米シェールの落日、稼働リグ数 7割減 [世界の動き]
米シェールの落日、稼働リグ数 7割減
米シェール業界の苦境が鮮明だ。
世界の石油需要が急減し、石油価格が暴落したため、シェールの新規開発と稼働の7割が止まった。
6月28日、チェサピー・エナジー社が経営破綻した。1989年創業の草分け的存在だった。
4月以降、中堅企業であるホワイティング・ペトロリアム、エクストラクション・オイル・アンド・ガスが相次ぎ破綻した。
石油・ガス開発企業の経営破綻は20社以上に及ぶ。
シェール開発のペースを示す全米のリグ(石油掘削装置)の稼働数は、6月27日に188基と、19年3月のピークから7割減だ。
1バレル40ドル以下では多くのシェール企業が採算割れとされ、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、WTIが40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内に債務不履行に至るという。(現時点で1バレル30ドル台後半)
ただし今のところ、世界のハイ・イールド債を組み込んだ上場投資信託(ETF)の価格は、チェサピー・エナジー社のデフォルト認定後も底堅く推移している。
ちなみに、サウジ・アラムコ社の生産コストは、1バレル2.8ドルとされる。
もっとも、サウジ政府財政は1バレル70~80ドルを前提に予算を組んでおり、大幅な財政赤字になる。他の産油国も同じだ。
サウジ原油4割上昇、シェールオイルが再稼働しない価格水準まで上げるつもりだ
サウジ原油価格の6月積み価格(7月2日、日経)
● エキストラライト:34.68ドル/バレル 前月比40.6%上昇
● ライト :35.28ドル 42.4%
● ミディアム :35.48ドル 43.8%
● ヘビー :35.48ドル 43.8%
世界の経済活動再開と産油国の大減産で需給のバランスが締まってきた。
サウジをはじめとする産油国は、米国のシェールオイルリグが再稼働しない40ドル/バレル以下を目安に価格調整を図るだろう。思惑通り行くかは不明だが、米シェールオイルの大半が採算が合わないため生産を止めているので、OPECプラスが減産調整すればある程度、狙った価格(=40ドル以下)に落ち着く可能性は高い。
米国のシェール企業は、「低格付けの債券」を発行し、資金調達して、開発・生産・販売している。石油価格が40ドル以下になれば、資金を返済できなくなり、倒産する。
通常の経済状態であれば、こんな時には、石油メジャーがこれらシェール企業を買収し傘下に入れ独占化するのだが、石油価格暴落で、エクソン・モービル、シェル(英蘭)、シェブロン、BP(英)などメジャーのどこもがどこも膨大な赤字を抱え、資金的余裕がない。
サウジやロシアなど「OPECプラス」は、当面は原油価格が40ドル近くになるように生産を調整し、シェール企業を市場から駆逐するように努めるだろう。今なら、在庫を放出したり増産すれば、容易に価格を40ドル近辺に調整することができる。
これまで「OPECプラス」の減産調整にまったく従わず、自分勝手にシェアを拡大してきた米シェール企業に、「OPECプラス」の怒りは蓄積している。この機にシェールオイルのシェアを奪うだろう。
いずれ経済が回復すれば、原油需要も増え、価格も上がっていく。
シェールオイルは、採掘再開が比較的容易なので、40ドルを超えたら、シェール企業はどこかの資本により買収され再編され、再び石油世界市場に参入するだろう。
「OPECプラス」は、石油価格が暴落し低迷するそれまでの間を利用し、米シェールに奪われたシェアの回復を狙っている。石油の世界需要が減退しているこの時期だからこそ、できる対応だ。
*************
<コロナ禍による原油価格暴落によって、北米のシェールガス油井の多くは稼働が止まっている(写真:ロイター)>
8月1日 追記
この記事を書いた後、7月20日、米メジャーのシェブロンが、米シェール大手「ノーブル・エナジー」を買収したという発表があった。株式交換による買収額は、50億ドル(約5,300億円)で、コロナ危機後、石油業界最大規模だ。シェブロンも石油需要減退と価格低下で大幅な赤字となっており、手元に資金がないので「株式交換」による買収とした。
シェール企業の経営は悪化、安値になっている。今後は資金力のある大手による買収が加速しそうだ。とくに石油メジャーが狙っている。
「ノーブル」は株価が9ドル台(前週末)、コロナ危機前のおよそ半分だという。
シェブロンにとっては、割安でシェール利権を取得できる。ノーブル社は、パーミアン盆地に大規模なシェール油田を保有するとともに、イスラエル沖にも高収益海洋油田を持つ。
シェブロンはパーミアン開発で競合するエクソン・モービルに後れをとっており、ノーブル買収で巻き返しを図るのだそうだ。
また、7月29日、東京ガスが、米テキサス州、シェールガス企業のキャッスルトン・リソーシズへの出資を70%超にまで引き上げ、子会社化すると発表した。投資額は約700億円。
シェブロンの買収に比べれば小規模だ。ただ、今後破綻するシェール企業が続くだろうし、資金力に余裕のある資本による買収が進むだろう。
米シェール業界の苦境が鮮明だ。
世界の石油需要が急減し、石油価格が暴落したため、シェールの新規開発と稼働の7割が止まった。
6月28日、チェサピー・エナジー社が経営破綻した。1989年創業の草分け的存在だった。
4月以降、中堅企業であるホワイティング・ペトロリアム、エクストラクション・オイル・アンド・ガスが相次ぎ破綻した。
石油・ガス開発企業の経営破綻は20社以上に及ぶ。
シェール開発のペースを示す全米のリグ(石油掘削装置)の稼働数は、6月27日に188基と、19年3月のピークから7割減だ。
1バレル40ドル以下では多くのシェール企業が採算割れとされ、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、WTIが40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内に債務不履行に至るという。(現時点で1バレル30ドル台後半)
ただし今のところ、世界のハイ・イールド債を組み込んだ上場投資信託(ETF)の価格は、チェサピー・エナジー社のデフォルト認定後も底堅く推移している。
ちなみに、サウジ・アラムコ社の生産コストは、1バレル2.8ドルとされる。
もっとも、サウジ政府財政は1バレル70~80ドルを前提に予算を組んでおり、大幅な財政赤字になる。他の産油国も同じだ。
サウジ原油4割上昇、シェールオイルが再稼働しない価格水準まで上げるつもりだ
サウジ原油価格の6月積み価格(7月2日、日経)
● エキストラライト:34.68ドル/バレル 前月比40.6%上昇
● ライト :35.28ドル 42.4%
● ミディアム :35.48ドル 43.8%
● ヘビー :35.48ドル 43.8%
世界の経済活動再開と産油国の大減産で需給のバランスが締まってきた。
サウジをはじめとする産油国は、米国のシェールオイルリグが再稼働しない40ドル/バレル以下を目安に価格調整を図るだろう。思惑通り行くかは不明だが、米シェールオイルの大半が採算が合わないため生産を止めているので、OPECプラスが減産調整すればある程度、狙った価格(=40ドル以下)に落ち着く可能性は高い。
米国のシェール企業は、「低格付けの債券」を発行し、資金調達して、開発・生産・販売している。石油価格が40ドル以下になれば、資金を返済できなくなり、倒産する。
通常の経済状態であれば、こんな時には、石油メジャーがこれらシェール企業を買収し傘下に入れ独占化するのだが、石油価格暴落で、エクソン・モービル、シェル(英蘭)、シェブロン、BP(英)などメジャーのどこもがどこも膨大な赤字を抱え、資金的余裕がない。
サウジやロシアなど「OPECプラス」は、当面は原油価格が40ドル近くになるように生産を調整し、シェール企業を市場から駆逐するように努めるだろう。今なら、在庫を放出したり増産すれば、容易に価格を40ドル近辺に調整することができる。
これまで「OPECプラス」の減産調整にまったく従わず、自分勝手にシェアを拡大してきた米シェール企業に、「OPECプラス」の怒りは蓄積している。この機にシェールオイルのシェアを奪うだろう。
いずれ経済が回復すれば、原油需要も増え、価格も上がっていく。
シェールオイルは、採掘再開が比較的容易なので、40ドルを超えたら、シェール企業はどこかの資本により買収され再編され、再び石油世界市場に参入するだろう。
「OPECプラス」は、石油価格が暴落し低迷するそれまでの間を利用し、米シェールに奪われたシェアの回復を狙っている。石油の世界需要が減退しているこの時期だからこそ、できる対応だ。
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<コロナ禍による原油価格暴落によって、北米のシェールガス油井の多くは稼働が止まっている(写真:ロイター)>
8月1日 追記
この記事を書いた後、7月20日、米メジャーのシェブロンが、米シェール大手「ノーブル・エナジー」を買収したという発表があった。株式交換による買収額は、50億ドル(約5,300億円)で、コロナ危機後、石油業界最大規模だ。シェブロンも石油需要減退と価格低下で大幅な赤字となっており、手元に資金がないので「株式交換」による買収とした。
シェール企業の経営は悪化、安値になっている。今後は資金力のある大手による買収が加速しそうだ。とくに石油メジャーが狙っている。
「ノーブル」は株価が9ドル台(前週末)、コロナ危機前のおよそ半分だという。
シェブロンにとっては、割安でシェール利権を取得できる。ノーブル社は、パーミアン盆地に大規模なシェール油田を保有するとともに、イスラエル沖にも高収益海洋油田を持つ。
シェブロンはパーミアン開発で競合するエクソン・モービルに後れをとっており、ノーブル買収で巻き返しを図るのだそうだ。
また、7月29日、東京ガスが、米テキサス州、シェールガス企業のキャッスルトン・リソーシズへの出資を70%超にまで引き上げ、子会社化すると発表した。投資額は約700億円。
シェブロンの買収に比べれば小規模だ。ただ、今後破綻するシェール企業が続くだろうし、資金力に余裕のある資本による買収が進むだろう。
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