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ミンダナオ大量殺害から何がみえるか? [フィリピンの政治経済状況]

ミンダナオ大量殺害から何がみえるか?

1)ミンダナオで、57人もの大量殺害事件発生
 2009年11月23日、フィリピン南部ミンダナオ島マギンダナオ州で、知事候補の親族、ジャーナリストら57人が殺害される事件が発生した。2010年5月の州知事選の立候補届け出に向かっていたマングダダトゥ候補の車列が、アンパトゥアン一族と見られる100人以上の武装グループに襲われた。候補者本人は乗ってはいなかったが、候補者の妻ら親族のほかジャーナリストも同乗していた。犠牲者57人のうち、少なくとも20人以上は地元記者とみられている。女性やジャーナリストを乗せておれば、襲われないだろうと考えての対応だったようである。
 アンパトゥアン一族は、ミンダナオ・イスラム教徒自治地域(ARMM)知事、マギンダナオ州知事など州の要職を長年親族で独占してきた地元有力者一族であり、別の地元有力者マングダダトゥ一族による今回の知事選への立候補を、一族支配への挑戦と受けとったようだ。
 国軍と国家警察は、殺人や反乱の疑いで一族の家長、アンダル・アンパトゥアン州知事のほか、息子のARMM知事ら62人の身柄を拘束。一族の敷地などから自動小銃や迫撃砲など883丁の武器と、約43万発の銃弾を押収した。国軍や国家警察から横流しされた武器も確認された。
 地方政府の機能が失われる事態に発展したため、フィリピン政府は12月4日、戒厳令を布告し、一族の支配下にあり停止状態になっていた行政機関もすべて国軍の統制下に置かれた。国軍と国家警察は4日、アンパトゥアン一族の自宅などを捜索し、迫撃砲や機関銃など大量の武器を押収した。

2) ミンダナオとは?アンパトゥアン一族とは?
 ミンダナオ島では、歴代のフィリピン政権はキリスト教徒の政治家や協力的なイスラム教徒の一族を支援して、先住のイスラムの人たちを追いつめ、入植・開発してきた。迫害された住民は、MNLFのもと分離独立をかかげ、永年にわたる戦闘は多くの人々を苦しめた。
 他方、イスラム反政府勢力の分離・独立を抑え込むため、アキノ政権以降、永年にわたる交渉の末、ミンダナオ・イスラム教徒自治地域(ARMM)で自治を認め、96年にはイスラム最大派、MNLFと歴史的な和平協定を締結し、議長のヌル・ミスアリがARMM知事に就任した。
 問題は解決に向かうかに見えた。ところがアロヨ政権は、発足後まもなくの2001年に、ミスアリへの汚職・腐敗追及キャンペーンを繰り広げ、ミスアリ議長退任へと追い込んだ。これ以降、アンパトゥアン一族がARMMの利権をほぼ掌握した。アンパトゥアン一族もイスラムではある。05年には子息がARMM知事に就任し、アロヨ-アンパトゥアンによるミンダナオ中西部支配体制が完成した。イスラム自治権承認を、アロヨがアンパトゥアン一族を使って剥奪し、自分のものにしたと見ていいだろう。その目的は、開発利権の「奪取」である。

 2004年大統領選で劣勢だったアロヨ大統領は、マギンダナオ州イスラム自治区内で不自然なほど、対立候補の3倍以上の票を獲得した。他方、開発やインフラ整備のため膨大な政府予算を投下するなど、アロヨ政権とアンパトゥアン一族との緊密な関係は続いた。一族は、4,000人もの私兵を組織し武装し、フィリピン政府と国軍、警察の支援を受けて、地域の支配者になっていった。(参照、岩波『世界』、加治康男「フィリピンで25年ぶりに戒厳令」)

3)開発利権が集中するミンダナオ
 ミンダナオはニッケル、銅、金、石油・天然ガスなどの鉱物資源の宝庫であり、96年のMNLFとの和平合意以降、欧米日・中東からの開発投資、政府のインフラ整備事業など、多額の資金が流入した。フィリピン政府-ARMMに利権が集中し、「汚職の巣」となった。今回の知事選挙、大量殺害の背景には巨大な利権がある。地方の支配者であることは利益をもたらすのであり、大量殺人をしてまでもまもるべき利害と地位なのである。

 アンパトゥアン一族は、例外というより地方のフィリピン社会のどこにでも存在するボス政治家一族であり、このような構図はフィリピン社会各地に存在する。そしてアロヨ政権は、そのようなボス政治家たちの支持のもとに成立しているし、彼らと利益を分け合う「連合」政権でもある。アロヨはアンパトゥアン一族と同類の政治家・「同じ穴のムジナ」であり、彼らの親分筋に当たる。

4)事件を通じてフィリピンの現支配体制が透けて見えた
 アロヨ政権下では政府に批判的な活動家やジャーナリストが殺される「政治的殺害」と呼ばれる事件が頻発。国軍や警察の関与がささやかれるが、事件が解明されることはほとんどない。「有力者は罪を犯しても罰を受けない」という風潮がフィリピン社会に広がっている。アンパトゥアン一族が白昼堂々と多数を殺害する事件を起こしたのは、こうした現存の権力の暴走でもある。
 アロヨ政権が「政治的殺害」を積極的に推進し利用してきたその結果でもある。ここまで無法が広がった根本的な原因は、アロヨ政権が自らの権力維持や住民支配に、私兵集団を持つ地元ボスを利用してきたその支配システムにある。アロヨ政権のこの国内テロ支配体制こそ問題の根源であり、国内テロ支配体制をこそやめさせなければならない。

5)開発こそがその原因
 しかし同時に、アロヨ政権と州知事ファミリーらの関係とまるで相似形をなして、アメリカ政府・日本政府とアロヨ政権の関係が存立していることもまた、わたしたちは忘れてはならない。
 この無法な支配システムが生きて育つ「エネルギー」をあたえているのは、ミンダナオの天然資源にむらがる欧米日・中東からの開発投資、政府のインフラ整備事業、ODA である。資源投資の先進国資本、先進国政府も、「開発」の果実を受け取るため、この「無法な支配」を育て利用しており、その片棒を担いでいるのである。

 他方、米軍は「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」を締結(1999)し、テロ対策と称してミンダナオに常駐している。アブサヤフ、モロ・イスラム解放戦線(MILF)、新人民軍をテロリストと勝手に「認定」している。米軍がミンダナオに常駐するためには、「テロリスト」が存在しなければならない。米軍は、テロリストとの戦闘と称して村々を焼き払い、住民を追い出して、そして開発が始まるのである。

 今回の事件によって、フィリピン社会の支配体制・その仕組みが、鮮やかに透けて見えた。「政治的殺害」がはびこる人権無視の社会は、決して「前近代的な」「遅れている社会」であるからではない。先進国による開発を現地で実行する現代的な支配システムとして機能しており、「開発」によって日々、再生産されている。「古いもの」、「前近代」ではなく、逆に「最も新しい」、「新自由主義の生み出す新しいシステム」である。(文責:玉)

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