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オバマ政権のシリア戦略の破綻 [世界の動き]

アレッポの敗北、
オバマ政権のシリア戦略の失敗

1)アレッポでの敗北は、何を意味するか? 
オバマ政権のシリア戦略の破綻である161212 シリア勢力地図 アレッポ奪還.jpg
<シリア勢力地図 アレッポ奪還>
 
 シリア政府軍がアレッポを制圧した。アレッポはシリア最大の都市で人口200万。反政府軍の支配下にあった。
 シリア政府とロシアは、シリア反政府軍の兵士とその家族が武器を捨てて撤退することを認めた。12月16日、アレッポからシリア政反府軍の兵士とその家族がバスや救急車で撤退を始めたと伝えられている。

 シリア反政府軍のアレッポでの敗北は、何を意味するか?
 オバマ政権のシリア戦略の破綻である。
 シリア反政府軍のアレッポの敗退によって、戦局は大きく変化した。

 アレッポはシリア反政府軍の最大重要な拠点であったが、シリア反政府軍はこれを失った。シリア反政府軍は、アメリカやイギリスの手駒であり、アメリカやイギリスは戦闘員を訓練し、武器を供給し、侵略を仕かけてきた。アレッポにはアメリカやイギリス、イスラエルなどの特殊部隊、将校もいて、多数捕虜になった模様だ。シリア反政府軍の指揮系統、アメリカ、イギリス、イスラエル、サウジやカタールの特殊部隊の指揮系統でもあるが、これがいったん破壊されたことになる。もはやこれまでのような戦争介入は困難になった。

2)アメリカ抜き、ロシア、トルコ、イラン、シリアで停戦合意
   オバマ政権のシリア戦略破綻をさらに確定した
  
 さらに重要なことは、ロシアとトルコが12月29日にシリアにおける停戦で合意したことだ。アメリカ抜きの合意だ。イランも停戦合意文書の作成に参加、シリア政府や反シリア政府の7組織(戦闘員総数約6万人)も署名、国連もこの合意を認めたようだ。12月に入り、カタールはシリアへの侵略戦争から離脱、平和交渉にはエジプトも加わると見られている。

 アメリカやサウジとともに、戦争介入してきたトルコ・エルドアン政権は、クーデター騒ぎでアメリカへの不信を極大化させたこともあって、アメリカとともにシリアに戦争介入しても、この先見込みがないと判断した。そしてこれまでの態度を転換し、ロシアやイランと協議を開始し、アサド政権を認めたうえでのシリア和平協議に加わった。

 オバマ政権は、エルドアンの態度変更を止めることができなかった。12月19日、トルコ駐在のロシア大使、アンドレイ・カルロフが12月19日にアンカラで射殺された事件が起きたにもかかわらず、ロシアとトルコの新しい関係は壊れなかった。ロシアとトルコの接近は、アメリカやサウジ、イスラエルにとってはぜひとも阻止しなければならなかった。しかし、阻止できなかった。ロシアとトルコの新しい関係を破壊する目的で大使暗殺は仕かけられたことを、プーチンもエルドアンも理解したのである。

 アメリカやサウジ、イスラエルにとって、トルコを巻き込んだ停戦が成立するのは困る。だから、テロリストを使って暗殺事件を起こしたのだ。ついでにいえば、テロリストはアメリカやイギリス、サウジ、イスラエルの手駒であることをも証明した。

 停戦の妨害は、12月19日のアンドレイ・カルロフ露大使射殺だけではない。12月28日と29日にはダマスカスのロシア大使館が攻撃された。トルコとロシアの停戦合意を破壊する目的だったろうが、成功しなかった。また、12月23日にオバマ大統領はシリアの「反対者」への武器供給を認める法律に署名した。アル・カイダ系武装集団やダーイシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)に対する支援を、トランプ次期政権に押しつけたということだろう。
 オバマ政権がネオコンに支配されていることの証明でもある。

 トルコが停戦合意したことは、戦術的に重大な意味を持つ。
 アメリカやサウジはシリア反政府軍やダーイシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)へ資金を援助したが、武器や食料、特殊部隊はすべてトルコ国境を通じて供給された。シリア反政府軍、ダーイシュの兵站が絶たれるのだ。トルコ国境は、シリア反政府軍やダーイッシュやアル・カイダ系武装集団(AQI、アル・ヌスラ、ファテー・アル・シャム/レバント征服戦線と名称を変更したが、その実態は同じ)の兵站線であり、ここから武器が供給され、武装集団の財源となった盗掘原油が運び出された。

 ダーイッシュが強大になったのは、支配地域で石油を盗掘し、その資金で武器を買い、戦闘員を雇ったからだ。盗掘原油の販売も武器購入もトルコ国境を通じて行われた。ダーイッシュを倒す方法は明白で、盗掘原油を買わせないこと、武器の供給を止めることである。2015年9月30日からのロシアによる空爆は、これを行った。油田地域から追い払われ、アメリカやサウジから武器支給がされなくなったダーイッシュは、この先必ず弱体化する。

 シリア反政府軍はアレッポから西のイドリブへ撤退しているが、もはや戦闘継続も難しいだろう。いずれシリア反政府軍は壊滅し、シリア政府軍の支配下にはいるだろう。 

 この停戦合意には、アル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュは参加していない。アメリカ、フランス、イギリス、サウジアラビアも停戦には参加していない。シリア介入の手駒を失ったアメリカは、影響力をもはや行使できないということなのだ。オバマ政権は政権移行期にあり、茫然自失状態に陥っている。

3)シリア反政府軍とは何か?戦闘員は誰か?

 シリア反政府軍の戦闘員とは、アメリカ、イギリス、フランス、トルコのNATO加盟国、サウジアラビアやカタールのようなペルシャ湾岸産油国、そしてイスラエルが使ってきた傭兵である。シリア国民はほとんどいない。したがって、この戦闘は内戦ではない。外部からの戦争介入であり、国際法違反の不当な介入である。

 テロ集団を雇い戦争をしかけ、「反テロ戦争」を理由に戦争介入し、崩壊国家にし支配するというのが、オバマ政権が推し進めてきた中東支配である。リビアではカダフィを倒したが、シリアでは失敗に終わったということだ。
 
 アメリカ政府はシリア反政府軍を、ダーイッシュとは違う「穏健派勢力」と区別しようとしているが、「穏健派」とはネオコンとその支配下にあるマスメディアがつけた名札にすぎない。また戦闘員は、敗退するシリア反政府軍から逃れ、ダーイッシュやヌスラ戦線に雇い主を変えるものも多く出ている。

 ダーイッシュが傭兵集団であり、雇い主がアメリカ政府と同盟国(サウジ、カタール、イスラエル、英その他)であるという証拠の一つは、2012年8月にアメリカ軍の国防情報局(以下:DIA、当時の局長はマイケル・フリン中将)が作成した報告書である。報告書は、「シリア反政府軍はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(イラクのアル・カイダ)が主力だとし、AQIはアル・ヌスラ(今はファテー・アル・シャム)と同じだ」と説明している。

4) この先どうなるか? 
  トランプ新政権はネオコンと手を切れるか?

 テロ傭兵集団を育成し、戦争介入し、崩壊国家にし、アメリカが支配する戦略を推し進めてきたのはネオコンである。バラク・オバマやヒラリー・クリントンはネオコンの影響下、支配を受けている。

 オバマ政権で、マイケル・フリン中将(2012年~2014年国防情報局局長、以下:DIA局長)は、武装集団の利用の危険性を訴えたが、オバマ大統領から解任された。このマイケル・フリン元中将は、トランプ新政権の安全保障担当補佐官であり、11月に安倍晋三がトランプタワーで面会した際、同席した人物である。

 ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL)が傭兵集団であり、雇い主がアメリカ政府と同盟国であるとする指摘は、DIA報告書以外にいくつもある。アメリカ空軍のトーマス・マッキナニー中将は2014年9月にアメリカがダーイッシュを組織する手助けをしたと発言した。マーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で語り、2014年10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると述べている。2015年にはクラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと語った。

 テロリストを雇い、戦争をしかけ、反テロ戦争として介入する、カダフィ政権やアサド政権を倒し、崩壊国家と混乱状態をつくりだし支配する、これがオバマ政権の推進してきた中東戦略であり、実際に主導権をとり推し進めたのはネオコン、イスラエルロビーだ。オバマやヒラリーはこれを制止するどころか、政権の主要な戦略とし、中東ばかりではなくウクライナ、オセチアでも同じことを行ってきた。オバマは、口先だけの凡庸な人物であり、安々とネオコンの支配を受け入れた。シリアではアメリカの支持したシリア反政府軍は敗退し、トルコは離反し、ウクライナは崩壊国家になり、修復しようのない事態に陥った。オバマの中東戦略は、失敗し破綻に終わろうとしている。
 
 トランプ新政権が、マイケル・フリン元中将を安全保障担当補佐官に迎え、ロシアと関係を改善し、中東戦略を改めようとしているのは、これまでのネオコンの戦略が、すでに失敗に終わっており、現実性がないこと、その継続は極めて危険であることが明らかだからだ。アメリカ社会はこれ以上の戦争政策、戦争介入に耐えられないという事情もある。ロシアを追い詰めるのではなくビジネスを拡大すべきだ判断するアメリカ支配層に、トランプ新政権は依拠している。

 アメリカ次期政権の安全保障担当補佐官マイケル‣フリン元DIA局長は、アル‣カイダ系武装集団やダーイッシュが一時期勢力を拡大させたのはオバマ政権の政策によると認識している。退役後にアル‣ジャジーラの番組へ出演した際、フリン元中将はオバマ政権がDIAの警告を無視して反シリア政府軍を支援、その決定がダーイッシュの支配地域を拡大させたと語っている。

 トランプ新政権はダーイッシュやサラフ主義者/ワッハーブ派やムスリム同胞団を中心とする武装集団を危険視しており、ロシアと手を組んで戦うべきだという考えを表明している。そのことはアサド政権存続を前提にした政策への転換であり、これまでの戦争介入政策の撤回である。

 ただ、トランプ新政権がネオコン影響を排除し、中東戦略を全面的に改めることができるかどうかはまだ定まっていない。
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