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減産調整破棄から、米シェール企業潰しへ [世界の動き]

減産調整破棄から、米シェール潰しへ

1) OPECプラスの減産調整決裂


 3月6日「OPECプラス」(サウジなどOPECと、ロシアなどOPEC非加盟国)の減産調整交渉は成立せず、減産体制は崩壊した。サウジが一転、大幅増産を表明したため原油相場は1バレル20ドル台にまで暴落し、市場は混乱を極め、世界の株価市場急落の一因になった。さらに世界的な恐慌へと向かっている。

 石油市場の価格戦争は、ほとんど産油国の歳入を減らし財政を悪化させそうだ。

 3月19日、国際指標の北海ブレンド先物は、1バレル25ドルまで下がった。3月20日に米国原油WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物は、一時20ドルを割り込んだ。1月の半分以下の価格だ。

 暴落に伴い、オマーン、バーレーンなど産油国の通貨が下落している。オマーンの10年物国債の価格は下がり金利は5%から一挙に10%を超えた。輸出の9割を石油が占めるナイジェリアは、石油収入が半減する。

 通貨の下落は産油国の石油生産コストを下げはするので、その分少しは緩和されるものの、今回の石油価格下落はあまりにも大きく、各国に与える影響は大きい。

 影響を被る産油国には、米国も含まれる。

2)サウジ、ロシアとも増産に舵を切った
 
その判断の背景に何があるか?


 3月初め、産油国の生産能力は日量にして、米:1,500万バレル、サウジ:1,200万バレル、ロシア1,100万バレルあるとされている。

 これまでサウジとロシアは減産調整をして原油価格の維持に努めてきた。しかし、米国は減産調整に加わらず、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ米政権のもと米シェール企業はこの数年増産を続け、その結果、米国は石油輸入国から日量300万バレルの輸出国に転換し、急速にシェアを拡大してきた。

 2018~19年、米中貿易戦争によって石油の世界需要が減少するなか、「OPECプラス」であるサウジもロシアも、収入源となる減産調整をしながらも価格を維持してきたのであるが、その努力の果実を米国シェール企業が一方的に奪い取っており、この米国の振る舞いにサウジもロシアも大きな不満を蓄積してきた。もとはと言えば米中貿易戦争も、トランプ政権が一方的に引き起こし、その結果、石油需要を減らし石油価格を低下させてきたのだ。

 2020年2月に入り、サウジもロシアも、新型コロナウィルスの世界的な流行によって大きな経済的落ち込みから、恐慌が世界を覆うことは避けられない、それゆえ減産調整も限界に至ったと判断したのだろう。この恐慌局面を利用し、米シェールオイル企業を潰してシェア回復を図る方向へ大きく転換した。減産合意破棄から、増産へと舵を切ったのである。シェールオイル企業潰しは、サウジ、ロシアの双方に利益となる。ただ、シェール企業がつぶれるまで長期間にわたって低価格による減収に耐えなければならない。サウジもロシアも石油価格が下がれば財政問題につながりかねないが、その前にシェール企業を潰し、シェア回復を図ろうとしているのだ。

 サウジ、ロシア、そのほかの産油国ともどれだけ耐えることができるかが、試されることになるだろう。

3) サウジ 
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<ムハンマド皇太子>

 「減産調整決裂」により、サウジは日量930万バレルまで減らしてきた生産量を、4月には日量1,230万バレルに増やすと表明した。増産量日量300万バレルとは、丁度、米シェール企業の輸出量に相当する量だ。しかも4月船積み分については極端な値引きも発表した。注目されるのは欧州向けの値引き幅の大きさだ。代表的な油種アラビアン・ライトの指標価格に上乗せする調整金を、北西欧向けは前月より1バレル8ドル安くし、マイナス10.25ドルとした。空前のディスカウントであり、北西欧向け市場をロシアから奪うことが「直接的な狙い」だとしているが、真の狙いは「シェール潰し」だ。

 確かに、サウジは自噴井であり国営石油会社サウジアラムコの生産コストは1バレル2.8ドルにすぎない。だが、サウジの財政収入は、石油収入への依存度が高い。20年予算では6%の財政赤字予算を組んでいるが、その前提は原油価格1バレル60ドルとしているため、20ドル台であれば膨大な財政赤字が生じることになる。

 減産から増産への転換は、ムハンマド皇太子が主導したとみられる。サウジにとっても厳しい選択であったようだ。財政的な厳しさの増大は、政治的不安定を呼ぶ。3月5日から6日にかけて、サウジ国内で皇太子に批判的な叔父のアハマド王子、いとこのムハンマド前皇太子ら有力王族が拘束されたとされる。

4)ロシア 

 一方、ロシアの国営石油会社最大手ロスネフチも増産に意欲を示す。サウジ、ロシアとも、シェール企業を潰すまでの消耗戦を決意したということだ。ロシア国営石油会社ロスネフチ、セチン社長は20日夜、減産調整が不調に終わったことに関連し、「一度、市場シェアを渡せば、もう決して取り戻せない」と述べ、米シェールオイルへの対抗意識があったことを明らかにした。

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<プーチン大統領>

 ロシアには、サウジ以上に米トランプ政権に対する不満がある。トランプ政権の支持基盤の一つが石油、シェールオイル・ガス資本であり、シェールオイル・ガスのシェア拡大と輸出拡大のため、口実を強引にでっち上げてイランやベネズエラへの制裁を実行し、両国の石油輸出を減少させ(日量約300万バレルといわれる)、その分シェアを奪ってきた。

 ロシアに対しても同様に、ウクライナ制裁によって、石油や天然ガス輸出に制裁をかけてきた。

 ロシア国営石油会社ロスネフチのセチン社長自身も、2014年2月のウクライナ戦争を理由に対ロ制裁の対象人物とされた。また、米国の経済制裁によって、北極海の大陸棚の共同開発などロスネフチと米メジャーとの協力も禁じられ、20年2月には新たにベネズエラの石油事業に関与したロスネフチの子会社が米国による制裁の対象になった。

 ロシアの国営ガスブロムが建設する欧州へのガスパイプライン「ノルドストリーム2」が19年12月、米の制裁対象とされ、米ロは欧州への天然ガス市場のシェアをめぐって激しく対立している。

 今回の石油価格の低下は、世界恐慌によるものであり、トランプと言えども世界需要を増大させて石油価格を上昇させることはできないのであって、ロシアはこの機をとらえ、シェール企業に打撃を与えシェア回復へと踏み込んだのだ。米経済は石油資本への依存度が高く、金融市場への影響も含め、石油価格低下による打撃は大きい。

 もっともロシアも財政収入に占める原油や天然ガス収入は高い割合を占める。ロシアは20年の予算編成の前提を1バレル42ドルとしているのでそれほど余裕はないが、これまでの石油・ガス収入の剰余金が10兆円ほどあるので、これでシェール企業が生産停止するまで耐え忍ぼうとしている。

5)米シェール企業


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<米テキサス州パーミアン盆地のシェール企業>

 米シェール企業は、構造的な問題を抱えている。米シェール企業は民間企業であり、多くは「低格付け社債」で資金調達しており、資金繰りが安定していない。日々の生産・販売収入によって借入資本を返済している状態なのだ。油井によって異なるが、1バレル40~50ドルを下回ると、米シェール企業は採算が合わなくなると言われている。米国の「低格付け社債」市場の1割強を占めるシェール企業は、「低格付け社債」の主要な出し手であり、債務不履行に陥る企業が相次げば、金融市場への影響も避けられない。

 「低格付け社債」は、証券会社を通じて「ハイイールド債」などとして日本も含め世界中に売り出されているが、シェール企業の経営が行き詰まることへの不安から、株式・投資信託市場から資金がすでに逃げ始めた。投資家がシェール企業の破綻を心配して投資資金をひきだす動きが殺到し、「低格付け社債」全体に不安が広がり、「低格付け社債」価格は下がり、金利は約6%から11%へと急上昇した(3月25日日経)。

 すでに、米国でのシェールオイルのリグ稼働数が減少に転じている。「3月20日現在、660基となり、前週からすでに19基減った」(米ベーカー・ヒューズ社調べ)。サウジが大増産する4月にはさらに減少するだろう。

 シェール大手コンチネンタル・リソーシズ社は、3月19日、「2020年設備投資を、25.6億ドルから12億ドルに減らす、リグ稼働数を20基から7基とする」と公表した。

 アパッチ・コーポレーション社は、テキサス州とニューメキシコ州にまたがるのパーミアン鉱区のリグ稼働数をゼロにすると公表した。

 パイオニア・ナチュラル・コーポレーション、ヘス・コーポレーションはともに、2020年開発予算を3~4割減らすと表明した。

 米シェール企業40社は、20年中に1兆円の返済と利払いが生じる見込みであり、資金繰りに行き詰まり、破綻リスクが高まっている(調査会社ライスタッド・エナジー社調べ)。すでに、米シェールオイル開発企業が苦境に立たされている。

 どこまで我慢できるか? 我慢比べが始まった。









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