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領土問題とナショナリズム――太田昌国氏の講演 [現代日本の世相]

 11月6日、国分寺自労政会館で、三多摩労争連主催、太田昌国さんによる講演『尖閣諸島・竹島問題から考える・・・・・領土問題とナショナリズム』があった。

 尖閣・竹島問題で、うんざりするほど新聞や週刊誌は「ナショナリズム」を一方的に煽っている、そのような報道ばかりが氾濫している。フツーの人の会話のなかにも、ナショナリズムが自然と語られ、中国や韓国にたいする「非難」の声が聞こえてくる。
 そのような状況をどう考え、どう対処して行ったらいいのか? 領土問題に対し原則的にどのように考え対処するべきか、ナショナリズムの氾濫にどう対抗して行ったらいいのか? きわめて重要な問題である。 
 そのような問題意識からすれば、太田昌国さんの講演は興味深い、時宜に適したものだった。
 理解した限りで下記にまとめた、小見出しも付けた。聞き漏らしもある。したがって、文責はまとめた者にある。

太田昌国 講演会 002 (320x198).jpg

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 『尖閣諸島・竹島・・・・・、領土問題とナショナリズム』  太田昌国
 
11月6日、国分寺労政会館


 1)「領土ナショナリズム」の蔓延――石原の尖閣都有化宣言

 4月16日、訪米中の石原都知事が尖閣諸島都有化宣言を行った。極右シンクタンクに招かれたときに「尖閣は、東京都が買い上げる!」と、発言したのである。
 明らかにこれが事件の「発端」である。しかし、多くのメディアは「石原の火遊び」を批判しない。外交権のない地方自治体の長が、尖閣都有化宣言を勝手に提起し外交関係に影響を及ぼすこと自体、とんでもない間違いであり、越権行為である。そのような権限はない。しかし、これを指摘し批判する報道はほとんどない。それどころか、逆に日本政府が引きずられ、野田首相は尖閣を国有化してしまった。これに、中国政府はきわめて激しく反発し批判し、日中関係の対立が続いている。

 日本では「石原批判の無さ」が一つの特徴になっている。背景に、「領土ナショナリズム」が広範に存在している。都が尖閣を購入すると呼びかけたら15億円も集まった。日本社会は、石原の尖閣都有化宣言を大衆的なレベルで支持する動きばかりが目立った。そのことは「領土ナショナリズム」が、日本社会全体に広がっていることをあらためて確認した。「異常」である、「危険性」を指摘する者はほとんどいない。一部インターネット上では、適切な批判も確かに存在する。しかし、その程度でしかない。

 「ナショナリズム」の高揚は、国のなかに多くの問題を抱えているときに、それから目をそらし、海外に敵をつくり、憎悪をあおり、扇動するものである。今回もそれだ。しかし、多くの政治家、安倍晋三自民党総裁や橋下大阪市長らが競って、そのような主張を煽っている。「領土ナショナリズム」が広がった日本では、そのような主張が票になる。

 これに対する「異論」が生まれていない、はっきりとした批判の声、運動が、潮流として生まれてこない。そのことに危機感を持つ。

 2)「拉致問題」時の情況との類似

 このような情況は、10年前の「拉致問題」の時と似ている。あの当時、「北朝鮮」との関係は、「拉致問題」一色に塗りつぶされた。家族会が「拉致問題の解決なしに国交正常化なし」と主張した。その主張はヒステリックに繰り返され、反論や批判を許さなかった。そのため、日朝間での正常な外交交渉ができなかったし、現在までもできていない。交渉なくて解決できるわけがない。

 外交関係を持ち、外交交渉をしなければ、何も解決することはできない。ヒステリックに叫ぶだけで、きわめて非現実的である。実際のところ、どのように解決するか?方針も方法もない。結果は、解決を放棄するものとなった。
 ただ、国内的には、内向きにヒステリックに叫ぶことで、支持を拡大した政治家・政党がある。まるで錬金術のように「拉致問題」を煽れば支持が集まる状況が生まれた。現代日本における政党政治パワーゲームの一つのスタイルである。

 歴史認識を拒否した新たな「ナショナリズム」が醸成され、他方、過去の侵略戦争を反省する声はかき消されてきた。

 「拉致問題」の解決に当たっても、過去の侵略の歴史も含めた歴史的な現実的な対応が必要である。しかし、家族会の言い分に従った日本政府の外交方針は、何の解決ももたらさなかった。10年間何も解決しなかった。

 3)日本国民のなかに広がる「被害者意識」

 日本国民のなかに「被害者意識」が新たに広がっている。それは歴史認識の欠如と裏表一体である。
 日本社会全体が被害者を装っている。そのような「被害者意識」は本当に正しいのか?

 現在の領土問題でも同じように被害者意識が煽られている。侵略した側が、なぜ被害者のようにふるまって、悪しざまに隣国に言うことができるのか。
 現代を生きる日本人全体に「歴史意識」が欠如している異常な情況が生まれている。問題が、完全にすり替えられている。日本政府・外務省、メディアすべて、歴史意識が欠如している。
 したがって、拉致問題と同じように、何も解決できない。
 
 むしろ、「拉致問題」も含め解決することが目的ではない。排外主義を煽って支持を得て政治における主導権を握ることが目的となっている。

 4)真の「領土問題」は、沖縄である

 「領土問題」でこれほど「関心」が高まっているのであれば、140万人もの人が住む「沖縄」をこそ問題にしなければならない。そのように考えなくてはならない。しかし、日本政府は、戦後一貫してこの「領土」を大切にしてこなかった。沖縄の扱いを見れば一目瞭然である。
 沖縄は、第二次世界大戦において、当時の天皇制政府の降伏の決断が遅れたため、大きな被害を被った。
 「領土ナショナリズム」を煽るマスメディアも政治家も、いまだ米軍基地に支配されている沖縄の問題をこそまず解決しなければならない。しかし、何もしない。

 石原都知事は、選挙前の公約に横田米軍基地返還を掲げた。この公約はどうなったのか? 米軍から横田を返還することこそ、まず必要ではないか! 横田を返還せずにおいて、尖閣都有化宣言など、問題のすり替えである。

 5)日本にとっての領土問題は1945年の敗戦処理から始まった

 日本にとっての領土問題は、1945年の敗戦処理から始まっている。連合国は、反ファシズムの戦争に勝利した。連合国は、43年11月27日には米華英によるカイロ宣言、1945年2月4日~11日には米ソ連英によるルタ協定を締結した。ヤルタ協定でソ連の対日参戦が約束された。
 1945年7月26日には、ポツダム宣言がなされた。カイロ宣言の履行である。

 日本が降伏する前に、連合国によって日本の領土が、すでに決められていた。これを承認し受け入れることが、日本の敗戦、降伏の意味だった。
 1951年9月8日、サンフランシスコ講和条約が締結された。単独講和であり、安保条約の発効とセットだった。

 竹島・尖閣問題は、これら国際的な関係のなかでどう扱われてきたのか、をきちんと見なくてはならない。したがって、日本の近代史、その歴史認識、歴史評価を避けて通ることはできない。

 明治以降、遅れて出発した資本主義日本は、欧米列強に習い帝国主義的領土拡張をはじめた。1869年蝦夷地併合、1879年琉球処分、日清戦争、台湾領有、日露戦争、韓国併合、・・・・・これら帝国主義的な侵略と拡張の結果としての、1945年の敗戦であり、現在の国境の成立である。


  6)侵略者の身勝手な論理:「無主地先占」

 歴史認識として「領土問題」を考えなくてはならない。植民地支配と戦争の問題にかかわってくる。
 「無主地先占」の考え方は、ヨーロッパ列強が大航海時代に植民地を獲得してきた時代の、列強間のルールである。17世紀末から欧州で通用し出したルールであって、侵略者の身勝手な論理である。
 尖閣や竹島領有においても、「無主地先占」の考え方が出てきている。

 他方、第二次世界大戦が終わった後、民族自決、独立の考え方、植民地独立運動が生まれてきた。ある地域がどのような存在としてきたか、「無主地先占」と対立する考え方も生まれてきた。何よりもその地域にずっと住んできた「先住民」の権利がまず尊重されなくてはならない。「先住民の権利尊重」は、新たな、今日の視点である。

 領土問題は、歴史の流れのなかで、位置づけなければ、キチッと理解することはできない。「固有の領土」という言い方がすでに、「ナショナリズム」の表現となっている。

 竹島・尖閣を領有していった歴史的経緯は、明治以降の日本帝国主義の侵略、植民地拡大の動きのなかにある。
 1895年、尖閣を編入した。日清戦争に勝利した直後であり、翌年には台湾を編入している。
 1905年に竹島を編入した。すでに朝鮮李王朝に日本軍・日本政府の支配が入り込み、当時すでに、李王朝は外交権を失っていた。そのような時期に、竹島(独島)を編入した。5年後には、韓国を併合してしまう。

 7)領土問題/ナショナリズムを煽る動きは、アジアでの軍事的緊張を高めるだけだ

 石原知事による尖閣都有化宣言の後、野田政権は、尖閣を国有化してしまった。「国有化」の持つ大きな意味を野田政権はまったく理解していない。そのことで中国政府は大きく反発し、批判している。

 韓国政府・中国政府との対立拡大によって、日本政府は国際的により孤立し、いっそう米国政府に「頼らなければならない」政治状況に押しやられたように見える。それは日本の未来をよりあやういものにしている。

 現在におけるアメリカの軍事戦略は、アジア太平洋に軍事展開し、中国をどのように牽制するか? に一つの重点がある。2年後、オーストラリアに海兵隊基地を持つ、フィリピンに基地を戻したいと狙っている。
 米政府・米軍にとっての「尖閣問題」は、中国軍が太平洋へ出るのを封じ込めるうえで、重要な戦略地点である。

 日本政府は、沖縄に巨大な米軍を置いているのであり、その事実に頬かむりしておいて中国の軍事拡大を一方的に非難することはできない。また、米軍・韓国軍・自衛隊との大規模な軍事演習を行っており、「北」の軍事行動を非難することはできない。

 日本政府と日本社会は、なぜいつまでもアメリカに引き回されて、近隣諸国と対立を強いられ、近隣諸国と友好が実現できないのか、これはなぜか? を考えなくてはならない。

 「領土問題」はまるで外から持ち込まれた問題であるかのように考えがちだが、そうではない。日本社会の特質、外交政策と大きく関連している。
 現代の「領土問題」とナショナリズムは、日本政府と日本社会が世界で孤立するアメリカと軍事同盟を結び、友好関係、依存関係を深めていることと、明らかに関係している。米国は巨大な軍事力を背景に持っているがゆえに、軍事的緊張を高めることで、自国の利益を有利に追求する政策を採っている。日本政府はその戦略に乗っかり荷担する方向に、自国の利害の実現を見出そうとしている。このプラン、方向こそ、危ういのである。

 現代の日本社会における「ナショナリズム」が再生産される社会的要因、基盤が何であるかを冷静に見極め、これに対する批判を展開し批判的な社会的運動を組織することが重要である。(文責:林 信治)

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コメント 2

wsh

>日本政府は、沖縄に巨大な米軍を置いているのであり、その事実に頬かむりしておいて中国の軍事拡大を非難することはできない。

なら、日本が防衛費を仮に増やしても非難はしませんよね?
中国の大軍拡に非難しないのに、日本だけ非難するではダブルスタンダードになりますから

>また、米軍・自衛隊との大規模な軍事演習を行っており、「北」の軍事行動を非難することはできない。

北は軍事演習どころか、核兵器開発してますが?
北朝鮮の核は綺麗な核ですか
by wsh (2012-11-11 03:42) 

Why?

中韓の異常なナショナリズムについては言及なしですか?
小学生にまで軍事訓練を施す韓国、愛国無罪で暴動まで許容する中国。
彼らに比べれば日本のナショナリズムなんて可愛いものでしょう。
by Why? (2012-11-11 17:55) 

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