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小野田帰還、日本政府は何を恐れたか! [フィリピン元「慰安婦」]

「42年目の真実」が暴き出した真実

残留日本兵 小野田寛郎 ―7月26日 NHK放送―

 7月26日NHKは「42年目の真実」と題して、敗戦後29年間、フィリピン・ルパング島に潜伏し続けた小野田寛郎元少尉が発見され帰国した際の、日本政府とフィリピン政府間の外交交渉文書が情報公開され、当時の極秘の交渉内容が明らかになったと、放送した。

ルパンぐ島に30年潜伏.jpg
<1974年フィリピン・ルパング島で、投降する小野田元少尉>

 この放送を見て、まずあきれた、「被害事実と法的責任は認めない、決して賠償しない、見舞金を支払って済ませる」、「被害者は相手にしないで、政府とだけ交渉する」という小野田帰還に際し日本政府がとった態度に対して。

 これは、日本政府外務省の戦後一貫した態度であり、慰安婦問題での2015年末の「日韓合意」の内容とまったくそっくりなのである。
 そしてNHKが、日本政府のこの立場・主張を、無批判にただ報道したことに、再びあきれた。
 放送は下記の内容を紹介していた。

1)埋もれていた極秘の外交文書

 日本とフィリピンの戦後史を研究している広島市立大学の永井均教授が、残留日本兵小野田元少尉の帰国に関する日本政府の極秘文書670枚を情報公開請求で初めて入手したという。元少尉の帰国を巡り、日本とフィリピン政府との間で極秘の交渉が行われていた。

 公開された文書には、
「小野田氏ら元日本兵により30人が殺され、100人が傷つけられた」
「何らかの手を打たなければ、フィリピン側の世論も納得しない」

 と記されており、「戦争の終結を知らない」残留日本兵らが、地元の住民に深刻な被害を与えていたことが公文書で初めて確認された、という。

 小野田寛郎ら残留日本兵は、敗戦後、29年間継続した戦闘行為によって、30人以上を殺したが、実際に殺傷したのは武器を持たない現地住民が大半だった。そればかりか、住民の畑から作物を盗み、大切な財産である農耕牛(小野田の主張では野生牛)を捕獲し食料にしている。戦争終結後の行為は、フィリピン法に照らして犯罪である。否定しているものの、小野田は敗戦・戦争の終結を知っていたと推測される。(小野田が戦争終結を知らなかったと強弁したのは、敗戦後の30人以上の住民殺害、100人もの傷害が、強盗、殺人、傷害であると自覚したうえで実行したことになるからである。)

2)賠償ではなく「見舞い金」3億円

 交渉の中で、フィリピン政府による被害への補償有無の打診に対し日本政府は1956年の日比賠償権協定で解決済みとの立場を崩さなかった。現地では殺され傷つけられた被害者や遺族も現存していたし、敗戦後の小野田らによる殺人・傷害・窃盗がフィリピン法によって裁かれる可能性もあった。日本政府が最も気にしたのは、フィリピン政府や住民から被害を訴えられ賠償請求されることだった。戦時賠償を恐れたし、そこにしか関心はなかった。

 外交文書は、そのような「真実」を明らかにしたにもかかわらず、NHKはまったく能天気に、日本政府・外務省の主張をそのまま報道したのである。

 結局、「賠償ではない見舞金」をフィリピン政府に支払い、小野田の住民殺人・傷害に対しては当時のマルコス大統領から恩赦を取り付けた。このとき日本政府は、見舞金としながらも、ルパング島の被害住民・遺族を交渉相手にしないで、フィリピン政府、当時のマルコス政権とだけ交渉し、政府に金を支払って住民を黙らせることにした。

 「被害者らは、損害賠償請求権を行使するおそれがある。見舞金は、請求権行使を思い止まらせる効果をもつであろう」。このように交渉記録には、見舞金支出の日本政府の目的が赤裸々に記されている。

 「損害賠償請求権を行使させないために見舞金を支払う」のである。日本政府にとっては、被害者に謝罪するとか、賠償することが重要なのではない。法的責任を認めない、賠償しないことが何よりも重要なのだ。「見舞い金を拠出」し、「フィリピン政府への感謝を表明」しながらも、被害を謝罪し賠償することは決してしない方針を、小野田帰還の際にも貫いたことが確認された。「加害責任は認めない、賠償も果たさない」、その上での「見舞、お詫び、感謝」である。日本政府にとってはそれが「未来志向」であり、「日本側の誠意」の示し方であった。(当時、交渉に携わり、後に外務事務次官を務めた竹内行夫氏が、穏やかなでありながら本当のところ「非情な」卑劣な、そのような言葉でインタビューに答えている。)

 見舞金を管理・運営するのはフィリピン政府から委託された日比友好協会であり、見舞金の管理運営に日本政府は関与しないし、責任を負わない、そのようにも決めている。

 2015年12月の「日韓合意」に際しても、日本政府は「未来志向」という言葉を繰り返した。「加害責任は認めない、賠償も果たさない」、その上での「見舞、お詫び、癒し」である。侵略し加害の過去を消し去ることが、日本政府にとって一貫した「未来志向」の意味なのである。


訃報 小野田寛郎 91歳.jpg
<投降時の衣服・靴の一部>

3)3億円の使途は?

 比日友好協会は3億円を何に使ったのか?
 元日比友好協会関係者は、日本語学校の運営や、日本への留学生の支援に充てたと語った。一方、NHKの取材に対し、ルパング島の被害者遺族は、「見舞金を受け取っていいないどころか、見舞金の存在さえ知らなかった」と語り、ルバング島元町長は、「3億円が住民や島のために使われた事実はない」と答えた。

 小野田帰還に対する日比交渉の結果、結局、被害者や遺族は、日本政府から公式謝罪されることもなければ、賠償されもしなかったのである。

 これは、誰が悪いのか? 何が問題なのか?
 3億円を勝手に使った日比友好協会が悪いのであって、日本政府に責任はないことになるのか?

投降命令を受ける小野田さん1974.jpg
<1974年、フィリピン、ルパング島、元上官から投降命令を受ける小野田寛郎元陸軍少尉>

4)1956年の日比賠償権協定で解決済?

 日本政府・外務省は戦時賠償については、各国との賠償権協定で解決済との立場をとり続けている。各国との請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」と定めていることを根拠に、すでに法的責任はなく、賠償責任もない、だから新たに、あるいは追加して賠償することは禁止されており、それゆえ見舞金としてしか拠出できないという立場をとっている。個人賠償請求権問題も法的に解決済みであるとし、法的には被害者個人に賠償することが禁じられているかのように主張するのである。

 このような日本政府の理解と主張は、きわめて身勝手なものであり、国際基準から外れている。慰安婦問題では国連の人権委員会は日本政府に対し、被害事実を認め、法的責任を認め、政府が公式謝罪し、賠償することを、永年にわたって勧告し続けている。

 2016年6月には、日中戦争時に強制連行され過酷な労働を強いられた中国人被害者や遺族が三菱マテリアル(旧三菱鉱業)に対して損害賠償と謝罪を中国で求めていた問題で、同社は、生存する被害者(三菱側によると3,765人)に直接謝罪し、賠償する和解文書に調印した。謝罪も賠償も拒否してきた日本政府の主張には従わないで、民間レベルでの歴史問題の解決方法を示した。

5)個人賠償請求権は消滅していない!

 日本政府の立場、主張は、日本の司法の判断とも食い違っている。

 中国人の戦時中の強制連行を巡る訴訟が、日本の裁判所に多く起こされたが、原告側の敗訴が相次いで確定している。日本の最高裁は2007年4月、「1972年の日中共同声明で個人の請求権も放棄された」との判断を示したが、一方、最高裁は関係者に被害者救済も促しており、この点では日本政府・外務省の主張とは、食い違っている。
 
 また、2007年、中国人「慰安婦」訴訟において、日本の最高裁は、サンフランシスコ平和条約第14条(b)及び日中共同声明第5項における「請求権を放棄する」の意味について、被害者の個人賠償請求権を「実体的に消滅させる」ことではなく、「裁判上訴求する権能」を失わせるにとどまると解するのが相当であると判示した。この最高裁の論理に照らしても、個人賠償請求権は、「裁判上訴求する権能」を失ったものの、「実体的に消滅」していないのであるから、日本政府が賠償するつもりがあればできるのであって、決して禁止されているわけではない。

 日本政府・安倍政権は、アジア太平洋戦争における法的責任は認めない、賠償も決して認めない、認めたくないという歴史修正主義の政治路線、イデオロギーに憑りつかれているというのがより適切かもしれない。

 そしてNHKは、この日本政府の主張・立場を、まったく無批判に報道した。国営放送、外務省の宣伝機関の役目を果たした例を、この夜も確認したのだ。(8月22日記、文責:児玉 繁信)
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