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ウォール街占拠運動― やっと発見された人々の連合体 [世界の動き]

 ウォール街占拠運動― 
  
    やっと発見された人々の連合体

 1)ウォール街占拠運動は、アメリカでは久々の左派の大衆運動
 ウォール街占拠運動は、アメリカでは久々の左派の大衆運動であって、2000年ワシントンでのIMF会議、1999年WTOシアトル会議での反グローバリゼイションデモ以来である。それらはしかし局地的、短期間であった。今回のウォール街占拠運動は全米に広がり、さらに全世界に広がろうとしている。しかも2か月継続している。
 今までの大衆運動とはまったく異なる新しい特徴、数々の「魅力」を備えている。
 運営の仕方、人々の集まり方に特徴がある。ウェブサイトを利用した直接民主主義、現代の状況に見合うように自主的な自発的な人々の参加を可能にした人々の自由な連合体、アソシエイションではなかろうか。マルクスのいう批判的アソシエイションの一つの姿を示しているだろう。

 またその批判の内容も、注目に値する。
 9月29日採択されたニューヨーク市民総会(フリーダム公園)の第一「公式」声明
"Declaration of the Occupation of New York City"
 http://nycga.cc/2011/09/30/declaration-of-the-occupation-of-new-york-city/]にその主張は明確に表現されている。
 アメリカと世界の富が1%の人たちに握られていること、この富の偏在こそ、あるいは富の偏在をもたらす現代の社会関係こそ問題であるとし、その変革を主張している。至極まっとうな、まっすぐな要求、声、叫びである。

 同時に、企業と企業活動が、現代における反社会的な存在であると明確に告発している。
 「…民主主義的政府の正当な権力は人民に由来するが、企業は誰に同意を求めることもなく人民や地球から富を簒奪しており、民主主義のプロセスが経済権力によって決定されている間はいかなる真の民主主義も実現不可能であるという現実を認識している。」

 「人民よりも自分たちの利益を、公正よりも利己的な関心を、平等よりも抑圧を優先するさまざまな企業が私たちの政府を動かしているこのとき、あなた方に呼びかけている。私たちは…ここに平和的に集まっており、それは私たちの権利である。」という現状認識を示している。
 世界の99%の人たちは、「…世界の企業勢力によって不当な扱いを受けている」こと、何よりも利益実現を追求する企業活動が、富を簒奪し政府を動かし、人民の権利を踏みにじっていることを、驚くほど率直に告発している。

 2)ウォール街占拠運動はどのように運営され、支持され、広がったのか?
 自主的自発的な人々の連合体として運営されているウォール街占拠運動の実態が伝えられている。批判的アソシエイションの姿をネットから拾ってみよう。(肥田美佐子のNYリポート、鈴木頌さんのブログなどから転載)

 ◇自主的自発的な人々の連合体として運営されているウォール街占拠運動
 「…平和的な運動姿勢や民主的な横並び組織運営法、独自のウェブサイトでデモの様子をライブストリーミング配信したりソーシャルメディアを駆使したりするデジタル・コミュニケーション戦略にある。同運動には、自発的にまとめ役を買って出る若者はいるが、縦並び的な「リーダー」はいない。公園に寝泊りする参加者同士のいさかいなどを解決する「調停員」もいる。一日に2回、各2時間ずつ開かれる「総会」で予定などを討議する。当局が拡声器の使用を禁じたため、決定事項を仲間に大声で伝言していく「人間拡声器」の手法も編み出した。…」(10月11日ウォール・ストリート・ジャーナル肥田美佐子のNYリポート)

 ◇市民の支持を受け、増え続ける多様な参加者
 「さまざまな人種、性別、政治理念を持った人々による指導者のいない抵抗運動」
 「…これまで反グローバリゼーション運動などは、さほど市民からの共感を得られなかったが、今回は、ストレートな主張と若者の熱意が、長引く景気低迷に疲れた市民の心を打った…」
 「…組織はかなり確立されてきて おり、合議を導く「ファシリテーター班」、救急箱を持って歩く「医療班」、食料の寄付や調達を仕切る「フード班」がある。なかでも、メディア班は重要な役割を果たしている。広場の真ん中に発電機を備え、常に数人がパソコンに向かい、合議やデモの様子をほぼ24時間オンライ ンの動画で流すほか、ツイッターやウェブサイトの更新から、警察の暴力を撮影したビデオを動画共有サイト「ユーチューブ」に貼付ける作業をしている。」(10月11日肥田美佐子のNYリポート)

 ◇運動の始まり、全米各地への広がり
 7月13日 カナダのエコ・グループがウォール街での平和的なデモ運動を提案。これにニューヨークの若者グループが合流。カナダのバンクーバーにある環境問題を扱う雑誌「アドバスターズ」の編集者カレ・ラースンが、「9月17日にウォール街を占領しよう」との呼びかけを発表した。
 8月23日 ハッカー集団「アノニマス」がこれに賛同し抗議運動への参加を呼びかける。
 9月17日 最初の占拠運動、ウォール街占拠行動がはじまり、推定1,000人が集まる。「われわれは99%だ。強欲で腐敗した1%にはもう我慢できない」がメインスローガンとなる。デモで掲げられたプラカードの内容
  ①政府による金融機関救済への批判 
  ②富裕層への優遇措置への批判
  ③「グラス・スティーガル法」の改正による金融規制の強化
  ④高頻度取引の規制>

 9月18日 広場で「総会」が開かれる。5時間にわたる討論の後、翌日からウォール街でデモを展開することを決定。逮捕につながるような行為はせず、ウォール街の通行人を妨害しないなど平和的民主的な行動をとることを満場一致で承認。
 9月19日 広場に残った青年ら500人がニューヨーク証券取引所前を練り歩く。行動は午前9時半の株式市場 取引開始時と、午後4時の取引終了時の2回。段ボールのプラカードや太鼓・ラッパを持って歩道を歩くだけ。その後この行動が日課として定着する。
 9月19日 カレントテレビがデモを取材。以後カレントテレビは連日抗議行動を報道。取材に当たったオルバーマン記者は、「なぜ主なニュース番組でこの抗議運動が取り上げられないのか? もしこれが茶会運動だったら、主要メディアは毎日トップで取り上げているだろう」と批判した。
 9月22日 黒人人権運動のグループによる2千人のデモがウォール街占拠運動に合流
 9月23日 米Yahoo! 抗議行動のサイト名(occupywallst.org)をふくむメイルをブロッキング。ヤフーは事実を認めたうえで、スパムフィルターの誤動作によるものだとし謝罪。
 9月24日 最初の衝突 80名が逮捕、週末に合わせ全米から参加者が結集。警察は「住宅地区への行進でいくつかの通りが混乱した」ことを理由に大量逮捕に乗り出す。この取締りで80人が逮捕された。
 9月24日 弾圧の模様がインターネット上でアップロードされ、「若い女性が警察官に催涙スプレーをかけられる」場面が注目を集める。
 9月24日 100人近い逮捕者、1,000人あまりの新手の参加者が自発的にデモ行進を敢行。このデモ隊がニューヨーク市警と衝突し、100人近い逮捕者が出たという経過のようだ。
 9月25日 「アノニマス」がYOUTUBEに動画をアップロード。警察に対し「36時間以内に残虐行為があれば、ニューヨーク市警をインターネット上から消去する」との“脅迫”を発表する。
 9月26日 占拠運動、催涙スプレー事件の当該警察官の収監と警察委員長の辞任を要求。この日の夕方、映画監督マイケル・ムーアがリバティ・プラザで演説を行う。またチョムスキーが運動を強く支持するとのメッセージを発表。
 9月28日 全米運輸労組(チームスター)に属するニューヨーク運輸業労働組合が占拠運動の支援を決議する。
 9月30日 AFL‐CIOのリチャード・トラムカ会長、「労働組合は全国レベル、地方レベルの双方で『ウォール街占拠』に参加している」と発言。
 10月02日 グーグルとツイッターが、ウォール街での抗議行動に関する記事の検閲に踏み切る。
 10月03日 ニューヨーク市中央労働組合評議会の呼びかけで、全米運輸労組ローカル、介護・看護労働者労組、全米鉄鋼労組、教員連盟、米国通信労働者組合がシティーホールに結集。占拠運動の支援策を協議。
 10月05日 ALF・CIOのトラムカ議長、「ウォール街に説明責任と雇用創出を求める彼らの決意を支持する」と表明。「若者の行動を横取りするつもりはない」、「われわれは全米でデモ参加者を支援し、今後も互いに協力し合っていく」と述べる。ALF・CIO(米労働総同盟産別会議)はアメリカ最大の労働センターで、1,220万人の組合員を組織する。
 10月05日 占拠運動への連帯デモ行進。参加者は1万ないし2万人規模と推定される。ズコッティ公園(自由広場)を出発し、約1キロ北の連邦ビル前まで鐘や太鼓を鳴らして「ウォール街を占拠せよ」などと訴えながら行進した。
 10月07日 AFL・CIO、占拠運動を支持することを決定。傘下の地方公務員組合連合(AFSCME)と通信労組(CWA)、合同運輸労組(ATU)、全米看護師組合(NNU)の4労組もデモに加わり始めるAFL・CIO自体が変化した。看護婦や教師やトラック運転手などの周辺産業労働者がAFL・CIOを支える時代…。
 10月11日 「ボストンのダウンタウンでも、バンク・オブ・アメリカ前に約3,000人が集結した。ほかにも、ハワイからロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ミネアポリス、フィラデルフィア、オーランド、ワシントンDCまで、優に100カ所を超える全米の都市で同様のデモが進行中だ。」(肥田美佐子のNYリポート)
 10月12日 ロスアンゼルス市議会、「オキュパイ・ロスアンゼルス」運動を支持するとした決議を全会一致で可決。市議会による公的な支持の表明は初めて。
 10月17日 NYタイムズにクルーグマンが寄稿。「ウォール街の反応は“軽蔑した無視”から“泣き言”に変わりつつある。彼らの怒りは数百万の米国人の心を揺り動かしつつある。ウォール街の泣き言は、少しも不思議ではない」と述べる。

 3)何が画期的なのか? 
 注目すべき点がみられる。下記にまとめてみよう。

 一つ目の理由は、2008年恐慌後のアメリカ社会の荒廃がある。米国人の多くが、彼らの表現によれば「99%」が、恐慌による損失を負わされ、その生活条件を悪化させている。失業は広がり、住宅を失った人たちも多い。公園に寝泊りすることもいとわず、運動に参加する人々が多数存在する社会になったのである。背景にはアメリカ社会全体を覆う貧困の広がり、格差社会化がある。

 二つ目の理由は、その主張である。
 9月29日採択されたニューヨーク市民総会(フリーダム公園)の第一「公式」声明は、このグループの公式文書であるが、立派な内容である。
 「企業は…人民や地球から富を簒奪しており、経済権力によって民主主義のプロセスが決定されている間は、いかなる真の民主主義の実現も不可能である」と激しく現代の資本活動、経済システムを批判している。その事態に抗議し、「自分たちと隣人の権利を守らねばならず、平和的に集会を開く権利を行使し、公共の空間を占拠し、私たちが直面している問題に対処するプロセスを作り出し、すべての人々に届く全体的な解決策を作り出そう」と呼びかけている。

 三つの理由はウォール街占拠運動の進め方、組織の仕方の決定的な新しさがあることだ。広く開かれた自主的、自発的な連合体であるところにある。これがもっとも重要な特徴であろう。

 誰でも参加できるうえ、横並びで民主的平和的な組織運営がなされている。ウェブサイトを通じた情報の共有、毎日の発信がなされ、かつまたその情報は参加者だけでなく外に向かって、世界中に向かって開かれている。ウェブサイトを見て誰でも参加できるし、誰でも情報を共有できる。直接民主主義を、ネットを通じてより広範に、開かれたものとして実現しようと努力しているのがよくわかる。人々が孤立し分断されている現代の状況に相応したやり方であろう。人々の自由な参加を実現するため、自主的な自発的な連合体、アソシエイションを組織しようと苦心している。このような人々の連合体、アソシエイションこそが、もっとも重要なことであるし、この先世界の人々にとって見習うべき一つの発見された姿、連合体となるだろう。

 さらにいくつかの注目すべき特徴がある。
 一つは、運動の継続性を保持していることである。
 「…平和的に集会を開く権利を行使し、公共の空間を占拠し、私たちが直面している問題に対処するプロセスを作り出し、すべての人々に届く全体的な解決策を作り出そう。」(9月29日ニューヨーク市民総会(フリーダム公園)の第一「公式」声明)
 
 「占拠」の意味は、運動を継続させ拡大させることにある。一日限りの行動、結集ではなく、毎日活動する態勢を取り、運動の継続性を実現した。当初、呼びかけに応じたメンバーは公園に寝泊まりし、毎日総会が開かれ、決定事項が伝達され、デモに出かける。警察の弾圧、逮捕があれば即時にウェブサイトで報告し訴える。毎日これを繰り返し、そうして次々に多くの新しい参加者を迎え入れてきた。「平和的に集会を開く権利を行使し、公共の空間を占拠」する意味は、要求を訴え続け、継続的な活動をするところにある。継続したことで、様々な個人、団体の共感を獲得し徐々に、そして一挙に広がっていった。

 既存の大手マスメディアを信頼しない、頼らない、依存しないことも、特徴の一つである。大手マスメディアが「経済権力」の支配下にあることをよく知ったうえで対応している。それに代わる手段としてウェブサイトで世界中に発信した。大手マスメディアに頼れば、彼らの機嫌をうかがい、検閲を受けることを受け入れなくてはならなくなる。当初からこれを拒否して出発した。
 ヤフーやグーグルも占拠運動の発信を検閲したり、ブロッキングしようとした。占拠運動に参加する「ハッカー集団」とともにこの妨害を打ち破った。

 大手マスメディアばかりではなく、既存の政治勢力の中で活動することも選択していない。直接民主主義の考え方が貫いている。オバマ選出時の大衆的な運動が二大政党の手のひらの上で踊らされたことへの反省と批判がある。

 これまでの既存の政治勢力は、米社会の貧困化を告発する力にならなかった。二大政党制、共和党は論外としても、民主党でも現状のままでは受け皿にならないと判断している。三年前、オバマを大統領に送り出したのは、アメリカ社会の下からの新たな大衆運動であった。あの時はとにかく共和党を政権から引きずりおろさなければならなかった。
 しかし三年の経過を経て、自分たちが選出したオバマはあてにはならないことが判明した。ある意味では裏切られたと身に染みて認識した。「代表を送り出すだけではだめだ」。直接行動によって、常に圧力をかけ続けなければ、送り出した代表は変質する。直接民主主義をとっているのは、そのような反省、あるいは批判に基づいているのではなかろうか。
 何事も現実に対する「徹底した批判」から、新しい運動、新しい力は生まれてくるものなのだろう。

 4)私たちにとっての教訓

 ウォール街占拠運動は、インターネット駆使した情報の共有・発信、直接民主主義的な組織運営など、参加者に「外」に対しても開かれている自発的自主的な連合体であるところに大きな特徴がある。これまでにない魅力的な、私たちが学ばなくてはならない新しい特徴である。インターネットの技術にも習熟しなければならないし、「ハッカー集団」も呼びこみ、グーグルやヤフーのブロッキングに対抗する手段を身につけなければならない。

 今後、現代世界における大衆的な運動は、「上から指令的な運営」という組織運営のやり方から、より自主的な自発的な参加を保障する連合体に変わらなければならないことを示唆しているようだ。
 ウェブサイトを駆使して、情報の共有・発信などを可能にしたし、それらは開放的であって、誰にでも共有できる。警察による弾圧の映像も即事に世界に向かって発信することで、自分たちの運動の正当性を主張し、弾圧者を告発した。主張の発信においても、大手のマスメディアに頼らない運動を構築した。

 「上から指令的な運営」方式をとってきた既存の政党や労働組合は、1%の富裕者が経済権力を握った現代のシステムの下では、自分たちが99%の多数者であるにもかかわらず、民主主義を実現する力を持つことがまったく不十分にしかできない。個人や労働組合は、分断され孤立させられ階層化され、1%の富裕者が経済権力を握った現代のシステムに対抗できていない。この事態を覆すため、人々を再結集する運動の形態、スタイルに新しく生まれ変わらなければならない。

 新自由主義の下で個人が分断され孤立化し、人々は分断され、労働組合も分断され、これに対抗できてこなかったことが、支持や影響力を失ってきた最大の理由の一つである。
 大手マスメディアによる報道を期待すれば、マスメディアの顔色をうかがわなければならなくなる。

 5)今後どうなるか?

 ◇自主的自発的な人々の連合体を作り上げた意義は大きい
 ウォール街占拠運動が、今後どのように発展するか、だれにもわからない。彼らの要求や主張が簡単に実現するとは思われないし、実現していく道筋も明らかになっているわけではない。この先いろんな問題が出てくるだろう。
 しかしだからと言って、要求や主張が簡単に実現するかしないかで、ウォール街占拠運動の画期的な意義が変わるものではない。
 現代社会への批判・変革のための自主的自発的な人々の連合体を作り上げた意義は大きい。条件に応じてその姿を変えながら、この連合体はこの先、人々の運動の進め方の大きなモデルになっていくだろう。

 ◇どのように影響力を獲得していくか?
 ウォール街占拠運動は、既存の政治勢力、民主党の中で活動し影響力を確保していくかどうかは、まだわからない。
 というより、民主党の中で活動するようになれば、ウォール街占拠運動はその自主性・自発性を失い、開かれた性格も失い、したがって影響力を失う可能性があることは、容易に想像できる。

 2008年オバマ大統領を生み出す過程で、オバマ支持運動は、インターネットを活用しこれまでとは違った広がりと支持を見せた。資金面でも小口献金ながらネットを通じた広範な人々から、巨額の献金を集めた。有権者の多くがこれまでとは違った、自分たちも大統領選出に積極的にかかわるという姿を見せた。これまでかかわりたくとも、そして積極的に参加しても、既存の二大政党によって支配層の手の上で踊らされてきた。二大政党制によって民衆が主権から遠ざけられている現実への批判、あるいは変革の行動が必要とされていた。

 これを打ち破ってオバマを大統領に送り出した。しかしオバマは大統領就任後、彼を押し上げたその大多数の支持者たち・支持運動から離れ、あるいは切り捨てた。オバマのとった政策は、既存の支配者と相いれる内容にトーンダウンしたし、登用したスタッフの顔ぶれを見ても既存の支配者から引き継いでいる。その上オバマは、2012大統領選には既存の政治勢力、資金力で大統領選に臨もうとしており、2008年の選挙で得た広範な「草の根」の支持は期待していない。あるいは草の根の支持はもはや得ることができないと自覚している。それはオバマが「幻想」を約束し、大統領になったからであり、オバマ自身もその事実を自覚しているからだし、二大政党制の枠組み内で政権運営することをあらかじめ選択したからだ。
 ウォール街占拠運動は、このようなアメリカ政治の現状、オバマ選出後の変革停滞に対する批判としても生まれたのであろう。

 ◇オバマ民主党は、ウォール街占拠デモ運動の受け皿にはならない
 共和党は、超高額所得者に対してのごくわずかな増税にすら反対している。
 民主党は、オバマ大統領が最近になって高額所得者への課税を訴えているものの、下院で共和党が多数を占めており、連邦議会で可決される可能性は皆無である。
 ウォール街占拠デモ運動にとって、民主党との関係が一つの焦点である。あまり民主党の党内政治に関与せず、独立性を保ったほうが影響力を持続できるであろうし、下からの広範な人々の連合体を維持発展させることこそ、重要である。

 民主党に関与し求めることは、民主党の左傾化であろうし、根本的な党の変革であろう。しかし、オバマが大統領になっても左傾化は進まなかった。苦い経験をしたばかりだし、これまで何度も裏切られてきた。そんなに容易ではない。下からの広範な人々の連合体が、より大きくなって初めて可能になるだろう。

 ウォール街占拠運動が民主党に厳しくないのは、共和党政治があまりにひどかったからであり、単に共和党よりマシだからであろう。よりマシ政府として彼らがオバマ政権を生んだからである。
 民主党が現在のままで、あるいは今のままのオバマ政権が、ウォール街占拠デモ運動の受け皿となることはありえない。

 ◇他方におけるティーパーティ運動右派の運動
 他方、上から組織された茶会運動、これも経済危機への不満、批判がベースにある。あるいは、アメリカの地位低下に対する不安が没落する米中産階級の一部をとらえている。日本で排外主義が、ある人々をとらえているのと似ている。インターネットで広がっている点も同様だ。

 ただその主張は、「政府の景気刺激策や皆保険制度を拒否するアメリカ独自の小さな政府実現を」主張しており、ほとんど現実性を持っていない。「小さな政府」と言いながら、2008年恐慌後、公的資金を注入し金融資本を救ったことは決して非難しない。「小さな政府」と言いながら、巨額の軍事費削減には言及しない。「小さな政府」実現の矛先は、国民皆保険制度への批判など事前に選別されているのであって、露骨に大資本、金融資本の利害を体現している。大手マスメディアは小さな茶会運動の集まりを、こぞって報道する。大手マスメディアが大資本、金融資本の持ち物だからである。

 これまでのアメリカ政治で存立してきた原理主義右翼による独自の主張は、そのほかの国々では決して受け入れられてはいない。いわば普遍的でない主張である。
 茶会運動は、既存政治勢力である共和党の中で活動し、強力な政治的影響力を発揮している。このような光景は「奇妙」でさえある。茶会運動とこの運動を利用して共和党内をリードし米国での世論を作り上げていく政治過程は、既存の支配機構を通じて米支配層が「民主主義」の形式的手続きを経て、米国政治を牛耳り、コントロールしているいくつも存在する、あるいは現れては消える政治的手法の一つであることを表現している。
 茶会運動は、2010年中間選挙でもその影響力の大きさを発揮したし、共和党大統領候補選出においてその帰趨を左右する存在であるのも確かだ。茶会運動というより、茶番運動と呼ばれるのにふさわしい。(文責:小林 治郎吉)

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