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日本企業:[垂直統合システムの崩壊 [現代日本の世相]

日本企業:垂直統合システムの崩壊

 TVドラマ、『陸王』や『マチ工場の女』が流行るのはどうしてか?

1)ルネサス・エレクトロニクスの「小さな復活」

 12月22日の日経新聞によれば、経営不振に陥っていたルネサス・エレクトロニクスが復活してきたという。半導体製造受託の世界最大手・台湾積体電路製造(以下:TSMC)との連携によって、半導体の設計・開発に特化し、巨額の製造設備投資から自由になったことがその要因であり、日本企業の生き残る一つの道であろうと書いている。

 TSMCは、1987年設立。半導体製造に「受託生産」という「分業」を持ち込み、世界に浸透した。半導体の製造設備投資には巨額の資金が必要であり、その設備投資リスクを分散したい半導体開発会社に必要とされ、世界最大手の半導体製造受託会社となった。

2) 日本的「垂直統合」システム

 1970年~1990年代にかけて、日本の電機産業は、傘下に必ずしも資本関係のない下請け、部品会社、外注などの諸会社を組織したピラミッド型「垂直統合」システムで世界市場を支配してきた。「垂直統合」ピラミッドの頂点には、日本の電機独占企業が君臨した。コアの「要素技術」、「コア部品」の開発・生産は独占企業が担いながら、それ以外の部品や組み立ては「垂直統合」内の子会社や外注、下請け、部品会社、製造下請けに移管することで、生産を拡大し、またコスト削減も同時に実現してきた。またすぐれた「製造技術」を「垂直統合」の内部で磨き、蓄積していった。この「垂直統合」は低賃金の利用形態でもあり、ピラミッドの裾野は国境を越えて海外にまで広がった。産業の「垂直統合」への組織化のなかで日本の電機独占企業は支配者でいることができ、利益の大きな部分を手にすることができた。

 「垂直統合」の日本型生産システムは、決して一朝一夕にできあがったものではない。資本蓄積が極めて乏しかった、遅れて出発した資本主義であった日本の企業が長年にわたってつくりあげてきたものだった。

 戦前からの日本企業が戦ったのは、当時の先進の生産方式である「テイラー・システム」、「フォード生産方式」である。生産の上流に当たる製鉄工場から鉄板圧延、プレス、ゴム工場、タイヤ工場、ガラス工場・・・すべてに巨額の投資をし、あらゆる部品を集め組立て、数分間に1台のT型フォード生産を実現した。機械的大工業であり、品質も安定し、大量生産できた極めて合理的な生産方式だった。

 資本蓄積が極めて乏しかった日本企業は、必要な投資ができず、これをまねすることはできず、下請け・外注に似た部品をつくらせた。しかし、手工業がベースのため材質も悪く、品質も安定せず不良も多く、大量生産もできない。一つの例は、明治38年開発された38歩兵銃である。性能の劣る単発のこの銃を、第二次世界大戦まで採用し続けたのは、機械製大工業で生産するための巨大投資ができず、数々の手工業下請けで生産するしかなく、そこでは38歩兵銃しかつくれなかったからである。
 
 資本関係のない下請け・外注の利用は「垂直統合システム」の原型である。階層構造、支配―被支配の関係があり、下請け、外注化は低賃金の利用形態でもあった。ただし、品質の悪さ、不揃いには長年苦しんだ。長年にわたって金をかけず「人の工夫」、労務管理によって品質改善運動を実現しようとしてきた。不揃い部品をやめ、部品標準化も進めた。QC運動、「カイゼン」はその過程で生まれた。看板方式=トヨタ生産システムはここに源流がある。

 「垂直統合システム」は投資額をそもそも節約するため、市場の急激な変化、製品の急速な革新にも、「耐性」があった。実のところ、「損」を外注、下請けに押し付けることもあった。

 このようにして戦後日本の電機産業、自動車産業は、低価格で高品質の商品を世界市場に提供し、「テーラー・システム、フォード生産方式」を駆逐した。そして、日本の「垂直生産システム」は世界を席巻した。

3)「受託生産分業」が「垂直統合」を破壊した

 「垂直統合」をつくり上げた電気独占企業の支配者であり続けた「強み」は、具体的には「要素技術」と「製造技術」にあった。

 半導体は電機産業にとって、最も大切な「要素技術」の一つであり、簡単に資本関係のない下請けや外注に任せることはできない部品だった。大切な要素技術を外に出せば、ライバルをつくることになる。

 半導体市場では、ピラミッドの頂点にいる電機独占企業が当初開発で先行し初期の部品調達、生産、販売を統合内で行い世界市場を支配した。ただ、半導体生産は、製造設備投資が巨額に上るとともに、製品の世代交代も早く、それに伴い製造設備の世代交代も頻繁に実施し続けなければならない産業に変化していった。

 半導体製造の設備投資は巨額の資本が必要となったし、製品の世代交代に伴い製造設備の更新も頻繁に実施しなくてはならなかった。将来の製品動向を見て、巨額の投資を常に繰り返し実行しなければならない。

 日本の半導体開発・製造企業は、1980年代当時数社で世界市場を独占しており、数社それぞれが巨額な設備投資を繰り返した。しかし、勝者はそのうちの一社か二社であり、それ以外は敗者となった。半導体産業はその成長と共に「勝者総取り」の「ハイリスク、ハイリターン」産業に変質していった。結局、電機会社がそれぞれ半導体開発から部品調達、製造まで自前で手がけるのは、極めて「非効率」な事業に変わってしまったのである。

 ひとつの典型例は、NAND型フラッシュメモリーだ。これこそ、巨額の設備投資を行う「ハイリスク、ハイリターン」事業だ。現在、これを生産しているのは、世界でサムソン、東芝、SKハイニックス、ウエスタン・デジタル(WD)の数社。t当初、開発した東芝以外の日本の電機会社はとうの昔に撤退した。

 液晶TV用の液晶パネル生産でも同じようなことが起こった。安くて品質のいい液晶パネルをいかに早く生産・供給する競争で先行した者が一人勝ちをする。サムソンとシャープの戦いは、サムソンの勝利で決着がついた。

 電機独占企業の「強み」は、半導体や液晶などの「要素技術」ばかりではない、優れた「製造技術」にあった。しかし、電気産業が発展していくに従い、一部の部品の外部化、「製造委託」が徐々に広がった。それに並行し、電機産業では製造コストの削減、品質の安定のために、長い時間をかけて「部品の標準化」と「生産の標準化・自動化」を進めてきた。

 「生産の自動化・部品の標準化」の一つは、チップマウンターによる部品装着組み立てを実現できるようになったことである。携帯電話など分解してみればわかるが、虫の卵のような小さな部品(=チップ部品)が基盤にいっぱいくっついている。部品会社は同一形状の標準化された部品を供給し、電機会社はチップマウンターでチップ部品を自動で装着し組立てている。

 「部品の標準化」と「生産の自動化・標準化」が進んだ結果、製造におけるノウハウが自動生産設備に徐々に組み込まれていった。製造のノウハウが秘密ではなくなった。チップマウンターは市場で販売され、そのことで「製造組立受託」の分業が生まれることになる。当初は、子会社に組み立てをやらせた。その次の段階では、「製造請負企業」が出現した。大量に受託生産すれば、購入部品・材料も多くなるのでより安く部品・材料を購入できる。自動組立機械に巨額の投資を行い、より多く生産受注した受注組立企業がさらに受注を得る「ハイリスク、ハイリターン」の市場が生まれた。鴻海精密工業のようなEMSの出現である。

 半導体製造でも、受託生産企業が現れた。上記のTSMCである。半導体製造に「受託生産」という「分業」(=「新しいやり方」)を持ち込み、その後世界に浸透した。巨額で機敏な製造設備に伴う「リスク」を引き受けることで、依頼が集中し事業が急速に拡大浸透した。半導体の開発では開発費だけを負担すればいいことになり、ベンチャー企業を含め多くの半導体開発会社が生まれた。TSMCは日本企業ばかりでなく、世界中の開発会社から、製造を請け負うようになった。最もたくさん請け負って製造したところが、巨額な設備投資を回収し、さらに利益を上げ勝者になる。競争を勝ち抜き、TSMCは世界最大手の半導体「受託生産企業」として残った。

 日本企業は、経営トップの判断、決定が極めて遅いうえに、無責任体制がはびこっている要因もあり、受託組立生産、半導体受託生産事業のような「ハイリスク、ハイリターン」事業、すばやく投資判断をし、工場を立ち上げ売りぬき、どこよりも早く投資を回収する事業である。決断が遅く、無責任体制の日本企業は、こういう事業から徐々に退出していった。

 アップルは、PCやスマートフォンなどの新製品を開発してきたが、半導体生産(TSMC)も含め製造はすべて受託生産企業(ホンハイなど)に任せている。そのことで巨額の製造設備投資をすることなく、今では世界の携帯電話市場やIT市場を支配し、時価総額100兆円(2017年末)の大企業になっている。ただ、アップルは、画期的な新製品を開発し続けなければならない。

 上述の過程は、日本の電機産業の「垂直統合」、ピラミッド支配が崩壊していった過程でもある。それまでは、日本の電機産業しか「安くて、高性能製品」を供給できなかったが、そのような関係は急速に崩れていった。

 日本の電機独占会社は、「要素技術」「製造技術」を内に持って垂直統合を組織し支配的地位を築いてきたが、「製造技術」は標準化・自動化がすすみ自動機として製品化さえされ、受託生産企業が出現し、「垂直統合システム」から独立したことで、誰でも利用できるようになった。「要素技術」のうちの半導体は上述の通り、開発と受託生産が分かれ、「垂直統合システム」から独立したことで、開発さえできれば容易に参入できるようになった。またデジタル設計化がすすみ、設計のユニット化、組み合わせが容易になり、これも容易に参入できるようになった。

 このため、新しい世界市場での競争は「要素技術」や「製造技術」そのものではなく、「要素技術」を使用し組み合わせ設計して、新しい製品を市場に送り出す「システム技術」での争いに変わった。パソコンやスマホの市場である。

 1990年代半ばころには、アップルの生み出す魅力的な製品が市場を席巻した。韓国サムソン、LG電子の登場によって、あるいは携帯電話市場での欧州企業が登場し、各国政府の規制に沿った機敏な開発・販売により世界市場を支配した。他方、日本の経営者、経営システムはスピードに満ちた世界的競争にまったく適応できず、「システム技術」での争いにも適応できなかった。その結果、世界市場における日本の電機独占企業の出番はなくなった。
 
 その結果、日本の電機独占企業のいくつかは、製品寿命が長く競争が激しくなくて、従来の「垂直統合」が有効な、重厚長大産業、鉄道車両、運行システムやボイラー、インフラ整備、工場自動化設備・システム、住宅関連事業、医療・健康機器などにシフトしていった。

 他方、「垂直統合」の内部にいた日本電産、村田製作所、TDK、京セラ、日東電工、信越化学など優れた「要素技術」を持つ一部の電子部品会社は、「垂直統合」から離れ、スマートフォン、電子化された自動車市場などを生産するグローバル企業への納入を拡大しており、さらに、AIや自動運転など世界的な産業再編のなかでバイプレイヤーとしての地位を確保しつつある。

4)自動車産業は?

 このような産業再編は、資本の論理で生まれているのだから、決して電機産業にとどまらない。
 
 世界の自動車産業においてトヨタ、日産、ホンダなど日本企業の地位は高い。自動車産業も長年かけて「垂直統合」の生産システムをつくり上げてきた。本社の配下に何層にもおよぶ組立子会社、部品会社などを組織している。日本国内だけでなく、たとえばタイでも「垂直統合」を組織し、配下に組立会社、部品会社を組織し、そのことで東南アジアにおいて高い市場占有率を実現している。

 トヨタが海外進出すれば、一部の部品会社もくっついて進出する。ただ、「垂直統合」は長い年数をかけて形成されるので、「垂直統合」にも形成途中だったり、不完全なものもある。

 自動車産業では、部品は3万点以上にも及ぶ。それぞれ規格内ではあれバラツキのある部品を組み立てながら、性能を一定の幅内におさめる「離れ業」は、「擦り合わせ型」と呼ばれる「製造工程」で実現してきた。トヨタのことを言っている。「擦り合わせ型」製造工程にノウハウが詰まっており、完成車メーカーは生態系のピラミッドの頂点に君臨してきたのだ。「製造工程」では、生産の標準化、一部工程の自動化、部品・車台の標準化は常に行われ進化しているものの、「人の腕」よるノウハウがまだ多くあり、製造設備の統一化・標準化にノウハウが組み入れられていないことも多く残っている。自動生産化が達成され、生産システムとして外部に販売する市場ができる水準まで達していない。製造設備の統一化、自動生産化を達成するには桁違いの巨額の設備投資がかかる事情が存在する。詳細は知らないが、溶接や塗装などは相対的には自動化が進んでいると思われるが、全体としてみれば「自動車の組立自動機の市場」はまだ成立はしていないようだ。

 ところがこれが、電気自動車EVになれば事情は一変する。部品点数は格段に減少し、電気部品が増え、製造・組立の簡略化も進み、自動車企業の蓄積してきた製造技術、生産ノウハウ、すなわち「擦り合わせ型」製造工程の「強味」の大部分が一挙に消滅しかねない。

 すでにEV用電池会社やIT企業、ベンチャー企業がEV生産に名乗りを上げている。競争は製造工程よりも、まず、電池やモーターの性能など部品品質や部品コスト、通信技術、AI,IoTなどの革新技術に移っており、製造工程に大革新が起きることはもはや明らかになった。 

 「生産委託という分業」を掲げ参入する企業も出てきかねない。機能とデザインを誇る設計会社と受託生産の二つのグループに分業が進むかもしれない。

 そうなれば、「垂直統合」という日本の自動車会社の不可侵のシステムが破壊され、トヨタや、日産,ホンダなどの支配的地位が崩壊しかねない。

 実際のところ、電気自動車生産に多くの企業が名乗りを上げているし、中国や欧州諸国は、二酸化炭素排出規制をうたいEVへの切り替えを国の方針として定めながら、その過程で既存の自動車会社の市場支配を覆し、自らの新規参入を狙っている。さらには自動運転、車のIoT化という技術革新も絡んで、一挙に激しい世界的な競争に突入している。

 そのような事情は、トヨタやホンダ、日産などの経営者が最もヒシヒシと危機感を感じているところだろう。

5)「受託製造という分業」の波は、ほかの産業にも及ぶ

 「受託製造という分業」の波は、ほかの産業にも及ぶ。製品寿命が短く、製造設備投資が巨額であればどの産業も「勝者総取り」、「ハイリスク、ハイリターン」の事業となるから、「受託製造という分業」は浸透する。資本主義の論理からすればそうなる。

 ソニーは採算が悪化したテレビ事業を、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などへ製造委託し、液晶パネルも外部調達に切り替えた(日経12月22日)。 液晶パネルを安くつくる製造設備の投資競争では「勝てる見込みはない」、あるいは「ハイリスク、低リターン」であるから、この競争から降りると判断した。

 次世代テレビである有機ELの調達はLG電子から受けることになる。ソニーもシャープも有機ELパネルの量産にはいまだ成功していないし、今から開発し製造したとしても間に合わないとの判断がある。「社内の技術者は、調整のノウハウによって、4Kや有機ELの画質向上など他社との違いを打ち出すことに力を注ぐ」(日経12月22日)。 その方が開発費用は少なくてすむからだ。ただ、得られる利益は大きくはない。いわば「スキマ産業」という扱いだ。世界のテレビ事業で支配的地位を獲得することは、もはやない。採算がとれなくなったら、撤退するという扱いだ。

 このような事情=「スキマ産業」化、置かれている「地位」は、ソニーだけでなく、パナソニック、東芝などみな同じである。東芝はテレビ事業をハイセンスに売却した。

 バイオ・医薬品事業でも、製薬の研究開発に集中する製薬企業・ベンチャー企業と外部委託製造との二つに分業する産業モデルが広がりつつある。

 スイスの製薬大手ロシュは、自社開発したバイオ医薬品の製造を外部に委託する。微生物や細胞培養で高い製造技術が必要だ。委託先は、韓国サムソングループのサムソン・バイオロジクス社だという。「(製造委託の)市場でリーダーシップをとるには先行投資が必要で、半導体ビジネスと一緒だ」(サムソン・バイオロジクス・伊縞列常務、12月22日、日経)。

 日本の電機会社のいくつかは「要素技術」に特化し、部品供給で生き残ろうとしている。日本電産、村田製作所、日東電工などもともとの電子部品会社は好調だ。
 
 ただ、多くの日本企業は、このようなグローバル競争の現状から大きく遅れたように見える。TV番組で、『陸王』『マチ工場の女』(NHK)が流行っているが、それはグローバル競争から大きく遅れた「日本社会の現状」の一つの表現でもあり、現実を前にした「過去への哀愁」が人々の共感を呼んでいる面もあろうと思う。 (文責:林 信治)






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重要書類在中

卑劣な韓国資本、ハンジン造船所!
殺人企業、韓国ハンジン造船所!
労働者を殺し、弾圧を続ける韓国人どもの残虐企業!
不道徳な韓国は謝罪と賠償と反省をしなさいな!
人殺しコリアン企業を叩き出せ! 

ハッピーサイクルの皆様、応援します。
ぜひ国連人権委員会に告げ口しましょう。
この韓国企業の犯罪は21世紀最悪の奴隷労働システムです。
韓国の歴史教科書に載せることを要求しましょうね。
一緒に叩き出しましょうね。
by 重要書類在中 (2017-12-23 23:11) 

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