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最近のフィリピン政治情勢について [フィリピンの政治経済状況]

最近のフィリピン政治情勢について


1) ドゥテルテは「したたか」に、権力を掌握した 

 大統領に就任した16年当時、ドゥテルテの政治的基盤はきわめて脆弱だった。彼は力強い政治運動、政治グループの支持で当選したわけではないし、旧来の支配層(「上流階級・上流家族」)出身でもない。メディア向けの巧みなパフォーマンスで人気投票に近い選挙に持ち込み、勝利者となった。政権発足後、既存のフィリピン資本家、旧来の支配層、政府官僚らとどのように折り合いをつけるか、注目したが、この政権掌握過程が極めて「したたか」だったのだ。

 旧来の政治家や支配グループであるマルコス家やアロヨ元大統領グループを、利権を通じ政権に取り込んだ。一方に利権を示し、他方に反対する者には警察による強圧で対応し、最終的に旧来の政治家や利権グループはドゥテルテ支持者となった。議会は旧来の支配者、地方の有力者からなっており、議会におけるドゥテルテ支持が多数派になっている。 

 政権発足前からドゥテルテは、NPA(新人民軍)やMILF(モロイスラム解放戦線)などとの内戦終結・和平協定締結を公約に掲げ、和平を望む国民や左派の一部、労働組合員からも支持され当選した。MILFとは19年2月、イスラム自治政府発足までこぎつけている。

 政権発足時には国民民主戦線(NDF)など左派グループから4人の閣僚を迎え、融和的な姿勢を見せたが、一年後の17年9月以降、四閣僚を徐々に追い出した。ロペス環境天然資源相(環境問題活動家)、タギワロ社会福祉開発相(元フィリピン大学教授、女性解放研究者)、マリアーノ農地改革相(KMP出身)、リサ・マサ国家人貧困撲滅委員会共同代表(ガブリエラ名誉議長)。

 同時にNPAとの和平交渉もドゥテルテ側から頓挫させ、17年12月にはNPAを「テロ組織」に認定し、「敵対」する姿勢へと転換した。18年、労働雇用省のマグルンソッド副長官(KMU元議長)など政権内の民主的な官僚が追い出される過程はさらに加速し、政府内での軍や警察の影響力は大きくなっている。

 選挙の際、和平を掲げ左派や多くの市民から支持を集めたが、権力を掌握して来た今、他の支持基盤を持ったし国民の支持率も高いので、左派は不要になり弾圧に転じたというわけだ。

2) 麻薬摘発から、労働組合、農民運動リーダー殺害へシフト

 政権発足後にはじまった麻薬摘発による「政治的殺害」は、ドゥテルテの政敵をも殺害し、強圧政治によって政権の権力基盤を「安定」させた。前アキノ政権では、「冷遇」されていた国軍や警察は、権力に役立つ姿をアピールし、政権内の地位を確保し強化してきた。

 最近では軍と警察は、労働組合や農民のリーダーらの殺害へシフトしている。19年3月には、ヴィサヤ地方東ネグロス州の3つの町で14人の農民がフィリピン国軍と警察によって殺害。18年秋には警察が教員組合の組合員リストを入手したことが暴露され、労働組合員の掃討作戦の準備ではないかと、批判された。軍と警察は、麻薬摘発による殺害から、NPAや労働組合リーダーの掃討作戦へと大きく踏み出しており、そのことで政権内で存在意義を誇示している。

 人民運動の核であるフィリピン共産党勢力に対する軍・警察による殺害・弾圧を、フィリピン資本家層、旧来の支配層は黙認している。

3) ドゥテルテ政権は誰の政権か? 

 フィリピンはこの10年、年率7%前後の高い経済成長を遂げ、フィリピン資本は膨大な資本蓄積をしており、資本家の層も「厚く」なっている。

 旧来のフィリピン資本と言えば、米国政府や欧米日の外国資本にすり寄って利益を得る買弁資本が典型だったが、蓄積に伴いより自立・独立志向を強めている。アセアン経済共同体(AEC)を発足させ、大国である米国、中国、日本などとは、一国ではなくアセアンとして交渉する方向へと転換した。最近の米中経済摩擦においても、米国の保護主義を批判し、順調な経済発展を破壊しかねないこの地域での紛争や対立には、強い拒否反応を示している。アキノ前政権までは、アメリカの傀儡政権という性格を強く残していたが、ドゥテルテ政権はより自立的な米中等距離外交への転換を、鮮やかに果たした。これまでの政権と異なり、アセアンの一国として、さらには中国との関係改善のうちに「民族的な」経済発展を構想している

 ドゥテルテ政権は誰の政権か? と問われれば、フィリピン資本家層の政権と答えなければならない。

 ドゥテルテはこれまで優遇してきた外国資本の免税廃止や、法人税の減税を打ち出しており、その点でもフィリピン資本家層の政府であるといえる。

 中国との関係を正常化し中国からの投資を歓迎し、「一帯一路構想」への協力を進めるドゥテルテだが、日米は南沙諸島(スプラトリー)領有問題を煽り、米比日共同軍事演習を実施し、他方でフィリピン政府が必要としているインフラ投資に日本が融資する姿勢を見せ、フィリピンをインドを含む中国包囲網の一員に引き込もうとしている。
 ドゥテルテは、両天秤にかけるような態度で「米中等距離外交」を展開しているように見える。

 フィリピン資本家層は、最終的には大統領が変わっても資本家層の支配が揺るがない「民主的代議制」を志向しているが、それをドゥテルテによる強権政治によって実現するという矛盾した過程をたどっている。

4) 人々の側は? 

 人民側の運動は、大衆的な支持や運動を組織することが十分にできていない。経済発展のなかで生まれつつある都市の「中流市民」は、政治的代表を持つに至っていない。このような現象は、新自由主義のもとで人々が階層化され、余裕をなくし孤立する個人が増え、ネットでのつながりは増えながらリアルな人々の関係・連携が希薄になる現代の特徴を示している。世界的に広がっている共通の現象でもある。

 7月の総選挙・上院選挙にみられる通り、地方の有力者や旧来の支配者が当選している。内戦や軍・警察による政治的殺害、強権政治は、人々を孤立させ、政治と政治運動から遠ざけ、その分だけドゥテルテのパフォーマンス政治、劇場型政治へ、「民衆の期待」が吸い取られている、これらの政治状況をなかなか突破できない現状があるように見える。




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