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トルコ・クーデターの原因、失敗した理由 [世界の動き]

トルコ・クーデターの原因、失敗した理由

1)トルコ・クーデターの意味

 7月15日のクーデター失敗からの2週間を経て、この政治的事件の意味がより明らかになった。
 クーデター失敗を契機に、エルドアン政権は政権内からギュレン派を徹底して追い出し粛清している。ギュレン派は、クーデターがエルドアン政権の自作自演だと主張しているが、そうではあるまい。エルドアン本人がSNSを利用し国民にクーデター阻止を呼びかけた事実は、7月14日から15日にかけて、軍や政府機関、警察・諜報機関が支配下にあるかどうか把握できていなかったことを意味する。エルドアンはSNSで国民に支持を呼びかけざるを得ない事態に追い込まれたのであり、14日夜から15日未明にかけてクーデターによる政権打倒の危機が存在したのであった。
 
2)エルドアンによる権力掌握と粛清

 エルドアンは政権を掌握した後、7月20日、非常事態を宣言し、これまでにギュレン師支持派とされる軍人や裁判官ら1万8千人以上を拘束、中央省庁の官僚や教員ら6万6千人以上を解任や停職処分にした。軍の粛清が第一の目的であることがわかる。
 トルコ政府は、エルドアン大統領の政敵で米国に住むイスラム教指導者ギュレン師がクーデター未遂事件に関与したと断定し、トルコ政府は二国間の犯罪人引き渡し条約の規定に基づき、ギュレン師の送還をアメリカ政府に要求している。(日経:8月1日)
 
 注目すべきは、エルドアンが当初からクーデターは政権内のギュレン派であると特定しており、かつまたその背後にアメリカ政府内の好戦派、ネオコンがいると断定したことだ。ギュレン派は、これまでともにアメリカ政府の中東政策に沿って政権を担ってきたかつての盟友であるから、相手が何を考え実行したか、一瞬にしたわかったのであろうし、アメリカ政府の意図も読み取ったであろう。
 クーデターが起きた時、アメリカ軍は「静観」していた。トルコ基地内には、ロシアに向けた戦略核ミサイルが配備されている。にもかかわらずアメリカ軍は「静観」した。クーデターに対するアメリカ政府・軍の事前の承認があったことをうかがわせる。

 エルドアンが、軍人らを即座に逮捕・追放したのはそのリストを事前に持っていたからである。逮捕者や解任・停職処分の規模がきわめて大きいこと、それは軍内、政権内のギュレン派に対する粛清であり、徹底している。徹底しなければ、逆にエルドアンが倒される、そのように自覚しているからだ。徹底して軍内のギュレン派を粛清し一掃すれば、アメリカ政府はエルドアン政権を認めざるを得ないことを知っているからだ。

3)クーデターの原因と失敗した理由

 アメリカ政府内の好戦派・ネオコンにしたがって、トルコ政府が行ってきた中東政策が破綻したことがクーデターの原因である。エルドアン政権は、アメリカ政府、サウジ、湾岸諸国とともに、ISを利用してシリア・アサド政権を打倒に加担し、中東の支配者の地位を得ようとしてきた。
 しかし、この戦略は、2015年9月30日以降のロシア軍によるIS 空爆、シリアのトルコ国境地域のIS支配地域をアサド政府軍が奪還したことで、ISの兵站線は閉ざされた。ISは敗北し衰退しつつあり、ISを使ったアサド政権打倒は不可能になり、トルコの中東政策は破綻した。
 2015年11月のトルコ空軍によるロシアSu-24撃墜は、トルコーロシア間の政治・経済関係を破壊した。シリアを通じたアラブ世界との通商関係も途絶した。トルコへの外資投資は減少した。軍事費は増大しトルコ国債の信用は低下しつつあり、国際暴落の危険性が高まっている。アメリカの中東戦略に加担してきたことで、トルコ経済は停滞を余儀なくされた。
 アメリカ政府内の好戦派・ネオコンに唆されてロシアと戦争を始めたウクライナが、破綻国家になった姿を、エルドアンは間近に見ている。

 エルドアンは、アサド政権打倒が頓挫した新事態に対応せざるを得なくなり、悪化したロシアとの関係改善へと戦略の変更を決定したのである。
 この変更は、アメリカ政府内の好戦派・ネオコンの意に添わなかった。トルコ軍には歴史的に、アメリカ政府によるいくつもの密接な関係、支配の「手」が形成されてきた。「世俗主義」とは、トルコ政治にアメリカの支配力・影響力を発揮させる一つの政治的主張であった。
 今回のクーデターは、トルコ軍内の世俗主義を口実として、エルドアンの戦略変更を咎め、アメリカの中東戦略を貫き通させようとしたモメントとして、発現した。ただし、ISを利用してアサドを倒すアメリカの中東戦略は、すでに破綻が明らかであるので、トルコ軍内に「躊躇」が生まれ、クーデターに準備不足をもたらし、失敗におわった終わったのである。
 
4)エルドアン政権の戦略変更

 エルドアン政権にとって、シリアでの長期にわたる戦闘状態を継続できない。トルコが破綻してしまう。
 まずは、ロシアとの関係を改善するしか道はない。エルドアン政権は、すでにロシア機撃墜を謝罪した。8月9日、エルドアンはロシアを訪問する。ロシア産天然ガスをトルコ経由で欧州に輸出するパイプライン建設計画に対しても、エルドアンはこれまでの態度を一変させ、前向きな姿勢を示した。
 このパイプライン計画は、イラク・シリアを通ってパイプラインを敷設し欧州に天然ガスを輸出したい湾岸諸国・サウジの思惑と真っ向から対立する。アメリカ政府やサウジ・湾岸諸国によるイラク・シリア政権の打倒と破壊は、この計画とも関係している。

 トルコ政府は7月31日、軍参謀本部の傘下にあった陸海空軍を国防省へ移管、トルコ社会に影響力を持つ軍教育機関の廃止、大統領と首相が直接軍の司令官に命令を下す権限の付与などを発表し、トルコ軍の権限を縮小、大統領・首相への権限集中を決定した。

5)エルドアン政権は強固になったか?
 エルドアン政権の権力掌握、大統領への権力集中の過程が進行している。ギュレン派は権力から放逐されつつある。アメリカ政府が形成してきたトルコ軍内に張り巡らした「手」は、放逐されている。アメリカの中東政策の破綻が、このような形で従来の支配網を壊している。
 しかし、そのことはエルドアン政権の基盤が盤石になったことを意味しない。(8月1日記、文責:林信治)
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