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選挙後のフィリピン情勢 [フィリピンの政治経済状況]

選挙後のフィリピン情勢

 選挙後のフィリピン情勢について民族民主連合(KPD)から長文のレターが届きました。あまりにも長いので表現なども変えて短くまとめなおしました。その結果、まったく別の文章になりました。したがって文責は当方にあります。最近のフィリピン情勢を知る上で参考にしてください。


(マニラ、3月8日国際婦人デーのデモで)

1) アロヨは選挙に勝ったか?
 アロヨ政権は、今回の選挙で安定多数を獲得し、自らの支配基盤を確実にしようとした。しかし、選挙結果はアロヨの思うとおりにならなかった。上院では与党は12議席中3議席獲得できただけで、多数を獲得できなかった。アロヨ政権は圧倒的多数のフィリピン人民の支持を得られなかったし、都市住民層、中間層、支配層内部での安定した支持も得られなかった。選挙を通じて人々は反アロヨ意識を高めたし、アロヨは更に孤立した状態に陥った。ただ、人々は自分たちの本当の代表を送り出すことはできていない。

2) 何で2ヶ月もかかるのか?
 選挙は5月14日に行われたが、最終的に結果が確定するまで2ヶ月かかった。どうして2ヶ月もかかるのか。決してフィリピンではすべてがのんびりしているからではない。そもそも選挙を管理している者たちが選挙をごまかしていて、投票後のごまかし争いが長引いたからだ。投票率は80%を超えたとされているが、本当のところは疑わしい。ある部分は大量の票水増しがあるし、一部には票が勝手に廃棄されている。票の買収もおおっぴらに行われ、買収価格は高騰した。この結果2ヶ月もかかった。また、フィリピンでは選挙のたびに多数の死者が出る。国家警察発表によれば立候補受付がはじまった1月14日から6月14日までのあいだの選挙関連の死傷者は299人で、そのうち死者が121人に達したという。

3) 選挙とは何だったのか?
 こんなことからすると選挙は、フィリピン支配層のあいだで繰り広げられた一つのショウであった、と言わざるをえない。厚顔な政治的詐欺、票の買収、政治的殺人が演じられた。演じた者はフィリピンの支配層のいろんな政治一族である。アロヨ政権だけでなく、地方の有力者一族もまた同類なのであって、アロヨ予備軍がうようよしている。フィリピンでは、政治家になって特権を得てビジネスを行うのが、支配層に成り上がる一つの道筋である。世襲による権力継承した一族が支配する大部分の地域では、依然として一族は地方の権益を握ったままである。彼らは地方政界と経済を牛耳り、かつまたアロヨに倣って中央政界に進出したがっている。

4) 選挙がもたらしたもの
 このような選挙であるにもかかわらず、一部では人々は健全な態度を示した。パンパンガ州では買収行為が当たり前だった現職の知事と名の知られた賭博女王を拒否し、別の候補を選んだ。また、都市中間層や富裕層のあいだでもアロヨ政府のやり方を批判が高まり、与党候補を落とし野党候補を当選させた。野党はアロヨ政府によって抑えつけられてきたが、選挙を通じて反アロヨの陣営がより明確に形成されつつある。

5) 政治的殺害
 また、今回の選挙期間を通じて多数の死者が出た。アロヨ政権になって以降、政治的殺害は900人にも達しようとしている。政治的殺害は、アロヨ政権の一つの政治的手法であり、軍を使った左翼勢力や民主主義団体に対する弾圧に他ならない。政治的殺害は、左翼勢力の根絶を狙っているし(その政府計画が最近暴露された)、国内の民主主義勢力と大衆を切り離すことを目的にしている。政治的殺害に対する批判はフィリピン社会に広範に広がっている。被害者家族や人権団体が、殺害のひとつひとつの告発を粘り強く行っている。民主主義勢力、人権団体からだけではなく支配層の一部からも批判が続出している。
 他方、政治的殺人事件の多発により国際社会ではフィリピンに対する信用が失墜しており、国際的な批判はますます高まってきた。EU調査団がすでに調査に入っている。アロヨ政府はこれを受け入れざるを得なかった。国際的に人権問題の批判が続いていて、公式的にはアロヨはそれを拒否できない。
 アロヨ政府の強力なパトロンである米政府は、表向きは政治的殺人を非難しながらも、実際にはアロヨ政権とその政策を後ろから支えている。アロヨ政権に対する今年の米政府の援助額が大幅増額したことでも明らかである。

6) 政治的殺害が政治的焦点に
 選挙を終えて、政治的殺害問題が一つの政治的対立の焦点になりつつある。アロヨ政権は政治的殺害を「合法化」するために、7月15日には「テロ対策を名目に令状なし逮捕や盗聴捜査などを可能にする」人身安全保障法(テロ対策法)新たに制定・発効させた。しかし、テロ対策法はアロヨ政権による暴力的支配を強化するものだという批判が、いろんな階層から起きている。ギンゴナ元副大統領は「テロ対策法は、戒厳令よりも悪い」と表明したし、野党のマドリガル議員は「テロ対策法の廃止を求める法案」をすでに提出した。さらに7月10日には、2006年2月のクーデター騒ぎの際に反乱罪に問われていたベルトラン議員ら左派系政党六議員に対し、最高裁は「六議員を反乱罪に問うに足る有力証拠に欠ける」と断じ、司法省の再考申し立てを却下した。 また、ジャーナリスト殺人・脅迫事件などを担当する司法省検察局特別捜査班は、左派系活動家のジョナス・ブルゴス氏失踪事件において、国軍情報部(ISAFP)員5人の関与した疑いがあるとして国家捜査局に捜査を命じた。左派系政党・団体など反政府勢力への押さえ込み政策を進めてきたアロヨ現政権に対して、政府機構内部からの公然とした批判が相次いで出てきた。
 このことは選挙後、アロヨ政府の「軍を使ったテロ支配」政策、政治的殺害問題への批判が、アロヨ政権の存続にかかわる政治的批判にすでになりつつあるし、今後のフィリピン政治はこの問題をめぐって展開するであろうことを示している。(文責:児玉)


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