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国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害 [フィリピンの政治経済状況]

国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害
ドゥテルテ政権の人権侵害を告発

 国連人権高等弁務官事務所(ミシェル・バチェレ代表)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を発表した。現政権の「違法薬物戦争」が大きく取りあげられ、これを「政権が治安対策と違法薬物対策を偏重し、市民の殺害や恣意的な拘束、批判への攻撃といった人権侵害を引き起こし、不処罰を助長した」と断じている。

 報告書は政府の資料や警察の報告、写真や映像、被害者らへの聞き取りなどを元に作成された。違法薬物関連の犯罪の疑いで殺害された市民の数は、公式には2016年から累計で8,663人だが、実際の犠牲者はその3倍との推計もある。2015〜19年には248人の人権活動家や法律家、ジャーナリストが殺害され、殺人事件で有罪となったのはたった1件。武器の使用や殺害を肯定する政府高官らの発言や政策が、警察の暴力を許す結果になったと分析している。

 また報告書は、警察による証拠捏造の疑いにも触れている。2016年8月から翌年6月の間に、首都圏で展開された25の作戦で計45人の市民が殺害された。警察は、犠牲者のものとみられる覚醒剤や銃を回収したとするが、同一のシリアル番号の拳銃が別々の事件で「発見」されていた。同じ拳銃2丁が5件もの異なった事件で見つかるケースもあった。警察による「証拠偽造」の可能性が極めて高いと報告している。

下記に、
・6月4日のアムネスティ国際ニュース、
・6月30日のミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官の国連理事会での報告
・6月30日、フィリピン・スター紙に記事
を転載します。

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国連報告が求める「麻薬戦争」に対する国際調査
 アムネスティ国際ニュース  2020年6月4日

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を公表した。

 報告書の内容は、2016年に大統領に就任したドゥテルテが主導する「麻薬戦争」に対する痛烈な告発だ。この「麻薬戦争」では、貧困地域の市民に銃が向けられ、数千人が犠牲になってきた。

 報告書は、麻薬取り締まりの中で、警官による市民の殺害や人権侵害、殺人を犯した警官の不処罰、家宅捜索での証拠偽造など数々の事実を明らかにした。また、メディア、人権擁護活動家、政治活動家らに対する圧力や暴力、さらに、銃使用を奨励する政府高官の発言、表現の自由に対する脅威などがあったことも述べられている。

 報告書は、警官による犯罪を徹底捜査することが喫緊の課題だと提言している。報告書が指摘するように、市民を殺害した警官が何の罪も問われてこなかったのは、重大な問題だ。不処罰が、さらなる人権侵害を許している。

 人権理事会は、警官による殺人や人権侵害について、独立した国際調査団を設置すべきだ。機関の設置は、警官の不処罰問題を質す上で大きな一歩となるだろう。

 一方、国際社会は、国際調査団の設置を支援し、市民の殺害が続く限り、監視を続けるというメッセージをフィリピンに送らなければならない。また、犠牲者家族や人権擁護活動家への連帯を示すことも求められる。

 ドゥテルテ大統領は、誤った政策を取り下げ、犠牲者への正義と補償を実現し、公衆衛生と人権に基づいた麻薬対策を打ち出すべきだ。

背景情報

 国連人権高等弁務官事務所の報告は、19年7月に国連人権理事会で採択された決議にもとづく。この決議が採択に至った背景には、アムネスティをはじめとした市民団体の運動があった。

 ドゥテルテ政権が4年前に打ち出した「麻薬戦争」は、国際社会や国内外の人権団体から強い非難を受けた。しかし、同氏は批判を顧みず、警官に銃の使用を奨励し、処罰しないどころか昇進に結びつけるような発言もした。

 警官による殺害がまかり通る中、活動家、記者、弁護士、教会幹部、労組幹部などが、その人権活動や反政府的発言で当局の攻撃や圧力を受けた。直近では、フィリピンの大手放送局ABS-CBNが営業停止に追い込まれ、新型コロナウイルス感染拡大の中では、隔離や外出禁止令の違反者に、銃の使用も辞さないとの警告が出された。

 昨年の国連人権理事会の決議に基づき出された今回の報告書は、悪化するフィリピンの人権状況に対応する上で重要な一歩となった。

 今後、人権理事会に求められるのは、フィリピンに対するより強力な取り組みであり、特に当局による殺人の捜査とフィリピン政府に説明責任を果たさせる役割を負う国際調査団の設置だ。

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人権理事会の第44回セッション
フィリピンの人権状況に関する双方向対話の強化
国連人権高等弁務官事務所、ミシェル・バチェレ代表の声明
2020年6月30日


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<国連人権高等弁務官事務所代表 ミシェル・バチェレ>

 決議41/2で要求されたように、私は今フィリピンの人権状況についての私たちの報告(国連人権高等弁務官事務所のレポート)に目を向けていただくようお願いします。

 まず、書面による提出やバンコクとジュネーブにある私の事務所との会議を含むフィリピン政府の協力に感謝します。しかし、国連人権高等弁務官事務所に与えられた使命を実行するにあたり、私のチームはフィリピン国家へのアクセスを許可されませんでした。また、フィリピン中の組織や個人から何百もの提出物を受け取りました。しかし、レポートの内容の多くは、フィリピン政府から入手した公式情報源から引用されています。

 レポートの調査結果は非常に深刻です。フィリピンにおける国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗する法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施されてきました。フィリピン政府。当局者は何千もの殺害、恣意的な拘留を行い、そしてこれらの深刻な人権侵害に挑戦する人々の非難をもたらしました。

 レポートでは、2015年から2019年の間に248人以上の人権擁護活動家、弁護士、ジャーナリスト、労働組合員が殺害されたことを報告しています。これには、環境保護団体や先住民族の権利擁護活動家が多数含まれます。人権擁護活動家は、テロリスト、あるいは国家の敵、そしてCOVID-19対策の敵であるとさえ、非難されています。

 新しい「反テロ法」が最近、フィリピン議会を通過しましたが、批判、犯罪性、およびテロリズムの間の重要な区別が極めて曖昧であることから、私たちは重大な懸念を抱いています。

 この法律は、人権と人道的活動にさらなる冷酷な影響を及ぼし、脆弱で疎外されたコミュニティへの支援を妨げる可能性があります。したがって、ドゥテルテ統領に「反テロ法」への署名を控え、暴力的な過激主義を効果的に防止および防止できる立法案を作成するための幅広い協議プロセスを開始するよう要請します(「反テロ法」はフィリピン議会を通過したので、ドゥテルテ大統領が署名すれば成立するばかりとなっていた、6月30日のバチェレ代表の国連理事会での演説の後、ドゥテルテ大統領は7月3日に署名し「反テロ法」は成立した)。

 ただし、平和的な批判に従事している人々に対する誤用を防ぐためのセーフガードが含まれています。私が代表を務める国連人権高等弁務官事務所はそのようなレビューを支援する準備ができています。

 報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、いわゆる「麻薬戦争」を引き起こしている主要な政策と政府の最高レベルからの暴力への扇動に起因していることも見出しています。違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われています。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることも認定しています。

 私たちはまた、フィリピンでは殺害した当局者が「ほぼな不処罰」であることも発見しました。これは、超法規的殺害の加害者が存在することをフィリピン政府が望んでいないことを示しています。当然のことながら、被害者の家族は無力であり、正義を実現する確固たる可能性が保障されていなければなりません。。

 さらに、違法薬物キャンペーンはは行われましたが、政府高官の黙認により、違法薬物の供給を減らすのに効果がありませんでした。

 フィリピンは経済的および社会的権利はある程度の進歩を遂げましたが、先住民と農民は未だ、強力な企業と政治的利益、軍と新人民軍のような非国家武装グループの間の綱引きに巻き込まれ続けています。進歩的な法律にもかかわらず、先住民の権利、教育を受ける権利、その他の基本的な経済的および社会的権利は、多くの遠隔地のコミュニティにとって保障されておらず実現されていないままです。
 
 フィリピンは長年にわたって多くの国連人権メカニズムに積極的に関与しており、このレポートは勧告の多くに基づいています。シニア人権アドバイザーも2014年から国連カントリーチームを支援しています。

 当事務所は、報告書の推奨に基づいて建設的な関与を強化する準備ができています。我々は、国内の説明責任メカニズムの強化を含む、政府とのさらなる協力のためのいくつかの分野を特定しました。警察違反の疑いに関するデータ収集を改善すべきです。薬物規制とテロリズムに関する法律と政策を見直しすべきです。そして市民社会と政府・国家当局の間のギャップを埋めなくてはなりません。

 私の国連人権高等弁務官事務所に監視と報告の継続を義務付けることによって、また報告の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について積極的で警戒を続けるよう理事会に要請します。フィリピン国家は、私たちが記録した重大な違反について独立した調査を実施する義務を負っています。フィリピン国内のメカニズムからの明確な改善結果がない場合、理事会は国際的な説明責任対策のオプションを検討する必要があります。

 この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する刑罰の終焉の始まりとなることを願っています。被害者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待しています。

 フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、不十分です。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティの出身である傾向があるため、保護を確実にするために、フィリピン政府にはさらに強い義務があります。被害者を失望させてはなりません。政治的リーダーシップとは、社会のすべての人々の権利、特に最も脆弱な人々の権利を尊重し、促進し、保護し、誰も取り残さないようにすることが重要です。

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「重大な違反」:
バチェレ、フィリピンに関する報告を国連人権理事会に提出
ガイア・カトリーナ・カビコ(Gaea Katreena Cabico)記者、

(フィリピン・スター紙.com)

2020年6月30日


 マニラ、フィリピン
 フィリピン政府の麻薬戦争は、「広範囲にわたる組織的な」超法規的殺人を含む深刻な人権侵害を引き起こしたと、6月30日(火)、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表は述べた。

 「国連人権高等弁務官事務所によるフィリピンの状況に関する報告の調査結果は非常に深刻だった。国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗するためのフィリピンの法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施された」とバチェレ代表は、開催中の第44回国連人権理事会で報告し正式に公表した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府の麻薬摘発政策の結果、何千もの殺害、恣意的な拘留があり、「深刻な」人権侵害に異議を申し立てる個人の非難が発生したとし、「報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、麻薬に対するいわゆる戦争と政府の最高レベルからの暴力への扇動を推進する主要な政策に起因していることがわかる」と述べたのである。

 「違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われている。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることを発見した」とも述べている。

 バチェレ代表は、国連人権高等弁務官事務所のチームにはフィリピンへのアクセス権は与えられていないが、フィリピン政府から書面による提出とタイ・バンコクとスイス・ジュネーブでの「数回の会議」を通じてレビューに協力したと報告の作成の背景に触れた。

 国連人権高等弁務官事務所は、フィリピンの人権団体や個人からも「数百の提出物」を受け取ったが、バチェレ代表は「報告書の内容の多くはフィリピン政府からの公式情報源から引用された」と述べている。

 国連人権高等弁務官事務所は6月4日に公表した報告で、フィリピンの人権侵害について、フィリピン政府が違法薬物の取り締まりに強引に焦点を当ててきた政策と、政府高官からの口頭による指示からうまれている人々の安全と人権への脅威について詳述した。

 違法薬物に対する国際的な非難キャンペーンは、ドゥテルテが麻薬犯罪を厳しく取り締まるという公約を掲げ大統領選挙で勝利した2016年以降、ドゥテルテ政府によって開始された。

 国連高等弁務官事務所はまた、有罪判決を受けた薬物戦争による殺害者は「ほぼ免責」されたと語った。2017年に17歳の男子生徒であるキアン・デロス・サントスが殺害された件でも、殺害者は免責された。

 フィリピン政府の最新の統計によると、戦争で殺害された麻薬犯の数は5,601人だった。その数は、27,000人が殺されたとする「人権ウォッチドッグ」による推定よりもかなり少ない。

「免責の終わり」

 バチェレ代表は国連人権理事会に対し、監視と報告を継続することを義務づけ、報告書の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について警戒を続けるよう要請した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府による対策によって明確な改善がない場合、人権理事会は国際的な説明責任措置のオプションを検討すべきであると述べた。

 国連人権高等弁務官代表はまた、フィリピンにそのような「重大な」違反があるかについて独立した調査を行うよう求めた。

 「この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する免責の終焉となることを願っている。犠牲者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待している」とバチェレット代表は述べた。

 「フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、まったく不十分である。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティに属している傾向があるため、保護を確保するためのさらに強い義務がある」とバチェレは付け加えた。

 国連人権理事会:フィリピンには、過去の権利違反への対処失敗に根差した不処罰の風土がある
国連人権理事会委員であるカレン・ゴメス・ダンピットは声明で、国連人権高等弁務官事務所の報告を歓迎するとともに、調査結果をフィリピン政府が受け付けなかったことは残念であると述べた。

 「フィリピンでは過去の人権侵害に対処しなかったことから不処罰の風潮が形成されている。しかも、人権に対する乱暴な態度と行動は、今日なお強く存続する、憎悪を煽り、暴力を動機づけ、不処罰を許すという有害な修辞学によって条件付けられてきたという見方を我々は共有している。」と、ダンピット委員は言った。

 国連人権理事会の当局者は、報告書の調査結果と推奨事項を受け入れ、国内メカニズムの有効性を実証するための決定的な措置を講じることは政府の義務であると強調した。

 国連人権理事会はその勧告として、権力者からの有害なレトリックの即時停止、フィリピン国家警察の全面的協力、および説明責任メカニズムを求めた。

 それとともに、フィリピン政府に人権侵害の各犠牲者を説明し特定し、すべての加害者を起訴すること、反薬物キャンペーンの犠牲者と彼らが残した家族に援助を提供ことを求めた。

 19年、人権理事会は、バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表にフィリピンの人権状況に関する包括的な報告書の作成を求める決議を採択した。

 フィリピンは現在審議会に参加している47か国の1つである。

 国連人権理事会は、6月30日~7月20日までジュネーブのパレデネーションズで44回目の定期会合を開催する。

 
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