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ドゥテルテ、VFA破棄を通告 [フィリピンの政治経済状況]


1)ドゥテルテ、VFA破棄を通告

 時事通信によれば、フィリピン政府は2月11日、「訪問米軍に関する地位協定(以下:VFA、Visiting Force Agreement)」の破棄を通知したと発表した。

 フィリピン政府が米国との安全保障協定の一部の破棄を米側に通告したことになる。 ドゥテルテ大統領の指示による措置で、180日後に有効となる。米比両国の同盟関係は大きく変化する。加えて、フィリピンと中国と関係に影響を及ぼす。

 フィリピンはこれまで、米国と歴史的に緊密な関係を有してきたにもかかわらず、ドゥテルテ政権になって、米国の軍事政策の一部を批判し、米国に対抗する中国、ロシア側に一歩歩み寄った態度に転換しつつある。ただ、ドゥテルテ政権内のテオドロ・ロクシン外相は、米国との安全保障協定を破棄することは比の安全に危険であると、上院で警告を発してもいる。

2) デラ・ロサ上院議員を米大使館がビザ発給拒否
 
 ドゥテルテ大統領は1月23日、デラ・ロサ上院議員が米入国ビザの発給を拒否されたことを受け、協定を破棄すると警告した。デラ・ロサ上院議員は2016-18年に警察長官に在任中、大統領が力を入れた「麻薬戦争」を指揮し、その過程で超法規的殺人を繰り返してきたドゥテルテの側近政治家である。麻薬戦争は非人道的な殺害が多いと欧米から非難されており、米大使館によるビザの拒否はこの延長線上にあるとみられる。

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<2016-18年、デラ・ロサ警察長官(現在は上院議員)>

3) VFAの持つ意味

 フィリピン憲法は外国軍の駐留を禁じており、1992年米軍は全面撤退した。VFAは、1998年に締結され、米軍基地が撤去された後、米軍がフィリピンを訪れ、演習・作戦を実行できる根拠とされた。実際に、米比軍による合同軍事演習や、米軍のフィリピンでの作戦行動の根拠となって来た。この軍事演習に19年には自衛隊も参加した。米比合同軍事演習は、今後どうなるのか? 注目される。VFAはまた、有事における米軍の迅速な「援助」を可能としている(迅速な援助というより、「危険」と表現した方が正確である)。

 VFAにより、常駐してきた米兵による殺人や性犯罪が起きてきた。容疑者となった米兵の拘束を、比側が拒否された事件が続いた。2005年のニコルさんレイプ事件事件、2015年のロードさん殺人事件事件ではともに、犯人である米兵はフィリピン法できちんと裁くことができず、米政府は犯人を逃がし帰国させた。(ニコルさん裁判では、フィリピン法で裁き加害米兵を有罪としたものの、米大使館が被害者家族に強引に働きかけ提訴をとり下げさせた結果、米兵はフィリピンで服役もせず帰国した。)
 VFAには、米兵犯罪の時効や米政府による容疑者の保護が規定されていて、犯人摘発の直接の障害になってきたのである。

 フィリピンの人々からは、VFAがあるから「不平等だ」と批判され、VFA撤廃の運動が起きてきた。 

4)ドゥテルテには驚かされる!

 ドゥテルテにはいろいろ驚かされることが起こる。彼はパフォーマンス政治だから、これまでは支持者に向けたパフォーマンスだろうという評価へと、最終的には収束したが、今回は予想以上だった。


5) 米国の力の低下

 まず最初に指摘しておくべきことは、米国の力の低下、影響力の後退だ。
 一昔前なら、ドゥテルテは米政府の意向を受けた軍や政治勢力によるクーデターで倒され、従順な親米(従米)政権に変わったろう。戦後のフィリピン政治はこれを繰り返してきたのを、私たちは知っている。

 2020年現在、米国はフィリピンでクーデターを起こすことができない。クーデターは、もはや起きない、起こせないフィリピンになったということだ。時代は変化しているのだ。

5)フィリピンとASEAN、経済におけるナショナリズムの高揚

 フィリピンはもはや米国の政治・経済支配の外にいる。フィリピン経済はすでに中国経済圏のうちにあり、そのなかで経済発展を遂げている。米資本は現在ではフィリピンにほとんど投資しない。投資するのは中国資本ばかりだ。これに伴い、米国のしもべである日本資本の地位も、フィリピンでは相対的に低下している。

 フィリピン支配層、資本家層は、経済的にはすでに米国の影響の外に存立している。その基盤が、米国の政治的影響力をそれほど考慮しないことを可能にした。フィリピン政府の外交政策が変化するのは、むしろ自然なことだ。軍隊を送り口出しばかりする米政府は、フィリピン支配層にとっても、もはや不愉快であり、かつ不要となりつつあるのだ。

 これは決してフィリピンばかりではない。ASEAN全体が米国の政治的影響下と経済圏から離れ、ASEAN首脳は米国から距離を置く、影響から離れることを意識的に志向している。米軍が東シナ海をウロチョロすれば、戦争や紛争が起き、経済活動に支障が出る。ASEAN諸国はすでに、米軍がASEAN地域で軍事的対立をつくり出すことには、徹底した拒否を貫く立場なのだ。

 ASEANは今、経済発展がきわめて好調で、世界経済の成長の中心の一つとなっている。中国との連携した経済発展も好調であり、良好な関係を築いている。米国の都合で、米軍がうごきまわって欲しくない、したがって、フィリピン政府によるVFA破棄は、いずれ起きることだったのだ。
 それが、デラ・ロサ上院議員の入国拒否というきっかけで生じたに過ぎない。

6) トランプ政権を無視する!

 米政府の力は確実に落ちてきている。トランプ政権の言うことを、聞き流して無視する各国政府がふえて来た。イラン戦争を始めるという「有志連合」に、いつもは参加するNATO諸国が参集しなかった。トランプは突然、「イラン核合意破棄」したが、誰も支持していない。米国の軍産複合体の都合で破棄した。合意に至るまで支払われた各国の努力をまったく無視して、勝手に破棄した。これにいつもは従う欧州諸国は従わなかった。

 ASEAN諸国も、トランプ政権のこういった振る舞いを冷ややかな態度で眺めてきた。トランプ政権に追随する安倍政権の姿も、横目でひややかに眺めてきた。

 アメリカの時代は終わった。
 日本の時代も終わった。
 このように世界はとらえているのだ。
 (世界のGDPのうち日本の占める割合:1990年約16%、2018年約6%)

 今回の出来事は、こういった国際政治の流れのなかの一つの事件、一つの現れととらえるのが適切であろう。






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