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香港デモとは何か?何が起きているのか? [世界の動き]

 香港デモとは何か?
何が起きているのか



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<香港のデモ 1月1日産経 から>

1)香港デモの背景に何があるか?

 香港におけるデモが続いているが、「逃亡犯条例」はきっかけにすぎない。
 背景にあるのは、香港社会における格差拡大と、将来への不安である。それが今のところ「中国政府への不満」として現れている。この現実をまず認識しなければならない。

 1997年7月1日に、香港の主権がイギリスから中華人民共和国へ返還され、香港は中華人民共和国の特別行政区となった。中国政府は鄧小平が提示した一国二制度をもとに、社会主義政策を将来50年(2047年まで)にわたって香港で実施しないことを約束した。

 返還当時の香港は、中国経済にとって海外との窓口であった。香港金融市場を通じて中国への投資は行われ、物流も香港を通じて出入りした。香港の役割は貴重でありかつ重大であった。

 しかし、この30年間をかけて、中国経済が急速な発展を遂げるなか、香港の地位も大きく変化した。上海や深圳にはすでに株式市場は開設されている。深圳のGDPは18年に香港を超えた。経済開放当時、農村だった深圳は1,400万人の人口を抱える産業都市となった。香港人口は740万人だから、一人当たりのGDPは深圳の2倍近くだが、香港の相対的な地位は低下したし、今後も低下する。

 1月24日の日経よれば、空港の旅客数、港のコンテナ取扱量は下記の通りとなっている。
19年はデモの影響でいずれも減少している。

19年旅客数(カッコ内は前年比増減率):
・ 香港国際空港  : 7,153万人(▲4.2%)
・ 北京首都国際空港:1億人超え
・上海浦東国際空港:7,600万人(3%増)
・ 広州白雲国際空港:7,300万人(5%増)
・ 深圳宝安国際空港:5,300万人(7%増)

19年コンテナ取扱量:(20フィートコンテナ換算)
・1,836万TEU:  ▲6.3%

 2000年代前半まで世界首位だった香港の港湾のコンテナ取扱量は、上海、深圳、広州に加え、最近では青島にも逆転された。

 香港は、中国本土と世界を結ぶハブ空港、ハブ港として成長してきたが、地理的に近い広州や深圳にハブ機能の一部が移転するとともに、上海や北京、青島など中国本土との直接の交易が増えた。

 現在でもなお、19年にアリババが香港株式市場に上場したように、香港金融市場は中国企業が海外資本を集める機能を果たしているが、その地位は相対的に低下している。
(香港社会と経済の現状をきちんと調査分析しなければならない。とりあえずの見立てではあるが、上記のように言えると思う)
 
2) 香港社会の問題点とは何か?

 現代の香港は、金融、観光産業の都市となった。雇用を吸収する製造業はほとんどなくなった。家賃と物価は高く、生活者には厳しい社会だ。特に家賃が高く、狭い住居に住む人は多い。「香港は東京都の半分の面積に740万人が住む、住宅価格は世界一高い。カプセルホテルのような極小住宅に暮らす人も多い」(日経、1月16日)。

 香港には、金融資産を持つ人も多いが、同時に貧困層も多く、典型的な格差社会である。このようななか、特に若い世代の多くは、香港の将来が見えないため、不安にとらわれているのだ。

 この香港社会の問題点をどのように解決していくか? 未来の香港はどういう社会であるべきか? その過程に香港市民が加わるにはどのような政治改革が必要か? これら変革のプランを香港市民に提示しなければならない。社会改革と政治改革が一体となったプランを持たなければならない。

 香港の「民主派」(とりあえず、「民主派」と呼ぶことにする、実態をきちんと把握していない、いろんなグループや主張があるようだ)にとっても、近い将来どのような香港社会にすべきかは、大きな課題である。しかし、今のところ「民主派」の変革のプランが、明確に見えてこない。

3) 民主派の「5大要求」 

 香港で半年以上にわたり続く抗議活動が、香港政府や中国政府に求めているのは、「5大要求」すべての受け入れだ。
 5大要求とは、
(1)逃亡犯条例改正案の完全撤回
(2)デモを「暴動」と認定した香港政府見解の取り消し
(3)警察の暴力に関する独立調査委員会の設置
(4)拘束・逮捕されたデモ参加者らの釈放
(5)行政長官選や立法会選での普通選挙の実現-である。

 「逃亡犯条例」反対から始まった民主派は、「五大要求」を掲げて運動の統一を図っているが、19年9月すでに「逃亡犯条例」は撤回された。

 その結果、最終的には(5)項目目の親中派に有利な間接選挙ではなく直接選挙を実現する制度要求へと、政治的な改革の焦点が定まりつつあるように見える。

 ただ非常に奇異なのは、「五大要求」に、香港市民が抱える諸問題、貧富の差の大きい格差社会の改革、低家賃公共住宅の実現の課題が、まったく見当たらないことだ。それは、誰が、どのような方向に、民主派を導こうとしているか? にも関係しているのだろう。

 民主派の運動は、これまで「中国政府と香港政府を批判していれば済む」状況にあったが、局面はすでに変化した。香港社会の格差拡大をどのように解決するか? それを実現するためにどのような社会制度、選挙制度にすべきかという社会変革のプランを掲げ、市民運動を継続発展させるかを提示しなければならない段階に達している。「五大要求」を掲げて、「香港政府と中国政府は責任をとれ!」と主張して運動を組織する時期はすでに去っている。

 そこにおいては、民主派のなかの富裕層と貧困層の間の対立が表面化する段階に入りつつあるように見える。民主派のなかの多数を占める貧困層が運動の主導権を握らなければならない。これがどのように解決されるかによって、民主派の改革運動は次の段階へ踏み込むか、それとも分解するかが決まる。

 香港における「自由」とは、「金融資産の安全を確保し増大させる自由」も含まれる。香港の「一国二制度」には、金融資本の自由も含まれている。香港経済は、これに一定の規制をかけるべき局面に達している。
 
 例えば、土地への規制である。香港のデモが長期化している背景の一つは香港のあまりにひどい住宅事情にある。香港の住宅事情を解決するには、低家賃の公共住宅の建設が何よりも必要であり、そのことは香港の不動産資本に対する規制や金融資本の抱える「遊休土地」を提供させなければならない。

 香港一の資産家・李嘉誠氏(長江実業集団)の利益の源泉は不動不動産業だ。香港政府は、住宅問題解決のために、不動産資本の抱える遊休土地を提供させ、低家賃公共住宅を建設するとともに、これら公共住宅(多くは新界地区)と香港中心部を結ぶ公共交通網をつくりあげ、早急に住宅問題を解決しなければならない。

 その政策プランは、「香港の自由」=「金融資本の稼ぐ自由」を掲げて反対する富裕層と、住宅困窮者とを民主派のなかから分離させるだろう。

 このような事情は、中国政府、香港政府ともに承知している。中国政府も、香港デモの背景には格差社会があることを見てとり、巨大不動産会社に遊休土地を提出させて住宅建設を行う方針である。

 不動産会社は中国に近い新界地区に広大な遊休地を抱えるが、住宅用地への転用にはこれまで消極的であった。

 中国国営メディアから、「不動産会社が土地を抱え込んでいる」という批判がなされている。新華社通信は19年9月に「香港で大規模デモが続く背景には、こうした住宅事情への不満がある」「既得権益を持ったグループが土地を囲い込んで、政府の住宅政策を妨害している」と指摘した。

 このようななか、「香港大手不動産会社が、保有する遊休地を無償で提供すると相次いで表明」した(日経、1月16日)。
 土地提供を申し出たのは、下記4社。
・新世界発展社 ・恒基兆業地産社 ・ウィーロック社 ・新鴻基地産発展社
 提供される土地は合計430万平方フィート、東京ドーム8個分。住宅建設に十分な広さではないが、不動産資本の一部が見せた態度である。

 なお、長江実業集団(李嘉誠)も慈善団体へ10億香港ドル(約140億円)寄付を申し出た。

 香港の富裕層も、デモが長期化する背景には香港市民の生活と住宅への不満、将来への不安があることを知っているからだろう。土地提供の申し出や寄付は、矛先が富裕層に向かないための行動でもあるのだろう。

4)英米の干渉 

 トランプ大統領は19年11月27日、香港人権法案に署名した。「香港人権・民主主義法案」は、中国が香港に高度の自治を保障する「一国二制度」をしっかり守っているかどうかについて、米政府が毎年検証するという。露骨な内政干渉である。「香港の人権、民主主義を損なう政策や行動をとった(と米政府が認定した)中国政府や香港の要人ら対して、米国への入国禁止や、米国内での資産の凍結などを行う」ことを定めており、極めて厳しい内容、身勝手な内政干渉になっている。米国が超大国であり、ドルが国際通貨である特権を利用している。

 民主派のデモでは多くの星条旗が振られているし、19年11月27日、米国で「香港人権・民主主義法案」が成立したときこれを歓迎した。民主派のデモに参加する若者の多くは、米国に対する間違った「幻想」に囚われている。「カラー革命」で各国に介入し、クーデターを繰り返している米国の姿が少しも見えていない。

 米国は民主主義基金(NED)を通じ、混乱を利用し介入してきている。ウクライナでナチ集団がクーデターを起こしたように、混乱を意図的につくりだし人々をパニックに陥れ香港社会の破壊を目的に活動する集団を送り込んでいる(アンドレイ・ヴェルチェックのレポート)。

 デモ隊の一部によって、中国派とみなされた会社や商店などが襲われた。HSBC銀行(香港上海銀行:英国に本社のあるHSBCホールディングスの子会社)が海外からの民主派支援の口座を開くことを断った理由で襲われたし、吉野家などが店舗破壊の被害にあっている。

 これらは、混乱を意図的につくりだし、人々をパニックに陥れて、香港社会を破壊するのを目的にしたグループの仕業だ。ウクライナのクーデターとよく似ている。
 民主派は、こういった米国をはじめとする外国からの介入とは手を切らなければならない。

5) 今後 

 米国や英国の介入と手を切らなければ、民主派と香港の民主化運動に未来はない。 
 香港社会の格差拡大をどのように解決するか? それを実現するためにどのような社会制度、選挙制度にすべきか? という社会変革のプランを掲げ、市民運動を継続発展させるかを提示しなければならない段階に達している。そうでなければ「民主派」自身が、香港社会のなかで人々の支持を得続けることができなくなるし、存続できなくなる。「とにかく中国政府が悪い!香港政府と中国政府は責任をとれ!」という段階はすでに去った。

 中国政府や香港政府も、住宅問題の解決を含む格差社会の解消の必要性を認識している。中国政府はこれを「上意下達」式に実行することを考えているだろう。

 問題は、香港市民の自主的自発的な行動、人々の連合体、これを可能にする選挙制度の実現とともに、香港社会の変革、格差社会の解消を実現していかなくてはならないということだ。それが次の課題となるだろう。
(2月1日記)





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