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フィリピン・マギンダナオ州で57人大量殺人 [フィリピンで政治的暗殺が横行]

マギンダナオ州、政争絡みで57人もの大量殺害

1)ミンダナオで、57人もの大量殺害事件発生
 毎日新聞マニラ発のいくつかの記事によれば、11月23日午前、フィリピン南部ミンダナオ島マギンダナオ州で知事候補の親族、ジャーナリストら57人が政争絡みで殺害される事件が発生した。来年5月の州知事選の立候補届け出に向かっていた車列が、100人以上の武装グループに襲われた。車列には候補者の妻ら親族のほかジャーナリストも同乗。犠牲者57人のうち、少なくとも20人以上は地元記者とみられている。
 マギンダナオ州知事など州の要職を長年親族で独占してきたアンパトゥアン一族が、来年5月の知事選に身内から候補者を出した地元有力者マグダダト一族を襲撃した。殺害事件には警察官も関与したとされている。両者の争いは数十年間も続いており、「出馬をめぐる話し合いが決裂した結果、今回の事件が起きた」(地元有力者)。この地域ではイスラム反政府勢力と政府の紛争が40年以上続いており、銃の所持は事実上、野放し状態。
 国軍と国家警察は12月7日までに、殺人や反乱の疑いで一族のリーダーで州知事を3期務めたアンダル・アンパトワン氏のほか、息子の現州知事ら62人の身柄を拘束。一族の敷地などから自動小銃や迫撃砲など883丁の武器と、約43万発の銃弾を押収した。国軍や国家警察から横流しされた武器も確認された。

2)大量殺人したアンパトゥアン一族とは?
 アンパトゥアン一族は、ミンダナオ島マギンダナオ州知事や同州を含むイスラム自治区知事など数多くの要職を独占している地方のボス政治家一族。選挙でも、票を取りまとめ、時には投票結果の操作もおこなう。
 2004年大統領選でアロヨは、マギンダナオ州イスラム自治区内で不自然なほど大量に得票し、票操作が疑われた。劣勢だったアロヨ大統領は同州で、対立候補の3倍以上の票を獲得した。このため、大統領はアンパトゥアン一族に借りがあるとみられている。その見返りに膨大な政府予算を投下するなど、アロヨ政権とアンパトゥアン一族とは、緊密な関係にあった。アロヨ政権の支持基盤の一つが、この地方のボス政治家たちである。
 アンパトゥアン一族の勢力拡大には、アロヨ政権のあと押しもあった。フィリピン大学イスラム研究所のワディ代表は、「イスラム反政府勢力を抑え込むため、歴代政権は同じイスラム教徒の地元有力者を懐柔し、政府の盾として使っていた」と話す。アロヨ政権はその見返りに、イスラム地元有力者が支配する地域に膨大な政府予算を投入。結果的に有力者の影響力増大に「加担」してきたという。実際、同州の町長の大半はアンパトゥアン一族で、逮捕された州警察本部の幹部も一族が事実上、任命していた。アンパトゥアン一族の強大な権限は地元警察や裁判官にも及んでいる。警察や検察、裁判所がグルなので、選挙違反しても決して摘発されることはない。
 政治的殺害もやり放題である。アンパトゥアン一族は、4,000人もの私兵団を持ち、軍から横流しされた武器で装備していた。今回の事件は地方有力者の支配実態をも浮かび上がらせた。
 ただ、殺害された対立候補のマグダダト一族もアロヨ大統領と良好な関係にあり、隣接州の州知事などを務めている。このため、大統領が今回、アンパトゥアン一族の排除を決断したことについて、政府関係者やマギンダナオ州の有力者は「排除しても、失うものはないと判断したようだ」と説明する。
 すなわち、アンパトゥアン一族を排除しても、別のアンパトゥアン一族がうまれてくるということだ。
 アンパトゥアン一族は、例外というより地方のフィリピン社会のどこにでも存在するボス政治家一族であり、このような構図はフィリピン社会各地に存在する。そしてアロヨ政権は、そのようなボス政治家たちの支持のもとに成立しているし、彼らと利益を分け合う「連合」政権でもある。アロヨはアンパトゥアン一族と同類の政治家であり、彼らの親分筋に当たる。

3) ミンダナオで起きた理由
 ミンダナオ島では、歴代のフィリピン政権はキリスト教徒の政治家や協力的なイスラム教徒の一族を支援して、先住のイスラムの人たちを追いつめ、入植・開発してきた歴史がある。他方、イスラム反政府勢力を抑え込むため、歴代政権は同じイスラム教徒の地元有力者を懐柔し、政府の盾として使ってきた。ボス政治家一族は、私兵を組織し武装し、フィリピン政府と国軍、警察の支援を受けて、地域の支配者になっていった。40年以上続くイスラム反政府勢力と政府軍の紛争を背景に、「自衛」名目の私兵を抱える一族が、反政府勢力に対する中央政府の「盾」として権勢を振るってきた実態が浮かびあがる。
 現代においては、外国政府・外国資本と結びついた「自然資源の開発」、ODAとも結びついている。この開発において、地方の支配者であることは利益をもたらす地位なのであり、大量殺人をしてまでもまもるべき利害と地位なのである。

4)72年以来、戒厳令の発令
 政府機能が失われる事態に発展し、フィリピン政府は12月4日、戒厳令を布告した。これによって同州知事など要職を占めるアンパトワン一族を逮捕状なしで拘束できるようになった。また、行政機関もすべて国軍の統制下に置かれた。国軍と国家警察は4日、アンパトワン一族の自宅などを捜索し、迫撃砲や機関銃など大量の武器を押収した。
 事件発生以降、地元の裁判官がアンパトワン一族から脅迫を受け、逮捕状の発行などができない状態になっていた。また、一族の支配下にあった行政、警察機関などの業務が停止状態になっていた。
 政府は事件直後の11月24日、同州などに非常事態宣言を発令していた。戒厳令布告後は、同州に国軍が本格展開。事件の首謀者とされる知事一族の私兵約4,000人の投降などを求めた。知事一族側の逮捕や武装解除が進んだことなどを踏まえ、12日戒厳令解除を決めた。
 地域限定とはいえ、マルコス長期独裁政権下の1972年以来の戒厳令に対し、アキノ元大統領の長男ベニグノ・アキノ上院議員、ビリヤール上院議員ら次期大統領選の有力候補者らは「既に出されている非常事態宣言で十分対応でき、戒厳令は過剰対応だ」と批判の声を上げた。戒厳令は、アロヨ氏と州知事一族は親密な関係を隠し、「前回大統領選での不正疑惑など、不利な証拠が出るのをもみ消すためではないか」と指摘する声もある。

5)アロヨ政権の国内テロ支配体制こそ、その原因
 アロヨ政権下では政府に批判的な活動家やジャーナリストが殺される「政治的殺害」と呼ばれる事件が頻発。国軍や警察の関与がささやかれるが、事件が解明されることはほとんどない。
 「有力者は罪を犯しても罰を受けない」という風潮がフィリピン社会に広がっている。アンパトゥアン一族が白昼堂々と多数を殺害する事件を起こしたのは、こうした権力の暴走でもある。
 アロヨ政権の「政治的殺害」の放置、というより積極的推進し利用してきたその結果でもある。ミンダナオ支配のために、州知事ファミリーら有力政治家に国軍から武器・弾薬を提供し、「武装」させ、支配をさせてきた。3,000人もの私兵集団=準軍事組織を維持するまで、大きく育ててしまい、今回の事件を引き起こしたのである。ここまで無法が広がった根本的な原因は、アロヨ政権が自らの権力維持やイスラム武装勢力との戦いに、私兵集団を持つ地元ボスを利用してきたその支配システムにある。
 アロヨ政権のこの国内テロ支配体制こそ原因であり、国内テロ支配体制をこそやめさせなければならないのである。

 しかし同時に、アロヨ政権と州知事ファミリーらの関係とまるで相似形をなして、アメリカ政府・日本政府とアロヨ政権の関係が存立していることもまた、わたしたちは忘れてはならない。
 この無法な支配システムが生きて育つ「エネルギー」をあたえているのは、ODA であり、資本主義的資源開発なのである。(文責:玉)

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