中国政府によるアント・グループ統制の真相とそこからくみ取るべき教訓 [世界の動き]
中国政府によるアント・グループ統制の真相と
1)中国政府によるアント・グループ統制の意味
中国の電子取引大手アリババの金融会社アント・グループに対する中国当局の規制強化が一気に加速している。
アント・グループは、スマホ決済サービス「アリペイ」の機能を拡大し、支払い手段から、貸出、預金、資産運用、保険などの広範囲の金融サービスへと急速に拡大しており、いわば「金融帝国」を確立しつつあった。
大きな武器となったのが、買い物履歴情報などを含む個人データの収集と分析により、個人の信用リスクを想定し、個人への融資、いわば「消費者金融」を最大の収益部門へと押し上げていったことだ。
ただし、アント・グループの融資は融資市場全体の1~10%程度で、それ以外は他の金融機関との協調融資としているものの、他の金融機関にもアント・グループのAIによる「信用リスク計画システム」を使用させ、金利収入の15%前後に当たる高い手数料を得ている。そのことによって、この事業はアント・グループはリスクを負うことなく、利益を上げるビジネスモデルとなっているのである。(以上、1月23日日本経済新聞より)
「信用リスク計画システム」は、アリババのEコマースの支払い「アリペイ」によってえた膨大な個人情報をベースにAIも導入しつくりあげられており、誰も真似できない。
この急拡大しているアント・グループがリードする融資事業は、その規模からして、いつのまにか従来の銀行の役割を奪いかねない動きを見せているのだ。
すでに、既存の金融機関のシェアを奪って莫大な利益を得ている。しかもその規模は、膨大になりかつ独占的となりつつある。銀行法などの規制にしたがって業務を行っている既存の銀行・金融機関は競争上極めて不利となり、アリペイの傘下に入ることになってしまう。このままでは「アリペイ」が銀行市場、融資市場をも支配しかねない可能性が生まれてきているのである。政府にとってももはや看過できない脅威となってしまったのだ。
2)20年11月、突然の上場延期
21年1月初め、「アント・グループ」は、中国当局の求めに応じて「金融持ち株会社の設立を検討」すると報じられた。そのことは、同社が銀行と同じ規制を受け入れて当局の軍門に下ることを意味する。
「アント・グループ」は、「金融業務から撤退する」か、「当局の強い規制を受け入れて生き残る」かの選択を迫られ、後者の道を選んだということになる。
3)これは決して中国だけの問題ではない
米フェイスブックの子会社ディエム(旧リブラ)も、個人データの収集・分析を生かして金融分野への参入を目指しており、「アント・グループ」と同じような動きを見せている。Eコマースが拡大する限り、アメリカをはじめ、各国で同じ事態、条件が生まれている。
先進国政府は、中国のように「できない」のか、それとも「やらない」のか、どちらだろうか?
先進国は民主主義であって、中国のような強権政府ではないので、中国政府がやったように統制はしないということなのだろうか?
4)GAFAMに富が集中する
コロナ危機により他の産業が減収や赤字となっているにもかかわらず、米IT大手5社GAFAMは巨大な利益を上げている。社会の生み出した富がGAFAMに集中している、吸い上げられているというのがより正確だ。コロナ禍で、格差拡大がいっそう進んでいるのだが、これまでとは質的に違った格差拡大の仕方をしている。
GAFAMの事業は、「アント・グループ」のような融資事業が中心ではないから、今回の事件とまったく同じように論じることはできない。
ただ、IT大手はすでに十分大きくなりすぎた。その一方で、本社を税金の低い国に置くなどして、税金をほとんどい払っていない。IT大手に富は集中するのに、税金として国家・政府に捕捉されないので、人々に再分配されない。現代において格差が拡大している道筋の一つでもある。
IT大手の専横を防ぐ「力」は、もはや政府・国家にしかない。
EU各国で検討されてきた「デジタル税」に米トランプ政権は反対してきた。IT大手に対するデジタル税が構想されて何年かすでに過ぎたが、各国政府の足並みはいまだにそろわず、なかなか実現しない。そのあいだにIT大手は大きくなるばかりだし、コロナ危機でさらに大きくなっている。
IT大手が国家権力に影響力を持ったら、いずれ「専横」を防ぐことができなくなる。そのことは、富がほんの少数者にさらに集中し、他方、貧困がいっそう広範囲に広がる、すなわち荒廃した社会となってしまうのではないか、そういう懸念が広がる。
今回の中国政府による「アント・グループ」への規制をとらえ、強権国家・中国を非難する声もあるようだが、それよりも重要な問題である、巨大になりすぎたIT大手に対する対応の仕方の一つを教えてくれている、と考えることが重要ではないか。
そのような問題提起とみるべきである。
国家や政府しか巨大IT企業を統制できないのはほぼ明らかだ。
膨大な利益を社会から吸い上げる巨大IT企業から、政府が確実に税金をとり、国民に再分配するしか方法はない。
ただ、そこで大きな問題となるのは、「国家や政府が誰の国家や政府であるか?」である。
最終的に問題となる、最も「悩ましい問題」というべきかもしれない。
米IT大手の2020年10~12月期業績
(21年2月4日、日本経済新聞)
売上高 増加率 純利益 増加率
1)アップル : 1,114.39億㌦ 21% 287.55億㌦ 29%
2)マイクロソフト: 430.76億㌦ 17% 154.63億㌦ 33%
3)アルファベット: 568.98億㌦ 23% 152.27億㌦ 43%
4)フェイスブック: 280.72億㌦ 33% 112.19億㌦ 53%
5)アマゾン : 1,255.55億㌦ 44% 72.22億㌦ 2.2倍
大手5社全社が、売上高、純利益とも過去最高を更新した。
そこからくみ取るべき教訓
1)中国政府によるアント・グループ統制の意味
中国の電子取引大手アリババの金融会社アント・グループに対する中国当局の規制強化が一気に加速している。
アント・グループは、スマホ決済サービス「アリペイ」の機能を拡大し、支払い手段から、貸出、預金、資産運用、保険などの広範囲の金融サービスへと急速に拡大しており、いわば「金融帝国」を確立しつつあった。
大きな武器となったのが、買い物履歴情報などを含む個人データの収集と分析により、個人の信用リスクを想定し、個人への融資、いわば「消費者金融」を最大の収益部門へと押し上げていったことだ。
ただし、アント・グループの融資は融資市場全体の1~10%程度で、それ以外は他の金融機関との協調融資としているものの、他の金融機関にもアント・グループのAIによる「信用リスク計画システム」を使用させ、金利収入の15%前後に当たる高い手数料を得ている。そのことによって、この事業はアント・グループはリスクを負うことなく、利益を上げるビジネスモデルとなっているのである。(以上、1月23日日本経済新聞より)
「信用リスク計画システム」は、アリババのEコマースの支払い「アリペイ」によってえた膨大な個人情報をベースにAIも導入しつくりあげられており、誰も真似できない。
この急拡大しているアント・グループがリードする融資事業は、その規模からして、いつのまにか従来の銀行の役割を奪いかねない動きを見せているのだ。
すでに、既存の金融機関のシェアを奪って莫大な利益を得ている。しかもその規模は、膨大になりかつ独占的となりつつある。銀行法などの規制にしたがって業務を行っている既存の銀行・金融機関は競争上極めて不利となり、アリペイの傘下に入ることになってしまう。このままでは「アリペイ」が銀行市場、融資市場をも支配しかねない可能性が生まれてきているのである。政府にとってももはや看過できない脅威となってしまったのだ。
2)20年11月、突然の上場延期
21年1月初め、「アント・グループ」は、中国当局の求めに応じて「金融持ち株会社の設立を検討」すると報じられた。そのことは、同社が銀行と同じ規制を受け入れて当局の軍門に下ることを意味する。
「アント・グループ」は、「金融業務から撤退する」か、「当局の強い規制を受け入れて生き残る」かの選択を迫られ、後者の道を選んだということになる。
3)これは決して中国だけの問題ではない
米フェイスブックの子会社ディエム(旧リブラ)も、個人データの収集・分析を生かして金融分野への参入を目指しており、「アント・グループ」と同じような動きを見せている。Eコマースが拡大する限り、アメリカをはじめ、各国で同じ事態、条件が生まれている。
先進国政府は、中国のように「できない」のか、それとも「やらない」のか、どちらだろうか?
先進国は民主主義であって、中国のような強権政府ではないので、中国政府がやったように統制はしないということなのだろうか?
4)GAFAMに富が集中する
コロナ危機により他の産業が減収や赤字となっているにもかかわらず、米IT大手5社GAFAMは巨大な利益を上げている。社会の生み出した富がGAFAMに集中している、吸い上げられているというのがより正確だ。コロナ禍で、格差拡大がいっそう進んでいるのだが、これまでとは質的に違った格差拡大の仕方をしている。
GAFAMの事業は、「アント・グループ」のような融資事業が中心ではないから、今回の事件とまったく同じように論じることはできない。
ただ、IT大手はすでに十分大きくなりすぎた。その一方で、本社を税金の低い国に置くなどして、税金をほとんどい払っていない。IT大手に富は集中するのに、税金として国家・政府に捕捉されないので、人々に再分配されない。現代において格差が拡大している道筋の一つでもある。
IT大手の専横を防ぐ「力」は、もはや政府・国家にしかない。
EU各国で検討されてきた「デジタル税」に米トランプ政権は反対してきた。IT大手に対するデジタル税が構想されて何年かすでに過ぎたが、各国政府の足並みはいまだにそろわず、なかなか実現しない。そのあいだにIT大手は大きくなるばかりだし、コロナ危機でさらに大きくなっている。
IT大手が国家権力に影響力を持ったら、いずれ「専横」を防ぐことができなくなる。そのことは、富がほんの少数者にさらに集中し、他方、貧困がいっそう広範囲に広がる、すなわち荒廃した社会となってしまうのではないか、そういう懸念が広がる。
今回の中国政府による「アント・グループ」への規制をとらえ、強権国家・中国を非難する声もあるようだが、それよりも重要な問題である、巨大になりすぎたIT大手に対する対応の仕方の一つを教えてくれている、と考えることが重要ではないか。
そのような問題提起とみるべきである。
国家や政府しか巨大IT企業を統制できないのはほぼ明らかだ。
膨大な利益を社会から吸い上げる巨大IT企業から、政府が確実に税金をとり、国民に再分配するしか方法はない。
ただ、そこで大きな問題となるのは、「国家や政府が誰の国家や政府であるか?」である。
最終的に問題となる、最も「悩ましい問題」というべきかもしれない。
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米IT大手の2020年10~12月期業績
(21年2月4日、日本経済新聞)
売上高 増加率 純利益 増加率
1)アップル : 1,114.39億㌦ 21% 287.55億㌦ 29%
2)マイクロソフト: 430.76億㌦ 17% 154.63億㌦ 33%
3)アルファベット: 568.98億㌦ 23% 152.27億㌦ 43%
4)フェイスブック: 280.72億㌦ 33% 112.19億㌦ 53%
5)アマゾン : 1,255.55億㌦ 44% 72.22億㌦ 2.2倍
大手5社全社が、売上高、純利益とも過去最高を更新した。
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