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格差からの脱出――NHKスペシャル [映画・演劇の感想]

格差からの脱出――NHKスペシャル

8月4日、NHKスペシャルで南米の新しい政治的動きを報道した。

1)ブラジルの実験
ブラジル政府がすすめる社会変革を報じていて興味深く見た。
そこには新自由主義、グローバリゼイションに対抗する新しい試みがあったからである。

ブラジル政府は、バイオ燃料エタノール生産を社会全体が取り組み、格差から脱出を試みている。

さとうきびを生産し、収穫したさとうきびを農園の工場でエタノール燃料に精製する。さとうきびは収穫後早く精製しなければならないそうで、工場は農園の中心に建設される。エタノールはガソリンの代替として国内で使用し、海外へも輸出する。しぼりかすは工場で燃やして発電の燃料にする。農場で働く農民も工場で働く労働者・事務員も同じ会社の社員として働く。農園と工場を単位とする村ができ、そこには学校なども建設される。すでに300万ヘクタール(東京との14倍)が開発され、100万人の雇用が創出されたという。

ブラジル政府は、ガソリンに20%以上のエタノールを混ぜることを義務付けた。エタノールで走る「フレックス車」が欧州自動車メーカーを中心に生産され、どのような混合比でも走るという。エタノールはガソリン価格の50%で生産できる。ブラジル以外にもエタノール生産を検討しており、さとうきび、とうもろこし、甜菜などでエタノール化されているが、さとうきびがもっとも生産効率がいい。

このエタノール生産のための社会変革は、2003年1月、労働者党ルーラ大統領が政権についてから、格差からの脱出政策「アグリエネルギー計画」の一つとして実施され、公平な分配,地球環境の保護をうたっている。多くの農民が南東部サンパウロ州に移住した。ブラジルのさとうきび生産は急増し、今では世界の三分の一、4億トンを生産している。

ブラジル北東部の貧しい農民から南東部への移住者を募り、さとうきび生産に従事させる。北東部は水が少なく農業生産性が低い、農民は生きていけない。特に新自由主義のもとで農産物の輸入自由化が行われ、農民の生産物は市場で売れず収入は激減した。そこへ旱魃である。北東部農民の多くが都市へ流入しスラムを形成し、麻薬や犯罪の温床になった。新自由主義は、ブラジル社会に大量の下層人口を作りだし、ブラジル社会を混乱させ、破壊した。ブラジルは1980年代以降、停滞の30年間を過ごした。グローバリゼイション、新自由主義は何ら豊かな未来を約束しなかった。ブラジル社会は、「停滞の30年間」によって、自身の体験によって、新自由主義が役に立たないことを証明した。ブラジル人民は身を持って新自由主義の本当の姿を思い知らされた。

IMFや世界銀行の学者が、新自由主義によって豊かな未来が約束されると宣伝して回ったことは、すべて嘘っぱちであったことを、大きな犠牲を払って学んだのである。この授業料が少々高かった。

ブラジルの試みは、新自由主義にどのように対抗していくのかという一つのモデルを提示している。

南米では新自由主義が国内の荒廃をもたらした。これまでの「文明」を破壊した。すでに南米十二カ国のうち五カ国は左翼政権に変わった。そのことは新自由主義に対する人々の批判が如何に強いかを示している。

2)ブラジル社会の実験が持つ意味

ブラジル社会の実験の第一の特徴は、ブラジル国家が主導権を取って、公平な分配,格差なき社会を目指していることである。グローバリゼイションや新自由主義、多国籍企業に対抗するには、人々の支持を得た代表が国家の代表となり、「国家の力」で対処する以外にないことを再度確認した格好である。それ以外に対抗する力はやはりない。
第二に、決して資本の価値法則に逆らって政策を立てているのではない。エタノール生産・販売は、ガソリンなどの国際価格よりも低い価格で生産・供給し、国際市場に受け入れられることを前提にしている。あくまで資本主義の枠内での改革を「苦労して」目指している。
第三に、農業生産と工業生産を結びつけて、あるいは「公平な分配」と「環境保護」までも視野に入れて掲げていることである。(正確に言えば「より公平な」と言うべきであろう。)
利潤を略奪的に奪っていまう新自由主義が、決してできなかったこと、やろうとしなかったことを堂々と実行している。

しかし、このようなことができるのはブラジルが広大の土地を持っているからである。ベネズエラにしても巨大な油田を国家の手に収め、多国籍企業の勝手な収奪を許していないのだが、それにしても油田があるからである。他の途上国はブラジルやベネズエラほどの条件を持ってはいない。
したがって、ブラジルやベネズエラの実験は、必ずしもそのまま他の諸国に適用できるわけではない。ただ、新しい希望が手探りで育ちつつあるのも確かだ。

NHKの報道は、エタノール燃料生産の技術的な性格から説明する傾向にあった。この社会的実験には、貧困から抜け出そうというはるかに大きな構想、期待がある。
この社会的実験は、アメリカの言いなりになる政府、新自由主義の政府、これまでの軍事独裁の政府では決してできないものである。

「現代世界とその秩序に対する批判」は、国家権力を奪取して国家の力で新自由主義、多国籍企業、先進国政府に対抗し、自国の人々の生活破壊から守り、雇用を創出し、教育をおこなう・・・という道筋を確かに歩もうとしている。


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