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ユーロ危機は繰り返す [2008-9世界経済恐慌]

 ユーロ危機は繰り返す

 ギリシャの大幅な債務超過に端を発した欧州ソブリン危機は、圏内の中核国であるイタリアやフランスにも飛び火し、欧州通貨統合の行方に暗い影を投げかけている。
 果たして危機終息の見通しはあるか。ユーロはドル、円とならぶ世界の通貨として市場の信認を回復できるか。
 
 1)ギリシャ危機は解決しない、ユーロ危機は繰り返される

 ギリシャ危機は債務の減免なしには解決しない、したがってユーロの危機は今後も繰り返される。7月に決まった追加支援によってもギリシャの債務問題は解決しなかった。

 「仮に金利が10%だとしても、(ギリシャは)15%程度の成長を毎年続けなくてはならず、GDP(国内総生産)の150%という債務は返せない。本質的な解決を避け、つぎはぎで対処しようとするので、いずれまた市場が荒れ、そのたびにイタリアやスペインに危機が飛び火するだろう。したがって、半年ごとに追加支援を繰り返し、問題の先送りをつづけるしかない状況にある。最終的には、債務の減免なしで解決は無理であろう。」(8月17日、国際通貨研究所の佐久間浩司・経済調査部長)。
 ギリシャ国債の価格は暴落し、金利は現在19%である。
 
 しかし、本当に問題なのは、たとえギリシャ危機が債務減免で解決したとしても、その分ユーロが債務・不良債権を抱え込むのであって、より大きなユーロ危機、ユーロ信用不安、金融機関の破綻を準備するのであり、その危機がもうすぐ先に、見えていることなのである。

 2)ギリシャ危機とは何か?

 ユーロは各国共通貨であるため、債務危機などの対外不均衡が生じた場合、ギリシャ貨幣を切り下げる為替調整機能が働かない。スペインやポルトガルも同様に、通貨が下落しないことで国際競争力を失ってしまった。さらに、2004年ごろからEUが東欧に拡大し、欧州企業の生産拠点がイベリア半島から東欧に移ってしまった。

 ギリシャでも同様の事態が繰り返された。2001年のユーロ加盟によって、実際には例えばドイツとギリシャ間には深刻な経済格差が存在するにもかかわらず、ユーロ圏であるということで、同じ通貨を共有した。強力な通貨を手にしたギリシャにおける資本調達環境は、一気に改善した。ギリシャの安価な労働力を目当てに活発な資本投資が行われ、経済は急拡大した。企業買収をおこない、生産を拡大した。いわば人為的に作り出された好条件によってバブル状態が生まれ、ギリシャ経済は急拡大した。バブルに浮かれて投資したのはギリシャ資本ばかりではない。欧州資本、特に金融資本が投資したのである。
 
 低利で調達できる資金は、ギリシャ資本主義の「高度化」に投資されることは少なかった。これまでの高金利から一挙に低金利になった。住宅需要は急速に増大し、多くの国民が住宅購入に走った。不動産、住宅への投機も同時に拡大した。多くの資金は、目先の利益を求めて不動産投資、住宅投資に流れ、住宅バブルに沸いた。欧州の金融機関はこの住宅バブルに多額の資本を投資した。

 しかし、ユーロ統合直後に生じた好条件はすぐに解消してしまった。ギリシャでの物価が上昇した、労働コストも上昇していった、そもそも低賃金を目当てに進出したから、他方で生産性の向上は遅れた。徐々に多くのメーカーがギリシャを離れ、アジアや東欧に拠点を移した。そうしてギリシャ経済が不調の兆候が出はじめたところへ、2008世界恐慌が襲った。ギリシャ経済は恐慌状態に陥り、多くのギリシャ企業が操業を停止し、逃亡し、破産した。
 不動産投資、住宅投資は焦げつきを見せはじめ、膨大な額の不良債権が姿を現し始めている。ギリシャの金融機関のみならず、欧州の銀行、金融機関はすでに膨大な不良債権を抱えている。

 他方、2009年10月に発足したパパンドレウ政権は前政権による統計数字の改ざんを暴露した。同年の財政赤字の対GDP比がそれまで公表されていた6%程度ではなく、12.7%に達していることが判明し、同国のずさんな財政実態への懸念が一気に金融市場を覆った。

 ギリシャ政府の財政破綻への懸念が拡大した、そして一挙にギリシャ国債の引き受け手がなくなり、ソブリン危機となったのである。

 住宅バブルがはじけ、企業が逃亡し、失業が増大したギリシャは、この財政危機を解決する力を失っている。財政収入が減少し、支出が増大するにもかかわらず、EUやIMFから財政再建を義務づけられた。ユーロ各国と国際通貨基金(IMF)による支援の条件として、 財政再建、すなわち、福祉予算・教育費、さらには年金を削り、公務員を削減することを求められている。

 ユーロ加盟国で初めてデフォルト(債務不履行)の瀬戸際まで追い込まれたギリシャは、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)などから第一次支援(2010年)、第二次支援(2011年)として、これまでに総額2,690億ユーロ(約30兆円)に及ぶ救済措置を受けている。第二次支援には、民間投資家の負担による債務軽減も盛り込まれた。
 その代償として、ギリシャ政府が対外公約したのは既得権益の切り捨てを含む抜本的な財政緊縮策である。そのツケは様々な形で市民生活に目に見える打撃を及ぼしている。

 3)ギリシャ危機はギリシャにとどまらない

 ギリシャ危機はギリシャにとどまらなかった。まっすぐにユーロ体制の危機へと進んだのである。ドイツを始めとするユーロ圏各国と国際通貨基金(IMF)による度重なる支援にもかかわらず、ギリシャ危機のマグマは衰えていない。むしろ、イタリア、スペイン、そしてフランスなど他の域内諸国に対する市場不安を誘発、単一通貨ユーロを足元から脅かし続けている。なぜならば、ギリシャに起きた住宅バブルは、同じように、東欧諸国でも、スペイン、イタリアでも同時に進行したてきたからである。そのバブルに欧州の主要な金融機関が投資し、莫大な不良債権を抱えているからである。ギリシャ危機は欧州バブル崩壊の先陣を切っているとみなしてさしつかえない。

 ユーロ体制は、「経済格差のある域内諸国間の亀裂」となって紛糾しはじめている。この亀裂は、修復可能なのか。欧州通貨統合の厳しい未来を暗示している。「ユーロ」は現在、最大の危機に直面している。
 「域内諸国間の亀裂」として現れているのは、欧州でのバブル崩壊、世界恐慌による損を誰が負担するのか、誰が没落するのか、をめぐった争いと見るのが、もっとも的確なのであろう。
   
 4)アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアへの危機の転回、即ユーロの危機

 ギリシャと同様に大幅な財政赤字を抱えるアイルランド、ポルトガル、スペインの国債はすでに格下げされ、イタリアの国債も同様の不安にさらされている。
 さらに、8月半ばには、ドイツと並ぶユーロの牽引役であるフランスに対しても「トリプルA」格付けを失うのではないかという懸念が市場に拡大。サルコジ大統領が静養先の海辺から引き返して新たな財政緊縮策を取りまとめる事態となった。

 この余波で、こうした国々の国債を保有している欧州各国の銀行株が急落、フランスのソシエテ・ジェネラルが一時22%も下落するなど、リーマン・ショック以来ともいえる混乱が起きた。
 株価急落を阻止するため、フランスは8月12日、イタリア、ベルギー、スペインとともに金融株に対する空売り規制を導入。ドイツも欧州全体で株式、国債、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)に対するネーキッド・ショートセリング(現物手当てのない空売り)禁止を呼び掛けた。   

 さらに、欧州中央銀行(ECB)は8月15日、ユーロ参加国の国債を12日までの1週間に220億ユーロ(約2兆4000億円)買い入れたと発表した。これは昨年5月の買い入れ開始以来、1週間の購入額としては最大規模で、ソブリン危機拡大に対するECBの切迫感が浮き彫りになった。
 ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアの危機は、決して各国の孤立した危機ではなく、即ユーロの危機なのである。

 欧州を覆う投機マネーの動きや景況感の悪化の背景にあるのは、2008世界恐慌による金融危機、これに続く過剰生産恐慌に対し、各国政府は公的資金の注入し、とりあえず目の前に迫った恐慌の衝撃を緩和させた。そのことは、莫大な損を国家財政に付け替えただけであって、財政危機の顕在化によるソブリン危機へと爆発の「場所」、形態を変えただけであった。現在の過程は国債の価格低下、格下げから、信用不安へと進み、とくに財政基盤の弱いギリシャが、欧州を覆う投機マネーの攻撃を受けている。

 ギリシャ危機を抑えるには、ECBの追加支援、もしくは債務減免しかありえない。ECBはさらに各国の国債を購入せざるを得なくなるだろう。いずれにせよそのことは、不良債権をユーロが抱え込むこと、またもやより大きな損のつけかえであって、ユーロの財政基盤を弱くするだけである。しまいにはユーロ自身の信用不安を引き起こす。

 実際のところ、ユーロ危機こそ誰もが恐れている。ギリシャ「支援」とは、文字通り「弥縫策」である。モグラたたきのごとく次の犠牲を求めて、マネーは徘徊する。恐慌は2008年以降、「損のつけ替え」で爆発の機会を繰り延べされた。繰り延べは恐慌の爆発力をより高めたようである。いまや、恐慌による暴力的な調整しか選択はなくなりつつあるように見える。 

 欧州ソブリン危機の連鎖に加え、8月に入り欧州圏の景況も再び減速モードに入っている。欧州ばかりか世界同時株安、景気後退局面に入りつつある。
 ユーロ危機の拡大は、世界恐慌からの「回復過程」から明らかな減速モードに入ったことを表現している。世界恐慌からの「回復過程」は、本当の回復ではなく、財政危機を人質にした爆発までの時間稼ぎであったようである。

 欧州連合(EU)統計局が8月16日に発表した第2・四半期のユーロ圏域内総生産(GDP)は、ドイツの景気低迷やフランスのゼロ成長を反映し、市場予想より低い前期比0.2%、前年比1.7%の伸び(速報値)にとどまった。最大の押し下げ要因になったのは、貿易収支の悪化や消費の落ち込み、建設投資の不振で2009年第1・四半期以来の低成長となったドイツ経済の低迷である。

 このままユーロの信認維持は難しい状況にある。ユーロ各国間の対立はより深まり、ユーロ体制の動揺とひび割れを大きくしている。どう修復するか。圏内の亀裂が深まれば深まるほど、盟主を自任するドイツとフランスには、そうした難題が重くのしかかる。

 「ドイツとフランスは、共通通貨としてのユーロを強化し、一段と発展させる義務を絶対的に感じている。そのためにユーロ圏の金融・経済政策の連携強化が必要であることは明らかだ」。ドイツのメルケル首相は8月16日に行ったサルコジ仏大統領との独仏首脳会談の後、こう語って、ユーロ動揺への危機感をあらわにした。

 しかし、現状打開の決め手はない。恐慌が勃発しないように、その場限りの「弥縫策」をとり続けるしかない。2008年世界恐慌勃発時には、財政支援政策を実施する余地はあったが、2011年夏にはその余地はすでにない。それどころか、対処したことによってもたらされた財政危機が、今度は新たな引き金になりそうである。

 息を殺して、恐慌による暴力的な調整を待つばかりである。

 ユーロ危機は繰り返す。世界的な金融危機・金融恐慌として繰り返す。(文責:小林治郎吉)

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