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『無差別殺傷事件、あるいは通り魔事件』 [現代日本の世相]

無差別殺傷事件、あるいは通り魔事件

貧困化すれば孤立する現代日本社会


1)続発する「無差別殺傷事件、あるいは通り魔事件」 

 7月28日午後7時半ごろ、JR平塚駅コンコースで、通行人7人が十徳ナイフで切られた。犯人は34歳の女性で、新聞報道によれば「死にたいと思った、人を道連れにしたいと思った」と話しているという。被害者は無関係の人たち。
 先日、八王子で「通り魔事件」が発生し、2名の死傷者が出た。この時の犯人の動機も「誰でもよかった」という。
 秋葉原の「通り魔事件」も被害者は無関係の人たちだった。
 一連の事件は同じ特徴がある。

 とりあえず、「通り魔」事件と書いたが、果たして「通り魔」事件と呼んでいいのだろうか? 犯人たちは、「通り魔」と呼ぶには、あまりにもイメージが異なる。決して「凶悪」という印象ではない。一言で言えば「壊れた人たち」

 何かひ弱な、自分の居場所を持たない、あるいは奪われた人たち、現代日本社会から「疎外」された人たちの、最後の反抗、あるいは爆発であるように見える。
 「自暴自棄」的に、緊急避難的に見ず知らずの人を傷つけている、破綻した自身を死刑にしてもらいたいと妄想するのも特徴の一つ。

2)犯人たちのタイプ、どこから生まれたのか?

 犯人たちのタイプはみんなよく似ているように見える。どちらかというとおとなしいまじめな、しかし孤立した人、あるいは人間関係が極端に「細い」人。これまで決して「凶悪」ではなかった。むしろまわりから押さえつけられてきた人。周りから認められていないと感じている人、実際に相手にされなかった人。
 こういう人たちはどういうふうに生まれてきたのか。

 現代日本社会は、希薄な人間関係、コミュニケーション不足を日々ますますつくり出しつつある。
 携帯電話やメールによる人間関係は、情報量が極端に多くなるにもかかわらず、それゆえにというか、それにともなった濃密な関係をつくりだすことをともなわない。実際に感情の交換の場が奪われたり、失われている。

 核家族化が日本社会にとって全般的となり、家族内で、地域で、学校や職場で、すなわちどこにおいても、コミュニケーションが希薄になり、更には消失している。家族の間でも、個々の関心はTVやゲーム、芸能人がそれぞれの頭に直接的に入り込み、家族間相互の関係が希薄になっている傾向がある。
 さらにそれ以上に、現代日本では単身者世帯が増大している。決して若い世代にのみにとどまらない。60歳以上でも急増している。全世帯数の30%を超えようとしているし、さらに増大しつつある。誰とも会話しない、したとしても形ばかりの、無内容な、という人が増えている。

 他方、現代日本社会では、小学生の頃から周りへの対応の「スキル」を身につけることを要求される、周りに対して嫌われない人間、問題のない自己であること、洗練された自己を表現することを求められる。そのことは、感情のぶつかり、小さな喧嘩、自己主張を極力抑えることでもあるし、あえてそのような場を奪っている。このような関係に永くすごしていると、感情の表出、ぶつかりのない、本当でない表面だけの人間関係ができてくる。
 その結果、人とぶつからないように、感情を害さないようにふるまう人間ができあがってくる。本当の人間関係を持たない人間が多数現れてくる。
 いざ感情のぶつかり合いになった時、折り合いをつけることができない。そんな能力は身につけていない、そんな人が増大している。

 そのような希薄な社会関係のなかでは、「自分は果たして何者なのか?」、本人にもわからない人間ができてくる。人は社会関係の総体であるから、社会関係が希薄になり、相互の人間関係にて感情の表出、ぶつかりを抑え続けるなら、人間関係が形式的な「スキル」にだけになってしまうなら、それがその人になってしまう。希薄な社会関係は、「人の内容」を希薄にしてしまう

 例えば、日本人の多くは子どもも大人も、人と話し合い解決する力を身につけることができていない、そのような資質を急速に失ってしまった。人間関係が希薄になっていることの別の面からの一つの証拠である。
 たとえ、人間関係が希薄ではない人でも、一般的に言って人と議論することを嫌うし、また議論そのものができない。違う考えの相手に自分の考えを伝えることができない。トラブルを引き起こすのが面倒だからそんな話もしないし、もっと面倒なら人間関係を切ってしまう。
 現代日本社会の一般的傾向なのである。

 逆に言えば、日本社会はそんな対応力など求めていないし、求めてこなかった。人間関係のトラブルは、会社内外の支配従属関係、公務員内の上下に連なる関係、「金」の関係に「翻訳」して解決してしまう。それに相応した階層的な社会関係ができあがり、他方での個人の孤立は、対応している。
 
 したがって、問題は決して若い人だけではない。あらゆる年齢層、階層の日本人に、多かれ少なかれ、みられる特徴である。

 年上の世代にもその傾向は認められる。日本社会では、通常失業したら孤立する。会社を辞めた人はこれまでの人間関係を失う。人と人との関係のうちの多くが、会社、あるいは「取引」、「金」でつながっていたことを思い知る。失業や退職した後、人々を繋ぐ社会関係、これが極めて弱いのだ。家族や地域、趣味や社会活動、企業、労働組合そのほかのあらゆる社会活動が、衰弱してしまった。他方、制度的「セイフティネット」、年金や生活保護なども破壊されつつある。

 例えば退職したあと、あるいは正社員から派遣社員になったあと、孤立してしまう人が多いのも日本社会の特徴の一つだ。老人の万引きなどの軽犯罪が急増している事実は、そのことを別の面から証明している。孤立した老人、やるべきことを持たない人、こころよく働く仕事を持つことのできない人々があらゆる世代で急増していることが、孤立した、コミュニケイション不足の、このようなタイプの人たちをつくりだしていることと密接につながっている。孤立した人は、日本社会にとってあまり必要でない、したがって「粗末に」扱われている人たちなのだ。
 企業は派遣社員、アルバイト、60歳過ぎた人を、人としては扱わない。正確に言えば、第二級の人間として扱う。

 「自殺者が年間3万人を超えている」異常な状況も、この人間関係がきわめて希薄な、人間関係が「物の関係」、会社や金の関係におきかえられている現代日本社会の特徴に起因している。「貧困化すると孤立する」という現代日本社会の特性からきている。

 したがって、あの犯人たちの特徴は、支配されている現代日本人の特徴、すなわち、孤立した、コミュニケーションの不足した、貧弱な人間関係しかもたないという特徴を、多分に含んでいることになるだろう。このように判断するのが適切なのであろう。

 そこに格差社会日本(より正確には、被搾取者が搾取階級荷よって支配される社会日本)における新しい階層階級の支配―被支配関係がズシリと重なってきているし、その表現でもある。格差社会日本は、人と人との関係を、正社員と派遣社員の関係に変えてしまう。それに連なる支配―被支配関係、搾取する人間の搾取される人間に対するむき出しの支配に置き換えつつある。現代的「奴隷」として実際に扱われている。

 文句を言えば、派遣元にチクって取り替えればいい。車が故障したとき取り替える部品のようなものだ。もはや一人の人間、対等な人ではない。扱っている方は特に気にも留めていないが、扱われている方は日々強烈な不満が蓄積する。

 このような「効率的支配」が毎日毎日、更新、形成されて続けている。現代的な日本資本主義社会なのだ。利益を生み出さない要因を徹底的に排除する、「ムリ、ムラ、ムダ」のない社会。これにあわせるように、労働力生産の場である学校も教育も、そして家庭も地域社会も、「自主的に」変質していっている。したがって、「犯人たち」に観察される一つのタイプは、この現代日本社会が不可避的に今もなお生み出しつつある、一つのタイプ、あるいは一つの典型的なタイプの人たちにさえ見える。

 押さえつけられ支配されてきたこの人たちは、自己と自己の権利を主張する術を持たない、その資質まで失ってしまう。何か問題が発生したとき、これを解決する術、解決する上でのまわりとの関係、人間関係、社会関係をもたない。

 そのうちの全員ではないある者が、最後に「自爆的」に「壊れて」しまう。事件を起こしたから「顕在化」した。事件を起こしていない、こういう人たちは、私たちの周りに既にいっぱいいる。顕在化しているのは、言葉通り、氷山の一角である。「壊れないで」自殺した人もいる。自殺未遂した人はその十倍はいるといわれている。これも同じ社会的病状からくるのではなかろうか。その原因は底部において重なるのではなかろうか。

 そのような人たちのうち、全員ではないある者が、今回のように、他者を傷つける事件を引き起こした。「もう死にたい、殺して欲しい、死刑にして欲しい」。あるいは、そのことで、自身を支配してきた親や社長に「些細な」迷惑をかけて「復讐」したつもりにもなる。

 現在、問題視されつつあるのは、「壊れた犯人たち」が、殺人や傷害事件を引き起こすまで至っているからである。殺人や傷害事件を引き起こさなければ、誰もとりたてて問題にはしなかった。「氷山の一角」だけを問題にし、注目している。「氷山の一角」だけに問題を限るなら、すなわち、「その「一角」だけを削りとってしまおう」と対処法を考えるなら、それは根本的に解決することにはならないだろう。
 
 もちろんの犯人たちの行為を擁護できはしないし、言い分にも正当さはない。
 しかし、マスコミのように、「奇異だ」、「おかしい」として扱ってはならない。物事を何にも理解していない「あほう」であることを、そしてなんの対処にもならないことを自覚していない「あほう」であることを、証明するだけである。
 
 彼らを生み出した本質的な原因について論及しているのだ。決して個別的ではない日本社会の抱える問題なのだ。すなわち例えば、「親がよく教育しておくべきだった」云々という対策では解決はしない。

3)凶器の規制で解決できるか?

 秋葉原での凶器はナイフだったが、八王子の事件では100円ショップで買い求めた包丁だった。平塚では十徳ナイフだという。秋葉原事件では、ナイフの所持や販売が規制されたが、果たして今回は包丁や十徳ナイフを規制するのだろうか? 100円ショップで包丁を大量に売っている。
 包丁を規制するのであれば、カッターナイフも規制しなければならなかろう。のこぎりはどうか? はさみだって危ない。

 こういう反応は、「危険な人」から自分を護る「個人的」発想から生まれている。「危険な人」が生まれるのは、むしろ必然で避けられない、避けられない世の中なのだから、これをいかに個人的に回避するか、いかに押さえつけるかと発想する。「危険な人」「危ない人」と「私」とは別の存在という判断が前提としてある。

 こんな対応は、ほとんどまったく的外れである。

 秋葉原の犯人がナイフを使用したため、警察は何かちょうどいい機会であるかのようにナイフの規制を主張した。問題の解決というより、そもそも警察のやりたかったことをこれを機会に実行しただけであろう。

 あるいは、秋葉原の歩行者天国と八王子の駅前に監視カメラをつけて、そして全国ありとあらゆる場所に監視カメラをつければいいのだろうか?

 これは決して笑い事ではない。すでに事態は先取り的に進行していて、最近はマンションの入り口には監視カメラがついている、コンビニにもついている。街のあらゆるところに設置されている。確かに監視カメラを生産している電機会社や通信会社にとっては新しい市場が広がることになる。警備会社もまた市場が広がる。監視カメラに賛成する人は出てくるだろう。しかし、これとて対症療法的であり、根本的な解決ではありえない。
 そのような対策はこっけいだが、それにとどまらず、誰が誰を監視するかという「危険」な問題でもある。いわゆる「監視社会」に急速になりつつある。

4) 厳罰化は解決するか?

 ここ数年来、「凶悪犯への厳罰化による防止」が宣伝されてきた。死刑執行の増大もその流れのなかにある。
 
 「犯人の人権よりも、被害者の家族の人権を尊重すべきだ」などと主張され、「被害者の人権」がいつの間にか「厳罰化」へともっともらしくすりかえられた。TVドラマ、陳腐なミステリードラマが描き出してみせる最近流行のテーマの一つだ。本当にワンパターンで、辟易する。

 それは「厳罰化」を進める政府自民党、警察などの政治的勢力の意志をが入ってきていると見なければならない。

 しかし、実態は大きく異なる。
 現代日本社会は、きわめて殺人事件の少ない社会である。歴史的にみても、世界的にみても稀な殺人事件は少ない社会である。わたしは、誇っていいとさえ思っている。
 そんな実態はなかなか報道されない。安心社会であると報道すると、警察は予算を確保しにくい、ということがあるのかもしれない。新しい現代的な不安を煽ると、予算を確保しやすいのかもしれない。

 さて、「厳罰化」も今回の事件を決して解決しない。被害をこうむった人に対して同情しなければならないが、しかし、「壊れた犯人たち」は、厳罰化や死刑執行の恐怖で押さえつけられ、犯罪の防止にはならない。押さえつければいい、というものではない。孤立し「壊れている」のだから、「死刑になること」を夢想して殺傷している者さえいるのだから。

 「押さえつければいい」とする主張は、現在進行している日本社会のひずみを、把握も認識もしていないことを告白しているに過ぎない。
 
5)解決は?

 事件の起きた原因は「凶器」ではなく、このような「犯人」をつくりだしたことにある。事件への対策は厳罰化ではなく、このような「壊れた」人を毎日作り出す日本社会の変更にある。

 現代日本社会への批判として、「壊れる」前に「孤立した」人、「搾取」された人、支配された人が自身を繋ぐアソシエイション、社会関係をつくりあげていくことにある。「孤立した」人、「搾取」された人、支配された人」が自分たちの置かれている実情を自覚し、つながりあい、自分たちの力で批判を立ち上げていくことにある。

 そのような社会関係を貧弱にしかもちえていない、いわば「武装解除」された現在の状態こそ、他国民に比べてさえ「おとなしい」といわれる現代日本人の特徴を、そして現代日本社会の病いを明瞭に映し出しているのだ。(文責:小林 治郎吉)

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