食べていなかったのだ、衣服は夏服の「着のみ着のまま」で、工事トンネル内にあふれる水で濡れ、さぞ寒かったろう、と証言された。

 アジア太平洋戦争末期に日本政府の国策によって多くの中国人が強制連行され過酷な労働に従事させられ、多くの人が亡くなった、こういう歴史の事実を忘れることなく継承し、被害者を追悼していくことを通して、日本の人々のあいだで、また中国の人とのあいだで、心のつながりを深めていく活動を続けていければ、と思った。安野の発電所がいまもなお生きて発電し続けているようにだ。

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<受難之碑の裏側にある安野落水式発電所の導管>







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安倍政権がもたらしたもの--それは「日本の凋落」 [現代日本の世相]

安倍政権のもたらしたもの---それは「日本の凋落」 

1)安倍政権の「負の遺産」とは何か?

①一言でいえば、「日本の凋落」をもたらした。
②成長が見込めないまま巨額の債務を次世代に持ち越した。
③中間層を没落させ貧困層を増大させた。不安定雇用労働者を増大させ、格差を拡大した。
④戦後75年経っても近隣諸国と融和できず
エネルギー転換に失敗し、
米中新冷戦に手をこまぬいている。
⑦コロナ危機で「政府が機能しない」危機が露呈したが、いまだに解決できない。戦中の日本支配層と同じだ、間違いが露呈しても、修正や転換がもはやできない。
 コロナ危機に対し、同じ東アジアの中国、韓国はすでに経済成長局面に入っているのに、無策の日本は経済再開で大きく出遅れている。

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<「欧米に比べ、一向に上がらない日本の賃金」 10月15日 日本経済新聞>


2)アベノミクスは何をもたらしたか? 

大規模な金融緩和は脱デフレのカンフル剤にはなったが、弊害が大きすぎた。金融を超緩和したが、2%物価目標は最後まで達成できなかった。そのあと、低金利に誘導し、地銀などの経営難を招いた。

② 日銀による大量の国債購入による財政ファイナンスに走り、政治に財政ポピュリズムが蔓延した。
 その結果、先進国最悪の財政危機(GDP比266%)に陥っている。2度の消費税率引き上げでも克服できない。コロナ危機の財政対策でさらに財政危機が拡大した。もはや抜け出せない

③ 肝心の成長戦略は空回り。労働生産性はOECD諸国で下位に沈んだ。コロナ危機で「IT後進国」であることが露呈した。したがって、コロナ後の経済成長が欧米に比べてさえ、鈍い、遅れている。

格差拡大、日本の賃金は一向に上がらない。
 富の「トリクルダウン効果」(滴り落ちる効果)と称し、当初大企業・富裕層を豊かにしたが、大企業・富裕層はその後、利益を滴り落さなかった。中間層・貧困層にまで行き渡らせるどころか、中間層を没落・貧困化させた。日本の賃金は一向に上がらない。大資本は内部留保・民間企業預金を増大させ、金融資本・富裕層は資産を増やした。格差拡大がいっそうすすんだ。

不安定雇用低賃金労働者層を増大させた。「女性の活用」と称してパートや派遣などの、年金支給を抑えるため高齢者層の、「技能実習生」制度によって外国人労働者などの、低賃金単純労働者を増やした。結局のところ、旧態依然とした「不安定雇用低賃金労働者層」を増大させた。そのことは「労働生産性」が上がらないこと、賃金が上がらないことと表裏一体である。

⑥「新エネルギーへの転換」に失敗した。安倍政権は発足当初から、原発推進・高効率石炭火力発電を推進したが、現在では原発・石炭火力共に未来はないことが明確になった。世界は再生エネルギーへの転換に向かっている。
 エネルギーの未来を見誤り、エネルギー転換に失敗した。原発は危険であるばかりか、コスト高で(1kW 発電するのに16円かかる)経済性がない、世界は脱CO2からESG投資志向を強めており、石炭火力事業者はもはや資金調達できない。風力発電、太陽光発電に世界は移行しているが、日本は大幅に遅れている。

3)安倍政権の「政治手法」と長期安定政権であった理由

大資本が安倍政権を支持したことが「長期安定政権」になった第一の理由だ。政権発足と同時に大規模金融緩和を実施し、大資本・金融資本の利益を保障した。これにより、大資本が安倍政権を支持した。大資本に責任がある。

②格差拡大、貧困化がすすみ、不安や不満は広がったが、安倍政権の「政治手法」で日本政府・自民党に対する批判から目をそらしてきた。

 すなわち国内外に「敵」をつくりだし、中国、韓国・朝鮮を非難する排外主義を煽り、国民を分断支配し、市民運動・市民団体に嫌がらせし、人事で官僚を統制し、マスコミを支配し政権に都合のいい報道に統制した、とともに、政権周辺とつながったネトウヨによる宣伝・攻撃を行い世論をリードした。これらの「政治手法」が、安倍政治を支えた。

 特徴的なのは、「」でTV・新聞などの主要メディアを支配し政権の影響下において巧妙に利用したことだ。これと並行し「」で、ネトウヨを政権影響下におき、政権擁護の情報の発信、政権を批判する人の人身攻撃を行った。ネットと孤立した個人との直接結びつきをつくり、世論を形成する手段を手にした。
 これは安倍政権が獲得したかつてない「政治手法」だ。非常に危険だ。

山口敬之レイプ事件、森友学園事件、加計学園事件、桜を見る会、河井夫妻の事件などで、安倍政権は己の腐りきった本質をさらけ出した。不正をはたらき、それを隠すために嘘をつき、その嘘を誤魔化すためにさらなる嘘をつく・公文書を改竄するという悪循環。

 それは一人の真面目な公務員(財務省近畿財務局の赤木俊夫氏)を死に追い込んだ。高い倫理観を持つ者が罰せられ、阿諛追従(あゆついしょう)して嘘に加担する者が立身出世を果たすところに、その特徴がある。アベノマスク配布の事業委託による利益供与もそうだが、事件の内容・レベルが、政権周辺の人物に利権を配るという極めて低劣なところに特徴がある。「政権周辺にいれば利権を得ることができる」と誘導し、議員・官僚・業者らは群がり従い、意識的に政権取り巻きをめざすという「絵に描いたような」腐敗政治を行った。

4)外交、米国・トランプとの蜜月 

①トランプの「米国第一主義」を容認追随した。米国利害をもとに外交を展開し、国際関係を混乱させ、WTOやWHOを機能不全に陥れたトランプ政権を押しとどめるどころか、追従した。

②2015年の安保法制制定により、「集団的自衛権」を理由に戦争のできる国にした。米国に従った戦争である。「集団的自衛権」とは米国の自衛権であり、米国の戦争にほかならない。
 米国のパリ協定やイラン核合意からの離脱、INF(中距離核戦力)廃棄条約の破棄など、世界の安全と平和を危険に晒したが、これを真正面から批判しなかった。広島・長崎の戦争における被爆国であるにもかかわらず、「核保有国の橋渡し役を務める(=米国の顔色をうかがう)」という理由で、「核兵器禁止条約」を批准しなかった。イラン包囲の「有志連合」に実質的に加わり、集団的自衛権を楯に自衛隊を中東に派遣した。

米国の中国包囲網に加わり、米中新冷戦を止められなかった。それどころか米に追随した。ASEAN諸国でさえ、米中等距離外交を推し進め独立的に振る舞っているにもかかわらず、日本政府はトランプ外交に追随し、米国従属を深めた。

徴用工問題での対立で、韓国への半導体材料・部材の輸出を絞って「いやがらせ」をしたが、結果、シェアを失った。貿易などを見ても2000年頃の中国、韓国の日本経済への依存度は、高かったが、日本政府の嫌中・嫌韓政策により、中国・韓国とも独立志向を高め、2020年には日本経済への依存度ははるかに低下した。同様に東アジアでの日本経済の地位は大きく低下した。(日本経済のGDP世界シェア:2000年14%、2019年6%)
※下記参照:「中国の貿易に占める各国・地域の割合」

国際社会で日本政府の地位と権威が低下した。日本政府の国際社会への発信・外交は、トランプ追随へと一層傾斜して「独立性」を喪失し、国際社会は日本外交への信頼と期待を失った。
 曰く「日本政府の立場・見解は聞かなくてもわかる!どうせ米政府に追随するのだろう!
日本は国連の安全保障理事国になりたいと表明しているが、支持しかねる。なぜならば、横暴な米国の票が一票増えるだけだからだ。

4)「政治手法」を継承する菅新政権

 安倍政権の「政治手法」を引き継ぎ、既得権益層の利益を守る政権であり続けるために、首班として菅が選ばれた。
 菅政権は、「日本の凋落」をもたらした安倍の二番煎じ、三番煎じだ。期待などできない。

 菅政権の性格は、上記の安倍政権の評価、特徴づけをベースに捉えて大きくは間違っていないだろう。したがって、批判の方向、内容も当面、同じで、当面は問題なかろう。


*******************************


 ※中国の貿易に占める各国・地域の割合 (2020年7月15日、日本経済新聞)
    2020年1~6月期        2000年
 1)ASEEAN: 15%(約32兆円)   1)日本  :18%
 2)EU   :14%        2)米国  :17%
 3)米国  : 11%        3)EU   :16%  
 4)日本  : 7%          4)ASEAN : 7%
 5)韓国  : 7%        5)韓国   : 7%


s-ASEAN貿易の中国への依存度.jpg

(文責:児玉繁信)









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映画『時の行路』を観る [現代日本の世相]

 映画『時の行路』を観る 

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<映画『時の行路』のチラシ>

1) コロナ禍の今を重ねて観る!

 2008-09世界金融恐慌では、世界的な金融収縮から消費市場も収縮し、過剰生産恐慌にまで拡大した。映画が描く日本の自動車会社で起きた「非正規切り」は、生産を縮小するため生産子会社の派遣労働者や季節工の大量解雇である。犠牲を押しつけられたのは派遣や季節工だ。

 コロナ禍の今、外出自粛で飲食業、ホテル・観光業、人相手のサービス業で多くの失業者や休業による収入減の人たちが大量に出ている。今も犠牲は、不安定雇用の派遣や契約社員、家族経営の小経営に押しつけられる。資本主義は10年余ごとに世界的な恐慌が襲い経済が収縮するが、その犠牲を転嫁する先はいつも決まっている。危機になれば弱者に犠牲が集中し、格差は拡大する。同じことが繰り返されている。そのような日本社会のシステムができ上がっている。

2)「非正規切り」の描写が滑稽なほどリアルだ!

 主人公、五味洋介(石黒賢)は派遣社員だが旋盤工として4年も働いているベテランであり、解雇される前には正社員の技術指導も頼まれるほどだ。洋介が「派遣社員が正社員を指導するのはおかしくないかぃ?」と問いかけると、職制は「派遣も正社員もない、同じ社員じゃないか!」と強く答える場面などは、後に起きる事件から考えれば偽善的言い回しと分かるが、実際にはあの通りなのだ。

 「経営危機」を理由に派遣社員が解雇されるとなった時、人材派遣会社は「次の仕事を紹介するから、退職届にサインしてくれ!」と強引に洋介らを説得し退職させるが、次の仕事などない。追及すると「不況だから紹介できる他の仕事などあるはずはなじゃないか!」と居直る。その場面に併せて、人材派遣会社の社長が「派遣の解雇を実行するのが自分たちの仕事です」と言わんばかりにミカド自動車総務課長にもみ手でペコペコして姿も重ねる。自動車会社―派遣会社―派遣労働者の、「合法的だが偽善的な関係」、「現代における奴隷制度」を鮮やかに浮かび上がらせる。まるで絵にかいたような場面だが、こんなことは実際には広く一般的に起きているのであり、これこそリアルな描写なのだ。 

 派遣社員とは不況の際に切り捨てる要員であることは、誰が何と言おうが決して否定できない日本社会の「真実」であることを映画は描き出してる。
 
3)だれにでも起きることだ!

 解雇された労働者が労働組合をつくって闘うことは、解雇された労働者たちにとってそれほど簡単ではない。誰にでも起きることであるにもかかわらず、裁判まで闘うことは誰にでもできはしない。洋介の家族のなかでも負担の大きさから「気持ちのずれ」が生じる。争議に駆けずり回る洋介は、八戸の家族に今まで通り仕送りができなくなる。息子は大学進学をあきらめ、漁師になり祖父と一緒に漁に出る。そういう状況でもありながら、洋介には不当な解雇を告発し闘う以外に方法がない。それぞれに抱える事情や気持ちの揺れも含めて、描き出しているところは映画のいいところだろうと思う。

 争議に奔走する洋介が、闘争のさなかに死んだ妻・夏美の八戸の実家を訪ねた時、義父(綿引夏彦)が「夏美もおめえも運がわりぃな」と呟いて、洋介を家に上げる場面がある。確かに運が悪いには違いない、だがそれは誰にでも起こりうるということだ、映画はそう主張している。

 洋介たちは裁判を起こし不当解雇を訴える。ミカド自動車は利益は減少してはいたものの黒字であり他社の比べ打撃は小さく解雇理由とはならない。ミカド自動車の内部資料を元に、解雇要件を満たさない、不当解雇と主張するも、裁判所はこれを認めない。地裁、高裁で敗訴、最高裁でも控訴棄却となり敗訴が確定する。

 実際のところ、このような敗北は現代日本社会ではよくあることだ。裁判まで起こして解雇不当を訴えるのは大変なことであり、当事者も支援者も労力を注ぎ込まなければならない。しかし裁判にたどり着いても、裁判所は決して労働者の味方ではない。そんな現実までリアルに描き出す。個人的な勝利を描いてハッピーエンドにしなかった、これも原作や脚本家、監督の主張なのだろうと思う。

 八戸から東京での争議に夜行バスで戻る洋介の横顔をアップで止めて映画は終わる。洋介にはまだ困難な闘いと生活が続くのだろう、それを暗示する。観た者は、八戸の五味洋介一家の不幸にとどまらない日本社会の多くの働く者の不幸であるこのリアルな現実を思い知り、暗然たる気持ちとなって、あるいは重い荷を背負い込んだ気持ちになって、映画館を後にするのだ。(文責:児玉 繁信)






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格差拡大は、安倍政権の「功績」 [現代日本の世相]

格差拡大は、安倍政権の「功績」
貧困化と格差を止めよう!


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<8月28日、安倍首相は辞任を表明。写真は会見する安倍首相。(2020年 ロイター)>
              
1)安倍が退陣した

 安倍首相が退陣した。首相連続在任日数を更新したので、目標を見失ったのかもしれない。
 この半年間の安倍首相の対応には、危機に際して自分の頭で考え、自分の言葉で国民に訴えるメッセージが欠如していることが、とくに鮮明になった。5月にコロナ感染症が一旦終息したかに見えたときに、安倍は「ジャパン・モデル」として自慢して見せたが、7月に第2波が起きてメンツはまるつぶれとなり、記者会見を開かなくなった。退陣は、政権を「放り出した」というのがより正確かもしれない。そもそも「リーダーとしての見識」がまったくない口先だけの政治家・安倍は、自分ではコロナ危機を克服できないことを思い知り、持病が悪化したかのように見える。コロナ危機は各国政府と政治家の「優劣」を暴き出したようだ。
 退陣の真相はどうでもいいが、安倍が退くのはいいことだ。

 安倍政権にはコロナ対策の司令塔が存在せず機能してもおらず、「無為、無策」のままだ。施策といえば「マスク2枚と10万円の給付金」だけだった。あとは国民にひたすら自粛を要請する。
 安倍政権はPCR検査数を絞り、非感染者と感染者を分けないで、全員自粛、3密を避ける、マスクせよと国民に要求するだけで、いつまでたっても終息しない。第3波、第4波・・・・がいずれ繰り返される。これでは経済再開ができない。「雇用調整助成金」や「Go toトラベル」(1兆7000億円)など、費用ばかりかけるものの効果のない、先の見えない対策しかできない。

 「検査・追跡・隔離」を実施することは感染症対策の基本だ。政府・厚生労働省は、PCR検査を大規模に実施するつもりがない。PCR検査をいかに大規模に、素早く実施するか方針と計画を語り実行する専門家は、少なくとも厚生労働省、専門家会議、分科会には一人もいない。日本のメディアも同様で、コロナ禍を通じ日本には「科学ジャーナリズム」が存在しないことも判明した。安倍政権の太鼓持ちとなるようなジャーナリズムが、「科学ジャーナリズム」であることはない。

 東京都医師会の尾崎会長は、拡充しない検査体制に業を煮やし、都内のPCRセンター設置を主導し、医師会として「現行法の中でできる対策を考える、国に頼ることは、もう諦める」(8月28日)とまで発言するに至っている。

 逆に、安倍政権の無策を指摘しPCR検査の拡大を訴える専門家は、おそらく安倍政権の周辺から人身攻撃される有様で、そんなことまでやるのかと思うくらいだ。確かにこれは安倍政権のこれまでの政治手法そのものだなと思い至るが、あきれるばかりだ。

 ただ、幸運なことに日本では欧米に比べ死者の数が少ない。おそらく過去に黒潮に乗ってやってきたであろうおたふくかぜ、SARSやMARSなどのウィルスに対する免疫が形成されていたため、死者が少ないのであろうと推測されている。いずれ理由は解明されるだろう。日本の指導者にとってはきわめて幸運なのだが、これを生かすことさえできなかった。人口10万人当たりの感染者数でいうと、日本は東アジアでフィリピンに次いで2番目に多いのだ。

2)コロナ後、日本はどうなるのか?

 日本経済は20年4-6月▲27.8%減(年率)となり、530兆円あったGDPは485兆円にまで減少し、2012年以前の水準に戻っている。米、欧州、インド、ブラジル等も同様で、コロナ感染症を抑えきれず経済活動は後退を余儀なくされている。

 そのなかで注目されるのは中国、韓国、台湾、シンガポール、ニュージーランドなどだ。徹底した大規模なPCR検査を「いつでもどこでも誰でも」を実施する態勢を構築し、感染者と非感染者を隔離し治療し、感染者を早期に無くし、国境での人の行き来は制限しているものの、経済活動を再開している。中国経済は20年4-6月期はすでにプラス成長に転じている。これこそ「with Corona」と呼ぶべきだ。日本のメディアはこういった諸国のコロナ対策「成功例」を少しも報じない。報じれば安倍政権への批判・当てつけになるからだろう。

 コロナ後、日本はどうなるのだろうか?
 コロナ危機への緊急経済対策として、各国中央銀行(FRB、欧州中央銀行、日銀など)は異次元の規模の金融緩和し、政府は財政出動を行っている。その結果、実体経済は落ち込んでいるのに金融経済は肥大化し、各国政府は財政赤字を増大させている。金融危機を回避するためとはいえ、実際には資産を持つ富裕層・金融資本の救済である。実体経済が落ち込んでいるのに株価や金融資産は逆に高騰している。コロナ禍で弱者は淘汰され、富裕層は救済される。そのため、コロナ後に生まれる世界は一層の「格差と貧困」となることは容易に推測される。

 1990年ころまでは「1億総中流」の日本社会といわれ、今と比べれば「厚みにある中間層」が形成されていた。この30年間、日本経済はほとんど成長せず、そのなかで雇用者数でいうと製造業労働者が減少し、より賃金の低いサービス業労働者、福祉・介護職がふえた。同時に、正社員が減少し,派遣社員・契約社員、パート・アルバイト労働者が増え、雇用条件と賃金は悪化した。そして安倍政権はとくに、旧態依然たる低賃金単純労働として女性労働者や高齢者の活用し、さらには外国人労働者(技能実習生)を増大させる政策を採ってきた。その結果、日本のサービス業の生産性は先進国のなかも断トツで低く、低賃金で旧態依然の企業が存続している現状をつくり出した。2019年には年収200万円未満の労働者は1,927万人(全労働者5,995万人の32%に当たる)にまでになっている。日本社会で貧困者が増えたのは歴然たる事実だ。かつての「一億総中流」から「格差と貧困の社会」となった。日本における格差拡大は、安倍政権の立派な「功績」なのである。コロナ禍はこの格差をさらに拡大しつつある。

 その「格差と貧困の社会」では人々のあいだで不満と不安が生じるのだが、人為的に敵をつくり、中国や韓国を非難し排外主義を煽り、人々を分断して惑わし支配する政治を行って「安定政権」を維持したのが、安倍政権の独特な特徴ある「政治手法」なのだ。
 人々を分断させ対立させる安倍政治はまっぴらだ。

3)貧困化と格差を止めよう!

 日本社会には、この先、大変革が必要だ。貧困化と格差拡大を止めなくてはならない。
 安倍政権のあとの政権には、安倍の政治手法を継承させてはならない。どのようにしたら格差社会を解消できるか、貧困層を少なくさせるか、教育と福祉を充実した社会を実現できるかが大きな課題となる。私たちにとって大切なめざすべき目標となる。

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コロナ対策 日本は、遅れが目立つ [現代日本の世相]

コロナ対策
韓国・台湾は、矢継ぎ早に対策
日本は、遅れが目立つ


コロナウイルスの電子顕微鏡写真.jpg
<新型コロナウィルスの電子顕微鏡写真>

1)韓国・台湾は、矢継ぎ早に対策、日本は、遅れが目立つ
 韓国・台湾は感染抑制のメドをつけ、欧州各国からも模範例として見られるようになった。
共通しているのは強大な権限を持つ司令塔を柱とした危機管理体制の周到さと、感染リスクへの感度の高さだ。
 一方、日本の国立感染研究所はこういった権限を持たず、感染症の科学的知見を十分に生かせていない。あるいは日本政府・厚生労働省は、対策実施の戦略を立て実行するうえでリーダーシップを発揮していない。

4月20日現在(日経、4月21日);
韓国の累計感染者数:1万600人、4月20日の新規感染者:13人
台湾の累計感染者数:395人、4月20日の新規感染者数:6人

 韓国政府、台湾政府とも「状況は制御できている」と表明している。コントロール下にあるので、韓国では、総選挙も実施できた。

2)韓国・台湾は、なぜ成果をあげられたのか?
 第一に、感染症対策法に基づいて矢継ぎ早の対策を実施する強力な司令塔の存在、
 第二に、コロナ感染対策の明確な戦略があり、人員と予算の集中的な投入がある。

 韓国では、省庁級で常設されている疾病管理本部が、感染症予防法に基づき、緊急事態に政府の各部門に対応を要請できる法的権限を持つ。
疾病管理本部: 予算720億円、人員907人
・感染者の濃厚接触者を割り出すために警察に協力を求めた
・食品医薬品安全庁には民間機魚が開発した検査キットの迅速な承認を働きかけた。
 ⇒ 通常1年かかる検査キットの承認手続きをわずか1週間で終え、2月4日には最初の緊急使用許可を出し、民間医療機関による大量検査につながった。

 台湾でも、衛生福利部(厚生省)疾病管制署を中心に省庁横断で設置された中央感染症指揮センターが臨時政府のような強大な権限を掌握した。
衛生福利部疾病管制署: 予算210億円、人員890人
 防疫のための必要な措置を実施できると定めた感染症防止法の基づき、・学校の休校、・集会/イベントの制限、・交通、・マスクの生産と流通の指示 など、市民生活の細部まで管理している。
 感染対策に従わない市民に罰を科す権限も持つ。海外から帰国した人が隔離措置に従わない場合、100万台湾ドル(約360万円)の罰金が科せられる。4月中旬までに約460人を検挙した。

 ちなみに米厚生省傘下の疾病対策センター(CDC)も強い権限を持つ。厚生長官は感染症拡大防止のため適切な手段をとれると連邦法で規定している。

 米厚生省傘下の疾病対策センター(CDC): 予算7,300億円、人員13,000人
 ただし、CDCは今回は初動に失敗した。WHOの検査キットを使わず、高い精度をめざして独自キットにこだわった結果、開発や製造に手間取った。国立アレルギー感染症研究所ファウチ所長も「我々の検査システムは当初、失敗した」と率直に認めた。(以上、4月21日、日経より)

 一方、日本はどうか?
 日本には感染症対策の司令塔は実質的に存在しない。感染の状況把握も封じ込めの戦略もない。
 誰が責任をもって戦略を立て、何を実施するのか、いまだに明確ではない。日本政府の劣化が目立つ。

 日本の感染症対策はこれまで厚生労働省の下の国立感染症研究所が主に担ってきた。
 国立感染症研究所: 予算62億円、人員362人

 国立感染症研究所は、業務の知見は示すものの対策の策定・実行の権限はない。
 政府は今回、臨時の組織を次々と設けて対応してきた。1月末に政府の対策本部を設けた時は根拠法もなかった。2月には同本部に「専門家会議」を設置し、感染研の所長を座長に任命した。

 一方で、2月末の安倍首相による小中高休校要請は専門家会議が要請したものではない。
 法的根拠ができたのは3月26日だ。改正特別措置法の成立を受け同法に基づく対策本部にした。緊急事態宣言の是非を評価する諮問委員会もつくった。諮問委員会会長は、専門家会議の副座長だ。臨時の専門家会議のメンバーを中心に対策をとってきた。チグハグさが目立つ。

 今後の感染症対策には権限や責任を明確にした体制が不可欠になるのだが、いまだ心もとない。
 どの様な戦略で、どの部門が、主導するのか? 何を目的にした対策をとるのか? いまだ明確ではない。

3)PCR検査・抗体検査を大規模にやれ!
 
検査で患者を見つけ隔離することは、感染症対策の基本だ。しかし、日本政府、厚生労働省、専門家会議は、PCR検査を絞ってきた。

 「ドライブスルー式」の検査は、
1)(病院外で検査することで)病院を守る、医療崩壊を防ぐ
2)大量の検査を可能にし、陽性患者を見つけ隔離する――ことを目的としている。

 ドライブスルー方式の検査体制の拡充は、韓国や米国でその実施が広がっている。韓国は検査を徹底し、感染者を隔離治療している。診断キットの迅速な開発と承認、投入を行った。そのことで感染をコントロール下においた。韓国と台湾のコロナ対策は国際社会で認められている

 厚労省はこれまでPCR検査・抗体検査の大規模導入・実施に導入に消極的であった。感染者を追跡しクラスターを見つけ経路を断つことに重点を置いてきた。PCR検査の実施数が極めて少なく、感染の全体をとらえることができなくなった。これまでのやり方が失敗したことが明らかになった。しかし、日本政府の「司令塔」は、失敗を認めることができず、なかなか転換ができないし、いまだにできていない。

 すでに新規感染者の8~9割が感染経路不明だ。クラスターを見つけ潰す戦略は失敗に終わった。
 「感染者を見つけ隔離する」ことは感染対策の基本なのに、これを実施しないで無駄に2か月浪費した。すでに感染は広がっている。

 日本のPCR検査数は海外に比べ極端に少ない。国内外から「流行を過少に見せようとしている」と批判が相次いでいる。

 米国でも大規模な抗体検査が始まった。人口のどれくらいの割合で感染しているか状況を把握するためだ。無作為に多数の人々の血液を採取し検査する。カリフォルニア州からはじめ、全米に広げる。(4月16日、日経)

 4月中旬になって、東京都医師会などは新宿区など都内20か所にPCR検査所を設置する方針を決めた(4月16日、日経)。

 これまでの日本政府のやり方、すなわち感染者が保健所の「帰国者・接触者相談センター」に電話し、指示に従い検査を割り振り、患者を収容する仕組みがすでに崩壊し、機能不全と一部の医療崩壊を起こしている。

 そのようななか、医師会によるPCR検査が始まった。検査所は「ドライブスルー方式」とし自治体と連携して設置し、保健所を介さないでPCR検査を実施する。
 
 この動きをみて、厚生労働省はやっと4月15日付で、「ドライブスルー方式」での検査実施を認める「事務連絡」を出した(4月15日まで認めていなかったのだ)。厚生労働省はこれまでPCR検査の大規模な実施には、「不作為」、無策を続けてきた。
 今年の2月にはすでにPCR検査の大規模実施が求められていたが、これを無視し続けてきた。感染症対策は時間との勝負なのに、2カ月間も時間を無駄に浪費したことになる。そのあいだにどれだけ感染が広がったか。日本政府の新型コロナ感染対策の「司令塔」は、不作為、無策を続けてきたのである。

4)厚生労働省はあくまで追認、遅すぎる対応

 ドライブスルー方式の検査は、すでに多くの国々で実施が始まっている。米国でも大規模に実施することになって初めて日本政府も追随する方針に変わった。やっと変わった。遅すぎる追認だ。

 しかも、あくまで追認である。日本政府、厚生労働省はPCR検査のドライブスルー方式を追認しただけで、自身が大規模検査を実行する主体ではないし、そのつもりもまだない。今回の方針転換も完全に後追いだ。独自で始めた医師会、自治体の動きの後追いしているに過ぎない。

 しかも、予算と人員を一気に投入しなければならないが、誰が責任をもって、どの程度の規模で行うのかもいまだ明確ではない。「医師会と各自治体の皆さん、頑張ってください」という立場だ。

 その証拠に厚生労働省の「事務連絡」は、自治体に対応を「お願い」するだけで、検査拡充に向けたリーダーシップをとる気配はない。

 日本政府、厚生労働省、専門家会議は現時点でも、いまだに感染経路の追跡を重視する方針を堅持している。追跡方式の限界を認め、検査の網を広げる方向にかじを切ることが急務だ。そのために人員と予算を投入することが急務だが、どのように動くのか、いまだに明確ではない。ただ、やみくもに「外出を控え、人の接触を8割減」と言い続けているだけだ。

 軽症患者を、病院とは別の施設、例えばホテルなどに収容することも、当初は厚生労働省は「感染症法」の規定から認めなかった。各国で別施設への収容が広がり、かつ国内で院内感染・医療崩壊が起き出してから、やっと追認し切り替えた。日本政府はきわめて遅い対応だった。

 科学的な知見を持って感染拡大を見通せる人が政策を立案・実施する司令塔にいない、あるいは見通せても政策実施の地位にいない。これは、日本国民にとって悲劇だとしか言いようがない。あるいは諸外国からは「滑稽な姿」にしか見えないのではないか!
 
 無策、無作為にあきれ果てる。なかなか望みが見えない。このような政府、厚生労働省、専門家会議に私たちの運命をゆだねてもいいのか!
















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「非常事態宣言」で果たしてコロナを封じ込むことができるのか? [現代日本の世相]

「非常事態宣言」で果たしてコロナを封じ込むことができるのか?

 4月8日、12日の児玉龍彦さんのyou tubeでのインタビューを聞いた。示唆に富んだ意見と思ったので下記にまとめた。文責はまとめた者にある。


p0818f9b.jpg
<新型コロナウィルス>

1)「非常事態宣言」で果たして解決するのか?

① 「非常事態宣言」は、ただ「ジッとして家に居ろ!」と言っているだけだ。
 政府は「ジッとして家に居ろ!」と指示するだけで、何もしていない。無策だ。
 クルーズ船での封じ込めに失敗した。公立小中高校の一斉休校も失敗に終わった。非常事態宣言も失敗に終わるだろう。このままではオーバーシュートは避けられないだろう。

 日本政府のやっているのは、闇雲に鉄砲を撃つ政策、イチかバチかの政策だ。成功する見込みや確証がない。現時点で取りえる最善の方策をとっていない。
 失敗したら、「接触を8割減らさなかった国民の責任だ」という言い訳が準備されている。

② 情報が開示されない。政府も東京都も情報を開示しない。

 政府の対策本部内に設置した「専門家会議」が、コロナ対策を提言しているようだが、何を討議したのか?少しも明らかにされない。「専門家会議」の議事録は公表されていない。どのように事態を評価しており、何を目的・目標としてどのような対策・方針をとったのか?の説明はない。 その結果どうだったのか?という評価もない。そもそも対策を実施した責任部門・責任者がだれかさえ明確ではない。

 「ダイヤモンド・プリンセス号」での水際作戦は、何をやって、どうして失敗に終わったのか?その評価がどこにも出てこない。失敗を学んで、次にどうするか?というプロセスを踏んでいない。誰も責任を負わないまま、ズルズルと同じ方策を続けている。

 2月末に安倍首相が「小中高の一斉休校」を実施したが、(これは「専門家会議」の提言ではなく、安倍首相周辺から出たものだというが)、このことに対する評価が出ていない。それは、目的通りの成果を得たのか? 明らかに想定を外れているようだが、その評価がされていない。何が足らなかったのか?何が想定を超えていたのか?それゆえ今先はどのような対策が必要なのか、どのような対策を実施するのか? 一向に明らかになっていない。

 闇雲に鉄砲を撃っているだけだ!

 「非常事態宣言」の発令も、その判断の根拠、前提が、国民には明らかにされていない。

 結局、誰が何を論議し、方針を決め、結果はどうなったのかが、明らかになっていない。
 誰も責任を負わないように、そのことだけは配慮されている。
 
 日本ではコロナ患者のデータが極めて少ない。世界中でもっともデータが少ないのではないか。何が起きているのかよくわからない。

 しかも政府や東京都は、把握した情報を開示していない。国民は何もわからない状態に置かれ、「家に居ろ!」と指示されているだけだ。
 日本のメディアは、そのことを追及しないで、政府情報を流しているだけだ。メディアの情報も信用ならない。

③ 世界では、コロナウィルス封じ込めに成功している国がある、そのやり方をなぜ導入しないのか?
 中国や韓国、台湾、シンガポールなどは封じ込めに成功している。

 中国はどうしたか? 
 武漢を封鎖した。膨大な検査を実施した。患者を徹底隔離した。プレシージョン検査を行い、患者を追跡した。それらを実行するために、他の地域から5.4万人の医療関係者を武漢に派遣した。隔離用病室を2,000床を1週間で建設した。中国政府が指導力を発揮し、短期間に莫大な費用と人員を集中して投入した。

 韓国、台湾、シンガポールも、この中国のやり方をほぼ踏襲し、完全制圧ではないにしても封じ込めに成功しつつある。

 韓国は病院ではなくドライブスルー型の大量の検査を行い、軽症患者はホテルや施設に隔離し、医療崩壊を防いでいる。きわめて適切なやり方だ。中国や韓国でできているのに、なぜ日本でやらないのか!

 日本では政府もマスコミも「このままでは医療崩壊してしまう!」と叫んでいるだけで、対策を実施しない。どうすべきかさえ議論したり報道したりしない。中国や韓国のような成功例があるのだから、それを導入すればいい。真似をするだけだ、簡単ではないか! なぜやらないのか!

 いずれにせよ、①大量のPCR検査、抗体検査を病院とは別の場所で実施し、②軽症の陽性患者は病院ではなく別の施設に隔離する。③患者の行動履歴をGPSで追跡する、これを実施し、封じ込めに成功している実績があるのだから、日本でもこれを実施すればいいだけだ。しかし、いまだに採用し実行しないで、放置するままにしていて、「国民は家にジッとして居ろ!」というだけ。

2)今やらなくてはならないことは、下記の4点だ。

① 医療崩壊を防ぐ 病院と医療関係者を守る、医療従事者・入院患者を危険に晒さない、そうして病院の機能を守る。

 そのためには、PCR検査のために患者を病院へ来院させないことだ。検査後、来院者が感染患者であったとわかると、院内消毒・関係者全員のPCR検査実施など必要となり、病院の機能が停止する。そのような病院がすでに増えている。永寿総合病院、慶応大学病院、江古田病院・・・・・。病院機能が停止するだけでなく、病院が発生源になっている。
 患者が直接来院すること、患者が殺到することによる医療崩壊を防がなくてはならない。

  PCR検査/抗体検査は、病院とは別の場所で、可能なら患者を収容し隔離するホテル・施設などの近くで行う。ドライブスルー検査もその一つ。検査結果判明後、軽症者はホテルなど、重症者は指定病院へと振り分ける態勢をつくる。 他の病気、けがなどで来院する患者は、前日に検査する態勢が必要だ。

 病院の入院患者、医療従事者は、常にPCR検査、または抗体検査を実施し、陰性であることを確認する。病院を守るためには、PCR検査、抗体検査を組み合わせて、大幅に検査数を増やさなければならない。現在の、PCR検査数を絞るやり方、抗体検査を利用しないやり方は、早急にあらためるべきである。

クラスターの存在とその推移、陽性患者の数、位置、動向を、リアルタイムで把握すること

そのために、
②-⑴ PCR検査を大量に実施しなければならない。日本はいまだにPCR検査を制限している。世界なかでこんなことをしているのは日本だけだ。その理由は、「感染症外来に患者が来たら困る、医療崩壊する」というものだが、病院以外で検査すればいいだけのことだ。韓国、中国、ヨーロッパでは行っている。
 WHOからも、PCR検査数が少ないと指摘されている。
 米大使館も、日本はPCR検査数が少ないので、公表される感染者数以上に感染が広がっている。米国民は帰国するよう通達した。
 なぜ、各国に比べてPCR検査数が少ないのか? 日本政府が絞っているから、政府が無策だから、としか言いようがない。

②-⑵ PCR検査に組み合わせて、抗体検査を大規模に実施すること
 抗体検査には2種類ある。
 ・IgM(早期に出現し消失する):PCRと組み合わせると98%検出できる
 ・IgG(早期に出ないが持続する):「免疫パスポート」となる。
 武漢や韓国、欧州で実施しているのに、日本では実施していない。

③ 患者をリアルタイムで追跡し、素早く隔離する
 大量にPCR/抗体検査する目的は、コロナ患者をリアルタイムで追跡し素早く隔離することにある。
 初期の「クラスター発見し隔離・封鎖する」局面は、すでに失敗に終わった。感染患者数はより大規模に増え、かつ感染経路不明の患者数も増えており、その現状に適した追跡型の対策への転換が必要となっている。しかし、日本政府のやり方はいまだに「クラスター発見隔離」にこだわっている。保健所所員による陽性患者の足取りを「聞取り」調査しトレースする。情報は保健所ー対策チームに占有され、公表されない。しかも、現在は、情報を処理しきれずすでにパンク状態になっている。リアルタイムな追跡ではなくかつ遅いので、追いきれない。その結果、感染経路のわからない患者が増えている。日本は「前近代的」なやり方を続けている。政府の司令塔である厚生省や専門家会議に、情報処理、ITの専門家がいないのでこういった「聞取り調査」という前時代的なやり方を続け、しかも処理しきれずパンクしているのだ。台湾を見よ!

 韓国では、陽性患者には、パンデミック番号をつけ、GPSでリアルタイムで追跡し、ネットで公表し、市民各自が自覚的に行動できるようにしている。一方、パンデミック番号は、個人情報保護のため匿名化し、例えばマイナンバーなどには結びつけない、情報を把握している責任者を明確にするなどの措置を併せて講じて個人情報を保護している。

④ ライフラインを維持する人を守れ!
 外出を8割減まで減らすことは必要だが、その一方でライフライン維持のため仕事をし外出しなければならない人たちがいる。この人たちの保護が同時に実施されなければならない。これが十分に実施されていない。
・病院、入院患者、医療従事者
・介護・看護者、老人福祉施設、デイケア施設、障がい者施設などで働く人たち
・交通機関従事者
・食品・生活必需品生産、販売、供給従事者
・水道、電気、ガス
・物流従事者
・警察・消防従事者
・上記の人たちが働けるように保育所、預かり所の保育士など

 もっとも必要なのは、この人たちへのPCR検査、抗体検査を、日常的に頻繁に必要に応じて実施する態勢をつくることだ。つねに陰性であることを確認しなければ、安心して仕事ができないし、この人たちを守ることはできない。また、この人たちにはマスクや医療用衣服、消毒液などを優先的に供給しなければならない。


    以上




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自衛隊を中東への派遣するな! [現代日本の世相]

自衛隊を中東への派遣するな!

中東 地図 NHK (2).png

1)自衛隊中東派遣を閣議決定

 朝日新聞、NHKなどによれば、12月27日、政府は、中東地域へ自衛隊派遣を閣議決定した。派遣は、防衛省設置法に規定された「調査・研究」に基づき、護衛艦1隻(約200人)を新たに派遣するほか、アフリカ東部のジブチ基地のP3C哨戒機(約60人)を活用する。一方、不測の事態が発生した場合、「海上警備行動」を発令して対応(=戦闘行為で反撃)に当たるとしている。派遣される要員は合わせておよそ260人。

 日本政府によれば、活動範囲は、オマーン湾、アラビア海北部、バーブルマンデブ海峡東側のアデン湾の沿岸国の排他的経済水域を含む公海で、イランにより近いホルムズ海峡やペルシャ湾は含まれていないとしている。

 今回の自衛隊派遣は、政府によれば「アメリカが結成した有志連合には参加しないが、アメリカや周辺国などと情報を共有、連携する」という。

 自衛隊の護衛艦と哨戒機の中東地域への派遣について、「石油連盟」月岡隆会長、日本船主協会・小野芳清理事長はともに「歓迎する」と表明している。

2)自衛隊の中東派遣に反対する!

 今回の自衛隊の中東派遣には、さまざまな問題がある。極めて危険であり、間違った対応だ。

①そもそも自衛隊を派遣する必要はない、
逆に危険で愚かな行為だ


 そもそも中東に自衛隊を派遣する理由がない。日本はイランとの友好関係を維持しており、石油は問題なく輸入されている。問題は起きていない。

 6月にタンカーが攻撃されたが、いまだに誰が襲ったのか不明だ。米政府はイランの仕業と主張しているが、いまだにその証拠さえ示していない。米政府得意のフェイクニュースだ。なんでもかでもイラン政府を非難し戦争に持ち込みたい米政府の言うことだから、信用性はない。だから、これも自衛隊を派遣する理由にはならない。こんなことを理由に軍隊を派遣し、戦争を起こしてはならない。

 米政府は一方的に核合意を破棄し、イランに脅しをかけ、経済制裁を発動し、身勝手にも有志連合と称する軍を送っている。これらすべての行為は米国が一方的に間違っている。国連憲章にもある通り、「武力で威嚇してはならない、国家間の対立を戦争で解決してはならない」。米国が一方的に国連憲章、国際法に反して卑劣な行動をとっていることは明らかなのだ。ロシアと中国は堂々と国連憲章違反だと主張し、明確に反対の立場を表明している。「まともな」主張、批判をしている。米国が「まとも」でない。これを指摘しない日本、英国も「まとも」ではない。
 米国の主張は、安全保障理事会で賛成されない不法なことなので「有志連合」になっているのだ。

 このことを国連加盟国であり安全保障理事国になりたいと表明している日本政府が指摘さえしないし、批判しないのだ。そんな政府をだれが信頼するか!

 米トランプ政権のイラン核合意破棄には、英、仏、独、ロシア、中国は反対している。有志連合への参加国は、米、英、バーレーン、豪、サウジ、UAE、アルバニアのわずか7ヵ国しかいない。いつもは米国に従う欧州NATO諸国さえ参加していない、ドイツは「有志連合には参加しない、外交解決をすべきだ」と表明した。米国を孤立させることこそが、対イラン戦争を回避する正しい道なのだ。

 にもかかわらず、米国に言いなりの安倍政権は、有志連合への参加を断り切れず、米国への「忖度」で今回の自衛隊派遣を決めた。

 トランプのイラン核合意破棄をきちんととがめ、武力によって威嚇する有志連合に反対し、外交努力での解決をさぐることこそ、米・イラン双方と良好な関係を持つ日本政府に求められる役割である。米国にイラン核合意への復帰を求める外交努力こそ、日本政府がやるべきことなのだ。

 その努力をまったくせずに自衛隊に丸投げすれば、かえって状況を悪化させる。
 「自衛隊を中東に送り米国の有志連合には参加しないが、米軍と情報共有する」という、誰が考え出したか知らないが極めて姑息な「二股膏薬」のような態度を安倍政権はとるのだ。中東に自衛隊を送り、米軍と情報共有することはどう見てもイランとの戦争を前提としている、それ以外に意味はない。
 諸国は苦々しく、あるいは軽蔑・嘲笑の目で安倍政権を眺めているだろう。このことで世界における日本政府の信頼と地位はさらに失墜したろう。気づかないのは日本政府ばかりだ。

②閣議決定で自衛隊の中東派遣を決めるのは大間違いだ

 重大な自衛隊の中東派遣を、国会での論議もなしに閣議で決定した。この決め方も大きな間違いだ。

 自衛隊は紛れもなく世界有数の武力をもつ軍隊である。この軍隊が中東で自衛隊法に定める「情報収集」活動を行うとしているが、攻撃された場合は現場の自衛隊の判断で「武器の使用」(自衛隊法95条)、もしくは「海上警部行動」(自衛隊法82条)という名の戦闘を行うとしている。相手が海賊の場合、国連海洋法条約によって日本の警察権で追い払うことができるので、それ以上の問題にはなりにくい。しかし、仮にイランを含む国家からの攻撃を受けた場合、あるいは攻撃を受けたとするフェイクニュースが流された時、「武器の使用」「海上警部行動」という名で反撃したら戦闘となり、自動的に国家間の戦争に入ることになる。現場の自衛隊が戦争に入るかどうかを決めることになる可能性が高いのだ。あるいは、米国とイランが軍事衝突した場合、近くにいる自衛隊がなし崩しに参戦することにもなりかねない。

 そのような重大な危険極まりないことを、重大であり危険であることを隠して、国会で審議さえしないで閣議決定で派遣を決めたのだ。
 安倍政権におもねる大手メディアは、少し考えれば誰でもわかるこんな自明のことを指摘さえしない。閣議決定が重大な危険をはらむことを国民に知らせようとさえしない。

③改憲、9条変更の理由をつくる政治的意図がある

 なぜ、こんなことをするのか?
 安倍政権が中東で戦闘行為が起きることを期待してるからだ。戦闘が起き、自衛隊員が死ぬことを期待しているからだ。自衛隊員が死ねば、「憲法9条があるため、戦闘ができず自衛隊員が死んだ、今こそ改憲だ」という政治キャンペーンが行われるに違いない。容易に想像がつく。マスメディアを掌握している安倍政権である。大手メディアは安倍政権の改憲キャンペーンに抗することはできないだろう。  

 なぜここまで考えなければならないのか? 私たちはすでに2018年の自民党による改憲案たたき台素案を見ているからだ。
 9条2:戦争辞さず、自衛隊の行動は事後承認
 安倍首相は「緊急事態条項」を憲法に書き込む構想を公表した。「緊急事態条項」は、宣言すれば憲法も司法も無視できる。

④自衛隊員も犠牲を強いられる 

 自衛隊員は戦場に送られ、犠牲となることが前提とされている。もし戦闘で犠牲になれば、神風特攻隊員のように褒めそやされるだろう、そして改憲理由とされ戦争のできる国ニッポンになるための人柱とされるだろう。

 しかし、派遣される自衛隊員はきわめて粗末に扱われている。NHKも27日に保険について報じていたが、けがなどで死亡した場合、最高およそ4000万円が支払われる「防衛省職員団体生命保険」(幹部は防衛省から天下りの民間保険)や、感染症などで死亡した場合、最高およそ1億円が支払われる「PKO保険」に、それぞれ任意で加入できるようになっているというのだ。

 けがや感染症で死んだら団体障害保険は支払われるが、戦争で死んだ場合は支払われない。なぜなら民間保険だから確率の高い戦争死や自殺は対象外なのだ。自衛隊員の自殺は年間80人ほどだが、戦争になれば一挙に一桁以上増える。保険会社はそれくらい事前に計算している。
 しかも任意加入、自衛隊員個人が保険に加入し保険金を支払わなければならない。

 派遣される260名の自衛隊員はどのような気持ちでいるのだろうか? 海外派遣できる安保法制の危険性をあらためて思い知ったのではないだろうか? あるいはせめて戦争法以前の「専守防衛」にとどまってくれていたら、と思っているのではなかろうか? 

 元防衛省官僚、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)・柳沢協二さんも、しきりに自衛隊員を無用に危険にさらすことを指摘し批判している。

3)自衛隊派遣の「根拠」

 閣議決定で「調査研究」、情報収集のためにP3Cや護衛艦など自衛隊を出すとしたが、それは1954年の「防衛省設置法」第4条18を根拠にしている。この法が制定された時には、日本の領土、領空における「専守防衛」しか想定されておらず、安保法制=集団的自衛権に基づく海外派遣などそもそも誰も考えていない。1954年の「防衛省設置法」第4条18の「調査研究」、情報収集という「表現」も、当時においても言葉の言い換えで9条の制約を回避した条文なのだ。

 解釈改憲、拡大解釈を重ねて来ているので、法律の趣旨を大きく踏み外した適用となっている。今回の「閣議決定」による自衛隊の海外派遣も、解釈改憲、拡大解釈の延長のうえに、さらに拡大解釈が重ねられたものなのだ。

 安保法制によって、「調査研究」から「海上警備行動」に現場の判断で踏み出せるようになっている。「海上警備行動」という言葉も、9条と齟齬しないように日本政府がひねり出した言葉であるが、実際には「戦闘行動」を意味している。すなわち、派遣された自衛隊に戦闘行為を行う権限を与えている。戦争が始まる可能性をゆだねている。

 「駆け付け警護」「安全確保業務」などという言葉も9条があるから言い換えているのであって、これも実際には戦闘行為である。こういう言い換え、ごまかしの積み重ねの上に、今回の自衛隊を海外派遣するに至っている。

 戦後からこれまでは、「9条改憲」を表明すると反対が多いので、解釈拡大・解釈改憲を積み重ねてきた。解釈改憲、解釈拡大なら「どうせ国民は何もわかっていないから大丈夫だ」と政府は判断してやってきたのだ。そうやって、自衛隊をますます増強し海外派兵できるようにしておいて、「9条は現実にあっていない」などうそぶいているのだ。

 それから、メディアは少しも報じないし国民の多くは気にもとめていないが、自衛隊はすでにジブチに海外基地を持ち、常駐している。ジブチは紅海のインド洋側にあり、今回の派遣においても哨戒機P3Cはジブチの部隊から飛ばす。海賊対策を口実にジブチに基地をつくったが、今回のことで中東に近いジブチに基地を設置した意味がより明確になったというべきだろう。

 すでに日米新ガイドラインーー米軍の指揮下で、自衛隊が動くことが規定されており、米軍との一体化が進んでいる。遠く離れた中東においても一体的に動くための基地であり、今回の派遣である。

 ちなみに、日本政府は基地を設置するにあたりジブチとの地位協定を結んでいる。その内容は日米地位協定よりもさらにひどい内容であることを知っておかなくてはならない。例えば、裁判権はすべて日本側にあり、ジブチで自衛隊員がレイプや殺人などどのような犯罪を犯しても、ジブチ法では裁かれない。きわめて不平等な協定を締結している。 

 それから、自衛隊の護衛艦と哨戒機の中東地域への派遣に、「石油連盟」月岡隆会長日本船主協会・小野芳清理事長はともに「歓迎する」と表明したが、自衛隊の派遣がかえって危険なこと、例えばイランを含む中東からの石油・天然ガス輸入や輸送にとってかえって危険になることを、まったく理解していない。

 経済界も何も考えていない、安倍政権に従っているだけだ。危機意識がまったく欠如しているし、無責任体制が広がっているのだろう。政治も三流なら、経済界もみごとに三流だ。

4)安保法制破棄せよ! 9条はすでに底が抜けている

 上述のような危機的な事態にまで進んでいる。メディアが安倍政権に忖度して報じないのだが、国民の多くはこのような危機的状況にあることを知っていないように見える。

 これまでわれわれは9条を守れと言ってきた。すでにそれだけでは明らかにだめだ。9条はすでに一部、底が抜けている。同時に自衛隊の海外派遣を可能にした安保法制破棄を、しかも即刻の破棄を必ずセットで主張しなけばならない。そして、今回の中東への自衛隊派遣を阻止しなければならない。 (文責:林 信治)




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新年にあたり [現代日本の世相]

新年にあたり

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<小熊秀雄 長々秋夜 Long long autumn nights>

 新年にあたり、何がふさわしいだろうと考え、小熊秀雄(1901~1940)の詩を引用させてもらうことにした。
 若いころ私は、日本的なもの、伝統的なものへの反発と忌避から、日本語の美しさを考えなかった。小熊の詩に触れて初めて、力強い美しい日本語があることを知った。そういう思い入れもある。

馬車の出発の歌
小熊秀雄

仮に暗黒が
永遠に地球をとらへてゐようとも
権利はいつも
目覚めてゐるだらう、
薔薇は暗の中で
まっくろに見えるだけだ、
もし陽がいっぺんに射したら
薔薇色であったことを証明するだらう
嘆きと苦しみは我々のもので
あの人々のものではない
まして喜びや感動がどうして
あの人々のものといへるだらう、
私は暗黒を知ってゐるから
その向ふに明るみの
あることも信じてゐる
君よ、拳を打ちつけて
火を求めるような努力にさへも
大きな意義をかんじてくれ

幾千の声は
くらがりの中で叫んでゐる
空気はふるへ
窓の在りかを知る、
そこから糸口のやうに
光と勝利をひきだすことができる

徒らに薔薇の傍にあって
沈黙をしてゐるな
行為こそ希望の代名詞だ
君の感情は立派なムコだ
花嫁を迎へるために
馬車を支度しろ
いますぐ出発しろ
らっぱを突撃的に
鞭を苦しさうに
わだちの歌を高く鳴らせ。
《漂白詩集》1935、36年頃

 力強くてのびやかなこの詩は、日中戦争が膠着状態となっていた1935、6年(昭和10,11年)に書かれている。
 小熊の詩はサバサバとしている、生活の中から生まれた言葉であり、しかも反骨心に満ちている。小熊は暗い時代のなかで独りぼっちでありながら旺盛な猛然たる仕事をした。

 高等小学校を出た小熊はすぐに自活しなければならず、鰊・イカ釣り漁師の手伝い、養鶏場番人、炭焼き手伝い、農夫、昆布拾い、伐木人夫、製紙パルプ工場職工などに従事した。パルプ工場の機械に挟まれ右手の2本の指を失った。詩人としてデビューしたのは30歳を過ぎてからで、すでに自由に書けない時代となっていた。詩集も出すことはできず貧困のうちに結核で死んだ。40歳だった。
 侵略戦争にかけ込んでいく天皇の日本は詩人の命までも縮めた。小熊の詩と小熊の家族の経てきた道は、日本人民の経てきた苦痛と運命をさながらにうつしている。
 
 その苦痛と運命を、現代日本社会のなかに重ねて今考えるべきだと、私は思うのだ。新自由主義のもとで格差は拡大し貧困層は増大し、外国人を低賃金で使い捨てている。階層化がすすみ、人々はつながりを喪失し孤立しているため、現実の全体がまるで見えていない。そうして多くの人が自分の在りかを見失っている。

 私は小熊秀雄の読まれる時代が来たと思っている。小熊の生きた時代を重ねて考えなければならない事態に私たちは当面している。

 闇が深いことを知れば、自分の在りかを知りつながりを求めるはずだ、徹底した現状の批判のうちに希望が身震いし始めるはずだ。それが人の尊厳というものだろう。小熊の「元気」と描き出した「希望」を思い起こしそのように思う。

※(岩波文庫『小熊秀雄詩集』、あるいはネット上の「あおぞら文庫」に全集がある)
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大嘗祭に異議あり!広島集会 [現代日本の世相]

 11月14日大嘗祭を批判した、広島集会が開催された。講演された天野恵一さんの話をまとめた。
 あくまで聞いた者のメモであって、文責は当方にある。


 大嘗祭に異議あり!広島集会
改めて「象徴天皇制」を問う
天野 恵一
 
 
 
1)天皇制は暴力・弾圧と表裏一体

 10月22日、「おわてんねっと」(「終わりにしよう天皇制!『代替わり』反対ネットワーク」)のデモに機動隊から乱入してきたのに3人が逮捕された。北海道でも「おわてんねっと」のメンバーが、友人の死に際し遺族の了解のもとにお金をおろしたところ逮捕された。天皇制に反対すると法律を無視した逮捕、弾圧が横行し、司法も追随する。天皇制には暴力・弾圧が表裏一体に存在する。

 国家とメディアが組んで、天皇の神聖化をつくり出す。メディアは過剰な「さまさま」報道を行い、絶対敬語を乱発。天皇は絶対神聖であって、反対する者には、警察・民間右翼が何をやってもいい雰囲気をつくり実行している。

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<講演する天野恵一さん>

2) 「いい天皇」と「悪い天皇」 

 白井聡が『国体論』で、明仁天皇が安倍の右翼的政策を批判したように述べた。

 1990年の本島事件を思い起こす。自民党系の本島等・長崎市長が「裕仁天皇には戦争責任がある」と発言したら右翼に撃たれた。この時、浩宮が「言論の自由は大切だから、守らなければならない」と発言。だからと言って、浩宮が「いい皇太子」なのではないし、支持すべきなのでもない。

 04年の園遊会で、東京都教育委員の米長邦雄から「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事です」と話しかけられた明仁が「やはり、強制ではないことが望ましい」と述べた。この時も「いい天皇だ」という話が出て、唖然としたことがある。

 「いい天皇だ」とは、問題の本質をまったく理解していない。象徴天皇制の存在そのものが問題なのだ。
 ただ、明仁は裕仁のように威張り腐る態度はとらず、メディア受けを意識し演じた。「象徴天皇制」の一特徴だ。自覚的に対抗しなくてはならない。

3)戦後の天皇制の始まり

・米国の原爆投下を、米社会は肯定する。「原爆でファシストを殲滅した」とトルーマンは宣伝し、大量虐殺の責任を回避した。その上で、天皇制を日本支配に利用することにした。象徴天皇制の成立背景だ。

・日本政府側は?  「天皇が決断して戦争が終わった、天皇は命の恩人だ」と描き出した。これも事実に反する。1945年の死者が最多だ。沖縄戦、東京大空襲、広島・長崎への原爆・・・天皇が決断しなかったため多くの人が死んだ。※半藤一利:「天皇の決断で日本が救われた、天皇の決断が戦後の日本をつくった

 戦後民主主義、日本国憲法は、アジアへの侵略責任を米国に免罪してもらうことから、旧植民地出身者の切り捨てることから、天皇制を引き継ぐことから、出発している。

4)高御座(たかみくら)とデモクラシー

 戦後の憲法学者のなかからは、天皇制批判の理論もかなり出たが、限界があった。マシな憲法学者の論理の特徴は、「象徴天皇制」は「戦後につくられた」=戦前と戦後の断絶を主張する、また「憲法で天皇と天皇制を縛っている」という論理。その議論は憲法の枠内に限られ、憲法自体が時代的な限界をはらんでいることには触れない。そこに限界がある。しかし、こういう批判も今では少なくなった。

 裕仁は戦前戦後、連続して天皇を務めた。断絶していないが誰も不問にした。憲法には「天皇の地位は国民の総意に基づく」とあるが、嘘だ。国民は天皇を選出できないし、罷免もできない。
 「連続性」は、天皇制にとって不可欠、支配層の連続支配を意味しているからだ。

 今回の退位に際して明仁主導で皇室典範改正を行った。驚くべき事態だ。大日本帝国憲法は立憲主義ではなく、皇室典範は憲法より上位にあった。当時、皇室典範を変更できたのは天皇だけ。今回同じような事態が起きた。憲法上大問題なのだが、誰も問題にしない。異常な事態が目の前で起きている。戦後民主主義的な、憲法学の達成が、崩れ堕ちつつある。

 祭祀については、国家が丸抱え。即位式、大嘗祭合わせて166億円、すべて公費だ。
 高御座の継承儀式は、宗教儀式そのもの。大嘗祭だけではない、即位式すべてが問題。「政教分離」は、そもそもデタラメだ。祭祀は象徴天皇制にとって欠くことができない。「憲法20条(政教分離)があるから大丈夫」ではない。憲法20条は破壊され続けてきた。

5)どう立ち向かっていくか?

 象徴天皇制の成立している基盤、根拠をきちんととらえなおした上で、対抗を考えなければならない。「政教分離に反している」とかの批判もあるが、部分的な対抗であって限界がある。

 明仁・美智子が、災害地域を訪問し、国民(私事ではなく)のために祈る行為を行っている。これは「偽善」であるが、同時に国民統合のための「幻想」をつくり続けているのだ。徳仁天皇の時代には、より加速していくのではないか? きちんと批判していくことが重要だ。

 天皇制を批判していく上で「戦前回帰」と懸念するのももっともだが、戦後民主主義と憲法の限界を認識したうえで、私たちは象徴天皇制を批判し対抗していく論理を持たなくてはならない。

***************************

 11月14日の天野さんの講演、そのあとの懇親会での話なども含めての感想を記します。あくまで筆者の理解に基づく感想です。

1) 天皇制と暴力装置のこと

 天野さんは、「おわてんねっと」(「終わりにしよう天皇制!『代替わり』反対ネットワーク」)のデモに、法律など無視した警察から弾圧・逮捕があり、司法も追随しているという現状を紹介されました。天皇制と暴力装置は表裏一体です。

 安倍首相は災害に際しての非常大権、権利の一次的な停止の構想を語りました。日本政府は、関東大震災の時に朝鮮人大虐殺、大杉栄・伊藤野枝夫妻・橘宗一少年や、南葛労働者の指導者である川合義虎ら8名の虐殺してきた「犯罪歴」を持っています。危険極まりありません。

 支配層に本当の危機が迫った時、天皇制を国家機構の一部として利用する、機能させることも考えておかなくてはなりません。

 タイのクーデターを研究すべきです。
 タクシン派政権をプラユット陸軍司令官がクーデターで倒し、プラユットは今、首相になっています。投票するとタクシン派が有利なので、直近の選挙ではタクシン派有力議員候補を「不敬罪」で狙い撃ちし、政権維持に成功しました。タクシン派は携帯電話などで富を成した新興資本勢力であり、プラユットは軍や国王に近い旧来の支配層、旧来の富裕層の利益を体現しており、どちらを支持すべきかとは言えません。権力争いとなった時、旧来の支配層が国王への忠誠、不敬罪などを利用し、権力を奪取した事実に注目しなければなりません。

 天皇制の機能の一つを想起させます。日本の支配層はまだ利用するほどの危機に陥っていないだけです。そのような機能を持っていることを常に意識し暴露することが重要だと思います。

 天皇制は、宗教であるとともに、支配的なイデオロギーであり、かつ国家機構の一部でもあります。

2)象徴天皇制に対する批判

 天皇制を批判する時、「戦前と同じようになる」という批判を聞きます。貴重な声だとは思いますが、象徴天皇制はすでに74年続いています。明治維新から敗戦まで77年間ですから、すでに近代天皇制の半分近い期間、続いていることになります。

 象徴天皇制は、材料は確かに古い伝統的な権力要素をもとにつくられていますが、74年間にもわたって戦後の日本社会のなかで再生産されてきており、「戦前回帰だからダメ」だけではなく、現代の日本社会に存続している象徴天皇制に対する批判をすべきだと思います。

 象徴天皇制は、イデオロギーである限り私たちの意識に日常的に介入してきており、社会のなかの物質的な関係に入り込んで来ます。象徴天皇制が現代日本人の価値意識の体系のなかで、どのような位置を占め、どのように機能し、どんな危機をはらんでいるか、意識的に明らかにしていくことで、批判し対抗していかなくてはならないと思います。

 例えば、天皇の地位は置かれている社会関係のなかで現実的に規定されますが(憲法の規定はその一部)、しかし不断に、儀式や祈りの行為を繰り返すなかで、日本社会とは独立に、まず天皇霊があり、新天皇の身体に付着して天皇にするストーリー=幻想をつくりだし、血縁の歴代天皇の存在を社会の成立原理にすり替えています。天皇の機能は、現代日本において人々を「幻想の喚起による心情の統合を促す」ところにあります。明仁・美智子の災害地域の訪問・祈りなどもその機能を果たしているのだと思います。

 象徴天皇制は、現代日本の社会階級的な対立を抑圧するためのイデオロギーであり、かつ政治機能を持った国家機構としてあること、したがって現代日本社会の欠陥として批判し、批判のうちにその廃絶を構想すべきです。

3)天皇制イデオロギーの根拠の一つ、連続性

 天皇制イデオロギーの根拠の一つは、「連続しているという幻想」です。アマテラス霊が歴代天皇に憑依して続いてきた、血統を根拠に2千数百年続いてきたというストーリー、そのストーリーからいつの間にか、特別な存在、「高貴な」存在へと転化します。

 世襲原理は、競争原理・自由競争における「高貴」の欠如を埋めます。連続する天皇の存在は、日本民族の変転する歴史の象徴へと転化し、歴史の欠如を埋めます。無国籍の「民主主義」、「物質文明」、「基本的人権」、「生産力」・・・・に対して、日本人のアイデンティティ―を意識させます。特にグローバリゼイション、日本社会の格差拡大と貧困層の増大、日本経済の停滞のなかで、反作用として天皇を意識したナショナル・アイデンティティーとして現代的に担ぎ出されるのではないでしょうか。

 これにどう対抗していくか? というのも象徴天皇制批判の一つの課題だと思います。

 懇親会での話ですが天野さんが、どこからか(憲法第1章を認めたのであれば共産党から)「天皇を選挙で選べ」という声が出るなら、支持してもいい、と言われました。選挙で選べば、霊の憑依とか、血統であるとか、2千数百年続いたとかのストーリーが一瞬にして壊れ、天皇は少しも「ありがたくない」存在になるからです。
 選挙で選ばれた千葉県知事の森田健作は少しも「ありがたくない」ので、災害地を訪問しても、「来るのが遅い」、「被害情報がキチンと伝わっていない、支援物資が届いていない、県は何をしているのか」、「公用車で別荘に寄ってきたのではないか?」などと文句を言われますが、天皇にはなかなか文句は言えませんし、言わない雰囲気がすでに醸成されています。
 もっとも天皇制に反対している者が、「選挙で選べばいい」と主張はできませんが。

 連続性のイデオロギー、その偽善ぶりをつねに暴露し批判し続けることも必要です。

 以上、講演を聞いての感想と考えたことです。










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財政再建を先送りする安倍政権 [現代日本の世相]

財政再建を先送りする安倍政権
 財政運営のフリーハンドを得た安倍首相


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1) 財政健全化プランが破綻した

 2015年度に策定された財政健全化プランが破綻した。従来の目標だった2020年度基礎財政収支黒字化は、2025年度に先送りされた。
 
 「先送り」したのは、経済危機に襲われたからではない。政府が「景気拡大している」と自負している時期に「先送り」(=破綻)したのだ。繰り返すが、2015年度以降、景気は大きく悪化したわけではない。それから最も重要なのは、政府が歳出削減に踏み込んだという事実もないということだ。
 そもそも、基礎財政収支黒字化を達成するつもりがあるのだろうか?

2) 新たに策定する財政健全化プランは、黒字化を達成できるのか?

 では、新たに策定する財政健全化プランは、2025年度の基礎的財政収支(PB)黒字化の新目標を達成できるのだろうか?

 「財政健全化プラン」の欠陥

 新たに策定された「財政健全化プラン」の最大の問題点は、実勢からかけ離れた名目成長率を用いていることにある。インフレ目標が2%であるとしても、より慎重な名目成長率見通しを用いなければならない。
 1月に発表された内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では、2018年度から2025年度までの名目成長率の前提は、「成長実現ケース」において、2%台半ばから3%台半ばであり、バラ色の見通しが据えられている。慎重であるべき「ベースラインケース」においても、1%台後半から2%台半ばの好調な名目成長が想定されている。
 しかし、現在の潜在成長率は1%弱、足元のエネルギーを除く消費者物価指数(CPI)コアや国内総生産(GDP)デフレーターの前年比は0.5%程度しかない。

 であれば「健全化プラン」は0.5%成長程度を前提に計画策定しなければならない。にもかかわらず、新策定の「健全化プラン」は、破綻した「旧プラン」と同じように、高い経済成長による税増収を前提にしている。
 
 「財政健全化プラン」第二の問題点は、景気後退による税収入の減少、補正予算による支出増大を、まったく考慮に入れていないことだ。景気拡大局面の後には景気後退局面が訪れる。景気拡大局面に増えた税収は、景気後退局面には大きく落ち込む。2008‐09年のサブプライム恐慌時には大きく税収は落ち込んだ。それだけでなく補正予算による支出が増大した。

 新たに策定する財政健全化プランは、景気循環による税収落ち込みを一切考慮に入れていない。すでにサブプライム恐慌から10年が経過し、次の落ち込みが予想されているにもかかわらず、である。

3)そもそも財政健全化を実行するつもりはない!

 「健全化プラン」が破綻し、同じようなプランが策定される。策定した官僚自身が、実現するつもりのない計画であることはよくわかっているだろう。
 計画が実現しなかったなら、「想定したほど経済成長しなかったから」、あるいは「予想外の景気後退に見舞われたから」という言い訳が、語られるのであろう。
 だれも責任を取らない、無責任体制が、ここにある。

4)「新たな財政健全化プラン」の意図=「安倍政権は、2021年度まで財政削減努力はしない」

 「新たな財政健全化プラン」では、2021年度に次の3つの財政指標を基に、中間レビューを行うという。
1)PB赤字の対GDP比を1.5%程度まで改善させること、
2)公的債務の対GDP比を180%台前半に抑えること、
3)財政収支の対GDP比を3%以下とすること。
 これらを達成するため、政府はどれほどの歳出削減努力を必要とするのか。

 この目標に対して、「プラン」どのように見込んでいるだろうか?

 「成長実現ケース」においては、高い成長による税収増もあって、2021年度のPB収支は▲1.7%、公的債務の対GDP比は178.5%、財政収支の対GDP比は2.6%まで改善が見込まれている。
 したがって、「歳出削減努力」は不要だということになる。

 「ベースラインケース」においても、高めの名目成長率が想定されているため、2021年度のPB収支はマイナス1.8%、公的債務は183.4%、財政収支はマイナス1.8%まで改善すると見込まれている。PB収支は目標を0.2―0.3ポイント超えているように見えるが、目標は「1.5%以下」ではなく、「1.5%程度」であり、1.7%や1.8%はその範囲に収まるということなのだろう。

 したがって、追加的な緊縮的措置は必要ない。つまり、2019―21年度までの予算編成において、消費増税を除くと、ほとんど緊縮的な財政措置は取られないということになる。
 「健全化プラン」は、驚くべきことに、達成のための歳出削減努力はほとんど必要ないというシナリオがすでに半ば組み込まれているのである。

 安倍政権は、少なくとも2021年度予算までは財政健全化に縛られず、財政運営でフリーハンドを得たということが、堂々とかかれているのだ。

 それだけでなく、安倍晋三首相はすでに、2019年10月の消費税率の8%から10%への引き上げに伴う景気への悪影響を回避するため、2019年度と2020年度については、当初予算の段階から景気対策を盛り込むことを指示している。消費増税は軽減税率を除くと4.6兆円程度だが、幼児教育などの無償化もあって、実質増税は2兆円となる。これと同等か、あるいはこれを上回る規模の景気対策が2019年度と2020年度の当初予算に組み込まれるということなのだろう。

5)どのような方針をとるべきなのか?

 どのような方針をとるべきなのか?
 まずは、非現実な高い名目成長率を前提とするのをやめるべきなのだが、これもなかなか根が深い。
 そのような子供だましの計画を策定し、なんとも思わない政権、財務省をはじめとする官僚機構、全体としても無責任体制、これをやめさせなければどうしようもない。そのような政治家や官僚は放逐しなければならない。破滅に向かって突き進んでいるようなものだ。

 成長プラン=潜在成長率の底上げは重要だが、それは容易ではない。1990年代以降、潜在成長率は低下傾向が続いているが、回復が訪れたことは一度もない。だから、潜在成長の改善を前提に財政健全化プランを策定することは、結局、永久に財政健全化を行わないと宣言しているようなものだ。
 さらに過去5年半の日銀の大実験で明らかになった通り、インフレ期待の醸成も容易ではない。財政危機は大幅に悪化しており、わずかな可能性に賭けて、一国を財政危機のリスクにさらしてはならない。

 安倍政権の腐敗ぶりは極まっている。「財政健全化プラン」も政権運営に強く配慮したお手盛りとなっている。これもまた官僚による「忖度」によって策定されたのだろう。安倍政権への当面の支持があればそれでいいのであって、安倍晋三にとっては「あとは野となれ山となれ!」なのだ。

 必要なのは、低い成長の下でも持続可能な社会保障制度や財政制度を構築することである。
 それができる政権に交代すべきである。
(文責:小林 治郎吉)




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日本企業:[垂直統合システムの崩壊 [現代日本の世相]

日本企業:垂直統合システムの崩壊

 TVドラマ、『陸王』や『マチ工場の女』が流行るのはどうしてか?

1)ルネサス・エレクトロニクスの「小さな復活」

 12月22日の日経新聞によれば、経営不振に陥っていたルネサス・エレクトロニクスが復活してきたという。半導体製造受託の世界最大手・台湾積体電路製造(以下:TSMC)との連携によって、半導体の設計・開発に特化し、巨額の製造設備投資から自由になったことがその要因であり、日本企業の生き残る一つの道であろうと書いている。

 TSMCは、1987年設立。半導体製造に「受託生産」という「分業」を持ち込み、世界に浸透した。半導体の製造設備投資には巨額の資金が必要であり、その設備投資リスクを分散したい半導体開発会社に必要とされ、世界最大手の半導体製造受託会社となった。

2) 日本的「垂直統合」システム

 1970年~1990年代にかけて、日本の電機産業は、傘下に必ずしも資本関係のない下請け、部品会社、外注などの諸会社を組織したピラミッド型「垂直統合」システムで世界市場を支配してきた。「垂直統合」ピラミッドの頂点には、日本の電機独占企業が君臨した。コアの「要素技術」、「コア部品」の開発・生産は独占企業が担いながら、それ以外の部品や組み立ては「垂直統合」内の子会社や外注、下請け、部品会社、製造下請けに移管することで、生産を拡大し、またコスト削減も同時に実現してきた。またすぐれた「製造技術」を「垂直統合」の内部で磨き、蓄積していった。この「垂直統合」は低賃金の利用形態でもあり、ピラミッドの裾野は国境を越えて海外にまで広がった。産業の「垂直統合」への組織化のなかで日本の電機独占企業は支配者でいることができ、利益の大きな部分を手にすることができた。

 「垂直統合」の日本型生産システムは、決して一朝一夕にできあがったものではない。資本蓄積が極めて乏しかった、遅れて出発した資本主義であった日本の企業が長年にわたってつくりあげてきたものだった。

 戦前からの日本企業が戦ったのは、当時の先進の生産方式である「テイラー・システム」、「フォード生産方式」である。生産の上流に当たる製鉄工場から鉄板圧延、プレス、ゴム工場、タイヤ工場、ガラス工場・・・すべてに巨額の投資をし、あらゆる部品を集め組立て、数分間に1台のT型フォード生産を実現した。機械的大工業であり、品質も安定し、大量生産できた極めて合理的な生産方式だった。

 資本蓄積が極めて乏しかった日本企業は、必要な投資ができず、これをまねすることはできず、下請け・外注に似た部品をつくらせた。しかし、手工業がベースのため材質も悪く、品質も安定せず不良も多く、大量生産もできない。一つの例は、明治38年開発された38歩兵銃である。性能の劣る単発のこの銃を、第二次世界大戦まで採用し続けたのは、機械製大工業で生産するための巨大投資ができず、数々の手工業下請けで生産するしかなく、そこでは38歩兵銃しかつくれなかったからである。
 
 資本関係のない下請け・外注の利用は「垂直統合システム」の原型である。階層構造、支配―被支配の関係があり、下請け、外注化は低賃金の利用形態でもあった。ただし、品質の悪さ、不揃いには長年苦しんだ。長年にわたって金をかけず「人の工夫」、労務管理によって品質改善運動を実現しようとしてきた。不揃い部品をやめ、部品標準化も進めた。QC運動、「カイゼン」はその過程で生まれた。看板方式=トヨタ生産システムはここに源流がある。

 「垂直統合システム」は投資額をそもそも節約するため、市場の急激な変化、製品の急速な革新にも、「耐性」があった。実のところ、「損」を外注、下請けに押し付けることもあった。

 このようにして戦後日本の電機産業、自動車産業は、低価格で高品質の商品を世界市場に提供し、「テーラー・システム、フォード生産方式」を駆逐した。そして、日本の「垂直生産システム」は世界を席巻した。

3)「受託生産分業」が「垂直統合」を破壊した

 「垂直統合」をつくり上げた電気独占企業の支配者であり続けた「強み」は、具体的には「要素技術」と「製造技術」にあった。

 半導体は電機産業にとって、最も大切な「要素技術」の一つであり、簡単に資本関係のない下請けや外注に任せることはできない部品だった。大切な要素技術を外に出せば、ライバルをつくることになる。

 半導体市場では、ピラミッドの頂点にいる電機独占企業が当初開発で先行し初期の部品調達、生産、販売を統合内で行い世界市場を支配した。ただ、半導体生産は、製造設備投資が巨額に上るとともに、製品の世代交代も早く、それに伴い製造設備の世代交代も頻繁に実施し続けなければならない産業に変化していった。

 半導体製造の設備投資は巨額の資本が必要となったし、製品の世代交代に伴い製造設備の更新も頻繁に実施しなくてはならなかった。将来の製品動向を見て、巨額の投資を常に繰り返し実行しなければならない。

 日本の半導体開発・製造企業は、1980年代当時数社で世界市場を独占しており、数社それぞれが巨額な設備投資を繰り返した。しかし、勝者はそのうちの一社か二社であり、それ以外は敗者となった。半導体産業はその成長と共に「勝者総取り」の「ハイリスク、ハイリターン」産業に変質していった。結局、電機会社がそれぞれ半導体開発から部品調達、製造まで自前で手がけるのは、極めて「非効率」な事業に変わってしまったのである。

 ひとつの典型例は、NAND型フラッシュメモリーだ。これこそ、巨額の設備投資を行う「ハイリスク、ハイリターン」事業だ。現在、これを生産しているのは、世界でサムソン、東芝、SKハイニックス、ウエスタン・デジタル(WD)の数社。t当初、開発した東芝以外の日本の電機会社はとうの昔に撤退した。

 液晶TV用の液晶パネル生産でも同じようなことが起こった。安くて品質のいい液晶パネルをいかに早く生産・供給する競争で先行した者が一人勝ちをする。サムソンとシャープの戦いは、サムソンの勝利で決着がついた。

 電機独占企業の「強み」は、半導体や液晶などの「要素技術」ばかりではない、優れた「製造技術」にあった。しかし、電気産業が発展していくに従い、一部の部品の外部化、「製造委託」が徐々に広がった。それに並行し、電機産業では製造コストの削減、品質の安定のために、長い時間をかけて「部品の標準化」と「生産の標準化・自動化」を進めてきた。

 「生産の自動化・部品の標準化」の一つは、チップマウンターによる部品装着組み立てを実現できるようになったことである。携帯電話など分解してみればわかるが、虫の卵のような小さな部品(=チップ部品)が基盤にいっぱいくっついている。部品会社は同一形状の標準化された部品を供給し、電機会社はチップマウンターでチップ部品を自動で装着し組立てている。

 「部品の標準化」と「生産の自動化・標準化」が進んだ結果、製造におけるノウハウが自動生産設備に徐々に組み込まれていった。製造のノウハウが秘密ではなくなった。チップマウンターは市場で販売され、そのことで「製造組立受託」の分業が生まれることになる。当初は、子会社に組み立てをやらせた。その次の段階では、「製造請負企業」が出現した。大量に受託生産すれば、購入部品・材料も多くなるのでより安く部品・材料を購入できる。自動組立機械に巨額の投資を行い、より多く生産受注した受注組立企業がさらに受注を得る「ハイリスク、ハイリターン」の市場が生まれた。鴻海精密工業のようなEMSの出現である。

 半導体製造でも、受託生産企業が現れた。上記のTSMCである。半導体製造に「受託生産」という「分業」(=「新しいやり方」)を持ち込み、その後世界に浸透した。巨額で機敏な製造設備に伴う「リスク」を引き受けることで、依頼が集中し事業が急速に拡大浸透した。半導体の開発では開発費だけを負担すればいいことになり、ベンチャー企業を含め多くの半導体開発会社が生まれた。TSMCは日本企業ばかりでなく、世界中の開発会社から、製造を請け負うようになった。最もたくさん請け負って製造したところが、巨額な設備投資を回収し、さらに利益を上げ勝者になる。競争を勝ち抜き、TSMCは世界最大手の半導体「受託生産企業」として残った。

 日本企業は、経営トップの判断、決定が極めて遅いうえに、無責任体制がはびこっている要因もあり、受託組立生産、半導体受託生産事業のような「ハイリスク、ハイリターン」事業、すばやく投資判断をし、工場を立ち上げ売りぬき、どこよりも早く投資を回収する事業である。決断が遅く、無責任体制の日本企業は、こういう事業から徐々に退出していった。

 アップルは、PCやスマートフォンなどの新製品を開発してきたが、半導体生産(TSMC)も含め製造はすべて受託生産企業(ホンハイなど)に任せている。そのことで巨額の製造設備投資をすることなく、今では世界の携帯電話市場やIT市場を支配し、時価総額100兆円(2017年末)の大企業になっている。ただ、アップルは、画期的な新製品を開発し続けなければならない。

 上述の過程は、日本の電機産業の「垂直統合」、ピラミッド支配が崩壊していった過程でもある。それまでは、日本の電機産業しか「安くて、高性能製品」を供給できなかったが、そのような関係は急速に崩れていった。

 日本の電機独占会社は、「要素技術」「製造技術」を内に持って垂直統合を組織し支配的地位を築いてきたが、「製造技術」は標準化・自動化がすすみ自動機として製品化さえされ、受託生産企業が出現し、「垂直統合システム」から独立したことで、誰でも利用できるようになった。「要素技術」のうちの半導体は上述の通り、開発と受託生産が分かれ、「垂直統合システム」から独立したことで、開発さえできれば容易に参入できるようになった。またデジタル設計化がすすみ、設計のユニット化、組み合わせが容易になり、これも容易に参入できるようになった。

 このため、新しい世界市場での競争は「要素技術」や「製造技術」そのものではなく、「要素技術」を使用し組み合わせ設計して、新しい製品を市場に送り出す「システム技術」での争いに変わった。パソコンやスマホの市場である。

 1990年代半ばころには、アップルの生み出す魅力的な製品が市場を席巻した。韓国サムソン、LG電子の登場によって、あるいは携帯電話市場での欧州企業が登場し、各国政府の規制に沿った機敏な開発・販売により世界市場を支配した。他方、日本の経営者、経営システムはスピードに満ちた世界的競争にまったく適応できず、「システム技術」での争いにも適応できなかった。その結果、世界市場における日本の電機独占企業の出番はなくなった。
 
 その結果、日本の電機独占企業のいくつかは、製品寿命が長く競争が激しくなくて、従来の「垂直統合」が有効な、重厚長大産業、鉄道車両、運行システムやボイラー、インフラ整備、工場自動化設備・システム、住宅関連事業、医療・健康機器などにシフトしていった。

 他方、「垂直統合」の内部にいた日本電産、村田製作所、TDK、京セラ、日東電工、信越化学など優れた「要素技術」を持つ一部の電子部品会社は、「垂直統合」から離れ、スマートフォン、電子化された自動車市場などを生産するグローバル企業への納入を拡大しており、さらに、AIや自動運転など世界的な産業再編のなかでバイプレイヤーとしての地位を確保しつつある。

4)自動車産業は?

 このような産業再編は、資本の論理で生まれているのだから、決して電機産業にとどまらない。
 
 世界の自動車産業においてトヨタ、日産、ホンダなど日本企業の地位は高い。自動車産業も長年かけて「垂直統合」の生産システムをつくり上げてきた。本社の配下に何層にもおよぶ組立子会社、部品会社などを組織している。日本国内だけでなく、たとえばタイでも「垂直統合」を組織し、配下に組立会社、部品会社を組織し、そのことで東南アジアにおいて高い市場占有率を実現している。

 トヨタが海外進出すれば、一部の部品会社もくっついて進出する。ただ、「垂直統合」は長い年数をかけて形成されるので、「垂直統合」にも形成途中だったり、不完全なものもある。

 自動車産業では、部品は3万点以上にも及ぶ。それぞれ規格内ではあれバラツキのある部品を組み立てながら、性能を一定の幅内におさめる「離れ業」は、「擦り合わせ型」と呼ばれる「製造工程」で実現してきた。トヨタのことを言っている。「擦り合わせ型」製造工程にノウハウが詰まっており、完成車メーカーは生態系のピラミッドの頂点に君臨してきたのだ。「製造工程」では、生産の標準化、一部工程の自動化、部品・車台の標準化は常に行われ進化しているものの、「人の腕」よるノウハウがまだ多くあり、製造設備の統一化・標準化にノウハウが組み入れられていないことも多く残っている。自動生産化が達成され、生産システムとして外部に販売する市場ができる水準まで達していない。製造設備の統一化、自動生産化を達成するには桁違いの巨額の設備投資がかかる事情が存在する。詳細は知らないが、溶接や塗装などは相対的には自動化が進んでいると思われるが、全体としてみれば「自動車の組立自動機の市場」はまだ成立はしていないようだ。

 ところがこれが、電気自動車EVになれば事情は一変する。部品点数は格段に減少し、電気部品が増え、製造・組立の簡略化も進み、自動車企業の蓄積してきた製造技術、生産ノウハウ、すなわち「擦り合わせ型」製造工程の「強味」の大部分が一挙に消滅しかねない。

 すでにEV用電池会社やIT企業、ベンチャー企業がEV生産に名乗りを上げている。競争は製造工程よりも、まず、電池やモーターの性能など部品品質や部品コスト、通信技術、AI,IoTなどの革新技術に移っており、製造工程に大革新が起きることはもはや明らかになった。 

 「生産委託という分業」を掲げ参入する企業も出てきかねない。機能とデザインを誇る設計会社と受託生産の二つのグループに分業が進むかもしれない。

 そうなれば、「垂直統合」という日本の自動車会社の不可侵のシステムが破壊され、トヨタや、日産,ホンダなどの支配的地位が崩壊しかねない。

 実際のところ、電気自動車生産に多くの企業が名乗りを上げているし、中国や欧州諸国は、二酸化炭素排出規制をうたいEVへの切り替えを国の方針として定めながら、その過程で既存の自動車会社の市場支配を覆し、自らの新規参入を狙っている。さらには自動運転、車のIoT化という技術革新も絡んで、一挙に激しい世界的な競争に突入している。

 そのような事情は、トヨタやホンダ、日産などの経営者が最もヒシヒシと危機感を感じているところだろう。

5)「受託製造という分業」の波は、ほかの産業にも及ぶ

 「受託製造という分業」の波は、ほかの産業にも及ぶ。製品寿命が短く、製造設備投資が巨額であればどの産業も「勝者総取り」、「ハイリスク、ハイリターン」の事業となるから、「受託製造という分業」は浸透する。資本主義の論理からすればそうなる。

 ソニーは採算が悪化したテレビ事業を、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などへ製造委託し、液晶パネルも外部調達に切り替えた(日経12月22日)。 液晶パネルを安くつくる製造設備の投資競争では「勝てる見込みはない」、あるいは「ハイリスク、低リターン」であるから、この競争から降りると判断した。

 次世代テレビである有機ELの調達はLG電子から受けることになる。ソニーもシャープも有機ELパネルの量産にはいまだ成功していないし、今から開発し製造したとしても間に合わないとの判断がある。「社内の技術者は、調整のノウハウによって、4Kや有機ELの画質向上など他社との違いを打ち出すことに力を注ぐ」(日経12月22日)。 その方が開発費用は少なくてすむからだ。ただ、得られる利益は大きくはない。いわば「スキマ産業」という扱いだ。世界のテレビ事業で支配的地位を獲得することは、もはやない。採算がとれなくなったら、撤退するという扱いだ。

 このような事情=「スキマ産業」化、置かれている「地位」は、ソニーだけでなく、パナソニック、東芝などみな同じである。東芝はテレビ事業をハイセンスに売却した。

 バイオ・医薬品事業でも、製薬の研究開発に集中する製薬企業・ベンチャー企業と外部委託製造との二つに分業する産業モデルが広がりつつある。

 スイスの製薬大手ロシュは、自社開発したバイオ医薬品の製造を外部に委託する。微生物や細胞培養で高い製造技術が必要だ。委託先は、韓国サムソングループのサムソン・バイオロジクス社だという。「(製造委託の)市場でリーダーシップをとるには先行投資が必要で、半導体ビジネスと一緒だ」(サムソン・バイオロジクス・伊縞列常務、12月22日、日経)。

 日本の電機会社のいくつかは「要素技術」に特化し、部品供給で生き残ろうとしている。日本電産、村田製作所、日東電工などもともとの電子部品会社は好調だ。
 
 ただ、多くの日本企業は、このようなグローバル競争の現状から大きく遅れたように見える。TV番組で、『陸王』『マチ工場の女』(NHK)が流行っているが、それはグローバル競争から大きく遅れた「日本社会の現状」の一つの表現でもあり、現実を前にした「過去への哀愁」が人々の共感を呼んでいる面もあろうと思う。 (文責:林 信治)






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コストコは、時給1,250円以上、「同一賃金同一労働」 [現代日本の世相]

コストコは、時給1,250円以上、「同一賃金同一労働」

 10月16日の読売新聞で面白い記事を見つけた。
現場から」シリーズ3:「人材不足と時短 板挟み」

 以下に一部を抜粋する。
・・・・・・

 東海地方を地盤とする岐阜県羽島市のホームセンターでは、人材不足が常態化している。レジ打ちや品出しを担当するパート社員は10人以上足りず、残業や休日出勤をお願いしている。  採用担当者(56)は「地元の人材はどんどん『コストコ』に流れている」と嘆く。  2年前米国系スーパー「コストコ」が開業した。コストコは正社員と非正規社員の待遇に差がない「同一労働同一賃金」に近い賃金制度を採用する。全国一律で1,250円以上の時給を保証しており、岐阜県の最低賃金800円を大きく上回る。  ホームセンターは時給を100円上げたがそれでも300円以上の開きがある。
・・・・・・

 日本の労働者は非正規化が拡大し、賃金格差は開くばかり。非正規社員の賃金は30年間ほとんど上がってこなかった。ところが、記事にある通り、コストコが進出したことで一挙に時給が上がったという、「同一労働同一賃金」も実現しているという。

 政府は一応、「同一労働同一賃金」、「長時間労働の是正」を改革の柱に掲げてきたが、掲げるだけで一向に改善されてこなかった。

 「格差是正を!」、「最低賃金の引き上げを!」といくら要求しても、経営者や日本政府が何やら理由をつけて実行しなかったのに、コストコが進出してきて実現するとは「笑い話」のようだ。やればできるということじゃあないのか!

 この30年間、日本経済はほとんど成長していない。GDPは500兆円前後で変わらない。資本家は獲得した利益を国内に投資しない、内部留保を拡大し海外に投資する。日本経済の生産性は向上していない。労働生産性を先進国で比べてみれば、日本は下位に沈んでいる。低成長時代を見据えて、生産性向上に投資してこなかったからだ。低い賃金の非正規社員、パートを増やし、さらに正社員を含む全社員の労働時間を延長するという、目先の対処に終始し、前近代的で原始的な手法(=実質に賃金を削る)で利益を上げようとしてきたのだ。「非正規化」と「長時間労働」は日本経済の特徴になってしまった。労働分配率は下がりっぱなしだ。

 特に、サービス業での生産性はこの数十年低いままで、ほとんど改善していない。ただ、企業への忠誠と奉仕、サービス労働を求め、契約社員、派遣社員、パート社員、外国人研修生になどの低賃金不安定雇用の労働者を発明し置き換え、賃金全体を削って利益を上げることしかしてこなかった。おかげさまで日本の労働者全体の賃金水準は上がらず、だから消費は増えず、日本経済全体が縮んでしまった。

 そんなところへ、サービス業で高生産性を実現したコストコが進出してきたのだ。生産性が高いので、より高い賃金でも利益が出る。人手不足なので1,250円以上の時給で募集するから、人材はコストコに流れ、日本の経営者は嘆いてみせるだけだ。

 日本は少子高齢化が進み、すでに2002年から労働人口は減少に転じている。人手不足になるのは予測できるのに、ただより低い賃金の労働者層を生み出すことで対処してきたのだ。今更嘆いてどうするんだい。低賃金の労働者層を利用しなければ経営が立ち行かない企業は、廃業しなければならないということだろう。これまでのやり方は破綻するのは当たり前だし、廃業しないならやり方を改めるしかない。その際に、労働者の犠牲が大きくならないように救済は必要だ。
 
 一部のサービス業分野では生産性を上げた大企業しか生き残れなくなるかもしれない。しかし、「同一労働同一賃金」で最低賃金を大幅に上回る時給(1,250円以上)の企業の出現は、歓迎する。
「同一労働同一賃金」は確実に格差を縮小するからだ。

 ただ、労働者や労働組合が要求も運動もしないで、労働者にとっていい、時給が上がったり、「同一労働同一賃金」が実現するはずはない。コストコとて資本の論理で人手不足に対応してきただけなのだ。連合を含む労働組合は、今の人手不足の状況を有効に利用し、労働者の大幅賃上げ、特に「同一労働同一賃金」を実現するところに、その活動を集中すべきなのではないか。(文責:林 信治)




 
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安倍の後釜を狙う! [現代日本の世相]

国民は安倍に飽きた
安倍の後釜を狙う小池

 安倍首相は、「国難突破解散だ」と言って急遽解散し、事態の突破をはかった。実際のところ、国会が始まれば森友・加計問題が再燃する。官僚は官邸の顔色を見て仕事をしており腐敗が目立つ。他方、野党の選挙体制も小池新党の候補者も整っていない。今のうちに選挙だ!と考えたのだ。誰でもわかる。それを北朝鮮のせいにして国難選挙だと。
 読売世論調査(9月30日)で、安倍支持率は43%に下落、前回9月8~10日は50%だった。「北朝鮮の脅威」は賞味期限切れ、安倍首相人気が浮上することはもうないのではないか。
 
 それを感じ取った一人が小池だ。小池は、「安倍晋三」に飽きた国民に、頭のすげ替えをアピールしている。小池は、日本会議のメンバーだし、米国とも親和性が高い。希望の党には超保守の中山恭子や米国べったりの長島昭久も加わる。

 それにしても、この間の経過はあまりにも急だ。前原代表が民進党解体、希望の党への合流を決めてしまった。党首として背信行為だ。当選しか頭にない民進党議員たちが了承し、党解体があっけなく決まってしまった。日本の政党政治が、当選した議員たちの既得権益を守るために行われており、選挙民は無視されていることの一つの証左だ。

 ところが、小池は、9月29日で、合流する民進党出身者を、憲法改正、安保関連法推進の踏み絵を踏ませ、「排除する」というのだ。一連の動きは極めて巧妙な、民進党リベラル潰しだ。

 排除される議員らが枝野代表代行を押し上げ、10月2日「立憲民主党」結成表明となった。「自民党vs希望の党」の選挙が、「自民・公明vs希望vs立憲民主党・社民・共産」の三択に変わったのだ。

 憲法を守り、安保関連法反対の党ができたことは、対立が明確になって結果的にはよかった。早速、希望の党は、維新には対立候補を立てないが、立憲民主党には立てるとし、あくまでリベラル潰しを貫く右派政党であることを表明にした。

 一方、国民は自民党や「希望の党」の政策を支持しているわけでない。ただ日本の選挙民は、不満は充満しているが自分で候補者を生み出すことをせず、出てきた者を支持するだけの役割に甘んじている。

 サンダース米民主党大統領候補が善戦したのは、下部の党員・活動家が戸別訪問して回ったからだ。英労働党が健闘したのも、下部組織がサンダース陣営のやり方を取り入れ活動したからだ。日本の政党政治には、下部の活動はほとんど存在しない、選挙民は幼く、メディアの言うことに振り回される人気投票になっている。「不満」は充満しているが、一人一人は孤立したままだし、議論もしない。この状態を打開する人々の活動が拡大しない限り、選挙は自分たちのものにならない。(文責:林 信治 10月3日記)



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安倍首相とその周りは、こんな人たち [現代日本の世相]

安倍首相とその周りは、こんな人たち

 安倍政権が支配する現在の政府、官僚機構では、腐敗した政治家や官僚と手を組んだ一部の人間が国民の財産を不正、あるいは不公正な手段で手に入れて巨万の富を築いている。この「腐敗」の進行具合が相当ひどくなっている。国有地が格安の値段で学校法人に売却されても不思議ではない。

森友学園が買った用地は、近畿財務局から依頼された不動産鑑定士が更地価格を9億5600万円と算出。財務局は地下の廃材、生活ごみの撤去・処理費8億1900万円と撤去で事業が長期化する損失を差し引いた1億3400万円で、2016年6月に公共随意契約で森友学園へ売った。さらに国は除染費として森友学園に1億3200万円を支払い、結局実質200万円で売却した。9億5600億円相当の国有財産が実質ゼロ円で売却されるということは、通常ありえない。異常な政治的力が働いたとしか考えられない。

 では誰が影響を与えたか? 
 森友学園と緊密な関係がある安倍夫妻以外にない。
・安倍昭恵夫人が名誉校長、(事件発覚後の2017年2月24日に名誉校長を辞任)
・森友学園校が、安倍晋三記念学校になることについては、安倍昭恵夫人から、首相退任後の命名はOKと伝達。(昭恵夫人が講演で言及)
・安倍首相から小学校設立用に100万円寄付
・国有財産管理の責任者は理財局長。当時の理財局長は安倍首相と同郷の迫田理財局長。安倍政権になってからの抜擢。(以上、3月25日現在の情報)

 安倍政権になり、官庁の審議官以上の人事は内閣府が管理するようにしており、全官庁において安倍首相の意向を実施する人事体制ができあがっている。安倍首相とその周辺の意向を、事前に「忖度」して行動する官僚の態勢がすでにできている。今回は迫田理財局長がキーマンであろう。森友学園の事件から見えたのは、安倍政権の恐ろしい姿、腐敗ぶりだ。

 マスコミの報道は、森友学園の籠池理事長がいかにひどい人物であるかに集中している。そうではない。日本の全官庁が、その政策決定が法やルールを曲げ、単に安倍首相と周辺の意向で決定されているということ、腐敗に止めどがないこと、それこそが重要で、かつ危機的な問題だ。

 国を愛する気持ちを持っているのであれば、国有地を格安ではなく、標準価格よりも高い価格で買い国に貢献するとなるはずだが、国民には愛国心を説教するこの人たちは、愛国心を説教する自分たちだけ特別な存在であり、国から、国民の財産を略奪してもいい、と考える。(3月25日記)




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年金は富裕者の食い物か! [現代日本の世相]

年金は富裕者の食い物か!

               
 日本経済新聞(2月2日)は、日米首脳会談で安倍首相は米トランプ政権ににじり寄り、トランプ政権の政策の一つ、巨大なインフラ投資にGPIF資金を提案した、と報道した。 「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が米国のインフラ事業に投資することなどを通じ、米で数十万人の雇用創出につなげる」と報じ、国際的にも話題になった。GPIF資産、約130兆円のうち5%(6.5兆円)までを国外のインフラ・プロジェクトに使うというのだ。

 それに対し、GPIF髙橋則広理事長は次のようにコメントした。 「本日、一部報道機関より、当法人のインフラ投資を通じた経済協力に関する報道がなされておりますが、そのような事実はございません。GPIFは、インフラ投資を含め、専ら被保険者の利益のため、年金積立金を長期的な観点から運用しており、今後とも、その方針に変わりはありません。なお、政府からの指示によりその運用内容を変更することはありません。」

 安倍首相が、このような発言をしたのは初めてではない。2014年1月にスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムで安倍首相は「日本の資産運用も大きく変わるでしょう。1兆2000億ドルの運用資産をもつGPIF。そのポートフォリオの見直しをして、成長への投資に貢献します。」と宣言し、2014年10月にはGPIFの運用資産割合の変更を決定させた。国内債券を60%から35%に引き下げ、国内株式と外国株式を12%から25%に、外国債券を11%から15%へそれぞれ引き上げた。
 
 実際のところ、GPIFは資産約130兆円のうちの25%、約32.5兆円はすでに外国株式で運用している。髙橋理事長のコメントは、決して安倍首相の発言を拒否したのではない。政府の指示で投資先を決めるのではなく、「GPIFの意思」で投資先を選ぶのであり、結果的にそれがアメリカのインフラ投資になることもある、ということを言っているに過ぎない。
 
 特に国内株式、海外株式への資産運用をそれぞれ25%にしたことは問題だ。
 資産割合を変更した2014年以降から現在までは株価上昇の局面なので、国内外株式を50%に増やしたGPIFの総資産は増大してはいる。しかし、すでに2008-09サブプライム恐慌から景気拡大局面は8年を経過しており、次の恐慌が近い。

 アメリカでトラック運転士組合の年金が破綻状態だと伝えられている。ほかの年金のなかにも似たような危機的な状況の年金も多い。
 GPIFは、資産が巨大なこともあり機動的な資産運用はできないし、そもそも短期の売買の繰り返しはしない。「年金積立金を長期的な観点から運用」しているのである。
 ということは、急激な市場の変化の際に、ヘッジファンドなどの標的となり「売り」を仕かけられ、巨大な損の引き受け手となる可能性が大きいのだ。この場合、誰も責任を負わない。支給される年金額が減るだけだ。
 
 本来、年金はリタイアした後の庶民の生活を支えるものだが、実際はその資産を巨大企業や富裕層への投資へと流し込む仕組みが出来上がっている。構造的に国民の資産を利用する(=言葉は「運用」)仕組みができている。リスクのより多い資産への投資に踏み込んでいる。
 そればかりではない。安倍首相は年金を国民の資産だと思っていないのだろう。トランプ政権に対して、「アメリカへの投資資金は十分ありますよ」とささやき、自身の政治政策、「経済協力」に利用しているのだ。(3月19日記)
 
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新薬「オプジーボ」は「遠い夢の薬」 [現代日本の世相]

新薬オプジーボ、日本以外では「遠い夢の薬」

 読売新聞は、医療ルネサンス特集で5回にわたり新薬オプジーボについて記事を載せている。以下は1月9日の記事。

 ******
 2016年12月上旬、オーストリア・ウィーン、世界肺癌会議があり、日本の肺がん患者団体「ワンステップ」代表、長谷川一男さん(45)は、患者支援活動に贈られる「アドボカシー・アワード」の受賞式に出席した。
 長谷川さんには、世界各国から集まる患者たちに、ぜひ聞いてみたいことがあった。オプジーボをどう思っているのか―――。だがその問いは、肩すかしにあう。・・・・・・
 「オプジーボ」は超高額新薬である。こうした超高額薬を使える国は、日本以外ほとんどないという現実を改めて認識させられた。オプジーボの薬価は日本の2割から4割に抑えられているのに、それでも使うことができない。・・・・・・
 多くの国で、「オプジーボは」は「遠い夢の薬」だ。東欧の患者からは、「通常の抗がん剤」でさえ高価で満足に使えない」と聞いた。
 米国は無保険者が15%おり、莫大な医療費を自己負担できる患者は一部の富裕層に限られる。
 英国では、高額薬について、費用対効果の観点から国立医療技術評価機構(NICE)が、厳しい審査を行う。オプジーボが肺癌治療で公的医療制度の対象にするかどうかの結論はまだ出ていない。
 ・・・・・・

 海外でのオプジーボの薬価(100㎎の薬価、厚生労働省) 
   英国:約14万円、
   ドイツ:約20万円、
   米国:約30万円
   日本:約73万円、2017年2月から約36万円になる。それでも海外より高い。
 ****
 
 日本で開発された新薬「オプジーボ」が、これまでの抗がん剤とは異なり画期的な効果があったという肺がん患者の闘病記録などを含む読売新聞の特集記事を、この数日読んできた。

 また、新薬「オプジーボ」は、京都大学・本庶佑(ほんじょ・たすく)研究室が開発を牽引したこと、癌細胞のブレーキを解除して免疫を再活性化する仕組みの記事や、患者団体を結成し患者同士交流し励ましあいながら、癌と闘っている記事など、興味深く読んだ。

 ただ、1月9日の上記の記事を読み、医学や薬学上の問題ではない、ある意味より深刻な社会的要因を考えさせられた。

1)新薬「オプジーボ」は「遠い夢の薬」

 小野薬品工業の新薬「オプジーボ」が、肺癌にも効果があるということで、注目を浴びている。薬価が超高額であるとして官邸が介入し、100㎎あたり現状約73万円が、2017年2月から半額の36万円になるという。それでも超高額薬だ。患者によって異なるが、日本の場合、1か月治療すると約300万円、1年間だと約3,500万円かかる。大半は健康保険から支払われる。

 官邸が介入し半額に値下げしてもなお、海外での薬価よりも高いのは少々不思議だが、海外での価格も、けっして安いとはいえず、記事にある通り、富裕層以外には使えない高額薬なのだ。

 新薬が開発され効果があっても、高額な費用を患者が負担しない限り、実際の医療には使われないという事態が、私たちの生きる世界では「当たり前」となっている。資本が儲けることを通じて、あらゆる社会活動が行われる。「儲けること」が「治療」より優先されるという転倒した事態が起きている。

2)医療も薬も、儲ける手段!

 ここに、弱者である患者を切り捨てる世界的な社会構造が、透けて見える。
 科学者が研究し癌を撲滅する新薬を開発しても、製薬会社が莫大な富を得ることが優先される社会構造が確固たるものとして存在する。資本をもうけさせることを通じて、医療活動を含むあらゆる社会活動が行われるのが、資本主義社会。新自由主義の下で、資本の活動は規制という制限を次々に取っ払い、世界的な製薬会社がますます力を得て医療活動を支配する関係が広がりつつある。恐ろしいばかりだ。

3)日本の国民皆保険制度が狙われている!

 日本では、この超高額薬を使うことができる。国民皆保険制度によって、高額新薬も含む高額医療費の一部だけを負担すればいいからだ。日本の国民皆保険制度は世界に誇る優れた制度である。日本以外の国々の患者にとって、日本の国民皆保険は、夢のような制度なのだ。

 しかし、この保険制度は今、高額新薬を含む高額医療によって、破壊されかねない事態に直面している。

 日本以外の国では富裕層以外に高額新薬の費用を支払うことができないので、その人数は限られる。ところが、日本の国民皆保険制度は、制度がある限り支払うことができるので、世界の製薬資本にとっては、狙い撃ちする対象となる。日本の国民皆保険制度は、支払ってくれる「大きな財布」なのだ。

 日本の医療費を含む福祉予算は、年間40兆円を超えさらに増大している。財政的負担に耐えられなくなれば、破壊されてしまう。

 TPPには、世界的な製薬資本が利益を上げる権利を擁護する条項がある。TPPを推し進める安倍政権は、この優れた国民皆保険制度を護るつもりがない。極めて危険だ。

 癌で苦しむ患者を、さらに病気以上に社会的に苦しめることになる。(1月9日、記)



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?? 「9条は日本人がつくった」?? [現代日本の世相]

9条は日本人がつくった? 
だから押しつけ憲法ではない??

1)半藤一利「憲法9条は日本人がつくった」?

 半藤一利氏は2013年6月、「憲法9条は幣原喜重郎がマッカーサーに提案した」ことをもって、マッカーサーではなく日本人がつくったと指摘し、「押しつけ憲法だから改憲だ」という自民党の主張に反論している。半藤氏は『文藝春秋』編集長を務めた文芸評論家であるが、その戦争体験から、安倍政権の改憲の動きに反対している。
 護憲グループのなかには、この半藤氏の論拠、「押しつけではない、日本人がつくった」を利用しようとする人もいる。
 半藤によればその根拠は、マッカーサーは、「幣原が提案した」と語っており、幣原は、「自分がつくった」と語っていないものの、否定はしていないからだとしている。そして、幣原が9条を持ち出した背景は、1928年のパリ不戦条約の精神であろうという半藤の解釈を披歴している。不戦条約は、第一条において、国際紛争解決のための戦争の否定と国家の政策の手段としての戦争の放棄を宣言しており、調印に関わった幣原は、同条項の影響を強く受けていた、敗戦に際し「この精神を取り戻す」べきだと考えた幣原の提案に、マッカーサー氏は感動し、同意したという歴史解釈を披歴している。

2)「報道ステーション」で幣原説を報道

 テレビ朝日「報道ステーション」が2016年2月と5月の2回にわたって、憲法9条の発案者は当時の首相幣原喜重郎であるという説を取り上げ、半藤一利氏と同様に、「日本国憲法は日本人がつくった、押しつけ憲法ではない」と主張し、注目を集めた。
 根拠として、1957年に岸信介首相(当時)が作った憲法調査会の録音データの中に、幣原発案説を裏付ける証言があったと指摘した。第9条の発案者は?という質問に対して幣原自身が、「それは私であります。私がマッカーサー元帥に申上げ、第9条という条文になったんだ」と語っているという。
 さらに5月3日の放送では、幣原の盟友・大平駒槌が幣原から直接聞いた話を記録したノートでも、幣原がマッカーサーに提案したと書かれているという。

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<幣原喜重郎>

3)幣原説は正しいか? 

 マッカーサーは、「幣原が提案した」と語っているが、マッカーサーの回顧録は後の時代から自身を正当化する発言や記述が指摘されており、「マッカーサーが語った」ことをそのまま根拠にすることはできない。マッカーサーは、憲法草案が発表された当時、占領軍が草案を起草した事実を、極東委員会に対しても、日本国民に対しても、隠さなければならない立場にあった。
 幣原は、個人として行動したのではない。1945年10月には首相となり、天皇の側近としてマッカーサーと交渉したのであって、幣原個人の考え(=9条)をマッカーサーに伝える立場になかったし、その権限も持っていなかった。幣原はこのとき、天皇への戦犯追及を絶対に阻止し、何としても天皇制を存続させようと交渉したし、そのためには東条と軍部のせいにして責任追及を乗りきろうとした。これは、天皇と幣原を含む側近グループの公式の政治的立場でもあった。このような歴史を忘れてはならない。憲法9条、すなわち旧日本軍の武装解除とこの先の戦争放棄、戦力の不保持は、1945年敗戦直後において天皇制存続のための条件であり、裕仁は天皇制維持のためこの条件を受け入れたのである。

 幣原が、パリ不戦条約の精神に感化されたとする半藤の解釈は、現実の政治を離れた牧歌的な歴史解釈である。
 しかも「憲法9条は日本人がつくった」と勝手に言い換えている。「日本人」ではない。マッカーサーと交渉したのは、東条のせいにして、天皇への戦犯追究を回避し天皇制を存続させようとした天皇と側近グループであると、正確に規定しなければならない。日本人とあいまいに書いてはならない。幣原にとって9条は目的ではなく、天皇制存続のための条件なのだ。それを取り違えてはならない。

 当時の内外の政治状況からすれば、憲法草案を、マッカーサー占領軍が起草したとするのは都合が悪い。日本側、すなわち当時マッカーサーと会見した数少ない日本人である幣原が提案したことにする必要があった。
 半藤の新しい解釈は、敗戦直後の、世界的な情勢の考察が欠けている。

4)敗戦直後、裕仁と天皇周辺のパワーエリートたちは、どのように振る舞ったか?

 敗戦直後、天皇周辺の権力者たちにとって、天皇への戦犯追及を避け、天皇制を維持することこそ、最重要な課題であった。それは裕仁本人の意思でもあった。東京大空襲などの日本人の戦災死、被害、原爆による民間人の大量死、被害などは、深刻だけれども、天皇と権力者は、戦争であれば避けることはできない犠牲であると考えており、それよりも重要なことは「国体護持=天皇制の存続」であった。ポツダム宣言を受け入れ降伏する際にも、敗戦直後においても、変わらなかった。

 そのために敗戦直後、天皇周辺がとった対応は、東条英機、軍にすべての責任を負わせて、天皇の戦犯追及から逃げおおせ、国体護持=天皇制の維持を目指した。裕仁は退位さえも拒否した。敗戦の1945年、裕仁と側近たちは、そのように対処することにしたし、実際に対処した。幣原はその政治的目的の中で動いている。(幣原説を唱える人は、幣原の個人的考えを実行したかのように描き出している、歴史家として失格である。)

 裕仁と天皇周辺の権力者たちは、敗戦から1945年末までに、マッカーサーと交渉し、天皇の戦犯追及をしないこと、天皇制維持の確約を得た。その結果が、日本国憲法でもあるのだ。天皇裕仁は、日本国憲法を受け入れ(=天皇制維持を約束されたも同然)、その際にマッカーサーに感謝を表明している。

 したがって、裕仁は「押しつけ憲法」などと現憲法を批判したことは一度もない。感謝して受け入れたのが歴史的事実である。そのことをまずきちんと確認してしておかなくてはならない。安倍晋三や自民党・日本会議の政治家たちは、現憲法を「押しつけ憲法」と非難しているが、天皇裕仁の意に反しているのである。

 日本国憲法をよく見なければならない。憲法9条はその前の1条から8条、すなわち天皇制維持と一体である。天皇制を象徴天皇制として維持したうえで、9条、すなわち戦争放棄と戦力不保持が述べられている。旧日本軍に責任を負わせて、日本軍は武装解除し、戦争放棄する。裕仁は責任を負わないで天皇制は維持する。武装解除した後、天皇制を共産主義の脅威から護るのは米軍と米政府ということになる、少なくとも裕仁はそのように認識した。そのためには米軍は日本にいてもらわなければならない。のちに裕仁は沖縄を米軍に差し出すのである。

 憲法9条を提起したのは幣原ではない。幣原には、平和主義や国民主権の思想はない。あったとしても、天皇を戦犯追及から守るため東条と軍び責任を負わせて武装解除させ、天皇制維持のための「方便」の一つである。そのためにマッカーサーとの間で打ち合わせた芝居であった。それ以上に評価してはならない。

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<マッカーサーと天皇裕仁、1945年9月27日 第一回会談>

5)マッカーサーとアメリカ政府は?

 マッカーサーとアメリカ政府にとって、重要だったのは、米国のイニシアティブで日本を占領支配し、アメリカの同盟国にすることだった。そこにソ連の影響を排除しなければならなかった。敗戦直後の世界情勢がそこに反映している。すでに対ソ戦は始まっていた。
 マッカーサーはあくまで「連合軍司令官」であり、形の上では極東委員会が日本の軍国主義・ファシズムを払拭し再出発させる責任を負っていた。極東委員会は、日本が二度と戦争を引き起こさないように、軍国主義、ファシズムの根源である軍の解体、天皇制・財閥の解体、地主制度の廃止・農地解放、日本社会の民主化、国民主権の国家として再出発することを要求していた。

 しかし、マッカーサーにとっては何よりも、ソ連やオーストラリアなど極東委員会が日本占領の方針・方向を決める前に、アメリカによる日本の再生、支配、占領の実績をつくってしまおうとした。極東委員会にイニシアティブをとらせないために、直前に急いで日本国憲法を制定させて、日本はすでに自力で民主化に踏み出した実績をつくり、極東委員会に「介入」させないようにした。その結果、米軍による日本の単独占領支配を実現し、そのことで後に日本をアメリカの同盟国にしたのである。アメリカ政府からするならば、これはマッカーサーの第一の「功績」である。

 マッカーサーは、軍に責任を負わせて解体しながら、日本の支配層と官僚、警察、司法などの支配機構をそのまま利用することにした。従来の支配機構を利用するには、その頂点たる天皇と天皇制を利用すべきと判断した。マッカーサーは実際にその通りに実行した。そして、日本国憲法はマッカーサーの構想とも矛盾していないのである。

 日本を朝鮮、台湾の背後に位置する対ソの根拠地にする、その占領支配をつくりあげていくうえで、既存の権力=天皇を利用することはマッカーサーにとってきわめて「合理的」であった。占領軍=米軍、米国への反発は、天皇の権威を利用し抑えることができた。占領軍の戦力さえ当初の予定より大幅に削減できた。

 マッカーサーにとって憲法9条は、日本軍を武装解除し、米軍が軍事支配するのだから、何ら問題はなかった。決してマッカーサーの「平和主義」「理想主義」を表現しているわけではない。

※「マッカーサーは9条を含む憲法をつくるとき、理想主義者になった。そのあと、普通の「常識」に戻った」。(ダグラス・ラミス『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』)。このように書いている人もいる。これもまた、牧歌的な,能天気な解釈だろう。
 マッカーシズムのあとに育ったアメリカ知識人に典型的に観察される歴史認識を欠いた解釈である。


6)日本国民にとっては? 


 日本国民は、日本国憲法を制定する過程でほとんど関与していない。そのイニシアティブをとってはいない。

 しかし、日本国憲法、憲法9条が公表された時、これを熱烈に歓迎し受け入れた。それはマッカーサーや天皇裕仁の意図を超えて、熱烈に歓迎し支持した。戦争の時代を過ごし、家族の誰かが戦死し、また空襲や原爆で多くの人々が死傷した。戦争中の窮乏生活は我慢がならなかった。そのような日本国民は、国民主権、平和主義の憲法を熱烈に歓迎し支持したのである。そのあとも日本国民の平和志向や平和運動は9条を護り続け、平和運動は護憲運動と一体化した。9条は、マッカーサー・米国政府や天皇の意図を超えて、日本国民に支持され、平和を希求し戦争被害・原爆被害を告発してきた歴史をつくり上げてきたし、憲法擁護運動は、戦後日本社会をつくりあげてきたのである。そのつくりあげられてきた戦後の歴史のなかに、私たちは生まれている。その現実を無視するわけにはいかない。

 ただ、9条を擁護する日本国民や平和運動は、9条と一体であった1~8条、すなわち天皇制条項への批判を、まったく不十分にしかしてこなかった。

 日本国憲法はそもそもその出発から、当時の歴史的な背景に規定された矛盾を抱えているのである。憲法の基調は、平和主義、国民主権、基本的人権の尊重であるが、平和主義や国民主権とは反対物である天皇によって象徴されている。天皇と天皇制は、天皇主権=独裁=民主主義の反対物であり、また戦争、特に明治以降の侵略戦争と結びついた「平和の反対物」である。そのようなもので新憲法を象徴する合理的な論理は存在しない。

 戦後日本社会では、この矛盾を批判すること、あるいは言及することさえも、多くの場合、避けてきた。憲法擁護の平和運動内でもほとんど触れてこなかった。マスメディアは絶対に触れない。天皇制批判にたいして、NHKは絶対にやらない。真実を明らかにする意志が欠けている、歴史認識の中で天皇制要因を、勝手に削除して報道するのが日本のジャーナリズムとなっている。

 国民の多くも触れない。平和運動団体の多くも触れない。明白に日本の平和運動の欠陥であるが、誰もそのことに触れようとしないで、「9条を守ろう」と、こう主張してきた。1~8条と、9条とを切り離して強調したり、主張しても何も問題ないという判断がそこに見える。もちろん、決して切り離すことはできない。

 日本国憲法、9条は、決して天から与えられたものではない。第二次世界大戦の結果、ファシズム、日本の軍国主義が敗北し、平和を希求する世界中の人たちの犠牲と戦いがあって、もたらされた。しかし、戦争で多大な犠牲を強いられたもののファシズムや軍国主義と戦わなかった日本国民の多くにとっては、日本国憲法、9条はまるで天から授かったもののように思えたし、未だに思っている。

 裕仁は新憲法制定に際し、マッカーサーに感謝を表明している。天皇制を存続させてくれたからだ。裕仁が感謝して受け入れたことから、憲法は押しつけ憲法ではないと言えよう。しかしそのことは、「押しつけかどうか」が本質的な問題ではないことも同時には示している。

 また、日本国民は、憲法起草の段階ではとんど関与していないが、草案が公表された時、日本国民はこれを熱烈に支持した。国民が支持し受け入れた時点で、押しつけ憲法ではないし、押しつけは問題にならない。それで十分なのだ。「押しつけ憲法ではない」と主張するために、そもそも幣原説は不要なのだ。

 憲法9条を擁護するためなら、どのような理論も解釈も利用すべきという御都合主義、プラグマティズムは感心しない。「幣原が9条を提案した」という説が、自民党や右翼の「押しつけ憲法」だから改憲という主張への反論になると考えるのは、あまりにも政治的に幼いであろう。

 半藤氏や「幣原説」を唱える人たちが、改憲に反対していることは尊重し敬意を表するが、御都合主義の歴史解釈や説明には賛成できない。

 日本国民ではなく、幣原喜重郎(=天皇の側近であり天皇の政治的意思を実行した敗戦直後のパワーエリート)が、自分が提案したと書き残したから、「押しつけ憲法ではない」と言えるのではないのだ。そのことをよく弁えておかなければならない。

 私たちは憲法を擁護する、憲法の基調が、平和主義であり、国民主権であり、基本的人権の尊重しているからである。(文責:児玉繁信)

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安倍政治とは何か? [現代日本の世相]

安倍政治とは何か?

1)安倍一強体制の確立

 安倍一強体制はどうやって作り出されたのか。小選挙区制を利用した自公両党と安倍政権が大いに活用した結果が、自民一強、安倍一強をつくり出した。
 選挙における公認権は官邸が握り、政党交付金は自民党総裁に権力が集中する。従来の派閥は力を失ってしまった。その結果官邸がすべて支配する政治となった。安倍首相周辺の少数政治家と官僚に権力が集中している。
安倍政権は、さらに大手マスメディアを政権運営の装置として支配下に入れて、国民を情報コントロールしている。

2)自民党は典型的な右派政党になった

 安倍政権は典型的な右派政権になった。
 対外的には、タカ派の主張を行い、ナショナリズムの強調し、過去の侵略戦争を正当化する歴史修正主義を掲げ、軍事力で相手を抑えつける=積極的平和主義を唱えている。第二次世界大戦の結果、決定した国境線の変更を、日本政府は主張している。海外からは、極めて危険な右派政権と見なされている。
 国内的には、平等よりも、競争と自助努力を優先する。成長戦略は、労働法制の規制緩和と法人税減税である。

 これまでの自民党、すなわち1955年体制時代から続いてきた自民党は、典型的な包括政党であって、イデオロギー的に言えば右から中道の考え方まで併存してきた。その「併存」は、経済成長の上での利害調整で可能となった。

 1992年のバブル崩壊以降、日本経済は低迷しもはや高度成長は見込めない。そのため自民党政権は、新自由主義、格差拡大で利益を確保する路線に切り替え、イデオロギー的には右一色になった、ということである。

3)代議制民主主義の機能不全

 今回の国会包囲デモが拡大・持続したことは、国民の政治意識の高まりを反映したと言える。しかも、国会や政党・議員への不信感を訴える主張が多かった。国民の多数が納得しないなかで与党は、立法作業を強行した。
 一方、国会包囲デモの声を代表する政党・議員がいなかったし、国会の審議は国民の疑問に答えるものではなかったことも、明らかになった。現在の日本の代議制民主主義、政党と議員は、国民の声を反映しないシステムになってしまい、機能不全に陥っている。
 デモとして表現された国民の声は、安保法案成立以降、どのように継続した運動を組織するかが課題になっている。対抗運動は継続して初めて政治運動となることができる。

4)形骸化した国会審議

 国会審議、議員間討論がまったく低調であって、いかにもレベルが低いし、内容がない。どうでもいい形式へのこだわりがあり、審議は時間数だけで測られる。
 実際のところ、本会議は機能せず、委員会でほぼ審議が決着する。与党議員は官僚の事前調査に頼り切り、本会議ではほとんど何もしない。野党は、政府与党を質疑で追い詰めようとする、揚げ足取りをしようとする。その結果、行われるべき法案の逐条審議が行われない。
 結局、日程闘争と国対政治の裏交渉だけが大きな役割を果たして、形骸化した審議で終わる。

5)「新三本の矢」は、まやかし
 安倍内閣は、新三本の矢を発表した。「強い経済で名目GDP600兆円」、「子育て支援で出生率1.8」、「安心につながる社会保障で介護離職ゼロ」。

 一言で言えば、「新三本の矢」はまやかしである。実現するつもりもなければ、その根拠もない。口当たりのいい、ただの宣伝文句である。

 安保法案を成立させたので、安保から経済、国民生活向上に政策転換したかの如く装い、支持率回復を狙っているのだろう。

 第一に、これまでの三本の矢の評価がない。アベノミクスが掲げた、2%の物価上昇→賃金上昇→消費拡大というメカニズムは作用していない。特に賃金はほとんど上がっていない。金融緩和の出口戦略=財政赤字の処理は全く手つかずだ。企業は内部留保をため込むばかりで国内へ投資しない。新しい矢を放つなら、これまでの矢の行方を確かめてからにすべきだ。

 第二に、GDP600兆円を掲げたが、いつ、どのように達成するのかもなければ、時期の目標もない。実現は相当困難だがそのための手段は明示されていない。「3%成長を続ければ2020年度には実現できる」と官僚は説明するが、この20年間3%成長したことはない。ここ数年の潜在成長率は0.3~0.4%でしかない。

 第三に、出生率1.8は、結婚したい人がすべて結婚し、生みたい人がすべて生んだ場合の出生率なので、これまた実現はほとんど不可能である。支援制度なし目標だけ。
第四に、介護離職を防ぐには公的介護施策の充実が不可欠で、そのためにはより大きな財源が必要だが、そんな準備もない。これも掛け声だけ。

 「新三本の矢」は、実現の裏付けがまったくないし、安倍政権自体がその約束・目標を守るつもりがない。目くらましである。国民をバカにしている。(文責:林 信治)


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日本国債、格下げ [現代日本の世相]

日本国債、格下げ

 9月16日、スタンダード&プアーズ(S&P)は、日本国債を「AA-」から「Å+」に格下げした。

 日銀が国債を買い続ける現状では国債市場にほとんど影響しないが、日本国債を大量に抱える邦銀のドル資金調達金利は上昇し、資金調達がより困難になる。S&Pは、国債格下げと連動し、みずほ銀行や三井住友銀行も格下げした。

 安倍政権は、「アベノミクス新3本の矢」を発表したが、そこには「財政再建」、「増税」、「歳出削減」の文字はなかった。
 かつての10%、20%の高成長が続けば、財政は容易に再建されるだろう。しかし、そのようなことはありえない。財務官僚には、いまだに高成長の発想が抜けていない。「新三本の矢」は、「3%成長」を前提にしている。しかし、現時点での日本の成長率はわずか0.3%なのである。

 財政官僚の頭のなかは、「もはや、増税や歳出削減というまっとうは手段での財政再建はあきらめた。成長夢物語にすがるしかない」という事なのだろう。(日経新聞10月22日)

 法人税を増税するつもりはない。むしろ減税しようとしている。高額所得者への累進課税を強化するつもりもない。結局、成長戦略への夢物語に希望をつなぎつつ、財政再建は放置し、日銀が国債を買い続ける状況から抜け出せなくなるのだろう。その悪無限的地獄へ、一日ごとに嵌まり込みつつある。

 そして最終的には日本国民がその債務を背負うことになる。国民皆保険制度、医療制度、年金制度は崩壊する、すでに減らされた教育・福祉予算はさらに減らされる。日本のグローバル企業や資産家ではなく、日本国民が債務を背負う。
 ギリシャ国民は年金が削られ、窮乏生活を強いられている。しかし、ギリシャの大手海運業者は通常に業務をこなし収益を得ている。
 そのため、日本政府が財政破綻した後、犠牲になるのは日本国民であって、日本全体ではない。ギリシャ国民の姿は、近い将来の日本国民の姿なのである。(文責:林信治)

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違憲を承知で安保法案を成立させる安倍政権 [現代日本の世相]

違憲を承知で安保法案を成立させる安倍政権
武力で世界を支配する米国とともに、日本はリトル・アメリカをめざす
 
 安倍政権は「安全保障関連法案」を強引に成立させようとしている。この法案が違憲なのは安倍首相、政府は、百も承知だ。憲法など無視しようと考えている。それはアメリカ好戦派の世界戦略への服従でもある。安倍は中国との対立と戦争を夢想している

 言うまでもなく、この法案はアメリカとの「集団的自衛権」と結びついているが、「自衛」とか「防衛」が目的ではない。アメリカが侵略し、反撃されたら攻撃を受けたことになり、日本も侵略戦争へ参加することになる。

 しかも最近のアメリカの戦争は常に侵略が目的であり、国連さえ無視した単独行動が目立つ。
ロシアを屈服させるため、ウクライナで国内戦をしかけ、EUへのガスパイプラインを抑えようとした。
 2003年にイラクへ攻め込む際、アメリカ政府が「大量破壊兵器」という大嘘をついて攻撃を正当化した。
 
 こういう小型のアメリカになることを、日本の未来像として描いているのが安倍政権だ。

 このやり方は、大手マスメディアを使った大規模な「偽情報」の流布が必ず伴う。マスメディアを統制し、国民に情報を隠し、何も知らない考えない国民につくり変えることが必要となる。アメリカ政府は侵略を正当化するため、配下のメディア(事実上、西側の全有力メディア)を使って偽情報を宣伝、偽旗作戦も行う。

 日本政府には、そうした宣伝や工作を見抜く意志も力もなく、たとえ見抜いたとしてもアメリカ政府に従うままだ。アメリカとの「集団的自衛権」とは米侵略戦争への荷担にほかならず、日本を破壊と殺戮の共犯者にし、世界で孤立する。

 米国の次のターゲットは中国、東アジアにある。ここで日本をどのように利用するかが米戦略である。中国と日本を対峙させ疲弊させ、そこに米国の出番をつくろうというアメリカ政府、ネオコンの戦略である。アメリカ政府、ネオコンが日本を守るなどというのは妄想以外の何物でもない。
 しかし安倍首相は、その妄想にただひたすらすがりつこうとしているように見える。

 6月1日、安倍晋三首相は官邸記者クラブのキャップとの懇親会で安保法制は「南シナ海の中国が相手」だと口にしたという。日本のマスメディアは、このような危険を一切報じない。安倍政権は中国との戦争を想定しているが、これは20年以上前から練られたネオコンの世界戦略でもある。

 AIIB(アジアインフラ投資銀行)に次いで、BRICSは新開発銀行(NDB)を始動させる。中国の提示した現代版シルクロードのプランは、東アジアから欧州を結ぶ大経済圏の構想であり、次の時代の発展の姿を示して見せた。

 そのような構想の提示は、実際にはこれまで米国が占めてきた地位に中国が取って替わることであり、アメリカの支配層は危機感を抱いているはずだ。この中国に協調するのではなく、米国と一体になって対抗しようとするのが安倍の安保法制であり、TPPであり、歴史修正主義であり、沖縄辺野古新基地建設である。安倍政権のこれらの路線は表裏一体だ。

 安倍政権は、東アジアにおける危険性を高める大きな要因になるし、すでになっている。(7月21日記)

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現代日本の「じぶん褒め」症候群 [現代日本の世相]

現代日本の「じぶん褒め」症候群

 TV番組で、「じぶん褒め」が目立つ。いずれも外国人を登場させ、コメントさせる。
「世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ!視察団」
「YOUは何しに日本へ!」
 日本と日本人に対する根拠のないプライドを煽る。

 日本経済が低迷という「失われた20年」を経験し、中国にGDP第2位の地位を奪われた。しかもその差は広がる一方。「中国の台頭と発展の現実を決して認めたくない」という政治路線を実行しているのが、安倍政権の面々である。

 他方、格差社会となり多数の貧困化した日本人にとっても、「自尊心を満たす」「じぶん褒め」が心地いいのかもしれない。一瞬でも、苦しい現実を無視し忘れることができる。

 「日本の技術力は優れている? 日本人の仕事は丁寧だ?・・・・・」と繰り返す。
 福島原発の汚染水漏れに対する対策こそ、日本の技術力を示している。「溝を掘って土手を少し高くして汚染水の流出を止めます」とイケシャアシャアと東京電力は報告する。
 この仕事は、優れた日本の技術力かい? 日本的に丁寧かい?

 外交といえば米国の意向ばかり気にし、先進国とばかり付き合い、中国やアジア諸国に向いていない。ASEAN諸国は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加しない日本政府に失望し、「化石化した日本」と呼んでいる。
 AIIBによる開発は新たな問題を引き起こすだろうが、現時点で明確なのは、中国や東アジアと友好関係を築くことが友好と平和への道であり、TPPに加盟し米国への依存を深めるのが戦争への道である。

 「自尊」、「じぶん褒め」は、現代世界政治から孤立する日本と日本人の現実からの逃避でもある。現実を見ないで、「心地いい」言葉だけを耳に入れたがる。大手マスメディア、新聞、週刊誌は自尊心をくすぐる「心地よい」報道しかしない。本当のことを報道しない。あるいは嫌中・嫌韓の報道しかしない。さらに一部は、歴史修正主義、復古主義につながっている。
 
 現代日本の「じぶん褒め」症候群は、日本人が全体的に愚かになりつつある一つの現象ではないか。究極の「じぶん褒め」は、国際聯盟脱退であり、戦争中の大本営発表であった。ゆっくりとその状態に近づいていると感じるのは、私だけだろうか。

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新国立競技場は何の象徴か? [現代日本の世相]

新国立競技場は何の象徴か?

 ギリシャ危機はどこから始まったか?
 現在、財政問題で西側の食い物になっているギリシャでも2004年にオリンピックが開催された。この時期に、ギリシャ財政を破綻させる動きが水面下で進んでいた。
 ギリシャはユーロ圏へ入るのだが、財政面で条件がクリアされていなかった。そこで登場するのがアメリカの大手投資会社のゴールドマン・サックス。2001年にギリシャが通貨をユーロに切り替えた際、財政状況の悪さを隠す手法をギリシャ政府に教授した。

 ギリシャがEUに加盟しユーロの信認を手にして、欧州資本やギリシャ資本、ギリシャ政府は、観光業や不動産業、サービス業で巨大な投資を実施した。開発ブームが起きた。その象徴はアテネ五輪だった。

 オリンピックが終わった2006年、ギリシャの債務が膨らんだ。そこで、隠していた悪い財政状況がバレてしまい、ギリシャ危機ははじまった。あるいは、意図的に暴露し、その機会に儲けた輩もいる。

 今やバブルは崩壊し、ギリシャ政府はEU、EMB、IMFから債務返還を求められる待ったなしの状況下で、年金の削減、教育福祉予算の削減を主内容とする緊縮政策=新自由主義政策の実施を迫られている。相手の資金がショートした時に、新自由主義政策を呑ませる。あくまで「ギリシャ政府の選択」の形をとる。なんせ、民主主義国家のやることだから。

 ギリシャの年金受給者は、265万人、人口の四分の一。ギリシャ最大労組調査によると、一人当たり年金受給額は、2009年1,350ユーロ、2014年は800ユーロへとすでに4割近く削られている。毎月の給付総額は20億ユーロ。これをさらに削る。
 EU、ECB、IMFは、自分たちの手は汚さずに、ギリシャ政府に年金を削らせる。ギリシャ国民の批判が、IMF、EU、ECBに向かないようにしたい。

 ギリシャ政府は、法人税を上げ、企業の社会保障の負担を重くし年金制度を維持しようと主張したが、IMFは「成長を妨げる」との理由で認めなかった。ギリシャ政府に「新自由主義」政策を押しつけているのである。

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 さて、2020年に東京オリンピックの会場になる新国立競技場が問題になっている。1,300億円と言われた工費が2,520億円に膨らみ、このまま進めば4,000億円になるのか、5,000億円になるのか、誰にもわからない。「オリンピックを口実にこの際、大儲けしちゃおう!」という輩が安倍政権の周囲に、しかも中枢に確実に存在する。予算が足りなければ、国債を発行すればいいと考えている。それだけ国民の負担は膨らむ。

 これは、どこかの国と似ていないか? そうだ!ギリシャだ。
 例えば、インフレとなるだけで、日本政府の財政破綻はこの先修復できそうにないと評価さてしまう事態に陥りかねない。そうなれば、日本国債は暴落を始める。
 そのあとは、永年にわたって闘って勝ちとってきた年金制度、福祉教育予算、医療制度、国民皆保険制度は、ギリシャのようにほんの短期間で破壊されてしまうことになる。
 新国立競技場が、その象徴とならないことをただひたすらに祈る。

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安倍首相の岸コンプレックス [現代日本の世相]

安倍首相の岸コンプレックス

 4月29日の米議会での安倍演説で驚かされたのは、冒頭で祖父である岸信介の名前をあげ、「民主主義の原則と理想を確信していた」元首相と紹介したことだ。あらためて、安倍首相の本心がどこにあるかを確信させられた瞬間でもあった。
 安倍首相を突き動かしているのは、もっぱら岸信介へのコンプレックスである。父親の安倍晋太郎の名前など出ない。もっぱら、岸信介である。異常なくらいだ。結局それは、安倍首相の歴史観・国家間と結びついている。
 岸信介は、軍部と結びついた革新官僚のトップであり、満州国をつくった実務者である。東條内閣の一員として大東亜戦争を指導した責任者である。戦後、GHQは岸を極東裁判にかけ、戦争犯罪人、A級戦犯の一人として巣鴨プリズンに3年間放り込んだ。
 岸信介を尊敬する安倍首相は、満州国建設を中国侵略と思っておらず、大東亜戦争を「尊い戦争」と考えている。しかも大切な祖父を危うく戦犯で絞首刑にしようとした極東裁判なんか、間違っていると確信している。
 その岸を「民主主義の原則と理想」を尊重した日本の首相と、安倍首相は米議会演説で紹介したのである。きわめて理解しがたいのであるが、彼の語る「民主主義の原則と理想」は、侵略戦争を否定し、極東裁判を否認する立場と矛盾しない。

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経団連に愛国心教育を! [現代日本の世相]

巨大企業は法人税を払え!

経団連に愛国心教育を!

 日本の財政赤字は、巨大企業が法人税を払っていないことと、富裕層が所得税を払っていないことによる。その責任を頬被りし、消費税増税で国民に負担を押しつけた。

 安倍政権は2015年から法人税減税を開始し数年以内に20%台に引き下げる方針を表明した。2014年法人税(法定正味税率=国税の法人税、地方税の法人住民税、法人事業税の合計:東京都の場合)は、35.64%まで下がっている。

 しかし、巨大企業は35.64%も払っていない。「受取配当金を課税対象外とする制度」、「優遇措置」、「会計操作で課税所得を低く抑える」、「タックスヘイブンの利用」などなど、さまざまな手法を使い課税を逃れている。富岡幸雄が『税金を払わない巨大企業』(2014年9月)で、巨大企業ほど、いかに狡猾に税逃れをしているか、指摘している。

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 法定正味税率さえ払っていないのに、経団連は「日本の法人税は高い、下げろ!」と言い続けている。麻生太郎財務相が1月5日、「君らは守銭奴か!」と言い放った非難の言葉は、ぴったり当たっている。

 近年の日本社会は異常に変化してきた。日本の経営者の意識は大幅にアメリカナイズされた。「税はコストだから、安ければ安いほどいい、自分の企業が儲かれば政府財政や日本経済がどうなっても構わない」こういう考えが蔓延し、巨大企業の社会的責任感はどこかへ消えた。

 政府が財政赤字となり、1000兆円を超える債務残高が積みあがったのは、巨大企業、100億円以上の富裕層が、税逃れしてきたからだ。

 かつて2007年に日本経団連(御手洗富士夫会長、現在は名誉会長)は、「希望の国、日本」(御手洗ビジョン)を発表した。そのなかで、「愛国心教育」の必要性を明記している。

 ずるをして、税逃れして、国などこれぽっちも愛してこなかった連中が、国民に対しては「愛国心を持て!」と教育するというのだ。何という、人を馬鹿にした話だろう。

 経団連経営者、巨大企業の経営者にこそ、愛国心教育が必要である。国家財政の危機状況下にあっても、課税取得を減らすための優遇措置、制度を国に認めさせ、「優秀」な会計専門家を雇い税逃れし、なおかつ法人税引き下げを要求し続けている。

 巨大企業の経営者こそ、まったく「国を愛し」ていないことが明白だ。「愛国心、愛情と責任感と気概をもって国を支え守る気概」を叩き込む必要があるのは、御手洗名誉会長を含む日本経団連の面々ではないか!
  
 「国民に愛国心を持て!」と説教するのだから、少なくとも、自らすすんで法人税を、所得税を払う、巨大企業の経営者、富裕者でなければならないのではないか。 
 とにかくちゃんと払え!  (文責:林 信治)


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