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「アベノミクス」はどこへ進もうとしているか ? [2008-9世界経済恐慌]

 すぐさま外交問題に影響する安倍政権の「歴史認識」問題、「改憲」への志向などの評価は比較的判断しやすいし、多くの人が論じている。もちろん内外にどのように影響するか、予断を許さない。
 安倍政権の掲げている大胆な金融緩和と大規模な財政出動の危険性について 現時点でどのように評価すべきか、まとめてみた。

 1)日本経済の後退、主役から端役へ

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<安倍次期首相、ロイター通信より>

 日本経済はここ10年弱で世界経済の「主役」から「端役」に後退した。日本経済を浮揚させることは極めて困難である。安倍政権であろうが民主党政権であろうがこの流れを変えることは容易ではない。

 日本社会は高齢化問題を抱えており、労働人口は2000年代になって減少し続けている。富を生産するのは「労働者」であり、労働人口の減少はそのままGDPの減少を意味する。減少を上回る「生産性向上」がない限り、GDPは減少する。

 日本のすべての資本、独占資本も中小資本も、国内市場における投資活動はきわめて低調である。国内市場が収益を上げにくいからだ。独占資本・大企業は利益を上げていないわけではない。一部の独占資本・大企業は十分に利益を上げている。大企業の資金は潤沢であるが、国内市場へは投資していない。金利がきわめて低いにもかかわらず、国内市場には資金需要はないし、投資は活発化していない。

 他方、一部の独占資本・大企業は海外投資、M&Aを活発化している。現在は海外進出の第二のブームになっている。日本の独占資本のビヘイビアからみて、蓄積した資本を国内市場ではなくグローバルな市場へ投資する行動をとっているのは明らかである。海外市場への進出、グローバルな展開、世界市場での地位の獲得こそ、日本の支配層にとって現時点の最大の関心になっている。
 現在のような対応は、さらにいっそう日本経済の比重を「端役」へと追いやるだろう。
 

 2)どうして、安倍発言で円安・株高になったのか?

 この一か月間、すなわち11月16日の衆院解散から、選挙期間中の安部発言によって、急速に円安が進み、日本株も1万円を越えた(12月20日現在、終値1ドル=84.435円、日経平均225終値:10,120円)。 その進行は、「急激」、「大幅」であり、「予想外」の結果だった。 (「事前」にはもとより、「経過の途中」でも予想していなかった。)

 起きた結果を現時点から考えてみると、下記のような背景、要因があったということができる。

 ① 欧州危機の影響が緩和してきてリスクオンムードが広がっていた、過剰流動性下でのボラティリティが低下している
 ② 日本の貿易収支が悪化し、経済収支の黒字幅が急速に縮小した
 ③ 安倍発言による政権奪取後の日銀の金融緩和に対する期待、補正予算への期待
 などが挙げられる。

 ① 欧州危機の緩和によるグローバルなリスクオンムード
 欧州も米国も大量に資金を市場に供給し、かつてない「過剰流動性」状態にあり、投資先を求めるそのエネルギーも蓄積している。他方、欧州債務問題がいったん落ち着き、米国もQE3で市場に資金を注入し続け、以前に比べ金融市場は「安定」を見せている。そのため世界的にリスクオンムードが広がりつつある。リスク回避のために円、特に国債に逃避していた資金が一旦離れ投資へと展開する。リスクオンになれば円安となる。

 今回、日本株だけが上昇したわけではない。12月18日までに米ダウ.DJIは11月15日終値から6.4%、FTSEユーロファースト300種指数.FTEU3は11月16日終値から6.5%上昇している。12月に入ってからは上海株.SSECも底を打ち上昇へ転じた。世界的な景気は依然厳しいものの、投資家の「投資意欲」は
回復している。日経平均は18日までに14.5%上昇と世界のなかで突出している。日本株の突出した上昇は、「円安」、「金融緩和」を期待した海外勢主導の押し上げによる。

 ② 日本の経常収支黒字の縮小
 2012年11月貿易収支は9,534億円の赤字であり、1979年の統計開始以来、過去3番目の赤字額であった。もっとも、海外からの所得収支があるので、トータルの経常収支は黒字ではあったが、その黒字額は大幅にかつ急速に減少した。日本はもはや大幅な経常黒字国ではなくなった。

 そのことはGDPの2倍、1000兆円もの債務を抱える日本政府に対する信認低下が前面に出てきて、円に逃避した資金が離れはじめたことを意味する。円安へと導く要因となる。

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<日本の貿易収支、ロイター>

 上記二つの要因は、徐々に顕在化しつつあり、10月頃からゆっくりと円安が進行していた。すなわち、円安へと移行する「マグマ」は徐々に力をためつつあったのであり、リスクオンムードのなか海外投資資金は日本株を物色していた。これが背景である。

 ③ そこへ、安倍発言、次期自民党政権への「期待」
 そこへ安倍発言である。
 安倍自民党総裁は政権を奪取したなら、日銀による大胆な金融緩和、2%のインフレターゲット、無制限の国債発行を実行すると発言した。発言だけでいまだ実行はしていない、現段階ではまだ「期待」である。

 「背景」に加えて安倍発言に対する「期待」が広がり、円安と日本株上昇が一挙に進んだ。海外勢が円売りを仕掛け、日本株を買い続けた。もちろん「背景」なしに「期待」だけではこのような変化は生じなかった。「背景」を無視して「安倍発言」だけ聞いて結果を見ると、まるで「マジック」に見えるが、決して「マジック」ではない。

 4)「アベノミクス」、金融緩和と財政政策で、解決するか?

 問題は、「アベノミクス」が日本経済の現況の困難を解決するかどうかにある。確かに、上記要因によって、円安基調と株価上昇は当面続くだろう。安倍政権も財政・金融政策で必死に円安/株高を演出しようとするだろう。日銀に一段の追加緩和圧力がかかるのは確実で、おそらく日銀はそれにある程度応えるだろう。しかし、これらの政策で持続性がどこまであるか、である。

 これ以上の円安は持続しない
 すでに先進国は史上最低水準と言われるほど低い金利水準にある。追加の金融緩和によって金利を下げようとしてもすでに下がる余地、絶対値は小さくなっていて、この点では「限界」に達している。他方、日米欧とも低金利状態にあり、日米金利差の拡大は起きにくい。したがって、円売りは持続性に乏しいと思われる。
(あくまでこの先、せいぜい2、3か月程度のレンジでみて、である。それより先はわからない、国内投資が低調であること、2008経済危機からの回復過程で円への逃避資金が離れることなどを考慮すれば、円安基調にはなるだろうが、欧米の経済危機がまだ解決したわけではないし、欧米先進国も低金利状態が継続する。何が起こるかわからない。)

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<米国金利の推移、ロイター>

 日銀は12月19、20日に開いた金融政策決定会合で、資産買い入れ基金を10兆円増額する追加緩和策を決定した。基金の規模は2013年末に101兆円となる見通しで、100兆円の大台を突破する。
 さらに安倍政権は10兆円規模の大型補正予算の編成を打ち出した。その財源は国債である。安倍政権の手法は、財政出動と金融緩和であることは明白である。

 そもそも財政出動や金融緩和ですべて解決するならば、日本経済が「停滞」あるいは「失われた20年」にならなかったはずだ。自民党政権時代の日本は不動産・株バブルの崩壊=金融恐慌に見舞われ、長期のデフレに陥った。それから抜け出すために財政出動や金融緩和をこの20年続けてきた。その結果、国家の借金が1000兆円も積みあがってしまった、将来の収入を先食いして財政出動に使ってしまった、しかし「停滞」のまま。それが現状である。ここ20年の経過を忘れるわけにはいかない。

 20年を振りかえらなくとも、ここ二、三年の経過をみても明らかである。
 エコポイントで液晶TVなどが一時爆発的に売れたが、その後、売れない。エコカー減税を実施し目先の国内の車売上を押し上げた。20年間行ってきたことはこれである。

 このような財政出動によって、日本経済の構造は変化したか? 何も変わっていない。目先の売り上げを求め、日本の大企業の当面の売り上げを確保し、危機を繰り延べした。その結果、国家の財政赤字として、将来の「損」が積みあがっただけである。

 安倍政権による今回の財政出動と金融緩和が、決し特別なわけではない、それゆえ「うまくいく」とは、とても思えない。

 4)絵に描いた餅、インフレターゲット論

 安倍自民党総裁は、2%のインフレターゲットと政府との政策協定の検討を日銀に要請した。1%というインフレ目標さえ達成できていない状況で、安倍総裁の2%目標などほとんど意味がない。

 国民の多くは、ここ何年も節約の消費行動をとっている。労働者・勤労者の賃金は減少している。リーマンショックの時などは、解雇によって、契約社員への入れ替えによって、全体としてみれば大幅に収入は減少した。今年も冬のボーナスは減少する。コンビニのプライベートブランドが流行っている、ネットショッピングが増えている、外食が減り、内食が増えている、それらは人々の「デフレ行動」の一つだ。

 2%のインフレターゲットとは、消費者物価の上昇であり、そのためには人々の収入の安定と増大、すなわち雇用の安定と賃上げが必ず必要である。さらには年金制度の充実、福祉制度の充実による将来への不安が払拭されなければならない。それらなしに人々の「デフレ行動」を払拭することはできない。

 安倍総裁がいくらインフレ目標をセットしても、インフレを実現するうえで最大の難関は消費者の「デフレマインド」解消、すなわち収入の増大と雇用の安定をどのように解決するかを明確にしない限り、実現は不可能である。
 
 賃上げ交渉のプロセスは消失
 そもそも賃金は上がっていない。日本では、労使交渉は賃金上昇のために機能していない。労働組合運動は以前に比べその「力」を失っている。「賃上げ」を推し進める社会的要因が弱体化し機能していない。

 したがって、現在の日本では賃金上昇は極めて起こりにくい。低賃金不安定雇用の契約社員増大を通じて急速な賃金下落を推し進めてきた。2000年代に入ってから名目賃金は05─06年を除き一貫して下落傾向にあり、景気後退期には6%以上、下落した。その後、景気拡大局面に入っても賃金には還元されず、最大でも2%程度の上昇率にとどまった。もはや春闘でのベアは機能せず、ボーナスも業績連動とは言えない。「定期昇給」を廃止しようとする動きさえある。賃金は「上方硬直性」が強まっている。リーマン・ショックや大震災などのショックでボーナスを大幅カットしたが、その後の収益回復時に、株主には還元しても、賃金に戻す企業はまれだ。

 現状であれば、資本が賃上げを「許容」する最大の要因は「業績拡大、生産性向上」だが、大手の一部企業を除き、それ自体が難しい。労使交渉において賃上げは生産性向上の範囲内で、しかも必ず「以下」で行われるのが原則となってしまっている。

 仮に業績拡大しても今までの経過からすれば、目に見えて雇用や賃金上昇に波及するまでに3─4年の期間が必要となり、持続的な成長が不可欠となる。その間、政府の財政支出の拡大と日銀の金融緩和で支え続けるとすれば、財政赤字を一掃積み上げることになり、財政規律の信認が失われかねない。

 したがって、仮に円安や資源高、あるいは金融緩和など何らかのきかっけでデフレ脱却ができたとしても、「賃金がさほど上がらない、投資は拡大しない『悪性インフレ』」 が起こる可能性が高い。

 インフレターゲット論が、いかに困難であるか、ほとんど「絵に描いた餅」であるか、あるいは、「悪性インフレ」という「パンドラの壺」を開けるような極めて危険な代物であるのは明らかではないか。

 5)結局、何をもたらすか?

 日本では過去20年にわたって、財政政策も金融政策も緩和方向に偏った極端な政策運営を続けてきた。「将来の所得の先食い」であって日本経済は悪化するばかりである。

 財政政策や金融政策など裁量的なマクロ安定化政策そのものに、新たな付加価値を生み出す力はない。マクロ安定化政策だけで潜在成長率を引き上げ、消費水準を恒常的に高めることは不可能である。もしも可能なら、どの国も豊かになっていたはずである。

 20年間続けてきた将来の所得の先食い
 マクロ安定化政策が見かけ上、経済成長率を高めるように映るのは、財政政策を通じて「将来の所得の先食い」が、金融政策を通じて「将来の需要の前倒し」が可能になるからだ。しかし、やはり無から有は生み出せない。上がった分だけ、将来、所得や支出は落ち込み、時間を通して見れば、効果はゼロになる。それどころか財政・金融政策が資源と所得の配分の歪みを作り出す。

 安部新政権は、これを「より大胆に」、「より大規模に」実施しようとしている点で、民主党政権と異なる。本質的には一緒だけれど、程度と色合いが異なる。

 確かに目先の利益は確実に獲得できる。文字通り近視眼的な財政・金融政策の大盤振る舞いでしかない。資本は常に目先の利益で動くからこのようなことが起きる。国家財政を通じて将来世代に負担を先送りする選択がなされやすい。国家は国民にとって収奪機構として機能し、独占資本にとって無から有を生み出す「打出の小槌」として機能する。

 先進国はいずこも将来世代への負担押しつけの結果として公的債務の山をこしらえてしまう。実際にそのようになっている。これを「日本化(ジャパニフィケイション)」という。

 しかし、こうした政策は最終的には、財政危機を招く。国債への信用不安から金融危機、金融恐慌へとすすむ。欧州危機はその一例を示して見せた。

 しかし、目の前で危機が起きてもこれを学ぼうとしない。最後の局面では犠牲は国民に転嫁してしまうからである。最終的には「国家を通じて大多数の国民に犠牲を転嫁すればいい」と考えているからである。1%の考えである、新自由主義とはこんなものだ。

 ギリシャ危機への対処を見ればわかる。「ギリシャ危機」とずいぶん騒いだけれ、ドイツやフランスが心配したのは、みずからが持っているギリシャ国債の価格暴落であって、ギリシャ国民の生活ではない。その証拠に、国債の信認回復のために、ギリシャ国民には緊縮財政を強要している。新自由主義は理論としては破綻したものの、破綻してもなお採っている政策は新自由主義に基づく緊縮政策である。IMFやユーロ首脳は、危機を前にし装いを捨て、1%の利益を守る姿を露わにした。

 日本では日銀に対して、安倍政権のもとマネタイゼーションへの安易な期待が広がっている。中央銀行はマネーという特殊な負債を発行し、マネタイゼーションによって極限まで財政ファイナンスを行う。だが、臨界点に達すれば、財政危機、金融危機、経済危機を招き、われわれの経済・社会制度に壊滅的な打撃を与える。そうした歴史的教訓から、政府から独立した中央銀行制度を構築し維持してきた。しかし、目先の利益のために中央銀行の独立性は、どこかへ蹴飛ばされそうである。

 マネタイゼーションは新たな人為的な景気高揚(=バブル)を生み出す。確かに、中央銀行のファイナンスによって、政府が支出を大規模に増やし始めた初段階では、新たな所得や支出が湧き出てくるから、消費や投資は増え景気は活気を取り戻す、成長率も高まる、しかし、それは先食いにすぎない。そのあとが恐ろしい。効果が一巡すれば、増加していた支出は減少し、成長率も大きく落ち込む。

 信用恐慌、金融恐慌を避けるために、中央銀行のファイナンスによって、財政支出増大が継続される。いったん始まれば、歯止めがきかなくなる。長期金利上昇を抑えるために、中央銀行は市場での国債買い支えを迫られる。だが、次第に効かなくなり、政策そのものが事態を悪化させる要因に転化する。国債を買い支えるために供給するマネタリーベースの価値の裏付けが、中央銀行が保有する国債だからだ、信用不安は広がる。国債が紙くずとなれば、マネーの価値が失われる。長期国債の市場での発行は困難となり、最終的には短期国債ですら買い手はいなくなり、中央銀行がほとんどを引き受けるようになる。後に残るのは、さらに膨らんだ公的債務と収益性の低い政府主導の過剰ストックである。要はバブル崩壊であり、金融恐慌である。

 このような段階になれば、「2%のインフレターゲット」どころか、200%のインフレになろう、円も暴落し「ハイパー円安」になろう。

 すでに国内総生産(GDP)の2倍以上の公的債務を抱えている日本経済は、危うい均衡の上に立っている。低金利が続いているから財政破綻が避けられているのは「幸運」であるのかもしれない。しかし、長期金利が急騰すれば、その途端に財政危機・金融危機が始まる危険性がすぐ先に見えている。そのような中で、「2%インフレターゲット」、「資産価格に相当な影響を及ぼす極端な拡張的政策」に打って出ることは、極めて危険である。

 今回の2008恐慌、サブプライム恐慌によって、欧州や米国は金融恐慌に陥った。今もなお、莫大な不良債権を抱えており、銀行・金融機関救済のため、長期に低金利政策を続けなければならない。その姿は20年前の日本である。20年前の恐慌爆発の後の日本経済の姿と実によく似ている。欧米経済は、日本化の過程を辿っている。

 日本資本主義は、その危機の様相において世界資本主義の先頭、一周まわりの先を走っていると言っていい。その結果としてのGDPの2倍にというかつてない規模の国家債務蓄積である。これがどのような「破綻」をもたらすか、どれほどの爆発力なのか、いまだ誰も見てはいない。

 「アベノミクス」は目先の利益のためにその「破綻」に向かってあえて一歩踏み出そうとしているのである。 (文責:小林 治郎吉)





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牧野弘幸

今回の株価上昇、見かけの株価上昇の様に見えますね。実際の所、欧米の企業・個人が購入に動いているだけであって、日本の企業・個人はあまり動いていない模様、円安によって日本株に手が届きやすくなった点もあると思います。株価をドルに換算すれば横ばいに近く、国内の企業・個人が購入に動かないのは、あまり企業業績が改善していないのでは疑問に残ります。勿論、円安によって輸出中心の企業は業績が回復しますが、輸入中心の企業は業績が悪化するため、差し引きゼロ、そもそも、円安が進行しているのは、日本円への信頼低下、言うならば、日本と言う国家自体の信頼自体が低下していると思いますよ。財政出動自体は大事ですが、雇用拡大・賃金上昇を伴うものでなければいけません。その点を安倍首相は軽視しているため、良くて前回の小泉・安倍内閣の様な「見かけの好景気」、悪くてスタグフレーションに陥るでしょう。
by 牧野弘幸 (2013-02-04 00:47) 

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