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2021年の国際メーデーを祝う! [フィリピン労働運動]

 アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)のエミリから、今年のメーデーの様子が送られてきました。コロナ禍で移動制限があり、一方、工場稼働停止によるレイオフ、失業が増えており、これに対処するため「生活協同組合」を立ち上げ寄付を募り、食糧品や生活用品の配布を行っているそうです。メーデーでは歌や演劇なども披露されました。

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<21年メーデー祭りでは、コロナ禍の失業者・生活困窮者のために食糧品・生活用品配布を行った>


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2021年の国際メーデーを祝う!
2021年5月1日

エルピディオ・アベラノーサ

 デスクトップ労働組合(DEA:Desktop Employees Association)書記、
 AMBA-BALA-WPL-Bataan評議員

パグダダマヤン(Pagdadamayan)」という
労働者協同組合を介して!


 世界中の労働者が本日2021年5月1日の国際労働者デーを祝うなか、AMBA-BALA(バタアン州労働組合連合)とFWL(Freeport Workers League:自由貿易地区労働者同盟)の労働者たちは、「パグダダマヤンPagdadamayan」という名の互助活動を提起した。WPL(民族解放のための労働組合)の加盟団体は、YND(国民民主青年運動)と協力して、コロナ・パンデミックによるロックダウンの長期化により飢えや仕事の喪失を経験している人々の叫びに応えて、マギンハワ・コミュニティ協同組合に触発されたコミュニティ協同組合運動に参加した。

 AMBA-WPLのメンバーは、2021年の国際メーデーを祝う独自の催しとして、今回は「パグダダマヤンPagdadamayan」という名の協同組合互助祭りを開催することにした。参加者たちは、政府や資本家がコロナ対策に失敗したとき、労働者は共同体の精神に立ち返るのだと発言した。デスクトップ従業員組合(DEA-WPL)書記(※1)であるエルピディオ・アベラノーサは、「それぞれの能力に応じて、それぞれのニーズに応じて」という未来社会を構想したいと説明した。メーデーでの労働者互助祭りは、YND(国民民主青年運動)が呼びかけて始まった労働者からの寄付金と勧誘によって賄われた。互助祭りの開催中には、バヤーン演劇グループ(Teatrong Bayan)による労働者の窮状を訴える歌が披露された。

 「私たちは1年間このような状態で、仲間の労働者の多くは空の鍋で、何も食べず胃がからっぽだ! 政府の援助の約束が「本当に釘付けになっているのなら」すでに限界に達している!」と、アヴェラノーサ(Avellanoza)書記はコロナ・パンデミック時期の労働者の悲惨な窮状を説明し訴えた。

 「もともとコロナ以前から労働者の収入や手当は十分でなく家族のためにやりくりを余儀なくされてきたが、長い間コロナ禍から回復できず、家族はいるものの失業していて収入がなく、労働者の貧困はますます悪化している」と元ドンイン(※2)労働者レオノーラ・セリスは嘆いた。彼は一年以上失業している。

 「飢餓と不安から人々の安全を守るための闘いの中で、労働者がバヤニハンを立ち上げて生産とサービスを強化する時が来た」とセリスは言った。

 一方、2021年3月現在、AFABファクトシートによると、バタアン自由貿易地域内では合計38,121人の労働者が雇用されており、2000年から2020年初め(コロナ前)の間に70%増加してきたが、いまでは多くの労働者が失業した。フィリピン全体では、2020年のパンデミック・ストライキ以来、約900万人の労働者が職を失ったが、今年のコロナ感染が急増する前に、600万人が仕事に戻ることができた。依然として失業が大きな問題だ。

 「労働雇用省(DOLE)からまだ支援を受けていない私たち労働者はどうしたらいいのか? デスクトップ社が操業を停止してからすでに1年以上失業している。不十分ながら食糧援助はあるものの食糧以外の家賃、水道代、電気代、借金の支払いはどうしたらいいのか? 支援はないのか!」と、デスクトップ労働組合のアヴェラノーサ書記は語った。

 政府のコロナ対応は、労働者とその家族がウイルスから身を守るのをより難しくした。食糧援助は遅れ、しかもランダムにしか届かない。ロックダウンの間は、仕事、給料、貯蓄、代替の生計手段が使えない。

 さらに、この非常に厳しい状況下で、政府の感染症に対する安全衛生の厳しい介入なしに工場が操業を再開した場合、労働条件が維持されず一層安定となり、転居を強要されたり、労働安全衛生対策の欠如などにより、さらに労働者の雇用と生活が悪化するのではないかと、AMBA-WPLは危惧している。

 労働者は社会の経済力である、政府には労働者の苦境に目を向けてほしい。「結局、今回のコロナ流行の経験を経て、利益よりも人間のニーズの方が重要であることがあらためてわかったのではないか!」とアベラノーサ書記言った。「私たち労働者にとっての新しい常識とは何だろうか? それは、契約労働化により在職権の保障がないこと、交渉権の欠如、劣悪な労働条件、労働者の低所得など、長年にわたって維持されてきた劣悪な慣行や労働政策が廃止されることだ。労働者の生活と権利を優先し、適切な国家経済・産業開発プログラムと同期させるような政策に変更されることを求める。それは経済的な混乱などもたらさない、労働者の生活と権利の保障であり、社会の安定、雇用の創出を意味する。」とアベラノーザはは付け加えた。

 このグループは、政府は憲法で定められた使命に忠実であること、特に危機に際しては既得権益を脇に置き、人々の生活と権利をまもることを求めている

 ※1:デスクトップ社 ※2 ドンイン社、ともにバタアン自由貿易地域にある会社




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中国に対抗した軍事力強化に踏み込むな! [世界の動き]

中国に対抗した軍事力強化に踏み込むな!
中国脅威論、尖閣問題を口実に対立を煽るな!

1)バイデン政権の外交の柱は対中国強硬路線

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<航空自衛隊の「パトリオットPAC3」出典:航空自衛隊ホームページ>


 5月3日から5日までロンドンで主要7カ国G7(米、日、独、仏、英、伊、加)外相会議が開かれ、中国の南シナ海、東シナ海などでの行動に対し「深刻な懸念」を示す共同声明を発表した。「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、「両岸問題の平和的解決を促す」ことを盛り込んだ声明の内容は、4月16日のワシントンでの菅首相とバイデン大統領との日米首脳会談後の共同声明とほぼ同じだ。

 外相会議には米国が「中国包囲網Quad」に入れようとするインド、オーストラリア、韓国、南アフリカ、東南アジア諸国連合(ASEAN)がゲストとして招かれていた。

 バイデン政権の対外政策は対中強硬路線であり、対中政策こそが最重要課題なのだ。米国にとって日本の存在価値と対日政策は、対中政策の一部にすぎない。

 バイデン政権は、対中強硬路線を実行するために、トランプ政権のように「アメリカ第一主義」ではやらない、正確にいうと「できないことを理解している」。米国一国で対処する力量はないのだ。日本を含めた同盟国との「国際協調」の再編で対処する。すでに米国は日本を含む同盟国の軍事能力の整備(=ミサイルシステムの配備)、財政的負担を求めている。

2)米戦略:Quadを「アジア版NATO」に!

 バイデン大統領は4月28日の施政方針演説で、「欧州でNATOと共に行っているようにインド太平洋地域で強力な軍の存在を維持する」と述べ、対中強硬路線を実行するため米国は日本、インド、オーストラリアと4カ国の連携(「米日豪印戦略対話:Quad」)でNATOに似た対中国包囲網を形成しようとしている。共同軍事演習もすでに何度か行っている。中国の潜水艦基地のある海南島周辺で、明確に仮想敵を中国とした対潜哨戒のQuad軍事演習に自衛隊は参加している。

 日本はその先鋒をかついで包囲網形成に努めている。

 しかし、米国の思惑通りに進むか否か、疑問だ。米国はQuadを「対中包囲軍事同盟」にしたがっているが、インドはこれを嫌い、より緩やかな「開かれたインド太平洋」という表現を強調している。元々インドは非同盟運動の中心を担ってきたし、当時の米国は非同盟運動を敵視してきたため、インドの軍備はソ連から調達した。現在も米国の反対を無視して、ロシアから対空ミサイル「S400」を導入し、米国だけに依存しないように巧妙な政策をとり続けている。経済関係でも2018年のインドの輸出の9.1%、輸入の14.5%は香港を含む中国との取引だ。そのため、Quadにはあまり乗り気ではない。

 オーストラリアは、18年の輸出の34.1%が中国向けで、中国との経済関係は緊密だ。モリソン豪保守党政権が中国にコロナウイルス感染の情報開示を求め、トランプ政権と一緒になって中国政府の「責任」を追及するという無責任なキャンペーンに加わった。これに対し中国は抗議するとともに、豪州からの輸入規制を実施し、現在の豪中関係は最悪の状況となっている。軍事的には、オーストラリア軍は、陸軍2万9000人、戦闘機89機、やや旧式の潜水艦6隻、駆逐艦2隻、フリゲート8隻という小規模な軍隊で、中国と軍事的に対抗する上であまり役立たない。

 Quadを「対中包囲軍事同盟」にするために米国が最大の期待を寄せているのが日本だ。陸上兵力15万人、戦闘機330機、潜水艦22隻、軽航空母4隻を含む水上艦51隻を有する自衛隊となる。

 しかし、米国の対中強硬戦略にひたすら追随することは、日本の安全保障と利益に合致しない、私たちにとってはきわめて危険な事なのだ。

3)「台湾有事」はあるか?――米司令官「6年以内に台湾有事」

 米国のインド太平洋軍司令官に4月30日就任したジョン・アキリーノ海軍大将は、就任前の3月23日、米上院軍事委員会で、「中国の台湾侵略は思いのほか早く来ると考える。6年以内に軍事行動を起こす可能性がある」と述べた。前任のデイビットソン司令官も同じ発言をしていた。

 どうして6年以内なのか? その根拠は?

 1996年に「台湾独立派」とみなされていた李登輝氏が台湾総統に選ばれる時、中国は(愚かにも)ミサイルを威嚇発射したが米空母2隻が南シナ海に出てくると、軍事力に劣る中国はたちまちのうちに威嚇をやめたことがある。これを契機に中国は米国に対抗する「接近阻止・領域阻止」を掲げ、「海軍力、空軍力の増強を図り、2027年には軍の現代化を達成する」としてきた。その2027年まで6年以内であることを根拠に言っているに過ぎない。

 軍人は予算獲得のために、えてして「危機」を唱えがちで、いわば「毎度のこと」である。米軍・米政府は知ったうえで、対中国強硬路線のために、ウソを煽っている。こんなウソを、情勢をキチンと評価もしないでまともにとりあげる方が滑稽だ。日本のメディアのことを言っている。「危機」は中国からもたらされてはいない。米政府・米軍が米国内で煽っている反中国感情の高まりこそが、「危機」の発信源だ。武力紛争が起きる可能性を完全に否定はできないとすれば、その根拠は「台湾有事論」を煽る米国政府と米軍にある。これは対中国強硬戦略の一部なのだ。

 中国が台湾に軍事侵攻する可能性、現実性はない。台湾が戦場になれば密接に結びついた台湾―中国の経済関係が破壊され、例えば、台湾(TSMC)から半導体が入ってこなくなる。世界一の貿易国・中国は大混乱に陥り、中国経済は大打撃を受ける。中国にとって当面は「現状維持」が最も現実的だ。

 一方、台湾の人々のほとんどは、「独立」したいわけではないし、「統一」したいわけでもない。8割以上の人が「現状維持」が一番いいと認識している。(台湾の世論調査の結果)。

 バイデン政権と米軍は、まるですぐにでも戦争の危機が迫っているかのような言い方を吹聴しており、日本政府は無批判にそのまま追従している、というのが現状なのだ。

4)日本政府は尖閣での対立を煽るな!

 日本政府が尖閣諸島での中国との対立を煽るのも、米政府が「中国脅威論」「台湾有事」を煽るのと同一の目的からきている。米国の対中国強硬戦略に呼応し、中国との対決をにらみ日本の軍事力を強化するための国内世論づくりの宣伝なのだ。もちろん違いもある。尖閣問題では、日本政府が米国支配層に意図的に操られている面があることだ。

 尖閣諸島の領有権は、日本、中国、台湾が各々主張しているが、国際的にはどの国の領土かは認められていない。米国でさえ尖閣を日本の領土とは認めていない。日本政府は「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と閣議決定し、中高教科書に「固有の領土」と書かせているし、メディアには「尖閣諸島は固有の領土」だと必ず報じさせている。しかし、それは世界的に認められた真実ではない。日本政府は日本国民があえて誤解するように宣伝している。

 それから日本政府が主張する「固有の領土」論自体が、国際的には通説ではない。「固有の領土論」よりも、ポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約、日中共同宣言、日中平和条約などを最新の条約などを尊重するのが、国際的な常識である。

 かつて日中国交回復時の難問は、尖閣諸島の帰属であった、「これに触れない、現状維持、棚上げ」方式がとられた。1972年日中共同宣言の際に田中角栄首相と周恩来首相が、1978年日中平和条約では鄧小平と園田直外相が、「棚上げ」して、締結した。つまり「領有権は未決、管轄は日本」としてきたのである。80年代初頭まで日本政府、中国政府とも「棚上げ」を尊重する対応をとった。

 しかし、外務省、日本政府は対応を変え、こっそりと「棚上げ合意はない」という主張を始めたのである。自民党内で小泉、安倍が、外務省内では「アメリカンスクール」が主導権を握るに至ったことと相応する。

 2000年代になって、当時の石原慎太郎東京都知事が、訪米時に米ハドソン研究所で「尖閣諸島を東京都が購入する」と宣言した。仕掛けられた「策」にそのままはまり、当時の民主党の野田政権は最終的に「尖閣諸島を国有化」してしまった。1972年日中共同宣言、1978年日中平和条約の前提となっていた尖閣諸島帰属の「棚上げ」を日本政府が一方的に破棄したのである。中国政府は抗議し、「領土権は棚上げ、施設権は日本」という合意を、日本政府から破棄したとみなすに至っている。

 このような経過を決して忘れてはならない。しかし、日本国民の多くは無自覚だ。

5)中国の軍事力は?
 2020年、世界の軍事費はコロナ禍にもかかわらず、前年比2.6%増の約214兆円(過去最高額)にまで増加した。
 各国とも経済はマイナス成長で税収減少、コロナ対策で厳しい財政運営なのに、軍事費は増加した。サイバー攻撃、宇宙空間、ミサイル防衛システムの強化など、内容が変わりつつある。

2020年各国のGDPと軍事費、 軍事費のGDP比
1)米国: 2,200兆円、 84兆円(7,780億㌦) (4.4%増)  3.8%
2)中国: 1,500兆円、 27兆円(2,520億㌦) (1.9%増)  1.8%
3)日本:  520兆円、  5.3兆円             1%
(ストックホルム平和研究所(SIPRI)、4月27日日経)


 米国の軍事費は、突出しており世界の軍事費の約4割を占める。中国の軍事費はGDPとともに急増している。額は世界2位であるが、米軍事力に比べればまだ「防衛的」であると言えるところはある。

 中国は核兵器(ICBM,SLBM)を約200発保有している、米国、ロシアの各約9,000発に比べれば数は少ない。核軍拡競争はしないという立場をとってきたことになる。中国は核保有国5ヵ国のなかで唯一、「核兵器の先制使用はしない」と宣言している。

 中国の通常兵器は、ミサイル中心である。米国のように空母群で世界中に出かけるような攻撃的な軍備はこれまで持って来なかった。日本・韓国・グァムなどの米軍基地や米韓・米比軍事演習によって、中国は長らく軍事的に包囲されてきた。それへの対抗から、中国は東海岸に1,250発(米国防総省による)の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)を配備するに至っている。中国は米ソ(のちに米ロ)間のINF(中距離ミサイル禁止)条約に入ってこなかった。陸海空軍に加えミサイル軍を創設している。

 現代の最強兵器はミサイルである。一旦戦争が始まったら、戦闘初期において空軍基地、空母をミサイルで破壊すれば戦闘機を含めた空軍攻撃力を無化できる。中国の東海岸に配備されたミサイルは、日本の米空軍基地、日本近海の米空母を狙っている。自衛隊の迎撃ミサイルシステム(イージス艦、PAC3など)は、性能からしてそもそも当たらない、旧式の兵器になりつつある。万が一当たったとしても1,250発を同時に撃ち落とせるものではない。

 中国にとって1,250発の短・中距離ミサイルは「防衛的」ではあるが、日本国民にとっては米軍基地が日本にあることから、きわめて危険であり「脅威」なのだ。日本国民はこの現実を知らなくてはならない。

 台湾有事、もしくは米中戦争が起きたら、日本にある米軍基地は攻撃の対象になる。米軍の戦争に自衛隊が参戦したら、自衛隊基地も攻撃対象となる。ミサイル兵器の性能から、南西諸島の自衛隊基地は全滅する。自衛隊が尖閣諸島に上陸したら、瞬時に全滅する。日本の他の米軍基地もすべて破壊される。短・中距離ミサイルは、グァム基地までは届くが、ハワイや米本土には届かない。しかし、日本全土は射程内に入っている。

 米国にとっては、「台湾有事」でも米本土は被害を受けないが、中国、台湾、日本、韓国は違う、戦場になり、大きな被害を受けるのだ。
 米国政府による日本のミザイル整備によって、仮に台湾有事で戦争になったとしても、被害を受けるのは台湾や日本、中国であり、米国ではない。米政府にとって、「日中共倒れ」こそ日本へのミサイル整備の現実的な狙いなのである。

 ほとんどの日本人はこういった現実を理解していない。

 それから、「台湾有事」となっても、米国の核ミサイルは発射しない、「地域紛争(台湾)のためにニューヨークを危険に陥れることはしない」(H・キッシンジャー)。

 したがって、日本にとって、米国とともに中国と戦争をするという選択肢は、絶対にありえないことなのだ。

6)アジアで米中が戦えば、中国が勝つ(米ランド研究所)

 東アジアでの軍事的な関係はすでに大きく変化している。そのような現実もキチンと理解したうえで意識的に平和を追求しなければならない。

 「軍事的に米中が尖閣諸島周辺で戦争すれば、今や、米軍が負ける」時代が到来している。米シンクタンク・ランド研究所のレポートは、「軍事的に米国は、尖閣諸島を守るために中国と戦えない」としている。

 ランド研究所「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃1996–2017)」のレポートによれば、
○中国東海岸には1,250発の短・中距離ミサイル(射程5,500㎞以下)、巡航ミサイルが配備され、かつ命中精度も上がっている。この地域の米の中距離ミサイル配備数は数十発であり、到底対抗できる数ではない。
○アジアの米空軍基地は、戦闘の初段階の中国のミサイル攻撃によって、無化される。日本や東アジアの空軍基地・空母群は破壊され、一瞬にして空軍優位性を失う。嘉手納基地は破壊される。
○中国の中距離ミサイルに対抗する米日韓のミサイル防衛システムはない。
○米中の軍事バランスは2017年には、台湾周辺:「中国優位」、南沙諸島:「ほぼ均衡」という評価である。

7)菅政権は、どうするのか? 4月16日の日米首脳会談で何を決めたのか?

 米バイデン政権は、中国の軍事力に対抗した日本の軍事力の強化を菅首相に求めた。具体的には、中国に対抗した短・中距離ミサイルシステムの配備だ。そのために首脳会談でわざわざ現実性のない「台湾有事」に言及し、「脅威」を煽ってミサイル配備をやろうとしているのである。

 日本の短・中距離ミサイル配備は他国に届くから「専守防衛」ではなくなる、憲法に反する。憲法を無視しなければ短・中距離ミサイルを配備はできない。2019年から言われてきた北朝鮮のミサイルに対抗するため「敵基地攻撃能力」が議論が、この動きと照合する。軍事的にみて北朝鮮は脅威ではない、「敵基地攻撃能力」の本当の狙いは、中国である。韓国への米高高度防衛ミサイル(THAAD)配備がそうであったように。

 日本の配備する中距離ミサイルは、核ミサイルではない。中距離ミサイルの射程(当初は1000㎞程度としているが、いずれ5,500km)からすれば、他国(中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアなど)に届く。これまで自衛隊は専守防衛だから、他国に届く兵器を持ってはいけないとしてきた。「専守防衛」なので、持ってはいけない兵器として、①大陸間弾道ミサイル、②攻撃型空母、③長距離戦略爆撃機の3例が国会で例示されてきた経緯がある。(田岡俊次『目からウロコ』)

 米国の凋落が目立ってきた現在、バイデン政権にとって、対中国強硬政策が外交・軍事のすべてである。これを米国単独ではもはやできない、したがって、同盟国である日本に中国の軍事力に対抗できるミサイル配備を中心とした軍事力強化を行え! 実質的には中国と日本で戦争をしろ!と要求しているのだ。日本の軍備の根本的な転換を求めているのである。

 4月16日の日米首脳会談で、菅首相は米国の要求に応じる方向で合意した。きわめて危険だ。

 ミサイル配備は米国製の高価格のミサイル、監視衛星その他を買わなければならない。現在は、イージス艦、PAC3などのように「ミサイル+レーダー」だが、すでに時代遅れになりつつある。今後は「高性能高速ミサイル+監視衛星」のシステムになるだろう。そうすれば、ミサイルシステムの導入のために、長年にわたって莫大な金額を支出し続けなければならなくなる。

 中国のミサイルに対抗しようとすれば、軍事・外交的ばかりか、財政的にも破綻するのが目に見えている。米国の戦略のために、日本が税金を投入し米国製の高価なミサイルシステムを開発費を負担したうえで購入し、更新し続け、日本の安全保障を危険に晒そうとしているのである。

 菅政権は対中強硬戦略に米国とともに踏み込む姿勢をみせているが、日本にとって、米国と共同して中国の軍事力に対抗し、ミサイル軍事力を強化するという選択肢は、きわめて危険であり、絶対にありえないことなのだ。

8)米国の影響から離れ、日中関係を改善するべきだ

 日本にとって最大のリスクは、米中の対立が管理不能な状態となって戦争に至ることだ。日本は米中戦争の戦場となる。

 現在は、米中対立と戦争の回避を、わが国の安全保障の最大の目標と位置づけなくてはならない時だ。それなのに菅政権は、米国の対中国強硬戦略に従い日米同盟の抑止力強化を図っており、そのことがかえって戦争の誘因となりかねないにもかかわらず、あえて危険を増大させる方向へ踏み込んでいる。

 果たして国際情勢を理解しているのだろうか? ほとんどわかっていない。それゆえ無頓着、無責任な態度をとっているとしか見えない。あるいは、オリンピック開催へ突き進んでいるのと同じように、日本政府は、破綻するまで、いったん決めた路線を修正したり、転換できない「体質」となっているということなのか!

 今なすべきことは、米中間の対立回避、戦争回避である。そのために日本は米国の影響から徐々に離れ、日中関係の改善を図るべきだ。それ以外に選択肢はない。米中戦争の戦場となる他の東アジア諸国と共同して、対話を求める努力を始めなければならない。
 ASEAN諸国、韓国、ニュージーランドはすでにそのように振る舞っている。

 そのためには憲法9条を表に立てて交渉するべきである。唯一の戦争被爆国であるという事実は、世界政治のなかで、日本に特殊な立場を与えてきたし、現代世界のなかで新たに現実性を帯びてくるだろう。また、沖縄戦という民間人を巻き込む悲惨な戦争を経験した国、平和時において東アジアとの連携のうちに経済発展を遂げた国として発信するメッセージも、今なお世界にとって意味あるものとなる。そういった方針を実行できる政権に変わらなければならない。

 米国の都合による米中対立の枠内で、日中関係を改善することは絶対にできない。軍事的対立を煽る米国政府の政策に全面的に協力して、東アジアで平和的関係を打ち立てることはできない。ましてや中国や北朝鮮に対抗しミサイル軍事力を強化してはならない。敵基地攻撃能力の保持、自衛隊ミサイルの長射程化や艦艇のプレゼンスなどは、緊張を引き起こし対立と戦争の危険を高め、日本の安全保障を破壊し日本国民を危険な事態へと追い込むばかりである。

 その一方で、中国に対しては、米国の庇護のもとにではなく日本が独自に働きかけなければならない。米国と一緒になって強面(こわもて)で向き合うばかりではいけない。日中関係の改善のためには、まず尖閣諸島の領有権での「棚上げ合意」を復活させることだ。「こっそりと」ではなく、「明確に」だ。以前の「棚上げ合意」に戻すことを正式に打診し交渉し、関係改善に努めるべきだ。いたずらに対立を煽ってはならない。尖閣周辺の日本の漁民が困っているなら漁業協定を結べばいいのであって、尖閣諸島を日本の領土にしなければならないのではない。人の住まない島をめぐって争う意味はない。米軍事力を頼みにして、「虎の威を借りる狐」の態度をとってはならない。
 自衛隊を南西諸島に配置したら余計にこじれ、対立は続く。日中の軍事力比較からすればすでに大差がついている。中国に対抗して軍拡競争をすべきではない。

 対立と戦争の原因となる政策を即刻やめるべきだ。外交交渉によって対立や戦争が起きる原因、要因をひとつひとつ慎重に潰して行かなくてはならない。そうして平和的な関係をつくり上げていくのが、私たちの望みだ。











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バイデン政権の大規模財政政策の意味 [世界の動き]

バイデン政権の大規模財政政策の意味

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<5.8兆㌦の財政政策への賛成を求めるバイデン>

1)バイデンはトランプを追い落とし、主導権を握らなければならない

 バイデン政権は発足したものの、米社会は格差は拡大しており、荒廃・分断されたままである。大統領選ではトランプは7,400万票も獲得し、米政治はまさに二分された様相を見せた。米共和党は現在もなおトランプ支持勢力が主流を占めていて、21年1月のトランプ支持者による連邦議会乱入事件を擁護しており、「大統領選挙に不正があった」といまだに主張している。これを批判した共和党№.3の要職にあった保守派のリズ・チェイニー(チェイニー元副大統領の娘)は党指導部から放逐された。共和党は、プアホワイトのプライドをくすぐる白人至上主義のカルト集団に変質しつつある。

 バイデン政権は、トランプに奪われた白人貧民層、白人の非大卒の支持をどっさり民主党に引き込む必要がある。そうやって民主党の支持基盤を大きく変えなければならない。そのためには、貧困層を救済する効果ある施策を実行することが必要だ。コロナ対策のワクチン接種では成果をあげた。巨額の財政出動もこれを狙っている。

 すぐさま成果を上げて、2022年の中間選挙で、まずはトランプとトランプ支持勢力を米政治から追い払わなければならない。でなければバイデン政権は安定しない。その上で2024年の大統領選挙に臨まなければならない。

2)バイデンの大規模財政政策

 米財政出動は下記の通り、極めて大型であり、米経済の急回復と債務急増をもたらしている。
①「米国救済計画」 1.9兆㌦: 21年3月中旬、民主党単独で成立し、施行
 ○内容: 1人1400㌦給付、ワクチン接種強化
 ○財源: 緊急対策なので、全額を債務で

②「米国雇用計画」 8年で2兆㌦: 21年3月末に公表。共和党は大幅縮小の対案
 ○内容:インフラや環境、研究開発に巨額投資
 ○財源: 法人税率上げなどの企業増税、15年で財源を予定する

③「米国家族計画」10年で1.8兆㌦: 4月末に公表、共和党は反発姿勢
 ○内容:格差是正や子育て支援、教育の負担軽減に投資
 ○財源: 富裕層への所得増税やキャピタルゲイン課税で財源を予定する

 出動した巨額の財政出動は、早くも米経済を急回復させ効果をあげている。IMFの元首席エコノミスト、オリビエ・ブランシャール「財政出動によって、20年の米GDPは12.6%、21年は12,8%に達する」としている。

 しかし同時に財源が国債などであり米政府が債務を急拡大したことも事実だ。「米国雇用計画」、「米国国家計画」の財源は、法人税増税、富裕層への所得増税で賄うとしているが、実現するかどうかは不明だ。バイデン政権の支持基盤の一つの金融資本が、増税には抵抗するだろう。そもそも米国は税務署員をリストラしてきており、これまでも巨大資本、富裕層の徴税逃れが多いのだ。バイデン政権の計画通り、財源を確保できるかは、不明だ。

 上記の米財政政策の対策規模総額は5.8兆㌦に達する、名目GDPの28%であり、規模で突出している。ちなみに、日本はGDPの15.6%、ドイツは11.9%(OECD調べ)

 現時点の、米連邦政府(債務)は▲27兆㌦であり、過去最大最悪のレベルだ。
 企業債務(非金融部門)(債務)は、▲11兆㌦であり、リーマン・ショック前を上回る。
 家計部門 (貯蓄)は、1~2兆㌦である。

 財源が確保できなければ、政府債務はさらに増大する。高い成長を達成しない場合も、債務は増大する。

 いまは「成長期待」なのであるが、「景気過熱リスク」はすぐ先に見えている
 財政支出は、短期的には確実に好景気をもたらすだろう。インフレ率は今のところ2%以下と適度に上昇しているし、10年物米国債の金利も1.6%程度に収まっており、現段階までは良好である。

 ただし、財政政策と金融緩和が主導する景気回復であり、いずれ金融引締めの時期が来る。FRBでは金融緩和終了=「テーパリング」の議論がすでに出ている。インフレ率が急上昇し引き締めが後手に回れば、24年を待たずして金融危機と深刻な景気後退に陥る可能性はある。近いうちにその危険性が増した時期を迎えるだろう。






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「水平分業」が半導体産業のスタイルに  [世界の動き]

「水平分業」が半導体産業のスタイルに

1)世界の半導体企業の時価総額ランク  
 21年3月の世界の半導体企業の「時価総額」上位5社は、下記の通りとなっている。20年前と比べ「顔ぶれ」は大きく入れ替わった。

21年3月末の「時価総額」  
1)TSMC(台)   : 5,468億㌦
2)サムスン(韓)  : 4,743億㌦
3)エヌビディア(米):3,092億㌦
4)インテル(米)   :2,528億㌦
5)ASML(蘭)    :2,218億㌦

2000年末時、「時価総額」
1)インテル(米)   : 2,023億㌦ 
2)テキサス・インスツルメンツ(米): 1,604億㌦ 
3)サンマイクロ・システムズ(米):  897億㌦ 
4)クアルコム(米)  :  615億㌦ 
5)STマイクロ・エレクトロニクス(米): 387億㌦ 
(21年3月12日、日本経済新聞)


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<TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)>

 半導体企業では、受託生産企業(ファウンドリー)であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.:台湾積体電路製造)が、時価総額で世界首位となった、全産業の中でも世界11位。微細化量産技術で競争力を獲得し、最先端のロジック半導体の受託生産で世界市場の60%以上を生産している。またASML(蘭)は、微細化を可能にする露光装置で独走している。背景には、微細化量産技術競争がある。

 TSMCに半導体製造を委託している企業として、売り上げに占める比率の順に、アップル(25.4%)、AMD(9.2%)、メディアテック(8.2%)、ブロードコム(8.1%)、クアルコム(7.6%)、インテル(7.2%)、エヌヴィディア(5.8%)と続く。

 TSMCは、1987年設立、Morris Chang CEO、従業員5万人、2020年売上:455億ドル(前年比31.4%増、時価総額が5,597億ドル(21年5月)、全世界500社以上の顧客企業に半導体を納入している。

 TSMCは、20年春に線路幅5㌨品で量産・納入を開始し、22年3㌨品量産、24年2㌨品量産を始める計画だ。サムスン電子は、メモリー分野で世界シェア1位であるとともに、受託生産企業としてTSMCの後を追っている。20年末に5㌨品量産を始めたが、未だ歩留まり(良品率)が悪いようだ。主力は7㌨品を量産中。インテルは7㌨品の量産に失敗した、現在は14㌨品を量産している。7㌨品の量産は23年になる見込み。

 線路幅が小さいほど、性能が良くなるし、面積は小さくなるので一定のシリコン結晶材からより多くの半導体を生産できる(コストダウンできる)。
 ASMLは微細化に実現する製造装置の一つのEUV露光装置を独占する。キャノン、ニコンは競争に敗れ露光装置市場からすでに退場した。

2)「垂直統合モデル」の崩壊、「水平分業」へ

 インテルは、自社でCPUの設計から量産まで行う「垂直統合モデル」で長らく半導体産業に君臨してきたが、この「垂直統合モデル」が敗退・崩壊し、「水平分業」が広がっている。それを象徴するのがTSMCの躍進である。前述の通り、半導体産業で時価総額世界一位となった。

 米AMDはPC用CPU設計に特化し、量産はTSMCに委託し、性能の優れたCPU(Rizen5000シリーズ)をすでに供給している。データセンター用CPUでもシェアをあげている。

 アップルはこれまで、自社PC(アップルコンピュータ)用CPUをインテルから受給してきたが、自社で高性能CPUを開発設計しTSMCへ量産を依頼し、自社PCに使用し始めた。

 半導体はPC用ばかりでない。最近ではスマホ用、クラウド=データセンター用、ゲーム用のCPU市場が急速に拡大している。スマホ用はすでに米クアルコム社など各社が設計し、TSMCやサムソンが量産し、スマホメーカーに供給する態勢ができ上っている。

 米エヌビディアは、主力のGPU(画像処理半導体)を、ゲーム用やデータセンター向けに急速に伸ばしている。データセンター用GPU+CPU「グレース」を開発し、インテルの納入先を奪いつつある。

 アマゾンは、データセンターの頭脳として自社で開発設計した半導体「クラビトン」を、TSMCで量産しすでに実用化済だ。不必要な機能をそぎ落とし省電化した。

 グーグル、マイクロソフトも自社のデータセンター用に自社開発した半導体を活用しようとしている。

 90年代半導体王国だった日本の半導体企業のほとんどは、競争に敗れ市場から退場していった。メモリー生産のキクオシア(東芝系)、光センサーCMOS半導体生産のソニー、半導体製造装置の東京エレクトロン、シリコン結晶材の信越化学とSUMCO、そのほか材料・原料を納入する企業が残っているだけである。

 半導体産業におけるこれら「再編の動き」は、インテルの「垂直統合モデル」が敗退し、設計ソフトを使った各社での設計、TSMC・サムスンでの受託生産、ASMLを含む各社による製造装置生産などの「水平分業」に置き換わりつつあるということだ。すなわち半導体産業の業態が大きく変貌したのである。

 2000年代から、半導体の設計・開発と生産を別の企業が担う「水平分業」が加速し、受託生産が急拡大した。かつては、半導体の付加価値は設計にあるとされ、生産は外注して、投資とリスクを抑える事業モデルが広がった。受託生産は、量産技術が革新するたびに、莫大な資本を投下し、巨額の設備投資を更新することが適宜必要とされ、スピード感をもって対応しなければ競争に敗け「勝者総取り」となる厳しい市場だ。当初は、高リスク、低リターンの割の合わない事業とされた。

 ところが、数ある受託生産企業のなかで抜きんでた量産技術を常に革新し保持してきたTSMCが勝ち残り、「勝者総取り」の様相を呈している(残りの多くの受託生産企業は敗退し退場していった)。そして「勝者総取り」のファウンドリー企業が優位になる「転換」が起きたのである。
 製造装置でも、微細化露光装置で抜きんでたASMLが同じように露光装置市場で「勝者総取り」の地位を得ている。

 開発・設計への特化においては、最先端の領域で研究開発ができているかが重要になっている。半導体の設計ソフトは、米クアルコム、英アームが支配的な地位を保持している。

 これらは半導体産業において、「垂直統合モデル」が敗退し「水平分業」に置き換わったことを示す。

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<サムスン電子本社>

※「垂直統合モデル」について

 現在、「垂直統合モデル」を形成している業界に自動車産業がある。自動車会社が配下に組み立て子会社、部品会社、下請け、材料会社など、多数の企業を垂直構造に統合している。トヨタはそのトップに君臨している。

 この自動車業界でも、CASE化によって根本的な技術革新が起きており、莫大な額の投資がなされる開発競争に入っている。リチウム電池製造、モーター+インバータシステムなどの有力な部品会社、車のコンピュータ化を実現する巨大なIT企業などが参入し、トヨタ一社では賄いきれない莫大な額の投資が必要となっため、各企業が参入し、開発競争に有利とみられる企業と連携したりして、熾烈な開発競争を繰り広げている。従来の「垂直統合モデル」が再編・解体される過程に入った。果たしてトヨタがこの先も自動車産業に君臨し続けることができるか? 極めて流動的であり予断を許さない。

 かつて1970年から1990年頃まで、日本の電機産業は長い期間を経て「垂直統合モデル」を形成し、その結果、米GE、米ゼニス、蘭フィリップスなど「テーラー生産システム」の家庭用電機大企業を駆逐し、世界市場を席巻していた。トップに電機独占が君臨し、その下に子会社、組み立て子会社、部品会社、計測器会社、下請け、孫請けなど何層にも階層を形成し、すそ野は東南アジアを中心に海外にも広がっていた。「すそ野」(下請け、孫請け、部品会社)は、低賃金の利用形態でもあった。
 これが、1990年代になり、パソコン、携帯電話などで一挙に巨大な市場が生まれ、一方で、欧米を中心に仕様・規格を先行して決定するなどして特定企業が参入し、スピード感を持った投資競争で主導権を握り、日本の電機産業の独占的な地位を崩していった。そのことは、日本の電機産業における「垂直統合モデル」崩壊の端緒となった。いまでは、家庭用電機製品は、中国、韓国などの企業がより機動的で柔軟な「垂直統合システム」に再編し、世界市場を席巻している。

3)一方、中国勢はどうか?

 中国企業は、上記の半導体量産技術、開発設計ソフト、製造装置、半導体材料などにおいて、莫大な投資を行い急速に技術を吸収しつつあるものの、最先端の半導体を自前で設計し量産、調達できる水準にまでは達していない。

 現時点での最大のネックは、半導体受託生産である。TSMCに生産依頼しなければ、最先端の半導体を入手することはできない。米政府による勝手な制裁(「安全保障上問題がある」とするこじつけの理由)で、米商務省産業安全保障局(BIS)は、2020年5月、ファーウェイとその関連企業への輸出管理を強化すると発表した。ファーウエイは、5Gスマホ用のCPUを、子会社の海思半導体(ハイシシリコン)で設計・開発し、TSMCに委託生産していたが、20年9月からはTSMCの半導体を調達できなくなり、スマホ市場で大打撃を受け世界シェアを落とした。最先端スマホを生産できなくなるとともに、20年11月には、資金調達のため、低価格スマートフォンブランド「栄耀(オナー)」を手放さざるを得なくなった。

 TSMCに代わる役割を担う中国の半導体受託生産企業SMIC(中芯国際集成電路製造)の時価総額は、349億㌦で半導体大手では22位であるが、現在は14㌨品の量産しかできておらず、TSMCに比べると量産技術は10年程度の遅れがある。米国は、20年12月、SMICを制裁し、10ナノ以下の製品を作る技術のSMICへの輸出を制限した。

 設計開発においては、現在は使用している米クアルコム、英アーム社などの最新の設計ソフトを今後も引き続き使い続けることができるかどうかが焦点で、米政府は制裁の姿勢を見せている。

 こういう「不法なこと」、「野蛮なこと」が公然と行われている。これが、先進国・米国のやり口なのだ。米国の覇権を維持するためには、何でもやるという姿だ。
 そして、自身のことを「民主主義国」と呼んでいる。自分で自分の、評判を落としていることが理解できないのだろう。あるいは、理解したうえで、フェイクニュースを溢れさせれば、何でもごまかせると思っているということか。

 中国政府は、米国の制裁に関係なく、独自に最新の半導体を調達できるようにするため、自前で最高水準の設計技術、量産技術の獲得にむけて莫大な投資を行っている。しかしまだ、最先端半導体を中国内で生産・調達できるに至っていない。少なくとも数年~10年程度かかるだろう。 

4)中国への米国の対抗手段に半導体産業が使われる!

 半導体の受託生産は世界的にみて一部の地域、台湾、韓国、中国に集中している。特に台湾(ほとんどはTSMC)は、6割以上を占めている。
 
2021年半導体受託生産世界シェア (台湾トレンドフォースの予測 国籍は企業の本社所在地別)
 ①台湾    : 64%
 ②韓国    : 18%
 ③中国    :  6%
 ④その他   : 12%

 5月12日日経によれば、台湾半導体4社投資計画は、14兆円に達している(内訳:TSMC:11兆円、南亜科技:1,2兆円、UMC:5,850億円、力晶積成:1.086兆円)。投資計画先の9割が台湾であり、海外の新工場の立ち上げには乗り気ではない。

 サムスンは(5月13日、発表)、ソウル近郊平沢(ピョンテク)に、2兆円を投資して第3新工場を建設し、22年下半期に稼働させ、最先端半導体の受託生産とメモリーを生産する。また、2030年までに、システム半導体分野に16.5兆円投資し、TSMCを追い上げる。

 こんな時に、世界的な半導体不足が起きている。
 米中対立で、半導体の「国産化」、あるいは半導体生産の米・欧州地域への誘致の要請など生産・供給の分断が進むなか、米中を中心にコロナ後の製造業での景気が急回復し、半導体需要が急増した。一方、そんな時に、21年2月米テキサス州の寒波による停電で半導体工場が生産停止した。また3月10日、火災でルネサスエレクトロニクス(自動車用半導体、40㌨m品を生産)が生産を停止した。被災した半導体工場はすぐには再稼働できない。代わりに生産しようにも、TSMCやサムソンなど半導体受託生産企業はフル生産状態で応じられない。しかも、自動車用半導体は前世代仕様(線路幅、28㌨、40㌨、64㌨m品)で利益率の低いため、生産・供給は優先されず、そのため各自動車会社は半導体不足による長期にわたる減産を強いられる事態が生まれている。

 20年に発売されたソニーの「Playstation5」は、コロナ禍での巣ごもり需要で好評であるが、TSMCに依頼したCPUが従来の半分である月8万台程度分しか調達できないため、ゲーム機が店頭に入荷しても即時売り切れとなる状態が続いている。ゲーム機の新品価格は5万円弱であるが、ネットでは8万円前後で取引されている。
************


 TSMCは、米国アリゾナ州に5㌨品工場を誘致されているが、米政府がいくら補助金を出すか、まだ決まっておらず、計画は動き出していない。海外工場新設は、TSMCにとっては、二重に投資が必要となる。また、台湾以外では、エンジニアの人材確保きわめて困難であり、製造エンジニアの教育・訓練も長期にわたって実施しなければ量産にこぎつけない。補助金を得たとしても、結果的に長期にわたって大幅なコスト増となる。一方、各社とも半導体生産の設備投資を行っているから、23年以降は半導体が余り「設備過剰」「人員過剰」となることも考慮しなければならない。半導体は小さく軽く輸送費はかからないため、世界中に工場を分散することに、それほどメリットはないのだ。

 米国政府はTSMCを誘致したがっているが、TSMCはそれほど乗り気ではない。EUも、半導体受託生産企業(特にTSMCとサムスンを)誘致しているが、今のところ関心を示しているのはインテルのみである。

 TSMC、サムスンにとっては、売上の20~30%を占める中国企業も重要な顧客である。しかも今後、購入額が確実に増える顧客である。「台湾有事」「地政学的リスク」を持ち出して中国の顧客を放棄させ、工場誘致を迫る米・EUのやり方にTSMCもサムスンも、抵抗感を持っている。米政府は中国への対抗手段のために、半導体企業に工場分散を要求しているのだが、半導体産業にとっては「いい迷惑」なのだ。その上、上述の通り、世界的な半導体不足も起きている。

 冒頭の半導体企業の時価総額ランク(トップ5)を見ても明らかなように、中国勢は入っていない。受託生産企業は台湾のTSMCが独占的な地位を得ている。

 この状況をとらえ、凋落しつつある米国が中国の台頭を抑えるために、「半導体産業」を人質にとって、「中国への制裁」を発動しているのである。まさに「自分勝手で不法な振る舞い」というしかない。

 半導体ハイテク企業の囲い込みで中国に対抗し覇権を維持したいという米政府の戦略は、一時的に効果を挙げるだろうが、果たして長期的にみてうまくいくのかどうか。成功する見通しは、おそらくない。







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バリカタン軍事演習の意味? [フィリピンの政治経済状況]

バリカタン軍事演習の意味?


 米比の合同軍事演習「バリカタン」は4月13日から23日まで約2週間の日程で、実施された。米軍とフィリピン軍から合わせて約1,000人が参加した。1991年から行われてきた米比合同軍事演習だが、2020年はコロナで中止されていた。19年の演習では7,500人が参加しており、今回は大幅に規模を縮小した。コロナとは関係なしに、米比合同軍事演習の意義が大きく変化しつつあるようだ。
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<南シナ海>

 米政府・米軍にとっては、「対中国強硬政策」、「対中国軍事政策」の一部として、対フィリピン政策がある。「合同軍事演習バリカタン」の目的も対中国軍事政策に変わっている。

 海南島に中国の潜水艦基地があることなどから、米国は南シナ海は米中対立の最前線であると勝手に設定し、「航行の自由」作戦と称して空母群を航行させ、軍事的圧力をかけてきた。米国の最新の対中国軍事政策にとって、南シナ海のフィリピンは重要な軍事的要衝である。

 3月、米海軍は南シナ海で空母「セオドア・ルーズベルト」などによる軍事演習を行っており、立て続けに「バリカタン」も実施し、中国を牽制した。ただ、以前の「バリカタン」とは少し異なり、が少々「ぎくしゃく」している。

 フィリピンにとっては、中国との政治的経済的関係は近年ますます密接になり、これまでのように一方的に米国の同盟国であり続けるわけではなくなった。ドゥテルテ政権は20年に同国内での米軍の活動を認める「訪問軍地位協定(VFA)」を破棄すると一方的に米側へ通告し、現在は破棄を保留している状況だ。VFA破棄すれば米軍がフィリピンに駐留する根拠がなくなる。

 ただ、3月上旬から、フィリピンが排他的経済水域(EEZ)と主張する南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に、中国船が停泊を続けている。フィリピン政府は「即時退去」を繰り返し要求するが、解決の糸口は見えていない。そのためか、急遽、2021バリカタン演習を実施することにしたようだ。ただ、上述のように小規模だ。

 4月11日の米比電話会談ではオースティン米国防長官がVFAの継続を求める一方、ロレンザーナ比国防相はフィリピンが発注した米モデルナの新型コロナワクチンが早期に届くよう、協力を要請した。フィリピン政府はVFAや軍事演習の再開を米国との「交渉材料」にしている格好だ。
 軍事演習が、取引の材料に転化している。

 フィリピンにとっては、軍事面での米国との部分的な協力を通じて中国を牽制するとともに、一方で、米国から幅広い支援を引き出したい思惑がある。

 フィリピン政府は、「米中等距離外交」で臨むという方針を明確に示しており、より独立的な地位を確保しようとしているように見える。「米中等距離外交」というより、「米中天秤外交」という方がより適切かもしれない。

 その背景には、フィリピンを含む東南アジアが世界でも最も経済成長の著しい地域の一つであり、中国も米国も、さらには欧州・日本なども無視できないだろうという「自負」のようなものがある。










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三度目の「緊急事態宣言」―この一年間、何をやっていたのか? [現代日本の世相]

三度目の「緊急事態宣言」発令
---この一年間、何をやっていたのか?


1)首相、自治体首長、医療界は、この一年何をしていたのか?

 政府は、4月25日~5月11日まで、3度目の「緊急事態宣言」を発令した。
 これは同じことの繰り返しだ。2度目の緊急事態宣言を解除したのは21年3月、わずか1ヵ月でまた「緊急事態宣言」。首相、日本政府、自治体首長は予測さえしていなかった。わずか1ヵ月先が見通せない姿を見せられるのは、腹立たしい。こういう為政者を、私たちが頭の上に抱いていることが、実に腹立たしい。

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<菅義偉首相>

 首相、自治体首長、そして医療界は、この一年何をしていたのか?
 政府は、この1年間のコロナとの戦いを経て、次に予想されるシナリオを想定し、対策案をA,B,Cと用意していなければならない。なのに3度目の「緊急事態宣言」発令によって、何も用意していなかったことが暴露された。毎日の患者数に一喜一憂し、その都度「あわてて」対応しているに過ぎない。

 第4波が来れば、かならず重症病床からあふれる患者が続出し、死者が増大する。21年1月~2月に私たちが経験した。その同じことが今、目の前で繰り返されており、大阪ではすでに医療が崩壊し死者が急増している。(大阪府:4月29日の死亡者が44人と過去最多、5月1日の死亡者も41人)。

 吉村知事が自慢していた「大阪方式」はどこへ行ったのか? 

2)3月18日、解除にあたり政府が掲げた「5つの柱」

 3月18日、政府は「緊急事態宣言」を解除するにあたり、「5つの柱」を掲げた。
 「5つの柱」を、現時点での成果を点検すると下記のようになる。

①「飲食を介する感染の予防」 ⇒ 何も効果を上げていない。
②「変異型の診断を40%以上に」 ⇒ 未だ30%程度しか診断できていない。
③「積極的モニタリング」 ⇒ これもできていない、失敗。
④「ワクチンの早期接種」 ⇒ そもそもワクチンを確保できていない。
⑤「医療体制の整備」 ⇒ 準備されていない。大阪などはすでに医療崩壊している。

 宣言が解除された後、「5つの柱」のどれもできていないうちに、大感染の第4波を迎えた。

3)日本の医療がコロナに敗れている!
 感染症用病床・病棟の絶対数が足りない!
―-コロナ治療では、早期検査・早期治療を実施し、
重症化させないことが重要――


 コロナは感染してしばらくすると免疫暴走して重症化し死亡者が出る。早期にステロイド、アクテムラ、アビガンなどを処方すると軽症化することがわかってきている。「37.5℃以上の熱が4日以上続いたら(重症化したら)、初めて病院に行くこと」という当初の厚生労働省の指示は、治療としては間違っていたことが、いまでは明らかになっている。

 早期発見、早期治療で重症化させない――これが最新の知見だ。これを実行できる検査、治療体制が必要であるが、いまだに十分に確立されていない。早期に発見しても、早期に治療できなければ(入院できなくなると)、死者が急増する。今大阪府で起きているように。

 政府も東京都・大阪府も医療界も、第4波による医療崩壊と死者増大を、感染力の高い英国型変異株N501Yのせいにしているが、そうではない。早期検査・早期治療の医療態勢を準備してこなかったことが、根本の原因である。もはや「人災」だ。

 政府は何よりも効果的で効率的な医療体制を早急に再構築しなくてはならない。診療報酬の特例と国費の拠出し病床確保をめざしたのに、期待しただけの効果をあげていない。現行の診療点数による経営をベースにした医療態勢・病床の拡充・要請では、すでに対応できないことが明らかだ。

 もはや緊急事態である。災害が起きた時の対応をしなければならない。感染症用の病棟の絶対数が足りないのだから、中国政府がやったように日本政府が、重症者を集中的に治療する病床、回復期療養を担う病床、宿泊できる医療病床をもつそれぞれの病棟を、プレハブで(終息したら分解し再利用する)、東京ならオリンピック会場、大阪なら万博予定地に建て、無料で(もしくは一部無料で)診察・治療すべきだ。政府が主導し、予算を投入し設置すべきだ。医師や看護婦は自衛隊などから派遣し常駐させることが必要だ。(自衛隊は災害救助隊に再編すべきだ!)
 どうしてやらないのか?

4)コロナ対策はすでに世界で確立しているのに、
日本政府は実施していない!


 様々な経験-ー失敗、多数の死者など――を経て今、世界的に確立され、また実施されているコロナ対策は、下記の6点。

緊急事態宣言、ロックダウンなどの人の移動・接触を減らす。
PCR検査の一斉大量実施: 「抗体検査・抗原検査」とPCR検査の組み合わせによる感染者の発見
コンタクトトレーシングのアプリ: 感染者追跡アプリと迅速検査の連携による感染者発見と個別隔離
海外からの入国者の防疫態勢の厳格化
ワクチンを全国民に接種
医療態勢の構築:見つけた患者を隔離治療する感染症用病床(重症病床、中等病床、宿泊隔離病床)を政府が準備し、早期発見・早期治療を実施し重症化させない。

 日本政府、自治体のとっているのコロナ対策は、上記①~⑥のなかでだけだ。「外出自粛、マスク着用、三密回避」を、国民に要請するだけ。

②PCR検査
 簡易な「抗体検査・抗原検査」を地域ごとに広範に実施し、感染者が多いと特定した感染地域では住民全員にPCR検査を実施し、感染者を見つけ出し、隔離・治療する、特に無症状のスプレッダーを発見し隔離する。
 コロナ発生から1年以上経つのにいまだに実施しない。各国と比較しても極端に少ない。こんなことをしているのは日本だけだ。厚生労働省がPCR検査の一斉大量実施を止めている元凶だ!

 国があてにならないので、ソフトバンク、プロ野球など民間企業では自衛のため独自にPCR検査を行っている。島津製作所製の優れたPCR自動検査機は海外で活躍している。日本政府は採用しておらず稼働していない。

 その一方で、「五輪の選手には毎日PCR検査を実施する」方針が政府から出されている。日本国民にはやってこなかったし、やるべきでないと主張してきたのに。

③スマホアプリによる感染者トレーシング:
 まったく機能していない。アプリ作成を指示する厚生労働省にITの専門家がいない。業者への丸投げで、不具合が指摘されても改善しなかった。厚生労働省は責任を取らない。責任を取らされそうなのでアプリは利用しない現在の事態になっている。日本は司令塔である厚生労働省のおかげでスマホアプリを利用できていない後進国となっているのだ。

④海外からの防疫体制:
 日本は「ザル」状態。すでに英国型N501Yが神戸・大阪から入って関西圏を席巻し、さらに国内に広がり大騒ぎしている。防疫体制で失敗したことに対する反省・対策はないし、誰も指摘しないし、責任をとらない。インド株変異種の危険性は以前から指摘されてきたが、4月28日になってやっとインドからの入国者を6日間施設待機にした。これでも不十分、2週間は施設で待機してもらわなければならない。それまでは経済を優先した3日間待機だけ、しかも入国時検査はPCRよりも精度が劣る「抗原検査」のみだった。すでにインド株が入ってきているのではないか。
 誰がこんなことをやっているのか! 

 さらにはブラジル株、南ア株などの侵入も危惧されている。

 台湾、ニュージーランド、ベトナムなどの感染者の絶対数が少ないのは、厳格な入国検査を実施してきたからだ。

⑤ワクチン接種:
 ワクチン確保が他の諸国に比べ大幅に遅れ、接種率は未だ全人口の1%を超えた程度。かつ接種態勢も整っているかどうか「あやしい」。政府によれば、65歳以上への接種は、5月から始め9月までかかるという。全国民への接種が終わるのは年を越えるのは確実だ。

 したがって、ワクチン接種が全国民になされるまでは、②~④⑥を早急に実施すべきなのだが、これが一向に実行されない。日本政府は無為・無策のママ、国民は指をくわえてワクチンを待つだけ。

⑥医療態勢の整備:
 一向に進まない。政府や自治体首長は、国立病院・民間病院にベッド確保を「要請する」だけ。第4波で5月以降は死者が増えるだろう。

 大阪では重症病床が4月13日から埋まっており、重症化しても重症病床に入院できない。また、1.6万人にも及ぶ軽症患者、無症状者を「自宅療養」させているが、これは「療養」ではない。正確には「放置」だ。入院したい患者が入院できない、病院にアクセスできない、あふれているから「自宅」に「放置」する。容態が急変し死亡するケースも出ているし(大阪では、4月以降5月5日まで17人)、高い確率で家族に感染するのは当たり前だ。

 これらは日本の医療がすでに崩壊している証の一つだ。日本国民にはすでに生存権が保障されていない事態が生まれている。

 もはや緊急事態だ。これまでの医療システムに任せ、その拡充では間に合わない。災害が起きた時の対応をしなければならない。前述の通り、政府が専用病院・専用病棟を突貫で建設しなければならない。

6)政府の無策こそ問題

 上記の通り、政府の無策が問題だ

 ところが、無策をごまかすために、「第4波の感染は国民の自粛が足らないのが原因だ」と言っている。「自粛を呼びかけてきたが、できていない」と指摘する。尾身会長は「心のゆるみ」、小池都知事心の隙」論を述べている。「感染したら、自粛していない感染した者のせい、感染した奴が悪い」という理屈に誘導している。

 さらに政府・自治体・専門家分科会は、自身の無策の言い訳のためか、感染力の高い英国株N501Yのせいにしている。N501Yの侵入や感染拡大を予想し対策していなかったという反省はない。誰も責任を負わない。

 TVに出てくる専門家が少しも専門的な知見を語らない、政府の無策・政策の誤りを指摘し批判しない。N501Yがなぜ侵入したのか、責任はだれにあるのか、追及した専門家を見たことがない。一年前と同じことを繰り返している。国民をバカにしているとしか思えない。原発事故の時の「原子力学者」と同じだ。
 
7)こんな状態でオリパラをやるのか? 
  ――責任をもって決めようとしない政府・東京都――

 菅首相も小池知事も、何としてもオリパラを開催したいという野心が先にある、そのための「緊急事態宣言」だと各方面から指摘されている。実際のところ、指摘の通りなのだろう。すでにオリパラのために国民生活が振り回されている。

 世論調査によれば、国民の7~8割がオリパラの中止・延期を求めている。しかし、これが政治に反映されない。
 TVのワイドショーに出演する専門家・芸人・アナウンサーは、オリパラ開催しか言わない、国民のこの7~8割の意見を少しも反映しない。政府やスポンサーの意向にしたがって、へらへらと無責任にしゃべり、世論を誘導している。国民をバカにしている。

 4月9日、東京五輪組織委員会が、日本看護協会に対して「約500人の看護師を大会スタッフとして動員を要請」していたと、4月25日に「しんぶん赤旗」がスクープした。「参加日数は原則5日以上、早朝、深夜も含め、1シフトあたり9時間程度、無報酬」という。

 4月9日といえば、「大阪コロナ重症センター」では30床を運用するのには120人の看護師が必要であるにもかかわらず、70人しか確保できていないことが問題になっていた。そもそも、東京五輪を開催するにあたっては、期間中に医師・看護師が約1万人必要だとされてきた。それでなくても感染拡大で医療従事者の手が足りていないし、加えてこの先ワクチン接種も重なる。大阪府の医療崩壊に医師や看護婦を派遣できない現状なのに、オリパラには集めるのか? 集められるのか? 到底無理だと思われるが、政府も五輪委員会も判断しないし、責任を取ろうとしない。

 一方、ニューヨーク・タイムズは4月12日付の記事で「東京オリパラは3週間のスーパースプレダー(超感染拡大者)・イベントとなり、日本中、いや世界中に死と病を引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 現時点ではすでに、政府・東京都に対して、生存権を無視・軽視してオリパラをやるつもりなのか? という国民的なかつ世界的な問いかけが、投げつけられているのだが、これにも何もこたえない。オリパラ強行によって感染拡大と医療崩壊を起こし死者が出ても、菅首相も小池知事も組織委も責任がとれないことは、明らかなのだが。

 こんな事態だ、国民の生存権を理由にオリパラを中止しても、誰も文句は言わない。キチンとコロナ危機の実態を説明すれば世界中の誰もが納得する。

 なぜ何もしないのか、実に腹立たしい。何もしない政府、責任を取らない政府に、私たちの怒りは蓄積するばかりだ。もはや現在の事態に至ってはオリパラは中止すべきだ。何よりも国民の生存権を重視した根本的なコロナ対策の実施を求める。(2021年5月5日記)








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