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米国は中国に勝てるか?  [世界の動き]

米国は中国に勝てるか? 

1)中国のインターネット市場

 中国のインターネット利用者数は8億人を超え、米国は3億人弱である。
 賢明にも米フェイスブックを締め出した中国市場は、スマホ普及という基盤が整備され、しかも5Gという大容量の通信がすでに一部実用化し、質的にさらに高度な情報、サービスが可能となりつつある状況下にある。この市場をめがけて、中国地元スタートアップ企業がひしめき、中国資本がこぞって投資している。いずれ、中国インターネット市場に、グーグルやフェイスブックに相当する大手が出現し、さらに世界市場に進出するだろう。

 グーグルやフェイスブック、ツゥィッターは、スノーデンが指摘するように、あらゆるメールやインターネット上の情報を米政府(NSA、CIA)に提供する関係にある。米支配層・金融資本と手を切ったインターネット上の企業の出現が新たな地平を開くだろう。
 
2)ハイテク分野で、米中が激しくぶつかり合っている

 人口知能(AI)開発は、技術面からみて米国がまだ中国の先を行っている。ただ、中国市場はAI開発に必要なデータ量を圧倒的に多く入手でき、中国のスタートアップ企業間でデータ共有の動きもあり、AI領域では中国は極めて早い速度で進化している。

 そもそも、インターネット利用者数が8億人を超える中国市場では、莫大なデータを蓄積できるという強みがある。最終的にデータ量が、AI開発の帰趨を決定する。

 5Gの技術開発では、すでに中国企業が世界に先行し、多くの特許を抱えるに至っている。

 華為ZTEは、19年8月世界に先駆けて中国市場で5Gスマホの販売を開始した。
 5G基地局の通信設備では、華為製とZTE製は特許においても、価格においても、例えば競合企業であるノキア、エリクソンを圧倒している。

 米政府が華為に経済制裁しているのは、次世代通信技術で主導権を握られると、これまでの米国政府と米企業によるインターネット支配が崩れかねないからだ。トランプ政権は「国家安全保障上の脅威」という言葉で自分に都合よく表現しているが、NSAやCIAが、インターネット上の情報をグーグルやフェイスブックに提供させるという出来上がった支配が崩れかねない、という意味にすぎない。そのようなシステムが崩壊しても何も問題はない。アメリカの横暴な世界支配が崩れるのは、世界中の圧倒的大多数の人々にとって、とても良いことだ。ほかの諸国や国民にとっては、逆に「個人の安全保障上の脅威」が消滅することであり、歓迎すべきことだ。アメリカの軍産複合体やネオコンが流すフェイクニュースが、フェイクニュースだときっちりと暴露され、駆逐されることになるだろう。

 それだけではない。米政府・米支配層は、5G時代を迎えビッグデータをやり取りするイノベーションや新ビジネス創出で、中国企業に先行されてしまうという危機感を持っている。おそらく米政府が政治的に介入しなければ、近いうちに中国企業に先行されるだろう。介入しても押しとどめることができるとは限らない。

通信インフラ
 中国はすでに世界に海底ケーブルを張り巡らしつつある。2018年にブラジル―カメルーン間6,000㎞に海底ケーブルを敷いた。「一帯一路構想」参加国に大容量通信データ輸送を担うインフラを提供し、高速大量通信の社会基盤を形成しつつある。通信インフラは、ハイテク産業の孵化器ともいえる。

 今一つの通信インフラは、衛星による位置情報サービスだ。米国はGPS(全地球測位システム)で位置情報サービス開発で先行してきたが、中国はそのお株を奪いつつある。

 18年に衛星稼働数で、通信衛星・中国北斗は米GPSを抜いた。衛星分野での米中逆転が、よりはっきりしてきた。北斗は、世界の3分の2以上の国の上空で、最も多い衛星となった。中国は、94年~20年まで累計106億ドル投資してきた。北斗を今後さらに、10基程度打ち上げ、一気に米国を突き放す。
 (2018年の衛星数:中国北斗35基、米GPS:31基、ロシア:24基、EU:22基)

 中国の位置情報サービス、千尋位置網絡は、衛星・北斗と2千以上の地上基準局のデータを併用し、誤差が数㎝の超高精度サービスをすでに開発している。自動車の無人運転サービス拡大の起爆剤になるだろう。
 世界の主要半導体メーカーは、位置情報機能をもたせる場合、単一の半導体製品に衛星・北斗に対応する設計が求められている。
 米国が衛星分野で中国に圧力を強める可能性もあるが、すでに位置情報ビジネスの世界では「中国抜き」はありえなくなっており、圧力をかければ位置情報ビジネスは中国の独占化を招きかねなくなっている。
 
3)米中覇権争いの焦点、華為 

 米国の貿易赤字が問題だとして、トランプ政権は中国企業を標的にした関税、保護主義で横暴に振る舞っているが、実際のところ目的は、貿易赤字解消ではなく、中国のハイテク技術の抑え込みにある。中国のハイテク技術が米国を凌駕するのを押しとどめ、このまま米国支配が続くことを狙っている。果たして米政府が狙い通り、押しとどめることができるか? ハイテク技術での「抑え込み」を、米国部品や技術、米国市場を「人質」にして、実行しようとするのだから、米企業や米市場も傷つきかねない。

 実際狙われているのは、中国のハイテク企業、5Gで先行する華為である。
 「安全保障上の理由」から、5G市場への華為参入を禁じた。米政府の横暴に豪と日本両政府が従い5G基地局から華為を締め出すことにした。英、カナダ、ニュージーランドなども米国支配に従うfファイブアイズ「5」+日本「1」だ。トランプ政権は「安全保障」を持ち出せば、どのようなことにでも適用し実行できる、と考えている。

 米商務省は8月19日、華為への禁輸措置を続けると決定した。

 しかし、5Gのスマホや通信設備では、技術的には、すでに華為やZTEが先んじている。8月には、華為、ZTEは5Gスマホを中国で発売開始した。5Gの通信設備は、エリクソンやノキアも生産しているが、華為やZTE製が3割程度安いという。とても競争にはならない。

 華為にとっての問題は下記の通りだ。

スマホのOS 「アンドロイド」

 華為は、スマホに米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」と、地図やメールなどのグーグルの関連アプリを採用している。「アンドロイド」自体は無償公開されていて禁輸の対象外だが、OSの更新や関連アプリは対象となっており、実質使えなくなるのではという懸念が広がり、19年1~6月期、華為のスマホ売り上げは、中国外では落ちた。ただ、中国人の「民族意識」を刺戟し中国国内での売り上げは増えた。

 現時点では、OSの更新は可能だが、禁輸措置が厳格に実施されることになれば、アンドロイド関連サービスが制限され、華為のスマホが利用できなくなることも予想される。

 8月9日、華為は、「アンドロイド」に代わる自前のOS「鴻蒙(ホンモン)」を発表した。最悪、OSを止められた時の「対応策」は、とりあえず準備したということだ。新OS上で動くアプリなども早急にそろえるだろう。

 しかし、どれだけ自前でOSを開発しても、世界で7割のシェアを握るアンドロイドや関連サービスに匹敵する水準をすぐ実現するのは難しい。アンドロイドに慣れた海外の利用者の華為離れは避けられないだろう。したがって、OSが禁輸対象となった場合、短期的には(おそらく数年にわたって)、華為、ZTEなどに大きな影響を与えるだろう。
 その後、スマホのOSは「アップル」と「アンドロイド」と、例えば「鴻蒙」に三分される世界が広がり、最終的にはアンドロイドと「鴻蒙」はどちらかに収束することになろう。 「鴻蒙」に収束するようなことになればグーグルはその地位を失う。

スマホ用半導体
 禁輸措置発動後も、米マイクロン・テクノロジーズや米インテルは、華為とZTEスマホに使うメイン半導体の供給を続けている。米国外で生産するなど禁輸措置の対象にならないように工夫し対応しているとみられる。米商務省が華為の子会社46社を対象に加える方針を示したが、禁輸措置が厳格に実施されることになれば、これまでの部品調達が難しくなる恐れがある。

 華為は子会社・海思半導体で自前の半導体開発を進めている。ZTEは自前の半導体開発はしておらず、米マイクロン・テクノロジーズから供給を受けている。トランプの保護主義に対抗し、中国政府は急遽、半導体を含む部品の自前で調達する態勢を確立するための支援策を採ろうとしている。仮に自前で半導体を調達できるようになれば、米マイクロン・テクノロジーズや米インテルは巨大な市場、顧客を失うことになる。

 スマホ用半導体設計において9割以上のシェアを握る英アーム・ホールディングス社抜きに、容易には設計はできないと言われている。ただアーム・ホールディングスも今現在、華為との「大半の取引が継続している」。中国が自前で半導体を設計することになれば、アーム社も巨大な収入が消えるので「継続した取引」を望んではいるだろう。

 スマホ用半導体は、時間があれば中国製への代替えは進むとみられるが、問題はどれだけ時間がかかるかだ。

5) 米国は中国に勝てるか?

 米国と中国の覇権争いは、すぐには決着はつかない、長期化するだろう。
 米中いずれもが、傷を負うだろう。世界経済が後退する要因にもなるし、すでに一部影響を及ぼしている。

 ただ、注目すべき点は、中国が提唱する「一帯一路構想」に、世界の全ての地域から、152の国がすでに参加しているという現実だ。中国政府は、「一帯一路構想」の基本原則として「平和と協力、開放性と包括性、受容と理解、そして相互利益」を提起している。大多数の世界の国が、自身の覇権を維持するため米政府とIMFが駆使する、「いじめ」、金融破壊、侵略と占領よりも、「一帯一路構想」を良い選択、あるいはよりマシな選択肢として見ているということだ。

 一方、米政府は「米国第一主義」を掲げ、自国と米資本の利益のためには、ほかの国々や同盟国の立場や利益さえ踏みにじるという態度に出ている。すでに現在の米国には以前のような「余裕」がない。だからこのような態度に出るのだ。

 そもそもオバマのTPPは、公然とは語られなかったが、実際のところ中国封じ込めの手段でもあったのに、トランプは選挙のため、すなわち自身の支持基盤――米中西部の白人層――の票のため、これを破棄した(新自由主義のTPPを導入すれば、トランプの支持基盤である白人中間層がいっそう没落し、格差が拡大する、票田を守るためTPPを破棄した。TPP破棄はトランプの行った数少ない「いいこと」だ。)。

 あるいは、中国、ロシア、英、仏、独とともに2015年まとめ上げた「イラン核合意」を、トランプは一方的に破棄した。シリア戦争で敗れたものの中東で戦争状態を継続したい軍産複合体・ネオコンが主導する米戦略のために、イラン石油輸出を止めシェールオイル輸出拡大のために、破棄したのだ。イラン包囲「有志連合」は、国連安全保障理事会を無視する「有志」の集まりにすぎない。米に従う有志は、EUから離れ孤立する英国と米国の顔色をうかがう安倍の日本だけだ。

 同盟国や周辺の国々は、いちいちこういうことに従っていられない。

 いまは、米国の力は落ちているし、中国、新興国の力は増している。そのような条件のなかで米国が中国と覇権争いを始めたにもかかわらず、同盟国をまとめないで、米国だけの目先の利益実現のため、強引に、より横暴に振る舞うのであれば、同盟国も含め多くの国が、米国から離反するのは当たり前だろう。 

 米国が中国を「封じ込める」には、少なくとも「米国第一主義」を捨てることが条件になるだろう。米一国で中国を封じ込めるなどできない。これが最低限の条件である。だが、そのような判断ができる米政府、支配層ではすでになくなっているし、同盟国を再組織する力量もなくなっている。目先の利害に囚われ行き当たりばったりの行動をとっているのが実態だ。

 もちろん、この条件を満たしたからと言って、中国封じ込めが成功するとは限らない。(決して、封じ込めるべきだと言っているわけではない。米国支配が崩れるのはいいことだ。) すでに米国による世界支配は終わりを告げつつあるということだ。

 トランプ政権には、同盟国との連携やグローバルな組織・制度を活用した「大義」が必要条件だが、そのような方向には逆行している。目先の利害、2020年の大統領選への影響という、極めて自分の都合、目先の取引に終始している。

 米中の覇権争いは、2020年大統領選以後も続く長期戦の様相を呈しており、米国は再び多国間の協定や同盟国との関係緊密化に戦略のカジを切る必要があるが、そのような戦略転換の姿勢はトランプ政権にはないし、ネオコンのボルトン安全保障補佐官やポンぺオ国務長官にもない。 

 このような状況であれば、米中覇権争いは、米国の敗退がより早くなるのではないか?
 各国、あるいは米同盟国が、どの程度離反していくかが、米国の敗退の一つの目安になるだろう。




 
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