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先進国は日本化をたどる! 金融が歪む! [世界の動き]

低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散する
先進国は日本化をたどる! 金融が歪む!
資本主義は、これを解決できない!

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<日銀>

1)コロナ経済危機 

 米国の6月の雇用統計(7月2日発表)では、失業率:11.1%、失業者は1,775万人
 米政府の「給与保護プログラム」(6,600億ドル、12月末が支給期限)は、「5,000万人の雇用を支えた」(ムニューシン財務長官)という。

 欧州の5月失業率は7.4%。企業に政府が給与の一部を支払う政策で支える雇用は、EU主要5ヵ国(独、仏、伊、英、スペイン)で4,500万人に達する。労働者全体の約3分の1に及び、EU各国は数兆円の財政負担を強いられている。

 日本の場合、国内の宿泊業や飲食業をはじめとした休業者数は5月に423万人に達した。補正予算で1.6兆円を計上した「雇用調整助成金」の利用者は延べ300万人程度であるが、9月末に支給期限を迎える。

 コロナ危機で需要が消失し、世界各国で生産が縮小し、落ち込みは2008-09年金融危機以上となっている。サービス業、製造業で倒産が相次ぎ、失業者が増大している。いずれ「コロナ恐慌‥‥」と誰かが名づけるだろう。

 先進各国を中心に、財政出動し、消失した需要の一部を支えている。そのことで各国の財政赤字は一挙に膨らんだし、今も膨らんでいる。 

 それとともに、先進各国の金融政策が大きな変貌を遂げている。2020年3月、コロナ禍への対応で先進各国の中央銀行は大量に国債を購入し、強引に流動性を確保し金融危機を回避した。社債やCPの購入等、一時的な企業の資金繰り支援にまで踏み込んで、金融崩壊を食い止めた。その額がとてつもない規模になっている。この金融政策は今も続いている。

 このような金融政策は、すでに信用配分の領域に踏み込んでおり、かつて非伝統的とみなされていた金融政策が「ニューノーマル(新常態)」となりつつある。金融崩壊を避ける為の「やむを得ない対応」だが、やめるにやめられなくなっている。抜け出せない深い穴に向かって螺旋的に回転しながら落ちていっているかのようだ。

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<FRB>


2)ジャパニフィケーション
 低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散する

 日本の賃金はこの30年、ほとんど上昇していない。最低賃金(時給)900円さえ実現していない。女性や高齢者、技能実習生などの低賃金不安定雇用の単純労働者層を新たにつくりだし、労働市場に投入してきた。低賃金を利用した旧態依然の関係を温存してきたため、低生産性の企業は温存され企業の新陳代謝は遅れ、全体として日本企業の労働生産性は低いままだ。OECDで最低の部類に入る。

 賃金は上がらず、労働者数は減少し、高齢化が進むので、総需要が総供給を下回る状況が続く。需要低迷が長期化すると、人的資本投資や研究開発投資が阻害され、潜在成長率の低下が継続的に起こる。すでに実質金利(自然利子率)の低下は続いている。実質金利は自然利子率より下げられない。したがって、十分な景気刺激効果が得られない。日本経済は四半世紀にわたり低成長、低インフレ、低金利が続き、これが常態化した社会・経済となり、金融政策が「ニューノーマル」の時代を迎えた。

 そのようにして、日本経済は潜在成長率を一層低下させてきたのである。この30年間におよぶ「日本の停滞」が欧米の先を行く「日本化」と呼ばれたのだ。
 
 その背景には、新自由主義という現代資本主義が社会構造を変質させたことにある。大多数の人々のゆっくりとした、しかし確実な貧困化が進んだ。富は一握りの上層に集中した。

 低成長、低インフレ、低金利が世界に拡散し、政府債務が増大する、これを「日本化(ジャパニフィケーション)」と呼ぶ。先進各国の「日本化」はささやかれてはいたのだが、今回のコロナ危機で各国とも一挙に「日本化」に踏み出し、新たなグローバルスタンダードになったかのようだ。

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<欧州中央銀行>

3)歪む金融、各国の金融政策はどこに向かうのか?
 
 「日本化」は実体経済の長期低迷という側面にとどまらない。財政・金融政策の面での債務拡大をもう一つの特長としている。今回のコロナ危機で各国中央銀行とも国債を大量に購入し、債務を一挙に拡大させた。主要先進国における「日本化」は、グローバル金融危機以降の政策対応の帰結として「必然的なもの」となった。

 金融政策は一貫して名目金利の実効下限制約に直面し続けるから、低成長、低インフレが継続するなかで低金利環境の長期化はある意味で自然なことだ。だが金融政策運営では、危機に際し国債を購入して対処する緊急時の「非伝統的政策」が恒常的な政策手段となり、中銀のバランスシートの膨張が続くことになる。

 コロナ危機によって世界的な恐慌となった時、各国政府、特に先進国政府・中央銀行が、日本と同じ金融政策を採った。政府は国債を増発し、中銀が国債を大量に購入し、先進各国が一斉に日本が先に採用した金融政策を踏襲したのである。

 2020年3月以降、FRBのバランスシートが金融危機時以上に急拡大している。財政赤字拡大で米政府債務残高のGDP比は、第2次世界大戦直後の水準を超え、財政再建の重い荷物を背負う。
 日本は、コロナ対策で第一次、二次の補正予算も含め、20年度支出は160兆円を超え、新規赤字国債発行90兆円を含め20年度の赤字国債発行総額は253兆円と過去最大となる。基礎財政収支の赤字幅はマイナス60兆円に膨らんだ。財政事情は一段と悪化する。

 2020年末の日米欧の中央銀行の資産は、前年末比1.5倍の約2,400兆円と、世界GDPの約6割に膨張する見込みだ。金融危機が起きた08年末は、600兆円未満だった。中央銀行の担う金融政策への過度の負担が加速度的に増大しており、将来の正常化を困難にしかねない。

 その結果、中央銀行による緊急時の金融政策は、財政政策との境界が極めて曖昧となってしまった。特に金融資産の大量購入により様々なリスクへの対価に働きかけることで、価格・数量の両面から資源配分へ強力な介入をしたことになる。コロナ危機後もこうした金融政策が先進国で共通した対応となり定着するだろう。

 他方、財政政策面でも主要先進国はコロナ危機への対応として未曽有の財政拡張策を繰り出している。日本と同様、大規模な政府債務の下での政策運営を余儀なくされるようになる。財源は国債を増発して賄い、中銀が低金利環境を維持することで、実態として財政の持続可能性を支える構図が定着していく。定着すれば、何があっても低金利にしなければならなくなる。国債金利が上がれば、国債利払いだけで国家財政が破綻するからだ

 日本では2016年以降、短期・長期金利の双方に操作目標を設定する「イールドカーブ・コントロール政策(YCC)」がとられている。この枠組みは低金利環境を安定的に実現することで、金融政策の政府債務管理政策への統合を暗黙裡に可能としている。中銀は「政府からの独立性」を標榜してきたが、実質的に政府と一体の金融政策に近づきつつある。

 これは、目先の財政政策を実行したい政府にとって、中央銀行の金融政策が利用しやすくなるだけだ。ある意味「中銀の独立性」破壊であるが、そんなこと以上に、政府が将来にツケつけを回し、より大きな破綻を準備する上での「障害」を無くしているに他ならない。破綻への道を突き進んでいることこそ大問題なのだ。

 現代資本主義はこの債務拡大を押しとどめることができない、押しとどめる要因を内部に持っていない。そのことは、現代資本主義システムが、持続可能な社会システムではないと主張しているようなものなのだ。

4)中央銀行の金融政策に依存する政府
  中銀の資産膨張のリスクは解決できるのか? 
  それとも破綻するのか?

 「日本化」の下で恐ろしいのは、政府が中銀の資産膨張のリスクに関与しないこと、しようとしていないことだ。

 中央銀行は、金融・経済の安定を確保するため、財政の持続可能性に一層注意を払う必要があり、物価安定よりも、長期金利を低位安定をめざすことになるだろう。それは中銀による大規模な国債購入によって長期金利を低位安定させることになる。中銀による政府財政政策への配慮は、中銀への更なる依存と制御不可能な財政膨張を招くリスクを増大させる。金利の低位安定の金融政策運営は、実際的には政府の債務管理政策として機能し、財政政策と金融政策の境界を事実上取り払う。この場合、金融政策への更なる依存が、政治的により安易な選択肢となる。結果として、制御不能な財政膨張と一段の金融政策への依存へと進んでいく。

 今回のコロナ対策のように中銀ファイナンスによる財政拡大は、例えそれが必要であり暗黙裡なものであったとしても、無コストでないことを政府・日銀は公けに確認し、政府が責任を持つことが何よりも重要だ。

 これまで避けてきたし逃げてきた、そうやって繰り延べしてきた。その結果、膨大な債務が蓄積した。もはや避けることができない、逃げることができない局面に直面している。
 目の前の危機の回避に努めることで、より大きな危機を準備している。最終的な「破綻の道」へ進むように「収斂」しているかのようであり、避けられそうにないということだ。

 安倍政権の政策、振る舞いは、「いくら国債を発行しても、日本銀行がそれを際限なく購入すれば、誰も財政負担をしなくていい」というおとぎ話を信じているようにしか見えない。目の前の国民の支持を得るため借金を重ね、ツケは将来の世代に確実に回る。ツケが回るだけでなく、それ以上に、将来の日本経済が破綻するしかなくなる。
 もっとも、いつ、どのような道筋を通って、どのように「破綻」が訪れるかは、誰もわからない。

 しかし、破綻となれば、最終的には国民にツケが回る。
 国民にツケが回るとはどういうことか? 例えば、ギリシャ危機後に被ったギリシャ国民の困窮を思い起こさなければならない。
 あるいは、円が暴落し高インフレとなり、戦時国債が暴落し紙切れになり、大半の国民が生活困窮に陥ったあの敗戦直後からの数年のような事態が、われわれに降りかかることを思い起こさなければならない。

(文責:小林治郎吉)









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米シェールの落日、稼働リグ数 7割減  [世界の動き]

米シェールの落日、稼働リグ数 7割減 

 米シェール業界の苦境が鮮明だ。
 世界の石油需要が急減し、石油価格が暴落したため、シェールの新規開発と稼働の7割が止まった。
 6月28日、チェサピー・エナジー社が経営破綻した。1989年創業の草分け的存在だった。
 4月以降、中堅企業であるホワイティング・ペトロリアムエクストラクション・オイル・アンド・ガスが相次ぎ破綻した。
 石油・ガス開発企業の経営破綻は20社以上に及ぶ。

 シェール開発のペースを示す全米のリグ(石油掘削装置)の稼働数は、6月27日に188基と、19年3月のピークから7割減だ。

 1バレル40ドル以下では多くのシェール企業が採算割れとされ、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、WTIが40ドル程度で推移した場合、シェール企業の4割が2年以内に債務不履行に至るという。(現時点で1バレル30ドル台後半)
 ただし今のところ、世界のハイ・イールド債を組み込んだ上場投資信託(ETF)の価格は、チェサピー・エナジー社のデフォルト認定後も底堅く推移している。

 ちなみに、サウジ・アラムコ社の生産コストは、1バレル2.8ドルとされる。
 もっとも、サウジ政府財政は1バレル70~80ドルを前提に予算を組んでおり、大幅な財政赤字になる。他の産油国も同じだ。

サウジ原油4割上昇、シェールオイルが再稼働しない価格水準まで上げるつもりだ

サウジ原油価格の6月積み価格(7月2日、日経)
● エキストラライト:34.68ドル/バレル 前月比40.6%上昇
● ライト     :35.28ドル        42.4%
● ミディアム   :35.48ドル        43.8%
● ヘビー     :35.48ドル        43.8%

 世界の経済活動再開と産油国の大減産で需給のバランスが締まってきた。
 サウジをはじめとする産油国は、米国のシェールオイルリグが再稼働しない40ドル/バレル以下を目安に価格調整を図るだろう。思惑通り行くかは不明だが、米シェールオイルの大半が採算が合わないため生産を止めているので、OPECプラスが減産調整すればある程度、狙った価格(=40ドル以下)に落ち着く可能性は高い。

 米国のシェール企業は、「低格付けの債券」を発行し、資金調達して、開発・生産・販売している。石油価格が40ドル以下になれば、資金を返済できなくなり、倒産する。

 通常の経済状態であれば、こんな時には、石油メジャーがこれらシェール企業を買収し傘下に入れ独占化するのだが、石油価格暴落で、エクソン・モービル、シェル(英蘭)、シェブロン、BP(英)などメジャーのどこもがどこも膨大な赤字を抱え、資金的余裕がない。

 サウジやロシアなど「OPECプラス」は、当面は原油価格が40ドル近くになるように生産を調整し、シェール企業を市場から駆逐するように努めるだろう。今なら、在庫を放出したり増産すれば、容易に価格を40ドル近辺に調整することができる。
 これまで「OPECプラス」の減産調整にまったく従わず、自分勝手にシェアを拡大してきた米シェール企業に、「OPECプラス」の怒りは蓄積している。この機にシェールオイルのシェアを奪うだろう。

 いずれ経済が回復すれば、原油需要も増え、価格も上がっていく。
 シェールオイルは、採掘再開が比較的容易なので、40ドルを超えたら、シェール企業はどこかの資本により買収され再編され、再び石油世界市場に参入するだろう。

 「OPECプラス」は、石油価格が暴落し低迷するそれまでの間を利用し、米シェールに奪われたシェアの回復を狙っている。石油の世界需要が減退しているこの時期だからこそ、できる対応だ。

*************
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<コロナ禍による原油価格暴落によって、北米のシェールガス油井の多くは稼働が止まっている(写真:ロイター)>


8月1日 追記

 この記事を書いた後、7月20日、米メジャーのシェブロンが、米シェール大手「ノーブル・エナジー」を買収したという発表があった。株式交換による買収額は、50億ドル(約5,300億円)で、コロナ危機後、石油業界最大規模だ。シェブロンも石油需要減退と価格低下で大幅な赤字となっており、手元に資金がないので「株式交換」による買収とした。

 シェール企業の経営は悪化、安値になっている。今後は資金力のある大手による買収が加速しそうだ。とくに石油メジャーが狙っている。

 「ノーブル」は株価が9ドル台(前週末)、コロナ危機前のおよそ半分だという。
 シェブロンにとっては、割安でシェール利権を取得できる。ノーブル社は、パーミアン盆地に大規模なシェール油田を保有するとともに、イスラエル沖にも高収益海洋油田を持つ。

 シェブロンはパーミアン開発で競合するエクソン・モービルに後れをとっており、ノーブル買収で巻き返しを図るのだそうだ。

 また、7月29日、東京ガスが、米テキサス州、シェールガス企業のキャッスルトン・リソーシズへの出資を70%超にまで引き上げ、子会社化すると発表した。投資額は約700億円。

 シェブロンの買収に比べれば小規模だ。ただ、今後破綻するシェール企業が続くだろうし、資金力に余裕のある資本による買収が進むだろう。


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東京オリンピックは開催できない [世界の動き]

東京オリンピックは開催できない
中止に追い込まれるだろう


1)コロナ危機が治まらないからだ!
 全世界では依然として、1日15万~20万人規模での新規感染者が増え、5,000人以上の死者が出続けている。ワクチンはオリンピック開催までには間に合わない。

2)日本政府はコロナ感染をコントロールできていない

 7月に入って、東京で連日100人以上の感染者が出ている。
 問題なのは、政府の対応だ。日々の患者数に「一喜一憂」しているありさまだ。

 感染の実態をいまだに把握していないし、把握しようと努めていない。患者数は公表するが、検査数はいまだに公表しない。広くPCR検査、抗体検査を実施し、感染がどの地域・部門に、どの程度広がったか、あるいは広がっているか、という実態をいまだに把握していない。
 把握していないので、効果的な対策を立てることができていない。

 実態を正確に調査し把握し、責任をもって対策を実施する司令塔と対策実行チームが、いまだに存在しない。

 そんな状態であれば、対策を立てられるはずもないし、実行することもできない。
 そんな状態で繰り出すことのできる対策は、感染者も非感染者も区別できないので一緒にした大まかな対策、「外出を自粛しよう」、「夜の街に近づかないように」などなど、場当たりの、ピント外れの、闇雲に鉄砲を撃つようなものとならざるをえない。

 このような状態は、感染をコントロール下においているとは到底言えない。一年後もこのような状態であれば、オリンピックは到底、開催できない。

 コロナ危機は、第2波、第3波と続く、コロナ感染があることを前提とした生活様式である「新常態(ニューノーマル)」に転換し、感染をコントロールできる態勢をつくりあげなければならないのだが、日本政府や東京都はこの長期にわたる戦略を立てていなかったことが暴露された。第1波を乗り超えた後、第2波が来た時にどうするかについてさえ、何の戦略、何の対策も持っていなかった。

 ただ明確になったのは、政府も東京都もすでにコロナ対策予算は組んだが、これ以上の財政支出はしたくない、「緊急事態宣言」を再度発令すれば雇用調整助成金や休業補償金などの支給で更なる財政支出を迫られる。だから、患者が増えようと、経済活動を再開するしかない、という選択をした。当事者の表現だと「ギリギリの選択」だという。実際には「泥縄」の対応を行ったのである。そんな政府と東京都の「無為、無策」の実態が明らかになった。

 コロナをコントロールするというよりも、コロナにコントロールされている、コロナの支配下にあるというのが、日本政府のコロナ対策のより実態とあったより正確な描写なのだろう。

3)オリンピックは世界中の国と人が参加する

 オリンピックは日本だけで開催するのではない。世界中から参加する。
 全世界では依然として、1日15万~20万人規模での新規感染者が増え、5,000人以上の死者が出続けている。
 
 まず、7月8日現在、大国アメリカで感染拡大が止まるどころか、増え続けている。経済封鎖に耐えられず経済活動を再開したところ、テキサス、アリゾナ、フロリダ、ニューメキシコ、カルフォルニアなどで増大しつつある。コロナ対策で都市封鎖すれば経済が停滞する、財政危機にある米政府は財政支出する枠がないし、そのつもりもない。そのためトランプ政権はコロナ患者が増大しても、経済活動を再開することを選んだ。

 医療技術が最も進んだ米国で患者が増大しこれを抑えられないというのは、極めて奇異なことだ。そもそも医療費が高く、しかも無保険者が3000万人いる、コロナにかかっても病院に行けない多くの貧困層が存在する。「アメリカの医療制度は大多数の貧困者の為にあるのではない」という「真実」が、多数の犠牲者を出して見事に暴露されたようだ。人種間で死亡率の格差が出ている。人間の命に格差があるのだ。新自由主義で医療や福祉を削ってきたその結果である。これが先進国と呼ばれてきた米国で患者と死者が急増した根本的な原因だ。

 英国が欧州で死者が最も多いのも、米国と同じく新自由主義で医療や福祉を削ってきたからで、その政策の進め具合の違いで、ほかの欧州諸国との違いが出た。

 ブラジルやインドでも患者数は増大している。これら諸国はそもそも国民が必要とする医療制度が整備されていない

 中南米で、アフリカで、あるいはロシアでも患者数が増大している。これらの諸国・地域でもコロナを抑え込むめどが立っていない。

 一方、東アジアの中国、韓国、台湾がコロナをコントロール下に置き、経済活動再開を成し遂げつつある。新たにコロナ感染が起きても、その対策実施の態勢はすでに準備されている。徹底してPCR検査を実施し、感染者を分離し治療する。世界中が東アジアの国々と同じようであれば、目途も立つだろうが、そのようにはなっていない。

 すでに、世界各国でオリンピックの予選を実施するのは困難だ。予選ができない国、選手を派遣できない国が続出するのは、ほぼ確実だ。

4)ワクチンに期待を寄せていいのか?

 ワクチン開発はオリンピック開催までには、おそらく間に合わない。また、効果がどれくらい続くのか? ウィルスの変異に追いつけるのか? などという疑問もある。

 ワクチンを開発しても世界中の人に配布しなければならないが、現在は各国がワクチン枠の確保に狂奔している有様だ。オリンピックに参加する世界中の人にキチンと配布する「社会システム」はできていない。費用を誰が負担するのかという問題も解決していない。これらを1年以内で解決するのは、不可能だろう。

 したがって、ワクチンに期待を寄せるのは、はなはだ怪しいのだ。

 おそらく人類はこの先、コロナウィルスと長くつきあっていかなくてはならないのではないか。
 むしろ、ワクチン開発という「技術的問題」ではなく、コロナウィルスをコントロール下において生活する、経済活動をする「新常態」に転換することが重大なのではないか。むしろそのような社会システムをどのようにつくり上げるかという「社会的問題」なのではないか。

5)わかっていても誰も言い出さない

 現在において、東京オリンピック開催は不可能な事態であるのは、誰でも容易に想像できるが、誰も言い出さない

 どうしてだろうか?
 日本のジャーナリズム、メディアは決して触れない。いろいろ窺う顔を持っているのだろう。
 安倍政権の意向をおもんばかってか、誰も言い出すものがいない。
 あるいは、安倍政権自体も、自分で言うと非難されそうなので、IOCに先に言ってもらいたいと思っているのかもしれない。オリンピック選手の姿を見ると、本当だけど言えない、と言い訳の理由を準備する人もいるだろう。
 最近の日本社会の特質になっている。

 いずれ、20年2月に起きたとおなじように、海外から2021東京オリンピックは開催できないという声が、ポツポツと上がり、それから「右見て、左見て、周り見て」、中止の声の大きさを慎重に測ってから、最終的に中止に至るという過程をたどるだろう。






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コロナ後の世界と日本はどうなるのだろうか? [世界の動き]

 コロナ後の世界と日本はどうなるのだろうか?

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<トランプと習近平>


 数年前から、今後は「米中二極の新冷戦時代」を迎えるのではなかと言われてきたが、その様相は予想以上に混乱したものになりつつある。落日の帝国アメリカの勝手な振る舞いで、国際協調は過去のものとなり、混沌がひろがっている。米国はコロナ被害が最も大きく、当面は感染拡大防止に注力せざるを得ない。国際的なリーダーシップを発揮する意志もなければ、その力もない。トランプ政権は11月の大統領戦に勝利する目的のためだけに、国内および対外政策を繰り出している現状なのだ。

 コロナ対策で成功したのは、台湾、シンガポール、韓国、中国だ。政府と政権の対応能力の高さを示した。コロナ危機は、各国政府と政治家の「優劣」を暴きだしたようだ。日本の政権と政府の能力もどれほどのものか、すでに暴き出されている。

 トランプ政権は国内支持獲得が最大の関心事となり、その要因から「自国第一主義(アメリカンファースト)」と保護主義に傾斜した。米国はこれまで築いてきた「国際協調」(=米主導の世界支配であったが、)を破壊し、超大国の地位を利用し専横に振る舞っている。WTOはすでに機能不全状態だ。トランプ政権は中国寄りだとしてWHOも非難している。コロナ対策の国際協調さえ放棄した。

 一方的に制裁を振り回すトランプ政権の政策は、ほぼ失敗に終わりつつある。米政府が米中貿易戦争を始めて以来、米の対中輸出は大きく増えていない。大豆など農産物等はブラジルからの輸入に切り替えられた。ハイテク分野の世界市場では中国のシェアが高まり、米国のシェアは下がった。圧倒的に大多数の米業界、米企業が現政権の通商政策を支持していない。
 国際協調の破壊、保護主義、中国との対立深化の政策は、米議会、民主党でも同じであって、米国内事情からすれば大統領がバイデンとなっても大きく変わることはないだろう。

 しかし、米国がいくら中国を嫌っても、中国と経済で別れることはできない。米国は「5G」で先行する中国の華為を世界市場から締め出したいが、もはや不可能である。中南米、アフリカ、アジアなどの新興国や途上国は、価格が安く性能が優れている華為の5G 用の通信機器設備を導入しており、急速に普及している。米国や欧州、日本市場で華為製品の締めだしを画策して果たして成功するか、いまだに結果は不明だ。この争いの決着には、おそらく時間がかかる。

 日本企業の一部は、中国工場を移転し中国への依存を減らそうとしているが、あくまで「小さな調整の範囲」にすぎない。グローバル化した経済を元に戻そうなどということは、もはや不可能だ。コロナ危機で陶器製便器が中国から入荷せず、日本の住宅建設が止まったことを想起すれば明らかだ。

 日本はすでに中国経済圏内にいる。日本政府は「中国+1」戦略を探るが、中国に代わるその「」がなかなか見つからない。一部のサプライチェーンの国内回帰などの再編模索は続くかもしれないが、グローバル化と自由貿易の流れからの逆戻りを意味する生産部品や生産工程を全面的に中国から移転するのはもはや不可能である。

 中国経済は、おそらくコロナ危機から最も早く回復する国の一つであり、世界経済における中国の地位はより高くなっていくだろう。ただ、すぐに米国にとって代わるまでには至っていない。「一帯一路」構想は新しい中国経済圏をつくりつつあるが、いまだ途上である。

 半導体分野での多くの技術は、米国や欧日企業がいまだ握っている。半導体を巡る覇権争いは激しい競争を繰り広げている。中国は半導体の自国開発・生産を目ざしており、莫大な投資をしている。いずれ、半導体国産化が進行するだろうが、いまだ多くの課題が残っており、この覇権争いも決着がつくまで時間がかかる。

 したがって、米中の双方にとっても、しばらくは対立しながらも、どこかで均衡点を見出すしか選択肢はないはずなのだ。その「新たな現実」を、落日の帝国・アメリカ政府支配層が冷静に認識し対応できず、「米国第一主義」を振り回し、国際協調を破壊し、世界の分断を深めている。そのことは自身の退場する道を掃き清めているに他ならないにもかかわらず、だ。

「コロナ後」、日本経済はどんな姿になるだろう

 日本経済の成長率が、一段と低下するのは避けられない。
 今回の突然の「3密回避」で、サービス業(観光業、飲食業)を中心に収入の道を遮断された労働者や中小企業が生存の危機にさらされた。社員が出社できないので製造業、特に自動車産業は大幅に減産となった。
 収入が減ったことで消費需要は減退し、投資需要も長期間にわたって停滞する。今後は経済全体として貯蓄性志向が高まるはずだ。
 コロナ危機からの速い脱却が必要なのだが、日本の経済活動の再開は、遅い部類に入るようだ。
 
 一方で、日本のデジタル化が大きく打遅れていることが明らかになった。
 先進諸国では小中学校、高校でコロナ危機のあいだ、Web授業が実施された。できなかったのは日本だけだ。萩生田文部科学大臣が愕然としたそうだが、長期間にわたって教育費を削ってきた結果だということまで、認識したかどうかは不明だ。
 AI技術者、IT技術者の養成・教育が遅れ、その人数が圧倒的に少ないことも明らかになった。
 雇用調整助成金、定額給付金などの申請もネット上では結局できず、政府・自治体内でのデジタル化の大きな遅れも露呈してしまった。

 ただ、遅れていたとしても、この先デジタル化、AI導入、5G普及による産業再編は避けられないだろう。
 長期的には、AIロボットの導入・普及によって供給はむしろ増加する展開になると思われるが、宋だとしても収入格差が解消に向かわなければ、おそらく需要が追いつかないので、これまでと似たような成長率が低下したままデフレ経済化が進むのではないか。

 財政事情は一段と悪化する。コロナ対策で第一次、二次の補正予算も含め、20年度支出は160兆円を超え、新規赤字国債発行は90兆円、基礎財政収支の赤字幅はマイナス60兆円に膨らんだ。

 税収は減少し、税収だけで政策的経費を賄うのはこれまでもできていなかったが、今回、国の借金は一挙に積みあがった。財政収支の黒字化は遅々として進まず、それどころか危機のたびに国債を増発し賄うパターンを繰り返し、政府債務は今後も増え続ける。

 コロナ後を見据えた財政健全化の抜本的見直しが急務だが、政権のこれまでの振る舞いを見れば、そのメドは立たない。むしろ遠ざかっているというしかない。もはや実現不可能の領域に入り込んでいる。

 おそらく、この様な繰り返し(=「日本経済の停滞感、埋没感」)こそが常態となるのだろう。日本の「新常態(ニューノーマル)」とは、上記のような姿なのだ。

 そんななか日本はどう進むべきか?

 1988年(昭和最後の年)日本のGDP世界シェアは16%だった。日本を除くアジアは6%で、かつて日本はアジアで断トツの経済大国だった。

 21世紀に入る前年の2000年、日本のGDPの世界シェアは14%と、まだ持ちこたえていた。
 それが2018年には、日本のGDP世界シェアは6%にまで落ち、アジアは23%(そのうち中国は16%)を占めるようになった。19年にアジアのGDPは日本の4倍を超えた。(中国のGDPは日本の3倍)。

 急速に日本経済の地位が落ちている。そのことに多くの経済人、日本国民は、いまだピンと来ていない。なかには過去の「栄光」に酔っていたい人も多く、「中韓の風下には立ちたくない」と駄々をこねている人も目立つ。

 コロナ危機からの脱出の過程で、いかに早く脱出するかで、近い将来の経済成長の差は一層拡大するだろう。中国、韓国、台湾は、より早く経済活動を再開させそうだ。日本は遅れている部類に入る。
 これから5~10年先、アジアのGDPはどんなに控えめに予測しても日本の10倍を超える規模になるだろう。

 「日本の停滞感と埋没感」はさらに深まることだろう。

 日本経済が停滞したこの30年、日本政府、歴代政権は、没落する日本人の「プライド」を対米依存を深めることで保ってきたようなのだ。まさに「虎の威を借る狐」として振る舞ってきた。その「虎」が、落日を前に「混乱」している。すでにあてにならなくなっている。

 どう進むべきか、日本人にとっても「主体性」が問われている。日本政府は即刻、「対米依存」から脱却しなければならない。日本の支配層にとっても、その方向に未来がある。

 日本のこの先の行動計画には、相当の大変革が必要である。どのようにしたら格差社会を解消し、貧困層を少なくするか、教育と福祉を充実させた社会に変革するか、日本社会をデザインするうえで第一の課題となる。

 日本は成長していない。アジアは急速に成長している。コロナ対策で台湾や韓国のとった優れた対応を見よ! コロナ対策においてもすでに出遅れている日本社会である。

 ポスト・コロナ時代の日本再生の道は、アジアのダイナミズムと相関しながら、そのなかでいかに日本の未来を形づくるかを考えることが求められている。






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国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害 [フィリピンの政治経済状況]

国連報告:麻薬取締で重大な人権侵害
ドゥテルテ政権の人権侵害を告発

 国連人権高等弁務官事務所(ミシェル・バチェレ代表)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を発表した。現政権の「違法薬物戦争」が大きく取りあげられ、これを「政権が治安対策と違法薬物対策を偏重し、市民の殺害や恣意的な拘束、批判への攻撃といった人権侵害を引き起こし、不処罰を助長した」と断じている。

 報告書は政府の資料や警察の報告、写真や映像、被害者らへの聞き取りなどを元に作成された。違法薬物関連の犯罪の疑いで殺害された市民の数は、公式には2016年から累計で8,663人だが、実際の犠牲者はその3倍との推計もある。2015〜19年には248人の人権活動家や法律家、ジャーナリストが殺害され、殺人事件で有罪となったのはたった1件。武器の使用や殺害を肯定する政府高官らの発言や政策が、警察の暴力を許す結果になったと分析している。

 また報告書は、警察による証拠捏造の疑いにも触れている。2016年8月から翌年6月の間に、首都圏で展開された25の作戦で計45人の市民が殺害された。警察は、犠牲者のものとみられる覚醒剤や銃を回収したとするが、同一のシリアル番号の拳銃が別々の事件で「発見」されていた。同じ拳銃2丁が5件もの異なった事件で見つかるケースもあった。警察による「証拠偽造」の可能性が極めて高いと報告している。

下記に、
・6月4日のアムネスティ国際ニュース、
・6月30日のミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官の国連理事会での報告
・6月30日、フィリピン・スター紙に記事
を転載します。

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国連報告が求める「麻薬戦争」に対する国際調査
 アムネスティ国際ニュース  2020年6月4日

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を公表した。

 報告書の内容は、2016年に大統領に就任したドゥテルテが主導する「麻薬戦争」に対する痛烈な告発だ。この「麻薬戦争」では、貧困地域の市民に銃が向けられ、数千人が犠牲になってきた。

 報告書は、麻薬取り締まりの中で、警官による市民の殺害や人権侵害、殺人を犯した警官の不処罰、家宅捜索での証拠偽造など数々の事実を明らかにした。また、メディア、人権擁護活動家、政治活動家らに対する圧力や暴力、さらに、銃使用を奨励する政府高官の発言、表現の自由に対する脅威などがあったことも述べられている。

 報告書は、警官による犯罪を徹底捜査することが喫緊の課題だと提言している。報告書が指摘するように、市民を殺害した警官が何の罪も問われてこなかったのは、重大な問題だ。不処罰が、さらなる人権侵害を許している。

 人権理事会は、警官による殺人や人権侵害について、独立した国際調査団を設置すべきだ。機関の設置は、警官の不処罰問題を質す上で大きな一歩となるだろう。

 一方、国際社会は、国際調査団の設置を支援し、市民の殺害が続く限り、監視を続けるというメッセージをフィリピンに送らなければならない。また、犠牲者家族や人権擁護活動家への連帯を示すことも求められる。

 ドゥテルテ大統領は、誤った政策を取り下げ、犠牲者への正義と補償を実現し、公衆衛生と人権に基づいた麻薬対策を打ち出すべきだ。

背景情報

 国連人権高等弁務官事務所の報告は、19年7月に国連人権理事会で採択された決議にもとづく。この決議が採択に至った背景には、アムネスティをはじめとした市民団体の運動があった。

 ドゥテルテ政権が4年前に打ち出した「麻薬戦争」は、国際社会や国内外の人権団体から強い非難を受けた。しかし、同氏は批判を顧みず、警官に銃の使用を奨励し、処罰しないどころか昇進に結びつけるような発言もした。

 警官による殺害がまかり通る中、活動家、記者、弁護士、教会幹部、労組幹部などが、その人権活動や反政府的発言で当局の攻撃や圧力を受けた。直近では、フィリピンの大手放送局ABS-CBNが営業停止に追い込まれ、新型コロナウイルス感染拡大の中では、隔離や外出禁止令の違反者に、銃の使用も辞さないとの警告が出された。

 昨年の国連人権理事会の決議に基づき出された今回の報告書は、悪化するフィリピンの人権状況に対応する上で重要な一歩となった。

 今後、人権理事会に求められるのは、フィリピンに対するより強力な取り組みであり、特に当局による殺人の捜査とフィリピン政府に説明責任を果たさせる役割を負う国際調査団の設置だ。

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人権理事会の第44回セッション
フィリピンの人権状況に関する双方向対話の強化
国連人権高等弁務官事務所、ミシェル・バチェレ代表の声明
2020年6月30日


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<国連人権高等弁務官事務所代表 ミシェル・バチェレ>

 決議41/2で要求されたように、私は今フィリピンの人権状況についての私たちの報告(国連人権高等弁務官事務所のレポート)に目を向けていただくようお願いします。

 まず、書面による提出やバンコクとジュネーブにある私の事務所との会議を含むフィリピン政府の協力に感謝します。しかし、国連人権高等弁務官事務所に与えられた使命を実行するにあたり、私のチームはフィリピン国家へのアクセスを許可されませんでした。また、フィリピン中の組織や個人から何百もの提出物を受け取りました。しかし、レポートの内容の多くは、フィリピン政府から入手した公式情報源から引用されています。

 レポートの調査結果は非常に深刻です。フィリピンにおける国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗する法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施されてきました。フィリピン政府。当局者は何千もの殺害、恣意的な拘留を行い、そしてこれらの深刻な人権侵害に挑戦する人々の非難をもたらしました。

 レポートでは、2015年から2019年の間に248人以上の人権擁護活動家、弁護士、ジャーナリスト、労働組合員が殺害されたことを報告しています。これには、環境保護団体や先住民族の権利擁護活動家が多数含まれます。人権擁護活動家は、テロリスト、あるいは国家の敵、そしてCOVID-19対策の敵であるとさえ、非難されています。

 新しい「反テロ法」が最近、フィリピン議会を通過しましたが、批判、犯罪性、およびテロリズムの間の重要な区別が極めて曖昧であることから、私たちは重大な懸念を抱いています。

 この法律は、人権と人道的活動にさらなる冷酷な影響を及ぼし、脆弱で疎外されたコミュニティへの支援を妨げる可能性があります。したがって、ドゥテルテ統領に「反テロ法」への署名を控え、暴力的な過激主義を効果的に防止および防止できる立法案を作成するための幅広い協議プロセスを開始するよう要請します(「反テロ法」はフィリピン議会を通過したので、ドゥテルテ大統領が署名すれば成立するばかりとなっていた、6月30日のバチェレ代表の国連理事会での演説の後、ドゥテルテ大統領は7月3日に署名し「反テロ法」は成立した)。

 ただし、平和的な批判に従事している人々に対する誤用を防ぐためのセーフガードが含まれています。私が代表を務める国連人権高等弁務官事務所はそのようなレビューを支援する準備ができています。

 報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、いわゆる「麻薬戦争」を引き起こしている主要な政策と政府の最高レベルからの暴力への扇動に起因していることも見出しています。違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われています。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることも認定しています。

 私たちはまた、フィリピンでは殺害した当局者が「ほぼな不処罰」であることも発見しました。これは、超法規的殺害の加害者が存在することをフィリピン政府が望んでいないことを示しています。当然のことながら、被害者の家族は無力であり、正義を実現する確固たる可能性が保障されていなければなりません。。

 さらに、違法薬物キャンペーンはは行われましたが、政府高官の黙認により、違法薬物の供給を減らすのに効果がありませんでした。

 フィリピンは経済的および社会的権利はある程度の進歩を遂げましたが、先住民と農民は未だ、強力な企業と政治的利益、軍と新人民軍のような非国家武装グループの間の綱引きに巻き込まれ続けています。進歩的な法律にもかかわらず、先住民の権利、教育を受ける権利、その他の基本的な経済的および社会的権利は、多くの遠隔地のコミュニティにとって保障されておらず実現されていないままです。
 
 フィリピンは長年にわたって多くの国連人権メカニズムに積極的に関与しており、このレポートは勧告の多くに基づいています。シニア人権アドバイザーも2014年から国連カントリーチームを支援しています。

 当事務所は、報告書の推奨に基づいて建設的な関与を強化する準備ができています。我々は、国内の説明責任メカニズムの強化を含む、政府とのさらなる協力のためのいくつかの分野を特定しました。警察違反の疑いに関するデータ収集を改善すべきです。薬物規制とテロリズムに関する法律と政策を見直しすべきです。そして市民社会と政府・国家当局の間のギャップを埋めなくてはなりません。

 私の国連人権高等弁務官事務所に監視と報告の継続を義務付けることによって、また報告の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について積極的で警戒を続けるよう理事会に要請します。フィリピン国家は、私たちが記録した重大な違反について独立した調査を実施する義務を負っています。フィリピン国内のメカニズムからの明確な改善結果がない場合、理事会は国際的な説明責任対策のオプションを検討する必要があります。

 この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する刑罰の終焉の始まりとなることを願っています。被害者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待しています。

 フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、不十分です。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティの出身である傾向があるため、保護を確実にするために、フィリピン政府にはさらに強い義務があります。被害者を失望させてはなりません。政治的リーダーシップとは、社会のすべての人々の権利、特に最も脆弱な人々の権利を尊重し、促進し、保護し、誰も取り残さないようにすることが重要です。

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「重大な違反」:
バチェレ、フィリピンに関する報告を国連人権理事会に提出
ガイア・カトリーナ・カビコ(Gaea Katreena Cabico)記者、

(フィリピン・スター紙.com)

2020年6月30日


 マニラ、フィリピン
 フィリピン政府の麻薬戦争は、「広範囲にわたる組織的な」超法規的殺人を含む深刻な人権侵害を引き起こしたと、6月30日(火)、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表は述べた。

 「国連人権高等弁務官事務所によるフィリピンの状況に関する報告の調査結果は非常に深刻だった。国家安全保障上の脅威と違法薬物に対抗するためのフィリピンの法律と政策は、人権に深刻な影響を与える方法で作成され、実施された」とバチェレ代表は、開催中の第44回国連人権理事会で報告し正式に公表した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府の麻薬摘発政策の結果、何千もの殺害、恣意的な拘留があり、「深刻な」人権侵害に異議を申し立てる個人の非難が発生したとし、「報告書はまた、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害が、麻薬に対するいわゆる戦争と政府の最高レベルからの暴力への扇動を推進する主要な政策に起因していることがわかる」と述べたのである。

 「違法薬物に対するキャンペーンは、法の支配、デュープロセス、および薬物を使用または販売している可能性のある人々の人権を十分に考慮せずに行われている。報告書は、殺害は広範囲に及んで体系的であり、現在も続いていることを発見した」とも述べている。

 バチェレ代表は、国連人権高等弁務官事務所のチームにはフィリピンへのアクセス権は与えられていないが、フィリピン政府から書面による提出とタイ・バンコクとスイス・ジュネーブでの「数回の会議」を通じてレビューに協力したと報告の作成の背景に触れた。

 国連人権高等弁務官事務所は、フィリピンの人権団体や個人からも「数百の提出物」を受け取ったが、バチェレ代表は「報告書の内容の多くはフィリピン政府からの公式情報源から引用された」と述べている。

 国連人権高等弁務官事務所は6月4日に公表した報告で、フィリピンの人権侵害について、フィリピン政府が違法薬物の取り締まりに強引に焦点を当ててきた政策と、政府高官からの口頭による指示からうまれている人々の安全と人権への脅威について詳述した。

 違法薬物に対する国際的な非難キャンペーンは、ドゥテルテが麻薬犯罪を厳しく取り締まるという公約を掲げ大統領選挙で勝利した2016年以降、ドゥテルテ政府によって開始された。

 国連高等弁務官事務所はまた、有罪判決を受けた薬物戦争による殺害者は「ほぼ免責」されたと語った。2017年に17歳の男子生徒であるキアン・デロス・サントスが殺害された件でも、殺害者は免責された。

 フィリピン政府の最新の統計によると、戦争で殺害された麻薬犯の数は5,601人だった。その数は、27,000人が殺されたとする「人権ウォッチドッグ」による推定よりもかなり少ない。

「免責の終わり」

 バチェレ代表は国連人権理事会に対し、監視と報告を継続することを義務づけ、報告書の勧告を実施するための技術協力への支援を通じて、フィリピンの状況について警戒を続けるよう要請した。

 バチェレ代表は、フィリピン政府による対策によって明確な改善がない場合、人権理事会は国際的な説明責任措置のオプションを検討すべきであると述べた。

 国連人権高等弁務官代表はまた、フィリピンにそのような「重大な」違反があるかについて独立した調査を行うよう求めた。

 「この報告書がフィリピンでの深刻な人権侵害に対する免責の終焉となることを願っている。犠牲者の家族とフィリピンの勇敢な人権擁護家たちは、国際社会がこれらの進行中の深刻な人権問題への取り組みを支援し、理事会がその予防義務に立ち向かうことを期待している」とバチェレット代表は述べた。

 「フィリピン政府の強引な政策が国で人気を維持していると主張するだけでは、まったく不十分である。被害者は社会経済的階級が比較的低く、比較的無力なコミュニティに属している傾向があるため、保護を確保するためのさらに強い義務がある」とバチェレは付け加えた。

 国連人権理事会:フィリピンには、過去の権利違反への対処失敗に根差した不処罰の風土がある
国連人権理事会委員であるカレン・ゴメス・ダンピットは声明で、国連人権高等弁務官事務所の報告を歓迎するとともに、調査結果をフィリピン政府が受け付けなかったことは残念であると述べた。

 「フィリピンでは過去の人権侵害に対処しなかったことから不処罰の風潮が形成されている。しかも、人権に対する乱暴な態度と行動は、今日なお強く存続する、憎悪を煽り、暴力を動機づけ、不処罰を許すという有害な修辞学によって条件付けられてきたという見方を我々は共有している。」と、ダンピット委員は言った。

 国連人権理事会の当局者は、報告書の調査結果と推奨事項を受け入れ、国内メカニズムの有効性を実証するための決定的な措置を講じることは政府の義務であると強調した。

 国連人権理事会はその勧告として、権力者からの有害なレトリックの即時停止、フィリピン国家警察の全面的協力、および説明責任メカニズムを求めた。

 それとともに、フィリピン政府に人権侵害の各犠牲者を説明し特定し、すべての加害者を起訴すること、反薬物キャンペーンの犠牲者と彼らが残した家族に援助を提供ことを求めた。

 19年、人権理事会は、バチェレ国連人権高等弁務官事務所代表にフィリピンの人権状況に関する包括的な報告書の作成を求める決議を採択した。

 フィリピンは現在審議会に参加している47か国の1つである。

 国連人権理事会は、6月30日~7月20日までジュネーブのパレデネーションズで44回目の定期会合を開催する。

 
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フィリピンで反テロ法が成立 [フィリピンの政治経済状況]

1) フィリピンで反テロ法が成立 

 フィリピンのドゥテルテ大統領は7月3日、「反テロ法」に署名し、成立させた。

 「反テロ法」は5月以降、下院、上院で賛成多数で可決し、あとは大統領の署名を待つだけの状態だった。この間、マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続いた。ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官など国際社会からもドゥテルテ大統領に同法案への署名を思いとどまるよう求める声が高まっていた。そのような声を無視し、成立させたのである。

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<フィリピン大学で反テロ法に抗議する人々6月4日>

 ドゥテルテ政権は2016年の政権発足以来、麻薬撲滅の捜査の過程で警察や軍によって何千人もの死者を出してきた。表向きは「容疑者が反抗したためやむなく射殺した」としている。いわば裁判なしの殺人を実行しており、警察・軍による「超法規的殺人」として、フィリピン国内や国連などの国際社会からも批判されてきた。「超法規的殺人」は今もなお続いている。

 2020年5月にドゥテルテ政権は、政権に批判的であるという理由で、フィリピン最大のメディアABS-CBNを閉鎖させた。

 そのような人権を無視してきたドゥテルテ政権が、「反テロ法」を手にしたのである。テロ容疑者の摘発で強大な権限が当局に与えられることになる。テロ容疑者の定義が不明瞭なため、労働運動、人権運動、農民運動、環境擁護運動などあらゆる反政府的な意見や要求を封じることができるのではないかとの懸念が広がっている。新たな武器をフィリピン政府に与えたことになる。

2) 反テロ法の問題点 
■ 令状なしの拘束、監視、盗聴が可能に

 成立した反テロ法は、テロリストとみなす人々を令状なしで逮捕できることになった(テロリスト容疑者を令状なしで逮捕できる命令を出す評議会を、ドゥテルテが設置することで可能となる)。 また、逮捕状なしに容疑者を拘束できる期間をこれまでの3日から最大24日に拡大した。「容疑者の90日間監視、盗聴が可能」になる。

 このような規定は、拘束期間を最大3日とするフィリピン憲法に違反する。
 同法違反で逮捕、起訴そして有罪が確定すれば最高で仮釈放なしの終身刑が科される可能性がある。

 ■ あいまいな「テロ」の定義、拡大解釈が可能 

 さらに同法では「スピーチ、文章表現、シンボル、看板や垂れ幕などでテロを主張、支持、擁護、扇動した場合も反テロ法違反容疑に問われる可能性」があることから、表現の自由や報道の自由が侵害される危険性が潜んでいると、反対派は主張している。

 また、反テロ法は「テロ」の定義を、「死傷者を伴う国有・私有財産の破損、恐怖のメッセージの拡散、政府に対する威嚇を目的とする大量破壊兵器の使用を意図すること」などと定義しているのだが、 このテロの定義はきわめて曖昧なのだ。例えば「恐怖のメッセージの拡散」とは、何を指すのか? 具体性が欠如しており、どのようにも拡大運用できる余地があるため、政府が恣意的に運用する危険性を容易に想像できる。同様に「大量破壊兵器」が具体的にどのような兵器を想定しているのかも不明であり、どうとでも解釈できる余地が残されている。

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<反テロ法へドゥテルテが署名したことを報告するハリー・ロケ大統領報道官>

3) 反テロ法の標的はだれか?

 2017年ミンダナオ、マラウィでのイスラム過激勢力による突然の占拠は1,000人もの死者を出し、鎮圧するのに5ヵ月もかかった。ドゥテルテ政権は、これを「反テロ法」提出の根拠としている。反テロ法の対象は国内批判勢力であることがほぼ明らかだ。ドゥテルテ政権は、「イスラム過激組織」と共産党系の「新人民軍(NPA)」をテロ組織として認定している。

 イスラム武装勢力(マラウィ・グループ)は、海外から送り込まれた傭兵組織であり、この組織はすでに掃討した。他方、ミンダナオのイスラム系住民の多くは、モロ・イスラム解放戦線(MILF)と合意し発足したイスラム自治政府に参加している。

 そのためドゥテルテの当面の標的はNPAであることが明らかだ、ただNPAにとどまらずNPAとつながり支援しているとみなすバヤン(Bayan)や国民民主戦線(NDF)の各組織、団体にも及ぶのである。合法的な労働組合や農民団体、女性団体が狙われている。また、1998年から施行された政党名簿制選挙から、合法政党バヤン・ムーナガブリエラ(女性団体)、アナク・パウィス(労働組合関係)を立てて選挙に参加し、2019年選挙ではバヤン・ムーナが3議席、ガブリエラが1議席を確保し、アナック・パウィスが1議席を失った。この合法政党も標的にされている。フィリピンの人々は労働組合、女性団体など自身の団体を組織する権利を持っているが、政府や軍・警察はこれまでも「赤のレッテル貼り(Red tagging)」をして弾圧してきた。警察や軍の権限が反テロ法によって強化されるのは確実で、弾圧がさらにひどくなると予想される。

 反テロ法発足により、弾圧は共産党系のみならず、あらゆる民主団体、人権団体、環境運動に及ぶと懸念される。

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<7月4日、反テロ法に抗議する市民ら マニラ  毎日新聞>

4) フィリピン国内外からの批判

 フィリピンの主要マスコミは連日政府側の思惑と反対勢力の主張を大きく取り上げて報じている。マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続いた。
 フィリピンの人権団体「カラパタン」は、反テロ法を「ドゥテルテ政治がマルコス独裁政治を目指している」と手厳しく非難している。

 国際的人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「政治的な反対勢力の制度的取り締まりに悪用されかねない」と反対を表明。「政府に対して声を上げる人々を狙い撃ちにでき、フィリピンの民主主義は暗黒時代に入った」と非難した。

 テロの定義が広いことなどから人権抑圧につながるとの懸念から、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは7月3日、「政権は国家の敵と見なせば、いかなる勢力でも仕留められる武器を手に入れた」との声明を発表した。

 労働組合への弾圧も広がる懸念があるとして、国際労働団体からも批判声明が出ている。日本の連合も批判する声明を出している。


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 連合のドゥテルテ大統領あての書簡

ロドリゴ・ロア・ドゥテルテ フィリピン共和国大統領閣下
Republic of the Philippines
Email: op@president.gov.ph
mro@malacanang.gov.ph;
pcc@malacanang.gov.ph


ドゥテルテ大統領

テロ対策法案(上院法案第1083号および下院法案第6875号)は国際労働基準に違反しています

 この書簡は、2007年の人間の安全保障法にとって代わる2つのテロ対策法案(上院法案第1083号および下院法案第6875号)の可決に関し、日本労働組合総連合会として、フィリピンの労働者と連帯し、深い懸念を表明するものです。

 私たちは、ITUC加盟組織およびフィリピン最大の労働組合連合体であるNagkaisaが強く反対する、新しい対テロ法案について非常に懸念しています。これら法案に貴殿が署名し法律となった場合、市民社会スペースと職場における権利をさらに保安対象化させ、縮小かつ抑圧し、労働者や労働組合活動家、その他の人権活動家や人権擁護者を、警察、軍、その他の治安機関による恣意的で無差別かつ根拠のない攻撃や嫌がらせ、脅迫と殺害の危険に今まで以上に晒すことになります。

 法案規定の多くは国際法と深刻に矛盾するものです。例えば、上院法案第1083号の第4項では、公共施設、私有財産およびインフラへのいかなる損害も、非常に幅広い「テロリズム」の定義の中に含まれています。この定義の下では、平和的かつ合法な労働組合活動への参加が土地や建物への直接的または間接的な損害につながったと解釈される可能性があり、適用範囲が過度に広いテロの定義によって、労働者は拘束の危険に晒されかねません。

 国際労働基準の下では、ストライキ権も含め、団結権行使を弱体化または阻害するような過度に広範な法的定義は結社の自由の原則に違反すると記憶していますし、とりわけ労働組合活動に関して政府がテロやその他の緊急立法に訴えることをILO結社の自由委員会は認めていません。

 同様に、上院法案第1083号と下院法案第6875号の第9項では、テロ行為に参加せずともテロ容疑者に賛同する意見表明やその他の表現を行うことを非合法化しています。両法案においてテロリズムの定義が幅広いものとなっているため、テロとみなされる抗議や集団行動に関して肯定的な意見を表明する、または好意的な私物を保有している労働者または一般市民はこの規定に抵触することになります。

 意見表明および表現の自由、とりわけ干渉なく意見を持つことの自由、またあらゆる媒体を介して情報と様々な考えを求め、受け取り、伝える自由は、労働組合権の通常の行使において不可欠である自由権を構成する点に留意します。したがって、対テロ法案における過度に広いテロリズムの定義を踏まえると、第9項は第87号条約および結社の自由の原則に違反するものです。

 さらに、上院法案第1083号の第3項(c)に注目しますと、ここでは、「…収監と尋問のために、テロリストまたはテロ組織や団体、または集団の支援者であると疑われる個人の外国への移送に」言及し「特例拘置引き渡し」を定義し、合法化しています。さらに「正式な告訴、裁判、または裁判所の許可なく、特例拘置引き渡しが可能である」とも記されています。

 この規定が、いかなる説明責任もなく、フィリピン国民および人権活動家や団体に対して適用される可能性があることを私たちは深く懸念しています。結社の自由委員会は「他のすべての人と同様、適法手続きの保障を享受する権利を労働組合員が保有するとの重要性を指摘」しています。委員会が、いかなる状況下でも、法的責任の制度無しに拘置引き渡しが発生するのは是認できないとした点に留意します。この規定は修正されなければなりません。

 さらに、上院法案第1083号および下院法案第6875号の第29項では、逮捕令状によるテロ容疑者への保護が与えられていません。逮捕や捜索の前に令状が発行されれば、治安当局による個人のプライバシーや財産の享受への恣意的妨害は不可能となりますが、両法案の致命的な点は、虚偽や悪意ある行為、告発および起訴に苦しむ人たちに対する救済措置が設けられていないことです。救済措置は、2007年の人間の安全保障法を改正する過程で削除されました。

 大統領、両法案の対テロ規定の中で国際労働基準に違反し不当な規定について幾つか言及いたしました。貴殿には、人権と自由権を尊重する環境の中で、法律および慣行において、団結権の享受を保障する義務があります。フィリピン政府が人権を抑圧するためにテロ対策やその他の治安維持法を用い、第87号条約の義務を遂行していない点について、国連およびILO条約勧告適用専門家委員会が既に数回にわたり不安を表明していることを私たちは懸念しています。

 フィリピンの人権状況について、憲法上およびその他の法的保護を損なう恐れがあるとして、対テロを目的とした新しい法律を採択しないよう、昨今、国連人権高等弁務官は貴国政府に注意を促しています。弁務官は「アカ認定」、つまり個人やグループへの共産主義者やテロリストとしてのレッテル貼りが、市民社会や表現の自由に対し繰り返されてきた強烈な脅威であるとも述べています。

 現在、この法律は貴殿の署名を待つばかりと理解しています。日本労働組合総合会は、貴殿が現行の形での本法案に拒否権を行使するよう求めます。このような対テロ法は、第87号条約ならびにその他の国際的人権義務を完全に遵守しつつ、三者間および多方面における公開協議を通じて熟考する必要があるのです。

敬具

日本労働組合総連合会
会長
神津里季生

cc:
Alan Peter Cayetano下院議長
Email : Alanpeter.cayetano@house.gov.ph

Vicente C. Sotto III上院議長
Email : Os_sotto@yahoo.com

Hon. Menardo I. Guevarra司法長官
osecmig@gmail.com

Hon. Silvestre H. Bello III労働雇用長官
Email : secshb3@dole.gov.ph, osec@gov.ph







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パンデミック下のフィリピン [フィリピンの政治経済状況]

 アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)のエミリから、パンデミック下の生活や活動の様子について報告が送られてきました。
 移動制限があり、地域によって異なりますが、バタアンでは10人以上の集まりは禁止されています。これを取り締まっているのがフィリピン政府の警察と軍で、強圧的な対応が問題になっています。

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パンデミックと「ニューノーマル」の時代
エミリー・ファヤルド ANBA-BALA事務局長

 100年前のスペイン・インフルエンザの時に世界の人々の上に起きたことを、今の時代に生きる私たちの間で再び経験したいという者は誰もいません。単純なインフルエンザが肺炎となり、世界中の何百万人もの人々を突然殺すことに、私たちは驚きました。パンデミックという新しい言葉を通じて、子どもたちばかりではなく大人たちにも、恐怖を教えられたのです。私の4歳の娘でさえ、私をパンデミックママ(母)と呼びますが、こんな風にさえ広まっています。

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<今に至るまでジプニーやトライシクル、バスなどの公共交通機関が許可されていないため、私たちは自転車を使って労働者のコミュニティに行き労働者やリーダーに会います>

 フィリピン政府は、コミュニティ検疫(ECQ)を最初にルソン島、次にセブ-ヴィサヤに、そしてのちにミンダナオにいくつかの支部を設置し実施しました。ショッピング・モール、学校、大小の施設、店、食料品店は閉鎖され、誰もが家に滞在しています。フィリピンでは、子供と大人が約60日間、家のなかに留まりました。週に1回、すべての家族のうちの1人だけが、市場に行き食料を購入することができます。COVID 19ウイルスに感染したい人はいません。誰もが感染を避けるために、政府と保健省の指示や規則に従っているのです。

 しかし、私たちにとって本当に苛立たしいことであるとともに、おそらくこうなるだろうと予想した通り、フィリピンのドゥテルテ政府は、困難な危機のこの時期にあってもなお、能力不足を露呈しているのです。ドゥテルテ政府のコロナ対策計画は、適切でもなければ決定的でもありません。政府がフィリピン大衆に同情と共感を持っていないことを、再び暴露したのです。差別なしにすべてのフィリピン人に補助金を与える代わりに、危機に際して政治的野心と腐敗の実行こそが、彼ら政府関係者の心に浮かぶ最初の事柄なのです。

 コロナウィルスによるパンデミックと戦う政府の「インターエージェンシー・タスクフォース(省庁間からなる対策センター)」の構成メンバーは、ほとんどが軍人であって、感染や健康の専門家ではありません。したがって、科学的および医学的側面の危機を解決するのではなく、軍事的観点から人々を抑え込むことで危機を解決しようとするのです。実際に行うのは、ウイルスの蔓延を回避すると称して、軍事戦術を適用して人々を強圧的に隔離するのです。

 コロナ危機のなかで、政府は飢えたフィリピン人へ助成金を出す予算を組みました。しかし、最悪なのは、政治制度と政治実行のプロセスに問題があるため、助成金は封鎖後、1か月と1週間経ってやっと、各家庭に支給されるような状態なのです。支給される前に人々はすでに飢えています。多くの労働者は補助金を受け取っていると思われていますが、残念ながら支給は公平ではなく、差別的です。ですから、政府の予算に補助金支出が組み入れられたにもかかわらず、今もなお多くの労働者が、労働雇用省からの補助金を受け取っていないのです。

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<椅子は事務所の外に置き、距離をとって話をする>

 このパンデミックのなかで「良かった点」は、自治体と一部の市長が、管轄区域の有能な指導者として名前をあげたことです。そのうちの1人は、有権者とのやり取りが非常に得意なパシグ市のヴィコ・ソット市長です。計画は正確で、機動性と彼の行動は人々を共感させています。彼は優れた指導者であり、今回の事態のなかで最も優れた市長の一人です。

 フィリピンの人々は政府や権力者の無能ぶりにうんざりしていますが、ヴィコ市長ような人物がいることは、私たちのなかからも優れた指導者が生まれるのではないか、という希望を与えてくれます。ヴィコ市長はまだ若く、理想主義者です。私たちが抱くリーダー像ではないリーダーシップを探っているのかもしれません。

パンデミック時のドゥテルテの優先順位付け:

 このパンデミックにおけるドゥテルテ政権の優先事項は何だと思いますか? COVID 19の感染対策で優先するのは、人々への補助金でしょうか? 残念ながらそうではありません。政権にとって緊急の法案は、反テロ法案(ATB)です。この法案とパンデミックとの関係は何でしょうか? 飢えた人々の口を弾圧でふさぎ、抗議しないこと、文句を言わないようにさせることなのです。

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<デスクトップ社の労働者協会(DEA:労働組合準備会)のミーティング>

「新常態」の下での私たちの主張

 私たちは今、「ニューノーマル(新常態)」のなかで活動しています。中央ルソンの各地方は、コミュニティに対する「全般的検疫(ECQ)」下にあり、人々にとって家の外の視界は限られています。ここバタアン州マリヴェレスの自由貿易地域の労働者は、まだ完全に働くことができておらず、労働者4万人のうち、約半分だけが働いています。労働者たちはCOVID 19の検査なしで働き始めましたが、社会的距離を保っただけです。通勤のための公共交通機関は動いておらず、保健省の手続きや規則を確認した、サービス車両の運用開始されました。しかし、確認は初めのうちだけでした。現在まで公共交通機関がまだないため、家から会社までどのように移動できるかは、労働者次第です。(6月30日記)

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<アンバ・バーラ(バタアン労働組合連合)の事務所内の様子>




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