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日米会談の意味、安倍はなぜ「河野談話見直しはしない」に転換したか? [元「慰安婦」問題]

 4月、日米会談の意味、

4月24日、記者会見後の安倍首相とオバマ米大統領.jpg
<4月24日、共同記者会言語に握手する安倍首相とオバマ大統領(共同)>

 安倍はなぜ「河野談話見直しはしない」に転換したか?

 1)米国の戦略 アジアへのリバランス戦略

 中国の経済的発展によって、GDP、軍事予算の米中バランスは、大きくかつ急速に崩れつつあるし、この傾向は当分変わらない。
 2013年GDP 米国:1680兆円(16799億ドル)、中国:980兆円     
 2014年国防予算 米国:約60兆円(6000億ドル)、中国:約13兆円(1316億ドル)

 現在と近い将来、アジアは世界の大きな社会的・経済的発展をとげる中心となっており、この流れを推しとどめることはできない。米国の利害や安全保障は、ますますアジアとリンクしている。他方、米国には軍事予算を増やす条件はない。これまでの中東への軍事的配置が過剰となり、他方、アジアへの配備が不足している。この再配置も必要となっている。この変化に対応したのが米国の「アジアへのリバランス戦略」である。

 米国にとって、焦点は中国との関係をどのように打ち立てていくか、にある。米国戦略は「二重の意味」がある。一方では、中国の勃興に対して、アジアの同盟国、新興国との関係を再編し、米国の安全保障上の役割を強化するとともに、TPPを推進し中国に対抗しうる経済的関係の拡大を図る。他方では、米国資本は、拡大する中国経済圏の発展に関与を深め、自身の経済発展を図ろうとしている。そのことは米中の経済関係を拡大し、一体化していくことでもある。
 したがって、米国政府は現在、中国政府に対し非常に気を使っている。別の言い方をするなら、東アジアにおける米国にとって第一の同盟国であった日本の地位は、大きく変化したし、ある意味後退した。第一のパートナー、競争者は中国であり、日本の持つ意味合いは低くなった。日米安保条約のもつ意味あいも相応して変化しつつある。

 2)オバマ政権、安倍政権への不信

 オバマ政権にとって問題は、安倍政権がこの世界情勢の変化と米国戦略の変更を十分に理解していないのではないかという不信感にある。安倍政権は発足後、中国周辺諸国を歴訪し、復古主義的な非現実的な「中国包囲網」の形成をめざすかのような行動をとった。また政権発足後、中国・韓国との首脳会談を開くことさえできない。内弁慶で、実際のところ何もできない安倍政権である。
 安倍政権による歴史認識の見直しは、米国にとってはいたずらに中国を刺戟する余計なことに他ならない。2013年10月、ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官が来日し、靖国神社ではなく千鳥ヶ淵を参拝した。そこには歴史問題にどのように対処していくのか米国政府の意志が示唆されていた。しかし、安倍首相はこれを無視し、12月に靖国神社を参拝した。

 米国政府の安倍政権に対する「不信」は広がった。安倍は世界情勢とこれに対する対処=米戦略を理解しているのか。安倍は自分では解決できないくせに、尖閣で問題を起こし困ったら米国に頼る態度を見せた。
 2月21日―23日、安倍が訪米時に、オバマ米国政府は安倍を露骨に冷遇した。晩餐会は昼食会に切り替えられ、会談後の記者会見も簡単な中身のないものだった。
 米国は、安倍首相が歴史認識問題などで『タカ派路線』を強調した場合、日中関係、日韓関係が一層悪化することを懸念している。オバマ米政府の中国、アジア重視の戦略を狂わせるものだからである。

 3)オバマ来日、日米首脳会談 

 4月にオバマが訪日し、日米会談が行われたが、その目的は、米国のリバランス戦略への理解と同調を求め、安倍の外交姿勢を転換させることにあった。その流れのなかで、「河野談話見直しはしない」への転換がある。
 ただ、安倍政権は国内的には「尖閣が日米安保条約の適用範囲である」とオバマ発言の一部を切り取って喜び、首脳会談の成果だと喧伝した。マスメディアは安倍政権の意向を自主的に忖度し、意図的に意味を変更し報道した。
 「尖閣が日米安保条約の適用範囲である」ことは、米国政府が1971年以来表明しており、何ら新しい変化ではない。尖閣が日本政府の施政権下(=実効支配)にあると確認したうえで、オバマは、次のように発言した。
 ① 米政府は、領土問題について日中いずれの立場にも立たない、
 ② 戦闘が起きた場合、武力介入は日米安保条約第5条(=米議会の承認)にしたがって運用する。実際のところ、米議会が日中どちらの領土でもない尖閣への武力介入を決定することは、まずありえない。
 ③ 日本は決して武力対立を起こしてはならない、と釘を刺した。
 しかし、日本のマスメディアはNHKも含め、「尖閣が日米安保条約の適用範囲」であると認めたと、あたかも米国が日本の立場に立ったかのように国民をだます報道し、上記①~③の発言は報道しなかった。

 4)安倍はなぜ「河野談話見直しはしない」に転換したか?

 米国にとっては、日韓関係を改善し、日米韓三国の協力体制を緊密なものにしたうえで中国に対峙したいのであるが、安倍政権のせいで日韓首脳会談は開かれず、日韓関係が悪化したままである。
 「靖国神社参拝」「河野談話見直し」など「歴史認識」における安倍政権の政治的対応が、中国・韓国やアジア諸国の批判と反発を引き起こし、国際関係をこじらせ、東アジアにおける「不安定要因」を拡大してしまった。米中二極をにらんだ米国戦略に支障をきたす安倍政権の外交姿勢に、米政府は「失望」を表明した。
 日米首脳会談の前に米政府は安倍政権に強力に働きかけ、外交姿勢の転換を迫った。3月4日にはアーミテージ元国務副長官は、「人権を擁護する日本であろうとするなら「慰安婦」問題での論争に日本は勝てない」と発言し、安倍政権の態度の転換を求めた。

 国際的批判、というより主に米政府からの批判にさらされ、安倍首相は3月14日の予算員会で「河野談話の見直しはしない」と表明しその立場を転換した(4月1日に、閣議で答弁書決定)。そのことで初めて、日米韓首脳会談開催が可能になった。韓国にとっては首脳会談開催を受け入れる前提条件であったし、米国は韓国政府の立場に同調したのである。

 4月のオバマ来日・日米首脳会談の最大の目的は、安倍政権によって傷つけられた日米韓関係を修復し、米中二極をにらんだ米国戦略に整合するように日米同盟の方向性を再確認することにあった。4月22日には、アーミテージ元国務副長官が石破幹事長と会談した。「ジャパン・ハンドラー」と言われる怪人物まで動員し、安倍政権へ安全保障を含む米戦略への同調を強要したのである。
 米国の怒りに触れた日本政府は、2月の訪米で安倍が冷たくあしらわれたにもかかわらず、オバマ大統領を「国賓」として遇し、天皇会見・宮中晩餐会を開き、機嫌をとった。米政府は恩を売り、日本政府がありがたがっていっそう日米同盟の傘の下に入るように仕向け、そうして米とともに中国に対峙する方向にシフトすることになったようである。

 5)安倍政権は、「慰安婦」問題の解決に踏み出せ!

 安倍政権は「河野談話の見直しをしない」と表明したのは、米政府に言われてこれまでの態度を一部転換したのは確かである。あくまで対外的な事態の「取り繕い」であり、決して「慰安婦」問題の解決に踏み出したわけではない。「河野談話の見直しをしない」だけで、決して何かをするわけではない。

 韓国政府はまず日本政府が行動するように求めている。中国政府もアメリカ政府も、国際社会全体がまず日本政府が行動することを求めている、そのような情勢にある。
 オバマ大統領が、「慰安婦」問題は重大な人権侵害であると述べたその水準まで、日本政府が行動できるかにかかわっている。
 実際のところ、現時点での日本政府のスタンスは、
 ① 安倍政権は河野談話見直しの「公約」をいったん取り下げ、「河野談話の見直しはしない」と表明することにした。
 ② 韓国に対しては「法的責任は日韓請求権協定で解決済」との主張は変えない。
 ③ 元「慰安婦」への支援は、「アジア女性基金の取り組みに理解を求める」
 と、従来と変わっていない。
 アメリカに言われて①「見直しはしない」と表明しただけでは、安倍政権は国際社会に受け入れられることはありえないし、「慰安婦」問題を解決することはできない。

6)「慰安婦」問題は人権問題!  今こそ、「慰安婦」問題解決に踏み出せ!

 「慰安婦」問題に対する米政府の立場は明快である。オバマ大統領は4月25日、韓国・朴槿恵大統領とソウルで会談後の記者会見で旧日本軍の「慰安婦」問題は「歴史を振り返るなら、実に甚だしい人権侵害であった」と明確に述べた。日本政府だけが国際的に孤立していることが、あらためて浮き彫りになった。

 「慰安婦」問題は、決して韓国、米国との外交関係改善のための課題だけではなく、それ以前に重大な人権問題である。そのことを日本政府、日本社会はいまだ十分に認識していない。
 安倍政権が「河野談話見直しをしない」と表明した今こそ、「慰安婦」問題を解決する機会である。
 この機会をとらえ日本国内で「慰安婦」問題の解決を迫る声をいっそう大きく上げていかなくてはならない。これまでの態度を改めさせ、解決に向けて一歩踏み出させる運動を広げていかなくてはならない。(文責:林信治)

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