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フィリピン大統領選挙戦、はじまる [フィリピンの政治経済状況]

フィリピン大統領選挙戦、はじまる

1)フィリピン大統領選挙戦、はじまる
 5月10日に行われる、フィリピン大統領選挙まで3カ月を切った。
 現在、大統領選挙に立候補したのは、コラソン・アキノ元大統領の息子、ベニグノ「ノイノイ」・アキノ上院議員(自由党)、マニ・ビラ(マヌエル・ビリヤール)上院議員(国民党)、ジョセフ・エストラダ元大統領、ギルベルト・テオドロ元国防相(与党ラカス)、リチャード・ゴドン元観光部長官など8候補である。一番有力とされる候補は、アキノ上院議員とマニ・ビラ上院議員であり、両者の支持率は2~3%前後を記録しながら接戦を繰り広げている。

2)フィリピンの選挙
 今回の選挙では大統領と副大統領の外に、上院議員 12人、下院議員226人、17,500余名の地方議員を選出する。フィリピンの大統領は、6年単任制、上院議員は6年制連任、下院議員は3年制で三度まで連任可能。

 フィリピンの選挙は、昨年11月のミンダナオ・マギンダナオ州知事選にからむ大量虐殺事件のように、利権と直接結びついている。大統領や上院下院議員、州知事になることは、国家事業や認可制度、軍・警察を使い、国家予算や利権を手に入れる地位を得ることであり、賄賂を得るだけでなく外国政府・資本との「ジョイントビジネス」の機会が生まれ、自身の資本家としての事業を有利に進めることが可能となり、要するに、フィリピン支配層になることができるのである。逆に、落選すれば、在任時の汚職を追及され罪を問われ、支配層から追い払われることもある。
 そのため、選挙には支配層としての生き残りがかかっており、必死なのだ。大統領選挙では生き残るため候補者暗殺などのテロが相次いでいて、毎回100人前後の死者が出ている。

 それから、今回の選挙では、電子開票機が初めて導入されるそうだ。フィリピンでは投票から開票まで1カ月以上もかかっており、そのあいだ「不正工作」が公然と行われてきた。ただ今回導入される電子開票機は、機械納入者と斡旋者へ利益をもたらすだろうが、「不正」を解決する対策にはならず、逆に開票機を利用した新しい不正、トラブルを引き起こすのが“オチ“だろう。

3)アキノ候補とビラ候補

 有力とされるのは、アキノ氏とビラ氏の二候補である。
 故コラソン・アキノ元大統領の長男、ベニグノ・アキノ上院議員(50)が世論調査で支持率トップを走る。昨夏亡くなったアキノ大統領にならい「清潔な政治」、「汚職撲滅」を掲げている。故コラソン・アキノのイメージの利用、二番煎じを狙っている。

 人気を集めているアキノ候補ではあるが、一族が所有する大農園が攻撃の的となり、土地改革も選挙戦の争点に浮上してきた。タルラック州にある一族所有の農園「アシェンダ・ルイシタ」は、総面積約6400ヘクタールに及び、敷地内には、学校や教会もある。住民約3万4000人の大半は、同農場の労働者とその家族。
 そこで再び注目を集めているのが、2004年の「ルイシタ農園虐殺事件」。ルイシタ農園で農業労働者が賃金と待遇改善を求めて行ったストに対し、11月16日、2歳と5歳の子どもを含む14名が、フィリピン国家警察と歩兵第69大隊と歩兵第703大隊に属する兵士らの発砲によって殺害された。虐殺は、ルイシタ農園経営者と政府の指示によるゆえ、アキノ一族の責任はまぬがれない。
 フィリピンの大土地所有制は貧困の元凶だが、歴代政権はこの問題に手を着けずにきた。アキノ元大統領は88年、包括農地改革法を成立させたが、様々な抜け道をつくった。農園と農地を株式会社化した会社所有にし、土地に代わり株式の分配を認める条項を利用し、結局農民に土地を分配しなかった。

 一方、貧困地区出身ながら不動産開発で莫大な富を蓄積したマニ・ビラ候補(60)が、「貧困解消」を掲げ、テレビなどで大量のイメージ広告を流して、支持率をあげている。ビラ候補は「実家の裏庭さえ改革できない人間に、国を任せられない。土地配分こそ経済、社会発展の基礎」とアキノ候補を痛烈に批判する。
 しかしビラ候補は、「貧困解消」する社会変革のイメージは垂れ流すものの、プランは持ちあわせてはいないし、その意思もない。ビラ候補は、日比EPAに反対してきたし、左派政党「バヤンムナ」「ガブリエラ」やマルコスの息子とも連携している。政策は一貫しない。一貫しているのは「票集め」の思惑であろう。

 フィリピンでは資本家層が買弁的であり、かつ階級として「薄く」しか存在しておらず、しかも互いに対立している。そのことは資本家全体の利益を体現する確固たる政党と政党政治が、存在しない現状をつくりあげた。フィリピン政治では「政党」が役割を果たしていない。

 そのため候補者たちは、選挙ごとに即物的な「票集め」に走る。貧民地区に行き金をばらまいて投票を公然と買収する、宗教団体を丸ごと買収する、メディアでイメージ広告を流す(この点では十分にアメリカ並み・日本並みになっている)。一番手っ取り早いのは、投票された票を操作すること。

 今回のビラ候補と「バヤンムナ」「ガブリエラ」との選挙協力の目的は、ビラ候補側からすれば単に票集めであろう。左翼連合は政党リスト選挙で比較的大きな得票を得る。これまでなら中道左派・自由党のアキノ候補にすんなりと流れたであろう都市知識人層の票の獲得を、期待している。

 左翼政党「バヤンムナ」オカンポ下院議員と女性政党「ガブリエラ」のマザ下院議員はともに、ビラ候補のナショナリスタ党から上院議員候補として立候補するが、その事情は、日頃からの弾圧や選挙弾圧が厳しいため国民党の傘の下に避難する意味が強いのであろう。必ずしも「統一戦線」などを意味しないだろうし、思惑通りにはならないだろう。逆に、ビラ候補の民族主義的政策に期待したとすればそれは幻想を煽ることになる。

4)政策の違いはあるか

 アキノ上院議員、ビラ上院議員、ゴドン元観光部長官、エストラダ元大統領、テオドロ元国防相の5人は、外国人投資規制緩和措置が憲法改悪を要する事案であるにもかかわらず、みな前向きの姿勢を見せている。5人の大統領選挙候補が、グローバル競争時代を迎え、外国投資者にメディア、土地、学校などの所有を許し得るなどの一層の「外国人投資規制緩和」の意向を明らかにした。

 これまで水道や高速道路など「外資に民営化」し、儲かるものは何でも売り渡してきたが、さらに売り渡そうとしている。巨大プロジェクトなので投資できるのはほぼ外資であり、したがってより一層、フィリピンから富が吸い上げられ外へ出ていくことになる。
 すなわち、どの候補も新自由主義の「世界秩序」を受け入れることを表明しており、たいした違いはないと言えよう。誰が大統領になってもフィリピン社会は大きく変わらないこと、別の言い方をすれば、米日政府ともに誰が当選しても許容するであろうことを意味している。
 ただし、新自由主義導入のフィリピンに未来はない。

>※「リメンバー・2001年12月・ブエノスアイレス!」   新自由主義の行く末は、2001年アルゼンチンの破綻が暗示している。当時のメネム政権は、ちぎれるほど尻尾を振って米国に擦り寄り、外資導入を徹底した。その代償は大きかった。電気・ガス・水道から電話・航空・鉄道にいたるまで、売れるものは何でも売りつくしてしまった。そして売るものが何もなくなった時、政府そのものが瓦解した。  IMFは、メネム政権の経済政策を支えたカバージョ経済相をネオリベラリズムの申し子として誉めそやしたが、いよいよ国家財政が破綻するという2001年10月22日、IMF本部を訪れたカバージョは、門前払いを食わされた。その直後アルゼンチン政府は朽木が倒れるごとく崩壊した。  貧困階級は軍政時代前の6%から63%へ、国民の24%は日に1ドルの極貧生活。インフレ率は41%,必需食料品は1年間で70%の値上り、ブエノスアイレス郊外では,住民が牛肉の代わりにカエル,猫や馬車馬の肉を食べて飢えを忍んでいると報道された。  政権は崩壊しても債務は残った。債務返却のため、アルゼンチン国民は貧困と荒廃の時代を過ごしている。(鈴木頌「ラテンアメリカの政治」よりhttp://www10.plala.or.jp/shosuzki/edit/otherla/lasituation.htm) 5)「よりましな」選択は可能か  最低限でも政治的殺害問題、人権問題などを解決する「よりましな候補」を支持することはできるか、その基準で大統領候補者たちを眺めても、なかなかはっきりした答えは見つからない。政治的殺害への批判は選挙戦を通じて各候補に訴えなければならないし、「バヤンムナ」オカンポ下院議員、「ガブリエラ」マザ下院議員はそのような選挙戦を闘うようでありその努力は支持するものの、フィリピン大統領選挙と新大統領が「よりましな」フィリピン社会をもたらすかの選択さえ、難しいように見える。(文責:小林 治郎吉)
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