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財政再建を先送りする安倍政権 [現代日本の世相]

財政再建を先送りする安倍政権
 財政運営のフリーハンドを得た安倍首相


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1) 財政健全化プランが破綻した

 2015年度に策定された財政健全化プランが破綻した。従来の目標だった2020年度基礎財政収支黒字化は、2025年度に先送りされた。
 
 「先送り」したのは、経済危機に襲われたからではない。政府が「景気拡大している」と自負している時期に「先送り」(=破綻)したのだ。繰り返すが、2015年度以降、景気は大きく悪化したわけではない。それから最も重要なのは、政府が歳出削減に踏み込んだという事実もないということだ。
 そもそも、基礎財政収支黒字化を達成するつもりがあるのだろうか?

2) 新たに策定する財政健全化プランは、黒字化を達成できるのか?

 では、新たに策定する財政健全化プランは、2025年度の基礎的財政収支(PB)黒字化の新目標を達成できるのだろうか?

 「財政健全化プラン」の欠陥

 新たに策定された「財政健全化プラン」の最大の問題点は、実勢からかけ離れた名目成長率を用いていることにある。インフレ目標が2%であるとしても、より慎重な名目成長率見通しを用いなければならない。
 1月に発表された内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では、2018年度から2025年度までの名目成長率の前提は、「成長実現ケース」において、2%台半ばから3%台半ばであり、バラ色の見通しが据えられている。慎重であるべき「ベースラインケース」においても、1%台後半から2%台半ばの好調な名目成長が想定されている。
 しかし、現在の潜在成長率は1%弱、足元のエネルギーを除く消費者物価指数(CPI)コアや国内総生産(GDP)デフレーターの前年比は0.5%程度しかない。

 であれば「健全化プラン」は0.5%成長程度を前提に計画策定しなければならない。にもかかわらず、新策定の「健全化プラン」は、破綻した「旧プラン」と同じように、高い経済成長による税増収を前提にしている。
 
 「財政健全化プラン」第二の問題点は、景気後退による税収入の減少、補正予算による支出増大を、まったく考慮に入れていないことだ。景気拡大局面の後には景気後退局面が訪れる。景気拡大局面に増えた税収は、景気後退局面には大きく落ち込む。2008‐09年のサブプライム恐慌時には大きく税収は落ち込んだ。それだけでなく補正予算による支出が増大した。

 新たに策定する財政健全化プランは、景気循環による税収落ち込みを一切考慮に入れていない。すでにサブプライム恐慌から10年が経過し、次の落ち込みが予想されているにもかかわらず、である。

3)そもそも財政健全化を実行するつもりはない!

 「健全化プラン」が破綻し、同じようなプランが策定される。策定した官僚自身が、実現するつもりのない計画であることはよくわかっているだろう。
 計画が実現しなかったなら、「想定したほど経済成長しなかったから」、あるいは「予想外の景気後退に見舞われたから」という言い訳が、語られるのであろう。
 だれも責任を取らない、無責任体制が、ここにある。

4)「新たな財政健全化プラン」の意図=「安倍政権は、2021年度まで財政削減努力はしない」

 「新たな財政健全化プラン」では、2021年度に次の3つの財政指標を基に、中間レビューを行うという。
1)PB赤字の対GDP比を1.5%程度まで改善させること、
2)公的債務の対GDP比を180%台前半に抑えること、
3)財政収支の対GDP比を3%以下とすること。
 これらを達成するため、政府はどれほどの歳出削減努力を必要とするのか。

 この目標に対して、「プラン」どのように見込んでいるだろうか?

 「成長実現ケース」においては、高い成長による税収増もあって、2021年度のPB収支は▲1.7%、公的債務の対GDP比は178.5%、財政収支の対GDP比は2.6%まで改善が見込まれている。
 したがって、「歳出削減努力」は不要だということになる。

 「ベースラインケース」においても、高めの名目成長率が想定されているため、2021年度のPB収支はマイナス1.8%、公的債務は183.4%、財政収支はマイナス1.8%まで改善すると見込まれている。PB収支は目標を0.2―0.3ポイント超えているように見えるが、目標は「1.5%以下」ではなく、「1.5%程度」であり、1.7%や1.8%はその範囲に収まるということなのだろう。

 したがって、追加的な緊縮的措置は必要ない。つまり、2019―21年度までの予算編成において、消費増税を除くと、ほとんど緊縮的な財政措置は取られないということになる。
 「健全化プラン」は、驚くべきことに、達成のための歳出削減努力はほとんど必要ないというシナリオがすでに半ば組み込まれているのである。

 安倍政権は、少なくとも2021年度予算までは財政健全化に縛られず、財政運営でフリーハンドを得たということが、堂々とかかれているのだ。

 それだけでなく、安倍晋三首相はすでに、2019年10月の消費税率の8%から10%への引き上げに伴う景気への悪影響を回避するため、2019年度と2020年度については、当初予算の段階から景気対策を盛り込むことを指示している。消費増税は軽減税率を除くと4.6兆円程度だが、幼児教育などの無償化もあって、実質増税は2兆円となる。これと同等か、あるいはこれを上回る規模の景気対策が2019年度と2020年度の当初予算に組み込まれるということなのだろう。

5)どのような方針をとるべきなのか?

 どのような方針をとるべきなのか?
 まずは、非現実な高い名目成長率を前提とするのをやめるべきなのだが、これもなかなか根が深い。
 そのような子供だましの計画を策定し、なんとも思わない政権、財務省をはじめとする官僚機構、全体としても無責任体制、これをやめさせなければどうしようもない。そのような政治家や官僚は放逐しなければならない。破滅に向かって突き進んでいるようなものだ。

 成長プラン=潜在成長率の底上げは重要だが、それは容易ではない。1990年代以降、潜在成長率は低下傾向が続いているが、回復が訪れたことは一度もない。だから、潜在成長の改善を前提に財政健全化プランを策定することは、結局、永久に財政健全化を行わないと宣言しているようなものだ。
 さらに過去5年半の日銀の大実験で明らかになった通り、インフレ期待の醸成も容易ではない。財政危機は大幅に悪化しており、わずかな可能性に賭けて、一国を財政危機のリスクにさらしてはならない。

 安倍政権の腐敗ぶりは極まっている。「財政健全化プラン」も政権運営に強く配慮したお手盛りとなっている。これもまた官僚による「忖度」によって策定されたのだろう。安倍政権への当面の支持があればそれでいいのであって、安倍晋三にとっては「あとは野となれ山となれ!」なのだ。

 必要なのは、低い成長の下でも持続可能な社会保障制度や財政制度を構築することである。
 それができる政権に交代すべきである。
(文責:小林 治郎吉)




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