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欧州の天然ガス価格高騰はどうして起きたのか? [世界の動き]

欧州の天然ガス価格高騰はどうして起きたのか?

1)天然ガス価格上昇 

 世界的にエネルギー価格が上昇しており、特に欧米で物価上昇が一時的なものでなくなり、インフレ懸念が確実なものとなっている。米FRBはテーパリング開始を22年3月からと前倒しすることにした。
 世界的にエネルギー価格はなぜ上昇したのか? 欧州の天然ガス価格急騰はどうして起きたのか? 明かにしておかなくてはならない。

2)英国で電力小売り会社の半数が倒産、新規参入企業を中心に

 12月16日の日本経済新聞によれば、「英国エネ会社、半数が市場退場」したという。11月22日、英バルブエナジー社が経営破綻した。利用者数170万、英7位の電力小売り会社である。英国ガス電力市場では、2020年末時点で、52の電力小売会社が営業していたが、21年8月以降、すでに30社近くが破綻した。

 大量破産の引き金は、燃料価格の高騰である。21年10月、天然ガス価格が高騰、いったん収まりかけたが、ウクライナ危機で12月14日にまた高騰した。

 英国では、消費者保護を目的として、電力小売り価格を規制しており、当局が原価や販売費、利潤などを考慮し上限を決めている。エネルギー価格の急な高騰に「価格調整」が間に合わず、財務体力や価格ヘッジが不十分な新興参入企業に打撃を与えた。10月には資金繰りが切迫、銀行融資に走ったが、倒産が相次いだ。連鎖倒産も起きている。12月1日に破綻したゾグエナジー社は、仕入れ先の卸売業者が潰れ、ガスを安く仕入れる既存契約が無効になり、倒産に至った。

 そもそも英国では、サッチャー政権下の1980年代以降、電力・ガスの民営化や自由化が段階的に進み、2010年代には新規参入が相次いだ。今回の記録的な相場急騰で、参入した新興勢を中心に経営破綻した。

 新規参入の電力小売会社は、財政体力が弱く、高利の資金調達に頼っている。ガス価格が安定している通常の条件では利益を上げられても、今回のように急騰や乱高下した時、直ぐさま資金繰りが切迫し破綻にいたる。

3)欧州、天然ガス高騰の理由 

 特に欧州では、天然ガスや液化天然ガス(LNG)の高値が続いている。LNGスポット価格は、21年10月に100万BTU(英国熱量単位)当たり、50㌦を突破し、12月には80㌦まで急上昇した。
 欧州の天然ガス危機には、複数の要因が重なっている。

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<天然ガス価格 12月6日 日経>

① 需要が回復: コロナ禍から需要が回復してきた。需要が回復し世界的に原油、天然ガスを含めエネルギー価格が高騰している。

② 風力発電の出力が低下: 欧州では今年、風が吹かず、風力発電の出力が低下した。不足を補うため天然ガス火力発電の稼働が高まった。

③ 石炭から天然ガスへの需要シフト: 化石燃料から再生可能エネルギーへの転換していく過程で、石炭火力ではなくCO2排出量の少ない天然ガス火力に集中した。

④ 欧州の天然ガスは、スポット市場から調達
 世界的に天然ガスの価格が上昇しているが、欧州天然ガス市場の特殊性も関係している。欧州は7~8割がスポット市場から調達している。スポット価格は市場需給に従い乱高下する。日本のLNG(液化天然ガス)は長期契約が中心で、スポット調達は3割程度である。欧州が調達している天然ガスのスポット市場価格が80㌦超(100万BTU当り)にまで急上昇した。 

 これには理由があって、温暖化ガス排出ゼロにむけてEUの欧州委員会が、天然ガスは1年未満の短期契約は認めるものの、長期契約(1年以上の契約)を禁止してきたからである。12月15日、EUの欧州員会は、価格の高騰にもかかわらず、2049年までに原則として天然ガスの長期契約の禁止を確認した。(12月16日、日本経済新聞)

⑤ 投資不足ですぐに増産ができない: コロナ禍の需要減退で投資を絞ってきており、需要が急回復してもすぐには増産できない。また、温暖化対策から、金融機関、投資家は世界的に化石燃料である石油・天然ガス・石炭開発への投資を絞っている。したがって、投資資金が十分に集まらない。

⑥ 米シェールガスが増産、輸出しない: 米シェール企業も多くはベンチャーであり、ハイイールド債などの高利の資金に頼っており、原油・ガス価格が低迷した時、資金繰りに苦しみ操業を停止してきた。原油価格が1バレル30㌦台に下がった時、優良な油井以外、多くは破綻した。今夏、原油価格は1バレル80㌦程度にまで上昇しシェールオイル・ガス価格も上昇したが、投資資金の調達が充分できず、増産には転じたものの米国内需要を賄うのが精一杯で、輸出にまで回らない。輸出に必要な米国のシェールガス液化設備も増産投資しておらず逼迫状態となり、不足している欧州や中国・アジアに輸出できない。22年には液化能力を2割、増やす見込みだがまったく足らない状態だ。

 その結果、欧州天然ガス価格が米国価格の5倍(21年10月28日)にまで高騰した。  

4)長期的な要因、政治的な要因

 LNGの世界全体の需要は、2030年まで年3~6%の伸びを続けるという予測に対し、過去の価格低迷から投資が不足しており、2025年26年までは供給余力はない。不足状態が起きれば再び危機的な状況につながる。投資不足の要因は、金融機関、証券会社などから化石燃料開発への投資の中止表明が相次いでおり、いわば金融市場からの圧力から投資不足を招いていることからの制約もある。

 すなわち、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の過程で、時期ごとにどのようにエネルギー転換をしていくか? について、大まかな目標では合意し、一方、炭素税を導入し、各国政府・企業に切り替えを促進させようとしている。しかし、各国ごとに合意した明確な計画がないことに原因がある。各国政府、各企業とも目標を掲げ推し進めているが、この転換のプロセスでCO2排出量の多い石炭火力から天然ガスへの転換も並行して進めることになる。しかし、全体としてどのような計画とペースで転換をすすめるかについて合意はなく、各国や企業群が投資し利益を上げること=企業間競争、市場の動向を「推進要因」として実行されている。いわば、資本主義の無政府性がこういった混乱を招いていると言える。

 いま一つは、アメリカ政府のとっている対ロシア戦略、欧州戦略にある。「OPEC+ロシア」は協調して生産調整し、原油・天然ガスの安定供給と価格の安定に努めてきた。しかし、アメリカ政府と米企業はこれに加わらず、自由に(=勝手に)振る舞ってきた。アメリカ政府と企業は例外だというのだ。

 2010年代半ばにはシェールオイル、ガスの増産により、米国は世界一の産油国、輸出国になった。米シェールオイル生産が原油価格を乱高下させた要因でもある。トランプ前大統領は、米シェール企業の代弁者となって、「米シェールガスを欧州はもっと買え!」「ロシア産ガスを買うな!」とたびたび発言した。しかし、21年現在のように欧州で天然ガスが不足しても、米国需要を優先する、生産余力がないので輸出しない、米国は安定したエネルギー供給など考慮していない。アメリカと付き合うと大変なことになるのである。

 バイデン政権は、21年秋エネルギー価格高騰に際し、おそらく国内支持者を意識したのであろう、「OPEC+ロシア」に原油増産を要請した。米国のシェールオイル・ガス生産が、需要回復に対応できないのが大きな要因であるにもかかわらず、まるで「OPEC+ロシア」が悪いかのように非難しはじめた。こういうアメリカ中心の「唯我独尊」ともいえる考え方、「アメリカ例外主義」には、あらためてあきれさせられる。

 米バイデン政権の振る舞いは、自身の米国内での支持率を意識したものであり、米国内の政治事情からきている。長期的なエネルギー政策など考慮していない。ロシアやOPECへの非難、責任転嫁は筋違いである。

5)「ウクライナ危機」を煽ったら、自身に跳ね返ってきた

 さらに、アメリカ政府によるロシア戦略が悪影響を及ぼした。「ウクライナ危機」を煽ってロシアを孤立させる米バイデン政権の戦略が、欧州の天然ガス価格をさらに高騰させたのである。21年10月に欧州天然ガス価格が高騰し、11月にはいったんおさまりつつあったが、12月に入り「ウクライナ危機」を煽ったことで、天然ガス価格は再び高騰した。

 ロシアから欧州への天然ガスは、いくつかのパイプラインを通じて供給される。かつてウクライナがロシアから欧州へ送るガスを勝手に盗み取り、独メルケル首相の怒りを買ったことがあった。安定供給のため、バルト海海底にパイプラインを施設しドイツとロシアを直接結ぶ「ノルドストリーム2」を建設し完成させた。「ノルドストリーム2」は途中で抜き取ることはできない。ドイツをはじめ欧州諸国は安定したエネルギー供給を確保しなければならないのである。

 アメリカ政府はロシアを孤立させる米国の戦略に反すると「ノルドストリーム2」を非難してきた。トランプは、米国シェールガスを買わせるためにも「ノルドストリーム2」を非難し、欧州との同盟さえ傷つけてきた。バイデン政権になっていったん、同盟国ドイツのメルケル首相との関係修復、協調から「ノルドストリーム2」を認めたが、21年秋「ウクライナ危機」を煽るなかで、再度「ノルドストリーム2」稼動阻止に態度を変えた。

 ウクライナ、ポーランド、バルト3国はもともと、ロシアを非難することで米国の支持を得た連中が政権についている。米国の意向を汲んで危機を煽る政策をとっていることから、さらには「ノルドストリーム2」が稼働すれば天然ガス通過料収入が減少するので、米国のロシア非難の合唱に加わっている。

 ドイツは、安定的なエネルギー基盤を確保しなければならない立場にある。

 12月に欧米が軍事的挑発を準備し「ウクライナ危機」が頂点に達したが、そのことでエネルギー価格、特に天然ガス価格がさらに高騰した。米国の挑発に呼応したら、ガス価格は高騰し欧州危機に陥りかねないことが現実となったので、挑発者に加わわろうとしていた欧州各国政府は手を引くことにした。米国一国ではNATOを動かせないので、「ウクライナ危機」は終息した。

 欧州での天然ガス価格高騰は、こういう思わぬ政治的「結末」--自分が煽ってつくりだした危機を、自分で終息せざるをえないという少し「間抜けな結末」――をも、もたらしたのである













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