SSブログ

欧米金融危機の懸念から、世界経済危機の様相 [2008-9世界経済恐慌]

 欧米金融危機の懸念から、世界経済危機の様相 

ドルの低下は、米国の地位の低下

 この夏、世界経済危機は新たな、深刻な様相を呈している。

 1)米政府、10年間で2兆ドルの歳出削減 

 米連邦債務の上限引き上げ問題は、期限の8月2日に迫るなかでギリギリの決着にこぎ着け、デフォルト(債務不履行)の懸念はひとまず消えたことになった。しかし、その一方で、米国は今後10年間で2兆ドル規模の歳出削減を実施することになり、緊縮財政が義務付けられ、米政府当局者にとって選択肢はなくなった。景気高揚策としての財政政策を採ることはできなくなった。

 歳出削減額は米連邦債務の上限である14.3兆ドルと比較すれば約17%と、きわめて大きい。日本に当てはめれば一般会計予算の2年分、税収の4年分以上に相当する。
 米連邦債務の上限引き上げ問題で繰り返された2012年大統領選を想定した共和党からの攻撃に対し、オバマ政権・米政府は、対応能力の欠如を露呈し、世界の投資家を一斉に不安にさせた。

 2)スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が発表した米国債の格下げ

 8月5日、スタンダード&プアーズ(S&P)による米国債の格下げを受け、世界の投資家が一斉にリスク削減に動いた。担保価値の低下による半ば強制的なリスク削減に加え、投資家は格下げによる負の連鎖が今後も続くことを警戒している。
 S&Pは8月8日、米国債に続き、米政府系住宅金融機関(GSE)の連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)と連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)の長期格付けも一段階引き下げた。
 スタンダード&プアーズ(S&P)による米国債の格下げをきっかけとして、欧米債務問題の早期解決に対する悲観的見方の広がり、景気の二番底に対する懸念が広がり、投資家はリスク資産から一斉に資金を引き揚げ、欧米株安、世界同時株安となった。
 しかし、スタンダード&プアーズ(S&P)による米国債の格下げは、あくまで「きっかけ」であって原因ではない。たとえ格下げがなくとも、遅かれ早かれ債務問題への不安、金融不安から世界同時株安に至っただろう。

 3)8月の世界同時株安は、欧米債務問題・金融システム不安から来ている

 投資家心理悪化のきっかけとなったのは、5日スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による米国債の格下げ、ユーロ圏の債務危機への懸念から、米経済の悪化が景気の二番底を招くとの懸念が広がり、これに追い打ちをかけた。
 8月8日、世界の株式市場は、欧州と米国の債務問題の早期解決に対する悲観的見方の広がりや、景気の二番底に対する懸念で急落した。主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁による声明も市場の鎮静化には至らなかった。
 8月19日現在、ダウ工業株30種は8月に入ってからは13.1%下落した。
 この日アジアから始まった株価の下落は欧州でも続き、米市場で一層加速。2008年12月1日以来の大幅な下落率となった。 
 世界の株式市場では、過去8日間の下落で3兆8000億ドル以上が失われ、行き場のなくなった資金はスイスフランと円、金に向かう展開となった。
 米株市場でバンク・オブ・アメリカが20%下落するなど金融株の下げが厳しい。米国では住宅、商業用地ともに価格が下げ止まらず、不良債権の処理は終わっていない。雇用も目立って改善せず、消費拡大は見込めそうもない。

 今回の世界株安は欧米債務問題に金融システム不安が複合的に絡んで起きている。抜本的な問題解決は期待できそうにない。
 世界の投資家は、いっせいにリスク回避し、リスク・ポジションの解消を続けている。新興国への投資も引き揚げざるを得なくなり、新興国株価も一斉に下落した。その結果、世界的な株安の連鎖が止まらない。

 4)ECBの国債購入の効果は一時的、G7声明の主要ターゲットは米欧短期金融市場

 米国債格下げは、住宅ローン担保証券(MBS)の信用にも影響し、MBSを担保にした短期資金のやり取りが円滑に進むのかはっきりしない。
 G7声明で「今後数週間緊密に連絡を取り、適切に対応し、金融市場の安定と流動性を確保するための行動を取る準備がある」としている主なターゲットは、ドル/円相場ではなく、まず第一に米短期金融市場、第二に欧州短期市場であろう。

 欧州では、ECBが行ったイタリア・スペイン国債の買い入れの規模は約20億ユーロ。両国の国債利回りは急低下し一定の効果はあった。ただフランス国債の保証コストとなるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は160ベーシスポイント(bp)に拡大し、過去最高水準となった。米格下げを受け、フランスなど他の最上級格付国が今後どれだけ格付けを維持できるか、懸念が広がった。
 
 イタリアの国債市場規模は大きく、ECBの動きは一時的な解決策にすぎない。ユーロ圏債務危機や景気への影響への政府の対応能力を疑問視する見方に押された。

 欧州中央銀行(ECB)はイタリアとスペインの国債購入に乗り出したものの、長期的な救済策への懸念の払しょくには至らなかった。
 要するに、ECBの国債購入の効果はあくまで一時的であって、期待した効果は生まなかったということになる。
 
 5)米政府にはすでに打開策がない

 米国では債務上限引き上げの前提として緊縮財政をコミットする政治決着をはかったため、財政面での景気刺激は不可能に近い。昨年発動された量的緩和第2弾(QE2)は世界的な資源価格、商品市況の高騰をもたらし、確かに米株価を高騰させた。しかし、それは副作用が大きかった。新興国では物価上昇が止まらない。アジアでは不動産価格の上昇を招き、ガソリン価格や食料品価格も高騰した。インフレ制御に苦しんでいる。そうした犠牲のもとで米国は株価を上昇させたが、その上昇分もすでに吹き飛んでいる。QE2の効果はその程度に限定的だった上に、いっそうの金融不安を呼び起こしてしまった。量的緩和第3弾(QE3)を発動する状況にはない。

 米国ではオバマ大統領が財政赤字に対する迅速な行動を呼びかけたが、税金に関する提案が野党共和党の反発を招いた。大統領は、米国債の格下げで財政赤字削減の緊急性が増したと強調し、議会の特別委員会が11月に提案する財政赤字削減策の内容の一部として、増税と社会保障プログラムの見直しを求めたが、共和党のベイナー下院議長はこれを拒否する姿勢を示した。

 市場では、欧米の政治面での障害が迅速な財政改革を阻むとの見方が広がっており、解決策の選択肢が限られて本格的な支援は期待できないとの悲観的見方が強い。「債務増大や景気減速の問題に米政府は対処できない」との判断が広がった。市場は単に米国景気を懸念しているのではなく、恐慌に陥った際の対応策がないことを懸念している

 2008世界恐慌以降、政府による大規模な経済対策が消費意欲を刺激し、雇用の悪化にかかわらず小売りだけが2008年恐慌前の水準を超えてきた。財政出動バブルと言っていい。そのうえでこの3年間で余分に増加した米政府債務は約3兆ドルで、小売売上高がかさ上げされた分の累積値を試算すると1.5兆ドルとなり、政府支出の約半分が消費に回った格好となっている。今後、緊縮財政が実施されれば、このかさ上げされた消費のかなりの部分が失われていくことになっていくであろう。

 ドルの低下は、米国の地位の低下

 米国の地位低下が顕著となり、基軸通貨国というよりは、西側の大国の1つに成り下がったという現実が大きい。米国内では大統領のリーダーシップが低下し、安全保障やG7の枠組みにおいても、米国主導で物事が決まらなくなっている。米国が作った格付けルールの中で、米国自身が格下げされ、座標軸の真ん中が無くなった。
 市場は、スタンダード&プアーズ(S&P)による米国債の格下げを、米国自身の格下げと受け取ったのである。
 世界経済の構造変化を感じさせる。

6)世界同時株安に具体策なし

 8月26日、米連邦準備理事会(FRB)バーナンキ議長は、量的緩和第3弾(QE3)実施を表明しなかった。たとえに今後追加してQE3が実施されたとしても、世界景気が急減速する事態を防ぐ特効薬にはならない。
 米国では景気減速懸念が強まる一方、政府債務上限問題で財政支出がしにくくなっており、追加金融緩和(QE3)しかとりあえず採る方法は残されていない。しかし、そのQE3が導入されたとしても資源価格・商品市況が活況となるだけであって、根本的な解決には至らない。それどころかいっそうのドル安円高へと導き、インフレの危険性も準備する。
 そうなれば、米市場の金融機能不全を材料にドル安と株安が進行するリスクが拡大するような事態を招くであろう。
 八方手詰まりの状況にある。

 今、市場が懸念を強めているのは、2008年8月の世界恐慌後の「バブル崩壊」を、財政・金融の“大盤振る舞い”で対処したものの、結果的に米国を中心に経済は健全化する方向に行かず、財政・金融政策の刺戟効果がなくなると、再び、低成長軌道に戻ってしまったのではないかという点である。

 3年前には米国はじめ欧州各国に財政出動の余力があったが、今はその余力がほとんどない。危機対応力の低下したG7各国が、これから来る景気後退リスクを乗り越える余力を残していないのである。
 具体策を持っていない。打開策がない。(文責:小林 治郎吉)
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。