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トランプによるイラン核合意破棄の意味 [世界の動き]

イランとの核合意破棄の意味
 トランプ米政権の狙い

1)トランプはイランとの核合意の一方的な破棄を通告


180508 米の核合意破棄をうけて会見に応じるイラン・ロウハ二大統領 (Iranian Presidency).jpg
<2018年5月8日、米の核合意破棄をうけて会見に応じるイラン・ロウハ二大統領 (Iranian Presidency)>

 イランが核合意を遵守しているという国連国際原子力機関の報告を無視し、EUやロシアや中国といった署名国の反対にもかかわらず、5月、トランプ政権は一方的に事実上の合意終了を発表した。11月4日には、イランから原油を輸入する各国企業と取引した取引した外国金融機関は、米国の国内法「国防授権法」により、ドル取引ができなくなる。ドル取引を禁ずるというワシントンの経済制裁が実質的に発効する。

 EUや日本は、米国によるイランとの核合意破棄に反対したが、EUや日本の企業はトランプの脅しに屈服し、イラン原油輸入停止へと動いている。
 既にフランスの巨大エネルギー企業トタルは、イランの巨大なエネルギー部門でのジョイント・ベンチャーを止めると表明した。デンマークの海運マークスもイラン原油引き受け中止を表明した。インドも追従する見込みだ。

 日本の石油元売り企業はイラン原油の輸入停止に向けて調整に入っている(7月19日、日経)。日本は輸入量の5%をイランから輸入しているが、これがゼロになる。

 他方、中国とロシアは核合意破棄に反対するとともに、特に輸入大国である中国は原油の輸入は継続すると表明している。

 イランは、現状日量380万バレル生産し、250万バレルを輸出しているが、約100万バレル程度減る見込みであり、その分外貨収入が減少する。イランは一層、中国やロシアへ接近することになる。

2)米国の狙いは、イランの核ではなく石油だ

 イラン核合意のトランプ政権による一方的拒否で明らかなことは、イランの核計画自体とは全く無関係だという事実だ。核合意破棄の目的は、イラン原油輸出と石油・ガス開発に対する経済制裁を再度課すための口実だ。

 7月2日、あるアメリカ国務省幹部が、核合意破棄の狙いを告白した。“原油輸出による収入をゼロにして、イラン政権への圧力を強化するのが我々の狙いだ。世界市場の混乱を最小化するべく我々は努めているが、石油生産能力には十分な世界的余力があると我々は確信している。“と語った。(「ワシントンの最新の神話とウソと石油戦争」2018年7月6日、F. William Engdahl、 Blog「マスコミに載らない記事」)

 ただし、実際には輸出をゼロにすることはできない。中国は輸入を拡大するだろう。

3)アメリカはシェールオイル増産、シェア獲得を狙っている

 いま一つの狙いは、アメリカのシェールオイルである。こちらの目的が主なのであろう。
 原油価格は現時点(2018年7月19日)で1バレル=70~80ドルに達しており、アメリカのシェールオイルにとって絶好の条件だ。増産し輸出しシェアを拡大できるチャンスだ。

 アメリカはOPECに加盟しておらず、しかもOPEC非加盟国も含めた「減産合意」からも自由にふるまっている。イランを非難しイラン原油の輸入を停止させれば、アメリカのシェールオイルの売り先が広がるのである。

 イラン核合意破棄という安全保障にかかわる「火遊び」をしても「石油生産能力には十分な世界的余力がある」という判断は、当然のこと、シェールオイル増産を想定している。アメリカ・シェールオイル生産に資金を出しているウォール街主要銀行の要求による最優先の外交政策なのだ。アメリカによる石油支配が有利になるように、主要な石油の流れを混乱させる戦略が背景にある。

 イランとは別に、米政府が経済制裁するベネズエラでも、社会政治情勢の混乱で原油は減産となっている。
 国際エネルギー機関によれば、ベネズエラ原油生産は、6月は平均で日産136万バレルで、5年前の290万バレル/日から激減している。さらに50万バレル程度減りそうだ。米国制裁によりハイパーインフレにより、国民生活は疲弊している。国営石油会社PDVSAは資金不足から対外支払いができない。資金人材不足から、油田の補修ができず新規油田開発も停滞している。

 OPECが非OPECであるロシアなどに呼びかけて17年に始まった協調減産で、世界の在庫は減少し十分な余裕はない。そこに米政府はイラン、ベネズエラ、リビアの石油供給を標的にすることで、原油価格を60~80ドルに調整し上げてきた。
 ただし、18年7月になって、1バレル=80ドルを超え、このままだとガソリン価格が上がり、10月の自身の中間選挙に影響すると判断したトランプは、OPECに増産を要求した。「ガソリン価格が上がったのはOPECのせいだ!」というのだ。

 身勝手としか言いようがないのだが、イランを追い込みたいサウジはこれに応じる。イランがイエメンのシーア派勢力とシリアのアサド政権を支持しているから、中東支配がうまくいかないと思い込んでいるサウジは、これに応じる。
 
 国際エネルギー機関(IEA)によれば、OPECの余剰生産能力は6月末時点で日量324万バレル。そのうち、サウジが180万バレル。余剰生産能力の大半を占めている。
 しかし、増産といっても原油価格が下がってはサウジも困るので、増産は日量70‐80万バレル程度になりそうなのだ。

4)シェールオイルにとって、1バレル=60‐80ドルがいい

 「テキサス州を本拠とするアメリカ・シェール石油最大生産者の一社、パイオニア・リソーシズの会長スコット・シェフィールドが、最近のOPEC会合中、最近のウィーンでのインタビューで、 今年末までに、アメリカ合州国はロシアを超えて、世界最大の産油国石油になると発言した。アメリカの生産は、テキサス州のパーミアン盆地などのような場所のシェール石油生産を基に、3-4ヵ月で日産1100万バレルを越え、“非常に短期で”1300万バレル/日にいたり、7年か8年内に、1500万バレル/日になり得るという。現在、シェールオイルにとって、最も好ましい価格は、1バレルあたり60ドルから80ドルの範囲だと彼は述べた。」(「ワシントンの最新の神話とウソと石油戦争」2018年7月6日、F. William Engdahl、 Blog「マスコミに載らない記事」)

 「イラン、ベネズエラ、リビア、ナイジェリアの減産は、計160万バレル程度。OPECで70~80万バレル増産しても、足らない。イランやベネズエラの減産は、すぐには解決しない。そのため、今後当分のところ1バレル=60~80ドルで、荒っぽい値動きをする。」(7月18日、日経 「原油相場、米国次第で乱高下」 岩間剛一・和光大教授)と予想している。

 市場の動きを見るならば、思惑通りすすんでいるということなのだろうか。

 イランとの核合意破棄は、原油価格の調整が目的の一つである。
 米有力エネルギー企業は、シェールオイルが世界市場での地位を獲得する「目先の利益」を狙っている。トランプはその代理人であり、その「目先の利益」に沿った外交政策なのである。
            (文責:林 信治)              





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