SSブログ

「田中さんはラジオ体操をしない」を観る [映画・演劇の感想]

 「田中さんはラジオ体操をしない」 

 沖電気による不当解雇を闘いつづけている田中哲郎さんを描いた映画。オーストラリアのマリー・デロフスキー監督 2009年作品。
コピー ~ 110528 「田中さんはラジオ体操をしない」001.jpg
<映画のチラシから>

  どうして田中さんは解雇されたのか?
 NTT民営化したころ、NTT関連企業であった沖電気にもその影響は及び、NTTから社長を迎え大幅な合理化・人員整理をおこなった。その経営方針を強引に進めるため、社員すべてに有無を言わさず会社に従わせる職場に変えてしまった。ラジオ体操もその踏み絵の一つで、始業時間前のラジオ体操に全員参加を強要する。時間外だから何の義務もない。にもかかわらず、ラジオ体操を拒否する者は会社の意向に従わない奴として、差別しいじめて、仕事から会社から排除する。このような人権侵害、不当労働行為を沖電気は堂々はやってきたのだ。しかもいまだに反省さえしていない。
 田中さんは解雇された。それ以来毎朝、門前で抗議行動をしている。

 日常を淡々と描く
 そんな背景があるのだけれど、映画はむしろ淡々とした描写を重ねている。描き出しているのは、門前での抗議行動を含めた田中哲郎さんの毎日の生活であり、家族であり、まわりの人たちとの日常である。田中さんの家族も映し出す、「テッちゃんは頑固だからぁー」という田中さんへの信頼が読みとれるお母さん(義母)の表情がいい、一見して実直なことかわかる。奥さんもどちらかというと楽天的な感じ。田中さんが引っ張っているところはあるようだけれど、描かれている家族のつながりがいい。
 要するに、映画は田中哲郎とはどんな人かを周りの人たちとのつながりを通して描き出そうとしている。そうして彼が、おおいに頑固だけれど、いかに人間的で思いやりのある魅力的な日本人の一人であるかを描き出しているのである。
 映画のよさは、こんな田中さんの描写を通じて、日本の民主主義が毎日どのように支えられ守られているか、奮闘しているかを、生きた姿で描き出しているところにある。
 よく見てくれ!こんな日本人もいるんだぞ! 世界の人々に向かって叫びたい気持になる。

 民主主義にも命がある!
 民主主義だって命があるのであって、毎日エネルギーを得なければ生き続けることはできない。多くのいろんな人の継続した努力によって生命をつないでいることを、この映画は教えてくれる。
 田中哲郎さんは言う。「僕は難しいことは何もやっていない、僕の主張し行動しているのは簡単な当たり前のこと。おかしいことをおかしいと言いつづけてきただけ。」もちろんそんな簡単なことではないけれど、こんなふうにいう田中さんがいい、本当に魅力的だ。高尾の地で日本の民主主義に新しいエネルギーを毎日注いでいる。

 いつしか日本の民主主義は、会社の門の前で眠り込んでしまうようになった。門の中では民主主義はなかなか棲息できない。会社は、個々の労働者に「全人格的なコミットメントを要求し続ける」(田畑稔)。全人格をもって会社業務に関与することを求め続ける。そうすると、一つ一つの行動を通じて、一段階一段階、その人の考えが変わり会社人間ができあがってきて、その分だけ民主主義が居場所をなくすのだ。

 高尾の沖電気正門前の電柱に、田中哲郎さんはお金を払って広告看板を取りつけている。「いじめなどよろず相談に応じます」。それを指さし田中さんは言う。「ここは僕の暮らしている場です。ここで暮らしているんです。」これも美しいいいシーンだ。
 田中哲郎さんの民主主義は、まっすぐな電柱よりもまっすぐに立っている。門をはいるときに沖電気の社員一人一人の民主主義が、萎縮しないように、眠りこまないように、毎朝背中を押しているのだ。
 
 人らしく生きよう!
 田中さんのまわりにはいろんな人が集まってくる。根津公子さんもその一人だそうで、「君が代」斉唱で起立を拒否した先生である。最近は学校でも校門を過ぎると民主主義が眠らされることになった。根津さんは、出勤停止処分とされた時、田中さんにならって門前に立つことにしたと言う。田中さんの民主主義はスクっと立っているので「伝染する」人もいると、これまたスクっと立っている(卒業式では立ち上がらない)根津さんが言うのだ。このような人のつながりがいい、その描写がいい。 

 新宿Ks Cinemaで7月2日から上映されている。 (文責;児玉繁信)
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。