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トランプ政権が誕生した意味 [世界の動き]

トランプ政権が誕生した意味、新政権の動静

1)米国トランプ政権の動静、国内問題

1)-A、トランプが勝利した背景

 新自由主義が、アメリカを荒廃させた。この荒廃がトランプを登場させた。ただアメリカ社会は一様に荒廃しているのではない、深刻な分断がそこにある。富裕層と貧困層、権力エリートと大衆の分断、グローバル化で潤う東西両海岸と中西部、ラストベルト地域の分断である。

 1980年代以降アメリカを含む世界中で、レーガノミックスに代表されるような市場原理主義への回帰が起きた。社会主義を解体したため、社会主義制度に対抗する労働者の権利拡充や福祉政策を実行する必要がなくなった。1970年代、法人税は各国とも50%程度がほとんどだったが、今や引き下げ競争が止まらず、トランプは15%にすると公言している。人々に対しては自己責任を押し付け、緊縮財政、福祉・公共サービスなどの縮小、公営事業の民営化の「小さな政府」がいいと宣伝し、他方、大資本のためにグローバル化を前提とした経済政策、規制撤廃による競争促進、労働者保護廃止などの経済政策、法人税の低減、富裕層のために所得税の減免を推し進めてきた。経済恐慌に際しては「大きすぎて潰せない」として、政府が金融資本を救済した。「小さな政府」「自己責任」の原則は、大資本には適用しなかった。

 金融資本、巨大企業、軍産複合体はそれ以前にくらべても巨大な富を獲得し、失業などの敗者を生み出した。厚い層をなしていた中間層は徐々に解体・没落した。これを「経済効率を求める新システム」と呼んだ。現実には勝者が敗者を補う機能はまったく果たされず、敗者の貧困化の過程を促進した。「トリクル・ダウン効果」(trickle-down effect:「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がトリクルダウン(滴り落ちる)」とする経済効果)という「偽りの甘い言葉」を政府や経済学者が語り、貧困化、格差拡大に何も対策せず放置した。

 これに対してアメリカの一般国民の不満が蓄積し、即物的な形をとって爆発し始めた。この不満はいまだ「無自覚」であり、政治勢力として結集してはいない。トランプ誕生、英国のEU離脱、欧州での右翼政党台頭、韓国大統領弾劾などの一連の現象は、新自由主義がもたらした荒廃、分断、不満が根底にある。

1)-B、トランプは果たして期待に応えることができるか?

 新自由主義のもたらしたアメリカ社会の荒廃は、トランプによって米国内の白人労働者層の貧困問題に還元された上に、原因あるいは「敵」はもっぱら「不法移民」、「イスラム」、「中国」などの外部の他者とこれまでの政治家、「パワー・エリート」であるとし、有権者ではない国民国家にとっての他者になすりつけ、他方、白人労働者階級の一部が抱く人種的優越主義を刺戟しながら「偉大なアメリカを復活する」という愛国心を鼓舞する選挙キャンペーンを行った。これが功を奏して得られた支持である。新自由主義により貧困化したのは、アメリカの白人労働者ばかりではない。アメリカの非白人労働者、さらには新興国、発展途上国の労働者を、より大量かつ深刻に貧困化させたきた。人種的優越主義をもち「偉大なアメリカ」を叫ぶアメリカの白人労働者層は、ナショナリズムや排外主義にとらわれてるのであり、非白人労働者者や新興国や途上国の労働者のことは考慮の外にあり、連帯感などは欠如している。不満はすでに操られている。

 多くのアメリカ国民は、ウオール街、金融界、軍産複合体、マスメディアを中心としたアメリカのパワーエリート勢力に対する反発や批判を蓄積したが、トランプはこれを、「不法移民」、「中国」、「イスラム」など外部の敵への攻撃に取り込んで、うまく利用した。矛先は、ウオール街、金融界、軍産複合体、ユダヤ資本などに向かないように巧妙に工夫されている。

 トランプ自身は不動産業を営む有数の富豪であり、貧困層の利益を体現しているわけではない。次々に政権の閣僚を任命しているが、その顔ぶれは、富豪、金融資本の代表や高級軍人。彼らの考えは、決して貧困・中間層の価値観と一致していない。

 トランプが、中国やイスラムや不法移民を非難するのは、何ら根本的な解決ではなく、一種の「気晴らし」である。外部の他者に責任をなすりつけて、貧困化する白人労働者層の不満を一時的にそらせる以上の意味を持たない。効果がある限り、繰り返し続けるだろうが、「気晴らし」がいつまでも有効であるはずはない。

1)-C、トランプの経済政策

 トランプは掲げる経済政策、すなわち、大幅減税、大型インフラ投資、そのための財政出動、シェールオイル開発などのための環境規制撤廃、保護主義、金融緩和・ドル安を、大げさに表明してきた。これらは金融資本やビジネスに有利ととらえられ投資家は期待を抱き、11月以降株価はいったん上昇した。

 しかし、実際にこれらの経済政策を実施するとなると難しい。

 大幅減税、財政出動し大規模にインフラを整備するとすでに表明し期待も膨らんでいるが、現在
でも財政赤字であるのに、さらなる赤字の拡大、金融緩和は信用不安、恐慌をもたらすから、おのずと限界がある。

 トランプがツィッターで自動車会社にアメリカ国内生産を促し、自動車会社の経営者は戦々恐々としているが、市場に近いところで安く生産することを追求しできあがったのが現生産体制であって、白人労働者のためだからといってミシガンやイリノイに工場を戻すことは、やらないしできない。またメキシコから様々な部品・製品を輸入しており、メキシコからの輸入車だけ狙い撃ちにして高い関税をかけることも不可能だ。

 当面、実行できそうなのは、金融緩和・ドル安とし、アメリカ製造業の輸出拡大くらいである。
 これらの経済政策は、「親富裕層」、「親ビジネス」、「親金融資本」的であり、たとえ実行されたとしても貧困層の状態が改善しはしないし、ラストベルト地域の抱える問題も解決しはしない。TPP離脱を表明したことは歓迎するが、そのことで貧困層の抱える問題が解決するわけではない。

 トランプの主張が何の解決ももたらさないと、どの時点で、貧困・中間層が強い反発を示すかが、アメリカ国内政治の次の焦点となる。

2)アメリカの外交、国際問題はどうなる?

 対外関係では、対ロシア、中東、中国が特に注目される。

2)-A、最大の争点、対ロ政策

 対ロ政策では、トランプ路線と既存の対ロシア政策は、明確に対立している。オバマ政権では、ネオコン勢力が対ロシア政策、対中東政策を牛耳ってきた。国務省を牛耳っていたネオコン・グループはウクライナで危機を創造し、ロシアとの対決に持ち込んだ。ネオコンが支配するNATOは、関東軍化(第二次世界大戦前の日本の関東軍)しており、ウソの情報を流し宣伝し、しきりにロシアや中東で戦争挑発を仕かけてきた。

 その結果が、ウクライナの破綻国家化であり、シリア戦略の失敗・シリア反政府軍の敗退、トルコの離反、欧州への中東移民の大量流入である。バルト三国、ポーランドはウクライナとともに、ネオコンのロシア挑発政策にそのまま従い、NATO軍配備を歓迎すると各政権とも「自発的に」表明してきた。今やロシア政策は手詰まりになり、アメリカのロシア政策の転換が検討されている。

 オバマは政権を去る直前の1月13日に、ポーランドに3,500名のアメリカ軍配備を決め、次期政権の手を縛った。ネオコンに従ってきたこれら諸国政府は不安にかられているだろう。ロシア政策の転換は、その利用が終わるからだ。

 一方、トランプはロシア内のホテル建設、高級マンション建設等の関係で有力ロシア経済人との交流を持つ。国務長官として、米石油大手エクソンモービル会長兼最高経営責任者(CEO)のティラーソンを起用。ティラーソンは北海石油開発、サハリン石油開発等を通じロシアと協同してきたし、ロシアに対する融和政策を主張している。

 ロシアと協調し資源開発をすすめ利益を上げようとするグループが、アメリカ支配層内に存在しており、ネオコン、イスラエルロビーが推し進めてきたロシアへの戦争介入、敵視政策の失敗を前にして、ロシアとの「協調」への転換が模索されている。

 ただ、ネオコンは国防省国務省から放逐されたわけではない。オバマは、何の証拠も示すことなくロシアがサイバー攻撃でアメリカ大統領戦に介入したと断定し、またロシア外交官35名はスパイだと決めつけ帰国させた。これは、オバマ政権と国務省が今なおネオコンに支配されており、トランプ次期政権に難題を押しつけたことを意味する。ロシア外交官追放に対し、プーチンは対抗措置をとらなかった。そのことにトランプはツィッターで「すばらしい対応」とし、対ロ政策での違いを表明した。

 トランプ政権で最初の政権内路線争いは、対ロ政策になろう。

2)-B、 中東政策の転換

 シリア反政府軍が敗退し、ダーイッシュ(あるいはISと表記)は弱体化、トルコもアメリカから離反した。アメリカの手先が弱体化・離反したことで、中東での影響力が大きく後退した。中東戦略は、敗退したところから出発することになる。

 シリアにおいては、米国抜き、ロシア、トルコ、イラン主導で、アサド政権存続を前提とした停戦合意がすでに成立した。これに新政権はどう対応するか。停戦合意した7反政府勢力のうち、5グループはアメリカの支援を得ていた。中東はすでに、ロシア、トルコ、イラン、シリア対アメリカ、サウジ、イスラエルの対立構造に変わっている。

 シリア反政府軍、ダーイッシュを使って、戦争介入するオバマ政権のやり方が失敗した後、どのように立て直すのか注目される。「世界の警察官であり続けることはない」とするトランプ政権だが、政権入りしたマティス国防長官等多くの軍関係者は、中東への軍事介入支持者であり、統一性はとれていない。ここでも路線争いがあるだろう。

2)-C、中国は最も複雑な構図

 トランプにとって中国非難は、対中国の貿易赤字が大きいので口先介入しているのだが、実際に関税をかけることは難しく、有利な取引条件を引き出そうとしているくらいだろう。ただ中国非難は、トランプ支持者であるアメリカ大衆のプライドをくすぐるための材料でもある。アメリカ国民に対して発せられており、言葉通りに受け取れない場合もある。

 オバマ政権は「アジアへのリバランス戦略」を掲げ、中東からアジアへ軍事力をシフトしてきた。南シナ海でのフィリピンやベトナムと中国との領土領海問題に介入してきたが、フィリピン・ドゥテルテ政権が親中政策へ転換し、アメリカの戦略はここでも思い通りいっておらず、立て直しが迫られている。

 アメリカ支配層にはアメリカ軍、軍産複合体、ネオコンを中心とする対中強硬派と、中国市場に参入している産業界、金融界の融和派が存在する。トランプは米国国内の産業の育成を主張しており、米国産業の擁護の観点から、貿易戦争の再来もありうる。

 アメリカ軍は、軍産複合体の都合もあり、対中国強硬路線を継続しているが、実際に強硬路線をとることができるかどうかは、中東での軍事介入がどうなるかとも関連している。二正面作戦をとることは難しく、中東への軍事介入継続であれば、中国への策は薄れる。

2)-D、欧州への関与

 英国のEU離脱の基本合意はいまだできていない。欧州もアメリカ社会と同じく新自由主義により社会が荒廃、分断しており、他方、中東からの移民の増大を契機に、ナショナリズムが欧州全域に広がりつつあり、ナショナリズムや排外主義を掲げた右翼政党が台頭している。仏の大統領選挙、ドイツの首相の動向などにすでに影響を与えている。

 トランプ政権の欧州への関心は前政権に比べ小さく、口先介入はあるにしても全体として後退するだろう。NATOの動きが変わるか注目される。

2)-E、日本への影響

 アメリカの中東への軍事介入が強まれば、自衛隊派遣への圧力が強まる。中東への軍事介入がトーンダウンすれば、対中対決に本腰になり、当然日本の参加を強化することが求められる。ただ、いまだ方向は定まっていない。

 対中国、対アジア政策が定まらなければ、今までアメリカに従って懸命に努めてきた安倍政権の立場は宙に浮く。それゆえ安倍政権は、これまでアメリカ政府の「番頭」のような役割を進んで果たしてきたのに、トランプ政権はその「忠義」を理解してくれていないと嘆き、理解を求めアピールが重要だとしきりに愚痴をこぼしている。

 トランプは、日本をそれほど重視していない。「どのようにも扱うことができる政府であり国である」ととらえており、優先順位は低い。しかし、アメリカの世界政策の変更・転換は、安倍政権にとって大きな影響を及ぼす。   (文責:林 信治、1月20日記)




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