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フィリピン工場火災:72名が焼き殺された [フィリピン労働運動]

フィリピン工場火災:72名が焼き殺された

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 この5月、マニラの北、ヴァレンズエラ(Valenzuela)市の工場で火災があり72名が焼け死んだ。2005年にプリモに連れられ、日系資本ミツボシ社の労働者を訪ね、ヴァレンズエラを訪れたことがある。農村地帯であるがマニラに近いので日用品を生産する工場がいくつか点在していた。ミツボシ労働者の事務所はメンバーの自宅で、庭には紐につながれた鶏がゆったりと歩いていた。
 そのヴァレンズエラで工場火災があり、72名は焼け死んだと報道されている。以下に紹介するのはガーディアンの記事。
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 フィリピン工場火災:死ぬ必要はなかった72人の労働者
 ガーディアン紙、アイリーン・ピエトロパオーリ

 サンダル工場で溶接火花が可燃性の化学製品を燃え上がらせ、72名の労働者が焼け死んだ。バングラディッシュのラナ・プラザ災害の第2回記念日だった。

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<ケンテックス社の工場火災の様子>

1)72名が焼き殺された

 5月13日、激しい炎はフィリピン首都マニラの北、ヴァレンズエラ(Valenzuela)市、ケンテックス(Kentex)社サンダル工場を襲った。45人の労働者は逃げおおせたが、72名は命を落とした。かつてフィリピンで起きた最悪の工場火災だ。
 ゴムサンダル製造に用いられる可燃性化学製品の爆発を誘発した1階の溶接作業場から火の手は上がった。目撃者は、火が建物を登ってビーチサンダルを製造していた2階を遮断した、と語った。現場を訪れ生存者と話したウォールデン・ベリョー前連邦議会議員は、1階にいた労働者だけが鍵を見つけ、施錠されたドアを開けてやっと逃げることができたと報告した。
 2階では、ほとんどの労働者は建物の後部に向って走った。しかし、一部の生存者によると、そこにはいかなる出口もなく、燃えるゴム・化学製品から出る濃い煙にまかれてしまったという。窓から逃げようとしたが、グリルカバーに阻まれた。外にいた目撃者は、姿が見えなくなるまで労働者たちがグリルを揺るがしたり叩きならしていたと報告している。
 施錠された工場で働く労働者。逃げられず火事で焼け死ぬ。繰り返される惨事。
 資本家は何のために施錠するのか! 労働者による盗難を防ぐためだという。労働者を信用していない。

2)火事の責任は誰にあるか?

 死んだ72名のうち、69人は損傷が激しく見分けがつかない。大部分の犠牲者が特定されるまでには、少なくとも1ヵ月はかかるだろう。
○ヴァレンズエラ市ホールで、工場火災の遺体バッグそばに棺桶を運んでいる.jpg
<並ぶ遺体、ヴァレンズエラ市ホールで、工場火災の遺体バッグそばに棺桶を運んでいる>

 2つの調査が進行中だ。一つは、下院によるもの、いま一つは諸機関によるタスクフォース。両方ともまだ報告書を出していない。しかし、地元NGOと労働組合はすでに目撃者と面談し、職場における労働者の健康保持と安全基準、建築と消防条例の施行にいくつか問題があったと報告している。

 工場は、地元当局から営業許可防火当局(the Bureau of Fire Protection)から防火対策認可証労働雇用省(DOLE)からコンプライアンス証明書など、さまざまな許可が必要だった。また、火事を引き起こした溶接作業の特別許可証も持っていなければならなかった。

 しかし、工場は安全手順の多くを無視していた。溶接許可証について、ケンテックス社弁護士は、「仕事は第三者によってされた」とし、「我々は第三者である彼らは仕事の専門家であり権威であることを信頼し、彼らが仕事をするためにシャッター・ドアを固定することに合意し、仕事を行う上での要求を許可した」と語り、会社責任を回避しようとしている。

3)人権かビジネスか? 責任追及はトップまで迫るだろう

 防火対策認可書? ケンテックス社は「認可書は受け取っており、そこには非常口があったと記載されている」と話したが、防火当局は決して認可書は交付していないと言う。実際のところ防火当局は7月に、ケンテックス社に警告「通知」を与えた。(我々はケンテックス社弁護士に、この明らかに矛盾する証拠について尋ねたが、彼はいまだ答えていない。)

 防火当局イアン・ルナスは、工場にはスプリンクラー・システムと警報システムはなく、消防訓練も行われておらず、消火器も配備されていなかったと指摘し、違反があったとメディアに語った。生存者は、「これまで防火訓練をしたことはない」し、「安全検査官も見たことはない」と語った。

 他方、地方自治体と政府はともに、ケンテックス社に対する防火当局の懸念は通知されなかったと言うのだ。一方、ケンテックス社は、これら証明書は完全に適合していた事実の証拠であると指摘する。

 それぞれが責任逃れに必死である。当局が取るべきだった手順は混乱しており、互いを非難し、非難ゲームは現在、より責任ある上方へゆっくり移動している。労働雇用省は2014年9月にケンテックス社に許可証を発行したが、労働雇用省ロザリンダ・バルドス長官は、今やその立場を覆し、ケンテックス社のふるまいを「うんざりだ!」「不道徳だ!」と非難している。労働雇用省はケンテックス社に対し告訴を起こすと言い、防火当局・広報官は、ケンテックス社取締役が、安全性を確保しなかった嫌疑で懲役6ヶ月から6年の刑を受ける可能性があると表明している。

 ケンテックス社も、労働雇用省も防火当局も、自身の責任を逃れることに必死なのだ。

4)原罪は、資本側に立ちビジネスを急がせる政府圧力にある
○斎場の外で、工場火災の責任を追及する集会、労働者に正義を.jpg
<斎場の外で、工場火災の責任を追及する集会、「労働者に正義を!」>


 しかし、ヨシュア・マータ(労働組合Sentro書記)は、「原罪は、資本の側に立ちビジネスを急がせる政府の圧力にある」と語る。

 他の新興国経済と同じようにフィリピン政府は、世界銀行による「取引の容易さ」評価での地位を改善したがっている。IMFと世界銀行からの規制撤廃要求だ。2010年に政府は、自治体が効果的に事業許可処理を行うように要求した覚書を発行した。ヴァレンズエラ市はこのモデルと考えられた。その実行例としてケンテックス社に対し、これまで決してありえなかったのだが、点検は将来に棚上げにし、すぐに稼働するための一時的な許可証が与えられたのである。

 Sentroと他の労働組合は、政府と地方自治体に、職場における労働者の健康の確保と安全基準を完全実施すること、違反者には罰則を与えるように、あらためて要請した。

5)会社に権限と責任がある。資本の横暴を抑えるには世界的条約が必要

 労働雇用省(DOLE)は雇用者200人未満の会社は、労働者自身が命と安全点検を行うシステムを許可した。「労働雇用省自身が、会社が重大な制裁から免れるのを許していた」

 ケンテックス社の惨事は、契約労働化と企業の強欲さに対する規制が緩和され、それを促進した政府の誤った政策によって引き起こされたのである。

 事件が起きた後、「決して再び起きてはならない」という嘆願と約束は素早くなされる。しかし、言葉だけだ、責任逃れの言葉なのだ。政府は、職場での健康保持と安全基準の厳しい実施を確実に実施すれば、火事の再発防止はできると言う。
 労働雇用省と防火当局は双方とも、適切な労働条件の確実な実施、職場の安全検査を強化する責任がある。72名の労働者の死は、経営者が改善のきっかけとしなければならない。マニュエル・ロハス長官は、消防条例をきちんと実行すると約束した。地方自治体は、防火当局と労働雇用省がヴァレンズエラ市で1,700の産業機関の共同監査を行うと発表した。
 実際に実行されるかどうかはわからない。

 ヴァレンズエラの火事は、1,100人以上の労働者が命を失ったバングラディッシュのラナ・プラザ惨事の後、バングラデシュ繊維工業で最低限の安全基準の維持のためにつくられた「火事とビル安全についてのバングラデシュ・アコード」の2回目の記念日に起きた。

 しかし、ヴァレンズエラの惨事はいまだ国内にとどまっている。ケンテックス社が、フィリピン国内市場向けのサンダルを生産しているためか、それほど国際的な注目を受けていない。しかしながらヴァレンズエラの惨事は、2012年にバングラデシュのラナ・プラザ(Rana Plaza)とタズリーン(Tazreen)工場火災での大量死と同じ危険なものだ。

6)現代の奴隷労働
○火事の後の工場.jpg
<火事の後の工場>

 「バングラディッシュで起きたラナ・プラザの教訓は生かされなかった」と、ビジネスと人権に関する国連専門調査委員会は言う。ケンテックス社とラナ・プラザの悲劇、そして他の多くの悲劇も、はっきりしたパターンを示している。資本は競争するために、必要な賃金、労働者の健康維持、安全基準の費用を削る。防火・警報設備の規制撤廃を要求する。労働者、特に女性労働者は、衣服工場での搾取的な労働条件を受け入れる以外の選択肢を持っていない。そして政府はこのようなIMF,世界銀行と資本の要求に熱心に対応する。
 これこそ原因だ。現代社会の原罪である。これを変革できるだろうか!
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